(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-15
(45)【発行日】2024-05-23
(54)【発明の名称】細胞膜透過性ペプチド
(51)【国際特許分類】
C07K 7/08 20060101AFI20240516BHJP
C07K 7/06 20060101ALI20240516BHJP
【FI】
C07K7/08 ZNA
C07K7/06
(21)【出願番号】P 2020548136
(86)(22)【出願日】2019-08-09
(86)【国際出願番号】 JP2019031670
(87)【国際公開番号】W WO2020066343
(87)【国際公開日】2020-04-02
【審査請求日】2022-06-23
(31)【優先権主張番号】P 2018180130
(32)【優先日】2018-09-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110002837
【氏名又は名称】弁理士法人アスフィ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松田 優佳
(72)【発明者】
【氏名】北 寛士
(72)【発明者】
【氏名】高津 慶士
(72)【発明者】
【氏名】馬渡 達也
(72)【発明者】
【氏名】北野 光昭
【審査官】井関 めぐみ
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-531988(JP,A)
【文献】特表2015-522264(JP,A)
【文献】特表2006-514602(JP,A)
【文献】MISAWA T et al.,Development of Helix-Stabilized Amphipathic Cell-Penetrating Peptides for siRNA Delivery,Journal of Peptide Science, 35th European Peptide Symposium,2018年08月31日,Vol.24, Supplement 2,p.S169 Abstract No.P247,文献全体
【文献】三澤隆史ほか,親水性分子を細胞内導入を志向した膜透過生ペプチドの開発,日本薬学会第137年会要旨集,2017年03月05日,Abstract No.26U-am13,文献全体
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 7/08
C07K 7/06
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I)または式(II)で表される配列を有することを特徴とする細胞膜透過性ペプチドまたはその塩。
X-(A-B-C)
l-(D)
m-(Arg)
n ・・・ (I)
X-(Arg)
n-(D)
m-(A-B-C)
l ・・・ (II)
[式中、
Xは生理活性ペプチドであり、
A
およびB
はロイシンであり、
C
はアラニン
または2-メチルアラニ
ンであり、
Dは
、グリシン、アラニン、分枝アミノ酸、ヒドロキシアミノ酸、含硫アミノ酸、酸アミドアミノ酸から選択される中性アミノ酸であり、
lは、1であり、
mは、0以上、5以下の整数であり、
nは8以上の整数である。]
【請求項2】
Dが、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、およびイソロイシンから選択されるアミノ酸である請求項1に記載の細胞膜透過性ペプチドまたはその塩。
【請求項3】
Dがグリシンである請求項1または2に記載の細胞膜透過性ペプチドまたはその塩。
【請求項4】
Cが2-メチルアラニンである請求項1~3のいずれかに記載の細胞膜透過性ペプチド。
【請求項5】
生理活性ペプチドが環状化されたものである請求項1~4のいずれかに記載の細胞膜透過性ペプチドまたはその塩。
【請求項6】
