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特許7489377多能性幹細胞を含む細胞集団及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-15
(45)【発行日】2024-05-23
(54)【発明の名称】多能性幹細胞を含む細胞集団及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/06 20060101AFI20240516BHJP
   C12N 5/074 20100101ALI20240516BHJP
   C12N 5/0735 20100101ALI20240516BHJP
   C12N 5/0775 20100101ALI20240516BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20240516BHJP
   C12N 15/12 20060101ALN20240516BHJP
【FI】
C12Q1/06 ZNA
C12N5/074
C12N5/0735
C12N5/0775
C12N5/10
C12N15/12
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021511858
(86)(22)【出願日】2020-03-25
(86)【国際出願番号】 JP2020013279
(87)【国際公開番号】W WO2020203538
(87)【国際公開日】2020-10-08
【審査請求日】2023-02-08
(31)【優先権主張番号】P 2019066845
(32)【優先日】2019-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100162868
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 英輔
(74)【代理人】
【識別番号】100178847
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 映美
(72)【発明者】
【氏名】竹内 一博
(72)【発明者】
【氏名】伊吹 将人
【審査官】山本 匡子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/164240(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/175876(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/052759(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/235583(WO,A1)
【文献】NAKAGAWA M. et al.,A novel efficient feeder-free culture system for the derivation of human induced pluripotent stem cells,Sci Rep.,2014年01月08日,4:3594,DOI:10.1038/srep03594
【文献】TANO K. et al.,A Novel In Vitro Method for Detecting Undifferentiated Human Pluripotent Stem Cells as Impurities in Cell Therapy Products Using a Highly Efficient Culture System,PLOS ONE,2014年10月27日,Vol.9, Issue 10,e110496,DOI: 10.1371/journal.pone.0110496
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00-5/28
C12Q
MEDLINE/BIOSIS/REGISTRY/CAPLUS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多能性幹細胞を含む細胞集団を培養する工程と、
前記多能性幹細胞を含む細胞集団の中から、以下に示す(a)及び(b)の特性を有する細胞集団を選別する工程と、
を含む、多能性幹細胞を含む細胞集団の製造方法;
(a)前記細胞集団において、β-Actin遺伝子の発現量に対するLEF1遺伝子の相対発現量が5.5×10-4以下であり、
(b)前記細胞集団において、LEF1が陽性を呈する細胞の比率が55%以下である。
【請求項2】
多能性幹細胞を含む細胞集団を培養する工程と、
前記細胞集団が、以下に示す(a)及び(b)の特性を有する細胞集団であるかを確認する工程と、
前記(a)及び(b)の特性を有する細胞集団であることが確認された前記細胞集団を取得する工程と
を含む、多能性幹細胞を含む細胞集団の製造方法;
(a)前記細胞集団において、β-Actin遺伝子の発現量に対するLEF1遺伝子の相対発現量が5.5×10-4以下であり、
(b)前記細胞集団において、LEF1が陽性を呈する細胞の比率が55%以下である。
【請求項3】
多能性幹細胞を含む細胞集団を培養する工程と、
前記多能性幹細胞を含む細胞集団の中から、以下に示す(a)及び(b)の特性を有する細胞集団を選別する工程と、
前記(a)及び(b)の特性を有する細胞集団を分化誘導因子の存在下で培養する工程と、
を含む体細胞の製造方法;
(a)前記細胞集団において、β-Actin遺伝子の発現量に対するLEF1遺伝子の相対発現量が5.5×10-4以下であり、
(b)前記細胞集団において、LEF1が陽性を呈する細胞の比率が55%以下である。
【請求項4】
多能性幹細胞を含む細胞集団を培養する工程と、
前記細胞集団が、以下に示す(a)及び(b)の特性を有する細胞集団であるかを確認する工程と、
前記(a)及び(b)の特性を有する細胞集団であることが確認された前記細胞集団を、分化誘導因子の存在下で培養する工程と、
を含む、体細胞の製造方法;
(a)前記細胞集団において、β-Actin遺伝子の発現量に対するLEF1遺伝子の相対発現量が5.5×10-4以下であり、
(b)前記細胞集団において、LEF1が陽性を呈する細胞の比率が55%以下である。
【請求項5】
前記体細胞が、内胚葉系細胞、中胚葉系細胞、及び外胚葉系細胞からなる群より選択される、請求項3また4に記載の製造方法。
【請求項6】
前記体細胞が、心筋細胞、骨格筋細胞、神経細胞、巨核球、造血幹細胞、気道上皮細胞、生殖細胞、樹状細胞、好酸球、肥満細胞、軟骨細胞、T細胞、エリスロポエチン産生細胞、腸管上皮、膵臓細胞、肝細胞、肺胞上皮細胞、及び腎臓細胞からなる群より選択される少なくとも1つである、
請求項3または4に記載の製造方法。
【請求項7】
以下に示す(a)及び(b)の特性を指標として、多能性幹細胞を含む細胞集団の分化能をモニタリングする方法;
(a)前記細胞集団において、β-Actin遺伝子の発現量に対するLEF1遺伝子の相対発現量が5.5×10-4以下であり、
(b)前記細胞集団において、LEF1が陽性を呈する多能性幹細胞の比率が55%以下である。
【請求項8】
以下に示す(a)及び(b)の特性を指標として、多能性幹細胞を含む細胞集団の分化能を評価する方法;
(a)前記細胞集団において、β-Actin遺伝子の発現量に対するLEF1遺伝子の相対発現量が5.5×10-4以下であり、
(b)前記細胞集団において、LEF1が陽性を呈する多能性幹細胞の比率が55%以下である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多能性幹細胞を含む細胞集団、及びその製造方法に関する。本発明はさらに、体細胞の製造方法に関する。本発明はさらに、多能性幹細胞を含む細胞集団における多能性幹細胞の分化能をモニタリングする方法に関する。本発明はさらに、多能性幹細胞を含む細胞集団における多能性幹細胞の分化能を評価する方法に関する。
本願は、2019年3月29日に、日本に出願された特願2019-066845号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
ES細胞やiPS細胞等の多能性幹細胞は、無限に増殖できる能力と様々な体細胞に分化する能力を有している。多能性幹細胞から分化誘導させた体細胞を移植する治療法の実用化によって、難治性疾患や生活習慣病に対する治療法を根本的に変革できる可能性を有する。多能性幹細胞を用いた再生医療の実用化に際しては、多能性幹細胞を効率よく目的体細胞へ分化誘導する技術の確立が必要である。多能性幹細胞を目的細胞へと効率よく分化誘導させるための取り組みは、種々報告されている。例えば、出発原料となる多能性幹細胞集団の均質性を高める取り組み、具体的には、多能性幹細胞の未分化性を維持しながら培養する方法、及び未分化状態から逸脱した細胞(未分化逸脱細胞)を除去する方法が挙げられる。
【0003】
特許文献1には、ヒト多能性幹細胞におけるCHD7の発現レベルを測定することを含む、該多能性幹細胞の分化能の予測方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2018/235583号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1には、多能性幹細胞を含む細胞集団の中から特定の優れた特徴を有する幹細胞集団を選択的に調製すること、具体的には、効率的な分化誘導を可能とする未分化能を高く維持した細胞集団を、多能性幹細胞の特性を指標として選択的に調製することについては、記載も示唆もない。
本発明は、効率的に分化誘導可能である多能性幹細胞を含む細胞集団、及び多能性幹細胞の製造方法を提供することを解決すべき課題とした。本発明はさらに、上記の多能性幹細胞を含む細胞集団を用いた、体細胞の製造方法を提供することを解決すべき課題とした。本発明はさらに、多能性幹細胞を含む細胞集団における多能性幹細胞の分化能をモニタリングする方法を提供することを解決すべき課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討した結果、多能性幹細胞の未分化維持培養において、LEF1遺伝子発現量及びLEF1が陽性を呈する多能性幹細胞の比率が所定の値以下である多能性幹細胞を含む細胞集団では、未分化逸脱細胞の出現頻度が低く、LEF1遺伝子発現量及びLEF1が陽性を呈する多能性幹細胞の比率が所定の値以上である多能性幹細胞を含む細胞集団では、未分化逸脱細胞が多く出現することを見出した。これにより、LEF1を指標にして細胞を選別することで、未分化逸脱細胞の含有率が低い多能性幹細胞を調製することができ、より高効率に体細胞へ分化誘導できることが判明した。本発明は、これらの知見に基づいて完成したものである。
【0007】
すなわち、本発明によれば、以下の発明が提供される。
<1> 多能性幹細胞を含む細胞集団を培養する工程と、
前記多能性幹細胞を含む細胞集団の中から、以下に示す(a)及び(b)の特性を有する細胞集団を選別する工程と、を含む、多能性幹細胞を含む細胞集団の製造方法;
(a)前記細胞集団において、β-Actin遺伝子の発現量に対するLEF1遺伝子の相対発現量が5.5×10-4以下であり、
(b)前記細胞集団において、LEF1が陽性を呈する細胞の比率が55%以下である。
<2> 多能性幹細胞を含む細胞集団を培養する工程と、
前記細胞集団が、以下に示す(a)及び(b)の特性を有する細胞集団であるかを確認する工程と、
前記(a)及び(b)の特性を有する細胞集団であることが確認された前記細胞集団を取得する工程と
を含む、多能性幹細胞を含む細胞集団の製造方法;
(a)前記細胞集団において、β-Actin遺伝子の発現量に対するLEF1遺伝子の相対発現量が5.5×10-4以下であり、
(b)前記細胞集団において、LEF1が陽性を呈する細胞の比率が55%以下である。
<3> 多能性幹細胞を含む細胞集団を培養する工程と、
前記多能性幹細胞を含む細胞集団の中から、以下に示す(a)及び(b)の特性を有する細胞集団を選別する工程と、
前記(a)及び(b)の特性を有する細胞集団を分化誘導因子の存在下で培養する工程と、を含む体細胞の製造方法;
(a)前記細胞集団において、β-Actin遺伝子の発現量に対するLEF1遺伝子の相対発現量が5.5×10-4以下であり、
(b)前記細胞集団において、LEF1が陽性を呈する細胞の比率が55%以下である。
<4> 多能性幹細胞を含む細胞集団を培養する工程と、
前記細胞集団が、以下に示す(a)及び(b)の特性を有する細胞集団であるかを確認する工程と、
前記(a)及び(b)の特性を有する細胞集団であることが確認された前記細胞集団を、分化誘導因子の存在下で培養する工程と、
を含む、体細胞の製造方法;
(a)前記細胞集団において、β-Actin遺伝子の発現量に対するLEF1遺伝子の相対発現量が5.5×10-4以下であり、
(b)前記細胞集団において、LEF1が陽性を呈する細胞の比率が55%以下である。
<5> 前記体細胞が、内胚葉系細胞、中胚葉系細胞、及び外胚葉系細胞からなる群より選択される少なくとも1つである、<3>また<4>に記載の製造方法。
<6> 前記体細胞が、心筋細胞、骨格筋細胞、神経細胞、巨核球、造血幹細胞、気道上皮細胞、生殖細胞、樹状細胞、好酸球、肥満細胞、軟骨細胞、T細胞、エリスロポエチン産生細胞、腸管上皮、膵臓細胞、肝細胞、肺胞上皮細胞、及び腎臓細胞からなる群より選択される少なくとも1つである、<3>または<4>に記載の製造方法。
<6-1> 前記(a)及び(b)の特性を有する細胞集団を選別する工程が、多能性幹細胞を含む細胞集団をROCK阻害剤の存在下において培養することを含む、<1>、<3>、<5>、および<6>の何れかに記載の方法。
<6-2> 前記多能性幹細胞を含む細胞集団を培養する工程が、多能性幹細胞を含む細胞集団をROCK阻害剤の存在下において培養することを含む、<1>~<6>の何れかに記載の方法。
<7> 多能性幹細胞を含む細胞集団であって、以下に示す(a)及び(b)の特性を有する細胞集団:
(a)前記細胞集団において、β-Actin遺伝子の発現量に対するLEF1遺伝子の相対発現量が5.5×10-4以下であり、
(b)前記細胞集団において、LEF1が陽性を呈する多能性幹細胞の比率が55%以下である。
<7-1> 以下に示す(c)、(d)及び(e)の特性をさらに有する、<7>に記載の細胞集団:
(c)前記細胞集団において、β-Actin遺伝子の発現量に対するOct4遺伝子の相対発現量が2.0×10-1以上であり、
(d)前記細胞集団において、β-Actin遺伝子の発現量に対するSox2遺伝子の相対発現量が1.0×10-2以上であり、
(e)前記細胞集団において、β-Actin遺伝子の発現量に対するNanog遺伝子の相対発現量が1.2×10-2以上である。
<7-2> 以下に示す(f)、(g)及び(h)の特性をさらに有する、<7>又は<7-1>に記載の細胞集団:
(f)前記細胞集団において、β-Actin遺伝子の発現量に対するBrachyury遺伝子の相対発現量が1.0×10-4以下であり、
(g)前記細胞集団において、β-Actin遺伝子の発現量に対するSox17遺伝子の相対発現量が1.0×10-4以下であり、
(h)前記細胞集団において、β-Actin遺伝子の発現量に対するPax6遺伝子の相対発現量が1.0×10-4以下である。
<8> 以下に示す(a)及び(b)の特性を指標として、多能性幹細胞を含む細胞集団の分化能をモニタリングする方法;
(a)前記細胞集団において、β-Actin遺伝子の発現量に対するLEF1遺伝子の相対発現量が5.5×10-4以下であり、
(b)前記細胞集団において、LEF1が陽性を呈する多能性幹細胞の比率が55%以下である。
<8-1> 多能性幹細胞の分化能のモニタリングを、ROCK阻害剤の存在下において行う、<8>に記載の方法。
<9> 以下に示す(a)及び(b)の特性を指標として、多能性幹細胞を含む細胞集団の分化能を評価する方法;
(a)前記細胞集団において、β-Actin遺伝子の発現量に対するLEF1遺伝子の相対発現量が5.5×10-4以下であり、
(b)前記細胞集団において、LEF1が陽性を呈する多能性幹細胞の比率が55%以下である。
【発明の効果】
【0008】
本発明の方法によれば、高効率に体細胞へと分化誘導可能な多能性幹細胞を含む細胞集団を製造できる。また、本発明による多能性幹細胞を含む細胞集団は、高効率に体細胞へと分化誘導可能である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、ヒトiPS細胞の培養5日目及び10日目の位相差画像を示す。
図2A図2A~2Cは、ヒトiPS細胞の培養5日目におけるLEF1遺伝子発現量、未分化マーカー遺伝子発現量及び分化マーカー遺伝子発現量を測定した結果を示す。図2Aは、未分化マーカー遺伝子発現量を測定した結果を示す。
