(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-15
(45)【発行日】2024-05-23
(54)【発明の名称】車両の制御方法及び車両の制御システム
(51)【国際特許分類】
B60W 20/17 20160101AFI20240516BHJP
B60K 6/442 20071001ALI20240516BHJP
B60L 15/20 20060101ALI20240516BHJP
B60L 50/16 20190101ALI20240516BHJP
B60L 50/60 20190101ALI20240516BHJP
B60L 58/12 20190101ALI20240516BHJP
B60W 10/06 20060101ALI20240516BHJP
B60W 10/08 20060101ALI20240516BHJP
F02D 29/02 20060101ALI20240516BHJP
【FI】
B60W20/17
B60K6/442 ZHV
B60L15/20 J
B60L50/16
B60L50/60
B60L58/12
B60W10/06 900
B60W10/08 900
F02D29/02 Z
(21)【出願番号】P 2020176194
(22)【出願日】2020-10-20
【審査請求日】2023-08-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】507308902
【氏名又は名称】ルノー エス.ア.エス.
【氏名又は名称原語表記】RENAULT S.A.S.
【住所又は居所原語表記】122-122 bis, avenue du General Leclerc, 92100 Boulogne-Billancourt, France
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】弁理士法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】根来 司
【審査官】冨永 達朗
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-056421(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 20/17
B60K 6/442
B60W 10/06
B60W 10/08
F02D 29/02
B60L 50/16
B60L 50/60
B60L 15/20
B60L 58/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関と、前記内燃機関の動力または駆動輪の回転を利用してバッテリに供給する電力を発電し、前記バッテリから供給された電力により車両を駆動するモータジェネレータと、を備え、前記内燃機関及び前記モータジェネレータのうちの少なくとも1つの動力により駆動される車両の制御方法であって、
前記内燃機関及び前記モータジェネレータを利用して前記車両を駆動する内燃機関直結モードの設定時において、
前記車両の要求トルクが、前記内燃機関の最良燃費線上の値を含む範囲であって前記最良燃費線上の値を基準にして設定される所定範囲内となるときには、前記モータジェネレータの要求トルクを前記所定範囲を基準に定められる所定値に設定し、前記車両の要求トルクに基づいて前記内燃機関の要求トルクを制御し、
前記車両の要求トルクが前記所定範囲外となるときには、前記内燃機関の要求トルクを前記最良燃費線上の値に設定し、前記車両の要求トルクに基づいて前記モータジェネレータの要求トルクを制御する制御ステップを備える
とともに、
前記制御ステップでは、
前記内燃機関直結モードが設定され、前記車両の要求トルクが前記所定範囲内となる場合において、前記バッテリのSOCが第1閾値よりも小さいときには、前記内燃機関の要求トルクを前記最良燃費線上の値よりも大きい値に設定するとともに、前記モータジェネレータの要求トルクを負の値に設定し、前記モータジェネレータの発電により前記バッテリに電力を供給する発電状態とする、
車両の制御方法。
【請求項2】
内燃機関と、前記内燃機関の動力または駆動輪の回転を利用してバッテリに供給する電力を発電し、前記バッテリから供給された電力により車両を駆動するモータジェネレータと、を備え、前記内燃機関及び前記モータジェネレータのうちの少なくとも1つの動力により駆動される車両の制御方法であって、
前記内燃機関及び前記モータジェネレータを利用して前記車両を駆動する内燃機関直結モードの設定時において、
前記車両の要求トルクが、前記内燃機関の最良燃費線上の値を含む範囲であって前記最良燃費線上の値を基準にして設定される所定範囲内となるときには、前記モータジェネレータの要求トルクを前記所定範囲を基準に定められる所定値に設定し、前記車両の要求トルクに基づいて前記内燃機関の要求トルクを制御し、
前記車両の要求トルクが前記所定範囲外となるときには、前記内燃機関の要求トルクを前記最良燃費線上の値に設定し、前記車両の要求トルクに基づいて前記モータジェネレータの要求トルクを制御する制御ステップを備えるとともに、
前記制御ステップでは、
前記内燃機関直結モードが設定され、前記車両の要求トルクが前記所定範囲内となる場合において、前記バッテリのSOCが第2閾値よりも大きいときには、前記内燃機関の要求トルクを前記最良燃費線上の値よりも小さい値に設定するとともに、前記モータジェネレータの要求トルクを正の値に設定し、前記バッテリから前記モータジェネレータに電力を供給して前記内燃機関による駆動を前記モータジェネレータによりアシストするアシスト状態とする、
車両の制御方法。
【請求項3】
請求項1
または2に記載の車両の制御方法であって、
前記制御ステップでは、
前記内燃機関直結モードの設定時において、
前記車両の要求トルクが前記所定範囲内となるときには、前記モータジェネレータの要求トルクを正または負の前記所定値に設定し、当該設定された正または負の所定値と前記車両の要求トルクとに基づいて前記内燃機関の要求トルクを制御し、
前記車両の要求トルクが前記所定範囲外となるときには、前記内燃機関の要求トルクを前記最良燃費線上の値に設定し、前記最良燃費線上の値と前記車両の要求トルクとに基づいて前記モータジェネレータの要求トルクを制御する、
車両の制御方法。
【請求項4】
請求項
2に記載の車両の制御方法であって、
前記制御ステップでは、
前記内燃機関直結モードの設定時に前記車両の要求トルクが前記所定範囲内となり、かつ、前記バッテリのSOCが前記第2閾値よりも大きい場合において、
前記車両の加速度が加速度閾値よりも大きいときには、前記アシスト状態とする制御を実行し、
前記バッテリのSOCが前記第2閾値よりも大きい第3閾値よりもさらに大きくなり、かつ、前記車両の加速度が前記加速度閾値よりも小さいときには、前記内燃機関直結モードから、前記モータジェネレータの動力のみにより前記車両を駆動するEVモードに移行する制御を実行する、
車両の制御方法。
【請求項5】
請求項1乃至
4の何れかに記載の車両の制御方法であって、
前記制御ステップでは、
前記内燃機関直結モードの設定時において、前記車両の要求トルクが前記所定範囲内となった後には、前記車両の要求トルクが前記所定範囲よりも大きな第2所定範囲外となることを条件に、前記車両の要求トルクが前記所定範囲内となる前の制御に戻す、
車両の制御方法。
【請求項6】
請求項1乃至
5の何れかに記載の車両の制御方法であって、
前記所定範囲は、前記内燃機関の回転数に基づいて可変に設定される、
車両の制御方法。
【請求項7】
