(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-15
(45)【発行日】2024-05-23
(54)【発明の名称】創傷被覆材およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
A61L 15/28 20060101AFI20240516BHJP
A61L 15/24 20060101ALI20240516BHJP
A61L 15/60 20060101ALI20240516BHJP
C08B 5/00 20060101ALN20240516BHJP
【FI】
A61L15/28 100
A61L15/24 100
A61L15/60 100
C08B5/00
(21)【出願番号】P 2021530653
(86)(22)【出願日】2020-07-01
(86)【国際出願番号】 JP2020025895
(87)【国際公開番号】W WO2021006159
(87)【国際公開日】2021-01-14
【審査請求日】2023-03-14
(31)【優先権主張番号】P 2019126141
(32)【優先日】2019-07-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000122298
【氏名又は名称】王子ホールディングス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000001096
【氏名又は名称】倉敷紡績株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002516
【氏名又は名称】弁理士法人白坂
(72)【発明者】
【氏名】田中 利奈
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 千夏
(72)【発明者】
【氏名】田中 悠子
(72)【発明者】
【氏名】杉山 稔
(72)【発明者】
【氏名】大島 邦裕
【審査官】辰己 雅夫
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/128354(WO,A1)
【文献】特開2018-199776(JP,A)
【文献】国際公開第2013/073652(WO,A1)
【文献】特開2018-199753(JP,A)
【文献】国際公開第2018/109275(WO,A1)
【文献】LEPPINIEMI, Jenni et al.,3D-Printable Bioactivated Nanocellulose-Alginate Hydrogels,APPLIED MATERIALS & INTERFACES,2017年,vol. 9,pp. 21959-21970,ISSN: 1944-8244
【文献】CURVELLO, Rodrigo et al.,Engineering nanocellulose hydrogels for biomedical applications,Advances in Colloid and Interface Science,2019年03月08日,vol. 267,pp. 47-61,ISSN: 0001-8686
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L15/00-33/18
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともハイドロゲルを有する創傷被覆材であって、
前記ハイドロゲルはイオン性置換基を有する微細繊維状セルロースを含
み、架橋された親水性高分子で形成され、
前記親水性高分子は、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、およびカルボキシメチルセルロース・ナトリウムからなる群から選ばれる一種以上である
ことを特徴とする創傷被覆材。
【請求項2】
前記イオン性置換基は、リンオキソ酸基、リンオキソ酸基に由来する置換基、カルボキシ基、カルボキシ基に由来する置換基、硫黄オキソ酸基、および硫黄オキソ酸基に由来する置換基からなる群から選ばれる一種以上のアニオン性基である請求項1に記載の創傷被覆材。
【請求項3】
前記微細繊維状セルロースは、平均繊維幅が1000nm以下である請求項1または2に記載の創傷被覆材。
【請求項4】
前記ハイドロゲルはイオン性置換基を有する微細繊維状セルロースを0.2質量%以上1.8質量%以下含む請求項1~
3のいずれか1項に記載の創傷被覆材。
【請求項5】
前記イオン性置換基を有する微細繊維状セルロースにおいて、イオン性置換基の導入量は、微細繊維状セルロース単位質量あたり、0.10mmol/g以上5.20mmol/g以下である請求項1~
4のいずれか1項に記載の創傷被覆材。
【請求項6】
少なくともハイドロゲルを有する創傷被覆材の製造方法であって、
親水性高分子、およびイオン性置換基を有する微細繊維状セルロースを含むハイドロゲル用組成物を用いてハイドロゲルを得る工程を含
み、
前記ハイドロゲル用組成物に対して放射線を照射することで前記親水性高分子を架橋させて前記ハイドロゲルを形成する
ことを特徴とする創傷被覆材の製造方法。
【請求項7】
前記ハイドロゲル用組成物は、親水性高分子の水溶液と、イオン性置換基を有する微細繊維状セルロースの水分散液を混合することで得られる請求項
6に記載の創傷被覆材の製造方法。
【請求項8】
前記親水性高分子の水溶液は、親水性高分子を10質量%以上90質量%以下含む請求項
6または7に記載の創傷被覆材の製造方法。
【請求項9】
前記イオン性置換基を有する微細繊維状セルロースの水分散液は、イオン性置換基を有する微細繊維状セルロースを0.1質量%以上15質量%以下含む請求項
6~8のいずれか1項に記載の創傷被覆材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイドロゲルを有する創傷被覆材およびその製造方法に関する。具体的には、保水性および強度に優れ、生体への貼り付け性および剥離性も良好である創傷被覆材およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ハイドロゲルは、水分を吸収しやすく保水性が高い上、生体への密着性にも優れることから、創傷被覆材として好適に用いられている。たとえば、特許文献1には、粘着性ポリビニルアルコールハイドロゲルからなる粘着層およびポリビニルアルコールハイドロゲルからなる吸水・支持層を含むハイドロゲル創傷被覆材が提案されている。また、特許文献2には、親水性高分子、水および第4級アンモニウム化合物を含む低溶出性ハイドロゲルを創傷被覆材として用いることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平9-262249号公報
【文献】特開2014-97255号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1および2に記載のハイドロゲルの場合、保水力をさらに向上し、かつ強度を高めることが望まれている。また、創傷被覆材の場合、生体へ貼り付けやすい一方、剥がしやすさ、すなわち、剥離性も求められているところ、特許文献1および2に記載のハイドロゲルは剥離性を改善する必要があった。
【0005】
本発明は、前記従来の問題を解決するため、保水性および強度に優れ、生体への貼り付け性および剥離性も良好である創傷被覆材およびその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、少なくともハイドロゲルを有する創傷被覆材であって、前記ハイドロゲルはイオン性置換基を有する微細繊維状セルロースを含むことを特徴とする創傷被覆材に関する。
【0007】
本発明は、また、少なくともハイドロゲルを有する創傷被覆材の製造方法であって、親水性高分子、およびイオン性置換基を有する微細繊維状セルロースを含むハイドロゲル用組成物を用いてハイドロゲルを得る工程を含むことを特徴とする創傷被覆材の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明は、保水性および強度に優れ、生体への貼り付け性および剥離性も良好である創傷被覆材を提供することができる。
