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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-15
(45)【発行日】2024-05-23
(54)【発明の名称】チタンめっき材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C25D 3/66 20060101AFI20240516BHJP
   C25D 3/54 20060101ALI20240516BHJP
   C25D 5/26 20060101ALI20240516BHJP
   C25D 5/18 20060101ALI20240516BHJP
【FI】
C25D3/66
C25D3/54
C25D5/26 Q
C25D5/26 A
C25D5/18
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020215821
(22)【出願日】2020-12-24
(65)【公開番号】P2022101307
(43)【公開日】2022-07-06
【審査請求日】2023-07-26
(73)【特許権者】
【識別番号】390007227
【氏名又は名称】東邦チタニウム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】中條 雄太
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 大輔
【審査官】祢屋 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/017148(WO,A1)
【文献】特開平04-088189(JP,A)
【文献】特開平04-272197(JP,A)
【文献】国際公開第2018/216320(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第103060862(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 3/66
C25D 3/54
C25D 5/26
C25D 5/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
チタンを含有する陽極及び鋼製の陰極を用いるチタンめっき材の製造方法であって、
溶融塩浴中で前記陰極への通電と休止を繰り返すパルス電解により、前記陰極の表面上にチタンめっき層を形成するめっき処理工程を含み、
前記溶融塩浴が溶融塩としてMgCl2、NaCl、KCl、CaCl2及びLiClから選ばれる1種以上を80質量%以上含むとともにチタン塩化物を含み、且つ該溶融塩浴中に存在するチタンイオン濃度(A)と該溶融塩浴中に存在する金属イオンの合計金属イオン濃度(B)との割合(A/B)が3mol%以上であり、
前記めっき処理工程において、前記通電中の溶融塩浴の温度が350℃~770℃であり、該通電及び前記休止からなる1周期の前記陰極の平均電流密度が0.15A/cm2~0.50A/cm2である、チタンめっき材の製造方法。
【請求項2】
前記陰極が炭素鋼製又はステンレス鋼製である、請求項1に記載のチタンめっき材の製造方法。
【請求項3】
前記チタン塩化物が二塩化チタン及び三塩化チタンから選ばれる1種以上である、請求項1又は2に記載のチタンめっき材の製造方法。
【請求項4】
前記割合(A/B)が6mol%以上である、請求項1~3のいずれか一項に記載のチタンめっき材の製造方法。
【請求項5】
前記陽極は、塩化マグネシウム含有量が1質量%以上のスポンジチタンを更に含有する、請求項1~4のいずれか一項に記載のチタンめっき材の製造方法。
【請求項6】
前記陽極がチタン製である、請求項1~4のいずれか一項に記載のチタンめっき材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チタンめっき材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、建材、自動車、家電等の鋼が使用される分野において、耐腐食性に優れた材料の要求はますます強くなりつつある。チタンは耐腐食性に優れ、耐久性に富んだ材料である。このようなチタンは、鋼製等の被めっき材の表面に施すめっき処理に使用することが検討されてきた。
