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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-15
(45)【発行日】2024-05-23
(54)【発明の名称】外部共振型レーザモジュール
(51)【国際特許分類】
   H01S 5/14 20060101AFI20240516BHJP
   H01S 5/022 20210101ALI20240516BHJP
   H01S 5/024 20060101ALI20240516BHJP
【FI】
H01S5/14
H01S5/022
H01S5/024
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2020154508
(22)【出願日】2020-09-15
(65)【公開番号】P2022048608
(43)【公開日】2022-03-28
【審査請求日】2023-08-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000236436
【氏名又は名称】浜松ホトニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100140442
【弁理士】
【氏名又は名称】柴山 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100183081
【弁理士】
【氏名又は名称】岡▲崎▼ 大志
(72)【発明者】
【氏名】杉山 厚志
(72)【発明者】
【氏名】道垣内 龍男
【審査官】村井 友和
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-036577(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0213882(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01S 5/14
H01S 5/022
H01S 5/024
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
量子カスケードレーザ素子と、
前記量子カスケードレーザ素子から出射された光の一部を回折及び反射させて前記量子カスケードレーザ素子に帰還させる回折格子と、
前記量子カスケードレーザ素子及び前記回折格子が配置される第1面、及び前記第1面とは反対側の第2面を有する支持プレートと、
前記支持プレートの前記第2面側において、前記支持プレートの厚さ方向から見た場合に前記量子カスケードレーザ素子及び前記回折格子と重なるように配置された冷却素子と、を備え、
前記支持プレートの前記第2面のうち、前記支持プレートの厚さ方向から見た場合に少なくとも前記量子カスケードレーザ素子及び前記回折格子と重なる領域には、前記第2面から前記第1面へと向かう方向に窪む凹部が設けられており、
前記冷却素子における前記支持プレート側の少なくとも一部は、前記凹部内に挿入されている、外部共振型レーザモジュール。
【請求項2】
前記支持プレートの厚さ方向から見た場合に、前記凹部の内面の少なくとも一部は、前記冷却素子の外縁の少なくとも一部と接触している、請求項1に記載の外部共振型レーザモジュール。
【請求項3】
前記回折格子は、前記量子カスケードレーザ素子から出射された前記光の一部を回折及び反射させる回折反射部を有し、前記回折反射部を揺動させることにより、前記光の一部を前記量子カスケードレーザ素子に帰還させる、請求項1又は2に記載の外部共振型レーザモジュール。
【請求項4】
前記量子カスケードレーザ素子の動作を制御するための回路基板は、前記冷却素子における前記支持プレート側とは反対側には配置されていない、請求項1~3のいずれか一項に記載の外部共振型レーザモジュール。
【請求項5】
前記冷却素子における前記支持プレート側とは反対側には、前記冷却素子を更に冷却する補助冷却素子が配置されている、請求項4に記載の外部共振型レーザモジュール。
【請求項6】
前記支持プレートの前記第1面に立設され、前記支持プレートの厚さ方向に沿って延在する複数の支柱と、
前記支持プレートの厚さ方向において前記量子カスケードレーザ素子よりも前記支持プレートから離れた位置に配置され、前記複数の支柱の各々の端部と接続された支柱連結部材と、を更に備える、請求項1~5のいずれか一項に記載の外部共振型レーザモジュール。
【請求項7】
前記支持プレートの前記第1面に立設され、前記支持プレートの厚さ方向に沿って延在する複数の第1支柱と、
前記支持プレートの厚さ方向において前記量子カスケードレーザ素子よりも前記支持プレートから離れた位置に配置され、前記複数の第1支柱の各々の端部と接続された第1回路基板と、を更に備え、
前記第1回路基板は、前記量子カスケードレーザ素子の動作を制御するための回路基板である、請求項1~5のいずれか一項に記載の外部共振型レーザモジュール。
【請求項8】
外部電源からの電力信号を入力し、前記電力信号に含まれるノイズを除去し、前記ノイズが除去された前記電力信号を前記第1回路基板に出力するノイズフィルタ回路を更に備える、請求項7に記載の外部共振型レーザモジュール。
【請求項9】
前記支持プレートの前記第1面に立設され、前記支持プレートの厚さ方向に沿って延在する複数の第2支柱と、
前記支持プレートの厚さ方向において前記量子カスケードレーザ素子と前記第1回路基板との間の位置に配置され、前記複数の第2支柱の各々の端部と接続された第2回路基板と、を更に備え、
前記第1回路基板は、前記第2回路基板よりも高い発熱性を有している、請求項7に記載の外部共振型レーザモジュール。
【請求項10】
前記第2回路基板は、前記支持プレートの厚さ方向から見た場合に、前記量子カスケードレーザ素子の少なくとも一部及び前記第1回路基板の少なくとも一部と重なっている、請求項9に記載の外部共振型レーザモジュール。
【請求項11】
前記第2回路基板は、ノイズフィルタ回路が実装された回路基板であり、
前記ノイズフィルタ回路は、外部電源からの電力信号を入力し、前記電力信号に含まれるノイズを除去し、前記ノイズが除去された前記電力信号を前記第1回路基板に出力する、請求項9又は10に記載の外部共振型レーザモジュール。
【請求項12】
前記支持プレートの前記凹部内において、前記支持プレートと前記冷却素子との間に配置された熱伝導シートを更に備える、請求項1~11のいずれか一項に記載の外部共振型レーザモジュール。
【請求項13】
前記冷却素子の前記支持プレート側とは反対側に配置されるベースプレートを更に備え、
