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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-15
(45)【発行日】2024-05-23
(54)【発明の名称】高解像度イメージング装置および方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/62 20210101AFI20240516BHJP
   H01J 49/02 20060101ALI20240516BHJP
   H01J 49/04 20060101ALI20240516BHJP
   H01J 37/08 20060101ALI20240516BHJP
   H01J 37/20 20060101ALI20240516BHJP
   H01J 37/28 20060101ALI20240516BHJP
   H01J 49/26 20060101ALI20240516BHJP
   H01J 49/16 20060101ALI20240516BHJP
   G02B 21/06 20060101ALI20240516BHJP
【FI】
G01N27/62 E
H01J49/02 500
H01J49/04 180
H01J37/08
H01J37/20 A
H01J37/28 B
H01J49/26
H01J49/16 400
G02B21/06
【請求項の数】 32
(21)【出願番号】P 2020571476
(86)(22)【出願日】2019-06-18
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-10-14
(86)【国際出願番号】 US2019037644
(87)【国際公開番号】W WO2019246033
(87)【国際公開日】2019-12-26
【審査請求日】2022-06-16
(31)【優先権主張番号】62/686,341
(32)【優先日】2018-06-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/792,759
(32)【優先日】2019-01-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】520497025
【氏名又は名称】フリューダイム カナダ インコーポレイテッド
(73)【特許権者】
【識別番号】520496903
【氏名又は名称】コーカム,ポール
(74)【代理人】
【識別番号】100137969
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 憲昭
(74)【代理人】
【識別番号】100104824
【弁理士】
【氏名又は名称】穐場 仁
(74)【代理人】
【識別番号】100121463
【弁理士】
【氏名又は名称】矢口 哲也
(72)【発明者】
【氏名】コーカム,ポール
(72)【発明者】
【氏名】ロボダ,アレクサンダー
【審査官】伊藤 裕美
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-522887(JP,A)
【文献】特開2008-241709(JP,A)
【文献】特開平07-270286(JP,A)
【文献】特開2000-162164(JP,A)
【文献】特開平06-119905(JP,A)
【文献】特開平07-294459(JP,A)
【文献】特開平05-082081(JP,A)
【文献】特開2001-255290(JP,A)
【文献】特開2002-116184(JP,A)
【文献】特開平05-225950(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/60 - G01N 27/70
H01J 49/00 - H01J 49/48
G01N 33/48 - G01N 33/98
H01J 37/00 ー H01J 37/36
H01J 27/00 ー H01J 27/36
G02B 21/00 ー G02B 21/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ源から放出された放射線ビームを試料上の位置に向けて導いて、試料材料のアブレーションされたプルームを生成することと、
前記試料材料の前記アブレーションされたプルームを、イオン化後に、顕著な電荷中和点を越えて膨張させることと、
膨張した前記試料材料の前記アブレーションされたプルームを、イオン化レーザでイオン化することにより、
前記試料上の前記位置近くにマイクロプラズマを形成し、
元素イオンを生成することと、
質量分析によって前記試料材料からの前記元素イオンを分析することと、
を含む、生体試料を分析する方法。
【請求項2】
電子顕微鏡検査を最初に行うことを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
荷電粒子ビームを試料上の位置に向けて通過させ、前記試料から材料をスパッタリングすることと、
スパッタリングされた前記材料を、イオン化後に、顕著な電荷中和点を越えて膨張させることと、
第1のレーザビームパルスにより、膨張した前記スパッタリングされた材料を照射して、
前記試料の表面近くにマイクロプラズマを形成し、
元素イオンを生成することと、
質量分析によって前記元素イオンを検出することと、
を含む、生体試料を分析する方法。
【請求項4】
請求項3に記載の方法であって、
前記荷電粒子ビームを前記試料上の位置に向けて通過させると、試料点火状態がもたらされ、前記試料を照射すると、前記試料上の前記位置に試料エネルギーポンピング状態がもたらされる方法。
【請求項5】
請求項4に記載の方法であって、
第2のレーザビームパルスによって、前記スパッタリングされた材料を照射すること、および前記スパッタリングされた材料をイオン化することをさらに含む方法。
【請求項6】
前記第1のレーザビームパルスおよび前記第2のレーザビームパルスが、前記試料の同じ側から前記試料を照射する、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記第1のレーザビームパルスおよび前記第2のレーザビームパルスが、前記試料の反対側から前記試料を照射する、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
前記荷電粒子ビームが、前記試料の片側から前記試料上の位置に向かって通過し、前記第1のレーザビームパルスが、前記試料の同じ側から前記試料を照射する、請求項3から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記荷電粒子ビームが、前記試料の片側から前記試料上の位置に向かって通過し、前記第1のレーザビームパルスが、前記試料の反対側から前記試料を照射する、請求項3から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記試料に向けて電子ビームを導くこと、および
電子顕微鏡を使用して前記試料をイメージングすること、
を最初に含む、請求項3から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記生体試料の多重化画像を生成することを含む、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
第1のレーザビームパルスによって前記試料を照射して、試料イオンを含む材料のプルームを生成することが、なだれイオン化プロセスを含む、請求項3から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
試料をイメージング質量分析で分析する方法であって、
前記試料から材料を放出するために、試料チャンバ内の前記試料を第1のエネルギー源で放射することと、
前記材料を、イオン化後に、顕著な電荷中和点を越えて膨張させることと、
膨張した前記材料を、イオン化レーザでイオン化することにより、
前記試料の表面近くにマイクロプラズマを形成し、
元素イオンを生成することと、
質量分析により前記元素イオンを分析することと、
を含む、方法。
【請求項14】
前記材料を膨張させることは、前記材料を前記試料チャンバ内の部分真空に膨張させることを含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記部分真空が10~10,000Paである、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記材料を膨張させることは、前記材料を、イオン化前に、100ps~10nsの間、膨張させることを含む、請求項13に記載の方法。
【請求項17】
前記イオン化レーザは、IRレーザまたは可視レーザである、請求項13に記載の方法。
【請求項18】
前記イオン化レーザは、ピコ秒レーザまたはフェムト秒レーザである、請求項13に記載の方法。
【請求項19】
前記試料の近くに配置されたイオン光学系を使用して、前記マイクロプラズマから生じるイオンを導くことをさらに含む、請求項13に記載の方法。
【請求項20】
前記分析することは、飛行時間質量分析計または磁気セクタ質量分析計によってなされる、請求項13に記載の方法。
【請求項21】
イメージングマスサイトメトリーによって前記試料を分析することをさらに含む、請求項13に記載の方法。
【請求項22】
前記第1のエネルギー源はレーザである、請求項13に記載の方法。
【請求項23】
前記レーザは、300nm未満の波長を有する、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記レーザは、少なくとも0.9の開口数の対物レンズで集束される、請求項22に記載の方法。
【請求項25】
前記レーザは、250nm以下のスポットサイズに集束される、請求項22に記載の方法。
【請求項26】
前記レーザは、試料ステージの前記試料とは反対側に配置される、請求項22に記載の方法。
【請求項27】
前記第1のエネルギー源は、イオンビームである、請求項13に記載の方法。
【請求項28】
前記第1のエネルギー源は、電子ビームである、請求項13に記載の方法。
【請求項29】
前記第1のエネルギー源を使用して、前記試料から前記材料をアブレーションすることをさらに含み、前記第1のエネルギー源が、第1のレーザ源および第2のレーザ源を含む、請求項13に記載の方法。
【請求項30】
前記試料は、生体試料である、請求項13に記載の方法。
【請求項31】
前記生体試料は、100nm以下の厚さを有する組織試料である、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
前記生体試料は、標識原子を含む、請求項30に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2018年6月18日に出願され、「HIGH RESOLUTION IMAGING APPARATUS AND METHOD」と題された米国仮特許出願第62/686,341号明細書、および2019年1月15日に出願され、「HIGH RESOLUTION IMAGING APPARATUS AND METHOD」と題された米国仮特許出願第62/792,759号明細書の利益を主張し、これらはいずれも参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、イメージング質量分析(IMS)を使用する試料の高解像度イメージング、およびイメージングマスサイトメトリー(IMC(商標))による生体試料のイメージングに関する。
【背景技術】
【0003】
LA‐ICP‐MS(試料がレーザによってアブレーションされ、アブレーションされた材料が誘導結合プラズマ内でイオン化されてから質量分析によってイオンが検出されるIMSの形態)は、地質試料の鉱物分析、考古学試料の分析、および生体物質のイメージングなど、様々な物質の分析に使用されている。
【0004】
細胞解像度でのイメージングについては、IMCによる生体試料のイメージングが以前に報告されている。近年では、細胞内解像度での詳細なイメージングも報告されている。
【0005】
これらの近年の進歩にもかかわらず、IMCの解像度をサブマイクロメートルスケールまで高めるそれ以上の装置および技術が必要とされている。IMCの解像度をサブマイクロメートルスケールまで高める際の2つの主な課題は以下の通りである:
1)サンプリングスポット面積を約200nm以下のサイズに制限すること、および
2)アブレーションされた材料中の分析物の量が十分な信号対雑音比を生成することを確実にすること。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、試料の高解像度イメージングを提供するために、これらの2つの課題を克服する後続の改善された装置および技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
一般的に、本明細書に開示される分析計装置は、イメージング元素質量分析を行うための2つの広く特徴付けられたシステムを備える。
【0008】
1つ目は、サンプリングおよびイオン化システムである。このシステムは、試料が分析に供される際に配置される構成要素である試料チャンバを含む。試料チャンバは、試料を保持するステージ(典型的には、試料は、試料キャリア、例えば、顕微鏡スライド、例えば、組織切片、細胞の単層、または個々の細胞、例えば、細胞懸濁液が顕微鏡スライド上に滴下され、スライドがステージ上に配置される場所の上にある)を備える。サンプリングおよびイオン化システムは、試料から材料を除去するプロセスの一部として、またはサンプリングシステムの下流の別個のイオン化システムを介して、イオンに変換される、試料チャンバ内の試料から材料を除去するように機能する(除去された材料は、本明細書では試料材料と呼ばれる)。元素イオンを生成するには、ハードイオン化技術が使用される。
【0009】
次いで、イオン化された材料は、検出器システムである第2のシステムによって分析される。検出器システムは、質量分析に基づく分析計装置内の質量検出器など、イオン化試料材料の決定される特定の特性に応じて異なる形態をとることができる。
【0010】
本発明は、100nm未満の厚さの組織切片を分析する際の利点を利用する様々な装置および技術を適用することにより、現在のIMSおよびIMC装置および方法に対する改善を提供する。そのような超薄切片を使用すると、追加の分析技術の機会が増加する。本発明者らは、レーザアブレーションに使用されるレーザを特に小さなアブレーションスポットに集束させる、アブレーションスポットの周囲に特に高い屈折率を維持するレンズ(例えば、浸漬レンズ)を使用することが可能であることを発見した。本発明者らは、超薄切片が分析される場合、そのようなレンズを使用して、アブレーションの標的となる領域の外側の試料の領域に損傷を与えることなく、レーザ放射線を集束させることができると判断した。これは、レンズ材料の高屈折率により、レーザがレンズを通してアブレーティブスポットに至るまで狭い焦点に集束されることが確実になるためである。したがって、この狭い焦点は、高屈折率材料を用いず可能であるよりも小さく、焦点のサイズが横方向の解像度を決定するため、本発明は、改善された横方向の解像度を提供する装置および技術を提供する。さらに、レンズの焦点は単に二次元ではない。レンズの焦点は、集中した放射線の三次元体積である。したがって、アブレーティブスポットの直径だけでなく、深さ(すなわち、放射線の焦点)も重要である。放射線の焦点が基板の表面ではなく基板内にあるように焦点距離が設定される場合、これは、試料の予測できない破壊と断片化とをもたらす可能性がある。この問題は、特に、浸漬レンズを最も効果的に使用するために、試料キャリアを通してレーザ放射線を導く方法で試料が最もよくアブレーションされるという本発明者らの発見という事実によって引き起こされる。
【0011】
同様に、本発明者らは、薄片が使用される場合、例えば、IMCによって試料を分析する前に、IMSまたはIMCによっても分析される試料に対して電子顕微鏡法を行うことが可能であることを発見した。したがって、高解像度の構造画像は、電子顕微鏡法、例えば透過型電子顕微鏡法によって得ることができ、次いで、この高解像度画像を使用して、IMSまたはIMCによって得られた画像データの解像度を、レーザ放射線を使用するアブレーションにより達成可能な解像度を超える解像度に精緻化することができる(光子と比較してはるかに短い電子の波長のため)。あるいは、またはさらに、電子顕微鏡画像は、例えば、IMCによってイメージングされたタンパク質標的の局在と、電子顕微鏡によって識別された細胞内(例えば、ナノスケール)構造とを関連付けることによって、試料の同じ領域のIMC画像に関連付けられ得る。以下にさらに詳細に説明するように、電子顕微鏡イメージングは、別個の装置内で「オフライン」で行われてもよいか、電子顕微鏡の構成要素が、IMSまたはIMC装置に組み込まれてもよい。
【0012】
さらに、本発明者らは、試料から試料材料をスパッタリングした後、またはサンプリング時に、試料材料のレーザイオン化と組み合わされた、試料の荷電粒子(例えば、イオンまたは電子)衝撃の組合せに基づく高解像度イメージングのためのもう1つの技術を開発した。荷電粒子は、試料からの材料の除去を達成しながら、さらに緊密に集束することができるため、この場合も、この手段によって、従来のレーザアブレーションに基づく技術よりも高い解像度を達成することができる。イオン光学系を使用して、荷電粒子を試料に向けて導いてもよく、および/またはイオン化試料を質量分析計(例えば、TOFまたは磁気セクタ検出器)に導いてもよい。イオン光学系は、電子顕微鏡またはイオン顕微鏡に使用されるものと類似していてもよい。イオン光学系は、イオン走査光学系(例えば、試料を横断して荷電粒子を走査するため)、イオン集束光学系(例えば、スポットサイズを決定するため、または検出器に向けて試料イオンを集束させるため)、およびイオン加速光学系(試料に衝突する荷電粒子のエネルギーを決定するため、または検出器に向けてイオンを加速するため)を含み得る。イオン光学系は、適切な形状、電荷および/または配向の1つ以上の帯電表面(例えば、プレート)を備え得る。
【0013】
したがって、本発明による1つの装置の動作では、試料は装置に取り込まれ、サンプリングされて、光学系を備えるレーザシステムを使用してイオン化された材料が生成され、レーザシステムでは、浸漬レンズを通してレーザ放射線が試料上に導かれ(サンプリングにより、蒸気状/特定の材料が生成され得、続いてこれがイオン化システムによってイオン化される)、試料材料のイオンは検出器システムに通される。
【0014】
したがって、本発明による別の装置の動作では、試料は装置に取り込まれ、電子顕微鏡(例えば、透過型電子顕微鏡)を使用してイメージングされ、次いで、サンプリングおよびイオン化システムを使用してサンプリングされてイオン化された材料が生成され(サンプリングにより、イオンが生成され得るか、非荷電の蒸気状/特定の材料が生成され得(または非荷電の蒸気状/特定の材料は、サンプリング時に形成された任意のイオンを中和する電荷によって形成され得る)、後者の場合、非荷電の蒸気状/特定の材料は続いて別個のイオン化システムによってイオン化される)、試料材料のイオンは検出器システムに通される。
【0015】
最後に、本発明の追加の装置の動作では、試料は装置に取り込まれ、サンプリングされて、スパッタリングに基づくサンプリングシステム(荷電粒子に基づくサンプリングシステム)を使用して材料が生成され、試料から試料材料をスパッタリングした後、またはサンプリング時に、レーザポストイオン化システムによって試料材料がイオン化され、試料材料のイオンが検出器システムに通される。
【0016】
本発明の装置の検出器システムは多くのイオンを検出することができるが、これらのほとんどは、試料を自然に構成する原子のイオンである。場合によっては、例えば、生体試料を分析する場合、試料の天然元素組成は、好適に情報を与えないことがある。これは、典型的には、あらゆるタンパク質および核酸は同じ主要構成原子から構成されており、したがって、タンパク質/核酸を含む領域と、そのようなタンパク質性または核酸材料を含まない領域とを区別することは可能であるが、特定のタンパク質と他のあらゆるタンパク質とを区別することは不可能であるためである。ただし、通常の条件下で分析される材料中に存在しない原子、または少なくとも相当な量では存在しない原子(例えば、希土類金属などの特定の遷移金属原子;詳細については、以下の標識に関するセクションを参照)を用いて試料を標識することによって、試料の特定の特性を決定することができる。IHCおよびFISHと同様に、検出可能な標識は、特に、試料上または試料中の分子を標的とする抗体、核酸またはレクチンなどのSBPを使用することによって、試料上または試料中の特定の標的(スライド上で固定された細胞または組織試料など)に結合させることができる。イオン化された標識を検出するために、試料中に天然に存在する原子からのイオンを検出するように、検出器システムが使用される。検出された信号を、これらの信号を生じさせた試料のサンプリングの既知の位置に関連付けることによって、天然元素組成および任意の標識原子の両方の各位置に存在する原子の画像を生成することが可能である。試料の天然元素組成が検出前に枯渇している態様では、画像は標識原子のみのものであり得る。この技術は、多くの標識を並行して分析することを可能にし(多重化とも呼ばれる)、これは、生体試料を分析する際に大きな利点であり、本明細書に開示される装置および方法では、レーザ走査システムの適用により速度が向上している。
【0017】
したがって、本発明は、生体試料を分析するための装置であって、
試料ステージと、
レーザ源と、
対物レンズを備える集束光学系であって、レーザ源からの放射線ビームを試料ステージ上の位置に向けて導くように適合された集束光学系とを備え、
装置が、対物レンズと試料ステージとの間に配置された浸漬媒体をさらに備える装置を提供する。
【0018】
本発明はまた、
電子顕微鏡用の造影剤を用いて試料を染色すること、
標識原子により試料を標識することを含む、分析のための生体試料を調製する方法を提供する。
【0019】
本発明はまた、
電子顕微鏡によって試料をイメージングすること、
レーザ源から放出された放射線ビームを試料上の位置に向けて導いて、試料材料のアブレーションされたプルームを生成すること、
試料材料のアブレーションされたプルームをイオン化すること、および
試料材料から試料イオンを検出することを含む、生体試料を分析する方法を提供する。
【0020】
本発明はまた、
試料ステージと、
荷電粒子源、および荷電粒子ビームを試料ステージ上の位置に通過させるための荷電粒子カラムと、
第1のレーザ源、および第1のレーザ源によって放出されたレーザビームを試料ステージに向けて導くように構成された第1の集束光学系とを備える、生体試料を分析するための装置を提供する。
【0021】
本発明はまた、荷電粒子ビームを試料上の位置に向けて通過させて、試料から材料をスパッタリングすること、スパッタリングされた試料材料をレーザ放射線パルスにより照射して、試料イオンを含む材料のプルームを生成すること、および質量分析によって上記試料イオンを検出することを含む、生体試料を分析する方法を提供する。
【0022】
本発明はまた、荷電粒子ビームを試料上の位置に向けて通過させて、試料上に試料点火状態をもたらすこと、レーザ放射線パルスにより試料を照射して、その位置からの試料イオンを含む試料材料のプルームを生成すること、および質量分析によって上記試料イオンを検出することを含む、生体試料を分析する方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】以前の装置設定の光学系の概略図である。
図2】別の以前の装置設定の光学系の概略図である。
図3】本発明の例示的な実施形態の光学系配置の概略図である。
図4】本発明のさらなる例示的な実施形態の光学系配置の概略図である。
図5a】本発明の別の例示的な実施形態の光学系配置の概略図であり、半球状固体浸漬レンズを通るレーザビームの経路を示している。
図5b】本発明の別の例示的な実施形態の光学系配置の概略図であり、ワイエルシュトラス固体浸漬レンズを通るレーザビームの経路を示している。
図6】レーザポストイオン化を使用して生体試料を分析するための装置の光学系配置の概略図である。
図7】試料のレーザポンピングを使用して生体試料を分析するための装置の光学系配置の概略図である。
図8】試料キャリアを介して、試料のレーザポンピングを使用して生体試料を分析するための装置の光学系配置の概略図である。
図9】試料キャリアを介して、試料のレーザポストイオン化を使用して生体試料を分析するための装置の光学系配置の概略図である。
図10】1つはレーザポストイオン化用であり、もう1つは試料のレーザポンピング用である少なくとも2つのレーザ源を備える、生体試料を分析するための装置の光学系配置の概略図である。
図11】本発明の例示的な方法に従って調製された試料中の様々なオスミウム同位体の検出を示す画像を示す。
図12図11に使用される本発明の例示的な方法に従って調製された試料中の様々なオスミウム同位体の検出を示す画像を示す。図12は、250nmの工程サイズで2100×1087マイクロメートルの領域を示している。
図13】2パルスサンプリングおよびイオン化システムの概略図である。
図14】第1および第2のパルスが同じ側から標本上に集束される2パルスサンプリングおよびイオン化システムの概略図である。
図15】試料が第1および第2のパルスに対して少なくとも半透明である材料上に置かれている2パルスサンプリングおよびイオン化システムの概略図である。
図16】対物レンズが、アブレーション後に生成されたイオンを通過させる開口部を有する2パルスサンプリングおよびイオン化システムの概略図である。
図17】3パルスサンプリングおよびイオン化システムの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
したがって、様々なタイプの分析計装置を本開示の実施に使用することができ、その多く、例えば、浸漬レンズを備える装置、電子顕微鏡(またはその構成要素)を備える装置、および二次中性質量分析を行うための装置を以下に詳細に説明する。
【0025】
質量検出に基づく分析計装置
1.サンプリングおよびイオン化システム
a.レーザアブレーションサンプリングおよびイオン化システム
レーザアブレーションに基づく分析計は、典型的には、3つの構成要素を備える。1つ目は、分析のために試料から蒸気状および微粒子状材料のプルームを生成するためのレーザアブレーションサンプリングシステムである。検出器システム、すなわち質量分析計構成要素(MS構成要素;第3の構成要素)によって、アブレーションされた試料材料(以下に説明される任意の検出可能な標識原子を含む)のプルーム中の原子を検出し得る前に、試料をイオン化(および霧化)しなければならない。したがって、装置は、質量/電荷比に基づくMS構成要素による検出を可能にするために、原子をイオン化して元素イオンを形成するイオン化システムである第2の構成要素を備える(試料材料の一部のイオン化がアブレーションの時点で起こり得るが、空間電荷効果が電荷のほぼ即時の中和をもたらす)。レーザアブレーションサンプリングシステムは、移送導管によってイオン化システムに接続される。
【0026】
レーザアブレーションサンプリングシステム
要約すると、レーザアブレーションサンプリングシステムの構成要素は、試料に導かれるレーザ放射線ビームを放出するレーザ源を含む。試料は、レーザアブレーションサンプリングシステム内のチャンバ(試料チャンバ)内のステージ上に配置される。ステージは、通常、並進ステージであるため、試料はレーザ放射線ビームに対して移動することができ、それによって、試料上の異なる位置が、分析のためにサンプリングされ得る(例えば、レーザビーム(本明細書では、レーザビームという用語は、レーザ放射線という用語と区別なく使用され得る)内の相対移動の結果としてアブレーションされ得るよりも互いに離れた位置が、本明細書に記載されるレーザ走査システムによって誘発され得る)。以下にさらに詳細に説明されるように、ガスが試料チャンバを通って流れ、ガスの流れが、レーザ源が試料をアブレーションする際に生成されるエアロゾル化した材料のプルームを運び去り、その元素組成(元素タグからの標識原子などの標識原子を含む)に基づいて試料の画像が分析および構築される。以下にさらに説明されるように、代替の作業様式では、レーザアブレーションサンプリングシステムのレーザシステムを使用して、試料から材料を脱離させることもできる。
【0027】
特に生体試料(細胞、組織切片など)の場合、試料は不均質であることが多い(ただし、不均質な試料は、本開示の他の適用分野、すなわち非生物学的性質の試料では公知である)。不均質な試料とは、異なる材料から構成される領域を含む試料であり、したがって、試料の一部の領域は、所与の波長では他の領域よりも低い閾値フルエンスでアブレーションする可能性がある。アブレーション閾値に影響を与える要因は、材料の吸光係数、および材料の機械的強度である。生体組織では、吸光係数は、レーザ放射線波長によって数桁変化し得るため、支配的な影響を有する。例えば、生体試料では、ナノ秒レーザパルスを利用する場合、タンパク質性材料を含有する領域は、200~230nmの波長範囲で比較的容易に吸収するのに対して、DNAを主に含有する領域は、260~280nmの波長範囲で比較的容易に吸収する。
【0028】
試料材料のアブレーション閾値に近いフルエンスでレーザアブレーションを行うことが可能である。この方法でアブレーションすると、エアロゾル形成が改善されることが多く、ひいては、分析後のデータの品質を改善するのに役立ち得る。多くの場合、最小のクレータを得、得られた画像の解像度を最大化するために、ガウスビームが使用される。ガウスビームを横断する断面は、ガウス分布を有するエネルギー密度分布を記録する。その場合、ビームのフルエンスは中心からの距離に応じて変化する。結果として、アブレーションスポットサイズの直径は、2つのパラメータ、すなわち、(i)ガウスビームウエスト(1/e)、および(ii)適用されたフルエンスと閾値フルエンスとの比の関数である。
【0029】
したがって、各アブレーティブレーザパルスによる再現可能な量の材料の一定した除去を確実にし、ひいては、イメージングデータの品質を最大化するために、一定したアブレーション直径を維持することが有用であり、これは、ひいては、レーザパルスによって標的に供給されるエネルギーと、アブレーションされる材料のアブレーション閾値エネルギーとの比を調整することを意味する。この要件は、閾値アブレーションエネルギーが試料全体にわたって変化する不均質な試料、例えば、DNAとタンパク質材料との比が変化する生体組織、または試料の領域内の鉱物の特定の組成とともに変化する地質試料をアブレーションする場合の問題を表す。これに対処するために、1つの試料上の同じアブレーション位置に複数の波長のレーザ放射線を集束させて、その位置での試料の組成に基づいて試料をさらに効果的にアブレーションすることができる。
【0030】
レーザアブレーションサンプリングシステムのレーザシステム
レーザシステムは、単一または複数(すなわち、2つ以上)の波長のレーザ放射線を生成するように設定することができる。典型的には、説明されているレーザ放射線の波長は、最も高い強度を有する波長(「ピーク」波長)を指す。システムが様々な波長を生成する場合、それらは様々な目的のために、例えば、試料中の様々な材料を標的とするために使用され得る(本明細書では、標的とするとは、選択される波長が材料によってよく吸収されるものであることを意味する)。
【0031】
複数の波長が使用される場合、レーザ放射線の2つ以上の波長のうちの少なくとも2つは、別個の波長であり得る。したがって、第1のレーザ源が第2の波長の放射線とは別個の第1の波長の放射線を放出する場合、第1の波長のパルスの第1のレーザ源によって第2の波長の放射線は生成されないか、第2の波長の非常に低レベルの放射線、例えば、第1の波長での強度の10%未満、例えば、5%未満、4%未満、3%未満、2%未満または1%未満が生成されることを意味する。典型的には、様々な波長のレーザ放射線が高調波発生または他の非線形周波数変換プロセスによって生成され、次いで、特定の波長が本明細書で言及される場合、当業者であれば、レーザによって生成されたスペクトルの指定された波長についてある程度の変動があることを理解するであろう。例えば、Xnmへの言及は、X±5nm、例えば、X±3nmなど、X±10nmの範囲のスペクトルを生成するレーザを包含する。
【0032】
集束光学系および対物レンズ
常用的な配置の問題として、光学部品を使用して、レーザ放射線ビームを集束スポットに導くことができる。図1は、以前の装置設定の光学系の概略図である。ここで、レーザ源(例えば、場合によりパルスピッカを組み込んだパルスレーザ源)101はレーザ放射線ビームを放出し、レーザ放射線ビームは、エネルギー制御モジュール102、次いで光学系103を介して導かれる。次いで、放射線ビームは、ビーム/照射複合光学系104によって、集束光学系および対物レンズ105を介して、試料に向けて導かれる。試料は、試料チャンバ106内の試料ステージ107上にある。試料ステージ107(例えば、スライドガラス)は、試料チャンバ106内の3軸(すなわち、x、y、z)並進ステージ108上に取り付けられ得る。図1の設定はまた、同じ集束光学系および対物レンズ105を使用して試料を観察するためのカメラ111を備える。照射源109は可視光を放出し、可視光は、照射/検査分割光学系110によって、ビーム/照射複合光学系104および集束光学系105を介して、試料に導かれる。
【0033】
以前の装置設定の代替の配置を図2に示す。ここで、試料215は、試料ステージ207の、対物レンズ205とは反対側に配置され、レーザ放射線は、試料ステージ207または試料チャンバを介して試料215をアブレーションする。場合によっては、試料チャンバは真空または部分真空下に保持される。光線図の線は、レーザビーム216が対物レンズ205からスライドガラス207を通る可能性のある経路を表すように示されている。
【0034】
上記のように、従来のIMCおよびIMSで200nm未満、例えば150nm未満、例えば100nm未満の空間解像度を達成する際の主要な課題の一つは、レーザのスポットサイズを200nm未満(例えば、150nm未満または100nm未満)のサイズに制限することである。開口数(NA)が0.7を超えるシステムでは、レーザのスポットサイズの半値全幅値は
【数1】
によって定義され、式中、λはレーザ光(本明細書ではレーザ放射線と区別なく使用される)の波長であり、NAは集束光学系の対物レンズ105、205の開口数である。したがって、従来のIMCおよびIMSでは、波長213nmの深紫外レーザなどのさらに短波長のレーザ、または0.7を超える、例えば0.8を超えるNA、例えば高いNA(0.9超)を有する集束光学系が、レーザスポットサイズのサイズを縮小し、ひいては解像度を改善するために使用される。
【0035】
ただし、レンズの開口数はNA=n×sinθとして表され、式中、nはレンズと試料ステージ107、207との間の媒体の屈折率であり、θは対物レンズの受光角の半分である。したがって、真空の屈折率が1.0であり、空気の屈折率が約1.0であるため、典型的なIMCおよびIMSでは、対物レンズ(図1および図2に示される以前の装置設定の対物レンズ105、205など)の最大理論開口数は1.0に制限される。
【0036】
浸漬レンズ
本発明は、浸漬媒体を利用することによって、従来のIMCおよびIMSの限界を克服する。浸漬媒体は、1.0を超える屈折率を有し、対物レンズと試料ステージとの間に配置される。このように、本発明の装置は、1.0を超える開口数を達成し、したがって、レーザのスポットサイズは、200nm未満、150nm未満または100nm未満である。したがって、本発明は、200nm以上、150nm以上または100nm以上の空間解像度を有するイメージングマスサイトメトリーのための装置を提供する。
【0037】
したがって、本発明は、レーザサンプリングシステムであって、
試料ステージと、
レーザ源と、
対物レンズを備える集束光学系であって、レーザ源からの放射線を試料ステージ上の位置に向けて導くように適合された集束光学系とを備え、
レーザサンプリングシステムが、対物レンズと試料ステージとの間に配置された浸漬媒体をさらに備えるレーザサンプリングシステムを提供する。
【0038】
したがって、本発明は、生体試料を分析するための装置であって、
試料ステージと、
レーザ源と、
対物レンズを備える集束光学系であって、レーザ源からの放射線を試料ステージ上の位置に向けて導くように適合された集束光学系とを備え、
装置が、対物レンズと試料ステージとの間に配置された浸漬媒体をさらに備える装置を提供する。
【0039】
典型的には、装置はまた、質量分析に基づく検出器を含む。
【0040】
したがって、動作中、試料ステージは試料を保持し、典型的には、試料は試料キャリア上にあり、同じステージが試料キャリアを保持する。次いで、レーザ放射線が装置の光学系を介して、対物レンズと浸漬媒体とを介して試料に導かれ、そこで放射線が試料から材料をアブレーションする。
【0041】
レーザの最適な集束条件を達成するために、本発明の浸漬媒体は、1.00超、例えば、1.33以上、1.50以上、2.00以上または2.50以上の屈折率を有する。
【0042】
さらに、本明細書でさらに説明されるように、生体細胞の厚さの(または厚さよりも小さい)単層の画像を再構築するため、またはさらに厚い標本を層ごとに読み取り3D画像を生成するために、試料は、好ましくは、100マイクロメートル以下、例えば、10マイクロメートル以下、5マイクロメートル以下、2マイクロメートル以下、または100nm以下、または50nm以下、または30nm以下の厚さを有する。本明細書でさらに詳細に説明されるいくつかの実施形態では、対物レンズと浸漬媒体との組合せは、浸漬レンズと呼ばれる。
【0043】
いくつかの実施形態では、浸漬媒体を備える上記の装置またはサンプリングシステムは、0.7以上、0.8以上または0.9以上のNAなどの中または高NA対物レンズを備える。そのようなシステムは、典型的には、TOF質量分析検出器などの質量検出器も備える。
【0044】
液浸媒体
本発明のいくつかの実施形態では、浸漬媒体は液浸媒体であり、図3は、本発明の例示的な実施形態の光学系配置の概略図である。これは、図1および図2に示される設定と共通の要素を含む。対物レンズ305を備える集束光学系は、放射線ビーム316をレーザ源(源は示されていない)から試料ステージ307上の位置に向けて導き、液浸媒体312は、対物レンズ305と試料ステージ307との間に配置される。ここで、生体試料315が、試料ステージ307の、液浸媒体312とは反対側に配置される。光線図は、液浸媒体312が、図2に示される従来の設定よりも緊密な集束条件をどのように提供するかを示している。液浸媒体に適した液体は、1.333の屈折率nを有する水、グリセリン(n=1.4695)、パラフィン油(n=1.480)、セダーウッド油(n=1.515)および合成油(n=1.515)などの油、またはアニソール(n=1.5178)、ブロモナフタレン(n=1.6585)およびヨウ化メチレン(n=1.740)である。市販の浸漬油も入手可能であり、これらの市販の油のいくつかは、本発明での用途に特に有利な特性を有する。例えば、Olympus Low Auto Fluorescence Immersion OilおよびNikonなどの低蛍光性または非蛍光性の浸漬油は、一般的な汎用の浸漬油よりも改善された信号対雑音比を提供するため、短波長レーザとともに使用するのに特に有用である。対物レンズ305と試料ステージ307との間の距離が大きい場合に使用されるCargille labsタイプNVHおよびOVHなどの他の油は、非常に高い粘度を有する。
【0045】
市販の油浸対物レンズは、約1.49(浸漬油の屈折率に近い)の最大開口数を達成することができ、約160nmのFWHM焦点直径に515nmのレーザビームを集束させることができる。
【0046】
液浸媒体を使用する場合、キャリアガスが、アブレーションされた材料を収集することができるように、試料キャリアの、液体媒体とは反対側に(図3に示すように)試料を配置する必要がある。したがって、ここでは試料キャリアを通したアブレーション技術を適用しなければならない。これは、アブレーション材料収集ハードウェアのための比較的小さい達成可能な作動距離という追加の利点を有し、試料チャンバと検出器との間の輸送導管を曲げる必要がない。これはまた、トランジェント時間を短縮し、したがって、1秒当たりのスポット内で達成可能なアブレーション速度を増加させる。
【0047】
液浸レンズ(例えば、水中対物レンズ(objective-in-water lense)または油中対物レンズ(objective-in-oil lense))は、Olympus、ThorLabsおよびLeicaから市販されている。
【0048】
固体浸漬媒体
本発明のいくつかの実施形態では、本発明は、浸漬媒体が固体浸漬媒体である装置を提供する。図4は、固体浸漬413が対物レンズ405と試料ステージ407との間に配置されている、本発明のさらなる例示的な実施形態の光学系配置の概略図である。図4の他の構成要素は、図3の構成要素に対応する。
【0049】
液浸媒体と同様に、固体浸漬レンズの屈折率nは空気よりも大きい。固体浸漬レンズに適した材料は、約520nmの波長で動作する際に2.0の屈折率を有するS-LAH79(商標)ガラスタイプなどのガラスである。本発明の固体浸漬媒体に適した代替の材料は、ダイヤモンドまたは溶融シリカである。266nmでは、ダイヤモンドは、UV中で>2.5の屈折率を有するため、光学的用途によく適しており、266nmの光を100nmのスケールまたはそれ未満のスポットサイズに集束させる機会を提供する。溶融シリカは、コストの観点からさらに魅力的であり得る。溶融シリカは、標本基板としても固体浸漬レンズ材料としても実用的である。ただし、UV中の溶融シリカの屈折率はわずか約1.5であり、そのためスポットサイズは比例して大きくなる。
【0050】
固体浸漬媒体には、2つの標準的な光学スキーム、半球状浸漬レンズおよびワイエルシュトラス浸漬レンズがある。
【0051】
半球状固体浸漬レンズ:
図5a)は、半球状固体浸漬レンズの形状を示している。半球状固体浸漬レンズは、レンズの材料の屈折率nだけ光学系の開口数を増加させることができる。
【0052】
ワイエルシュトラス固体浸漬レンズ:
図5b)は、ワイエルシュトラス固体浸漬レンズの形状を示している。ワイエルシュトラス固体浸漬レンズは、頭の切られた球であり、スライドガラス507から(1+1/n)rの高さを有し、式中、rはレンズの球面の半径である。ワイエルシュトラスレンズは、光学系の開口数をnだけ増加させることができるため、半球状レンズよりも光学系の開口数をさらに増加させることができる。
【0053】
したがって、本発明は、固体浸漬媒体が半球状固体浸漬レンズまたはワイエルシュトラス固体浸漬レンズである装置を提供する。図3および図4に示すように、生体試料315、415が試料ステージ307、407に載せられる場合、生体試料は、試料ステージの、固体浸漬材料とは反対側に載せられ得る。試料が載せられるステージは、固体浸漬レンズと同じ屈折率の材料から作製することができ、固体浸漬レンズは、焦点位置を維持するために、基板の厚さに等しい量だけ薄くすることができる。
【0054】
浸漬レンズと生体試料との組合せ
対物レンズと試料ステージとの間に配置された浸漬媒体を備える本発明は、本明細書に記載の本発明の他の方法(112ページ)に従って調製された生体試料を分析するために使用される場合、さらなる利点を提供する。特に、本発明は、生体試料が100マイクロメートル以下、例えば10マイクロメートル以下、または100nm以下、または50nm以下、または30nm以下の厚さを有する場合にさらなる利点を提供する。
【0055】
例えば、対物レンズと試料ステージとの間に浸漬媒体を備える本発明の装置を使用して、100nm以下、例えば50nm以下、または30nm以下の厚さの生体試料を分析することができる。本発明の装置は、200nm以上(好ましくは100nm以下)の空間解像度を有するイメージングマスサイトメトリーのための装置を提供するため、レーザのスポットサイズは200nm以下(好ましくは100nm以下)であり、したがって、アブレーション深度は、典型的には、200nm以下(好ましくは100nm以下)である。したがって、本発明を使用して厚さ200nm以下の生体試料を分析すると、試料全体にわたって(または、レーザスポットサイズが100nm以下である場合、好ましくは100nm以下)アブレーションすることになる。このように、本発明は、生体細胞の連続した切片とともに装置を利用することによって、生体細胞の厚さの単層の画像を再構築する可能性を提供する。
【0056】
あるいは、対物レンズと試料ステージとの間に浸漬媒体を備える本発明の装置を使用して、100マイクロメートル以下、例えば10マイクロメートル以下、5マイクロメートル以下、2マイクロメートル以下の生体試料を分析することができる。上記のように浸漬媒体によるレーザビームの鋭い集束は、非常に短い焦点深度をもたらす。したがって、本発明は、比較的厚い標本を層ごとに読み取り、3D画像を生成する機会を提供する。当業者であれば、比較的厚い標本のこの分析は、試料が均質であるほど容易になることを理解するであろう。均質でない組織試料では、レーザが組織を通過する際に生じるレーザ光の歪みにより、予測よりも大きなスポットサイズが焦点にもたらされ得る。
【0057】
したがって、本発明は、生体試料を備えるイメージングマスサイトメータまたはイメージング質量分析計を提供し、生体試料は、100nm未満、例えば、50nm未満または30nm未満の厚さを有する。本発明はまた、生体試料を備えるイメージングマスサイトメータまたはイメージング質量分析計を提供し、生体試料は、100nm未満、例えば、50nm未満または30nm未満の厚さを有し、イメージングマスサイトメータまたはイメージング質量分析計は、固体浸漬レンズを備える。本発明はまた、生体試料を備えるイメージングマスサイトメータまたはイメージング質量分析計を提供し、生体試料は、100nm未満、例えば、50nm未満または30nm未満の厚さを有し、イメージングマスサイトメータまたはイメージング質量分析計は、固体浸漬レンズを備える。
【0058】
薄い生体試料と組み合わせた浸漬レンズの代替品:
上記のように、従来のIMCおよびIMSでは、波長213nmの深紫外レーザなどの短波長のレーザ、または0.6を超える、例えば0.7を超える、例えば0.8を超えるn NA、例えば高いNA(0.9超)を有する集束光学系が、レーザスポットサイズのサイズを縮小し、ひいては解像度を100nmに向上させるために使用される。
【0059】
高NA対物レンズは、屈折光学部品および/または反射光学部品であり得る。例えば、非球面鏡を使用して、反射対物レンズが最大0.99の開口数を有することを可能にすることができる(Inagawaら、Scientific Reports 5,12833(2015))。反射屈折鏡システムも使用され得る。さらに、波長266nmのレーザ、または213nm、193nmの固体レーザ、またはND:Yag,ArF,Fレーザ、13.5nmおよび7nmの波長(COレーザ+Snプラズマ)などの極端UV光からの6次高調波発生を使用することにより、短波長レーザ(300nm以下)を提供することが可能である。
【0060】
したがって、本発明は、生体試料を分析するための装置であって、
第1の面および第2の面を備える試料ステージであって、第1の面および第2の面が対向し、第1の面が生体試料を受け入れるように適合される試料ステージと、
レーザ源と、
対物レンズを備える集束光学系であって、放射線ビームをレーザ源から第2の面に向けて試料ステージ上の位置に導くように適合された集束光学系とを備え、
対物レンズが、少なくとも0.7、少なくとも0.8または少なくとも0.9、例えば少なくとも0.9の開口数を有する装置を提供する。
【0061】
したがって、本発明は、生体試料を分析するための装置であって、
第1の面および第2の面を備える試料ステージであって、第1の面および第2の面が対向し、第1の面が生体試料を受け入れるように適合される試料ステージと、
レーザ源と、
対物レンズを備える集束光学系であって、放射線ビームをレーザ源から第2の面に向けて試料ステージ上の位置に導くように適合された集束光学系とを備え、
レーザ源が、300nm以下の波長を有する装置を提供する。
【0062】
したがって、本発明は、生体試料を分析するための装置であって、
第1の面および第2の面を備える試料ステージであって、第1の面および第2の面が対向し、第1の面が生体試料を受け入れるように適合される試料ステージと、
300nm以下の波長を有するレーザ源と、
対物レンズを備える集束光学系であって、放射線ビームをレーザ源から第2の面に向けて試料ステージ上の位置に導くように適合された集束光学系とを備え、
対物レンズが、少なくとも0.7、少なくとも0.8または少なくとも0.9、例えば少なくとも0.9の開口数を有する装置を提供する。
【0063】
本明細書にさらに記載されるように、アブレーションされた材料は、例えば、顕著な電荷中和点(イオン化/再イオン化後)を越えて膨張したアブレーションプルームのレーザイオン化によって、試料の表面近くでイオン化または再イオン化され得る。そのようなシステムおよび方法では、イオン化のためにICPにプルームを送達する必要がないため、ガス流体素子は必要ない場合がある。代わりに、試料の近くに配置されたイオン光学系が、イオン化された標識原子を質量分析計(例えば、TOFまたは磁気セクタ質量分析計)に直接導き得る。本明細書に記載されるように、特定の場合では、小さなアブレーションスポットサイズは、アブレーション中に生成されるイオンの中和および空間電荷効果を低減し、イオン化と、イオンを質量分析計に導くこととを容易にし得る。このような場合、再イオン化のための第2のパルスは必要ない。試料ステージおよびすぐ周囲の光学系(例えば、高NAレンズおよび/または浸漬媒体)は、本明細書にさらに記載されるように、真空中、または低圧(例えば、衝突による電荷を低減するため)で操作され得る。
【0064】
当業者が理解するように、装置は、少なくとも0.9の開口数の対物レンズを有する集束光学系および/または300nm以下の波長を有するレーザ源を含み得る。さらに、高開口数または短波長は、本明細書に記載されるような浸漬レンズの代替として、またはそれに加えて使用することができるが、システムの他の構成要素は、浸漬レンズシステムの場合と同じままである。
【0065】
走査システム
特定の態様では、試料のアブレーションは、走査システムによって行われ得る。試料の一部全体にわたって、レーザビームまたは荷電粒子ビーム(イオンビームまたは電子ビームなど)源などの放射線源を走査させて、単一のトランジェント(例えば、アブレーションされた材料の単一のインスタンス)を生成してもよい。トランジェントは、MSによる検出の前に霧化およびイオン化のためにICPに送達されるアブレーションプルームであり得る。あるいは、トランジェントは、本明細書に記載されるように、試料の表面で、または試料の表面の近くでレーザ放射線によってイオン化され得る。イオンビームまたは電子ビームを用いて(例えば、イオン光学系を使用する)走査すると、試料の小さな関心領域(単一の細胞小器官など)を高解像度でアブレーションすることが可能になり得る。例えば、関心領域は、100,000nm未満、50,000nm未満、または20,000nm未満、または10,000nm未満の面積を有し得る。あるいは、関心領域は、単一の細胞、または細胞群など、さらに大きくてもよい。
【0066】
特定の実施形態では、レーザ走査システムは、アブレーション対象の試料上にレーザ放射線を導く。レーザスキャナは、静止したレーザビームに対して試料ステージを移動させるよりもはるかに速く、試料上のレーザ焦点の位置を再度導くことができるため(走査システムの操作可能な構成要素の慣性がはるかに小さいか、全くないため)、試料上の別個のスポットのアブレーションをさらに迅速に行うことができる。このさらに速い速度により、非常に大きな面積をアブレーションし、単一のピクセルとして記録することが可能になるか、レーザスポット移動の速度は、例えば、ピクセル取得速度の増加に単純に変換することができるか、その両方の組合せが可能である。加えて、レーザ放射線パルスを導くことができるスポットの位置の急速な変化は、任意のパターンのアブレーションを可能にし得、例えば、レーザスキャナシステムによって試料上の位置に導かれた急速な連続でのレーザ放射線パルス/ショットのバーストによって、不均一な形状の細胞全体がアブレーションされ、次いで、イオン化され、材料の単一の雲として検出され、ひいては、単一細胞分析を可能にする(33ページ以降の「レーザアブレーションサンプリングシステムの試料チャンバ」セクションを参照)。試料キャリアから試料材料を除去するために脱離を使用する方法、すなわち、細胞LIFTing(レーザ誘起前方転写(Laser Induced Forward Transfer))にも、同様の急速バースト技術を展開することができる。
【0067】
したがって、本発明は、
(i)試料から材料を除去し、上記材料をイオン化して元素イオンを形成するためのサンプリングおよびイオン化システムであって、レーザ走査システムおよび試料ステージを備えるサンプリングおよびイオン化システム、
(ii)上記サンプリングおよびイオン化システムから元素イオンを受け入れ、上記元素イオンを検出するための検出器を備える、生体試料などの試料を分析するための装置を提供する。
【0068】
同様に、この特徴の組合せは、当業者によって適切に理解されるように、本明細書に記載の他の実施形態のいずれかと組み合わせられ得る。取得速度を増加させるための走査システムの使用は、試料がイメージングされる速度を増加させるための他の戦略よりも多くの利点を提供する。例えば、適切に適合された装置を使用して、単一のレーザパルスにより、100μm×100μmの面積をアブレーションすることができる。ただし、そのようなアブレーションは多くの問題をもたらす。単一のレーザパルスにより試料の大きな面積を一度にアブレーションすると、アブレーションされた材料は、小さな粒子ではなく、音速に近い速度で最初に飛行する大きな塊に分割され、材料がキャリアガスの流れの中で試料から迅速に輸送されず(以下にさらに詳細に説明される)、大きな塊は、小さな塊よりも取り込まれるのに時間がかかり(試料チャンバのウォッシュアウト時間が延び)、取り込まれるのに失敗するか、単に試料から離れて、または試料の別の部分の上にランダムに飛散する。材料の大きな塊が試料から飛散すると、標識原子などの検出可能な原子の形をした材料の塊の情報は失われる。材料の塊が試料の別の部分に着地すると、アブレーションされた領域から情報が失われ、さらに、材料の塊内に何らかの検出可能な原子が存在し、試料の別の部分から取得されるであろう信号に干渉する可能性がある。アブレーションされたスポット内の生体材料の差(例えば、軟骨性材料対筋肉)も、生成物がどのように分解されるかに影響を及ぼし得るため、アブレーションスポットサイズが大きくなっても試料の分画を悪化させ、いくつかの種類の材料が他よりも低い程度にガスの流れに取り込まれる可能性がある。さらに、本明細書に記載されるように、多くの用途では、数百μmではなくμmのオーダーの小さなスポットサイズが好ましく、数桁異なる(例えば、100μm対1μm)レーザスポットサイズ間の切替えも技術的課題を提示する。例えば、1μmのスポットサイズでアブレーションすることができるレーザは、単一のレーザパルスでは、100μmのスポットサイズを有する領域をアブレーションするためのエネルギーを有しない場合があり、レーザビームのエネルギーを著しく損失することなく、またはアブレーションスポットの鋭さを損失することなく、1μmと100μmとの間の遷移を容易にするために精巧な光学系が必要とされる。
【0069】
したがって、100μmの単一スポットをアブレーションするのではなく、100×100(すなわち、10,000)の直径1μmのスポットを使用して、領域全体にわたりラスタ化することによって、その領域をアブレーションすることができる。アブレーションの比較的小さなスポットサイズは、当然ながら、上記の問題からそれほど大きな影響を受けない。必然的に、比較的小さなアブレーションスポットによって生成される粒子自体は、サイズがはるかに小さくなる。さらに、スポットが小さくなると、アブレーションから生じる比較的小さな粒子では、試料チャンバからのウォッシュアウト時間が短縮され、さらに明確になる。比較的小さなスポットの各々が別個に解像されることが望まれる場合、これは、各アブレーティブレーザパルスからのトランジェントが検出器で検出された際に重複しない(または、以下に説明するように、許容できる程度に重複する)ため、データをさらに迅速に取得することができるという結果をもたらす。
【0070】
ただし、試料ステージを1μm刻みで行に沿って移動させ、次いで行を下に移動させることは、上述したように慣性のために比較的遅くなる。したがって、試料ステージを移動させることなく、または試料ステージを比較的少ない頻度でもしくは一定速度で移動させ、レーザスキャナシステムを使用して領域全体にわたりラスタ化することによって、試料ステージの速度が比較的遅くても、試料がアブレーションされ得る速度が制限されない。
【0071】
したがって、迅速な走査を可能にするために、レーザ走査システムは、レーザ放射線が試料上に導かれている位置を迅速に切り替えることができなければならない。レーザ放射線のアブレーション位置を切り替えるのにかかる時間は、レーザ走査システムの応答時間と呼ばれる。したがって、本発明のいくつかの実施形態では、レーザサンプリングシステムの応答時間は、1msよりも速く、500μsよりも速く、250μsよりも速く、100μsよりも速く、50μsよりも速く、10μsよりも速く、5μsよりも速く、1μsよりも速く、500nsよりも速く、250nsよりも速く、100nsよりも速く、50nsよりも速く、10nsよりも速く、または約1nsである。