【0003】
チタンのめっき処理としては、溶融塩浴中におけるめっき法が知られている。例えば、非特許文献1には、LiF-NaF-KFにK2TiF6を添加しためっき浴を用いてNi及びFeの基材表面にチタンめっき層を形成する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】A.ROBIN et.al.,“ELECTROLYTIC COATING OF TITANIUM ONTO IRON AND NICKEL ELECTRODES IN THE MOLTEN LiF+NaF+KF EUTECTIC”,Journal of Electroanal.Chem.,230(1987),pp.125-141
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記非特許文献1によれば、溶融塩チタンめっき液組成物から表面が平滑なチタンめっき層を得るためには、溶融塩チタンめっき液組成物中にフッ化物イオンが存在することが重要であると理解される。しかしながら、上記非特許文献1に記載された製造方法では、めっき処理した後、そのチタンめっき層の表面上に金属フッ化物が付着する。この付着した金属フッ化物を水洗浄した場合、有害物であるフッ化水素或いはフッ化水素水が発生する。また、フッ化リチウムが水に難溶性を示すため、チタンめっき層からフッ化リチウムを除去するのに多量の水を利用することとなる。このような事情を踏まえ、作業者及び環境への負荷を低減するため、非特許文献1に記載の製造方法は、フッ素を含有しない溶融塩を用いて更に改良することが望まれていた。
さらに、鋼製の被めっき材の表面にチタンめっき層が形成されたチタンめっき材には、チタンめっき層がある程度の厚さを有することや、チタンめっき層と被めっき材との所要の密着性が確保されていることも要求されうる。
【0006】
そこで、本発明の一実施形態においては、表面平滑性に優れ且つ比較的厚いチタンめっき層を有し、被めっき材とチタンめっき層との密着性が良好なチタンめっき材の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
鋼には、安価で強度に優れる反面、錆びやすいものがある。そこで、鋼製の被めっき材の表面に密着性が高く表面平滑性に優れたチタンめっき層を形成できれば、良好なチタンめっき材になると考えられる。
本発明者は鋭意検討した結果、表面平滑性に優れ且つ比較的厚いチタンめっき層を有し、被めっき材とチタンめっき層との密着性が良好なチタンめっき材の製造条件を見出して、更に検討を重ねて本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、本発明は、一側面において、チタンを含有する陽極及び鋼製の陰極を用いるチタンめっき材の製造方法であって、溶融塩浴中で前記陰極への通電と休止を繰り返すパルス電解により、前記陰極の表面上にチタンめっき層を形成するめっき処理工程を含み、前記溶融塩浴が溶融塩としてMgCl2、NaCl、KCl、CaCl2及びLiClから選ばれる1種以上を80質量%以上含むとともにチタン塩化物を含み、且つ該溶融塩浴中に存在するチタンイオン濃度(A)と該溶融塩浴中に存在する金属イオンの合計金属イオン濃度(B)との割合(A/B)が3mol%以上であり、前記めっき処理工程において、前記通電中の溶融塩浴の温度が350℃~770℃であり、該通電及び前記休止からなる1周期の前記陰極の平均電流密度が0.15A/cm2~0.50A/cm2である、チタンめっき材の製造方法である。
【0009】
本発明に係るチタンめっき材の製造方法の一実施形態において、前記陰極が炭素鋼製又はステンレス鋼製である。
【0010】
本発明に係るチタンめっき材の製造方法の一実施形態において、前記チタン塩化物が二塩化チタン及び三塩化チタンから選ばれる1種以上である。
【0011】
本発明に係るチタンめっき材の製造方法の一実施形態において、前記割合(A/B)が6mol%以上である。
【0012】
本発明に係るチタンめっき材の製造方法の一実施形態において、前記陽極は、塩化マグネシウム含有量が1質量%以上のスポンジチタンを更に含有する。
【0013】
本発明に係るチタンめっき材の製造方法の一実施形態において、前記陽極がチタン製である。
