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特許7489340原子力発電プラントの出力制御装置及び出力制御方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-15
(45)【発行日】2024-05-23
(54)【発明の名称】原子力発電プラントの出力制御装置及び出力制御方法
(51)【国際特許分類】
   G21D 3/00 20060101AFI20240516BHJP
   G21D 3/12 20060101ALI20240516BHJP
【FI】
G21D3/00 D
G21D3/00 A
G21D3/12 A
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021009920
(22)【出願日】2021-01-25
(65)【公開番号】P2022113590
(43)【公開日】2022-08-04
【審査請求日】2023-08-03
(73)【特許権者】
【識別番号】507250427
【氏名又は名称】日立GEニュークリア・エナジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】片桐 幸徳
(72)【発明者】
【氏名】村上 洋平
【審査官】佐藤 海
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-304264(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0218970(US,A1)
【文献】特開昭63-090605(JP,A)
【文献】特開昭64-000499(JP,A)
【文献】特開昭63-184098(JP,A)
【文献】特開2017-194312(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21D 1/00-9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原子炉で発生した蒸気で駆動する高圧蒸気タービンから流出した抽気蒸気の流量を調整する高圧抽気弁と、
前記高圧蒸気タービンの駆動後に再加熱された蒸気で駆動する低圧蒸気タービンから流出した抽気蒸気の流量を調整する低圧抽気弁と、
原子力発電プラントの出力目標値に基づいて前記高圧抽気弁及び前記低圧抽気弁を制御する弁制御手段と、を備え、
前記弁制御手段は、前記出力目標値の単位時間当たりの変化率である出力変化率と変化時の前記出力目標値の総変化量である出力変化量とを求める出力目標値信号分配手段を有する
ことを特徴とする原子力発電プラントの出力制御装置。
【請求項2】
請求項に記載の原子力発電プラントの出力制御装置において、
前記弁制御手段は、さらに、
前記出力目標値の変化時に、前記出力目標値信号分配手段の第1の出力である出力変化率に基づいて前記低圧抽気弁の開度を設定する低圧抽気弁開度設定手段と、
前記出力目標値信号分配手段の第2の出力である出力変化量と実出力値の差とに基づいて前記高圧抽気弁の開度を設定する高圧抽気弁開度設定手段と、を有する
ことを特徴とする原子力発電プラントの出力制御装置。
【請求項3】
原子炉で発生した蒸気で駆動する高圧蒸気タービンから流出した抽気蒸気の流量を調整する高圧抽気弁と、
前記高圧蒸気タービンの駆動後に再加熱された蒸気で駆動する低圧蒸気タービンから流出した抽気蒸気の流量を調整する低圧抽気弁と、
原子力発電プラントの出力目標値に基づいて前記高圧抽気弁及び前記低圧抽気弁を制御する弁制御手段と、
記出力目標値の変化時に、前記原子炉の炉心を流れる冷却水の流量調整及び前記原子炉から前記高圧蒸気タービンに送出する主蒸気の流量調整による出力制御と前記高圧抽気弁及び前記低圧抽気弁の開閉による出力制御とのいずれか一方に運転状態を切り替える運転切替手段を備える
ことを特徴とする原子力発電プラントの出力制御装置。
【請求項4】
原子炉で発生した蒸気で駆動する高圧蒸気タービンから流出した抽気蒸気の流量を調整する高圧抽気弁と、
前記高圧蒸気タービンの駆動後に再加熱された蒸気で駆動する低圧蒸気タービンから流出した抽気蒸気の流量を調整する低圧抽気弁と、
原子力発電プラントの出力目標値に基づいて前記高圧抽気弁及び前記低圧抽気弁を制御する弁制御手段と、を備え、
前記出力目標値の変化時に、前記低圧蒸気タービンから流出した抽気蒸気を複数の低圧給水加熱器に導くための複数の抽気配管のうち、単相の蒸気のみが流れる抽気配管に設けられた低圧抽気弁を作動させる
ことを特徴とする原子力発電プラントの出力制御装置。
【請求項5】
請求項1乃至請求項のいずれか一項に記載の原子力発電プラントの出力制御装置において、
前記弁制御手段は、前記出力目標値の変化時に、前記出力目標値に基づいて前記高圧抽気弁及び前記低圧抽気弁の開閉を制御するとともに、前記原子炉の出力を一定とする
ことを特徴とする原子力発電プラントの出力制御装置。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のいずれか一項に記載の原子力発電プラントの出力制御装置において、
さらに、前記原子炉の圧力に応じて制御棒と再循環ポンプとを制御することで前記原子炉の圧力を調整する圧力調整手段を備える
ことを特徴とする原子力発電プラントの出力制御装置。
【請求項7】
原子炉で発生した蒸気で駆動する高圧蒸気タービンから流出した抽気蒸気の流量を調整する高圧抽気弁と、前記高圧蒸気タービンの駆動後に再加熱された蒸気で駆動する低圧蒸気タービンから流出した抽気蒸気の流量を調整する低圧抽気弁と、を備える原子力発電プラントに対して、前記原子力発電プラントの出力目標値に基づいて前記高圧抽気弁及び前記低圧抽気弁を制御し、その際に、前記出力目標値の単位時間当たりの変化率である出力変化率と変化時の前記出力目標値の総変化量である出力変化量とを求める
