(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-15
(45)【発行日】2024-05-23
(54)【発明の名称】応力プロファイルが改善されたガラスセラミック物品
(51)【国際特許分類】
C03C 21/00 20060101AFI20240516BHJP
C03C 10/12 20060101ALI20240516BHJP
【FI】
C03C21/00 101
C03C10/12
(21)【出願番号】P 2021508284
(86)(22)【出願日】2019-08-14
(86)【国際出願番号】 US2019046450
(87)【国際公開番号】W WO2020041057
(87)【国際公開日】2020-02-27
【審査請求日】2022-08-12
(32)【優先日】2018-08-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】397068274
【氏名又は名称】コーニング インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100073184
【氏名又は名称】柳田 征史
(74)【代理人】
【識別番号】100175042
【氏名又は名称】高橋 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100224775
【氏名又は名称】南 毅
(72)【発明者】
【氏名】ダフィー,デレーナ ルシンダ ジャスティス
(72)【発明者】
【氏名】フィエノ,コンスタンス エル
(72)【発明者】
【氏名】ホール,ジル マリー
(72)【発明者】
【氏名】ジン,ユィホイ
(72)【発明者】
【氏名】シュナイダー,ヴィトール マリーノ
【審査官】酒井 英夫
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/184803(WO,A1)
【文献】特開2008-254984(JP,A)
【文献】特表2017-530933(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 1/00-14/00,21/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラスセラミック物品であって:
基板厚さ(t)を画定する対向する第1の表面及び第2の表面を有する、ガラスセラミック基板;
アルカリ金属及び結晶質相を含む、前記ガラスセラミック物品の中央の中央組成物であって、前記結晶質相は前記中央組成物の20重量%以上である、中央組成物;並びに
以下のうちの1つ以上:
(a)3マイクロメートル以上の深さのニーを含む、応力プロファイル;
(b)前記第1の表面における200MPa以上の第1の圧縮応力と、ニーにおける20MPa以上の第2の圧縮応力とを有する、応力プロファイル;並びに
(c)非ナトリウム酸化物であって、前記第1の表面から前記非ナトリウム酸化物の層深さまで変化するゼロでない濃度を有する、非ナトリウム酸化物;並びにニー、及び0.10・t以上の圧縮深さ(DOC)を有する、応力プロファイル
を備え、
ガラス質表面層は存在しない、ガラスセラミック物品。
【請求項2】
前記中央組成物の前記アルカリ金属はリチウムである、請求項1に記載のガラスセラミック物品。
【請求項3】
前記第1の表面及び前記第2の表面における前記結晶質相の表面濃度は、前記中央組成物の前記結晶質相の約1%以内であ
る、請求項1又は2に記載のガラスセラミック物品。
【請求項4】
前記結晶質相はペタライト結晶質相及び/又はケイ酸リチウム結晶質相を含み、前記ケイ酸リチウム結晶質相は二ケイ酸リチウム結晶質相である、請求項1~3のいずれか1項に記載のガラスセラミック物品。
【請求項5】
前記ガラスセラミック基板は、βスポジュメン固溶体結晶質相を含むリチウム含有アルミノシリケートガラスセラミックを含む、請求項1~4のいずれか1項に記載のガラスセラミック物品。
【請求項6】
前記中央組成物は、重量で:55~80%のSiO
2、2~20%のAl
2O
3、0.5~6%のP
2O
5、5~20%のLi
2O、0~5%のNa
2O、0.2~15%のZrO
2、0~10%のB
2O
3;及び0~10%のZnOを含む、請求項1~5のいずれか1項に記載のガラスセラミック物品。
【請求項7】
前記応力プロファイルは:
前記第1の表面から前記ニーまで延在するスパイク領域;及び
前記ニーから前記ガラスセラミック物品の中央まで延在するテール領域を含み、
前記スパイク領域内に位置する前記応力プロファイルの全ての点は、20MPa/マイクロメートル以上の値を有する正接を有し、前記テール領域内に位置する前記応力プロファイルの全ての点は、2MPa/マイクロメートル以下の値を有する正接を有する、請求項1~6のいずれか1項に記載のガラスセラミック物品。
【請求項8】
リチウムは、前記第1の表面及び/又は前記第2の表面に、ゼロでない濃度で存在する、請求項1~7のいずれか1項に記載のガラスセラミック物品。
【請求項9】
tは50マイクロメートル~5ミリメートルの範囲内である、請求項1~8のいずれか1項に記載のガラスセラミック物品。
【請求項10】
(i)洗浄処理後に測定される、CIELAB色座標系による色パラメータa*の値は、前記洗浄処理への曝露前の前記色パラメータa*の0.05単位以内であり、前記洗浄処理は、前記ガラスセラミック物品を、pH2~12の洗浄液に30分間曝露するステップを含むこと;
(ii)洗浄処理後に測定される、CIELAB色座標系による色パラメータb*の値は、前記洗浄処理への曝露前の前記色パラメータb*の0.5単位以内であり、前記洗浄処理は、前記ガラスセラミック物品を、pH2~12の洗浄液に30分間曝露するステップを含むこと;及び
(iii)洗浄処理後に測定される、CIELAB色座標系による色パラメータL*の値は、前記洗浄処理への曝露前の前記色パラメータL*の1単位以内であり、前記洗浄処理は、前記ガラスセラミック物品を、pH2~12の洗浄液に30分間曝露するステップを含むこと
のうちの少なくとも1つを伴う、請求項1~9のいずれか1項に記載のガラスセラミック物品。
【請求項11】
消費者向け電子製品であって:
前面、背面、及び側面を有する、ハウジング;
少なくとも一部が前記ハウジング内に設けられた電子部品であって、前記電子部品は少なくともコントローラ、メモリ、及びディスプレイを含み、前記ディスプレイは、前記ハウジングの前記前面に又は前記前面に隣接して設けられる、電子部品;並びに
前記ディスプレイを覆うように配置されたカバー
を備え、
前記ハウジング及び前記カバーのうちの少なくとも一方の一部分は、請求項1~10のいずれか1項に記載のガラスセラミック物品を含む、消費者向け電子製品。
【請求項12】
ガラスセラミック物品の製造方法であって:
ベース組成物中にリチウム及び結晶質相を含有するガラスセラミック基板であって、前記ガラスセラミック基板は、基板厚さ(t)を画定する対向する第1の表面及び第2の表面を有する、ガラスセラミック基板を、イオン交換処理に曝露して、前記ガラスセラミック物品を形成するステップ
を含み、
前記イオン交換処理は:
リチウムの原子半径より大きな原子半径を有する第1の金属イオンを含む第1の浴を含む、第1のイオン交換処理;並びに
前記第1の金属イオン及び第2の金属イオンを含む第2の浴を含む、前記第1のイオン交換処理の後に実施される第2のイオン交換処理
を含み、
前記第1の浴の前記第1の金属イオンは、前記第2の浴中の前記第1のイオンより高い百分率量で存在し、
前記第1のイオン交換処理及び/又は前記第2のイオン交換処理は更に、前記第1の浴及び/又は前記第2の浴に添加されたある用量のリチウム塩を含み、
前記リチウム塩は、前記第1の浴及び/又は前記第2の浴の量の0.1~1重量%の範囲内の用量の硝酸リチウム(LiNO
3)を含
み、
前記第1の金属イオンはカリウムを含み、前記第1の浴は、97重量%~100重量%の範囲内の量の硝酸カリウム(KNO
3
)を含み、前記第2の浴は、約80重量%から97重量%未満の量の硝酸カリウム(KNO
3
)、及び3重量%~20重量%の量の硝酸ナトリウム(NaNO
3
)を含む、方法。
【請求項13】
(a)前記第1のイオン交換処理、前記第2のイオン交換処理、又はこれら両方は更に、前記第1の浴及び/又は前記第2の浴の量の0.1~1重量%の範囲内の量の、ある用量の亜硝酸ナトリウム(NaNO
2)を含むこと;並びに
(b)前記第1のイオン交換処理、前記第2のイオン交換処理、又はこれら両方は更に、前記第1の浴及び/又は前記第2の浴の量の0.1~1重量%の範囲内の量の、ある用量のリン酸三ナトリウム(TSP)を含むこと
のうちの少なくとも1つを伴う、請求項1
2に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
本出願は、米国特許法第119条の下で、2018年8月20日出願の米国仮特許出願第62/719730号の優先権の利益を主張するものであり、上記仮特許出願の内容は依拠され、その全体が参照により本出願に援用される。
【技術分野】
【0002】
本開示の実施形態は一般に、ガラスセラミック物品、並びに応力プロファイルが改善された高強度ガラスセラミック物品及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0003】
ガラスセラミック物品は、例えばイオン交換によって化学強化して、割れの侵入に対する耐性及び落下性能といった機械的特性を改善できる。1つ以上の結晶質相と残留ガラス相とを有する多相材料であるガラスセラミックのイオン交換プロセスは、複雑なものとなり得る。イオン交換は、残留ガラス相に加えて結晶質相のうちの1つ以上に影響を及ぼす可能性がある。
【0004】
化学処理は、以下のパラメータ:圧縮応力(CS)、圧縮深さ(DOC)、及び最大中央張力(CT)のうちの1つ以上を含む所望の/操作された応力プロファイルを付与するための、強化方法である。操作された応力プロファイルを有するものを含む多数のガラスセラミック物品は、ガラス表面において最高又はピークとなるが、表面から離れるように移動するとピーク値から減少する、圧縮応力を有し、また、ガラス物品中の応力が引張応力となる前には、ガラス物品の何らかの内部位置に、ゼロ応力が存在する。アルカリ含有ガラスセラミックのイオン交換(IOX)による化学強化は、この分野における1つの方法である。
【0005】
リチウム(Li)系基板では通常、ナトリウム(Na)及びカリウム(K)の2つのイオンを、拡散及び応力プロファイルの形成に使用する。このようなIOXの間、K、Na、及びLiは全て、同時に拡散して交換される。一般に、イオン半径が比較的大きなイオンであるKは、比較的高い応力を誘発するものの、比較的低い応力を誘発する、イオン半径が比較的小さなNaイオンに比べて、ゆっくりと拡散する。そのため、混合K/Na塩浴を使用する場合、中程度の深さにおいて高い応力を誘発するのは困難である。Kイオンは、プロファイルのいわゆるスパイクを画定し、Naイオンはプロファイルの深いテールを画定する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
