(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-15
(45)【発行日】2024-05-23
(54)【発明の名称】水中ストックヤードおよび水中仮受け方法
(51)【国際特許分類】
E02B 3/20 20060101AFI20240516BHJP
【FI】
E02B3/20 Z
(21)【出願番号】P 2020171047
(22)【出願日】2020-10-09
【審査請求日】2023-05-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 正美
(72)【発明者】
【氏名】石河 亮
【審査官】荒井 良子
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-132880(JP,A)
【文献】特開昭55-008915(JP,A)
【文献】特開2015-004177(JP,A)
【文献】特開平11-303095(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02B 3/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
浮体を載置するための水中ストックヤードであって、
水底に立設された複数本の支柱と、
複数の前記支柱の頭部に固定された受部材と、を備え
、
前記受部材は、前記浮体の底面形状以上の大きさの平面形状を有した本体部と、前記支柱の位置に応じて設けられた複数の外挿管と、を有していて、
前記支柱の頭部が前記外挿管に挿入されていることを特徴とする、水中ストックヤード。
【請求項2】
前記本体部は、鋼材を組み合わせることに形成さ
れていることを特徴とする、請求項1に記載の水中ストックヤード。
【請求項3】
前記本体部の上面に立設されて上面に傾斜面を有する板状部材または前記本体部の周囲に設けられて上端が水面から突出するように配設された縦材からなり、前記浮体を沈設する際に前記浮体を前記受部材の上面に誘導するガイドを備えていることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の水中ストックヤード。
【請求項4】
前記受部材の上面に前記浮体の下面との摩擦力を増加させる摩擦増大材が敷設されていることを特徴とする、請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の水中ストックヤード。
【請求項5】
満潮時の水面から前記受部材の上面までの深さが前記浮体の全高よりも小さく、
干潮時の水面から前記受部材の上面までの深さが曳船時の前記浮体の底面までの深さよりも大きいことを特徴とする、請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の水中ストックヤード。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の水中ストックヤードを水中に構築する工程と、
前記水中ストックヤード近傍に前記浮体を配置する工程と、
前記浮体に注水して、当該浮体を前記受部材上に載置する工程と、を備えていることを特徴とする、水中仮受け方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水中ストックヤードおよび水中仮受け方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水上(海上等)に浮体構造物を設ける場合において、陸上で製作した浮体を半潜水式台船、フローティングドック、ドライドック、斜路、クレーン等を用いて進水させる方法や、水上の半潜水式台船上やフローティングドック上で浮体を製作する方法等がある。
ところが、陸上では、製作後の浮体を仮置きするためのストックヤードを確保できない場合がある。そのため、製作ヤード近傍の港湾内において、浮体を仮置きすることが検討されている。
水上において浮体を仮置きするためには、水底に形成された支持部材(支柱、杭、アンカー等)から延設されたチェーンやワイヤ―等の係留部材を利用して浮体を係留するのが一般的である(例えば特許文献1参照)。ところが、浮体を安定的に係留するためには、多方向に向けて係留部材を配設する必要があるため、複数の浮体を係留する場合には、多数の係留部材を張り巡らせる必要がある。一方、港湾内の限られたスペースでは、多数の係留部材を張り巡らせるスペースを確保できない虞がある。また、水深が浅い場合には、アンカー係留が大掛かりになる可能性がある。