ことを特徴とする原子力発電プラントの出力制御方法。
【請求項8】
原子炉で発生した蒸気で駆動する高圧蒸気タービンから流出した抽気蒸気の流量を調整する高圧抽気弁と、前記高圧蒸気タービンの駆動後に再加熱された蒸気で駆動する低圧蒸気タービンから流出した抽気蒸気の流量を調整する低圧抽気弁と、を備える原子力発電プラントに対して、前記原子力発電プラントの出力目標値に基づいて前記高圧抽気弁及び前記低圧抽気弁を制御するとともに、前記出力目標値の変化時に、前記原子炉の炉心を流れる冷却水の流量調整及び前記原子炉から前記高圧蒸気タービンに送出する主蒸気の流量調整による出力制御と前記高圧抽気弁及び前記低圧抽気弁の開閉による出力制御とのいずれか一方に運転状態を切り替える
ことを特徴とする原子力発電プラントの出力制御方法。
【請求項9】
原子炉で発生した蒸気で駆動する高圧蒸気タービンから流出した抽気蒸気の流量を調整する高圧抽気弁と、前記高圧蒸気タービンの駆動後に再加熱された蒸気で駆動する低圧蒸気タービンから流出した抽気蒸気の流量を調整する低圧抽気弁と、を備える原子力発電プラントに対して、前記原子力発電プラントの出力目標値に基づいて前記高圧抽気弁及び前記低圧抽気弁を制御するとともに、前記出力目標値の変化時に、前記低圧蒸気タービンから流出した抽気蒸気を複数の低圧給水加熱器に導くための複数の抽気配管のうち、単相の蒸気のみが流れる抽気配管に設けられた低圧抽気弁を作動させる
ことを特徴とする原子力発電プラントの出力制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原子力発電プラントの出力制御装置及び出力制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、沸騰水型原子力発電プラントにおける発電機出力制御は、目標発電機出力値(出力目標値)と現在の実発電機出力値(実出力値)との間に偏差が生じた場合、偏差に応じて原子炉出力を調整するとともに、原子炉からタービンに送気する蒸気(主蒸気)の量を調整することで実出力値を出力目標値に一致させている。
【0003】
例えば特許文献1には、従来の出力制御装置の一例が記載されている。特許文献1によれば、最初に原子炉出力の調整手段として出力目標値と実出力値との偏差に基づいて再循環ポンプの速度を調整する。これにより原子炉の炉心を流れる冷却材(冷却水)の流量が変化し、原子炉の出力変化がもたらされる。次に、原子炉の出力変化に応じてタービンに送出する主蒸気の量を蒸気加減弁で調整する。これにより出力目標値と実出力値が一致する。そして特許文献1では、出力目標値に対する実出力値の制御遅れを抑制するため、本来の出力目標値とは別に制御用の出力目標値を設定し、これを用いて制御遅れを先行的に補償する構成が開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、主蒸気によって駆動する蒸気タービンの中間段落から抜き出される蒸気(抽気蒸気)に着目し、抽気蒸気の量の増減により実出力値を調節する手段を追加した別の従来の出力制御装置が記載されている。この出力制御装置では、出力目標値と実出力値との偏差に基づいて原子炉出力を上昇させた後、出力目標値と実出力値になお偏差が生じる場合に、抽気蒸気の量を制御して実出力値の上昇を補助する構成になっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開昭64-91095号公報
【文献】特開2017-194312号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1,2に記載された従来技術は、以下に説明するように、出力目標値の変化に近似した実出力値の変化を実現する原子力発電プラントの出力制御を実現することが要望されていた。
【0007】
例えば、近年、温室効果ガスの排出量削減を目標として、再生可能エネルギー発電の導入と、温室効果ガスの排出源の一つである火力発電プラントの廃止が進められている。太陽光発電や風力発電に代表される再生可能エネルギー発電は、昼夜や天候・気候によって発電量が時々刻々変化する。そのため、電力の需要と供給を常にバランスさせて運用する電力系統にあっては、再生可能エネルギーの発電量の変動を吸収し、電力系統を安定的に運用するための発電手段(調整力)が必要となる。これまで、電力系統を安定的に運用するための調整力として火力発電プラントがその役割を担ってきたが、温室効果ガスの排出量削減の目標に対応して順次廃止が見込まれており、火力発電を代替する調整力が必要となる。このような状況に鑑み、出力一定での運転が前提とされる原子力発電プラントにおいても、電力系統からの指令に応じた負荷追従運転、すなわち調整力としての活用が検討されている。
【0008】
しかしながら、沸騰水型原子炉を有する原子力発電プラントでは、出力目標値の変化に対し、実出力値の遅れが顕著である。これは、原子炉内の核反応度を調整するための手段(例えば制御棒)の動作開始から実際に核反応が増加/減少するまでの遅れや、増加/減少した核反応により燃料内で発生した熱が冷却水に伝わるまでの遅れに起因する。これらの遅れを無視して原子炉の出力を急激に変化した場合、燃料棒内部に発生する熱応力や熱変形により燃料棒の健全性が損なわれ、原子炉ひいては原子力発電プラントを安全に運転することが困難となる。
【0009】