また、本発明の製造方法によれば、保水性および強度に優れ、生体への貼り付け性および剥離性も良好である創傷被覆材を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、イオン性置換基としてリンオキソ酸基を有する微細繊維状セルロースを含有する分散液に対するNaOH滴下量とpHの関係を示すグラフである。
【
図2】
図2は、イオン性置換基としてカルボキシ基を有する微細繊維状セルロースを含有する分散液に対するNaOH滴下量とpHの関係を示すグラフである。
【
図3】
図3は、創傷治癒試験におけるラットの体重の推移を示すグラフである。
【
図4】
図4は、創傷治癒試験におけるラットの創傷面積の面積比の推移を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の発明者らは、上述した従来の問題を解決するため鋭意検討を重ねた。その結果、イオン性置換基を有する微細繊維状セルロースを含むハイドロゲルを用いた創傷被覆材は、保水性が高まることで、創傷治癒に好適の湿潤環境を維持することができ、それゆえ創傷治癒を促進することを見出した。また、該ハイドロゲルを用いた創傷被覆材は、前記イオン性置換基を有する微細繊維状セルロースを含むことで、強度が高まり、それゆえ、破れにくく、ハンドリング性やカット性等が良好になることを見出した。さらに、該ハイドロゲルを用いた創傷被覆材は、皮膚への貼り付けやすさと剥離しやすさを両立できることを見出した。以下において、特に指摘がない場合、「微細繊維状セルロース」は、「イオン性置換基を有する微細繊維状セルロース」を意味する。
【0011】
本発明の1以上の実施形態において、微細繊維状セルロースは、平均繊維幅が1000nm以下であればよい。また、微細繊維状セルロースは、特に限定されないが、たとえば、平均繊維幅が好ましくは2nm以上であることが好ましい。微細繊維状セルロースの平均繊維幅が2nm未満であると、セルロース分子として水に溶解しているため、ハイドロゲルの強度や剥離性を向上しにくくなる傾向がある。親水性高分子中に分散しやすく、保水性および透明性に優れる観点から、イオン性置換基を有する微細繊維状セルロースの平均繊維幅は100nm以下であることが好ましく、より好ましくは50nm以下であり、さらに好ましくは20nm以下であり、さらにより好ましくは10nm以下であり、特に好ましくは7nm以下である。前記イオン性置換基を有する微細繊維状セルロースを電子顕微鏡で観察することで繊維幅を測定することができる。具体的には、下記のように繊維幅を測定する。
【0012】
<微細繊維状セルロースの繊維幅>
濃度0.05質量%以上0.1質量%以下の微細繊維状セルロースの水系懸濁液を調製し、この懸濁液を親水化処理したカーボン膜被覆グリッド上にキャストしてTEM観察用試料とする。幅の広い繊維を含む場合には、懸濁液をガラス上にキャストし、キャスト膜の表面のSEM像を観察してもよい。構成する繊維の幅に応じて1000倍、5000倍、10000倍あるいは50000倍のいずれかの倍率で電子顕微鏡画像による観察を行う。但し、試料、観察条件や倍率は下記の条件を満たすように調整する。
(1)観察画像内の任意箇所に一本の直線Xを引き、該直線Xに対し、20本以上の繊維が交差する。
(2)同じ画像内で該直線と垂直に交差する直線Yを引き、該直線Yに対し、20本以上の繊維が交差する。
【0013】
上記条件を満足する観察画像に対し、直線X、直線Yと交差する繊維の幅を目視で読み取る。こうして少なくとも重なっていない表面部分の画像を3組以上観察し、各々の画像に対して、直線X、直線Yと交差する繊維の幅を読み取る。これにより、少なくとも20本×2×3=120本の繊維幅を読み取る。そして、読み取った繊維幅の平均値を、微細繊維状セルロースの平均繊維幅とする。
【0014】
微細繊維状セルロースの繊維長は、特に限定されないが、たとえば0.1μm以上1000μm以下であることが好ましく、0.1μm以上800μm以下であることがより好ましく、0.1μm以上600μm以下であることがさらに好ましい。繊維長を上記範囲内とすることにより、微細繊維状セルロースの結晶領域の破壊を抑制できる。また、微細繊維状セルロースの分散液の粘度を適切な範囲とすることも可能となる。なお、微細繊維状セルロースの繊維長は、たとえばTEM、SEM、AFMによる画像解析より求めることができる。
【0015】
微細繊維状セルロースはI型結晶構造を有していることが好ましい。ここで、微細繊維状セルロースがI型結晶構造を有することは、グラファイトで単色化したCuKα(λ=1.5418Å)を用いた広角X線回折写真より得られる回折プロファイルにおいて同定できる。具体的には、2θが14°以上17°以下付近と2θが22°以上23°以下付近の2箇所の位置に典型的なピークをもつことから同定することができる。微細繊維状セルロースに占めるI型結晶構造の割合は、たとえば30%以上であることが好ましく、40%以上であることがより好ましく、50%以上であることがさらに好ましい。これにより、耐熱性と低線熱膨張率発現の点でさらに優れた性能が期待できる。結晶化度については、X線回折プロファイルを測定し、そのパターンから常法により求められる(Seagalら、Textile Research Journal、29巻、786ページ、1959年)。
【0016】
微細繊維状セルロースの軸比(繊維長/繊維幅)は、特に限定されないが、たとえば20以上10000以下であることが好ましく、50以上1000以下であることがより好ましい。軸比を上記下限値以上とすることにより、微細繊維状セルロースを含有するハイドロゲルを形成しやすい。また、溶媒分散体を作製した際に十分な増粘性が得られやすい。軸比を上記上限値以下とすることにより、たとえば微細繊維状セルロースを水分散液として扱う際に、希釈等のハンドリングがしやすくなる点で好ましい。
【0017】
本発明の1以上の実施形態において、微細繊維状セルロースは、たとえば結晶領域と非結晶領域をともに有している。特に、結晶領域と非結晶領域をともに有し、かつ軸比が高い微細繊維状セルロースは、後述する微細繊維状セルロースの製造方法により実現することができる。
【0018】
本発明の1以上の実施形態において、微細繊維状セルロースは、イオン性置換基を有する。微細繊維状セルロースがイオン性置換基を有することで、分散媒中における微細繊維状セルロースの分散性を向上させ、解繊処理における解繊効率を高めることができる。また、微細繊維状セルロースが単繊維の形態を維持しやすく、親水性高分子中の分散性が良好になり、ハイドロゲルの強度および保水性を高めるとともに、皮膚への貼り付け性および剥離性を両立することができる。イオン性置換基としては、たとえばアニオン性基およびカチオン性基のいずれか一方または双方を含むことができる。
【0019】
本発明の1以上の実施形態において、微細繊維状セルロースの平均繊維幅が小さい場合でも、安定した単繊維の形態を維持しやすい観点から、イオン性置換基としてはアニオン性基が好ましい。アニオン性基としては、たとえばリンオキソ酸基またはリンオキソ酸基に由来する置換基(以下、単にリンオキソ酸基ということもある。)、カルボキシ基またはカルボキシ基に由来する置換基(以下、単にカルボキシ基ということもある。)、および硫黄オキソ酸基または硫黄オキソ酸基に由来する置換基(単に硫黄オキソ酸基ということもある。)からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。中でも、リンオキソ酸基およびリンオキソ酸基に由来する置換基からなる群から選択される少なくとも1種であることがより好ましく、リン酸基であることがさらに好ましい。
【0020】
リンオキソ酸基は、リン原子にヒドロキシ基とオキソ基が結合した基であり、たとえばリン酸からヒドロキシ基を取り除いたものにあたるリン酸基、亜リン酸からヒドロキシ基を取り除いたものにあたる亜リン酸基(ホスホン酸基)などが挙げられる。リンオキソ酸基に由来する置換基には、リンオキソ酸基の塩、リンオキソ酸エステル基、亜リン酸基の塩、亜リン酸エステル基などの置換基が含まれる。なお、リンオキソ酸基に由来する置換基は、リン酸基が縮合した基(たとえばピロリン酸基)として微細繊維状セルロースに含まれていてもよい。リンオキソ酸基またはリンオキソ酸基に由来する置換基は、たとえば下記化学式(1)で表すことができる。