図2B図2Bは、分化マーカー遺伝子発現量を測定した結果を示す。
図2C図2Cは、LEF1遺伝子発現量を測定した結果を示す。
図3A図3A~3Bは、ヒトiPS細胞の培養10日目における未分化マーカー遺伝子発現量及び分化マーカー遺伝子発現量を測定した結果を示す。図3Aは、未分化マーカー遺伝子発現量及び分化マーカー遺伝子発現量を測定した結果を示す。
図3B図3Bは、分化マーカー遺伝子発現量を測定した結果を示す。
図4図4は、ヒトiPS細胞においてLEF1が陽性を呈する細胞の比率を測定した結果を示す。
図5図5は、ヒトiPS細胞RPChiPS771-2株から三胚葉系細胞への分化誘導後に、内胚葉マーカー、中胚葉マーカー及び外胚葉マーカーの発現を測定した結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[多能性幹細胞を含む細胞集団]
本発明による多能性幹細胞を含む細胞集団は、以下に示す(a)及び(b)の特性を有する細胞集団である:
(a)前記細胞集団において、β-Actin遺伝子の発現量に対するLEF1遺伝子の相対発現量が5.5×10-4以下であり、
(b)前記細胞集団において、LEF1が陽性を呈する多能性幹細胞の比率が55%以下である。
【0011】
β-Actin遺伝子は、ハウスキーピング遺伝子でありACTBとも表記され、定量的リアルタイムPCRの内在性コントロールとして用いられる遺伝子の1種である。ヒトβ―Actin遺伝子(GENE ID:60)のcDNA配列及び前記cDNA配列にコードされるアミノ酸配列としては、NCBI RefSeq:NM_001101.5及びNP_001092.1として登録されているものそれぞれが挙げられる。
LEF1遺伝子は、Lymphoid enhancer-binding factor 1遺伝子である。LEF1は、別名として、LEF-1、TCF10、TCF1ALPHA、TCF7L3とも表記される。LEF1は、生物の発生に重要なWNT/β-cateninシグナルにおける転写因子であり、β-cateninを介してWNT標的遺伝子の転写に関わることが報告されている。ヒトLEF1遺伝子(GENE ID:51176)のcDNA配列及び前記cDNA配列にコードされるアミノ酸配列としては、NCBI RefSeq:NM_016269.5及びNP_057353.1(配列番号31及び32)、NCBI RefSeq:001130713.2及びNP_001124185.1(配列番号33及び34)、NCBI RefSeq:NM_001130714.2及びNP_001124186.1(配列番号35及び36)、並びにNCBI RefSeq:NM_001166119.1及びNP_001159591.1(配列番号37及び38)として登録されているものがそれぞれ挙げられる。
【0012】
(多能性幹細胞)
多能性幹細胞とは、生体を構成する全ての種類の細胞に分化することができる多分化能(多能性)を有する細胞であって、適切な条件下のインビトロ(in vitro)での培養において多能性を維持したまま無限に増殖を続けることができる細胞をいう。具体的には胚性幹細胞(ES細胞)、胎児の始原生殖細胞由来の多能性幹細胞(EG細胞:Proc Natl Acad Sci USA.1998,95:13726-31)、精巣由来の多能性幹細胞(GS細胞:Nature.2008,456:344-9)、人工多能性幹細胞(induced pluripotent stem cells;iPS細胞)、ヒトの体性幹細胞(組織幹細胞)などが挙げられるが、これに限定されるものではない。本発明に用いる多能性幹細胞は、好ましくは、iPS細胞又はES細胞であり、より好ましくはiPS細胞である。
【0013】
ES細胞としては、任意の温血動物、好ましくは哺乳動物に由来する細胞を使用できる。哺乳動物としては、例えば、マウス、ラット、モルモット、ハムスター、ウサギ、ネコ、イヌ、ヒツジ、ブタ、ウシ、ウマ、ヤギ、サル、又はヒトが挙げられる。好ましくはヒトに由来する細胞を使用できる。
【0014】
ES細胞の具体例としては、着床以前の初期胚を培養することによって樹立した哺乳動物等のES細胞、体細胞の核を核移植することによって作製された初期胚を培養することによって樹立したES細胞、及びこれらのES細胞の染色体上の遺伝子を遺伝子工学の手法を用いて改変したES細胞が挙げられる。各ES細胞は当分野で通常実施されている方法や、公知文献に従って調製することができる。 マウスのES細胞は、1981年にエバンスら(Evans et al.,1981,Nature 292:154-6)、及びマーチンら(Martin GR.et al.,1981,Proc Natl Acad Sci 78:7634-8)によって樹立されている。ヒトのES細胞は、1998年にトムソンら(Thomson et al.,Science,1998,282:1145-7)によって樹立されており、WiCell研究施設(WiCell Research Institute、ウェブサイト:www.wicell.org/、マジソン、ウイスコンシン州、米国)、米国国立衛生研究所(National Institute of Health)、京都大学などから入手可能であり、例えばCellartis社(ウェブサイト:www.cellartis.com/、スウェーデン)から購入可能である。
【0015】
人工多能性幹細胞(iPS細胞)は、体細胞を初期化することによって得られる多能性を有する細胞である。iPS細胞の作製は、京都大学の山中伸弥教授らのグループ、マサチューセッツ工科大学のルドルフ・ヤニッシュ(Rudolf Jaenisch)らのグループ、ウイスコンシン大学のジェームス・トムソン(James Thomson)らのグループ、ハーバード大学のコンラッド・ホッケドリンガー(Konrad Hochedlinger)らのグループなどを含む複数のグループが成功している。例えば、国際公開第2007/069666号には、Octファミリー遺伝子、Klfファミリー遺伝子及びMycファミリー遺伝子の遺伝子産物を含む体細胞の核初期化因子、並びにOctファミリー遺伝子、Klfファミリー遺伝子、Soxファミリー遺伝子及びMycファミリー遺伝子の遺伝子産物を含む体細胞の核初期化因子が記載されており、さらに体細胞に上記核初期化因子を接触させる工程を含む、体細胞の核初期化により誘導多能性幹細胞を製造する方法が記載されている。
【0016】
iPS細胞の製造に用いる体細胞の種類は特に限定されず、任意の体細胞を用いることができる。即ち、体細胞とは、生体を構成する細胞のうち、生殖細胞以外の全ての細胞を包含し、分化した体細胞でもよいし、未分化の幹細胞でもよい。体細胞の由来は、哺乳動物、鳥類、魚類、爬虫類、両生類の何れでもよく特に限定されないが、好ましくは哺乳動物(例えば、マウスなどのげっ歯類、又はヒトなどの霊長類)であり、特に好ましくはマウス又はヒトである。また、ヒトの体細胞を用いる場合、胎児、新生児又は成人の何れの体細胞を用いてもよい。体細胞の具体例としては、例えば、線維芽細胞(例えば、皮膚線維芽細胞)、上皮細胞(例えば、胃上皮細胞、肝上皮細胞、肺胞上皮細胞)、内皮細胞(例えば、血管、リンパ管)、神経細胞(例えば、ニューロン、グリア細胞)、膵臓細胞、白血球細胞(B細胞、T細胞等)、骨髄細胞、筋肉細胞(例えば、骨格筋細胞、平滑筋細胞、心筋細胞)、肝実質細胞、非肝実質細胞、脂肪細胞、骨芽細胞、歯周組織を構成する細胞(例えば、歯根膜細胞、セメント芽細胞、歯肉線維芽細胞、骨芽細胞)、腎臓・眼・耳を構成する細胞などが挙げられる。本発明で用いられる細胞は、任意の動物由来のものであってよく、例えば、マウス、ラット、ハムスター等のげっ歯類;ヒト、ゴリラ、チンパンジー等の霊長類;及びイヌ、ネコ、ウサギ、ウシ、ウマ、ヒツジ、ヤギ等の家畜若しくは愛玩動物などの哺乳動物由来のものであってよいが、ヒト由来の細胞が好ましい。
【0017】
iPS細胞は、所定の培養条件下(例えば、ES細胞を培養する条件下)において長期にわたって自己複製能を有し、また所定の分化誘導条件下において様々な体細胞への多分化能を有する幹細胞である。また、iPS細胞はマウスなどの試験動物に移植した場合にテラトーマを形成する能力を有する幹細胞でもよい。
【0018】
体細胞からiPS細胞を製造するためには、まず、少なくとも1種類以上の初期化遺伝子を体細胞に導入する。初期化遺伝子とは、体細胞を初期化してiPS細胞とする作用を有する初期化因子をコードする遺伝子である。初期化遺伝子の組み合わせの具体例としては、以下の組み合わせを挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
(i)Oct遺伝子、Klf遺伝子、Sox遺伝子、Myc遺伝子
(ii)Oct遺伝子、Sox遺伝子、NANOG遺伝子、LIN28遺伝子
(iii)Oct遺伝子、Klf遺伝子、Sox遺伝子、Myc遺伝子、hTERT遺伝子、SV40 largeT遺伝子
(iv)Oct遺伝子、Klf遺伝子、Sox遺伝子
【0019】
上記以外にも、導入遺伝子をさらに減らした方法(Nature.2008 Jul 31;454(7204):646-50)、低分子化合物を利用した方法(Cell Stem Cell.2009 Jan 9;4(1):16-9、Cell Stem Cell.2009 Nov 6;5(5):491-503)、遺伝子の代わりに転写因子タンパク質を利用した方法(Cell Stem Cell.2009 May 8;4(5):381-4)などが報告されており、いずれの方法で製造されたiPS細胞でもよい。
【0020】
初期化因子の細胞への導入形態は特に限定されないが、例えば、プラスミドを用いた遺伝子導入、合成RNAの導入、タンパク質として直接導入などが挙げられる。また、microRNA若しくはRNA、又は低分子化合物等を用いた方法で作製されたiPS細胞を用いてもよい。ES細胞、iPS細胞を始めとする多能性幹細胞は、市販品又は分譲を受けた細胞を用いてもよいし、新たに作製したものを用いてもよい。
【0021】
iPS細胞として、例えば253G1株、253G4株、201B6株、201B7株、409B2株、454E2株、606A1株、610B1株、648A1株、1201C1株、1205D1株、1210B2株、1231A3株、1383D2株、1383D6株、iPS-TIG120-3f7株、iPS-TIG120-4f1株、iPS-TIG114-4f1株、RPChiPS771-2株、15M63株、15M66株、HiPS-RIKEN-1A株、HiPS-RIKEN-2A株、HiPS-RIKEN-12A株、Nips-B2株、TkDN4-M株、TkDA3-1株、TkDA3-2株、TkDA3-4株、TkDA3-5株、TkDA3-9株、TkDA3-20株、hiPSC 38-2株、MSC-iPSC1株、BJ-iPSC1株等を使用することができる。
【0022】
ES細胞として、例えばKhES-1株、KhES-2株、KhES―3株、KhES-4株、KhES-5株、SEES1株、SEES2株、SEES3株、HUES8株、CyT49株、H1株、H9株、HS-181株等を使用することができる。新たに作製された臨床グレードのiPS細胞又はES細胞を用いてもよい。
【0023】
本発明における多能性幹細胞を含む細胞集団は、多能性幹細胞の比率が80%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましく、100%であってもよい。前記(a)及び(b)の指標を満たす細胞集団は、通常、前記比率で多能性幹細胞を含む細胞集団である。
【0024】
(β-Actin遺伝子の発現量に対するLEF1遺伝子の相対発現量)
本発明の細胞集団においては、β-Actin遺伝子の発現量に対するLEF1遺伝子の相対発現量が、5.5×10-4以下である。β-Actin遺伝子の発現量に対するLEF1遺伝子の相対発現量の上限は、例えば、5.0×10-4以下、4.5×10-4以下、4.0×10-4以下、3.5×10-4以下、3.0×10-4以下、2.5×10-4以下、又は2.0×10-4以下であり、1.9×10-4以下、1.8×10-4以下、1.7×10-4以下、1.6×10-4以下、1.5×10-4以下、1.4×10-4以下、1.3×10-4以下、1.2×10-4以下、1.1×10-4以下、1.0×10-4以下、9.0×10-5以下、8.0×10-5以下、7.0×10-5以下、6.0×10-5以下、5.0×10-5以下、4.0×10-5以下、3.0×10-5以下、2.0×10-5以下、1.0×10-5以下、又は1.0×10-6以下が好ましい。また、下限としては例えば、1.0×10-7以上が好ましい。
【0025】
β-Actin遺伝子の発現量に対するLEF1遺伝子の相対発現量は、定量的リアルタイムPCR解析により測定することができる。定量的リアルタイムPCR解析は当業者に公知の方法により行うことができる。例えば、培養した細胞のtotal RNAを回収し、cDNAの合成を行い、このcDNAを鋳型とし、測定対象の遺伝子及びβ-Actin遺伝子について定量的リアルタイムPCRを実施することにより、β-Actin遺伝子の発現量に対する測定対象遺伝子の発現量を測定することができる。
【0026】
なお、本発明で使用する定量的リアルタイムPCR解析の手法については、後述の実施例で記載する方法と同様に行うことができる。具体的には、例えば、細胞集団の一部を採取してRNAを単離及び精製し、前記RNAから逆転写反応によりcDNAを合成する。次いで、前記cDNAを鋳型として用いて、SYBR Greenによるインターカレーション法により、定量的リアルタイムPCRを行う。β-Actin遺伝子の発現量は、β-ActinのcDNA配列から設計したプライマー(例えば、配列番号1、2)を用いてリアルタイムPCRを行うことにより測定することができる。LEF1遺伝子の発現量は、LEF1のcDNA配列から設計したプライマー(例えば、配列番号15、16)を用いてリアルタイムPCRを行うことにより測定することができる。β-Actin遺伝子の発現量に対するLEF1遺伝子の発現量は、前記のように測定されたβ-Actin遺伝子の発現量及びLEF1遺伝子の発現量を用いて、比較Ct法により算出することができる。
【0027】
(LEF1が陽性を呈する多能性幹細胞の比率)
本発明の細胞集団においては、LEF1が陽性を呈する多能性幹細胞の比率が55%以下である。LEF1が陽性を呈する多能性幹細胞の比率の上限としては、例えば、54%以下、53%以下、52%以下、51%以下、50%以下、又は49%以下であり、48%以下、47%以下、46%以下、45%以下、44%以下、43%以下、42%以下、41%以下、40%以下、39%以下、又は38%以下でもよい。また、下限としては、例えば、0%を含んでもよく、1%以上、10%以上、20%以上、又は30%以上が好ましい。
【0028】
細胞集団におけるLEF1が陽性を呈する多能性幹細胞の比率は、フローサイトメトリー解析により測定することができる。フローサイトメトリーメトリー解析は当業者に公知の方法により行うことができる。例えば、培養した細胞の固定化及び膜透過処理を行い、蛍光標識済抗LEF1抗体及び蛍光標識済のアイソタイプコントロール抗体で蛍光免疫染色し、フローサイトメーターを用いて染色細胞の蛍光を検出することによって、フローサイトメトリー解析を実施することができる。ネガティブコントロール(アイソタイプコントロール)と比較してより強い蛍光を発する細胞が検出された場合、当該細胞はLEF1が「陽性」と判定される。なお、本発明で使用するフローサイトメトリー解析の手法については後述の実施例で記載する方法と同様に行うことができる。
【0029】
上述した条件を満たす多能性幹細胞を含む細胞集団は、未分化性(多能性)を維持しており、体細胞への高い分化能を有し、効率的に前記体細胞へと分化誘導することができる。
【0030】
(分化能)
本発明における分化能とは、多能性幹細胞を特定の細胞種へ分化誘導したときに前記細胞種に分化する多能性幹細胞の能力を意味する。多能性幹細胞を含む細胞集団の分化能は、前記細胞集団を特定の細胞種へ分化誘導したときの前記細胞種への分化誘導効率として評価される。具体的には、多能性幹細胞を含む細胞集団を特定の細胞種へ分化誘導した後、目的細胞の形態的特徴や、遺伝子発現、タンパク質発現、分泌物等を指標として、目的細胞への分化誘導効率を評価することができる。目的細胞については、特に限定されないが、具体的には後述の中胚葉系細胞、内胚葉系細胞、外胚葉系細胞、所望の機能を有する体細胞等が挙げられる。分化誘導方法については、細胞種に応じて適切な分化誘導方法を用いればよく、特に限定されないが、例えば後述の分化誘導培地等を用いた分化誘導方法が挙げられる。分化誘導効率の評価方法については、特に限定されないが、例えば、目的細胞に特徴的な細胞形態を顕微鏡での目視観察若しくは画像解析によって評価する方法、目的細胞に特徴的な遺伝子発現量を定量的リアルタイムPCR解析によって評価する方法、目的細胞に特徴的なタンパク質発現をフローサイトメトリー解析、免疫沈降、免疫染色によって評価する方法、目的細胞が分泌する物質の量によって評価する方法等が挙げられる。