前記ベースプレートにおける前記冷却素子側の面には、前記冷却素子における前記ベースプレート側の少なくとも一部が挿入される凹部が設けられている、請求項1~12のいずれか一項に記載の外部共振型レーザモジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、外部共振型レーザモジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
波長掃引(スキャン)を行うための光源として、量子カスケードレーザ素子(以下「QCL素子」という。)と、QCL素子から出射された光を回折及び反射させる回折格子と、を備える外部共振型レーザモジュールが知られている(例えば特許文献1参照)。特許文献1には、支持プレートの主面にQCL素子と回折格子とが配置され、支持プレートの裏面に冷却素子であるペルチェ素子が配置される構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2019-036577号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
QCL素子は、レーザダイオード等の他のレーザ光源と比較して発熱量が大きいため、QCL素子を搭載した外部共振型レーザモジュールには、高い冷却性能が求められる。上記特許文献1に開示された構成では、支持プレートを挟んでQCL素子及び回折格子と反対側に配置されたペルチェ素子により、モジュールが冷却される。ここで、より高い冷却性能を得るために、支持プレートをなるべく薄くすることが考えられる。しかし、本発明者らによって、上記方策には以下のような課題があることが見出された。すなわち、単純に支持プレートの厚さを薄くしただけでは、支持プレートの物理的安定性が損なわれてしまい、QCL素子と回折格子との位置関係にズレが生じるおそれがある。その結果、外部共振型レーザモジュールの光学特性の悪化を招くおそれがある。
【0005】
そこで、本開示の一側面は、光学特性の悪化を抑制しつつ冷却効果を向上させることができる外部共振型レーザモジュールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一側面に係る外部共振型レーザモジュールは、量子カスケードレーザ素子と、量子カスケードレーザ素子から出射された光の一部を回折及び反射させて量子カスケードレーザ素子に帰還させる回折格子と、量子カスケードレーザ素子及び回折格子が配置される第1面、及び第1面とは反対側の第2面を有する支持プレートと、支持プレートの第2面側において、支持プレートの厚さ方向から見た場合に量子カスケードレーザ素子及び回折格子と重なるように配置された冷却素子と、を備え、支持プレートの第2面のうち、支持プレートの厚さ方向から見た場合に少なくとも量子カスケードレーザ素子及び回折格子と重なる領域には、第2面から第1面へと向かう方向に窪む凹部が設けられており、冷却素子における支持プレート側の少なくとも一部は、凹部内に挿入されている。
【0007】
上記外部共振型レーザモジュールでは、支持プレートの第2面(量子カスケードレーザ素子及び回折格子が配置される第1面とは反対側の面)のうち量子カスケードレーザ素子及び回折格子と重なる領域に、凹部が設けられている。そして、冷却素子が当該凹部内に挿入されている。このような構成により、支持プレートに凹部を設けない場合と比較して、量子カスケードレーザ素子と冷却素子との距離を短くすることができる。これにより、冷却素子による冷却効果を高めることができる。また、支持プレートにおける凹部が設けられていない部分において、支持プレートの強度を保つための厚さを確保することができる。これにより、支持プレートを一様に薄くする場合と比較して、支持プレートの物理的安定性を高めることができる。その結果、外部共振型レーザモジュールの光学特性の悪化を抑制することができる。
【0008】
支持プレートの厚さ方向から見た場合に、支持プレートの凹部の内面の少なくとも一部は、冷却素子の外縁の少なくとも一部と接触していてもよい。この場合、凹部によって冷却素子を位置決めすることができるため、冷却素子の配置に製品間のバラツキが生じることを防ぐことができる。これにより、冷却素子による冷却効果を安定させることができる。
【0009】
回折格子は、量子カスケードレーザ素子から出射された光の一部を回折及び反射させる回折反射部を有してもよく、回折反射部を揺動させることにより、光の一部を量子カスケードレーザ素子に帰還させてもよい。この場合、回折格子が可動機構と一体的に設けられたリトロー型の外部共振型レーザモジュールにおいて、光学特性の悪化を抑制しつつ冷却効果を高めることができる。
【0010】
量子カスケードレーザ素子の動作を制御するための回路基板は、冷却素子における支持プレート側とは反対側には配置されていなくてもよい。この場合、冷却素子における支持プレートとは反対側に発熱源としての回路基板が設けられないことにより、冷却素子の排熱が阻害されることを防止することができる。これにより、冷却素子による冷却効果をより一層高めることができる。
【0011】
冷却素子における支持プレート側とは反対側には、冷却素子を更に冷却する補助冷却素子が配置されていてもよい。この場合、補助冷却素子によって更に冷却効果を高めることができる。
【0012】
上記外部共振型レーザモジュールは、支持プレートの第1面に立設され、支持プレートの厚さ方向に沿って延在する複数の支柱と、支持プレートの厚さ方向において量子カスケードレーザ素子よりも支持プレートから離れた位置に配置され、複数の支柱の各々の端部と接続された支柱連結部材と、を更に備えてもよい。上記構成によれば、複数の支柱及び支柱連結部材によって支持プレートが適切に支持されるため、支持プレートの物理的安定性をより一層高めることができる。その結果、外部共振型レーザモジュールの光学特性の悪化をより一層効果的に抑制することができる。
【0013】
上記外部共振型レーザモジュールは、支持プレートの第1面に立設され、支持プレートの厚さ方向に沿って延在する複数の第1支柱と、支持プレートの厚さ方向において量子カスケードレーザ素子よりも支持プレートから離れた位置に配置され、複数の第1支柱の各々の端部と接続された第1回路基板と、を更に備えてもよく、第1回路基板は、量子カスケードレーザ素子の動作を制御するための回路基板であってもよい。仮に、第1回路基板が冷却素子と接している場合、第1回路基板から発生する熱が冷却素子及び支持プレートを介して量子カスケードレーザ素子に伝わる可能性がある。或いは、第1回路基板から発生する熱によって冷却素子の排熱が阻害されるおそれがある。一方、上記のように複数の第1支柱を介して第1回路基板を支持する構成によれば、発熱源となる第1回路基板を冷却素子から離れた位置に配置することにより、上述した問題を回避することができる。さらに、上述したように支持プレートの物理的安定性を高める効果を得ることができる。すなわち、第1回路基板を上述した支柱連結部材として機能させることができる。