【0021】
【0022】
上記化学式(1)中、a、bおよびnは自然数である(ただし、a=b×mである)。α1,α2,・・・,αnおよびα'のうちa個がO-であり、残りはR,ORのいずれかである。なお、各αnおよびα'の全てがO-であっても構わない。Rは、各々、水素原子、飽和-直鎖状炭化水素基、飽和-分岐鎖状炭化水素基、飽和-環状炭化水素基、不飽和-直鎖状炭化水素基、不飽和-分岐鎖状炭化水素基、不飽和-環状炭化水素基、芳香族基、またはこれらの誘導基である。また、nは1であることが好ましい。なお、Rが水素原子の場合、化学式(1)で表される置換基はリンオキソ酸基に該当し、それ以外の場合、化学式(1)で表される置換基はリンオキソ酸基に由来する置換基に該当する。
【0023】
飽和-直鎖状炭化水素基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、またはn-ブチル基等が挙げられるが、特に限定されない。飽和-分岐鎖状炭化水素基としては、i-プロピル基、またはt-ブチル基等が挙げられるが、特に限定されない。飽和-環状炭化水素基としては、シクロペンチル基、またはシクロヘキシル基等が挙げられるが、特に限定されない。不飽和-直鎖状炭化水素基としては、ビニル基、またはアリル基等が挙げられるが、特に限定されない。不飽和-分岐鎖状炭化水素基としては、i-プロペニル基、または3-ブテニル基等が挙げられるが、特に限定されない。不飽和-環状炭化水素基としては、シクロペンテニル基、シクロヘキセニル基等が挙げられるが、特に限定されない。芳香族基としては、フェニル基、またはナフチル基等が挙げられるが、特に限定されない。
【0024】
また、Rにおける誘導基としては、上記各種炭化水素基の主鎖または側鎖に対し、カルボキシ基、ヒドロキシ基、またはアミノ基などの官能基のうち、少なくとも1種類が付加または置換した状態の官能基が挙げられるが、特に限定されない。また、Rの主鎖を構成する炭素原子数は特に限定されないが、20以下であることが好ましく、10以下であることがより好ましい。Rの主鎖を構成する炭素原子数を上記範囲とすることにより、リンオキソ酸基の分子量を適切な範囲とすることができ、繊維原料への浸透を容易にし、微細繊維状セルロースの収率を高めることもできる。
【0025】
βb+は有機物または無機物からなる1価以上の陽イオンである。有機物からなる1価以上の陽イオンとしては、脂肪族アンモニウム、または芳香族アンモニウムが挙げられ、無機物からなる1価以上の陽イオンとしては、ナトリウム、カリウム、若しくはリチウム等のアルカリ金属のイオンや、カルシウム、若しくはマグネシウム等の2価金属の陽イオン、または水素イオン等が挙げられるが、特に限定されない。これらは1種または2種類以上を組み合わせて適用することもできる。有機物または無機物からなる1価以上の陽イオンとしては、βを含む繊維原料を加熱した際に黄変しにくく、また工業的に利用し易いナトリウム、またはカリウムのイオンが好ましいが、特に限定されない。なお、βb+は有機オニウムイオンであってもよく、この場合、有機アンモニウムイオンであることが特に好ましい。
【0026】
カルボキシ基に由来する置換基としては、例えば、カルボン酸金属塩基、カルボン酸イオン性基(-COO-)、カルボキシアルキル基、アルキルカルボキシ基などがあげられる。カルボキシアルキル基またはアルキルカルボキシ基において、アルキル基の炭素数は、たとえば1以上10以下であることが好ましく、1以上6以下であることがより好ましく、1以上3以下であることがさらに好ましい。アルキル基としては、具体的には、メチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基などの直鎖状アルキル基、i-プロピル基、t-ブチル基などの分岐鎖状アルキル基などが挙げられる。なお、カルボキシ基に由来する置換基は、カルボキシ基が縮合した基(たとえば無水カルボン酸基)として微細繊維状セルロースに含まれていてもよい。カルボキシ基およびカルボキシ基に由来する置換基は、TEMPO酸化処理により導入されたものであることが好ましい。
【0027】
また、硫黄オキソ酸基(硫黄オキソ酸基又は硫黄オキソ酸基に由来する置換基)は、たとえば下記式(2)で表される置換基である。
【化2】
【0028】
上記構造式中、yは自然数であり、xは0または1である。なお、yが2以上である場合、複数あるxは同一の数であってもよく、異なる数であってもよい。上記構造式中、Mは有機物または無機物からなる1価以上の陽イオンである。有機物からなる1価以上の陽イオンとしては、例えば、脂肪族アンモニウム、及び芳香族アンモニウムなどが挙げられ、無機物からなる1価以上の陽イオンとしては、例えば、ナトリウム、カリウム、若しくはリチウム等のアルカリ金属のイオンや、カルシウム、若しくはマグネシウム等の2価金属の陽イオン、水素イオン、及びアンモニウムイオンなどが挙げられるが、特に限定されない。これらは1種または2種類以上を組み合わせて適用することもできる。有機物または無機物からなる1価以上の陽イオンとしては、工業的に利用し易いアンモニウムイオン、ナトリウムイオン、またはカリウムイオンが好ましいが、特に限定されない。
【0029】
微細繊維状セルロースに対するイオン性置換基の導入量は、たとえば微細繊維状セルロース1g(質量)あたり0.10mmol/g以上であることが好ましく、0.20mmol/g以上であることがより好ましく、0.50mmol/g以上であることがさらに好ましく、1.00mmol/g以上であることが特に好ましい。また、微細繊維状セルロースに対するイオン性置換基の導入量は、たとえば微細繊維状セルロース1g(質量)あたり5.20mmol/g以下であることが好ましく、3.65mmol/g以下であることがより好ましく、3.50mmol/g以下であることがさらに好ましく、3.00mmol/g以下であることが特に好ましい。イオン性置換基の導入量を上記範囲内とすることにより、繊維原料の微細化を容易とすることができ、微細繊維状セルロースの安定性を高めることが可能となる。ここで、単位mmol/gにおける分母は、イオン性置換基の対イオンが水素イオン(H+)であるときの微細繊維状セルロースの質量を示す。
【0030】
微細繊維状セルロースに対するイオン性置換基の導入量は、たとえば中和滴定法により測定することができる。中和滴定法による測定では、得られた微細繊維状セルロースを含有するスラリーに、水酸化ナトリウム水溶液などのアルカリを加えながらpHの変化を求めることにより、導入量を測定する。
【0031】
図1は、イオン性置換基としてリンオキソ酸基を有する微細繊維状セルロースを含有する分散液に対するNaOH滴下量とpHの関係を示すグラフである。微細繊維状セルロースに対するリンオキソ酸基の導入量は、たとえば次のように測定される。
まず、微細繊維状セルロースを含有する分散液を強酸性陽イオン交換樹脂で処理する。なお、必要に応じて、強酸性陽イオン交換樹脂による処理の前に、後述の解繊処理工程と同様の解繊処理を測定対象に対して実施してもよい。
次いで、水酸化ナトリウム水溶液を加えながらpHの変化を観察し、
図1の上側部に示すような滴定曲線を得る。
図1の上側部に示した滴定曲線では、アルカリを加えた量に対して測定したpHをプロットしており、
図1の下側部に示した滴定曲線では、アルカリを加えた量に対するpHの増分(微分値)(1/mmol)をプロットしている。この中和滴定では、アルカリを加えた量に対して測定したpHをプロットした曲線において、増分(pHのアルカリ滴下量に対する微分値)が極大となる点が二つ確認される。これらのうち、アルカリを加えはじめて先に得られる増分の極大点を第1終点と呼び、次に得られる増分の極大点を第2終点と呼ぶ。滴定開始から第1終点までに必要としたアルカリ量が、滴定に使用した分散液中に含まれる微細繊維状セルロースの第1解離酸量と等しくなり、第1終点から第2終点までに必要としたアルカリ量が滴定に使用したスラリー中に含まれる微細繊維状セルロースの第2解離酸量と等しくなり、滴定開始から第2終点までに必要としたアルカリ量が滴定に使用した分散液中に含まれる微細繊維状セルロースの総解離酸量と等しくなる。そして、滴定開始から第1終点までに必要としたアルカリ量を滴定対象スラリー中の固形分(g)で除して得られる値が、リンオキソ酸基導入量(mmol/g)となる。なお、単にリンオキソ酸基導入量(またはリンオキソ酸基量)と言った場合は、第1解離酸量のことを表す。