【発明の効果】
【0014】
本発明の一実施形態によれば、表面平滑性に優れ且つ比較的厚いチタンめっき層を有し、被めっき材とチタンめっき層との密着性が良好なチタンめっき材を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明に係るチタンめっき材の製造方法の一実施形態で用いられる電解装置の内部構造の一例を示す概略断面図である。
図2】チタンめっき材の密着性を測定するために剥離試験機を用いる測定方法の一例を示す概略断面図である。
図3A】本発明に係るチタンめっき材の製造方法の一実施形態で用いられる金属製還元反応容器の内部構造の一例を示す概略断面図である。
図3B図3Aの切断線X-Xにおける模式的な概略断面図である。
図4A】実施例1~4及び比較例1~4における電解装置の内部構造を示す概略断面図である。
図4B図4Aの切断線Y-Yにおける模式的な概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は以下に説明する各実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、各実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素からいくつかの構成要素を削除して発明を形成してもよい。
【0017】
[チタンめっき材の製造方法]
本発明に係るチタンめっき材の製造方法の一実施形態は、チタンを含有する陽極及び鋼製の陰極を含む容器を用いるものであって、めっき処理工程を含む。前記一実施形態は、準備工程と、浸漬工程と、洗浄工程とを更に含んでよい。なお、本明細書においては、準備工程、浸漬工程、めっき処理工程、洗浄工程の順に説明するものであるが、この順に実施することに限定されるものではない。ここで、チタンめっき材とは、鋼製の陰極として使用した被めっき材の表面にチタンめっき層が形成されたものをいう。
以下、図1に示す電解装置100を例として各工程について好ましい態様を説明する。なお、本発明は、このような電解装置を用いることに限定されるものではない。
【0018】
<準備工程>
準備工程においては、電解装置100の容器110内に、チタン塩化物を含む溶融塩からなる溶融塩浴Bfを貯留する。より具体的には、容器110内に浴成分を投入した後、容器110を加熱してその溶融状態を維持して溶融塩浴Bfとし、その溶融塩浴Bfにチタン塩化物を更に投入することとしてよい。
【0019】
(容器)
電極等を格納及び取外しするために、容器110は一部が開口として開放される構成であることが多い。開口をどこに設定するかは装置構成に鑑み適宜決定すればよい。外部からの水分や酸素の混入を防ぐことで電解中に、チタン酸化物が生成されないため、めっき処理工程中は容器110の前記開口は密閉されることが好ましい。
容器110の材質としては、溶融塩に含まれる金属塩化物に対する耐腐食性を有するものとして、例えばニッケル、レンガ等が挙げられる。例えば、容器110がニッケル製である場合、ニッケル製の容器は耐熱性及び耐腐食性に優れるので、パルス電解中に、高温の溶融塩浴Bfに含まれる金属塩化物に起因する腐食等が生じにくい。また、当該レンガは、主としてAl23等の耐火レンガその他の適切な材料からなるものであればよい。
また、容器110として後述する金属製還元反応容器を用いる場合、金属製還元反応容器が陰極120としての役割を担うので、当該金属製還元反応容器は、好適な陰極120の材質と同様である。すなわち、当該容器110は電解時に溶融塩浴Bfを貯留する役割の他に、陰極120としての役割も有する場合がある。
【0020】
(溶融塩)
溶融塩浴Bfは溶融塩として、MgCl2、NaCl、KCl、CaCl2及びLiClから選ばれる1種以上を80質量%以上で含む。さらに、溶融塩浴Bfは溶融塩としてチタン塩化物を含む。MgCl2、NaCl、KCl、CaCl2及びLiClから選ばれる1種以上の含有量の下限側として、溶融塩浴Bf中の溶融塩の合計濃度は、90質量%以上であってよい。また、MgCl2、NaCl、KCl、CaCl2及びLiClから選ばれる1種以上及びチタン塩化物からなる溶融塩浴Bfとしてもよい。
なお、水の分解電圧がチタン塩化物の分解電圧よりも低いので、溶融塩浴Bf中に意図的に水を添加しないことが望ましい。
【0021】