また、例えば、特許文献2に示すように、水底に捨石等を敷き均して仮設の土台(マウンド)を形成し、この土台に部材を載置する場合もあるが、捨石によって形成された土台の上面に不陸が生じると、部材の底面が傷つく恐れがある。仮設の土台を水中コンクリートにより形成すれば上面の平坦性を維持できるものの、コンクリートの上面を水中で平坦にする作業に手間がかかる。また、水底に捨石等を敷き均して形成した土台を複数回使用する場合には、土台としての機能(形状)を維持するためのメンテナンスに手間がかかる。
さらに、常設の杭(支柱)に浮体を係留させる方法もあるが、当該杭は、浮体に作用する波力や風圧力等の外力(水平力)に対して十分な強度を確保する必要があり、杭の仕様(口径や本数)が大きくなる。そのため、浮体を移動させる際に常設の杭が障害となるおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-43356号公報
【文献】特開平10-237875号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、浮体を水中に仮置きする場合において、省スペース化と、浮体の仮置き時の健全性の確保および浮体の維持管理や移動時の妨げにならない水中ストックヤードおよび水中仮受け方法を提案することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記課題を解決するための本発明の浮体を載置するための水中ストックヤードは、所定の根入れを確保して水底に立設された複数本の支柱と、複数の前記支柱の頭部に固定された受部材とを備えている。前記受部材は、前記浮体の底面形状以上の大きさの平面形状を有した本体部と、前記支柱の位置に応じて設けられた複数の外挿管とを有していて、前記支柱の頭部が前記外挿管に挿入されている。
また、本発明の水中仮受け方法は、前記水中ストックヤードを水中に構築する工程と、前記水中ストックヤード近傍に前記浮体を配置する工程と、前記浮体に注水して当該浮体を前記受部材上に載置する工程とを備えるものである。
かかる水中ストックヤードおよびこれを利用した水中仮受け方法によれば、水底に立設された支柱を利用しているため、係留用のワイヤー等を多方向に(広範囲に)張り巡らせる必要がない。また、砕石等により土台を形成する場合に比べて、浮体の載置面(受部材の上面)を平滑に仕上げることができるため、浮体の底面が傷つきにくい。また、水中ストックヤードは、受部材と支柱とを組み合わせることにより構成されているため、構造がシンプルである。さらに、水中ストックヤードは、浮体を沈めた際に載置することが可能な深さに形成されているため、浮体を移動させる際に障害になり難い。
【0006】
なお、前記受部材は、鋼材を組み合わせることにより形成されているのが望ましい。このようにすることで、水中でも施工が容易となり、解体も容易で、鋼材を再利用することも可能である。
また、前記水中ストックヤードが、前記本体部の上面に立設されて上面に傾斜面を有する板状部材または前記本体部の周囲に設けられて上端が水面から突出するように配設された縦材からなり、前記浮体を沈設する際に前記浮体を前記受部材の上面に誘導するガイドを備えていれば、浮体を沈設する際に、水中ストックヤード上への誘導が容易になる。
さらに、前記受部材の上面に前記浮体の下面との摩擦力を増加させる摩擦増大材が敷設されていれば、潮位の変化や潮流等により浮体が流されることを抑制できる。
なお、水中ストックヤードは、満潮時の水面から前記受部材の上面までの深さが前記浮体の全高よりも小さく、干潮時の水面から前記受部材の上面までの深さが曳船時の前記浮体の底面までの深さよりも大きいのが望ましい。こうすることで、浮体を台船で曳航して仮置きする際の沈設や、移動する際の再浮上に要する作業を容易にし、所用時間を短縮することができる。
【発明の効果】
【0007】
本発明の水中ストックヤードおよび水中仮受け方法によれば、浮体を水中に仮置きする場合において、省スペース化、および、浮体の仮置き時の健全性の確保を可能とし、かつ、浮体の維持管理や移動時の妨げにならない。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の実施形態に係る水中ストックヤードを示す斜視図である。