なお、
図1において、滴定開始から第1終点までの領域を第1領域と呼び、第1終点から第2終点までの領域を第2領域と呼ぶ。たとえば、リンオキソ酸基がリン酸基の場合であって、このリン酸基が縮合を起こす場合、見かけ上、リンオキソ酸基における弱酸性基量(第2解離酸量)が低下し、第1領域に必要としたアルカリ量と比較して第2領域に必要としたアルカリ量が少なくなる。一方、リンオキソ酸基における強酸性基量(第1解離酸量)は、縮合の有無に関わらずリン原子の量と一致する。また、リンオキソ酸基が亜リン酸基の場合は、リンオキソ酸基に弱酸性基が存在しなくなるため、第2領域に必要としたアルカリ量が少なくなるか、第2領域に必要としたアルカリ量はゼロとなる場合もある。この場合、滴定曲線において、pHの増分が極大となる点は一つとなる。
【0032】
なお、上述のリンオキソ酸基導入量(mmol/g)は、分母が酸型の微細繊維状セルロースの質量を示すことから、酸型の微細繊維状セルロースが有するリンオキソ酸基量(以降、リンオキソ酸基量(酸型)とも呼ぶ。)を示している。一方で、リンオキソ酸基の対イオンが電荷当量となるように任意の陽イオンCに置換されている場合は、分母を当該陽イオンCが対イオンであるときの微細繊維状セルロースの質量に変換することで、陽イオンCが対イオンである微細繊維状セルロースが有するリンオキソ酸基量(以降、リンオキソ酸基量(C型)とも呼ぶ。)を求めることができる。すなわち、下記計算式によって算出する。
リンオキソ酸基量(C型)=リンオキソ酸基量(酸型)/{1+(W-1)×A/1000}
A[mmol/g]:微細繊維状セルロースが有するリンオキソ酸基由来の総アニオン量(リンオキソ酸基の総解離酸量)
W:陽イオンCの1価あたりの式量(たとえば、Naは23、Alは9)
【0033】
図2は、イオン性置換基としてカルボキシ基を有する微細繊維状セルロースを含有する分散液に対するNaOH滴下量とpHの関係を示すグラフである。微細繊維状セルロースに対するカルボキシ基の導入量は、たとえば次のように測定される。
まず、微細繊維状セルロースを含有する分散液を強酸性陽イオン交換樹脂で処理する。なお、必要に応じて、強酸性陽イオン交換樹脂による処理の前に、後述の解繊処理工程と同様の解繊処理を測定対象に対して実施してもよい。
次いで、水酸化ナトリウム水溶液を加えながらpHの変化を観察し、
図2の上側部に示すような滴定曲線を得る。
図2の上側部に示した滴定曲線では、アルカリを加えた量に対して測定したpHをプロットしており、
図2の下側部に示した滴定曲線では、アルカリを加えた量に対するpHの増分(微分値)(1/mmol)をプロットしている。この中和滴定では、アルカリを加えた量に対して測定したpHをプロットした曲線において、増分(pHのアルカリ滴下量に対する微分値)が極大となる点が一つ確認され、この極大点を第1終点と呼ぶ。ここで、
図2における滴定開始から第1終点までの領域を第1領域と呼ぶ。第1領域で必要としたアルカリ量が、滴定に使用した分散液中のカルボキシ基量と等しくなる。そして、滴定曲線の第1領域で必要としたアルカリ量(mmol)を、滴定対象の微細繊維状セルロースを含有する分散液中の固形分(g)で除すことで、カルボキシ基の導入量(mmol/g)を算出する。
【0034】
なお、上述のカルボキシ基導入量(mmol/g)は、分母が酸型の微細繊維状セルロースの質量であることから、酸型の微細繊維状セルロースが有するカルボキシ基量(以降、カルボキシ基量(酸型)とも呼ぶ。)を示している。一方で、カルボキシ基の対イオンが電荷当量となるように任意の陽イオンCに置換されている場合は、分母を当該陽イオンCが対イオンであるときの微細繊維状セルロースの質量に変換することで、陽イオンCが対イオンである微細繊維状セルロースが有するカルボキシ基量(以降、カルボキシ基量(C型)とも呼ぶ。)を求めることができる。すなわち、下記計算式によって算出する。
カルボキシ基量(C型)=カルボキシ基量(酸型)/{1+(W-1)×(カルボキシ基量(酸型))/1000}
W:陽イオンCの1価あたりの式量(たとえば、Naは23、Alは9)
【0035】
滴定法によるイオン性置換基量の測定においては、水酸化ナトリウム水溶液1滴の滴下量が多すぎる場合や、滴定間隔が短すぎる場合、本来より低いイオン性置換基量となるなど正確な値が得られないことがある。適切な滴下量、滴定間隔としては、たとえば、0.1N水酸化ナトリウム水溶液を5~30秒に10~50μLずつ滴定するなどが望ましい。また、微細繊維状セルロースを含有する分散液に溶解した二酸化炭素の影響を排除するため、たとえば、滴定開始の15分前から滴定終了まで、窒素ガスなどの不活性ガスをスラリーに吹き込みながら測定するなどが望ましい。
【0036】
また、微細繊維状セルロースに対する硫黄オキソ酸基の導入量は、微細繊維状セルロースを含むスラリーを凍結乾燥し、さらに粉砕した試料の硫黄量を測定し、算出することができる。具体的には、微細繊維状セルロースを含むスラリーを凍結乾燥し、さらに粉砕した試料を、密閉容器中で硝酸を用いて加圧加熱分解した後、適宜希釈してICP-OESで硫黄量を測定する。供試した微細繊維状セルロースの絶乾質量で割り返して算出した値を微細繊維状セルロースの硫黄オキソ酸基量(単位:mmol/g)とする。
【0037】
本発明の1以上の実施形態において、微細繊維状セルロースは、特に限定されないが、たとえばセルロースを含む繊維原料にイオン性置換基を導入して得られたイオン性置換基導入繊維を解繊処理することで得ることができる。イオン性置換基導入繊維において、セルロース分子が有するヒドロキシ基の一部がイオン性置換基で置換またはイオン性置換基に変換される。
【0038】
<繊維原料>
微細繊維状セルロースは、セルロースを含む繊維原料から製造される。セルロースを含む繊維原料としては、特に限定されないが、入手しやすく安価である点からパルプを用いることが好ましい。パルプとしては、たとえば木材パルプ、非木材パルプ、および脱墨パルプが挙げられる。木材パルプとしては、特に限定されないが、たとえば広葉樹クラフトパルプ(LBKP)、針葉樹クラフトパルプ(NBKP)、サルファイトパルプ(SP)、溶解パルプ(DP)、ソーダパルプ(AP)、未晒しクラフトパルプ(UKP)および酸素漂白クラフトパルプ(OKP)等の化学パルプ、セミケミカルパルプ(SCP)およびケミグラウンドウッドパルプ(CGP)等の半化学パルプ、砕木パルプ(GP)およびサーモメカニカルパルプ(TMP、BCTMP)等の機械パルプ等が挙げられる。非木材パルプとしては、特に限定されないが、たとえばコットンリンターおよびコットンリント等の綿系パルプ、麻、麦わらおよびバガス等の非木材系パルプが挙げられる。脱墨パルプとしては、特に限定されないが、たとえば古紙を原料とする脱墨パルプが挙げられる。これらのパルプは1種を単独で用いてもよいし、2種以上混合して用いてもよい。上記パルプの中でも、入手のしやすさという観点からは、たとえば木材パルプおよび脱墨パルプが好ましい。また、木材パルプの中でも、セルロース比率が大きく解繊処理時の微細繊維状セルロースの収率が高い観点や、パルプ中のセルロースの分解が小さく軸比の大きい長繊維の微細繊維状セルロースが得られる観点から、たとえば化学パルプがより好ましく、クラフトパルプ、サルファイトパルプがさらに好ましい。なお、軸比の大きい長繊維の微細繊維状セルロースを用いると粘度が高くなる傾向がある。
【0039】
セルロースを含む繊維原料としては、たとえばホヤ類に含まれるセルロースや、酢酸菌が生成するバクテリアセルロースを利用することもできる。また、セルロースを含む繊維原料に代えて、キチン、キトサンなどの直鎖型の含窒素多糖高分子が形成する繊維を用いることもできる。
【0040】
<リンオキソ酸基導入工程>
微細繊維状セルロースの製造工程は、イオン性置換基導入工程を含むことが好ましく、イオン性置換基導入工程としては、たとえば、リンオキソ酸基導入工程が挙げられる。リンオキソ酸基導入工程は、セルロースを含む繊維原料に、リンオキソ酸基を導入できる化合物から選択される少なくとも1種の化合物(以下、「化合物A」ともいう。)を作用させることで、セルロースを含む繊維原料が有するヒドロキシ基とリンオキソ酸基を導入できる化合物を反応させ、セルロースを含む繊維原料が有する一部のヒドロキシ基をイオン性置換基で置換することでリンオキソ酸基導入繊維を得る工程である。