原子力発電を調整力として活用可能とするという課題に対し、特許文献1,2に記載された従来技術は、原子炉の出力変更で対応するが、いずれも燃料棒の健全性を考慮しての運用が前提となる。また、再生可能エネルギーからの発電量の変化は、昼夜や天候・気候によってそれぞれ異なるが、特に太陽光発電における天候の変化、風力発電における風況の変化は数秒や数分といった極めて短い時間で発生する。そのため、これら変化に起因する発電量の変化を原子炉の出力変更で対応することは極めて難しい。また、特許文献2では、急速な出力変更に対応する手段として、抽気蒸気の量を調整するという手段を採用する。しかしながら抽気蒸気量の調整は、原子炉の出力変更に伴う遅れを補償するためのものである。そのため、特許文献2に記載の原子炉は、昼夜や天候の変化にともない、変化量や変化幅の差異こそあれ常に出力を変更する運用が求められる。
【0010】
本発明は、前記した課題を解決するためになされたものであり、出力目標値の変化に近似した実出力値の変化を実現する原子力発電プラントの出力制御装置及び出力制御方法を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記目的を達成するため、本発明は、原子力発電プラントの出力制御装置であって、原子炉で発生した蒸気で駆動する高圧蒸気タービンから流出した抽気蒸気の流量を調整する高圧抽気弁と、前記高圧蒸気タービンの駆動後に再加熱された蒸気で駆動する低圧蒸気タービンから流出した抽気蒸気の流量を調整する低圧抽気弁と、原子力発電プラントの出力目標値に基づいて前記高圧抽気弁及び前記低圧抽気弁を制御する弁制御手段と、を備え、前記弁制御手段は、前記出力目標値の単位時間当たりの変化率である出力変化率と変化時の前記出力目標値の総変化量である出力変化量とを求める出力目標値信号分配手段を有する構成とする。
その他の手段は、後記する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、出力目標値の変化に近似した実出力値の変化を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施形態1に係る出力制御装置を備えた原子力発電プラントの概略構成図である。
図2】実施形態1に係る出力制御装置の概略構成図である。
図3】実施形態1に係る出力制御装置における出力目標値信号分配手段の概略構成図である。
図4】出力目標値の説明図である。
図5】実施形態1に係る出力制御装置の出力制御による低圧抽気弁開度と低圧蒸気タービン出力との関係説明図である。
図6】実施形態1に係る出力制御装置の出力制御による高圧抽気弁開度と高圧蒸気タービン出力との関係説明図である。
図7】実施形態1に係る出力制御装置の出力制御による原子力発電プラントの実出力値(発電出力値)の説明図である。
図8】実施形態2に係る出力制御装置の概略構成図である。
図9】実施形態3に係る出力制御装置の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態(以下、「本実施形態」と称する)について詳細に説明する。なお、各図は、本発明を十分に理解できる程度に、概略的に示しているに過ぎない。よって、本発明は、図示例のみに限定されるものではない。また、各図において、共通する構成要素や同様な構成要素については、同一の符号を付し、それらの重複する説明を省略する。
【0015】
[実施形態1]
<原子力発電プラントの構成>
以下、図1を参照して、本実施形態1に係る原子力発電プラント10の出力制御装置11の構成について説明する。図1は、本実施形態1に係る出力制御装置11を備えた原子力発電プラント10の概略構成図である。本実施形態では、原子力発電プラント10が沸騰水型原子力発電プラントである場合を想定して説明する。
【0016】
図1に示す例では、本実施形態1に係る原子力発電プラント10は、原子炉40と、蒸気加減弁41と、高圧蒸気タービン42と、加熱器43と、低圧蒸気タービン44と、発電機45と、復水器46と、低圧給水加熱器47と、原子炉給水ポンプ48と、高圧給水加熱器49と、を備えている。
【0017】
原子炉40は、内部に燃料体(燃料棒)を装荷し、冷却水を一定水位まで満たす圧力容器である。原子炉40には、燃料体の反応を制御するための制御棒52と、図示せぬ燃料棒と冷却水との熱交換量を制御する再循環システム12とが設けられている。再循環システム12は、図1に示す原子炉40の下部から冷却水の一部を抜き出し、原子炉40の中央部に還流している。再循環システム12を循環する冷却水の流量調整には再循環ポンプ55が用いられる。
【0018】
原子炉40は、配管60aにより高圧蒸気タービン42に接続されている。また、原子炉40は、配管60aから分岐した配管60bにより加熱器43に接続されている。原子炉40は、原子炉40で発生した蒸気を、配管60aにより高圧蒸気タービン42に供給するとともに、配管60bにより加熱器43に供給する。配管60aには、圧力計56が取り付けられている。圧力計56は、原子炉圧力A3(図8参照)として、配管60aの内部の圧力を測定する。配管60aは、原子炉40と高圧蒸気タービン42との間に、原子炉40の出力変化に応じて高圧蒸気タービン42に送出する主蒸気の量を調整する蒸気加減弁41を有している。
【0019】
原子炉40で発生した蒸気は、蒸気加減弁41を経て高圧蒸気タービン42に供給され、高圧蒸気タービン42を駆動する。高圧蒸気タービン42の下流側には、加熱器43が配置されている。高圧蒸気タービン42の排気は、原子炉40から分流した蒸気によって加熱器43で再加熱されたのち、低圧蒸気タービン44に供給され、低圧蒸気タービン44を駆動する。高圧蒸気タービン42と低圧蒸気タービン44は、タービンシャフト50で接続されている。そのタービンシャフト50は、発電機45に接続されている。原子力発電プラント10は、高圧蒸気タービン42及び低圧蒸気タービン44の駆動時にタービンシャフト50が回転して発電機45を駆動することで、電力を発生する。