【0031】
前記(a)及び(b)の指標を用いることにより、多能性幹細胞を含む細胞集団を目的の細胞種に分化誘導する前に、前記細胞集団の分化能を評価することができる。すなわち、前記(a)及び(b)の指標を満たす細胞集団は、分化能が高いと評価することができる。
【0032】
(未分化マーカーの発現)
本発明の細胞集団における多能性幹細胞の未分化性は、未分化マーカーの発現状態を解析することにより確認することができる。未分化マーカーの発現状態の解析は、例えば、定量的リアルタイムPCR解析、又はフローサイトメトリー解析等により行うことができる。
【0033】
未分化マーカーとしては、例えば、Oct4、Sox2、Nanog、SSEA-3、SSEA-4、TRA-1-60、TRA-1-81、REX-1、LIN28、LEFTB、GDF3、ZFP42、FGF4、ESG1、DPPA2、TERT、KLF4、c-Myc、Alkaline Phosphatase等が挙げられるが、これらに限定されない。未分化マーカーとしては、上記の中でも、Oct4、Sox2、及びNanogが好ましい。なお、未分化マーカーは多能性幹細胞マーカーと同義であり、両者は互換的に使用することができる。
【0034】
本発明の細胞集団において、β-Actin遺伝子の発現量に対するOct4遺伝子の相対発現量は下限としては例えば、2.0×10-1以上、2.1×10-1以上、2.2×10-1以上、2.3×10-1以上、2.4×10-1以上、2.5×10-1以上、2.6×10-1以上、2.7×10-1以上、2.8×10-1以上、2.9×10-1、3.0×10-1以上、4.0×10-1以上、5.0×10-1以上、又は6.0×10-1以上が好ましい。また、上限としては例えば、10以下、又は1.0以下が好ましい。
【0035】
本発明の細胞集団において、β-Actin遺伝子の発現量に対するSox2遺伝子の相対発現量は下限としては例えば、1.0×10-2以上、1.1×10-2以上、1.2×10-2以上、1.3×10-2以上、1.4×10-2以上、1.5×10-2以上、1.6×10-2以上、1.7×10-2以上、1.8×10-2以上、1.9×10-2以上、2.0×10-2以上、2.1×10-2以上、2.2×10-2以上、2.3×10-2以上、2.6×10-2以上、又は2.9×10-2以上が好ましい。また、上限としては例えば、10以下、1.0以下、又は0.1以下が好ましい。
【0036】
本発明の細胞集団において、β-Actin遺伝子の発現量に対するNanog遺伝子の相対発現量は下限としては例えば、1.2×10-2以上、1.3×10-2以上、1.4×10-2以上、1.5×10-2以上、1.6×10-2以上、1.7×10-2以上、1.8×10-2以上、1.9×10-2以上、2.0×10-2以上、3.0×10-2以上、4.0×10-2以上、5.0×10-2以上、6.0×10-2以上、7.0×10-2以上、又は8.0×10-2以上が好ましい。また、上限としては例えば、10以下、1.0以下、又は0.1以下が好ましい。
【0037】
β-Actin遺伝子の発現量に対する上記遺伝子の相対発現量は、定量的リアルタイムPCR解析により測定することができる。
【0038】
(分化マーカーの発現)
本発明の細胞集団における多能性幹細胞の未分化性は、分化マーカーの発現状態を解析することにより確認してもよい。分化マーカーの発現状態の解析は、例えば、リアルタイムPCR、又はフローサイトメトリー等により行うことができる。
【0039】
分化マーカーとしては、例えば、Brachyury、Sox17、Pax6、FOXA2、CXCR4、AFP、GATA4、EOMES、MESP1、MESP2、FOXF1、HAND1、EVX1、IRX3、CDX2、TBX6、MIXL1、ISL1、SNAI2、FOXC1、VEGFR2、PDGFRα、FGF5、OTX2、SOX1、NESTIN等が挙げられるが、これらに限定されない。分化マーカーとしては、上記の中でも、Brachyury、Sox17、及びPax6が好ましい。
前記Brachyuryは、中胚葉で特異的に発現する遺伝子であり、中胚葉系細胞のマーカー遺伝子として用いることができる。
前記Sox17は、内胚葉で特異的に発現する遺伝子であり、内胚葉系細胞のマーカー遺伝子として用いることができる。
前記Pax6は、外胚葉で特異的に発現する遺伝子であり、外胚葉系細胞のマーカー遺伝子として用いることができる。
【0040】
本発明の細胞集団において、β-Actin遺伝子の発現量に対するBrachyury遺伝子の相対発現量は、上限としては例えば、1.0×10-4以下、1.0×10-5以下、1.0×10-6以下、又は1.0×10-7以下が好ましい。また、下限としては例えば、1.0×10-9以上が好ましい。
【0041】
本発明の細胞集団において、β-Actin遺伝子の発現量に対するSox17遺伝子の相対発現量は、上限としては例えば、1.0×10-4以下、1.0×10-5以下、1.0×10-6以下、又は1.0×10-7以下が好ましい。また、下限としては例えば、1.0×10-9以上が好ましい。
【0042】
本発明の細胞集団において、β-Actin遺伝子の発現量に対するPax6遺伝子の相対発現量は、上限としては例えば、1.0×10-4以下であり、より好ましくは1.0×10-5以下、又は1.5×10-6以下である。また、下限としては例えば、1.0×10-9以上が好ましい。
【0043】
β-Actin遺伝子の発現量に対する上記遺伝子の相対発現量は、定量的リアルタイムPCR解析により測定することができる。
【0044】
上記した未分化マーカー及び分化マーカーを解析するタイミングは、特に限定されないが、例えば、培養工程の途中、培養工程における純化後、N回継代した直後(Nは1以上の整数を示す)、維持培養の途中、凍結保存前、解凍後、製剤化する前、又は製剤化した後などが挙げられる。
【0045】
[多能性幹細胞を含む細胞集団の製造方法]
本発明は、多能性幹細胞を含む細胞集団の中から、以下に示す(a)及び(b)の特性を有する細胞集団を選別する工程を含む、多能性幹細胞を含む細胞集団の製造方法に関する。
(a)前記細胞集団において、β-Actin遺伝子の発現量に対するLEF1遺伝子の相対発現量が5.5×10-4以下であり、
(b)前記細胞集団において、LEF1が陽性を呈する多能性幹細胞の比率が55%以下である。
【0046】
本発明においては、多能性幹細胞を含む細胞集団が、上記(a)及び(b)の条件を満たすように調製する。前記(a)及び(b)の条件は、未分化性を維持し、高い分化能を有する多能性幹細胞を含む細胞集団を取得する際の指標として有用である。細胞集団の調製方法は、前記指標を満たす細胞集団を取得できるものであれば、特に限定されない。そのような方法としては、例えば、セルソーターにて(b)を満たす細胞集団を選択し、次いで、得られた細胞集団を(a)を満たす条件下において培養することが挙げられる。また、前記指標を満たす前記細胞集団の他の調製方法としては、細胞集団を、上記(a)及び(b)を満たす条件下において培養することが挙げられる。培養条件や培養方法の詳細については以下で説明する。
【0047】
β-Actin遺伝子の発現量に対するLEF1遺伝子の相対発現量の好ましい範囲、並びにLEF1が陽性を呈する多能性幹細胞の比率の好ましい範囲は、本明細書中において上記した通りである。
【0048】
多能性幹細胞を含む細胞集団は、多能性幹細胞を、所望により維持培養した後に、多能性幹細胞を接着培養又は浮遊培養を行うことにより、製造することができる。
【0049】
(維持培養)
本発明において接着培養又は浮遊培養を行う前の多能性幹細胞は、未分化維持培地を用いて未分化性を維持したものとすることが好ましい。未分化維持培地を用いて多能性幹細胞の未分化性を維持する培養のことを、多能性幹細胞の維持培養ともいう。
【0050】
未分化維持培地は、多能性幹細胞の未分化性を維持できる培地であれば特に限定されない。未分化維持培地としては、例えば、FGF2(Basic fibroblast growth factor-2)、TGF-β1(Transforming growth factor-β1)、Activin A、IGF-1、MCP-1、IL-6、PAI、PEDF、IGFBP-2、LIF(Leukemia inhibitory factor)及びIGFBP-7からなる群から選択される1つ以上を基礎培地に含む培地等が挙げられる。前記例示した因子は、多能性幹細胞の未分化性を維持する性質を有していることが知られている。未分化維持培地としては、例えば、StemFit(登録商標)(例えば、StemFit(登録商標)AK02Nなど)(味の素社)、Essential 8培地(ライフテクノロジーズジャパン株式会社)(Thermo Fisher Scientific社)、STEMPRO(登録商標)hESC FM(ライフテクノロジーズジャパン株式会社)、mTeSR1(Veritas社)、TeSR2(Veritas社)等を使用することができるが、特に限定されない。また、未分化維持培地には、ペニシリン、ストレプトマイシン及びアンフォテリシンBなどの抗生物質を添加してもよく、Culture sure Y-27632(和光純薬工業)等のROCK阻害剤を添加してもよい。
【0051】
多能性幹細胞の維持培養は、ビトロネクチン、フィブロネクチン、ラミニン、又はマトリゲル等の細胞接着タンパク質をコートした細胞培養用ディッシュ上において、上記した未分化維持培地を用いて行うことができる。
【0052】
多能性幹細胞の維持培養の培養温度は、特に限定されないが、好ましくは36.0℃から38.0℃であり、より好ましくは36.5℃から37.5℃である。培養期間は、特に限定されないが、好ましくは1日から14日間とすることができる。多能性幹細胞の維持培養は、例えば、1日から7日毎、2日から5日毎、3日から5日毎、3日から4日毎に細胞を継代しながら行ってもよい。維持培養における継代数は特に限定されない。COインンキュベータ等を利用して、約1%から10%、好ましくは5%のCO濃度雰囲気下で培養を行うことが好ましい。
【0053】
多能性幹細胞の維持培養を行う際には、適当な頻度で培地交換を行うことが好ましい。培地交換の頻度は特に限定されず、細胞種や培養条件により適宜培地交換の頻度を調整することができる。例えば、好ましくは5日に一回以上、4日に一回以上、3日に一回以上、2日に一回以上、又は1日に一回以上の頻度で培地交換作業を行うことができる。培地交換に用いる液体培地としては、上記と同様の液体培地を用いることができる。培地交換の方法は特に限定されない。例えば、好ましくは培養容器から上清をアスピレーターやピペット等で吸引除去し、その後、新鮮な液体培地を穏やかに添加した後、再度培養容器をCOインキュベーター等の培養環境に戻すことで継続して維持培養することができる。
【0054】
継代の方法は特に限定されない。例えば、好ましくは培養容器から上清をアスピレーターやピペット等で吸引除去し、その後、必要に応じて洗浄を行うことができる。洗浄液には、バッファ(PBSバッファを含む)、生理食塩水、又は液体培地(基礎培地が好ましい)を使用すればよい。洗浄後の細胞に対し、例えば機械的、化学的又は生物学的な方法により細胞を剥離し、維持培養を継続するために維持培養用の新鮮培地及び培養容器に播種して維持培養を継続してもよい。継代後の維持培養に用いる液体培地及び培養の条件としては、上記と同様の未分化維持培地及び条件を用いることができる。また剥離の際は、EDTA、TryPLETM Select、アキュターゼTM、コラゲナーゼ、ディスパーゼ、トリプシン、トリプシン/EDTA、トリプシン/コラゲナーゼ、ReLeSRTM等を細胞剥離液として使用して培養基材から剥離又は細胞同士を剥離さてもよいし、セルスクレーパー等を用いて細胞を培養基材から剥離させてもよい。剥離させた細胞は、ピペッティング又はストレーナーを用いて十分に分散させて単離してもよいし、分散させずにコロニー状のまま播種してもよい。
【0055】
(接着培養)
本発明においては、多能性幹細胞を培地中において接着培養してもよい。接着培養とは、細胞を培養皿等の培養面に接着した状態で培養することである。
【0056】
接着培養における培地は、多能性幹細胞の未分化性を維持できる培地であれば特に限定されない。接着培養における培地としては、例えば、FGF2(Basic fibroblast growth factor-2)、TGF-β1(Transforming growth factor-β1)、Activin A、IGF-1、MCP-1、IL-6、PAI、PEDF、IGFBP-2、LIF(Leukemia inhibitory factor)及びIGFBP-7からなる群から選択される1つ以上を基礎培地に含む培地等が挙げられる。前記例示した因子は、多能性幹細胞の未分化性を維持する性質を有していることが知られている。接着培養における培地としては、例えば、StemFit(登録商標)(例えば、StemFit(登録商標)AK02Nなど)(味の素社)、Essential 8培地(ライフテクノロジーズジャパン株式会社)(Thermo Fisher Scientific社)、STEMPRO(登録商標)hESC SFM(ライフテクノロジーズジャパン株式会社)、mTeSR1(Veritas社)、TeSR2(Veritas社)等を使用することができるが、特に限定されない。また、接着培養における培地には、ペニシリン、ストレプトマイシン及びアンフォテリシンBなどの抗生物質を添加してもよい。また、接着培養における培地は、L-アスコルビン酸、インスリン、トランスフェリン、セレン及び炭酸水素ナトリウムからなる群から選択される少なくとも1つを含んでもいてもよく、L-アスコルビン酸、インスリン、トランスフェリン、セレン及び炭酸水素ナトリウムの全てを含んでいてもよい。
【0057】
接着培養における培地にはFGF2が含まれていてもよい。接着培養における培地がFGF2を含む場合、FGF2濃度の上限としては、例えば、100ng/mL以下であり、90ng/mL以下、80ng/mL以下、70ng/mL以下、60ng/mL以下、50ng/mL以下、40ng/mL以下、30ng/mL以下、20ng/mL以下、10ng/mL以下、9ng/mL以下、8ng/mL以下、7ng/mL以下、6ng/mL以下、5ng/mL以下、4ng/mL以下、3ng/mL以下、2ng/mL以下、又は1ng/mL以下が好ましい。また、下限としては0.1ng/mL以上が好ましい。FGF2の存在下で培養することにより、多能性幹細胞の未分化維持及び細胞増殖を促進することができる。
【0058】
接着培養における培地には、ROCK(ロック;Rho-associated kinase;Rho結合キナーゼ)阻害剤が含まれていてもよい。ROCK阻害剤の存在下で培養することにより、多能性幹細胞の細胞凝集塊(スフェロイド)の形成及び成長を促進することができる。
【0059】
ROCK阻害剤は、Rho-キナーゼ(ROCK、Rho-associated protein kinase)のキナーゼ活性を阻害する物質として定義され、例えば、Y-27632(4-[(1R)-1-アミノエチル]-N-ピリジン-4-イルシクロヘキサン-1-カルボキサミド)又はその2塩酸塩(例えば、Ishizaki et al., Mol.Pharmacol.57,976-983(2000);Narumiya et al.,Methods Enzymol.325,273-284(2000)参照)、Fasudil/HA1077(1-(5-イソキノリンスルホニル)ホモピペラジン)又はその2塩酸塩(例えば、Uenata et al.,Nature 389:990-994 (1997)参照)、H-1152((S)-(+)-2-メチル-1-[(4-メチル-5-イソキノリニル)スルホニル]-ヘキサヒドロ-1H-1,4-ジアゼピン)又はその2塩酸塩(例えば、Sasaki et al.,Pharmacol.Ther.93:225-232(2002)参照)、Wf-536((+)-(R)-4-(1-アミノエチル)-N-(4-ピリジル)ベンズアミド1塩酸塩)(例えば、Nakajima et al.,CancerChemother. Pharmacol.52(4):319-324(2003)参照)及びそれらの誘導体、並びにROCKに対するアンチセンス核酸、RNA干渉誘導性核酸(例えば、siRNA)、ドミナントネガティブ変異体、及びそれらの発現ベクターが挙げられる。また、ROCK阻害剤としては他の低分子化合物も知られているので、本発明においてはこのような化合物又はそれらの誘導体も使用できる(例えば、米国特許出願公開第20050209261号、同第20050192304号、同第20040014755号、同第20040002508号、同第20040002507号、同第20030125344号、同第20030087919号、及び国際公開第2003/062227号、同第2003/059913号、同第2003/062225号、同第2002/076976号、同第2004/039796号参照)。本発明では、少なくとも1種のROCK阻害剤が使用され得る。