【0072】
レーザ走査システムは、アブレーション中に試料が配置される試料ステージに対して少なくとも一方向にレーザビームを導くことができる。場合によっては、レーザ走査システムは、試料ステージに対して2つの方向にレーザ放射線を導くことができる。例として、試料ステージを使用して試料をX軸方向に段階的に移動させ、試料を横切ってY軸方向にレーザを掃引してもよい(相対移動の図については図7図9を参照)。1μmのスポットサイズを使用する場合、X軸方向の移動は1μm刻みであってよい。X軸の所与の位置でレーザ走査システムを使用して、Y軸方向に1μm離れた一連の位置にレーザを導くことができる。レーザ走査システムがY軸の異なる位置にレーザ放射線を導くことができる速度は、ステージがX軸方向に段階的に移動することができる速度よりもはるかに速いため、スキャナの動作のこの単純な例示では、アブレーション速度の顕著な増加が達成される。
【0073】
場合によっては、レーザ走査システムは、X軸およびY軸の両方にレーザビームを導く。したがって、この場合、さらに高度なアブレーションパターンを生成することができる。例えば、レーザ走査システムがX軸およびY軸の両方にレーザ放射線を導くことができる場合、試料ステージは、X軸方向に一定速度で移動し得る(これにより、行の開始/終了時の加速/減速以外に各行を横断する移動中の試料ステージの慣性に関連する非効率性を排除する)のに対して、レーザ走査システムは、試料ステージの移動を補償しながら、レーザ放射線パルスを試料上のカラムの上下に導く。この移動を達成するために、スキャナに対して三角波制御信号をX方向に印加し、鋸歯状波信号をY方向に印加することができる。あるいは、当業者が理解するように、使用される処理アルゴリズムに応じて、スキャナに対して鋸歯状駆動信号をY方向に印加することが望ましい場合がある。追加の代替案として、スキャナ構成要素のうちの1つをわずかに事前に回転させて、傾斜した走査パターンを事前に補償してもよい。いくつかの実施形態では、レーザ走査システムのコントローラは、試料ステージが移動する際に、レーザスキャナシステムに8の字パターンでビームを移動させる。
【0074】
したがって、レーザサンプリングシステムに使用されるレーザが十分に高い繰返し率を有する場合(以下に説明されるように)、試料上の異なる位置上へのレーザ放射線の(再)誘導が大幅に高速化され、試料の大きな領域をはるかに速くアブレーションすることが可能になる。例えば、1秒当たり5パルス未満しか試料上の異なる位置に導くことができない場合、1μmのスポットサイズでアブレーションを用いて1mm×1mmの領域を試験するのにかかる時間は2日を超える。200Hzの速度では、これは約80分であり、パルスの周波数がさらに増加するために分析時間がさらに短縮される。ただし、試料は多くの場合、大幅に大きくなる。組織切片を配置することができる平均的な顕微鏡スライドは25×75mmであり得る。これは、200Hzの速度でアブレーションするのに約110日かかる。ただし、レーザ走査システムを使用すると、例えば、試料ステージをX軸に沿って一定速度(1mm/s)で移動させ、レーザ走査システムによりレーザビームをY軸方向に前後に移動させる場合、時間を劇的に短縮することができる。レーザ走査システムは、ステージ運動の速度、この場合は500Hzに一致する速度でレーザ焦点の位置を走査することができる。これにより、この速度で、ラスタ化パターン内の隣接する線の間に1μmの間隔が生成される。次いで、最大レーザ繰返し率に応じて、レーザ走査システムによるレーザ放射線の偏向の程度が一致するように選択される。ここで、100ミクロンのピークツーピーク振幅を生成するには、100kHzのレーザ繰返し率が必要である。これにより、現行の装置の最大0.0004mm/sと比較して、装置は0.1mm/sを処理することができる。上記の110日の数字と比較すると、この段落で説明したレーザ走査システムでは、スライドの処理に約5時間かかるに過ぎない。
【0075】
別の用途は、任意のアブレーション領域成形である。高繰返し率レーザを使用すると、ナノ秒レーザが1つのパルスを送達するのと同時に、近接した間隔のレーザパルスのバーストを送達することができる。レーザパルスのバースト中にアブレーションスポットのXおよびY位置を迅速に調整することによって、任意の形状およびサイズのアブレーションクレータ(光の回折限界まで)を生成することができる。例えば、バースト内のnおよびn+1位置は、(n番目のスポットおよび(n+1)番目のスポットのアブレーションスポットの中心に基づいて)レーザスポット直径の10倍に等しい距離以下、例えば、スポットサイズの直径の8倍未満、5倍未満、2.5倍未満、2倍未満、1.5倍未満、約1倍、または1倍未満であってよい。この技術を使用する特定の方法については、32ページの以下の方法セクションで説明される。
【0076】
したがって、いくつかの実施形態では、レーザ走査システムは、試料ステージ(例えば、試料の表面に対するY軸)に対して、レーザによって放出されるレーザビームの第1の相対移動を付与するためのポジショナを備える。
【0077】
いくつかの実施形態では、レーザ走査システムのポジショナは、試料ステージに対するレーザビームの第2の相対移動を付与することができ、第1および第2の相対移動は平行ではなく、例えば、相対移動は直交している(例えば、第1の移動方向は試料の表面に対してY軸内にあり、第2の移動方向は試料の表面に対してX軸内にある)。
【0078】
いくつかの実施形態では、レーザ走査システムは、試料ステージに対してレーザビームの第2の相対移動を付与することができる第2のポジショナをさらに備え、第1および第2の相対移動は平行ではなく、例えば、相対移動は直交している(例えば、第1の移動方向は試料の表面に対してY軸内にあり、第2の移動方向は試料の表面に対してX軸内にある)。
【0079】
レーザ走査システム内のポジショナとして、試料の様々な位置にレーザ放射線を迅速に導くことができる任意の構成要素を使用することができる。以下に説明される様々なタイプのポジショナは市販されており、それぞれが固有の長所および制限を有することから、装置が使用される特定の用途に適切なように当業者が選択することができる。本発明のいくつかの実施形態では、以下に説明されるように、単一のレーザ走査システム内で、以下に説明される複数のポジショナを組み合わせることができる。ポジショナは、一般に、可動部品に依存してレーザビームに相対移動を導入するもの(その例には、ガルバノミラー、圧電ミラー、MEMSミラー、ポリゴンスキャナなどが挙げられる)と、そうでないもの(その例には、そのような音響光学装置および電気光学装置が挙げられる)とに分類することができる。先の文で列挙されるタイプのポジショナは、レーザ放射線ビームを様々な角度に制御可能に偏向させるように機能し、その結果、アブレーションスポットが並進する。レーザ走査システムは、単一のポジショナを備え得るか、ポジショナおよび第2のポジショナを備え得る。レーザ走査システム内に2つのポジショナが存在する「ポジショナ」および「第2のポジショナ」の説明は、レーザ放射線パルスがレーザ源から試料までの経路上でポジショナに衝突する順序を定義しない。
【0080】
ミラーが取り付けられたシャフト上のガルバノモータを使用して、試料上の様々な位置にレーザ放射線を偏向させることができる。移動は、固定磁石および可動コイル、または固定コイルおよび可動磁石を使用することによって達成することができる。固定コイルおよび可動磁石の配置により、応答時間がさらに迅速になる。典型的には、シャフトおよびミラーの位置を感知するセンサがモータ内に存在し、それによってモータのコントローラにフィードバックを提供する。1つのガルバノミラーは、1つの軸内でレーザビームを導くことができ、したがって、一対のガルバノミラーを使用して、この技術を使用してX軸およびY軸の両方向にビームを誘導することができる。
【0081】
ガルバノミラーの一つの強みは、大きな偏向角(例えば、固体偏向器(solid state deflector)よりもはるかに大きい)を可能にすることであり、これにより、試料ステージの移動頻度を少なくすることができる。ただし、モータおよびミラーの可動部品は質量を有し、慣性の影響を受けるため、部品の加速時間をサンプリング方法に合わせなければならない。典型的には、非共振ガルバノミラーが使用される。当業者が理解するように、共振ガルバノミラーを使用することができるが、レーザ走査システムのポジショナなどの共振部品のみを使用する装置は、任意の(ランダムアクセスとしても知られる)走査パターンを行うことができない。ガルバノミラー偏向器はミラーに基づいているため、レーザ放射線ビームの品質を低下させ、アブレーションスポットサイズを増加させる可能性があり、したがって、ビームに対するそのような影響を許容する状況に最も適用可能であることが当業者によって再び理解されるであろう。
【0082】
ガルバノミラーに基づく装置では、センサノイズまたはトラッキングエラーにより、位置決めに誤差が発生しやすい可能性がある。したがって、いくつかの実施形態では、各ミラーは位置センサに関連付けられており、このセンサは、ガルバノメータにミラーの位置をフィードバックして、ミラーの位置を精緻化する。場合によっては、位置情報は、ガルバノミラーに直列のAODまたはEODなどの別の構成要素に中継され、これにより、ミラー位置決め誤差を補正する。
【0083】
ガルバノミラーシステムおよび構成要素は、Thorlabs(NJ,USA)、Laser2000(UK)、ScanLab(Germany)およびCambridge Technology(MA,USA)などの様々な製造業者から市販されている。
【0084】
ガルバノミラーに基づくポジショナのみを備える実施形態では、アブレーティブレーザパルスを試料に導くことができる速度は、200Hz~1MHz、200Hz~100kHz、200Hz~50kHz、200Hz~10kHz、1kHz~1MHz、5kHz~1MHz、10kHz~1MHz、50kHz~1MHz、100kHz~1MHz、1kHz~100kHzまたは10kHz~100kHzであり得る。
【0085】
したがって、本発明のいくつかの実施形態では、レーザスキャナシステムは、ガルバノミラーアレイなどのガルバノミラーである1つ以上のポジショナを備える。
【0086】
図1は、以前の装置設定の光学系の概略図である。ここで、レーザ源(例えば、場合によりパルスピッカを組み込んだパルスレーザ源)101はレーザ放射線ビームを放出し、レーザ放射線ビームは、エネルギー制御モジュール102、次いで光学系103を介して導かれる。光学系103は、ビーム成形光学系を含み得る。次いで、放射線ビームは、ビーム/照射複合光学系104によって、集束光学系および対物レンズ105を介して、試料に向けて導かれる。試料は、試料チャンバ106内の3軸(すなわち、x、y、z)並進ステージ108上に配置されたガラス側107などの支持体上にあり得る。図1の設定はまた、同じ集束光学系および対物レンズ105を使用して試料を観察するためのカメラ111を備える。照射源109は可視光を放出し、可視光は、照射/検査分割光学系110によって、ビーム/照射複合光学系104および集束光学系105を介して、試料に導かれる。
【0087】
さらに高度な構成では、光学系(例えば、光学系103)は、試料を横断するレーザの走査を可能にするために、ポジショナ(例えば、本明細書に記載の可動ミラーまたはスキャナ)をさらに含み得る。例えば、レーザ放射線ビームが光学系203のビーム成形光学系によって成形される前に、ガルバノミラー、圧電ミラー、MEMSミラーまたはポリゴンスキャナなどのポジショナが、レーザ放射線ビームを偏向させる。例えば、ガルバノミラーに基づく装置内の単一のミラーは、一方向、例えば、試料に対するY軸方向のビームの走査を可能にする。ポジショナによって導入される偏向は、光学系全体にわたって伝達され、ミラーの位置に応じて試料上の様々な位置のアブレーションをもたらす。ポジショナは、レーザ放射線ビームによってアブレーションされた試料上の特定の位置を決定するために、試料ステージ上の位置と(例えば、コントローラによって)連携され得る。コントローラはまた、レーザパルスの生成を調整するためにレーザ源に接続し得る(その結果、ポジショナが位置間を移動している間ではなく、定義された位置にある際にレーザ源によってパルスが生成される)。
【0088】
ただし、単一のミラーポジショナの代わりに、一対のミラーポジショナを使用して、レーザ放射線ビームに偏向を誘発してもよい。本明細書の他の箇所で説明されるように、ミラー対は、2つの直交方向(XおよびY)での走査を提供するように配置することができ、これにより、試料ステージ上の試料の移動を補償することができる。
【0089】
同様に、ミラーが取り付けられたシャフト上の圧電アクチュエータをポジショナとして使用して、試料上の様々な位置にレーザ放射線を偏向させることができる。この場合も、質量を有する構成要素の移動に基づくミラーポジショナとして、本質的に慣性が存在し、したがって、この構成要素によるミラーの移動に固有の時間オーバーヘッドが存在する。したがって、このポジショナは、レーザ走査システムについてナノ秒応答時間が必須ではない特定の実施形態に適用されることが、当業者には理解されるであろう。同様に、圧電ミラーポジショナはミラーに基づいているため、レーザ放射線ビームの品質を低下させ、アブレーションスポットサイズを増加させる可能性があり、したがって、ビームに対するそのような影響を許容する状況に最も適用可能であることが当業者によって再び理解されるであろう。
【0090】
チルトチップミラー(tilt-tip mirror)配置に基づく圧電ミラーでは、XおよびY軸内の試料に対するレーザ放射線の誘導が単一の構成要素で提供される。
【0091】
圧電ミラーは、Physik Instrumente(Germany)などの供給業者から市販されている。
【0092】
したがって、本発明のいくつかの実施形態では、レーザスキャナシステムは、圧電ミラーアレイまたはチルトチップミラーなどの圧電ミラーを備える。
【0093】
圧電ミラーアレイまたはチルトチップミラーなどの圧電ミラーに基づくポジショナのみを備える実施形態では、アブレーティブレーザパルスを試料に導くことができる速度は、200Hz~1MHz、200Hz~100kHz、200Hz~50kHz、200Hz~10kHz、1kHz~1MHz、5kHz~1MHz、10kHz~1MHz、50kHz~1MHz、100kHz~1MHz、1kHz~100kHzまたは10kHz~100kHzであり得る。レーザ放射線を試料上に導く表面の物理的な移送に依存する第3の種類のポジショナは、MEMS(微小電気機械システム)ミラーである。この構成要素内のマイクロミラーは、静電効果、電気機械効果および圧電効果によって作動させることができる。このタイプの構成要素の多くの長所は、それらの小さいサイズ、例えば、軽量、装置内での位置決めの容易さ、および低電力消費などに由来する。ただし、レーザ放射線の偏向は、最終的には構成要素内の部品の移動に基づくため、部品は慣性を受ける。繰り返しになるが、MEMSミラーポジショナはミラーに基づいているため、レーザ放射線ビームの品質を低下させ、アブレーションスポットサイズを増加させ、したがって、当業者であれば、この場合も、レーザ放射線に対するそのような影響を許容する状況に、そのようなスキャナ構成要素が適用可能であることを理解するであろう。
【0094】
MEMSミラーは、Mirrorcle Technologies(CA,USA)、Hamamatsu(Japan)およびPreciseley Microtechnology Corporation(Canada)などの供給業者から市販されている。
【0095】
したがって、本発明のいくつかの実施形態では、レーザスキャナシステムは、MEMSミラーを備える。
【0096】
MEMSミラーに基づくポジショナのみを備える実施形態では、アブレーティブレーザパルスを試料に導くことができる速度は、200Hz~1MHz、200Hz~100kHz、200Hz~50kHz、200Hz~10kHz、1kHz~1MHz、5kHz~1MHz、10kHz~1MHz、50kHz~1MHz、100kHz~1MHz、1kHz~100kHzまたは10kHz~100kHzであり得る。レーザ放射線を試料上に導く表面の物理的な移送に依存するもう1つの種類のポジショナは、ポリゴンスキャナである。ここで、反射ポリゴンミラーまたは多面鏡が機械的軸上で回転し、ポリゴンの平坦なファセットが入射ビームを横断するたびに、角度偏向走査ビームが生成される。ポリゴンスキャナは一次元スキャナであり、走査線に沿ってレーザビームを導くことができる(したがって、試料に対するレーザビームの第2の相対移動を導入するために二次ポジショナが必要であるか、試料ステージ上で試料を移動させる必要がある)。例えば、ガルバノメータに基づくスキャナの往復運動とは対照的に、ラスタ走査の1ラインの終了時に、ビームは走査行の開始位置に戻される。ポリゴンは、用途に応じて、規則的または不規則であり得る。スポットサイズは、ファセットのサイズおよび平坦度に依存し、走査線長/走査角度はファセット数に依存する。非常に高い回転速度を達成することができ、その結果、高い走査速度が得られる。ただし、この種のポジショナは、ファセットの製造公差および軸方向ウォブルに起因する位置決め/フィードバック精度の低下、ならびにミラー表面からの潜在的な波面歪みという点で欠点を有する。したがって、当業者であれば、この場合も、そのようなスキャナ構成要素が、レーザ放射線に対するそのような影響を許容する状況に適用可能であることを理解するであろう。
【0097】
ポリゴンスキャナは、とりわけ、Precision Laser Scanning(AZ,USA)、II-VI(PA,USA)、Nidec Copal Electronics Corp(Japan)などから市販されている。
【0098】
ポリゴンスキャナに基づくポジショナのみを備える実施形態では、アブレーティブレーザパルスを試料に導くことができる速度は200Hz~10MHz、200Hz~1MHz、200Hz~100kHz、200Hz~50kHz、200Hz~10kHz、1kHz~10MHz、5kHz~10MHz、10kHz~10MHz、50kHz~10MHz、100kHz~10MHz、1kHz~1MHz、10kHz~1MHzまたは100kHz~1MHzであり得る。レーザスキャナシステム構成要素の上記のタイプとは異なり、EODは、固体構成要素であり、すなわち、可動部品を備えない。したがって、それらはレーザ放射線を偏向させる際に機械的慣性を受けないため、1nsのオーダーの非常に速い応答時間を有する。また、それらは、機械部品のように摩耗の影響を受けることもない。EODは、光学的に透明な材料(例えば結晶)から形成され、この材料は、それを横切って印加される電界に応じて変化する屈折率を有し、この屈折率は、媒体上に電圧を印加することによって制御される。レーザ放射線の屈折は、ビームの断面を横切る位相遅れの導入によって引き起こされる。屈折率が電界によって線形に変化する場合、この効果はポッケルス効果と呼ばれる。電界強度によって二次関数的に変化する場合、それはカー効果と呼ばれる。カー効果は通常、ポッケルス効果よりもはるかに弱い。2つの典型的な構成は、光学プリズムの界面での屈折に基づくEOD、およびレーザ放射線の伝搬方向に垂直に存在する屈折率勾配による屈折に基づくEODである。EODを横切る電界を配置するために、媒体として機能する光学的に透明な材料の対向する側に電極が結合される。一組の対向する電極を結合すると、一次元走査EODが生成される。第1の組の電極に第2の組の電極を直交して結合すると、二次元(X、Y)スキャナが生成される。
【0099】
例えば、EODの偏向角はガルバノミラーよりも小さいが、複数のEODを順次配置することにより、所定の装置設定に必要な場合には、角度を大きくすることができる。EOD内の屈折媒体の例示的な材料には、タンタル酸ニオブ酸カリウムKTN(KTaNb1-x)、LiTaO3、LiNbO、BaTiO、SrTiO、SBN(Sr1-xBaNb)、およびKTNが同じ電界強度で比較的大きな偏向角を示すKTiOPOが含まれる。
【0100】
EODの角度精度は高く、電極に接続されたドライバの精度に主に依存する。さらに、上述したように、EODの応答時間は非常に速く、以下に説明されるAODよりも速い(結晶中の(変化する)電界が、材料中の音速ではなく、材料中の光速で確立されるという事実に起因して;RoemerおよびBechtold,2014,Physics Procedia 56:29-39内の説明を参照)。
【0101】
したがって、本発明のいくつかの実施形態では、レーザスキャナシステムは、EODを備える。いくつかの実施形態では、EODは、2組の電極が屈折媒体に直交して接続されているものである。
【0102】
EODに基づくポジショナを備える実施形態では、アブレーティブレーザパルスを試料に導くことができる速度は、200Hz~100MHz、200Hz~10MHz、200Hz~1MHz、200Hz~100kHz、200Hz~50kHz、200Hz~10kHz、1kHz~100MHz、5kHz~100MHz、10kHz~100MHz、50kHz~100MHz、100kHz~100MHz、1MHz~100MHz、10~100MHz、1kHz~10MHz、10kHz~10MHzまたは100kHz~10MHzであり得る。このクラスのポジショナも固体構成要素である。構成要素の偏向は、周期的に変化する屈折率を誘起するために、光学的に透明な材料中を伝搬する音波に基づく。屈折率の変化は、材料を伝播する音波による材料の圧縮および希薄化(すなわち密度の変化)によって生じる。周期的に変化する屈折率は、光学格子のように機能することにより、材料を通過するレーザビームを回折させる。
【0103】
AODは、音響光学結晶(例えばTeO)にトランスデューサ(典型的には圧電素子)を結合することによって生成される。電気増幅器によって駆動されるトランスデューサは、屈折媒体に音波を導入する。反対側の端では、結晶は、典型的には、スキューカット(skew cut)され、結晶内への音波の反射を回避するために音響吸収材料を取り付けられる。波が結晶内を一方向に伝搬すると、これは一次元スキャナを形成する。2つのAODを直列に直交して配置するか、直交する結晶面上に2つのトランスデューサを結合することによって、二次元スキャナを生成することができる。
【0104】
EODに関しては、AODの偏向角はガルバノミラーよりも低いが、そのようなミラーに基づくスキャナと比較すると角度精度は高く、結晶を駆動する周波数はデジタル制御され、一般に1Hzまで分解可能である。RoemerおよびBechtold,2014は、アナログコントローラと比較して温度依存性と同様に、ガルバノミラーに基づくスキャナに共通のドリフトは、通常、AODが遭遇する問題ではないことを言及している。
【0105】
AODの屈折媒体として使用するための例示的な材料には、二酸化テルル、溶融シリカ、結晶石英、サファイア、AMTIR、GaP、GaAs、InP、SF6、ニオブ酸リチウム、PbMoO、三硫化ヒ素、テルライトガラス、ケイ酸鉛、Ge55As1233、塩化水銀(I)および臭化鉛(II)が含まれる。
【0106】
偏向角を変化させるためには、結晶に導入される音の周波数を変化させなければならず、音波が結晶を満たすのに有限の時間がかかるため(結晶内の音波の伝播速度と、結晶のサイズとに依存する)、ある程度の遅延が存在することを意味する。それにもかかわらず、可動部品に基づくレーザシステムポジショナと比較して、応答時間は比較的速い。
【0107】
特定の場合に利用することができるAODの追加の特徴は、結晶に印加される音響出力が、どの程度のレーザ放射線がゼロ次(すなわち非回折)ビームに対して回折されるかを決定することである。非回折ビームは、典型的には、ビームダンプに導かれる。したがって、AODを使用して、偏向されたビームの強度および出力を高速で効果的に制御(または変調)することができる。
【0108】
AODの回折効率は、典型的には非線形であるため、回折効率対出力の曲線は、様々な入力周波数に対してマッピングすることができる。次いで、各周波数のマッピングされた効率曲線を、式として、またはルックアップテーブルに記録して、本明細書に開示されている装置および方法に続いて使用することができる。
【0109】
したがって、本発明のいくつかの実施形態では、レーザスキャナシステムは、AODを備える。
【0110】
回転ミラーの代わりに、固体ポジショナ(例えば、AODまたはEOD)を使用して、ミラーに基づくポジショナではなく、レーザ放射線ビームに偏向を誘発してもよい。本明細書の他の箇所で説明されるように、固体スキャナは、EOD媒体に直交電極を取り付けることによって、または2つのAODを直列に直交して配置することによって、2つの直交方向(XおよびY)で走査することができる。
【0111】
AODに基づくポジショナを備える実施形態では、アブレーティブレーザパルスを試料に導くことができる速度は、200Hz~100MHz、200Hz~10MHz、200Hz~1MHz、200Hz~100kHz、200Hz~50kHz、200Hz~10kHz、1kHz~100MHz、5kHz~100MHz、10kHz~100MHz、50kHz~100MHz、100kHz~100MHz、1MHz~100MHz、10~100MHz、1kHz~10MHz、10kHz~10MHzまたは100kHz~10MHzであり得る。先の段落では、2つのタイプのレーザ走査システムポジショナ、すなわち、可動部品を備えるミラーに基づくポジショナと、固体ポジショナとを説明した。前者は、偏向角が大きいのが特徴であるが、慣性のために応答時間が比較的遅い。対照的に、固体ポジショナの偏向角範囲は狭くなるが、応答時間ははるかに速くなる。したがって、本発明のいくつかの実施形態では、レーザ走査システムは、ミラーに基づく構成要素および固体構成要素の両方を直列に含む。この配置は、両方の長所、例えば、ミラーに基づく構成要素によって提供される広い範囲を利用するが、ミラーに基づく構成要素の慣性に対応する。例えば、Matsumotoら、2013(Journal of Laser Micro/Nanoengineering 8:315:320)を参照されたい。
【0112】
したがって、固体ポジショナ(すなわち、AODまたはEOD)を使用して、例えば、ミラーに基づくスキャナ構成要素の誤差を補正することができる。この場合、ミラーに基づくスキャナ構成要素の位置誤差を補正するために、固体構成要素へのミラー位置フィードバックに関連する位置センサと、固体構成要素によってレーザ放射線ビームに導入される偏向角とを適切に変更することができる。
【0113】
複合システムの一例には、ガルバノミラーおよびAODが挙げられる(AODは、一方向または二方向の偏向を可能にし得る(2つのAODを直列に使用することによって、または単一のAODの結晶の直交面に2つのドライバを結合することによって))。システムは、AODと組み合わせて二次元走査システムを生成するように、2つのガルバノミラーを備えてもよい(AODは、一方向または二方向の偏向を可能にし得る(2つのAODを直列に使用することによって、または単一のAODの結晶の直交面に2つのドライバを結合することによって))。そのようなシステムでは、アブレーティブレーザパルスを試料に導くことができる速度は、200Hz~100MHz、200Hz~10MHz、200Hz~1MHz、200Hz~100kHz、200Hz~50kHz、200Hz~10kHz、1kHz~100MHz、5kHz~100MHz、10kHz~100MHz、50kHz~100MHz、100kHz~100MHz、1MHz~100MHz、10~100MHz、1kHz~10MHz、10kHz~10MHzまたは100kHz~10MHzであり得る。複合システムの代替例には、ガルバノミラーおよびEODが挙げられる(EODは、一方向または二方向の偏向を可能にし得る(2つの直交して配置された電極を結晶に結合することによって))。システムは、EODと組み合わせて二次元走査システムを生成するように2つのガルバノミラーを備えてもよい(EODは、一方向または二方向の偏向を可能にし得る(2つの直交して配置された電極を結晶に結合することによって))。そのようなシステムでは、アブレーティブレーザパルスを試料に導くことができる速度は、200Hz~100MHz、200Hz~10MHz、200Hz~1MHz、200Hz~100kHz、200Hz~50kHz、200Hz~10kHz、1kHz~100MHz、5kHz~100MHz、10kHz~100MHz、50kHz~100MHz、100kHz~100MHz、1MHz~100MHz、10~100MHz、1kHz~10MHz、10kHz~10MHzまたは100kHz~10MHzであり得る。レーザ走査システムは、レーザ走査システムのポジショナを制御するために、試料ステージの移動とともにYおよび/またはX軸内のポジショナの移動を調整するスキャナ制御モジュール(コンピュータまたはプログラムされたチップなど)を備えてもよい。場合によっては、前後のラスタ化など、適切なパターンがチップに事前にプログラムされる。ただし、他の場合には、制御モジュールによって逆キネマティクスを適用して、従うべき適切なアブレーションパターンを決定することができる。逆キネマティクスは、アブレーションされる複数のおよび/または不規則な形状の細胞間の最良のアブレーションコースをプロットするために、例えば、任意のアブレーションパターンを生成する際に特に有用であり得る。スキャナ制御モジュールはまた、例えば、パルスピッカの動作を調整することによって、レーザ放射線パルスの放出を調整し得る。
【0114】
ポジショナは、場合によっては、それが導くレーザ放射線ビームの分散を引き起こす可能性がある。したがって、本明細書に記載の装置のいくつかの実施形態では、レーザ走査システムは、ポジショナおよび/または第2のポジショナと試料との間に、ポジショナによって引き起こされる分散を補償するように適合された少なくとも1つの分散補償器を備える。ポジショナがAODであり、および/または第2のポジショナがAODである場合、分散補償器は、(i)ポジショナおよび/または第2のポジショナによって引き起こされる分散を補償するのに適した線間隔を有する回折格子、(ii)ポジショナおよび/または第2のポジショナによって引き起こされる分散を補償するのに適したプリズム(すなわち、適切な材料、厚さ、およびプリズム角度)、(iii)回折格子(i)とプリズム(ii)とを備える組合せ、および/または(iv)追加の音響光学装置である。第1のポジショナが分散を引き起こし、第2のポジショナが分散を引き起こす場合、レーザ走査システムは、第1のポジショナによって引き起こされる任意の分散を補償する第1の分散補償器と、第2のポジショナによって引き起こされる任意の分散を補償する第2の分散補償器とを備えてもよい。国際公開第03/028940号パンフレットは、別の適切に適合されたAODを使用して、AODポジショナによって引き起こされる分散を補償することができる方法を説明している。
【0115】
場合によっては、レーザ放射線を異なる位置に導くポジショナの移動により、放射線ビームの焦点距離が、試料の位置に関して変化する可能性がある。これは、様々な方法で補償することができる。例えば、レーザ放射線が導かれている試料上の特定の位置に関係なく、試料上の一定の、またはほぼ一定の直径のスポットサイズを維持するように、可動集束レンズを移動させることができる。あるいは、調整可能な焦点レンズ(Optotuneから市販されている)を使用してもよい。z軸内で試料ステージの高さを変化させることにより、スポットサイズの変動を補償することも可能である。これらの手法はいずれも可動部品に依存するが、システムの動作にタイミングのオーバーヘッドが導入される。AODがガウスビームとともに使用される場合、AOD内の結晶に印加される出力によってアブレーションスポットサイズが制御されて、ゼロ次ビーム強度に対して一次ビーム強度を迅速に変調することができる。
【0116】
図2図4に示される代替の配置では、システムが試料キャリアを介して試料をアブレーションするように動作することを除いて、構成要素は図1に示されているものと同様であってよい。この配置は、例えば、アブレーションスポットに近い領域からの材料のクリアランスを支援するために、アブレーションされる試料材料に追加の運動エネルギーを付与することが望まれる場合に好ましいことがある。あるいは、またはさらに、図2図3および/または図4に示される構成は、本明細書に記載されるように、さらに小さなスポットサイズを可能にし得る。いくつかの実施形態では、試料キャリアを介したアブレーションは、レーザ走査光学系と組み合わせることができる。
【0117】
レーザ
一般に、試料のアブレーションに使用されるレーザの波長および出力の選択は、細胞分析での通常の使用法に従うことができる。レーザは、試料キャリアを実質的にアブレーションすることなく、所望の深さまでアブレーションを引き起こすのに十分なフルエンスを有しなければならない。0.1~5J/cm、例えば、3~4J/cmまたは約3.5J/cmのレーザフルエンスが典型的に好適であり、レーザは、理想的には、200Hz以上の速度でこのフルエンスを有するパルスを生成することができる。場合によっては、レーザパルス周波数がアブレーションプルームが生成される周波数と一致するように、そのようなレーザからの単一のレーザパルスは、分析のために細胞材料をアブレーションするのに十分であるべきである。一般に、生体試料をイメージングするのに有用なレーザであるために、レーザは、例えば、本明細書で説明される特定のスポットサイズに集束することができる100ns未満(好ましくは1ns未満)の持続時間を有するパルスを生成するべきである。
【0118】
例えば、レーザシステムによるアブレーションの周波数は、200Hz~100MHz、200Hz~10MHz、200Hz~1MHz、200Hz~100kHzの範囲内、500~50kHzの範囲内、または1kHz~10kHzの範囲内である。
【0119】
これらの周波数では、計装は、各アブレーションされたプルームを個々に解像することが望まれる場合(これは、以下に説明されるように、試料にパルスのバーストを発射する際に必ずしも望ましいとは限らない可能性がある)、連続的なアブレーション間の実質的な信号の重複を回避するのに十分に迅速に、アブレーションされた材料を分析することができなければならない。連続的なプルームから発生する信号間の重複は、強度が<10%、さらに好ましくは<5%、理想的には<2%であることが好ましい。プルームの分析に要する時間は、試料チャンバのウォッシュアウト時間(下記の試料チャンバのセクションを参照)、レーザイオン化システムへのプルームのエアロゾルの通過時間、およびイオン化された材料の分析にかかる時間に依存する。以下にさらに詳細に説明されるように、各レーザパルスは、後に構築される、試料の画像上のピクセルに相関させることができる。
【0120】
いくつかの実施形態では、レーザ源は、ナノ秒パルス持続時間を有するレーザ、または超高速レーザ(パルス持続時間が1ps(10-12s)またはそれよりも速い)、例えばフェムト秒レーザを備える。超高速パルス持続時間は、アブレーションされたゾーンからの熱拡散を制限し、それによって、さらに正確で信頼性の高いアブレーションクレータを提供するとともに、各アブレーション事象からデブリが散乱するのを最小限に抑えるため、多くの利点を提供する。フェムト秒レーザは、本明細に記載のシステムおよび装置に特に有用である。特に、フェムト秒レーザは、レーザ走査構成要素を含むシステムと高度に互換性があり、短いパルス持続時間により、多光子事象および電子シーディング(electron seeding)プロセスに基づくアブレーション技術を可能にする。フェムト秒レーザは、それらの3つの属性により、この用途に特に適している。第1の属性は、フェムト秒レーザ上の典型的な構成の高い繰返し率であり、これは、一般に1MHz~100MHzの範囲である。対照的に、ナノ秒レーザは、一般に、100kHz未満のパルス速度に制限される。第2の属性は、非線形アブレーション機構である。非線形アブレーションは、アブレーションエッジの定義を鮮明にし、さらに高い空間解像度でのアブレーションを可能にする。第三に、非線形アブレーション閾値はまた、材料特異性が低く、これにより、組織などの不均一な材料を試験する際にアブレーションスポットの一定の寸法を得るのが容易になり得る。
【0121】
場合によっては、フェムト秒レーザがレーザ源として使用される。フェムト秒レーザは、1ps未満の持続時間で光パルスを放射するレーザである。そのような短いパルスの生成には、多くの場合、受動的モードロックの手法が使用される。フェムト秒レーザは、様々な種類のレーザを使用して生成することができる。30fs~30psの典型的な持続時間は、受動的モードロック固体バルクレーザを使用して達成することができる。同様に、例えば、ネオジムドープまたはイッテルビウムドープ利得媒体に基づく様々なダイオード励起レーザは、この形態で動作する。高度な分散補償を有するチタンサファイアレーザも、10fs未満、極端な場合は約5fsまでのパルス持続時間に適している。パルス繰返し率は、ほとんどの場合、10MHz~500MHzであるが、さらに高いパルスエネルギーに対して数メガヘルツの繰返し率を有する低繰返し率バージョンもある(例えば、Lumentum(CA,USA)、Radiantis(Spain)、Coherent(CA,USA)から入手可能)。このタイプのレーザには、パルスエネルギーを増加させる増幅器システムが付属し得る。
【0122】
また、様々なタイプの超高速ファイバレーザがあり、これらもまた、ほとんどの場合、受動的モードロックされ、典型的には、50~500fsのパルス持続時間と、10~100MHzの繰返し率とを提供する。そのようなレーザは、例えば、NKT Photonics(Denmark;以前はFianium)、Amplitude Systems(France)、Laser-Femto(CA,USA)から市販されている。このタイプのレーザのパルスエネルギーは、多くの場合、統合ファイバ増幅器の形態の増幅器によっても増加させることができる。
【0123】
一部のモードロックダイオードレーザは、フェムト秒持続時間を有するパルスを生成することができる。レーザ出力では直接、パルス持続時間は通常、約数百フェムト秒である(例えば、Coherent(CA,USA)から入手可能)。
【0124】
フェムト秒レーザは、油浸レンズなどの浸漬レンズとともに使用するのに特に適している(上記のように)。油浸レンズは、約160nmのレーザスポット直径を達成することができるが、フェムト秒レーザを使用するアブレーションは多光子プロセスであるため、フェムト秒レーザとともに使用した場合、有効スポット直径は√mだけ減少し、式中、mは非線形プロセスの次数である。このように、100nm未満の有効スポット直径を達成することが可能である。上記のような浸漬レンズを含む装置のあらゆる可能な構成は、フェムト秒レーザとともに使用した場合に100nmのアブレーションスポットサイズを達成することができ、したがって、本発明は、従来のIMCおよびIMSと比較して空間解像度を10倍改善する装置および方法を提供する。フェムト秒レーザは、一般に、近赤外領域(700~1300nm)に波長を有するため、100nmのアブレーションスポット直径を達成するためには、周波数変換技術を使用して波長を短くしなければならない。これらの中で最も容易でよく知られているのが、近赤外レーザビームを可視波長に効率的に変換することができ、市販の既製の顕微鏡光学系を使用することができる2次高調波発生(SHG)である。
【0125】
場合によっては、ピコ秒レーザが使用される。先の段落で既に説明されたタイプのレーザの多くは、ピコ秒範囲の持続時間のパルスを生成するように適合させることもできる。最も一般的な光源は、能動的または受動的モードロック固体バルクレーザ、例えば、受動的モードロックNdドープYAG、ガラスまたはバナデートレーザである。同様に、ピコ秒モードロックレーザおよびレーザダイオードが市販されている(例えば、NKT Photonics(Denmark)、EKSPLA(Lithuania))。
【0126】
ナノ秒パルス持続時間レーザ(利得切換およびQ切換)はまた、特定の装置設定における有用性を見出すことができる(Coherent(CA,USA)、Thorlabs(NJ,USA))。ナノ秒UVレーザは、上記の固体浸漬レンズに特によく適している。特に、波長266nmのナノ秒UVレーザは、ダイヤモンドおよび溶融シリカ固体浸漬レンズとともに使用して、100nm以下のスポットサイズに光を集束させることができる。当業者が理解するように、UVレーザを使用するレーザアブレーションは、一般に熱プロセスであり、これは、レーザスポットサイズの周りの領域が、アブレーションプロセスからの熱によって影響を受けることを意味する。これは、達成可能なアブレーションスポットサイズに制限を設定し、その結果、特定の状況ではUVレーザが適用可能になるが、他の状況では他のレーザの方が有用であり得ることを当業者であれば理解するであろう。
【0127】
あるいは、ナノ秒以下の持続時間のパルスを生成するように外部変調された連続波レーザを使用してもよい。
【0128】
典型的には、本明細書で説明されるレーザシステムでアブレーションに使用されるレーザビームは、すなわち、サンプリング位置で、100μm以下、例えば、50μm以下、25μm以下、20μm以下、15μm以下、または10μm以下、例えば、約3μm以下、約2μm以下、約1μm以下、約500nm以下、約250nm以下のスポットサイズを有する。8ページのセクションで上述したように、対物レンズと試料との間に浸漬媒体を適用すると、200nm以下、150nm以下または100nm以下などのさらに小さなスポットサイズを達成することができる。スポットサイズと呼ばれる距離は、例えば、円形ビームの場合、ビーム直径であり、正方形ビームの場合、対向する角の間の対角線の長さに対応し、四辺形の場合、最も長い対角線の長さであるなど、ビームの最も長い内部寸法に対応する(上述したように、ガウス分布を有する円形ビームの直径は、フルエンスがピークフルエンスの1/e倍まで減少した点の間の距離として定義される)。ガウスビームの代替として、ビーム成形とビームマスキングとを使用して、所望のアブレーションスポットを提供することができる。例えば、一部の用途では、トップハット型エネルギー分布(top hat energy distribution)を有する正方形アブレーションスポット(すなわち、ガウスエネルギー分布とは対照的に、ほぼ均一なフルエンスを有するビーム)が有用であり得る。この配置は、ガウスエネルギー分布のピークでのフルエンスと閾値フルエンスとの間の比に対するアブレーションスポットサイズの依存性を低減する。閾値フルエンスに近いアブレーションは、さらに信頼性の高いアブレーションクレータの生成を提供し、デブリ生成を制御する。したがって、レーザシステムは、ビームを再成形し、ビーム全体にわたって±25%未満、例えば、±20%未満、±15%、±10%または±5%未満変化するフルエンスなどの均一またはほぼ均一なフルエンスのレーザ焦点を生成するために、ガウスビームに配置された回折光学素子などのビームマスキングおよび/またはビーム成形構成要素を備えてもよい。場合によっては、レーザビームは正方形の断面形状を有する。場合によっては、ビームはトップハット型エネルギー分布を有する。上記のように、本発明の文脈では、スポットサイズと呼ばれる距離は、サンプリング位置でのビームの最も長い内部寸法であり、すなわち、スポットサイズはビームの横方向寸法であり、したがって、例えば、円形ビームのスポットサイズは直径である。ただし、当業者であれば、本発明の文脈では、対物レンズの焦点は三次元体積であり、集束スポットサイズの軸方向寸法は一般に横方向寸法よりも長いため、場合によっては、焦点の軸方向寸法は、「スポットサイズ」と呼ばれる距離よりも長い場合があることを理解するであろう。ユーザが望む場合、ビーム成形およびマスキングを使用して、浸漬レンズを用いて達成可能な高解像度のスポットサイズをさらに大きなスポットサイズに切り替えることができる装置を可能にすることもできる。特定の条件下での高解像度イメージングに加えて、投影仕様がそれを必要とする場合、大きなスポットを使用することができる(例えば、低解像度が好適である場合、または所定の時間内に組織のさらに広い領域をサンプリングおよび分析する必要がある場合)。
【0129】
生体試料の分析に使用される場合、個々の細胞を分析するために使用されるレーザビームのスポットサイズは、細胞のサイズおよび間隔に依存する。例えば、細胞が互いに密に詰まっている場合(組織切片内など)、レーザシステム内の1つ以上のレーザ源は、これらの細胞よりも大きくないスポットサイズを有し得る。このサイズは、試料中の特定の細胞に依存するが、一般に、レーザスポットは、4μm未満、例えば、約3μm以下、約2μm以下、約1μm以下、約500nm以下、約250nm以下の直径を有する。細胞内解像度で所与の細胞を分析するために、システムは、これらの細胞よりも大きくないレーザスポットサイズを使用し、さらに具体的には、細胞内解像度で材料をアブレーションすることができるレーザスポットサイズを使用する。スポットサイズが小さいほど、得られる画像の解像度が高くなる。したがって、高解像度の細胞内イメージングが必要な場合、本明細書に記載の技術を使用することができる。場合によっては、例えば、細胞がスライド上に広がり、細胞間に間隔がある場合(例えば、細胞の内部構造が細胞の元素分析とは別個に決定されるように、電子顕微鏡による分析後など)、細胞のサイズよりも大きいスポットサイズを使用して、単一細胞分析を行うことができる。ここでは、目的の細胞の周りの追加のアブレーションされた領域が追加の細胞を含まないため、さらに大きなスポットサイズを使用することができ、単一細胞の特性評価を達成することができる。したがって、使用される特定のスポットサイズは、分析される細胞のサイズに応じて適切に選択することができる。生体試料では、細胞がいずれも同じサイズであることはまれであるため、細胞内解像度イメージングが望まれる場合、一定のスポットサイズがアブレーション手順全体を通して維持されるのであれば、アブレーションスポットサイズは最小の細胞よりも小さくなければならない。小さなスポットサイズは、レーザビームの集束を使用して達成することができる。1μmのレーザスポット直径は、1μmのレーザ焦点(すなわち、ビームの焦点でのレーザビームの直径)に対応するが、レーザ焦点は、標的上のエネルギーの空間分布(例えば、ガウスビーム形状)と、アブレーション閾値エネルギーに対する総レーザエネルギーの変動とにより+20%以上変動し得る。レーザビームを集束させるための好適な対物レンズには、シュヴァルツシルトカセグレン設計(逆カセグレン)の対物レンズなどの反射対物レンズが含まれる。反射屈折対物レンズの組合せと同様に、屈折対物レンズも使用することができる。単一の非球面レンズを使用して、必要な集束を達成することもできる。固体浸漬レンズまたは回折光学系を使用して、レーザビームを集束させることもできる。単独で、または上記の対物レンズと組み合わせて使用することができる、レーザのスポットサイズを制御するための別の手段は、集束させる前に開口を通してビームを通過させることである。直径のアレイから異なる直径の開口を通してビームを通過させることによって、異なるビーム直径を達成することができる。場合によっては、例えば、開口が絞り開口である場合、可変サイズの単一の開口が存在する。場合によっては、絞り開口は虹彩絞りである。スポットサイズの変動は、光学系のディザリングによって達成することもできる。1つ以上のレンズおよび1つ以上の開口が、レーザと試料ステージとの間に配置される。
【0130】
完全を期すために、当技術分野で公知なように、細胞内解像度でのLAの標準レーザは、エキシマレーザまたはエキシプレックスレーザである。フッ化アルゴンレーザ(λ=193nm)を使用すると、好適な結果を得ることができる。これらのレーザによる10~15nsのパルス持続時間は、特定の用途に対して適切なアブレーションを達成することができる。
【0131】
全体として、レーザパルス周波数および強度は、個々のレーザアブレーションプルームの明確な検出を可能にするために、MS検出器の応答特性と組み合わせて選択される。小さなレーザスポット、および短いウォッシュアウト時間を有する試料チャンバを使用することと組み合わせて、迅速な高解像度イメージングが実現可能である。
【0132】
レーザアブレーション焦点
レーザが試料から材料をアブレーションする効率を最大化するには、レーザビームの直径が最も小さく、エネルギーが最も集中している場所が焦点であることから、レーザの焦点に関して、例えば焦点では、試料は好適な位置にあるべきである。これは、様々な方法で達成することができる。第1の方法は、試料に導かれたレーザ光の軸内で(すなわち、レーザ光の経路の上下/レーザ源に向かって、および離れて)、光が所望のアブレーションを行うのに十分な強度を有する所望の点まで、試料を移動させることができることである。あるいは、またはさらに、レンズを使用してレーザ光の焦点を移動させ、その結果、例えば、縮小によって、試料の位置で材料をアブレーションするその効果的な能力を使用することができる。1つ以上のレンズが、レーザと試料ステージとの間に配置される。単独で、または上記の2つの方法のいずれかもしくは両方と組み合わせて使用することができる第3の方法は、レーザの位置を変化させることである。
【0133】
システムのユーザが試料から材料をアブレーションするのに最適な位置に試料を配置するのを支援するために、試料を保持するステージにカメラを導くことができる(以下にさらに詳細に説明される)。したがって、本開示は、試料ステージ上に導かれるカメラを備えるレーザアブレーションサンプリングシステムを提供する。レーザが集束しているのと同じポイントに、カメラによって検出された画像の焦点を合わせることができる。これは、レーザアブレーションおよび光学イメージングの両方に同じ対物レンズを使用することによって達成することができる。2つの焦点を一致させることによって、ユーザは、光学画像に焦点が合っている際にレーザアブレーションが最も効果的であることを確認することができる。Physik Instrumente、Cedrat-technologies、Thorlabs および他の供給業者から入手可能な圧電アクティベータ(piezo activator)を使用することによって、試料に焦点を合わせるためのステージの正確な移動を達成することができる。
【0134】
もう1つの動作モードでは、レーザアブレーションは、試料キャリアを介して試料に導かれる。この場合、試料支持体は、試料をアブレーションするために使用されるレーザ放射線の周波数に対して透明(少なくとも部分的に)であるように選択されるべきである。特定の状況では、アブレーションのこのモードは、試料からアブレーションされた材料のプルームに付加的な運動エネルギーを付与することができ、アブレーションされた材料を試料の表面からさらに遠くに駆動し、したがって、アブレーションされた材料を検出器内で分析するために試料から移動させることを容易にするため、試料を介したアブレーションは利点を有し得る。
【0135】
試料の3Dイメージングを達成するために、試料、またはその規定された領域は、試料を完全に貫通しない第1の深さまでアブレーションされ得る。これに続いて、同じ領域を再び第2の深さまでアブレーションし、第3、第4などの深さまでアブレーションすることができる。このように、試料の3D画像を構築することができる。場合によっては、第2の深さでのアブレーションに進む前に、第1の深さまでアブレーションするために全領域をアブレーションすることが好ましい場合がある。あるいは、同じスポットで繰り返しアブレーションを行って、アブレーションのために領域内の次の位置に進む前に、異なる深さでアブレーションしてもよい。いずれの場合も、イメージングソフトウェアによって、試料の位置および深さに対する、MSで得られた信号のデコンボリューションを行うことができる。共焦点イメージングに使用されるワークフローと同様に、厚い組織染色を使用することができ、組織は湿潤状態で安定化される(Clendenonら、2011.Microsc Microanal.17:614-617)。
【0136】
レーザアブレーションサンプリングシステムの試料チャンバ
試料は、レーザアブレーションに供される際に試料チャンバに入れられる。試料チャンバは、試料を保持するステージを備える(典型的には、試料は試料キャリア上にある)。試料中の材料は、アブレーションされるとプルームを形成し、ガス入口からガス出口まで試料チャンバを通過したガスの流れは、アブレーションされた位置にあった標識原子を含むエアロゾル化された材料のプルームを運び去る。ガスは材料をイオン化システムに運び、イオン化システムは検出器による検出を可能にするために材料をイオン化する。試料中の標識原子を含む原子は、検出器によって区別することができるため、それらの検出は、プルーム中の複数の標的の存在または非存在を明らかにし、ひいては、試料上のアブレーションされた地点にどの標的が存在したかを決定する。したがって、試料チャンバは、分析される固体試料を収容する点で、また、イオン化および検出システムに対するエアロゾル化された材料の移送の開始点である点で、二重の役割を果たす。これは、チャンバを通過するガス流が、材料のアブレーションされたプルームがシステムを通過する際にどのように拡散するかに影響を与え得ることを意味する。アブレーションされたプルームがどのように拡散するかの尺度が、試料チャンバのウォッシュアウト時間である。この数字は、試料からアブレーションされた材料が、試料チャンバを流れるガスによって試料チャンバから運び出されるまでにかかる時間の尺度である。
【0137】
このように、レーザアブレーション(すなわち、以下に説明されるように、除去のためだけではなく、イメージングのためにアブレーションが使用される場合)から生成される信号の空間解像度は、(i)アブレーションされる全領域にわたって信号が積分される際のレーザのスポットサイズ、およびレーザに対する試料の移動に対するプルームの生成速度、ならびに(ii)上記のような連続的なプルームからの信号の重複を避けるために、プルームの生成速度に対する、プルームを分析することができる速度を含む要因に依存する。したがって、プルームの個々の分析が望まれる場合、プルームを可能な限り短時間で分析することができれば、プルームの重複の可能性を最小限に抑えることができる(その結果、プルームをさらに頻繁に生成することができる)。
【0138】
したがって、ウォッシュアウト時間が短い(例えば、100ms以下)試料チャンバは、本明細書に開示される装置および方法とともに使用するのに有利である。ウォッシュアウト時間が長い試料チャンバは、画像を生成することができる速度を制限するか、連続的な試料スポットから生じる信号間の重複をもたらす(例えば、Kindnessら(2003;Clin Chem 49:1916-23)、ここでは、信号持続時間は10秒を超えていた)。したがって、エアロゾルウォッシュアウト時間は、総走査時間を増加させることなく高解像度を達成するための重要な制限要因である。ウォッシュアウト時間が≦100msの試料チャンバが当技術分野で公知である。例えば、Gurevich&Hergenroeder(2007;J.Anal.At.Spectrom.,22:1043-1050)は、ウォッシュアウト時間が100ms未満の試料チャンバを開示している。Wangら(2013;Anal.Chem.85:10107-16)(国際公開第2014/146724号パンフレットも参照)では、30ms以下のウォッシュアウト時間を有するため、高いアブレーション周波数(例えば20Hz超)、ひいては迅速な分析が可能である試料チャンバが開示された。国際公開第2014/127034号パンフレットには、別のそのような試料チャンバが開示されている。国際公開第2014/127034号パンフレットの試料チャンバは、標的に動作可能に近接して配置されるように構成された試料捕捉セルを備え、試料捕捉セルは、捕捉セルの表面に形成された開口部を有する捕捉キャビティであって、開口部を介して、レーザアブレーション部位から放出または生成された標的材料を受け入れるように構成された捕捉キャビティと、捕捉キャビティ内に露出され、捕捉キャビティ内に受け入れられた標的材料の少なくとも一部が試料として出口に移送可能であるように捕捉キャビティ内のキャリアガスの流れを入口から出口に導くように構成されたガイド壁とを含む。国際公開第2014/127034号パンフレットの試料チャンバ内の捕捉キャビティの容積は、1cm未満であり、0.005cm未満であり得る。場合によっては、試料チャンバは、25ms以下、例えば、20ms、10ms以下、5ms以下、2ms以下、1ms以下、500μs以下、200μs以下、100μs以下、50μs以下または25μs以下のウォッシュアウト時間を有する。例えば、試料チャンバは、10μs以上のウォッシュアウト時間を有し得る。典型的には、試料チャンバは、5ms以下のウォッシュアウト時間を有する。
【0139】
完全を期すために、場合によっては、試料からのプルームは、試料チャンバのウォッシュアウト時間よりも頻繁に生成され得、結果として得られる画像は、それに応じて不鮮明になる(例えば、行われる特定の分析に可能な限り高い解像度が必要でないと考えられる場合)。
【0140】
試料チャンバは、典型的には、試料(および試料キャリア)を保持し、レーザ放射線ビームに対して試料を移動させる並進ステージを備える。試料キャリアを介して試料にレーザ放射線を導くことを必要とする動作モードが使用される場合、試料キャリアを保持するステージも、使用されるレーザ放射線に対して透明であるべきである。
【0141】