その用途に関して信頼できる機械的及び/又は化学的特性を有するように強化されたガラスセラミック物品の提供に対して、継続的な需要が存在する。特に、リチウムを含有するガラスセラミック物品をカリウムで強化することに対して、需要が存在し、このガラスセラミック物品は、その業界において改善された機械的及び/又は化学的信頼性を示す。また、これらを効率的で費用対効果の高い方法で実施することに対しても、継続的な需要が存在する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の複数の態様は、ガラスセラミック物品、並びにその製造及び使用方法に関する。
【0008】
態様1では、ガラスセラミック物品は:基板厚さ(t)を画定する対向する第1及び第2の表面を有する、ガラスセラミック基板;アルカリ金属及び結晶質相を含む、上記ガラスセラミック物品の中央の中央組成物であって、上記結晶質相は上記中央組成物の20重量%以上である、中央組成物;並びに3マイクロメートル以上の深さにニーを有する応力プロファイルを備える。
【0009】
態様2では、ガラスセラミック物品は:基板厚さ(t)を画定する対向する第1及び第2の表面を有する、ガラスセラミック基板;アルカリ金属及び結晶質相を含む、上記ガラスセラミック物品の中央の中央組成物であって、上記結晶質相は上記中央組成物の20重量%以上である、中央組成物;並びに上記第1の表面における200MPa以上の第1の圧縮応力と、ニーにおける20MPa以上の第2の圧縮応力とを有する、応力プロファイルを備える。
【0010】
態様3では、ガラスセラミック物品は:基板厚さ(t)を画定する対向する第1及び第2の表面を有する、ガラスセラミック基板;アルカリ金属及び結晶質相を含む、上記ガラスセラミック物品の中央の中央組成物であって、上記結晶質相は上記中央組成物の20重量%以上である、中央組成物;非ナトリウム酸化物であって、上記第1の表面から上記非ナトリウム酸化物の層深さまで変化するゼロでない濃度を有する、非ナトリウム酸化物;並びにニー、及び0.10・t以上の圧縮深さ(DOC)を有する、応力プロファイルを備える。
【0011】
態様1~3のいずれか1つに記載の態様4では、上記中央組成物の上記アルカリ金属はリチウムである。
【0012】
態様1~4のいずれか1つに記載の態様5では、上記結晶質相は、上記中央組成物の20重量%~約70重量%の量で存在する。
【0013】
態様1~5のいずれか1つに記載の態様6では、上記第1及び第2の表面における上記結晶質相の表面濃度は、上記中央組成物の上記結晶質相の約1%以内である。
【0014】
態様1~6のいずれか1つに記載の態様7では、ガラス質表面層は存在しない。
【0015】
態様1~7のいずれか1つに記載の態様8では、上記結晶質相はペタライト結晶質相及び/又はケイ酸リチウム結晶質相を含む。
【0016】
態様1~8のいずれか1つに記載の態様9では、上記ケイ酸リチウム結晶質相は二ケイ酸リチウム結晶質相である。
【0017】
態様1~9のいずれか1つに記載の態様10では、上記ガラスセラミック基板は、βスポジュメン固溶体結晶質相を含むリチウム含有アルミノシリケートガラスセラミックを含む。
【0018】
態様1~10のいずれか1つに記載の態様11では、上記中央組成物は、重量で:55~80%のSiO2、2~20%のAl2O3、0.5~6%のP2O5、5~20%のLi2O、0~5%のNa2O、0.2~15%のZrO2、0~10%のB2O3;及び0~10%のZnOを含む。
【0019】
態様1~11のいずれか1つに記載の態様12では、上記応力プロファイルは:上記第1の表面から上記ニーまで延在するスパイク領域;及び上記ニーから上記ガラスセラミック物品の中央まで延在するテール領域を含み;上記スパイク領域内に位置する上記応力プロファイルの全ての点は、20MPa/マイクロメートル以上の値を有する正接を有し、上記テール領域内に位置する上記応力プロファイルの全ての点は、2MPa/マイクロメートル以下の値を有する正接を有する。
【0020】
態様1~12のいずれか1つに記載の態様13では、上記ニーは、50MPa以上の圧縮応力を有する。
【0021】
態様1~13のいずれか1つに記載の態様14は、第1の金属酸化物を含み、上記第1の金属酸化物は、上記第1の表面から上記第1の金属酸化物の層深さ(DOL)まで変化するゼロでない濃度を有する。
【0022】
態様1~14のいずれか1つに記載の態様15では、上記第1の金属酸化物は、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)、セシウム(Cs)、フランシウム(Fr)、銀(Ag)、金(Au)、及び銅(Cu)からなる群から選択される。
【0023】
態様14又は15に記載の態様16では、上記第1の金属酸化物はカリウムである。
【0024】
態様1~16のいずれか1つに記載の態様17では、リチウムは、上記第1の及び/又は第2の表面に、ゼロでない濃度で存在する。
【0025】
態様1~17のいずれか1つに記載の態様18では、tは50マイクロメートル~5ミリメートルの範囲内である。
【0026】
態様19では、ガラスセラミック物品は:基板厚さ(t)を画定する対向する第1及び第2の表面を有する、ガラスセラミック基板;アルカリ金属及び結晶質相を含む、上記ガラスセラミック物品の中央の中央組成物であって、上記結晶質相は上記中央組成物の20重量%以上である、中央組成物;酸化カリウムであって、上記第1の及び/又は第2の表面から上記酸化カリウムの層深さ(DOL)まで変化するゼロでない濃度を有する、酸化カリウム;並びに約0.17*t以上の圧縮深さ(DOC)、上記第1の表面における200MPa以上の第1の圧縮応力、ニーにおける20MPa以上の第2の圧縮応力、及び上記第1の表面から上記ニーまで延在するスパイク領域を有する、応力プロファイルであって、上記ニーは5マイクロメートル以上の深さにある、応力プロファイルを備える。
【0027】
態様19に記載の態様20では、上記ガラスセラミック基板は、βスポジュメン固溶体結晶質相を含むリチウム含有アルミノシリケートガラスセラミックを含む。
【0028】
態様19に記載の態様21では、上記結晶質相はペタライト結晶質相及び/又はケイ酸リチウム結晶質相を含む。
【0029】
態様19~21のいずれか1つに記載の態様22では、上記中央組成物は、重量で:55~80%のSiO2、2~20%のAl2O3、0.5~6%のP2O5、5~20%のLi2O、0~5%のNa2O、0.2~15%のZrO2、0~10%のB2O3;及び0~10%のZnOを含む。
【0030】
態様19~22のいずれか1つに記載の態様23では、洗浄処理後に測定される、CIELAB色座標系による色パラメータa*の値は、上記洗浄処理への曝露前の上記色パラメータa*の0.05単位以内であり、上記洗浄処理は、上記ガラスセラミック物品を、pH2~12の洗浄液に30分間曝露するステップを含む。
【0031】
態様19~23のいずれか1つに記載の態様24では、洗浄処理後に測定される、CIELAB色座標系による色パラメータb*の値は、上記洗浄処理への曝露前の上記色パラメータb*の0.5単位以内であり、上記洗浄処理は、上記ガラスセラミック物品を、pH2~12の洗浄液に30分間曝露するステップを含む。
【0032】
態様19~24のいずれか1つに記載の態様25では、洗浄処理後に測定される、CIELAB色座標系による色パラメータL*の値は、上記洗浄処理への曝露前の上記色パラメータL*の1単位以内であり、上記洗浄処理は、上記ガラスセラミック物品を、pH2~12の洗浄液に30分間曝露するステップを含む。
【0033】
態様19~25のいずれか1つに記載の態様26では、上記第1及び第2の表面における上記結晶質相の表面濃度は、上記中央組成物の上記結晶質相の約1%以内である。
【0034】
態様19~26のいずれか1つに記載の態様27では、ガラス質表面層は存在しない。
【0035】
態様19~27のいずれか1つに記載の態様28では、表面導波路は、上記第1の及び/又は第2の表面から上記DOLまで存在する。
【0036】
態様19~28のいずれか1つに記載の態様29では、tは50マイクロメートル~5ミリメートルの範囲内である。
【0037】
態様30では、消費者向け電子製品は:前面、背面、及び側面を有する、ハウジング;少なくとも一部が上記ハウジング内に設けられた電子部品であって、上記電子部品は少なくともコントローラ、メモリ、及びディスプレイを含み、上記ディスプレイは、上記ハウジングの上記前面に又は上記前面に隣接して設けられる、電子部品;並びに上記ディスプレイを覆うように配置されたカバーを備え、上記ハウジング及び上記カバーのうちの少なくとも一方の一部分は、態様1~29のいずれか1つに記載のガラスセラミック物品を含む。
【0038】
態様31では、ガラスセラミック物品の製造方法は:ベース組成物中にリチウム及び結晶質相を含有するガラスセラミック基板であって、上記ガラスセラミック基板は、基板厚さ(t)を画定する対向する第1及び第2の表面を有する、ガラスセラミック基板を、イオン交換処理に曝露して、上記ガラスセラミック物品を形成するステップを含み、上記イオン交換処理は:リチウムの原子半径より大きな原子半径を有する第1の金属イオンを含む第1の浴を含む、第1のイオン交換処理;並びに上記第1の金属イオン及び第2の金属イオンを含む第2の浴を含む、上記第1のイオン交換処理の後に実施される第2のイオン交換処理を含み、上記第1の浴の上記第1の金属イオンは、上記第2の浴中の上記第1のイオンより高い百分率量で存在する。
【0039】
態様31に記載の態様32では、上記ガラスセラミック基板は、βスポジュメン固溶体結晶質相を含むリチウム含有アルミノシリケートガラスセラミックを含む。
【0040】
態様31に記載の態様33では、上記結晶質相はペタライト結晶質相及び/又はケイ酸リチウム結晶質相を含む。
【0041】
態様31~33のいずれか1つに記載の態様34では、上記第1の浴は、97重量%以上の量の上記第1の金属イオンを含み、上記第2の浴は、約80重量%から97重量%未満の量の上記第1の金属イオンを含む。
【0042】
態様31~34のいずれか1つに記載の態様35では、上記第1の金属イオンはカリウムを含み、上記第1の浴は、97重量%~100重量%の範囲内の量の硝酸カリウム(KNO3)を含み、上記第2の浴は、約80重量%から97重量%未満の量の硝酸カリウム(KNO3)、及び3重量%~20重量%の量の硝酸ナトリウム(NaO3)を含む。
【0043】
態様31~35のいずれか1つに記載の態様36では、上記ガラスセラミック物品は、0.17・t以上の圧縮深さ(DOC)を有する応力プロファイルを有する。
【0044】
態様31~36のいずれか1つに記載の態様37では、上記第1の金属イオンは、上記第1の表面から上記第1の金属イオンに関する層深さ(DOL)まで変化する、第1のゼロでない濃度を有する。
【0045】