【0020】
低圧蒸気タービン44を駆動した蒸気は、復水器46に排気され、復水器46の内部で凝縮・復水して、復水器46の底部に貯留される。復水器46の底部に貯留した復水は、復水ポンプ51で加圧されて低圧給水加熱器47に供給され、低圧給水加熱器47で加温される。低圧給水加熱器47で加温された復水は、原子炉給水ポンプ48でさらに加圧されて高圧給水加熱器49に供給され、高圧給水加熱器49でさらに加温されたのち、給水として原子炉40に供給される。
【0021】
なお、図1に示す例では、原子力発電プラント10は、高圧蒸気タービン42から抽気した蒸気を抽気配管68により高圧給水加熱器49に導き、高圧給水加熱器49で給水を加熱する構成になっている。また、原子力発電プラント10は、低圧蒸気タービン44から抽気した蒸気を抽気配管69により低圧給水加熱器47に導き、低圧給水加熱器47で給水を加熱する構成になっている。図1に示す例では、高圧蒸気タービン42から抽気した蒸気を高圧給水加熱器49に導く配管と低圧蒸気タービン44から抽気した蒸気を低圧蒸気タービン44に導く配管とを、便宜上それぞれ1本の抽気配管68,69として示している。しかしながら、原子力発電プラント10は、それぞれ複数本の抽気配管68,69を備える構成にしてもよい。なお、高圧蒸気タービン42から抽気した蒸気の抽気量は、抽気配管68に設けられた高圧抽気弁53により調整可能になっている。また、低圧蒸気タービン44から抽気した蒸気の抽気量は、抽気配管69に設けられた低圧抽気弁54により調整可能になっている。
【0022】
原子力発電プラント10は、全体の動作を制御する出力制御装置11を備えている。出力制御装置11は、発電機45の出力を制御することができる。
【0023】
<出力制御装置の構成>
以下、図2を参照して出力制御装置11の概略構成について説明する。図2は、出力制御装置11の概略構成図である。図3は、出力制御装置11における出力目標値信号分配手段の概略構成図である。
【0024】
図2に示すように、本実施形態に係る出力制御装置11は、原子炉出力設定手段20と、低圧抽気弁開度設定手段22と、高圧抽気弁開度設定手段23と、出力目標値信号分配手段31と、運転切替手段34と、を有している。低圧抽気弁開度設定手段22と高圧抽気弁開度設定手段23と出力目標値信号分配手段31は、原子力発電プラント10の出力目標値に基づいて高圧抽気弁53及び低圧抽気弁54の開度を制御する弁制御手段13を構成している。
【0025】
出力制御装置11には、中央給電指令所等に設置された外部装置71から運転切替指令A12と出力目標値A1が入力されるとともに、発電機45から実際の発電出力である実出力値A2が入力される。本実施形態では、原子力発電プラント10は、原子炉40の出力を一定にして運転しているものとして説明する。出力制御装置11は、出力目標値A1と実出力値A2との差である出力偏差A11を運転切替手段34に入力する。運転切替手段34は、運転切替指令A12に基づいて切替後出力偏差A13を原子炉出力設定手段20に出力する。
【0026】
運転切替手段34は、出力目標値A1の変化時に、原子炉40の炉心を流れる冷却水の流量調整及び原子炉40から高圧蒸気タービン42に送出する主蒸気の流量調整による出力制御と高圧抽気弁53及び低圧抽気弁54の開閉による出力制御とのいずれか一方に運転状態を切り替える手段である。「原子炉40の炉心を流れる冷却水の流量調整及び原子炉40から高圧蒸気タービン42に送出する主蒸気の流量調整による出力制御」は、従来技術と同様の出力制御であり、出力目標値の変化に近似した実出力値の変化を実現することを考慮していない出力制御となっている。原子炉40の炉心を流れる冷却水の流量調整は、再循環ポンプの速度を調整することで行われる。原子炉40から高圧蒸気タービン42に送出する主蒸気の流量調整は、蒸気加減弁41の開度を調整することで行われる。「高圧抽気弁53及び低圧抽気弁54の開閉による出力制御」は、本実施形態によって実現された出力制御であり、出力目標値の変化に近似した実出力値の変化を実現することを考慮した出力制御となっている。
【0027】
運転切替指令A12が「原子炉40の炉心を流れる冷却水の流量調整及び原子炉40から高圧蒸気タービン42に送出する主蒸気の流量調整による出力制御」を選択する内容である場合に、運転切替手段34は、切替後出力偏差A13の値として出力偏差A11の値を採用(設定)して原子炉出力設定手段20に出力する。そして、原子炉出力設定手段20は、出力設定A4の値として出力偏差A11の値を採用して蒸気加減弁41に出力する。
【0028】
この場合に、出力制御装置11は、出力設定A4としての出力偏差A11の値に基づいて蒸気加減弁41の開度を制御する。また出力制御装置11は、出力設定A4としての出力偏差A11の値に基づいて制御棒52や再循環ポンプ55、原子炉給水ポンプ48などを制御する。この場合に、出力制御装置11は、負荷追従運転とは無関係な出力制御を行う。
【0029】
一方、運転切替指令A12が「高圧抽気弁53及び低圧抽気弁54の開閉による出力制御」を選択する内容である場合に、運転切替手段34は、切替後出力偏差A13の値として出力目標値A1と実出力値A2との間の偏差が「無し」となる固定値「0」を採用(設定)して原子炉出力設定手段20に出力する。そして、原子炉出力設定手段20は、出力設定A4の値として出力目標値A1と実出力値A2との間の偏差が「無し」となる固定値「0」を採用(設定)して蒸気加減弁41に出力する。
【0030】