C末端がアミド化されている請求項1~5のいずれかに記載の細胞膜透過性ペプチド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞膜透過性に優れた細胞膜透過性ペプチドに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、特定のタンパク質や遺伝子を標的として攻撃する分子標的薬が注目を集めており、細胞内タンパク質-タンパク質相互作用(PPI)は魅力的な創薬ターゲットの一つである。しかし、タンパク質間の相互作用面は広く、親水性が高いため、既存の低分子がPPIを阻害することは難しい。それに対して、ペプチド等の中分子はPPIを阻害することが可能であるが、その多くは細胞膜透過性を持たない。
【0003】
ペプチドを細胞内に送達する方法として、細胞膜透過性ペプチド(CPPs)をカーゴ分子に結合させて細胞膜透過性を付与する方法が知られている。既存のCPPsとしては、HIV-1ウイルス由来のTATペプチド(特許文献1)、ショウジョウバエのAntennapediaのホメオドメインに由来するペネトラチンの改変型(特許文献2)、オリゴアルギニン(非特許文献1~3)などが知られており、その他、非特許文献4にも様々なCPPsが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平10-33186号公報
【文献】特表2002-530059号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】Futaki,S.ら,J.Biol.Chem.,2001,276,pp.5836-5840
【文献】Dana Maria Copoloviciら,ACS Nano,2014,8,p.1972
【文献】James R.Maioloら,Biochimica et Biophysica Acta,1712(2005),pp.161-172
【文献】Paul A.Wenderら,Proc.Natl.Acad.Sci.,2000,97(24)8,pp.13003-13008
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したように、細胞膜透過性ペプチドは種々知られているが、実際に臨床に適用されているものは少なく、より優れた新規細胞膜透過性ペプチドが模索されている。
そこで本発明は、細胞膜透過性に優れた新規細胞膜透過性ペプチドを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた。その結果、優れた細胞膜透過性能を有するペプチドを見出し、細胞内に送達すべき生理活性ペプチドにかかるペプチドを結合させることにより、生理活性ペプチドを細胞内へ効率的に送達することが可能になることを見出して、本発明を完成した。
以下、本発明を示す。
【0008】
[1] 下記式(I)または式(II)で表される配列を有することを特徴とする細胞膜透過性ペプチドまたはその塩。
X-(A-B-C)l-(D)m-(Arg)n ・・・ (I)
X-(Arg)n-(D)m-(A-B-C)l ・・・ (II)
[式中、
Xは生理活性ペプチドであり、
A、BおよびCは、独立して、アラニン、2-メチルアラニン、バリン、ロイシン、およびイソロイシンから選択される脂肪族アミノ酸であり、
Dは任意のアミノ酸であり、
lは、1以上、4以下の整数であり、
mは、0以上、5以下の整数であり、
lが1のとき、nは8以上の整数であり、
lが2のとき、nは6以上の整数であり、
lが3のとき、nは4以上の整数であり、
lが4のとき、nは4以上の整数である。]
【0009】
[2] AおよびBがロイシンである上記[1]に記載の細胞膜透過性ペプチドまたはその塩。
【0010】
[3] Dがグリシンである上記[1]または[2]に記載の細胞膜透過性ペプチドまたはその塩。
【0011】
[4] Cが2-メチルアラニンである上記[1]~[3]のいずれかに記載の細胞膜透過性ペプチド。
【0012】
[5] 生理活性ペプチドが環状化されたものである上記[1]~[4]のいずれかに記載の細胞膜透過性ペプチドまたはその塩。
【0013】