したがって、試料は、レーザ放射線が試料上に導かれる際に、レーザ放射線に面する試料キャリア(例えばスライドガラス)の側に配置され得、その結果、アブレーションプルームが、レーザ放射線が試料上に導かれる側と同じ側に放出され、そこから捕捉される。あるいは、試料は、レーザ放射線が試料上に導かれる際に、レーザ放射線とは反対側の試料キャリアの側に配置され得(すなわち、レーザ放射線は、試料に到達する前に試料キャリアを通過する)、アブレーションプルームは、レーザ放射線とは反対側に放出され、そこから捕捉される。固体浸漬レンズまたは液浸レンズなどの浸漬媒体の場合、試料キャリアを通して試料にレーザ放射線を導くことは特に有用である。
【0142】
試料の様々な別個の領域内の特定の部分がアブレーションされる場合に特に使用される試料チャンバの1つの特徴は、試料がレーザ(レーザビームはz軸内で試料に導かれる)に対してxおよびy(すなわち水平)軸方向に移動することができる広い移動範囲であり、xおよびy軸は互いに垂直である。試料チャンバ内でステージを移動させ、装置のレーザアブレーションサンプリングシステム内でレーザの位置を固定しておくことにより、さらに信頼性の高い正確な相対位置が達成される。移動範囲が広いほど、別個のアブレーション領域が互いに離れている可能性がある。試料が配置されているステージを移動させることにより、レーザに対して試料を移動させる。したがって、試料ステージは、試料チャンバ内で、xおよびy軸内で少なくとも10mm、例えば、xおよびy軸内で20mm、xおよびy軸内で30mm、xおよびy軸内で40mm、xおよびy軸内で50mm、例えば、xおよびy軸内で75mmの移動範囲を有することができる。場合によっては、移動範囲は、標準の25mm×75mmの顕微鏡スライドの表面全体がチャンバ内で分析されることを可能にするような移動範囲である。言うまでもなく、広い移動範囲に加えて、細胞内アブレーションを達成することを可能にするために、移動は正確であるべきである。したがって、ステージは、10μm未満、例えば、5μm未満、4μm未満、3μm未満、2μm未満、1μm、または1μm未満、500nm未満、200nm未満、100nm未満刻みでxおよびy軸内で試料を移動させるように構成され得る。例えば、ステージは、少なくとも50nm刻みで試料を移動させるように構成され得る。正確なステージ移動は、1μm±0.1μmなど、約1μm刻みであり得る。Thorlabs、Prior ScientificおよびApplied Scientific Instrumentationから入手可能なものなどの市販の顕微鏡ステージを使用することができる。あるいは、電動ステージは、Smaract製のSLC-24ポジショナなど、所望の移動範囲と、好適に精密な移動とを提供するポジショナに基づいて、構成要素から構築することができる。試料ステージの移動速度も分析の速度に影響を与える可能性がある。したがって、試料ステージは、1mm/s超、例えば、10mm/s、50mm/sまたは100mm/sの動作速度を有する。
【0143】
当然ながら、試料チャンバ内の試料ステージが広い移動範囲を有する場合、試料チャンバはステージの移動に対応する適切なサイズにしなければならない。したがって、試料チャンバのサイズは、関与する試料のサイズに依存し、これにより、移動式試料ステージのサイズが決定される。試料チャンバの例示的なサイズは、10×10cm、15×15cmまたは20×20cmの内部チャンバを有する。チャンバの深さは3cm、4cmまたは5cmであり得る。当業者であれば、本明細書の教示に従って適切な寸法を選択することができるであろう。レーザアブレーションサンプラを使用して生体試料を分析するための試料チャンバの内部寸法は、少なくとも5mm、例えば少なくとも10mmなど、試料ステージの移動範囲よりも大きくなければならない。これは、チャンバの壁がステージの縁部に近すぎると、材料のアブレーションされたプルームを試料から取り出してイオン化システムに流入させる、チャンバを通過するキャリアガスの流れが乱流になり得るためである。乱流は、アブレーションされたプルームを乱すため、材料のプルームは、アブレーションされた材料の密な雲として残る代わりに、アブレーションされ、装置のイオン化システムに運び去られた後に広がり始める。アブレーションされた材料のピークがさらに広いと、もはや実験的に関心のない速度までアブレーション速度が減速されない限り、ピークの重複による干渉がもたらされ、最終的に、空間的に解像されにくいデータがもたらされるため、イオン化および検出システムによって生成されるデータに負の影響が及ぼされる。
【0144】
上述したように、試料チャンバは、ガス入口と、イオン化システムに材料を運ぶガス出口とを備える。ただし、試料チャンバは、行われる特定のアブレーションプロセスに対して当業者によって適切であると決定されるように、チャンバ内のガスの流れを導き、および/またはガスの混合物をチャンバに提供するための入口または出口として機能する追加のポートを含み得る。
【0145】
カメラ
レーザアブレーションのために試料の最も効果的な位置決めを特定することに加えて、レーザアブレーションサンプリングシステムにカメラ(電荷結合素子画像センサに基づく(CCD)カメラまたはアクティブピクセルセンサに基づくカメラなど)または他の任意の光検出手段を含めることにより、様々な追加の分析および技術が可能になる。CCDは、光を検出し、それを画像の生成に使用され得るデジタル情報に変換するための手段である。CCD画像センサには、光を検出する一連のキャパシタがあり、各キャパシタは決定された画像上のピクセルを表す。これらのキャパシタは、入射する光子を電荷に変換することを可能にする。次いで、CCDを使用してこれらの電荷を読み取り、記録された電荷を画像に変換することができる。アクティブピクセルセンサ(APS)は、ピクセルセンサのアレイを含む集積回路からなる画像センサであり、各ピクセルは、光検出器およびアクティブアンプ、例えば、CMOSセンサを含む。
【0146】
カメラは、本明細書で説明される任意のレーザアブレーションサンプリングシステムに組み込むことができる。カメラを使用して、試料を走査して、特定の目的の細胞または特定の目的の領域(例えば、特定の形態の細胞)を識別するか、抗原または細胞内もしくは構造に特異的な蛍光プローブを識別することができる。特定の実施形態では、蛍光プローブは、検出可能な金属タグも含む組織化学的染色または抗体である。そのような細胞が識別されると、レーザパルスをこれらの特定の細胞に導いて、例えば、自動化プロセス(システムは、目的の特徴/領域、例えば細胞を識別およびアブレーションする)または半自動化プロセス(システムのユーザ、例えば臨床病理学者が、目的の特徴/領域を識別し、次いで、システムが自動化された様式でアブレーションする)で、分析のために材料をアブレーションすることができる。これにより、特定の細胞を分析するために試料全体をアブレーションする必要がなく、目的の細胞を特異的にアブレーションすることができるため、分析を行うことができる速度を大幅に向上させることができる。これは、アブレーションを行うのにかかる時間、特にアブレーションからのデータを解釈するのにかかる時間の観点から、それから画像を構築するという観点から、生体試料を分析する方法の効率につながる。データから画像を構築することは、イメージング手順のうち比較的時間のかかる部分の1つであるため、試料の関連部分からデータに収集されるデータを最小化することによって、分析の全体的な速度が向上する。
【0147】
カメラは、共焦点顕微鏡からの画像を記録してもよい。共焦点顕微鏡は、焦点面から離れたバックグラウンド情報(光)からの干渉を低減する能力を含め、多くの利点を提供する光学顕微鏡の形態である。これは、焦点が合っていない光またはグレアを排除することによって起こる。共焦点顕微鏡を使用して、細胞の形態について染色されていない試料を評価したり、細胞が別個の細胞であるか細胞の塊の一部であるかどうかを評価することができる。多くの場合、試料は蛍光マーカーによって(標識抗体または標識核酸などによって)特異的に標識される。これらの蛍光マーカーを使用して、特定の細胞集団(例えば、特定の遺伝子および/またはタンパク質を発現する)、または細胞上の特定の形態学的特徴(核またはミトコンドリアなど)を染色することができ、適切な波長の光により照射すると、試料のこれらの領域を特異的に識別することが可能になる。したがって、本明細書に記載のいくつかのシステムは、試料を標識するために使用される標識中でフルオロフォアを励起するためのレーザを備えることができる。あるいは、LED光源を使用してフルオロフォアを励起することができる。生体試料の特定の領域を識別するために非共焦点(例えば広視野)蛍光顕微鏡を使用することもできるが、共焦点顕微鏡よりも解像度が低い。
【0148】
別のイメージング技術は、2光子励起顕微鏡(非線形または多光子顕微鏡とも呼ばれる)である。この技術は通常、近赤外線を使用してフルオロフォアを励起する。赤外線の2つの光子は、励起事象ごとに吸収される。組織内の散乱は赤外線によって最小限に抑えられる。さらに、多光子吸収により、バックグラウンド信号が強く抑制される。最も一般的に使用されるフルオロフォアは400~500nmの範囲の励起スペクトルを有するが、2光子蛍光を励起するために使用されるレーザは近赤外線範囲にある。フルオロフォアは、2つの赤外光子を同時に吸収すると、励起状態に引き上げられるのに十分なエネルギーを吸収する。その後、フルオロフォアは、使用されるフルオロフォアのタイプに依存する波長を有する単一光子を放出し、次いでそれを検出することができる。
【0149】
レーザが蛍光顕微鏡のためのフルオロフォアを励起するために使用される場合、このレーザは、生体試料から材料をアブレーションするために使用されるレーザ光を生成する同じレーザである場合があるが、試料から材料をアブレーションするのに十分でない出力で使用される。場合によっては、フルオロフォアは、レーザが試料をアブレーションする光の波長によって励起される。他の場合、例えば、レーザの異なる高調波を発生させて異なる波長の光を得ることによって、または試料をアブレーションするのに使用される高調波とは別に、上記の高調波発生システムで発生した異なる高調波を利用することによって、異なる波長を使用してもよい。例えば、Nd:YAGレーザの4次および/または5次高調波を使用する場合、基本波、または2次から3次高調波を蛍光顕微鏡に使用することができる。
【0150】
蛍光とレーザアブレーションとを組み合わせた技術の例として、蛍光部分にコンジュゲートした抗体または核酸を用いて、生体試料中の細胞の核を標識することが可能である。したがって、蛍光標識を励起し、次いでカメラを使用して蛍光の位置を観察および記録することにより、核に、または核物質を含まない領域に、アブレーションレーザを特異的に導くことが可能である。細胞化学の分野では、試料を核領域と細胞質領域とに分割すると、特別な用途が見出されるであろう。画像センサ(CCD検出器またはアクティブピクセルセンサ、例えばCMOSセンサなど)を使用することによって、蛍光の位置を試料のx、y座標と相関させ、次いでアブレーションレーザをその位置に導く制御モジュール(コンピュータまたはプログラムされたチップなど)を使用することにより、目的の特徴/領域を識別し、次いでそれらをアブレーションするプロセスを完全に自動化することが可能である。このプロセスの一部として、画像センサによって撮影された第1の画像は、低い対物レンズ倍率(低い開口数)を有し得、これにより、試料の大きな領域を検査することが可能になる。これに続いて、さらに高い倍率を有する対物レンズへの切替えを使用して、さらに高い倍率の光学イメージングによって蛍光を発すると決定された目的の特定の特徴に注目することができる。次いで、蛍光を発すると記録されたこれらの特徴が、レーザによってアブレーションされ得る。比較的低い開口数のレンズを最初に使用することは、被写界深度が増加するという追加の利点を有し、したがって、試料内に隠された特徴が、最初から比較的高い開口数のレンズを用いたスクリーニングよりも高い感度で検出され得ることを意味する。
【0151】
蛍光イメージングが使用される方法およびシステムでは、試料からカメラへの蛍光の放出経路は、1つ以上のレンズおよび/または1つ以上の光学フィルタを含み得る。システムは、蛍光標識のうちの1つ以上からの選択されたスペクトル帯域幅を通過させるように適合された光学フィルタを含むことにより、蛍光標識からの放出に関連する色収差を処理するように適合される。色収差は、レンズが異なる波長の光を同じ焦点に集束することができなかった結果である。したがって、光学フィルタを含めることにより、光学系のバックグラウンドが低減され、得られる光学画像の解像度は高くなる。カメラに到達する望ましくない波長の放射された光の量を最小限に抑えるもう1つ方法は、国際公開第2005/121864号パンフレットで説明されるシステムと同様に、光学フィルタによって透過される波長の光の透過および集束のために設計された一連のレンズを使用することによって、レンズの色収差を意図的に利用することである。
【0152】
光学画像の精度は、試料をアブレーションするためにアブレーションレーザを導くことができる精度を決定するため、比較的高い解像度の光学画像は、光学技術とレーザアブレーションサンプリングのこの組合せでは有利である。
【0153】
したがって、本明細書に開示されるいくつかの実施形態では、本発明の装置はカメラを備える。このカメラをオンラインで使用して、試料の特徴/領域、例えば、特定の細胞を識別することができ、次いで、例えば、目的の特徴/領域にパルスのバーストを発射して、目的の特徴/領域から試料材料をアブレーションすることによってサンプリングすることができる。パルスのバーストが試料に導かれる場合、結果として生じるプルーム中に検出される材料は、連続的な事象としてであり得る(各個々のアブレーションからのプルームは実質的に単一のプルームを形成し、次いでこれが検出のために継続される)。目的の特徴/領域内の位置からの凝集したプルームから形成された試料材料の各雲を一緒に分析することができるが、目的の各異なる特徴/領域からのプルーム中の試料材料は、依然として別個のままである。すなわち、(n+1)番目の特徴/領域のアブレーションが開始される前に、n番目の目的の特徴/領域からの試料材料を可能にするために、異なる目的の特徴/領域のアブレーション間に十分な時間が残されている。
【0154】
蛍光分析およびレーザアブレーションサンプリングの両方を組み合わせた追加の動作モードでは、スライド全体の蛍光を分析してからレーザアブレーションをそれらの位置に向ける代わりに、レーザからのパルスを試料上のスポット上で発射することが可能であり(試料をアブレーションするのではなく、試料中の蛍光部分のみを励起するように低エネルギーで)、予測される波長の蛍光発光が検出された場合、そのスポットでレーザを全エネルギーで発射することによって、スポットにある試料がアブレーションされ得、結果として生じるプルームが、以下に説明されるように、検出器によって分析される。これは、分析のラスタ化モードが維持されるという利点を有するが、蛍光のパルス化および試験が可能であり、また、蛍光から直ちに結果を得ることが可能であり(検出器からのイオンデータを分析および解釈して、その領域が目的のものであるかどうかを決定するのにかかる時間ではなく)、この場合も、分析のために重要な遺伝子座のみを標的とすることが可能であるため、速度が向上する。したがって、複数の細胞を含む生体試料のイメージングにこの戦略を適用すると、以下の工程、すなわち、(i)1つ以上の異なる標識原子および1つ以上の蛍光標識を用いて、試料中の複数の異なる標的分子を標識して、標識された試料を提供する工程、(ii)試料の既知の位置を光により照射して1つ以上の蛍光標識を励起する工程、(iii)その位置に蛍光があるかどうかを観察および記録する工程、(iv)蛍光があれば、その位置にレーザアブレーションを導いてプルームを形成する工程、(v)プルームを誘導結合プラズマ質量分析に供する工程、ならびに(vi)試料上の1つ以上の追加の既知の位置に対して工程(ii)~(v)を繰り返し、それによって、プルーム中の標識原子の検出により、アブレーションされた領域の試料の画像を構築することが可能になる工程を行うことができる。
【0155】
場合によっては、試料または試料キャリアは、特定の位置に光学的に検出可能な(例えば、光学顕微鏡または蛍光顕微鏡によって)部分を含むように改変され得る。次いで、蛍光位置を使用して、装置内の試料を位置的に配向させることができる。そのようなマーカー位置の使用は、例えば、試料が視覚的に「オフライン」で、すなわち、本発明の装置以外の装置の一部で検査された可能性がある場合に有用性を見出す。そのような光学画像は、目的の特徴/領域が強調表示された光学画像と試料とが本発明による装置に移送される前に、例えば医師によって、特定の細胞に対応する目的の特徴/領域によりマーキングすることができる。ここで、本発明の装置は、注釈付き光学画像内のマーカー位置を参照することにより、カメラを使用して対応する蛍光位置を識別し、それに応じてレーザパルスの位置のためのアブレーション計画を計算することができる。したがって、いくつかの実施形態では、本発明は、上記の工程を行うことができる配向コントローラモジュールを備える。
【0156】
場合によっては、目的の特徴/領域の選択は、本発明の装置のカメラによって撮影された試料の画像に基づいて、本発明の装置を使用して行われ得る。
【0157】
電子顕微鏡
本発明のいくつかの実施形態では、装置はまた、電子顕微鏡法を行うための構成要素を備える。
【0158】
一般的なレベルでは、電子顕微鏡は、電子銃(例えば、タングステンフィラメントカソードを有する)と、ビームを制御して試料チャンバ内の試料に導く静電/電磁レンズおよび開口とを備える。試料は真空下に保持されるため、ガス分子は電子が電子銃から試料に向かう途中で電子を妨害または回折することはできない。透過型電子顕微鏡(TEM)では、電子は試料を通過すると、偏向される。次いで、偏向された電子は、蛍光スクリーンなどの検出器、または場合によってはCCDに結合された高解像度蛍光体によって検出される。試料と検出器との間には、検出器上の偏向された電子の倍率を制御する対物レンズがある。
【0159】
TEMは、検出器に衝突した偏向された電子から画像が再構築され得るように、十分な電子が試料を通過することを可能にする超薄切片を必要とする。典型的には、TEM試料は、ウルトラミクロトームを使用して調製した場合、100nm以下である。生体組織標本は、化学的に固定され、脱水され、ポリマー樹脂に包埋されて、超薄切片化を可能にするのに十分に安定化される。生体標本、有機ポリマーおよび類似の材料の切片は、必要とされる画像コントラストを達成するために、重原子標識による染色を必要とする場合があり、これは、非染色生体試料は、それらの天然の非染色状態では、電子と強く相互作用することはまれであり、電子顕微鏡画像の記録を可能にするためにそれらを偏向させるためである。
【0160】
上述したように、薄片を使用すると、IMSまたはIMCによっても分析される試料に対して電子顕微鏡法を行うことが可能になる。したがって、高解像度の構造画像は、電子顕微鏡法、例えば透過型電子顕微鏡法によって得ることができ、次いで、この高解像度画像を使用して、IMSまたはIMCによって得られた画像データの解像度を、レーザ放射線を使用するアブレーションにより達成可能な解像度を超える解像度に精緻化することができる(光子と比較してはるかに短い電子の波長のため)。場合によっては、単一の装置内で、電子顕微鏡法、およびIMCまたはIMSによる元素分析の両方が試料に対して行われる(IMC/IMSは破壊的なプロセスであるため、電子顕微鏡法はIMC/IMSの前に行われる)。
【0161】
したがって、本発明は、上記のような構成要素、例えば、電子銃などの電子源を備えるような電子顕微鏡をさらに備える、本明細書に記載のイメージングマスサイトメータまたはイメージング質量分析計を提供する。当業者によって理解されるように、構成要素の特定の配置は変化し(例えば、電子が試料に導かれる方向、およびレーザ放射線が試料に導かれる方向)、構成要素の常用的な配置は過度の負担なく達成することができる。場合によっては、試料は、電子顕微鏡法による分析とその後のアブレーションとの間に装置内で移動されない。当業者が理解するように、電子顕微鏡法は真空下で行われるが、このセクションで説明されるようなアブレーションは、試料のアブレーションによって生成されたプルーム中の微粒子状材料を取り込むガスの流れの存在下で行われる。したがって、分析の電子顕微鏡法段階の完了後、元素分析が行われる前に、試料チャンバは大気圧近くに戻ることができる。
【0162】
電子顕微鏡を備えるICPおよびIMS装置では、構成要素の配置は、アブレーションのためのレーザ放射線が、例えば図3または図4のように、試料キャリアを介して試料に導かれ、試料キャリアが、試料チャンバの壁の一部として機能し、電子顕微鏡法の目的のために試料チャンバを真空下に維持することを可能にするような配置であってよい。したがって、本明細書のいくつかの実施形態では、装置は、電子顕微鏡と、液浸レンズまたは固体浸漬レンズなどの浸漬媒体とを備える。
【0163】
レーザアブレーション
レーザアブレーションは、本明細書に関連する変更に照らして、例えば、Giesenら、2014および国際公開第2014169394号パンフレットに以前に記載された方法で行われ得る(例えば、試料材料をイオン化するためにICPを使用することも、TOF MS検出器を使用することも必須ではない)。例えば、本明細書に記載されているように、試料表面またはその近くでのイオン化のための方法およびシステムは、イオン光学系を使用して、ICPに試料を送達するためのガス流体素子を必要とせずに、試料から質量分析検出器(例えば、TOF検出器または磁気セクタ検出器)に標識原子を直接移送してもよい。場合によっては、方法およびシステムは、レーザの代わりに、またはレーザに加えて、非レーザ形態の放射線(例えば、電子ビームまたはイオンビーム)を使用してもよい。
【0164】
アブレーションされた試料を持続的にイオン化することなくレーザアブレーションが行われる実施形態では、アブレーションプルームは、以下に説明されるようにICP-MSに移送され得る。
【0165】
移送導管
移送導管は、レーザアブレーションサンプリングシステムとイオン化システムとの間にリンクを形成し、レーザアブレーションサンプリングシステムからイオン化システムに、試料のレーザアブレーションによって生成された試料材料のプルームを輸送することを可能にする。移送導管の一部(または全部)は、例えば、好適な材料を穿孔して、プルームを通過させるための管腔(例えば、円形、長方形または他の断面を有する管腔)を作製することによって形成され得る。移送導管は、0.2mm~3mmの範囲の内径を有する場合がある。場合によっては、移送導管の内径はその長さに沿って変化する可能性がある。例えば、移送導管は、端部が先細になっている場合がある。移送導管は、1センチメートル~100センチメートルの範囲の長さを有する場合がある。場合によっては、長さは、10センチメートル以下(例えば、1~10センチメートル)、5センチメートル以下(例えば、1~5センチメートル)または3センチメートル以下(例えば、0.1~3センチメートル)である。場合によっては、移送導管の管腔は、アブレーションシステムからイオン化システムまでの全距離またはほぼ全距離に沿って真っ直ぐである。また、移送導管の管腔は、全距離にわたって真っ直ぐではなく、配向が変化する場合もある。例えば、移送導管は、徐々に90度回転してもよい。この構成により、レーザアブレーションサンプリングシステム内の試料のアブレーションによって生成されたプルームが、移送導管入口の軸が真上を向いている間に最初に垂直面内を移動し、イオン化システム(例えば、対流冷却を利用するために一般的に水平に配向されるICPトーチ)に近づくにつれて水平に移動することが可能になる。移送導管は、プルームが入るか、それを通してプルームが形成される入口開口から少なくとも0.1センチメートル、少なくとも0.5センチメートルまたは少なくとも1センチメートルの距離にわたって真っ直ぐであり得る。一般的に言えば、典型的には、移送導管は、レーザアブレーションサンプリングシステムからイオン化システムに材料を移送するのにかかる時間を最小限に抑えるように適合される。
【0166】
試料コーンを含む移送導管入口
移送導管は、レーザアブレーションサンプリングシステム内の入口を備える(特に、レーザアブレーションサンプリングシステムの試料チャンバ内;したがって、それはまた、試料チャンバの主要なガス出口を表す)。移送導管の入口は、レーザアブレーションサンプリングシステム内の試料から、アブレーションされた試料材料を受け入れ、それをイオン化システムに移送する。場合によっては、レーザアブレーションサンプリングシステム入口は、イオン化システムへの移送導管に沿ったあらゆるガス流の供給源である。場合によっては、レーザアブレーションサンプリングシステムから材料を受け入れるレーザアブレーションサンプリングシステム入口は、別個の移送流入口から第2の「移送」ガスが流れる導管の壁の開口である(例えば、国際公開第2014146724号パンフレットおよび国際公開第2014147260号パンフレットに開示されているように)。この場合、移送ガスはかなりの割合を形成し、多くの場合、ガス流の大部分はイオン化システムに流れる。レーザアブレーションサンプリングシステムの試料チャンバは、ガス入口を含む。この入口を通してチャンバにガスを流すと、移送導管の入口を通ってチャンバからガスの流れが生じる。このガスの流れは、アブレーションされた材料のプルームを捕捉し、それを移送導管(典型的には、移送導管のレーザアブレーションサンプリングシステム入口は、円錐の形状であり、本明細書では試料コーンと呼ぶ)内に、および試料チャンバからチャンバの上方を通過する導管内に取り込む。この導管はまた、別個の移送流入口(移送流矢印で示された、図の左側)から導管に流入するガスを有する。移送流入口、レーザアブレーションサンプリングシステム入口を備え、アブレーションされた試料材料をイオン化システムに向けて運ぶ移送導管を開始する構成要素は、フローセルとも呼ばれる(国際公開第2014146724号パンフレットおよび国際公開第2014147260号パンフレットにあるように)。
【0167】
移送流は、少なくとも3つの役割を果たす:移送導管に入るプルームをイオン化システムの方向に流し、プルーム材料が移送導管の側壁に接触するのを防ぐ;試料表面の上方に「保護領域」を形成し、制御された雰囲気下でアブレーションが行われることを確実にする;および移送導管の流速を向上させる。通常、捕捉ガスの粘度は、移送ガスの粘度よりも低い。これは、移送導管の中心の捕捉ガス中に試料材料のプルームを閉じ込め、レーザアブレーションサンプリングシステムの下流への試料材料のプルームの拡散を最小限に抑えるのに役立つ(流れの中心の方が輸送速度が一定で、ほぼ平坦であるため)。ガスは、例えば、限定するものではないが、アルゴン、キセノン、ヘリウム、窒素またはこれらの混合物であり得る。一般的な移送ガスはアルゴンである。アルゴンは、移送導管の壁に到達する前にプルームの拡散を停止させるのに特によく適している(また、イオン化システムがアルゴンガスに基づくICPである装置では、機器感度の向上にも役立つ)。捕捉ガスは好ましくはヘリウムである。ただし、捕捉ガスは、他のガス、例えば、水素、窒素または水蒸気によって置き換えられるか、それらを含有し得る。25°Cでは、アルゴンは22.6μPasの粘度を有するが、ヘリウムは19.8μPasの粘度を有する。場合によっては、捕捉ガスがヘリウムであり、移送ガスがアルゴンである。
【0168】
国際公開第2014169394号パンフレットに記載されているように、試料コーンの使用は、標的と移送導管のレーザアブレーションサンプリングシステム入口との間の距離を最小にする。試料と、捕捉ガスがコーンを流れ得るコーンの点との間の距離が減少するため、これは、乱流の少ない試料材料の改善された捕捉をもたらし、アブレーションされた試料材料のプルームの広がりを減少させる。したがって、移送導管の入口は、試料コーンの先端にある開口である。コーンは試料チャンバ内に突出する。
【0169】
試料コーンの任意の変更は、それを非対称にすることである。コーンが対称である場合、中心では、あらゆる方向からのガス流が無効になるため、試料コーンの軸では、ガスの全体的な流れは試料の表面に沿ってゼロである。コーンを非対称にすることによって、試料表面に沿って非ゼロ速度が生じ、これにより、レーザアブレーションサンプリングシステムの試料チャンバからのプルーム材料のウォッシュアウトが支援される。
【0170】
実際に、コーンの軸で試料の表面に沿って非ゼロベクトルガス流を引き起こす試料コーンの任意の変更を使用してもよい。例えば、非対称コーンは、コーンの軸で試料の表面に沿って非ゼロベクトルガス流を生成するように適合されたノッチまたは一連のノッチを備え得る。非対称コーンは、コーンの軸で試料の表面に沿って非ゼロベクトルガス流を生成するように適合されたオリフィスをコーンの側面に備え得る。このオリフィスは、コーンの周りのガス流を不均衡にし、それにより、標的でのコーンの軸で試料の表面に沿って非ゼロベクトルガス流を再び生成する。コーンの側面は、複数のオリフィスを備えてもよく、1つ以上のノッチおよび1つ以上のオリフィスの両方を含んでもよい。ノッチおよび/またはオリフィスの縁部は、乱流を防止するか最小限に抑えるために、典型的には、平滑化、丸み付け、または面取りされる。
【0171】
コーンの非対称性の異なる配向は、捕捉および移送ガスの選択と、その流量とに依存して、異なる状況に適切であり、各配向についてガスおよび流量の組合せを適切に識別することは、当業者の能力の範囲内である。
【0172】
上記の適合はいずれも、本発明で使用されるように、単一の非対称試料コーンに存在し得る。例えば、コーンは非対称に切り詰められ、2つの異なる楕円形のコーンの半分から形成され得、コーンは非対称に切り詰められ、1つ以上のオリフィスなどを備え得る。
【0173】
したがって、試料コーンは、レーザアブレーションサンプリングシステム内で試料からアブレーションされた材料のプルームを捕捉するように適合される。試料コーンは、使用中、例えば、既に上述したように、可動試料キャリアトレイ上のレーザアブレーションサンプリングシステム内で試料を操作することによって、試料に動作可能に近接して配置される。上述したように、アブレーションされた試料材料のプルームは、試料コーンの狭い端部にある開口を通って移送導管に入る。開口の直径は、a)調節可能であり得、b)アブレーションされたプルームが移送導管に入る際に、アブレーションされたプルームが乱されるのを防ぐサイズであり得、および/またはc)アブレーションされたプルームの断面直径にほぼ等しくてよい。
【0174】
先細導管
比較的小さな内径を有するチューブでは、同じ流量のガスが比較的高速で移動する。したがって、比較的小さな内径を有するチューブを使用することにより、ガス流中で運ばれるアブレーションされた試料材料のプルームが、所与の流量でさらに迅速に定義された距離にわたって輸送され得る(例えば、移送導管内でレーザアブレーションサンプリングシステムからイオン化システムまで)。個々のプルームがどれだけ迅速に分析され得るかの重要な要因の一つは、アブレーションによるプルームの生成から装置の質量分析計構成要素でその成分イオンが検出されるまでの間に(検出器の過渡時間)、プルームがどれだけ拡散したかである。したがって、狭い移送導管を使用することによって、アブレーションと検出との間の時間が短縮され、それにより、拡散が起こり得る時間が短くなるため拡散が減少し、最終的には、検出器での各アブレーションプルームの過渡時間が減少する。過渡時間が減少するということは、さらに多くのプルームが単位時間当たりに生成および分析され、したがって、さらに高品質および/またはさらに高速の画像を生成することができることを意味する。
【0175】
先細構造は、移送導管の長さの上記部分に沿って移送導管の内径の漸進的な変化を含み得る(すなわち、チューブの内径は、チューブを通って、入口(レーザアブレーションサンプリングシステム端部にある)に向かう部分の端から出口(イオン化システム端部にある)に向かう部分に沿って減少する断面であった)。通常、アブレーションが生じる場所近くの導管の領域は、比較的広い内径を有する。先細構造の前の導管の容積が大きくなると、アブレーションによって生成された材料の閉じ込めが容易になる。アブレーションされた粒子がアブレーションされたスポットから飛散すると、それらは高速で移動する。ガス中の摩擦によってこれらの粒子は減速するが、プルームは依然としてミリメートル以下からミリメートルのスケールで広がることができる。壁までの十分な距離を確保すると、流れの中心近くのプルームの抑制に役立つ。
【0176】
広い内径セクションは単に短い(約1~2mm)ため、プルームが比較的狭い内径を有する移送導管の比較的長い部分でさらに多くの時間を費やす場合、過渡時間全体に大きく寄与しない。したがって、比較的大きな内径部分がアブレーション生成物を捕捉するために使用され、比較的小さな内径導管がこれらの粒子をイオン化システムに迅速に輸送するために使用される。
【0177】
狭い内径セクションの直径は、乱流の開始に対応する直径によって制限される。丸チューブおよび既知の流れについてレイノルズ数を計算することができる。一般に、4000を超えるレイノルズ数は乱流を示すため、回避するべきである。2000を超えるレイノルズ数は、遷移流(非乱流と乱流との間)を示すため、回避することが望ましい場合もある。ガスの所与の質量流量では、レイノルズ数は導管の直径に反比例する。移送導管の狭い内径セクションの内径は、一般に2mmよりも狭く、例えば、1.5mmよりも狭く、1.25mmよりも狭く、1mmよりも狭いが、導管内の4リットル/分のヘリウムの流れが4000を超えるレイノルズ数を有する直径よりも大きい。
【0178】
移送導管の一定直径部分と先細構造との間の遷移にある粗いまたは角のある縁部は、ガス流に乱流を引き起こす可能性があり、典型的には回避される。
【0179】
犠牲流
流量が高くなると、導管内で乱流が発生するリスクが高まる。これは特に、移送導管が小さい(例えば1mm)内径を有する場合である。ただし、ガスの移送流として従来使用されるアルゴンの代わりに、ヘリウムまたは水素などの軽いガスを使用すれば、内径の小さい移送導管内で高速移送(最高300m/s超)を達成することができる。
【0180】
高速移送は、許容レベルのイオン化が生じることなく、アブレーションされた試料材料のプルームがイオン化システムを通過する原因となる可能性がある限り、問題を生じる。低温ガスの増加した流れがトーチの端部のプラズマの温度を低下させるため、イオン化のレベルが低下する可能性がある。試料材料のプルームが好適なレベルまでイオン化されない場合、アブレーションされた試料材料からの情報は失われる。これは、その成分(任意の標識原子/元素タグを含む)は質量分析計によって検出することができないためである。例えば、試料は、ICPイオン化システム内のトーチの端部でプラズマを非常に迅速に通過するため、プラズマイオンは、試料材料に作用してそれをイオン化するのに十分な時間を有しない。狭い内径の移送導管内の高流量、高速移送によって引き起こされるこの問題は、移送導管の出口に流れ犠牲システムを導入することによって解決することができる。流れ犠牲システムは、移送導管からガスの流れを受け入れ、その流れの一部(アブレーションされた試料材料の任意のプルームを含む流れの中心部分)のみをイオン化システムに通じるインジェクタに向かって通過させるように適合される。流れ犠牲システム内の移送導管からのガスの分散を容易にするために、移送導管出口をラッパ状に開口させることができる。
【0181】
流れ犠牲システムはイオン化システムの近くに配置されるため、流れ犠牲システムからイオン化システムに至るチューブ(例えばインジェクタ)の長さは短い(例えば、長さ約1cm;通常、約数十cm、例えば約50cmの長さである移送導管の長さと比較して)。したがって、輸送システム全体のうち比較的遅い部分の方がはるかに短いため、流れ犠牲システムからイオン化システムに至るチューブ内の比較的低いガス速度は、総移送時間に大きな影響を与えない。
【0182】
ほとんどの配置では、体積流量でガスの速度を低下させる方法として、流れ犠牲システムからイオン化システムへ通過するチューブ(例えばインジェクタ)の直径を大幅に増加させることは望ましくないか、場合によっては可能である。例えば、イオン化システムがICPである場合、流れ犠牲システムからの導管は、ICPトーチの中心にインジェクタチューブを形成する。比較的広い内径のインジェクタを使用すると、アブレーションされた試料材料のプルームをプラズマの中心(最も高温であるため、プラズマの最も効率的なイオン化部分)に正確に注入することができないため、信号品質が低下する。内径が1mm、またはさらに狭いインジェクタ(例えば、内径が800μm以下、例えば600μm以下、500μm以下または400μm以下)が特に好ましい。他のイオン化技術は、三次元空間内で比較的小さな体積内でイオン化される材料に依存するため(イオン化に必要なエネルギー密度は少量でしか達成することができないため)、比較的広い内径を有する導管とは、導管を通過する試料材料の大部分が、エネルギー密度が試料材料をイオン化するのに十分であるゾーンの外側にあることを意味する。したがって、流れ犠牲システムからイオン化システムに至る狭い直径のチューブは、非ICPイオン化システムを有する装置にも使用される。上述したように、試料材料のプルームが好適なレベルまでイオン化されない場合、アブレーションされた試料材料からの情報は失われる。これは、その成分(任意の標識原子/元素タグを含む)は質量分析計によって検出することができないためである。
【0183】
ポンピングを使用して、犠牲流とイオン化システムの入口に流入する流れとの間の所望の分割比を確実にすることができる。したがって、場合によっては、流れ犠牲システムは、犠牲流出口に取り付けられたポンプを備える。制御されたリストリクタをポンプに追加して、犠牲流を制御することができる。場合によっては、流れ犠牲システムは、リストリクタを制御するように適合された質量流量コントローラも備える。
【0184】
高価なガスが使用される場合、犠牲流出口からポンプで送り出されたガスは、公知のガス精製方法を使用して浄化され、同じシステムに再循環され得る。ヘリウムは、上述したように輸送ガスとして特に適しているが、高価である。したがって、システム内のヘリウムの損失を低減することが有利である(すなわち、それがイオン化システムに流入し、イオン化される際に)。したがって、場合によっては、ガス精製システムが、流れ犠牲システムの犠牲流出口に接続される。
【0185】
イオン化システム
元素イオンを生成するためには、霧化された試料を気化、霧化およびイオン化することができるハードイオン化技術を使用する必要がある。
【0186】
誘導結合プラズマトーチ
一般に、誘導結合プラズマは、分析のために質量検出器に送る前に、分析対象の材料をイオン化するために使用される。誘導結合プラズマは、電磁誘導によって生成された電流によってエネルギーが供給されるプラズマ源である。誘導結合プラズマは、最も内側の管がインジェクタとして知られる3つの同心管からなるトーチ内に維持される。
【0187】
プラズマを維持する電磁エネルギーを提供する誘導コイルは、トーチの出力端の周りに配置される。交流電磁場は、毎秒何百万回も極性を反転させる。2つの最も外側の同心管の間にアルゴンガスが供給される。自由電子が放電によって導入され、次いで交流電磁場で加速され、アルゴン原子と衝突し、イオン化する。定常状態では、プラズマは、主にアルゴン原子からなり、少量の自由電子およびアルゴンイオンを含む。
【0188】
2つの最も外側の管の間のガスの流れがプラズマをトーチの壁から遠ざけるため、ICPをトーチ内に保持することができる。インジェクタ(中心管)と中間管との間に導入される第2のアルゴンの流れが、プラズマをインジェクタから遠ざける。ガスの第3の流れが、トーチの中心にあるインジェクタに導入される。分析対象の試料が、インジェクタを介してプラズマに導入される。
【0189】
ICPは、試料からプラズマに材料を導入するために、内径が2mm未満250μm超のインジェクタを備えることができる。インジェクタの直径とは、プラズマに近い端部にあるインジェクタの内径を指す。インジェクタは、プラズマから離れて延びると、異なる直径、例えば、さらに広い直径になり得、直径の差は、直径の段階的な増加によって、またはインジェクタがその長さに沿って先細になるために達成される。例えば、インジェクタの内径は、1.75mm~250μm、例えば、直径1.5mm~300μm、直径1.25mm~300μm、直径1mm~300μm、直径900μm~300μm、直径900μm~400μm、例えば直径約850μmであり得る。内径が2mm未満のインジェクタを使用すると、直径がそれよりも大きいインジェクタに比べて顕著な利点がもたらされる。この特徴の一つの利点は、試料材料のプルームがプラズマに導入される際に質量検出器で検出される信号の過渡性が、狭いインジェクタによって低減されることである(試料材料のプルームは、レーザアブレーションサンプリングシステムによって試料から除去される特定の蒸気状材料の雲である)。したがって、イオン化のためにICPに導入されてから、質量検出器で結果として生じるイオンが検出されるまでに試料材料のプルームを分析するのにかかる時間が短縮される。試料材料のプルームを分析するのにかかる時間のこの短縮により、任意の所与の期間内にさらに多くの試料材料のプルームを検出することが可能になる。また、比較的小さな内径を有するインジェクタは、誘導結合プラズマの中心に試料材料をさらに正確に導入し、そこで、さらに効率的なイオン化が生じる(イオン化が効率的でないプラズマの周辺に向けて多くの試料材料を導入し得る、比較的大きな直径のインジェクタとは対照的に)。
【0190】
ICPトーチ(Agilent、Varian、Nu Instruments、Spectro、Leeman Labs、PerkinElmer、Thermo Fisherなど)およびインジェクタ(例えば、Elemental ScientificおよびMeinhard製)が入手可能である。
【0191】
他のイオン化技術
電子イオン化
電子イオン化は、気相試料に電子ビームを衝突させることを含む。電子イオン化チャンバは、電子源と電子トラップとを含む。電子ビームの典型的な供給源は、通常70電子ボルトのエネルギーで動作するレニウムまたはタングステンワイヤである。電子イオン化用の電子ビーム源は、Markes Internationalから入手可能である。電子ビームは電子トラップに向けて導かれ、電子の移動方向に平行に印加された磁場により、電子はらせん状の経路で移動する。気相試料は、電子イオン化チャンバを通って導かれ、電子ビームと相互作用してイオンを形成する。電子イオン化は、典型的には、試料分子を断片化させるプロセスであるため、ハードイオン化法と考えられる。市販の電子イオン化システムの例には、Advanced Markusの電子イオン化チャンバが挙げられる。
【0192】
レーザアブレーションに基づくサンプリングおよびイオン化システムの任意の追加構成要素
イオン偏向器
質量分析計は、イオンが検出器の表面に衝突するとイオンを検出する。イオンが検出器と衝突すると、検出器の表面から電子が放出される。これらの電子は、検出器を通過する際に増倍される(最初に放出された電子は、検出器内の電子にさらに衝撃を与え、次いで、これらの電子は二次プレートに衝突し、電子の数をさらに増幅する)。検出器のアノードに衝突する電子の数が電流を生成する。アノードに衝突する電子の数は、二次プレートに印加される電圧を変化させることによって制御することができる。電流は、アナログデジタル変換器によって検出器に衝突するイオンの数に変換することができるアナログ信号である。検出器が線形範囲で動作している場合、電流はイオンの数と直接相関し得る。一度に検出することができるイオンの量には限界がある(1秒当たりに検出可能なイオンの数として表すことができる)。この点を超えると、検出器に衝突するイオンによって放出される電子の数は、イオンの数と相関しなくなる。したがって、これは、検出器の定量的能力に上限を課す。
【0193】
イオンが検出器に衝突すると、その表面が汚染によって損傷を受ける。経時的に、この不可逆的な汚染による損傷により、イオンが検出器に衝突した際に検出器表面から放出される電子が少なくなり、検出器を交換する必要があるという最終的な結果がもたらされる。これは「検出器の経年劣化」と呼ばれ、MSでは周知の現象である。
【0194】
したがって、MSに過負荷量のイオンを導入するのを回避することによって、検出器の寿命を延ばすことができる。上述したように、MS検出器に衝突するイオンの総数が検出の上限を超えると、イオンの数が上限を下回る場合ほど、信号は定量的ではなくなるため、情報としては役に立たなくなる。したがって、有用なデータが生成されず検出器の経年劣化が加速するため、検出の上限を超えないようにすることが望ましい。
【0195】
質量分析によるイオンの大きなパケットの分析には、通常の質量分析には見られない特定の一連の課題が伴う。特に、典型的なMS技術は、低い一定レベルの材料を検出器に導入することを含み、これは、検出上限に近づいたり、検出器の経年劣化を加速させたりしないはずである。他方、レーザアブレーションに基づく技術は、MS内で非常に短い時間ウィンドウで、比較的大量の材料、例えば、MS内で典型的に分析されるイオンの小さなパケットよりもはるかに大きい組織試料の細胞サイズのパッチからのイオンを分析する。実際に、これは、アブレーションまたはリフティングから生じる分析されたイオンのパケットにより、検出器を意図的にほぼ過負荷にすることである。分析事象間では、信号はベースラインにある(標識原子からのイオンがサンプリングおよびイオン化システムから意図的にMSに入っていないため、ゼロに近い信号;MSは完全な真空ではないため、一部のイオンは必然的に検出される)。
【0196】
したがって、本明細書に記載の装置では、多数の検出可能な原子によって標識されたイオン化試料材料のパケットからのイオンが検出の上限を超え、有用なデータを提供せずに検出器に損傷を与える可能性があるため、検出器の経年劣化が加速するリスクが高い。
【0197】
これらの問題に対処するために、装置は、サンプリングおよびイオン化システムと検出器システム(質量分析計)との間に配置され、質量分析計へのイオンの侵入を制御するように動作可能なイオン偏向器を備えることができる。1つの配置では、イオン偏向器がオンの場合、サンプリングおよびイオン化システムから受け入れたイオンは偏向されるが(すなわち、イオンの経路が変化するため、検出器に到達しない)、偏向器がオフの場合、イオンは偏向されず、検出器に到達する。イオン偏向器がどのように展開されるかは、サンプリングおよびイオン化システムの配置と装置のMSとに依存する。例えば、イオンがMSに入る入口がサンプリングおよびイオン化システムから出るイオンの経路と直接一致しない場合、デフォルトでは、適切に配置されたイオン偏向器がオンになり、イオンをサンプリングおよびイオン化システムからMSに導く。MSに過負荷をかける可能性があると考えられるイオン化試料材料のパケットのイオン化から生じる事象が検出されると(下記参照)、イオン偏向器はオフに切り替わり、その結果、事象からのイオン化された材料の残りはMS内に偏向されず、代わりに単にシステムの内部表面に衝突し、それによってMS検出器の寿命を維持することができる。イオン偏向器は、損傷事象からのイオンがMSに入るのを防いだ後、その元の状態に戻され、それによって、イオン化試料材料の後続のパケットからのイオンがMSに入り、検出されることが可能になる。
【0198】
あるいは、(通常の動作条件下で)イオンがMSに入る前にサンプリングおよびイオン化システムから現れるイオンの方向に変化がない配置では、イオン偏向器はオフになり、サンプリングおよびイオン化システムからのイオンはそれを通過してMSで分析される。検出器の潜在的過負荷が検出された際に損傷を防ぐために、この構成では、イオン偏向器がオンにされ、イオンが検出器に入らないようにイオンを迂回させて、検出器に対する損傷を防ぐ。
【0199】
試料材料(レーザアブレーションによって生成された材料のプルーム)のイオン化からMSに入るイオンは、全部が同時にMSに入るのではなく、代わりに、最大周波数に関する確率分布曲線に従う周波数でピークとして入る:ベースラインから、最初に少数のイオンがMSに入り、検出され、次いで、イオンの周波数が最大まで増加し、その後、その数は再び減少し、ベースラインまで落ちる。ピークの前縁でのイオンの周波数のゆっくりとした増加の代わりに、検出器に衝突するイオンの数が非常に急速に増加するため、検出器に損傷を与える可能性のある事象を識別することができる。
【0200】
TOF MSの検出器、以下に説明されるような特定のタイプの検出器に衝突するイオンの流れは、イオン化試料材料のパケット内のイオンの分析中は連続的ではない。TOFは、パルス群でTOF MSの飛行チャンバ内にイオンを周期的に放出するパルサを備える。既知のすべてのイオンを同時に放出することにより、飛行時間型質量決定が可能になる。飛行時間型質量決定のためのイオンのパルスの放出間の時間は、TOF MSの抽出またはプッシュとして知られている。プッシュはマイクロ秒のオーダーである。したがって、サンプリングおよびイオン化システムからのイオンの1つ以上のパケットからの信号は、多数のプッシュを包含する。
【0201】
したがって、イオン数読取り値がベースラインから1つのプッシュ(すなわち、イオン化試料材料の特定のパケットからのイオンの第1の部分)内で非常に高い数に急増する場合、試料材料のパケットのイオン化から生じるイオンの本体はさらに大きくなるため、検出上限を超えることが予測され得る。この時点で、イオン偏向器を作動させて、損傷を与えるイオンの大部分を検出器から確実に離すことができる(上記のように、システムの配置に応じて、作動または無効にすることによって)。
【0202】
四重極に基づく好適なイオン偏向器は、当技術分野で入手可能である(例えば、Colutron Research Corporation and Dreebit GmbHから)。
【0203】
本発明のレーザアブレーションに基づくサンプリングシステム
レーザアブレーションに基づくサンプリングシステムの構成要素は、行われる分析タスクに応じて組み合わせることができる。例示的な実施形態を以下に示す。
【0204】
いくつかの実施形態では、生体試料などの試料を分析するためのレーザアブレーションに基づくサンプリングシステムは、
試料ステージと、
レーザ源と、
レーザ走査システムと、
対物レンズを備え(ここで、対物レンズが、少なくとも0.7、少なくとも0.8または少なくとも0.9の開口数を有する)、場合により、対物レンズと試料ステージとの間に浸漬媒体をさらに備える集束光学系とを備える。
【0205】
いくつかの実施形態では、生体試料などの試料を分析するためのレーザアブレーションに基づくサンプリングシステムは、
試料ステージと、
フェムト秒レーザを備えるレーザ源と、
レーザ走査システムと、
対物レンズを備え(ここで、対物レンズが、少なくとも0.7、少なくとも0.8または少なくとも0.9の開口数を有する)、場合により、対物レンズと試料ステージとの間に浸漬媒体をさらに備える集束光学系とを備える。
【0206】
いくつかの実施形態では、生体試料などの試料を分析するためのレーザアブレーションに基づくサンプリングシステムは、
第1の面および第2の面を備える試料ステージであって、第1の面および第2の面が対向し、第1の面が試料を受け入れるように適合される試料ステージと、
レーザ源と、
レーザ走査システムと、
対物レンズを備える集束光学系であって、集束光学系が、放射線ビームをレーザ源から第2の面に向けて試料ステージ上の位置に導くように適合され(ここで、対物レンズが、少なくとも0.7、少なくとも0.8または少なくとも0.9の開口数を有する)、場合により、対物レンズと試料ステージとの間に浸漬媒体をさらに備える集束光学系とを備える。
【0207】
いくつかの実施形態では、生体試料などの試料を分析するためのレーザアブレーションに基づくサンプリングシステムは、
第1の面および第2の面を備える試料ステージであって、第1の面および第2の面が対向し、第1の面が試料を受け入れるように適合される試料ステージと、
フェムト秒レーザを備えるレーザ源と、
レーザ走査システムと、
対物レンズを備える集束光学系であって、集束光学系が、放射線ビームをレーザ源から第2の面に向けて試料ステージ上の位置に導くように適合され(ここで、対物レンズが、少なくとも0.7、少なくとも0.8または少なくとも0.9の開口数を有する)、場合により、対物レンズと試料ステージとの間に浸漬媒体をさらに備える集束光学系とを備える。
【0208】
いくつかの実施形態では、生体試料などの試料を分析するためのレーザアブレーションに基づくサンプリングシステムは、
第1の面および第2の面を備える試料ステージであって、第1の面および第2の面が対向し、第1の面が試料を受け入れるように適合される試料ステージと、
レーザ源と、
対物レンズを備える集束光学系であって、集束光学系が、放射線ビームをレーザ源から第2の面に向けて試料ステージ上の位置に導くように適合され(ここで、対物レンズが、少なくとも0.7、少なくとも0.8または少なくとも0.9の開口数を有する)、場合により、対物レンズと試料ステージとの間に浸漬媒体をさらに備える集束光学系とを備える。
【0209】
いくつかの実施形態では、生体試料などの試料を分析するためのレーザアブレーションに基づくサンプリングシステムは、
第1の面および第2の面を備える試料ステージであって、第1の面および第2の面が対向し、第1の面が試料を受け入れるように適合される試料ステージと、
フェムト秒レーザを備えるレーザ源と、
対物レンズを備える集束光学系であって、集束光学系が、放射線ビームをレーザ源から第2の面に向けて試料ステージ上の位置に導くように適合され(ここで、対物レンズが、少なくとも0.7、少なくとも0.8または少なくとも0.9の開口数を有する)、場合により、対物レンズと試料ステージとの間に浸漬媒体をさらに備える集束光学系とを備える。
【0210】
いくつかの実施形態では、生体試料などの試料を分析するためのレーザアブレーションに基づくサンプリングシステムは、
第1の面および第2の面を備える試料ステージであって、第1の面および第2の面が対向し、第1の面が試料を受け入れるように適合される試料ステージと、
レーザ源と、
レーザ走査システムと、
対物レンズを備え、場合により、対物レンズと試料ステージとの間に浸漬媒体をさらに備える集束光学系とを備える。
【0211】
いくつかの実施形態では、生体試料などの試料を分析するためのレーザアブレーションに基づくサンプリングシステムは、
第1の面および第2の面を備える試料ステージであって、第1の面および第2の面が対向し、第1の面が試料を受け入れるように適合される試料ステージと、
フェムト秒レーザを備えるレーザ源と、
レーザ走査システムと、
対物レンズを備え、場合により、対物レンズと試料ステージとの間に浸漬媒体をさらに備える集束光学系とを備える。
【0212】
いくつかの実施形態では、生体試料などの試料を分析するためのレーザアブレーションに基づくサンプリングシステムは、
第1の面および第2の面を備える試料ステージであって、第1の面および第2の面が対向し、第1の面が試料を受け入れるように適合される試料ステージと、
フェムト秒レーザを備えるレーザ源と、
対物レンズを備え、場合により、対物レンズと試料ステージとの間に浸漬媒体をさらに備える集束光学系とを備える。
【0213】
上記のレーザアブレーションに基づくサンプリングシステムのそれぞれは、質量検出器(例えば、TOF質量検出器)を備える、特にICPイオン化システムを備える、試料を分析するための本発明の装置に含めるのに適している。
【0214】
b.スパッタリングに基づくサンプリングおよびイオン化システム
スパッタリングに基づくサンプリングシステムおよび技術は、上記のレーザアブレーションに基づくシステムおよび技術に代わる表面分析技術を提供する。そのようなスパッタリング技術の1つは、二次イオン質量分析(SIMS)である。SIMSは、試料に集束イオンビームを衝突させて、試料から材料をスパッタリングすることを含む。スパッタリングされた材料は、イオンおよび中性原子の両方を含む。SIMSでは、イオンは、次いで、浸漬レンズによる捕捉に続いて、真空中の質量検出器に移送される。質量検出器は、以下に説明される質量検出器システムのいずれかであり得る。試料上の他の荷電粒子、例えば電子の誘導によって、同様のスパッタリングを達成することができる。
【0215】
SIMSは、いくつかの理由から有用な表面分析技術である。第一に、この技術は、低濃度の分析物材料に非常に敏感である。第二に、一次イオンの回折効果はほとんどの実際的な条件では無視することができるため、SIMSには実質的に回折限界がない。したがって、SIMSは、10~30nmのスケールで材料を分析する可能性を有する。
【0216】
ただし、スパッタリングされた材料ではイオン化効率は非常に低く、イオン化もまた、イオン化される表面化学および特定の元素に非常に依存するため、SIMSによって生成されるイオンの数は、十分な信号対雑音比を提供するために必ずしも十分ではない。例えば、イオン化効率は、MaxPar試薬によって標識された抗体の単一コピーを検出するには不十分である。MaxPar質量タグによって標識された単一の抗体は約100個の原子を担持するため、従来のSIMSワークフローでは、検出器で数個のイオンよりも大きい信号を生成するために、約100コピーの抗体が必要とされ得る。SIMSのさらに別の欠陥は、同じ質量チャネル内の分子からのスペクトル干渉に起因するほか、生体試料中に存在する主要なタグ付け要素および豊富な中性原子を含む酸化物および他の種などの化合物イオンの形成に起因する。化合物イオンは、元素イオンの信号を希釈し、さらに質量の大きい元素の質量チャネルとの重複を引き起こす。したがって、SIMSを使用するイメージングの解像度は、低いイオン化効率に部分的に起因する低い検出感度によって制限され得る。
【0217】
本発明は、レーザに基づく二次中性質量分析(SNMS)を使用して生体試料を分析するための改善された方法および装置を提供することによって、SIMSの限界を克服する。
