IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 大成建設株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-コンクリートの配合設計方法 図1
  • 特許-コンクリートの配合設計方法 図2
  • 特許-コンクリートの配合設計方法 図3
  • 特許-コンクリートの配合設計方法 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-15
(45)【発行日】2024-05-23
(54)【発明の名称】コンクリートの配合設計方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/38 20060101AFI20240516BHJP
【FI】
G01N33/38
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2021098640
(22)【出願日】2021-06-14
(65)【公開番号】P2022190358
(43)【公開日】2022-12-26
【審査請求日】2023-09-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】渡部 孝彦
(72)【発明者】
【氏名】武田 均
【審査官】高田 亜希
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-065638(JP,A)
【文献】特開2020-007178(JP,A)
【文献】米国特許第05948970(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/00 -33/46
C04B 2/00 -40/06
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
暫定配合を決定する暫定配合決定工程と、
前記暫定配合の骨材分散距離を算出する暫定分散距離算出工程と、
前記暫定配合中の骨材の粒度分布を変更して最大骨材分散距離を算出する最大分散距離算出工程と、
単位水量と前記最大骨材分散距離との関係式に目標骨材分散距離を当てはめて目標単位水量を算出する目標水量算出工程と、
前記目標単位水量を基準として単位水量を変化させた試し練りを行い、最適単位水量を定める最適水量算出工程と、を備えるコンクリートの配合設計方法であって、
前記目標骨材分散距離は、前記暫定配合の骨材分散距離、もしくは、スランプと骨材分散距離との関係を表す近似式に予め設定された目標スランプを当てはめて算出したものであることを特徴とする、コンクリートの配合設計方法。
【請求項2】
前記近似式により算出した前記目標骨材分散距離を利用して、前記目標単位水量を算出することを特徴とする、請求項1に記載のコンクリートの配合設計方法。
【請求項3】
前記目標水量算出工程において、y=前記目標骨材分散距離と式2との交点を前記目標単位水量とし、
水セメント比を一定とする場合は骨材体積比を式3により算出し、セメント量を一定とする場合は骨材体積比を式4により算出することを特徴とする、請求項1または請求項2に記載のコンクリートの配合設計方法。
【数1】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリートの配合設計方法に関する。
【背景技術】
【0002】
骨材の粒度分布がコンクリートの流動性に及ぼす影響は認識されているものの、粒度分布をコンクリートの配合設計に利用する手法が確立されていない。そのため、コンクリートの配合設計を実施する際には、使用する骨材の種類を変更する、複数種類の骨材の混合割合を段階的に変更するなどの配合調整を行って試験練りを繰り返し実施することで、単位水量を最小限に抑えた細骨材率を選定するのが一般的である。
そこで、本発明者等は、非特許文献1に示すように、骨材の粒度分布を変化させた場合のコンクリートの性状を確認することで、粒度分布をJISの粒度分布から大きく変化させた場合でも、コンクリートの基本性能を確保した上で、流動性を改善できることを確認した。
一方、実施工で使用する骨材の粒度は、一般には0.075mm~20mm程度の範囲であり、最適水量を算出することができる手法が求められていた。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】渡部孝彦、武田均、橋本理、「細粗骨材の粒度分布を調整したコンクリートの骨材分散距離-流動性の関係性」,土木学会年次学術講演会議概要集(CD-ROM)、74th、V-502、2019年8月1日
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、コンクリートの基本性能の向上を図ることが可能な最適水量を決定するためのコンクリートの配合設計方法を提案することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記課題を解決するための本発明のコンクリートの配合設計方法は、暫定配合を決定する暫定配合決定工程と、前記暫定配合の骨材分散距離を算出する暫定分散距離算出工程と、前記暫定配合中の骨材の粒度分布を変更して最大骨材分散距離を算出する最大分散距離算出工程と、単位水量と前記最大骨材分散距離との関係式に目標骨材分散距離を当てはめて目標単位水量を算出する目標水量算出工程と、前記目標単位水量を基準として単位水量を変化させた試し練りを行い、最適単位水量を定める最適水量算出工程とを備えている。前記目標骨材分散距離は、「前記暫定配合の骨材分散距離」、もしくは、「スランプと骨材分散距離との関係を表す近似式に予め設定された目標スランプを当てはめて算出したもの」である。