内燃機関と、前記内燃機関の動力または駆動輪の回転を利用してバッテリに供給する電力を発電し、前記バッテリから供給された電力により車両を駆動するモータジェネレータと、前記内燃機関及び前記モータジェネレータを制御するコントローラと、を備え、前記内燃機関及び前記モータジェネレータのうちの少なくとも1つの動力により駆動される車両の制御システムであって、
前記コントローラは、
前記内燃機関及び前記モータジェネレータを利用して前記車両を駆動する内燃機関直結モードの設定時において、
前記車両の要求トルクが、前記内燃機関の最良燃費線上の値を含む範囲であって前記最良燃費線上の値を基準にして設定される所定範囲内となるときには、前記モータジェネレータの要求トルクを前記所定範囲を基準に定められる所定値に設定し、前記車両の要求トルクに基づいて前記内燃機関の要求トルクを制御し、
前記車両の要求トルクが前記所定範囲外となるときには、前記内燃機関の要求トルクを前記最良燃費線上の値に設定し、前記車両の要求トルクに基づいて前記モータジェネレータの要求トルクを制御する
とともに、
前記内燃機関直結モードが設定され、前記車両の要求トルクが前記所定範囲内となる場合において、前記バッテリのSOCが第1閾値よりも小さいときには、前記内燃機関の要求トルクを前記最良燃費線上の値よりも大きい値に設定するとともに、前記モータジェネレータの要求トルクを負の値に設定し、前記モータジェネレータの発電により前記バッテリに電力を供給する発電状態とする、
車両の制御システム。
【請求項8】
内燃機関と、前記内燃機関の動力または駆動輪の回転を利用してバッテリに供給する電力を発電し、前記バッテリから供給された電力により車両を駆動するモータジェネレータと、前記内燃機関及び前記モータジェネレータを制御するコントローラと、を備え、前記内燃機関及び前記モータジェネレータのうちの少なくとも1つの動力により駆動される車両の制御システムであって、
前記コントローラは、
前記内燃機関及び前記モータジェネレータを利用して前記車両を駆動する内燃機関直結モードの設定時において、
前記車両の要求トルクが、前記内燃機関の最良燃費線上の値を含む範囲であって前記最良燃費線上の値を基準にして設定される所定範囲内となるときには、前記モータジェネレータの要求トルクを前記所定範囲を基準に定められる所定値に設定し、前記車両の要求トルクに基づいて前記内燃機関の要求トルクを制御し、
前記車両の要求トルクが前記所定範囲外となるときには、前記内燃機関の要求トルクを前記最良燃費線上の値に設定し、前記車両の要求トルクに基づいて前記モータジェネレータの要求トルクを制御するとともに、
前記内燃機関直結モードが設定され、前記車両の要求トルクが前記所定範囲内となる場合において、前記バッテリのSOCが第2閾値よりも大きいときには、前記内燃機関の要求トルクを前記最良燃費線上の値よりも小さい値に設定するとともに、前記モータジェネレータの要求トルクを正の値に設定し、前記バッテリから前記モータジェネレータに電力を供給して前記内燃機関による駆動を前記モータジェネレータによりアシストするアシスト状態とする、
車両の制御システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関及びモータジェネレータを利用して車両を駆動する車両の制御方法及び車両の制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、内燃機関及びモータジェネレータを利用して車両を駆動させる技術が存在する。例えば、内燃機関の要求トルクを最良燃費線上の値に設定し、内燃機関の出力の過不足分をモータジェネレータで補う制御を実行する技術が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した従来技術では、車両の要求トルクと内燃機関の要求トルクとが略一致しているときには、モータジェネレータの要求トルクが0または0に近い状態となる。この場合には、モータジェネレータが有するロータの慣性が小さくなるため、ギアのラッシュ現象等の音振が発生するおそれがある。このような音振が発生すると、ドライバに不快感を与えるおそれがある。
【0005】
本発明は、内燃機関及びモータジェネレータを利用して車両を駆動する場合に発生する音振を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、内燃機関と、内燃機関の動力または駆動輪の回転を利用してバッテリに供給する電力を発電し、バッテリから供給された電力により車両を駆動するモータジェネレータと、を備え、内燃機関及びモータジェネレータのうちの少なくとも1つの動力により駆動される車両の制御方法である。この制御方法では、内燃機関及びモータジェネレータを利用して車両を駆動する内燃機関直結モードの設定時において、車両の要求トルクが、所定範囲内となるときには、モータジェネレータの要求トルクを所定値に設定し、車両の要求トルクに基づいて内燃機関の要求トルクを制御し、車両の要求トルクが所定範囲外となるときには、内燃機関の要求トルクを最良燃費線上の値に設定し、車両の要求トルクに基づいてモータジェネレータの要求トルクを制御する制御ステップを備える。制御ステップでは、 内燃機関直結モードが設定され、車両の要求トルクが所定範囲内となる場合において、バッテリのSOCが第1閾値よりも小さいときには、内燃機関の要求トルクを最良燃費線上の値よりも大きい値に設定するとともに、モータジェネレータの要求トルクを負の値に設定し、モータジェネレータの発電によりバッテリに電力を供給する発電状態とする。
本発明の別の一態様による制御ステップでは、内燃機関直結モードが設定され、車両の要求トルクが所定範囲内となる場合において、バッテリのSOCが第2閾値よりも大きいときには、内燃機関の要求トルクを最良燃費線上の値よりも小さい値に設定するとともに、モータジェネレータの要求トルクを正の値に設定し、バッテリからモータジェネレータに電力を供給して内燃機関による駆動をモータジェネレータによりアシストするアシスト状態とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、内燃機関及びモータジェネレータを利用して車両を駆動する場合に発生する音振を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、第1実施形態における車両の構成例を示す概略構成図である。
【
図2】
図2は、ジェネレータのトルクと内燃機関の回転数と音振との関係例を示す図である。
【
図3】
図3は、車両の要求トルクに基づく内燃機関及びジェネレータの制御例を示す図である。
【
図4】
図4は、コントローラによる車両の駆動制御処理の処理手順の一例を示すフローチャートである。
【
図5】
図5は、ヒステリシスを設定した場合におけるコントローラによる車両の駆動制御処理の処理手順の一例を示すフローチャートである。
【
図6】
図6は、車両の要求トルクに基づく内燃機関及びジェネレータの制御例を示す図である。
【
図7】
図7は、第2実施形態におけるコントローラによる車両の駆動制御処理の処理手順の一例を示すフローチャートである。
【
図8】
図8は、第3実施形態におけるコントローラによる車両の駆動制御処理の処理手順の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。
【0010】
[第1実施形態]
[車両の制御システムの構成例]
図1は、第1実施形態における車両1の構成例を示す概略構成図である。車両1は、モータ2と、内燃機関3と、ジェネレータ4と、バッテリ5と、駆動輪6と、コントローラ7と、を備える。
【0011】
内燃機関3は、ガソリンエンジンまたはディーゼルエンジンのいずれでもかまわない。
【0012】
ジェネレータ4は、内燃機関3の動力によって駆動されることで発電する。また、ジェネレータ4は、後述するバッテリ5の電力により力行することで内燃機関3をモータリングする機能も有する。
