(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-15
(45)【発行日】2024-05-23
(54)【発明の名称】グアイエンおよびロタンドンの生成
(51)【国際特許分類】
C12P 7/26 20060101AFI20240516BHJP
C11B 9/00 20060101ALI20240516BHJP
C12P 5/00 20060101ALN20240516BHJP
C12N 15/52 20060101ALN20240516BHJP
C12N 15/29 20060101ALN20240516BHJP
C12N 1/15 20060101ALN20240516BHJP
C12N 1/19 20060101ALN20240516BHJP
C12N 1/21 20060101ALN20240516BHJP
C12N 9/00 20060101ALN20240516BHJP
C07C 49/637 20060101ALN20240516BHJP
【FI】
C12P7/26
C11B9/00 P
C12P5/00 ZNA
C12N15/52 Z
C12N15/29
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N9/00
C07C49/637
(21)【出願番号】P 2020530557
(86)(22)【出願日】2018-11-21
(86)【国際出願番号】 EP2018082007
(87)【国際公開番号】W WO2019110299
(87)【国際公開日】2019-06-13
【審査請求日】2021-11-09
(32)【優先日】2017-12-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】501105842
【氏名又は名称】ジボダン エス エー
(74)【代理人】
【識別番号】110003971
【氏名又は名称】弁理士法人葛和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ゲーケ,アンドレアス
(72)【発明者】
【氏名】チャーペンター,ジュリー
(72)【発明者】
【氏名】シリング,ボリス
(72)【発明者】
【氏名】シュローダー,フリッチョフ
【審査官】松原 寛子
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-534927(JP,A)
【文献】特開平05-246913(JP,A)
【文献】J. Agric. Food Chem.,2014年,Vol.62,p.10809-10815
【文献】Journal of experimental botany,2016年,vol.67,p.787-798
【文献】Plant Physiology,2010年,Vol.154,p.1998-2007
【文献】Archives of biochemistry and biophysics,2006年,vol.454,p.123-136
【文献】Journal of experimental botany,2016年,Vol.67,p.799-808
【文献】Nature,2016年,Vol.533,p.77-81
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12P 1/00-41/00
C11B 9/00
C12N 15/00-15/90
C12N 9/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
α-グアイエンからロタンドンおよびケトン5
【化1】
を生成するためのプロセスであって、α-グアイエンの酸化によってロタンドンおよびケトン5がα-グアイエンから生成され、α-グアイエンが、セスキテルペンシンターゼによってファルネシルピロホスファートから生成され、セスキテルペンシ
ンターゼが、微生物中で生成される、前記プロセス。
【請求項2】
微生物が、α-グアイエンを生成するのに好適な条件下で培養される、請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
セスキテルペンシンターゼが、α-グアイエンの生成より前に、微生物から単離される、請求項1に記載のプロセス。
【請求項4】
微生物が、組み換え微生物である、請求項1~3のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項5】
セスキテルペンシンターゼが、配列番号2、配列番号4または配列番号6と少なくとも90%の配列同一性を有する、請求項1~4のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項6】
ロタンドンおよびケトン5が、遷移金属触媒作用、有機触媒作用、クロム酸化、セレン酸化、マンガン酸化、空気酸化、酵素酸化、電気化学的酸化およびそれらの組み合わせからなる群から選択される酸化によってα-グアイエンから生成される、請求項1~5のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項7】
ロタンドンおよびケトン5が、遷移金属触媒作用によってα-グアイエンから生成される、請求項6に記載のプロセス。
【請求項8】
ロタンドンおよびケトン5が、鉄ポルフィリン触媒作用によってα-グアイエンから生成され、以下のステップ:
- α-グアイエンと、鉄(III)-Xポルフィリン錯体触媒とを含有する混合物を溶媒中に形成する;
- 分子酸素を混合物中へ導入する;
- α-グアイエンのC(3)位の酸化によってロタンドンの生成をもたらす;
を含む、請求項7に記載のプロセス。
【請求項9】
ロタンドンおよびケトン5が、有機触媒作用によってα-グアイエンから生成される、請求項6に記載のプロセス。
【請求項10】
ロタンドンおよびケトン5
【化2】