(チタン塩化物)
チタン塩化物としては低級チタン塩化物が好ましく、例えば二塩化チタン及び三塩化チタンから選ばれる1種以上を含むことが挙げられる。
このとき、該溶融塩浴Bf中に存在するチタンイオン濃度(A)と該溶融塩浴Bf中に存在する金属イオン濃度の合計金属イオン濃度(B)との割合(A/B)が3mol%以上である。そうすることで、陰極120上に形成するチタンめっき層を適切に厚く形成できる。また、当該割合(A/B)は、陰極120上に形成するチタンめっき層の形成促進の観点から、6mol%以上であることが好ましく、8mol%以上であることがより好ましい。また、当該割合は、上限側として例えば15mol%以下である。
なお、本発明において、「割合(A/B)」は、mol基準で、上記(B)に対する(A)の割合を百分率で表したものである。
この時、溶融塩浴中に例えばMgCl2、NaCl、KCl、CaCl2、LiCl、TiCl2及びTiCl3が存在している場合、上記合計金属イオン濃度(B)は、溶融塩浴から10mL採取しICPでMg濃度、Na濃度、K濃度、Ca濃度、Li濃度、Ti濃度を計測して、これらの合計濃度を求める。この合計濃度を上記合計金属イオン濃度(B)とし、前記Ti濃度をチタンイオン濃度(A)として、「割合(A/B)」を求める。
【0022】
<浸漬工程>
浸漬工程においては、溶融塩及びチタン塩化物を含む溶融塩浴Bfに陽極122と陰極120とを浸漬させる。なお、陽極122と陰極120は導線LWにそれぞれ接続され、電源Pを介して電気的に接続される。
【0023】
(陽極)
陽極122は、チタンを含有する。該陽極中のチタンはめっき処理工程中に消耗される。該陽極122中のチタン含有量としては、例えば95質量%以上であり、例えば98質量%以上である。中でも、チタンは99.99質量%以上の純チタンであることが好ましく、純チタンJIS1種~4種の成分規定を満たしていることがより好ましい。一方で、陽極122は、塩化マグネシウム含有量が1質量%以上のスポンジチタンを含有する場合がある。
陽極122の形状としては、例えば円筒状、円柱状、角状、板状、シート状及び粒状等が挙げられる。また、通電可能な籠部材にスポンジチタン等のチタン材を格納してその全体を陽極とすることもできる。
【0024】
(陰極)
陰極120はチタンめっき層が形成される被めっき材であり、鋼製である。鋼の具体例としては、例えば炭素鋼及びステンレス鋼等が挙げられる。一実施形態においては、炭素鋼等のように錆びやすい鋼の表面にチタンでめっき処理することで、前記炭素鋼の機械的特性と耐腐食性とを兼ねたチタンめっき材となり得る。さらに、当該チタンめっき材は、チタンめっき層の密着性が高い。
陰極120の形状としては特に限定されずその用途等に鑑み適宜決定でき、例えば円筒状、円柱状、角状、板状、シート状及び粒状等が挙げられる。
溶融塩浴Bfへの陰極120の浸漬面積は容器の容量等により適宜調整すればよく、例えば400000cm2以下である。また、当該陰極120の浸漬面積は、下限側として典型的には78cm2以上であり、より典型的に1000cm2以上である。
【0025】
(電極間距離)
陽極122と陰極120との電極間距離は電極のサイズや溶融塩浴を使用するといった装置条件等を鑑み適宜決定すればよい。敢えて一例を挙げると、陰極120の表面上にチタンめっき層を効率的に形成する観点から、例えば100cm以下である。当該電極間距離は、上限側として例えば50cm以下である。また、当該電極間距離は、パルス電解中に短絡の発生を抑制するという観点から、下限側として典型的に1cm以上である。
【0026】
なお、容器110内に陽極122と陰極120とを予め配置して、チタン塩化物を含む所定量の溶融塩に対応する固体材料を投入した後、容器110を加熱し該固体材料を溶解させて溶融塩浴Bfにして、該溶融塩浴Bfに陽極122と陰極120とを浸漬させてもよい。すなわち、本発明では、準備工程と浸漬工程を行う順序については特に問わない。
【0027】
<めっき処理工程>
めっき処理工程では、容器110に貯留された溶融塩浴Bf内に浸漬した陰極120への通電と休止を繰り返すパルス電解により、陰極120の表面上にチタンめっき層を形成する。このとき、一実施形態においては、通電中の溶融塩浴Bfの温度が350℃~770℃であり、該通電及び休止からなる1周期の陰極120の平均電流密度が0.15A/cm2~0.50A/cm2である。これにより、陰極120の表面上には、表面平滑性に優れ、ある程度厚い所定の厚さを有し、密着性が高いチタンめっき層が形成される。