【0218】
本発明のレーザSNMS法および装置は、試料から材料をスパッタリングするために、集束された荷電粒子ビームを試料に衝突させることを含む。中性のスパッタリングされた材料をポストイオン化するためにレーザが使用される。これらの放出されたイオン(以下に説明されるように、標識原子からの任意の検出可能なイオンを含む)は、検出器システム、例えば質量分析計によって検出することができる(検出器については、以下にさらに詳細に説明する)。スパッタリングされた材料の大部分は中性状態であり、SNMSはスパッタリングされた材料をイオン化して質量検出器を使用して分析することができるため、SNMSはSIMSよりも良好な表面の定量的推定を提供する。さらに、上記のように、従来のIMSおよびIMCの空間解像度を改善する際の主な課題の一つは、分析される材料中の分析物の量が十分な信号対雑音比を提供することを確実にすることである。したがって、SNMSは中性の、およびイオン化されたスパッタリングされた材料の両方を使用するため、SNMSに基づくIMCおよびIMSは、SIMSに基づくIMCおよびIMSと比較して向上した解像度を提供する。例えば、SNMSは、MaxPar試薬によってタグ付けされた抗体を用いた単一コピー検出を可能にする。例えば、ポストイオン化の効率が10%に達する場合、各抗体当たり100原子が1抗体当たり10個のイオンを生成し、これらのイオンが良好な効率で検出器に運ばれると、抗体の各コピーの確実な検出が保証される。
【0219】
レーザSNMSシステムは、典型的には、3つの構成要素を備える。第1の構成要素は、分析用試料から材料をスパッタリングするための荷電粒子源(この荷電粒子源については、以下にさらに詳細に説明する)である。第2の構成要素は、スパッタリングされた材料をポストイオン化するためのレーザである。第3の構成要素は、イオン化された材料を検出する検出器構成要素、例えば、質量検出器である。レーザSNMSでは、レーザおよび荷電粒子源は、典型的にはパルス化される。関連するシステムでは、第1の構成要素は、試料上の位置に導かれる荷電粒子源(この荷電粒子源については、以下にさらに詳細に説明する)である。第2の構成要素は、荷電粒子によって電子がプレシード(preseeded)された地点のアブレーションおよび場合によりイオン化を引き起こすためのレーザである。第3の構成要素は、イオン化された材料を検出する検出器構成要素、例えば、質量検出器である。特定の態様では、試料に衝突する荷電粒子のスポットサイズは、レーザのスポットサイズよりも小さい。荷電粒子は、その位置で試料をアブレーションし得、その後、レーザが、試料表面近くの試料をイオン化し得る(例えば、図6に示すように)。荷電粒子は、試料の位置に電子をシード(seed)し得、その後、レーザが、電子がシードされた試料をアブレーションおよびイオン化し得る(例えば、図7に示すように)。レーザは、(例えば、電荷点火状態内で)試料に衝突する荷電粒子の数ピコ秒(例えば、10~100ps)以内に試料をイオン化し得る。特定の態様では、試料に衝突する荷電粒子のスポットサイズは、レーザのスポットサイズよりも小さく、例えば、レーザスポットサイズの半分未満、5分の1未満、10分の1未満、20分の1未満、または100分の1未満である。例えば、レーザは、10マイクロメートル未満および/または500ナノメートル超、例えば、500ナノメートル~5マイクロメートル、800nm~2マイクロメートル、または約1マイクロメートルのスポットサイズ(試料に衝突する)を有し得る。荷電粒子は、小さいスポットサイズ(例えば、本明細書に記載の範囲内)を提供して、例えば、直径200nm未満、100nm未満、50nm未満、30nm未満または10nm未満のスポットサイズを有するレーザ放射線による最小の中和を用いたイオン化を可能にし得る。
【0220】
したがって、本発明は、
試料ステージと、
荷電粒子源、および荷電粒子ビームを試料ステージ上の位置に通過させるための荷電粒子カラムと、
第1のレーザ源、および第1のレーザ源によって放出されたレーザビームを試料ステージに向けて導くように構成された第1の集束光学系とを備える、生体試料などの試料を分析するための装置を提供する。
【0221】
装置は、典型的には、TOF検出器などの質量検出器を備える。
【0222】
したがって、本発明は、
試料ステージと、
荷電粒子源、および荷電粒子ビームを試料ステージ上の位置に通過させるための荷電粒子カラムと、
第1のレーザ源、および第1のレーザ源によって放出されたレーザビームを試料ステージに向けて導くように構成された第1の集束光学系とを備える、生体試料などの試料を分析するためのサンプリングおよびイオン化システムを提供する。
【0223】
本発明の荷電粒子カラムは、ビームを試料ステージ上の位置に通過させるために荷電粒子を集束させるように配置された適切なイオン光学系を含む。そのような適切なイオン光学系は、以下にさらに詳細に説明されるように、一次イオンビームを成形するために、質量フィルタ、レンズおよび開口および偏向板を含むことができる。
【0224】
図6は、本発明の例示的な実施形態の配置の概略図である。エネルギー源40は、光学系80(例えば、光光学系またはイオン光学系、例えば、荷電粒子カラム)によって試料ステージ20上の位置55に向かって通過する放射線(例えば、以下にさらに説明されるように、レーザビーム、一次イオンビームまたは電子ビーム)を放出する。試料30は、荷電粒子が位置55に向かって通過して試料30から材料50をスパッタリングするように、試料ステージ20上に配置される。第1のレーザ源60はレーザビームを放出し、集束光学系(図示せず)は、レーザビームを試料ステージに向けて導いて、スパッタリングされた材料50をイオン化し、試料イオンを含む材料のプルームを形成する。次いで、イオンは、質量検出器、例えば、飛行時間検出器もしくは磁気セクタ検出器、または以下にさらに詳細に説明される任意の他の質量検出器に移送され得る。
【0225】
したがって、本発明は、生体試料などの試料を分析するための装置またはサンプリングおよびイオン化システムを提供し、第1の集束光学系は、レーザビームパルスを同期させて、荷電粒子パルスによってスパッタリングされた材料のプルームをイオン化する(本明細書ではポストイオン化と呼ばれる)ように構成される。
【0226】
したがって、本発明は、
試料ステージと、
荷電粒子源、および荷電粒子ビームを試料ステージ上の位置に通過させるための荷電粒子カラムと、
第1のレーザ源、および第1のレーザ源によって放出されたレーザビームを試料ステージに向けて導くように構成された第1の集束光学系であって、レーザビームパルスを同期させて、荷電粒子源からの荷電粒子パルスによってスパッタリングされた材料のプルームをイオン化するように構成される第1の集束光学系とを備える、生体試料などの試料を分析するための装置を提供する。
【0227】
特に、第1の集束光学系は、レーザビームを試料ステージの表面の上方の体積に導き、集束させ、その結果、材料が試料ステージ上の試料からスパッタリングされると、試料から放出される材料のプルームが、第1のレーザ源の放射線が集束される体積内を通過して、材料がイオン化され得る。この説明は、試料ステージと、荷電粒子源と、第1のレーザ源と、プルームをイオン化する第1の集束光学系との特徴の組合せを使用する、このセクションで以下に説明するあらゆる装置に適用される。この説明は、以下では、単に簡潔にするために毎回繰り返されない。
【0228】
装置は、典型的には、TOF検出器などの質量検出器を備える。
【0229】
したがって、本発明は、
試料ステージと、
荷電粒子源、および荷電粒子ビームを試料ステージ上の位置に通過させるための荷電粒子カラムと、
第1のレーザ源、および第1のレーザ源によって放出されたレーザビームを試料ステージに向けて導くように構成された第1の集束光学系であって、レーザビームパルスを同期させて、荷電粒子源からの荷電粒子パルスによってスパッタリングされた材料のプルームをイオン化するように構成される第1の集束光学系とを備える、生体試料などの試料を分析するためのサンプリングおよびイオン化システムを提供する。
【0230】
上で説明したように、第1の集束光学系は、レーザビームを試料ステージ上の位置の上方(さらに具体的には、試料ステージ上の試料上の位置の上方)の体積に導き、集束させ、その結果、材料が試料ステージ上の試料からスパッタリングされると、試料から放出される材料のプルームが、第1のレーザ源の放射線が集束される体積内を通過して、材料がイオン化され得る。この説明は、試料ステージと、荷電粒子源と、第1のレーザ源と、プルームをイオン化する第1の集束光学系との特徴の組合せを使用する、このセクションで以下に説明するあらゆるシステムに適用される。この説明は、以下では、単に簡潔にするために毎回繰り返されない。
【0231】
図7は、本発明のさらなる例示的な実施形態の配置の概略図である。図7は、図6と共通の要素を含み、これらの要素は同じ符号を共有する。ただし、図7に示す実施形態の装置では、第1のレーザ源60からのレーザビームは、光学系80(例えば、荷電粒子カラム)が導かれる試料ステージ20上の位置55に向けて導かれる。例えば、試料上の位置55に向かって通過した荷電粒子パルスは、試料上の位置55で自由電子と励起状態を形成し、この励起状態は、本明細書では「試料点火状態」と呼ばれる。第1のレーザ源が点火状態の試料を照射するように、第1のレーザ源からのレーザビームは、荷電粒子パルスが位置に到達した直後に試料上の位置55を照射する。試料は試料点火状態にあるため、試料はレーザビームからのレーザ光パルスをアブレーションおよびイオン化エネルギーに容易に変換する。この状態は、本明細書では「試料エネルギーポンピング状態」と呼ばれる。このプロセスは、試料イオンを含む材料のプルームを形成する。当業者であれば、この実施形態では、レーザパルスのエネルギーが、標本のアブレーション閾値よりも小さいことを理解するであろう(その結果、試料上のレーザスポットは荷電粒子が導かれた位置の直径よりも大きくなり得るため、荷電粒子が導かれた同じ隣接する位置の領域は、その位置を「試料エネルギーポンピング状態」にするレーザ光パルスに応答してアブレーションしない)。
【0232】
したがって、本発明は、生体試料などの試料を分析するための装置を提供し、第1の集束光学系は、荷電粒子パルスの直後に試料ステージ上の位置に到達するように、レーザビームパルスを同期させるように構成される。本発明のこの構成は、荷電粒子ビームのみによる粒子の比較的遅いスパッタリングを克服し、したがって、生体試料を分析するさらに迅速な方法を提供することができる。
【0233】
したがって、本発明は、
試料ステージと、
荷電粒子源、および荷電粒子ビームを試料ステージ上の位置に通過させるための荷電粒子カラムと、
第1のレーザ源、および第1のレーザ源によって放出されたレーザビームを試料ステージに向けて導くように構成された第1の集束光学系であって、荷電粒子パルスの直後に試料ステージ上の位置に到達するように、レーザビームパルスを同期させるように構成される第1の集束光学系とを備える、生体試料などの試料を分析するための装置を提供する。
【0234】
特に、第1の集束光学系は、試料ステージ上の試料上の、荷電粒子によって先に標的とされたのと同じ位置に、レーザビーム/レーザ放射線を導き、集束させる。この説明は、試料ステージと、荷電粒子源と、第1のレーザ源と、第1のレーザ源からの放射線のパルスに、荷電粒子によって先に標的とされたのと同じ位置を照射させる第1の集束光学系との特徴の組合せを使用する、このセクションで以下に説明するあらゆる装置に適用される。この説明は、以下では、単に簡潔にするために毎回繰り返されない。
【0235】
装置は、典型的には、TOF検出器などの質量検出器を備える。
【0236】
したがって、本発明は、
試料ステージと、
荷電粒子源、および荷電粒子ビームを試料ステージ上の位置に通過させるための荷電粒子カラムと、
第1のレーザ源、および第1のレーザ源によって放出されたレーザビームを試料ステージに向けて導くように構成された第1の集束光学系であって、荷電粒子パルスの直後に試料ステージ上の位置に到達するように、レーザビームパルスを同期させるように構成される第1の集束光学系とを備える、生体試料などの試料を分析するためのサンプリングおよびイオン化システムを提供する。
【0237】
特に、第1の集束光学系は、試料ステージ上の試料上の、荷電粒子によって先に標的とされたのと同じ位置に、レーザビーム/レーザ放射線を導き、集束させる。この説明は、試料ステージと、荷電粒子源と、第1のレーザ源と、第1のレーザ源からの放射線のパルスに、荷電粒子によって先に標的とされたのと同じ位置を照射させる第1の集束光学系との特徴の組合せを使用する、このセクションで以下に説明するあらゆるシステムに適用される。この説明は、以下では、単に簡潔にするために毎回繰り返されない。図8は、本発明のさらなる例示的な実施形態の配置の概略図である。図8は、図6および図7と共通の要素を含み、これらの要素は同じ符号を共有する。この実施形態では、試料ステージ20は透明である(試料が配置される任意の試料キャリアと同様)。当業者であれば、透明な試料ステージ、または切欠き部分を備える試料ステージが、本明細書に記載のスパッタリングに基づくサンプリングおよびイオン化システムの実施形態のいずれかとともに使用され得ることを理解するであろう。透明な試料ステージについては、本明細書でさらに詳細に説明される。
【0238】
図8に示す実施形態では、荷電粒子源および荷電粒子カラム、ならびに第1のレーザ源および第1の集束光学系は、荷電粒子ビームおよびレーザビームが試料ステージの反対側に向けて導かれるように構成される。図8に示す実施形態では、荷電粒子は、試料上の位置55に向かって通過し、レーザビームもまた、試料上の位置55に向けて導かれる。図7に示す実施形態と同様に、図8の実施形態では、荷電粒子パルスビームが試料点火状態をもたらし、パルスレーザビームがエネルギーポンピング状態をもたらして、試料イオンを含む材料のプルームを生じる。
【0239】
図9は、本発明のさらなる例示的な実施形態の配置の概略図である。図9は、図6図8と共通の要素を含み、これらの要素は同じ符号を共有する。図8に示す実施形態と同様に、本発明のこの実施形態では、荷電粒子源および荷電粒子カラム、ならびに第1のレーザ源および第1の集束光学系は、荷電粒子ビームおよびレーザビームが試料ステージの反対側に向けて導かれるように構成される。試料30は、荷電粒子が位置55に向かって通過して試料30から材料50をスパッタリングするように、試料ステージ20上に配置される。第1のレーザ源60はレーザビームを放出し、集束光学系(図示せず)は、レーザビームを試料ステージに向けて導いて、スパッタリングされた材料50をイオン化し、試料イオンを含む材料のプルームを形成する。次いで、イオンは、質量検出器、例えば、飛行時間検出器、または以下にさらに詳細に説明される任意の他の質量検出器に移送され得る。
【0240】
注目すべきことに、上記の実施形態のいずれでも、前述のように、試料全体にわたって荷電粒子ビームを走査させて、細胞小器官などの任意の関心領域を分析してもよい。
【0241】
したがって、本発明は、荷電粒子源および荷電粒子カラム、ならびに第1のレーザ源および第1の集束光学系が、荷電粒子ビームおよびレーザビームが試料ステージの同じ側に向けて導かれるように構成される装置を提供する。このタイプの装置の例を図6および図7に示す。
【0242】
したがって、本発明は、生体試料などの試料を分析するための装置であって、
試料ステージと、
荷電粒子源、および荷電粒子ビームを試料ステージ上の位置に通過させるための荷電粒子カラムと、
第1のレーザ源、および第1のレーザ源によって放出されたレーザビームを試料ステージに向けて導くように構成された第1の集束光学系であって、荷電粒子パルスの直後に試料ステージ上の位置に到達するように、レーザビームパルスを同期させるように構成される第1の集束光学系とを備え、
荷電粒子源および荷電粒子カラム、ならびに第1のレーザ源および第1の集束光学系が、荷電粒子ビームおよびレーザビームが試料ステージの同じ側に向けて導かれるように構成される装置を提供する。
【0243】
装置は、典型的には、TOF検出器などの質量検出器を備える。
【0244】
したがって、本発明は、生体試料などの試料を分析するためのサンプリングおよびイオン化システムであって、
試料ステージと、
荷電粒子源、および荷電粒子ビームを試料ステージ上の位置に通過させるための荷電粒子カラムと、
第1のレーザ源、および第1のレーザ源によって放出されたレーザビームを試料ステージに向けて導くように構成された第1の集束光学系であって、荷電粒子パルスの直後に試料ステージ上の位置に到達するように、レーザビームパルスを同期させるように構成される第1の集束光学系とを備え、
荷電粒子源および荷電粒子カラム、ならびに第1のレーザ源および第1の集束光学系が、荷電粒子ビームおよびレーザビームが試料ステージの同じ側に向けて導かれるように構成されるサンプリングおよびイオン化システムを提供する。
【0245】
例えば、本発明は、
第1の面および第2の面を備える試料ステージであって、第1の面および第2の面が対向し、第1の面が試料を受け入れるように適合される試料ステージと、
荷電粒子源、および荷電粒子ビームを試料ステージの第1の面上の位置に通過させるための荷電粒子カラムと、
第1のレーザ源、および第1のレーザ源によって放出されたレーザビームを試料ステージの第1の面に向けて導くように構成された第1の集束光学系であって、荷電粒子パルスの直後に試料ステージ上の位置に到達するように、レーザビームパルスを同期させるように構成される第1の集束光学系とを備える、生体試料などの試料を分析するための装置を提供する。
【0246】
装置は、典型的には、TOF検出器などの質量検出器を備える。
【0247】
例えば、本発明は、
第1の面および第2の面を備える試料ステージであって、第1の面および第2の面が対向し、第1の面が試料を受け入れるように適合される試料ステージと、
荷電粒子源、および荷電粒子ビームを試料ステージの第1の面上の位置に通過させるための荷電粒子カラムと、
第1のレーザ源、および第1のレーザ源によって放出されたレーザビームを試料ステージの第1の面に向けて導くように構成された第1の集束光学系であって、荷電粒子パルスの直後に試料ステージ上の位置に到達するように、レーザビームパルスを同期させるように構成される第1の集束光学系とを備える、生体試料などの試料を分析するためのサンプリングおよびイオン化システムを提供する。
【0248】
したがって、本発明は、生体試料などの試料を分析するための装置であって、
試料ステージと、
荷電粒子源、および荷電粒子ビームを試料ステージ上の位置に通過させるための荷電粒子カラムと、
第1のレーザ源、および第1のレーザ源によって放出されたレーザビームを試料ステージに向けて導くように構成された第1の集束光学系であって、レーザビームパルスを同期させて、荷電粒子源からの荷電粒子パルスによってスパッタリングされた材料のプルームをイオン化するように構成される第1の集束光学系とを備え、
荷電粒子源および荷電粒子カラム、ならびに第1のレーザ源および第1の集束光学系が、荷電粒子ビームおよびレーザビームが試料ステージの同じ側に向けて導かれるように構成される装置を提供する。
【0249】
装置は、典型的には、TOF検出器などの質量検出器を備える。
【0250】
したがって、本発明は、生体試料などの試料を分析するためのサンプリングおよびイオン化システムであって、
試料ステージと、
荷電粒子源、および荷電粒子ビームを試料ステージ上の位置に通過させるための荷電粒子カラムと、
第1のレーザ源、および第1のレーザ源によって放出されたレーザビームを試料ステージに向けて導くように構成された第1の集束光学系であって、レーザビームパルスを同期させて、荷電粒子源からの荷電粒子パルスによってスパッタリングされた材料のプルームをイオン化するように構成される第1の集束光学系とを備え、
荷電粒子源および荷電粒子カラム、ならびに第1のレーザ源および第1の集束光学系が、荷電粒子ビームおよびレーザビームが試料ステージの同じ側に向けて導かれるように構成されるサンプリングおよびイオン化システムを提供する。
【0251】
例えば、本発明は、
第1の面および第2の面を備える試料ステージであって、第1の面および第2の面が対向し、第1の面が試料を受け入れるように適合される試料ステージと、
荷電粒子源、および荷電粒子ビームを試料ステージの第1の面上の位置に通過させるための荷電粒子カラムと、
第1のレーザ源、および第1のレーザ源によって放出されたレーザビームを試料ステージの第1の面に向けて導くように構成された第1の集束光学系であって、レーザビームパルスを同期させて、荷電粒子源からの荷電粒子パルスによってスパッタリングされた材料のプルームをイオン化するように構成される第1の集束光学系とを備える、生体試料などの試料を分析するための装置を提供する。
【0252】
装置は、典型的には、TOF検出器などの質量検出器を備える。
【0253】
例えば、本発明は、
第1の面および第2の面を備える試料ステージであって、第1の面および第2の面が対向し、第1の面が試料を受け入れるように適合される試料ステージと、
荷電粒子源、および荷電粒子ビームを試料ステージの第1の面上の位置に通過させるための荷電粒子カラムと、
第1のレーザ源、および第1のレーザ源によって放出されたレーザビームを試料ステージの第1の面に向けて導くように構成された第1の集束光学系であって、レーザビームパルスを同期させて、荷電粒子源からの荷電粒子パルスによってスパッタリングされた材料のプルームをイオン化するように構成される第1の集束光学系とを備える、生体試料などの試料を分析するためのサンプリングおよびイオン化システムを提供する。
【0254】
さらに、本発明は、荷電粒子源および荷電粒子カラム、ならびに第1のレーザ源および第1の集束光学系が、荷電粒子ビームおよびレーザビームが試料ステージの反対側に向けて導かれるように構成される装置を提供する。このタイプの装置の例を図8および図9に示す。これらのタイプの設定の利点は、荷電粒子カラムと集束光学系とを組み合わせるという機械的な複雑さを最小限に抑えることである。特定の態様では、荷電粒子は、荷電粒子に対して少なくとも部分的に透明な支持体または基板を介して試料に導かれ、試料をアブレーションするか、試料中の電子をシードし得る。そのような態様では、試料は、200nm未満、100nm未満、50nm未満または30nm未満など、薄くてよい。
【0255】
したがって、本発明は、生体試料などの試料を分析するための装置であって、
試料ステージと、
荷電粒子源、および荷電粒子ビームを試料ステージ上の位置に通過させるための荷電粒子カラムと、
第1のレーザ源、および第1のレーザ源によって放出されたレーザビームを試料ステージに向けて導くように構成された第1の集束光学系であって、荷電粒子パルスの直後に試料ステージ上の位置に到達するように、レーザビームパルスを同期させるように構成される第1の集束光学系とを備え、
荷電粒子源および荷電粒子カラム、ならびに第1のレーザ源および第1の集束光学系が、荷電粒子ビームおよびレーザビームが試料ステージの反対側に向けて導かれるように構成される装置を提供する。
【0256】
装置は、典型的には、TOF検出器などの質量検出器を備える。
【0257】
したがって、本発明は、生体試料などの試料を分析するためのサンプリングおよびイオン化システムであって、
試料ステージと、
荷電粒子源、および荷電粒子ビームを試料ステージ上の位置に通過させるための荷電粒子カラムと、
第1のレーザ源、および第1のレーザ源によって放出されたレーザビームを試料ステージに向けて導くように構成された第1の集束光学系であって、荷電粒子パルスの直後に試料ステージ上の位置に到達するように、レーザビームパルスを同期させるように構成される第1の集束光学系とを備え、
荷電粒子源および荷電粒子カラム、ならびに第1のレーザ源および第1の集束光学系が、荷電粒子ビームおよびレーザビームが試料ステージの反対側に向けて導かれるように構成されるサンプリングおよびイオン化システムを提供する。
【0258】
例えば、本発明は、
第1の面および第2の面を備える試料ステージであって、第1の面および第2の面が対向し、第1の面が試料を受け入れるように適合される試料ステージと、
荷電粒子源、および荷電粒子ビームを試料ステージの第1の面上の位置に通過させるための荷電粒子カラムと、
第1のレーザ源、および第1のレーザ源によって放出されたレーザビームを試料ステージの第2の面に向けて導くように構成された第1の集束光学系であって、荷電粒子パルスの直後に試料ステージ上の位置に到達するように、レーザビームパルスを同期させるように構成される第1の集束光学系とを備える、生体試料などの試料を分析するための装置を提供する。
【0259】
装置は、典型的には、TOF検出器などの質量検出器を備える。
【0260】
例えば、本発明は、
第1の面および第2の面を備える試料ステージであって、第1の面および第2の面が対向し、第1の面が試料を受け入れるように適合される試料ステージと、
荷電粒子源、および荷電粒子ビームを試料ステージの第1の面上の位置に通過させるための荷電粒子カラムと、
第1のレーザ源、および第1のレーザ源によって放出されたレーザビームを試料ステージの第2の面に向けて導くように構成された第1の集束光学系であって、荷電粒子パルスの直後に試料ステージ上の位置に到達するように、レーザビームパルスを同期させるように構成される第1の集束光学系とを備える、生体試料などの試料を分析するためのサンプリングおよびイオン化システムを提供する。
【0261】
本明細書の他の箇所で説明され、完全を期すためにここで繰り返されるように、レーザビームが試料ステージを介して導かれて第1の面上の試料に到達する場合、ステージは、レーザ放射線に対して透明であるべきであるか(試料のための試料キャリアもそうであるべきであるように)、試料ステージは、レーザ放射線が通過して(試料キャリアを介して)試料に到達し得る間隙を含むべきである。
【0262】
また、当業者であれば、図6図9の構成を様々な方法で組み合わせることができることを理解するであろう。図10は、図6図9の構成の組合せである本発明のさらなる例示的な実施形態を示しており、ここでも、図6図9と共通の要素は、同じ符号により標識されている。
【0263】
図10に示す実施形態は、第2のレーザ源61および第2の集束光学系(図示せず)を含む。図8の第1のレーザ源60および第2の集束光学系と同様に、この実施形態の第2のレーザ源61および第2の集束光学系は、第2のレーザビームを試料ステージ上の位置55に向けて導くように構成される。図7および図8に示す実施形態と同様に、荷電粒子パルスビームは試料点火状態をもたらし、第2のレーザ源61からのパルスレーザビームがエネルギーポンピング状態をもたらして、試料イオンを含む材料のプルームを生じる。本発明のこの実施形態では、第1のレーザ源60および第1の集束光学系は、荷電粒子パルスによってスパッタリングされた材料のプルームをイオン化するように構成される。したがって、第1のレーザ源60は、エネルギーポンピング状態によってイオン化されていない表面からスパッタリングされたあらゆる中性材料をイオン化する。このように、第1および第2の両レーザ源が、材料のプルームをイオン化して試料イオンを生成するように構成されるため、本発明は、イオン化確率をさらに改善し、したがって信号対雑音比を増加させる装置を提供する。したがって、本発明は、増加した解像度により試料を分析する装置を提供する。
【0264】
したがって、本発明は、このセクションで上述したように、第2のレーザ源および第2の集束光学系を備える装置を提供し、第2の集束光学系は、第2のレーザ源からのレーザ光パルスを同期させて、荷電粒子パルスによってスパッタリングされた材料のプルームをイオン化するように構成される。特定の態様では、第1および第2のレーザ源は、同じレーザを備えることができ、レーザおよび/または光学系の制御は、本明細書に記載の2段階レーザ放射線を可能にする。
【0265】
したがって、本発明は、
試料ステージと、
荷電粒子源、および荷電粒子ビームを試料ステージ上の位置に通過させるための荷電粒子カラムと、
第1のレーザ源、および第1のレーザ源によって放出されたレーザビームを試料ステージに向けて導くように構成された第1の集束光学系であって、荷電粒子パルスの直後に試料ステージ上の位置に到達するように、レーザビームパルスを同期させるように構成される第1の集束光学系と、
第2のレーザ源、および第2のレーザ源からのレーザビームパルスを同期させて、荷電粒子パルスと第1のレーザ源からのレーザビームパルスとによって生成された試料材料のプルームを試料上の位置からイオン化するように構成される第2の集束光学系とを備える、生体試料などの試料を分析するための装置を提供する。
【0266】
装置は、典型的には、TOF検出器などの質量検出器を備える。
【0267】
したがって、本発明は、
試料ステージと、
荷電粒子源、および荷電粒子ビームを試料ステージ上の位置に通過させるための荷電粒子カラムと、
第1のレーザ源、および第1のレーザ源によって放出されたレーザビームを試料ステージに向けて導くように構成された第1の集束光学系であって、レーザビームパルスを同期させて、荷電粒子源からの荷電粒子パルスによってスパッタリングされた材料のプルームをイオン化するように構成される第1の集束光学系と、
第2のレーザ源、および第2のレーザ源からのレーザビームパルスを同期させて、荷電粒子パルスと第1のレーザ源からのレーザビームパルスとによって生成された試料材料のプルームを該位置からイオン化するように構成される第2の集束光学系とを備える、生体試料などの試料を分析するためのサンプリングおよびイオン化システムを提供する。
【0268】
したがって、本発明は、第1のレーザ源および第1の集束光学系ならびに第2のレーザ源および第2の集束光学系が、第1のレーザ源からのレーザビームおよび第2のレーザ源からのレーザビームが試料ステージの同じ側に向けて導かれるように構成される装置を提供する。
【0269】
したがって、本発明は、生体試料などの試料を分析するための装置であって、
試料ステージと、
荷電粒子源、および荷電粒子ビームを試料ステージ上の位置に通過させるための荷電粒子カラムと、
第1のレーザ源、および第1のレーザ源によって放出されたレーザビームを試料ステージに向けて導くように構成された第1の集束光学系であって、荷電粒子パルスの直後に試料ステージ上の位置に到達するように、レーザビームパルスを同期させるように構成される第1の集束光学系と、
第2のレーザ源、および第2のレーザ源からのレーザビームパルスを同期させて、荷電粒子パルスと第1のレーザ源からのレーザビームパルスとによって生成された試料材料のプルームを試料上の位置からイオン化するように構成される第2の集束光学系とを備え、
荷電粒子源および荷電粒子カラム、第1のレーザ源および第1の集束光学系、ならびに第2のレーザ源および第2の集束光学系が、荷電粒子ビーム、第1のレーザ源からのレーザビーム、および第2のレーザ源からのレーザビームが試料ステージの同じ側に向けて導かれるように構成される装置を提供する。
【0270】
装置は、典型的には、TOF検出器などの質量検出器を備える。
【0271】
したがって、本発明は、生体試料などの試料を分析するためのサンプリングおよびイオン化システムであって、
試料ステージと、
荷電粒子源、および荷電粒子ビームを試料ステージ上の位置に通過させるための荷電粒子カラムと、
第1のレーザ源、および第1のレーザ源によって放出されたレーザビームを試料ステージに向けて導くように構成された第1の集束光学系であって、荷電粒子パルスの直後に試料ステージ上の位置に到達するように、レーザビームパルスを同期させるように構成される第1の集束光学系と、
第2のレーザ源、および第2のレーザ源からのレーザビームパルスを同期させて、荷電粒子パルスと第1のレーザ源からのレーザビームパルスとによって生成された試料材料のプルームを試料上の位置からイオン化するように構成される第2の集束光学系とを備え、
荷電粒子源および荷電粒子カラム、第1のレーザ源および第1の集束光学系、ならびに第2のレーザ源および第2の集束光学系が、荷電粒子ビーム、第1のレーザ源からのレーザビーム、および第2のレーザ源からのレーザビームが試料ステージの同じ側に向けて導かれるように構成されるサンプリングおよびイオン化システムを提供する。
【0272】
例えば、本発明は、
第1の面および第2の面を備える試料ステージであって、第1の面および第2の面が対向し、第1の面が試料を受け入れるように適合される試料ステージと、
荷電粒子源、および荷電粒子ビームを試料ステージの第1の面上の位置に通過させるための荷電粒子カラムと、
第1のレーザ源、および第1のレーザ源によって放出されたレーザビームを試料ステージの第1の面に向けて導くように構成された第1の集束光学系であって、荷電粒子パルスの直後に試料ステージの第1の面上の位置に到達するように、レーザビームパルスを同期させるように構成される第1の集束光学系と、
第2のレーザ源、および第2のレーザ源によって放出されたレーザビームを試料ステージの第1の面に向けて導くように構成された第2の集束光学系であって、第2のレーザ源からのレーザビームパルスを同期させて、荷電粒子パルスと第1のレーザ源からのレーザビームパルスとによって生成された試料材料のプルームを試料上の位置からイオン化するように構成される第2の集束光学系とを備える、生体試料などの試料を分析するための装置を提供する。
【0273】
装置は、典型的には、TOF検出器などの質量検出器を備える。
【0274】
したがって、本発明は、
第1の面および第2の面を備える試料ステージであって、第1の面および第2の面が対向し、第1の面が試料を受け入れるように適合される試料ステージと、
荷電粒子源、および荷電粒子ビームを試料ステージの第1の面上の位置に通過させるための荷電粒子カラムと、
第1のレーザ源、および第1のレーザ源によって放出されたレーザビームを試料ステージの第1の面に向けて導くように構成された第1の集束光学系であって、荷電粒子パルスの直後に試料ステージの第1の面上の位置に到達するように、レーザビームパルスを同期させるように構成される第1の集束光学系と、
第2のレーザ源、および第2のレーザ源によって放出されたレーザビームを試料ステージの第1の面に向けて導くように構成された第2の集束光学系であって、第2のレーザ源からのレーザビームパルスを同期させて、荷電粒子パルスと第1のレーザ源からのレーザビームパルスとによって生成された試料材料のプルームを試料上の位置からイオン化するように構成される第2の集束光学系とを備える、生体試料などの試料を分析するためのサンプリングおよびイオン化システムを提供する。
【0275】
したがって、本発明は、第1のレーザ源および第1の集束光学系ならびに第2のレーザ源および第2の集束光学系が、第1のレーザ源からのレーザビームおよび第2のレーザ源からのレーザビームが試料ステージの反対側に向けて導かれるように構成される装置を提供する。
【0276】
したがって、本発明は、生体試料などの試料を分析するための装置であって、
試料ステージと、
荷電粒子源、および荷電粒子ビームを試料ステージ上の位置に通過させるための荷電粒子カラムと、
第1のレーザ源、および第1のレーザ源によって放出されたレーザビームを試料ステージに向けて導くように構成された第1の集束光学系であって、荷電粒子パルスの直後に試料ステージ上の位置に到達するように、レーザビームパルスを同期させるように構成される第1の集束光学系と、
第2のレーザ源、および第2のレーザ源からのレーザビームパルスを同期させて、荷電粒子パルスと第1のレーザ源からのレーザビームパルスとによって生成された試料材料のプルームを試料上の位置からイオン化するように構成される第2の集束光学系とを備え、
荷電粒子源および荷電粒子カラム、ならびに第2のレーザ源および第2の集束光学系が、荷電粒子ビーム、および第2のレーザ源からのレーザビームが試料ステージの同じ側に向けて導かれるように構成され、第1のレーザ源、および第1の集束光学系が、第1のレーザ源からのレーザビームが試料ステージの反対側に向けて導かれるように構成される装置を提供する。
【0277】
装置は、典型的には、TOF検出器などの質量検出器を備える。
【0278】
したがって、本発明は、生体試料などの試料を分析するためのサンプリングおよびイオン化システムであって、
試料ステージと、
荷電粒子源、および荷電粒子ビームを試料ステージ上の位置に通過させるための荷電粒子カラムと、
第1のレーザ源、および第1のレーザ源によって放出されたレーザビームを試料ステージに向けて導くように構成された第1の集束光学系であって、荷電粒子パルスの直後に試料ステージ上の位置に到達するように、レーザビームパルスを同期させるように構成される第1の集束光学系と、
第2のレーザ源、および第2のレーザ源からのレーザビームパルスを同期させて、荷電粒子パルスと第1のレーザ源からのレーザビームパルスとによって生成された試料材料のプルームを試料上の位置からイオン化するように構成される第2の集束光学系とを備え、
荷電粒子源および荷電粒子カラム、ならびに第2のレーザ源および第2の集束光学系が、荷電粒子ビーム、および第2のレーザ源からのレーザビームが試料ステージの同じ側に向けて導かれるように構成され、第1のレーザ源、および第1の集束光学系が、第1のレーザ源からのレーザビームが試料ステージの反対側に向けて導かれるように構成されるサンプリングおよびイオン化システムを提供する。
【0279】
例えば、本発明は、
第1の面および第2の面を備える試料ステージであって、第1の面および第2の面が対向し、第1の面が試料を受け入れるように適合される試料ステージと、
荷電粒子源、および荷電粒子ビームを試料ステージの第1の面上の位置に通過させるための荷電粒子カラムと、
第1のレーザ源、および第1のレーザ源によって放出されたレーザビームを試料ステージの第2の面に向けて導くように構成された第1の集束光学系であって、荷電粒子パルスの直後に試料ステージ上の第1の面上の位置に到達するように、レーザビームパルスを同期させるように構成される第1の集束光学系と、
第2のレーザ源、および第2のレーザ源によって放出されたレーザビームを試料ステージの第1の面に向けて導くように構成された第2の集束光学系であって、第2のレーザ源からのレーザビームパルスを同期させて、荷電粒子パルスと第1のレーザ源からのレーザビームパルスとによって生成された試料材料のプルームを該位置からイオン化するように構成される第2の集束光学系とを備える、生体試料などの試料を分析するための装置を提供する。
【0280】
装置は、典型的には、TOF検出器などの質量検出器を備える。
【0281】
したがって、本発明は、
第1の面および第2の面を備える試料ステージであって、第1の面および第2の面が対向し、第1の面が試料を受け入れるように適合される試料ステージと、
荷電粒子源、および荷電粒子ビームを試料ステージの第1の面上の位置に通過させるための荷電粒子カラムと、
第1のレーザ源、および第1のレーザ源によって放出されたレーザビームを試料ステージの第2の面に向けて導くように構成された第1の集束光学系であって、荷電粒子パルスの直後に試料ステージ上の第1の面上の位置に到達するように、レーザビームパルスを同期させるように構成される第1の集束光学系と、
第2のレーザ源、および第2のレーザ源によって放出されたレーザビームを試料ステージの第1の面に向けて導くように構成された第2の集束光学系であって、第2のレーザ源からのレーザビームパルスを同期させて、荷電粒子パルスと第1のレーザ源からのレーザビームパルスとによって生成された試料材料のプルームを該位置からイオン化するように構成される第2の集束光学系とを備える、生体試料などの試料を分析するためのサンプリングおよびイオン化システムを提供する。
【0282】
本発明はまた、このセクションに記載される装置を使用して生体試料を分析する方法を提供する。例えば、本発明は、
荷電粒子ビームを試料上の位置に向けて通過させること、
第1のレーザビームパルスにより試料を照射して、試料イオンを含む材料のプルームを生成すること、および
質量分析によって上記試料イオンを検出することを含む方法を提供する。
【0283】
場合によっては、方法は、荷電粒子ビームを試料上の位置に向けて通過させて、試料から材料をスパッタリングすることを含み、方法は、第1のレーザビームパルスによって、スパッタリングされた試料材料を照射すること、およびスパッタリングされた材料をイオン化して試料イオンを生成することを含む。すなわち、方法は、荷電粒子ビームを試料上の位置に向けて通過させて、試料から材料をスパッタリングすることを含み、方法は、第1のレーザビームパルスによって、スパッタリングされた試料材料を照射し、それによって、スパッタリングされた材料をイオン化して試料イオンを生成することを含む。場合によっては、荷電粒子ビームを試料上の位置に向けて通過させると、試料点火状態がもたらされ、その位置で試料を照射すると、試料上のその位置に試料エネルギーポンピング状態がもたらされる。
【0284】
いくつかの方法では、荷電粒子ビームは、試料の片側から試料上の位置に向かって通過し、第1のレーザビームパルスは、試料の同じ側から試料を照射する。いくつかの実施形態では、荷電粒子ビームは、試料の片側から試料上の位置に向かって通過し、第1のレーザビームパルスは、試料の反対側から試料を照射する。場合によっては、荷電粒子ビームを試料上の位置に向けて通過させることは、試料から材料をスパッタリングすることをさらに含み、方法は、第2のレーザビームパルスによって、スパッタリングされた試料材料を照射すること、およびスパッタリングされた材料をイオン化することを含む。
【0285】
第1および第2のレーザビームパルスは、試料の同じ側から試料を照射するか、第1および第2のレーザビームパルスは、試料の反対側から試料を照射する。
【0286】
当業者が理解するように、スパッタリングされた材料のレーザイオン化は、単一光子イオン化、共鳴および非共鳴多光子イオン化、なだれイオン化ならびに低温なだれイオン化(cold avalanche ionisation)を含む様々なイオン化機構によって達成することができる。さらに、多光子イオン化およびなだれイオン化など、様々なイオン化機構を同時に動作させることができる。
【0287】
単一光子イオン化(SPI)は、1つの光子の吸収が、スパッタリングされた材料のイオン化電位を克服するのに十分であるプロセスである。ただし、この手段によるイオン化は、非常に高エネルギーの紫外線もしくは真空紫外線レーザ、例えばエキシマレーザ、またはガス中で非線形光学プロセスを使用する複雑なシステムを必要とする。したがって、本発明は、第1および/または第2のレーザ源が高エネルギー紫外線または真空紫外線レーザである方法および装置を提供する。
【0288】
多光子イオン化(MPI)は、イオン化電位を克服するために、複数の光子の吸収を伴い、吸収は、非共鳴または共鳴工程であり得る。多光子イオン化は、短く強いレーザパルスを必要とする。共鳴システムに適したレーザには、2つの色素レーザをポンピングするパルスNd:YAGレーザが含まれ、非共鳴レーザシステムに適したレーザには、高出力エキシマまたはNd:YAgレーザが含まれる。したがって、本発明は、第1および/または第2のレーザ源が、2つの色素レーザをポンピングするNd:YAGレーザ、高出力エキシマまたはNd:YAGレーザである方法および装置を提供する。
【0289】
なだれイオン化(AI)は、電子がスパッタリングされた材料と衝突し、それをイオン化し、他のスパッタリングされた材料を加速し、それと衝突する追加の電子を生じ、それによって連鎖反応を生じるプロセスである。本発明では、最初の「シード」電子は、レーザパルスの印加から生じる任意のそのようなイオン化機構、例えば、多光子イオン化または単一光子イオン化の結果であり得る。一部のモデルは、レーザパルスが100fsよりも短い場合、なだれイオン化は重要ではないことを示唆している。ただし、なだれイオン化が100fsよりも短いレーザパルスで持続する様々な技術が実証されている。本発明は、100fsよりも短いレーザパルスを使用するなだれイオン化によって、スパッタリングされた材料をイオン化するために、これらの技術を利用する方法を提供する。
【0290】
第1の技術では、強いイオン化レーザによって試料に印加される電界を使用して、衝突イオン化が起こる有効エネルギー閾値を低下させ、ひいては、短いパルス長(100fs未満)であっても、衝突イオン化がなだれイオン化を促進することを可能にする。これが、低温なだれイオン化機構である。好適なレーザは、例えば、Ti:サファイアレーザ(800nm、40~45fsのパルス長、エネルギー75nJ、例えば、Thorlabsから入手可能なOctavius Ti:サファイアレーザ)であり得、再生増幅器からの40fsという低さの800nmのレーザパルスにより、溶融シリカのなだれイオン化を達成することができることが示されている(Rajeev,Gertsvolfら、2009,PRL 201)。したがって、本発明は、第1および/または第2のレーザ源が、なだれイオン化によって、スパッタリングされた材料をイオン化するためのTi:サファイアレーザである方法および装置を提供する。特定の態様では、点火(例えば、電子シーディング)とそれに続くプラズマ発生(例えば、なだれイオン化)の機構は、誘電体および生体試料では類似している場合がある。生体試料の場合、試料形式は、酸化ケイ素とは異なるが、誘電体であるエポキシ樹脂であってよい。
【0291】
第2の技術では、自由キャリアを試料に注入して、なだれイオン化と組み合わせて励起子シード多光子イオン化を促進する。高調波またはアト秒パルス生成によって生成される極端紫外線源から誘電体内に自由キャリアを注入することができ、45fsという短いレーザパルス(800nmレーザ)を使用して試料をイオン化することができる(Grojo,Gertsvolfら、2010,PR 81)。したがって、本発明は、第1および/または第2のレーザ源が極端紫外線源である方法および装置を提供する。
【0292】
したがって、本発明は、第1および/または第2のレーザが、なだれイオン化によって、スパッタリングされた材料をイオン化するように構成される方法および装置を提供する。
【0293】
このように、本発明は、IMCの解像度をサブマイクロメートルスケールに高める際の2つの主要な課題にさらに対処する。第一に、100fsよりも短いレーザパルスを使用してなだれイオン化を行うことができるため、加熱効果によってレーザスポットサイズの周りの領域が損傷を受けるリスクが減少する。このように、本発明は、スポット面積を約200nm以下のサイズに維持する。第二に、本発明は、多光子およびなだれイオン化の可能性を改善し、したがって、全体的なイオン化速度を改善する。このように、アブレーションされた材料中の分析物の総量は、十分な信号対雑音比を提供する。
【0294】
スパッタリングに基づくサンプリングおよびイオン化システムの構成要素
荷電粒子源
上記のように、本発明では、荷電粒子ビームを試料上の位置に通過させるために、荷電粒子源および荷電粒子カラムを使用してもよい。
【0295】
一次イオンビーム
典型的には、二次中性質量分析に使用される荷電粒子源は、一次イオンビーム源である。一次イオンは、分析対象の試料からスパッタリングを生成するための任意の好適なイオンであり得る。一次イオン源の例は以下の通りである:酸素(1616 16 )、アルゴン(40Ar)、キセノン(Xe)、SF またはC60 一次イオンを生成するデュオプラズマトロン;133Cs一次イオンを生成する表面イオン化源;およびGa一次イオンを生成する液体金属イオン銃(LMIG)。他の一次イオンには、クラスタイオン、例えば、Au (n=1-5)、Bi q+(n=1-7、q=1および12)、C60 q+プローブ(q=1-3)および大きなArクラスタ(Muramoto,Brison,&Castner,2012)が含まれる。
【0296】
イオン源の選択は、展開されるイオン衝撃のタイプ(例えば、静的または動的)、および分析対象の試料に依存する。静的には、低一次イオンビーム電流(1nA/cm)、通常、パルスイオンビームの使用が含まれる。低電流のため、各イオンは試料表面の新しい部分に衝突し、粒子の単層(2nm)のみを除去する。したがって、静的はイメージングおよび表面分析に適している(Gamble&Anderton,2016)。動的には、高い一次イオンビーム電流(10mA/cm)、通常、連続一次イオンビームを使用し、これにより、表面粒子を高速に除去することが含まれる。その結果、深度プロファイリングに動的を使用することが可能である。さらに、試料表面から比較的多くの材料が除去されるため、動的SIMSは静的よりも優れた検出限界を示す。動的は、典型的には、高い画像解像度(100nm未満)をもたらす(Vickerman&Briggs,2013)。
【0297】
酸素一次イオンは電気陽性元素のイオン化を増強し(Malherbe,Penen,Isaure,&Frank,2016)、市販のCameca IMS 1280-HRに使用されており、セシウム一次イオンは電気陰性元素を調査するのに使用されており(Kiss,2012)、市販のCameca NanoSIMS 50使用されている。
【0298】
試料を迅速に分析するためには、高周波数、例えば200Hz超(すなわち、毎秒200パケットを超えるイオンが試料に導かれる)のスパッタリングが必要である。一般に、一次イオン源による一次イオンパルス生成の周波数は、少なくとも400Hz、例えば、少なくとも500Hzまたは少なくとも1kHzである。例えば、いくつかの実施形態では、イオンパルスの周波数は、少なくとも10kHz、少なくとも100kHz、少なくとも1MHzまたは少なくとも10MHzである。例えば、イオンパルスの周波数は、400~100MHzの範囲内、1kHz~100MHzの範囲内、10kHz~100MHzの範囲内、100kHz~100MHzの範囲内または1MHz~100MHzの範囲内である。
【0299】
したがって、本発明は、荷電粒子源が一次イオンビームである装置を提供する。
【0300】
電子ビーム
あるいは、本発明のいくつかの実施形態では、荷電粒子源は電子ビームである。2kV~30kVのエネルギーを有する電子ビームは、30nmの厚さを有する標本を調査するのに特に適している場合がある。
【0301】
アブレーション/スパッタリングを引き起こすために、高強度のパルス電子ビームを使用する。電子電流のパルスがアブレーションに不十分である場合、その効果を上述のような点火事象として使用し、その後、天然材料のアブレーションのレベルを下回るが、既に活性化された材料のアブレーションに必要なエネルギーポンピングのレベルを超える輝度レベルに設定されたレーザパルスによるエネルギーポンピングを行うことができる。アブレーション/スパッタリングのエネルギー活性化モードでは、電子は電荷キャリアを他の絶縁材料に注入するためだけに機能するため、電子エネルギーを低下させることができる。
【0302】
特定の態様では、電子ビームは、レーザビームよりも小さいスポットに(レーザビームよりも高い解像度に)集束され得る。比較的低い解像度のレーザは、電子ビームスポットを越えて電子ビームが試料に衝突した場合でも、電子ビームによって放射されたスポットでのみ試料をアブレーションおよび/または点火し得る。例えば、電子ビームは、200nm、100nm、50nm、30nm、または10nm以下のスポットに集束され得、レーザは、電子ビームスポットと重複する200nm、300nm、500nm、800nm、1um、2umまたはそれ以上のスポットに集束され得るか、電子ビームによるアブレーションプルーム放出に集束される。
【0303】
試料を迅速に分析するためには、高周波数、例えば200Hz超(すなわち、毎秒200パケットを超える電子が試料に導かれる)のスパッタリングが必要である。一般に、電子源による電子パルス生成の周波数は、少なくとも400Hz、例えば、少なくとも500Hzまたは少なくとも1kHzである。例えば、いくつかの実施形態では、電子パルスの周波数は、少なくとも10kHz、少なくとも100kHz、少なくとも1MHzまたは少なくとも10MHzである。例えば、電子パルスの周波数は、400~100MHzの範囲内、1kHz~100MHzの範囲内、10kHz~100MHzの範囲内、100kHz~100MHzの範囲内または1MHz~100MHzの範囲内である。
【0304】
荷電粒子源に電子ビームを利用する利点は、電子顕微鏡を含むプラットフォーム上に機器全体を構築することができることである。したがって、本発明は、電子顕微鏡をさらに備える装置を提供する。したがって、本発明は、荷電粒子源が電子ビームであり、電子ビームが電子顕微鏡内の電子源である装置を提供する。
【0305】
荷電粒子カラム
荷電粒子カラムは、荷電粒子を試料に導く。荷電粒子カラムは、荷電粒子ビーム中の不純物をフィルタリングするための質量フィルタと、一次イオンビームの強度および形状を制御するために、必要に応じてレンズおよび開口と、一次イオンビームを成形し、場合により試料の表面全体にわたって荷電粒子ビームをラスタ化するための偏向板とを備える(Villacob,2016)。荷電粒子カラムを構築するためのイオンレンズおよび他の構成要素は、例えば、Agilentから市販されている。したがって、本発明の荷電粒子カラムは、試料ステージ上の複数の位置にわたって荷電粒子ビームを走査するように適合された荷電粒子ビーム走査システムを提供することができる。
【0306】
典型的には、本明細書で二次イオン生成に使用される荷電粒子ビームは、100μm以下、例えば、20μm以下、5μm以下、1μm以下、または500nm以下、300nm以下、200nm以下、100nm以下、50nm以下、または30nm以下のスポットサイズ(すなわち、試料に衝突する際の荷電粒子ビームのサイズ)を有する。スポットサイズと呼ばれる距離は、例えば、円形ビームの場合、直径2μmのビームであり、正方形ビームの場合、対向する角の間の対角線の長さに対応し、四辺形の場合、最も長い対角線の長さであるなど、イオンビームの最も長い内部寸法に対応する。ビーム成形およびビームマスキングを使用して、スポットの形状およびサイズを提供することができる。
【0307】
生体試料の分析に使用される場合、個々の細胞を分析するために使用されるイオンビームのスポットサイズは、細胞のサイズおよび間隔に依存する。例えば、細胞が互いに密に詰まっている場合(組織切片内など)、単一細胞分析を行うのであれば、荷電粒子ビームは、これらの細胞よりも大きくないスポットサイズを有し得る。このサイズは、試料中の特定の細胞に依存するが、一般に、イオンビームスポットは、4μm未満、例えば、0.1~4μm、0.25~3μmまたは0.4~2μmの範囲内の直径を有する。したがって、荷電粒子ビームスポットは、約3μm以下、約2μm以下、約1μm以下、約0.5μmまたは0.5μm未満、例えば、約400nm以下、約300nm以下の直径を有することができる。特定の実施形態では、スポットサイズは、約200nm以下、約100nmまたは100nm未満である。細胞内解像度で細胞を分析するために、システムは、これらの細胞よりも大きくない一次イオンビームスポットサイズを使用し、さらに具体的には、細胞内解像度で材料をアブレーションすることができる一次イオンビームスポットサイズを使用する。場合によっては、単一細胞分析は、例えば、細胞がスライド上に広がり、細胞間に間隙がある場合、細胞のサイズよりも大きいスポットサイズを使用して行うことができる。したがって、使用される特定のスポットサイズは、分析される細胞のサイズに応じて適切に選択することができる。生体試料では、細胞がいずれも同じサイズであることはまれであるため、細胞内解像度イメージングが望まれる場合、一定のスポットサイズがスパッタリング手順全体を通して維持されるのであれば、イオンビームスポットサイズは最小の細胞よりも小さくなければならない。
【0308】
レーザ
本発明では、レーザを使用して、材料をアブレーションするか、荷電粒子パルスが試料上の位置に向かって通過した後に位置を照射することによって材料のスパッタリングを支援することができる(例えば、図7および図8ならびに付随する説明を参照)。さらに、レーザを使用して、荷電粒子ビームによって先にスパッタリングされたスパッタリングされた材料をイオン化することができる(例えば、図6および図9ならびに付随する説明を参照)。さらに、レーザは上記の組合せに使用することができ、例えば、図10および付随する説明を参照されたい。
【0309】
当業者が理解するように、材料をアブレーションするため/材料のスパッタリングを支援するためのレーザの要件は、材料をイオン化するためのレーザの要件とは異なる。一般に、材料のスパッタリングを支援するため、またはアブレーションのためのレーザは、300~400fs以上のオーダーのパルス長に対してμJのオーダーのエネルギーを提供する。対照的に、スパッタリングされた材料をイオン化するためのレーザはさらに強力であり、100fsよりも短いパルス長に対して1mJ以上のオーダーのエネルギーを提供する。本発明の装置は、第1および第2のレーザ源に異なるレーザを使用し得るか、第1および第2のレーザ源に1つのレーザを使用し、ビームスプリッタを使用してレーザを分割し、第1および第2のレーザ源を提供し得る。
【0310】
材料のスパッタリングを可能にするために適切に適合されたレーザアブレーションサンプリングシステムのレーザに関連して上述したような市販のレーザを含め、様々な異なるレーザをSNMSに使用することができる。一般に、レーザは、イオン化を最大化するために、達成可能な最大強度で動作する。本発明とともに使用することができる様々なタイプのレーザを以下に説明する。上記のフェムト秒レーザは、特定のSNMS用途にも有利である。例えば、第1および第2のレーザ源を含む上記の本発明の実施形態では、単一のフェムト秒レーザを使用して、両レーザ源を提供することができる。レーザは、1MHzの繰返し率と、200fsのパルス幅と、1μJのエネルギーパルスとを有し得る。当業者であれば、ビームスプリッタを使用してレーザのレーザビームを分割し、本願発明の第1および第2のレーザ源を提供することができることを理解するであろう。
【0311】
