(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-15
(45)【発行日】2024-05-23
(54)【発明の名称】工作機械の切削液供給回収装置
(51)【国際特許分類】
B23Q 11/10 20060101AFI20240516BHJP
【FI】
B23Q11/10 E
(21)【出願番号】P 2020196014
(22)【出願日】2020-11-26
【審査請求日】2023-06-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000149066
【氏名又は名称】オークマ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106091
【氏名又は名称】松村 直都
(74)【代理人】
【氏名又は名称】渡邉 彰
(74)【代理人】
【識別番号】100199369
【氏名又は名称】玉井 尚之
(72)【発明者】
【氏名】青山 知史
(72)【発明者】
【氏名】後藤 幸夫
(72)【発明者】
【氏名】瀬川 恒
(72)【発明者】
【氏名】泉井 泰希
【審査官】山本 忠博
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-198772(JP,A)
【文献】特開2018-192536(JP,A)
【文献】特許第2965468(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23Q 11/10-11/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
主軸装置作動中に切削液タンクの切削液を主軸に供給し、主軸装置作動停止時に主軸内残留切削液を切削液タンクに回収するための切削液供給回収経路と、切削液供給回収経路に配された切換弁、エジェクタおよび2つのポンプとを備えた工作機械の切削液供給回収装置であって、
切換弁は、主軸側ポート、主ポンプ側ポートおよびエジェクタ側ポートを有し、切削液供給回収経路の切換弁の主ポンプ側ポートと切削液タンクとの間に、主軸に切削液を供給するための主ポンプが設けられ、切削液供給回収経路のエジェクタの供給側ポートと切削液タンクとの間に、副ポンプが設けられており、
副ポンプによってエジェクタの供給側ポートに切削液タンクの切削液を供給することにより、切換弁のエジェクタ側ポートとエジェクタの吸引側ポートとの間に負圧を発生することができ
、
予め副ポンプからの切削液の吐出をすることにより、事前にエジェクタ側通路が負圧となり、主軸内残留切削液を瞬時に吸引することができる、
工作機械の切削液供給回収装置。
【請求項2】
主軸装置作動中に切削液タンクの切削液を主軸に供給し、主軸装置作動停止時に主軸内残留切削液を切削液タンクに回収するための切削液供給回収経路と、切削液供給回収経路に配された切換弁、エジェクタおよび2つのポンプとを備えた工作機械の切削液供給回収装置であって、
切換弁は、主軸側ポート、主ポンプ側ポートおよびエジェクタ側ポートを有し、切削液供給回収経路の切換弁の主ポンプ側ポートと切削液タンクとの間に、主軸に切削液を供給するための主ポンプが設けられ、切削液供給回収経路のエジェクタの供給側ポートと切削液タンクとの間に、副ポンプが設けられており、
副ポンプによってエジェクタの供給側ポートに切削液タンクの切削液を供給することにより、切換弁のエジェクタ側ポートとエジェクタの吸引側ポートとの間に負圧を発生することができ、
エジェクタの流出ポートが洗浄吐出口に接続されている
、工作機械の切削液供給回収装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マシニングセンタ等の工作機械の切削液供給回収装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の工作機械として、主軸の後部から先端方向に主軸および工具ホルダを貫通するように切削液流通孔を設け、この切削液流通孔を通してスルースピンドル方式で切削液の噴射を行うものが知られている。
【0003】
スルースピンドル方式の切削液供給回収装置を備えた工作機械は、非加工時または工具交換時において、切削液の供給を停止し、エアーを供給することにより主軸および工具ホルダに残留する切削液(主軸内残留切削液)を排出している。
【0004】