態様37に記載の態様38では、上記第1の金属イオンは、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)、セシウム(Cs)、フランシウム(Fr)、銀(Ag)、金(Au)、及び銅(Cu)からなる群から選択される。
【0046】
態様31~38のいずれか1つに記載の態様39では、上記第1のイオン交換処理及び/又は上記第2のイオン交換処理は更に、上記第1の浴及び/又は上記第2の浴に添加されたある用量のリチウム塩を含む。
【0047】
態様39に記載の態様40では、上記リチウム塩は、上記第1の浴及び/又は上記第2の浴の量の0.1~1重量%の範囲内の用量の硝酸リチウム(LiNO3)を含む。
【0048】
態様39又は40に記載の態様41では、上記第1及び第2の表面における上記結晶質相の表面濃度は、上記ベース組成物の上記結晶質相の約1%以内である。
【0049】
態様31~41のいずれか1つに記載の態様42では、上記第1のイオン交換処理、上記第2のイオン交換処理、又はこれら両方は更に、上記第1の浴及び/又は上記第2の浴の量の0.1~1重量%の範囲内の量の、ある用量の亜硝酸ナトリウム(NaNO2)を含む。
【0050】
態様31~42のいずれか1つに記載の態様43では、上記第1のイオン交換処理、上記第2のイオン交換処理、又はこれら両方は更に、上記第1の浴及び/又は上記第2の浴の量の0.1~1重量%の範囲内の量の、ある用量のリン酸三ナトリウム(TSP)を含む。
【0051】
態様31~43のいずれか1つに記載の態様44では、tは50マイクロメートル~5ミリメートルの範囲内である。
【0052】
本明細書に組み込まれて本明細書の一部を構成する添付の図面は、以下に記載の複数の実施形態を図示している。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【
図1A】本明細書で開示されるガラス系物品のうちのいずれを組み込んだ例示的な電子デバイスの平面図
【
図2】第1のIOX処理後のガラスセラミック物品のTM及びTE導波モードスペクトル干渉縞の画像
【
図3】第2のIOX処理後の、ある実施形態によるガラスセラミック物品のTM及びTE導波モードスペクトル干渉縞の画像
【
図4】第1のIOX処理後のガラスセラミック物品のTM及びTE導波モードスペクトル干渉縞の画像
【
図5】第2のIOX処理後の、ある実施形態によるガラスセラミック物品のTM及びTE導波モードスペクトル干渉縞の画像
【
図6】第1のIOX処理後のガラスセラミック物品のTM及びTE導波モードスペクトル干渉縞の画像
【
図7】第1のIOX処理後の
図6のガラスセラミック物品の、位置(マイクロメートル)に対する応力(MPa)の応力プロファイル
【
図8】二重IOX処理後の、ある実施形態によるガラスセラミック物品のTM及びTE導波モードスペクトル干渉縞の画像
【
図9】二重IOX処理後の
図8のガラスセラミック物品の、位置(マイクロメートル)に対する応力(MPa)の応力プロファイル
【
図10】第1のIOX処理後のガラスセラミック物品のTM及びTE導波モードスペクトル干渉縞の画像
【
図11】第2のIOX処理後のガラスセラミック物品のTM及びTE導波モードスペクトル干渉縞の画像
【
図12】第1のIOX浴に対する第2のIOX浴のリチウム濃度、及び中央張力(CT)の輪郭線のグラフ
【
図13】様々なタイプの処理に関するL*パラメータの変動性を示す、CIELAB色座標系に基づく色測定のプロット
【
図14】様々なタイプの処理に関するa*パラメータの変動性を示す、CIELAB色座標系に基づく色測定のプロット
【
図15】様々なタイプの処理に関するb*パラメータの変動性を示す、CIELAB色座標系に基づく色測定のプロット
【発明を実施するための形態】
【0054】
複数の例示的実施形態を説明する前に、本開示は、以下の開示で記載される構成又はプロセスステップの細部に限定されないことを理解されたい。本明細書で提供される開示は、他の実施形態も可能であり、また様々な方法で実践又は実施できる。
【0055】
本明細書を通して、「一実施形態(one embodiment)」、「特定の実施形態(certain embodiments)」、「様々な実施形態(various embodiments)」、「1つ以上の実施形態(one or more embodiments)」、又は「ある実施形態(an embodiment)」に関する言及は、その実施形態に関連して記載される特定の特徴、構造、材料、又は特性が、本開示の少なくとも1つの実施形態に含まれることを意味する。よって「1つ以上の実施形態では(in one or more embodiments)」、「特定の実施形態では(in certain embodiments)」、「様々な実施形態では(in various embodiments)」、「一実施形態では(in one embodiment )」、又は「ある実施形態では(in an embodiment )」等の句が本明細書を通して様々な場所に現れても、これらは必ずしも同一の実施形態を指すものではない。更に、特定の特徴、構造、材料、又は特性を、1つ以上の実施形態においていずれの好適な様式で組み合わせてよい。
【0056】
定義及び測定技法
本明細書中で使用される場合、用語「ガラス‐セラミック(glass‐ceramic)」は、前駆体ガラスの制御された結晶化によって調製された固体であり、1つ以上の結晶相及び残留ガラス相を有する。
【0057】
本明細書中で使用される場合、「ガラス質(vitreous)」領域又は層は、結晶のパーセンテージが内部領域よりも低い表面領域を指す。ガラス質領域又は層は:イオン交換中のガラスセラミック物品の1つ以上の結晶質層の脱結晶化;(ii)ガラスセラミックに対するガラスの積層若しくは融合;又は(iii)前駆体ガラスがガラスセラミックへとセラミック化する間の形成といった、当該技術分野で公知の他の手段によって形成できる。
【0058】
「ベース組成物(base composition)」は、いずれのイオン交換(IOX)処理の前の、基板の化学的構造である。即ちベース組成物は、IOX由来のいずれのイオンでドープされていない。IOX処理されたガラス系物品の中央の組成物は典型的には、IOXのために供給されたイオンが基板の中央へと拡散しないようなIOX処理条件である場合、ベース組成物と同一である。1つ以上の実施形態では、ガラス物品の中央の組成物はベース組成物で構成される。
【0059】
なお、用語「略、実質的に(substantially)」及び「約(about)」は本明細書において、いずれの定量的比較、値、測定値、又は他の表現の性質上発生し得る避けがたい程度の不確実性を表すために使用され得る。これらの用語はまた、本明細書において、ある定量的表現が、問題となっている主題の基本的な機能の変化をもたらすことなく、その言明されている値から変動し得る程度を表すために使用され得る。よって例えば、「MgOを略含まない(substantially free of MgO)」ガラス系物品は、MgOが該ガラス系物品に能動的に添加又はバッチ投入されていないものの、汚染物質として極めて少量、例えば0.01モル%未満の量だけ存在し得る、ガラス系物品である。
【0060】
特段の記載がない限り、本明細書に記載の全ての組成は、酸化物ベースの重量パーセント(重量%)で表される。
【0061】
「応力プロファイル(stress profile)」は、ガラス系物品又はそのいずれの部分の、位置に対する応力である。圧縮応力領域は、物品の第1の表面から圧縮深さ(DOC)まで延在し、ここで物品は圧縮応力下にある。中央張力領域は、上記DOCから、上記物品が引張応力下にある領域を含むように延在する。
【0062】
本明細書中で使用される場合、圧縮深さ(DOC)は、ガラスセラミック物品内の応力が圧縮応力から引張応力に変化する深さを指す。DOCでは、応力が正の(圧縮)応力から負の(引張)応力へと変化するため、応力値ゼロを示す。機械分野で通常使用される慣例に従うと、圧縮は負の(<0の)応力として表現され、張力は正の(>0の)応力として表現される。しかしながら本説明では、圧縮応力(CS)を正の値又は絶対値として表現され、即ち本明細書で記載される場合、CS=|CS|である。更に本明細書では、引張応力は負の(<0の)応力として表現され、又は引張応力が具体的に識別されているいくつかの状況では、絶対値として表現される。中央張力(CT)は、ガラス系物品の中央領域又は中央張力領域内の引張応力を指す。最大中央張力(最大CT、又はCTmax)は中央張力領域で発生し、多くの場合0.5・tに位置し、ここでtは物品の厚さである。0.5・tにおける「名目上の(nominally)」という言及により、最大引張応力の位置のちょうど中央からのばらつきを許容する。
【0063】
応力プロファイルの「ニー(knee)」は、応力プロファイルのスロープが急峻なものから緩やかなものに移行する、物品の深さである。ニーは、スロープが変化している幅にわたる移行領域と呼ぶこともできる。ニーの深さは、物品内で濃度勾配を有する最大のイオンの層深さとして測定される。ニーのCSは、ニーノ深さにおけるCSである。
【0064】
本明細書中で使用される場合、用語「交換深さ(depth of exchange)」、「層深さ(depth of layer:DOL)」、「化学層深さ(chemical depth of layer)」、及び「化学層の深さ(depth of chemical layer)」は、相互交換可能なものとして使用でき、一般に、イオン交換プロセス(IOX)によって促進されるイオン交換が特定のイオンに関して起こる深さを記述する。DOLは、折原製作所(日本)製FSM‐6000等の市販の機器を用いた表面応力メータ(FSM)によって測定される、金属酸化物又はアルカリ金属酸化物(例えば金属イオン又はアルカリ金属イオン)がガラスセラミック物品中に拡散する、ガラスセラミック物品内の深さ(即ちガラスセラミック物品の表面からその内部領域までの距離)であって、イオンの濃度が最小値に到達する深さを指す。いくつかの実施形態では、DOLは、イオン交換(IOX)プロセスによって導入される、最も拡散が遅い又は最も大きなイオンの、交換の深さとして与えられる。
【0065】
第1の表面から該金属酸化物に関するある層深さ(DOL)まで変化する、又は物品の厚さ(t)の少なくとも相当な部分に沿って変化する、ゼロでない金属酸化物濃度は、イオン交換の結果として物品内に応力が生成されたことを示す。金属酸化物濃度の変化は、本明細書では金属酸化物濃度勾配と呼ばれる場合がある。濃度がゼロでなく、第1の表面からDOLまで又は厚さの一部分に沿って変化する、金属酸化物は、ガラス系物品内に応力を生成するものとして記述され得る。金属酸化物の濃度勾配又は変化は、ガラス系基板を化学強化することによって生成され、この化学強化では、ガラス系基板中の複数の第1の金属イオンを、複数の第2の金属イオンで交換する。
【0066】
特段の記載がない限り、CT及びCSは、本明細書ではメガパスカル(MPa)で表され、厚さ及びDOCはミリメートル又はマイクロメートルで表される。
【0067】