【0028】
(パルス電解)
一実施形態においては、陰極120への通電と休止を繰り返すパルス電解によりめっき処理を実施する。本発明者は、電解装置において陰極120へ通電し続け電解を実施したところ、チタンめっき層の表面上に複数の球状のデンドライトが確認された。そのため、チタンめっき層の表面平滑性が劣っていた。
これに対し、本発明者は、陰極への通電と休止を繰り返すパルス電解を行うことにより、表面平滑性に優れたチタンめっき層を形成できることを見出した。この理由としては、陰極への通電と休止を繰り返すパルス電解を実施することで、休止中に溶融塩浴Bf中のチタンイオンが陰極周辺に拡散する時間を確保し、通電時に電析の核が適切に陰極上に発生・成長したためと考えられる。陽極の消耗により溶融塩浴中にチタンイオンが供給されるが、陰極近傍まで移動するには時間がかかる。このような状況で連続的に通電すると、陰極近傍のチタンイオンが早期に消費され陰極近傍でチタンイオンの欠乏が生じうる。パルス電解では通電と休止を繰り返すので、陰極近傍におけるチタンイオンの消費と供給のバランスがよくなると考えられる。
【0029】
電解開始時から電解終了時までの期間は、陰極120の通電及び休止からなる1周期の平均電流密度が0.15A/cm2~0.50A/cm2である。当該陰極120の平均電流密度は下限側としては、0.20A/cm2以上であることがより好ましく、0.25A/cm2以上であることが更に好ましい。また、当該陰極120の平均電流密度は上限側としては、0.45A/cm2以下であることが好ましい。
【0030】
1周期の通電時間は、チタンめっき層の表面平滑性の確保の観点から、例えば3秒以下であり、例えば1.5秒以下である。
1周期の休止時間は、デンドライトの発生を抑制しつつ且つチタンめっき層を所望の厚さにする観点から、例えば7.5秒以下であり、例えば4.5秒以下である。
また、1周期の通電時間(Ton)と、1周期の通電時間及び休止時間(Toff)の合計時間(Ton+Toff)との割合(Ton/(Ton+Toff))は、0.10~0.85である。当該割合が下限側としては、0.25以上であることがより好ましく、0.50以上であることが更に好ましい。また、当該割合が上限側としては、0.75以下であることがより好ましく、0.65以下であることが更に好ましい。
【0031】
(溶融塩浴の温度)
通電中の溶融塩浴Bfの温度は、溶融塩を溶融状態にするという観点から、350℃~770℃である。当該通電中の溶融塩浴Bfの温度は、下限側として、400℃以上であることが好ましく、450℃以上であることがより好ましい。また、当該通電中の溶融塩浴Bfの温度は、上限側として、700℃以下であることが好ましく、600℃以下であることがより好ましい。
【0032】
パルス電解後、チタンめっき層が形成された陰極を取り出す。
【0033】
<洗浄工程>
洗浄工程は、チタンめっき層が形成された陰極を取り出した後、該チタンめっき層の表面上に付着している溶融塩浴Bfの固化物を水洗等で洗浄して除去する。水洗等で溶融塩浴Bfの固化物を溶解させ、その後乾燥してチタンめっき材を得ればよい。なお、水洗方法としては公知のものでよく、例えば超音波洗浄及び流水洗浄等が挙げられる。
【0034】
<チタンめっき材の特性>
(表面平滑性)
上記製造方法で得られるチタンめっき材においては、下記手順に従って測定される、チタンめっき層の最小厚さと最大厚さとの差が、100μm以下であることが好ましく、50μm以下であることがより好ましい。
測定手順を以下に説明する。
(1)チタンめっき材をチタンめっき層の厚さ方向に沿って切断する。
(2)チタンめっき材の切断面を厚さ方向1.0mm×長手方向1.5mmの視野サイズにてSEMで断面観察し、チタンめっき層の表面からチタンめっき層が形成された陰極120の表面との距離を測定する。このとき、例えば加速電圧15kV、250倍の倍率で断面観察する。なお、チタンめっき材が薄い場合は上記厚さ方向のサイズを適宜調節してよい。
(3)上記(2)の操作を異なる5視野について行う。
(4)各視野について、上記長手方向に沿って順次チタンめっき層の厚さを測定し、チタンめっき層の厚さの最小値と最大値をそれぞれ抽出する。