【0041】
上記リンオキソ酸基導入工程では、セルロースを含む繊維原料と化合物Aの反応を、尿素およびその誘導体から選択される少なくとも1種(以下、「化合物B」ともいう。)の存在下で行ってもよい。一方で、化合物Bが存在しない状態において、セルロースを含む繊維原料と化合物Aの反応を行ってもよい。
【0042】
化合物Aを化合物Bの共存下で繊維原料に作用させる方法の一例としては、乾燥状態、湿潤状態またはスラリー状の繊維原料に対して、化合物Aと化合物Bを混合する方法が挙げられる。これらのうち、反応の均一性が高いことから、乾燥状態または湿潤状態の繊維原料を用いることが好ましく、特に乾燥状態の繊維原料を用いることが好ましい。繊維原料の形態は、特に限定されないが、たとえば綿状や薄いシート状であることが好ましい。化合物Aと化合物Bは、それぞれ粉末状、溶媒に溶解させた溶液状または融点以上まで加熱して溶融させた状態で繊維原料に添加してもよい。これらのうち、反応の均一性が高いことから、溶媒に溶解させた溶液状、特に水溶液の状態で添加することが好ましい。また、化合物Aと化合物Bは繊維原料に対して同時に添加してもよく、別々に添加してもよく、混合物として添加してもよい。化合物Aと化合物Bの添加方法としては、特に限定されないが、化合物Aと化合物Bが溶液状の場合は、繊維原料を溶液内に浸漬し吸液させたのちに取り出してもよいし、繊維原料に溶液を滴下してもよい。また、必要量の化合物Aと化合物Bを繊維原料に添加してもよいし、過剰量の化合物Aと化合物Bをそれぞれ繊維原料に添加した後に、圧搾や濾過によって余剰の化合物Aと化合物Bを除去してもよい。
【0043】
本実施形態で使用する化合物Aとしては、リン原子を有し、セルロースとエステル結合を形成可能な化合物であればよく、リン酸もしくはその塩、亜リン酸もしくはその塩、脱水縮合リン酸もしくはその塩、無水リン酸(五酸化二リン)などが挙げられるが特に限定されない。リン酸としては、種々の純度のものを使用することができ、たとえば100%リン酸(正リン酸)や85%リン酸を使用することができる。亜リン酸としては、99%亜リン酸(ホスホン酸)が挙げられる。脱水縮合リン酸は、リン酸が脱水反応により2分子以上縮合したものであり、たとえばピロリン酸、ポリリン酸等を挙げることができる。リン酸塩、亜リン酸塩、脱水縮合リン酸塩としては、リン酸、亜リン酸または脱水縮合リン酸のリチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩などが挙げられ、これらは種々の中和度とすることができる。これらのうち、リン酸基の導入効率が高く、後述する解繊工程で解繊効率がより向上しやすく、低コストであり、かつ工業的に適用しやすい観点から、リン酸、リン酸のナトリウム塩、リン酸のカリウム塩、リン酸のアンモニウム塩、亜リン酸、亜リン酸のナトリウム塩、亜リン酸のカリウム塩、および亜リン酸のアンモニウム塩からなる群から選ばれる一つ以上が好ましく、リン酸、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素アンモニウム、亜リン酸、および亜リン酸ナトリウムからなる群から選ばれる一つ以上がより好ましい。
【0044】
繊維原料に対する化合物Aの添加量は、特に限定されないが、たとえば化合物Aの添加量をリン原子量に換算した場合において、繊維原料(絶乾質量)に対するリン原子の添加量が0.5質量%以上100質量%以下となることが好ましく、1質量%以上50質量%以下となることがより好ましく、2質量%以上30質量%以下となることがさらに好ましい。繊維原料に対するリン原子の添加量を上記範囲内とすることにより、微細繊維状セルロースの収率をより向上させることができる。一方で、繊維原料に対するリン原子の添加量を上記上限値以下とすることにより、収率向上の効果とコストのバランスをとることができる。
【0045】
本実施態様で使用する化合物Bは、上述の通り尿素およびその誘導体から選択される少なくとも一種である。化合物Bとしては、たとえば尿素、ビウレット、1-フェニル尿素、1-ベンジル尿素、1-メチル尿素、および1-エチル尿素等が挙げられる。また、反応の均一性をさらに向上させる観点からは、化合物Aと化合物Bの両方が溶解した水溶液を用いることが好ましい。
【0046】
繊維原料(絶乾質量)に対する化合物Bの添加量は、特に限定されないが、たとえば1質量%以上500質量%以下であることが好ましく、10質量%以上400質量%以下であることがより好ましく、100質量%以上350質量%以下であることがさらに好ましい。
【0047】
セルロースを含む繊維原料と化合物Aの反応においては、化合物Bの他に、たとえば、アミド類またはアミン類を反応系に含んでもよい。アミド類としては、たとえば、ホルムアミド、ジメチルホルムアミド、アセトアミド、ジメチルアセトアミド等が挙げられる。アミン類としては、たとえば、メチルアミン、エチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ピリジン、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン等が挙げられる。これらの中でも、特にトリエチルアミンは良好な反応触媒として働くことが知られている。
【0048】
リンオキソ酸基導入工程においては、繊維原料に化合物A等を添加または混合した後、当該繊維原料に対して加熱処理を施すことが好ましい。加熱処理温度としては、繊維の熱分解や加水分解反応を抑えながら、リンオキソ酸基を効率的に導入できる温度を選択することが好ましい。具体的には50℃以上300℃以下であることが好ましく、100℃以上250℃以下であることがより好ましく、130℃以上200℃以下であることがさらに好ましい。また、加熱処理には、種々の熱媒体を有する機器を利用することができ、たとえば攪拌乾燥装置、回転乾燥装置、円盤乾燥装置、ロール型加熱装置、プレート型加熱装置、流動層乾燥装置、バンド型乾燥装置、濾過乾燥装置、振動流動乾燥装置、気流乾燥装置、減圧乾燥装置、赤外線加熱装置、遠赤外線加熱装置、マイクロ波加熱装置、高周波乾燥装置を用いることができる。
【0049】
本実施形態に係る加熱処理においては、たとえば薄いシート状の繊維原料に化合物Aを含浸等の方法により添加した後、加熱する方法や、ニーダー等で繊維原料と化合物Aを混練または撹拌しながら加熱する方法を採用することができる。これにより、繊維原料における化合物Aの濃度ムラを抑制して、繊維原料に含まれるセルロース繊維表面へより均一にリンオキソ酸基を導入することが可能となる。これは、乾燥に伴い水分子が繊維原料表面に移動する際、溶存する化合物Aが表面張力によって水分子に引き付けられ、同様に繊維原料表面に移動してしまう(すなわち、化合物Aの濃度ムラを生じてしまう)ことを抑制できることに起因するものと考えられる。
【0050】
また、加熱処理に用いる加熱装置は、たとえばスラリーが保持する水分、および化合物Aと繊維原料中のセルロース等が含む水酸基等との脱水縮合(リン酸エステル化)反応に伴って生じる水分を常に装置系外に排出できる装置であることが好ましい。このような加熱装置としては、たとえば送風方式のオーブン等が挙げられる。装置系内の水分を常に排出することにより、リン酸エステル化の逆反応であるリン酸エステル結合の加水分解反応を抑制できることに加えて、繊維中の糖鎖の酸加水分解を抑制することもできる。このため、軸比の高い微細繊維状セルロースを得ることが可能となる。
【0051】
加熱処理の時間は、たとえば繊維原料から実質的に水分が除かれてから1秒以上300分以下であることが好ましく、1秒以上1000秒以下であることがより好ましく、10秒以上800秒以下であることがさらに好ましい。本実施形態では、加熱温度と加熱時間を適切な範囲とすることにより、リンオキソ酸基の導入量を好ましい範囲内とすることができる。
【0052】
リンオキソ酸基導入工程は、少なくとも1回行えば良いが、2回以上繰り返して行うこともできる。2回以上のリンオキソ酸基導入工程を行うことにより、繊維原料に対して多くのリンオキソ酸基を導入することができる。本実施形態においては、好ましい態様の一例として、リンオキソ酸基導入工程を2回行う場合が挙げられる。