【
図2】水中ストックヤードの浮体を載置した状態を示す図であって、(a)は平面図、(b)は側面図である。
【
図3】本実施形態の水中仮受け方法を示すフローチャートである。
【
図4】水中仮受け方法の各施工段階を示す側面図であって、(a)はストックヤード構築工程の支柱打設作業、(b)は受部材設置作業、(c)は浮体配置工程、(d)は、浮体載置工程である。
【
図5】他の形態の水中ストックヤードを示す図であって、(a)は平面図、(b)は側面図である。
【
図6】その他の形態の水中ストックヤードを示す図であって、(a)は平面図、(b)は側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本実施形態では、浮体構造物(浮体2)を所定の位置に設ける場合において、浮体2を仮置きするための水中ストックヤード1と、この水中ストックヤード1に浮体2を仮置きする際の水中仮受け方法について説明する。
図1に水中ストックヤード1を示す。
水中ストックヤード1は、
図1に示すように、複数本の支柱3と、複数の支柱3の頭部に固定された受部材4とを備えている。
図2の(a)に水中ストックヤード1の平面図を示し、(b)に側面図を示す。
【0010】
図2(b)に示すように、支柱3は、水底GLに打設された鋼管からなり、水底GLに立設されている。複数の支柱3は、受部材4の水平性が確保できるように、上端の高さが揃えられている。支柱3は、所定の根入れ深さを確保して、鉛直に打設されている。
図1に示すように、受部材4は、鋼材を組み合わせることに格子状に形成された本体部5と、支柱3の位置に応じて本体部5に固定された複数の外挿管6とを備えている。本体部5は、浮体2の底面形状に応じた平面形状を有している。本実施形態の本体部5は、平面視矩形状を呈している。また、
図2(a)および(b)に示すように、本体部5の外形は浮体2の外形以上の大きさを有している。
外挿管6は、支柱3の外径よりも大きな内径を有した筒状部材からなり、本体部5に固定されている。外挿管6に支柱3の頭部を挿入することで、受部材4が支柱3の頭部に取り付けられている。
【0011】
受部材4は、高水位時(満潮時)の水面WLから上面までの深さが、浮体2の全高よりも小さくなるように設けられている。また、低水位時(干潮時)の水面から受部材4の上面までの深さは、曳船時の浮体2の底面までの深さよりも大きい。また、受部材4(本体部5)の天端レベル(高さ)は、浮体2を載置した際に、受部材4上に載置した浮体2が潮位変動や波浪による影響を受けない(受けにくい)高さに設定する。
図2(b)に示すように、受部材4(本体部41)の上面には、浮体2の下面との摩擦力を増加させる摩擦増大材7が敷設されている。すなわち、受部材4と浮体2との間には、摩擦増大材7が介設されている。摩擦増大材7は、受部材4に載置された浮体2と受部材4との間の静止摩擦係数を増加させることで、波や風などによって浮体2が移動することを防止する。摩擦増大材7を構成する材料としては、例えば、アスファルトやゴム系素材からなるマット(シート)等がある。摩擦増大材7は、本体部5を構成する鋼材の上面を覆っている。すなわち、本実施形態の摩擦増大材7は、本体部5の平面形状と同様に、格子状に配設されている。
【0012】
次に、本実施形態の水中ストックヤード1により浮体2を仮受けする、水中仮受け方法について説明する。水中仮受け方法は、
図3のフローチャートに示すように、ストックヤード構築工程S1と、浮体配置工程S2と、浮体載置工程S3とを備えている。
ストックヤード構築工程S1は、水中ストックヤード1を水中に構築する工程である。ストックヤード構築工程S1では、支柱打設作業S11と、受部材設置作業S12と、固定作業S13とを行う。
図4(a)に支柱打設作業S11を示す。
図4(a)に示すように、支柱打設作業S11では、水底GLに複数本の支柱3を打設する。支柱3は、所定の根入れ深さを確保した状態で水底GLに打設する。複数の支柱3の上端は、同じ高さに揃える。
【0013】
受部材設置作業S12では、支柱3の頭部に受部材4を設置する。
図4(b)に受部材設置作業S12を示す。
図4(b)に示すように、受部材設置作業S12では、支柱3の上方から受部材4を沈め、外挿管6を支柱3の頭部に被せる(支柱3の頭部を外挿管6に挿入する)。
【0014】