かかるコンクリートの配合設計方法は、従来の方法(これまでに蓄積されたデータや経験則に基づいた方法)により配合されたコンクリートに比べて、単位水量が少ない場合でも必要な流動性を確保し、ひいては、コンクリートの基本性能の向上(乾燥収縮低減、発熱低減)を図ることができる。
【0006】
暫定配合のスランプが、目標スランプと同等ではない場合には、前記近似式により算出した前記目標骨材分散距離を利用して、目標単位水量を算出するのが望ましい。
さらに、目標水量算出工程では、y(骨材分散距離)=前記目標骨材分散距離と式2との交点を前記目標単位水量とし、水セメント比を一定とする場合は骨材体積比を式3により算出し、セメント量を一定とする場合は骨材体積比を式4により算出する。
【0007】
【数1】
【0008】
ここで、骨材分散距離の計算式(式1)における骨材実積率Caには、細粗混合骨材の実績率を使用することが望ましい。しかし、細粗混合骨材の実績率の測定は難しく、試験方法も確立されていない。通常の骨材管理では細骨材と粗骨材それぞれで試験が実施されるのみである。
本発明では、鈴木らの空間率推定手法を補正し、細粗混合骨材の実積率Caを計算する。鈴木らの手法は、空間率εを推定するものであるが、骨材実積率Caは、1-εと等価である。したがって、この空間率の計算値を使用することで、細粗混合骨材の実積率を把握できる。
【発明の効果】
【0009】
本発明のコンクリートの配合設計方法によれば、コンクリートを最適水量により配合することで、当該コンクリートの基本性能の向上を図ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の実施形態に係るコンクリートの配合設計方法を示すフローチャートである。
図2】骨材分散距離の最大値の算出結果の例を示す説明図であって、(a)は2種類の粗骨材を使用し混合割合を調整する場合の粗骨材の混合割合と骨材分散距離の関係を示すグラフ、(b)は細骨材率を調整する場合の細骨材率と骨材分散距離の関係を示すグラフである。
図3】単位水量と最大骨材分散距離との関係式に目標骨材分散距離を当てはめて目標単位水量を算出した場合の単位水量と骨材分散距離との関係を示すグラフの一例である。
図4】空間率体積比に重みを考慮することによる効果を確認する検証結果を示すグラフであって、(a)は実施例、(b)は比較例である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本実施形態では、合理的な骨材粒度によるコンクリートの配合設計方法について説明する。本実施形態のコンクリートの配合設計方法では、骨材粒度分布がコンクリートの流動性に影響を及ぼすことに着目し、骨材分離距離の計算手法に対して空間率推定手法を組み合わせることで、一般的に使用されているコンクリートの配合に比べて単位水量を低減できる配合検討を行う。本実施形態のコンクリートの配合設計方法は、図1に示すように、暫定配合決定工程S1、暫定分散距離算出工程S2、最大分散距離算出工程S3、スランプ比較工程S4、目標水量算出工程S5および最適水量算出工程S6を備えている。
【0012】
暫定配合決定工程S1では、暫定配合を決定する。暫定配合は、例えば、これまでに実績のある調配合、土木学会のコンクリート標準示方書や日本建築学会の建築工事標準仕様書・同解説JASS5鉄筋コンクリート工事などに基づいて作成する。そして、作成された暫定配合により試し練りを行い、スランプ(暫定スランプ)を測定する。なお、工場生産された生コンクリートを購入する等、既知の配合による材料を使用する場合には、既知の配合を暫定配合とする。
【0013】
暫定分散距離算出工程S2では、式1を利用して、暫定配合の骨材分散距離Depを算出する。式1は、余剰ペースト膜厚理論式に基づく骨材分散距離の計算式(Weymouthの式)である。
【0014】
【数2】
【0015】
なお、体積基準の骨材平均粒径Damは、式5により算出する。
【0016】
【数3】
【0017】
また、骨材実積率Caは、「1.0-空間率ε」と等価である。空間率εは式6により算出する。式6は、鈴木らの空間率推定手法(いわゆる鈴木式)による算定式である。
【0018】
【数4】
【0019】
本実施形態では、鈴木式における粒子に着目した空間率εを式7により算出する。式7では、空間率体積比に重みを考慮している。すなわち、空間率体積比に関する重み係数として、大粒子の間隙に対する小さな粒子の体積(空間率を含む)の割合である第二重み係数w2を式11により算出するとともに、大粒子の空間率のうち未充填の割合である第一重み係数w1を式10により算出し、第一重み係数w1を2粒子の部分的な空間率ε(j,k)に加えることで大粒子に着目した空間率を補正している。
【0020】
【数5】
【0021】