(5)チタンめっき層の最大厚さからチタンめっき層の最小厚さを差し引くことで、チタンめっき層の最小厚さと最大厚さとの差を求める。5視野の平均値を上記表面平滑性の評価に使用する。
【0035】
(めっき厚)
当該チタンめっき材においては、下記手順に従って測定される、陰極120の表面上に形成されるチタンめっき層の厚さが、30μm以上であることが好ましく、60μm以上であることがより好ましい。なお、陰極120の表面上に形成されるチタンめっき層の厚さは、上限側として、典型的に200μm以下である。
測定手順を以下に説明する。
(1)チタンめっき材をスライシングマシンで所定の大きさに切断して、試験片とする。前処理として、適当な容器内に試験片の観察面(断面)が下方を向くように、該観察面の垂直な方向に該試料を固定する。次いで、観察面を研磨した後、細かい研磨キズが生じた観察面を均一な平滑面にするために、該観察面にイオンビームを照射する。次いで、電子線マイクロアナライザ(例:SUPERPROBE JXA-8100、日本電子株式会社製)を用いて、EPMA分析によりチタンめっき層の厚さ方向に観察面のうち1視野(50μm×50μm(面積2500μm2)、分析倍率1600倍)を合計3視野測定することで元素マッピングが得られる。なお、この視野は後述する「Ti含有量が90質量%になった点」を見つけるためのものである。
なお、測定条件として、加速電圧を15kV、照射電流は5×10-8~1×10-7Aの範囲内という条件を採用する。
上記Tiの含有量とは、上記電子線マイクロアナライザを用いて測定した各金属の測定結果から、下記式(1)で算出したものである。
(Tiの含有量)(質量%)=[(Tiの含有量)/{(Tiの含有量)+(Ti以外の金属の含有量)}]×100・・・式(1)
(2)上記(1)で得られた元素マッピングに基づき、観察面のチタンめっき層表面側からチタンめっき層の深さ方向(厚さ方向)に順次Ti含有量の測定を行う。このとき、チタンめっき層表面にデンドライトが生成している場合、このデンドライトは、測定対象としないこととする。
(3)上記測定によりTi含有量が90質量%になった点からチタンめっき層の表面までの長さをチタンめっき層の厚さと判断する。各測定結果の平均値を求め、該平均値をチタンめっき層の厚さとする。
【0036】
(密着性)
上記製造方法で得られるチタンめっき材においては、下記手順に従って剥離試験機で測定される、チタンめっき層の剥離操作時の単位幅あたりの荷重が、2.0N/mm以上であることが好ましく、5.0N/mm以上であることがより好ましい。
次に、剥離試験機を用いる測定方法の一例を示す。
(1)チタンめっき材から、その一部である70mm×10mmの試料を切断して採取する。
(2)図2に示すように、90°剥離試験機のステージ127(水平面)上に試料であるチタンめっき材125を載置し、チタンめっき材125の端部からチタンめっき層126を10mm剥がし、その剥がした部分をチャックで挟む。
(3)ステージ127上のチタンめっき材125の端部と、その端部と反対側となる陰極120の端部をそれぞれ固定部材128、129で固定する。
(4)チャックを鉛直上方Vに20mm/minで上昇させ、ステージ127を水平方向Hに、20mm/minで移動させる。このとき、剥離強度は、下記式(2)に従って求める。なお、図2の例では電極である陰極120の表面と水平方向が一致しているため、チタンめっき層126を剥離する方向と陰極120の表面とのなす角は、陰極120の表面から測って90°である。
剥離強度(N/mm)=(剥離開始後5mm~25mmの変位における平均荷重(N))/(ステージを移動する方向に垂直な方向に平行な該チタンめっき層の幅(mm))・・・式(2)
【0037】
(別の実施形態)
別の実施形態においては、先述の実施形態と異なり、炭素鋼を内張りしたクラッド鋼製製又はステンレス鋼製の金属製還元反応容器を陰極として用いる。
以下、図3A、Bに示す金属製還元反応容器220を用いるチタンめっき材の製造方法の一例を説明する。
まず、金属製還元反応容器220内に、複数の孔222aを有する導電性の籠222を配置する。籠222内には、導電性の台座223を設置する。台座223上には、スポンジチタンStが設けられている。このとき、金属製還元反応容器220の内面と陽極となる籠222との最短距離が例えば50~500mmの範囲内にする。陽極の配置態様はこれに限定されず適宜選択可能であり、例えば金属製還元反応容器220の内面に沿って湾曲した板状陽極を複数枚設置して良いし、円筒状の陽極を設置して良い。