[6] C末端がアミド化されている上記[1]~[5]のいずれかに記載の細胞膜透過性ペプチド。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る細胞膜透過性ペプチドは、優れた細胞膜透過性能を有することから、生理活性物質を細胞内へ効率的に送達することができる。よって本発明に係る細胞膜透過性ペプチドは、優れた分子標的薬となり得ることから、産業上非常に優れている。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、様々なペプチドコンジュゲートの細胞膜透過性試験によって得られた蛍光強度比の対数値を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明に係る細胞膜透過性ペプチドに含まれる生理活性ペプチドは、細胞内へ送達すべきものであり、細胞内で何らかの生理的作用を示すものであれば特に制限されない。かかる生理活性ペプチドは、細胞内に送達されるべきものであることから、生理活性ペプチドを構成するアミノ酸残基数としては、4以上、20以下が好ましい。生理活性ペプチドの中には、アミノ酸残基数が4であっても生理活性を示すものがある。また、当該アミノ酸残基数が20以下であれば、より確実に細胞内に送達され得る。当該アミノ酸残基数としては、5以上、15以下がより好ましい。
【0017】
生理活性ペプチドは、細胞膜透過促進ペプチド、即ち(A-B-C)l-(D)m-(Arg)nまたは(Arg)n-(D)m-(A-B-C)lと結合するためのリンカーを有していてもよい。リンカーは、アミノ酸残基やペプチドの他、一般的なリンカー基であってもよい。かかるリンカー基としては、例えば、特に制限されるものではないが、C1-6アルキレン基、アミノ基(-NH-)、イミノ基(>C=N-または-N=C<)、エーテル基(-O-)、チオエーテル基(-S-)、カルボニル基(-C(=O)-)、チオニル基(-C(=S)-)、エステル基(-C(=O)-O-または-O-C(=O)-)、アミド基(-C(=O)-NH-または-NH-C(=O)-)、スルホキシド基(-S(=O)-)、スルホニル基(-S(=O)2-)、スルホニルアミド基(-NH-S(=O)2-および-S(=O)2-NH-)、並びにこれら基が2以上結合して形成された基を挙げることができる。上記基が2以上結合してリンカー基を形成する場合の結合数としては、10以下または5以下が好ましく、3以下がより好ましい。上記基が2以上結合して形成されたリンカー基としては、例えば、アミノ基、イミノ基、エーテル基、チオエーテル基、カルボニル基、チオニル基、エステル基、アミド基、スルホキシド基、スルホニル基、および/またはスルホニルアミド基を一端または両端に有するC1-6アルキレン基を挙げることができる。また、リンカーがペプチドである場合、リンカーを形成するアミノ酸残基の数としては1以上、20以下が好ましい。また、当該リンカーペプチドは、生理活性ペプチドの活性に影響を与えないものであることが好ましい。リンカーペプチドとしては、GSリンカーやGGSリンカーを挙げることができる。GGSリンカーは、GGS配列が1回以上、6回以下程度繰り返される配列からなる。一方、GSリンカーは、GGGGS配列が1回以上、6回以下程度、特に3回繰り返される配列である。
【0018】
生理活性ペプチドは、可能であれば環状化してもよい。環状化により生体内においてプロテアーゼなどによる攻撃を受け難くなり安定化する他、細胞膜透過性がより一層向上する可能性もある。環状化には、生理活性ペプチドに含まれるアミノ酸残基の側鎖反応性基を利用すればよい。側鎖反応性基としては、例えば、SerやThrの水酸基、Cysのチオール基、AspやGluのカルボキシ基、Lysのアミノ基を挙げることがでる。
【0019】
生理活性ペプチドの環状化のための架橋化合物としては、上記側鎖反応性基と反応する反応性基を複数有する化合物を用いればよい。反応性基の数としては2が好ましい。当該反応性基としては、カルボキシ基、活性エステル基、酸クロライド基、酸ブロマイド基、ハロゲノ基、エポキシ基、水酸基、アミノ基などを挙げることができる。環状化の際には、反応を促進するために塩基や縮合剤などを添加してもよい。
【0020】
架橋化合物における複数の反応性基を連結するリンカー基としては、生理活性ペプチドとN-末端側部とを結合するための上記リンカー基と同様のものを挙げることができる。当該リンカー基の長さは、環状化に利用するアミノ酸残基間の残基数や、所望の環の大きさなどにより適宜調整すればよい。