DOC値及び最大中央張力(CT)値は、エストニアのタリンにあるGlasStress Ltd.から入手可能な散乱光偏光器(scattered light polariscope:SCALP)型番SCALP‐04を使用して測定される。
【0068】
表面CS測定方法は、イオン交換中に、ガラス質領域又は層がガラス‐セラミック物品の表面に形成されるかどうかに依存する。ガラス質層又は領域が存在しない場合、表面CSは、折原製作所(日本)製のFSM‐6000等の市販の機器を用いて、表面応力計(FSM)によって測定される。表面応力測定は、応力光係数(stress optical coefficient:SOC)の正確な測定に依存し、これはガラスの複屈折に関係する。SOCは、ガラスの応力光係数の測定のための標準試験法(Standard Test Method for Measurement of Glass Stress‐Optical Coefficient)」という名称のASTM規格C770‐16(その内容全体は参照により本出願に援用される)に記載された手順C(ガラスディスク法)に従って測定される。ガラス質領域又は層が形成される場合、表面CS(及びガラス質層又は領域のCS)は、プリズム結合測定においてガラス質領域の第1の透過(結合)共鳴の複屈折によって測定され、ガラス質領域の層の深さは、第1の透過共鳴と第2の透過共鳴との間の間隔、又は第1の透過共鳴の幅によって測定される。
【0069】
CS領域の残部のCSは、米国特許第8,854,623号明細書、発明の名称「Systems and methods for measuring a profile characteristic of a glass sample」(参照によりその全体が本出願に援用される)に記載されている屈折近視野(refracted near‐field:RNF)法によって測定される。RNF測定は、SCALP測定によって提供される最大CT値に対して強制的に平衡価及び較正される。特に、RNF法は:ガラス物品を基準ブロックに隣接して配置するステップ;1Hz~50Hzのレートで直交偏光と直交偏光との間で切り替えられた、偏光切り替え光ビームを生成するステップ;偏光切り替え光ビームの出力の量を測定するステップ;及び偏光切り替え基準信号を生成するステップを含み、ここで、測定された各上記直交偏光のパワー量は、互いの50%以内である。上記方法は更に:偏光切り替え光ビームを、ガラス試料及び基準ブロックを通して、ガラス試料の異なる複数の深さまで透過させるステップ;その後、中継光学系を用いて、透過した上記偏光切り替え光ビームを信号光検出器へと中継し、信号光検出器が偏光切り替え検出器信号を生成するステップを含む。上記方法は:基準信号によって検出器信号を除算して、正規化された検出器信号を形成するステップ;及び上記正規化された検出器信号からガラス試料のプロファイル特性を決定するステップも含む。
【0070】
応力プロファイルは、内部CSのためのRNFと、CT領域のためのSCALPと、表面CSを測定するために使用される方法との組み合わせによって測定できる。
【0071】
本開示の態様及び/又は実施形態によるガラスセラミック物品の色を記述するための、CIELAB色空間座標(例えばCIE L*;CIE a*;及びCIE b*;又はCIE L*、a*、及びb*;又はL*、a*、及びb*)は、x‐rite color i7分光光度計を用いて、10°観測者を用いて光源D65、A、及びF2による透過及び全反射率(鏡面反射を含む)を測定した後、CIELAB規格によってL*;a*;及びb*色空間座標を計算することによって決定された。
【0072】
二重イオン交換(DIOX)処理
本明細書で開示されるのは、応力プロファイルが改善されたガラスセラミック物品である。上記物品は、拡散のための修正型2ステップイオン交換(DIOX)を用いて調製され、この修正型2ステップイオン交換(DIOX)は:(1)まず、例えば第1の処理の浴を用いて、応力プロファイルのスパイク領域にスパイクを導入し、ここで上記浴は、原子半径がリチウムの原子半径より大きな第1の金属イオン、例えばカリウムを含み、これに続いて(2)
第1の浴の第1の金属イオンと第2の金属イオン、例えばカリウム‐ナトリウム混合浴を用いて、スパイクを維持して応力プロファイルのテール領域を形成するための、第2の拡散処理を行う。本明細書中の方法により、その成分の1つとして結晶質形態の二ケイ酸リチウムを含有してよいガラスセラミック等の材料において、安定した、制御可能な応力プロファイルが得られる。
【0073】
いくつかの実施形態では、DIOXの第1のステップは、ガラスの表面の大きなスパイク領域と、物品の中央へ向かう応力プロファイルの減衰するテールとを生成する。表面及び表面下の応力/カリウムのスパイクは導波路を形成し、これは、導波路モードの反復可能で信頼性の高い測定、並びに表面の圧縮応力(CS)及びスパイクの深さの決定を容易にする。第2のステップは、スパイク領域を中断することなく、応力プロファイルのテール領域を形成する。本明細書の方法は、ガラスセラミック物品を形成するための従来のDIOX処理とは反対の順序であり、従来のDIOX処理は典型的には、例えば50重量%のKNO3/50重量%のNaNO3の浴(380℃、4時間)を用いて基板内に応力プロファイルを生成する第1のステップと、これに続く、例えば90重量%のKNO3/10重量%のNaNO3(20分)を用いて表面にスパイクを付与する第2のステップとに依存する。
【0074】
リチウムと、結晶質相、例えばペタライト結晶質相及び/又はケイ酸リチウム結晶質相とを含有するガラスセラミック基板では、カリウムの拡散は、イオン半径の違いだけでなく基板内の結晶質材料の存在も原因として、ナトリウムの拡散よりも大幅にゆっくりである。これは即ち、表面付近にスパイクを生成するためには、極めて長い拡散時間が一般に必要となることを意味している。更に、ガラスセラミックのいくつかの特定の場合においては、ナトリウムがこの材料中に拡散する際に発生する現象がある。ナトリウムが材料中に拡散すると、ナトリウムの一部が、基板中で利用可能なリチウムを交換するが、別の一部は、ガラスセラミック構造中のリチウム系ナノ結晶、例えば二ケイ酸リチウム(Li2Si2O5及びその他の形態)を交換する。最終的な結果として、ナノ結晶が部分的に溶解し、Naドープシリケートガラス層の概観が生成される。拡散プロセスの動態により、このガラス質層は、イオン交換されている材料の表面に出現し、その非晶質含有量が、物品の中央に向かって漸減する。このガラス質層の厚さは、ナトリウムの量、拡散プロセスに使用される時間及び温度に依存することになる。
【0075】
実際には、数ナノメートルから数十マイクロメートルのオーダー(例えば厚さ数百ナノメートル~4マイクロメートルの範囲内)での、これらのガラスセラミックにおけるNaイオン交換によって、Naに富むガラス質層を得ることができる。下層のガラスセラミック基板よりも屈折率が低いこのガラス質層は、FSM‐6000LE機器による応力の計測に使用されるプリズムを介した光結合を妨げる。その結果、干渉縞がぼやけ、及び/又は破壊され、計測技法/設備を修正せずに表面の応力を正確に測定することは、不可能ではないにしても困難となる。本開示の実施形態は、干渉縞の検出及び測定が依然として可能である最小限の厚さの(ガラス質層とはみなされない)富Na層の存在に起因する、表面におけるある程度のぼやけを許容できる。従っていくつかの実施形態では、本明細書で開示されるガラスセラミック物品はガラス質層を有しない。
【0076】
いくつかの実施形態では、ガラス質層の形成を回避するために、本明細書で開示されるDIOX処理を、初期のいずれの純粋な浴の条件を相殺する、一方又は両方のステップへの低いパーセンテージのLiの添加によって、更に強化できる。即ち、下層の基板からのLiの拡散を待つのではなく、低いパーセンテージのLiを添加して、名目上のリチウムの「被毒(poisoning)」又は「適用(dosage)」を生成することによって、プロセスの制御に有害なガラス質層の形成を緩和又は回避する。得られるプロセス中試料及び最終試料は他のものよりも均一であり、これにより、(例えば浴の組成、浴の温度、及びイオン交換処理の持続時間の)一貫した計測条件及びプロセス制御が容易になる。即ち、イオン交換されるガラスの第1のバッチに関して、応力を測定できる。いくつかの実施形態では、Liを、LiNO3及びLiNO2を含むがこれらに限定されないリチウム含有塩の形態で導入してよい。
【0077】
更に、多少のNaNO2をイオン交換浴に導入することによって、DIOX処理を更に強化してよい。これは、塩混合物のより良好な均質性を生成し、分解によって残留塩の一部である(マグネシウムイオン等の)不純物の量を減少させるためのものである。
【0078】
本明細書の手順全体は、2ステップイオン交換によってガラス及びガラスセラミック中に応力を生成するための一般的な手順とは逆に実施される。
【0079】
いくつかの実施形態では、本明細書の第1のIOX処理は、100重量%のKNO3又は100%近くのLiより大きな、また任意にNaより大きなイオンである浴を用いて、問題となっている物品(例えばリチウム含有アルミノシリケートガラスセラミック)にスパイクを生成することを伴う。いくつかの実施形態では、第1のイオン交換処理のための浴は、ガラス質層の形成を回避し、浴の化学的性質を改善するために、NaNO2と、LiNO3又はLiNO2等のリチウム含有塩とを含む。この場合、拡散は長時間となり、適度なスパイクを生成する。カリウムの代わりに、又はカリウムと組み合わせて、ルビジウム、セシウム、フランシウム、銅、銀、金等の他の元素を第1のIOX処理において使用して、応力値を強化してよい。1つ以上の実施形態では、第1の浴の金属イオンはリチウムより大きい。いくつかの実施形態では、第1の浴の金属イオンはナトリウムより大きい。いくつかの実施形態では、第1の浴の金属イオンはカリウムである。
【0080】
いくつかの実施形態では、本明細書の第2のIOX処理は、Liより大きな、また任意にNaより大きなイオンが100%ではない浴を用いて、応力プロファイルのテールを生成することを伴う。1つ以上の実施形態では、比は90重量%のKNO3及び10重量%のNaNO3であり、これは通常のプロセスの反対である。これにより、NaがLiで交換されることによって、プロファイルの深い領域(プロファイルのテール)に相当な量の応力が生成される。更に、表面の応力がわずかに減少するものの、スパイクの深さの増大は継続して観察される。このスパイク深さの増大により、FSM‐6000LE機器による検出及び計測のために、より多くの干渉縞、又はより間隔が大きな干渉縞を形成できる。またいくつかの実施形態では、第2のステップにおいて、第2のイオン交換処理のための浴は、NaNO2、及びLiNO3又はLiNO2等のリチウム含有塩を含み、これにより、第1のステップと同様にガラス質層の形成が緩和又は回避され、浴の化学的性質が改善される。
【0081】
1つ以上の実施形態では、第1の浴及び/又は第2の浴中のLiNO3又はLiNO2等のリチウム含有塩の量は、第1の浴及び/又は第2の浴の量の0.1~1重量%、又は0.2~0.5重量%の範囲内である。
【0082】