を生成するためのα-グアイエンの使用であって、α-グアイエンの酸化によってロタンドンおよびケトン5がα-グアイエンから生成され、α―グアイエンが、ファルネシルピロホスファートからセスキテルペンシンターゼによって生成され、セスキテルペンシンターゼが、微生物中で生成される、前記使用。
【請求項11】
ロタンドンおよびケトン5
【化3】
を含むフレグランス成分またはフレーバー成分。
【請求項12】
ロタンドンの割合が、10~95wt.-%の範囲にある、請求項11に記載のフレグランス成分またはフレーバー成分。
【請求項13】
請求項11または12に記載のフレグランス成分またはフレーバー成分の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、α-グアイエンからロタンドンを生成するためのプロセスに、ロタンドンを生成するためのα-グアイエンの使用に、フレグランス成分またはフレーバー成分に、および、かかるフレグランス成分またはフレーバー成分の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
ロタンドン(3S,5R,8S)-3,8-ジメチル-5-プロパ-1-エン-2-イル-3,4,5,6,7,8-ヘキサヒドロ-2H-アズレン-1-オン)は、ハマスゲ(Cyperus rotundus)の塊茎において初めて発見されたセスキテルペンである。化合物は、強くスパイシーなコショウの実の香り(aroma)およびウッディな匂い(odor)を有する。黒コショウまたは白コショウ、マジョラム、オレガノ、ローズマリー、バジル、タイム、ゼラニウム、アガーウッド、パチョリ油およびシプリオル油(Cypriol oil)の構成要素であることもまた後に見いだされた。さらにまた、ロタンドンはコショウのようなスパイシーなノートを呈する様々なワイン、主にシラー(シラーズ)ワインにおいて検出された。セスキテルペンは、今までに発見されたあらゆる天然生成物の間で最も低い、8ng/Lの水におけるアロマ検出閾値を有する(J.Agric.Food Chem.2008、56、3738-3744および該文献中で引用される参照文献)。
【0003】
その上、グレープフルーツ、オレンジ、リンゴ、およびマンゴーの香りの調査がロタンドンの存在を明らかにした。官能分析は、化合物が、これらの果実のモデル飲料へ閾値下レベルで添加されたときでさえ、ウッディな匂いを直接的には付与しなかったが、それらを果実の天然のフレーバーにより近づけることを助けながら、飲料の全体的なフレーバーに有意な影響を有していたことを示した(J.Agric.Food Chem.2017、65、4464-4471)。
【0004】
これらの高度に魅力的な特性に関わらず、ロタンドンは、これまでフレグランスおよびフレーバー産業において成分として使用されてこなかった。この主な理由は、所望される嗅覚的な質における、この材料の充分な量の生成のための信頼できるプロセスがないという事実である。
【0005】
天然のロタンドンは、空気酸化、活性酸素種(ROS)または酵素酸化のいずれによってであれ、α-グアイエンからC(3)位のアリル酸化によって形成されると考えられる(J.Agric. Food Chem.2014、62、10809-10815;J.Nat.Prod.2015、78、131-145;J.Exp.Bot.2016、67、787-798)。この転化は、化学合成を用いてもまた達成され得る。
【化1】
【0006】
α-グアイエンは、グアイアックウッド(guaiacwood)油またはパチョリ油などの様々な不可欠な油の構成要素である。それはフレグランスおよびフレーバーの分野において幅広く採用されるけれども、現在までそれはロタンドンの産業的な生成のための前駆体としては使用され得なかった。第一に、α-グアイエンが抽出され得る植物材料の供給における重大な制限があり、これらの多くは絶滅危惧種から収穫されるため、その実施は厳しい管理下にある。さらにまた、α-グアイエンの植物エキスからの分離は、難しく、および、この前駆体を利用するための主な障害である。また、かかる抽出物の質は、相当な変動にしばしば苦しむ。例えば、グアイアックウッドの匂いは、「燻製ハム」様の匂いが付随し、グアイアックウッドの強制的な蒸留の間に、蒸留の収率および速度を増加させるための鉱酸の蒸留水への添加においておそらく獲得されると報告されている(S.Arctander、Perfume and Glavor Materials of Natural Origin 1994、Allured Publishing Corporation、Carol Stream、IL、USA)。この「燻製ハム」様の匂いを引き起こす不純物は、α-グアイエンまたは変換後のロタンドンのいずれからも、分離することは難しい。
【0007】
したがって、上述の先行技術における短所を克服することが本発明に内在する課題である。とりわけ、フレグランスおよびフレーバー産業における使用のための、より具体的には妨害する匂い、とりわけ上述の「燻製ハム」様の匂いを引き起こす不純物の実質的な不在における、ロタンドンの生成のためのプロセスを提供することが、本発明に内在する課題である。有利には、このプロセスは、ロタンドンの有意な量の生成を許容することが想定される。このプロセスは、環境に優しく、安全、および費用効率的であるべきである。
【発明の概要】
【0008】
これらの課題は、請求項1に記載のプロセスによって解決される。このプロセスにおいて、ロタンドンは、α-グアイエンから、とりわけC(3)位の酸化によって生成される。α-グアイエンは、セスキテルペンシンターゼによって前駆体から生成され、セスキテルペンシンターゼは、微生物中で生成される。
【0009】
本発明の文脈において、用語「セスキテルペンシンターゼ」は、前駆体からセスキテルペンであるα-グアイエンの合成をもたらすことができるポリペブチドを指す。
さらにまた、「α-グアイエンは、セスキテルペンシンターゼによって前駆体から生成される」は、前駆体およびセスキテルペンシンターゼが、α-グアイエンの形成をもたらすために互いに接触することであると理解されるべきである。
【0010】
本発明の別の側面は、ロタンドンを生成するためのプロセスであって、以下のステップ:
- セスキテルペンシンターゼを微生物中に生成する;
- 得られたセスキテルペンシンターゼを前駆体と接触させることによって、α-グアイエンを生成する;
- 得られたα-グアイエンから、とりわけC(3)位の酸化によってロタンドンを生成する、
を含む、前記プロセスを指す。
【0011】
微生物中で生成されるセスキテルペンシンターゼの使用によって、α-グアイエンは、天然に供給される原材料から独立して、具体的にはバイオ技術的プロセスを介して得られ得る。この制約なしに、ロタンドンの有意な量が、環境に優しいプロセスを使用して、ボリュームにおける制限のない産業的規模で生成され得る。これは、この化合物の、とりわけフレグランスおよびフレーバー産業における成分としてのサステナブルな生成を許容する。さらにまた、植物材料の抽出が必要ないという事実に起因して、安定した質における、および、妨害する匂い、とりわけ上述の「燻製ハム」様の匂いを引き起こす不純物の実質的な不在における、要求されるα-グアイエンが、制御された条件下で供給され得る。
【0012】
微生物は、α-グアイエンを生成するのに好適な条件下、とりわけin vivoで培養され得る。これは、セスキテルペンシンターゼおよびα-グアイエンの両方の生成が同じ生体内変化においてもたらされ得るという利点を有し、それは全体的なプロセスをより効率的にする。さらにまた、セスキテルペンシンターゼの単離は避けられる。
好ましい態様において、微生物は、前駆体を生成するのにもまた好適な条件下で、とりわけ糖から培養される。好適な糖の例は、これらに限定されないが、スクロース、フルクトース、キシロース、グリセロール、グルコース、セルロース、デンプン、セロビオースおよび他のグルコースを含有するポリマーを包含する。
【0013】
他方、セスキテルペンシンターゼは、α-グアイエンの生成より前にも、微生物からまた単離され得る。追加的な転化が次いで要求されるけれども、α-グアイエンの形成がより制御された条件下でex vivoで次いでもたらされ得る。
ex vivoでのα-グアイエンの形成をもたらすために要求されるセスキテルペンシンターゼは、標準的なタンパク質または酵素抽出技術を使用して、それを発現させるあらゆる微生物からの抽出によって得られ得る。微生物が、セスキテルペンシンターゼを培養培地中へ放出する細胞である場合、セスキテルペンシンターゼは、例えば遠心分離、任意にこれに続く洗浄ステップおよび好適な緩衝溶液中での再懸濁によって、培養培地から単に回収されてもよい。微生物が、それ自体の内部にポリペプチドを蓄積する場合、セスキテルペンシンターゼは、細胞の崩壊または溶解および細胞溶解物からのポリペプチドのさらなる抽出によって得られてもよい。
【0014】
セスキテルペンシンターゼは、単離された形態、または、例えば培養された微生物から得られた粗製タンパク質抽出物における他のタンパク質と一緒のいずれかであっても、次いで緩衝溶液中に最適なpHで懸濁されてもよい。適切な場合、塩、BSAおよび他の種類の酵素の補因子が酸素活性を最適化するために添加されてもよい。とりわけ、酵素補因子は、Mg2+塩であり得る。
【0015】
前駆体は、次いで懸濁液または溶液へ添加されてもよく、それは次いで、例えば15および40℃の間、好ましくは25および35℃の間、より好ましくは30℃の最適な温度でインキュベートされる。インキュベーション後、α-グアイエン、および任意に他のセスキテルペン副産物(by-product)は、任意に溶液からポリペプチドの除去後、溶媒抽出および蒸留などの標準的な単離手順によって、インキュベートされた溶液から単離されてもよい。
【0016】
微生物は、組み換え微生物であり得る。用語「組み換え微生物」は、好ましくはα-グアイエンの生成につながる条件下で、セスキテルペンシンターゼを発現するために形質転換された微生物を指す。用語「形質転換された」は、微生物が遺伝子工学へ供与された事実を指す。好ましくは、微生物は、セスキテルペンシンターゼを異種発現するか、または、それをさらに過剰発現する。トランスジェニック微生物の創造のための当該技術分野において知られているいくつかの方法がある。
【0017】
組み換え微生物は、細菌または酵母であり得る。より具体的には、微生物は、Escherichia coli、Arxula adeninivorans、Candida boidinii、Hansenula Polymorpha、Kluyveromyces lactis、Pichia pastoris、Saccharomyces cerevisiaeおよびYarrowia lipolyticaからなる群から選択され得る。
好ましくは、使用されるEscherichia coliは、産業および規制当局(industry and regulatory authorilies)によって認識される(これらに限定されないが、Escherichia coli K12またはEscherichia coli BL12を包含する)。
【0018】
前駆体は、非環式前駆体、とりわけファルネシルピロホスファートであり得る。本発明の好ましい態様において、α-グアイエンはin vivoで形成され、微生物はファルネシルピロホスファートを、好ましくは糖から生成することもまた可能である。
【0019】
セスキテルペンシンターゼは、配列番号2、配列番号4または配列番号6と、少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%、さらにより好ましくは少なくとも95%の配列同一性を有し得る。
配列番号2は、J. Exp. Bot. 2016、67、799-808に記載されるとおりのVitis viniferaから得られた酵素VvGuaSに対応する。配列番号1は、対応する核酸配列を表す。VvGuaSは、45%選択性で、主生成物としてα-グアイエンを生成することが示されている。
【0020】
配列番号4は、Plant Physiol. 2010、154、1998-2007に記載されるとおりのジンコウ属(Aquilaria)の植物から得られた酵素AcC3に対応する。配列番号3は、対応する核酸配列を表す。AcC3は、45%選択性で、α-グアイエンを生成することが示されている。