【0053】
繊維原料に対するリンオキソ酸基の導入量は、たとえば微細繊維状セルロース1g(質量)あたり、0.10mmol/g以上であることが好ましく、0.20mmol/g以上であることがより好ましく、0.50mmol/g以上であることがさらに好ましく、1.00mmol/g以上であることがさらにより好ましく、1.20mmol/g以上であることが特に好ましい。また、繊維原料に対するリンオキソ酸基の導入量は、たとえば微細繊維状セルロース1g(質量)あたり5.20mmol/g以下であることが好ましく、3.65mmol/g以下であることがより好ましく、3.00mmol/g以下であることがさらに好ましい。リンオキソ酸基の導入量を上記範囲内とすることにより、繊維原料の微細化を容易にし、微細繊維状セルロースの安定性を高めることができる。
【0054】
<カルボキシ基導入工程>
微細繊維状セルロースの製造工程は、イオン性置換基導入工程として、たとえば、カルボキシ基導入工程を含んでもよい。カルボキシ基導入工程は、セルロースを含む繊維原料に対し、オゾン酸化やフェントン法による酸化、TEMPO酸化処理などの酸化処理やカルボン酸由来の基を有する化合物もしくはその誘導体、またはカルボン酸由来の基を有する化合物の酸無水物もしくはその誘導体によって処理することにより行われ、好ましくはTEMPO酸化処理によって行われる。
【0055】
カルボン酸由来の基を有する化合物としては、特に限定されないが、たとえば、マレイン酸、コハク酸、フタル酸、フマル酸、グルタル酸、アジピン酸、イタコン酸等のジカルボン酸化合物やクエン酸、アコニット酸等のトリカルボン酸化合物等が挙げられる。また、カルボン酸由来の基を有する化合物の誘導体としては、特に限定されないが、たとえばカルボキシ基を有する化合物の酸無水物のイミド化物、カルボキシ基を有する化合物の酸無水物の誘導体が挙げられる。カルボキシ基を有する化合物の酸無水物のイミド化物としては、とくに限定されないが、たとえばマレイミド、コハク酸イミド、フタル酸イミド等のジカルボン酸化合物のイミド化物が挙げられる。これらの化合物による処理では、セルロース分子が有するヒドロキシ基と、カルボン酸由来の基を有する化合物などとが脱水反応して、極性基(-COO-)を形成する。
【0056】
カルボン酸由来の基を有する化合物の酸無水物としては、特に限定されないが、たとえば、無水マレイン酸、無水コハク酸、無水フタル酸、無水グルタル酸、無水アジピン酸、無水イタコン酸等のジカルボン酸化合物の酸無水物等が挙げられる。また、カルボン酸由来の基を有する化合物の酸無水物の誘導体としては、特に限定されないが、たとえばジメチルマレイン酸無水物、ジエチルマレイン酸無水物、ジフェニルマレイン酸無水物等のカルボキシ基を有する化合物の酸無水物の少なくとも一部の水素原子が、アルキル基、フェニル基等の置換基により置換されたものが挙げられる。
【0057】
カルボキシ基導入工程において、TEMPO酸化処理を行う場合には、たとえばその処理をpHが6以上8以下の条件で行うことが好ましい。このような処理は、中性TEMPO酸化処理ともいう。中性TEMPO酸化処理は、たとえばリン酸ナトリウム緩衝液(pH=6.8)に、繊維原料としてパルプと、触媒としてTEMPO(2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル)等のニトロキシラジカル、犠牲試薬として次亜塩素酸ナトリウムを添加することで行うことができる。さらに亜塩素酸ナトリウムを共存させることによって、酸化の過程で発生するアルデヒドを、効率的にカルボキシ基まで酸化することができる。また、TEMPO酸化処理は、その処理をpHが10以上11以下の条件で行ってもよい。このような処理は、アルカリTEMPO酸化処理ともいう。アルカリTEMPO酸化処理は、たとえば繊維原料としてのパルプに対し、触媒としてTEMPO等のニトロキシラジカルと、共触媒として臭化ナトリウムと、酸化剤として次亜塩素酸ナトリウムを添加することにより行うことができる。TEMPO酸化処理またはアルカリTEMPO酸化処理により、セルロース分子が有するヒドロキシ基の一部がカルボキシ基に変換する。
【0058】
繊維原料に対するカルボキシ基の導入量は、置換基の種類によっても変わるが、たとえばTEMPO酸化によりカルボキシ基を導入する場合、微細繊維状セルロース1g(質量)あたり0.10mmol/g以上であることが好ましく、0.20mmol/g以上であることがより好ましく、0.50mmol/g以上であることがさらに好ましく、0.90mmol/g以上であることがさらにより好ましく、1.40mmol/g以上であることが特に好ましい。また、微細繊維状セルロース1g(質量)あたり2.50mmol/g以下であることが好ましく、2.20mmol/g以下であることがより好ましく、2.00mmol/g以下であることがさらに好ましい。その他、置換基がカルボキシメチル基である場合、微細繊維状セルロース1g(質量)あたり5.8mmol/g以下であってもよい。
【0059】
<硫黄オキソ酸基導入工程>
微細繊維状セルロースの製造工程は、イオン性置換基導入工程として、例えば、硫黄オキソ酸基導入工程を含んでもよい。硫黄オキソ酸基導入工程は、セルロースを含む繊維原料が有する水酸基と硫黄オキソ酸が反応することで、硫黄オキソ酸基を有するセルロース繊維(硫黄オキソ酸基導入繊維)を得ることができる。
【0060】
硫黄オキソ酸基導入工程では、上述した<リンオキソ酸基導入工程>における化合物Aに代えて、セルロースを含む繊維原料が有する水酸基と反応することで、硫黄オキソ酸基を導入できる化合物から選択される少なくとも1種の化合物(以下、「化合物C」ともいう。)を用いる。化合物Cとしては、硫黄原子を有し、セルロースとエステル結合を形成可能な化合物であればよく、硫酸(ホスホン酸)もしくはその塩、亜硫酸もしくはその塩、硫酸アミドなどが挙げられるが特に限定されない。硫酸(ホスホン酸)としては、種々の純度のものを使用することができ、たとえば96%硫酸(濃硫酸)を使用することができる。亜硫酸としては、5%亜硫酸水が挙げられる。硫酸塩又は亜硫酸塩としては、硫酸又は亜硫酸のリチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩などが挙げられ、これらは種々の中和度とすることができる。硫酸アミドとしては、スルファミン酸などを使用することができる。硫黄オキソ酸基導入工程では、上述した<リンオキソ酸基導入工程>における化合物Bを同様に用いることが好ましい。
【0061】
硫黄オキソ酸基導入工程においては、セルロース原料に硫黄オキソ酸、並びに、尿素及び/又は尿素誘導体を含む水溶液を混合した後、当該セルロース原料に対して加熱処理を施すことが好ましい。加熱処理温度としては、繊維の熱分解や加水分解反応を抑えながら、硫黄オキソ酸基を効率的に導入できる温度を選択することが好ましい。加熱処理温度は、100℃以上であることが好ましく、120℃以上であることがより好ましく、150℃以上であることがさらに好ましい。また、加熱処理温度は、300℃以下であることが好ましく、250℃以下であることがより好ましく、200℃以下であることがさらに好ましい。
【0062】
加熱処理工程では、実質的に水分がなくなるまで加熱をすることが好ましい。このため、加熱処理時間は、セルロース原料に含まれる水分量や、硫黄オキソ酸、並びに、尿素及び/又は尿素誘導体を含む水溶液の添加量によって、変動するが、例えば、10秒以上10000秒以下とすることが好ましい。加熱処理には、種々の熱媒体を有する機器を利用することができ、たとえば熱風乾燥装置、撹拌乾燥装置、回転乾燥装置、円盤乾燥装置、ロール型加熱装置、プレート型加熱装置、流動層乾燥装置、バンド型乾燥装置、ろ過乾燥装置、振動流動乾燥装置、気流乾燥装置、減圧乾燥装置、赤外線加熱装置、遠赤外線加熱装置、マイクロ波加熱装置、高周波乾燥装置を用いることができる。
【0063】