【0014】
上記外部共振型レーザモジュールは、外部電源からの電力信号を入力し、電力信号に含まれるノイズを除去し、ノイズが除去された電力信号を第1回路基板に出力するノイズフィルタ回路を更に備えてもよい。上記構成によれば、電力信号に重畳したノイズがノイズフィルタ回路によって除去されるため、静電気サージ等に起因する第1回路基板の損傷を防止することができる。
【0015】
上記外部共振型レーザモジュールは、支持プレートの第1面に立設され、支持プレートの厚さ方向に沿って延在する複数の第2支柱と、支持プレートの厚さ方向において量子カスケードレーザ素子と第1回路基板との間の位置に配置され、複数の第2支柱の各々の端部と接続された第2回路基板と、を更に備えてもよく、第1回路基板は、第2回路基板よりも高い発熱性を有していてもよい。上記構成によれば、第1回路基板から発生した熱が第2回路基板によって遮蔽されるため、第1回路基板から量子カスケードレーザ素子への熱の伝達を抑制することができる。
【0016】
第2回路基板は、支持プレートの厚さ方向から見た場合に、量子カスケードレーザ素子の少なくとも一部及び第1回路基板の少なくとも一部と重なっていてもよい。上記構成によれば、第1回路基板から量子カスケードレーザ素子への熱の伝達をより一層効果的に抑制することができる。
【0017】
第2回路基板は、ノイズフィルタ回路が実装された回路基板であってもよく、ノイズフィルタ回路は、外部電源からの電力信号を入力し、電力信号に含まれるノイズを除去し、ノイズが除去された電力信号を第1回路基板に出力してもよい。上記構成によれば、ノイズフィルタ回路が実装された基板を、第1回路基板から発生した熱を遮蔽する第2回路基板として機能させることにより、装置の小型化を図ることができる。
【0018】
上記外部共振型レーザモジュールは、支持プレートの凹部内において、支持プレートと冷却素子との間に配置された熱伝導シートを更に備えてもよい。上記構成によれば、支持プレートと冷却素子との間の伝熱性を向上させることができるため、冷却効果をより一層高めることができる。
【0019】
上記外部共振型レーザモジュールは、冷却素子の支持プレート側とは反対側に配置されるベースプレートを更に備えてもよく、ベースプレートにおける冷却素子側の面には、冷却素子におけるベースプレート側の少なくとも一部が挿入される凹部が設けられていてもよい。上記構成によれば、ベースプレートに設けられた凹部によって、冷却素子をベースプレートに対して容易に配置することができる。
【発明の効果】
【0020】
本開示の一側面によれば、光学特性の悪化を抑制しつつ冷却効果を向上させることができる外部共振型レーザモジュールを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】一実施形態に係る外部共振型レーザモジュールを含む分析装置の構成図である。
図2】外部共振型レーザモジュールの横断面図である。
図3図2のIII-III線に沿っての断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の一実施形態について、図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、以下の説明において、同一又は相当要素には同一符号を用い、重複する説明を省略する。
【0023】
[分析装置の構成]
図1に示されるように、分析装置1は、外部共振型レーザモジュール2(以下、「レーザモジュール2」という)と、光検出器3と、制御装置4と、を備えている。分析装置1は、吸収スペクトルを測定することにより分光分析を行うための装置である。分析装置1は、例えば、光透過性の容器内に収容された分析対象がレーザモジュール2と光検出器3との間に配置された状態で用いられる。分析対象は、気体、液体及び固体のいずれであってもよい。なお、分析対象は容器内に収容されていなくてもよい。
【0024】
レーザモジュール2は、出力光Lの波長が可変である波長可変光源である。吸収スペクトルの測定時には、レーザモジュール2は、出力光Lの波長を高速に変化させることにより、所定の波長範囲において波長掃引を行う。光検出器3は、レーザモジュール2から出力され、分析対象を透過した出力光L(或いは、分析対象で反射又は散乱した光)の強度を検出する。光検出器3としては、例えばMCT(水銀カドミウムテルル)検出器、InAsSb(インジウム砒素アンチモン)フォトダイオード、サーモパイル等を用いることができる。制御装置4は、光検出器3の検出結果に基づいて吸収スペクトルを算出する。制御装置4は、レーザモジュール2及び光検出器3と電気的に接続されている。制御装置4の詳細については後述する。
【0025】
[外部共振型レーザモジュールの構成]
図2及び図3を参照して、レーザモジュール2の構成について説明する。なお、図3において、筐体5の天壁及び側壁の図示を省略している。図2及び図3に示されるように、レーザモジュール2は、筐体5と、支持部材6と、冷却素子7と、ヒートシンク8と、レンズ9A,9Bと、量子カスケードレーザ11(以下、「QCL11」という)と、MEMS回折格子12(回折格子)と、第1回路基板31と、第2回路基板32と、補助冷却素子33と、複数(本実施形態では4本)の支柱B1(第1支柱)と、複数(本実施形態では2本)の支柱B2(第2支柱)と、を備えている。
【0026】
筐体5は、支持部材6、冷却素子7、ヒートシンク8、レンズ9A,9B、QCL11、MEMS回折格子12、第1回路基板31、第2回路基板32、複数の支柱B1、及び複数の支柱B2を内部に収容している。筐体5は、例えば箱状に形成され、レーザモジュール2の出力光Lを外部へ出力するための窓5aを有している。また、筐体5には、配線等を外部に引き出すための引出部5bが設けられている。一例として、筐体5の各辺の長さは70mm程度である。筐体5は、ネジを介して支持部材6を固定する底壁51(ベースプレート)を有している。
【0027】
支持部材6は、例えば良好な熱伝導性を有する金属材料によって形成されている。支持部材6は、例えばアルミニウム(Al)からなる。支持部材6は、平板状の支持プレート61と、支持プレート61上に立設された壁部62と、を有している。支持部材6は、冷却素子7を介して筐体5の底壁51上に固定されている。
【0028】
支持プレート61は、QCL11、MEMS回折格子12、及びその他の光学素子(例えばレンズ9A,9B等)が配置される光学ステージとして機能する。支持プレート61は、QCL11及びMEMS回折格子12が配置される第1面61aと、第1面61aとは反対側の第2面61bと、を有している。一例として、支持プレート61は、平面視において(支持プレート61の厚さ方向Dから見た場合に)円状に形成されている。すなわち、支持プレート61は、円板状の部材である。支持プレート61は、支持プレート61の外縁に沿って90度間隔で配置された4つのネジSによって、底壁51にネジ留めされている。