配列番号6は、Arch. Biochem. Biophys. 2006、454、123-136に記載されるとおりのPogostemon cablin(パチョリ)から得られた、酵素PatTps717に対応する。配列番号5は、対応する核酸配列(cf.また、NCBI GenBank受託番号AY508730{Version: AY508730.1})を表す。PatTps717は、13%選択性で、α-グアイエンを生成することが示されている。
【0021】
2つのペプチドまたはヌクレオチド配列の間の配列同一性は、これらの2つの配列のアライメントが生成されるとき、2つの配列において同一であるアミノ酸またはヌクレオチド残基の数の関数である。同一の残基は、2つの配列において、アライメントの所与の位置において同じである残基として定義される。配列同一性のパーセンテージは、本明細書に使用されるとき、2つの配列の間の同一の残基の数を取り、それを最も短い配列における残基の総数によって割り、および100をかけることによって、最適なアライメントから計算される。最適なアライメントは、同一性のパーセンテージが可能な限り高いアライメントである。最適なアライメントを得るために、ギャップがアライメントの1以上の位置において1つまたは両方の配列中へ導入されてもよい。次いで、これらのギャップは、配列同一性のパーセンテージの計算のための非同一の残基として考慮される。
【0022】
アミノ酸または核酸配列同一性のパーセンテージを決定する目的のためのアライメントは、コンピュータプログラムおよび実例として公的に入手可能なコンピュータプログラムを使用する様々な手法で達成され得る。好ましくは、National Center for Bio Technology Information (NCBI)から入手可能なデフォルトパラメータに設定されたBLASTプログラム(FEMS microbiol Lett. 1999、174、247-250)が、ペプチドまたはヌクレオチド配列の最適なアライメントを得るため、および、配列同一性のパーセンテージを計算するために使用され得る。
【0023】
本発明の文脈において、別の微生物を、セスキテルペンシンターゼをコードする少なくとも1の核酸をもつセスキテルペンシンターゼを生成することができるように形質転換することができる。
少なくとも1の核酸は、配列番号1、配列番号3または配列番号5と、少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%、さらにより好ましくは少なくとも95%の配列同一性を有し得る。
【0024】
「核酸」は、一本鎖形態または二本鎖形態のいずれかにおけるデオキシリボヌクレオチドポリマーまたはリボヌクレオチドポリマー(DNAおよび/またはRNA)を包含するように定義され得る。セスキテルペンシンターゼを生成する好適な微生物細胞を形質転換させるために重要な手段は、核酸を含む発現ベクターである。「発現ベクター」は、本明細書に使用されるとき、プラスミド、ファージミド、ファージ、コスミド、人工細菌染色体または人工酵母染色体、およびノックアウト構築物またはノックイン構築物を包含するがこれらに限定されない、あらゆる線状組み換えベクターまたは環状組み換えベクターを包含する。当業者は、発現系に従って、好適なベクターを選択することができる。
【0025】
細菌細胞または酵母細胞は、外来性または異種のDNAが細胞の内側に導入されたとき、かかるDNAによって形質転換されてもよい。形質転換DNAは、細胞のゲノム中へ組み込まれても、または、組み込まれなくてもよく、すなわち共有結合的に結び付けられる。原核生物、および酵母において、例えば、形質転換DNAは、プラスミドなどのエピソーム要素上に保持されてもよい。真核細胞に関して、安定的にトランスフェクトされた細胞は、トランスフェクトされたDNAが染色体複製を介した娘細胞によって遺伝性であるように染色体中へ組み込まれるようになるものである。この安定性は、真核細胞の、形質転換DNAを含有する娘細胞の集団で構成される細胞株またはクローンを確立する能力によって実証されている。
【0026】
本発明の文脈において、本発明の細菌(例えばEscherichia coli)は、例えば、組み換えバクテリオファージDNA、プラスミドDNA、細菌性の人工染色体、またはコスミドDNA発現ベクターで形質転換され得る。酵母(例えばSaccharomyces cerevisiae)は、本開示のポリヌクレオチド分子を含有する組み換え発現ベクターで形質転換され得る。微生物および使用される夫々のベクターに依存して、ポリヌクレオチドは、例えば、染色体またはミトコンドリアDNA中へ組み込まれ得るか、または、例えば、エピソームのように染色体外に保持され得るか、または一時的にのみ含まれ得る。
【0027】
本発明による使用のための微生物の好適性は、周知の方法を使用する単純な試験手順によって決定されてもよい。例えば、試験される微生物は、富栄養培地(例としてLB培地、Bactotryptone酵母抽出培地または栄養培地)中で、微生物の増殖のために一般的に使用されるpH、温度および通気条件で増殖されてもよい。一旦、生物変換の所望される生成物を生成する微生物が選択されると、生成物は典型的には好適な発現系および発酵によって、すなわち細胞培養における微生物の生成によって、大規模の細胞株生成(production cell line on the large scale)により生成される。
【0028】
細胞培養のために、M9Aなどの所定の最小限の培地が使用され得る。M9A培地の構成成分は、以下を含む:14g/L KH2PO4、16g/L K2HPO4、1g/L Na3シトラート・2H2O、7.5g/L (NH4)2SO4、0.25g/L MgSO4・7H2O、0.015g/L CaCl2・2H2O、5g/L グルコースおよび1.25g/L 酵母抽出物。他方、LBなどの栄養素に富む培地が使用され得る。LB培地の構成成分は、以下を含む:10g/L トリプトン、5g/L 酵母抽出物および5g/L NaCl。