1つ以上の実施形態では、第1の浴及び/又は第2の浴中のNaNO2の量は、第1の浴及び/又は第2の浴の量の0.1~1重量%、0.2~0.5重量%の範囲内である。
【0083】
第2のイオン交換処理における塩の濃度の他の比、例えば80重量%のKNO3及び20重量%のNaNO3も可能である。カリウムの量を第2のステップにおいて減少させると、屈折率がわずかに抑制されて、応力測定が困難になる可能性がある。更に表面の応力もこれに比例して低下する。
【0084】
ガラスセラミック物品中には、ガラスセラミック基板のベース組成物中には存在しない、リチウム以外の1つの金属酸化物(例えばK、Rb、Cs、Ag等)が存在し、これは、第1の表面から、該金属酸化物に関する層深さ(DOL)まで変化する、ゼロでない濃度を有する。応力プロファイルは、第1の表面から変化する1つ以上の金属酸化物のゼロでない濃度によって生成される。このゼロでない濃度は、物品の厚さの一部分に沿って変化し得る。いくつかの実施形態では、上記金属酸化物の濃度はゼロでなく、約0・t~約0.3・tの厚さ範囲に沿って変化する。いくつかの実施形態では、上記金属酸化物の濃度はゼロでなく、約0・t~約0.35・t、約0・t~約0.4・t、約0・t~約0.45・t、約0・t~約0.48・t、又は約0・t~約0.50・tの厚さ範囲に沿って変化する。この濃度の変化は、上述の厚さ範囲に沿って連続していてよい。濃度の変化は、約100マイクロメートルの厚さセグメントに沿った約0.2モル%以上の金属酸化物濃度の変化を含んでよい。金属酸化物濃度の変化は、約100マイクロメートルの厚さセグメントに沿って、約0.3モル%以上、約0.4モル%以上、又は約0.5モル%以上であってよい。この変化は、マイクロプローブを含む当該技術分野で公知の方法で測定できる。
【0085】
いくつかの実施形態では、濃度の変化は、約10マイクロメートル~約30マイクロメートルの厚さセグメントに沿って連続していてよい。いくつかの実施形態では、金属酸化物の濃度は、第1の表面から、第1の表面と第2の表面との間の点まで減少し、この点から第2の表面まで増大する。
【0086】
いくつかの実施形態では、2つ以上の金属酸化物(例えばNa2OとK2Oとの組み合わせ)の濃度は、第1の表面から該金属酸化物に関する層深さ(DOL)まで変化してよい。2つの金属酸化物の濃度が変化し、かつイオンの半径が互いに異なる、いくつかの実施形態では、浅い位置では、半径が大きなイオンの濃度が、半径が小さなイオンの濃度より高く、深い位置では、半径が小さなイオンの濃度が、半径が大きなイオンの濃度より高い。その原因の一部は、小さな1価イオンと交換されてガラスセラミック中に入る1価イオンのサイズである。このようなガラスセラミック物品では、表面又は表面付近の領域は、表面又は表面付近において大きなイオン(即ちK+イオン)の量が多いため、より大きなCSを有する。更に、応力プロファイルのスロープは典型的には表面からの距離と共に低下するが、これは、固定された表面濃度からの化学的拡散によって達成される濃度プロファイルの性質によるものである。
【0087】
1つ以上の実施形態では、金属酸化物濃度の勾配は、物品の厚さtの相当な部分を通って延在する。いくつかの実施形態では、金属酸化物の濃度は、上記勾配の厚さ全体に沿って、約0.5モル%以上(例えば約1モル%以上)であってよく、第1の表面及び/又は第2の表面(0・t)において最大となり、第1の表面と第2の表面との間の点に向かって略一定に減少する。この点において、金属酸化物の濃度は、厚さt全体に沿って最小となるが、この点でも濃度はゼロではない。換言すれば、特定の金属酸化物のゼロでない濃度は、(本明細書に記載されるように)厚さtの相当な部分、又は厚さt全体に沿って延在する。ガラス系物品中の特定の金属酸化物の合計濃度は、約1モル%~約20モル%であってよい。
【0088】
金属酸化物の濃度は、ガラスセラミック物品を形成するためにイオン交換されるガラスセラミック基板中の金属酸化物のベースライン量から決定できる。
【0089】
ガラスセラミック物品の特性の概観
本明細書で開示される方法によって達成される応力プロファイルは、独特のものである。応力プロファイルは、第1の表面からニーまで延在するスパイク領域、及びニーからガラスセラミック物品の中央まで延在するテール領域を含んでよい。
【0090】
本明細書で開示されるガラスセラミック物品は、優れた強度及び色の一貫性を有するという点で有利である。DIOX処理により、これまでに使用されてきた機器/計測法を修正することなく実施するのは極めて困難であった、製造中のガラスセラミック試料の応力の測定が可能となる。いくつかの実施形態では、ガラスセラミック物品は、表面付近には有意なガラス質ナトリウム層を示さない。1つ以上の実施形態では、第1及び第2の表面における結晶質相の表面濃度は、Rietveld分析を用いてX線回折(XRD)によって決定した場合、中央組成物の結晶質相の約1%以内、又は0.5%以内、又は0.1%以内である。いくつかの実施形態では、本明細書中のガラスセラミック物品は、色に関して安定している。1つ以上の実施形態では、上記物品は、1つ以上のCIELAB色パラメータ:a*、b*、及びL*を、洗浄処理の前後の差が視覚的に検出できない程度の値に保持する。1つ以上の実施形態では、洗浄処理は、約2~約12の範囲内のpHにおいて30分以上である。1つ以上の実施形態では、L*は±1単位以下、±0.75単位以下、±0.5単位以下、±0.25単位以下である。1つ以上の実施形態では、a*は±0.05単位以下、±0.04単位以下、±0.03単位以下、±0.2単位以下、±0.1単位以下である。1つ以上の実施形態では、b*は±0.5以下、±0.45以下、±0.4以下、±0.35以下、±0.3以下、±0.25以下、±0.20以下、±0.15以下、±0.1以下、又は±0.05以下である。色パラメータはまた、2~12の範囲の様々なpH値にわたって、未洗浄の物品に対して安定している。
【0091】
リチウム系ガラスセラミック基板において、これらの技法を使用できる。カリウム(K)に加えて、基板に含有されない他の元素、例えばルビジウム(Rb)、セシウム(Cs)、フランシウム(Fr)、銀(Ag)、金(Au)、銅(Cu)、及びこれらの組み合わせも、同じ技法を用いて導入できる。
【0092】
圧縮深さ(DOC)は、0*tより大きく0.3*tまで、0*tより大きく0.25*tまで、0*tより大きく0.2*tまで、0.05*tより大きく0.3*tまで、0.05*tより大きく0.25*tまで、0.05*tより大きく0.2*tまで、0.1*tより大きく0.3*tまで、0.1*tより大きく0.25*tまで、0.1*tより大きく0.2*tまで、0.15*tより大きく0.3*tまで、0.15*tより大きく0.25*tまで、0.15*tより大きく0.2*tまで、0.17*tより大きく0.3*tまで、0.17*tより大きく0.25*tまで、0.17*tより大きく0.2*tまで、0.18*tより大きく0.3*tまで、0.18*tより大きく0.25*tまで、並びにこれらの間の全ての範囲及び部分範囲内であってよく、ここでtはガラスセラミック物品の厚さである。いくつかの実施形態では、DOCは0.1・t以上、0.11・t以上、0.12・t以上、0.13・t以上、0.14・t以上、0.15・t以上、0.16・t以上、0.17・t以上、又は0.175・t以上、又は0.18・t以上、0.188・t以上、又は更に深くてよい。
【0093】
カリウムに関する層深さ(DOL)は、0.01・t以上、0.02・t以上、0.03・t以上、0.04・t以上、又は0.05・t以上であってよい。
【0094】
1つ以上の実施形態では、スパイク領域内に位置する応力プロファイルの全ての点は、絶対値が20MPa/マイクロメートル以上である正接を有する。1つ以上の実施形態では、スパイク領域は、少なくとも第1の表面から3マイクロメートル以上の深さまでにおいて、200MPa以上の圧縮応力を有する。
【0095】
1つ以上の実施形態では、テール領域内に位置する応力プロファイルの全ての点は、絶対値が2MPa/マイクロメートル以下である正接を有する。
【0096】
第1の表面における表面圧縮応力(CS)は、200MPa以上であってよい。CSは、200MPa~1.2GPa、400MPa~950MPa、又は約800MPa、並びにこれらの間の全ての値及び部分範囲内であってよい。1つ以上の実施形態では、第1の表面から約5マイクロメートル~10マイクロメートルの深さにおける第1の圧縮応力は、200MPa以上である。
【0097】
最大中央張力(CT)は、30MPa以上、40MPa以上、45MPa以上、又は50MPa以上であってよい。CTは、30MPa~100MPa、並びにこれらの間の全ての値及び部分範囲内であってよい。
【0098】
いくつかの実施形態では、ガラスセラミック物品の厚さtは、0.2mm~5mm、0.2mm~4mm、0.2mm~3mm、0.2mm~2mm、0.2mm~1.5mm、0.2mm~1mm、0.2mm~0.9mm、0.2mm~0.8mm、0.2mm~0.7mm、0.2mm~0.6mm、0.2mm~0.5mm、0.3mm~5mm、0.3mm~~4mm、0.3mm~3mm、0.3mm~2mm、0.3mm~1.5mm、0.3mm~1mm、0.3mm~0.9mm、0.3mm~0.8mm、0.3mm~0.7mm、0.3mm~0.6mm、0.3mm~0.5mm、0.4mm~5mm、0.4mm~4mm、0.4mm~3mm、0.4mm~2mm、0.4mm~1.5mm、0.4mm~1mm、0.4mm~0.9mm、0.4mm~0.8mm、0.4mm~0.7mm、0.4mm~0.6mm、0.5mm~5mm、0.5mm~4mm、0.5mm~3mm、0.5mm~2mm、0.5mm~1.5mm、0.5mm~1mm、0.5mm~0.9mm、0.5mm~0.8mm、0.5mm~0.7mm、0.8mm~5mm、0.8mm~4mm、0.8mm~3mm、0.8mm~2mm、0.8mm~1.5mm、0.8mm~1mm、1mm~2mm、1mm~1.5mm、並びにその間の全ての範囲及び部分範囲内である。いくつかの実施形態では、ガラスセラミック物品は、略平面状又は平坦であってよい。他の実施形態では、ガラスセラミック物品を成形してよく、例えばガラスセラミック物品は2.5D又は3D形状を有してよい。いくつかの実施形態では、ガラスセラミック物品の厚さは均一であってよく、他の実施形態では、ガラスセラミック物品の厚さは均一でなくてよい。
【0099】
ガラスセラミック基板
1つ以上の実施形態では、ガラスセラミック基板の厚さtは、200マイクロメートル~5ミリメートル、並びにこれらの間の全ての値及び部分範囲内である。
【0100】