金属製還元反応容器220に浴成分を投入する。なお、この段階では浴成分は塩化マグネシウムのみを含むこととしてよい。金属製還元反応容器220の上方開口を蓋225で閉じた後、金属製還元反応容器220を炉で加熱することで該金属製還元反応容器220内の浴成分を溶融させる。次いで、該浴成分の溶融物内に所望とする量のチタン塩化物(例えば、2価、3価の低級塩化物)を投入することで、溶融塩浴Bfとする。このとき、溶融塩浴Bf中に陽極が浸漬している。次いで、陽極は陰極である金属製還元反応容器220と導線LWを介して電気的に接続させる。パルス電解が開始されると、通電性の籠222及び台座223を介してスポンジチタンStが溶融塩浴Bf中に溶け出し、チタンイオンが籠222の孔222aを介して陰極である金属製還元反応容器220の内面に移行し、該金属製還元反応容器220の内面がめっき処理される。当該パルス電解中、通電中の溶融塩浴Bfの温度を350℃~770℃にし、該通電及び休止からなる1周期の陰極の平均電流密度を0.15A/cm2~0.50A/cm2に制御する。
パルス電解終了後、金属製還元反応容器220内に残存する溶融塩浴Bfを金属製還元反応容器220からその底部に連結される配管等を通じて液相状態のまま抜き出す操作を行う。そうすることで、金属製還元反応容器220の内面にチタンめっき層が形成されたチタンめっき材が得られる。水洗等洗浄の実施は任意である。例えば、溶融塩浴Bfが塩化マグネシウムとチタン塩化物からなる場合は水洗を省略しても構わない。
【実施例
【0038】
本発明を実施例に基づいて具体的に説明する。以下の実施例の記載は、あくまで本発明の技術的内容の理解を容易とするための具体例であり、本発明の技術的範囲はこれらの具体例によって制限されるものではない。
なお、表1~2における評価結果の「**」~「****」を合格であるとし、「*」を不合格であると判断した。
【0039】
図4A、Bに示す電解装置300を設置した。電解装置300の容器310の浴部分の寸法形状は、470mmΦ×500mm深さとした。なお、図4A、Bは装置構成の概略を示すものであり、その縮尺は必ずしも正確ではない。次に、電解装置300の容器310内に140kgの浴成分(組成はNaCl:25質量%、KCl:25質量%、MgCl2:50質量%)を投入して、容器310内の温度を昇温し浴成分を溶融させ、容器310内に溶融塩が貯留された。この時、溶融塩の温度は、700℃であった。その後、浴中に4.5質量%の低級チタン塩化物(TiCl2及びTiCl3(質量比で9:1))を含有する溶融塩浴Bfを得た。この溶融塩浴Bfを得た後、溶融塩浴Bfの温度を520℃に制御した。
【0040】
次に、Ti含有量が98質量%である純チタン製の陽極322と炭素鋼製の陰極320をそれぞれ準備した。純チタン板(板厚:0.2mm)を内径160mm×高さ250mmの円筒状の陽極322とした。一方、炭素鋼板(板厚:0.2mm)を外径100mm×高さ250mmの円筒状の陰極320とした。電解装置300の容器310内にて、円筒状の陽極322の内側に円筒状の陰極320を位置させるとともに、陽極322及び陰極320の高さ方向が溶融塩浴Bfの深さ方向とほぼ平行になるように、陽極322及び陰極320を浸漬させて配置した。なお、陽極322及び陰極320の全周に渡り電極間距離を30mmと一定にした。すなわち、陽極322の中心軸と陰極320の中心軸は同じ位置にある。
【0041】
電解装置300を用いて陰極320へパルス電流を供給して、溶融塩浴Bf中にて電気分解を行った。下記表1及び表2に示すように各条件を変更して、実施例1~4及び比較例1~4について陰極320の陽極322側の表面全体に亘ってチタンめっき膜を形成するようにめっき処理した。次に、電流の供給を停止した後、容器310からチタンめっき材を取り出した。その後、水洗浄でチタンめっき材に付着した溶融塩を溶解させ除去した。そして、チタンめっき材が得られた。
なお、実施例2~4、比較例1、4について、実施例1と浴成分の割合を同じとした。また、比較例2~3について、浴成分として、NaClとKClを等モル量投入した。また、表1及び表2においては、各実施例及び比較例の溶融塩浴に含まれる低級チタン塩化物量は前記浴成分とは別途に示した。