【0060】
培地がY-27632等のROCK阻害剤を含む場合、ROCK阻害剤の濃度の下限としては、好ましくは0.1μM以上、0.2μM以上、0.5μM以上、1μM以上、2μM以上、3μM以上、4μM以上、5μM以上、6μM以上、7μM以上、8μM以上、9μM以上、又は10μM以上である。ROCK阻害剤の濃度の上限としては、好ましくは200μM以下、150μM以下、100μM以下、90μM以下、80μM以下、70μM以下、60μM以下、50μM以下、40μM以下、30μM以下、20μM以下、又は15μM以下である。
【0061】
本発明における接着培養は、多能性幹細胞をWNT阻害剤の存在下において培養する工程でもよい。WNT阻害剤としては、XAV939、IWR-1―endo、IWR-1―exo、ICG-001、Ant1.4Br、Ant 1.4Cl、Niclosamide、apicularen、bafilomycin、G007-LK、G244-LM、pyrvinium、NSC668036、2,4-diamino-quinazoline、Quercetin、PKF115-584、BC2059、Shizokaol D、Dkk-1などが挙げられる。XAV939などのWNT阻害剤を使用する場合、培地における添加濃度は、特に限定されないが、下限としては、好ましくは1nM以上、10nM以上、0.1μM以上、0.2μM以上、0.5μM以上、1μM以上、2μM以上、3μM以上、4μM以上、5μM以上、6μM以上、7μM以上、8μM以上、9μM以上、10μM以上又は15μM以上である。WNT阻害剤の濃度の上限としては、好ましくは200μM以下、150μM以下、100μM以下、90μM以下、80μM以下、70μM以下、60μM以下、50μM以下、40μM以下、30μM以下、又は25μM以下である。
【0062】
接着培養のための多能性幹細胞は、常法により調製したものを用いることができる。例えば、多能性幹細胞は、上記した維持培養後に、例えば機械的、化学的又は生物学的な方法により剥離し、接着培養のための培地に播種することができる。例えば、EDTA、TryPLETM Select、アキュターゼTM、コラゲナーゼ、ディスパーゼ、トリプシン、トリプシン/EDTA、トリプシン/コラゲナーゼ、ReLeSRTM(STEMCELL)等を細胞剥離液として使用して細胞を剥離することができる。
【0063】
接着培養のための培養容器は特に限定されず、接着培養用プレートなどを使用することができる。培養容器としては、特に限定はされないが、細胞との接着性を向上させるための人工的処理(例えば、細胞外マトリックス等によるコーティング処理)がされている培養容器を使用してもよい。多能性幹細胞の接着培養は、例えば、ビトロネクチン、フィブロネクチン、ラミニン、又はマトリゲル等の細胞接着タンパク質をコートしたプレート上において行うことができる。
【0064】
接着培養を行う際には、多能性幹細胞を、例えば1×10細胞から1×10細胞/mL、好ましくは1×10細胞から1x10細胞/mL、より好ましくは2×10細胞から1×10細胞/mLの細胞密度で培地に播種し、接着培養を行うことができる。
【0065】
接着培養の培養温度は、特に限定されないが、好ましくは36.0℃から38.0℃であり、より好ましくは36.5℃から37.5℃である。COインンキュベータ等を利用して、約1%から10%、好ましくは5%のCO濃度雰囲気下で培養を行うことが好ましい。
【0066】
接着培養の培養期間は特に限定されないが、培養期間の下限は1日以上、2日以上、3日以上、4日以上、5日以上、6日以上、7日以上、8日以上、9日以上、又は10日以上でもよく、培養期間の上限は30日以下、29日以下、28日以下、27日以下、26日以下、25日以下でもよい。接着培養は、例えば、1~7日毎、2~5日毎、3~5日毎、3~4日毎に細胞を継代しながら行ってもよい。接着培養における継代数は特に限定されない。
【0067】
接着培養を行う際には、適当な頻度で培地交換を行うことが好ましい。培地交換の頻度は特に限定されず、細胞種や培養条件により適宜培地交換の頻度を調整することができる。例えば、好ましくは5日に一回以上、4日に一回以上、3日に一回以上、2日に一回以上、又は1日に一回以上の頻度で培地交換作業を行うことができる。培地交換に用いる液体培地としては、上記と同様の液体培地を用いることができる。培地交換の方法は特に限定されない。例えば、好ましくは培養容器から上清をアスピレーターやピペット等で吸引除去し、その後、新鮮な液体培地を穏やかに添加した後、再度培養容器をCOインキュベーター等の培養環境に戻すことで継続して維持培養することができる。
【0068】
継代の方法は特に限定されない。例えば、好ましくは培養容器から上清をアスピレーターやピペット等で吸引除去し、その後、必要に応じて洗浄を行うことができる。洗浄液には、バッファ(PBSバッファを含む)、生理食塩水、又は液体培地(基礎培地が好ましい)を使用すればよい。洗浄後の細胞に対し、例えば機械的、化学的又は生物学的な方法により細胞を剥離し、維持培養を継続するために維持培養用の新鮮培地及び培養容器に播種して維持培養を継続してもよい。継代後の維持培養に用いる液体培地及び培養の条件としては、上記と同様の接着培養における培地及び条件を用いることができる。また剥離の際は、EDTA、TryPLETM Select、アキュターゼTM、コラゲナーゼ、ディスパーゼ、トリプシン、トリプシン/EDTA、トリプシン/コラゲナーゼ、ReLeSRTM等を細胞剥離液として使用して培養基材から剥離又は細胞同士を剥離さてもよいし、セルスクレーパー等を用いて細胞を培養基材から剥離させてもよい。剥離させた細胞は、ピペッティング又はストレーナーを用いて十分に分散させて単離してもよいし、分散させずにコロニー状のまま播種してもよい。
【0069】
(浮遊培養)
本発明においては、多能性幹細胞を培地中において浮遊培養してもよい。浮遊培養とは、細胞を培養皿等の培養容器に非接着の状態で培養することである。浮遊培養の形態は、細胞が培養容器に非接着の状態で培養されていれば、特に限定されない。例えば、細胞をマイクロキャリア等に接着させたものを培養してもよいし、後述するように複数の細胞が互いに接着して一つの塊となった細胞凝集塊の形態で浮遊培養してもよい。また、前記細胞凝集塊の中にコラーゲン等の高分子を混在させることもできる。このように液体培地中で細胞を浮遊させながら培養する浮遊培養は、スケールアップが容易であることから、細胞の大量生産に適していると期待される。
【0070】
浮遊培養における培地は、多能性幹細胞の未分化性を維持できる培地であれば特に限定されないが、例えば、FGF2(Basic fibroblast growth factor-2)、TGF-β1(Transforming growth factor-β1)、Activin A、IGF-1、MCP-1、IL-6、PAI、PEDF、IGFBP-2、LIF(Leukemia inhibitory factor)及びIGFBP-7からなる群から選択される1つ以上を基礎培地に含む培地等が挙げられる。前記例示した因子は、多能性幹細胞の未分化性を維持する性質を有していることが知られている。浮遊培養における培地としては、例えば、StemFit(登録商標)(例えば、StemFit(登録商標)AK02Nなど)(味の素社)、Essential 8培地(ライフテクノロジーズジャパン株式会社)(Thermo Fisher Scientific社)、STEMPRO(登録商標)hESC SFM(ライフテクノロジーズジャパン株式会社)、mTeSR1(Veritas社)、TeSR2(Veritas社)等を使用することができるが、特に限定されない。
また、浮遊細胞における培地には、ペニシリン、ストレプトマイシン及びアンフォテリシンBなどの抗生物質を添加してもよい。また、浮遊培養における培地は、L-アスコルビン酸、インスリン、トランスフェリン、セレン及び炭酸水素ナトリウムからなる群から選択される少なくとも1つを含んでもいてもよく、L-アスコルビン酸、インスリン、トランスフェリン、セレン及び炭酸水素ナトリウムの全てを含んでいてもよい。浮遊培養における培地は、脂肪酸又は脂質、アミノ酸(例えば、非必須アミノ酸)、ビタミン、サイトカイン、抗酸化剤、2-メルカプトエタノール、ピルビン酸、緩衝剤、無機塩類、リン酸化酵素阻害剤等の成分を含有してもよい。
【0071】
浮遊培養における培地にはFGF2が含まれていてもよい。浮遊培養における培地がFGF2を含む場合、FGF2濃度の上限は例えば、100ng/mL以下であり、90ng/mL以下、80ng/mL以下、70ng/mL以下、60ng/mL以下、50ng/mL以下、40ng/mL以下、30ng/mL以下、20ng/mL以下、10ng/mL以下、9ng/mL以下、8ng/mL以下、7ng/mL以下、6ng/mL以下、5ng/mL以下、4ng/mL以下、3ng/mL以下、2ng/mL以下、又は1ng/mL以下が好ましい。また、下限としては例えば、0.1ng/mL以上が好ましい。FGF2の存在下で培養することにより、多能性幹細胞の未分化維持及び細胞増殖を促進することができる。
【0072】
浮遊培養における培地には、ROCK(ロック;Rho-associated kinase;Rho結合キナーゼ)阻害剤が含まれていてもよい。ROCK阻害剤の存在下で培養することにより、多能性幹細胞の細胞凝集塊(スフェロイド)の形成及び成長を促進することができる。ROCK阻害剤についての詳細な説明は前述した通りである。
【0073】
培地がY-27632等のROCK阻害剤を含む場合、ROCK阻害剤の濃度の下限としては、好ましくは0.1μM以上、0.2μM以上、0.5μM以上、1μM以上、2μM以上、3μM以上、4μM以上、5μM以上、6μM以上、7μM以上、8μM以上、9μM以上、又は10μM以上である。ROCK阻害剤の濃度の上限としては、好ましくは200μM以下、150μM以下、100μM以下、90μM以下、80μM以下、70μM以下、60μM以下、50μM以下、40μM以下、30μM以下、20μM以下、又は15μM以下である。
【0074】
本発明における浮遊培養は、多能性幹細胞をWNT阻害剤の存在下において培養する工程でもよい。WNT阻害剤としては、XAV939、IWR-1―endo、IWR-1―exo、ICG-001、Ant1.4Br、Ant 1.4Cl、Niclosamide、apicularen、bafilomycin、G007-LK、G244-LM、pyrvinium、NSC668036、2,4-diamino-quinazoline、Quercetin、PKF115-584、BC2059、Shizokaol D、Dkk-1などが挙げられる。XAV939などのWNT阻害剤を使用する場合、培地における添加濃度は、特に限定されないが、下限としては、好ましくは0.1μM以上、0.2μM以上、0.5μM以上、1μM以上、2μM以上、3μM以上、4μM以上、5μM以上、6μM以上、7μM以上、8μM以上、9μM以上、10μM以上又は15μM以上である。WNT阻害剤の濃度の上限としては、好ましくは200μM以下、150μM以下、100μM以下、90μM以下、80μM以下、70μM以下、60μM以下、50μM以下、40μM以下、30μM以下、又は25μM以下である。
【0075】
浮遊培養のための多能性幹細胞は、常法により調製したものを用いることができる。例えば、多能性幹細胞は、上記した維持培養後に、例えば機械的、化学的又は生物学的な方法により剥離し、浮遊培養のための培地に播種することができる。例えば、EDTA、TryPLETM Select、アキュターゼTM、コラゲナーゼ、ディスパーゼ、トリプシン、トリプシン/EDTA、トリプシン/コラゲナーゼ、ReLeSRTM(STEMCELL)等を細胞剥離液として使用して細胞を剥離することができる。十分に分散させてから浮遊培養に用いる。細胞を分散させるためにストレーナーを通過させて単一細胞にまで分散させることができる。
【0076】
浮遊培養のための培養容器は特に限定されず、浮遊培養用のプレート、又はバイオリアクターなどを使用することができる。培養容器としては、特に限定はされないが、細胞との接着性を向上させるための人工的処理(例えば、細胞外マトリックス等によるコーティング処理)がされていない培養容器を使用してもよいし、人工的に接着を抑制する処理(例えば、ポリヒドロキシエチルメタクリル酸によるコーティング処理)がなされた培養容器を使用してもよい。また、培養容器の形状は特に限定されないが、例えば、ディッシュ状、フラスコ状、ウェル状、バッグ状、スピナーフラスコ状等の形状の培養容器が挙げられる。
【0077】
浮遊培養は、静置培養であってもよいし、液体培地が流動する条件での培養であってもよい。静置培養を行う場合、例えば、培地の粘性等を利用してもよく、凹凸を有するマイクロウェル等を用いてもよい。液体培地が流動する条件での培養としては、スピナー等を使用して液体培地を懸濁する条件での培養であってもよいが、細胞の凝集を促進するように液体培地が流動する条件での培養が好ましい。細胞の凝集を促進するように液体培地が流動する条件での培養としては、例えば、旋回流、揺動流等の流れによる応力(遠心力、求心力)により細胞が一点に集まるように液体培地が流動する条件での培養、及び直線的な往復運動により液体培地が流動する条件での培養が挙げられ、旋回流及び/又は揺動流を利用した培養が特に好ましい。
【0078】
旋回培養(振盪培養)は、液体培地と細胞を収容した培養容器を概ね水平面に沿って円、楕円、扁平した円、扁平した楕円等の閉じた軌道を描くように旋回させることにより行う。旋回速度は特に限定されないが、好ましくは200rpm以下、150rpm以下、120rpm以下、115rpm以下、110rpm以下、105rpm以下、100rpm以下、95rpm以下、又は90rpm以下でもよい。旋回速度の下限は特に限定されず、好ましくは1rpm以上、10rpm以上、50rpm以上、60rpm以上、70rpm以上、80rpm以上、又は90rpm以上でもよい。旋回速度がこの範囲であるとき、適切な大きさの細胞凝集塊が形成されやすく、好適に細胞が増殖できる。
【0079】
旋回培養の際の旋回幅は特に限定されないが、好ましくは1mm以上、10mm以上、20mm以上、又は25mm以上でもよい。旋回幅の上限は特に限定されず、好ましくは200mm以下、100mm以下、50mm以下、30mm以下、又は25mm以下でもよい。旋回培養の際の回転半径もまた特に限定されないが、好ましくは旋回幅が前記の範囲となるように設定される。回転半径は好ましくは5mm以上、又は10mm以上でもよい。回転半径の上限は特に前提されず、好ましくは100mm以下、又は50mm以下でもよい。旋回幅がこの範囲であるとき、適切な大きさの細胞凝集塊が形成されやすく、好適に細胞が増殖できる。
【0080】
揺動培養は、揺動(ロッキング)撹拌により液体培地を流動させながら行う培養である。揺動培養は、液体培地と細胞を収容した培養容器を概ね水平面に垂直な平面内で揺動させることにより行う。揺動速度は特に限定されないが、例えば1分間に2回から50回、好ましくは4回から25回(一往復を1回とする)揺動させることができる。揺動角度は特に限定されないが、例えば0.1°から20°、より好ましくは2°から10°とすることができる。
更に、上記のような旋回と揺動とを組み合わせた運動により撹拌しながら培養することもできる。
【0081】
スピナーフラスコ状の培養容器を用いた培養は、培養容器の中に攪拌翼を使用して、液体培地を攪拌しながら行う培養である。回転数や培地量は特に限定されない。市販のスピナーフラスコ状の培養容器であれば、メーカー推奨の培養液量を好適に使用することができる。回転数は例えば10rpm以上、300rpm以下とすることができるが、特に限定されない。
【0082】
浮遊培養を行う際には、培地中の多能性幹細胞の播種密度(浮遊培養の開始時の細胞密度)は適宜調整することができる。前記播種密度の下限としては、例えば1×10細胞/mL以上、2×10細胞/mL以上、又は1×10細胞/mL以上が好ましく、上限としては例えば1×10細胞/mL以下、又は1×10細胞/mL以下が好ましい。播種密度がこの範囲であるとき、適切な大きさの細胞凝集塊が形成されやすく、好適に細胞が増殖できる。
【0083】