一般に、イオン化に有用なレーザには、1パルス当たり数マイクロジュールのエネルギーのスケールでエネルギーを供給するが、高周波でそれらのパルスを生成することができるレーザが含まれる。レーザは、試料材料から元素イオンを生成するためのものである。生成された元素イオンは、次いで、装置内の質量分析計によって分析され得る。レーザは、ピコ秒レーザもしくはフェムト秒レーザ、またはナノ秒レーザであり得る。いくつかの実施形態では、レーザはフェムト秒レーザである。
【0312】
フェムト秒レーザは、固体レーザであり得る。受動的モードロック固体バルクレーザは、典型的には、30fs~30psの持続時間を有する高品質の超短パルスを放射することができる。そのようなレーザの例には、ネオジムドープまたはイッテルビウムドープ結晶に基づくものなどのダイオード励起レーザが挙げられる。チタンサファイアレーザは、10fs未満、極端な場合は約5fsまでのパルス持続時間に使用することができる(例えば、Thorlabsから入手可能なOctavius Ti:サファイアレーザ)。パルス繰返し率は、ほとんどの場合1kHz~500MHzである。
【0313】
フェムト秒レーザは、ファイバレーザであり得る。受動的モードロックでもあり得る様々なタイプの超高速ファイバレーザは、典型的には、50~500fsのパルス持続時間、0.10~100MHzの繰返し率、および数ミリワット~数ワットの平均出力を提供する(フェムト秒ファイバレーザは、Toptica、IMRA America、Coherent,Inc.から市販されている)。
【0314】
フェムト秒レーザは、半導体レーザであり得る。一部のモードロックダイオードレーザは、フェムト秒持続時間を有するパルスを生成することができる。レーザ出力では直接、パルス持続時間は通常、少なくとも数百フェムト秒であるが、外部パルス圧縮により、はるかに短いパルス持続時間を達成することができる。
【0315】
いくつかの実施形態では、レーザはナノ秒レーザである。ナノ秒レーザは、Quantel Q-smart DPSS、Solar Laser LQ929高出力パルスNd:YAGレーザ、またはLitron高エネルギーパルスNd:YAGレーザなどの励起レーザであり得る。これらのレーザはいずれも、イオン化に適したmJ領域内で、短いパルス持続時間で、深紫外放射線を生成することができる。
【0316】
垂直外部共振器形面発光レーザ(VECSEL)を受動的モードロックすることも可能である。これらは、特に、短いパルス持続時間と、高いパルス繰返し率と、場合によっては高い平均出力電力との組合せを提供することができるため興味深いが、高いパルスエネルギーには適していない。
【0317】
いくつかの実施形態では、レーザは、ナノ秒、ピコ秒またはフェムト秒スケールのパルス持続時間のパルスを生成するように適合される。例えば、レーザは、500fs以下、例えば、400fs以下、300fs以下、200fs以下、100fs以下、50fs以下、45fs以下、25fs以下、20fs以下または10fs以下の持続時間を有し得る。フェムト秒レーザは、1ps未満の持続時間を有するパルスを生成するように適合される。
【0318】
いくつかの実施形態では、レーザは、少なくとも100,000Hz、例えば、少なくとも1MHz、少なくとも2MHz、少なくとも3MHz、少なくとも4MHz、少なくとも5MHz、少なくとも10MHz、少なくとも20MHz、少なくとも50MHz、少なくとも100MHz、少なくとも200MHz、少なくとも500MHzまたは1GHz以上のパルス繰返し率を有するように適合される。
【0319】
いくつかの実施形態では、レーザは、50μm以下、20μm以下、10μm以下または5μm以下のビーム幅(1/e)を有するように適合される。レーザの焦点は、ビームのエネルギーが最も集中する場所であり、したがって、最大のイオン化が達成される場所である。
【0320】
いくつかの実施形態では、レーザは、1ナノジュールから最大50ミリジュールのパルスエネルギーを有するように適合される。材料のスパッタリングを支援するため、または材料のアブレーションのためのレーザは、1ナノジュール~100マイクロジュール、例えば、10ナノジュール~100マイクロジュール、100ナノジュール~10マイクロジュール、500ナノジュール~5マイクロジュール、例えば、約1マイクロジュール、約2マイクロジュール、約3マイクロジュールまたは約4マイクロジュールのパルスエネルギーを有するように適合させることができる。ポストイオン化用のレーザは、1ミリジュール~50ミリジュール、例えば、5ミリジュール~40ミリジュール、10ミリジュール~30ミリジュール、20ミリジュール~35ミリジュール、または約25ミリジュールもしくは35ミリジュールのパルスエネルギーを有するように適合させることができる。
【0321】
いくつかの実施形態では、レーザは、約1マイクロジュールのパルスエネルギーを有し、少なくとも10MHzのパルス繰返し率を有し、100fs未満、例えば、50fs以下、45fs以下、25fs以下、20fs以下または10fs以下の持続時間を有するパルスを生成するように適合される。
【0322】
当業者が理解するように、本発明は、本明細書に記載の好適なレーザの1つまたは組合せとともに使用することができる。ただし、完全を期すために、本発明とともに使用することができるレーザのいくつかの特定の組合せは以下の通りである。
【0323】
【表1】
【0324】
ポストイオン化は、5μm以下などの小さい体積のレーザ放射線からの高いエネルギー密度を必要とする。ポストイオン化体積が非常に小さいため、一度にイオン化することができる材料の量には制限がある。小さい体積中に大量の正電荷と負電荷とが生成されると、形成されるイオンの運動は、イオンと電子とによって誘起される空間電荷に起因する局所場によって支配される。小さい体積中にあまりにも多くの荷電イオンが存在する場合、外部場、例えば、得られたイオンを検出のために検出器に導くために使用される質量分析計に存在するイオン光学系からの場は、正電荷と負電荷とを分離するのに有効ではなく、そのようなイオン雲は最終的に中和し、イオン化効率を低下させる。例えば、10000個の元素電荷を含む10μm(直径)のスケールのイオン雲は、約3Vの静電位を生成する。数eVは電子を原子に保持するエネルギーであるため、イオン化後の自由電子のエネルギー準位でもあると考えられる。その結果、10マイクロメートルスケールの体積中の10000イオンのスケールのイオン密度は、空間電荷挙動が支配的になり始める極限に近い。
【0325】
したがって、そのような影響は、スパッタリングされる材料の量が適度に少量に保たれることを確実にすることによって回避することができる。例えば、10×10×10nmの立方体から30×30×30nmの立方体または同様の体積のスケールの材料のアブレーションは、強い空間変化およびイオン中和をもたらすことなく、サイズが数マイクロメートルのポストイオン化領域に移送され得る材料の最大量を表す。システムは単一事象当たり30×30×30nmの立方体しか処理できないため、これにより、イオンビームを集束することができる30nmまたは10nmの空間解像度によりイメージングを行う機会が生じる(本明細書で説明されるように)。
【0326】
ポストイオン化ビームは、光学設定で一般的に得られるように、マイクロメートル精度内までスパッタリングビームと共整列される。
【0327】
いくつかの実施形態では、レーザビームは、試料に対してある角度で、標本の先にアブレーションされた領域に導かれる(図6を参照)。この構成により、レーザ光とアブレーションされていない標本との相互作用が最小限に抑えられる。レーザビームは、アブレーションプルームの体積と重複する狭い焦点に集束させることができる。レーザビームの集束を高い開口数(NA)で行って、重複する領域内での鋭い集束を容易にし、重複する領域の外側への迅速なレーザエネルギーの広がりを可能にして、サンプリングされる領域の周囲の領域内での試料に対する損傷の可能性を最小限に抑えることができる。
【0328】
一次ビームを集束させ、質量分析のために二次ビームを移送するイオン光学系の図6の制約のために、いくつかの実施形態では、レーザビーム光学系のための空間が制限され得る。結果として、いくつかの実施形態では、レーザビームの開口数が平面の1つに制約され得る。例えば、レーザビームは、イオン光学系との干渉を回避するために、図面の平面では低いNAを有し得、図面の平面に垂直な平面では高いNAを有し得る。そのような配置により、低いNAの平面内に延びる楕円形の焦点が得られる。楕円形の焦点は、スパッタリング/アブレーションされたプルームとの重複の程度を改善し得る。したがって、いくつかの実施形態では、ポストイオン化システムのレーザは、楕円形の焦点を有する。
【0329】
空間的調整に加えて、スパッタリングされた材料をイオン化するために、一次イオンまたは電子ビームによるスパッタリングをレーザ放射線の送達と同期させる必要がある。スパッタリングされた材料が標的を離れる速度は、典型的には、音速のスケール、すなわち、1000m/sである。したがって、スパッタリングされた雲とレーザビームとを1マイクロメートルの精度で確実に整列させるには、1nsのスケールのタイミング精度が必要である。イオンビームの1nsまでのバンチングとタイミングとは、通常、約5~20kVの加速電圧によって達成される。同じまたは類似のバンチング技術を一次ビームに適用することができる。この技術は、例えば、現在のTOF MS装置に使用されている。
【0330】
したがって、この動作モードでは、一次イオンビームまたは電子ビームが試料から材料をスパッタリングし、その直後に、放出された材料がレーザ放射線パルスによってポストイオン化される。
【0331】
標的からの材料の一定のスパッタリング/放出をさらに容易にするために、場合によっては、標的は、一次イオンのパルスと同期するレーザ光パルスによって照射され得る(上記のポストイオン化の代わりに、またはそれに加えて)。レーザパルスのエネルギーは、一次イオンまたは電子ビームに曝露されていない材料のアブレーション閾値未満に設定するべきである。一次イオンビームまたは電子ビームが標的と相互作用する領域では、物質の状態はプラズマに似ており、ナノスケールに制限されるため、本明細書ではナノプラズマと呼ばれる。したがって、光ビームはナノプラズマと相互作用し、この体積に追加のエネルギーをポンピングし、材料の一定した脱離をもたらす。この脱離モードは、点火状態(標的と相互作用し、ナノプラズマを生成する一次イオンビームまたは電子ビームによってもたらされる)と、それに続く、レーザ光がナノプラズマに追加のエネルギーをポンピングし、その放出を容易にするエネルギーポンピング状態として見ることができる。
【0332】
この動作モードは、一次イオンまたは電子ビームによる比較的遅いスパッタリングの限界を克服するのに役立ち得る。一次イオンビーム/電子ビームによるスパッタリング速度は、所与の領域に衝突する一次イオン/電子の総数によって制限される。一次イオンビーム/電子ビームの集束能力は、イオン/電子電流および空間電荷効果により制限される。これは、ポストイオン化レーザがオフの際に一次イオンビーム/電子ビームが材料のみをスパッタリングするように時間を測定する必要性と相まって、スパッタリング速度に制限を課す。スパッタリングを増強するためにレーザ放射線を使用すると、レーザビームがスパッタリング/アブレーションに影響を与えるのに必要な励起エネルギーを試料材料にシードするために必要な一次粒子が少なくなるため、この制限を克服することができる。
【0333】
レーザがポストイオン化およびスパッタリング増強の両方に使用される場合、同じレーザが、材料の脱離を促進するためにナノプラズマにエネルギーをポンピングするのにも適している可能性がある。例えば、単一のフェムト秒レーザが、装置の両方の必要性を満たすことができる。レーザは、1MHzの繰返し率と、200fsのパルス幅と、1パルス当たり1μJのエネルギー(すなわち、1Wの平均出力)とを有し得る。そのようなレーザパルスは分割され(例えば、ビームスプリッタを使用して)、その一部はナノプラズマのエネルギーポンピングにそのまま使用される。残りの部分はポストイオン化に使用され得る。圧縮段階をポストイオン化ビームに適用して、ポストイオン化に必要な1パルス当たりのエネルギー量を減少させることができる。
【0334】
いくつかの実施形態では、レーザビームによるポストイオン化は、表面上のナノプラズマにエネルギーをポンピングすることによって行われる。したがって、脱離ポンピングおよびポストイオン化プロセスは、標的上のナノプラズマに送達されるレーザパルスによって活性化される単一のプロセスに組み合わせられる。
【0335】
さらに、標的上のプラズマへのエネルギーポンピングは、非イオン化標的材料の吸収帯を回避しながら、プラズマの吸収帯に対してレーザ波長を調整することによって達成することができる。このように、一次イオンビーム/電子ビームの衝突は、ポンピング光を吸収しない状態からポンピング光を吸収する状態に、標的内の物質の状態を変化させるのに役立つ。ポンピング光の持続時間は、数ナノ秒から数フェムト秒までのピコ秒のスケールであり得る。同時に、ピコ秒パルスは、試料中のプラズマ体積の著しい拡散広がりを回避するのに十分短い。
【0336】
いくつかの実施形態では、エネルギーポンピングのためのレーザ放射線は、試料キャリアを介して送達される(図8を参照)。例えば、一次電子ビームまたは一次イオンビームは、10~30nmのスケールのスポットに集束させることができるのに対して、レーザ光の集束は、回折効果によって制限され、100~1000nmのスケールに留まる可能性がある。
【0337】
当技術分野で公知の装置を使用して、レーザパルス間に遅延を導入することができる。したがって、いくつかの実施形態では、装置は、レーザパルス間に遅延を導入するための光遅延線を備える。本発明で使用するのに適した光遅延線の例は、ThorLabsから市販されている光遅延線のいずれかである。
【0338】
可変遅延線を使用して、一次イオンまたは電子のパケットに対してイオン化パルスの到着を同期させることができ、したがって、一次イオンまたは電子のパケットとレーザパルスとの相対的タイミングに応じて、同じレーザをポストイオン化またはポンピングモードで機能させることができる。
【0339】
試料チャンバ
スパッタリングに基づくサンプリングシステムの試料チャンバは、上記のレーザアブレーションに基づくサンプリングシステムの試料チャンバと共通の多くの特徴を共有している。試料チャンバは、試料を支持するステージを備える。ステージは、x-y軸またはx-y-z軸内で移動可能な並進ステージであり得る。試料チャンバはまた、レーザ放射線によって試料から除去された材料を導くことができる出口を備える。出口は検出器に接続され、試料イオンを分析することが可能である。
【0340】
場合によっては、試料チャンバは、133322~13.3Pa未満、例えば1333.22~133.322Paに保持される。場合によっては、試料チャンバは真空下に保持される。したがって、場合によっては、試料チャンバ圧力は、50 000Pa未満、10 000Pa未満、5 000Pa未満、1 000Pa未満、500Pa未満、100Pa未満、10Pa未満、1Pa未満、約0.1Pa、または0.1Pa未満、例えば0.01Pa以下である。例えば、部分真空圧は約50~2000Pa、100~1000Paまたは200~700Paであり得、真空圧は10Pa、1Paまたは0.2Pa未満であり得る。好適なガスには、アルゴン、ヘリウム、窒素およびそれらの混合物が含まれる。
【0341】
当業者によって理解されるように、試料圧力が大気圧にあるか、部分真空圧にあるか、真空下にあるかどうかの選択は、行われる特定の分析に依存する。例えば、大気圧では、試料の取扱いが容易になり、比較的ソフトなイオン化が適用され得る。さらに、衝突冷却の現象が発生することを可能にするために、ガス分子の存在が望まれる場合があり、これは、標識が大きな分子であり、その断片化、例えば、標識原子またはそれらの組合せを含む分子断片が望ましくない場合に興味深い場合がある。あるいは、レーザ放射線を使用して材料をポストイオン化する場合、ガス分子の存在(例えば、部分真空圧で)が有利であり得る。例えば、衝突冷却は、試料の表面で生成されたナノプラズマの冷却(例えば、エネルギーポンピング状態をもたらすための試料の荷電粒子衝撃またはレーザ照射の後)と、アブレーションされた材料のプルームの膨張と、ポストイオン化システム内での事前再イオン化(before re-ionization)とを可能にし得る。衝突はまた、少なくとも部分的な電荷の減少、空間電荷効果の減少、および/またはイオンを導くイオン光学系の能力の改善を可能にし得る。電荷状態を1イオン当たり1つの電荷に還元すると、様々な質量タグの信号を読み取りやすくなる。
【0342】
試料チャンバを真空下に保持することにより、生成された試料イオンとチャンバ内の他の粒子との衝突を防ぐことができる。
【0343】
SNMSシステムの試料チャンバとレーザアブレーションに基づくシステムの試料チャンバとの主な差は、試料イオンとチャンバ内の他の粒子との間の衝突を防ぐためにチャンバが真空下に保持されることであり、これは、レーザアブレーションおよび脱離に基づく試料チャンバとは逆に、同様の基準で、イオンからの電荷の損失をもたらす可能性がある。二次イオンの損失は、装置の感度を低下させる。
【0344】
イオン顕微鏡
試料イオンは、当技術分野では浸漬レンズ(または取り出しレンズ(extraction lens))として知られている、試料の近くに配置された静電レンズを介して試料から捕捉される。浸漬レンズは、試料の局所性から二次イオンを即座に除去する。これは、典型的には、電位差が大きい試料およびレンズによって達成される。浸漬レンズに対する試料の極性に応じて、正または負の二次イオンが浸漬レンズによって捕捉される。浸漬レンズによって捕捉される試料イオンの極性は、荷電粒子ビームのイオンの極性とは無関係である。
【0345】
次いで、試料イオンは、1つ以上の追加の静電レンズ(当技術分野ではトランスファーレンズとして知られている)を介して検出器に移送される。トランスファーレンズは、二次イオンのビームを検出器に集束させる。典型的には、複数のトランスファーレンズを有するシステムでは、1つのトランスファーレンズのみが所与の分析に関与する。各レンズは、試料表面の異なる倍率を提供し得る。一般に、追加のイオン操作構成要素、例えば、1つ以上の開口、質量フィルタ、または偏向器プレートのセットが、浸漬レンズと検出器との間に存在する。浸漬レンズ、トランスファーレンズおよび任意の追加の構成要素が一緒になって、イオン顕微鏡を形成する。イオン顕微鏡を製造するための構成要素は、Agilentなどの商用供給業者から入手可能である。
【0346】
カメラ
システムはまた、カメラを備え得る。カメラシステムは、レーザアブレーションサンプリングシステムに関連して上記で説明されており、上記カメラの特徴は、不適合な場合(例えば、共焦点顕微鏡などの光学顕微鏡に接続することができるが、一方のビームはイオンであり、他方のビームは光子であるため、カメラに導かれる光と同じ光学系を介して一次イオンビームを集束することができない)を除いて、二次イオン生成システムにも存在し得る。
【0347】
c.2パルスレーザに基づくサンプリングおよびイオン化システム
上記セクション1.b.で説明された特定の装置、システムおよび技術と同様に、「試料点火状態」をもたらすための電子シーディングは、レーザ放射線パルスによって、ある位置で達成することができる。これに続いて、プレシードされた位置をアブレーションするのに必要なエネルギーは周囲の領域よりも低いため、その位置よりも大きいレーザスポット直径を有するが、試料のアブレーション閾値よりも低いフルエンスを有する第2のレーザパルスを試料に導いて、第1のレーザパルスによって標的とされた位置にのみアブレーションを引き起こすことができる。したがって、密に集束した低エネルギーの第1のパルスを使用して電子をシードすることができ、それよりも高エネルギーで集束の少ないパルスを使用して、電子がシードされた位置にアブレーションを引き起こすことができる。したがって、本発明は、この技術に基づく高解像度イメージングのためにさらに追加の手段を提供する。
【0348】
光学系によって生成される最小スポットサイズは、光の波長に正比例し、対物レンズの開口数に反比例するという光学的挙動はよく知られている。可視光の波長は約500nmであり、典型的な対物レンズの開口数が1.0を超えることはほとんどないため、このような光を用いた集束スポットのサイズは、最終的には1マイクロメートル未満になる。したがって、比較的短い波長のレーザを用いて動作させることにより、試料上の比較的小さなスポットに光を集束させることができる。例えば、エキシマレーザによって、約200nmの波長を有するVUV光を生成することができる。さらに、最新のリソグラフィツールは、13.5nmの波長を有するEUV光を使用している。残念ながら、アブレーションに十分なエネルギーを有するVUVおよびEUV光パルスの生成には、大型で複雑かつ高価な装置が必要である。
【0349】
本発明は、少量のUV、EUVまたはXUV光によりアブレーションされるスポットをプレシードすることによって、アブレーションスポット減少の問題を解決する。このプレシーディングにより、他の誘電体材料に自由電子が生成される。材料特性のこの変化は、後続のパルスによるアブレーションの閾値を低下させる。プレシーディングに必要なエネルギー量は、直接アブレーションに必要なエネルギー量よりも桁違いに少ない。これにより、そのようなパルスを生成するための装置が比較的安価になる。プレシーディングパルスは短波長のため、直径100または30nmに集束させることができる。プレシーディングが行われた直後に、一般性の高い波長を有するパルス、例えば、IRまたは可視光が同じ試料に送られる。これにより、プレシードされた領域に、はるかに効率的にエネルギーが蓄積される。その結果、プレシードされた領域はアブレーションされ得るが、赤外線が広がった残りの領域はアブレーションされない。したがって、アブレーションスポットのサイズは、UV、VUV、EUV波長によって課される回折限界によって制御される。この限界は、それ自体に印加される可視光または赤外線のアブレーション解像度よりも実質的に低い。
【0350】
さらに、本発明は、アブレーションされた材料のイオン化をもたらすことができる。アブレーションされた材料のイオン組成を分析して、イメージング質量分析またはイメージングマスサイトメトリーワークフローを提供することができる。アブレーション対象の材料はプラズマ中でイオン化され、元素イオンのかなりの部分が生成される。プラズマからのイオン化およびイオンサンプリングの効率は、MaxPar試薬または同様の試薬を利用する場合に抗体の単一コピー検出を容易にするのに十分高くなり得る。ここでは、以下に説明されるように、イオン顕微鏡を介した分析のためにイオンを直接抽出することができる。
【0351】
このような高い空間解像度(例えば30nm)で動作させる場合、いくつかの分析上の問題が存在する。1つの問題は、総取得速度対視野(または関心領域)寸法である。既存のHyperionは、200ピクセル/s、1マイクロメートルのピクセルサイズで動作する。この結果、生物学的に関連するROIの画像を1×1mmのスケールで記録するのに約5000秒を要する。ピクセルサイズが30分の1(約30nmまで)縮小されると、類似の領域から画像を記録するための時間の量は500 000sに増加する。これは明らかに、非実際的に長い時間である。本発明は、少なくとも部分真空(詳細については、以下の試料チャンバの説明を参照)内でイオン化サンプリングを動作させることによってこの問題を解決し、この場合、ピクセル速度は1Mピクセル/sと高くすることができ、これは1×1mmの領域がわずか100秒以内に取得されることを意味する。複数の連続切片を分析して、約0.03mmの生物学的スケールで3D画像を提供することができる。これは1000切片(各30nm)と、約1日の実験とを要する。これは、得られたデータのマルチパラメトリックで高空間解像度の性質を考慮すると、非常に高速である。取得速度を10Mピクセル/sに上げると、2.5時間以内にそのような画像を収集することが可能になる。また、試料分析も、100nmの空間解像度では約30倍高速になる。
【0352】
上述したように、MaxPar試薬(以下に説明されるような質量タグ付き抗体試薬)を使用すると、1つの抗体の1コピー当たり約100個の原子を有することによって、アブレーションが小さくなることによる感度損失を補償することができる。イオンサンプリングと、5%を超える透過とにより、抗体の単一コピーの検出が可能になる。30nmのピクセルサイズにより物体をイメージングする場合、非常に少数の抗体のみがそのようなピクセルに見出され得る。したがって、そのような小さなスケールのイメージングでは、単一コピー検出を可能にすることが不可欠になる。
【0353】
本発明の2パルス技術によって生成されたプラズマは、効率的なイオン化およびサンプリングという問題を解決することができる。アブレーションのスケールが小さいとプラズマのスケールが小さくなり、ひいては、イオンサンプリング中のプラズマ中和の可能性が低下する。さらに、アブレーションされる固体材料の密度は、10000atmというスケールの初期プラズマ圧力をもたらし、これは、次いで、プラズマの局所熱平衡モデルをもたらす。局所熱平衡により、最適なプラズマ温度の生成が可能になり、質量タグからの標識原子のほぼ100%効率的なイオン化が促進されて、第2のパルスのパラメータを介して制御可能な元素イオンが形成される。
【0354】
2パルスレーザアブレーションシステムに基づく装置は、典型的には、3つの構成要素を備える。第1の構成要素は、試料に電子をシードするための第1のレーザ源である(これは、本明細書に開示される装置およびシステム内の試料ステージ上に収容される)。第2の構成要素は、電子が第1のレーザ源によってシードされた試料をアブレーションするための第2のレーザ源である。(これらの2つの構成要素はまとめて、2パルスレーザサンプリングおよびイオン化システムを形成する。)第3の構成要素は、イオン化された材料を検出する検出器構成要素、例えば、質量検出器である。レーザ源は、典型的にはパルス化される。場合によっては、第1の(プレシーディング)パルスは、例えば高調波発生によって、第2の(アブレーション)パルスを送達する同じレーザから導出することができる。試料ステージ上の位置に向けて/試料ステージ上の位置にレーザビームを導くというこのセクションでの言及は、装置およびシステム内の構成要素の配置を指すが、当業者によって理解されるように、装置/システムが試料を分析するために使用される場合、第1および第2のレーザ源からのレーザ放射線は、分析中の試料に衝突する。
【0355】
したがって、本発明は、
試料ステージと、
試料中に電子をシードするように構成された第1のレーザ源、および第1のレーザ源によって放出されたレーザビームを試料ステージに向けて導くように構成された第1の集束光学系と、
第1のレーザ源によって電子がプレシードされた試料材料をアブレーションするように構成された第2のレーザ源、および第2のレーザ源によって放出されたレーザビームを試料ステージに向けて導くように構成された第2の集束光学系とを備える、生体試料などの試料を分析するための装置を提供する。
【0356】
装置は、典型的には、TOF検出器などの質量検出器を備える。
【0357】
したがって、本発明は、
試料ステージと、
試料中に電子をシードするように構成された第1のレーザ源、および第1のレーザ源によって放出されたレーザビームを試料ステージに向けて導くように構成された第1の集束光学系と、
第1のレーザ源によって電子がプレシードされた試料材料をアブレーションするように構成された第2のレーザ源、および第2のレーザ源によって放出されたレーザビームを試料ステージに向けて導くように構成された第2の集束光学系とを備える、生体試料などの試料を分析するための2パルスレーザサンプリングおよびイオン化システムを提供する。
【0358】
いくつかの実施形態では、第1のレーザ源によって放出されたレーザビームを試料ステージに向けて導くように構成された第1の集束光学系は、第1のレーザ源によって放出されたレーザビームを試料ステージ上の位置に導くように構成され、第2のレーザ源によって放出されたレーザビームを試料ステージに向けて導くように構成された第2の集束光学系は、第2のレーザ源によって放出されたレーザビームを試料ステージ上の位置に導くように構成される。
【0359】
例えば、本発明は、
試料ステージと、
試料中に電子をシードするように構成された第1のレーザ源、および第1のレーザ源によって放出されたレーザビームを試料ステージ上の位置に向けて導くように構成された第1の集束光学系と、
第1のレーザ源によって電子がプレシードされた試料材料をアブレーションするように構成された第2のレーザ源、および第2のレーザ源によって放出されたレーザビームを試料ステージ上の位置に向けて導くように構成された第2の集束光学系とを備える、生体試料などの試料を分析するための装置を提供する。
【0360】
装置は、典型的には、TOF検出器などの質量検出器を備える。
【0361】
例えば、本発明は、
試料ステージと、
試料中に電子をシードするように構成された第1のレーザ源、および第1のレーザ源によって放出されたレーザビームを試料ステージ上の位置に向けて導くように構成された第1の集束光学系と、
第1のレーザ源によって電子がプレシードされた試料材料をアブレーションするように構成された第2のレーザ源、および第2のレーザ源によって放出されたレーザビームを試料ステージ上の位置に向けて導くように構成された第2の集束光学系とを備える、生体試料などの試料を分析するための2パルスレーザサンプリングおよびイオン化システムを提供する。
【0362】
図13は、2パルスアブレーションによるアブレーションスポットサイズの縮小を示す、本発明の例示的な実施形態の配置の概略図である。支持標的20は、標本30の薄片を保持する。いくつかの実施形態(例えば、ナノ機械加工用途)では、支持標的および標本は、1つの本体であり得る。UV、またはVUVもしくはEUV、またはXUV光40のパルスは、対物レンズ60によって標本30上に集束される(50)。UV、VUV、EUV光学系用の特別な対物レンズは当技術分野で公知であり、多くの場合、反射光学系配置に基づいている。例えばEUV光のパルスは、焦点に自由電子のシードを生成する。試料は一般に非導電性であるため、自由電子をプレシードすると、レーザの焦点にある材料の特性が変化する。光70の第2のパルスは、電子がプレシードされた位置を含む同じ領域に送られて、プレシードされた位置でプラズマを発生させるためのエネルギーを供給する。光70の第2のパルスは、別の対物レンズ80によって送られる。第2のパルスの波長の方が著しく長いため、第2のパルスの焦点90は、第1のパルスの焦点よりもはるかに大きい。第2のパルスの最中に電子が標本中で増倍するプロセスは、なだれイオン化と呼ばれ得る。実際には、多くの現象が、プレシードされた領域の優先的な励起に寄与し得る。優先的な励起に必要なエネルギーが直接アブレーションの閾値よりも実質的に低い限り、例えばEUVパルスを用いたプレシーディングによってアブレーションゾーンを規定するスキームが有効である。
【0363】
したがって、本発明は、生体試料などの試料を分析するための装置およびシステムを提供し、第2の集束光学系は、第1のレーザ源からのレーザ放射線パルスの直後に試料ステージ上の位置に到達するように、第2のレーザ源からの第2のレーザ放射線パルスを同期させるように構成される。
【0364】
したがって、本発明は、生体試料などの試料を分析するための装置であって、
試料ステージと、
試料中に電子をシードするように構成された第1のレーザ源、および第1のレーザ源によって放出されたレーザビームを試料ステージに向けて導くように構成された第1の集束光学系と、
第1のレーザ源によって電子がプレシードされた試料材料をアブレーションするように構成された第2のレーザ源、および第2のレーザ源によって放出されたレーザビームを試料ステージに向けて導くように構成された第2の集束光学系とを備え、
第2の集束光学系が、第1のレーザ源からのレーザ放射線パルスの直後に試料ステージ上の位置に到達するように、第2のレーザ源からの第2のレーザ放射線パルスを同期させるように構成される装置を提供し、
装置は、典型的には、TOF検出器などの質量検出器を備える。
【0365】
したがって、本発明は、生体試料などの試料を分析するための2パルスレーザサンプリングおよびイオン化システムであって、
試料ステージと、
試料中に電子をシードするように構成された第1のレーザ源、および第1のレーザ源によって放出されたレーザビームを試料ステージに向けて導くように構成された第1の集束光学系と、
第1のレーザ源によって電子がプレシードされた試料材料をアブレーションするように構成された第2のレーザ源、および第2のレーザ源によって放出されたレーザビームを試料ステージに向けて導くように構成された第2の集束光学系とを備え、
第2の集束光学系が、第1のレーザ源からのレーザ放射線パルスの直後に試料ステージ上の位置に到達するように、第2のレーザ源からの第2のレーザ放射線パルスを同期させるように構成される2パルスレーザサンプリングおよびイオン化システムを提供し、
いくつかの実施形態では、第1のレーザ源によって放出されたレーザビームを試料ステージに向けて導くように構成された第1の集束光学系は、第1のレーザ源によって放出されたレーザビームを試料ステージ上の位置に導くように構成され、第2のレーザ源によって放出されたレーザビームを試料ステージに向けて導くように構成された第2の集束光学系は、第2のレーザ源によって放出されたレーザビームを試料ステージ上の位置に導くように構成される。
【0366】
したがって、本発明は、生体試料などの試料を分析するための装置およびシステムを提供し、第1の集束光学系および第2の集束光学系は、レーザ放射線を試料ステージの反対側に導くように構成される。
【0367】
したがって、本発明は、生体試料などの試料を分析するための装置であって、
第1の面および第2の面を備える試料ステージであって、第1の面および第2の面が対向し、第1の面が試料を受け入れるように適合される試料ステージと、
試料中に電子をシードするように構成された第1のレーザ源、および第1のレーザ源によって放出されたレーザビームを試料ステージの第1の面に向けて導くように構成された第1の集束光学系と、
第1のレーザ源によって電子がプレシードされた試料材料をアブレーションするように構成された第2のレーザ源、および第2のレーザ源によって放出されたレーザビームを試料ステージの第2の面に向けて導くように構成された第2の集束光学系とを備え、
第2の集束光学系が、第1のレーザ源からのレーザ放射線パルスの直後に試料ステージ上の位置に到達するように、第2のレーザ源からの第2のレーザ放射線パルスを同期させるように構成される装置を提供する。
【0368】
装置は、典型的には、TOF検出器などの質量検出器を備える。
【0369】
したがって、本発明は、生体試料などの試料を分析するための2パルスレーザサンプリングおよびイオン化システムであって、
第1の面および第2の面を備える試料ステージであって、第1の面および第2の面が対向し、第1の面が試料を受け入れるように適合される試料ステージと、
試料中に電子をシードするように構成された第1のレーザ源、および第1のレーザ源によって放出されたレーザビームを試料ステージの第1の面に向けて導くように構成された第1の集束光学系と、
第1のレーザ源によって電子がプレシードされた試料材料をアブレーションするように構成された第2のレーザ源、および第2のレーザ源によって放出されたレーザビームを試料ステージの第2の面に向けて導くように構成された第2の集束光学系とを備え、
第2の集束光学系が、第1のレーザ源からのレーザ放射線パルスの直後に試料ステージ上の位置に到達するように、第2のレーザ源からの第2のレーザ放射線パルスを同期させるように構成される2パルスレーザサンプリングおよびイオン化システムを提供する。
【0370】
本発明はまた、生体試料などの試料を分析するための装置であって、
第1の面および第2の面を備える試料ステージであって、第1の面および第2の面が対向し、第1の面が試料を受け入れるように適合される試料ステージと、
試料中に電子をシードするように構成された第1のレーザ源、および第1のレーザ源によって放出されたレーザビームを試料ステージの第2の面に向けて導くように構成された第1の集束光学系と、
第1のレーザ源によって電子がプレシードされた試料材料をアブレーションするように構成された第2のレーザ源、および第2のレーザ源によって放出されたレーザビームを試料ステージの第1の面に向けて導くように構成された第2の集束光学系とを備え、
第2の集束光学系が、第1のレーザ源からのレーザ放射線パルスの直後に試料ステージ上の位置に到達するように、第2のレーザ源からの第2のレーザ放射線パルスを同期させるように構成される装置を提供する。
【0371】
装置は、典型的には、TOF検出器などの質量検出器を備える。
【0372】
したがって、本発明は、生体試料などの試料を分析するための2パルスレーザサンプリングおよびイオン化システムであって、
第1の面および第2の面を備える試料ステージであって、第1の面および第2の面が対向し、第1の面が試料を受け入れるように適合される試料ステージと、
試料中に電子をシードするように構成された第1のレーザ源、および第1のレーザ源によって放出されたレーザビームを試料ステージの第2の面に向けて導くように構成された第1の集束光学系と、
第1のレーザ源によって電子がプレシードされた試料材料をアブレーションするように構成された第2のレーザ源、および第2のレーザ源によって放出されたレーザビームを試料ステージの第1の面に向けて導くように構成された第2の集束光学系とを備え、
第2の集束光学系が、第1のレーザ源からのレーザ放射線パルスの直後に試料ステージ上の位置に到達するように、第2のレーザ源からの第2のレーザ放射線パルスを同期させるように構成される2パルスレーザサンプリングおよびイオン化システムを提供する。
【0373】
図14は、本発明の別の好ましい実施形態を示している。ここで、第1のパルス40および第2のパルス70は、同じ側から標本上に集束される。単一の対物レンズ60を使用して、2つの光パルスを組み合わせ、集束させる。したがって、本発明は、生体試料などの試料を分析するための装置およびシステムを提供し、第1の集束光学系および第2の集束光学系は、レーザ放射線を試料ステージの反対側に導くように構成される。
【0374】
したがって、本発明は、生体試料などの試料を分析するための装置であって、
第1の面および第2の面を備える試料ステージであって、第1の面および第2の面が対向し、第1の面が試料を受け入れるように適合される試料ステージと、
試料中に電子をシードするように構成された第1のレーザ源、および第1のレーザ源によって放出されたレーザビームを試料ステージの第1の面に向けて導くように構成された第1の集束光学系と、
第1のレーザ源によって電子がプレシードされた試料材料をアブレーションするように構成された第2のレーザ源、および第2のレーザ源によって放出されたレーザビームを試料ステージの第1の面に向けて導くように構成された第2の集束光学系とを備え、
第2の集束光学系が、第1のレーザ源からのレーザ放射線パルスの直後に試料ステージ上の位置に到達するように、第2のレーザ源からの第2のレーザ放射線パルスを同期させるように構成され、
第1の集束光学系および第2の集束光学系が、同じ対物レンズを使用して、第1および第2のレーザ源からの放射線を集束させる装置を提供する。
【0375】
装置は、典型的には、TOF検出器などの質量検出器を備える。
【0376】
したがって、本発明は、生体試料などの試料を分析するための2パルスレーザサンプリングおよびイオン化システムであって、
第1の面および第2の面を備える試料ステージであって、第1の面および第2の面が対向し、第1の面が試料を受け入れるように適合される試料ステージと、
試料中に電子をシードするように構成された第1のレーザ源、および第1のレーザ源によって放出されたレーザビームを試料ステージの第1の面に向けて導くように構成された第1の集束光学系と、
第1のレーザ源によって電子がプレシードされた試料材料をアブレーションするように構成された第2のレーザ源、および第2のレーザ源によって放出されたレーザビームを試料ステージの第1の面に向けて導くように構成された第2の集束光学系とを備え、
第2の集束光学系が、第1のレーザ源からのレーザ放射線パルスの直後に試料ステージ上の位置に到達するように、第2のレーザ源からの第2のレーザ放射線パルスを同期させるように構成され、
第1の集束光学系および第2の集束光学系が、同じ対物レンズを使用して、第1および第2のレーザ源からの放射線を集束させる2パルスレーザサンプリングおよびイオン化システムを提供する。
【0377】
図15は、第1のパルスに対して少なくとも半透明であり、第2のパルスに対してさらになお透明である材料上に試料(30)が置かれているさらに別の実施形態を示している。この材料は、電子顕微鏡に使用される金属メッシュの形態であり得る。この形状により、アブレーションされたプラズマは、イオン、電子および中性材料の雲100に膨張する。ここで、イオンは、イメージング質量分析およびイメージングマスサイトメトリー用途のための質量分析計内にサンプリングされ得る。
【0378】
したがって、本明細書に開示される2パルスレーザに基づく装置ならびにサンプリングおよびイオン化システムのいくつかの実施形態では、試料ステージは、第1のレーザ源からのレーザ放射線に対して少なくとも半透明であり、第2のレーザ源からの放射線に対してさらになお透明である材料から少なくとも部分的に構成される。あるいは、本明細書の他の箇所で説明され、完全を期すためにここで繰り返されるように、レーザ放射線が試料ステージを介して第1の面上の試料に到達するように導かれる場合、試料ステージは、レーザ放射線が通過して(試料キャリアを介して)試料に到達し得る間隙を含むべきである。試料ステージが間隙を備える状況では、試料は、第1のレーザ源からの放射線に対して少なくとも半透明であり、第2のレーザ源からの放射線に対してさらになお透明である材料から少なくとも部分的に構成される試料キャリア上に置かれる。
【0379】
図16は、アブレーションされたイオンの効率的なサンプリングを容易にする別の実施形態を示している。ここで、第1のレーザパルス40が第1の側から送られる。第1のレーザパルスは、アブレーション後に生成されたイオン100の通過を可能にするために中央に開口部を有する対物レンズ60によって形成される。
【0380】
したがって、本明細書に開示される2パルスレーザに基づく装置ならびにサンプリングおよびイオン化システムのいくつかの実施形態では、第1の集束光学系の対物レンズは、試料からのイオン化された材料が開口部を通過することを可能にするために中央に開口部を有する。
【0381】
2レーザサンプリングおよびイオン化システムの構成要素
第1のレーザ源-電子をプレシードするためのレーザ
上記のように、高解像度イメージングを達成するための要件は、直径100nm以下の焦点に集束され得るレーザ放射線の波長である。したがって、第1のレーザ源によって放出されるレーザ放射線の波長は、UV光でなければならない。いくつかの実施形態では、第1のレーザ源によって放出されるレーザ放射線は、UV、VUV、EUVまたはXUVである。いくつかの実施形態では、第1のレーザ源によって放出されるレーザ放射線は、200nm以下、175nm以下、150nm以下、125nm以下、100nm以下、75nm以下、50nm以下、25nm以下、20nm以下または15nmである。例えば、いくつかの実施形態では、第1のレーザ源によって放出されるレーザ放射線は、10~200nm、10~175nm、10~150nm、10~125nm、10~100nm、10~75nm、10~50nm、10~25nm、10~20nmまたは10~15nmである。
【0382】
上記の説明に沿って、第1のレーザ源のパルスエネルギーは、それが材料に電子をシードするが、材料をアブレーションしないように選択される。いくつかの実施形態では、第1のレーザ源のパルスエネルギーは、ピコJ(picoJ)からフェムトJ(femtoJ)の範囲にある。例えば、1ピコJ~100フェムトJ、10ピコJ~100フェムトJまたは100ピコJ~1フェムトJ。
【0383】
パルスの持続時間は、試料のアブレーションを引き起こす第2のレーザパルスの前にシードされた電子の拡散を最小限に抑えるのに十分に短くなければならない。第1のパルスの開始(第1のレーザ源から)と第2のパルスの終了(第2のレーザ源から)との間の合計時間は、10ps未満に保たれるべきである。したがって、いくつかの実施形態では、第1のレーザ源からのパルスの持続時間は、5ps以下、例えば2ps以下、1ps以下、500fs以下、400fs以下、300fs以下、200fs以下または100fs以下、50fs以下、40fs以下、30fs以下、20fs以下または10fs以下である。
【0384】
第1の集束光学系
第1の集束光学系は、第1のレーザ源からの放射線を試料に導き、それを試料上に集束させる。高解像度イメージングを達成するには、第1の集束光学系は、試料の約100nm以下、例えば75nm以下、50nm以下または約30nmのスポットサイズにレーザ放射線を集束させなければならない。
【0385】
いくつかの実施形態では、第1の集束光学系の対物レンズは反射対物レンズである。
【0386】
第2のレーザ源-プレシードされた試料位置をアブレーションするためのレーザ
システム内の第2のレーザ源の要件は、その異なる機能のために異なる。第2のレーザ源からのレーザ放射線パルスは、試料でプラズマを発生させ、その温度を制御するためのエネルギーを供給する。
【0387】
したがって、第2のレーザ源によって放出されるレーザ放射線の波長は、IRまたは可視光であり得る。可視光が第2のレーザ源から放出される場合、可視光はさらに密に集束され得るため、アブレーションに必要な1パルス当たりのエネルギーが少なくなる。いくつかの実施形態では、第2のレーザ源によって放出されるレーザ放射線は、400nm以上、500nm以上、600nm以上、700nm以上、800nm以上または1μm以上である。例えば、いくつかの実施形態では、第2のレーザ源によって放出されるレーザ放射線は、400nm~100μm、例えば、200nm~100μm、200nm~10μm、200nm~1μm、400nm~10μm、400nm~1μm、400nm~900nm、400nm~800nm、400nm~700nm、400nm~600nmまたは500nm~600nmである。
【0388】
上記の説明に沿って、第2のレーザ源のパルスエネルギーは、電子がプレシードされた試料材料のみをレーザスポット内でアブレーションするように、すなわち、パルスフルエンスが材料のアブレーション閾値を下回るように選択される。いくつかの実施形態では、第2のレーザ源のパルスエネルギーは、ナノジュールの範囲にある。例えば、1ナノJ(nanoJ)~1μJ、10ナノJ~500ナノJ、50ナノJ~250ナノJ、または約100ナノJ。
【0389】
パルスの持続時間は、試料のアブレーションを引き起こす第2のレーザパルスの前にシードされた電子の拡散を最小限に抑えるのに十分に短くなければならない。第1のパルスの開始(第1のレーザ源から)と第2のパルスの終了(第2のレーザ源から)との間の合計時間は、10ps未満に保たれるべきである。したがって、いくつかの実施形態では、第2のレーザ源からのパルスの持続時間は、5ps以下、例えば2ps以下、1ps以下、500fs以下、400fs以下、300fs以下、200fs以下または100fs以下、50fs以下、40fs以下、30fs以下、20fs以下または10fs以下である。
【0390】
第2の集束光学系
第2の集束光学系は、第2のレーザ源からの放射線を試料に導き、それを試料上に集束させる。第1の短波長パルスの集束の密さによって、高解像度イメージングが達成され、したがって、スポットサイズは第1のパルスよりも大きくなり得る。それにもかかわらず、比較的小さなスポットサイズは、シードされた位置の周りの試料の照射を最小限に抑える。したがって、いくつかの実施形態では、第2の集束光学系は、試料の約2μm以下、例えば1μm以下、750nm以下、500nm、250nm以下、200nm以下、150nm以下または約100nmのスポットサイズにレーザ放射線を集束させる。
【0391】
いくつかの実施形態では、第2の集束光学系の対物レンズは、0.7超、0.8超または0.9超のNAを有するレンズなどの屈折または反射対物レンズである。いくつかの実施形態では、第2の集束光学系の対物レンズは、上記のように、第1の集束光学系の対物レンズでもある。
【0392】
第1および第2のレーザ源の同期
本発明の装置は、第1および第2のレーザ源に対して異なるレーザを使用し得る。ここで、命令を備えるプログラムされたモジュールなど、当技術分野で常用的な技術を使用して、試料に対する第1のレーザ源からの第1のパルスおよび第2のレーザ源からの第2のパルスの送達を調整することができ、その結果、プレシーディング、およびプレシードされた領域のアブレーションが上記の説明に沿って生じる。いくつかの実施形態では、第1および第2のパルスは、第1のレーザ源からのパルスの開始から第2のレーザ源からのパルスの終了までの経過時間が50ps未満、例えば25ps未満の持続時間を有するように同期される。いくつかの実施形態では、時間は、10ps未満、例えば5ps未満、2ps未満または1ps未満であり、
いくつかの実施形態では、装置およびシステムは、第1および第2のレーザ源に1つのレーザを使用し、ビームスプリッタを使用してレーザを分割し、第1および第2のレーザ源を提供する。
【0393】
例えば、IRパルスを生成する単一のレーザエンジンを使用することができる。パルスは、2次または3次高調波発生器によって可視光に変換され得る。第1のパルスの短波長放射線を生成するために、レーザを高次高調波発生段階に結合することができる。光遅延線を使用して、第1のパルスと第2のパルスとの間および第2のパルスと第3のパルスとを越えた時間分離を制御することができる。
【0394】
したがって、いくつかの実施形態では、第1のレーザ源および第2のレーザ源を備える装置またはサンプリングシステムは、単一のレーザと、ビームスプリッタと、2つの高調波発生器とを備え、高調波発生器の一方は、第1のレーザ源としての単一のレーザからUV、VUV、EUVまたはXUVレーザ放射線(第1のレーザ源について上述したように)を生成するように適合され、高調波発生器の他方は、第2のレーザ源としての単一のレーザからIRまたは可視波長レーザ放射線(第2のレーザ源について上述したように)を生成するように適合される。
【0395】
したがって、いくつかの実施形態では、第1のレーザ源および第2のレーザ源を備える装置またはサンプリングシステムは、単一のレーザと、ビームスプリッタと、2つの高調波発生器と、光遅延線とを備え、高調波発生器の一方は、第1のレーザ源としての単一のレーザからUV、VUV、EUVまたはXUVレーザ放射線(第1のレーザ源について上述したように)を生成するように適合され、高調波発生器の他方は、第2のレーザ源としての単一のレーザからIRまたは可視波長レーザ放射線(第2のレーザ源について上述したように)を生成するように適合され、光遅延線は、単一のレーザの同じパルスから導出された、第1のレーザ源からのパルスの後に、単一のレーザのパルスから導出された、第2のレーザ源からのパルスを送達するように適合され、その結果、第2のパルスの終了は、第1のパルスの開始後50ps未満、例えば25ps未満、10ps未満、例えば5ps未満、2ps未満または1ps未満である。
【0396】
場合により、UV、VUV、EUVまたはXUVレーザ放射線を生成するように適合された高調波発生器の出力をフィルタリングして、アブレーションされる領域をプレシードするために目的の波長の範囲を含めることができる。
【0397】
磁気セクタ機器は、1Mピクセル以上の高速記録に比較的適していると思われる。100kピクセル(kpixel)/sの記録速度には、飛行時間型質量分析計が適しており、設計および構築が簡単になり得る。
【0398】
このタイプのイオン源は非常に密なイオンスポットを生成するため、この技術のイオンビームの特性により、イオンビームは多くのタイプの質量分析計(現在公知であり、発明される予定である)に適したものとなる。
【0399】
レーザに関する一般的な考慮事項
フェムト秒レーザは、固体レーザであり得る。受動的モードロック固体バルクレーザは、典型的には、30fs~30psの持続時間を有する高品質の超短パルスを放射することができる。そのようなレーザの例には、ネオジムドープまたはイッテルビウムドープ結晶に基づくものなどのダイオード励起レーザが挙げられる。チタンサファイアレーザは、10fs未満、極端な場合は約5fsまでのパルス持続時間に使用することができる(例えば、Thorlabsから入手可能なOctavius Ti:サファイアレーザ)。パルス繰返し率は、ほとんどの場合1kHz~500MHzである。
【0400】
フェムト秒レーザは、ファイバレーザであり得る。受動的モードロックでもあり得る様々なタイプの超高速ファイバレーザは、典型的には、50~500fsのパルス持続時間、0.10~100MHzの繰返し率、および数ミリワット~数ワットの平均出力を提供する(フェムト秒ファイバレーザは、Toptica、IMRA America、Coherent,Inc.から市販されている)。フェムト秒ファイバレーザは、この用途に特に適している。エネルギー出力が<1uJの場合、レーザの価格は手頃である。レーザパルスの繰返し率は>1MHzであるため、1Mピクセル/sの取得速度がもたらされる可能性がある。このようなレーザの約200fsのパルス持続時間は、プラズマ領域の拡散広がりによって決定される10psの上限内に十分収まっている。
【0401】
フェムト秒レーザは、半導体レーザであり得る。一部のモードロックダイオードレーザは、フェムト秒持続時間を有するパルスを生成することができる。レーザ出力では直接、パルス持続時間は通常、少なくとも数百フェムト秒であるが、外部パルス圧縮により、はるかに短いパルス持続時間を達成することができる。
【0402】
いくつかの実施形態では、レーザはナノ秒レーザである。ナノ秒レーザは、Quantel Q-smart DPSS、Solar Laser LQ929高出力パルスNd:YAGレーザ、またはLitron高エネルギーパルスNd:YAGレーザなどの励起レーザであり得る。これらのレーザはいずれも、イオン化に適したmJ領域内で、短いパルス持続時間で、深紫外放射線を生成することができる。
【0403】
垂直外部共振器形面発光レーザ(VECSEL)を受動的モードロックすることも可能である。これらは、特に、短いパルス持続時間と、高いパルス繰返し率と、場合によっては高い平均出力電力との組合せを提供することができるため興味深いが、高いパルスエネルギーには適していない。
【0404】
2パルスレーザアブレーションに基づくサンプリングシステムおよび装置におけるポストイオン化
図17は、3つのレーザパルスがアブレーションおよびポストイオン化を提供するために使用される実施形態を示している。ここで、最初の2つのパルス40および70は、図13の実施形態と同様に、小さなスケールで材料をアブレーションするために使用される。第3のパルス110は、アブレーションされた材料のプルームと重複するように送られる。これは、この材料に追加のイオン化を提供するために使用される。この工程は、アブレーションされたプルーム中に発生し得る中和の影響を抑制するために必要になる可能性がある。次いで、イオンは、対物レンズ60の開口部(図示せず)を通して抽出される。
【0405】
ポストイオン化は、5μm以下などの小さい体積のレーザ放射線からの高いエネルギー密度を必要とする。ポストイオン化体積が非常に小さいため、一度にイオン化することができる材料の量には制限がある。小さい体積中に大量の正電荷と負電荷とが生成されると、形成されるイオンの運動は、イオンと電子とによって誘起される空間電荷に起因する局所場によって支配される。小さい体積中にあまりにも多くの荷電イオンが存在する場合、外部場、例えば、得られたイオンを検出のために検出器に導くために使用される質量分析計に存在するイオン光学系からの場は、正電荷と負電荷とを分離するのに有効ではなく、そのようなイオン雲は最終的に中和し、イオン化効率を低下させる。例えば、10000個の元素電荷を含む10μm(直径)のスケールのイオン雲は、約3Vの静電位を生成する。数eVは電子を原子に保持するエネルギーであるため、イオン化後の自由電子のエネルギー準位でもあると考えられる。その結果、10マイクロメートルスケールの体積中の10000イオンのスケールのイオン密度は、空間電荷挙動が支配的になり始める極限に近い。
【0406】
したがって、そのような影響は、アブレーションされる材料の量が適度に少量に保たれることを確実にすることによって回避することができる。例えば、10×10×10nmの立方体から30×30×30nmの立方体または同様の体積のスケールの材料のアブレーションは、強い空間変化およびイオン中和をもたらすことなく、サイズが数マイクロメートルのポストイオン化領域に移送され得る材料の最大量を表す。システムは単一事象当たり30×30×30nmの立方体しか処理できないため、これにより、イオンビームを集束することができる30nmまたは10nmの空間解像度によりイメージングを行う機会が生じる(本明細書で説明されるように)。
【0407】
ポストイオン化レーザビーム/放射線は、光学設定で一般的に得られるように、マイクロメートル精度内まで第2のレーザ源のビームと共整列される。
【0408】
いくつかの実施形態では、ポストイオン化レーザビーム/放射線は、試料に対してある角度で、標本の先にアブレーションされた領域に導かれる(荷電粒子に基づくサンプリングおよびイオン化システムの図6の配置)。この構成により、ポストイオン化のためのレーザ放射線とアブレーションされていない標本との相互作用が最小限に抑えられる。レーザビームは、アブレーションプルームの体積と重複する狭い焦点に集束させることができる。レーザビームの集束を高い開口数(NA)で行って、重複する領域内での鋭い集束を容易にし、重複する領域の外側への迅速なレーザエネルギーの広がりを可能にして、サンプリングされる領域の周囲の領域内での試料に対する損傷の可能性を最小限に抑えることができる。
