(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-15
(45)【発行日】2024-05-23
(54)【発明の名称】同期電動機の制御装置
(51)【国際特許分類】
H02P 21/05 20060101AFI20240516BHJP
H02P 21/22 20160101ALI20240516BHJP
【FI】
H02P21/05
H02P21/22
(21)【出願番号】P 2020185193
(22)【出願日】2020-11-05
【審査請求日】2023-05-31
(73)【特許権者】
【識別番号】000149066
【氏名又は名称】オークマ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】谷川 健斗
(72)【発明者】
【氏名】志津 達哉
【審査官】保田 亨介
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-027898(JP,A)
【文献】特開2014-233109(JP,A)
【文献】特開2002-252947(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P21/00-25/03
25/04
25/10-27/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
同期電動機の制御装置であって、
トルク指令値および前記同期電動機の回転速度に基づいて、仮d軸電流指令値とq軸電流指令値とを算出する電流指令値算出部と、
現在の前記回転速度が、前記同期電動機の共振を誘発する回転速度の範囲内にある場合に、永久磁石の磁気吸引力を低減させるための弱め界磁電流指令値を出力する弱め界磁電流指令値算出部と、
前記弱め界磁電流指令値と前記仮d軸電流指令値とを加算して、d軸電流指令値を算出する弱め界磁電流指令値加算部と、
を備え
、
前記弱め界磁電流指令値算出部は、前記同期電動機の磁極数をP、スロット数をS、円環振動モードの次数をk、固有振動数をf[Hz]、自然数をn、(S×n)±kと磁極数Pの倍数が一致する値をhとした場合、N
*
=f÷h×60を満たす回転速度N
*
を基準として、前記同期電動機の共振を誘発する回転速度の範囲を設定する、
ことを特徴とする同期電動機の制御装置。
【請求項2】
請求項
1に記載の同期電動機の制御装置であって、
前記弱め界磁電流指令値算出部は、前記N
*[min
-1]の±10%の回転速度の範囲を、前記同期電動機の共振を誘発する回転速度の範囲として設定する、ことを特徴とする同期電動機の制御装置。
【請求項3】
請求項1
または2に記載の同期電動機の制御装置であって、
前記弱め界磁電流指令値算出部は、前記永久磁石の磁束をφm、d軸インダクタンスをLd、前記仮d軸電流指令値をid
*とした場合、前記弱め界磁電流指令値id′を、id′=-φm÷Ld-id
*の式に基づいて算出することを特徴とする同期電動機の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書は、同期電動機の制御装置を開示する。
【背景技術】
【0002】
電動機が回転する場合、電動機には、振動が発生する。振動が大きい場合、騒音や故障の原因となることから、電動機は、その振動をできるだけ小さくすることが求められる。
【0003】
電動機が振動する原因は様々である。例えば、ロータのアンバランスやトルクリップルが考えられる。インバータによる速度制御を行う電動機では、ステータとロータ間に発生する電磁力に起因する振動の振動数と、電動機の固有振動数と、が一致する回転速度が存在する場合があり、共振することで大きな振動、および騒音が発生する。一般に電動機が振動する場合は、
図1に示すような円環振動モードで振動が発生する。このような振動を抑制する対策としてステータの外側に電動機の固有振動数を変更するための質量体をとりつけることで電動機の振動を抑制する方法が知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ステータの外側に電動機の固有振動数を変更するための質量体をとりつける方法ではステータの外側に取り付ける質量体が必要であり、また、質量体を取り付けることができる機構が必要となる。
【0006】
本明細書では、電動機に新たな機構を付与することなく、振動の発生を抑制し、騒音を低減することができる制御装置を開示する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本明細書で開示する同期電動機の制御装置は、トルク指令値および前記同期電動機の回転速度に基づいて、仮d軸電流指令値とq軸電流指令値とを算出する電流指令値算出部と、現在の前記回転速度が、前記同期電動機の共振を誘発する回転速度の範囲内にある場合に、永久磁石の磁気吸引力を低減させるための弱め界磁電流指令値を出力する弱め界磁電流指令値算出部と、前記弱め界磁電流指令値と前記仮d軸電流指令値とを加算して、d軸電流指令値を算出する弱め界磁電流指令値加算部と、を備えることを特徴とする。
【0008】
この場合、前記弱め界磁電流指令値算出部は、前記同期電動機の磁極数をP、スロット数をS、円環振動モードの次数をk、固有振動数をf[Hz]、自然数をn、(S×n)±kと磁極数Pの倍数が一致する値をhとした場合、N*=f÷h×60を満たす回転速度N*を基準として、前記同期電動機の共振を誘発する回転速度の範囲を設定してもよい。
【0009】
前記弱め界磁電流指令値算出部は、前記N*[min-1]の±10%の回転速度の範囲を、前記同期電動機の共振を誘発する回転速度の範囲として設定してもよい。
【0010】
また、前記弱め界磁電流指令値算出部において、前記N*が0<N*≦前記同期電動機の最高回転速度の範囲となるように自然数nの範囲を制限してもよい。
【0011】
また、前記弱め界磁電流指令値算出部は、前記永久磁石の磁束をφm、d軸インダクタンスをLd、前記仮d軸電流指令値をid*とした場合、前記弱め界磁電流指令値id′を、id′=-φm÷Ld-id*の式に基づいて算出してもよい。