ガラスセラミック基板は、多様な異なるプロセスを用いて提供できる。ガラスセラミックを作製するためのプロセスは、前駆体ガラスを1つ以上の予め選択した温度で1つ以上の予め選択した時間にわたって熱処理して、(例えば1つ以上の組成物、量、形態、径又は径分布等を有する)ガラスの均質化及び1つ以上の結晶相の結晶化(即ち核形成及び成長)を誘発するステップを含む。いくつかの実施形態では、熱処理は:(i)前駆体ガラスを1~10℃/分の速度でガラス予備核形成温度まで加熱するステップ;(ii)結晶化性ガラスを約1/4時間~約4時間の範囲内の時間にわたって上記ガラス予備核形成温度に維持して、予備核形成された結晶化性ガラスを製造するステップ;(iii)上記予備核形成された結晶化性ガラスを1~10℃/分の速度で核形成温度(Tn)まで加熱するステップ;(iv)上記結晶化性ガラスを約1/4時間~約4時間の範囲内の時間にわたって上記核形成温度に維持して、核形成された結晶化性ガラスを製造するステップ;(v)上記核形成された結晶化性ガラスを約1℃/分~約10℃/分の範囲内の速度で結晶化温度(Tc)まで加熱するステップ;(vi)上記核形成された結晶化性ガラスを約1/4時間~約4時間の範囲内の時間にわたって上記結晶化温度に維持して、本明細書に記載のガラスセラミックを製造するステップ;及び(vii)成形された上記ガラスセラミックを室温まで冷却するステップを含むことができる。本明細書中で使用される場合、用語「結晶化温度(crystallization temperature)」は、セラミック化(ceram又はceramming)温度と相互交換可能なものとして使用され得る。更にこれらの実施形態において、用語「セラミック化」は、ステップ(v)、(vi)、及び任意に(vii)を総称するために使用され得る。いくつかの実施形態では、上記ガラス予備核形成温度は540℃とすることができ、上記核形成温度は600℃とすることができ、上記結晶化温度は630℃~730℃の範囲内とすることができる。他の実施形態では、上記熱処理は、上記結晶化性ガラスをガラス予備核形成温度に維持するステップを含まない。従って熱処理は:(i)前駆体ガラスを1~10℃/分の速度で核形成温度(Tn)まで加熱するステップ;(ii)上記結晶化性ガラスを約1/4時間~約4時間の範囲内の時間にわたって上記核形成温度に維持して、核形成された結晶化性ガラスを製造するステップ;(iii)上記核形成された結晶化性ガラスを約1℃/分~約10℃/分の範囲内の速度で結晶化温度(Tc)まで加熱するステップ;(iv)上記核形成された結晶化性ガラス約1/4時間~約4時間の範囲内の時間にわたって上記結晶化温度に維持して、本明細書に記載のガラスセラミックを製造するステップ;及び(v)成形された上記ガラスセラミックを室温まで冷却するステップを含んでよい。上述の実施形態において、用語「セラミック化」は、ステップ(iii)、(iv)、及び任意に(v)を総称するために使用され得る。いくつかの実施形態では、上記核形成温度は約700℃とすることができ、上記結晶化温度は約800℃とすることができる。いくつかの実施形態では、結晶化温度が高いほど、より多くのβスポジュメンssが、副次的な(minor)結晶質相として形成される。
【0101】
前駆体ガラスの組成に加えて、結晶化温度まで加熱し、温度をこの結晶化温度に維持する熱処理ステップの温度‐時間プロファイルは、以下の望ましい属性のうちの1つ以上を生成するために慎重に規定される:ガラスセラミックの1つ以上の結晶質相;1つ以上の主要な(major)結晶質相及び/又は1つ以上の副次的な結晶質と残留ガラスとの比率;1つ以上の主要な結晶質相及び/又は1つ以上の副次的な結晶質と残留ガラスとの結晶相の集合;並びに1つ以上の主要な結晶質相及び/又は1つ以上の副次的な結晶質の粒径又は粒径分布(これらは、結果として得られる成形済みのガラスセラミックの最終的な完全性、品質、及び/又は不透明度に影響を及ぼし得る)。
【0102】
結果として得られるガラスセラミックは、シートとして提供でき、これはその後、プレス加工、ブロー加工、曲げ加工、サギング、真空成形、又は他の手段によって、均一な厚さの湾曲した又は曲げられた片へと再成形できる。再成形は熱処理の前に実施でき、又は成形ステップが熱処理ステップとしても機能でき、この場合、成形及び熱処理が略同時に実施される。
【0103】
更に他の実施形態では、ガラスセラミックの形成に使用される前駆体ガラス組成物は、例えばガラスセラミックが1つ以上のイオン交換技法を用いて化学強化できるものとなるように処方できる。これらの実施形態では、イオン交換は、このようなガラスセラミックの1つ以上の表面を、特定の組成及び温度を有する1つ以上のイオン交換浴に、指定された期間にわたって供することによって実施でき、これにより上記1つ以上の表面に1つ以上の圧縮応力層を付与できる。圧縮応力層は、1つ以上の平均表面圧縮応力(CS)、及び/又は1つ以上の層深さを有することができる。
【0104】
本明細書に記載の前駆体ガラス及びガラスセラミックは、リチウム含有アルミノシリケートガラス又はガラスセラミックとして説明でき、そのベース組成物中にSiO2、Al2O3、及びLi2Oを含んでよい。SiO2、Al2O3、及びLi2Oに加えて、本明細書中で具体化されるガラス及びガラスセラミックは更に、Na2O、K2O、Rb2O、又はCs2O等のアルカリ塩、並びにP2O5、及びZrO2、及び以下に記載の多数の他の成分を含有してよい。いくつかの実施形態では、(セラミック化前の)前駆体ガラス及び/又は(セラミック化後の)ガラスセラミックは、酸化物ベースの重量百分率で以下の組成を有してよい:
SiO2:55~80%;
Al2O3:2~20%;
Li2O:5~20%;
B2O3:0~10%;
Na2O:0~5%;
ZnO:0~10%;
P2O5:0.5~6%;及び
ZrO2:0.2~15%。
【0105】
いくつかの実施形態では、前駆体ガラス及び/又はガラスセラミックは、酸化物ベースの重量百分率で以下の任意の更なる組成を有してよい:
K2O:0~4%;
MgO:0~8%;
TiO2:0~5%;
CeO2:0~0.4%;及び
SnO2:0.05~0.5%。
【0106】
上述の熱処理を前駆体ガラスに実施すると、得られたガラス‐セラミックは1つ以上の結晶相及び残留ガラス相を有する。いくつかの実施形態では、ガラス‐セラミックは、以下の例示的な結晶質相:(二ケイ酸リチウムを含む)ケイ酸リチウム、ペタライト、β‐スポジュメン固溶体、β‐石英固溶体、及びこれらのいずれの組み合わせを含有する。いくつかの実施形態では、二ケイ酸リチウム、ペタライト、及びβ‐石英固溶体結晶質相の混合物が存在してよい。他の実施形態では、二ケイ酸リチウム及びペタライト結晶質相の混合物が存在してよい。更に他の実施形態では、二ケイ酸リチウム及びβスポジュメン固溶体結晶質相の混合物が存在してよい。更に他の実施形態では、二ケイ酸リチウム、βスポジュメン固溶体、及びβ‐石英固溶体結晶質相の混合物が存在してよい。いくつかの実施形態では、二ケイ酸リチウムは、重量百分率が最も高い結晶質相である。いくつかの実施形態では、ペタライトは、重量百分率が最も高い結晶質相である。いくつかの実施形態では、βスポジュメンssは、重量百分率が最も高い結晶質相である。いくつかの実施形態では、β‐石英ssは、重量百分率が最も高い結晶質相である。いくつかの実施形態では、ガラスセラミックの残留ガラス含有量は、約5~約30重量%、約5~約25重量%、約5~約20重量%、約5~約15重量%約5~約10重量%、約10~約30重量%、約10~約25重量%、約10~約20重量%、約10~約15重量%、約15~約30重量%、約15~約25重量%、約15~約20重量%、約20~約30重量%、約20~約25重量%、約25~約30重量%、並びにこれらの間の全ての範囲及び部分範囲内である。いくつかの実施形態では、残留ガラス含有量は、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、又は30重量%とすることができる。いくつかの実施形態では、内部領域の結晶の重量百分率は、20重量%超~100重量%、20重量%超~90重量%、20重量%超~80重量%、20重量%超~70重量%、30重量%~100重量%、30重量%~90重量%、30重量%~80重量%、30重量%~70重量%、40重量%~100重量%、40重量%~90重量%、40重量%~80重量%、40重量%~70重量%、50重量%~100重量%、50重量%~90重量%、50重量%~80重量%、50重量%~70重量%、並びにその間の全ての範囲及び部分範囲内であってよい。いくつかの実施形態では、内部領域の結晶の重量百分率は、20重量%超、25重量%、30重量%、35重量%、40重量%、45重量%、50重量%、55重量%、60重量%、65重量%、70重量%、75重量%、80重量%、85重量%、又は90重量%であってよい。上記重量百分率は、Rietveld分析を用いたX線回折(XRD)に基づいて決定される。
【0107】
最終製品
本明細書で開示されるガラスセラミック物品は、別の物品に組み込むことができ、上記別の物品は例えば:ディスプレイを有する物品(即ちディスプレイ物品)(例えば、携帯電話、タブレット、コンピュータ、ナビゲーションシステム、ウェアラブルデバイス(例えば腕時計)等を含む消費者向け電子機器);建築用物品;輸送用物品(例えば自動車、電車、航空機、船舶等;例えばディスプレイカバー、窓、若しくは風防として使用するため);家電製品;又はある程度の透明性、耐引掻き性、摩耗耐性、若しくはこれらの組み合わせを必要とするいずれの物品である。本明細書で開示されるガラスセラミック物品のいずれを組み込んだ例示的な物品を、
図1A及び1Bに示す。具体的には、
図1A及び1Bは消費者向け電子デバイス100を示し、これは:前面104、背面106、及び側面108を有するハウジング102;少なくとも一部又は全体が上記ハウジング内に設けられた電子部品(図示せず)であって、上記電子部品は少なくともコントローラ、メモリ、及びディスプレイ110を含み、このディスプレイ110は、上記ハウジングの上記前面に又は上記前面に隣接して設けられる、電子部品;並びに上記ディスプレイを覆うように、上記ハウジングの上記前面に、又は上記前面を覆って配置された、カバー基板112を含む。いくつかの実施形態では、カバー基板112、及びハウジング102の一部分のうちの少なくとも一方は、本明細書で開示されるガラスセラミック強化物品のいずれを含んでよい。
【実施例】
【0108】
以下の実施例によって、様々な実施形態が更に明確になる。これらの実施例では、強化の前の実施例を「基板(substrate)」と呼ぶ。強化に供した後の実施例は、「物品(article)」又は「ガラス系物品(glass‐based article)」と呼ばれる。
【0109】
実施例は、以下のように調製されたガラスセラミック基板をベースとする。73.47重量%のSiO2、7.51重量%のAl2O3、2.14重量%のP2O5、11.10重量%のLi2O、1.63重量%のNa2O、3.55重量%のZrO2、0.22重量%のSnO2というおおよその組成を有する前駆体ガラスを、560℃への加熱、この温度での4時間の保持、これに続く720℃への加熱、及びこの温度での1時間の保持というセラミック化スケジュールに供した。得られたガラスセラミックは、14重量%の残留ガラス、46重量%の二ケイ酸リチウム結晶質相、39重量%のペタライト結晶質相、及びおよそ1重量%の副次的な結晶質相からなっていた。本明細書中で試験される基板の厚さは800マイクロメートルであった。