【0029】
支持プレート61の第2面61bのうち、厚さ方向Dから見た場合に少なくとも量子カスケードレーザ素子13(以下、「QCL素子13」という)及びMEMS回折格子12と重なる領域には、第2面61bから第1面61aへと向かう方向に窪む凹部61c(ザグリ)が設けられている。一例として、凹部61cは、厚さ方向Dから見た場合に、QCL素子13が搭載されるヒートシンク8及びMEMS回折格子12が搭載される壁部62を含む矩形状の領域に形成されている。支持プレート61の強度を確保する観点から、支持プレート61の厚さt(すなわち、凹部61cが形成されていない部分の厚さ)は、例えば2mm~8mm程度である。支持プレート61の厚さtに対する凹部61cの深さdの割合(d/t)は、例えば10%~50%程度である。
【0030】
壁部62は、支持プレート61に対して傾斜した傾斜面62aを有している。傾斜面62a上には、MEMS回折格子12が固定されている。MEMS回折格子12の構成については後述する。
【0031】
冷却素子7は、例えばペルチェ素子を含んで構成された冷却デバイスである。冷却素子7は、上述したように支持プレート61が底壁51に対してネジ留めされることにより、支持プレート61及び底壁51との間に挟み込まれている。冷却素子7は、第1基板71と、第2基板72と、熱移動部73と、を有している。第1基板71は、平板状の部材であり、支持プレート61の第2面61bと熱的に結合されている。第2基板72は、第1基板71と同様の平板状の部材であり、筐体5の底壁51と熱的に結合されている。熱移動部73は、第1基板71と第2基板72との間に配置され、第1基板71及び第2基板72の間で熱を移動させる。
【0032】
冷却素子7は、支持プレート61の第2面61b側において、厚さ方向Dから見た場合にQCL素子13及びMEMS回折格子12と重なるように配置されている。冷却素子7における支持プレート61側の少なくとも一部(すなわち、第1基板71の支持プレート61側の少なくとも一部)は、凹部61c内に挿入されている。本実施形態では、厚さ方向Dから見た場合に、凹部61cの内面の少なくとも一部は、冷却素子7の外縁の少なくとも一部と接触している。一例として、冷却素子7の第1基板71は、平面視において(厚さ方向Dから見た場合に)凹部61cに対応する矩形状を有している。これにより、冷却素子7における支持プレート61側の少なくとも一部が、凹部61c内に嵌め込まれている。凹部61c内において、支持プレート61と冷却素子7(第1基板71)との間には、熱伝導シート34が配置されている。熱伝導シート34は、例えばグラファイトシートである。熱伝導シート34の厚さは、例えば数μm~数十μm程度である。なお、冷却素子7(本実施形態では、第1基板71)の寸法は、必ずしも凹部61cの寸法と一致(対応)していなくてもよい。すなわち、冷却素子7(第1基板71)は、凹部61c内に挿入可能なサイズに形成されていればよい。例えば、冷却素子7(第1基板71)は、凹部61cよりも一回り小さくてもよい。ただし、冷却素子7(第1基板71)の寸法を凹部61cの寸法と一致させた場合には、凹部61c内に冷却素子7を容易に位置決めすることができる。
【0033】
筐体5の底壁51における冷却素子7側の面51aには、凹部51bが設けられている。冷却素子7における底壁51側の少なくとも一部(すなわち、第2基板72の底壁51側の少なくとも一部)は、凹部51b内に挿入されている。本実施形態では、凹部51bは、平面視において(厚さ方向Dから見た場合に)第2基板72に対応する矩形状を有している。これにより、冷却素子7における底壁51側の少なくとも一部が、凹部51b内に嵌め込まれている。なお、凹部51b内において、底壁51と冷却素子7(第2基板72)との間にも、熱伝導シート34と同様の熱伝導シートが配置されてもよい。また、冷却素子7(本実施形態では、第2基板72)の寸法は、必ずしも凹部51bの寸法と一致(対応)していなくてもよい。すなわち、冷却素子7(第2基板72)は、凹部51b内に挿入可能なサイズに形成されていればよい。例えば、冷却素子7(第2基板72)は、凹部51bよりも一回り小さくてもよい。ただし、冷却素子7(第2基板72)の寸法を凹部51bの寸法と一致させた場合には、凹部51b内に冷却素子7を容易に位置決めすることができる。
【0034】
本実施形態では、QCL素子13の動作を制御するための回路基板は、冷却素子7における支持プレート61側とは反対側(すなわち、冷却素子7に対して底壁51が配置される側)には配置されていない。より具体的には、上記回路基板は、底壁51の内部及び底壁51の外側のいずれにも設けられていない。これにより、冷却素子7を更に冷却するための追加の冷却素子を配置するためのスペースが確保されている。そして、冷却素子7における支持プレート61側とは反対側(本実施形態では、底壁51の外面51c)には、冷却素子7を更に冷却する補助冷却素子33が配置されている。補助冷却素子33は、例えば、水冷チラー、空冷ファン等の冷却デバイスである。補助冷却素子33は、底壁51の外面51cと熱的に結合されている。これにより、冷却素子7から底壁51を介して補助冷却素子33へと熱を逃がすことが可能となっている。
【0035】
QCL11は、QCL素子13を有している。QCL素子13は、互いに対向する第1端面13a及び第2端面13bを有している。QCL素子13は、中赤外領域の広帯域(例えば4μm以上16μm以下)の光を第1端面13a及び第2端面13bのそれぞれから出射する。QCL素子13は、中心波長が互いに異なる複数の活性層がスタック状に積層された構造を有しており、上記のような広帯域の光を出射することができる。なお、QCL素子13は、単一の活性層からなる構造を有していてもよく、この場合でも上記のような広帯域の光を出射することができる。
【0036】
QCL素子13の第1端面13aには反射低減部14が設けられている。反射低減部14は、例えば反射率が0.5%よりも小さいAR(Anti Reflection)層により構成されている。反射低減部14は、QCL素子13の第1端面13aから外部に光が出射する際の反射率を低減すると共に、外部からQCL素子13の第1端面13aに光が入射する際の反射率を低減する。
【0037】
QCL素子13の第2端面13bには反射低減部15が設けられている。反射低減部15は、例えば反射率が0.6%~10%の範囲にあるAR層により構成されている。反射低減部15は、QCL素子13の第2端面13bから外部に光が出射する際の反射率を低減する。反射低減部15は、QCL素子13の第2端面13bから出射される光の一部を反射させ、残部を透過させる。反射低減部15を透過した光は、QCL11の出力光Lとなる。なお、第2端面13bには、反射低減部15が設けられなくてもよい。すなわち、第2端面13bは、露出していてもよい。