【0029】
微生物は、バッチ、フェッドバッチ(fed-batch)または一連のプロセスまたはそれらの組み合わせにおいて育成されてもよい。典型的には、微生物は、発酵槽において、所定の温度で、好適な栄養素供給源の存在下、所望される期間、育成される。本明細書に使用されるとき、用語「バッチ培養」は、培養培地が、培養の間、添加されたり取り除かれたりしない培養方法である。本明細書に使用されるとき、「フェッドバッチ」は、培養培地が、培養の間添加されるが、培養培地が取り除かれない培養方法である。
【0030】
本発明によるプロセスは、ロタンドンの生成より前に、α-グアイエンを、とりわけ蒸留またはクロマトグラフィーによって精製するステップをさらに含み得る。有利には、ロタンドンを生成するために使用されるα-グアイエンは、10~95%、好ましくは20~80%、より好ましくは30~70%の純度を有する。
【0031】
本発明によるプロセスにおいて、ロタンドンが、遷移金属触媒作用、有機触媒作用、クロム酸化、セレン酸化、マンガン酸化、空気酸化、酵素酸化、電気化学的酸化およびそれらの組み合わせからなる群から選択される酸化によってα-グアイエンから生成され得る。これは、この転化をもたらすことができる手段に関する有意なフレキシビリティを授ける。
【0032】
あらゆる曖昧さを避けるために、本発明の文脈において、「C(3)位でのα-グアイエンの酸化」は、α-グアイエンのC(3)位でのメチレン基の、対応するカルボニル基への直接的な酸化としてのみ理解されるべきでない。この転化はまた、カルボニル基が、中間体を経由して段階的に形成されるプロセス、例えば二級アルコールも指し得る。使用される方法に依存して、この中間体は、単離され得るか、または、ロタンドンへさらに転化され得る。
本発明の文脈において、「空気酸化」は、純粋な形態または希釈された形態(実例として空気として)のいずれかにおける、分子酸素(O2)を用いるあらゆる酸化として理解される。
【0033】
ロタンドンが、遷移金属触媒作用にってα-グアイエンから生成されるとき、遷移金属は、鉄、銅、バナジウム、マンガン、モリブデン、コバルト、ルテニウム、パラジウム、イリジウム、ロジウム、チタン、クロム、金、オスミウムおよびそれらの組み合わせからなる群から選択され得る。これらの遷移金属を用いて、生成物であるロタンドンに対する高い選択性および良好な収率が達成され得る。
【0034】
とりわけ、ロタンドンが、以下のステップ:
- α-グアイエンと、鉄(III)-Xポルフィリン錯体触媒とを含有する混合物を溶媒中に形成する;
- 分子酸素を混合物中へ導入する;
- α-グアイエンのC(3)位の酸化によってロタンドンの生成をもたらす、
を含む、鉄ポルフィリン触媒作用によってα-グアイエンから生成され得る。
【0035】
鉄ポルフィリン触媒作用は、良好な選択性および収率をもつ、α-グアイエンのロタンドンへの転化のための効率的な方法を提供する。分子酸素(O2)は、容易に入手可能であり、費用効率的であり、環境に優しく、および取り扱いが安全な、最高の化学量論的酸化剤である。また、鉄(III)-Xポルフィリン錯体触媒は、低毒性を示し、および低触媒充填で使用され得る。さらにまた、粗生成物の匂いプロファイルは、ロタンドンの匂いが副産物によって悪影響を及ぼされないというものである。この結果として、用途に依存して、得られた生成物は、ロタンドンの精製なく、パフュームおよびフレーバー産業において使用され得る。しかしながら、得られたロタンドンが精製される場合、これは単純な蒸留を介して、または、カラムクロマトグラフィーによって達成され得る。
【0036】
上記の鉄ポルフィリン触媒作用において、Xは、Cl、Br、I、メシラート、トリフラートおよびカルボキシラート、好ましくはCl、BrおよびIから選択され得る。とくにClが好ましく、このアニオンをもつと、様々な鉄(III)-Xポルフィリン錯体触媒が、ポルフィリン系での異なる置換パターンをもつ市販の供給源から低費用で得られ得るためである。
【0037】
上記の鉄ポルフィリン触媒作用において、混合物は、塩基配位化合物、好ましくはN-ヘテロシクル、より好ましくはイミダゾールを加えて含有し得る。これは、短い反応時間の後に、より良好な収率および純度が達成されるという利点を有する。
【0038】
一方で、分子酸素を混合物中へ導入するステップは、酸素ガスを混合物中へ吹き込むこと(bubbling)を含み得る。他方、分子酸素を混合物中へ導入するステップはまた、空気を混合物中へ吹き込むことも含み得る。
分子酸素を混合物中へ導入する別の選択肢は、酸素含有雰囲気下で混合物を激しく攪拌することである。上記の鉄ポルフィリン触媒作用において、空気または分子酸素のいずれかの反応混合物中への導入によって良好な結果が達成され得ることが見出されている。分子酸素の供給源としての空気は、低費用で豊富に入手可能であるというさらなる利点を有する。さらにまた、操作的に安全である。
【0039】
要求されるものではないが、プロセスは、混合物を電磁放射線、好ましくはUV光放射線または電磁スペクトルの可視範囲における放射線へ曝露することを包含してもよい。混合物を曝露するために使用される電磁放射線の波長範囲は、約200nm~約800nmの範囲にあってもよい。代替的に、プロセスは、暗中または環境光条件下で実行されてもよい。これらの選択肢の間で選ぶ可能性は、産業的な生成のための最も好適な設定を許容する。
【0040】
鉄ポルフィリン触媒作用において、溶媒は、水、アセトン、エタノール、2-プロパノール、エチルアセタート、イソプロピルアセタート、メタノール、メチルエチルケトン、1-ブタノール、tert-ブタノールおよびそれらの混合物からなる群から選択され得、好ましくはエタノール/水混合物であり得る。これらの溶媒は、環境的損害なく廃棄され得るか、または使用後に容易に再利用され得る。エタノール/水混合物は、ロタンドンが、とりわけ良好な収率および純度において得られ得るというさらなる利点を有する。さらにまた、1:1未満のエタノール:水比率を以て、非引火性の混合物が達成され得る。