【0409】
いくつかの実施形態では、ポストイオン化レーザビーム/放射線の開口数が、平面の1つに制約され得る。そのような配置により、低いNAの平面内に延びる楕円形の焦点が得られる。楕円形の焦点は、スパッタリング/アブレーションされたプルームとの重複の程度を改善し得る。したがって、いくつかの実施形態では、ポストイオン化システムのレーザは、楕円形の焦点を有する。
【0410】
空間的調整に加えて、アブレーションされた材料をイオン化するために、上記の第1および第2のレーザ源の複合作用によるプルーム生成をレーザ放射線の送達と同期させる必要がある。アブレーションされた材料が標的を離れ得る速度は、音速のスケール、すなわち、1000m/sである。したがって、アブレーションされたプルームとポストイオン化レーザ放射線/ビームとを1マイクロメートルの精度で確実に整列させるには、1nsのスケールのタイミング精度が必要である。特定の態様では、速度は、アブレーションされた材料の温度および組成に応じて、1km/s~10km/s、例えば、2km/s~5km/sであり得る。アブレーションは、本明細書に記載されているように、大気圧、部分真空圧または真空圧にすることができる。
【0411】
したがって、この動作モードでは、第1および第2のレーザ源が一緒に機能して試料から材料をアブレーションし、その直後に、放出された材料が、第3のレーザ源からのレーザ放射線パルスによってポストイオン化される。
【0412】
第1および第2のレーザの作用によって生成されたナノプラズマは元素イオンを含むが、ポストイオン化が使用される場合、これらのイオンは直接抽出されない。むしろ、放出されたプルームは膨張することができ、その間に少なくともいくらかの電荷中和が起こる(その点のプラズマは高圧下にあり、密度が非常に高く、これは、衝突冷却および電荷減少が非常に急速に起こることを意味するため)。上述したように、ナノプラズマプルームの膨張速度は約1000~5000m/sである。したがって、数ピコ秒後、例えば試料上の直径10nmのスポットのアブレーションから生成されたプラズマは、1桁だけ、例えば100nmの体積まで膨張する。元のナノプラズマ体積の10~100倍の寸法膨張後のプルームの追加または再イオン化は、元のプルームの成分が、ここで大幅にさらに広がっていることを意味し、その結果、マイクロメートルスケールのプラズマをイオン化して復元すると、衝突の可能性ははるかに低く(したがって、電荷中和の可能性は低く)、ひいては、比較的高い割合の元素イオンがプルームから抽出され得る。標識原子に由来する元素イオンを含むイオンのさらに高い効率の抽出により、さらに優れた感度が達成される。
【0413】
したがって、いくつかの実施形態では、2パルスレーザに基づくサンプリングおよびアブレーションシステムおよび装置は、試料からアブレーションされた試料材料のプルームをイオン化するように構成された第3のレーザ源を備える。
【0414】
したがって、本発明は、生体試料などの試料を分析するための2パルスレーザサンプリングおよびイオン化システムであって、
試料ステージ、
試料中に電子をシードするように構成された第1のレーザ源、および第1のレーザ源によって放出されたレーザビームを試料ステージに向けて導くように構成された第1の集束光学系、
第1のレーザ源によって電子がプレシードされた試料材料をアブレーションするように構成された第2のレーザ源、および第2のレーザ源によって放出されたレーザビームを試料ステージに向けて導くように構成された第2の集束光学系、
試料からアブレーションされた試料材料のプルームをイオン化するように構成された第3のレーザ源、および第3のレーザ源によって放出されたレーザビームを、アブレーションされた試料材料がプルームを形成する体積に導くように構成された第3の集束光学系を備え、
第2の集束光学系が、第1のレーザ源からの第1のレーザ放射線パルスの直後に試料ステージ上の位置に到達するように、第2のレーザ源からの第2のレーザ放射線パルスを同期させるように構成され、
第3の集束光学系が、第2のレーザ放射線パルスの直後に試料ステージ上の位置の上方の体積に到達するように、第3のレーザ放射線パルスを同期させるように構成される2パルスレーザサンプリングおよびイオン化システムを提供する。
【0415】
第3のレーザは、高速パルスを提供し、30ps未満、10ps未満、1ps未満、または500fs未満もしくは100fs未満、例えば、1fs以上10ps以下、1fs以上1ps以下、1fs以上500ps以下、100fs以上500fs以下であり得る。いくつかの実施形態では、第1のレーザ源によって放出されたレーザビームを試料ステージに向けて導くように構成された第1の集束光学系は、第1のレーザ源によって放出されたレーザビームを試料ステージ上の位置に導くように構成され、第2のレーザ源によって放出されたレーザビームを試料ステージに向けて導くように構成された第2の集束光学系は、第2のレーザ源によって放出されたレーザビームを試料ステージ上の位置に導くように構成される。
【0416】
第3のレーザ源からのレーザ放射線が試料の上方の体積を指す体積についての上記の説明。これは、材料が試料から放出された際にアブレーションプルームが形成される体積である。上記は、この状況では試料に関連する用語として使用されており、試料は水平面にあった。アブレーション後のプルームが水平軸に放出されるように試料を垂直面に保持した場合、第3のレーザ源からのレーザ放射線が試料に対して横方向になる「試料の上方の」体積。いくつかの実施形態では、体積は、5μm以下、例えば、2.5μm以下、2μm以下、1μm以下または100nm以下である。いくつかの実施形態では、体積は、5μm以下、例えば、2.5μm以下、2μm以下、1μm以下または100nm以下である。いくつかの実施形態では、体積は、試料の表面から2μm未満、例えば、1μm未満または100nm未満に及ぶ。
【0417】
上述したように、第1および第2のレーザ源は、別個のレーザを表し得るか、同じ単一のレーザに由来し得る。同様に、第3のレーザ源は、別個のレーザであり得るか、(i)第1のレーザ源と同じ単一のレーザに由来し得るか、(ii)第1のレーザ源と同じ単一のレーザに由来し得るか、(iii)第1、第2および第3のレーザ源はいずれも、同じ単一のレーザに由来し得る。
【0418】
異なるレーザが使用される場合、命令を備えるプログラムされたモジュールなど、当技術分野で常用的な技術を使用して、試料に対する第1および第2のパルスの送達を調整することができ、その結果、プレシーディング、およびプレシードされた領域のアブレーションが上記の説明に沿って生じ、アブレーションされた位置で、第3のレーザ源から試料の表面の上方の体積へのパルスが生じる。
【0419】
いくつかの実施形態では、第1および第2のパルスは、第1のレーザ源からのパルスの開始から第2のレーザ源からのパルスの終了までの経過時間が50ps未満、例えば、25ps未満、10ps未満、例えば、5ps未満、2ps未満または1ps未満の持続時間を有するように同期され、第3のレーザ源からのパルスは、第2のレーザ源からのパルスの終了から100ns未満後、アブレーションされた位置にある試料の表面の上方の体積に到達し、いくつかの実施形態では、第1および第2のパルスは、第1のレーザ源からのパルスの開始から第2のレーザ源からのパルスの終了までの経過時間が50ps未満、例えば、25ps未満、10ps未満、例えば、5ps未満、2ps未満または1ps未満の持続時間を有するように同期され、第3のレーザ源からのパルスは、第2のレーザ源からのパルスの終了から10ns未満後、アブレーションされた位置にある試料の表面の上方の体積に到達し、いくつかの実施形態では、第1および第2のパルスは、第1のレーザ源からのパルスの開始から第2のレーザ源からのパルスの終了までの経過時間が50ps未満、例えば、25ps未満、10ps未満、例えば、5ps未満、2ps未満または1ps未満の持続時間を有するように同期され、第3のレーザ源からのパルスは、第2のレーザ源からのパルスの終了から1ns未満後、アブレーションされた位置にある試料の表面の上方の体積に到達し、
いくつかの実施形態では、第1および第2のパルスは、第1のレーザ源からのパルスの開始から第2のレーザ源からのパルスの終了までの経過時間が50ps未満、例えば、25ps未満、10ps未満、例えば、5ps未満、2ps未満または1ps未満の持続時間を有するように同期され、第3のレーザ源からのパルスは、第2のレーザ源からのパルスの終了から100ps未満後、アブレーションされた位置にある試料の表面の上方の体積に到達し、いくつかの実施形態では、第1および第2のパルスは、第1のレーザ源からのパルスの開始から第2のレーザ源からのパルスの終了までの経過時間が50ps未満、例えば、25ps未満、10ps未満、例えば、5ps未満、2ps未満または1ps未満の持続時間を有するように同期され、第3のレーザ源からのパルスは、第2のレーザ源からのパルスの終了から50ps未満後、アブレーションされた位置にある試料の表面の上方の体積に到達する。いくつかの実施形態では、第1および第2のパルスは、第1のレーザ源からのパルスの開始から第2のレーザ源からのパルスの終了までの経過時間が50ps未満、例えば、25ps未満、10ps未満、例えば、5ps未満、2ps未満または1ps未満の持続時間を有するように同期され、第3のレーザ源からのパルスは、第2のレーザ源からのパルスの終了から30ps未満後、アブレーションされた位置にある試料の表面の上方の体積に到達する。いくつかの実施形態では、第1および第2のパルスは、第1のレーザ源からのパルスの開始から第2のレーザ源からのパルスの終了までの経過時間が50ps未満、例えば、25ps未満、10ps未満、例えば、5ps未満、2ps未満または1ps未満の持続時間を有するように同期され、第3のレーザ源からのパルスは、第2のレーザ源からのパルスの終了から20ps未満後、アブレーションされた位置にある試料の表面の上方の体積に到達する。いくつかの実施形態では、第1および第2のパルスは、第1のレーザ源からのパルスの開始から第2のレーザ源からのパルスの終了までの経過時間が50ps未満、例えば、25ps未満、10ps未満、例えば、5ps未満、2ps未満または1ps未満の持続時間を有するように同期され、第3のレーザ源からのパルスは、第2のレーザ源からのパルスの終了から10ps未満後、アブレーションされた位置にある試料の表面の上方の体積に到達する。
【0420】
したがって、本発明は、生体試料などの試料を分析するための2パルスレーザサンプリングおよびイオン化システムであって、
試料ステージ、
試料中に電子をシードするように構成された第1のレーザ源、および第1のレーザ源によって放出されたレーザビームを試料ステージに向けて導くように構成された第1の集束光学系、
第1のレーザ源によって電子がプレシードされた試料材料をアブレーションするように構成された第2のレーザ源、および第2のレーザ源によって放出されたレーザビームを試料ステージに向けて導くように構成された第2の集束光学系、
試料からアブレーションされた試料材料のプルームをイオン化するように構成された第3のレーザ源、および第3のレーザ源によって放出されたレーザビームを、アブレーションされた試料材料がプルームを形成する体積に導くように構成された第3の集束光学系を備え、
第1のレーザ源、第2のレーザ源および第3のレーザ源が、少なくとも1つのビームスプリッタと、少なくとも2つの高調波発生器と、少なくとも2つの光遅延線とをさらに備える単一のレーザに由来し、
高調波発生器の一方が、第1のレーザ源としての単一のレーザからUV、VUV、EUVまたはXUVレーザ放射線(第1のレーザ源について上述したように)を生成するように適合され、高調波発生器の他方が、第2のレーザ源および第3のレーザ源としての単一のレーザからIRまたは可視波長レーザ放射線(第2のレーザ源について上述したように)を生成するように適合され、
第2の集束光学系が、第2のパルスの終了が第1のパルスの開始後50ps未満、例えば、25ps未満、10ps未満、5ps未満、2ps未満または1ps未満であるように、試料ステージ上の位置に到達するように第2のレーザ放射線パルスを同期させるように構成された光学遅延線を備え、
第3の集束光学系が、第2のレーザ源からのパルスの終了から100ps未満、例えば、50ps未満、30ps未満または10ps未満後、試料ステージ上の位置の上方の体積に到達するように第3のレーザ放射線パルスを同期させるように構成された別の光学遅延線を備える2パルスレーザサンプリングおよびイオン化システムを提供する。
【0421】
当技術分野で公知の装置を使用して、レーザパルス間に遅延を導入することができる。したがって、いくつかの実施形態では、装置は、レーザパルス間に遅延を導入するための光遅延線を備える。本発明で使用するのに適した光遅延線の例は、ThorLabsから市販されている光遅延線のいずれかである。
【0422】
試料チャンバ
2パルスに基づくサンプリングシステムの試料チャンバは、上記のレーザアブレーションに基づくサンプリングシステムの試料チャンバと共通の特徴を有し得る。試料チャンバは、試料を支持するステージを備える。ステージは、x-y軸またはx-y-z軸内で移動可能な並進ステージであり得る。試料チャンバはまた、レーザ放射線によって試料から除去された材料を導くことができる出口を備える。出口は検出器に接続され、試料イオンを分析することが可能である。
【0423】
場合によっては、試料チャンバは、133322~13.3Pa未満、例えば1333.22~133.322Paに保持される。場合によっては、試料チャンバは真空下に保持される。したがって、場合によっては、試料チャンバ圧力は、50 000Pa未満、10 000Pa未満、5 000Pa未満、1 000Pa未満、500Pa未満、100Pa未満、10Pa未満、1Pa未満、約0.1Pa、または0.1Pa未満、例えば0.01Pa以下である。例えば、部分真空圧は約200~700Paであり、真空圧は0.2Pa以下であり得る。アルゴン、ヘリウム、窒素およびそれらの混合物などの典型的なガス。
【0424】
当業者によって理解されるように、試料圧力が(部分)真空または大気圧下にあるかどうかの選択は、行われる特定の分析に依存する。例えば、大気圧では、試料の取扱いが容易になり、比較的ソフトなイオン化が適用され得る。さらに、衝突冷却の現象が発生することを可能にするために、ガス分子の存在が望まれる場合があり、これは、標識が大きな分子であり、その断片化、例えば、標識原子またはそれらの組合せを含む分子断片が望ましくない場合に興味深い場合がある。あるいは、レーザ放射線を使用して材料をポストイオン化する場合、ガス分子の存在と衝突冷却とは、試料の表面で生成されたナノプラズマの冷却(すなわち、エネルギーポンピング状態をもたらすための試料の荷電粒子衝撃およびレーザ照射の後)と、アブレーションされた材料のプルームの膨張と、ポストイオン化システム内での事前再イオン化とを可能にするために有利であり得る。
【0425】
当業者によって理解されるように、試料圧力が(部分)真空下で大気圧にあるかどうかの選択は、行われる特定の分析に依存する。例えば、大気圧では、試料の取扱いが容易になり、比較的ソフトなイオン化が適用され得る。さらに、衝突冷却の現象が発生することを可能にするために、ガス分子の存在が望まれる場合があり、これは、標識が大きな分子であり、その断片化、例えば、標識原子またはそれらの組合せを含む分子断片が望ましくない場合に興味深い場合がある。
【0426】
試料チャンバを真空下に保持することにより、生成された試料イオンとチャンバ内の他の粒子との衝突を防ぐことができる。
【0427】
イオン顕微鏡および光学系
試料イオンは、当技術分野では浸漬レンズ(または取り出しレンズ(extraction lens))として知られている、試料の近くに配置された静電レンズを介して試料から捕捉される。浸漬レンズは、試料の局所性から二次イオンを即座に除去する。これは、典型的には、電位差が大きい試料およびレンズによって達成される。浸漬レンズに対する試料の極性に応じて、正または負の二次イオンが浸漬レンズによって捕捉される。浸漬レンズによって捕捉される試料イオンの極性は、荷電粒子ビームのイオンの極性とは無関係である。
【0428】
次いで、試料イオンは、1つ以上の追加の静電レンズ(当技術分野ではトランスファーレンズとして知られている)を介して検出器に移送される。トランスファーレンズは、二次イオンのビームを検出器に集束させる。典型的には、複数のトランスファーレンズを有するシステムでは、1つのトランスファーレンズのみが所与の分析に関与する。各レンズは、試料表面の異なる倍率を提供し得る。一般に、追加のイオン操作構成要素、例えば、1つ以上の開口、質量フィルタ、または偏向器プレートのセットが、浸漬レンズと検出器との間に存在する。浸漬レンズ、トランスファーレンズおよび任意の追加の構成要素が一緒になって、イオン顕微鏡を形成する。イオン顕微鏡を製造するための構成要素は、Agilentなどの商用供給業者から入手可能である。
【0429】
カメラ
システムはまた、カメラを備え得る。カメラシステムは、レーザアブレーションサンプリングシステムに関連して上記で説明されており、上記カメラの特徴は、不適合な場合(例えば、共焦点顕微鏡などの光学顕微鏡に接続することができるが、一方のビームはイオンであり、他方のビームは光子であるため、カメラに導かれる光と同じ光学系を介して一次イオンビームを集束することができない)を除いて、二次イオン生成システムにも存在し得る。
【0430】
2パルスレーザに基づく装置の使用方法
本発明はまた、このセクションに記載される装置、またはサンプリングおよびイオン化システムを使用して生体試料を分析する方法を提供する。したがって、装置に関して上述した特徴は、方法請求項に組み込むための好適な特徴である。したがって、本発明は、試料を分析するための方法であって、
(i)第1のレーザ源から放出されたレーザ放射線を使用して、試料上の位置に電子をシードする工程、および
(ii)第2のレーザ源から放出されたレーザ放射線を使用して、第1のレーザ源によって電子がプレシードされた試料上の位置から試料材料をアブレーションする工程を含む方法を提供する。
【0431】
工程(ii)はまた、シードされた試料をイオン化する(例えば、持続的にイオン化する)し得る。いくつかの実施形態では、工程(ii)は、第1のパルスの開始後50ps未満、例えば、工程(i)の開始の25ps未満、10ps未満、例えば、5ps未満、2ps未満または1ps未満以内に完了する。いくつかの実施形態では、工程(i)は、5ps以下、例えば、2ps以下、1ps以下、500fs以下、400fs以下、300fs以下、200fs以下または100fs以下、50fs以下、40fs以下、30fs以下、20fs以下または10fs以下のレーザ放射線パルスを用いて行われる。いくつかの実施形態では、第1のレーザ源によって放出されるレーザ放射線は、200nm以下、175nm以下、150nm以下、125nm以下、100nm以下、75nm以下、50nm以下、25nm以下、20nm以下または15nmである。いくつかの実施形態では、第1のレーザ源によって放出されるレーザ放射線は、10~200nm、10~175nm、10~150nm、10~125nm、10~100nm、10~75nm、10~50nm、10~25nm、10~20nmまたは10~15nmである。いくつかの実施形態では、第1のレーザ源のパルスエネルギーは、1ピコJ~999フェムトJ、10ピコJ~100フェムトJまたは100ピコJ~1フェムトJなどのピコJからフェムトJの範囲にある。いくつかの実施形態では、位置の直径は、100nm以下、例えば、75nm以下、50nm以下または約30nmである。
【0432】
いくつかの実施形態では、工程(ii)は、5ps以下、例えば、2ps以下、1ps以下、500fs以下、400fs以下、300fs以下、200fs以下または100fs以下、50fs以下、40fs以下、30fs以下、20fs以下または10fs以下のレーザ放射線パルスを用いて行われる。いくつかの実施形態では、第2のレーザ源によって放出されるレーザ放射線の波長は、400nm~100μm、例えば、400nm~10μm、400nm~1μm、400nm~900nm、400nm~800nm、400nm~700nm、400nm~600nmまたは500nm~600nm、200nm~100μm、200nm~10μm、または200nm~1μmである。いくつかの実施形態では、第2のレーザ源のパルスエネルギーは、1ナノJ~1μJ、10ナノJ~500ナノJ、50ナノJ~250ナノJ、または約100ナノJなどのナノジュールの範囲にある。
【0433】
いくつかの実施形態では、方法は、第3のレーザ源からのレーザ放射線によって、工程(ii)で試料からアブレーションされた材料のプルームを照射することをさらに含む。いくつかの実施形態では、第3のレーザ源からのレーザ放射線は、第2のレーザ源からのパルスの終了から10ns未満、例えば、1ns未満、100ps未満、50ps未満、30ps未満または10ps未満後、試料上の位置の上方の体積に到達する。
【0434】
ポストイオン化システムおよび方法
第1のエネルギー源(例えば、レーザ、イオンビームまたは電子ビーム)からの初期放射線によるものを含む、本明細書に記載のサンプリング方法のいずれでも、試料から放出された材料は、試料表面またはその近くでレーザによってイオン化され得る。イオン化に使用されるレーザは、IRまたは可視レーザであり得、ピコ秒スケール(例えば、1~1000ps、5~100ps、10~50ps)であり得る。放出された材料は、初期放射線の100ps~10ns以内にレーザによってイオン化され、材料が臨界密度を超えて膨張することを可能にし得る(その前に、中和によって長期的なイオン形成が大幅に減少する)。これにより、試料表面での直接イオン化から形成されるナノプラズマとは対照的に、マイクロプラズマ(表面の上方)が生じ得る。試料(例えば、試料を収容するチャンバ)は、真空または部分真空圧に保持されて、臨界密度を超えてアブレーションプルームの膨張を可能にし、および/または結果として生じるイオンを導くイオン光学系の能力を改善し得る。部分真空圧(例えば、10~10,000Paまたは100~1,000Pa)は、衝突冷却および/または電荷減少を可能にし得、イオン光学系を改善し得る。
【0435】
2.質量検出器システム
質量検出器システムの例示的なタイプには、四重極、飛行時間(TOF)、磁気セクタ、高解像度、シングルまたはマルチコレクタに基づく質量分析計が含まれる。磁気セクタ機器は、1秒当たり1メガピクセル以上の高速記録に特に適している。
【0436】
イオン化された材料の分析にかかる時間は、イオンの検出に使用される質量分析計のタイプに依存する。例えば、ファラデーカップを使用する機器は、一般に、高速信号を分析するには遅すぎる。全体として、望ましいイメージング速度、解像度、および多重化の程度によって、使用するべき質量分析計のタイプが決まる(または、逆に、質量分析計の選択によって、達成することができる速度、解像度および多重化が決まる)。
【0437】
例えば、ポイントイオン検出器を使用して、一度にただ1つの質量対電荷比(m/Q、MSでは一般にm/zと称される)でイオンを検出する質量分析機器は、イメージング検出では不十分な結果を生じる。第一に、質量対電荷比間での切替えにかかる時間が、複数の信号が決定され得る速度を制限し、第二に、イオンの存在量が少ない場合、機器が他の質量対電荷比に焦点を合わせる際に信号を逃す可能性がある。したがって、異なるm/Q値を有するイオンの実質的に同時の検出を提供する技術を使用することが好ましい。
【0438】
検出器のタイプ
四重極検出器
四重極質量分析計は、一端に検出器を有する4つの平行ロッドを備える。一方のロッド対(互いに対向するロッドの各々)が他方のロッド対に対して反対の交流電位を有するように、一方のロッド対と他方のロッド対との間に交流RF電位および固定DCオフセット電位が印加される。イオン化された試料は、ロッドの中央を通過し、ロッドに平行な方向に検出器に向かう。印加された電位はイオンの軌道に影響を与え、その結果、特定の質量電荷比のイオンのみが安定した軌道を有し、検出器に到達する。他の質量電荷比のイオンはロッドと衝突する。
【0439】
磁気セクタ検出器
磁気セクタ質量分析では、イオン化された試料は湾曲した飛行管を通過してイオン検出器に向かう。飛行管全体に磁場を印加すると、イオンはそれらの経路から偏向する。各イオンの偏向量は、各イオンの質量対電荷比に基づいているため、一部のイオンのみが検出器に衝突し、他のイオンは検出器から偏向される。マルチコレクタセクタフィールド機器(multicollector sector field instrument)では、検出器のアレイを使用して、様々な質量のイオンを検出する。ThermoScientific Neptune PlusおよびNu Plasma IIなどの一部の機器では、磁気セクタを静電セクタと組み合わせて、質量対電荷比に加えて、運動エネルギーによってイオンを分析するダブルフォーカシング磁気セクタ機器を提供する。特に、Mattauch-Herzog形状を有するマルチ検出器を使用することができる(例えば、半導体直接電荷検出器を使用して単回の測定でリチウムからウランまでのあらゆる元素を同時に記録することができるSPECTRO MS)。これらの機器は、複数のm/Q信号を実質的に同時に測定することができる。それらの感度は、検出器に電子増倍管を含めることによって向上させることができる。アレイセクタ機器は常に適用可能である。ただし、増加する信号を検出するのには有用であるが、信号レベルが減少している場合には有用性が低いため、標識が特に高度に変動する濃度で存在する状況にはあまり適していない。
【0440】
飛行時間(TOF)検出器
飛行時間型質量分析計は、試料入口と、全体に強電界が印加された加速チャンバと、イオン検出器とを備える。イオン化された試料分子のパケットが、試料入口から加速チャンバに導入される。最初、イオン化された試料分子の各々は、同じ運動エネルギーを有するが、イオン化された試料分子が加速チャンバを通って加速されると、それらはそれらの質量によって分離され、比較的軽いイオン化された試料分子は、比較的重いイオンよりも速く移動する。次いで、検出器は、到達したイオンを残らず検出する。各粒子が検出器に到達するのにかかる時間は、粒子の質量対電荷比に依存する。
【0441】
したがって、TOF検出器は、単一の試料中の複数の質量をほぼ同時に記録することができる。理論的には、TOF技術は、それらの空間電荷特性のためにICPイオン源に理想的には適していないが、TOF機器は、実際に、実現可能な単一細胞イメージングを可能にするのに十分に迅速かつ十分に感度よくICPイオンエアロゾルを分析することができる。TOF質量分析計は、通常、TOF加速器および飛行管内の空間電荷の影響に対処するために必要な妥協のために、原子分析には不評であるが、本開示による組織イメージングは、標識原子のみを検出することによって効果的であり得、したがって、他の原子(例えば、100未満の原子質量を有するもの)を除去することができる。この結果、(例えば)100~250ダルトン領域の質量が富化された低密度のイオンビームが得られ、これをさらに効率的に操作および集束させ、それによってTOF検出を容易にし、TOFの高いスペクトル走査速度を利用することができる。したがって、TOF検出と、試料中にはまれであり、非標識試料中に見られる質量よりも大きい質量を理想的には有する標識原子を選択することとを組み合わせることによって、例えば、比較的高い質量遷移元素を使用することによって、迅速なイメージングを達成することができる。このように、標識質量の比較的狭いウィンドウを使用することは、TOF検出が効率的なイメージングに使用されることを意味する。
【0442】
好適なTOF機器は、Tofwerk、GBC Scientific Equipment(例えば、Optimass 9500 ICP-TOFMS)、およびFluidigm Canada(例えば、CyTOF(商標)およびCyTOF(商標)2機器)から入手可能である。これらのCyTOF(商標)機器は、TofwerkおよびGBCの機器よりも感度が高く、希土類金属の質量範囲内のイオンを迅速かつ感度よく検出することができることから、マスサイトメトリーでの使用が知られている(特に、100~200のm/Q範囲;Banduraら(2009;Anal.Chem.,81:6813-22)を参照)。したがって、これらは、本開示とともに使用するための好ましい機器であり、Bendallら(2011;Science 332,687-696)およびBodenmillerら(2012;Nat.Biotechnol.30:858-867)などの当技術分野で既に公知の機器設定を用いたイメージングに使用することができる。これらの質量分析計は、高周波レーザアブレーションまたは試料脱離の時間スケールで、高い質量スペクトル取得周波数で多数のマーカーをほぼ同時に検出することができる。それらは、1細胞当たり約100の検出限界で標識原子の存在量を測定し、組織試料の画像の高感度構築を可能にすることができる。これらの機能により、マスサイトメトリーを使用して、細胞内解像度での組織イメージングに対する感度および多重化の必要性を満たすことができる。マスサイトメトリー機器と高解像度レーザアブレーションサンプリングシステムおよび高速遷移低分散試料チャンバとを組み合わせることによって、実用的な時間スケールでの高多重化による組織試料の画像の構築を可能にすることができた。
【0443】
TOFは、マスアサインメントコレクタ(mass-assignment corrector)と組み合わせられ得る。イオン化事象の大部分はMイオンを生成し、単一の電子が原子から放出される。TOF MSの動作モードのために、特に大量の質量Mのイオンが検出器に入る場合(すなわち、装置がそのようなイオン偏向器を備えている場合、高いイオン数であるが、サンプリングイオン化システムとMSとの間に配置されたイオン偏向器が、それらがMSに入るのを妨げるほど高くはないイオン数)、隣接する質量(M±1)のチャネルに、ある質量(M)のイオンがいくらかブリーディング(またはクロストーク)することがある。検出器への各Mイオンの到達時間は、平均(各Mについて知られている)に関する確率分布に従うため、質量Mでのイオンの数が多い場合、一部が、M-1またはM+1イオンに通常関連する時間に到達する。ただし、各イオンはTOF MSに入ると既知の分布曲線を有するため、質量Mチャネルにおけるピークに基づいて、質量MのイオンのM±1チャネルへの重複を(既知のピーク形状と比較することにより)決定することが可能である。TOF MSで検出されるイオンのピークは非対称であるため、この計算はTOF MSに特に適用可能である。したがって、M-1、MおよびM+1チャネルの読取り値を補正して、検出されたすべてのイオンをMチャネルに適切に割り当てることができる。そのような補正は、試料から材料を除去するための技術としてレーザアブレーション(または以下に説明される脱離)を含む、本明細書に開示されるようなサンプリングおよびイオン化システムによって生成されるイオンの大きなパケットの性質のために、イメージングデータを補正する際に特に使用される。TOF MSからのデータをデコンボリューションすることによってデータの品質を改善するためのプログラムおよび方法は、国際公開第2011/098834号パンフレット、米国特許第8723108号明細書および国際公開第2014/091243号パンフレットで説明されている。
【0444】
デッドタイムコレクタ(Dead-time corrector)
上述したように、MS内の信号は、イオンと検出器との間の衝突と、イオンが衝突した検出器の表面からの電子の放出とに基づいて検出される。MSによって多数のイオンが検出され、結果として多数の電子が放出されると、MSの検出器は一時的に疲労し得、その結果、検出器から出力されるアナログ信号が、イオンの後続のパケットのうちの1つ以上について一時的に抑制される。言い換えると、イオン化試料材料のパケットからイオンを検出するプロセスでは、イオン化試料材料のパケット中のイオンの数が特に多いと、検出器表面および二次増倍管から多くの電子が放出され、これは、イオン化試料材料の後続のパケット中のイオンが検出器に衝突した際に、検出器表面および二次増幅器内の電子が補充されるまで、放出されることができる電子が少なくなることを意味する。
【0445】
検出器の挙動の特性に基づいて、このデッドタイム現象を補償することが可能である。第1の工程は、検出器によるイオン化試料材料のn番目のパケットの検出から生じるアナログ信号中のイオンピークを分析することである。ピークの大きさは、ピークの高さ、ピークの面積、またはピークの高さとピークの面積との組合せによって決定され得る。
【0446】
次いで、ピークの大きさを比較して、それが所定の閾値を超えているかどうかを確認する。大きさがこの閾値を下回っている場合、補正は必要ない。大きさが閾値を超える場合、イオン化試料材料の少なくとも1つの後続のパケット(イオン化試料材料の少なくとも(n+1)番目のパケット、ただし、場合によっては、例えば、(n+2)番目、(n+3)番目、(n+4)番目などのイオン化試料材料の追加のパケット)からのデジタル信号の補正が行われて、イオン化試料材料のn番目のパケットによって引き起こされる検出器の疲労から生じるイオン化試料材料のこれらのパケットからのアナログ信号の一時的な抑制を補償する。イオン化試料材料のn番目のパケットのピークの大きさが大きいほど、イオン化試料材料の後続のパケットからのさらに多くのピークを補正する必要があり、補正の大きさを大きくする必要がある。このような現象を補正する方法は、Stephanら(1994;Vac.Sci.Technol.12:405)、TylerおよびPeterson(2013;.Surf Interface Anal.45:475-478)、Tyler(2014;Surf Interface Anal.46:581-590)、国際公開第2006/090138号パンフレットならびに米国特許第6229142号明細書に説明されており、これらの方法は本明細書に記載されているように、デッドタイムコレクタによってデータに適用され得る。
【0447】
発光スペクトル検出に基づく分析計装置
1.サンプリングおよびイオン化システム
a.レーザアブレーションに基づくサンプリングおよびイオン化システム
質量に基づく分析計に関連して上記のレーザ走査システムを備えるレーザアブレーションサンプリングシステムは、OES検出器に基づくシステムに使用することができる。原子発光スペクトルの検出のために、ICPを使用して、試料から除去された試料材料をイオン化することが最も好ましいが、元素イオンを生成することができる任意のハードイオン化技術を使用することができる。
【0448】
当業者によって理解されるように、質量に基づく検出器の過負荷を回避することに関連して説明された上記のレーザアブレーションに基づくサンプリングおよびイオン化システムの特定の任意の追加の構成要素は、OES検出器に基づくシステムいずれにも適用することができるとは限らず、適切でない場合には、当業者によって組み込まれない。
【0449】
2.光検出器
光検出器の例示的なタイプには、光電子増倍管および電荷結合素子(CCD)が含まれる。元素質量分析によるイメージングの前に、光検出器を使用して、試料をイメージングする、および/または目的の特徴/領域を識別してもよい。
【0450】
光電子増倍管は、フォトカソードと、いくつかのダイノードと、アノードとを備える真空チャンバを備える。フォトカソードに入射する光子は、光電効果の結果としてフォトカソードに電子を放出させる。二次放出の過程に起因して、ダイノードによって電子が増倍されて、増倍された電子電流が生成され、次いで、増倍された電子電流がアノードによって検出されて、フォトカソードに入射する電磁放射線の検出の尺度を提供する。光電子増倍管は、例えば、ThorLabsから入手可能である。
【0451】
CCDは、感光性ピクセルのアレイを含むシリコンチップを備える。露光中、各ピクセルは、ピクセルに入射する光の強度に比例した電荷を生成する。露光後、制御回路が一連の電荷の移送を引き起こし、一連の電圧を生成する。次いで、これらの電圧を分析して画像を生成することができる。好適なCCDは、例えば、Cell Biosciencesから入手可能である。
【0452】
画像の構築
上記の装置は、試料から除去されたイオン化試料材料のパケット中の複数の原子について信号を提供することができる。試料材料のパケット中の原子の検出は、その原子が試料中に自然に存在するため、またはその原子が標識試薬によってその位置に局在化されているため、アブレーションの位置にその原子が存在することを明らかにする。試料の表面上の既知の空間位置からイオン化試料材料の一連のパケットを生成することによって、検出器信号は試料上の原子の位置を明らかにし、したがって、信号を使用して試料の画像を構築することができる。区別可能な標識を用いて複数の標的を標識することによって、標識原子の位置を同種の標的の位置と関連付けることが可能であるため、この方法は、複雑な画像を構築し、蛍光顕微鏡法などの従来の技術を使用して達成することができるレベルをはるかに超える多重化のレベルに到達することができる。
【0453】
画像への信号の組立ては、コンピュータを使用し、公知の技術およびソフトウェアパッケージを使用して達成することができる。例えば、Kylebank Software製のGRAPHISパッケージを使用してもよいか、TERAPLOTなどの他のパッケージを使用することができる。MALDI-MSIなどの技術からのMSデータを使用したイメージングが当技術分野で公知であり、例えば、Robichaudら(2013;J Am Soc Mass Spectrom 24 5:718-21)は、Matlabプラットフォーム上のMS画像ファイルを観察および分析するための「MSiReader」インターフェースを公開しており、Klinkertら(2014;Int J Mass Spectrom http://dx.doi.org/10.1016/j.ijms.2013.12.012)は、完全な空間およびスペクトル解像度で2Dおよび3D MSIデータセットの両方を迅速にデータ探索および視覚化するための2つのソフトウェア機器、例えば「Datacube Explorer」プログラムを開示している。さらに、本明細書に記載のシステムおよび方法は、ソフトウェアに従って実行され得る。例えば、
本明細書に開示される方法を使用して得られた画像は、例えば、IHCの結果が分析されるのと同じ方法で、さらに分析することができる。例えば、画像は、試料内の細胞亜集団を描写するために使用することができ、臨床診断に有用な情報を提供することができる。同様に、SPADE分析を使用して、本開示の方法が提供する高次元サイトメトリーデータから細胞階層を抽出することができる(Qiuら(2011;Nat.Biotechnol.29:886-91))。
【0454】
試料
本開示の特定の態様は、生体試料をイメージングする方法を提供する。そのような試料は、イメージングマスサイトメトリー(IMC)に供することができる複数の細胞を含み、試料中のこれらの細胞の画像を提供することができる。一般に、本発明は、免疫組織化学(IHC)技術によって現在試験されている組織試料を分析するために使用することができるが、質量分析(MS)または発光分析(OES)による検出に適した標識原子の使用を伴う。さらに、本発明は、従来の方法で調製された試料を使用するIMCおよびIMS技術よりも改善された解像度を提供するために、組織試料を調製するための様々な技術を提供する。特に、本発明は、電子顕微鏡によるイメージングに適した試料を調製するための技術、極薄試料を調製するための技術、およびそれらの組合せを提供する。これらの方法は、本明細書にさらに記載される。
【0455】
本明細書に記載の方法では、任意の好適な組織試料を使用することができる。例えば、組織は、上皮、筋肉、神経、皮膚、腸、膵臓、腎臓、脳、肝臓、血液(例えば、血液塗抹)、骨髄、頬スワイプ(buccal swipe)、子宮頸部スワイプ(cervical swipe)または任意の他の組織のうちの1つ以上から得られた組織を含み得る。生体試料は、不死化細胞株、または生きている対象から得られた初代細胞であり得る。診断、予後または実験(例えば、創薬)の目的では、組織は腫瘍由来のものであり得る。いくつかの実施形態では、試料は既知の組織由来のものであり得るが、試料が腫瘍細胞を含有するかどうかは不明であり得る。イメージングは、腫瘍の存在を示す標的の存在を明らかにするため、診断を容易にすることができる。腫瘍由来の組織は、本方法によって特性評価される免疫細胞を含み得、腫瘍生物学への洞察を提供し得る。組織試料は、ホルマリン固定パラフィン包埋(FFPE)組織を含み得る。組織は、哺乳動物、(例えば、ヒト腫瘍異種移植片を有する免疫不全齧歯類などの特定の疾患の)動物研究モデル、またはヒト患者などの任意の生きている多細胞生物から得ることができる。
【0456】
組織試料は、例えば、2~10μm、例えば4~6μmの範囲内の厚さを有する切片であり得る。そのような切片を調製するための技術は、脱水工程、固定、包埋、透過処理、切片化などを含め、例えばミクロトームを使用するIHCの分野からよく知られている。したがって、組織を化学的に固定し、次いで、切片を所望の平面に調製することができる。組織試料の調製には、凍結切片またはレーザ捕獲顕微解剖も使用することができる。例えば、細胞内標的の標識のための試薬の取込みを可能にするために、試料を透過処理してもよい(上記を参照)。
【0457】
分析対象の組織試料のサイズは、現在のIHC法と同様であるが、最大サイズは、レーザアブレーション装置によって、特に試料チャンバに収まり得る試料のサイズによって決まる。最大5mm×5mmのサイズが典型的であるが、さらに小さな試料(例えば1mm×1mm)も有用である(これらの寸法は、切片の厚さではなく、切片のサイズを指す)。
【0458】
本開示は、組織試料のイメージングに有用であることに加えて、代わりに、付着細胞の単層、または固体表面に固定化された細胞の単層などの細胞試料のイメージングに使用することができる(従来の免疫細胞化学の場合のように)。これらの実施形態は、細胞懸濁液マスサイトメトリー(cell-suspension mass cytometry)のために容易に可溶化することができない付着細胞の分析に特に有用である。したがって、本開示は、現在の免疫組織化学的分析を強化するのに有用であるとともに、免疫細胞化学を強化するために使用することができる。
【0459】
極薄試料
上述したように、従来のIMCおよびIMS技術は、数マイクロメートルの厚さの組織試料を使用する。しかし、本明細書に記載される本発明の実施形態のいくつか、例えば、対物レンズと試料ステージとの間に配置された浸漬媒体を備える、生体試料を分析するための装置(上記9ページを参照)は、アブレーション領域が典型的には三次元全体または少なくとも横方向寸法で100nmのオーダーであるため、そのような厚さの試料とともに使用するのには適していない。
【0460】
したがって、本発明は、分析のための生体試料を調製する方法であって、標識原子により試料を標識すること(標識原子は本明細書にさらに記載される)、および試料を薄片に切片化することを含み、場合により、10マイクロメートル未満、例えば、1マイクロメートル以下、または100nm以下、または50nm以下、または30nm以下の厚さの切片に試料を切片化する方法を提供する。本発明はまた、分析のための生体試料を調製する方法であって、試料を薄片に切片化すること、および標識原子により試料を標識することを含み(標識原子は本明細書にさらに記載される)、場合により、10マイクロメートル未満、例えば、1マイクロメートル以下、または100nm以下、または50nm以下、または30nm以下の厚さの切片に試料を切片化する方法を提供する。RM Boeckelerから入手可能なATUMtomeなどの自動化されたミクロトームを使用して、本発明の方法に従って、試料をある厚さの切片に切片化することができる。
【0461】
上記の方法に従って調製された試料は、本明細書に記載のIMCおよびIMS技術のいずれかとともに使用することができる。ただし、上記の方法に従って調製された試料は、本明細書に記載の対物レンズと試料ステージとの間に配置された浸漬媒体を備える装置のいずれかによる分析に特に適している。
【0462】
さらに、上記の方法に従って調製された試料は、上記のスパッタリングに基づくサンプリングおよびイオン化システムのいずれかによる分析にも適している。
【0463】
試料キャリア
特定の実施形態では、試料は、固体支持体(すなわち、試料キャリア)上に固定化されて、イメージング質量分析のために配置され得る。固体支持体は、ガラスまたはプラスチックから作製されるなど、光学的に透明であり得る。試料キャリアが光学的に透明である場合、図3図5および図8図10に示すように、キャリアを介した試料材料のアブレーションが可能になる。試料キャリアの材料を介したアブレーションは、レーザ放射線が浸漬媒体を介して試料に導かれる場合に特に利点を有する。
【0464】
場合によっては、試料キャリアは、例えば、アブレーションまたは脱離および分析される目的の特徴/領域の相対位置の計算を可能にするために、本明細書に記載の装置および方法とともに使用するための参照点として機能するという特徴を備える。参照点は、光学的に分解可能であり得るか、質量分析によって分解可能であり得る。
【0465】
標的元素
イメージング質量分析では、1つ以上の標的元素(すなわち、元素または元素同位体)の分布が重要であり得る。特定の態様では、標的元素は、本明細書に記載される標識原子である。標識原子は、単独で試料に直接付加しても、生物学的に活性な分子に、または生物学的に活性な分子内に共有結合させてもよい。特定の実施形態では、以下にさらに詳細に説明されるように、標識原子(例えば、金属タグ)は、DNAまたはRNA標的にハイブリダイズするための抗体(その同種の抗原に結合する)、アプタマーまたはオリゴヌクレオチドなどの特異的結合対(SBP)のメンバーにコンジュゲートされ得る。当技術分野で公知の任意の方法によって、SBPに標識原子を付着させてもよい。特定の態様では、標識原子は、ランタニドもしくは遷移元素などの金属元素、または本明細書に記載の別の金属タグである。金属元素は、60amuを超える、80amuを超える、100amuを超える、または120amuを超える質量を有し得る。本明細書に記載の質量分析計は、金属元素の質量を下回る元素イオンを枯渇させ得、その結果、豊富な比較的軽い元素が空間電荷効果を生み出さず、および/または質量検出器に負担をかけない。
【0466】
組織試料の標識
本開示は、標識原子、例えば複数の異なる標識原子により標識された試料の画像を生成し、標識原子は、試料の特定の、好ましくは細胞内領域をサンプリングすることができる装置によって検出される(したがって、標識原子は元素タグを表す)。複数の異なる原子への言及は、複数の原子種が試料の標識に使用されることを意味する。これらの原子種は、プルーム内の2つの異なる標識原子が存在すると2つの異なるMS信号を生じるように、質量検出器を使用して区別することができる(例えば、それらは異なるm/Q比を有する)。原子種はまた、プルーム内に2つの異なる標識原子が存在すると2つの異なる発光スペクトル信号が生じるように、光学分光計を使用して区別することもできる(例えば、異なる原子は異なる発光スペクトルを有する)。
【0467】
電子顕微鏡(EM)技術のための標識
免疫電子顕微鏡法とは、電子顕微鏡法を使用して組織または細胞の超微細構造を試験することである。免疫電子顕微鏡法では、電子顕微鏡法を使用して、本明細書にさらに記載されるものなどの重金属粒子により標識された抗体SPBを検出する。走査型電子顕微鏡法(SEM)および透過型電子顕微鏡法(TEM)はいずれもよく知られた電子顕微鏡技術であり、抗体SPBを検出するのに使用することができる。走査型電子顕微鏡法(SEM)は、電子と試料の表面との相互作用から生じる信号を検出するために使用される。透過型電子顕微鏡法(TEM)は、極薄標本(50nm未満)を通過する電子によって生成された画像を検出するために使用される。免疫電子顕微鏡法のための試料を調製するための標準的なプロトコルには、組織固定、適切な包埋樹脂への封入、それに続く超薄切片化(厚さ50nm以下の切片に)、および超微細構造の位置を決定する必要のある分子に対する特異的抗体とのインキュベーションが含まれる。
【0468】
本発明は、電子顕微鏡法による分析に適した試料を調製するための技術を利用する。一態様では、本発明は、電子顕微鏡(EM)用の造影剤を用いて試料を染色すること、および標識原子により試料を標識することを含む、分析のための生体試料を調製する方法を提供する。いくつかの実施形態では、方法は、染色または標識する前に、100nm以下、50nm以下または30nm以下などの生体試料の超薄切片を調製する工程を含む。このように、本発明は、本明細書で説明されるIMCおよびIMS技術のいずれかを使用する分析の前に、EMを使用するイメージングに適した試料を提供する。したがって、本発明は、従来のIMCおよびIMS技術よりも高い解像度および/または多重度のイメージングを提供する機会を提供する。
【0469】
本発明のいくつかの実施形態では、EM用造影剤は、イメージングマスサイトメータまたはイメージング質量分析計で見ることができる。したがって、本発明は、造影剤が四酸化オスミウム、金、銀およびイリジウムのうちの少なくとも1つを含む、生体試料を調製する方法を提供する。したがって、本発明の方法に従って調製された生体試料は、最初にEMによって読み取られ、それによって、1つの(親和性)チャネル(EM造影剤)について3nmスケールの空間解像度を提供し、次いで、標識原子によって提供されるのと同じ数の親和性チャネル(例えば40を超える親和性チャネル)を用いて、100nmの空間解像度でIMC/IMSによって読み取られ得る。四酸化オスミウムまたはイリジウムなど、マスサイトメータでも見ることができるEM用造影剤を利用する1つの利点は、IMC/IMSが造影剤を容易に読み取ることができ、したがってEMおよびIMC/IMSによって得られた画像を重ね合わせ、同時記録することができることである。EMは詳細を提供し、IMC/IMSは多くの親和性チャネル上の標本の生物学的状態をモニタリングするという利点を提供する。このように、本発明による分析のための生体試料を調製することは、細胞の超微細構造分析までIMC機能を拡張し、従来のIMCおよびIMSによって提供されるものよりも高い解像度の画像を得る機会を提供する。
【0470】
さらに、電子顕微鏡に適した様式で生体試料を調製することは、一般に、ホルマリン固定パラフィン包埋(FFPE;上記で説明)とは対照的に、樹脂中で試料を調製することを含む。FFPEに基づく試料は、乾燥時にずれたり汚れたりし、画像解像度が低下する可能性がある。一方、標本中の樹脂はアブレーションの均一性を促進し、解像度をさらに向上させる。
【0471】
さらに、電子顕微鏡に適した様式で生物学的製剤を調製することは、一般に、例えば40ページに記載されているように、試料を薄い試料に切片化することを含む。したがって、本発明は、分析のための生体試料を調製する方法であって、最初に試料を薄片に切片化することを含み、場合により、10マイクロメートル未満、例えば、1マイクロメートル以下、または100nm以下、または30nm以下の厚さの切片に試料を切片化する方法を提供する。
【0472】
本発明のいくつかの実施形態では、標識原子は、金標識抗体およびランタニド標識抗体のうちの少なくとも1つを含む。
【0473】
上記の方法に従って調製された試料は、本明細書に記載のIMCおよびIMS技術のいずれかとともに使用することができる。したがって、本発明は、生体試料を分析する方法であって、
レーザ源から放出された放射線ビームを試料上の位置に向けて導いて、試料材料のアブレーションされたプルームを生成すること、
試料材料のアブレーションされたプルームをイオン化すること、および
試料材料から試料イオンを検出することを含み、
場合により、本発明の方法が、最初に電子顕微鏡法を行うことを含む方法を提供する。いくつかの実施形態では、イオンは、TOF MSによって検出される。いくつかの実施形態では、試料材料は、ICPによってイオン化される。
【0474】
本明細書でさらに説明されるように、生体細胞の厚さの単層の画像を再構築するため、またはさらに厚い標本を層ごとに読み取り3D画像を生成するために、試料は、好ましくは、100マイクロメートル以下、例えば、10マイクロメートル以下、または100nm以下、または50nm以下、または30nm以下の厚さを有する。本明細書でさらに詳細に説明されるいくつかの実施形態では、浸漬媒体は、浸漬レンズと呼ばれる。本発明はまた、イメージングマスサイトメトリー法での100nm以下の厚さを有する生体試料の使用を提供する。本発明はまた、電子顕微鏡法でのランタニドおよび/またはアクチニド原子により標識された生体試料の使用を提供する。
【0475】
本発明はまた、試料に対して電子顕微鏡法(透過型電子顕微鏡法など)を行うこと、および次いで試料に対してIMCを行うことを含む、生体試料を分析する方法を提供する。いくつかの実施形態では、本発明は、
a)試料に対して透過型電子顕微鏡方法を行ってEM画像を生成する工程、
b)試料上の1つ以上の位置から材料をサンプリングおよびイオン化する工程であって、試料上の各位置にレーザ放射線を導いて、各位置から試料材料のプルームを生成する工程を含む工程、
c)試料材料のプルーム中のイオンを検出し、それによって、プルーム中のイオンの検出により、試料の元素画像の構築を可能にする工程を含む、生体試料を分析する方法を提供する。
【0476】
この方法は、場合によっては、EM画像と元素画像とを重ね合わせる工程をさらに含む。いくつかの実施形態では、位置は既知の位置である。
【0477】
いくつかの実施形態では、本発明は、
a)EM用造影剤により生体試料を染色し、標識原子により組織試料中の1つ以上の標的分子を標識して、染色および標識された試料を提供する工程、
b)染色および標識された試料に対して透過型電子顕微鏡法を行って、EM画像を生成する工程、
c)染色および標識された試料上の1つ以上の既知の位置から材料をサンプリングおよびイオン化する工程であって、試料上の各既知の位置にレーザ放射線を導いて、各既知の位置から試料材料のプルームを生成する工程を含む工程、
d)試料材料のプルーム中のイオンを検出し、それによって、プルーム中の標識原子のイオンの検出により、試料の元素画像の構築を可能にする工程を含む、生体試料を分析する方法を提供する。
【0478】
この方法は、場合によっては、EM画像と元素画像とを重ね合わせる工程をさらに含む。いくつかの実施形態では、レーザ放射線は、材料をサンプリングし、それをイオン化する。いくつかの実施形態では、検出のためにイオンを生成するためのイオン化は、ICPによるサンプリングとは別個に行われる。
【0479】
質量タグ付き試薬
本明細書で使用される質量タグ付き試薬は、いくつかの成分を含む。1つ目はSBPである。2つ目は質量タグである。質量タグとSBPとは、質量タグとSBPとのコンジュゲーションによって少なくとも部分的に形成されたリンカーによって結合される。SBPと質量タグとの間の結合はまた、スペーサーを含み得る。質量タグとSBPとは、様々な反応化学によってコンジュゲートされ得る。例示的なコンジュゲーション反応化学には、チオールマレイミド、NHSエステルおよびアミン、またはクリックケミストリー反応性(好ましくはCu(I)を含まない化学)、例えば、歪みアルキンおよびアジド、歪みアルキンおよびニトロン、ならびに歪みアルケンおよびテトラジンが含まれる。
【0480】
質量タグ
本発明で使用される質量タグは、いくつかの形態をとることができる。典型的には、タグは少なくとも1つの標識原子を含む。標識原子については、本明細書で以下に説明する。
【0481】
したがって、その最も単純な形態では、質量タグは、配位子に配位した金属標識原子を有する金属キレート基である金属キレート部分を含み得る。場合によっては、1質量タグ当たり1つの金属原子のみを検出すれば十分であり得る。ただし、他の場合には、各質量タグが複数の標識原子を含有することが望ましい場合がある。これは、以下に説明されるように、いくつかの方法で達成することができる。
【0482】
複数の標識原子を含有することができる質量タグを生成するための第1の手段は、ポリマーの複数のサブユニットに結合した金属キレート配位子を含むポリマーの使用である。ポリマー中の少なくとも1つの金属原子を結合することができる金属キレート基の数は、約1~10,000、例えば、5~100、10~250、250~5,000、500~2,500または500~1,000であり得る。少なくとも1つの金属原子は、金属キレート基のうちの少なくとも1つに結合することができる。ポリマーは、約1~10,000、例えば、5~100、10~250、250~5,000、500~2,500または500~1,000の重合度を有することができる。したがって、ポリマーに基づく質量タグは、約1~10,000、例えば、5~100、10~250、250~5,000、500~2,500または500~1,000の標識原子を含むことができる。
【0483】
ポリマーは、線状ポリマー、コポリマー、分岐ポリマー、グラフトコポリマー、ブロックポリマー、スターポリマーおよびハイパーブランチポリマーからなる群から選択することができる。ポリマーの骨格は、置換ポリアクリルアミド、ポリメタクリレートまたはポリメタクリルアミドから誘導することができ、アクリルアミド、メタクリルアミド、アクリレートエステル、メタクリレートエステル、アクリル酸またはメタクリル酸のホモポリマーまたはコポリマーの置換誘導体であり得る。ポリマーは、可逆的付加開裂重合(reversible addition fragmentation polymerization)(RAFT)、原子移動ラジカル重合(ATRP)およびアニオン重合からなる群から合成することができる。ポリマーを提供する工程は、N-アルキルアクリルアミド、N,N-ジアルキルアクリルアミド、N-アリールアクリルアミド、N-アルキルメタクリルアミド、N,N-ジアルキルメタクリルアミド、N-アリールメタクリルアミド、メタクリレートエステル、アクリレートエステルおよびそれらの機能的同等物からなる群から選択される化合物からのポリマーの合成を含み得る。