【0013】
バッテリ5には、ジェネレータ4で発電された電力と、後述するモータ2で回生された電力と、が充電される。
【0014】
モータ2は、バッテリ5の電力により駆動されて、駆動輪6を駆動する。また、モータ2は、減速時等に駆動輪6の回転に伴って連れ回されることにより減速エネルギを電力として回生する、いわゆる回生機能も有する。
【0015】
コントローラ7は、モータ2、内燃機関3及びジェネレータ4の制御を行う。
【0016】
なお、コントローラ7は、中央演算装置(CPU)、読み出し専用メモリ(ROM)、ランダムアクセスメモリ(RAM)及び入出力インタフェース(I/Oインタフェース)を備えたマイクロコンピュータで構成される。コントローラ7を複数のマイクロコンピュータで構成することも可能である。
【0017】
また、車両1は、モータ2と駆動輪6との間で動力を伝達する第1動力伝達経路24と、内燃機関3と駆動輪6との間で動力を伝達する第2動力伝達経路25と、内燃機関3とジェネレータ4との間で動力を伝達する第3動力伝達経路26と、を有する。
【0018】
第1動力伝達経路24は、モータ2の回転軸2Aに設けられた第1減速ギヤ8と、第1減速ギヤ8と噛み合う第2減速ギヤ9と、デファレンシャルケース11に設けられたデファレンシャルギヤ12と、第2減速ギヤ9と同軸上に設けられてデファレンシャルギヤ12と噛み合う第3減速ギヤ10と、で構成される。また、第1動力伝達経路24には、第1減速ギヤ8が回転軸2Aに対して相対回転可能な状態と相対回転不可能な状態とを切り替える第1クラッチ機構19が設けられている。第1クラッチ機構19は、回転軸2Aに軸方向に摺動可能に支持された第1スリーブ20と、第1減速ギヤ8に設けられた係合部8Aとで構成された、いわゆるドグクラッチである。すなわち、第1スリーブ20が第1減速ギヤ8の方向に移動し、第1スリーブ20に係合部8Aの方向に突出するよう設けられた複数の凸部と、係合部8Aに第1スリーブ20の方向に突出するよう設けられた複数の凸部とが、回転方向において互い違いに配置される噛み合うことで締結状態となる。この状態から、第1スリーブ20が第1減速ギヤ8とは反対方向に移動して、両者の凸部の噛み合いが解消されることで解放状態となる。なお、第1スリーブ20の移動は、電動アクチュエータにより行なわれる。
【0019】
第1クラッチ機構19が締結状態であれば、モータ2の動力は駆動輪6に伝達される。一方、第1クラッチ機構19が解放状態であれば、モータ2の回転軸2Aの回転は第1減速ギヤ8に伝達されないので、モータ2から駆動輪6への動力伝達は遮断される。
【0020】
第2動力伝達経路25は、内燃機関3の出力軸3Aに設けられた第4減速ギヤ16と、第4減速ギヤ16と噛み合う第5減速ギヤ17と、デファレンシャルケース11に設けられたデファレンシャルギヤ12と、第5減速ギヤ17と同軸上に設けられてデファレンシャルギヤ12と噛み合う第6減速ギヤ18と、で構成される。また、第2動力伝達経路には、第4減速ギヤ16が出力軸3Aに対して相対回転可能な状態と相対回転不可能な状態とを切り替える第2クラッチ機構21が設けられている。第2クラッチ機構21は、出力軸3Aに軸方向に摺動可能に支持された第2スリーブ22と、第4減速ギヤ16に設けられた係合部16Aとで構成された、いわゆるドグクラッチである。すなわち、第2スリーブ22が第4減速ギヤ16の方向に移動し、第2スリーブ22に係合部16Aの方向に突出するよう設けられた複数の凸部と、係合部16Aに第2スリーブ22の方向に突出するよう設けられた複数の凸部とが、回転方向において互い違いに配置される噛み合うことで締結状態となる。この状態から、第2スリーブ22が第4減速ギヤ16とは反対方向に移動して、両者の凸部の噛み合いが解消されることで解放状態となる。なお、第2スリーブ22の移動は、電動アクチュエータにより行なわれる。
【0021】
第2クラッチ機構21が締結状態であれば、内燃機関3の動力は駆動輪6に伝達される。以下の説明において、この状態を内燃機関直結状態ともいう。一方、第2クラッチ機構21が解放状態であれば、内燃機関3の出力軸3Aの回転は第4減速ギヤ16に伝達されないので、内燃機関3から駆動輪6への動力伝達は遮断される。
【0022】
第3動力伝達経路26は、内燃機関3の出力軸3Aに設けられた第7減速ギヤ13と、第7減速ギヤ13と噛み合う第8減速ギヤ14と、ジェネレータ4の回転軸4Aに設けられた第9減速ギヤ15と、で構成される。第3動力伝達経路26は、動力伝達を遮断する要素を備えていない。すなわち、第3動力伝達経路26は常に動力が伝達される状態になっている。
【0023】
第1クラッチ機構19及び第2クラッチ機構21の締結、解放動作は、コントローラ7により制御される。
【0024】
上述した構成の車両1は、第1動力伝達経路24により駆動輪6に動力を伝達して走行するシリーズハイブリッドモードと、内燃機関直結状態にして第2動力伝達経路25により駆動輪6に動力を伝達して走行する内燃機関直結モードと、を切り替え可能である。コントローラ7は、シリーズハイブリッドモードと内燃機関直結モードとを運転状態、具体的には車速と駆動力とに応じて切り替える。
【0025】
なお、第1実施形態では、主に、内燃機関直結モードに切り替えた場合における車両1の制御方法について説明する。
【0026】
ここで、仮に、内燃機関直結モードに切り替えた場合において、内燃機関3の要求トルクを常にα線上の値とし、内燃機関3の出力値の過不足分をジェネレータ4により補う制御を実行することを想定する。なお、α線は、内燃機関3のトルクと内燃機関3の回転数との関係において、内燃機関3の出力効率が最も高い動作点を結ぶ線を意味し、最良燃費線とも称される。
【0027】
この場合には、車両1の要求トルクと、内燃機関3の出力及びギア比によって作られる内燃機関3の発生トルクとが一致しているときには、ジェネレータ4によるアシストまたは上乗せ発電が必要ない。このため、ジェネレータ4の要求トルクが0または0に近い状態となる。この場合には、ジェネレータ4が有するロータの慣性が小さくなり、ジェネレータ4に動力を伝達するギアが自由な状態、いわゆる浮遊状態となる。このように、各ギア間に隙間が生じる(以下では、ギアのラッシュ現象が発生する、と称する)と、各ギアが動力的に繋がっていない状態となる。このようなギアのラッシュ現象が発生すると、ラトル音(いわゆる、カタカタ音)を発生させるおそれがある。また、ギアのラッシュ現象が発生している状態は、ジェネレータ4のロータがドライブトレイン上から乖離している現象でもある。このため、ドライブトレインからロータの慣性が乖離することになり、トルク変動の悪化につながるおそれがある。
【0028】
一方、内燃機関3の出力値に過不足がある場合には、その過不足分をジェネレータ4により補うことになる。この場合には、ジェネレータ4に動力を伝達するギアに負荷がかかる状態となり、ラトル音の発生やトルク変動の悪化を低減させることが可能となる。そこで、第1実施形態では、車両1の要求トルクと、内燃機関3の要求トルクとが一致するような場合でも、ジェネレータ4の要求トルクが0または0に近い状態となることを防止し、ラトル音の発生やトルク変動の悪化を低減させる例を示す。これにより、ラトル音等の音振の発生やトルク変動の悪化により、ドライバに不快感を与えることを防止することができる。
【0029】
[ジェネレータのトルクと内燃機関の回転数と音振との関係例]
図2は、ジェネレータ4のトルクと内燃機関3の回転数と音振との関係例を示す図である。
図2に示すグラフにおいて、縦軸はジェネレータ4のトルクを示し、横軸は、内燃機関3の回転数を示す。
【0030】