繊維原料に対する硫黄オキソ酸基の導入量は、0.05mmol/g以上であることが好ましく、0.10mmol/g以上であることがより好ましく、0.20mmol/g以上であることがさらに好ましく、0.50mmol/g以上であることがさらにより好ましく、0.90mmol/g以上であることが特に好ましい。また、繊維原料に対する硫黄オキソ酸基の導入量は、5.00mmol/g以下であることが好ましく、3.00mmol/g以下であることがより好ましい。硫黄オキソ酸基の導入量を上記範囲内とすることにより、繊維原料の微細化を容易とすることができ、微細繊維状セルロースの安定性を高めることが可能となる。
【0064】
<洗浄工程>
本実施形態における微細繊維状セルロースの製造方法においては、必要に応じてイオン性置換基導入繊維に対して洗浄工程を行うことができる。洗浄工程は、たとえば水や有機溶媒によりイオン性置換基導入繊維を洗浄することにより行われる。また、洗浄工程は後述する各工程の後に行われてもよく、各洗浄工程において実施される洗浄回数は、特に限定されない。
【0065】
<アルカリ処理工程>
微細繊維状セルロースを製造する場合、イオン性置換基導入工程と、後述する解繊処理工程との間に、イオン性置換基導入繊維に対してアルカリ処理を行ってもよい。アルカリ処理の方法としては、特に限定されないが、たとえば、アルカリ溶液中に、イオン性置換基導入繊維を浸漬する方法が挙げられる。
【0066】
アルカリ溶液に含まれるアルカリ化合物は、特に限定されず、無機アルカリ化合物であってもよいし、有機アルカリ化合物であってもよい。本実施形態においては、汎用性が高いことから、たとえば水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウムをアルカリ化合物として用いることが好ましい。また、アルカリ溶液に含まれる溶媒は、水または有機溶媒のいずれであってもよい。中でも、アルカリ溶液に含まれる溶媒は、水またはアルコールに例示される極性有機溶媒などを含む極性溶媒であることが好ましく、少なくとも水を含む水系溶媒がより好ましい。アルカリ溶液としては、汎用性が高いことから、たとえば水酸化ナトリウム水溶液、または水酸化カリウム水溶液が好ましい。
【0067】
アルカリ処理工程におけるアルカリ溶液の温度は、特に限定されないが、たとえば5℃以上80℃以下が好ましく、10℃以上60℃以下がより好ましい。アルカリ処理工程におけるイオン性置換基導入繊維のアルカリ溶液への浸漬時間は、特に限定されないが、たとえば5分以上30分以下が好ましく、10分以上20分以下がより好ましい。アルカリ処理におけるアルカリ溶液の使用量は、特に限定されないが、たとえばイオン性置換基導入繊維の絶対乾燥質量に対して100質量%以上100000質量%以下であることが好ましく、1000質量%以上10000質量%以下であることがより好ましい。
【0068】
アルカリ処理工程におけるアルカリ溶液の使用量を減らすために、イオン性置換基導入工程の後であってアルカリ処理工程の前に、イオン性置換基導入繊維を水や有機溶媒により洗浄してもよい。アルカリ処理工程の後であって解繊処理工程の前には、取り扱い性を向上させる観点から、アルカリ処理を行なったイオン性置換基導入繊維を水や有機溶媒により洗浄することが好ましい。
【0069】
<酸処理工程>
微細繊維状セルロースを製造する場合、イオン性置換基を導入する工程と、後述する解繊処理工程の間に、繊維原料に対して酸処理を行ってもよい。たとえば、イオン性置換基導入工程、酸処理、アルカリ処理および解繊処理をこの順で行ってもよい。
【0070】
酸処理の方法としては、特に限定されないが、たとえば酸を含有する酸性液中に繊維原料を浸漬する方法が挙げられる。使用する酸性液の濃度は、特に限定されないが、たとえば10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましい。また、使用する酸性液のpHは、特に限定されないが、たとえば0以上4以下であることが好ましく、1以上3以下であることがより好ましい。酸性液に含まれる酸としては、たとえば無機酸、スルホン酸、カルボン酸等を用いることができる。無機酸としては、たとえば硫酸、硝酸、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、次亜塩素酸、亜塩素酸、塩素酸、過塩素酸、リン酸、ホウ酸等が挙げられる。スルホン酸としては、たとえばメタンスルホン酸、エタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸等が挙げられる。カルボン酸としては、たとえばギ酸、酢酸、クエン酸、グルコン酸、乳酸、シュウ酸、酒石酸等が挙げられる。これらの中でも、塩酸または硫酸を用いることが特に好ましい。
【0071】
酸処理における酸溶液の温度は、特に限定されないが、たとえば5℃以上100℃以下が好ましく、20℃以上90℃以下がより好ましい。酸処理における酸溶液への浸漬時間は、特に限定されないが、たとえば5分以上120分以下が好ましく、10分以上60分以下がより好ましい。酸処理における酸溶液の使用量は、特に限定されないが、たとえば繊維原料の絶対乾燥質量に対して100質量%以上100000質量%以下であることが好ましく、1000質量%以上10000質量%以下であることがより好ましい。
【0072】
<解繊処理工程>
イオン性置換基導入繊維を解繊処理工程で解繊処理することにより、微細繊維状セルロースが得られる。解繊処理工程においては、たとえば解繊処理装置を用いることができる。解繊処理装置は、特に限定されないが、たとえば高速解繊機、グラインダー(石臼型粉砕機)、高圧ホモジナイザー、超高圧ホモジナイザー、高圧衝突型粉砕機、ボールミル、ビーズミル、ディスク型リファイナー、コニカルリファイナー、二軸混練機、振動ミル、高速回転下でのホモミキサー、超音波分散機、またはビーターなどを使用することができる。上記解繊処理装置の中でも、粉砕メディアの影響が少なく、コンタミネーションのおそれが少ない高速解繊機、高圧ホモジナイザー、超高圧ホモジナイザーを用いるのがより好ましい。
【0073】
解繊処理工程においては、たとえばイオン性置換基導入繊維を、分散媒により希釈してスラリー状にすることが好ましい。分散媒としては、水および極性有機溶媒などの有機溶媒から選択される1種または2種以上を使用することができる。極性有機溶媒としては、特に限定されないが、たとえばアルコール類、多価アルコール類、ケトン類、エーテル類、エステル類、非プロトン性極性溶媒が好ましい。アルコール類としては、たとえばメタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、t-ブチルアルコール等が挙げられる。多価アルコール類としては、たとえばエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリンなどが挙げられる。ケトン類としては、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)等が挙げられる。エーテル類としては、たとえばジエチルエーテル、テトラヒドロフラン(THF)、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノn-ブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル等が挙げられる。エステル類としては、たとえば酢酸エチル、酢酸ブチル等が挙げられる。非プロトン性極性溶媒としてはジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMAc)、N-メチル-2-ピロリジノン(NMP)等が挙げられる。
【0074】
解繊処理時のイオン性置換基導入繊維の固形分濃度は適宜設定できる。また、イオン性置換基導入繊維を分散媒に分散させて得たスラリー中には、たとえば水素結合性のある尿素などのイオン性置換基導入繊維以外の固形分が含まれていてもよい。
【0075】