【0021】
生理活性ペプチドを架橋するための架橋化合物としては、例えば、以下の化合物を挙げることができる。
【0022】
【0023】
本発明に係る細胞膜透過性ペプチドのN末端側は、-(A-B-C)l-(D)m-(Arg)nまたは-(Arg)n-(D)m-(A-B-C)lであり、これらペプチドは、生理活性ペプチドの細胞膜透過を促進する機能を有する。以下、これらペプチドを、便宜上、「細胞膜透過促進ペプチド」という場合がある。
【0024】
細胞膜透過促進ペプチドにおいて、A~Cは、独立して、アラニン、2-メチルアラニン、バリン、ロイシン、およびイソロイシンから選択される脂肪族アミノ酸である。AおよびBとしてはロイシンが好ましく、Cとしては、アラニンまたは2-メチルアラニン(2-アミノイソ酪酸)が好ましく、2-メチルアラニンがより好ましい。
【0025】
[Arg]単位は、従来、細胞膜透過性を有するものとして知られている。本発明においては、[Arg]単位に加えて少なくとも[A-B-C]単位を用いることにより、[Arg]単位単独の場合に比べて細胞膜透過性を顕著に改善している。[Arg]単位の数、即ちnは、[A-B-C]単位の数にもよるが、4以上である。[A-B-C]単位との関係で、[A-B-C]単位が少ないほど[Arg]単位は多いことが好ましい。具体的には、[A-B-C]単位の数であるlが1のときnとしては8以上の整数が好ましく、lが2のときnとしては6以上の整数が好ましく、lが3または4のときnとしては4以上の整数が好ましい。[Arg]単位の数の上限は特に制限されないが、例えば16以下とすることができ、14以下または12以下が好ましく、10以下がより好ましい。
【0026】
細胞膜透過促進ペプチドにおいて[A-B-C]単位は、細胞膜透過性にとり極めて重要な単位である。本発明者らの実験的知見によれば、オリゴアルギニンに[A-B-C]単位を1つ加えたのみでも、細胞膜透過性は顕著に向上する。その理由は必ずしも明らかではないが、[Leu-Leu-Aib]の繰り返し配列はヘリックス構造をとることが知られているため、当該単位の二次構造が細胞膜透過性の向上に寄与している可能性がある。[A-B-C]単位の数、即ちlは、1以上、4以下である。本発明者らによる実験的知見によれば、[A-B-C]単位が無い場合には、ペプチドの細胞膜透過性能は全く十分ではない。一方、[A-B-C]単位が過剰であると、ペプチドの水溶性が低下して取扱い難くなる可能性があり得るため、lとしては4以下がより好ましい。
【0027】
細胞膜透過促進ペプチドにおいて[D]単位は、主に[Arg]単位と[A-B-C]単位を結合するリンカーの役割を有する。Dは任意のアミノ酸であり、例えば、Gly;Ala;Val、Leu、Ileの分枝アミノ酸;Ser、Thrのヒドロキシアミノ酸;Cys、Metの含硫アミノ酸;Asn、Glnの酸アミドアミノ酸;Pro;Phe、Thr、Trpの芳香族アミノ酸;Asp、Gluの酸性アミノ酸;Lys、Arg、Hisの塩基性アミノ酸を挙げることができ、Gly、Ala、分枝アミノ酸、ヒドロキシアミノ酸、含硫アミノ酸、酸アミドアミノ酸から選択される中性アミノ酸が好ましく、Gly、Ala、Val、Leu、およびIleから選択されるアミノ酸がより好ましく、Glyがより更に好ましい。[D]単位の数、即ちmは、0以上、5以下である。mとしては1以上が好ましく、2以上がより好ましく、また、4以下が好ましく、3以下がより好ましい。
【0028】
本発明に係る細胞膜透過性ペプチドにおいては、(A-B-C)lの位置と(Arg)nの位置は、互いに入れ替わっていてもよいが、式(I)で表される配列がより好ましい。
【0029】
本発明に係る細胞膜透過性ペプチドは、式(I)または式(II)で表される配列を有する限り、例えば、N末端またはC末端に別のペプチドが結合していてもよい。末端に付加される別のペプチドは、本発明ペプチドの細胞膜透過性を阻害しない限り特に制限されないが、例えば、そのアミノ酸残基数としては1以上、10以下が好ましく、5以下がより好ましい。本発明に係る細胞膜透過性ペプチドの配列は、式(I)または式(II)で表される配列のみからなることが好ましく、式(I)で表される配列のみからなることがより好ましい。
【0030】