【0042】
次に、実施例1~4及び比較例1~4について、表面平滑性、チタンめっき層の厚さ、及びチタンめっき層と陰極320との密着性に関する評価をそれぞれ実施した。評価方法については以下に説明する。
【0043】
[評価]
円筒状のチタンめっき材を中心軸方向に沿って切断機で切断してから開き、板状のチタンめっき材にしてそれをテーブル上に載置した。そして、板状のチタンめっき材の中央部において、長手方向を70mm、幅方向に10mmとなるように切断した後、採取して試料を2つ得た。1つの試料にて表面平滑性及びチタンめっき層の厚さの確認を行い、もう1つの試料にて陰極320とチタンめっき層との剥離強度を測定した。以下に、各評価の測定方法を説明する。
【0044】
<チタンめっき層の表面平滑性の評価>
先述した表面平滑性の測定方法に従って、切断したチタンめっき材のうち任意に選択した5視野について測定した。測定に使用したチタンめっき材は薄いものであったが、先述した方法により表面平滑性を評価できた。なお、その結果については、下記評価基準に基づき下記表1及び表2に示す。
(評価基準)
****:チタンめっき層の最小厚さと最大厚さの差が10μm以下である場合。
***:チタンめっき層の最小厚さと最大厚さの差が10μmを超え50μm以下である場合。
**:チタンめっき層の最小厚さと最大厚さの差が50μmを超え100μm以下である場合。
*:チタンめっき層の最小厚さと最大厚さの差が100μmを超える場合。
【0045】
<チタンめっき層の厚さの評価>
先述したチタンめっき層の厚さの測定方法に従って測定した。なお、その結果については、下記評価基準に基づき下記表1及び表2に示す。
(評価基準)
****:チタンめっき層の厚さが100μm以上である場合。
***:チタンめっき層の厚さが60μm以上100μm未満である場合。
**:チタンめっき層の厚さが30μm以上60μm未満である場合。
*:チタンめっき層の厚さが30μm未満である場合。
【0046】
<チタンめっき層と陰極との密着性>
上記試料について、先述した方法により、チタンめっき層と陰極320との剥離強度を測定した。このとき、チタンめっき材の長手方向に沿ってステージ127(図2参照)を移動させた。なお、その結果については、下記評価基準に基づき下記表1及び表2に示す。
(剥離条件)
剥離試験機:株式会社イマダ製デジタルフォースゲージZTS-200N(測定可能荷重:200N)及び90度剥離試験用スライドテーブルP90-200N
剥離角度:90°
剥離速度:20mm/min(鉛直方向及び水平方向で同じ速度)
剥離強度:剥離変位の5mmから25mmまでの20mmの区間における荷重(N)の平均値
(評価基準)
****:剥離強度が5N/mm以上である場合。
***:剥離強度が2N/mm以上5N/mm未満である場合。
**:剥離強度が1N/mm以上2N/mm未満である場合。
*:剥離強度が1N/mm未満である場合。
【0047】
【表1】
【0048】
【表2】
【0049】
[実施例による考察]
実施例1~4及び比較例1~4を比較検討した結果、溶融塩浴が溶融塩として80質量%以上でMgCl2、NaCl、KCl、CaCl2及びLiClから選ばれる1種以上とチタン塩化物とを含むことと、溶融塩浴中に存在するチタンイオン濃度(A)と該溶融塩浴中に存在する金属イオン濃度の合計金属イオン濃度(B)との割合(A/B)が百分率で3mol%以上であることと、めっき処理工程において通電中の溶融塩浴の温度が350℃~770℃であり、通電及び休止からなる1周期の陰極の平均電流密度が0.15A/cm2~0.50A/cm2であることと、が一体不可分となり、表面平滑性に優れ且つ比較的厚いチタンめっき層であり、その密着性が良好なチタンめっき材を製造可能であることを確認した。
【符号の説明】
【0050】
100、300 電解装置
110、310 容器
120、320 陰極
122、322 陽極
125 チタンめっき材
126 チタンめっき層
127 ステージ
128、129 固定部材
220 金属製還元反応容器
222 籠
222a 孔
223 台座
225 蓋
Bf 溶融塩浴
H 水平方向
LW 導線
P 電源
St スポンジチタン
V 鉛直上方
図1
図2
図3A
図3B
図4A
図4B