【発明の効果】
【0012】
本明細書で開示の技術を用いることにより、共振を誘発する回転速度での振動を抑制でき、騒音を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図2】同期電動機の制御装置の一例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
一般に電動機が振動する場合、円環振動モードで振動が発生する。円環振動モードとは、円環の物体が径方向に変形する際のモードであり、
図1に示すようにk=0が膨張収縮、k=1が並進、k=2が楕円、k=3が三角形、k=4が四角形となる。
【0015】
電動機のスロット数をSとした場合、自然数をnとすると、ステータが円環振動モードによって変形する振動数Tは次式(1)で計算できる。
T=(S×n)±k (1)
【0016】
電動機の磁極数をPとすると、ステータは、モータ一回転に対して磁極数Pの振動数で磁気吸引力を受けるため、円環振動モードによって変形する振動数Tと磁極数Pの公倍数となる振動数で円環振動が発生する。この円環振動が発生する振動数と電動機の持つ固有振動数が一致する回転速度で電動機が回転した場合、共振が誘発され、振動が発生する。
【0017】
図2は、同期電動機の制御装置の一例を示すブロック図である。図中の電動機1は、同期電動機であり、インバータ2によって可変電圧、可変周波数の3相交流電圧を印加して駆動している。なお、インバータ2は、直流電源3を入力として3相電圧指令値eu
*,ev
*,ew
*に応じて、電動機1に印加する電圧を制御している。電動機1に流れる3相電流は、電流検出器4によって検出されており、この検出値iu,iv,iwを入力として3相2相変換器5は、演算を行って2相信号id,iqを出力する。上記idは、ステータ巻線に流れる交流電流のうち磁極位置に同期した磁束を発生させる成分を表す直流量であり、「d軸電流検出値」と称する。また、iqは、磁極位置と90度の位相差をもった磁束を発生させる成分を表す直流量であり、「q軸電流検出値」と称する。これらd軸電流検出値idおよびq軸電流検出値iqは、dq軸電圧指令値算出部6に入力される。電流指令値演算部9は、上流側から入力されるトルク指令値Tq
*と、電動機1の回転速度Nとに基づいて、仮d軸電流指令値id
*と、q軸電流指令値iq
*と、を算出する。弱め界磁電流指令値加算部12は、この仮d軸電流指令値id
*と弱め界磁電流指令値id′を加算し、d軸電流指令値(id
*+id′)を算出するが、これについては、後述する。dq軸電圧指令値算出部6は、d軸電流検出値idとd軸電流指令値(id
*+id′)との偏差に基づいてd軸電圧指令値ed
*を、q軸電流検出値とq軸電流指令値iq
*との偏差に応じてq軸電圧指令値eq
*を、それぞれ演算している。さらに、d軸電圧指令値ed
*およびq軸電圧指令値eq
*は、2相3相変換器7によって3相交流電圧指令値eu
*,ev
*,ew
*に変換される。このようにステータに通電される3相交流電流をd軸電流、q軸電流のそれぞれに分配してフィードバック制御することによって、電動機1の発生トルクは、d軸電流指令値(id
*+id′)とq軸電流指令値iq
*とによって任意に制御することが可能となる。
【0018】
次に、電動機1が振動の発生する回転速度で回転しているとき、弱め界磁を発生させる制御について説明する。電動機1の回転速度をN[min-1]、電動機1の共振を誘発する回転速度をN*[min-1]とする。N=N*のときのみ、弱め界磁電流指令値id′を発生させ、dq軸電流指令値算出部6で算出した仮d軸電流指令値id*に足し合せる。ここで、N*[min-1]は、電動機個体ごとに振動センサを取り付け、振動が発生する回転速度を計測してN*[min-1]とする。
【0019】
電動機1に振動センサを取り付けることができない場合は、以下のようにN*[min-1]を算出する。電動機1の磁極数をP、スロット数をS、円環振動モードの次数をk、固有振動数をf[Hz]、自然数をn、(S×n)±kと磁極数Pの倍数が一致する値をhとすると、N*[min-1]の計算式は次式となる。
N*=f÷h×60 (2)
【0020】
弱め界磁電流指令値算出部8に上記式(2)で計算した回転速度をあらかじめ設定しておき、回転速度Nが、N*と一致したとき弱め界磁電流指令値id′を指令し、弱め界磁電流指令値加算部12で仮d軸電流指令値id*に足し合せる。
【0021】
ここで、q軸電圧をvq、巻線抵抗をr、d軸インダクタンスをLd、ロータの角速度をω、永久磁石の磁束をφmとすると、q軸電圧は次式となる。
vq=r×iq+ω×Ld×(id*+id′)+ω×φm (3)
【0022】
よって、弱め界磁電流指令値id′は、次式とする。
id′=-φm÷Ld-id* (4)
【0023】
N*[min-1]の算出に使用する自然数nは0<N*≦前記同期電動機の最高回転速度の範囲となるように自然数nの範囲を制限する。
【0024】
また、一般に、電動機は、個体差があり、固有振動数も個体ごとでばらつきがある。そのため、弱め界磁電流指令値算出部8の計算式で算出したN*[min-1]は±10%の範囲を取ることが望ましい。一方で、回転速度Nが、振動が発生する回転速度N*から十分に乖離しており、現在の回転速度Nでは振動が発生しないと判断された場合、弱め界磁電流指令値算出部8は、弱め界磁電流指令値id′を出力しない、あるいは、id′=0として出力する。したがって、この場合には、仮d軸電流指令値id*が、正式なd軸電流指令値id*となる。
【0025】
上記のように算出したd軸電流およびq軸電流を電動機に印加することで共振の発生を抑え、振動を低減することができる。
【符号の説明】
【0026】
1 電動機、2 インバータ、3 直流電源、4 電流検出器、5 3相2相変換器、6 dq軸電圧指令値算出部、7 2相3相変換器、8 弱め界磁電流指令値算出部、9 電流指令値算出部、10 微分器、11 エンコーダ、12 弱め界磁電流指令値加算部。