固定作業S13では、支柱3の頭部に外挿管6を固定する。支柱3と外挿管6との固定方法は限定されるものではなく、例えば、治具等を利用して固定してもよいし、支柱3の頭部と外挿管6との隙間に充填材を充填することにより固定してもよい。
受部材4を支柱3の頭部に設置したら、受部材4の上面に摩擦増大材7を設置する(
図4(c)参照)。なお、摩擦増大材7は、予め受部材4の上面に設置しておいてもよい。
【0015】
浮体配置工程S2では、
図4(c)に示すように、水中ストックヤード1の近傍に浮体2を配置する。
図4(c)は、浮体配置工程S2を示す側面図である。浮体2は、水面に浮いた状態で、曳船などより牽引あるいは押船等により押して、所定の位置に配設する。このとき、必要に応じて浮体2を水中ストックヤード1に仮係留する。
【0016】
浮体載置工程S3では、
図4(d)に示すように、浮体2を受部材4上に載置する。
図4(d)は、浮体載置工程S3を示す側面図である。浮体2を受部材4に載置する際には、中空の浮体2の内部にバラスト水を注水して、浮体2の重量を増加させることで、浮体2を沈める。バラスト水の注水量は、波浪等による動揺に対して、浮体2の安定性を確保できる量とする。このとき、牽引手段等を利用して、浮体2を受部材4の上面に誘導してもよい。
【0017】
以上、本実施形態の水中ストックヤード1およびこれを利用した水中仮受け方法によれば、水底GLに立設された支柱3を利用しているため、係留用のワイヤー等を多方向に(広範囲に)張り巡らせる必要がない。そのため、港湾などの限られたスペースにおいて、複数の浮体2を仮置きすることも可能となる。
また、砕石等により土台を形成する場合に比べて、浮体2の載置面(受部材4の上面)を平滑に仕上げることができるため、浮体2の底面が傷つきにくい。
【0018】
また、水中ストックヤード1は、受部材4と支柱3とを組み合わせることにより構成されているため、撤去時に解体しやすく再利用も可能である。また、受部材4は、鋼材を組み合わせることにより形成された本体部5と、支柱3の位置に応じて設けられた複数の外挿管6とにより構成されているため、支柱3の頭部を外挿管6に挿入することで、水中ストックヤード1を水中でも容易に施工できる。
また、水中ストックヤード1は、浮体2を沈めた際に載置することが可能な深さに形成されているため、浮体2を移動させる際に障害になり難い。
さらに、受部材4の上面に浮体2の下面との摩擦力を増加させる摩擦増大材7が敷設されているため、潮位の変化や潮流等により浮体2が流されることを抑制できる。
【0019】
以上、本発明に係る実施形態について説明したが、本発明は前述の実施形態に限らず、前記の各構成要素については本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更が可能である。
例えば、支柱3を構成する材料は、鋼管に限定されるものではなく、例えば、H形鋼等の鋼材であってもよいし、プレキャスト部材であってもよい。
また、支柱3は、必ずしも鉛直である必要はなく、傾斜していてもよい。
受部材4は必ずしも鋼製である必要はなく、例えば、プレキャストコンクリート製であってもよい。
また、本体部5の形状寸法は、浮体2を支持することができれば、限定されるものではなく、例えば、浮体2の外形よりも小さい外形を有していてもよい。
また、水中ストックヤード1は、
図5または
図6に示すように、浮体2を沈設する際に浮体2を受部材4の上面に誘導するガイド8を備えていてもよい。水中ストックヤード1がガイド8を備えていれば、浮体2を沈設する際に、水中ストックヤード1上への誘導が容易になる。ガイド8としては、例えば、
図5(a)および(b)に示すように、本体部5の上面に立設された板状部材とすればよい。ガイド8の上面には、浮体2を受部材4の外側から中央側に誘導する傾斜面が形成されているのが望ましい。また、ガイド8が浮体2の周囲を囲うように配設されていれば、台風接近時の高潮や高波により浮体2が流されることを抑制できる。
また、ガイド8は、
図6(a)および(b)に示すように、上端が水面から突出するように水底GLに打設された鋼管等の縦材であってもよい。この場合には、浮体2をガイド8に添接させた状態で、沈設することで、水中ストックヤード1上に浮体2を誘導することができる。
浮体2は、浮体構造物の完成物であってもよいし、浮体構造物の一部を構成する部材であってもよい。
【符号の説明】
【0020】
1 水中ストックヤード
2 浮体
3 支柱
4 受部材
5 本体部
6 外挿管
7 摩擦増大材
8 ガイド