浮遊培養の際の培地量は使用する培養容器によって適宜調整することができる。例えば12ウェルプレート(1ウェルあたりの平面視でのウェル底面の面積が3.5cm)を使用する場合は、培地量は、0.5mL/ウェル以上、1.5mL/ウェル以下とすることができ、より好ましくは1mL/ウェルとすることができる。例えば6ウェルプレート(1ウェルあたりの平面視でのウェル底面の面積が9.6cm)を使用する場合は、培地量の下限は好ましくは1.5mL/ウェル以上、2mL/ウェル以上、又は3mL/ウェル以上でもよく、培地量の上限は好ましくは6.0mL/ウェル以下、5mL/ウェル以下、又は4mL/ウェル以下でもよい。例えば125mL三角フラスコ(容量が125mLの三角フラスコ)を使用する場合は、培地量の下限は好ましくは10mL/容器以上、又は30mL/容器以上でもよく培地量の上限は、好ましくは50mL/容器以下でもよい。例えば500mL三角フラスコ(容量が500mLの三角フラスコ)を使用する場合は、培地量の下限は好ましくは100mL/容器以上、又は120mL/容器以上でもよく、培地量の上限は好ましくは150mL/容器以下、又は125mL/容器以下でもよい。例えば1000mL三角フラスコ(容量が1000mLの三角フラスコ)を使用する場合は、培地量の下限は好ましくは250mL/容器以上、又は290mL/容器以上でもよく、培地量の上限は好ましくは350mL/容器以下、又は310mL/容器以下でもよい。例えば2000mL三角フラスコ(容量が2000mLの三角フラスコ)の場合は、培地量の下限は好ましくは500mL/容器以上、又は600mL/容器以上でもよく、培地量の上限は好ましくは1000mL/容器以下、又は700mL/容器以下でもよい。例えば3000mL三角フラスコ(容量が3000mLの三角フラスコ)の場合は、培地量の下限は好ましくは1000mL/容器以上、又は1500mL/容器以上とすることができ、培地量の上限は好ましくは2000mL/容器以下、又は1600mL/容器以下でもよい。例えば2L培養バッグ(容量が2Lのディスポーザブル培養バッグ)の場合は、培地量の下限は好ましくは100mL/バッグ以上、又は1000mL/バッグ以上でもよく、培地量の上限は好ましくは2000mL/バッグ以下、又は1100mL/バッグ以下でもよい。例えば10L培養バッグ(容量が10Lのディスポーザブル培養バッグ)の場合は、培地量の下限は好ましくは500mL/バッグ以上、又は5L/バッグ以上でもよく、培地量の上限は好ましくは10L/バッグ以下、又は6L/バッグ以下でもよい。例えば、20L培養バッグ(容量が20Lのディスポーザブル培養バッグ)の場合は、培地量の下限は好ましくは1L/バッグ以上、又は10L/バッグ以上でもよく、培地量の上限は好ましくは20L/バッグ以下、又は11L/バッグ以下でもよい。例えば50L培養バッグ(容量が50Lのディスポーザブル培養バッグ)の場合は、培地量の下限は好ましくは1L/バッグ以上、又は25L/バッグ以上でもよく、培地量の上限は好ましくは50L/バッグ以下、又は30L/バッグ以下でもよい。培養液量がこの範囲であるとき、適切な大きさの細胞凝集塊が形成されやすく、好適に細胞が増殖できる。
【0084】
使用する培養容器の容量は適宜選択することができ特に限定されないが、液体培地を収容する部分の底面を平面視したときの面積の下限として、好ましくは0.32cm以上、0.65cm以上、1.9cm以上、3.0cm以上、3.5cm以上、9.0cm以上、又は9.6cm以上でもよい。前記面積の上限として、好ましくは1000cm以下、500cm以下、300cm以下、150cm以下、75cm以下、55cm以下、25cm以下、又は21cm以下でもよい。
【0085】
浮遊培養の培養温度は、特に限定されないが、好ましくは36.0℃から38.0℃であり、より好ましくは36.5℃から37.5℃である。COインンキュベータ等を利用して、約1%から10%、好ましくは5%のCO濃度雰囲気下で培養を行うことが好ましい。
【0086】
浮遊培養の培養期間は特に限定されないが、培養期間の下限は1日以上、2日以上、3日以上、4日以上、5日以上、6日以上、7日以上、8日以上、9日以上、又は10日以上でもよく、培養期間の上限は30日以下、29日以下、28日以下、27日以下、26日以下、25日以下でもよい、
【0087】
本発明において、浮遊培養する工程は、好ましくは、細胞凝集塊を形成する工程を含む。細胞凝集塊とは、複数の細胞が三次元的に凝集して形成される塊状の細胞集団であって、スフェロイドとも呼ばれる。多能性幹細胞の細胞凝集塊は、多能性幹細胞の細胞集団から形成される。また、細胞凝集塊は通常、略球状を呈し、一般的には30μmから2000μm程度の直径を有する。
本発明においては、上記した浮遊培養により、培養液中に、多能性幹細胞の細胞凝集塊を形成することができる。
【0088】
本発明の方法により作製される細胞凝集塊の寸法は特に限定されないが、顕微鏡で観察したとき、観察像での最も幅の広い部分の寸法の上限としては、例えば1000μm以下、900μm以下、800μm以下、700μm以下、600μm以下、500μm以下、400μm以下、又は300μm以下が好ましくい。前記寸法の下限としては、例えば30μm以上、40μm以上、50μm以上、60μm以上、70μm以上、80μm以上、90μm以上、又は100μm以上が好ましい。このような寸法範囲の細胞凝集塊は、内部の細胞にも酸素や栄養成分が供給され易く細胞の増殖環境として好ましい。
【0089】
本発明により形成される細胞凝集塊の集団は、前記集団を構成する細胞凝集塊のうち重量基準で、例えば10%以上、20%以上、30%以上、40%以上、50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、又は90%以上が上記の範囲の寸法を有することができる。上記の範囲の寸法の細胞凝集塊を20%以上含む細胞凝集塊の集団では、個々の細胞凝集塊において、内部の細胞にも酸素や栄養成分が供給され易く細胞の増殖環境として好ましい。
【0090】
また、本発明により形成される細胞凝集塊は、前記細胞凝集塊を構成する細胞のうち生細胞の割合(生存率)が、例えば50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、又は90%以上であることが好ましい。上記の範囲の生存率の細胞集団は、細胞の増殖に好ましい状態である。
【0091】
浮遊培養を行う際には、適当な頻度で培地交換を行うことが好ましい。培地交換の頻度は特に限定されず、細胞種や培養条件により異なるが、好ましくは5日に一回以上、4日に一回以上、3日に一回以上、2日に一回以上、又は1日に一回以上の頻度で培地交換作業を行うことができる。この頻度の培地交換は、本発明に使用したような多能性幹細胞の細胞凝集塊を培養する際に特に好適である。培地交換に用いる液体培地としては、上記と同様の液体培地を用いることができ、培養の条件としては上記と同様の条件を用いることができる。培地交換の方法は特に限定されない。例えば、好ましくは細胞凝集塊を含む培養液を遠沈管に全量回収し、遠心分離又は静置状態で5分程度置き、沈降した細胞凝集塊を残して上清を除去し、その後、新鮮な液体培地を添加し、穏やかに細胞凝集塊を分散させた後、再度プレート等の培養容器に分散した細胞を戻すことで細胞凝集塊を継続して培養することができる。
【0092】
浮遊培養を行う際には、適当な頻度で継代を行うことが好ましい。継代の頻度は特に限定されないが、好ましくは8日に一回以上、7日に一回以上、6日に一回以上、5日に一回以上、4日に一回以上、又は3日に一回以上の頻度で継代作業を行うことができる。この頻度の継代は、本発明に使用したような多能性幹細胞の細胞凝集塊を培養する際に特に好適である。継代の方法は特に限定されない。例えば、好ましくは細胞凝集塊を含む培養液を遠沈管に全量回収し、遠心分離又は静置状態で5分程度置き、沈降した細胞凝集塊を残して上清を除去し、細胞凝集塊を回収することができる。また、回収した細胞凝集塊を必要に応じて洗浄することができる。洗浄方法は特に限定されないが、例えば、遠沈管に回収した細胞凝集塊に対して洗浄液を加え、再度上記の方法で細胞凝集塊を沈降させ、上清を除去することによって細胞凝集塊を洗浄することができる。洗浄回数は限定されない。洗浄液には、バッファ(PBSバッファを含む)、生理食塩水、又は液体培地(基礎培地が好ましい)を使用することができる。回収した細胞凝集塊に対して、例えば機械的、化学的又は生物学的な方法により単離し、浮遊培養のための新鮮培地に播種して浮遊培養を再開することができる。継代後の浮遊培養に用いる液体培地及び培養の条件としては上記と同様の液体培地及び条件を用いることができる。単離に用いる剥離剤として例えば、EDTA、TryPLETM Select、アキュターゼTM、コラゲナーゼ、ディスパーゼ、トリプシン、トリプシン/EDTA、トリプシン/コラゲナーゼ、ReLeSRTM等を含む細胞剥離液を使用して培養基材から細胞を剥離又は細胞同士を剥離させ、ピペッティングやストレーナーを用いて十分に分散させて、単離した状態で細胞を播種することができる。
【0093】
浮遊培養後、細胞は培養液中に浮遊した状態で存在する。したがって、細胞の回収は、静置状態又は遠心分離により上清の液体成分を除去することで達成できる。また、細胞の回収方法としてはフィルターや中空糸分離膜等を選択することもできる。静置状態で液体成分を除去する場合、培養液の入った容器を静置状態5分程度置き、沈降した細胞や細胞凝集塊を残して上清を除去すればよい。また遠心分離は、遠心力によって細胞がダメージを受けない回転速度と処理時間で行えばよい。例えば、回転速度の下限は、細胞を沈降できれば特に限定はされないが、例えば100rpm以上、500rpm以上、800rpm以上、又は1000rpm以上とすることができる。一方、上限は細胞が遠心力によるダメージを受けない、又は受けにくい速度であればよく、例えば1400rpm以下、1500rpm以下、又は1600rpm以下とすることができる。また処理時間の下限は、上記回転速度により細胞を沈降できる時間であれば特に限定はされないが、例えば10秒以上、30秒以上、1分以上、3分以上、又は5分以上とすることができる。また、処理時間の上限は、上記回転により細胞がダメージを受けない、又は受けにくい時間であればよく、例えば30秒以下、6分以下、8分以下、又は10分以下とすることができる。回収した細胞は、必要に応じて洗浄することができる。洗浄方法は、特に限定されない。例えば前述の浮遊培養工程における「継代方法」に記載の洗浄方法と同様に行ってもよい。洗浄液には、バッファ(PBSバッファを含む)、生理食塩水、又は液体培地(基礎培地が好ましい)を使用することができる。
【0094】
本発明においては、上記した浮遊培養により、培養液中に、多能性幹細胞の細胞凝集塊を形成することができる。
【0095】
細胞凝集塊を構成する多能性幹細胞は、好ましくは未分化性を保持している。細胞の未分化性は、未分化マーカーの発現状態を解析することにより確認することができる。未分化マーカーの発現状態の解析は、例えば、定量的リアルタイムPCR解析、又はフローサイトメトリー解析等により行うことができる。未分化マーカーとしては、例えば、Oct4、Sox2、Nanog、SSEA-3、SSEA-4、TRA-1-60、TRA-1-81、REX-1、LIN28、LEFTB、GDF3、ZFP42、FGF4、ESG1、DPPA2、TERT、KLF4、c-Myc等が挙げられるが、これらに限定されない。未分化マーカーとしては、上記の中でも、Oct4、Sox2、及びNanogが好ましい。なお、未分化マーカーは多能性幹細胞マーカーと同義であり、両者は互換的に使用することができる。
【0096】
細胞凝集塊において、Oct4が陽性を呈する細胞の比率は、好ましくは90%以上であり、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、又は95%以上でもよい。
細胞凝集塊において、Sox2が陽性を呈する細胞の比率は、好ましくは90%以上であり、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、又は99%以上でもよい。
細胞凝集塊において、Nanogが陽性を呈する細胞の比率は、好ましくは90%以上であり、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、又は96%以上でもよい。
【0097】
本発明の方法では、以下に示す(a)及び(b)の特性を有する細胞集団を選別する工程を含んでもよい。
(a)前記細胞集団において、β-Actin遺伝子の発現量に対するLEF1遺伝子の相対発現量が5.5×10-4以下であり、
(b)前記細胞集団において、LEF1が陽性を呈する多能性幹細胞の比率が55%以下である。
前記(a)及び(b)の特性を有する細胞集団を選別するとは、複数の細胞集団の中から前記(a)及び(b)の特性を有する細胞集団を識別して取得することであってもよく、ある細胞集団から前記(a)及び(b)の特性を有する細胞集団を調製することであってもよい。複数の細胞集団の中から前記(a)及び(b)の特性を有する細胞集団を識別して取得する場合、前記複数の細胞集団のそれぞれについて(a)及び(b)の特性を有するかを確認し、(a)及び(b)の特性を有する細胞集団を取得すればよい。ある細胞集団から前記(a)及び(b)の特性を有する細胞集団を調製する方法としては、例えばFACS、セルソーター、磁気ビーズによる分取などの物理的な方法、及び適切な培養条件によって上記指標を満たさない細胞を淘汰し、上記指標を満たす細胞集団を純化する化学的な方法を挙げることができるが、その方法は特に限定されず、培養方法等に応じて適宜選択すればよい。例えば、FACS、セルソーター、磁気ビーズ等の物理的な方法では、抗LEF1抗体を用いてLEF1を発現する細胞を分取することができる。また、(a)及び(b)の指標を満たさない細胞を淘汰する培養条件としては、上記で説明した培養条件が挙げられる。より具体的には、多能幹細胞の未分化性を維持する因子の存在下で細胞集団を培養してもよい。そのような因子としては、例えば、FGF2、ROCK阻害剤、WNT阻害剤等が挙げられる。これらの因子は、培地中の濃度が上記と同様の濃度となるように培地中に添加することができる。
なお、上記選別の前に、上記特性を指標として、多能性幹細胞を含む細胞集団を識別する工程を含んでもよい。
【0098】
上記(a)及び(b)の特性を有する細胞集団を選別するタイミングは、特に限定されないが、例えば、維持培養前、維持培養の途中、維持培養後、接着培養前、接着培養の途中、接着培養後、浮遊培養前、浮遊培養の途中、浮遊培養後、細胞集団の回収前、細胞集団の回収後、分化誘導前、細胞の凍結保存ストック作製前等を挙げることができる。
【0099】
本発明はさらに、
多能性幹細胞を含む細胞集団を培養する工程と、
前記細胞集団が、前記(a)及び(b)の特性を有する細胞集団であるかを確認する工程と、
前記(a)及び(b)の特性を有する細胞集団であることが確認された前記細胞集団を取得する工程と、
を含む、多能性幹細胞を含む細胞集団の製造方法に関する。
【0100】
多能性幹細胞を含む細胞集団を培養する工程は、上記と同様に行うことができる。例えば、多能性細胞を含む集団を培養する工程は、多能幹細胞の未分化性を維持する因子の存在下で細胞集団を培養することができる。そのような因子としては、例えば、FGF2、ROCK阻害剤、WNT阻害剤等が挙げられる。これらの因子は、培地中の濃度が上記と同様の濃度となるように培地中に添加することができる。
【0101】
多能性幹細胞を含む細胞集団が、前記(a)及び(b)の特性を有する細胞集団であるかを確認する工程は、上記と同様に定量的リアルタイムPCR及びフローサイトメトリー解析により行うことができる。
前記(a)及び(b)の特性を有する細胞集団は、分化能の高い細胞集団であるといえる。そのため、(a)及び(b)の特性を有することが確認された細胞集団を取得することにより、分化能の高い多能性幹細胞を含む細胞集団を得ることができる。
【0102】
[多能性幹細胞の分化能をモニタリングする方法]
本発明はさらに、以下に示す(a)及び(b)の特性を指標として、多能性幹細胞を含む細胞集団の分化能をモニタリングする方法に関する。
(a)前記細胞集団において、β-Actin遺伝子の発現量に対するLEF1遺伝子の相対発現量が5.5×10-4以下であり、
(b)前記細胞集団において、LEF1が陽性を呈する多能性幹細胞の比率が55%以下である。
前記モニタリングが必要な工程としては、例えば、培養する工程、培養によって取得した細胞集団を凍結保存する工程を挙げることができる。
【0103】