【0038】
QCL11は、サブマウント16及びヒートシンク8を介して支持部材6上に固定されている。より詳細には、支持プレート61の第1面61a上にヒートシンク8が固定され、ヒートシンク8上にサブマウント16が固定されている。QCL11はサブマウント16上に固定されている。サブマウント16は、例えば窒化アルミニウム(AlN)を含んで構成されたセラミック基板である。ヒートシンク8は、例えば銅(Cu)からなる放熱部材である。一例として、QCL11は、サブマウント16にダイボンドされている。サブマウント16は、ヒートシンク8にダイボンドされている。ヒートシンク8は、支持プレート61にネジ固定されている。ヒートシンク8には、QCL素子13にパルス駆動電流を供給するための図示しない電極パッド(例えば、セラミック製電極パッド)が設けられ得る。当該電極パッドは、QCL素子13のアノード端子及びカソード端子と接続される。
【0039】
レンズ9A,9Bは、例えば、セレン化亜鉛(ZnSe)又はゲルマニウム(Ge)からなる非球面レンズであり、紫外線硬化樹脂17によりヒートシンク8上に固定されている。なお、図3では、レンズ9A,9Bは、紫外線硬化樹脂17に直接付着されているが、レーザモジュール2は、レンズ9A,9Bを収容するレンズホルダを備えてもよい。この場合、レンズ9A,9Bをそれぞれ収容する各レンズホルダが、紫外線硬化樹脂17を介してヒートシンク8上に固定される。レンズ9Aは、QCL素子13に対して第1端面13a側に配置され、第1端面13aから出射される光をコリメートする。レンズ9Bは、QCL素子13に対して第2端面13b側に配置され、第2端面13bから出射される光をコリメートする。レンズ9Bによりコリメートされた光は、筐体5の窓5aを通って外部に出力される。
【0040】
レンズ9Aによりコリメートされた光は、MEMS回折格子12に入射する。MEMS回折格子12は、この入射光を回折及び反射させることにより、当該入射光のうち特定波長の光をQCL素子13の第1端面13aに帰還させる。すなわち、MEMS回折格子12と反射低減部15とはリトロー型の外部共振器を構成している。これにより、レーザモジュール2は、特定波長の光を増幅させて外部に出力することができる。
【0041】
また、MEMS回折格子12では、後述するように、入射光を回折及び反射させる回折反射部28の向きを高速に変化させることができる。これにより、MEMS回折格子12からQCL素子13の第1端面13aに帰還する光の波長が可変となっており、ひいてはレーザモジュール2の出力光Lの波長が可変となっている。
【0042】
MEMS回折格子12は、支持部21と、一対の連結部22,22と、可動部23と、コイル24と、一対の磁石25,25と、ヨーク26と、を有している。MEMS回折格子12は、軸線X周りに可動部23を揺動させるMEMSデバイスとして構成されている。MEMS回折格子12は、実装部材27を介して支持部材6の壁部62の傾斜面62a上に固定されている。実装部材27は、平面視において(少なくとも支持部21及び可動部23が配置される平面に垂直な方向から見た場合に)略矩形状を呈する平板状の部材である。
【0043】
支持部21は、平面視において矩形状を呈する平板状の枠体である。支持部21は、一対の連結部22を介して可動部23等を支持している。各連結部22は、平面視において矩形状を呈する平板状の部材であり、軸線Xに沿って延在している。各連結部22は、可動部23が軸線X周りに揺動自在となるように、軸線X上において可動部23を支持部21に連結している。
【0044】
可動部23は、平面視において円形状を呈する平板状の部材であり、支持部21の内側に位置している。可動部23は、上述したように、支持部21に揺動自在に連結されている。支持部21、連結部22及び可動部23は、例えば1つのSOI基板に作り込まれることにより、一体に形成されている。
【0045】
可動部23におけるQCL11側の表面には、回折反射部28が設けられている。回折反射部28は、QCL11から出射された光を回折させると共に反射させる回折反射面を有している。回折反射部28は、例えば、可動部23の表面上にわたって設けられ、回折格子パターンが形成された樹脂層と、当該回折格子パターンに沿うように樹脂層の表面上にわたって設けられた金属層と、により構成されている。或いは、回折反射部28は、可動部23上に設けられ、回折格子パターンが形成された金属層のみにより構成されてもよい。回折格子パターンは、例えば、鋸歯状断面のブレーズドグレーティング、矩形状断面のバイナリグレーティング、又は正弦波状断面のホログラフィックグレーティング等である。
【0046】
コイル24は、例えば、銅等の金属材料からなり、可動部23の表面に形成された溝内に埋め込まれている。コイル24は、平面視においてスパイラル状に複数周回巻回されている。コイル24の外側端部及び内側端部には、外部との接続用の配線が電気的に接続されている。当該配線は、例えば支持部21、連結部22及び可動部23にわたって設けられており、支持部21上に設けられた電極と電気的に接続されている。
【0047】
磁石25,25は、コイル24に作用する磁界を発生させる。磁石25,25は、直方体状に形成され、支持部21における軸線Xと平行な一対の辺部と対向するように配置されている。各磁石25における磁極の配列は、例えばハルバッハ配列である。或いは、磁石25,25は、所定の間隔を空けて配列された一対の磁石であってもよい。ヨーク26は、磁石25の磁力を増幅させる。ヨーク26は、平面視において矩形枠状を呈し、支持部21及び磁石25,25を包囲するように配置されている。
【0048】
MEMS回折格子12では、コイル24に電流が流れると、磁石25,25で生じる磁界により、コイル24内を流れる電子に所定の方向にローレンツ力が生じる。これにより、コイル24は所定の方向に力を受ける。このため、コイル24に流れる電流の向き又は大きさ等を制御することで、可動部23(回折反射部28)を軸線X周りに揺動させることができる。また、可動部23の共振周波数に対応する周波数の電流をコイル24に流すことで、可動部23を共振周波数レベルで高速に揺動させることができる。このように、コイル24及び磁石25は、可動部23を揺動させるアクチュエータ部として機能する。
【0049】
複数(4つ)の支柱B1は、支持プレート61の第1面61aに立設されており、厚さ方向Dに沿って延在している。支柱B1の材料は、例えばSUS等の金属である。一例として、4つの支柱B1は、厚さ方向Dから見た場合に、凹部61cが形成された領域の各角部の外側に配置されている。各支柱B1の支持プレート61側の端部とは反対側の端部(上端部)は、第1回路基板31に接続されている。例えば、各支柱B1の上端部は、第1回路基板31に対してネジ固定される。