最大分散距離算出工程S3では、利用可能な骨材の条件の範囲で、暫定配合中の骨材の粒度分布を変更して骨材分散距離を算出し、骨材分散距離が最大となる骨材の使用条件を特定する。利用可能な骨材の条件には、例えば、複数種の細骨材(または粗骨材)の混合率を調整して骨材の粒度分布を調整可能な場合や、使用する細骨材および粗骨材の種類は変更せずに細骨材率を変更して骨材の粒度分布を調整する場合等があり、最大分散距離算出工程では、この与条件を考慮して、骨材分散距離を算出する。このような与条件の例を図2(a)および(b)に示す。図2(a)は、粗骨材容積率Vaと細骨材率s/aを一定とし、細骨材を1種類、粗骨材を2種類使用する条件下での粗骨材混合割合が骨材分散距離に与える影響を示したものである。図2(a)に示すように、2種類の粗骨材G1,G2の混合割合が0.3:0.7のときに、骨材分散距離が最大値の45μmとなった。また、図2(b)は、細骨材および粗骨材がいずれも1種類の場合において、粗骨材容積率Vaが一定である場合の条件下での細骨材率s/aが骨材分散距離に与える影響を示すグラフである。図2(b)に示すように、細骨材率s/aが0.3程度のときに骨材分散率が最大値の30μmとなった。この他の与条件の例としては、例えば、粗骨材容積率Vaおよび細骨材率s/aを一定とし、細骨材を2種類、粗骨材を1種類使用する条件下での細骨材混合割合を変数とした場合や、細骨材を複数種類で混合割合を一定にするとともに粗骨材を複数種類で混合割合を固定して粗骨材容積率Vaを一定として細骨材率を変数とした場合や、単位セメント量を固定し、粗骨材容積率Vaおよび細骨材率s/aを変数とする場合等がある。
【0022】
スランプ比較工程S4では、暫定配合のスランプである暫定スランプSL1と製造するコンクリートのスランプの目標値である目標スランプSL2とを比較する。暫定スランプSL1と目標スランプSL2とが同等の場合には、目標骨材分散距離Dept=暫定配合の骨材分散距離Dep1とする。一方、暫定スランプSL1と目標スランプSL2とが同等でない場合には、スランプと骨材分散距離との関係を表す近似式(例えば、式12)に、予め設定された目標スランプを当てはめて目標骨材分散距離を算出する。
Dept=Dep1+(SL1-SL2)/0.38 ・・・式12
【0023】
目標水量算出工程S5では、単位水量と最大骨材分散距離との関係式に目標骨材分散距離を当てはめて目標単位水量を算出する。
目標単位水量は、式2とy=Deptとの交点とする(図3参照)。なお、図3は、単位水量と骨材分散距離との関係を示すグラフの一例である。ここで、水セメント比を一定とする場合は骨材体積比Va(W)を式3により算出し、セメント量を一定とする場合は骨材体積比Va(W)を式4により算出する。
【0024】
【数6】
【0025】
最適水量算出工程S6では、目標水量算出工程S5において算出した目標単位水量を基準として単位水量を変化させた試し練りを行い、所要のワーカビリティを確保可能な単位水量である最適単位水量を定める。
【0026】
本実施形態のコンクリートの配合設計方法によれば、細粗混合骨材実積率を算出することで、現状では試験方法が確立されていない細粗混合骨材の実積率測定する必要がない。また、単粒度の実積率を各骨材の粒径判定実積率によって代用することで、現状では試験方法が確立されていない各骨材の単粒度の実積率の測定を省略可能である。
また、使用する骨材に対して新たな骨材試験を行うことなく、JIS A 5005「コンクリート用砕石及び砕砂」で実施を定められている骨材試験(JIS A 1102「骨材のふるい分け試験方法」を含む)の情報のみでコンクリート配合-流動性の評価が可能である。
【0027】
以下、本実施形態のコンクリートの配合設計方法について、検証した結果を示す。
本実施形態のコンクリートの配合設計方法(空間率体積比に関する重みを考慮した場合)により骨材分散距離を算出したコンクリートについてスランプを測定した結果を図4(a)に示す。また、比較例として、いわゆる鈴木式(空間率体積比に関する重みを考慮しない場合)を利用して骨材分散距離を算出したコンクリートについてスランプを測定した結果を図4(b)に示す。図4(b)に示すように、スランプと骨材分散距離との関係にばらつきがあったが、図4(a)に示すように、実施例によればスランプと骨材分散距離の関係の相関が向上することが確認できた。
さらに、本実施形態のコンクリートの配合設計方法(空間率体積比に関する重みを考慮した場合)によるコンクリート配合の単位水量の低減効果について検討した。使用材料を表1、配合を表2、試験結果を表3に示す。ここで、比較例は、単位結合材量固定の条件とした。結果、基準配合と比較しスランプは同等で単位水量を8kg/m低減するとともに、圧縮強度およびブリーディング率といったコンクリートの基本性状が向上した配合を作成することができた。
【0028】
【表1】
【0029】
【表2】
【0030】
【表3】
【0031】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、前述の実施形態に限られず、前記の各構成要素については本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更が可能である。
【符号の説明】
【0032】
S1 暫定配合決定工程
S2 暫定分散距離算出工程
S3 最大分散距離算出工程
S4 スランプ比較工程
S5 目標水量算出工程
S6 最適水量算出工程
図1
図2
図3
図4