本発明に係る細胞膜透過性ペプチドのN末端またはC末端は、化学的に修飾されていてもよい。例えば、C末端は-COOHまたは-COO-であってもよいし、アミド化(-CONH2)、アルキルアミド化(-CONHR)、またはエステル化(-COOR)されていてもよく、また、N末端は-NH2または-NH3
+であってもよいし、アシル化(-NHCOR)されていてもよい。Rは、C1-6アルキル基を示す。特に、C末端はアミド化することが好ましい。C末端をアミド化することで、エキソプロテアーゼに対する分解耐性が向上したり、また、ペプチド合成時における分子内縮合反応や分子間縮合反応を抑制できる。
【0031】
「C1-6アルキル基」は、炭素数1以上、6以下の直鎖状または分枝鎖状の一価飽和脂肪族炭化水素基をいう。例えば、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、s-ブチル、t-ブチル、n-ペンチル、n-ヘキシル等である。好ましくはC1-4アルキル基であり、より好ましくはC1-2アルキル基であり、最も好ましくはメチルである。
【0032】
本発明に係る細胞膜透過性ペプチドは、塩の形態であってもよい。かかる塩は、薬学上許容されるものが好ましい。かかる塩を構成するカウンターカチオンとしては、例えば、金属イオン、アンモニウムイオン(NH4
+)、有機塩基イオン、塩基性アミノ酸イオンを挙げることができ、カウンターアニオンとしては、例えば、無機酸イオン、有機酸イオン、および酸性アミノ酸イオンを挙げることができる。
【0033】
金属塩を構成する金属イオンとしては、例えば、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオンなどのアルカリ金属イオン;カルシウムイオン、バリウムイオンなどのアルカリ土類金属イオン;マグネシウムイオンなどが挙げられる。有機塩基塩を構成する有機塩基としては、例えば、トリメチルアミン、トリエチルアミン、ピリジン、ピコリン、2,6-ルチジン、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、シクロヘキシルアミン、ジシクロヘキシルアミン、N,N'-ジベンジルエチレンジアミンが挙げられる。塩基性アミノ酸塩を構成する塩基性アミノ酸としては、リシン、アルギニン、ヒスチジンが挙げられる。
【0034】
無機酸塩を構成する無機酸としては、例えば、塩酸、臭化水素酸、硝酸、硫酸、リン酸などが挙げられる。有機酸塩を構成する有機酸としては、例えば、ギ酸、酢酸、トリフルオロ酢酸、フタル酸、フマル酸、シュウ酸、酒石酸、マレイン酸、クエン酸、コハク酸、リンゴ酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸などが挙げられる。酸性アミノ酸塩を構成する酸性アミノ酸としては、アスパラギン酸とグルタミン酸が挙げられる。
【0035】
本発明に係る細胞膜透過性ペプチドは常法により製造することができるが、総アミノ酸残基数が比較的少ないため、例えば固相合成法により製造することができる。具体的には、細胞膜透過性ペプチドのアミノ酸配列をデザインした後、固体樹脂にアミノ基と必要に応じて側鎖反応性基が保護されたC末端アミノ酸残基を結合し、以後、アミノ基の脱保護と次のアミノ酸残基の結合を繰り返し、最後にペプチドの固体樹脂からの切り離しと脱保護を行う。また、各反応の後には洗浄を行う。
【0036】
生理活性ペプチドを環状化する場合には、ペプチドが固体樹脂に結合された状態で環状化してもよいし、ペプチドを固体樹脂から切り離してから環状化してもよいが、製造工程数がより少ないことからペプチドを固体樹脂から切り離してから生理活性ペプチドを環状化することが好ましい。なお、細胞膜透過促進ペプチドは、側鎖に反応性基を有さないアミノ酸残基で構成されているため、原則として架橋化合物により生理活性ペプチドが環状化されると考えられる。
【0037】
本発明に係る細胞膜透過性ペプチドにより、生理活性ペプチドが細胞膜を透過して細胞内まで送達されるため、副作用が比較的少なく且つ生理活性ペプチドの作用効果が効果的に発揮されると考えられる。本発明の細胞膜透過性ペプチドはペプチドであることから、注射投与されることが好ましい。
【0038】