【0050】
第1回路基板31は、QCL素子13の動作を制御するための回路基板である。一例として、第1回路基板31には、QCL素子13をパルス駆動させるためのパルスドライバ回路が実装されている。第1回路基板31は、図示しない配線等を介してQCL素子13と電気的に接続されている。一例として、第1回路基板31は、配線及び上述したヒートシンク8に設けられた電極パッド等を介して、QCL素子13と電気的に接続されている。一例として、第1回路基板31は、円板状に形成されている。第1回路基板31は、厚さ方向Dにおいて、支持プレート61の第1面61a上に配置された各部材(QCL素子13及びMEMS回折格子12等)よりも支持プレート61から離れた位置(すなわち、当該各部材よりも上方の位置)に配置されている。厚さ方向Dから見た第1回路基板31の大きさは、支持プレート61の大きさとほぼ同じである。第1回路基板31は、厚さ方向Dから見た場合に、支持プレート61と重なっている。
【0051】
複数(2つ)の支柱B2は、支持プレート61の第1面61aに立設されており、厚さ方向Dに沿って延在している。支柱B2の材料は、例えば、支柱B1と同様の金属材料(例えばSUS等)である。一例として、2つの支柱B2は、筐体5内の中央部において、支持プレート61の第1面61a上に配置された各部材(QCL素子13及びMEMS回折格子12等)を挟んで、出力光Lの出射方向及び厚さ方向Dに直交する方向に対向して配置されている。各支柱B2の支持プレート61側の端部とは反対側の端部(上端部)は、第2回路基板32に接続されている。例えば、各支柱B2の上端部は、第2回路基板32に対してネジ固定される。
【0052】
第2回路基板32は、外部電源からの電力信号を入力し、当該電力信号に含まれるノイズを除去し、ノイズが除去された電力信号を第1回路基板31に出力するノイズフィルタ回路が実装された回路基板である。ノイズフィルタ回路は、例えば、静電気サージ等からパルスドライバ回路(第1回路基板31)、QCL素子13、及びMEMS回折格子12等の内部部材を保護する役割を果たす。第2回路基板32は、第1回路基板31よりも小さく、矩形板状に形成されている。第2回路基板32は、厚さ方向DにおけるQCL素子13と第1回路基板31との間の位置に配置されている。本実施形態では、第2回路基板32は、厚さ方向Dにおいて、支持プレート61の第1面61a上に配置された各部材(QCL素子13及びMEMS回折格子12等)よりも上方に配置されると共に、第1回路基板31よりも下方(支持プレート61側)に配置されている。
【0053】
第2回路基板32は、厚さ方向Dから見た場合に、QCL素子13の少なくとも一部及び第1回路基板31の少なくとも一部と重なっている。本実施形態では、厚さ方向Dから見た場合に、第2回路基板32の全体が、第1回路基板31の一部と重なっており、QCL素子13及びMEMS回折格子12の全体が、第2回路基板32と重なっている。
【0054】
ここで、量子カスケード構造を有するゲイン媒体(すなわち、QCL素子13)を利用した外部共振型レーザは、一般的な半導体レーザと比較して、パルス駆動のために必要な駆動電圧が高く、駆動電流も大きい。このため、パルスドライバ回路が実装された第1回路基板31は、比較的高い発熱性を有している。一方、ノイズフィルタ回路は非発熱性である。すなわち、パルスドライバ回路が実装された第1回路基板31は、ノイズフィルタ回路が実装された第2回路基板32よりも高い発熱性を有している。このように、第1回路基板31と比較して発熱量の少ない第2回路基板32が、第1回路基板31と支持プレート61上に配置された各部材(QCL素子13及びMEMS回折格子12等)との間に配置されることにより、パルスドライバ回路から発生した熱が各部材(特にQCL素子13)に伝わることが抑制される。
【0055】
[分析装置の制御]
分析装置1は、制御装置4により制御される。図1に示されるように、制御装置4は、MEMS回折格子12の駆動を制御する回折格子制御部41と、光検出器3の検出結果に基づいて吸収スペクトルを算出する演算部42と、を有している。制御装置4は、例えば、演算処理が行われるCPUなどの演算回路と、RAM、ROM等のメモリにより構成される記録媒体と、入出力装置と、を含むコンピュータによって構成され得る。制御装置4は、スマートフォン、タブレット端末等を含むスマートデバイス等のコンピュータによって構成されてもよい。制御装置4は、コンピュータにプログラム等を読み込ませることにより動作し得る。また、制御装置4は、制御パルスを発生させるファンクションジェネレータ、及び冷却素子7を制御するためのドライバ等を含んで構成されてもよい。ファンクションジェネレータは、2チャンネルの出力により、QCL11及びMEMS回折格子12をプログラムで連動して駆動させる。また、制御装置4は、第1回路基板31及び第2回路基板32と通信可能に構成されてもよい。例えば、制御装置4のファンクションジェネレータから駆動周波数となるタイミング信号が第1回路基板31(パルスドライバ回路)に供給される。パルス電流の周波数は、例えば100kHz~500kHzの範囲で可変となっている。そして、第1回路基板31(パルスドライバ回路)からQCL素子13へと、例えば100nsのパルス幅のパルス電流が印加され、100nsの光パルス幅のレーザ光が発振される。また、制御装置4は、MEMS回折格子12の駆動周期をトリガとして、オシロスコープによって、又はADコンバーターを介して、光検出器3からの出力をサンプリングしてもよい。なお、回折格子制御部41及び演算部42は、単一のコンピュータによって構成されなくてもよく、別々のコンピュータ又は電子回路によって構成されてもよい。例えば、回折格子制御部41は、MEMS回折格子12に含まれる電子回路によって構成されてもよい。
【0056】
[作用及び効果]
以上説明したレーザモジュール2では、支持プレート61の第2面61b(QCL素子13及びMEMS回折格子12が配置される第1面61aとは反対側の面)のうちQCL素子13及びMEMS回折格子12と重なる領域に、凹部61cが設けられている。そして、冷却素子7が当該凹部61c内に挿入されている。このような構成により、支持プレート61に凹部61cを設けない場合と比較して、QCL素子13と冷却素子7との距離を短くすることができる。これにより、冷却素子7による冷却効果を高めることができる。また、支持プレート61における凹部61cが設けられていない部分において、支持プレート61の強度を保つための厚さを確保することができる。これにより、支持プレート61を一様に薄くする場合と比較して、支持プレート61の物理的安定性を高めることができる。その結果、レーザモジュール2の光学特性(例えば、レーザの発光特性)の悪化を抑制することができる。