培養する工程においては、指標を経時的に測定することで、多能性幹細胞を含む細胞集団の分化能を迅速に把握かつ予測することができる。例えば、培養中に、培養細胞の一部を採取して、上記(a)及び(b)の指標について調査することができる。上記指標を満たす多能性幹細胞を含む細胞集団においては、前記細胞集団の分化能が高いことが分かる。一方、上記指標から値が逸脱した培養状態が継続している場合には、多能性幹細胞を含む細胞集団の分化能が低下していることが予測できる。分化能が低下しつつあることを指標から読み取った場合には、培養条件(培地または添加剤の追加や変更など)を必要に応じて適切に変更することによって、多能性幹細胞を含む細胞集団の分化能を向上させることができる。例えば、多能幹細胞の分化能を向上させるために、未分化性を維持する因子の存在下で多能性幹細胞を培養してもよい。そのような因子としては、例えば、FGF2、ROCK阻害剤、WNT阻害剤等が挙げられる。これらの因子は、培地中の濃度が上記と同様の濃度となるように培地中に添加することができる。なお、培養の初期段階においては、その工程の最終段階において前記指標をみたすように培養条件(播種密度、培地、添加剤など)を設計して、少なくとも最終段階においては、上記指標を満たすことが出来ればよい。
【0104】
また、培養の最終段階において上記指標を満たさない場合には、例えば抗LEF1抗体を用いたセルソーティング技術等を利用することによって、上記指標を満たす多能性幹細胞を含む細胞集団を選別することができる。
【0105】
本発明は、また、以下に示す(a)及び(b)の特性を指標として、多能性幹細胞を含む細胞集団の分化能を評価する方法に関する。
(a)前記細胞集団において、β-Actin遺伝子の発現量に対するLEF1遺伝子の相対発現量が5.5×10-4以下であり、
(b)前記細胞集団において、LEF1が陽性を呈する多能性幹細胞の比率が55%以下である。
【0106】
例えば、評価対象の細胞集団について、前記(a)及び(b)の指標を確認し、前記(a)及び(b)の指標を満たす場合には、前記細胞集団は分化能が高いと、評価することができる。一方。前記(a)及び(b)の指標を満たさない場合には、前記細胞集団は分化能が低いと、評価することができる。
評価対象とする細胞集団としては、例えば、後述の体細胞の製造御方法に用いる細胞集団が挙げられる。
【0107】
本発明はまた、以下に示す(a)及び(b)の特性を指標として、多能性幹細胞を含む細胞集団の未分化性をモニタリングする方法に関する。
(a)前記細胞集団において、β-Actin遺伝子の発現量に対するLEF1遺伝子の相対発現量が5.5×10-4以下であり、
(b)前記細胞集団において、LEF1が陽性を呈する多能性幹細胞の比率が55%以下である。
【0108】
本発明はまた、以下に示す(a)及び(b)の特性を指標として、多能性幹細胞を含む細胞集団の未分化性を評価する方法に関する。
(a)前記細胞集団において、β-Actin遺伝子の発現量に対するLEF1遺伝子の相対発現量が5.5×10-4以下であり、
(b)前記細胞集団において、LEF1が陽性を呈する多能性幹細胞の比率が55%以下である。
【0109】
[体細胞の製造方法]
本発明は、本発明の細胞集団を、分化誘導因子の存在下で培養し体細胞へと分化させることを含む、体細胞の製造方法に関する。
【0110】
本発明で使用する分化誘導因子としては、例えば、TGFβシグナルに作用する物質、WNTシグナルに作用する物質、ヘッジホッグシグナルに作用する物質、BMPシグナルに作用する物質、並びにNodal/アクチビンシグナルに作用する物質が挙げられ、具体的には国際公開第2016/063986号、国際公開第2012/020845号、並びに国際公開第2016/060260号に記載されている分化誘導因子を用いることができる。
【0111】
また、本発明の多能性幹細胞は、未分化性を維持していることから、所望の体細胞に効率よく分化誘導することができる。多能性幹細胞から所望の細胞への分化誘導のためには、任意の分化誘導培地を使用することができる。分化誘導培地としては、例えば、神経分化培地、骨芽細胞分化培地、心筋細胞分化培地、脂肪細胞分化培地、腸上皮細胞分化培地等を使用することができるが、特に限定されない。分化誘導培地としては、外胚葉分化培地、中胚葉分化培地、又は内胚葉分化培地を使用することができる。本発明の多能性幹細胞を、所望の体細胞への分化誘導に適した分化培地を用いて培養することにより、所望の体細胞を調製することができる。
【0112】
多能性幹細胞を内胚葉系細胞に分化誘導させることを意図する場合には、例えば、D‘Amour et al.Production of pancreatic hormone-expressing endocrine cells from human embryonic stem cells.Nat Biotechnol. 2006 Nov;24(11):1392-401に記載されている方法を使用することができ、ヒトES細胞をWNT3aとアクチビンAを含む培地中で培養することで内胚葉系細胞に分化誘導できることが示されている。
【0113】
多能性幹細胞を中胚葉系細胞に分化誘導させることを意図する場合には、例えば、特表2013-530680号公報に記載されている方法を使用することができる。特表2013-530680号公報には、(i)アクチビンAおよびWNTを含む培地中でヒト多能性幹細胞を培養する工程、および(ii)BMPおよびWNTもしくはWNTの機能等価物を含む培地中で、工程(i)で得られた細胞を培養する工程を含む、ヒト多能性幹細胞から中間中胚葉系細胞の製造方法が記載されている。また、Albert Q Lam et al,J Am Soc Nephrol 25:1211-12225,2015には、ヒト多能性幹細胞を、GSK3β阻害剤であるCHIR99021で処理した後に、FGF2及びレチノイン酸で処理することにより効率的に中胚葉系細胞に分化誘導できることが記載されている。本発明においても、上記文献に記載されている分化誘導因子を用いて、多能性幹細胞を中胚葉系細胞に分化誘導させることができる。
【0114】
多能性幹細胞を外胚葉系細胞に分化誘導させることを意図する場合には、例えば、BMP阻害剤(Noggin等)及びTGFβ/アクチビン阻害剤を含む培地中で多能性幹細胞を培養する方法(Chambers SM.et al.,Nat Biotechnol.27,275-280(2009))、BMP阻害剤(Noggin等)及びNodal/アクチビン阻害剤を含む培地中で多能性幹細胞を培養する方法(Beata Surnacz et al.,Stem Cells,2012;30:1875-1884)を採用することができる。
【0115】
分化誘導の培養条件は、動物細胞を培養できる条件であれば特に限定されないが、例えば、上記多様性幹細胞の維持培養と同様の条件を用いることができる。分化誘導の培養温度は、特に限定されないが、好ましくは36.0℃から38.0℃であり、より好ましくは36.5℃から37.5℃である。COインンキュベータ等を利用して、約1%から10%、好ましくは5%のCO濃度雰囲気下で培養を行うことが好ましい。
【0116】
内胚葉系細胞は、消化管、肺、甲状腺、膵臓、肝臓などの器官の組織、消化管に開口する分泌腺の細胞、腹膜、胸膜、喉頭、耳管、気管、気管支、尿路(膀胱、尿道の大部分、尿管の一部)などへと分化する能力を有し、一般的に、胚体内胚葉(DE)と言われることがある。多能性幹細胞から内胚葉系細胞への分化は、内胚葉系細胞に特異的な遺伝子の発現量を測定することにより確認することができる。内胚葉系細胞に特異的な遺伝子としては、例えば、SOX17、FOXA2、CXCR4、AFP、GATA4、及びEOMES等を挙げることができる。
分化誘導により得られる内胚葉系細胞におけるSOX17の発現量は、ハウスキーピング遺伝子であるACTB(β-Actin)に対する相対遺伝子発現量として、1.0×10-4以上、1.0×10-3以上、又は1.0×10-2以上であることが好ましい。
分化誘導により得られる内胚葉系細胞におけるFOXA2の発現量は、ハウスキーピング遺伝子であるACTB(β-Actin)に対する相対遺伝子発現量として、1.0×10-5以上、1.0×10-4以上、又は1.0×10-3以上であることが好ましい。
分化誘導により得られる内胚葉系細胞におけるCXCR4の発現量は、ハウスキーピング遺伝子であるACTB(β-Actin)に対する相対遺伝子発現量として、1.0×10-3以上、1.0×10-3以上、又は1.0×10-1以上であることが好ましい。
【0117】
中胚葉系細胞は、体腔及びそれを裏打ちする中皮、筋肉、骨格、皮膚真皮、結合組織、心臓、血管(血管内皮も含む)、血液(血液細胞も含む)、リンパ管、脾臓、腎臓、尿管、性腺(精巣、子宮、性腺上皮)などへと分化する。中胚葉系細胞に特異的な遺伝子としては、例えば、MESP1、MESP2、FOXF1、BRACHYURY、HAND1、EVX1、IRX3、CDX2、CXCR4、TBX6、MIXL1、ISL1、SNAI2、FOXC1、VEGFR2、及びPDGFRα等を挙げることができる。
分化誘導により得られる中胚葉系細胞におけるCDX2の発現量は、ハウスキーピング遺伝子であるACTB(β-Actin)に対する相対遺伝子発現量として、1.0×10-5以上、1.0×10-4以上、又は1.0×10-3以上であることが好ましい。
分化誘導により得られる中胚葉系細胞におけるCXCR4の発現量は、ハウスキーピング遺伝子であるACTB(β-Actin)に対する相対遺伝子発現量として、1.0×10-5以上、1.0×10-4以上、又は1.0×10-3以上であることが好ましい。
分化誘導により得られる中胚葉系細胞におけるVEGFR2の発現量は、ハウスキーピング遺伝子であるACTB(β-Actin)に対する相対遺伝子発現量として、1.0×10-4以上、1.0×10-3以上、又は1.0×10-2以上であることが好ましい。
分化誘導により得られる中胚葉系細胞におけるPDGFRαの発現量は、ハウスキーピング遺伝子であるACTB(β-Actin)に対する相対遺伝子発現量として、1.0×10-4以上、1.0×10-3以上、又は1.0×10-2以上であることが好ましい。
【0118】
外胚葉系細胞は、皮膚の表皮や男性の尿道末端部の上皮、毛髪、爪、皮膚腺(乳腺、汗腺を含む)、感覚器(口腔、咽頭、鼻、直腸の末端部の上皮を含む、唾液腺)水晶体などを形成する。外胚葉系細胞の一部は発生過程で溝状に陥入して神経管を形成し、脳や脊髄などの中枢神経系のニューロンやメラノサイトなどの元にもなる。また末梢神経系も形成する。外胚葉系細胞に特異的な遺伝子としては、例えば、FGF5、OTX2、SOX1、NESTIN、及びPAX6等を挙げることができる。
分化誘導により得られる外胚葉系細胞におけるPAX6の発現量は、ハウスキーピング遺伝子であるACTB(β-Actin)に対する相対遺伝子発現量として、1.0×10-6以上、1.0×10-5以上、又は3.8×10-5以上であることが好ましい。
分化誘導により得られる外胚葉系細胞におけるSOX1の発現量は、ハウスキーピング遺伝子であるACTB(β-Actin)に対する相対遺伝子発現量として、1.0×10-4以上、1.0×10-3以上、又は1.0×10-2以上であることが好ましい。
分化誘導により得られる外胚葉系細胞におけるNESTINの発現量は、ハウスキーピング遺伝子であるACTB(β-Actin)に対する相対遺伝子発現量として、1.0×10-3以上、1.0×10-2以上、又は5.0×10-2以上であることが好ましい。
【0119】
本発明における体細胞は、前記本発明の多能性幹細胞を含む細胞集団から分化誘導することができる。体細胞の種類は、生体内に存在し得る体細胞であれば特に限定されないが、例えば、体性幹細胞(骨髄、脂肪組織、歯髄、胎盤、卵膜、臍帯血、羊膜、絨毛膜等に由来する間葉系幹細胞、神経幹細胞等)、神経細胞、グリア細胞、オリゴデンドロサイト、シュワン細胞、心筋細胞、心筋前駆細胞、肝細胞、肝臓前駆細胞、α細胞、β細胞、繊維芽細胞、軟骨細胞、角膜細胞、血管内皮細胞、血管内皮前駆細胞、周細胞、骨格筋細胞、巨核球、造血幹細胞、気道上皮細胞、生殖細胞、樹状細胞、好酸球、肥満細胞、T細胞、エリスロポエチン産生細胞、腸管上皮、肺胞上皮細胞、腎臓細胞等が例示できる。体細胞は、前記のような細胞に遺伝子導入された形態、または前記のような細胞においてゲノム上の対象遺伝子などがノックダウン若しくはノックアウトされた形態でもよい。
【0120】
本発明はまた、
多能性幹細胞を含む細胞集団を培養する工程と、
前記細胞集団が、以下に示す(a)及び(b)の特性を有する細胞集団であるかを確認する工程と、
前記(a)及び(b)の特性を有する細胞集団であることが確認された前記細胞集団を、分化誘導因子の存在下で培養する工程と、
を含む、体細胞の製造方法に関する。
(a)前記細胞集団において、β-Actin遺伝子の発現量に対するLEF1遺伝子の相対発現量が5.5×10-4以下であり、
(b)前記細胞集団において、LEF1が陽性を呈する細胞の比率が55%以下である。
【0121】
多能性幹細胞を含む細胞集団を培養する工程は、上記と同様の培地及び培養条件を用いて行うことができる。
前記細胞集団が、前記(a)及び(b)の特性を有する細胞集団であるかを確認する工程は、上記と同様に定量的リアルタイムPCR及びフローサイトメトリー解析により行うことができる。
前記(a)及び(b)の特性を有する細胞集団であることが確認された細胞集団を、分化誘導因子の存在下で培養する工程は、分化誘導する体細胞の種類に応じて、上記のような分化誘導因子を用いて行うことができる。
【0122】
以下の実施例にて本発明を具体的に説明するが、本発明は実施例によって限定されるものではない。
【実施例
【0123】
<比較例1>
ヒトiPS細胞201B7株(京都大学iPS細胞研究所)をVitronectin(サーモフィッシャーサイエンティフィック社)コートした細胞培養用ディッシュ上にて、37℃、5%CO雰囲気下で維持培養して調製した。維持培養中の培地はStemFit(登録商標)AK02N(味の素社)培地を使用した。維持培養した細胞をAccutase(イノベーティブセルテクノロジーズ社)で3分間から5分間処理してディッシュから剥離し、ピペッティングによって単細胞まで分散させた。この細胞を最終濃度10μMのY-27632を含むStemFit(登録商標)AK02N培地で懸濁し、その一部をトリパンブルー染色して生細胞数を測定した。最終濃度10μMのY-27632を含むStemFit(登録商標)AK02N培地を用いて、1mLあたり2×10個の細胞を含むように細胞懸濁液を調製した。浮遊培養用6ウェルプレート(住友ベークライト社)に1ウェルあたり4mLの細胞懸濁液を播種した。細胞を播種したプレートはロータリーシェーカー(オプティマ社)上で83rpmの速度で水平面に沿って旋回幅(直径)が25mmの円を描くように旋回させ、37℃、5%CO環境下で浮遊培養を行った。細胞を播種した日を培養0日目とし、培養5日目に継代を行い、培養10日目まで浮遊培養を行った。培地交換の方法としては、細胞凝集塊を含む培地の全量を遠沈管に回収し、5分程度静置して細胞凝集塊を沈降させた。その後、培養上清を除去し、StemFit(登録商標)AK02N培地で穏やかに再懸濁し、元のウェルに戻した。培地交換時に、培養1日目及び6日目は培地にY-27632を最終濃度5μMとなるように添加し、培養2日目及び7日目は培地にY-27632を最終濃度2μMとなるように添加した。培養5日目にウェルから細胞凝集塊と培養上清を遠沈管に回収し、5分程度静置して細胞凝集塊を沈降させて培養上清を回収し、細胞凝集塊にAccutaseを1mL添加して10分間処理した。ピペッティングによって単細胞まで分散させた。この細胞を最終濃度10μMのY-27632を含むStemFit(登録商標)AK02N培地で懸濁し、その一部をトリパンブルー染色して生細胞数を測定した。最終濃度10μMのY-27632を含む培地を用いて、1mLあたり2×10個の細胞を含むように細胞懸濁液を調製した。浮遊培養用6ウェルプレートに1ウェルあたり4mLの細胞懸濁液を播種した。細胞を播種したプレートはロータリーシェーカー上で83rpmの速度で水平面に沿って旋回幅(直径)が25mmの円を描くように旋回させ、37℃、5%CO環境下で浮遊培養を継続した。
【0124】
<比較例2>
浮遊培養の播種時及び培地交換時に使用するStemFit(登録商標)AK02N培地にFGF2(ペプロテック社)を添加し、添加したFGF2の最終濃度が50ng/mLになるように調製した点を除いて、比較例1と同じ手順で維持培養及び浮遊培養を実施した。
【0125】
<比較例3>
比較例1と同じ手順でヒトiPS細胞201B7株を維持培養した。浮遊培養の播種時及び培地交換時に使用するStemFit(登録商標)AK02N培地にXAV939(富士フイルム和光純薬社)を最終濃度が20μMになるように添加した点を除いて、比較例1と同じ手順で浮遊培養を実施した。
【0126】
<比較例4>
ヒトiPS細胞にRPChiPS771-2株を使用した点を除いて、比較例1と同じ手順で維持培養及び浮遊培養を実施した。