他方、溶媒はまた、ヘプタン、トルエン、メチルシクロヘキサン、メチルtert-ブチルエーテル、イソオクタン、アセトニトリル、キシレン、ジメチルスルホキシド、酢酸、エチレングリコールおよびそれらの混合物からなる群から選択され得る。
【0041】
好ましくは、触媒は、塩化物対イオンを有する鉄(III)ポルフィリン錯体触媒である。さらにまた、ポルフィリン錯体は、テトラフェニルポルフィリン錯体であり得る。具体的には、触媒は、クロロ(テトラフェルニポルフィリナト)鉄(III)であり得る。この触媒を用いて、選択性、収率および生成物純度に関する最高の結果が達成され得る。さらにまた、上述のとおり、この触媒は、費用効果的かつ市販の供給源から入手可能である。しかしながら、ポルフィリンでの異なる置換パターンをもつこのタイプの触媒は、安価な構成成分Fe(II)Cl2およびポルフィリンリガンドからであっても、容易にかつほぼ定量的に調製され得る。加えて、クロロ(テトラフェニルポルフィリナト)鉄-(III)は、低触媒充填で採用され得る。さらにまた、ヘミン塩化物が、鉄(III)-Xポルフィリン錯体として使用され得る。
【0042】
代替的に、ロタンドンは、とりわけ以下のステップ:
- α-グアイエンと、好ましくはコバルト(II)エチルヘキサノアート、コバルト(II)アセチルアセトナート、コバルト(II)ナフテナートおよびそれらの混合物からなる群から選択される少なくとも1のコバルト(II)錯体触媒とを含有する混合物を、とりわけ4-メチル-2-ペンタノンの存在下、溶媒中に形成する;
- 分子酸素を混合物中へ導入する;
- α-グアイエンのC(3)位の酸化をもたらす、
を含むコバルト触媒作用によってα-グアイエンから生成され得る。
【0043】
もう1つの代替手段として、ロタンドンは、とりわけ以下のステップ:
- α-グアイエンと、好ましくはクロム(VI)試薬、とりわけピリジニウムクロロクロマート、ピリジニウムフルオロクロマート、ピリジニウムジクロマート、クロムトリオキサイド、ナトリウムクロマートおよびそれらの混合物からなる群から選択される少なくとも1のクロム試薬とを含有する混合物を、好ましくはセライトの存在下、溶媒中に形成する;
- α-グアイエンのC(3)位の酸化をもたらす、
を含むクロム酸化によってα-グアイエンから生成され得る。
この方法を用いて、ロタンドンは、良好な収率および純度において得られ得る。
【0044】
その上、ロタンドンは、とりわけ以下のステップ:
- α-グアイエンと、好ましくはN-ヒドロキシフタルイミドおよびテトラクロロ-N-ヒドロキシフタルイミドからなる群から選択される有機触媒と、酸化剤とを含有する混合物を溶媒中に形成する;
- α-グアイエンのC(3)位の酸化をもたらす;
を含む有機触媒作用によってα-グアイエンから生成され得る。
【0045】
有機触媒作用を介して、α-グアイエンからのロタンドンの生成は、高価かつ潜在的に有害な重金属触媒の使用なしに達成され得る。したがって、このプロセスは、費用効率的であり、環境に優しく、および操作的に安全である。
有機触媒作用において、酸化剤は、tert-ブチルヒドロペルオキシド、過酸化水素、ジベンゾイル過酸化物、ジ-tert-ブチル過酸化物、亜塩素酸ナトリウム、分子酸素およびそれらの混合物からなる群から選択され得る。これらの酸化剤のすべては、容易に入手可能かつ使用において安全であるバルクケミカル(bulk chemical)である。亜塩素酸ナトリウムおよび分子酸素は、反応のワークアップが具体的に簡便であるというさらなる利点を有する。
【0046】
本発明の文脈において、ロタンドンはまた、とりわけ以下のステップ:
- α-グアイエンと、好ましくはN-ヒドロキシフタルイミドおよびテトラクロロ-N-ヒドロキシフタルイミドからなる群から選択される電気化学的メディエーターと、電解質とを含有する混合物を溶媒中に形成する;
- 電流を混合物へ適用する;
- α-グアイエンのC(3)位の酸化をもたらす、
を含む電気化学的酸化によってα-グアイエンから生成され得る。
【0047】
電気化学的酸化の代表的な例は、Nature 2016、533、77-81に記載される。それは、良好な収率および選択性におけるα-グアイエンからのロタンドンの生成を許容する。電気化学的な酸化によって、化学量論的酸化剤は使用される必要がないか、または、ほとんど必要とされず、および廃棄物の発生が削減される。
上記の電気化学的な酸化において、混合物は、好ましくはピリジン、2,6-ルチジン、2,4,6-コリジン、トリメチルアミン、DBUおよびそれらの混合物からなる群から選択される塩基を加えて含有し得る。溶媒は、アセトン、アセトニトリル、ジクロロメタン、ピリジンおよびそれらの混合物からなる群から選択され得る。電解質は、LiBF4、LiClO4およびそれらの混合物からなる群から選択され得る。
【0048】
さらにまた、上記の電気化学的酸化において、混合物は、好ましくはtert-ブチルヒドロペルオキシド、過酸化水素、ジベンゾイル過酸化物、ジ-tert-ブチル過酸化物およびそれらの混合物からなる群から選択される共酸化剤を加えて含有し得る。共酸化剤の使用によって、増大した収率が達成され得る。
【0049】
化学合成とは別に、ロタンドンはまた、シトクロム450、好ましくはα-グアイエン 3-オキシダーゼシトクロム P450、ラッカーゼ、Rieske非ヘムジオキシゲナーゼおよびそれらの組み合わせからなる群から選択される酵素をとりわけ介した酵素酸化によって、α-グアイエンから生成され得る。「α-グアイエン3-オキシダーゼシトクロムP450(同文献において、「α-グアイエン2-オキシダーゼVvSTO2」と称される)は、J.Exp.Bot.2016、67、787-798に記載されている。この酵素は、優れた基質特異性および選択性を呈することが示されている。
【0050】
上述の酵素を用いるC(3)位でのα-グアイエンの酸化はまた、対応する二級アルコールにもつながる。この中間体は、様々な方法、実例としてアルコールオキシダーゼまたはアルコールヒドロゲナーゼを用いる酸化を使用して、ロタンドンへさらに酸化され得る。