【0057】
また、厚さ方向Dから見た場合に、支持プレート61の凹部61cの内面の少なくとも一部は、冷却素子7の外縁の少なくとも一部と接触していてもよい。上記構成によれば、凹部61cによって冷却素子7を位置決めすることができるため、冷却素子7の配置に製品間のバラツキが生じることを防ぐことができる。なお、本実施形態では一例として、冷却素子7の第1基板71の寸法は、凹部61cの寸法と一致している。すなわち、第1基板71は、凹部61c内にちょうど収まる大きさに形成されている。この場合、凹部61cの内面の全体と冷却素子7(第1基板71)の外縁の全体とを接触させることができる。すなわち、冷却素子7(第1基板71)を凹部61c内に嵌め込むことにより、支持プレート61に対する冷却素子7の安定性をより高めることができる。
【0058】
また、冷却素子7がQCL素子13及びMEMS回折格子12の両方と重なるように設けられていることにより、仮に冷却素子7が熱変形したとしても、当該熱変形は、冷却素子7及びMEMS回折格子12の両方に同じように伝わることになる。より具体的には、冷却素子7の熱変形の影響は、QCL素子13が搭載されたヒートシンク8及びMEMS回折格子12が搭載された壁部62に対して同様に伝わることになる。これにより、冷却素子7の熱変形に起因してQCL素子13とMEMS回折格子12との相対位置関係にズレが生じることを抑制することができる。
【0059】
また、MEMS回折格子12は、QCL素子13から出射された光の一部を回折及び反射させる回折反射部28を有してもよく、回折反射部28を揺動させることにより、当該光の一部をQCL素子13に帰還させてもよい。すなわち、MEMS回折格子12は、回折格子(回折反射部28)及び可動機構(可動部23)が一体的に設けられた構成を有している。これにより、リトロー型のレーザモジュール2において、光学特性の悪化を抑制しつつ冷却効果を高めることができる。
【0060】
また、QCL素子13の動作を制御するための回路基板(例えば、上述した第1回路基板31に相当する回路基板)は、冷却素子7における支持プレート61側とは反対側(すなわち、冷却素子7に対して底壁51側)には配置されなくてもよい。この場合、冷却素子7における支持プレート61とは反対側に発熱源としての回路基板が設けられないことにより、冷却素子7の排熱が阻害されることを防止することができる。これにより、冷却素子7による冷却効果をより一層高めることができる。より具体的には、上述したように、パルスドライバ回路が実装された第1回路基板31は、発熱量が比較的大きい。このような第1回路基板31と支持プレート61とを熱的に分離して配置することにより、レーザの発光特性に対する熱的な影響を抑制することができる。
【0061】
また、冷却素子7における支持プレート61側とは反対側(すなわち、冷却素子7に対して底壁51側)には、冷却素子7を更に冷却する補助冷却素子33が配置されてもよい。この場合、補助冷却素子33によって更に冷却効果を高めることができる。なお、このような構成は、従来一般的に冷却素子7の下方に配置されていた回路基板(例えば、上述した第1回路基板31に相当する回路基板)を筐体5内に配置したことによって実現可能となっている。
【0062】
また、レーザモジュール2は、支持プレート61の第1面61aに立設され、厚さ方向Dに沿って延在する複数の支柱(本実施形態では、各支柱B1,B2)と、厚さ方向DにおいてQCL素子13よりも支持プレート61から離れた位置に配置され、複数の支柱B1,B2の各々の端部と接続された支柱連結部材(本実施形態では、第1回路基板31及び第2回路基板32のそれぞれ)と、を備えてもよい。上記構成によれば、複数の支柱及び支柱連結部材によって支持プレート61が適切に支持されるため、支持プレート61の物理的安定性をより一層高めることができる。その結果、レーザモジュール2の光学特性の悪化をより一層効果的に抑制することができる。
【0063】
また、レーザモジュール2は、複数(本実施形態では4つ)の支柱B1と、複数の支柱B1の各々の端部と接続された第1回路基板31と、を備えてもよい。また、第1回路基板31は、QCL素子13の動作を制御するための回路基板であってもよい。本実施形態では一例として、第1回路基板31は、バルスドライバ回路が実装された回路基板である。仮に、第1回路基板31が冷却素子7と接している場合、第1回路基板31から発生する熱が冷却素子7及び支持プレート61を介してQCL素子13に伝わる可能性がある。或いは、第1回路基板31から発生する熱によって冷却素子7の排熱が阻害されるおそれがある。一方、上記のように複数の支柱B1を介して第1回路基板31を支持する構成によれば、発熱源となる第1回路基板31を冷却素子7から離れた位置に配置することにより、上述した問題を回避することができる。さらに、上述したように支持プレート61の物理的安定性を高める効果を得ることができる。すなわち、第1回路基板31を上述した支柱連結部材として機能させることができる。また、パルスドライバ回路を筐体5内に組み込むことにより、レーザ光源(レーザモジュール2)全体の小型化を図ることができる。
【0064】
また、レーザモジュール2は、ノイズフィルタ回路を備えてもよい。ノイズフィルタ回路は、外部電源からの電力信号を入力し、当該電力信号に含まれるノイズを除去し、ノイズが除去された電力信号を第1回路基板31に出力する。本実施形態では、第2回路基板32にノイズフィルタ回路が実装されている。上記構成によれば、電力信号に重畳したノイズがノイズフィルタ回路によって除去されるため、静電気サージ等に起因する第1回路基板31の損傷を防止することができる。また、第1回路基板31を経由して電力信号がQCL素子13及びMEMS回折格子12に供給される場合、QCL素子13及びMEMS回折格子12の損傷も防止される。
【0065】
また、レーザモジュール2は、複数(本実施形態では2つ)の支柱B2と、厚さ方向DにおいてQCL素子13と第1回路基板31との間の位置に配置され、複数の支柱B2の各々の端部と接続された第2回路基板32と、を備えてもよい。ここで、第1回路基板31は、第2回路基板32よりも高い発熱性を有している。上記構成によれば、第1回路基板31から発生した熱が第2回路基板32によって遮蔽されるため、第1回路基板31からQCL素子13への熱の伝達を抑制することができる。
【0066】
また、第2回路基板32は、厚さ方向Dから見た場合に、QCL素子13の少なくとも一部(本実施形態では一例として、QCL素子13の全体)及び第1回路基板31の少なくとも一部と重なっていてもよい。上記構成によれば、第1回路基板31からQCL素子13への熱の伝達をより一層効果的に抑制することができる。
【0067】