【0127】
<実施例1>
比較例1と同じ手順で細胞を維持培養した。維持培養した細胞をAccutaseで3分間から5分間処理してディッシュから剥離し、ピペッティングによって単細胞まで分散させた。この細胞を最終濃度10μMのY-27632を含むStemFit(登録商標)AK02N培地で懸濁し、その一部をトリパンブルー染色して生細胞数を測定した。最終濃度10μMのY-27632を含むStemFit(登録商標)AK02N培地を用いて、1mLあたり4.6×10個の細胞を含むように細胞懸濁液を調製した。Vitronectinを0.5μg/cmでコートした細胞培養用6ウェルプレート(住友ベークライト社)に1ウェルあたり2mLの細胞懸濁液を播種し、37℃、5%CO環境下で接着培養を行った。細胞を播種した日を培養0日目とし、培養5日目に継代を行い、培養10日目まで接着培養を行った。Y-27632を含まない培地で毎日培地交換を行った。培養5日目にウェルから培養上清を回収し、Accutaseを1ウェルあたり0.5mL添加して3分間から5分間処理してウェルから細胞を剥離し、ピペッティングによって単細胞まで分散させた。この細胞を最終濃度10μMのY-27632を含むStemFit(登録商標)AK02N培地で懸濁し、その一部をトリパンブルー染色して生細胞数を測定した。細胞懸濁液を最終濃度10μMのY-27632を含むStemFit(登録商標)AK02N培地を用いて1mLあたり4.6×10個の細胞を含むように調製した。Vitronectinを0.5μg/cmでコートした細胞培養用6ウェルプレートに1ウェルあたり2mLの細胞懸濁液を播種し、37℃、5%CO雰囲気下で接着培養を継続した。
【0128】
<実施例2>
維持培養及び接着培養にEssential 8TM培地(サーモフィッシャーサイエンティフィック社)を使用した点を除いて、実施例1と同じ手順で維持培養及び接着培養を実施した。
【0129】
<実施例3>
ヒトiPS細胞にRPChiPS771-2株を使用した点を除いて、実施例1と同じ手順で維持培養及び接着培養を実施した。
【0130】
<実施例4>
ヒトiPS細胞にRPChiPS771-2株を使用した点と、維持培養及び接着培養にEssential 8TM培地を使用した点を除いて、実施例1と同じ手順で維持培養及び接着培養を実施した。
【0131】
<実施例5>
維持培養及び浮遊培養にEssential 8TM培地を使用した点を除いて、比較例1と同じ手順で維持培養及び浮遊培養を実施した。
【0132】
<実施例6>
ヒトiPS細胞にRPChiPS771-2株を使用した点と、維持培養及び浮遊培養にEssential 8TM培地を使用した点を除いて、比較例1と同じ手順で維持培養及び浮遊培養を実施した。
【0133】
<実施例7>
ヒトiPS細胞にRPChiPS771-2株を使用した点と、浮遊培養の播種時及び培地交換時に使用するStemFit(登録商標)AK02N培地にFGF2を添加し、添加したFGF2の最終濃度が50ng/mLになるように調製した点を除いて、比較例1と同じ手順で維持培養及び浮遊培養を実施した。
【0134】
<実施例8>
ヒトiPS細胞にRPChiPS771-2株を使用した点と、浮遊培養の播種時及び培地交換時に使用するStemFit(登録商標)AK02N培地にXAV939を最終濃度が20μMになるように添加した点を除いて、比較例1と同じ手順で維持培養及び浮遊培養を実施した。
【0135】
<実施例9:細胞形態の観察>
比較例1から比較例4及び実施例1から実施例8の培養5日目及び培養10日目に位相差顕微鏡を用いて取得した細胞の位相差画像を図1に示す。
【0136】
<実施例10:定量的リアルタイムPCR解析>
以下に示す手順で定量的リアルタイムPCR解析を行った。比較例1から比較例4及び実施例1から実施例8で得られた培養5日目及び培養10日目の細胞をAccutaseで3分間から10分間処理し、ピペッティングによって単細胞まで分散させた。この細胞をTRIzolTM Reagent(サーモフィッシャーサイエンティフィック社)を用いて溶解させた。PureLink(登録商標)RNA Miniキット(サーモフィッシャーサイエンティフィック社)を用いて、TRIzolTM Reagentで溶解させた細胞溶液からtotal RNAを単離及び精製した。精製したRNAをBioSpec-nano(島津製作所社)を用いて濃度測定し、40ng分取した。分取したRNAに対し、ReverTra Ace(登録商標)qPCR RT Master mix(東洋紡社)を2μLとRNase Free dHOを添加して10μLに調製し、SimpliAmp Thermal Cycler(サーモフィッシャーサイエンティフィック社)を用いてcDNA合成を行った。cDNA合成の反応条件は、37℃で15分反応後、50℃で5分反応、98℃で5分反応を連続して行い、その後4℃に冷却した。合成したcDNA溶液を10mM Tris-HCl pH8.0(ナカライテスク社)で100倍に希釈し、384well PCRプレート(サーモフィッシャーサイエンティフィック社)に5μL/wellで添加した。KOD SYBR(登録商標)qPCR Mix(東洋紡社)、50μMに調製したForwardプライマー、50μMに調製したReverseプライマー、DEPC処理水(ナカライテスク社)を100:1:1:48の割合で混合し、この混合液を15μL/wellで前記384well PCRプレートに添加して混合した。プライマーはACTB、Oct4、Sox2、Nanog、Brachyury、Sox17、Pax6を用いた。384well PCRプレートを遠心分離してウェル内の気泡を除去し、QuantStudio 7 Flex Real-Time PCR System(サーモフィッシャーサイエンティフィック社)を用いて定量的リアルタイムPCR解析を実施した。反応条件を表1に示す。
【0137】
【表1】
【0138】
検出はSYBR Greenによるインターカレーション法で行い、遺伝子発現量比較は比較Ct法で行った。各遺伝子の発現量はハウスキーピング遺伝子であるbACTにより標準化した。
【0139】
比較例1から比較例4及び実施例1から実施例8で得られた培養5日目の細胞について、前記記載の手順で定量的リアルタイムPCR解析を実施し、LEF1遺伝子の発現量を測定した。定量的リアルタイムPCR解析に使用したプライマーの塩基配列は以下の通りである(配列表の配列番号1~16にも記載する)。
【0140】
ACTB(F):5’-CCTCATGAAGATCCTCACCGA-3’(配列番号1)
ACTB(R):5’-TTGCCAATGGTGATGACCTGG-3’(配列番号2)
Oct4(F):5’-AGTGGGTGGAGGAAGCTGACAAC-3’(配列番号3)
Oct4(R):5’-TCGTTGTGCATAGTCGCTGCTTGA-3’(配列番号4)
Sox2(F):5’-CACCAATCCCATCCACACTCAC-3’(配列番号5)
Sox2(R):5’-GCAAAGCTCCTACCGTACCAC-3’(配列番号6)
Nanog(F):5’-AGCCTCCAGCAGATGCAAGAACTC-3’(配列番号7)
Nanog(R):5’-TTGCTCCACATTGGAAGGTTCCCA-3’(配列番号8)
Brachyury(F):5’-TCACAAAGAGATGATGGAGGAAC-3’(配列番号9)
Brachyury(R):5’-ACATGCAGGTGAGTTGTCAG-3’(配列番号10)
Sox17(F):5’-ATCTGCACTTCGTGTGCAAG-3’(配列番号11)
Sox17(R):5’-GAGTCTGAGGATTTCCTTAGCTC-3’(配列番号12)
Pax6(F):5’-AGGAATGGACTTGAAACAAGG-3’(配列番号13)
Pax6(R):5’-GCAAAGCTTGTTGATCATGG-3’(配列番号14)
LEF1(F):5’-AGAAAGTGCAGCTATCAACC-3’(配列番号15)
LEF1(R):5’-GAATGAGCTTCGTTTTCCAC-3’(配列番号16)
【0141】
遺伝子発現量を測定した結果を表2、表3、図2A~2C、図3A~3Bに示す。
【0142】
【表2】
【0143】
【表3】
【0144】
比較例1から比較例4と実施例1から実施例8では分化マーカー遺伝子及びLEF1遺伝子の発現量に異なる傾向が認められた。
具体的には、培養5日目におけるβ-Actin遺伝子の発現量に対するLEF1遺伝子の相対発現量は、比較例1から比較例4で得られた多能性幹細胞集団では、5.5×10-4以上であるのに対し、実施例1から実施例8で得られた多能性幹細胞集団では、5.5×10-4以下であった(表2及び表3)。
【0145】
また、β-Actin遺伝子の発現量に対する分化マーカー遺伝子の相対発現量は、培養5日目では比較例1から比較例4及び実施例1から実施例8の全てにおいて低く、条件間で大きな違いは認められなかった(表2、図2B)。しかし、β-Actin遺伝子の発現量に対する分化マーカー遺伝子の相対発現量は、培養10日目においては、比較例1から比較例4では培養5日目と比較して顕著に増加したのに対し、実施例1から実施例8では、培養5日目と同程度に低く、ほとんど発現していなかった(表3、図3B)。
【0146】
このことから、β-Actin遺伝子の発現量に対するLEF1遺伝子の相対発現量が5.5×10-4以上の細胞集団は、未分化逸脱細胞の出現頻度が高く、未分化状態を維持しておらず、一方、β-Actin遺伝子の発現量に対するLEF1遺伝子の相対発現量が5.5×10-4以下の細胞集団は、未分化逸脱細胞の出現頻度が低く、未分化状態を維持した細胞集団であることが明らかになった。
つまり、上記LEF1遺伝子の相対発現量が5.5×10-4以下であるという条件は、多能性幹細胞集団の未分化性を判断する指標とすることができる。
【0147】
<実施例11:フローサイトメトリー解析>
比較例1から比較例4及び実施例1から実施例8で得られた培養5日目のヒトiPS細胞をAccutaseで3分間から10分間処理し、ピペッティングによって単細胞まで分散させた。この細胞をPBS(リン酸緩衝生理食塩水)で洗浄した。その後、4%PFA(パラホルムアルデヒド)により室温で20分間固定後、PBSで3回洗浄し、冷メタノールにより-20℃で一晩透過処理を行った。PBSで3回洗浄後、3%FBS(ウシ胎仔血清)/PBSにより室温で1時間ブロッキングした。その後、細胞のサンプルを2つに分けてそれぞれ50μLずつに再懸濁した。一方に蛍光標識済抗LEF1抗体(Cat.No.8490、Cell Signaling Technology社)を5μL加えて混合し、もう一方に蛍光標識済アイソタイプコントロール抗体(Cat.No.2975、Cell Signaling Technology社)を5μL加えて混合した。4℃、遮光状態で1時間染色した。3%FBS(ウシ胎仔血清)/PBSで1回洗浄後、セルストレーナーに通過させた細胞をGuava easyCyte 8HT(メルク社)にて解析した。ゲインコントロール画面において、GRN-Bについて高感度モードのチェックマークを外し、ゲインの値を1.68に設定して測定を開始した。測定後にすべてのサンプルについてFSC/SSCのドットプロットを表示し、FSCの値が5000以上40000以下であり、SSCの値が1000以上40000以下の領域を選択し、この領域内の細胞集団を抽出した。次にアイソタイプコントロール抗体で処理したサンプルについて、前記FSC/SSCドットプロットにて抽出した細胞集団において、よりGRN-B蛍光強度が強い細胞集団が1.5%以下となるすべての領域を選択した。抗LEF1抗体で処理したサンプルについて、前記FSC/SSCドットプロットにて抽出した細胞集団において、前記GRN-B領域内に含まれる細胞の割合を算出し、これをLEF1が陽性を呈する細胞の比率とした。その結果を表4及び図4に示す。
【0148】
【表4】
【0149】
比較例1から比較例4と、実施例1から実施例8とでは、LEF1が陽性を呈する細胞の比率に異なる傾向が認められた。具体的には、比較例1から比較例4で得られた培養5日目の多能性幹細胞集団では、LEF1が陽性を呈する細胞の比率が55%以上であったのに対し、実施例1から実施例8で得られた培養5日目の多能性幹細胞集団ではいずれも、LEF1が陽性を呈する細胞の比率が55%以下であった。
【0150】
実施例10で分析した分化マーカー遺伝子の発現結果(図2B及び図3B)と照らすと、LEF1が陽性を呈する細胞の比率が55%以下である多能性幹細胞集団は、未分化逸脱細胞の出現頻度が低く、未分化状態を維持した細胞集団であることが分かった。つまり、LEF1が陽性を呈する細胞の比率が55%以下という条件は、多能性幹細胞を含む細胞集団の未分化性を判断する指標となる。
【0151】
以上の結果から、下記(a)及び(b)の特性を有する多能性幹細胞を含む細胞集団は、未分化状態を維持した細胞集団であり、下記(a)及び(b)の特性は多能性幹細胞を含む細胞集団の未分化性を判断する指標となることが示された。
(a)β-Actin遺伝子の発現量に対するLEF1遺伝子の相対発現量が、5.5×10-4以下である。
(b)LEF1が陽性を呈する多能性幹細胞の比率が55%以下である。
【0152】
また、実施例10で分析した遺伝子発現結果(図2A~2C及び図3A~3B)と実施例10及び11における遺伝子発現量及びフローサイトメトリーの結果から、上述した(a)及び(b)を指標として、多能性幹細胞を含む細胞集団において未分化逸脱細胞の出現を予測する、又は細胞集団における多能性幹細胞の分化能(未分化性)をモニタリングできることが分かった。具体的には、培養5日目では、上記指標を満たす細胞集団、及び上記指標を満たさない細胞集団のいずれにおいても未分化逸脱細胞の出現はほとんど認められなかった。しかし、その後培養を継続していくと、上記指標を満たさない細胞集団においてのみ、顕著に未分化逸脱細胞の出現が増加した。つまり上記指標を満たさない細胞集団については、上記指標を測定した時点においては未分化逸脱細胞の出現が認められていないとしても、培養を継続すれば未分化逸脱細胞の出現頻度が増加してくることを示している。
【0153】
そのため、本発明においては、(a)β-Actin遺伝子の発現量に対するLEF1遺伝子の相対発現量が、5.5×10-4以下であり、(b)LEF1が陽性を呈する多能性幹細胞の比率が55%以下であることを、未分化逸脱細胞の出現を予測するための指標として用いることができる。
【0154】
また、上記(a)及び(b)は、多能性幹細胞を含む細胞集団が未分化性を維持するための最適な培養条件を判断及び/又は予測するための指標としても用いることができる。
さらに、上記(a)及び(b)を指標として、経時的に多能性幹細胞を含む細胞集団の遺伝子発現とタンパク質発現の陽性率を測定することによって、細胞集団における多能性幹細胞の分化能をモニタリングすることができる。前記指標の測定結果から、分化能が低いと判断した場合には、上記(a)及び(b)を指標としてセルソーター等で細胞を選択する方法、又は培養条件を適切に変更して多能性幹細胞の未分化維持を促す方法により、分化能が高い多能性幹細胞集団を調製することができる。
【0155】
<比較例5:三胚葉系細胞への分化誘導>
以下の手順で多能性幹細胞の分化誘導を行った。下記工程における培養日数は全て、全て工程1における浮遊培養の開始日を0日目としてカウントしている。
【0156】
(工程1:多能性幹細胞集団の調製)
比較例4と同じ方法で浮遊培養を行い、培養10日目にウェルから細胞凝集塊と培養上清を遠沈管に回収した。遠沈管を5分程度静置して細胞凝集塊を沈降させた後、培養上清を除去した。細胞凝集塊にAccutaseを1mL添加して10分間処理し、ピペッティングによって単細胞まで分散させた。この細胞を最終濃度10μMのY-27632を含むStemFit(登録商標)AK02N培地で懸濁し、その一部をトリパンブルー染色して生細胞数を測定した。最終濃度10μMのY-27632を含むStemFit(登録商標)AK02N培地を用いて、1mLあたり2×10個の細胞を含むように細胞懸濁液を調製した。浮遊培養用6ウェルプレートに1ウェルあたり4mLの細胞懸濁液を播種した。細胞を播種したプレートはロータリーシェーカー上で83rpmの速度で水平面に沿って旋回幅(直径)が25mmの円を描くように旋回させ、37℃、5%CO環境下で培養12日目まで浮遊培養を継続した。培養11日目に、Y-27632を最終濃度5μMで含むStemFit(登録商標)AK02N培地で培地交換を行った。培地交換は、細胞凝集塊を含む培地の全量を遠沈管に回収し、5分程度静置して細胞凝集塊を沈降させ、その後、培養上清を除去し、新鮮培地で穏やかに再懸濁して元のウェルに戻すことにより行った。