図2に示すグラフにおいて、線L1は、車両1に設けられているダンパー(図示略)の種類に応じて決まる値である。すなわち、線L1は、ダンパーポテンシャルを意味する。線L1は、例えば、内燃機関3とジェネレータ4との間で動力を伝達する第3動力伝達経路26を構成する各ギヤ(第7減速ギヤ13、第8減速ギヤ14、第9減速ギヤ15)の歯が離れるかどうかを基準に求めることができる。
【0031】
ここでは、内燃機関3がα線上でx[rpm]で回転している場合の線L1の計算例について説明する。内燃機関3の振動は、ダンパーを経由して第3動力伝達経路26を構成する各ギヤに伝わる。この場合に、内燃機関3の振動がダンパーを経由して伝わった各ギヤの歯が離れないようにするには、ジェネレータ4をどの程度の力[Nm]で押し付ければよいかを基準に線L1を計算することができる。
【0032】
また、一般に、内燃機関は、低回転側ほど回転変動が大きい。このため、内燃機関が低回転の場合には、回転変動の影響でギヤとギヤのラッシュが発生し易くなる。一方、内燃機関は、高回転側になるほど回転変動が収まる。このため、内燃機関が高回転の場合には、回転変動の影響が少ない。そこで、内燃機関が低回転の場合には、ギヤが歯面から離れないようにするため、抑え込む力を大きくしておく必要がある。すなわち、ジェネレータのトルクを大きくしておく必要がある。一方、内燃機関が高回転の場合には、回転変動の影響が少ないため、ギヤが歯面から離れにくい。このため、ジェネレータのトルクを小さくすることができる。すなわち、線L1は、内燃機関の回転数の増加に応じて、減少するように傾斜する線となる。
【0033】
例えば、車両1に設けられているダンパーのポテンシャルが高いものであれば、トルク変動を比較的吸収できるため、線L1の傾斜は緩やかとなる。なお、ダンパーのポテンシャルが高いものは、例えば、柔らかいダンパーやロングトラベルダンパーである。
【0034】
一方、車両1に設けられているダンパーのポテンシャルが低いものであれば、トルク変動を吸収できないことが多くなるため、線L1の傾斜は急なものとなる。なお、ダンパーのポテンシャルが低いものは、例えば、硬いダンパーである。
【0035】
すなわち、線L1は、音振を適切に制御可能な境界線を示す。具体的には、線L1の下側の領域R1は、音振が適切に制御されていない領域を意味する。一方、線L1の上側の領域R2は、音振が適切に制御されている領域を意味する。
【0036】
このように、ジェネレータ4のトルクと内燃機関3の回転数との関係が領域R2に存在するように設定することにより、車両1の音振を適切に制御することが可能となる。言い換えると、ジェネレータ4のトルクと内燃機関3の回転数との関係が領域R2に存在する場合には、ジェネレータ4の慣性が常にドライブトレイン上に作用できるため、ジェネレータ4の出力が0とはならない。
【0037】
[車両の要求トルクに基づく内燃機関及びジェネレータの制御例]
図3は、車両1の要求トルクに基づく内燃機関3及びジェネレータ4の制御例を示す図である。なお、
図3に示す各グラフの横軸は時間軸である。
【0038】
図3の上段には、車両1の要求トルクの遷移例を線L11で簡略化して示す。なお、要求トルクは、車両1が必要とするトルク(トルク指令値)であり、アクセル開度と車速とに基づいて求められる。なお、アクセル開度は、車両1におけるアクセルペダルの操作量に基づいてアクセル開度センサにより取得可能である。また、車速は、車両1における車速センサにより取得可能である。なお、要求トルクは、必要トルク、要求駆動力とも称する。
【0039】
図3に示す例では、車両1の要求トルクが増加する例を示す。なお、点線212は、内燃機関3のα線に相当するトルクを示す。また、点線213、214は、内燃機関3のα線を基準値とした場合に、その基準値からの絶対値がA1となる領域を示す。なお、第1実施形態では、点線213、214間の領域を特定制御領域と称して説明する。また、
図3に示す例では、特定制御領域内に車両1の要求トルクが存在する期間を、2つの点線201、202で示す。また、点線201、202間の期間を特定制御期間とも称する。
【0040】
ここで、特定制御領域を定義する閾値A1は、ジェネレータ4の慣性に基づいて定まる値であり、
図2に示すグラフに基づいて設定される。すなわち、内燃機関3のα線上の回転数に対して、領域R2内となるジェネレータ4のトルクの値が設定される。この場合に、領域R2内となるジェネレータ4のトルクの値のうちで比較的高い値を設定することも考えられる。しかし、このように比較的高い値を設定すると、内燃機関3の制御の幅が大きくなる。この場合には、内燃機関3の要求トルクがα線から離れやすくなるため、燃費に影響を与えるおそれがある。そこで、内燃機関3の制御の幅をなるべく小さくし、燃費を向上させるため、領域R2内となるジェネレータ4のトルクの値のうちの最小値となる線L1上の値を設定することが好ましい。例えば、
図2に示すグラフを参照すると、内燃機関3のα線上の回転数がNe4である場合には、領域R2内となるGT3からGT4の間の最小値(線L1上の値)を閾値A1として設定することが好ましい。
【0041】
図3の中段には、車両1の要求トルクに応じた内燃機関3の要求トルクの遷移例を線L21で簡略化して示す。なお、点線222は、内燃機関3のα線に相当するトルクを示す。
【0042】
図3の下段には、車両1の要求トルクに応じたジェネレータ4の要求トルクの遷移例を線L31で簡略化して示す。なお、点線233、234は、ジェネレータ4の要求トルク0[Nm]を基準値とした場合に、その基準値からの絶対値が閾値A1となる領域を示す。また、ジェネレータ4の要求トルクが負の値の場合には、内燃機関3の動力を利用してバッテリ5に供給する電力を発電する発電状態となる。一方、ジェネレータ4の要求トルクが正の値の場合には、バッテリ5を使用してジェネレータ4により内燃機関3をアシストするアシスト状態となる。また、第1実施形態では、点線233、234により特定される領域についても特定制御領域と称して説明する。なお、
図3の下段には、比較例として、仮に、内燃機関3の要求トルクをα線上の値に固定した場合におけるジェネレータ4の要求トルクの遷移例を線L32で示す。
【0043】
コントローラ7は、内燃機関3およびジェネレータ4の要求トルクの合計値が、車両1の要求トルクになるように、内燃機関3およびジェネレータ4を制御する。
【0044】
図3に示す例では、コントローラ7は、車両1の要求トルクの増加に応じて内燃機関3の要求トルクをα線まで増加させ、その後は、内燃機関3についてはα線の状態を維持する。すなわち、燃費の影響を考慮して、内燃機関3の回転数をα線に維持するようにする。また、コントローラ7は、内燃機関3の要求トルクの過不足分をジェネレータ4により補うように制御する。
【0045】
ただし、このような制御を実行すると、上述したように、車両1の要求トルクと、内燃機関3のα線上の値とが一致しているときには、ジェネレータ4の要求トルクが0または0に近い状態となる。
図3に示す例では、車両1の要求トルクが特定制御領域(点線213、214間の領域)に入った場合には、ジェネレータ4の要求トルクが0または0に近い状態となる。この場合には、ラトル音等の音振の発生やトルク変動の悪化により、ドライバに不快感を与えるおそれがある。
【0046】
そこで、第1実施形態では、車両1の要求トルクが特定制御領域(点線213、214間の領域)に入った場合には、ジェネレータ4の要求トルクが0または0に近い状態となることを阻止するため、ジェネレータ4の要求トルクを所定値(±A1)に固定する。この場合には、コントローラ7は、車両1の要求トルクと、ジェネレータ4の要求トルク(A1または-A1)とに基づいて、内燃機関3の要求トルクを制御する。この制御例については、
図4を参照して詳細に説明する。
【0047】