この場合に、出力制御装置11は、出力設定A4としての値「0」に基づいて、出力目標値A1と実出力値A2(発電出力値)とが一致するように、蒸気加減弁41の開度を制御する。また出力制御装置11は、出力設定A4としての値「0」に基づいて、出力目標値A1と実出力値A2(発電出力値)とが一致するように、制御棒52や再循環ポンプ55、原子炉給水ポンプ48などを制御する。この場合に、出力制御装置11は、負荷追従運転に対応した出力制御を行う。
【0031】
また、出力制御装置11は、外部装置71から入力された出力目標値A1を出力目標値信号分配手段31に入力する。出力制御装置11は、出力目標値信号分配手段31で出力目標値A1の変化率から変化率指令A14を算出する。出力目標値信号分配手段31は、変化率指令A14を低圧抽気弁開度設定手段22に出力する。また出力制御装置11は、出力目標値信号分配手段31で出力目標値A1が変動する際の変化量を変化量指令A15として算出し、変化量指令A15と発電機45から入力された実出力値A2との差である出力偏差A16を高圧抽気弁開度設定手段23に出力する。
【0032】
低圧抽気弁開度設定手段22は、変化率指令A14に基づいて低圧抽気弁開度A6を設定し、低圧抽気弁開度A6を用いて低圧抽気弁54を開閉する。また、高圧抽気弁開度設定手段23は、変化量指令A15と実出力値A2との偏差が0となるように高圧抽気弁開度A7を設定し、高圧抽気弁開度A7を用いて高圧抽気弁53をフィードバック制御する。
【0033】
次に、図3を参照して、出力制御装置11における出力目標値信号分配手段31の概略構成について説明する。
【0034】
出力目標値信号分配手段31は、出力目標値A1を入力し、変化率指令A14と変化量指令A15を後続の構成要素に出力する。変化率指令A14は、出力目標値A1の単位時間当たりの変化量である出力変化率を表している。変化量指令A15は、変化時の出力目標値A1の総変化量である出力変化量を表している。図3は、その機能を実現するための出力目標値信号分配手段31の構成を単純化して示している。出力目標値信号分配手段31は、変化率制限器33に保持されている出力目標値A1の前回値と今回入力された出力目標値A1との差(すなわち、出力目標値A1の単位時間当たりの変化量)を、変化率指令A14として、後続の低圧抽気弁開度設定手段22に出力する。このとき、変化率制限器33は、出力目標値A1の前回値を保持する遅延手段として機能する。また、出力目標値信号分配手段31は、出力目標値A1を、変化量指令A15として、そのまま後続の構成要素に出力する。
【0035】
図2に戻り、低圧抽気弁開度設定手段22は、出力目標値A1の出力変化率(単位時間当たりの変化量)を変化率指令A14として入力し、変化率指令A14を抽気弁開度の変化分に換算したのち、現在の低圧抽気弁54の開度をこの変化分に基づいて修正する。
【0036】
また、高圧抽気弁開度設定手段23は、変化時の出力目標値A1の総変化量(出力変化量)である変化量指令A15と実出力値A2との差である出力偏差A16を入力し、出力偏差A16に基づいて、実出力値A2が出力目標値A1に追従するように高圧抽気弁53の開度をフィードバック制御する。
【0037】
<出力制御装置による出力制御>
以下、図4乃至図7を参照して、出力制御装置11による出力制御について説明する。図4は、出力目標値の説明図である。図5は、出力制御装置11の出力制御による低圧抽気弁開度と低圧蒸気タービン出力との関係説明図である。図6は、出力制御装置11の出力制御による高圧抽気弁開度と高圧蒸気タービン出力との関係説明図である。図7は、出力制御装置11による原子力発電プラント10の実出力値(発電出力値)の説明図である。
【0038】
図4は、外部装置71から出力制御装置11に与えられた出力目標値A1の一例を示している。図4において、横軸は時間を示しており、縦軸は出力を示している(図5から図7も同様。)。また、図4において、出力目標値A1は、時刻t0で変化を開始し、時刻t1で変化を終了している(図5から図7も同様。)。
【0039】
図5は、出力制御装置11の出力制御による低圧抽気弁開度A6と低圧蒸気タービン出力B1との関係を示している。原子力発電プラント10は、原子炉40の出力を一定にして運転している。図5に示すように、時刻t0から時刻t1の間において出力目標値A1(図4参照)が変化を開始すると、出力制御装置11の低圧抽気弁開度設定手段22が低圧抽気弁54を絞ることで、低圧蒸気タービン出力B1が増大する。このとき、図2に示すように、低圧抽気弁開度設定手段22は、出力目標値信号分配手段31から変化率指令A14を入力し、変化率指令A14に応じて低圧抽気弁54の開閉速度を決定する。これにより、低圧抽気弁開度設定手段22は、変化率指令A14が大きい場合に高い変化率で低圧抽気弁54を変化させ、一方、変化率指令A14が小さい場合に低い変化率で低圧抽気弁54を変化させる。これにより、出力制御装置11は、低圧蒸気タービン出力B1が出力目標値A1(図4参照)の変化に速やかに追従するように、低圧蒸気タービン出力B1をフィードバック制御することができる。その結果、出力制御装置11は、出力目標値A1(図4参照)の変化に対して、即応性に優れた低圧蒸気タービン出力B1の変化を実現することができる。
【0040】
なお、図5に示すように、低圧蒸気タービン出力B1は、時刻t0から時刻t1の間において、低圧抽気弁開度A6の開度を絞るにつれて、一時的に上昇するものの、時刻t1以降において、徐々に低下する。このような現象が発生する理由は、以下の通りである。すなわち、その理由は、低圧抽気弁54の開度を絞ることで、時刻t0から時刻t1の間において、低圧蒸気タービン44の内部を流れる蒸気量が一時的に上昇することで、低圧蒸気タービン出力B1の増大の効果が一時的に得られるものの、時刻t1以降において、蒸気排出量の増加にともなって、低圧蒸気タービン44の入口の蒸気圧力が低下することで、低圧蒸気タービン44の駆動力が減じるためである。