【0110】
実施例1
2ステップイオン交換処理によって、上述のリチウム系ガラスセラミック基板からガラスセラミック物品を形成した。
【0111】
第1のIOX浴は100重量%のKNO
3であり、(浴の)0.5重量%の用量のNaNO
2を浴に添加して、浴の化学的性質を改善した。IOXは、460℃で8時間にわたるものであった。第1のIOXの後、重量増加は0.1824%であり、圧縮応力(CS)は435MPaであり、Kに関する層深さ(DOL)は8.1マイクロメートル(ニーの深さ)であり、最大中央張力(CT)は25.60MPaであった。
図2は、第1のIOX処理後のTM及びTE導波モードスペクトル干渉縞の画像である。
【0112】
次に基板を第2のIOX浴に曝露した。上記第2のIOX浴は90重量%のKNO
3及び10重量%のNaNO
3であり、(浴の)0.5重量%の用量のNaNO
2を含んでいた。第2のIOXは430℃で8時間にわたるものであった。重量増加は0.3463%であり、CSは339MPaであり、Kに関するDOLは9.4マイクロメートルであり、最大中央張力(CT)は39.75MPaであった。
図3は、得られたガラスセラミック物品のTM及びTE導波モードスペクトル干渉縞の画像である。
図3の干渉縞には、IOX時に形成された富ナトリウム層によって発生するぼやけがある。この富ナトリウム層は基板よりも屈折率が低く、光結合の低下を招く。この例では、富ナトリウム層の存在によって干渉縞の測定が困難になり得るものの、
図3に示すように、干渉縞は検出可能である。
【0113】
実施例2
IOX中にリチウムが存在する2ステップイオン交換処理によって、上述のリチウム系ガラスセラミック基板からガラスセラミック物品を形成した。
【0114】
第1のIOX浴は100重量%のKNO
3であり、これに、(浴の)0.02重量%の用量のLiNO
3、及び0.5重量%の用量のNaNO
2を添加した。第1のIOXは、460℃で8時間にわたるものであった。重量増加は0.1219%であり、CTは17.36MPaであった。
図4は、第1のIOX処理後のTM及びTE導波モードスペクトル干渉縞の画像である。
【0115】
次に基板を第2のIOX浴に曝露した。上記第2のIOX浴は90重量%のKNO
3及び10重量%のNaNO
3であり、これに、(浴の)0.02重量%の用量のLiNO
3、及び0.5重量%の用量のNaNO
2を添加した。第2のIOXは430℃で8時間にわたるものであった。重量増加は0.3587%であり、CTは45.78MPaであった。
図5は、得られたガラスセラミック物品のTM及びTE導波モードスペクトル干渉縞の画像である。浴の組成、浴の温度、及びイオン交換処理の持続時間の適切なプロセス制御を可能にする、2つの干渉縞が存在する。この例では、イオン交換浴、特に第2の浴中に、少量のLiNO
3を含めることにより、富ナトリウム層が阻害/排除され、これにより、特に第2のステップの後の干渉縞がより鮮明かつ明瞭になり、変動性が低減し、実施例1に比べて浴の組成、浴の温度、及びイオン交換処理の持続時間のより良好なプロセス制御が可能となる。
【0116】
実施例3
IOX中にリチウムが存在する2ステップイオン交換処理によって、上述のリチウム系ガラスセラミック基板からガラスセラミック物品を形成した。
【0117】
第1のIOX浴は100重量%のKNO
3であり、これに、(浴の)0.02重量%の用量のLiNO
3、及び0.5重量%の用量のNaNO
2を添加した。第1のIOXは、460℃で8時間にわたるものであった。CTは15.97MPaであった。
図6は、第1のIOX処理後のTM及びTE導波モードスペクトル干渉縞の画像である。
図7は、基板厚さの半分に関する、第1のIOX処理後に得られた応力プロファイル(位置(マイクロメートル)に対する応力(MPa))である。
図7には、スパイクの存在が記録されている。
【0118】
次に基板を第2のIOX浴に曝露した。上記第2のIOX浴は90重量%のKNO
3及び10重量%のNaNO
3であり、これに、(浴の)0.02重量%の用量のLiNO
3、及び0.5重量%の用量のNaNO
2を添加した。第2のIOXは460℃で10時間にわたるものであった。CSは303MPaであり、カリウムのDOL(ニー深さ)は11.3マイクロメートルであり、CTは44.08MPaであった。
図8は、得られたガラスセラミック物品のTM及びTE導波モードスペクトル干渉縞の画像である。
図9は、基板厚さの半分に関する、第2のIOX処理後に得られた応力プロファイル(位置(マイクロメートル)に対する応力(MPa))である。約350マイクロメートルの深さにおける小さな振動は、測定のアーティファクトである。試料内の応力がゼロになる位置である、約150マイクロメートル(0.1875*t)の測定されたDOCは、第1のイオン交換処理と第2のイオン交換処理との間でおおよそ同一のままであることを観察できる。プロファイルのスパイクとプロファイルのテールとが合流するニー点におけるCSは、およそ85MPaであり、第1のイオン交換処理後のニーにおけるCS(
図7を参照)に比べて大幅に増大している。
【0119】
ここでは、浴の使用時間、温度、及び用量により、第1のIOX後のスパイクの形成を可能とし、その後に、第2のIOXにおけるスパイクの維持及び応力のテールの形成が続けられた。これらの条件下では、各ステップにおいて最小で2つの干渉縞が存在し、これにより、浴の組成、浴の温度、及びイオン交換処理の持続時間の適切なプロセス制御が可能となる。
【0120】
実施例4
IOX中にリチウムが存在する2ステップイオン交換処理によって、上述のリチウム系ガラスセラミック基板からガラスセラミック物品を形成した。
【0121】
第1のIOX浴は100重量%のKNO
3であり、これに、(浴の)0.15重量%の用量のLiNO
3、0.5重量%の用量のNaNO
2、及び0.2重量%の用量のTSP(リン酸三ナトリウム)を添加した。第1のIOXは、460℃で8時間にわたるものであった。CTは12.32MPaであった。
図10は、第1のIOX処理後のTM及びTE導波モードスペクトル干渉縞の画像である。
【0122】
次に基板を第2のIOX浴に曝露した。上記第2のIOX浴は90重量%のKNO
3及び10重量%のNaNO
3であり、これに、(浴の)0.15重量%の用量のLiNO
3、0.5重量%の用量のNaNO
2、及び0.2重量%の用量のTSPを添加した。第2のIOXは460℃で10時間にわたるものであった。CSは276MPaであり、DOLは11.2マイクロメートルであり、CTは42.36MPaであった。
図11は、得られたガラスセラミック物品のTM及びTE導波モードスペクトル干渉縞の画像である。
【0123】
ここでは、0.15重量%のLiNO3の使用は、洗浄及び新しい新鮮なタンクの開始前に、又は上記量のLiを還元して沈降させるための追加の化学物質の使用の前に、商業的に許容される被毒レベルに基づいてIOXタンクの寿命を概算するためのものである。リチウムを沈降させるための1つの方法は、タンクに添加されるリン酸三ナトリウム(TSP)の使用である。この例では、表面応力が(実施例3に比べて)減少するが、第2のステップの後のプロセスは依然として鮮明な干渉縞を示し、これにより、第2のステップ後の測定及びプロセス制御が可能となる。浴の適切な使用時間、温度、及び用量により、第1のIOX後のスパイクの形成を可能とし、その後に、第2のIOXにおけるスパイクの維持及び応力のテールの形成が続けられた。これらの条件下では、各ステップにおいて最小で2つの干渉縞が存在し、これにより、浴の組成、浴の温度、及びイオン交換処理の持続時間の適切なプロセス制御が可能となる。
【0124】
実施例5
IOX中にリチウムが存在する2ステップイオン交換処理によって、上述のリチウム系ガラスセラミック基板から一連のガラスセラミック物品を形成した。これらの基板を以下に曝露した:(100-x)重量%のKNO3及びx重量%のLiNO3である第1のIOX浴に、460℃で8時間;並びに90重量%のKNO3+(10-x)重量%のNaNO3+x重量%のLiNO3である第2のIOX浴に、430℃で8時間。
【0125】
この例は、第1及び第2のIOX浴それぞれに関する用量レベルの、CTに対する関係を示す。様々な値の「x」に関してCTを測定した。その結果が
図12で提供されている。この処理では、第2のステップの温度を430℃に低下させても、第1のIOXの毒量は、最終的な物品の全体的なCTに対してほとんど寄与しないようである。応力プロファイルは、第2のIOXにLiを添加することにより、より迅速に変化する。CTの変化の大半は、第2のIOX中のリチウムの毒レベルが原因で発生する。ある好ましい実施形態では、CT値を>30MPaに維持するために、各IOX浴中のリチウム含有量は、最大で0.2重量%である。
【0126】
例えば第2のIOX浴は:90重量%のKNO3、9.3重量%のNaNO3、及び0.7重量%のLiNO3を含んでおり、これに、(浴に基づいて0.5重量%の用量のNaNO2を添加した。浴の温度は460℃であった。これに(浴の)1.2重量%のTSPを添加して、LiNO3を沈降させた。反応(I)は、この化学反応を表す:
2LiNO3(l)+Na3PO4(s)⇔NaLi2PO4(s)+2NaNO3(l) (I)
100%の変換により、理論上は、1.2重量%のTSPによって浴中のLiNO3が完全に沈降することになる。実際には、TSPの添加の24時間後、約0.16重量%のLiNO3が依然として溶融塩浴中に残っていた(0.54重量%のLiNO3が沈降した)。理論によって束縛されることを意図したものではないが、これは、完全な反応の完了に24時間以上かかり、反応の平衡が典型的には、多少のリチウムを溶融状態に維持するためである。一般に、TSPの添加により、浴の硝酸リチウム濃度を0.05重量%未満に維持できる。
【0127】
全体として、第1のIOXにおける大きなスパイクの形成で開始され、またナトリウム及びリチウム「被毒」(又は適用)が存在する第2のIOXを含む、本明細書で開示される2ステップIOX処理の実施形態は、安定した浴の化学的状態、及び反復可能な表面構造をもたらす。最終的な結果は制御可能なプロセスであり、これは、落下試験で高い耐衝撃性を有する物品を得るために期待されるものである。
【0128】
実施例6
二重IOX、単回IOX(比較例)、IOXなし(比較例)を含む様々な処理によって、上述のリチウム系ガラスセラミック基板から一連のガラスセラミック物品を形成した。洗浄処理後の色安定性は:
図13に示されているL*パラメータ;
図14に示されているa*パラメータ;及び
図15に示されているb*パラメータの変動性を示すCIELAB色座標系に従った測定に基づいて決定された。これらの図では、「0」は、いずれの洗浄前の測定を表し、「1」は、1回目の30分の洗浄/すすぎサイクル(15分の洗浄及び15分のすすぎ)の後の測定を表し、「2」は、2回目の30分の洗浄/すすぎサイクル(15分の洗浄及び15分のすすぎ)の後の測定を表し、「3」は、3回目の30分の洗浄/すすぎサイクル(15分の洗浄及び15分のすすぎ)の後の測定を表す。洗浄サイクル(15分)は、55℃の、超音波浴中のDI水中のSemiclean KGを含み、pHは約11であった。すすぎサイクル(15分)は、55℃の、40kHzの超音波浴中のDI水を含んでいた。平均測定値が