【0051】
本発明によるプロセスは、生成されたロタンドンを精製するステップをさらに含み得る。これは、蒸留またはクロマトグラフィーによってもたらされ得る。蒸留は、大規模において低費用で実施され得るという利点を有する。クロマトグラフィーの利点は、具体的に高純度をもつ材料が得られ得ることである。
【0052】
本発明はまた、ロタンドンを生成するためのα-グアイエンの、とりわけC(3)位の酸化による使用であって、α-グアイエンが前駆体、とりわけ非環式の前駆体からセスキテルペンシンターゼによって生成され、セスキテルペンシンターゼが微生物中で生成される、前記使用を指す。
【0053】
本発明のさらなる側面は、本明細書の上に記載されるとおりのプロセスによって得られ得るフレグランス成分またはフレーバー成分に関する。
本発明はまた、フレグランス成分またはフレーバー成分、とりわけ本明細書の上に記載されるとおりの成分であって、ロタンドンの割合が、10~95wt.-%、好ましくは20~70wt.-%、さらにより好ましくは25~50wt.-%の範囲にある、前記成分を指す。
【0054】
フレグランス成分またはフレーバー成分は、ケトン5を加えて含有し得る。
【化2】
【0055】
かかるフレグランス成分またはフレーバー成分において、ロタンドン対ケトン5の重量比率は、20:1~1:1、好ましくは10:1~2:1、さらにより好ましくは5:1~3:1の範囲にあり得る。
【0056】
本発明はまた、本明細書の上に記載されるとおりのフレグランス成分またはフレーバー成分を含有する消費者製品およびかかるフレグランス成分またはフレーバー製品の使用を指す。
本発明はまた、フレグランス組成物またはフレーバー組成物または消費者製品を生成するためのプロセスであって、プロセスが本明細書の上に記載されるとおりのプロセスによってα-グアイエンからロタンドンを生成することを含む、前記プロセスを指す。
【0057】
本発明のさらなる側面および具体的な特色は、以下の代表的な態様の記載から明らかになるだろう。
【0058】
採用した分析方法
極性GCMS:
35℃/2min、50℃まで10℃/min、240℃まで2.5℃/min、240℃/5min。Thermo Scientific TSQ8000evo+Trace 1310 system。極性カラム:Varian VF-WAX(極性、PEG相)。カラム寸法:30m長さ、0.25mm ID、0.25mフィルム厚。インジェクタ:スプリットレス。流量:1.2mL/min。キャリアガス:ヘリウム。注入体積:1μl。インジェクタ温度:230℃。移送ライン:250℃。MS-四重極(quadrupol):160℃。MS-供給源:230℃。イオン化モード:70eVでの電子衝撃(EI)。
【0059】
この方法によって、生成物を同定した。少数および同定されない副産物は無視し、それらのパーセンテージ(大抵<10%)を与えない。α-グアイエン1およびロタンドン2は別として、ロツンドール3、エポキシ-グアイエン4、ケトン5、ヒドロキシ-ロタンドン6、およびコリンボロン5は副生成物(side products)に包含される。
【化3】
下記の本明細書に定義されるとおりの構成成分1~7は、単離され、その構造が確認されたケトン5は別として、文献に既知のものである。
【0060】
非極性GC:
100℃/2min、240℃まで15℃/min、240℃/5min。Thermo Focus GC。非極性カラム:Agilent Technology J&W Scientific DB-5(非極性、5%フェニルメチルポリシロキサン)。カラム寸法:30m長さ、0.32mm ID、0.25μmフィルム厚。インジェクタ:スプリット。インジェクタ温度:240℃。検出器:FID。検出器温度:270℃。注入体積:1μl。キャリアガス:ヘリウム。スプリット比率:1/42.3。圧力:70kPa。積分器:Hewlett Packard。
この方法によって、蒸留後のロタンドン2の基質純度、変換およびGC純度を決定した(%rpa)。
【0061】
α-グアイエンの供給源
α-グアイエンを、37%~85%の純度で、繰り返しの蒸留によって、Clearwood(商標)から単離した。純度を、内部標準アニスアルデヒドを有するGCおよびNMRによって決定した。他の構成要素は、セイケレン(≦33%)、α-パチュレン(≦25%)、およびγ―パチュレン(≦5%)であった。純度を、内部標準アニスアルデヒドを有するGCおよびNMRによって決定した。
【0062】
Clearwood(商標)(CAS 1450625-49-6)は、パチョリ、ウッディファミリーの、Firmenichから市販されるパヒューム成分である。約14wt.-%のα-グアイエンを含有するセスキテルペンのこの混合物を、糖の発酵によって得た(IP.com Technical Disclosure IPCOM000233341D)。
α-グアイエン1のバイオ技術的生成の例は、Plant Physiol.2010、154、1998-2007;Arch.Biochem.Biophys.2006、454、123-136およびWO 2005/052163 A2にもまた記載されている(given)。
【0063】
α-グアイエン1からのロタンドン2の調製(鉄ポルフィリン触媒作用)
クロロ(テトラフェニルポルフィリナト)鉄(III)(17mg、0.024mmol)およびイミダゾール(6.7mg、0.1mmol)を、攪拌下、1:1エタノール/水混合物(20mL)中α-グアイエン1(61%ex Clearwood(商標)、1g、3mmol)へ添加した。酸素を、45℃で、緑色を帯びた濁った混合物中へ吹き込んだ。30min後、酸素流入口を、酸素バルーンによって置き換えた。5時間後、GCによって、ロタンドン2(24%)、エポキシ-グアイエン4(3%)、ケトン5(6%)、ヒドロキシ-ロタンドン6(4%)、セイケレン8(37%)を含有する混合物への完全な変換が示された。暗褐色の混合物を部分的な減圧下で蒸発させ、残渣をtert-ブチルメチルエーテルを用いて抽出した。合わせた有機層をMgSO4上で乾燥させ、濾過し、蒸発させた。残余の褐色の油(1.22g)を150~230℃/0.03mbarでバルブ・ツー・バルブ蒸留することによって、赤褐色の油として32%GC純度の0.88g ロタンドン2((43%corr.収率)および0.18gの褐色の残渣が与えられた。