本発明の細胞膜透過性ペプチドを含む注射剤の溶媒としては、水が好ましい。更に、本発明ペプチドの水溶性によっては、エタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコールなどの水混和性有機溶媒を含んでいてもよい。その他、塩化ナトリウムなどの塩、緩衝成分、防腐剤などの添加成分を含んでいてもよい。勿論ではあるが、注射剤は等張液または略等張液である必要がある。
【0039】
本発明に係る細胞膜透過性ペプチドの投与量は、投与されるべき患者の重篤度、年齢、性別、体重、症状などにより適宜調整すればよい。例えば、投与量を0.001mg/kg/日以上、100mg/kg/日以下、好ましくは0.005mg/kg/日以上、50mg/kg/日以下の範囲で調整することができる。
【0040】
本願は、2018年9月26日に出願された日本国特許出願第2018-180130号に基づく優先権の利益を主張するものである。2018年9月26日に出願された日本国特許出願第2018-180130号の明細書の全内容が、本願に参考のため援用される。
【実施例】
【0041】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0042】
実施例1~9,比較例1~6: ペプチドコンジュゲートの合成
マイクロウェーブを用いた固相合成法により、Rink Amide樹脂(0.2mmol/g)上で、以下の配列を有するペプチドコンジュゲートのペプチド鎖部分を合成した。
F-Ahx-(カーゴペプチド)-(Leu-Leu-Aib)l-(Gly)m-(Arg)n-NH2
[式中、Fは蛍光基であるフルオロセイン含有基を示し、Ahxは6-アミノヘキサン酸を示し、Aibは2-アミノイソ酪酸(2-メチルアラニン)を示し、カーゴペプチドは以下の構造を有する。]
【0043】
【0044】
【0045】
実施例8(配列番号14): F-Ahx-(カーゴペプチド)-(Arg)9-(Gly)3-(Leu-Leu-Aib)-NH2
実施例9(配列番号15): F-Ahx-(カーゴペプチド)-(Leu-Leu-Ala)-(Gly)3-(Arg)9-NH2
ペプチドを形成した樹脂を、トリフルオロ酢酸(TFA)/水/トリイソプロピルシラン(TIS)/3,6-ジオキサ-1,8-オクタンジチオール(DODT)=92.5/2.5/2.5/2.5(容量比)の混合溶液に3時間浸漬し、ペプチドを樹脂から切り出した。
得られたペプチドをN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)と水の混合溶媒に溶解し、1,3-ジブロモアセトン(1.5当量)とN,N-ジイソプロピルエチルアミン(3.0当量)で1時間処理することにより、カーゴペプチドを環状化した。
ペプチドを反応溶液から逆相HPLCにより精製し、凍結乾燥した。次いで、DMF中でフルオレセインイソチオシアネート(FITC,1.5当量)とN,N-ジイソプロピルエチルアミン(3.0当量)で4時間処理してN末端を蛍光標識した後、逆相HPLCにより精製することにより、実施例1~9および比較例1~6のペプチドコンジュゲートを合成した。
【0046】
試験例1: 細胞膜透過能評価
HeLa細胞(Human cervix adenocarcinoma cell)を、実施例1~9または比較例1~6のペプチドコンジュゲート2μMを含む培養液中、37℃で2時間培養した。次いで、細胞を回収し、ヨウ化プロピジウム溶液で染色後、フローサイトメーターで蛍光強度を測定し、下記式によって比較例2に対する蛍光強度比を算出した。結果を
図1と表2に示す。
蛍光強度比=(F
n-F
1)/(F
2-F
1)
F
n: 被検化合物の蛍光強度最頻値
F
1: 比較例1の被検化合物の蛍光強度最頻値
F
2: 比較例2の被検化合物の蛍光強度最頻値
【0047】
【0048】
図1と表2に示される結果の通り、培養2時間後の比較例2に対する蛍光強度を比較した結果、本発明に係る実施例1~9のペプチドコンジュゲートは、従来、細胞膜透過性を有するとされている[Arg]単位鎖を有する一方で[Leu-Leu-Aib]単位を有さない比較例2よりも、細胞膜透過性能に優れることが実証された。
【配列表】