【0041】
図6は、出力制御装置11の出力制御による高圧抽気弁開度A7と高圧蒸気タービン出力B2との関係を示している。図6に示すように、時刻t0において出力目標値A1(図4参照)が変化を開始すると、出力目標値A1(図2参照)と実出力値A2(図2参照)との偏差が0となるように、出力制御装置11の高圧抽気弁開度設定手段23が高圧抽気弁53の開度を絞ることで、高圧蒸気タービン出力B2が増大する。このとき、図2に示すように、高圧抽気弁開度設定手段23は、変化量指令A15と実出力A2との間の出力偏差A16を入力し、出力偏差A16に基づいて高圧抽気弁53の開度を絞ることで、高圧蒸気タービン出力B2が緩やかに増大した後、略一定になる。これにより、出力制御装置11は、発電機45の一定量以上の発電出力を確保する。
【0042】
なお、本実施形態において原子力発電プラント10の実出力値A2(図7参照)は、低圧蒸気タービン出力B1(図5参照)と高圧蒸気タービン出力B2(図6参照)との合計値となっている。図7は、出力制御装置11による原子力発電プラント10の実出力値(発電出力値)を示している。
【0043】
実出力値A2(図7参照)には、低圧蒸気タービン出力B1(図5参照)の時刻t0から時刻t1の間における過渡的な上昇値並びに時刻t1以降における低下値が反映される。出力制御装置11は、低圧蒸気タービン出力B1(図5参照)の時刻t0から時刻t1の間における上昇値並びに時刻t1以降における低下値が反映された実出力値A2(図7参照)に基づいて、低圧抽気弁54の開度を制御する。また、実出力値A2(図7参照)には、高圧蒸気タービン出力B2(図6参照)の時刻t0から時刻t1の間における緩やかな上昇値並びに時刻t1以降における略一定値が反映される。出力制御装置11は、高圧蒸気タービン出力B2(図6参照)の時刻t0から時刻t1の間における緩やかな上昇値並びに時刻t1以降における略一定値が反映された実出力値A2(図7参照)に基づいて、高圧抽気弁53の開度を制御する。
【0044】
つまり、図5に示すように、時刻t0から時刻t1の間において、変化率指令A14の大小に応じて、出力制御装置11が低圧抽気弁54の開閉速度を決定して低圧抽気弁54の開度を絞ることにより、低圧蒸気タービン出力B1が増大する。また、図6に示すように、時刻t0から時刻t1の間において、出力目標値A1(図2参照)と実出力値A2(図2参照)との偏差が0となるように、出力制御装置11が高圧抽気弁53の開度を絞ることにより、高圧蒸気タービン出力B2が増大する。また、図5に示すように、時刻t1以降において、低圧蒸気タービン出力B1が緩やかに減少する。また、図6に示すように、時刻t1以降において、高圧蒸気タービン出力B2が略一定値となる。
【0045】
このような出力制御装置11は、原子炉40の出力を一定とするとともに、実出力値A2(図7参照)を出力目標値A1(図7参照)に追従させるように、低圧蒸気タービン出力B1(図5参照)及び高圧蒸気タービン出力B2(図6参照)をフィードバック制御することができる。その結果、出力制御装置11は、出力目標値A1(図7参照)の変化に近似した実出力値A2(図7参照)の変化を実現することができる。また、出力制御装置11は、出力目標値A1(図7参照)の変化に対して、低圧蒸気タービン出力B1で即応性に優れた出力特性を確保しながら、高圧蒸気タービン出力B2で一定値以上の出力特性を確保することができる。
【0046】
出力制御装置11は、原子炉40の出力を一定とするとともに、高圧蒸気タービン42及び低圧蒸気タービン44の抽気蒸気の流量を調整することで、再生可能エネルギーからの発電量変化を吸収して、出力目標値の変化に近似した実出力値の変化を実現することができる。換言すると、出力制御装置11は、原子力発電プラント10に対する出力目標値A1の変化量を少なくとも二つ以上の抽気蒸気の流量で調整することで、原子炉40の出力を一定に保ちつつ、再生可能エネルギーに起因する発電量の変化を補償することができる。
【0047】
以上の通り、本実施形態1に係る出力制御装置11によれば、出力目標値A1(図7参照)の変化に近似した実出力値A2(図7参照)の変化を実現することができる。
【0048】
[実施形態2]
以下、図8を参照して、本実施形態2に係る出力制御装置11Aの構成について説明する。図8は、本実施形態2に係る出力制御装置11Aの概略構成図である。本実施形態に係る出力制御装置11Aは、原子炉出力設定手段20で得られた出力設定A4に基づいて、高圧抽気弁53及び低圧抽気弁54の開閉制御並びに原子炉40の圧力制御を行うものである。
【0049】
図8に示すように、本実施形態2に係る出力制御装置11Aは、実施形態1に係る出力制御装置11(図2参照)と比較すると、以下の点で相違している。
(1)タービン負荷指令設定手段26を備える点。
(2)圧力調整手段14を備える点。
【0050】
タービン負荷指令設定手段26を備える点について、出力制御装置11Aは、高圧抽気弁53及び低圧抽気弁54の開閉制御(つまり、高圧蒸気タービン42及び低圧蒸気タービン44の出力制御)に際して、出力目標値A1をタービン負荷指令設定手段26に入力する。タービン負荷指令設定手段26は、出力目標値A1に基づいてタービン負荷指令A10を取得する。そして、出力制御装置11Aは、原子炉出力設定手段20で取得された出力設定A4とタービン負荷指令設定手段26で取得されたタービン負荷指令A10との出力偏差A17を蒸気加減弁開度設定手段21に入力する。蒸気加減弁開度設定手段21は、出力偏差A17が0となるように、蒸気加減弁開度A5を決定し、蒸気加減弁41の開度を制御する。