【0064】
α-グアイエン1からのロタンドン2の調製(有機触媒作用)
コンデンサを備えた100mLの2口丸底フラスコにおいて、α-グアイエン1((37%exClearwood(商標)、1.022g、1.85mmol)およびNHPI(0.082g、0.5mmol)を、正の窒素流(positive nitrogen flow)下、アセトニトリル(30mL)および水(15mL)中に溶解した。溶液を50℃まで加熱し、固体NaClO2(0.678g、7.5mmol)を少量ずつ添加した。次いで、反応混合物を、50℃で、21h攪拌するようにした。次いで、溶液を室温まで冷却するようにし、NaOH(水性、2M)上へ注いだ。生成物をMEBEを用いて抽出し、ブラインを用いて洗浄した。合わせた有機層をMgSO4上で乾燥させ、濾過し、蒸発させた。残渣(0.92g)のGCMSによって、ロタンドン2(6%)、ロツンドール3(1%)、エポキシ-グアイエン4(1%)、ケトン5(1%)、ヒドロキシ-ロタンドン6(2%)、セイケレン(40%)、α-パチュレン(11%)、α-パチュレノン(2%)およびβ-パチュレノン(2%)を含有する混合物への完全な変換が示された。残余の褐色の油(0.92g)を160~220℃/0.01mbarでバルブ・ツー・バルブ蒸留し、赤褐色の油として17%GC純度の0.92g ロタンドン2および90mgの褐色の残渣が与えられた。
【0065】
ロタンドン2の嗅覚的な説明
(本明細書の上に記載のとおりの鉄ポルフィリン触媒作用から、蒸留によって精製した、吸い取り紙上に浸漬させたばかりのエタノール中1%希釈物、4h後および1週間後)
【0066】
【0067】
ケトン5の合成および精製
酸素を、ポリエチレングリコール(20mL)中クロロ(テトラフェニルポルフィリナト)鉄(III)(34mg、0.05mmol)、イミダゾール(6.7mg、0.1mmol)およびα-グアイエン91%(1g、4.5mmol)の混合物中へ、攪拌下、300W Osram Ultra VItalux lampでの光照射下、45℃で吹き込んだ。38時間後、GCMSによって、ロタンドン2(27%)、エポキシ-グアイエン4(6%)、ケトン5(11%)、ヒドロキシ-ロタンドン6(19%)、コリンボロン7(1%)の混合物への定量的な変換が示された。橙色の生成混合物を、水に対してtert-ブチルメチルエーテルを用いて抽出した。合わせた有機層を、MgSO4上で乾燥させ、濾過し、蒸発させて0.7gの橙色の油とし、それをヘキサン/エチルアセタート勾配98:2~50:50を使用して、30gを超えるシリカゲル15~40μmのフラッシュクロマトグラフィーによって精製した。溶媒の蒸発後、これによって52~59%GC純度(13%corr)をもつ0.23gのロタンドンおよび71%(2%corr)のGC純度をもつ24mgのケトン5が得られた。ケトン5を分取のGCによって>99.5%の純度(0.03%未満のロタンドン2を含有する)までさらに精製し、吸い取り紙上およびにおい嗅ぎGC(sniff-GC)によって分析されたその匂いは、ウッディ、シダーな(cedary)、ドライ、イソラルディン-グアイアック、フルーテイ、スパイシーであった。
【0068】
ケトン5((4S,7R)-4-メチル-7-(プロパ-1-エン-2-イル)-3,4,5,6,7,8-ヘキサヒドロアズレン-1(2H)-オン)の分析データ:1H-NMR (benzene-D6, 400 MHz): 4.85 - 4.9 (2 s, 2 H), 3.1 - 3.14 (2 h), 2.5 - 1.4 (10 H), 1.75 (s, 3 H), 0.9 (d, 3 H) ppm; 13C-NMR (benzene-D6, 100 MHz): 206.5 (s), 176.6 (s), 150.3 (s), 139.0 (s), 108.9 (t), 45.2 (d), 36.4 (d), 33.8 (t), 32.1 (t), 30.9 (t), 29.5 (t), 28.1 (t), 20.4 (q), 16.5 (q) ppm; 13C-NMR (CDCl3, 100 MHz): 209.3 (s), 179.9 (s), 150.6 (s), 139.2 (s), 108.9 (t), 45.3 (d), 36.85 (d), 34.3 (t), 32.3 (t), 31.0 (t), 30.15 (t), 27.2 (t), 20.6 (q), 17.0 (q) ppm; IR (cm-1): 2661 (w), 2922 (m), 2854 (w), 1697 (s), 1642 (m), 1452 (w), 1438 (w), 1375 (w), 1304 (w), 1286 (w), 1260 (w), 1236 (w), 1173 (w), 1154 (w), 1071 (w), 1042 (w), 1023 (w), 992 (w), 886 (m), 532 (w); GCMS (EI, m/z): 204 (2%, [M]+), 189 (11%, [M - 15]+), 161 (12%), 148 (51%), 147 (48%), 134 (10%), 133 (100%), 121 (18%), 119 (28%), 107 (19%), 106 (11%), 105 (43%), 93 (25%), 91 (18%), 91 (39%), 81 (34%), 81 (17%), 79 (27%), 77 (22%); [α]D
22 = -11.4 (c 0.35, CHCl3); HRMS (ESI): Calculated for C14H21O [M+H]+: 205.1587; Found: 205.1586.
【配列表】