図13~15で報告されており、これらは平均の95%信頼区間(95%CI)に基づくものである。
【0129】
二重IOX(DIOX):第1のIOX浴は、(浴の)0.02重量%の用量のLiNO3、及び0.5重量%のNaNO2が添加された、100重量%のKNO3であり、460℃で8時間にわたり;また第2のIOX浴は、(浴の)0.02重量%の用量のLiNO3、及び0.5重量%のNaNO2が添加された、90重量%のKNO3+10重量%のNaNO3であり、460℃で10時間にわたるものであった。
【0130】
単回IOX(SIOX):IOX浴は100重量%のNaNO3であり、470℃で4.5時間にわたるものであった。
【0131】
IOXなし:いずれのIOX浴にも曝露されなかった。
【0132】
Kでスパイクが形成されたDIOX試料に関して、複数回の水洗サイクル後の色パラメータa*、b*、及びL*(3回試験)は、SIOX又はIOXなしよりも安定していた。
【0133】
約2~約12のpH範囲にわたって、同様の洗浄/すすぎ実験を実施した。様々なpHにおける、複数回の水洗サイクル後の色パラメータa*、b*、及びL*の傾向は、約11のpHに関して、
図13~15において一貫していた。
【0134】
従って実際には、洗浄液は、洗浄に使用される化学物質に応じて、酸性、又は塩基性、又は中性、又は非水系とすることができ、本明細書における物品の色は、このような洗浄液の存在下でも安定したままとすることができることと予想される。
【0135】
以上は様々な実施形態を対象としているが、本開示の他の実施形態及び更なる実施形態を、本開示の基本的な範囲から逸脱することなく考案でき、本開示の範囲は以下の特許請求の範囲によって決定される。
【0136】
以下、本発明の好ましい実施形態を項分け記載する。
【0137】
実施形態1
ガラスセラミック物品であって:
基板厚さ(t)を画定する対向する第1の表面及び第2の表面を有する、ガラスセラミック基板;
アルカリ金属及び結晶質相を含む、上記ガラスセラミック物品の中央の中央組成物であって、上記結晶質相は上記中央組成物の20重量%以上である、中央組成物;並びに
以下のうちの1つ以上:
(a)3マイクロメートル以上の深さのニーを含む、応力プロファイル;
(b)上記第1の表面における200MPa以上の第1の圧縮応力と、ニーにおける20MPa以上の第2の圧縮応力とを有する、応力プロファイル;並びに
(c)非ナトリウム酸化物であって、上記第1の表面から上記非ナトリウム酸化物の層深さまで変化するゼロでない濃度を有する、非ナトリウム酸化物;並びにニー、及び0.10・t以上の圧縮深さ(DOC)を有する、応力プロファイル
を備える、ガラスセラミック物品。
【0138】
実施形態2
上記中央組成物の上記アルカリ金属はリチウムである、実施形態1に記載のガラスセラミック物品。
【0139】
実施形態3
上記第1の表面及び上記第2の表面における上記結晶質相の表面濃度は、上記中央組成物の上記結晶質相の約1%以内であり、ガラス質表面層は存在しない、実施形態1又は2に記載のガラスセラミック物品。
【0140】
実施形態4
上記結晶質相はペタライト結晶質相及び/又はケイ酸リチウム結晶質相を含み、上記ケイ酸リチウム結晶質相は二ケイ酸リチウム結晶質相である、実施形態1~3のいずれか1つに記載のガラスセラミック物品。
【0141】
実施形態5
上記ガラスセラミック基板は、βスポジュメン固溶体結晶質相を含むリチウム含有アルミノシリケートガラスセラミックを含む、実施形態1~4のいずれか1つに記載のガラスセラミック物品。
【0142】
実施形態6
上記中央組成物は、重量で:55~80%のSiO2、2~20%のAl2O3、0.5~6%のP2O5、5~20%のLi2O、0~5%のNa2O、0.2~15%のZrO2、0~10%のB2O3;及び0~10%のZnOを含む、実施形態1~5のいずれか1つに記載のガラスセラミック物品。
【0143】
実施形態7
上記応力プロファイルは:
上記第1の表面から上記ニーまで延在するスパイク領域;及び
上記ニーから上記ガラスセラミック物品の中央まで延在するテール領域を含み、
上記スパイク領域内に位置する上記応力プロファイルの全ての点は、20MPa/マイクロメートル以上の値を有する正接を有し、上記テール領域内に位置する上記応力プロファイルの全ての点は、2MPa/マイクロメートル以下の値を有する正接を有する、実施形態1~6のいずれか1つに記載のガラスセラミック物品。
【0144】
実施形態8
上記ニーは、50MPa以上の圧縮応力を有する、実施形態1~7のいずれか1つに記載のガラスセラミック物品。
【0145】
実施形態9
リチウムは、上記第1の表面及び/又は上記第2の表面に、ゼロでない濃度で存在する、実施形態1~8のいずれか1つに記載のガラスセラミック物品。
【0146】
実施形態10
tは50マイクロメートル~5ミリメートルの範囲内である、実施形態1~9のいずれか1つに記載のガラスセラミック物品。
【0147】
実施形態11
(i)洗浄処理後に測定される、CIELAB色座標系による色パラメータa*の値は、上記洗浄処理への曝露前の上記色パラメータa*の0.05単位以内であり、上記洗浄処理は、上記ガラスセラミック物品を、pH2~12の洗浄液に30分間曝露するステップを含むこと;
(ii)洗浄処理後に測定される、CIELAB色座標系による色パラメータb*の値は、上記洗浄処理への曝露前の上記色パラメータb*の0.5単位以内であり、上記洗浄処理は、上記ガラスセラミック物品を、pH2~12の洗浄液に30分間曝露するステップを含むこと;及び
(iii)洗浄処理後に測定される、CIELAB色座標系による色パラメータL*の値は、上記洗浄処理への曝露前の上記色パラメータL*の1単位以内であり、上記洗浄処理は、上記ガラスセラミック物品を、pH2~12の洗浄液に30分間曝露するステップを含むこと
のうちの少なくとも1つを伴う、実施形態1~10のいずれか1つに記載のガラスセラミック物品。
【0148】
実施形態12
表面導波路は、上記第1の及び/又は第2の表面から上記DOLまで存在する、実施形態1~11のいずれか1つに記載のガラスセラミック物品。
【0149】
実施形態13
tは50マイクロメートル~5ミリメートルの範囲内である、実施形態1~12のいずれか1つに記載のガラスセラミック物品。
【0150】
実施形態14
消費者向け電子製品であって:
前面、背面、及び側面を有する、ハウジング;
少なくとも一部が上記ハウジング内に設けられた電子部品であって、上記電子部品は少なくともコントローラ、メモリ、及びディスプレイを含み、上記ディスプレイは、上記ハウジングの上記前面に又は上記前面に隣接して設けられる、電子部品;並びに
上記ディスプレイを覆うように配置されたカバー
を備え、
上記ハウジング及び上記カバーのうちの少なくとも一方の一部分は、実施形態1~13のいずれか1つに記載のガラスセラミック物品を含む、消費者向け電子製品。
【0151】
実施形態15
ガラスセラミック物品の製造方法であって:
ベース組成物中にリチウム及び結晶質相を含有するガラスセラミック基板であって、上記ガラスセラミック基板は、基板厚さ(t)を画定する対向する第1の表面及び第2の表面を有する、ガラスセラミック基板を、イオン交換処理に曝露して、上記ガラスセラミック物品を形成するステップ
を含み、
上記イオン交換処理は:
リチウムの原子半径より大きな原子半径を有する第1の金属イオンを含む第1の浴を含む、第1のイオン交換処理;並びに
上記第1の金属イオン及び第2の金属イオンを含む第2の浴を含む、上記第1のイオン交換処理の後に実施される第2のイオン交換処理
を含み、
上記第1の浴の上記第1の金属イオンは、上記第2の浴中の上記第1のイオンより高い百分率量で存在する、方法。
【0152】
実施形態16
上記ガラスセラミック基板は、βスポジュメン固溶体結晶質相を含むリチウム含有アルミノシリケートガラスセラミックを含む、実施形態15に記載の方法。
【0153】
実施形態17
上記結晶質相はペタライト結晶質相及び/又はケイ酸リチウム結晶質相を含む、実施形態15に記載の方法。
【0154】
実施形態18
上記第1の浴は、97重量%以上の量の上記第1の金属イオンを含み、上記第2の浴は、約80重量%から97重量%未満の量の上記第1の金属イオンを含む、実施形態15~17のいずれか1つに記載の方法。
【0155】
実施形態19
上記第1の金属イオンはカリウムを含み、上記第1の浴は、97重量%~100重量%の範囲内の量の硝酸カリウム(KNO3)を含み、上記第2の浴は、約80重量%から97重量%未満の量の硝酸カリウム(KNO3)、及び3重量%~20重量%の量の硝酸ナトリウム(NaO3)を含む、実施形態15~18のいずれか1つに記載の方法。
【0156】
実施形態20
上記ガラスセラミック物品は、0.17・t以上の圧縮深さ(DOC)を有する応力プロファイルを有する、実施形態15~19のいずれか1つに記載の方法。
【0157】
実施形態21
上記第1の金属イオンは、上記第1の表面から上記第1の金属イオンに関する層深さ(DOL)まで変化する、第1のゼロでない濃度を有し、
上記第1の金属イオンは、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)、セシウム(Cs)、フランシウム(Fr)、銀(Ag)、金(Au)、及び銅(Cu)からなる群から選択される、実施形態15~20のいずれか1つに記載の方法。
【0158】
実施形態22
上記第1のイオン交換処理及び/又は上記第2のイオン交換処理は更に、上記第1の浴及び/又は上記第2の浴に添加されたある用量のリチウム塩を含み、
上記リチウム塩は、上記第1の浴及び/又は上記第2の浴の量の0.1~1重量%の範囲内の用量の硝酸リチウム(LiNO3)を含む、実施形態15~21のいずれか1つに記載の方法。
【0159】
実施形態23
上記第1の表面及び上記第2の表面における上記結晶質相の表面濃度は、上記ベース組成物の上記結晶質相の約1%以内である、実施形態21又は22に記載の方法。
【0160】
実施形態24
(a)上記第1のイオン交換処理、上記第2のイオン交換処理、又はこれら両方は更に、上記第1の浴及び/又は上記第2の浴の量の0.1~1重量%の範囲内の量の、ある用量の亜硝酸ナトリウム(NaNO2)を含むこと;並びに
(b)上記第1のイオン交換処理、上記第2のイオン交換処理、又はこれら両方は更に、上記第1の浴及び/又は上記第2の浴の量の0.1~1重量%の範囲内の量の、ある用量のリン酸三ナトリウム(TSP)を含むこと
のうちの少なくとも1つを伴う、実施形態15~23のいずれか1つに記載の方法。
【0161】
実施形態25
tは50マイクロメートル~5ミリメートルの範囲内である、実施形態15~24のいずれか1つに記載の方法。
【符号の説明】
【0162】
100 消費者向け電子デバイス
102 ハウジング
104 前面
106 背面
108 側面
110 ディスプレイ
112 カバー基板