しかしながら、自動工具交換装置により工具の交換を行う際、主軸先端から工具ホルダが取り外されるときに、主軸と工具ホルダとの間で切削液流通孔が分断されるため、分断部分から主軸および工具ホルダの切削液流通孔に残留する切削液が漏れ出していた。主軸内残留切削液が漏れ出すと、切削液に混じった微小切粉による噛み込みが生じ不具合が生じるおそれがある。
【0005】
非加工時あるいは工具交換時の工具内の切削液が工具外へ排出されないようにする手段としては、主軸内残留切削液を吸引するものが知られており、特許文献1には、切削液供給回収経路と、切削液供給回収経路に配された流路切換弁、エジェクタおよびポンプとを備えており、ポンプ1つでスルースピンドル吐出および吸引を実施する工作機械の切削液供給回収装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1の工作機械の切削液供給回収装置によると、ポンプ1つでスルースピンドル吐出および吸引を実施しているため、吸引に必要な負圧が発生するまでに時間がかかり、十分に主軸内残留切削液の回収機能を発揮できないという問題があった。また、1つのポンプでスルースピンドル吐出と吸引を行っている為、吸引後の切削液を洗浄に使用すると、その間は、スルースピンドル吐出が行えなくなるという問題もあった。
【0008】
この発明の目的は、極めて短時間で主軸内残留切削液の吸引を行うことができる工作機械の切削液供給回収装置を提供することにある。
【0009】
この発明の他の目的は、吸引後の切削液を洗浄に使用する際の効率に優れた工作機械の切削液供給回収装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明による工作機械の切削液供給回収装置は、主軸装置作動中に切削液タンクの切削液を主軸に供給し、主軸装置作動停止時に主軸内残留切削液を切削液タンクに回収するための切削液供給回収経路と、切削液供給回収経路に配された流路切換弁、エジェクタおよび2つのポンプとを備えた工作機械の切削液供給回収装置であって、流路切換弁は、主軸側ポート、主ポンプ側ポートおよびエジェクタ側ポートを有し、切削液供給回収経路の流路切換弁の主ポンプ側ポートと切削液タンクとの間に、主軸に切削液を供給するための主ポンプが設けられ、切削液供給回収経路のエジェクタの供給側ポートと切削液タンクとの間に、副ポンプが設けられており、副ポンプによってエジェクタの供給側ポートに切削液タンクの切削液を供給することにより、流路切換弁のエジェクタ側ポートとエジェクタとの間に負圧を発生することができ、予め副ポンプからの切削液の吐出をすることにより、事前にエジェクタ側通路が負圧となり、主軸内残留切削液を瞬時に吸引することができるものである。
【0011】
主軸装置作動中には、流路切換弁のエジェクタ側ポートは閉じられ、流路切換弁の主ポンプ側ポートと主軸側ポートとが連通され、これにより、主ポンプによって切削液が主軸に供給される。副ポンプによると、切削液タンクの切削液をエジェクタを介して主軸以外の構成(例えば切粉の洗浄のためのノズルなど)に供給することができる。副ポンプを作動することで、流路切換弁のエジェクタ側ポートとエジェクタとの間に負圧が発生する。
【0012】
流路切換弁のエジェクタ側ポートとエジェクタとの間に負圧が発生している状態で、流路切換弁の主ポンプ側ポートが閉じられて、流路切換弁の主軸側ポートとエジェクタ側ポートとが連通されると、主軸内残留切削液は、負圧によって瞬時にエジェクタ側に送られる。この動作を主軸装置作動停止時に行うことで、極めて短時間で主軸内残留切削液の吸引を行うことができる。
【0013】
この発明において、エジェクタの流出ポートが洗浄吐出口に接続されていることが好ましい。
【0014】
このようにすると、特別な動力装置を必要とせず、エジェクタを介して主軸および工具ホルダから吸引した切削液や副ポンプからエジェクタに供給された切削液をワーク加工室内や段取りステーション、工具マガジン内の切粉洗浄、切削液タンク内の切粉回収に利用することができる。これにより、吸引後の切削液を洗浄に使用した際であっても、スルースピンドル吐出が行えなくなることはなく、吸引後の切削液を洗浄に使用する際の効率が優れたものとなる。
【発明の効果】
【0015】
この発明の工作機械の切削液供給回収装置によれば、主軸への切削液供給用の主ポンプに加えて、エジェクタの負圧発生用の副ポンプが設けられていることで、極めて短時間で主軸内残留切削液の吸引を行うことができる。