工程1で得られた多能性幹細胞集団は、比較例4と同等のLEF1発現を示すと考えられる。つまり、前記(a)及び(b)の指標を満たさない多能性幹細胞集団である。
【0157】
(工程2-A:内胚葉分化誘導)
前記工程1の後、内胚葉分化誘導を行った。培養12日目及び13日目に表5の内胚葉分化誘導培地1で培地交換を行い、培養14日目に表5の内胚葉分化誘導培地2で培地交換を行い、培養15日目に表5の内胚葉分化誘導培地3で培地交換を行った。培地交換は、細胞凝集塊を含む培地の全量を遠沈管に回収し、5分程度静置して細胞凝集塊を沈降させ、その後、培養上清を除去し、新鮮培地で穏やかに再懸濁して元のウェルに戻すことにより行った。その後、培養16日目まで浮遊培養を継続し、内胚葉分化誘導した細胞サンプルとした。
【0158】
【表5】
【0159】
(工程2-B:中胚葉分化誘導)
前記工程1の後、中胚葉分化誘導を行った。培養12日目に表6の中胚葉分化誘導培地1で培地交換を行い、培養13日目に表6の中胚葉分化誘導培地2で培地交換を行った。培地交換は、細胞凝集塊を含む培地の全量を遠沈管に回収し、5分程度静置して細胞凝集塊を沈降させ、その後、培養上清を除去し、新鮮培地で穏やかに再懸濁して元のウェルに戻すことにより行った。その後、培養15日目まで浮遊培養を継続し、中胚葉分化誘導した細胞サンプルとした。
【0160】
【表6】
【0161】
(工程2-C:外胚葉分化誘導)
前記工程1の後、外胚葉分化誘導を行った。培養12日目から16日目まで毎日、表7の外胚葉分化誘導培地で培地交換を行った。培地交換は、細胞凝集塊を含む培地の全量を遠沈管に回収し、5分程度静置して細胞凝集塊を沈降させ、その後、培養上清を除去し、新鮮培地で穏やかに再懸濁して元のウェルに戻すことにより行った。その後、培養17日目まで浮遊培養を継続し、外胚葉分化誘導した細胞サンプルとした。
【0162】
【表7】
【0163】
<実施例12:三胚葉系細胞への分化誘導>
以下の手順で多能性幹細胞の分化誘導を行った。
【0164】
(工程1:多能性幹細胞集団の調製)
培養10日目まで実施例8と同じ方法で浮遊培養を行った点と、培養10日目の播種培地と培養11日目の培地交換培地にXAV939を最終濃度20μMとなるように添加した点を除いて、比較例5の工程1と同じ方法で多能性幹細胞集団を調製した。
工程1で得られた多能性幹細胞集団は、実施例8と同等のLEF1発現を示すと考えられる。つまり、(a)β-Actin遺伝子の発現量に対するLEF1遺伝子の相対発現量が、5.5×10-4以下であり、(b)LEF1が陽性を呈する多能性幹細胞の比率が55%以下である、多能性幹細胞集団である。
【0165】
(工程2-A:内胚葉分化誘導)
前記工程1の後、比較例4の工程2―Aと同じ手順で内胚葉分化誘導を行った。
【0166】
(工程2-B:中胚葉分化誘導)
前記工程1の後、比較例4の工程2―Bと同じ手順で中胚葉分化誘導を行った。
【0167】
(工程2-C:外胚葉分化誘導)
前記工程1の後、比較例4の工程2―Cと同じ手順で外胚葉分化誘導を行った。
【0168】
<実施例13:定量的リアルタイムPCR解析による分化誘導効率の比較>
比較例5及び実施例12にて三胚葉系細胞へ分化誘導した細胞集団を、実施例10と同じ手順で定量的リアルタイムPCR解析した。
【0169】
内胚葉分化誘導したサンプルの定量的リアルタイムPCR解析に使用したプライマーの塩基配列を以下に示す。
ACTB(F):5’-CCTCATGAAGATCCTCACCGA-3’(配列番号1)
ACTB(R):5’-TTGCCAATGGTGATGACCTGG-3’(配列番号2)
SOX17(F):5’-ATCTGCACTTCGTGTGCAAG-3’(配列番号11)
SOX17(R):5’-GAGTCTGAGGATTTCCTTAGCTC-3’(配列番号12)
FOXA2(F):5’-GGTGATTGCTGGTCGTTTGTTGTG-3’(配列番号17)
FOXA2(R):5’-GCCGACATGCTCATGTACGTGTT-3’(配列番号18)
CXCR4(F):5’-ACTGAGAAGCATGACGGACAAG-3’(配列番号19)
CXCR4(R):5’-AGGTAGCGGTCCAGACTGATG-3’(配列番号20)
【0170】
中胚葉分化誘導したサンプルの定量的リアルタイムPCR解析に使用したプライマーの塩基配列を以下に示す。
ACTB(F):5’-CCTCATGAAGATCCTCACCGA-3’(配列番号1)
ACTB(R):5’-TTGCCAATGGTGATGACCTGG-3’(配列番号2)
CDX2(F):5’-CACCCACAGCCATAGACCTAC-3’(配列番号21)
CDX2(R):5’-GTCAGTCCAGGCAATGCTTC-3’(配列番号22)
CXCR4(F):5’-ACTGAGAAGCATGACGGACAAG-3’(配列番号19)
CXCR4(R):5’-AGGTAGCGGTCCAGACTGATG-3’(配列番号20)
VEGFR2(F):5’-AGCCAAGCTGTCTCAGTGAC-3’(配列番号23)
VEGFR2(R):5’-TCTCCCGACTTTGTTGACCG-3’(配列番号24)
PDGFRα(F):5’-GCTGAGCCTAATCCTCTGCC-3’(配列番号25)
PDGFRα(R):5’-ACTGCTCACTTCCAAGACCG-3’(配列番号26)
【0171】
外胚葉分化誘導したサンプルの定量的リアルタイムPCR解析に使用したプライマーの塩基配列を以下に示す。
ACTB(F):5’-CCTCATGAAGATCCTCACCGA-3’(配列番号1)
ACTB(R):5’-TTGCCAATGGTGATGACCTGG-3’(配列番号2)
PAX6(F):5’-AGGAATGGACTTGAAACAAGG-3’(配列番号13)
PAX6(R):5’-GCAAAGCTTGTTGATCATGG-3’(配列番号14)
SOX1(F):5’-AGGCAGGTCCAAGCACTTAC-3’(配列番号27)
SOX1(R):5’-ATAACTCCGCCGTCTGAAGG-3’(配列番号28)
NESTIN(F):5’-TCAAGCACCACTGTGGACTC-3’(配列番号29)
NESTIN(R):5’-AGGTTCCATGCTCCCAGAGA-3’(配列番号30)
【0172】
遺伝子発現量を測定した結果を表8から表10及び図5に示す。
【0173】
【表8】
【0174】
【表9】
【0175】
【表10】
【0176】
実施例12は、比較例5と比べて、内胚葉分化誘導後の内胚葉分化マーカー遺伝子(SOX17、FOXA2、及びCXCR4)の発現量が高い傾向を示した。また、中胚葉分化誘導後の中胚葉分化マーカー遺伝子(CDX2、CXCR4、VEGFR2、及びPDGFRα)と、外胚葉分化誘導後の外胚葉分化マーカー遺伝子(PAX6、SOX1、及びNESTIN)の発現量も同様に、実施例12は、比較例5と比べて、高い傾向を示した。
【0177】
これらの結果より、上記(a)及び(b)の指標を満たす多能性幹細胞集団を調製することにより、三胚葉系細胞への分化誘導効率が高まるということが明らかになった。
【0178】
<実施例13:分化誘導培養>
比較例1から比較例4及び実施例1から実施例8で得られた培養10日目の細胞を、非特許文献(Sundari Chetty et al.,Nature Methods 10(6):553-556,January 2013)に記載されている以下の手順で三胚葉系細胞へ分化誘導することが可能である。
【0179】
<工程1:分化誘導細胞の調製>
比較例1から比較例4及び実施例1から実施例8で得られた培養10日目の細胞をAccutaseで3から10分間処理し、ピペッティングによって単細胞まで分散させる。この細胞を最終濃度10μMのY-27632及び最終濃度20ng/mLのbFGF(サーモフィッシャーサイエンティフィック社)を含むMEF-conditioned培地で懸濁し、その一部をトリパンブルー染色して生細胞数を測定する。細胞懸濁液を最終濃度10μMのY-27632及び最終濃度20ng/mLのbFGFを含むMEF-conditioned培地を用いて1mLあたり5×10個の細胞を含むように調製する。Growth factor reduced matrigel(BD Bioscience社)をコートした細胞培養用6ウェルプレートに1ウェルあたり2mLの細胞懸濁液を播種し、37℃、5%CO環境下で接着培養を行う。細胞を播種した日を培養0日目とし、培養1日目に最終濃度20ng/mLのbFGFを含むMEF-conditioned培地で培地交換を行う。
【0180】
<工程2-A:外胚葉系細胞への分化誘導>
実施例13の工程1で調製した細胞に対し、培養2日目に最終濃度10%でknockout serum replacement(サーモフィッシャーサイエンティフィック社)、最終濃度500ng/mLでNoggin(R&D Sysytems社)、最終濃度10μMでSB431542(Tocris社)を含むKnockOut-DMEM(サーモフィッシャーサイエンティフィック社)で培地交換する。培養3日目も同じ培地を用いて培地交換し、培養4日目に外胚葉系細胞集団を得ることができる。
【0181】
<工程2-B:中胚葉系細胞への分化誘導>
実施例13の工程1で調製した細胞に対し、培養2日目に最終濃度100ng/mLで組み換えヒトActivin A(R&D Systems社)を添加したRPMI-B27(サーモフィッシャーサイエンティフィック社)培地で培地交換する。培養3、4、5日目に最終濃度10ng/mLで組み換えヒトBMP4(R&D Systems社)を添加したRPMI-B27(サーモフィッシャーサイエンティフィック社)培地で培地交換することで、培養6日目に中胚葉系細胞集団を得ることができる。
【0182】
<工程2-C:内胚葉系細胞への分化誘導>
実施例13の工程1で調製した細胞に対し、培養2日目に最終濃度2.5g/LでNaHCO、最終濃度1%でglutamax(サーモフィッシャーサイエンティフィック社)、最終濃度5.5mMでglucose、最終濃度0.1%でFAF-BSA(Proliant/Lampire社)、50000倍希釈になるようにITS:X(サーモフィッシャーサイエンティフィック社)、最終濃度20ng/mLでWNT3A(R&D Systems社)、最終濃度100ng/mLでActivin Aを添加したMCDB-131培地で培地交換する。培養3、4、5日目に前記添加剤のうちWNT3A以外を添加したMCDB-131培地で培地交換することで培養6日目に内胚葉系細胞集団を得ることができる。
【0183】
<工程3:分化誘導効率の測定>
前記工程2-A、B、Cで得られた細胞集団について、以下の方法で免疫蛍光染色を行い、三胚葉系細胞への分化誘導効率を求めることができる。
前記工程2-A、B、Cで得られた細胞に対し、PBSで洗浄した後、4%パラホルムアルデヒドで30分間反応させて細胞を固定化する。細胞をPBSで洗浄し、最終濃度5%でロバ血清、最終濃度0.3%でTritonを含むPBSを添加して、室温で1時間反応させてブロッキングを行う。その後、各サンプルに対して1次抗体を500倍希釈になるように添加し、1晩反応させる。1次抗体は外胚葉系細胞に対しては抗Sox1抗体(R&D Systems社)、中胚葉系細胞に対しては抗Brachyury抗体(R&D Systems社)、内胚葉系細胞に対しては抗Sox17抗体(R&D Systems社)を使用する。1次抗体反応後、細胞をPBSで洗浄し、1次抗体に対応したAlexaFluor488又はAlexaFluor594で標識された2次抗体を500倍希釈になるように添加し、室温で1時間反応させる。反応後、PBSで洗浄し、Hoechst33342を1000倍希釈になるように添加して、核染色を行う。免疫蛍光染色された細胞を、CellInsight CX5 High-Content Screening (HCS)Platform(サーモフィッシャーサイエンティフィック社)を用いて、10倍視野で1ウェルあたり30枚ずつ画像取得する。取得した画像の標識された核の数から細胞数を算出し、各抗体で標識された細胞の数から各三胚葉系細胞の数を算出する。視野内の細胞数に対する各三胚葉系細胞の数から分化誘導効率を求めることができる。
【0184】
比較例1から比較例4と実施例1から実施例8では分化誘導効率に異なる傾向が見られる。比較例1から4と比較して、実施例1から実施例8は各三胚葉系細胞への分化誘導効率が高い。このことから、LEF1遺伝子の発現量及びLEF1が陽性を呈する多能性幹細胞集団の割合が本発明の範囲内にある多能性幹細胞を含む細胞集団は分化誘導効率が高い。
【0185】
<実施例14:体細胞(膵臓β細胞)への分化誘導>
実施例1から実施例8で得られたiPS細胞の細胞集団を、最初の2日間は、0.5%Bovine Serum Albumin、0.4×PS、1mmol/L sodium pyruvate、1×NEAA、80ng/mL recombinant humanアクチビンA、50ng/mL FGF2、20ng/mL recombinant bone morphogenetic protein 4、3μmol/L CHIR99021を含むRPMI1640でディッシュ上に接着させた状態で培養する。3日目はこの培地からCHIR99021を除いてディッシュ上に接着させた状態で培養を行い、4日目はさらに1%(体積/体積)KSRを加えた培地でディッシュ上に接着させた状態で培養を1日間行い、多能性幹細胞から内胚葉細胞への分化誘導を行う。次いで、0.5%BSA、1mmol/L sodium pyruvate、1×NEAA、0.4×PS、50ng/mL FGF2、50ng/mL recombinant human FGF7(PEPROTECH社)、2% B27supplement(GIBCO社)、0.67μmol/L EC23(SANTA CRUZ社)、1μmol/L dorsomorphin(WAKO社)、10μmol/L SB431542(WAKO社)、0.25mol/L SANT1(WAKO社)を含むRPMI1640で2日間培養を行い、内胚葉細胞から原始腸管細胞(PGT:Primitive Gut Tube)への分化誘導を行う。次いで、0.4×PS、1×NEAA、50ng/mL FGF2、2% B27、0.67μmol/L EC23、1μmol/L dorsomorphin、10μmol/L SB431542、0.25μmol/L SANT1を含むDMEM-high glucose(WAKO社)で4日間培養を行い、原始腸管細胞(PGT)から後前腸細胞(PFG:Pancreatic Progenitor)への分化誘導を行う。次いで、0.4×PS、1×NEAA、50ng/mL recombinant human FGF10(Peprotech社)、2% B27、0.5μmol/L EC23、1μmol/L dorsomorphin、0.25μmol/L SANT1、5μmol/L Alk5 inhibitor II(Biovision社)、0.3μmol/L indolactam V(ILV;Cayman社)を含むDMEM-high glucoseで3日間培養を行い、後前腸細胞(PFG)から膵臓前駆細胞(PP:Pancreatic Progenitor)への分化誘導を行う。次いで、0.4×PS、2mmol/L L-glutamine、2% B27、0.2μmol/L EC23、1μmol/L dorsomorphin、0.25μmol/L SANT1、5μmol/L Alk5 inhibitor II、50ng/mL Exendin4(SIGMA社)を含むAdvanced-DMEM(GIBCO社)で3日間培養を行い、膵臓前駆細胞(PP)から膵内分泌前駆細胞(EP:Endocrine Progenitor)への分化誘導を行う。次いで、0.4×PS、2mmol/L L-glutamine、2% B27、10ng/mL BMP4、10ng/mL FGF2、50ng/mL recombinant human hepatocyte growth factor(HGF;PEPROTECH社)、50ng/mL insulin-like growth factor 1(IGF1;PEPROTECH社)、5μmol/L Alk5 inhibitor II、50ng/mL Exendin4、5mmol/L nicotinamide(SIGMA社)、5μmol/L forskolin(WAKO社)を含むAdvanced-DMEMで6日間培養を行い、膵内分泌前駆細胞(EP)から膵臓β細胞への分化誘導を行う。上述の分化誘導方法は一つの実施態様ではあるが、多能性幹細胞から膵臓β細胞を分化誘導でき、強いては、体細胞を製造することが可能となる。
図1
図2A
図2B
図2C
図3A
図3B
図4
図5
【配列表】
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