[車両の動作例]
図4は、コントローラ7による車両1の駆動制御処理の処理手順の一例を示すフローチャートである。なお、この処理手順は、記憶装置(図示省略)に記憶されているプログラムに基づいて実行される。また、この処理手順は、所定間隔(例えば数ミリ秒程度)で繰り返し実行される。
【0048】
ステップS501において、コントローラ7は、車両1の要求トルクが特定制御領域(
図3に示す点線213、214間の領域)に存在するか否かを判定する。具体的には、コントローラ7は、車両1の要求トルクと内燃機関3のα線上の値との差分値の絶対値が閾値A1未満であるか否かを判定する。その絶対値が閾値A1以上である場合には、ステップS502に進む。一方、その絶対値が閾値A1未満である場合には、ステップS504に進む。
【0049】
ステップS502において、コントローラ7は、ジェネレータ4の要求トルクを、車両1の要求トルクから内燃機関3のα線上の値を減算した値に設定する。
【0050】
ステップS503において、コントローラ7は、内燃機関3の要求トルクをα線上の値に設定する。このように、車両1の要求トルクと内燃機関3のα線上の値との差分値の絶対値が閾値A1以上である場合には、通常制御が行われる。すなわち、コントローラ7は、内燃機関3の要求トルクをα線上の値に固定し、車両1の要求トルクとα線上の値とに基づいてジェネレータ4の要求トルクを制御する。
【0051】
ステップS504において、コントローラ7は、バッテリ5のSOC(State Of Charge)が閾値B1以下であるか否かを判定する。ここで、閾値B1は、バッテリ5のSOCが溜まり気味であるか否かを判定するための基準値であり、バッテリの性能に応じて決定される。例えば、閾値B1として、60~90[%]程度の値を採用することができる。バッテリ5のSOCが閾値B1よりも大きい場合には、ステップS505に進む。一方、バッテリ5のSOCが閾値B1以下である場合には、ステップS507に進む。
【0052】
ステップS505において、コントローラ7は、ジェネレータ4の要求トルクをA1に設定する。
【0053】
ステップS506において、コントローラ7は、内燃機関3の要求トルクを、車両1の要求トルクからA1を減算した値に設定する。このように、車両1の要求トルクと内燃機関3のα線上の値との差分値の絶対値が閾値A1未満である場合において、バッテリ5が溜まり気味のときには、バッテリ5を使用して放電させるため、ジェネレータ4により内燃機関3をアシストするアシスト状態とする。
【0054】
ステップS507において、コントローラ7は、バッテリ5のSOCが閾値C以上であるか否かを判定する。ここで、Cは、B1よりも小さい値である。具体的には、Cは、バッテリ5のSOCが不足気味であるか否かを判定するための基準値であり、バッテリの性能に応じて決定される。例えば、Cとして、10~45[%]程度の値を採用することができる。バッテリ5のSOCがC未満である場合には、ステップS508に進む。一方、バッテリ5のSOCが閾値C以上である場合には、ステップS510に進む。
【0055】
ステップS508において、コントローラ7は、ジェネレータ4の要求トルクを-A1に設定する。
【0056】
ステップS509において、コントローラ7は、内燃機関3の要求トルクを、車両1の要求トルクにA1を加算した値に設定する。このように、車両1の要求トルクと内燃機関3のα線上の値との差分値の絶対値が閾値A1未満である場合において、バッテリ5が不足気味のときには、バッテリ5を充電するため、ジェネレータ4により発電する発電状態とする。
【0057】
このように、車両1の要求トルクと内燃機関3のα線上の値との差分値の絶対値が閾値A1未満である場合において、バッテリ5が溜まり気味や不足気味のときには、バッテリ5のSOC状態に応じて、発電またはアシストを強制的に固定するように制御する。
【0058】
ステップS510において、コントローラ7は、前回に設定したジェネレータ4の要求トルクが0以下であるか否かを判定する。前回に設定したジェネレータ4の要求トルクが0以下である場合には、ステップS511に進む。一方、前回に設定したジェネレータ4の要求トルクが0よりも大きい場合には、ステップS513に進む。
【0059】
ステップS511において、コントローラ7は、ジェネレータ4の要求トルクを-A1に設定する。すなわち、コントローラ7は、前回に設定したジェネレータ4の充電状態を維持するように制御する。
【0060】
ステップS512において、コントローラ7は、内燃機関3の要求トルクを、車両1の要求トルクにA1を加算した値に設定する。
【0061】
ステップS513において、コントローラ7は、ジェネレータ4の要求トルクをA1に設定する。すなわち、コントローラ7は、前回に設定したジェネレータ4のアシスト状態を維持するように制御する。
【0062】
ステップS514において、コントローラ7は、内燃機関3の要求トルクを、車両1の要求トルクからA1を減算した値に設定する。
【0063】
このように、車両1の要求トルクと内燃機関3のα線上の値との差分値の絶対値が閾値A1未満である場合において、バッテリ5のSOCが閾値Cから閾値B1の範囲内となっているときには、前回に設定したジェネレータ4の状態を維持する。すなわち、バッテリ5が適度に溜まっているときには、バッテリ5のSOC状態にかかわらず、直前のジェネレータ4の状態を維持する。これにより、コントローラ7は、ジェネレータ4の状態を維持して内燃機関3のみの制御を実行することができるため、コントローラ7の負荷を軽減することができる。
【0064】
なお、以上では、内燃機関3及びジェネレータ4を利用して車両1を駆動する内燃機関直結モードの設定時において、内燃機関3及びジェネレータ4を制御対象とする例を示した。ただし、第1実施形態は、これに限定されない。例えば、モータ2及び内燃機関3を利用して車両1を駆動する内燃機関直結モードが設定可能な場合には、モータ2及び内燃機関3を制御対象とする場合にも第1実施形態を適用可能である。また、内燃機関の出力を、モータまたはジェネレータによる発電と車両の駆動とに、クラッチで切り替え可能なパワートレイン構造を有する車両についても第1実施形態を適用可能である。すなわち、第1実施形態は、モータの機能及びジェネレータの機能を備えるモータジェネレータと、内燃機関とを利用して車両を駆動可能な車両に適用可能である。
【0065】
このように、第1実施形態では、車両1の要求トルクが、α線上の値と一致する状態、または、α線上の値に近い状態となったときには、ジェネレータ4の要求トルクを特定制御領域(点線233、234間の領域)の上限値または下限値となるように制御する。この場合に、車両1の要求トルクと、その上限値または下限値とに基づいて、内燃機関3の要求トルクを変化させるように制御する。これにより、ジェネレータ4の出力を0またはこれに近い状態とした場合に発生する音振を適切に抑制することができる。また、ドライブトレインからジェネレータ4のロータの慣性が乖離することを防止し、トルク変動の悪化を抑制することができる。
【0066】
[ヒステリシスを設定した場合の車両の動作例]
図3、
図4で示したように、車両1の要求トルクが特定制御領域に入った場合には、要求トルクの変動に応じて制御する制御対象を、ジェネレータ4から内燃機関3に切り替える。また、その後、車両1の要求トルクが特定制御領域外になったときには、要求トルクの変動に応じて制御する制御対象を、内燃機関3からジェネレータ4に切り替えて戻す。このように、車両1の要求トルクが特定制御領域外になる毎に、そのような制御対象の切り替えを行うと、その切り替えがドライバに不快感を与えるおそれがある。また、その切り替えが頻繁に発生するおそれがあるため、コントローラ7の負荷が増加するおそれがある。そこで、要求トルクの変動に応じて制御する制御対象の切り替えが頻繁に発生することを防止するため、ヒステリシスを設定することが考えられる。