【0051】
また、圧力調整手段14を備える点について、圧力調整手段14は、原子炉圧力指令設定手段32と、再循環流量制御指令設定手段24と、制御棒位置設定手段25と、を有している。原子炉圧力指令設定手段32は、原子炉40内の圧力を表す原子炉圧力A3に基づいて原子炉圧力指令A18を取得する構成要素である。再循環流量制御指令設定手段24は、再循環ポンプ55による冷却水の再循環流量を制御する構成要素である。制御棒位置設定手段25は、原子炉40内での制御棒52の位置を設定する構成要素である。
【0052】
出力制御装置11Aは、原子炉40の圧力制御に際しては、圧力計56から原子炉圧力A3を原子炉圧力指令設定手段32に入力する。原子炉圧力指令設定手段32は、原子炉圧力A3に基づいて原子炉圧力指令A18を取得する。そして、出力制御装置11Aは、原子炉出力設定手段20で取得された出力設定A4と原子炉圧力指令設定手段32で取得された原子炉圧力指令A18との出力偏差A19を再循環流量制御指令設定手段24と制御棒位置設定手段25とに入力する。再循環流量制御指令設定手段24は、出力偏差A19が0となるように、再循環流量制御指令A8を決定し、再循環ポンプ55による冷却水の再循環流量を制御する。また、制御棒位置設定手段25は、出力偏差A19が0となるように、制御棒位置設定A9を決定し、原子炉40内での制御棒52の位置を設定する。
【0053】
出力制御装置11Aは、原子炉40内の圧力上昇時(つまり、出力上昇時)に、高圧蒸気タービン42及び低圧蒸気タービン44の抽気量を絞るように動作する。このような出力制御装置11Aは、本来、低圧給水加熱器47及び高圧給水加熱器49において給水を加温するための蒸気が不足するため、原子炉40に供給する給水温度を低下させることができる。原子炉40において給水温度の低下は、炉心における冷却水温度の低下、冷却水が蒸発する際に発生する気泡(ボイド)の減少、ボイドの減少による炉心部の反応促進、及び、炉心からの蒸発量の増大をもたらす。そして蒸発量の増大は、原子炉圧力A3の上昇として顕現する。出力制御装置11Aは、再循環ポンプ55の回転速度を下げ、原子炉40内を再循環する冷却水の流量を低下させることで、燃料棒から冷却水への伝熱を促進する。そして、出力制御装置11Aは、ボイドの発生を増加させることで、原子炉圧力A3を一定に維持する。
【0054】
また、出力制御装置11Aは、低圧抽気弁54の開度及び高圧抽気弁53の開度を制御することで発電機45の出力を制御する。運転切替指令A12が「高圧抽気弁53及び低圧抽気弁54の開閉による出力制御」を選択する内容である場合に、原子炉出力設定手段20からの出力設定A4は、現状の原子炉40の出力を維持する内容となる。そのため、蒸気加減弁開度設定手段21は、現状の蒸気加減弁開度A5を維持する。そして原子力発電プラント10の出力は、低圧抽気弁54の開度及び高圧抽気弁53の開度によって制御される。
【0055】
なお、出力制御時において低圧抽気弁54及び高圧抽気弁53の開閉動作により原子炉圧力A3が変動した場合に、再循環流量制御指令設定手段24は、出力設定A4と原子炉圧力指令A18との出力偏差A19が0となるように、再循環流量制御指令A8を決定し、再循環ポンプ55による冷却水の再循環流量を制御する。また、制御棒位置設定手段25は、出力偏差A19が0となるように、制御棒位置設定A9を決定し、原子炉40内での制御棒52の位置を設定する。これにより出力制御装置11Aは、出力制御時においても原子炉40を一定出力で運用することができる。
【0056】
以上の通り、本実施形態2に係る出力制御装置11Aによれば、実施形態1に係る出力制御装置11と同様に、原子炉の出力を一定とするとともに、出力目標値の変化に近似した実出力値の変化を実現することができる。しかも、本実施形態2に係る出力制御装置11Aによれば、実施形態1に係る出力制御装置11Aに比べて、原子炉40の圧力制御を行うことができる。
【0057】
[実施形態3]
以下、図9を参照して、本実施形態3に係る出力制御装置11Bの構成について説明する。図9は、本実施形態3に係る出力制御装置11Bの構成を示す図である。本実施形態に係る出力制御装置11Bは、複数の抽気配管68,69を有する構成になっている原子力発電プラント10に用いられる。そして、出力制御装置11Bは、出力目標値A1の変化時に、低圧蒸気タービン44から流出した抽気蒸気を複数の低圧給水加熱器47に導くための複数の抽気配管69のうち、単相の蒸気のみが流れる抽気配管69に設けられた低圧抽気弁54のみを作動させるものである。つまり、出力制御装置11Bは、蒸気と水滴とが混合した混合相の水成分が流れる抽気配管69に設けられた低圧抽気弁54を作動させないものである。
【0058】
図9に示すように、本実施形態3に係る出力制御装置11Bは、実施形態1に係る出力制御装置11(図1参照)と比較すると、以下の点で相違している。
(1)出力制御装置11Bは、複数の高圧抽気弁53a,53b,53c,53zに高圧抽気弁開度A7a,A7b,A7c,A7zを選択的に出力することができる点。
(2)出力制御装置11Bは、複数の低圧抽気弁54a,54b,54c,54zに低圧抽気弁開度A6a,A6b,A6c,A6zを選択的に出力することができる点。
(3)出力制御装置11Bは、複数の抽気配管69a,69b,69c,69zのうち、単相の蒸気のみが流れる抽気配管69a,69b,69cに設けられた低圧抽気弁54a,54b,54cに低圧抽気弁開度A6a,A6b,A6cを出力し、混合相の水成分が流れる抽気配管69zに設けられた低圧抽気弁54zに低圧抽気弁開度A6zを出力しない点。
【0059】