【0484】
ポリマーは水溶性であり得る。この部分は、化学的含有量によって限定されない。ただし、骨格が比較的再現可能なサイズ(例えば、長さ、タグ原子の数、再現可能なデンドリマー特性など)を有する場合、分析が簡単になる。安定性、溶解性および非毒性の要件も考慮される。したがって、骨格に沿って多くの官能基を配置することに加えて、リンカーおよび場合によりスペーサーを介して、ポリマーを分子(例えばSBP)に結合するために使用することができる異なる反応性基(連結基)を配置する合成戦略による機能性水溶性ポリマーの調製および特性評価。ポリマーのサイズは、重合反応を制御することによって制御可能である。典型的には、ポリマーのサイズは、ポリマーの回転半径が、2~11ナノメートルなど、可能な限り小さくなるように選択される。例示的なSBPであるIgG抗体の長さは約10ナノメートルであり、したがって、SBPのサイズに対して過度に大きいポリマータグは、その標的に対するSBPの結合を立体的に妨害する可能性がある。
【0485】
少なくとも1つの金属原子を結合することができる金属キレート基は、少なくとも4つの酢酸基を含むことができる。例えば、金属キレート基は、ジエチレントリアミンペンタアセテート(DTPA)基または1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1,4,7,10-四酢酸(DOTA)基であり得る。代替的な基には、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)およびエチレングリコール-ビス(β-アミノエチルエーテル)-N,N,N’,N’-四酢酸(EGTA)が含まれる。
【0486】
金属キレート基は、エステルまたはアミドを介してポリマーに結合することができる。好適な金属キレートポリマーの例には、Fluidigm Canada,Inc.から入手可能なX8およびDM3ポリマーが挙げられる。
【0487】
ポリマーは水溶性であり得る。それらの加水分解安定性のために、N-アルキルアクリルアミド、N-アルキルメタクリルアミドおよびメタクリレートエステルまたは機能的同等物を使用することができる。約1~1000(1~2000の骨格原子)の重合度(DP)は、目的のポリマーのほとんどを包含する。同じ官能性を有するさらに大きなポリマーは、本発明の範囲内であり、当業者によって理解されるように可能である。典型的には、重合度は、1~10,000、例えば、5~100、10~250、250~5,000、500~2,500または500~1,000である。ポリマーは、比較的狭い多分散性をもたらす経路による合成に適している場合がある。ポリマーは、原子移動ラジカル重合(ATRP)または可逆的付加開裂(RAFT)重合によって合成され得、これにより、1.1~1.2の範囲のMw(重量平均分子量)/Mn(数平均分子量)の値がもたらされるはずである。Mw/Mnが約1.02~1.05のポリマーが得られる、アニオン重合を含む代替戦略。いずれの方法でも、開始剤または停止剤を選択することにより、末端基を制御することが可能である。これにより、リンカーが結合され得るポリマーを合成することができる。後の工程で配位子結合した(liganded)遷移金属ユニット(例えばLnユニット)が結合され得る反復単位中に官能性ペンダント基を含有するポリマーを調製する戦略を採用することができる。この実施形態は、いくつかの利点を有する。この実施形態は、配位子含有モノマーの重合を行うことから生じる可能性のある複雑さを回避する。
【0488】
ペンダント基間の電荷反発を最小限に抑えるために、(M3+)の標的配位子は、キレートに対して-1の正味電荷を付与するべきである。
【0489】
本発明で使用されるポリマーには、以下が含まれる:
・ランダムコポリマーポリ(DMA-co-NAS):RAFTによる、高い重合率、5000~130,000の範囲の優れたモル質量制御、およびMw/Mn約1.1を有する75/25モル比のN-アクリロキシスクシンイミド(NAS)とN,N-ジメチルアクリルアミド(DMA)とのランダムコポリマーの合成が、Relogioら(2004)(Polymer,45,8639-49)に報告されている。活性NHSエステルと、反応性アミノ基を有する金属キレート基とを反応させて、RAFT重合により合成された金属キレートコポリマーを得る。
【0490】
・ポリ(NMAS):NMASは、12~40KDaの範囲の平均モル質量を有し、約1.1のMw/Mnを有するポリマーを得るATRPによって重合することができる(例えば、Godwinら、2001;Angew.Chem.Int.Ed,40:594-97を参照)。
【0491】
・ポリ(MAA):ポリメタクリル酸(PMAA)は、そのt-ブチルまたはトリメチルシリル(TMS)エステルのアニオン重合によって調製することができる。
【0492】
・ポリ(DMAEMA):ポリ(ジメチルアミノエチルメタクリレート)(PDMAEMA)は、ATRPによって調製することができる(Wangら、2004,J.Am.Chem.Soc,126,7784-85を参照)。これは、2~35KDaの範囲の平均Mn値を有し、約1.2のMw/Mnを有する簡便に調製される周知のポリマーである。このポリマーは、さらに狭いサイズ分布を有するアニオン重合によっても合成することができる。
【0493】
・ポリアクリルアミドまたはポリメタクリルアミド。
【0494】
金属キレート基は、当業者に公知の方法によってポリマーに結合することができ、例えば、ペンダント基は、エステルまたはアミドを介して結合され得る。例えば、メチルアクリレートに基づくポリマーに対して、最初にポリマーとエチレンジアミンのメタノール溶液とを反応させ、続いてカーボネート緩衝液中でアルカリ性条件下でDTPA無水物を反応させることによって、ポリマー骨格に金属キレート基を結合させることができる。
【0495】
第2の手段は、質量タグとして機能し得るナノ粒子を生成することである。そのような質量タグを生成するための第1の経路は、ポリマーでコーティングされた金属のナノスケール粒子の使用である。ここで、金属は、ポリマーによって環境から隔離および保護され、例えば、ポリマーシェルに組み込まれた官能基によってポリマーシェルを反応させることができても、反応しない。官能基をリンカー成分(場合によりスペーサーを組み込んでいる)と反応させて、クリックケミストリー試薬を結合させることができるため、このタイプの質量タグを簡単なモジュラー様式で上記の合成戦略に組み込むことができる。
【0496】
グラフティングトゥーおよびグラフティングフロムは、ナノ粒子の周りにポリマーブラシを生成するための2つの主要な機構である。グラフティングトゥーでは、ポリマーは別個に合成されるため、合成はナノ粒子をコロイド的に安定に保つ必要性によって制約されない。ここで、可逆的付加開裂連鎖移動(RAFT)合成は、多種多様なモノマーおよび容易な官能化のために優れている。連鎖移動剤(CTA)は、官能基自体として容易に使用することができ、官能化されたCTAを使用することができるか、ポリマー鎖を後官能化することができる。化学反応または物理吸着を使用して、ポリマーをナノ粒子に結合する。グラフティングトゥーの1つの欠点は、粒子表面への結合中のコイル状ポリマー鎖の立体反発による通常比較的低いグラフト密度である。グラフティングトゥーはいずれも、官能化されたナノ複合体粒子から過剰の遊離配位子を除去するために厳密な後処理が必要であるという欠点の影響を受ける。これは、典型的には、選択的沈殿および遠心分離によって達成される。グラフティングフロムアプローチでは、原子移動ラジカル重合(ATRP)のための開始剤または(RAFT)重合のためのCTAのような分子が粒子表面に固定化される。この方法の欠点には、新たな開始剤カップリング反応の開発がある。さらに、グラフティングトゥーとは反対に、粒子は重合条件下でコロイド的に安定でなければならない。
【0497】
質量タグを生成する追加の手段は、ドープされたビーズの使用によるものである。キレート化されたランタニド(または他の金属)イオンをミニエマルジョン重合に使用して、キレート化されたランタニドイオンがポリマー中に埋め込まれたポリマー粒子を作成することができる。キレート基は、当業者に知られているように、金属キレートが水への無視できる溶解性を有するが、ミニエマルジョン重合のためのモノマーへの妥当な溶解性を有するように選択される。当業者に知られているように、使用することができる典型的なモノマーは、とりわけ、スチレン、メチルスチレン、様々なアクリレートおよびメタクリレートである。機械的堅牢性のために、金属タグ付き粒子は、室温を超えるガラス転移温度(Tg)を有する。場合によっては、ミニエマルジョン重合によって調製された金属含有粒子が、表面官能性の性質を制御するためのシード乳化重合のためのシード粒子として使用されるコアシェル粒子が使用される。この第二段階重合のための適切なモノマーの選択により、表面官能性を導入することができる。さらに、アクリレート(および可能なメタクリレート)ポリマーは、エステル基がランタニド錯体上の満たされていない配位子部位に結合するか、それを安定化することができるため、ポリスチレン粒子よりも有利である。そのようなドープされたビーズを作製するための例示的な方法は、(a)少なくとも1つの標識原子含有錯体が可溶である少なくとも1つの有機モノマー(一実施形態では、スチレンおよび/またはメタクリル酸メチルなど)と、上記有機モノマーおよび上記少なくとも1つの標識原子含有錯体があまり可溶性でない少なくとも1つの異なる溶媒とを含む溶媒混合物中に、少なくとも1つの標識原子含有錯体を組み合わせること、(b)均一なエマルジョンを提供するのに十分な時間にわたり、工程(a)の混合物を乳化すること、(c)重合を開始し、モノマーのかなりの部分がポリマーに転化されるまで反応を続けること、ならびに(d)ポリマー粒子のラテックス懸濁液を得るのに十分な時間にわたり、粒子中にまたは粒子上に組み込まれた少なくとも1つの標識原子含有錯体とともに、工程(c)の生成物をインキュベートすることを含み、上記少なくとも1つの標識原子含有錯体は、ポリマー質量タグの調査時に、上記少なくとも1つの標識原子から明確な質量信号が得られるように選択される。異なる標識原子を含む2つ以上の錯体を使用することにより、2つ以上の異なる標識原子を含むドープされたビーズを作製することができる。さらに、異なる標識原子を含む錯体の比率を制御することにより、異なる比率の標識原子を有するドープされたビーズの作製が可能になる。異なる比率で複数の標識原子を使用することにより、明確に識別可能な質量タグの数が増加する。コアシェルビーズでは、これは、第1の標識原子含有錯体をコアに組み込み、第2の標識原子含有錯体をシェルに組み込むことによって達成され得る。
【0498】
さらに別の手段には、配位金属配位子としてではなく、ポリマーの骨格に標識原子を含むポリマーの生成がある。例えば、CarerraおよびSeferos(Macromolecules 2015,48,297-308)は、ポリマーの骨格にテルルを含めることを開示している。標識原子として機能することができる原子を組み込んだ他のポリマー、スズを組み込んだポリマー、アンチモンを組み込んだポリマーおよびビスマスを組み込んだポリマー。そのような分子は、とりわけ、Priegertら、2016(Chem.Soc.Rev.,45,922-953)で説明されている。
【0499】
したがって、質量タグは、少なくとも2つの成分、すなわち、標識原子、および標識原子をキレート化するか、標識原子を含有するか、標識原子をドープしたポリマーを含むことができる。さらに、質量タグは、上記の説明と一致するクリックケミストリー反応では、2つの成分の反応に続く質量タグとSBPとの間の化学結合の一部を形成する結合基(SBPにコンジュゲートしていない場合)を含む。
【0500】
例えば、ドープされたビーズまたはナノ粒子にSBPを結合するための追加の方法として、ポリドーパミンコーティングを使用することができる。ポリドーパミンにおける官能性の範囲を考慮すると、例えば、抗体などのSBP上のアミン基またはスルヒドリル基の反応によって、PDAによりコーティングされたビーズまたは粒子から形成された質量タグにSBPをコンジュゲートすることができる。あるいは、PDA上の官能性は、SBPとの反応のために順次追加の官能基を導入する二官能性リンカーなどの試薬と反応させることができる。場合によっては、リンカーは、以下に説明されるように、スペーサーを含有することができる。これらのスペーサーは、質量タグとSBPとの間の距離を増加させ、SBPの立体障害を最小限に抑える。したがって、本発明は、SBPを含む質量タグ付きSBPと、ポリドーパミンを含む質量タグとを含み、ポリドーパミンは、SBPと質量タグとの間の結合の少なくとも一部を含む。ナノ粒子およびビーズ、特にポリドーパミンによりコーティングされたナノ粒子およびビーズは、数千の金属原子を有することができ、同じアフィニティー試薬の複数のコピーを有し得るため、存在量の少ない標的を検出するための信号増強に有用であり得る。アフィニティー試薬は、信号をさらに高め得る二次抗体であり得る。
【0501】
標識原子
本開示とともに使用され得る標識原子には、MSまたはOESによって検出可能であり、標識されていない組織試料には実質的に存在しない任意の種が含まれる。したがって、例えば、12C原子は自然界に豊富に存在するため標識原子としては適していないが、11Cは自然界には存在しない人工同位体であるため、理論的にはMSに使用され得る。多くの場合、標識原子は金属である。ただし、好ましい実施形態では、標識原子は、希土類金属(15個のランタニドに加えてスカンジウムおよびイットリウム)などの遷移金属である。これらの17の元素(OESおよびMSにより区別することができる)は、(MSにより)容易に区別することができる多くの異なる同位体を提供する。これらの多種多様な元素は、濃縮同位体の形態で入手可能であり、例えば、サマリウムは6つの安定同位体を有し、ネオジムは7つの安定同位体を有し、これらはいずれも濃縮形態で入手可能である。15のランタニド元素は、非重複的に固有の質量を有する少なくとも37の同位体を提供する。標識原子として使用するのに適した元素の例には、ランタン(La)、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、プロメチウム(Pm)、サマリウム(Sm)、ユーロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、ルテチウム(Lu)、スカンジウム(Sc)およびイットリウム(Y)が挙げられる。希土類金属に加えて、例えば、金(Au)、白金(Pt)、イリジウム(Ir)、ロジウム(Rh)、ビスマス(Bi)などの他の金属原子が検出に適している。放射性同位体の使用は、取扱いがあまり便利でなく不安定であるため好ましくなく、例えば、Pmはランタニドの中で好ましい標識原子ではない。
【0502】
飛行時間(TOF)分析(本明細書で説明される)を容易にするために、80~250の範囲内、例えば、80~210の範囲内または100~200の範囲内の原子質量を有する標識原子を使用することが有用である。この範囲にはあらゆるランタニドが含まれるが、ScおよびYは含まれない。100~200の範囲は、TOF MSの高いスペクトル走査速度を利用しながら、様々な標識原子を使用した理論的101プレックス分析を可能にする。上述したように、非標識試料に見られる質量よりも上のウィンドウに質量がある標識原子(例えば、100~200の範囲内)を選択することによって、TOF検出を使用して、生物学的に有意なレベルで迅速なイメージングを提供することができる。
【0503】
使用される質量タグ(ならびに1質量タグ当たりの標識原子の数および各SBPに結合される質量タグの数)に応じて、単一のSBPメンバーに様々な数の標識原子を結合することができる。多くの標識原子を任意のSBPメンバーに結合させると、さらに高い感度を達成することができる。例えば、最大10,000、例えば、5~100、10~250、250~5,000、500~2,500または500~1,000の標識原子など、10、20、30、40、50、60、70、80、90または100を超える標識原子をSBPメンバーに結合することができる。上述したように、複数のモノマー単位を含有し、各々がジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)またはDOTAなどのキレート剤を含有する単分散ポリマーが使用され得る。例えば、DTPAは、約10-6Mの解離定数で3+ランタニドイオンに結合する。これらのポリマーは、マレイミドとの反応を介してSBPに結合させるために使用され得るチオールで終端して、上述したものと一致するクリックケミストリー反応性を結合させることができる。N-ヒドロキシスクシンイミドエステルなどのアミン反応性基、またはカルボキシルに対して、もしくは抗体のグリコシル化に対して反応性の基などの他の官能基もこれらのポリマーのコンジュゲーションに使用することができる。任意の数のポリマーが各SBPに結合し得る。使用され得るポリマーの具体例には、直鎖(「X8」)ポリマーまたは第3世代樹状(「DN3」)ポリマーが挙げられ、いずれもMaxPar(商標)試薬として入手可能である。また、金属ナノ粒子の使用は、上述したように、標識中の原子数を増加させるために使用することができる。
【0504】
いくつかの実施形態では、質量タグ中の標識原子はいずれも、同じ原子質量のものである。あるいは、質量タグは、異なる原子質量の標識原子を含むことができる。したがって、場合によっては、標識された試料は、それぞれが単一のタイプの標識原子のみを含む一連の質量タグ付きSBPにより標識され得る(各SBPはその同種の標的に結合するため、各種類の質量タグは、特異的な(例えば)抗原に対して試料上に局在化される)。あるいは、場合によっては、標識された試料は、それぞれが標識原子の混合物を含む一連の質量タグ付きSBPにより標識され得る。場合によっては、試料を標識するために使用される質量タグ付きSBPは、単一の標識原子質量タグを有するものの混合物と、それらの質量タグ中の標識原子の混合物とを含み得る。
【0505】
スペーサー
上述したように、場合によっては、SBPは、スペーサーを含むリンカーを介して質量タグにコンジュゲートされる。SBPとクリックケミストリー試薬との間に(例えば、SBPと歪みシクロアルキン(またはアジド);歪みシクロアルケン(またはテトラジン);などとの間に)スペーサーが存在し得る。質量タグとクリックケミストリー試薬との間に(例えば、質量タグとアジド(または歪みシクロアルキン);テトラジン(または歪みシクロアルケン);などとの間に)にスペーサーが存在し得る。場合によっては、SNPとクリックケミストリー試薬との間、およびクリックケミストリー試薬と質量タグとの間の両方にスペーサーが存在し得る。
【0506】
スペーサーは、ポリエチレングリコール(PEG)スペーサー、ポリ(N-ビニルピロリド)(PVP)スペーサー、ポリグリセロール(PG)スペーサー、ポリ(N-(2-ヒドロキシルプロピル)メタクリルアミド)スペーサー、またはポリオキサゾリン(POZ、ポリメチルオキサゾリン、ポリエチルオキサゾリンまたはポリプロピルオキサゾリンなど)もしくはC5-C20非環状アルキルスペーサーであり得る。例えば、スペーサーは、3以上、4以上、5以上、6以上、7以上、8以上、9以上、10以上、11以上、12以上、15以上、または20以上のEG(エチレングリコール)単位を有するPEGスペーサーであってよい。PEGリンカーは、3~12のEG単位、4~10を有し得るか、4、5、6、7、8、9または10のEG単位を有し得る。リンカーは、シスタミンまたはその誘導体を含み得るか、1つ以上のジスルフィド基を含み得るか、当業者に公知の任意の他の好適なリンカーであり得る。
【0507】
スペーサーは、コンジュゲートされるSBPに対する質量タグの立体効果を最小限に抑えるために有益であり得る。親水性スペーサー、例えば、PEGに基づくスペーサーもまた、質量タグ付きSBPの溶解性を改善するように機能し、凝集を防ぐように機能し得る。
【0508】
SBP
イメージングマスサイトメトリーを含むマスサイトメトリーは、特異的結合対のメンバー間の特異的結合の原理に基づく。質量タグは、特異的結合対メンバーに結合し、これにより、質量タグが、対の他方のメンバーである標的/分析物に局在化される。ただし、特異的結合は、1つの分子種だけに結合して他の分子種を排除する必要はない。むしろ、結合は非特異的ではなく、すなわち、ランダムな相互作用ではないと定義している。したがって、複数の標的に結合するSBPの例は、多くの異なるタンパク質間で共通のエピトープを認識する抗体である。ここで、結合は特異的であり、抗体のCDRによって媒介されるが、複数の異なるタンパク質が抗体によって検出される。共通のエピトープは天然に存在し得るか、FLAGタグなどの人工タグであり得る。同様に、核酸の場合、定義された配列の核酸は、完全に相補的な配列に排他的に結合しない可能性があるが、当業者によって理解されるように、異なるストリンジェンシーのハイブリダイゼーションの条件を使用すると、ミスマッチの様々な許容度を導入することができる。それにもかかわらず、このハイブリダイゼーションは、SBP核酸と標的分析物との間の相同性によって媒介されるため、非特異的ではない。同様に、リガンドは、複数の受容体に特異的に結合することができ、簡単な例は、TNFR1およびTNFR2の両方に結合するTNFαである。
【0509】
SBPは、核酸二本鎖;抗体/抗原複合体;受容体/リガンド対;またはアプタマー/標的対のいずれかを含み得る。したがって、核酸プローブに標識原子を結合させることができ、次いで、これを組織試料と接触させ、その結果、プローブがその中の相補的核酸にハイブリダイズして、例えば、DNA/DNA二本鎖、DNA/RNA二本鎖またはRNA/RNA二本鎖を形成することができる。同様に、抗体に標識原子を結合させることができ、次いで、これを組織試料と接触させ、その結果、それをその抗原に結合させることができる。リガンドに標識原子を結合させることができ、次いで、これを組織試料と接触させ、その結果、それをその受容体に結合させることができる。アプタマーリガンドに標識原子を結合させ、次いで、これを組織試料と接触させ、その結果、それをその標的に結合させることができる。したがって、標識されたSBPメンバーは、DNA配列、RNA配列、タンパク質、糖、脂質または代謝物を含め、試料中の様々な標的を検出するために使用することができる。
【0510】
したがって、質量タグ付きSBPは、タンパク質もしくはペプチド、またはポリヌクレオチドもしくはオリゴヌクレオチドであり得る。
【0511】
タンパク質SBPの例には、抗体もしくはその抗原結合断片、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、二重特異性抗体、多重特異性抗体、抗体融合タンパク質、scFv、抗体模倣物、アビジン、ストレプトアビジン、ニュートラビジン、ビオチンまたはそれらの組合せが挙げられ、場合により、抗体模倣物は、ナノボディ、アフィボディ、アフィリン、アフィマー、アフィチン、アルファボディ、アンチカリン、アビマー、DARPin、フィノマー、クニッツドメインペプチド、モノボディまたはそれらの任意の組合せ、受容体、例えば、受容体-Fc融合物、リガンド、例えば、リガンド-Fc融合物、レクチン、例えば、アグルチニン、例えば、小麦胚芽アグルチニンを含む。
【0512】
ペプチドは、線状ペプチド、または環状ペプチド、例えば、二環式ペプチドであり得る。使用され得るペプチドの一例はファロイジンである。
【0513】
ポリヌクレオチドまたはオリゴヌクレオチドとは、一般に、3’-5’ホスホジエステル結合によって結合されたデオキシリボヌクレオチドまたはリボヌクレオチドを含むヌクレオチドの一本鎖または二本鎖ポリマー、およびポリヌクレオチド類似体を指す。核酸分子には、限定するものではないが、DNA、RNAおよびcDNAが含まれる。ポリヌクレオチド類似体は、天然のポリヌクレオチドに見られる標準的なホスホジエステル結合以外の骨格と、場合により、修飾された糖部分またはリボースもしくはデオキシリボース以外の部分とを有し得る。ポリヌクレオチド類似体は、標準的なポリヌクレオチド塩基へのワトソン-クリック塩基対形成による水素結合が可能な塩基を含有し、類似体骨格は、オリゴヌクレオチド類似体分子と標準的なポリヌクレオチドの塩基との間に配列特異的な様式でそのような水素結合を可能にする方法で塩基を提示する。ポリヌクレオチド類似体の例には、限定するものではないが、ゼノ核酸(XNA)、架橋核酸(BNA)、グリコール核酸(GNA)、ペプチド核酸(PNA)、yPNA、モルホリノポリヌクレオチド、ロックド核酸(LNA)、トレオース核酸(TNA)、2’-0-メチルポリヌクレオチド、2’-0-アルキルリボシル置換ポリヌクレオチド、ホスホロチオエートポリヌクレオチドおよびボロノホスフェートポリヌクレオチドが挙げられる。ポリヌクレオチド類似体は、例えば、7-デアザプリン類似体、8-ハロプリン類似体、5-ハロピリミジン類似体、またはヒポキサンチン、ニトロアゾール、イソカルボスチリル類似体、アゾールカルボキサミドおよび芳香族トリアゾール類似体を含む任意の塩基と対になることができる普遍的な塩基類似体、もしくは親和性結合のためのビオチン部分などの追加の官能性を有する塩基類似体を含むプリンまたはピリミジン類似体を有し得る。
【0514】
抗体SBPメンバー
典型的な実施形態では、標識されたSBPメンバーは抗体である。抗体の標識は、例えば、NHS-アミン化学、スルフヒドリル-マレイミド化学、またはクリックケミストリー(例えば、歪みアルキンおよびアジド、歪みアルキンおよびニトロン、歪みアルケンおよびテトラジンなど)を使用した質量タグの結合により、抗体に対する1つ以上の標識原子結合分子のコンジュゲーションを介して達成され得る。イメージングに有用な細胞タンパク質を認識する抗体は、IHCの使用のために既に広く利用可能であるほか、これらの公知の抗体は、現在の標識技術(例えば蛍光)の代わりに標識原子を使用することによって、本明細書に開示されている方法に使用するのに容易に適合させることができるだけでなく、多重化能力を増大させるという利点を有する。抗体は、細胞表面上の標的または細胞内の標的を認識することができる。抗体は、様々な標的を認識することができ、例えば、個々のタンパク質を特異的に認識することができるか、共通のエピトープを共有する複数の関連タンパク質を認識することができるか、タンパク質上の特異的な翻訳後修飾を認識することができる(例えば、目的のタンパク質上のチロシンとリンチロシン(phosphor-tyrosine)とを区別するため、リシンとアセチルリシンとを区別するため、ユビキチン化を検出するためなど)。その標的に結合した後、抗体にコンジュゲートした標識原子を検出して、試料中のその標的の位置を明らかにすることができる。
【0515】
標識されたSBPメンバーは、通常、試料中の標的SBPメンバーと直接相互作用する。ただし、いくつかの実施形態では、標識されたSBPメンバーが標的SBPメンバーと間接的に相互作用することが可能であり、例えば、サンドイッチアッセイの様式では、一次抗体が標的SBPメンバーに結合し得、次いで、標識された二次抗体が一次抗体に結合し得る。ただし、通常、この方法は、さらに容易に達成され、さらに高度な多重化を可能にすることができるため、直接相互作用に依存する。もっとも、いずれの場合も、試料は、試料中の標的SBPメンバーに結合することができるSBPメンバーと接触し、後の段階で、標的SBPメンバーに結合した標識が検出される。
【0516】
核酸SBP、および標識方法の改変
RNAは、本明細書に開示される方法および装置が、特異的で、高感度で、所望であれば定量的な方法で検出することができる別の生体分子である。タンパク質の分析について上述したのと同様に、RNAは、RNAに特異的に結合する元素タグにより標識されたSBPメンバー(例えば、相補的配列のロックド核酸(LNA)分子、相補的配列のペプチド核酸(PNA)分子、相補的配列のプラスミドDNA、相補的配列の増幅DNA、相補的配列のRNA断片、および相補的配列のゲノムDNA断片を含む、上記の相補的配列のポリヌクレオチドまたはオリゴヌクレオチド)を使用して検出することができる。RNAには、成熟mRNAだけでなく、RNAプロセシング中間体および新生プレmRNA(nascent pre-mRNA)転写物も含まれる。
【0517】
特定の実施形態では、RNAおよびタンパク質はともに、本願発明の方法を使用して検出される。
【0518】
RNAを検出するために、本明細書で説明される生体試料中の細胞は、本明細書に記載の方法および装置を使用して、RNAおよびタンパク質含有量の分析のために調製され得る。特定の態様では、細胞は、ハイブリダイゼーション工程の前に固定され、透過処理される。細胞は、固定および/または透過処理されたものとして提供され得る。細胞は、ホルムアルデヒド、グルタルアルデヒドなどの架橋固定剤によって固定され得る。あるいは、またはさらに、細胞は、エタノール、メタノールまたはアセトンなどの沈殿固定剤を使用して固定され得る。細胞は、界面活性剤、例えば、ポリエチレングリコール(例えばTriton X-100など)、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレート(Tween-20)、サポニン(両親媒性配糖体の群)、または化学物質、例えば、メタノールもしくはアセトンによって透過処理され得る。特定の場合では、固定および透過処理は、同じ試薬、または試薬のセットを用いて行われ得る。固定および透過処理技術については、「Permeabilization of Cell Membranes」(Methods Mol.Biol.,2010)中でJamurらによって説明されている。
【0519】
細胞内の標的核酸の検出、または「インサイチュハイブリダイゼーション」(ISH)は、以前はフルオロフォアタグ付きオリゴヌクレオチドプローブを使用して行われていた。本明細書で説明されるように、イオン化および質量分析と組み合わせた質量タグ付きオリゴヌクレオチドを使用して、細胞内の標的核酸を検出することができる。インサイチュハイブリダイゼーションの方法は当技術分野で公知である(Zenobiら「Single-Cell Metabolomics:Analytical and Biological Perspectives」、Science vol.342,no.6163,2013を参照)。ハイブリダイゼーションプロトコルはまた、参照により本明細書に組み込まれる米国特許第5,225,326号明細書ならびに米国特許公開第2010/0092972号明細書および米国特許公開第2013/0164750号明細書に記載されている。
【0520】
ハイブリダイゼーションの前に、懸濁状態で存在するか、固体支持体上に固定化された細胞を、前述のように固定および透過処理してもよい。透過処理は、標的ハイブリダイゼーションヌクレオチド、増幅オリゴヌクレオチドおよび/または質量タグ付きオリゴヌクレオチドが細胞に入るのを可能にしながら、細胞が標的核酸を保持することを可能にし得る。細胞は、任意のハイブリダイゼーション工程の後、例えば、核酸標的への標的ハイブリダイゼーションオリゴヌクレオチドのハイブリダイゼーション後、増幅オリゴヌクレオチドのハイブリダイゼーション後および/または質量タグ付きオリゴヌクレオチドのハイブリダイゼーション後に洗浄され得る。
【0521】
取扱いを容易にするために、方法の全部またはほとんどの工程では、細胞を懸濁状態にすることができる。ただし、この方法は、固体組織試料(例えば組織切片)中の細胞および/または固体支持体(例えばスライドまたは他の表面)上に固定化された細胞にも適用可能である。したがって、場合によっては、細胞は、試料中に、およびハイブリダイゼーション工程中に懸濁状態であり得る。細胞は、ハイブリダイゼーション中に固体支持体上に固定化される場合もある。
【0522】
標的核酸には、目的の任意の核酸であって、本方法によって検出される、細胞内に十分に存在する任意の核酸が含まれる。標的核酸は、細胞内に複数のコピーが存在するRNAであり得る。例えば、標的RNAの10以上、20以上、50以上、100以上、200以上、500以上または1000以上のコピーが細胞内に存在し得る。標的RNAは、メッセンジャーRNA(mRNA)、リボソームRNA(rRNA)、転移RNA(tRNA)、核内低分子RNA(snRNA)、低分子干渉RNA(siRNA)、長鎖ノンコーディングRNA(IncRNA)、または当技術分野で公知の任意の他のタイプのRNAであり得る。標的RNAは、長さが20ヌクレオチド以上、30ヌクレオチド以上、40ヌクレオチド以上、50ヌクレオチド以上、100ヌクレオチド以上、200ヌクレオチド以上、500ヌクレオチド以上、1000ヌクレオチド以上、20~1000ヌクレオチド、20~500ヌクレオチド、長さが40~200ヌクレオチドなどであり得る。
【0523】
特定の実施形態では、質量タグ付きオリゴヌクレオチドは、標的核酸配列に直接ハイブリダイズされ得る。ただし、追加のオリゴヌクレオチドのハイブリダイゼーションは、特異性および/または信号増幅の改善を可能にし得る。
【0524】
特定の実施形態では、2つ以上の標的ハイブリダイゼーションオリゴヌクレオチドは、標的核酸上の近位領域にハイブリダイズされ得、ハイブリダイゼーションスキームにおける追加のオリゴヌクレオチドのハイブリダイゼーションのための部位をともに提供し得る。
【0525】
特定の実施形態では、質量タグ付きオリゴヌクレオチドは、2つ以上の標的ハイブリダイゼーションオリゴヌクレオチドに直接ハイブリダイズされ得る。他の実施形態では、1つ以上の増幅オリゴヌクレオチドを同時にまたは連続して加えて、2つ以上の標的ハイブリダイゼーションオリゴヌクレオチドをハイブリダイズし、質量タグ付きオリゴヌクレオチドが結合し得る複数のハイブリダイゼーション部位を提供してもよい。質量タグ付きオリゴヌクレオチドの有無にかかわらず、1つ以上の増幅オリゴヌクレオチドは、2つ以上の標的ハイブリダイゼーションオリゴヌクレオチドにハイブリダイズすることができるマルチマーとして提供され得る。
【0526】
2つ以上の標的ハイブリダイゼーションオリゴヌクレオチドを使用すると特異性が改善するが、増幅オリゴヌクレオチドを使用すると信号が増加する。2つの標的ハイブリダイゼーションオリゴヌクレオチドを細胞内の標的RNAにハイブリダイズさせる。2つの標的ハイブリダイゼーションオリゴヌクレオチドは、増幅オリゴヌクレオチドが結合し得るハイブリダイゼーション部位をともに提供する。ハイブリダイゼーションおよび/または増幅オリゴヌクレオチドのその後の洗浄は、2つの近位標的ハイブリダイゼーションオリゴヌクレオチドへのハイブリダイゼーションを可能にするが、ただ1つの標的ハイブリダイゼーションオリゴヌクレオチドへの増幅オリゴヌクレオチドのハイブリダイゼーションの融解温度よりも高い温度で行われ得る。第1の増幅オリゴヌクレオチドは、第2の増幅オリゴヌクレオチドが結合して分岐パターンを形成することができる複数のハイブリダイゼーション部位を提供する。質量タグ付きオリゴヌクレオチドは、第2の増幅ヌクレオチドによって提供される複数のハイブリダイゼーション部位に結合し得る。まとめて、これらの増幅オリゴヌクレオチド(質量タグ付きオリゴヌクレオチドの有無にかかわらず)は、本明細書では「マルチマー」と呼ばれる。したがって、用語「増幅オリゴヌクレオチド」は、追加のオリゴヌクレオチドがアニーリングし得る同じ結合部位の複数のコピーを提供するオリゴヌクレオチドを含む。他のオリゴヌクレオチドに対する結合部位の数を増加させることによって、標的に対して見出され得る標識の最終的な数が増加する。したがって、複数の標識されたオリゴヌクレオチドが、単一の標的RNAに間接的にハイブリダイズする。これにより、RNAごとに使用される元素の検出可能な原子の数を増加させることによって、低コピー数のRNAを検出することが可能になる。
【0527】
この増幅を行うための1つの特定の方法は、以下にさらに詳細に説明されるように、Advanced cell diagnostics製のRNAscope(登録商標)法を使用することを含む。追加の代替案は、QuantiGene(登録商標)FlowRNA法(Affymetrix eBioscience)を適合させる方法の使用である。このアッセイは、分岐DNA(bDNA)信号増幅を伴うオリゴヌクレオチド対プローブ設計に基づいている。カタログには4,000を超えるプローブがあり、または、追加料金なしでカスタムセットを依頼することができる。先の段落と一致して、この方法は、標的ハイブリダイゼーションオリゴヌクレオチドを標的にハイブリダイズさせ、続いて、第1の増幅オリゴヌクレオチド(QuantiGene(登録商標)法では前増幅オリゴヌクレオチドと呼ばれる)を含む分岐構造を形成させて、複数の第2の増幅オリゴヌクレオチド(QuantiGene(登録商標)法では単に増幅オリゴヌクレオチドと呼ばれる)がアニールすることができるステムを形成することによって機能する。次いで、複数の質量タグ付きオリゴヌクレオチドが結合し得る。
【0528】
RNA信号を増幅する別の手段は、ローリングサークル増幅手段(RCA)に依存する。この増幅システムを増幅プロセスに導入することができる理由は様々である。第1の場合では、第1の核酸がハイブリダイゼーション核酸として使用され、第1の核酸は環状である。第1の核酸は、一本鎖であり得るか、二本鎖であり得る。これは、標的RNAに相補的な配列として含む。標的RNAへの第1の核酸のハイブリダイズに続いて、第1の核酸に相補的なプライマーが第1の核酸にハイブリダイズされ、典型的には試料に外因的に加えられるポリメラーゼおよび核酸を使用するプライマー伸長に使用される。ただし、場合によっては、第1の核酸を試料に加えると、伸長のためのプライマーが既にその核酸にハイブリダイズしていることがある。第1の核酸が環状である結果として、プライマー伸長が完全な複製ラウンドを完了すると、ポリメラーゼはプライマーを置換し、伸長が継続し(すなわち、5’→3’エキソヌクレアーゼ活性を伴わず)、第1の核酸の補体の結合され、さらに連鎖したコピーを生成し、それによって、その核酸配列を増幅する。したがって、元素タグ(上記のようなRNAもしくはDNA、またはLNAもしくはPNAなど)を含むオリゴヌクレオチドは、第1の核酸の補体の連鎖したコピーにハイブリダイズし得る。このように、RNA信号の増幅の程度は、環状核酸の増幅の工程に割り当てられた時間の長さによって制御することができる。
【0529】
RCAの別の用途では、標的RNAにハイブリダイズする第1の、例えば、オリゴヌクレオチドは環状ではなく、オリゴヌクレオチドは線形であり得、その標的に相補的な配列を有する第1の部分と、ユーザが選択する第2の部分とを含む。次いで、この第2の部分に相同な配列を有する環状RCAテンプレートをこの第1のオリゴヌクレオチドにハイブリダイズさせ、RCA増幅を上記のように行ってもよい。標的特異的部分およびユーザ選択部分を有する第1の、例えば、オリゴヌクレオチドの使用は、様々な異なるプローブ間で共通であるようにユーザ選択部分を選択することができることである。異なる標的を検出する一連の反応で同じ後続の増幅試薬を使用することができるため、これは試薬効率が高い。ただし、当業者によって理解されるように、この戦略を使用する場合、多重反応における特異的RNAの個々の検出のために、標的RNAにハイブリダイズする各第1の核酸は、固有の第2の配列を有する必要があり、次いで、各環状核酸は、標識されたオリゴヌクレオチドによってハイブリダイズされ得る固有の配列を含むべきである。このように、各標的RNAからの信号を特異的に増幅および検出することができる。
【0530】
RCA分析をもたらすための他の構成は、当業者に公知である。場合によっては、第1の、例えば、オリゴヌクレオチドが後続の増幅およびハイブリダイゼーション工程中に標的から解離するのを防ぐために、第1の、例えば、オリゴヌクレオチドは、ハイブリダイゼーション後に固定され得る(例えば、ホルムアルデヒドにより)。
【0531】
さらに、ハイブリダイゼーション連鎖反応(HCR)を使用して、RNA信号を増幅してもよい(例えば、Choiら、2010,Nat.Biotech,28:1208-1210を参照)。Choiは、HCR増幅器は、開始剤の非存在下では重合しない2つの核酸ヘアピン種からなると説明している。各HCRヘアピンは、露出した一本鎖トーホールドを有する入力ドメインと、折り畳まれたヘアピン内に隠された一本鎖トーホールドを有する出力ドメインとからなる。2つのヘアピンのうちの1つの入力ドメインに開始剤をハイブリダイゼーションすると、ヘアピンを開いて、その出力ドメインを露出させる。第2のヘアピンの入力ドメインにこの(以前は隠されていた)出力ドメインがハイブリダイゼーションすると、そのヘアピンを開いて、配列が開始剤と同一の出力ドメインを露出させる。開始剤配列の再生は、交互の第1および第2のヘアピン重合工程の連鎖反応の基礎を提供し、ニックの入った二本鎖「ポリマー」の形成をもたらす。本明細書に開示される方法および装置の用途では、第1および第2のヘアピンのいずれかまたは両方を元素タグにより標識することができる。増幅手順は、特異的配列の出力ドメインに依存するため、別個のセットのヘアピンを使用する様々な別個の増幅反応を同じプロセスで独立して行うことができる。したがって、この増幅により、多数のRNA種の多重分析での増幅も可能になる。Choiが言及するように、HCRは、等温トリガー自己組織化プロセスである。したがって、ヘアピンは、インサイチュでトリガーされた自己組織化を受ける前に、試料に浸透するべきであり、これは、深い試料浸透および高い信号対バックグラウンド比の可能性を示唆している。
【0532】
ハイブリダイゼーションは、1つ以上のオリゴヌクレオチド、例えば、標的ハイブリダイゼーションオリゴヌクレオチド、増幅オリゴヌクレオチドおよび/または質量タグ付きオリゴヌクレオチドと細胞を接触させること、およびハイブリダイゼーションが起こり得る条件を提供することを含み得る。ハイブリダイゼーションは、緩衝液、例えば、食塩水-クエン酸ナトリウム(SCC)緩衝液、リン酸緩衝食塩水(PBS)、食塩水-リン酸ナトリウム-EDTA(SSPE)緩衝液、TNT緩衝液(Tris-HCl、塩化ナトリウムおよびTween 20を有する)、または任意の他の好適な緩衝液中で行われ得る。ハイブリダイゼーションは、1つ以上のオリゴヌクレオチドのハイブリダイゼーションの融解温度の前後またはそれよりも低い温度で行われ得る。
【0533】
特異性は、結合していないオリゴヌクレオチドを除去するために、ハイブリダイゼーションに続いて1回以上の洗浄を行うことによって改善され得る。洗浄のストリンジェンシーを増大させると、特異性を改善するが、全体的な信号を減少させ得る。洗浄のストリンジェンシーは、洗浄緩衝液の濃度を増加または減少させ、温度を上昇させ、および/または洗浄の持続時間を増加させることによって増大させてもよい。ハイブリダイゼーション、インキュベーションおよびその後の洗浄のいずれかまたは全部に、RNAse阻害剤が使用されてもよい。
【0534】
1つ以上の標的ハイブリダイズオリゴヌクレオチド、増幅オリゴヌクレオチドおよび/または質量タグ付きオリゴヌクレオチドを含むハイブリダイゼーションプローブの第1のセットを使用して、第1の標的核酸を標識してもよい。ハイブリダイゼーションプローブの追加のセットを使用して、追加の標的核酸を標識してもよい。ハイブリダイゼーションプローブの各セットは、異なる標的核酸に特異的であり得る。ハイブリダイゼーションプローブの追加のセットは、異なるセットのオリゴヌクレオチド間のハイブリダイゼーションを低減または防止するように設計され、ハイブリダイズされ、洗浄され得る。さらに、各セットの質量タグ付きオリゴヌクレオチドは、固有の信号を提供し得る。したがって、オリゴヌクレオチドの複数のセットを使用して、2、3、5、10、15、20またはそれ以上の別個の核酸標的を検出してもよい。
【0535】
場合によっては、検出される異なる核酸は、単一遺伝子のスプライス変異体である。質量タグ付きオリゴヌクレオチドは、エクソンの配列内でハイブリダイズして(以下に説明されるように他のオリゴヌクレオチドを介して直接的または間接的に)、そのエクソンを含有するあらゆる転写物を検出するように設計され得るか、スプライスジャンクションを架橋して、特異的な変異体を検出するように設計され得る(例えば、遺伝子が3つのエクソンおよび2つのスプライス変異体、すなわち、エクソン1-2-3およびエクソン1-3を有する場合、この2つを区別することができ、変異体1-2-3はエクソン2にハイブリダイズすることによって特異的に検出することができ、変異体1-3はエクソン1-3ジャンクションを横切ってハイブリダイズすることによって特異的に検出することができる)。
【0536】
組織化学的染色
1つ以上の固有の金属原子を有する組織化学的染色試薬は、本明細書に記載されるように、他の試薬および使用方法と組み合わせられ得る。例えば、組織化学的染色は、金属含有薬物、金属標識抗体および/または蓄積された重金属と(例えば、細胞解像度または細胞内解像度で)共局在化され得る。特定の態様では、1つ以上の組織化学的染色は、他のイメージング法(例えば、蛍光顕微鏡法、光学顕微鏡法または電子顕微鏡法)に使用されるものよりも低濃度(例えば、半分未満、4分の1、10分の1など)で使用され得る。
【0537】
構造を視覚化および識別するために、広範囲の組織学的染色および指標が利用可能であり、十分に特性評価されている。金属含有染色は、病理学者によるイメージングマスサイトメトリーの受容に影響を及ぼす可能性を有する。特定の金属含有染色は、細胞成分を明らかにすることがよく知られており、本発明で使用するのに適している。さらに、特徴認識アルゴリズムのためのコントラストを提供するデジタル画像分析では、明確に定義された染色を使用することができる。これらの特徴は、イメージングマスサイトメトリーの開発にとって戦略的に重要である。
【0538】
多くの場合、抗体などの親和性産物を使用して、組織切片の形態学的構造を対比することができる。それらは高価であり、組織化学的染色を使用する場合と比較して、金属含有タグを使用する追加の標識手順を必要とする。このアプローチは、利用可能なランタニド同位体により標識された抗体を使用したイメージングマスサイトメトリーに関する先駆的な研究に使用され、生物学的疑問に答える機能的抗体のための質量(例えば金属)タグを枯渇させた。
【0539】
本発明は、Ag、Au、Ru、W、Mo、Hf、Zr(粘液性間質(mucinous stroma)を識別するために使用されるルテニウムレッド、コラーゲン線維を識別するためのトリクローム染色、細胞対比染色としての四酸化オスミウムなどの化合物を含む)などの元素を含む利用可能な同位体の一覧を拡張する。核型分析には銀染色が使用される。硝酸銀は、核小体構成領域(NOR)関連タンパク質を染色し、銀が沈着する暗い領域を生じ、NOR内のrRNA遺伝子の活性を示す。IMCへの適合には、プロトコル(例えば、過マンガン酸カリウムおよび銀濃度1%による酸化)をさらに低濃度の銀溶液、例えば0.5%、0.01%または0.05%未満の銀溶液を使用するように改変する必要があり得る。
【0540】
組織化学では、オートメタログラフィック増幅(autometallographic amplification)技術が重要なツールに進化している。多くの内因性および毒性重金属は、Agイオンとの反応により自己触媒的に増幅され得る硫化物またはセレン化物ナノ結晶を形成する。比較的大きなAgナノクラスターは、IMCによって容易に視覚化することができる。現在では、Zn‐S/Seナノ結晶の銀増幅検出、および銀‐セレンナノ結晶の形成によるセレンの検出のためのロバストなプロトコルが確立されている。さらに、市販の量子ドット(Cdの検出)も自己触媒的に活性であり、組織化学的標識として使用され得る。
【0541】
本発明の態様は、組織化学的染色と、元素質量分析によるイメージングでのそれらの使用とを含み得る。本発明では、元素質量分析によって分解可能な任意の組織化学的染色が使用され得る。特定の態様では、組織化学的染色は、試料をイメージングするために使用される元素質量分析計のカットオフよりも大きい、例えば、60amu、80amu、100amuまたは120amuを超える質量の1つ以上の原子を含む。例えば、組織化学的染色は、本明細書に記載される金属タグ(例えば金属原子)を含み得る。金属原子は、組織化学的染色にキレート化されるか、組織化学的染色の化学構造内で共有結合され得る。特定の態様では、組織化学的染色は、有機分子であり得る。組織化学的染色は、極性、疎水性(例えば親油性)、イオン性であり得るか、異なる特性を有する基を含み得る。特定の態様では、組織化学的染色は、複数の化学物質を含み得る。
【0542】
組織化学的染色は、2000、1500、1000、800、600、400または200amu未満の小分子を含む。組織化学的染色は、共有結合または非共有結合(例えば、イオン性または疎水性)の相互作用を介して試料に結合し得る。組織化学的染色は、例えば、個々の細胞、細胞内構造および/または細胞外構造を識別するのを助けるために、生体試料の形態を解像するためのコントラストを提供し得る。組織化学的染色によって解像され得る細胞内構造には、細胞膜、細胞質、核、ゴルジ体、ER、ミトコンドリアおよび他の細胞小器官が含まれる。組織化学的染色は、核酸、タンパク質、脂質、リン脂質または炭水化物などの生体分子のタイプに親和性を有し得る。特定の態様では、組織化学的染色は、DNA以外の分子に結合し得る。また、好適な組織化学的染色には、間質(stroma)(例えば粘膜間質(mucosal stroma))、基底膜、間質(interstitial stroma)、コラーゲンまたはエラスチンなどのタンパク質、プロテオグリカン、非プロテオグリカン多糖類、細胞外小胞、フィブロネクチン、ラミニンなどを含む細胞外構造(例えば、細胞外マトリックスの構造)に結合する染色が含まれる。
【0543】
特定の態様では、組織化学的染色および/または代謝プローブは、細胞または組織の状態を示し得る。例えば、組織化学的染色には、シスプラチン、エオシンおよびヨウ化プロピジウムなどの生体染色が含まれ得る。他の組織化学的染色は、低酸素状態を染色し得、例えば、低酸素条件下でのみ結合または沈着し得る。ロドデオキシウリジン(IdU)またはその誘導体などのプローブは、細胞増殖を染色し得る。特定の態様では、組織化学的染色は、細胞または組織の状態を示さない場合がある。細胞の状態(例えば、生存率、低酸素状態および/または細胞増殖)を検出するが、インビボで(例えば、生きている動物または細胞培養物に)投与されるプローブは、本方法のいずれかで使用されるが、組織化学的染色として適格ではない。
【0544】
組織化学的染色は、核酸(例えば、DNAおよび/またはRNA)、タンパク質、脂質、リン脂質、炭水化物(例えば、単糖または二糖またはポリオールなどの糖;オリゴ糖;および/またはデンプンまたはグリコーゲンなどの多糖)、糖タンパク質および/または糖脂質などの生体分子のタイプに対して親和性を有し得る。特定の態様では、組織化学的染色は対比染色であり得る。
【0545】
以下は、特異的な組織化学的染色の例と、本方法でのそれらの使用である:
粘液性間質検出のための金属含有染色としてのルテニウムレッド染色は、以下のように使用され得る:0.0001~0.5%、0.001~0.05%、0.1%未満、0.05%未満または約0.0025%のルテニウムレッドを用いて(例えば、4~42℃または室温付近で少なくとも5分間、少なくとも10分間、少なくとも30分間または約30分間)、免疫染色された組織(例えば、脱パラフィンFFPEまたは凍結切片)を処理してもよい。例えば、水または緩衝液を用いて生体試料をリンスしてもよい。次いで、元素質量分析によるイメージングの前に組織を乾燥させてもよい。
【0546】
コラーゲン線維に対する金属含有染色として、リンタングステン酸(例えば、トリクローム染色として)を使用してもよい。スライド上の組織切片(脱パラフィンFFPEまたは凍結切片)をブアン液中で固定してもよい(例えば、4~42°Cまたは室温付近で少なくとも5分間、少なくとも10分間、少なくとも30分間または約30分間)。次いで、0.0001%~0.01%、0.0005%~0.005%、または約0.001%のリンタングステン酸を用いて(例えば、4~42℃または室温付近で少なくとも5分間、少なくとも10分間、少なくとも30分間または約15分間)、切片を処理してもよい。次いで、元素質量分析によるイメージングの前に、水および/または緩衝液を用いて試料をリンスし、場合により、乾燥させてもよい。トリクローム染色は、光学(例えば、蛍光)顕微鏡によるイメージングに使用される濃度と比較して、希釈して(例えば、5倍、10倍、20倍、50倍、または大きく希釈)使用してもよい。
【0547】
いくつかの実施形態では、組織化学的染色は有機分子である。いくつかの実施形態では、第2の金属は共有結合している。いくつかの実施形態では、第2の金属はキレート化されている。いくつかの実施形態では、組織化学的染色は、細胞膜に特異的に結合する。いくつかの実施形態では、組織化学的染色は、四酸化オスミウムである。いくつかの実施形態では、組織化学的染色は親油性である。いくつかの実施形態では、組織化学的染色は、細胞外構造に特異的に結合する。いくつかの実施形態では、組織化学的染色は、細胞外コラーゲンに特異的に結合する。いくつかの実施形態では、組織化学的染色は、リンタングステン酸/リンモリブデン酸を含むトリクローム染色である。いくつかの実施形態では、試料を抗体と接触させた後、例えば、光学イメージングに使用されるよりも低い濃度でトリクローム染色が使用され、例えば、濃度は、トリクローム染色の50倍希釈以上である。
【0548】
金属含有薬物
薬理学では、医薬品中の金属は新しく刺激的な分野である。金属タンパク質、核酸金属錯体もしくは金属含有薬物に組み込まれる前に金属イオンを一時的に貯蔵することに関与する細胞構造、またはタンパク質もしくは薬物分解時の金属イオンの運命についてはほとんど分かっていない。微量金属の輸送、貯蔵および分布に関与する調節機構の解明に向けた重要な第一段階は、理想的には組織内、細胞内、または個々の細胞小器官および細胞内区画のレベルでのそれらの本来の生理学的環境に照らして、それらの金属の識別および定量である。組織学的試験は、典型的には、組織の薄片に対して、または培養細胞を用いて行われる。
【0549】
多くの金属含有薬物、すなわち、シスプラチン、ルテニウムイミダゾール、Moを含むメタロセン系抗癌剤、Wを含むタングステノセン、HfまたはZrを含むB‐ジケトネート錯体、Auを含むオーラノフィン、ポリオキソモリブデート薬物が様々な疾患の治療に使用されているが、それらの作用機序または生体内分布については十分に分かっていない。多くの金属錯体がMRI造影剤(Gd(III)キレート)として使用されている。金属系抗癌薬の取込みおよび生体内分布の特性評価は、根底にある毒性を理解し、最小限に抑えるために非常に重要である。
【0550】
薬物中に存在する特定の金属の原子質量は、マスサイトメトリーの範囲に該当する。具体的には、Pt錯体を含むシスプラチンなど(イプロプラチン、ロバプラチン)は、多種多様な癌を治療するための化学療法薬として広く使用されている。白金系抗癌薬の腎毒性および骨髄毒性はよく知られている。本明細書に記載の方法および試薬を用いて、組織切片内でのそれらの細胞内局在と、質量(例えば、金属)タグ付き抗体および/または組織化学的染色との共局在とをここで調査することができる。化学療法薬は、直接的なDNA損傷、DNA損傷修復経路の阻害、放射能などを通じて、増殖中の細胞などの特定の細胞に対して毒性を示し得る。特定の態様では、化学療法薬は、抗体中間体を介して腫瘍を標的とし得る。
【0551】
特定の態様では、金属含有薬物は化学療法薬である。本方法は、生体試料を得る前に、前述のように、動物研究モデルまたはヒト患者などの生きている動物に金属含有薬物を投与することを含み得る。生体試料は、例えば、癌性の組織または初代細胞の生検であり得る。あるいは、金属含有薬物は、不死化細胞株または初代細胞であり得る生体試料に直接加えられ得る。動物がヒト患者である場合、本方法は、金属含有薬物の分布を検出することに基づいて、金属含有薬物を含む治療レジメンを調整することを含み得る。
【0552】
金属含有薬物を検出する方法工程は、元素質量分析による金属含有薬物の細胞内イメージングを含み得、細胞内構造(膜、細胞質、核、ゴルジ体、ER、ミトコンドリアおよび他の細胞小器官など)および/または細胞外構造(例えば、間質(stroma)、粘膜間質、基底膜、間質(interstitial stroma)、コラーゲンまたはエラスチンなどのタンパク質、プロテオグリカン、非プロテオグリカン多糖類、細胞外小胞、フィブロネクチン、ラミニンなどを含む)内の金属含有薬物の保持を検出することを含み得る。
【0553】
上記構造のうちの1つ以上を解像する(例えば、それらに結合する)組織化学的染色および/または質量(例えば、金属)タグ付きSBPが、金属含有薬物と共局在化されて、特定の細胞内構造または細胞外構造での薬物の保持を検出し得る。例えば、シスプラチンなどの化学療法薬は、コラーゲンなどの構造と共局在化し得る。あるいは、またはさらに、薬物の局在化は、細胞生存率、細胞増殖、低酸素状態、DNA損傷応答または免疫応答のマーカーの存在に関連し得る。
【0554】