図5では、ヒステリシスを設定する例を示す。
【0067】
図5は、ヒステリシスを設定した場合におけるコントローラ7による車両1の駆動制御処理の処理手順の一例を示すフローチャートである。なお、この処理手順は、記憶装置(図示省略)に記憶されているプログラムに基づいて実行される。また、この処理手順は、所定間隔(例えば数ミリ秒程度)で繰り返し実行される。なお、
図5に示す処理は、
図4に示す処理の一部を変形した例であり、
図4に示す処理と共通する部分については、同一の符号を付してその説明の一部を省略する。
【0068】
ステップS501において、コントローラ7は、車両1の要求トルクと内燃機関3のα線上の値との差分値の絶対値が閾値A1未満であるか否かを判定する。その絶対値が閾値A1以上である場合には、ステップS521に進む。
【0069】
ステップS521において、コントローラ7は、前回のステップS501での判定結果、すなわち、車両1の要求トルクと内燃機関3のα線上の値との差分値の絶対値が閾値A1未満であったか否かを判定する。前回の絶対値が閾値A1以上である場合には、ステップS502に進む。一方、前回の絶対値が閾値A1未満である場合には、ステップS522に進む。
【0070】
ステップS522において、コントローラ7は、車両1の要求トルクと内燃機関3のα線上の値との差分値の絶対値が閾値A2未満であるか否かを判定する。その絶対値が閾値A2以上である場合には、ステップS502に進む。一方、その絶対値が閾値A2未満である場合には、ステップS504に進む。ここで、A2は、A1よりも大きい値である。具体的には、A2は、車両1の要求トルクが特定制御領域を超える際に、車両1の要求トルクに対してヒステリシスを持たせるための値であり、A1の半分程度の値[Nm]をA1に加算した値とすることができる。
【0071】
このように、第1実施形態では、車両1の要求トルクがα線上の値の下側から上昇してきた後に特定制御領域に入った場合には、原則として、ジェネレータ4の要求トルクを-Aで固定し、内燃機関3の要求トルクを制御対象とする。この後に、車両1の要求トルクがさらに上昇し、特定制御領域を超えた場合でも、車両1の要求トルクがα線上の値+A2を超えるまでの間は、ジェネレータ4の要求トルクを-AまたはAで固定し、内燃機関3の要求トルクを制御対象とする。
【0072】
このように、
図5に示す例では、車両1の要求トルクが特定制御領域に入った後において、元の制御に戻す際には、一定のヒステリシスを設定する。すなわち、ヒステリシス以下ではジェネレータ4を復帰させないようにする。これにより、ヒステリシス以上の車両1の要求トルクが来たときにジェネレータ4を立ち上げることができるため、押し出し感やトルク抜けをドライバに感じさせない加速を得ることが可能となる。
【0073】
[車両の要求トルクに基づく内燃機関及びジェネレータの制御例]
図5では、ヒステリシスを設定する例を示した。ここで、特定制御領域から抜ける場合に、要求トルクの変動に応じて制御する制御対象を、内燃機関3からジェネレータ4に切り替えることになる。このように内燃機関3及びジェネレータ4の切替制御を同時に行うと、コントローラ7の負荷が増加するおそれがある。また、内燃機関3及びジェネレータ4の双方を同時に過渡的に制御することが困難であることも想定される。そこで、内燃機関3及びジェネレータ4の切替制御を順次行うことが考えられる。
図6では、内燃機関3及びジェネレータ4の切替制御を順次行う例を示す。
【0074】
図6は、車両1の要求トルクに基づく内燃機関3及びジェネレータ4の制御例を示す図である。なお、
図6に示す各グラフは、
図3に示す各グラフに対応するものであり、横軸は時間軸である。
【0075】
図6に示す例では、車両1の要求トルクが特定制御領域に入っている期間を、2つの点線251、252で示す。また、車両1の要求トルクが特定制御領域から抜けた後の制御を実行する期間を、2つの点線252、254で示す。
【0076】
すなわち、
図6の上段には、車両1の要求トルクの遷移例を線L61で簡略化して示す。なお、点線262は、内燃機関3のα線に相当するトルクを示す。また、点線263、265は、内燃機関3のα線を基準値とした場合に、その基準値からの絶対値が閾値A1となる特定制御領域を示す。また、点線264、266は、内燃機関3のα線を基準値とした場合に、その基準値からの絶対値がA2となる領域(ヒステリシスを考慮した特定制御領域)を示す。
【0077】
図6の中段には、車両1の要求トルクに応じた内燃機関3の要求トルクの遷移例を線L71で簡略化して示す。なお、点線272は、内燃機関3のα線に相当するトルクを示す。また、点線273、274は、内燃機関3のα線を基準値とした場合に、その基準値にA1、A2を加算した値を示す。
【0078】
図6の下段には、車両1の要求トルクに応じたジェネレータ4の要求トルクの遷移例を線L81で簡略化して示す。なお、点線282は、ジェネレータ4の要求トルクが0[Nm]である位置を示す。また、点線283、285は、ジェネレータ4の要求トルク0[Nm]を基準値とした場合に、その基準値からの絶対値がA1となる領域を示す。また、点線284、286は、ジェネレータ4の要求トルク0[Nm]を基準値とした場合に、その基準値からの絶対値がA2となる領域を示す。
【0079】
図6に示す例では、車両1の要求トルクが特定制御領域(点線264、266間の領域)に入っている期間(点線251、252間の期間)の制御は、
図3等に示す制御と同様である。ただし、車両1の要求トルクが特定制御領域から抜けた後の切替期間(点線252、254間の期間)の制御が異なるため、以下では、主にその制御方法について説明する。
【0080】
図3に示す例では、車両1の要求トルクが特定制御領域(点線213、214間の領域)から抜けた直後に、要求トルクの変動に応じて制御する制御対象を内燃機関3からジェネレータ4に切り替える。すなわち、
図3に示す例では、内燃機関3及びジェネレータ4の切替制御を同時に行う。
【0081】
これに対して、
図6に示す例では、車両1の要求トルクが特定制御領域(点線264、266間の領域)から抜けた直後には、切替期間(点線252、254間の期間)において、内燃機関3及びジェネレータ4の切替制御を順次行う。具体的には、最初の切替期間(点線252、253間の期間)において、内燃機関3の要求トルクを所定値(点線274で示す値)で固定するとともに、ジェネレータ4の要求トルクを増加させる。そして、次の切替期間(点線253、254間の期間)において、内燃機関3の要求トルクをα線上の値まで低下させるとともに、ジェネレータ4の要求トルクについては、その増加を緩和させてA2を抜けるようにする。
【0082】
このように、最初の切替期間(点線252、253間の期間)では、内燃機関3の要求トルクをα線上の値よりも高い値に固定させるとともに、ジェネレータ4の要求トルクについても増加させる。このため、内燃機関3の要求トルクとジェネレータ4の要求トルクとの合計値が車両1の要求トルクに対して過剰となる。そこで、次の切替期間(点線253、254間の期間)において、内燃機関3の要求トルクをα線上の値まで急激に低下させることにより、内燃機関3の要求トルクとジェネレータ4の要求トルクとの合計値が車両1の要求トルクとなるように制御する。
【0083】
なお、車両1の要求トルクが特定制御領域(点線264、266間の領域)から抜けた直後における切替期間(点線252、253間の期間)における内燃機関3及びジェネレータ4の変動幅としては、ドライバが気にならない程度の変動幅にすることが好ましい。
【0084】
例えば、