【0016】
また、この発明の工作機械の切削液供給回収装置によれば、吸引後の切削液を洗浄等に使用する際の効率が優れたものとできる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は、この発明の工作機械の切削液供給回収装置の1実施形態を示す概略図で、主軸に切削液を供給している状態を示している。
【
図2】
図2は、
図1に示した状態から流路切換弁により流路が切り換えられて、主軸内残留切削液を吸引している状態を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して、この発明の実施の形態を説明する。
【0019】
図1および
図2に示すように、工作機械の切削液供給回収装置(1)は、主軸装置作動中に切削液タンク(3)の切削液をスルースピンドル方式の主軸(2)に供給し、主軸装置作動停止時に主軸内残留切削液を切削液タンク(3)に回収する装置であり、そのための切削液供給回収経路(4)と、切削液供給回収経路(4)に配された流路切換弁(5)、エジェクタ(6)、2つのポンプ(主ポンプ(7)と副ポンプ(8))および洗浄吐出口(9)とを備えている。
【0020】
図示省略するが、主軸(2)および工具ホルダには、切削液を工具の先端からワーク加工領域に向けて吐出させるために、切削液流通孔が設けられている。
【0021】
流路切換弁(5)は、流路方向を切り換えるソレノイド方式の3ポートの電磁弁であり、主ポンプ側ポート(5a)、エジェクタ側ポート(5b)および主軸側ポート(5c)を有しており、主ポンプ側ポート(5a)と主軸側ポート(5c)とを連通して、エジェクタ側ポート(5b)を閉じる第1の流路形態(
図1参照)と、エジェクタ側ポート(5b)と主軸側ポート(5c)とを連通して、主ポンプ側ポート(5a)を閉じる第2の流路形態(
図2参照)とに切り換えることができる。流路切換弁(5)は、図示しない制御装置に接続されており、制御装置によって流路の切り換えが行われている。
【0022】
エジェクタ(6)は、周知の流体排出装置であり、構成の図示は省略するが、中空状の本体内に本体と同心のノズルが形成されており、本体の一端に形成されてノズルの入口に通じる供給側ポート(6a)と、本体の他端に形成されてノズルの出口に通じる出口側ポート(6b)と、本体の周壁に形成されてノズルの外周を臨む吸引側ポート(6c)とを有している。
【0023】
エジェクタ(6)によると、ノズルから第1の流体(この実施形態では、副ポンプ(8)から吐出される切削液)を高速に噴出し、噴流の巻き込み作用により負圧を発生させて、この負圧により第2の流体(この実施形態では、主軸内残留切削液)を吸引、排出することができる。
【0024】
主ポンプ(7)は、モータに駆動されて切削液タンク(3)の切削液をスルースピンドル方式の主軸(2)に吐出するもので、流路切換弁(5)、主軸側通路(4b)およびロータリージョイント(図示略)等を介して主軸(2)の切削液流通孔に連通している。切削液タンク(3)から供給された切削液は、切削液流通孔の後端から先端に流通して、工具先端からワーク加工領域に噴出される。
【0025】
副ポンプ(8)は、モータに駆動されて切削液タンク(3)の切削液を洗浄吐出口(9)に吐出するもので、副ポンプ側通路(4d)、エジェクタ(6)および洗浄ノズル側通路(4e)を介して洗浄吐出口(9)に連通している。副ポンプ(8)は、エジェクタ(6)に対しては、負圧を発生するための流体として切削液を吐出する機能を有している。
【0026】
洗浄吐出口(9)からは、例えば、切粉の洗浄のためにワーク加工室に設置されている切粉洗浄ノズルに切削液が供給され、主軸内残留切削液を切削液タンク(3)に回収する前に洗浄吐出口(9)に供給することで、主軸内残留切削液を利用して洗浄を行うことができる。洗浄吐出口(9)からの切削液は、ワーク加工室内の切粉洗浄のほか、段取りステーション、工具マガジン内の切粉洗浄、切削液タンク内の切粉回収などに利用することができる。洗浄吐出口(9)へは副ポンプ(8)から切削液タンク(3)の切削液を供給することができ、主軸内残留切削液の回収中でない時でも、切粉の洗浄等を行うことができる。
【0027】