いくつかの実施形態では、金属含有薬物は非内因性金属を含み、例えば、非内因性金属は、白金、パラジウム、セリウム、カドミウム、銀または金である。特定の態様では、金属含有薬物は、シスプラチン、ルテニウムイミダゾール、Moを含むメタロセン系抗癌剤、Wを含むタングステノセン、HfもしくはZrを含むB-ジケトネート錯体、Auを含むオーラノフィン、ポリオキソモリブデート薬、Pdを含むN-ミリストイルトランスフェラーゼ-1阻害剤(トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム)またはそれらの誘導体のうちの1つである。例えば、薬物は、Ptを含み得、例えば、シスプラチン、カルボプラチン、オキサリプラチン、イプロプラチン、ロバプラチンまたはそれらの誘導体であり得る。金属含有薬物は、非内因性金属、例えば、白金(Pt)、ルテニウム(Ru)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、ハフニウム(Hf)、ジルコニウム(Zr)、金(Au)、ガドリニウム(Gd)、パラジウム(Pd)またはそれらの同位体を含み得る。癌に対する光温熱療法のための金化合物(例えば、オーラノフィン)および金ナノ粒子バイオコンジュゲートは、組織切片内で識別され得る。
【0555】
多重分析
本開示の1つの特徴は、例えば、複数の異なるタンパク質および/または複数の異なる核酸配列を検出するために、試料中の複数の(例えば、10以上、さらには最大100以上の)異なる標的SBPメンバーを検出するその能力である。これらの標的SBPメンバーの差分検出を可能にするには、それらのそれぞれのSBPメンバーが、それらの信号を区別することができるように、異なる標識原子を担持するべきである。例えば、10の異なるタンパク質が検出される場合、10の異なる抗体(それぞれ異なる標的タンパク質に特異的な)を使用することができ、その各々は、異なる抗体からの信号を区別することができるように、固有の標識を担持する。いくつかの実施形態では、例えば、同じタンパク質上の異なるエピトープを認識する、単一の標的に対する複数の異なる抗体を使用することが望ましい。したがって、このタイプの冗長性のために、方法は標的よりも多くの抗体を使用し得る。ただし、一般に、本開示は、複数の異なる標識原子を使用して、複数の異なる標的を検出する。
【0556】
本開示とともに複数の標識抗体を使用する場合、検出された標識原子の量と組織試料中の標的抗原の存在量との間の関係が異なるSBP間でさらに一致することを確実にする(特に高い走査周波数で)のに役立つため、抗体がそれらのそれぞれの抗原に対して同様の親和性を有するべきであることが好ましい。同様に、様々な抗体の標識が同じ効率を有し、その結果、抗体がそれぞれ同等の量の標識原子を担持することが好ましい。
【0557】
場合によっては、SBPは、蛍光標識および元素タグを担持し得る。次いで、試料の蛍光を使用して、標識原子の検出のためにサンプリングすることができる目的の材料を含む試料の領域、例えば組織切片を決定してもよい。例えば、蛍光標識が、癌細胞上に豊富に存在する抗原に結合する抗体にコンジュゲートされ得、次いで、任意の蛍光細胞が、標識原子にコンジュゲートされたSBPによってもたらされる他の細胞タンパク質の発現を決定するために標的とされ得る。
【0558】
標的SBPメンバーが細胞内に位置する場合、典型的には、試料と標識との接触前または接触中に細胞膜を透過処理することが必要である。例えば、標的がDNA配列であるが、標識されたSBPメンバーが生細胞の膜を貫通することができない場合、組織試料の細胞を固定し、透過処理することができる。次いで、標識されたSBPメンバーは細胞に入り、標的SBPメンバーとSBPを形成することができる。この点で、IHCおよびFISHとともに使用するための既知のプロトコルを利用することができる。
【0559】
方法は、少なくとも1つの細胞内標的および少なくとも1つの細胞表面標的を検出するために使用され得る。ただし、いくつかの実施形態では、本開示は、細胞内標的を無視しながら、複数の細胞表面標的を検出するために使用することができる。全体として、標的の選択は、本開示が試料中の選択された標的の位置の画像を提供することから、方法から望まれる情報によって決定される。
【0560】
本明細書にさらに記載されるように、標識原子を含む特異的結合パートナー(すなわち、アフィニティー試薬)を使用して、生体試料を染色(接触)してもよい。好適な特異的結合パートナーには、抗体(抗体断片を含む)が含まれる。標識原子は、質量分析によって区別可能であり得る(すなわち、異なる質量を有し得る)。標識原子は、それらが1つ以上の金属原子を含む場合、本明細書では金属タグと呼ばれ得る。金属タグは、炭素骨格と、それぞれが金属原子に結合する複数のペンダント基とを有するポリマーを含み得る。あるいは、またはさらに、金属タグは、金属ナノ粒子を含み得る。抗体は、共有または非共有相互作用によって金属タグによりタグ付けされ得る。
【0561】
抗体染色を使用して、細胞解像度または細胞内解像度でタンパク質をイメージングしてもよい。本発明の態様は、生体試料の細胞によって発現されるタンパク質に特異的に結合する1つ以上の抗体と試料を接触させることを含み、抗体は第1の金属タグによりタグ付けされる。例えば、試料と、それぞれが区別可能な金属タグを有する5以上、10以上、15以上、20以上、30以上、40以上、50以上の抗体とを接触させてもよい。抗体により試料を染色する前、最中(例えば、ワークフローを容易にするため)または後(例えば、抗体の抗原標的の変化を回避するため)に、試料と、1つ以上の組織化学的染色とをさらに接触させてもよい。試料は、本明細書に記載されるように、1つ以上の金属含有薬物および/または蓄積された重金属をさらに含み得る。
【0562】
本発明で使用するための金属タグ付き抗体は、金属を含まない代謝プローブに特異的に結合し得る(例えば、EF5)。他の金属タグ付き抗体は、蛍光および光学顕微鏡で使用される従来の染色の(例えば、上皮組織、間質組織、核などの)標的に特異的に結合し得る。そのような抗体には、抗カドヘリン、抗コラーゲン、抗ケラチン、抗EFS、抗ヒストンH3抗体、および当技術分野で公知の他の多くの抗体が含まれる。
【0563】
本明細書で使用され得る一般的な組織化学的染色には、ルテニウムレッドおよびリンタングステン酸が含まれる(例えば、トリクローム染色として)。
【0564】
試料の特異的染色が試料中に染色を導入することに加えて、場合によっては、試料が採取された組織もしくは生物が、金属含有薬物を投与された結果、または環境曝露から蓄積した金属を有する結果として、金属原子を含有することがある。場合によっては、金属含有材料の保持およびクリアランスを観察するために、パルス追跡実験戦略に基づくこの技術を使用する方法では、組織または動物が試験され得る。
【0565】
例えば、薬理学では、医薬品中の金属は新しく刺激的な分野である。金属タンパク質、核酸金属錯体もしくは金属含有薬物に組み込まれる前に金属イオンを一時的に貯蔵することに関与する細胞構造、またはタンパク質もしくは薬物分解時の金属イオンの運命についてはほとんど分かっていない。微量金属の輸送、貯蔵および分布に関与する調節機構の解明に向けた重要な第一段階は、理想的には組織内、細胞内、または個々の細胞小器官および細胞内区画のレベルでのそれらの本来の生理学的環境に照らして、それらの金属の識別および定量である。組織学的試験は、典型的には、組織の薄片に対して、または培養細胞を用いて行われる。
【0566】
多くの金属含有薬物、すなわち、シスプラチン、ルテニウムイミダゾール、Moを含むメタロセン系抗癌剤、Wを含むタングステノセン、HfまたはZrを含むB‐ジケトネート錯体、Auを含むオーラノフィン、ポリオキソモリブデート薬物が様々な疾患の治療に使用されているが、それらの作用機序または生体内分布については十分に分かっていない。多くの金属錯体がMRI造影剤(Gd(III)キレート)として使用されている。金属系抗癌薬の取込みおよび生体内分布の特性評価は、根底にある毒性を理解し、最小限に抑えるために非常に重要である。
【0567】
薬物中に存在する特定の金属の原子質量は、マスサイトメトリーの範囲に該当する。具体的には、Pt錯体を含むシスプラチンなど(イプロプラチン、ロバプラチン)は、多種多様な癌を治療するための化学療法薬として広く使用されている。白金系抗癌薬の腎毒性および骨髄毒性はよく知られている。本明細書に記載の方法および試薬を用いて、組織切片内でのそれらの細胞内局在と、金属タグ付き抗体および/または組織化学的染色との共局在とをここで調査することができる。化学療法薬は、直接的なDNA損傷、DNA損傷修復経路の阻害、放射能などを通じて、増殖中の細胞などの特定の細胞に対して毒性を示し得る。特定の態様では、化学療法薬は、抗体中間体を介して腫瘍を標的とし得る。
【0568】
特定の態様では、金属含有薬物は化学療法薬である。本方法は、生体試料を得る前に、前述のように、動物研究モデルまたはヒト患者などの生きている動物に金属含有薬物を投与することを含み得る。生体試料は、例えば、癌性の組織または初代細胞の生検であり得る。あるいは、金属含有薬物は、不死化細胞株または初代細胞であり得る生体試料に直接加えられ得る。動物がヒト患者である場合、本方法は、金属含有薬物の分布を検出することに基づいて、金属含有薬物を含む治療レジメンを調整することを含み得る。
【0569】
金属含有薬物を検出する方法工程は、元素質量分析による金属含有薬物の細胞内イメージングを含み得、細胞内構造(膜、細胞質、核、ゴルジ体、ER、ミトコンドリアおよび他の細胞小器官など)および/または細胞外構造(例えば、間質(stroma)、粘膜間質、基底膜、間質(interstitial stroma)、コラーゲンまたはエラスチンなどのタンパク質、プロテオグリカン、非プロテオグリカン多糖類、細胞外小胞、フィブロネクチン、ラミニンなどを含む)内の金属含有薬物の保持を検出することを含み得る。
【0570】
上記構造のうちの1つ以上を解像する(例えば、それらに結合する)組織化学的染色および/または質量タグ付きSBPが、金属含有薬物と共局在化されて、特定の細胞内構造または細胞外構造での薬物の保持を検出し得る。例えば、シスプラチンなどの化学療法薬は、コラーゲンなどの構造と共局在化し得る。あるいは、またはさらに、薬物の局在化は、細胞生存率、細胞増殖、低酸素状態、DNA損傷応答または免疫応答のマーカーの存在に関連し得る。
【0571】
特定の態様では、金属含有薬物は、シスプラチン、ルテニウムイミダゾール、Moを含むメタロセン系抗癌剤、Wを含むタングステノセン、HfもしくはZrを含むB-ジケトネート錯体、Auを含むオーラノフィン、ポリオキソモリブデート薬、Pdを含むN-ミリストイルトランスフェラーゼ-1阻害剤(トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム)またはそれらの誘導体のうちの1つである。例えば、薬物は、Ptを含み得、例えば、シスプラチン、カルボプラチン、オキサリプラチン、イプロプラチン、ロバプラチンまたはそれらの誘導体であり得る。金属含有薬物は、非内因性金属、例えば、白金(Pt)、ルテニウム(Ru)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、ハフニウム(Hf)、ジルコニウム(Zr)、金(Au)、ガドリニウム(Gd)、パラジウム(Pd)またはそれらの同位体を含み得る。癌に対する光温熱療法のための金化合物(例えば、オーラノフィン)および金ナノ粒子バイオコンジュゲートは、組織切片内で識別され得る。
【0572】
重金属への曝露は、食物もしくは水の摂取、皮膚を介した接触、またはエアロゾルの摂取により起こり得る。重金属は身体の軟組織に蓄積することがあり、長期の曝露は深刻な健康影響を及ぼす。特定の態様では、重金属は、動物研究モデルを対象とした制御された曝露を通じて、またはヒト患者における環境曝露を通じて、インビボで蓄積され得る。重金属は、毒性重金属、例えば、ヒ素(As)、鉛(Pb)、アンチモン(Sb)、ビスマス(Bi)、カドミウム(Cd)、オスミウム(Os)、タリウム(Tl)または水銀(Hg)であり得る。
【0573】
単一細胞分析
本開示の方法は、試料中の複数の細胞のレーザアブレーションを含み、したがって、複数の細胞からのプルームが分析され、それらの内容物が試料中の特定の位置にマッピングされて画像を提供する。ほとんどの場合、方法のユーザは、試料全体ではなく、試料内の特定の細胞に信号を局在化する必要がある。これを達成するために、試料中の細胞(例えば、原形質膜、場合によっては細胞壁)の境界を画定することができる。
【0574】
細胞境界の画定は、様々な方法で達成することができる。例えば、試料は、上記のような顕微鏡など、細胞境界を画定することができる従来の技術を使用して試験することができる。したがって、これらの方法を行う場合、上記のようなカメラを備える分析システムが特に有用である。次いで、本開示の方法を使用して、この試料の画像を作成することができ、この画像を以前の結果に重ね合わせることができ、それによって、検出された信号を特定の細胞に局在化させることができる。実際、上述したように、場合によっては、レーザアブレーションは、顕微鏡に基づく技術の使用によって、目的のものであると決定された試料中の細胞のサブセットにのみ導かれ得る。
【0575】
ただし、複数の技術を使用する必要性を回避するために、本開示のイメージング法の一部として細胞境界を画定することが可能である。そのような境界画定戦略は、IHCおよび免疫細胞化学でよく知られており、これらのアプローチは、検出することができる標識を使用することにより、適合させることができる。例えば、方法は、細胞境界に位置することが分かっている標的分子の標識を含み得、次いで、これらの標識からの信号を境界画定に使用することができる。好適な標的分子には、接着複合体のメンバー(例えば、β-カテニンまたはE-カドヘリン)などの、細胞境界の豊富なまたは普遍的なマーカーが含まれる。いくつかの実施形態は、画定を強化するために、複数の膜タンパク質を標識することができる。
【0576】
この方法では、好適な標識を含めることによって細胞境界を画定することに加えて、特定の細胞小器官を画定することも可能である。例えば、ヒストン(例えばH3)などの抗原を使用して核を識別することができ、ミトコンドリア特異的抗原、細胞骨格特異的抗原、ゴルジ特異的抗原、リボソーム特異的抗原などを標識することも可能であり、それによって、本開示の方法によって細胞超微細構造を分析することが可能になる。
【0577】
細胞(または細胞小器官)の境界を画定する信号は、眼によって評価することができるか、画像処理を使用してコンピュータによって分析することができる。そのような技術は、他のイメージング技術について当技術分野で知られており、例えば、Arceら(2013;Scientific Reports 3,article 2266)は、空間フィルタリングを使用して蛍光画像から細胞境界を決定する区分スキームを記載しており、Aliら(2011;Mach Vis Appl 23:607-21)は、明視野顕微鏡画像から境界を決定するアルゴリズムを開示しており、Poundら(2012;The Plant Cell 24:1353-61)は、共焦点顕微鏡画像から細胞形状を抽出するCellSeT法を開示しており、Hodnelandら(2013;Source Code for Biology and Medicine 8:16)は、蛍光顕微鏡画像用のCellSegm MATLAB(登録商標)ツールボックスを開示している。本開示による有用な方法は、流域変換およびガウスぼかしを使用する。これらの画像処理技術は単独で使用され得るか、それらを使用してから眼によって確認することができる。
【0578】
細胞境界が画定されると、特定の標的分子から個々の細胞に信号を割り当てることが可能になる。例えば、定量的標準に対して方法を較正することによって、個々の細胞内の標的分析物の量を定量することも可能である。
【0579】
参照粒子
本明細書に記載されるように、試料中の標的元素イオンの検出中の参照として使用するために、既知の元素組成または同位体組成の参照粒子を試料(または試料キャリア)に加えてもよい。特定の実施形態では、参照粒子は、金属元素または同位体、例えば、遷移金属またはランタニドを含む。例えば、参照粒子は、60amuを超える、80amuを超える、100amuを超える、または120amuを超える質量の元素または同位体を含み得る。
【0580】
標識原子などの標的元素は、個々の参照粒子から検出された元素イオンに基づいて、試料ラン内で正規化することができる。例えば、本方法は、個々の参照粒子からの元素イオンの検出と、標的元素イオンのみの検出との間の切替えを含み得る。
【0581】
ヒドロゲルを使用した分析前試料膨張
従来の光学顕微鏡法は、照射源の波長の約半分に制限されており、最小可能解像度は約200nmである。膨張顕微鏡法は、ポリマーネットワークを使用して試料を物理的に膨張させ、試料の光学的可視化の解像度を約20nmまで増大させる試料調製法(特に生体試料用)である(国際公開第2015127183号パンフレット)。膨張手順を使用して、イメージング質量分析およびイメージングマスサイトメトリー用の試料を調製することができる。このプロセスによって、膨張されていない試料上では、1μmのアブレーションスポット直径が1μmの解像度を提供するが、膨張後、この1μmのアブレーションスポットは約100nmの解像度を表す。特定の態様では、例えば、アブレーションに必要なエネルギーが、試料に衝突するビームのエッジのエネルギーよりも大きい場合、アブレーションスポットのサイズ(例えばスポットサイズ)は、放射線(例えば、レーザ、イオンまたは電子ビーム放射線)が衝突する試料のサイズ未満であり得る。
【0582】
生体試料の膨張顕微鏡法は、一般に、固定、固着の準備、ゲル化、機械的均質化、および膨張の工程を含む。
【0583】
固定段階では、試料を化学的に固定し、洗浄する。ただし、生理学的状態の関数としてのタンパク質間相互作用などの特異的シグナル伝達機能または酵素機能は、固定工程を用いることなく膨張顕微鏡法を使用して調査することができる。
【0584】
次に、後続のゲル化工程で形成されるヒドロゲルに付着(「固着」)することができるように試料を調製する。ここで、本明細書の他の箇所で説明されるようなSBP(例えば、試料中の目的の標的分子に特異的に結合することができる抗体、ナノボディ、非抗体タンパク質、ペプチド、核酸および/または小分子)が、試料とともにインキュベートされて、試料に存在する場合、標的に結合する。場合により、試料は、イメージングに有用な検出可能な化合物により標識され得る(場合によっては「固着される」と呼ばれる)。光学顕微鏡の場合、検出可能な化合物は、例えば、試料中の目的の標的分子に特異的に結合することができる蛍光標識された抗体、ナノボディ、非抗体タンパク質、ペプチド、核酸および/または小分子によって提供され得る(米国特許第2017276578号明細書)。イメージングマスサイトメトリーを含むマスサイトメトリーの場合、検出可能な標識は、例えば、試料中の目的の標的分子に特異的に結合することができる、元素タグにより標識された抗体、ナノボディ、非抗体タンパク質、ペプチド、核酸および/または小分子によって提供され得る。場合によっては、標的に結合するSBPは標識を含有しないが、代わりに、二次SBPが結合することができる特徴を含有する(例えば、免疫組織化学的技術では一般的であるように、標的に結合する一次抗体、および一次抗体に結合する二次抗体)。一次SBPのみが使用される場合、これ自体が、ヒドロゲルに試料をつなぎとめることができるように、後続のゲル化工程で形成されるヒドロゲルに試料を付着または架橋する部分に結合され得る。あるいは、二次SBPが使用される場合、これは、ヒドロゲルに試料を付着または架橋する部分を含有し得る。場合によっては、二次SBPに結合する第3のSBPが使用される。Chenら、2015(Science 347:543-548)には、標的に結合する一次抗体と、一次抗体に結合する二次抗体であって、オリゴヌクレオチド配列に結合する二次抗体と、次いで、三次SBPとして、二次抗体に結合した配列に相補的なオリゴヌクレオチドであって、三次SBPに、アクリルアミドヒドロゲルに組み込まれ得るメタクリロイル基を含めたオリゴヌクレオチドとを使用する1つの例示的な実験プロトコルが記載されている。場合によっては、ヒドロゲルに組み込まれる部分を含むSBPはまた、標識を含む。これらの標識は、蛍光標識または元素タグであり得、したがって、例えば、フローサイトメトリー、光学走査およびフルオロメトリー(米国特許第2017253918号明細書)、またはマスサイトメトリーもしくはイメージングマスサイトメトリーによる後続の分析で使用される。
【0585】
ゲル化段階は、密に架橋された高電荷モノマーを含むヒドロゲルを試料中に注入することによって、試料中にマトリックスを生成する。例えば、アクリル酸ナトリウムが、コモノマーのアクリルアミドおよび架橋剤のN-N’メチレンビスアクリルアミドとともに、固定および透過処理された脳組織に導入されている(Chenら、2015を参照)。ポリマーが形成されると、ポリマーは固着工程で標的に結合した部分を組み込み、それにより、試料中の標的がゲルマトリックスに付着するようになる。
【0586】
次いで、均質化剤を用いて試料を処理して、試料が膨張に抵抗しないように、試料の機械的特性を均質化する(国際公開第2015127183号パンフレット)。例えば、試料は、酵素(プロテアーゼなど)による分解により、化学的タンパク質分解により(例えば、臭化シアンによる)、70~95°Cへの試料の加熱により、または超音波処理などの物理的破壊により均質化することができる(米国特許第2017276578号明細書)。
【0587】
次いで、試料/ヒドロゲル複合材料を低塩緩衝液または水中で透析することによって膨張させて、試料を三次元で元のサイズの4倍または5倍まで膨張させる。ヒドロゲルが膨張すると、試料、特に標的およびヒドロゲルに付着した標識も、標識の元の三次元配列を維持しながら膨張する。試料は低塩溶液または水中で膨張するため、膨張した試料は透明であり、試料の深部までの光学イメージングを可能にし、また、マスサイトメトリーを行う際に顕著なレベルの汚染元素を導入することなくイメージングを可能にする(例えば、蒸留水を使用することにより、または容量性脱イオン、逆浸透、炭素濾過、精密濾過、限外濾過、紫外線酸化もしくは電気脱イオンを含む他のプロセスによって精製される)。
【0588】
次いで、イメージング技術によって膨張した試料を分析し、疑似的に改善された解像度を提供することができる。例えば、蛍光顕微鏡は蛍光標識とともに使用することができ、イメージングマスサイトメトリーは元素タグとともに場合により組み合わせて使用することができる。ヒドロゲルの膨潤と、天然試料に対する膨張した試料中の標識間距離の付随する増加とに起因して、以前は別個に解像することができなかった標識(光学顕微鏡では可視光の回折限界、またはIMCではスポット直径によるものである)。
【0589】
膨張顕微鏡法(ExM)の変形例が存在し、これはまた、本明細書に開示される装置および方法を使用して適用することができる。これらの変形例には、タンパク質保持ExM(proExM)、膨張蛍光インサイチュハイブリダイゼーション(ExFISH)、反復型ExM(iExM)が含まれる。反復型膨張顕微鏡法(Iterative expansion microscopy)は、上記の技術を使用して予備膨張を既に行った試料中に第2の膨張性ポリマーゲルを形成することを含む。第1の膨張ゲルを溶解し、次いで、第2の膨張性ポリマーゲルを膨張させて、約20倍までの総膨張をもたらす。例えば、Changら、2017(Nat Methods 14:593-599)は、第1のゲルを切断可能な架橋剤(例えば、ジオール結合を高pHで切断することができる市販の架橋剤のN,N’-(1,2-ジヒドロキシエチレン)ビスアクリルアミド(DHEBA))を用いて作製するという置換を伴う、上記のChenら、2015の方法に基づいている。第1のゲルの固着および膨張に続いて、膨張した試料に、第1のゲルに組み込まれたオリゴヌクレオチドに相補的な標識されたオリゴヌクレオチド(第2のゲルに組み込むための部分を含む)を加えた。標識されたオリゴヌクレオチドの部分を組み込んだ第2のゲルが形成され、第1のゲルは、切断可能なリンカーの切断によって分解された。次いで、第2のゲルを第1のゲルと同じ方法で膨張させ、その結果、標識がさらに空間的に分離したが、元の試料中の標的の配列に関するそれらの空間的配列は維持された。場合によっては、第1のゲルの膨張に続いて、中間体「再包埋ゲル」を使用して、実験工程を行っている間、膨張した第1のゲルを適所に保持し、例えば、第1のヒドロゲルおよび再包埋ゲルが分解されて第2のヒドロゲルの膨張を可能にする前に、標識されたSBPを第1のゲルマトリックスにハイブリダイズさせ、膨張していない第2のヒドロゲルを形成する。以前のように、標識は、蛍光または元素タグであり得、したがって、例えば、フローサイトメトリー、光学走査およびフルオロメトリー、またはマスサイトメトリーもしくはイメージングマスサイトメトリーによる後続の分析で適切に使用される。
【0590】
パラメータおよび用途
本明細書に記載の方法およびシステムは、直径が500nm、400nm、300nm、200nm、100nm、50nm、30nmまたは20nm以下のスポットサイズ直径を達成し得る。さらに、スポットの深さは浅くてもよい。スポット深さは、スポットサイズの直径と同様であってもよいか、スポットサイズの直径よりも小さくてもよい。例えば、fsレーザは、浅い深さでアブレーションし得る(例えば、プルーム形成と同じ側から試料に導かれた場合、または透明基板を通して導かれた場合に試料のわずかに上方に集束された場合)。浅いスポット深さは、100nm、50nm、30nm、20nmまたは10nm以下であり得る。したがって、いくつかのスポットは、質量タグの1つのコピーのみを含み得る(例えば、RNAまたはタンパク質などの標的に結合した質量タグの1つのインスタンス)。質量タグは、抗体中間体および/またはハイブリダイズしたオリゴヌクレオチドプローブを介して標的に結合し得る。場合によっては、同じ位置(例えばX-Y座標)を複数回サンプリングし(例えば、異なるZ深度で)、さらに多くの試料を取得することによって、および/または3Dイメージングを可能にすることによって、検出を改善してもよい。
【0591】
解像度は、試料の膨張により(例えば、ゲル膨張などによって試料を架橋するマトリックスの膨張として)さらに改善され得る。
【0592】
さらに、本明細書に記載の方法およびシステムは、改善されたイオン化効率を提供し得る(例えば、レーザSNMS、アブレーション前の電子シーディング、アブレーション後のレーザイオン化、および/または初期中和後のレーザイオン化による)。ポストイオン化効率(検出によって帯電したままのイオン化された標識原子の割合)は、5%、10%、20%、30%または50%以上であり得る。さらに、試料表面またはその近くでのイオンの形成は、ICPへのアブレーションプルームの流体輸送中に生じる損失を伴うことなく、そのようなイオンをイオン光学系によって直接質量分析計に直接輸送することを可能にする。
【0593】
あるいは、またはさらに、感度は、多数の標識原子を含む質量タグにより改善され得る。そのような質量タグは、金属キレートポリマー、金属ナノ粒子(例えば、ポリマーマトリックスに捕捉された金属結晶(metallocrystal)または金属)、または複数の金属タグ付けオリゴヌクレオチドがRNA標的に、もしくは標的タンパク質に結合したアフィニティー試薬(例えば抗体)にコンジュゲートしたオリゴヌクレオチドにハイブリダイズされるハイブリダイゼーションスキームを含み得る。高感度質量タグは、少なくとも20、50、100、200、500、1000、2000、5000または10000の標識原子を有し得る。
【0594】
したがって、本明細書に記載の方法およびシステムは、単一のスポット(例えば、ピクセル)内の単一の質量タグの検出を可能にし得る。単一の質量タグを検出することができる場合、質量タグは、質量タグ(すなわち、標的バーコード)によって結合された標的に特異的な標識原子の固有の組合せを含み得る。これにより、異なる標識原子質量の数を超えて区別され得る標的の数が増加し得る。標的バーコードは、複数の異なる元素からの濃縮同位体を有し得る。例えば、10の異なる標識原子のうち5つを含む質量タグは、10の選択について5つ(すなわち、252)の固有の標的バーコードを可能にする。20の異なる標識原子のうち10を含む質量タグは、20の選択について10(すなわち、184、756)の固有の標的バーコードを可能にする。このように、50、100、200、500、1000、2000、5000または10000を超える異なる標的が標的バーコード化(target barcoded)され得る。標的バーコードが同じ予測数の異なる標識原子質量を含む場合、予測数を超える標的バーコード標識原子質量を含む任意のピクセルは無視され得る(すなわち、どの標的バーコードの組合せがそのスポットに存在していたかをデコンボリューションすることができない可能性がある)。特定の態様では、一部の質量タグは、質量の第1のサブセットから選択された単一の標識原子質量のみを含み得、他の質量タグは、標的バーコード化され得、質量の第1のサブセットと重複しない質量の第2のサブセットから選択された標識原子質量の固有の組合せを含み得る。例えば、存在量が高い標的に対する質量タグは、標的バーコード化されない場合がある。ただし、質量タグの濃度を制御すること、および/または質量タグ付けされていないアフィニティー試薬と競合することによって、存在量が高い標的に結合する標的バーコード化質量タグのインスタンスは、1ピクセル当たりの単一コピー検出を可能にするレベルまで低減され得る。場合によっては、比較的低い解像度および/または比較的低いサンプリング密度での試料の第1のイメージングは、非標的バーコード化質量タグの検出、および関心領域の識別を可能にし得る。次いで、比較的高い解像度および/または比較的高密度のサンプリングを、識別された関心領域で行って、標的バーコード化質量タグの単一コピーを検出してもよい。
【0595】
単一細胞内で単一分子解像度で多くの標的を検出するためには、細胞から多くのピクセルをサンプリングする必要がある場合がある。例えば、ほぼ球形の10ミクロンの細胞は、細胞の同じ位置(例えばX-Y座標)が複数回サンプリングされる場合(例えば、異なるZ深度で)、10nmのスポットサイズで10億回近くサンプリングされ得る。ピクセルのサブセットは単一の標的バーコード化質量タグを有し、それらのうちの多くは反復的な標的バーコード化質量タグ(標的の発現レベルを定量するために計数され得る)を有し得る。例えば、細胞内で100万ピクセルが検出され、これらのピクセルの10%が標的バーコード質量タグの単一コピーを有し、細胞内の各標的バーコード質量タグの平均数が100である場合、細胞内で1000の異なる標的バーコード質量タグが検出され得る。
【0596】
上記の質量タグは、試料中の標的に結合するために、場合によりアフィニティー試薬および/またはオリゴヌクレオチドと一緒に、またはそれらに結合して、キットで提供され得る。
【0597】
定義
用語「含む(comprising)」は、「含む(including)」および「からなる(consisting)」を包含し、例えば、Xを「含む(comprising)」組成物は、Xのみからなり得るか、追加の何か、例えば、X+Yを含み得る。
【0598】
数値xに関連する用語「約」は任意であり、例えば、x+10%を意味する。
【0599】
「実質的に」という語句は、「完全に」を除外するものではなく、例えば、Yを「実質的に含まない」組成物は、Yを完全に含まない場合がある。必要に応じて、「実質的に」という語句は、本開示の定義から省略され得る。
【実施例
【0600】
実施例1
プロトコル
2%PFAおよび2.5%グルタルアルデヒドを使用して臓器を採取した後、マウスの腸を浸漬固定した。組織を2%四酸化オスミウムにより1時間かけて後固定した。脱水後、組織試料をEPON樹脂に包埋し、切片化した。
【0601】
1000nmの組織切片をレーザアブレーションに供し、Hyperionイメージングシステムによってオスミウム同位体の存在を分析した。
【0602】
結果
図11は、標準的な免疫電子顕微鏡法プロトコルによって処理されたマウスの腸組織に存在する豊富なオスミウム同位体(188Os、189Os、190Osおよび192Os)、および天然には存在量が少ない同位体(0.02%184Os、1.59%186Os、1.96%187Os)の検出を示している。腸の形態は、平滑筋の密な外層(左上隅)、杯細胞を有する粘膜上皮、ならびに上皮下に散在する間質および免疫細胞によって明確にされている。
【0603】
したがって、構造の詳細について、2%四酸化オスミウムにより処理された1μmの電子顕微鏡切片をイメージングすることができる。組織を固定するために使用される四酸化オスミウム濃度は、IMC検出器に対して過飽和ではないと決定される。
【0604】
IMC設定:マウス腸樹脂、He=1050、Ar=0_9、Z=2871、atte
n=30、200um×200um、200Hz 200パルス 200um-sec、
領域1
マウスの腸のさらに広い領域もアブレーションした。図12の画像は、250nmの工
程サイズで2100×1087umの領域を示している。以下は、本発明の例である。
(例1)
生体試料を分析するための装置であって、
第1の面および第2の面を備える試料ステージであって、前記第1の面および第2の面が対向し、前記第1の面が生体試料を受け入れるように適合される試料ステージと、
レーザ源と、
対物レンズを備える集束光学系であって、放射線ビームを前記レーザ源から前記第2の面に向けて前記試料ステージ上の位置に導くように適合された集束光学系と、を備え、
前記装置が、前記対物レンズと前記試料ステージの前記第2の面との間に配置された浸漬媒体をさらに備える装置。
(例2)
前記浸漬媒体が、1.00以上、例えば、1.33以上、1.50以上、2.00以上、2.50以上の屈折率を有する、例1に記載の装置。
(例3)
前記浸漬媒体が液浸媒体であり、場合により、前記液浸媒体が油または水である、例1または例2に記載の装置。
(例4)
前記浸漬媒体が固体浸漬媒体であり、場合により、前記固体浸漬媒体が、S-LAH79、ダイヤモンドまたは溶融シリカである、例1または例2に記載の装置。
(例5)
前記固体浸漬媒体が、半球状固体浸漬レンズまたはワイエルシュトラス固体浸漬レンズである、例4に記載の装置。
(例6)
前記レーザ源が、フェムト秒レーザ、ピコ秒レーザまたはナノ秒レーザである、例1から5のいずれか一項に記載の装置。
(例7)
前記レーザ源がUVレーザであり、場合により、前記レーザが、193nm、213nmまたは266nmの波長の放射線ビームを放出する、例1から6のいずれか一項に記載の装置。
(例8)
前記レーザが近赤外レーザであり、前記レーザが、700~1300nmの波長の放射線ビームを放出する、例1から7のいずれか一項に記載の装置。
(例9)
前記レーザが、前記試料ステージ上の前記位置に100nm以下のアブレーションスポットサイズを生成する、例1から8のいずれか一項に記載の装置。
(例10)
生体試料を備える、例1から9のいずれか一項に記載の装置であって、動作中、前記生体試料が、前記試料ステージの前記第1の面上に配置され、前記生体試料が、前記試料ステージの、前記浸漬媒体とは反対側に配置され、場合により、前記生体試料が、試料キャリア上に配置される装置。
(例11)
前記試料が、100マイクロメートル以下、例えば、10マイクロメートル以下、5マイクロメートル以下、2マイクロメートル以下、または1マイクロメートル以下、または100nm以下、または50nm以下、または30nm以下の厚さを有する、例10に記載の装置。
(例12)
試料イオンを検出するための検出器を備える、例1から11のいずれか一項に記載の装置。
(例13)
イオン化システムを備える、例1から12のいずれか一項に記載の装置。
(例14)
電子ビーム源をさらに備える、例1から13のいずれか一項に記載の装置であって、前記電子ビーム源が、前記生体試料の電子顕微鏡検査用である装置。
(例15)
例13に従属する場合、電子顕微鏡をさらに備える、例14に記載の装置。
(例16)
a)電子顕微鏡検査用の造影剤を用いて試料を染色すること、
b)標識原子を用いて前記試料を標識すること、
を含む、分析のための生体試料を調製する方法。
(例17)
前記試料を薄片に切片化することを最初に含む、例16に記載の方法であって、場合により、前記試料が、10マイクロメートル未満、例えば、1マイクロメートル以下、または100nm以下、または50nm以下、または30nm以下の厚さの切片に切片化される方法。
(例18)
前記造影剤が、四酸化オスミウム、金、銀およびイリジウムのうちの少なくとも1つを含む、例16または例17に記載の方法。
(例19)
前記標識原子が、金標識抗体およびランタニド標識抗体のうちの少なくとも1つを含む、例16から18のいずれか一項に記載の方法。
(例20)
レーザ源から放出された放射線ビームを試料上の位置に向けて導いて、試料材料のアブレーションされたプルームを生成すること、
前記試料材料の前記アブレーションされたプルームをイオン化すること、および
前記試料材料から試料イオンを検出すること、
を含む、生体試料を分析する方法。
(例21)
電子顕微鏡検査を最初に行うことを含む、例20に記載の方法。
(例22)
前記生体試料が、例16から19のいずれか一項に記載の方法に従って調製される、例20または例21に記載の方法。
(例23)
例1から15のいずれか一項に記載の装置を使用する、例20から22のいずれか一項に記載の方法。
(例24)
試料ステージと、
荷電粒子源、および荷電粒子ビームを前記試料ステージ上の位置に通過させるための荷電粒子カラムと、
第1のレーザ源、および前記第1のレーザ源によって放出されたレーザビームを前記試料ステージに向けて導くように構成された第1の集束光学系と、
を備える、生体試料を分析するための装置。
(例25)
前記第1の集束光学系が、荷電粒子パルスの直後に前記試料ステージ上の前記位置に到達するように、レーザビームパルスを同期させるように構成される、例24に記載の装置。
(例26)
前記第1の集束光学系が、レーザビームパルスを同期させて、荷電粒子パルスによってスパッタリングされた材料のプルームをイオン化するように構成される、例24に記載の装置。
(例27)
前記荷電粒子源および荷電粒子カラム、ならびに前記第1のレーザ源および第1の集束光学系が、前記荷電粒子ビームおよびレーザビームが前記試料ステージの同じ側に向けて導かれるように構成される、例24から26のいずれか一項に記載の装置。
(例28)
前記荷電粒子源および荷電粒子カラム、ならびに前記第1のレーザ源および第1の集束光学系が、前記荷電粒子ビームおよびレーザビームが前記試料ステージの反対側に向けて導かれるように構成される、例24から26のいずれか一項に記載の装置。
(例29)
第2のレーザ源および第2の集束光学系をさらに備える、例24から28のいずれか一項に記載の装置であって、前記第2の集束光学系が、前記第2のレーザ源からのレーザビームパルスを同期させて、荷電粒子パルスによってスパッタリングされた材料のプルームをイオン化するように構成される装置。
(例30)
前記第1のレーザ源および第1の集束光学系、ならびに第2のレーザ源および第2の集束光学系が、前記第1のレーザ源からのレーザビームおよび前記第2のレーザ源からのレーザビームが前記試料ステージの同じ側に向けて導かれるように構成される、例29に記載の装置。
(例31)
前記第1のレーザ源および第1の集束光学系、ならびに第2のレーザ源および第2の集束光学系が、前記第1のレーザ源からのレーザビームおよび前記第2のレーザ源からのレーザビームが前記試料ステージの反対側に向けて導かれるように構成される、例29に記載の装置。
(例32)
前記荷電粒子源が、一次イオンビームおよび/または電子ビームのうちの1つである、例24から31のいずれか一項に記載の装置。
(例33)
前記レーザ源がパルスレーザ源であり、場合により、前記レーザ源がフェムト秒レーザ、ピコ秒レーザまたはナノ秒レーザである、例24から32のいずれか一項に記載の装置。
(例34)
前記レーザ源が、1ナノジュール~100マイクロジュール、例えば、10ナノジュール~100マイクロジュール、100ナノジュール~10マイクロジュール、500ナノジュール~5マイクロジュール、例えば、約1マイクロジュール、約2マイクロジュール、約3マイクロジュールまたは約4マイクロジュールおよび/または
1ミリジュール~50ミリジュール、例えば、5ミリジュール~40ミリジュール、10ミリジュール~30ミリジュール、20ミリジュール~35ミリジュール、または約25ミリジュールもしくは35ミリジュールのパルスエネルギーを有するように適合される、例33に記載の装置。
(例35)
前記荷電粒子ビームがパルス化される、例24から34のいずれか一項に記載の装置。
(例36)
前記試料ステージ上の複数の位置にわたって前記荷電粒子ビームを走査するように適合された荷電粒子ビーム走査システムを備える、例24から35のいずれか一項に記載の装置。
(例37)
電子顕微鏡をさらに備える、例24から36のいずれか一項に記載の装置。
(例38)
前記荷電粒子源が電子ビームであり、前記電子ビームが前記電子顕微鏡内の電子源である、例37に記載の装置。
(例39)
前記試料ステージが透明である、および/または前記試料ステージが切欠き部分を備える、例34から38のいずれか一項に記載の装置。
(例40)
可変遅延線を備える、例24から39のいずれか一項に記載の装置。
(例41)
前記第1および/または第2のレーザ源が、なだれイオン化によって材料をイオン化するように構成される、例24から40のいずれか一項に記載の装置。
(例42)
荷電粒子ビームを試料上の位置に向けて通過させること、
第1のレーザビームパルスにより前記試料を照射して、試料イオンを含む材料のプルームを生成すること、および
質量分析によって前記試料イオンを検出すること、
を含む、生体試料を分析する方法。
(例43)
例42に記載の方法であって、
前記荷電粒子ビームを前記試料上の位置に向けて通過させると、前記試料から材料がスパッタリングされ、前記方法が、前記第1のレーザビームパルスによって、前記スパッタリングされた試料を照射すること、および前記スパッタリングされた材料をイオン化して試料イオンを生成することを含む方法。
(例44)
例42に記載の方法であって、
前記荷電粒子ビームを前記試料上の位置に向けて通過させると、試料点火状態がもたらされ、前記試料を照射すると、前記試料上の前記位置に試料エネルギーポンピング状態がもたらされる方法。
(例45)
前記荷電粒子ビームが、前記試料の片側から前記試料上の位置に向かって通過し、前記第1のレーザビームパルスが、前記試料の同じ側から前記試料を照射する、例42から44のいずれか一項に記載の方法。
(例46)
前記荷電粒子ビームが、前記試料の片側から前記試料上の位置に向かって通過し、前記第1のレーザビームパルスが、前記試料の反対側から前記試料を照射する、例42から44のいずれか一項に記載の方法。
(例47)
例44に記載の方法、または例44に従属する場合、例45および46に記載の方法であって、
前記荷電粒子ビームを前記試料上の位置に向けて通過させることが、前記試料から材料をスパッタリングすることをさらに含み、前記方法が、第2のレーザビームパルスによって、前記スパッタリングされた試料材料を照射すること、および前記スパッタリングされた材料をイオン化することを含む方法。
(例48)
前記第1のレーザビームパルスおよび前記第2のレーザビームパルスが、前記試料の同じ側から前記試料を照射する、例47に記載の方法。
(例49)
前記第1のレーザビームパルスおよび前記第2のレーザビームパルスが、前記試料の反対側から前記試料を照射する、例47に記載の方法。
(例50)
前記試料に向けて電子ビームを導くこと、および
電子顕微鏡を使用して前記試料をイメージングすること、
を最初に含む、例42から49のいずれか一項に記載の方法。
(例51)
前記生体試料の多重化画像を生成することを含む、例20から23および例42から50のいずれか一項に記載の方法。
(例52)
第1のレーザビームパルスによって前記試料を照射して、試料イオンを含む材料のプルームを生成することが、なだれイオン化プロセスを含む、例42から50のいずれか一項に記載の方法。
(例53)
生体試料を分析するための装置であって、
第1の面および第2の面を備える試料ステージであって、前記第1の面および第2の面が対向し、前記第1の面が生体試料を受け入れるように適合される試料ステージと、
レーザ源と、
対物レンズを備える集束光学系であって、放射線ビームを前記レーザ源から前記第2の面に向けて前記試料ステージ上の位置に導くように適合された集束光学系と、を備え、
前記対物レンズが、少なくとも0.6の開口数を有する装置。
(例54)
第1の面および第2の面を備える試料ステージであって、前記第1の面および第2の面が対向し、前記第1の面が生体試料を受け入れるように適合される試料ステージと、
レーザ源と、
対物レンズを備える集束光学系であって、放射線ビームを前記レーザ源から前記第2の面に向けて前記試料ステージ上の位置に導くように適合された集束光学系と、
を備える、生体試料を分析するための装置。
(例55)
例53または54に記載の装置であって、生体試料をさらに備え、前記生体試料が、例16から19のいずれか一項に記載の方法に従って調製される装置。
(例56)
前記レーザ源が、500~600nmの波長を提供する、例53または54に記載の装置。
(例57)
前記レーザ源がUVレーザ源である、例53または54に記載の装置。
(例58)
前記レーザ源がIRレーザ源である、例53または54に記載の装置。
(例59)
前記対物レンズが、少なくとも0.6の開口数を有する、例1に記載の装置。
(例60)
前記試料ステージの前記位置で試料から放出された試料をイオン化するためのレーザをさらに備える、例1、53または54に記載の装置。
(例61)
部分真空または真空下で前記試料ステージを保持するように構成される、例60に記載の装置。
(例62)
試料ステージと、
前記試料ステージ上の位置にビームを通過させるためのエネルギー源であって、レーザ、イオンビームまたは電子ビームであるエネルギー源と、
第1のレーザ源、および前記第1のレーザ源によって放出されたレーザビームを前記試料ステージに向けて導くように構成された第1の集束光学系と、
を備える、生体試料を分析するための装置。
(例63)
試料ステージと、
試料中に電子をシードするように構成された第1のレーザ源、および前記第1のレーザ源によって放出されたレーザビームを前記試料ステージに向けて導くように構成された第1の集束光学系と、
前記第1のレーザ源によって電子がプレシードされた試料材料をアブレーションするように構成された第2のレーザ源、および前記第2のレーザ源によって放出されたレーザビームを前記試料ステージに向けて導くように構成された第2の集束光学系と、
を備える、生体試料などの試料を分析するための2パルスレーザサンプリングおよびイオン化システム。
(例64)
前記第2の集束光学系が、第1のレーザ放射線パルスの直後に前記試料ステージ上の位置に到達するように、第2のレーザ放射線パルスを同期させるように構成される、例63に記載のサンプリングおよびイオン化システム。
(例65)
例63または例64に記載のサンプリングおよびイオン化システムであって、前記試料ステージが、第1の面および第2の面を備え、前記第1および第2の面が対向し、前記第1の面が生体試料を受け入れるように適合され、
前記第1の集束光学系が、前記第1のレーザ源によって放出されたレーザビームを前記試料ステージの前記第1の面に向けて導くように構成され、
前記第2の集束光学系が、前記第2のレーザ源によって放出されたレーザビームを前記試料ステージの前記第1の面に向けて導くように構成されるサンプリングおよびイオン化システム。
(例66)
例63または例64に記載のサンプリングおよびイオン化システムであって、前記試料ステージが、第1の面および第2の面を備え、前記第1および第2の面が対向し、前記第1の面が生体試料を受け入れるように適合され、
前記第1の集束光学系が、前記第1のレーザ源によって放出されたレーザビームを前記試料ステージの前記第1の面に向けて導くように構成され、
前記第2の集束光学系が、前記第2のレーザ源によって放出されたレーザビームを前記試料ステージの前記第2の面に向けて導くように構成されるサンプリングおよびイオン化システム。
(例67)
例63または例64に記載のサンプリングおよびイオン化システムであって、前記試料ステージが、第1の面および第2の面を備え、前記第1および第2の面が対向し、前記第1の面が生体試料を受け入れるように適合され、
前記第1の集束光学系が、前記第1のレーザ源によって放出されたレーザビームを前記試料ステージの前記第2の面に向けて導くように構成され、
前記第2の集束光学系が、前記第2のレーザ源によって放出されたレーザビームを前記試料ステージの前記第2の面に向けて導くように構成されるサンプリングおよびイオン化システム。
(例68)
前記第1の集束光学系および第2の集束光学系が、同じ対物レンズを使用して、前記第1および第2のレーザ源からの放射線を集束させる、例63から67のいずれか一項に記載のサンプリングおよびイオン化システム。
(例69)
前記試料ステージが、前記第1のパルスに対して少なくとも半透明であり、前記第2のパルスに対してさらになお透明である材料から少なくとも部分的に構成される、例63から68のいずれか一項に記載のサンプリングおよびイオン化システム。
(例70)
前記第1の集束光学系の前記対物レンズが、試料からのイオン化された材料が開口部を通過することを可能にするために中央に開口部を有する、例63から69のいずれか一項に記載のサンプリングおよびイオン化システム。
(例71)
前記第1のレーザ源によって放出される光が、200nm以下、175nm以下、150nm以下、125nm以下、100nm以下、75nm以下、50nm以下、25nm以下、20nm以下または15nmである、例63から70のいずれか一項に記載のサンプリングおよびイオン化システム。
(例72)
前記第1のレーザ源によって放出される光が、10~200nm、10~175nm、10~150nm、10~125nm、10~100nm、10~75nm、10~50nm、10~25nm、10~20nmまたは10~15nmである、例63から71のいずれか一項に記載のサンプリングおよびイオン化システム。
(例73)
前記第1のレーザ源のパルスエネルギーが、パルスエネルギーが材料に電子をシードするが、前記材料をアブレーションしないように選択される、例63から72のいずれか一項に記載のサンプリングおよびイオン化システム。
(例74)
前記第1のレーザ源の前記パルスエネルギーが、1ピコJ~100フェムトJ、10ピコJ~100フェムトJまたは100ピコJ~1フェムトJなどのピコJからフェムトJの範囲にある、例63から73のいずれか一項に記載のサンプリングおよびイオン化システム。
(例75)
前記第1のレーザ源からのパルスの持続時間が、5ps以下、例えば2ps以下、1ps以下、500fs以下、400fs以下、300fs以下、200fs以下または100fs以下、50fs以下、40fs以下、30fs以下、20fs以下または10fs以下である、例63から74のいずれか一項に記載のサンプリングおよびイオン化システム。
(例76)
前記第1の集束光学系が、約100nm以下、例えば、75nm以下、50nm以下または約30nmの、前記試料におけるスポットサイズに、前記第1のレーザ源からの前記レーザ放射線を集束させなければならない、例63から75のいずれか一項に記載のサンプリングおよびイオン化システム。
(例77)
前記第1の集束光学系の前記対物レンズが、反射対物レンズである、例63から76のいずれか一項に記載のサンプリングおよびイオン化システム。
(例78)
前記第2のレーザ源によって放出されるレーザ放射線の波長が、IRまたは可視光である、例63から77のいずれか一項に記載のサンプリングおよびイオン化システム。
(例79)
前記第2のレーザ源によって放出されるレーザ放射線の波長が、400nm以上、500nm以上、600nm以上、700nm以上、800nm以上または1μm以上である、例63から78のいずれか一項に記載のサンプリングおよびイオン化システム。
(例80)
前記第2のレーザ源によって放出されるレーザ放射線の波長が、200nm~100μm、例えば、200nm~10μm、200nm~1μm、200nm~900nm、200nm~800nm、200nm~700nm、200nm~600nmまたは500nm~600nmである、例63から79のいずれか一項に記載のサンプリングおよびイオン化システム。
(例81)
前記第2のレーザ源のパルスエネルギーが、1ナノJ~1μJ、10ナノJ~500ナノJ、50ナノJ~250ナノJ、または約100ナノJなどのナノジュールの範囲にある、例63から80のいずれか一項に記載のサンプリングおよびイオン化システム。
(例82)
前記第1のパルスの持続時間が、5ps以下、例えば2ps以下、1ps以下、500fs以下、400fs以下、300fs以下、200fs以下または100fs以下、50fs以下、40fs以下、30fs以下、20fs以下または10fs以下である、例63から81のいずれか一項に記載のサンプリングおよびイオン化システム。
(例83)
前記第2の集束光学系が、約2μm以下、例えば1μm以下、750nm以下、500nm、250nm以下、200nm以下、150nm以下または約100nmの、前記試料におけるスポットサイズに、前記レーザ放射線を集束させる、例63から82のいずれか一項に記載のサンプリングおよびイオン化システム。
(例84)
前記システムが、前記第1および第2のレーザ源のための単一のレーザと、前記レーザを分割し、前記第1および第2のレーザ源を提供するためのビームスプリッタとを備える、例63から83のいずれか一項に記載のサンプリングおよびイオン化システム。
(例85)
例63から84のいずれか一項に記載のサンプリングおよびイオン化システムであって、単一のレーザと、ビームスプリッタと、2つの高調波発生器とを備え、前記高調波発生器の一方が、第1のレーザ源としての前記単一のレーザからUV、VUV、EUVまたはXUVレーザ放射線を生成するように適合され、前記高調波発生器の他方が、第2のレーザ源としての前記単一のレーザからIRまたは可視波長レーザ放射線を生成するように適合されるサンプリングおよびイオン化システム。
(例86)
例85に記載のサンプリングおよびイオン化システムであって、光遅延線をさらに備え、前記光遅延線が、前記単一のレーザの同じパルスから導出された、前記第2のレーザ源からのパルスの後に、前記単一のレーザのパルスから導出された、前記第2のレーザ源からのパルスを送達するように適合され、その結果、前記第2のパルスの終了が、前記第1のパルスの開始後50ps未満、例えば25ps未満、10ps未満、例えば5ps未満、2ps未満または1ps未満であるサンプリングおよびイオン化システム。
(例87)
前記レーザが、フェムト秒レーザ、特にフェムト秒ファイバレーザである、例84から86のいずれか一項に記載のサンプリングおよびイオン化システム。
(例88)
前記試料からアブレーションされた試料材料のプルームをイオン化するように構成された第3のレーザ源をさらに備える、例63から87のいずれか一項に記載のサンプリングおよびイオン化システム。
(例89)
アブレーションされた試料材料がプルームを形成する体積に、前記第3のレーザ源によって放出されたレーザビームを導くように構成された第3の集束光学系をさらに備える、例88に記載のサンプリングおよびイオン化システム。
(例90)
第3の集束光学系が、前記第2のレーザ源からの前記パルスの終了から100ps未満、例えば、50ps未満、30ps未満または10ps未満後に前記試料ステージ上の前記位置の上方の体積に到達するように、第3のレーザ放射線パルスを同期させる、例88に記載のサンプリングおよびイオン化システム。
(例91)
例63から90のいずれか一項に記載のサンプリングおよびイオン化システムであって、試料チャンバをさらに備え、前記試料チャンバが、アルゴン、ヘリウム、窒素またはそれらの混合物を含む、サンプリングおよびイオン化システム。
(例92)
前記試料チャンバが、部分真空または真空下に保持される、例91に記載のサンプリングおよびイオン化システム。
(例93)
例63から92のいずれか一項に記載のサンプリングおよびイオン化システムを備える装置。
(例94)
TOFまたは磁気セクタ検出器などの質量検出器を備える、例93に記載の装置。
(例95)
a)標識原子により試料を標識すること、
b)エネルギー源からの放射線により、スポットにある試料を照射することであって、前記スポットが、500nm以下、400nm以下、300nm以下、200nm以下、50nm以下または30nm以下のスポットサイズを含む、ことと、
c)前記スポットから前記試料をイオン化すること、
d)質量分析によって標識原子を検出すること、
を含む方法。
(例96)
前記エネルギー源が、レーザ、電子ビーム源またはイオンビーム源である、例95に記載の方法。
(例97)
イオン化の工程c)がレーザによって行われ、前記レーザが工程b)の前記エネルギー源ではない、例95または例96に記載の方法。
(例98)
イオン化の工程c)がICPによるものである、例95に記載の方法。
(例99)
工程c)が前記スポットで行われる、例95に記載の方法。
(例100)
前記スポットが、50nm以下、30nm以下または10nm以下の深さを有する、例95から99のいずれか一項に記載の方法。
(例101)
前記標識原子が質量タグのものである、例95から100のいずれか一項に記載の方法。
(例102)
前記質量タグの少なくともいくつかが、標的バーコード化される、例101に記載の方法。
(例103)
単一の標的バーコード化質量タグが、第1のスポットで検出される、例102に記載の方法。
(例104)
前記試料中の標識原子の分布の画像を生成するために、工程a)からd)を繰り返すことをさらに含む、例95から103のいずれか一項に記載の方法。
図1
図2
図3
図4
図5a)】
図5b)】
図6
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