図6に示すように、最初の切替期間(点線252、253間の期間)では、車両1の要求トルクに対して過剰となる加速度で車両1を走行させる。その後には、次の切替期間(点線253、254間の期間)において、その加速感がすっと抜けるように、車両1の要求トルクに応じた加速度となるように車両1を走行させる。このように制御することにより、ドライバには、スムーズに加速した後にすっと抜ける感じの操作感覚を与えることができる。また、その加速度についても、所定値(例えば、0.2G以下)で抑えれば、ドライバは、そのGの変化を感じないことが多いため、快適な切替制御を実行することができる。
【0085】
なお、
図6に示す例では、最初の切替期間(点線252、253間の期間)において、内燃機関3の要求トルクを所定値で固定し、次の切替期間(点線253、254間の期間)において、内燃機関3の要求トルクをα線上の値まで低下させる例を示した。ただし、このような制御対象を入れ替えるようにしてもよい。すなわち、最初の切替期間(点線252、253間の期間)において、ジェネレータ4の要求トルクを所定値(-A1)で固定し、次の切替期間(点線253、254間の期間)において、ジェネレータ4の要求トルクをA2まで急激に増加させる制御を実行するようにしてもよい。この場合には、最初の切替期間(点線252、253間の期間)において、内燃機関3の要求トルクを順次低下させ、次の切替期間(点線253、254間の期間)において、その低下を緩和させて内燃機関3の要求トルクがα線上の値となるように制御する。
【0086】
[第1実施形態の作用効果]
第1実施形態に係る車両1の制御方法は、内燃機関3と、内燃機関3の動力または駆動輪6の回転を利用してバッテリ5に供給する電力を発電し、バッテリ5から供給された電力により車両1を駆動するモータ2またはジェネレータ4と、を備え、内燃機関3と、モータ2またはジェネレータ4とのうちの少なくとも1つの動力により駆動される車両1の制御方法である。この制御方法では、内燃機関3と、モータ2またはジェネレータ4とを利用して車両1を駆動する内燃機関直結モードの設定時において、車両1の要求トルクが、内燃機関3のα線(最良燃費線)上の値を含む所定範囲(α線上の値を基準にして設定される所定範囲(α線±A1))内となるときには、モータ2またはジェネレータ4の要求トルクを所定範囲を基準に定められる所定値(A1または-A1)に設定し、車両1の要求トルクに基づいて内燃機関3の要求トルクを制御し、車両1の要求トルクが所定範囲(α線±A1)外となるときには、内燃機関3の要求トルクをα線上の値に設定し、車両1の要求トルクに基づいてモータ2またはジェネレータ4の要求トルクを制御する制御ステップ(ステップS501乃至S514)を備える。
【0087】
このような車両の制御方法によれば、内燃機関直結モードの設定時において、モータ2またはジェネレータ4の出力が0またはこれに近い状態となることを防止できるため、音振を適切に抑制することができる。また、ドライブトレインからモータ2またはジェネレータ4のロータの慣性が乖離することを防止し、トルク変動の悪化を抑制することができる。
【0088】
また、第1実施形態に係る車両1の制御方法では、制御ステップ(ステップS501乃至S514)において、内燃機関直結モードの設定時において、車両1の要求トルクが所定範囲(α線±A1)内となるときには、モータ2またはジェネレータ4の要求トルクを正または負の所定値(A1または-A1)に設定し、その設定された正または負の所定値(A1または-A1)と車両1の要求トルクとに基づいて内燃機関3の要求トルクを制御し、車両1の要求トルクが所定範囲(α線±A1)外となるときには、内燃機関3の要求トルクをα線上の値に設定し、α線上の値と車両1の要求トルクとに基づいて、モータ2またはジェネレータ4の要求トルクを制御する。
【0089】
このような車両の制御方法によれば、内燃機関直結モードの設定時において、モータ2またはジェネレータ4の出力を所定値(A1または-A1)に固定することができるため、音振を適切に抑制することができる。また、ドライブトレインからモータ2またはジェネレータ4のロータの慣性が乖離することを防止し、トルク変動の悪化を抑制することができる。
【0090】
また、第1実施形態に係る車両1の制御方法では、(ステップS507乃至S509)において、内燃機関直結モードが設定され、車両1の要求トルクが所定範囲(α線±A1)内となる場合において、バッテリ5のSOCが第1閾値(C)よりも小さいときには、内燃機関3の要求トルクをα線上の値よりも大きい値(車両1の要求トルク+A1)に設定するとともに、モータ2またはジェネレータ4の要求トルクを負の値(-A1)に設定し、モータ2またはジェネレータ4の発電によりバッテリ5に電力を供給する発電状態とする。
【0091】
このような車両の制御方法によれば、バッテリ5が不足気味のときには、モータ2またはジェネレータ4により発電する発電状態とし、バッテリ5を充電することができる。
【0092】
また、第1実施形態に係る車両1の制御方法では、制御ステップ(ステップS504乃至S506)において、内燃機関直結モードが設定され、車両1の要求トルクが所定範囲(α線±A1)内となる場合において、バッテリ5のSOCが第2閾値(B1)よりも大きいときには、内燃機関3の要求トルクをα線上の値よりも小さい値(車両1の要求トルク-A1)に設定するとともに、モータ2またはジェネレータ4の要求トルクを正の値(A1)に設定し、バッテリ5からモータ2またはジェネレータ4に電力を供給して内燃機関3による駆動をモータ2またはジェネレータ4によりアシストするアシスト状態とする。
【0093】
このような車両の制御方法によれば、バッテリ5が溜まり気味のときには、モータ2またはジェネレータ4により内燃機関3をアシストするアシスト状態とし、バッテリ5を放電させることができる。
【0094】
また、第1実施形態に係る車両1の制御方法では、制御ステップ(ステップS521、S522)において、内燃機関直結モードの設定時において、車両1の要求トルクが所定範囲(α線±A1)内となった後には、車両1の要求トルクが所定範囲(α線±A1)よりも大きな第2所定範囲(α線±A2、ただしA1<A2)外となることを条件に、車両1の要求トルクが所定範囲内となる前の制御に戻す。
【0095】
このような車両の制御方法によれば、ヒステリシスを設定することにより、要求トルクの制御対象の切り替えが頻繁に発生することを防止し、コントローラ7の負荷を軽減させ、ドライバに与える不快感を低減させることができる。
【0096】
第1実施形態に係る車両1の制御システムは、内燃機関3と、内燃機関3の動力または駆動輪6の回転を利用してバッテリ5に供給する電力を発電し、バッテリ5から供給された電力により車両1を駆動するモータ2またはジェネレータ4と、内燃機関3、モータ2及びジェネレータ4を制御するコントローラ7と、を備え、内燃機関3と、モータ2またはジェネレータ4とのうちの少なくとも1つの動力により駆動される車両1の制御システムである。コントローラ7は、内燃機関3と、モータ2またはジェネレータ4とを利用して車両1を駆動する内燃機関直結モードの設定時において、車両1の要求トルクが、内燃機関3のα線上の値を含む所定範囲(α線上の値を基準にして設定される所定範囲(α線±A1))内となるときには、モータ2またはジェネレータ4の要求トルクを所定範囲を基準に定められる所定値(A1または-A1)に設定し、車両1の要求トルクに基づいて内燃機関3の要求トルクを制御し、車両1の要求トルクが所定範囲外となるときには、内燃機関3の要求トルクをα線上の値に設定し、車両1の要求トルクに基づいてモータ2またはジェネレータ4の要求トルクを制御する。
【0097】