切削液供給回収経路(4)は、主ポンプ(7)と流路切換弁(5)の主ポンプ側ポート(5a)とを連通する主ポンプ側通路(4a)と、流路切換弁(5)の主軸側ポート(5c)と主軸(2)とを連通する主軸側通路(4b)と、流路切換弁(5)のエジェクタ側ポート(5b)とエジェクタ(6)の吸引側ポート(6c)とを連通するエジェクタ側通路(4c)と、副ポンプ(8)とエジェクタ(6)の供給側ポート(6a)とを連通する副ポンプ側通路(4d)と、エジェクタ(6)の出口側ポート(6b)と洗浄吐出口(9)とを連通する洗浄ノズル側通路(4e)と、洗浄吐出口(9)と切削液タンク(3)とを連通する切削液タンク側通路(4f)とからなる。
【0028】
次に、この実施形態の工作機械の切削液供給回収装置(1)の作用を説明する。
【0029】
工作機械がワークの切削加工を行う際、まず、
図1に示すように、流路切換弁(5)は、励磁されて主ポンプ側ポート(5a)と主軸側ポート(5c)とが連通する第1の流路形態となる。これにより、切削液タンク(3)内の切削液は、主ポンプ(7)により、主ポンプ側通路(4a)、流路切換弁(5)および主軸側通路(4b)を介して主軸(2)の切削液流通孔に供給される。切削液流通孔に供給された高圧の切削液は、主軸(2)および工具ホルダを貫通してワークの加工領域に向けて噴出される。
【0030】
この際、副ポンプ(8)からの切削液の吐出については、行ってもよく、行わなくてもよい。切削液を吐出することで、洗浄吐出口(9)への洗浄用切削液が供給され、エジェクタ(6)の吸引側ポート(6c)に負圧が発生する。
【0031】
所定の加工プロセスが終了すると、主軸(2)の回転が停止され、工作機械が工具の交換動作を開始する。
【0032】
このとき、
図2に示すように、流路切換弁(5)が消磁されて、エジェクタ側ポート(5b)と主軸側ポート(5c)とが連通する第2の流路形態となる。副ポンプ(8)からの切削液の吐出によって、エジェクタ(6)の吸引側ポート(6c)に負圧が発生する。この負圧により、主軸(2)および工具ホルダの切削液流通孔内の主軸内残留切削液は、吸引側ポート(6c)からエジェクタ(6)に吸引され、エジェクタ(6)の出口側ポート(6b)および洗浄ノズル側通路(4e)を介して洗浄吐出口(9)に供給される。また、切削加工時に、予め副ポンプ(8)からの切削液の吐出をしていた場合、事前にエジェクタ側通路(4c)が負圧となり、工作機械が工具の交換動作時に流路切換弁(5)が消磁された瞬間に主軸(2)および工具ホルダの切削液流通孔内の主軸内残留切削液を瞬時に吸引側ポート(6c)からエジェクタ(6)に吸引することが可能となる。
【0033】
主軸(2)の切削液流通孔から切削液が漏れるのは、切削液流通孔に切削液が残留しているときに工具ホルダを主軸(2)から取り外す場合や、工具を交換する場合であるので、主軸内残留切削液が主軸(2)から除去された後は、工具ホルダの取り外しや工具の交換によって、切削液が漏れ出すことはない。
【0034】
副ポンプ(8)がエジェクタ(6)を介して洗浄吐出口(9)に接続されていることにより、主軸(2)および工具ホルダの切削液流通孔から吸引した主軸内残留切削液や副ポンプ(8)から負圧発生用にエジェクタ(6)に供給された切削液を切粉の洗浄に利用することができる。主軸内残留切削液を切削液タンク(3)に回収する前に洗浄吐出口(9)に供給することで、主軸内残留切削液を有効に利用することができる。また、副ポンプ(8)によって切削液を洗浄吐出口(9)に供給することで、主ポンプ(7)から切削液を洗浄吐出口(9)に供給することが不要となり、必要なときにいつでも主ポンプ(7)から主軸(2)に切削液の供給を行うことができる。
【0035】
こうして、この実施形態の工作機械の切削液供給回収装置(1)によると、極めて短時間で残留切削液の吸引を行うことができるとともに、副ポンプ(8)が負圧発生用および洗浄用の両方の切削液供給を行うことで、切削液を洗浄に使用する際の効率に優れた切削液供給回収装置が得られている。
【0036】
なお、上記特許文献1記載の工作機械の切削液供給回収装置は、複数の弁を使用しているが、本願発明の工作機械の切削液供給回収装置(1)では、弁を1つに集約しているので、部品点数を削減することもできる。
【符号の説明】
【0037】
(1):切削液供給回収装置
(2):主軸
(3):切削液タンク
(4):切削液供給回収経路
(5):流路切換弁
(5a):主ポンプ側ポート
(5b):エジェクタ側ポート
(5c):主軸側ポート
(6a):供給側ポート
(6):エジェクタ
(6c):吸引側ポート
(7):主ポンプ
(8):副ポンプ
(9):洗浄吐出口