また、第2回路基板32は、上述したノイズフィルタ回路が実装された回路基板であってもよい。上記構成によれば、ノイズフィルタ回路が実装された基板を、第1回路基板31から発生した熱を遮蔽する第2回路基板32として機能させることができる。これにより、第1回路基板31からの熱を遮蔽するための部材とノイズフィルタ回路が実装された基板とを別々に設ける構成と比較して、モジュール(筐体5)の小型化を図ることができる。また、本実施形態においては、モジュールのサイズは、第1回路基板31のサイズ(円板上の基板の径)に依存する。上記実施形態のように、パルスドライバ回路(第1回路基板31)とノイズフィルタ回路(第2回路基板32)とを分離することにより、第1回路基板31の小型化を図ることができ、ひいてはモジュールの小型化を図ることができる。より具体的には、第1回路基板31のサイズを小さくできれば、それに合わせて第1回路基板31を支持する支持プレート61のサイズも小さくすることができる。その結果、筐体5の幅及び奥行(すなわち、図2のように厚さ方向Dから筐体5を見た場合の縦及び横の寸法)を小さくすることができる。
【0068】
また、レーザモジュール2は、支持プレート61の凹部61c内において、支持プレート61と冷却素子7との間に配置された熱伝導シート34を備えてもよい。上記構成によれば、支持プレート61と冷却素子7との間の伝熱性を向上させることができるため、冷却効果をより一層高めることができる。
【0069】
また、底壁51における冷却素子7側の面には、冷却素子7における底壁51側の少なくとも一部(すなわち、第2基板72の底壁51側の少なくとも一部)が挿入される凹部51bが設けられてもよい。上記構成によれば、凹部51bによって、冷却素子7を底壁51に対して容易に配置することができる。なお、本実施形態では一例として、冷却素子7の第2基板72の寸法は、凹部51bの寸法と一致している。すなわち、第2基板72は、凹部51b内にちょうど収まる大きさに形成されている。この場合、凹部51bの内面の全体と冷却素子7(第2基板72)の外縁の全体とを接触させることができる。すなわち、冷却素子7(第2基板72)を、凹部51b内に嵌め込むことにより、底壁51に対する冷却素子7の安定性をより高めることができる。
【0070】
[変形例]
以上、本開示の一実施形態について説明したが、本開示は、上記実施形態に限られない。各構成の材料及び形状には、上述した材料及び形状に限らず、様々な材料及び形状を採用することができる。例えば、上記実施形態において、外部共振器はリットマン型に構成されてもよい。この場合、レーザモジュール2は、例えば、上述した可動機構(可動部23)と一体的に構成されたMEMS回折格子12に代えて、固定された(非可動の)回折格子と、当該回折格子の1次回折光を反射するための可動ミラーと、を備えてもよい。
【0071】
また、第1回路基板31は、必ずしも筐体5内に配置されなくてもよい。第2回路基板32についても同様である。また、このような場合、レーザモジュール2は、支持プレート61の物理的安定性の向上を図るために、第1回路基板31及び第2回路基板32以外の支柱連結部材(例えば、支持プレート61と平行に延在する板状部材)と、当該支柱連結部材及び支持プレート61を接続する支柱と、を備えてもよい。
【0072】
また、上記実施形態では、筐体5の底壁51が支持プレート61を取り付けるためのベースプレートとして機能したが、支持プレート61は、底壁51とは別のベースプレート(例えば、筐体5内において底壁51上に配置された基板)に取り付けられてもよい。この場合、補助冷却素子33は、当該ベースプレートと底壁51との間に配置されてもよい。
【0073】
また、冷却素子7のみで十分な冷却効果が発揮される場合には、補助冷却素子33は省略されてもよい。熱伝導シート34についても同様に省略されてもよい。
【0074】
また、上記実施形態では、厚さ方向Dから見た場合に、支持プレート61の凹部61cは、QCL素子13が搭載されたサブマウント16の全体及びMEMS回折格子12が搭載された壁部62の全体と重なるように形成されているが、凹部61cが形成される領域の範囲及び大きさは、上記実施形態に限定されない。凹部61cは、少なくともQCL素子13の一部と重なっていればよい。好ましくは、凹部61cは、QCL素子13の全体と重なるように形成される。例えば、凹部61cは、QCL素子13の全体及びサブマウント16の一部と重なるように形成されてもよい。より好ましくは、凹部61cは、サブマウント16の全体と重なるように形成される。なお、厚さ方向Dから見た場合に、レンズ9Bがサブマウント16からはみ出る場合には、好ましくは、凹部61cは、サブマウント16の全体及びレンズ9Bと重なるように形成される。また、凹部61cは、MEMS回折格子12において回折格子が形成された回折反射部28と少なくとも重なっていればよい。好ましくは、凹部61cは、本実施形態のように壁部62の全体と重なるように形成される。
【0075】
冷却素子7が形成される範囲及び大きさについても、上述した凹部61cが形成される範囲及び大きさと同様のことがいえる。すなわち、冷却素子7は、少なくともQCL素子13の一部と重なっていればよい。好ましくは、冷却素子7は、QCL素子13の全体と重なるように形成される。例えば、冷却素子7は、QCL素子13の全体及びサブマウント16の一部と重なるように形成されてもよい。より好ましくは、冷却素子7は、サブマウント16の全体と重なるように形成される。なお、厚さ方向Dから見た場合に、レンズ9Bがサブマウント16からはみ出る場合には、好ましくは、冷却素子7は、サブマウント16の全体及びレンズ9Bと重なるように形成される。また、冷却素子7は、MEMS回折格子12において回折格子が形成された回折反射部28と少なくとも重なっていればよい。好ましくは、冷却素子7は、本実施形態のように壁部62の全体と重なるように形成される。
【0076】
なお、上記実施形態では、支持プレート61において凹部61cが形成されていない部分(厚さ方向Dから見た凹部61c以外の肉厚部)の面積が、凹部61c(すなわち、肉薄部)の面積よりも大きい。これにより、支持プレート61の物理的安定性を好適に確保することができる。ただし、肉厚部(凹部61c以外の部分)の面積は、肉薄部(凹部61c)の面積よりも小さくてもよい。
【符号の説明】
【0077】
1…分析装置、2…外部共振型レーザモジュール、3…光検出器、7…冷却素子、11…量子カスケードレーザ、12…MEMS回折格子(回折格子)、13…量子カスケードレーザ素子、28…回折反射部、31…第1回路基板(支柱連結部材)、32…第2回路基板(支柱連結部材)、33…補助冷却素子、34…熱伝導シート、51…底壁(ベースプレート)、51b…凹部、61…支持プレート、61a…第1面、61b…第2面、61c…凹部、B1,B2…支柱、D…厚さ方向。
図1
図2
図3