このような車両の制御システムによれば、内燃機関直結モードの設定時において、モータ2またはジェネレータ4の出力が0またはこれに近い状態となることを防止できるため、音振を適切に抑制することができる。また、ドライブトレインからモータ2またはジェネレータ4のロータの慣性が乖離することを防止し、トルク変動の悪化を抑制することができる。
【0098】
[第2実施形態]
第2実施形態では、第1実施形態で示した閾値A1を内燃機関3の回転数に基づいて設定する例を示す。すなわち、第1実施形態で示した閾値A1を可変とし、内燃機関3の回転数に基づいて閾値A1を適宜設定する例を示す。なお、第2実施形態は、第1実施形態の一部を変形した例であり、第1実施形態と共通する部分については、図示及びその説明の一部を省略する。
【0099】
[車両の動作例]
図7は、第2実施形態におけるコントローラ7による車両1の駆動制御処理の処理手順の一例を示すフローチャートである。なお、この処理手順は、記憶装置(図示省略)に記憶されているプログラムに基づいて実行される。また、この処理手順は、所定間隔(例えば数ミリ秒程度)で繰り返し実行される。なお、
図7に示す処理は、
図4に示す処理の一部を変形した例であり、
図4に示す処理と共通する部分については、同一の符号を付してその説明の一部を省略する。
【0100】
ステップS531において、コントローラ7は、内燃機関3の回転数を取得し、その回転数に基づいて、閾値A1を設定する。具体的には、コントローラ7は、
図2に示すグラフを用いて、内燃機関3の回転数(横軸)に応じたジェネレータ4のトルク(縦軸)を閾値A1として設定する。すなわち、音振を抑制するための条件を満たすジェネレータ4のトルクを、内燃機関3の回転数に応じて可変に設定することができる。例えば、内燃機関3の回転数が高くなるのに応じて、特定制御領域の幅を狭くすることができるため、車両1の燃費を向上させることができる。
【0101】
[第2実施形態の作用効果]
第2実施形態に係る車両の制御方法は、第1実施形態に係る車両の制御方法であって、内燃機関3のα線上の値を含む所定範囲(α線上の値を基準にして設定される所定範囲)は、内燃機関3の回転数に基づいて可変に設定される。
【0102】
このような車両の制御方法によれば、内燃機関3の回転数に応じた適切な所定範囲を設定できるため、車両1の燃費を向上させることができる。
【0103】
[第3実施形態]
第3実施形態では、バッテリ5のSOCが十分であり、かつ、加速度が小さい場合にEV(Electric Vehicle)モードに移行する例を示す。なお、第3実施形態で示すEVモードは、内燃機関3による発電を停止させ、バッテリ5のみでモータ2を駆動して車両1を走行させる状態を意味するものとする。また、第3実施形態は、第1、第2実施形態の一部を変形した例であり、第1、第2実施形態と共通する部分については、図示及びその説明の一部を省略する。
【0104】
[車両の動作例]
図8は、第3実施形態におけるコントローラ7による車両1の駆動制御処理の処理手順の一例を示すフローチャートである。なお、この処理手順は、記憶装置(図示省略)に記憶されているプログラムに基づいて実行される。また、この処理手順は、所定間隔(例えば数ミリ秒程度)で繰り返し実行される。なお、
図8に示す処理は、
図4に示す処理の一部を変形した例であり、
図4に示す処理と共通する部分については、同一の符号を付してその説明の一部を省略する。
【0105】
ステップS504において、コントローラ7は、バッテリ5のSOCが閾値B1以下であるか否かを判定する。そして、バッテリ5のSOCが閾値B1よりも大きい場合には、ステップS541に進む。
【0106】
ステップS541において、コントローラ7は、バッテリ5のSOCが閾値B2以上であるか否かを判定する。ここで、閾値B2は、閾値B1よりも大きい値である。具体的には、閾値B2は、バッテリ5のSOCが、EVモードに移行して走行しても十分であるか否かを判定するための基準値であり、バッテリの性能に応じて決定される。例えば、閾値B2として、90[%]程度の値を採用することができる。そして、バッテリ5のSOCが閾値B2未満である場合には、ステップS505に進む。一方、バッテリ5のSOCが閾値B2以上である場合には、ステップS542に進む。
【0107】
ステップS542において、コントローラ7は、車両1の加速度が閾値TH1以上であるか否かを判定する。ここで、車両1が所定値以上の加速度で走行している場合、すなわち加速度が高い場合には、ドライバが加速度の変動に気付きにくいことが多い。一方、車両1が所定値未満の加速度で走行している場合、すなわち加速度が低い場合には、ドライバが加速度の変動に敏感なことが多い。このため、車両1の加速度が高い場合には、内燃機関3及びジェネレータ4の出力を切り替える切替制御を実行しても、その切替時の変動が目立たないことが多い。これに対して、車両1の加速度が低い場合には、内燃機関3及びジェネレータ4の出力を切り替える切替制御を実行すると、その切替時の変動が目立つことが多い。そこで、バッテリ5のSOCが十分であり、かつ、加速度が小さい場合には、その切替時の変動をドライバに感じさせないようにするため、EVモードに移行する。また、閾値TH1は、ドライバが変動に敏感となる加速度であるか否かを判定するための基準値であり、車両1の種類や性能に応じて決定される。
【0108】
ステップS543において、コントローラ7は、車両1の走行モードを、内燃機関直結モードからEVモードに切り替える。このように、車両1の要求トルクと内燃機関3のα線上の値との差分値の絶対値が閾値A1未満である場合において、バッテリ5のSOCが十分であり、かつ、加速度が小さい場合には,バッテリ5を使用して放電させるため、EVモードに移行する。
【0109】
[第3実施形態の作用効果]
第3実施形態に係る車両の制御方法は、第1、2実施形態に係る車両の制御方法であって、制御ステップ(ステップS504乃至S506、S541乃至S543)では、内燃機関直結モードの設定時に車両1の要求トルクが所定範囲(
図3に示す点線213、214間の領域、
図6に示す点線263、265間の領域)内となり、かつ、バッテリ5のSOCが第2閾値(B1)よりも大きい場合において、車両1の加速度が加速度閾値(TH1)よりも大きいときには、アシスト状態とする制御を実行し、バッテリ5のSOCが第2閾値(B1)よりも大きい第3閾値(B2)よりもさらに大きくなり、かつ、車両1の加速度が加速度閾値(TH1)よりも小さいときには、内燃機関直結モードから、モータ2またはジェネレータ4の動力のみにより車両1を駆動するEVモードに移行する制御を実行する。
【0110】
このような車両の制御方法によれば、バッテリ5のSOCの状態に応じて適切な走行モードを設定することができる。
【0111】
なお、第1乃至第3実施形態で示した各処理は、各処理手順をコンピュータに実行させるためのプログラムに基づいて実行されるものである。このため、第1乃至第3実施形態は、それらの各処理を実行する機能を実現するプログラム、そのプログラムを記憶する記録媒体の実施形態としても把握することができる。例えば、車両に新機能を追加するためのアップデート作業により、そのプログラムを車両の記憶装置に記憶させることができる。これにより、そのアップデートされた車両に第1乃至第3実施形態で示した各処理を実施させることが可能となる。なお、そのアップデートは、例えば、車両の定期点検時等に行うことができる。また、ワイヤレス通信によりそのプログラムをアップデートするようにしてもよい。
【0112】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【符号の説明】
【0113】
1 車両
2 モータ
3 内燃機関
4 ジェネレータ
5 バッテリ
6 駆動輪
7 コントローラ