なお、本実施形態では、原子力発電プラント10は、高圧蒸気タービン42から流出した抽気蒸気を複数の高圧給水加熱器49a,49b,49c,49zに導くための複数の抽気配管68a,68b,68c,68zを備えている。各抽気配管68a,68b,68c,68zには、それぞれに対応する高圧抽気弁53a,53b,53c,53zが設けられている。また、原子力発電プラント10は、低圧蒸気タービン44から流出した抽気蒸気を複数の低圧給水加熱器47a,47b,47c,47zに導くための複数の抽気配管69a,69b,69c,69zを備えている。各抽気配管69a,69b,69c,69zには、それぞれに対応する低圧抽気弁54a,54b,54c,54zが設けられている。また、複数の低圧給水加熱器47a,47b,47c,47zと複数の抽気配管68a,68b,68c,68zとの間には、それぞれに対応する原子炉給水ポンプ48a,48b,48c,48zが設けられている。
【0060】
このような出力制御装置11Bは、出力目標値A1の変化時に、低圧蒸気タービン44から流出した抽気蒸気を複数の低圧給水加熱器47に導くための複数の抽気配管69のうち、単相の蒸気のみが流れる抽気配管69a,69b,69cに設けられた低圧抽気弁54a,54b,54cのみを選択的に作動させことができる。また、混合相の水成分が流れる抽気配管69zに設けられた低圧抽気弁54zを作動させないようにすることができる。
【0061】
本発明は、前記した実施形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、前記した実施形態は、本発明を分かり易く説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、実施形態の構成の一部を他の構成に置き換えることが可能であり、また、実施形態の構成に他の構成を加えることも可能である。また、各構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【0062】
本発明は、原子力発電プラント10、なかでも原子炉40で発生した主蒸気をタービンに送出して、発電する沸騰水型原子力発電プラントおよびその出力制御装置11に利用可能である。
【0063】
なお、本実施形態では出力目標値信号分配手段31において変化率指令A14を出力目標値A1の時間変化率から求めたが、原子力発電プラント10が出力制御しうる最大変化量以下の範囲において、運転員、中央給電指令所などが直接変化率を指令値として与えてもよい。
【0064】
また、出力目標値信号分配手段31において変化量指令A15を出力目標値A1と同一と設定したが、出力目標値A1が原子炉の定格出力を越えた場合にのみ出力目標値A1を与えるとともに、原子炉40の定格出力未満では変化量指令を実出力値と同一の値として高圧抽気弁制御を停止し、また変化率指令を0とすることで通常の出力制御に切り替えてもよい。
【0065】
さらにまた、本実施形態では出力制御の対象である原子力発電プラント10を沸騰水型原子力発電プラントとしたが、図2に示した出力制御装置11は、発電出力と原子炉出力設定、ならびに発電出力と高圧抽気弁および低圧抽気弁の関係を示したものであり、原子炉および発電方式を限定するものではない。本実施形態を適用しうる原子力発電プラント10の構成要件は、出力を設定可能な原子炉、原子炉で発生した蒸気で駆動する高圧蒸気タービン42、高圧蒸気タービン42からの抽気蒸気の流量を調整するための高圧抽気弁、高圧蒸気タービン42の駆動後に再加熱された蒸気で駆動する低圧蒸気タービン44、低圧蒸気タービン44からの抽気蒸気の流量を調整するための低圧抽気弁である。すなわち本実施形態は、沸騰水型原子力発電プラントのみならず、高圧蒸気タービン42、低圧蒸気タービン44を備えた加圧水型原子力発電プラントにも適用可能である。
【符号の説明】
【0066】
10 原子力発電プラント
11,11A,11B 出力制御装置
12 再循環システム
13 弁制御手段
14 圧力調整手段
20 原子炉出力設定手段
21 蒸気加減弁開度設定手段
22 低圧抽気弁開度設定手段
23 高圧抽気弁開度設定手段
24 再循環流量制御指令設定手段
25 制御棒位置設定手段
26 タービン負荷指令設定手段
31 出力目標値信号分配手段
32 原子炉圧力指令設定手段
33 変化率制限器(遅延手段)
34 運転切替手段
40 原子炉
41 蒸気加減弁
42 高圧蒸気タービン
43 加熱器
44 低圧蒸気タービン
45 発電機
46 復水器
47,47a,47b,47c,47z 低圧給水加熱器
48,48a,48b,48c,48z 原子炉給水ポンプ
49,49a,49b,49c,49z 高圧給水加熱器
50 タービンシャフト
51 復水ポンプ
52 制御棒
53,53a,53b,53c,53z 高圧抽気弁
54,54a,54b,54c,54z 低圧抽気弁
55 再循環ポンプ
56 圧力計
60a,60b 配管
68,68a,68b,68c,68z,69,69a,69b,69c,69z 抽気配管
71 外部装置
A1 出力目標値
A2 実出力値(発電出力値)
A3 原子炉圧力
A4 出力設定
A5 蒸気加減弁開度
A6,A6a,A6b,A6c,A6z 低圧抽気弁開度
A7,A7a,A7b,A7c,A7z 高圧抽気弁開度
A8 再循環流量制御指令
A9 制御棒位置設定
A10 タービン負荷指令
A11,A16,A17,A19 出力偏差
A12 運転切替指令
A13 切替後出力偏差
A14 変化率指令(出力変化率)
A15 変化量指令(出力変化量)
A18 原子炉圧力指令
B1 低圧蒸気タービン出力
B2 高圧蒸気タービン出力
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9