本発明の1以上の実施形態において、ハイドロゲルは架橋された親水性高分子で形成されていることが好ましい。ハイドロゲルにおいて、相互に架橋された親水性高分子の網目構造中に微細繊維状セルロースが分散して包埋されていることが好ましい。本発明の1以上の実施形態において、特に指摘がない場合、「親水性高分子」とは、架橋された状態の親水性高分子であってもよく、架橋されていない状態の親水性高分子であってもよいが、「架橋された親水性高分子」とは、架橋された状態の親水性高分子のみを意味する。前記親水性高分子としては、放射線の照射により架橋されてゲルを形成することができるものが好ましい。放射線の照射により架橋されてゲルを形成する親水性高分子(以下において、放射線架橋性親水性高分子とも呼ぶ。)としては、たとえば、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース・ナトリウム、ポリアクリルアミド、ポリアクリロイルモルホリン、水溶性ポリビニルアセタール、ポリ-N-ビニルアセトアミド、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ゼラチン、およびカゼイン、並びにこれらの誘導体等が挙げられる。これら放射線架橋性親水性高分子の誘導体としては、各種のモノマーが共重合やグラフト重合された誘導体や、樹脂が有しているヒドロキシ基、アミノ基、アミド基、カルボキシ基をたとえばエーテル化、エステル化、アミド化、アセタール化して得られる誘導体、および架橋剤により部分的に架橋された誘導体等を例示することができる。
【0076】
また、浸出液の吸収性や生体への密着性等を向上させるために、上記放射線架橋性親水性高分子に加えて、他の親水性高分子を含んでもよい。他の親水性高分子としては、たとえば、合成親水性高分子、半合成親水性高分子、または天然の各種親水性高分子を用いることができる。
【0077】
本発明の1以上の実施形態において、合成親水性高分子としては、特に限定されないが、たとえば、ビニル系親水性高分子、アクリル系親水性高分子、ポリエチレンイミン、およびポリエチレンオキシド等を用いることができる。前記ビニル系親水性高分子としては、たとえば、ポリビニルメチルエーテル、カルボキシビニルポリマー等が挙げられる。前記アクリル系親水性高分子としては、たとえば、ポリアクリル酸ナトリウム等が挙げられる。
【0078】
本発明の1以上の実施形態において、半合成親水性高分子としては、特に限定されないが、たとえば、デンプン系高分子、セルロース系高分子、およびアルギン酸系高分子等を用いることができる。前記デンプン系高分子としては、たとえば、カルボキシメチルデンプン、およびメチルヒドロキシプロピルデンプン等が挙げられる。前記セルロース系高分子としては、たとえば、エチルセルロース、セルロース硫酸ナトリウム等が挙げられる。前記アルギン酸系高分子としては、たとえば、アルギン酸ナトリウム、並びにアルギン酸プロピレングリコールエステル等が挙げられる。
【0079】
本発明の1以上の実施形態において、天然親水性高分子化合物としては、特に限定されないが、たとえば、植物系高分子、微生物系高分子、および動物系高分子等を用いることができる。前記植物系高分子の具体例としては、アラビアガム、トラガカントガム、ガラクタン、グアガム、キャロブガム、カラヤガム、カラギーナン、ペクチン、カンテン、およびデンプン(たとえば、コメ、トウモロコシ、バレイショ、並びにコムギのデンプン)等が挙げられる。前記微生物系高分子の具体例としては、キサンタンガム、デキストリン、デキストラン、サクシノグルカン、およびプルラン等が挙げられる。前記動物系高分子の具体例としては、アルブミン等が挙げられる。
【0080】
上述した親水性高分子は、1種を単独で使用しても、2種以上を併用してもよく、また、2種以上の骨格を有する共重合体でも、2種以上を含む混合物を用いてもよい。
【0081】
本発明の1以上の実施形態において、親水性高分子は、微細繊維状セルロースが分散しやすく、微細繊維状セルロースの存在下で放射線にて照射してハイドロゲルを形成した場合、強度および保水性が向上しやすく、皮膚への貼り付け性および剥離性を両立しやすい観点から、ポリビニルアルコール(以下、単に「PVA」とも記す。)、ポリビニルピロリドンおよびカルボキシメチルセルロース・ナトリウムからなる群から選ばれる1種以上を含むことがより好ましく、ポリビニルアルコールを含むことがさらに好ましい。
【0082】
本発明の1以上の実施形態において、ポリビニルアルコールは、特に限定されないが、JIS K 6726:1994に準じて測定される平均重合度が、たとえば300以上5000以下であることが好ましく、1000以上4000以下であることがより好ましい。また、JIS K 6726:1994に準じて測定されるPVAのけん化度(PVAのビニルアルコール単位のモル%)は、特に限定されないが、たとえば60モル%以上100モル%以下が好適であり、70モル%以上100モル%以下がより好適であり、80モル%以上100モル%以下がさらにより好適である。PVAの平均重合度およびけん化度が上記範囲にあることにより、水分吸収性がよく、水を保持し易いハイドロゲルを形成し易くすることができる。
【0083】
ハイドロゲル中の微細繊維状セルロースの含有量は、特に限定されないが、0.2質量%以上1.8質量%以下であることが好ましく、0.6質量%以上1.8質量%以下であることがより好ましく、1.2質量%以上1.8質量%以下であることが特に好ましい。微細繊維状セルロースの含有量が上述した範囲内であると、ハイドロゲルの保水性および強度が向上しやすく、皮膚への貼り付け性および剥離性が両立しやすい。
【0084】
放射線架橋性親水性高分子の相互架橋を引き起こす放射線としては、特に限定されないが、α線、β線、γ線、X線、電子線、可視光線、紫外線、および赤外線等が挙げられる。これらの放射線のうち、γ線、X線、電子線、可視光線、または紫外線であることが好ましく、線量のコントロールの容易さや滅菌処理も同時に行え、生産性が良いことからγ線または電子線がより好ましく、電子線がさらに好ましい。
【0085】
ハイドロゲルに用いられる親水性高分子は、上記放射線の照射により相互に架橋することから、別途架橋剤を用いなくても、ゲルを形成することができる。そのため、架橋剤を含有しないハイドロゲルとすることで、安全性を高めることができる。
【0086】
ハイドロゲルは、相互に架橋された親水性高分子の網目構造により、水を内包することができる。前記ハイドロゲル中の水の含有量は、特に限定されないが、80質量%以上98質量%以下であることが好ましく、82質量%以上96質量%以下であることがより好ましい。
【0087】
本発明の1以上の実施形態において、ハイドロゲルは、必要に応じて、抗菌剤、防腐剤、酸化防止剤、消泡剤、安定剤、界面活性剤、可塑剤、粘着付与剤、粘度調整剤、着色剤、および薬効成分等を含んでいてもよい。
【0088】
本発明の1以上の実施形態において、ハイドロゲルは、親水性高分子および微細繊維状セルロースを混合して得られたハイドロゲル用組成物を用いて作製することができる。具体的には、ハイドロゲル用組成物に対して放射線を照射して親水性高分子を架橋することでハイドロゲルを形成することができる。このようにして得られたハイドロゲルにおいて、架橋された親水性高分子の網目構造中に微細繊維状セルロースが分散して包埋されることになる。
【0089】
本発明の1以上の実施形態において、ハイドロゲル用組成物は、水に親水性高分子を添加して溶解させた後、得られた親水性高分子の水溶液に微細繊維状セルロースを添加して分散させることで作製することができる。微細繊維状セルロースの分散性を高める観点から、親水性高分子の水溶液と、微細繊維状セルロースの水分散液を混合することで作製することが好ましい。また、混合工程では、必要に応じて、加熱や減圧等の条件下で攪拌を行ってもよい。
【0090】
親水性高分子の水溶液は、特に限定されないが、たとえば、生産性の観点から、親水性高分子を10質量%以上90質量%以下含むことが好ましく、10質量%以上50質量%以下含むことがより好ましい。
【0091】
微細繊維状セルロースの水分散液は、特に限定されないが、たとえば、取扱い性の観点から、微細繊維状セルロースを0.1質量%以上15質量%以下含むことが好ましく、1.0質量%以上3.0質量%以下含むことがより好ましい。
【0092】
本発明の1以上の実施形態において、ハイドロゲル用組成物は、必要に応じて、抗菌剤、防腐剤、酸化防止剤、消泡剤、安定剤、界面活性剤、可塑剤、粘着付与剤、粘度調整剤、着色剤、および薬効成分等を含んでいてもよい。
【0093】
ハイドロゲルを形成する際の上記放射線の照射量は、架橋反応が生じれば特に限定されるものではない。たとえば、γ線、X線および電子線等を照射させて架橋反応を生じさせる場合には、積算照射量は、通常は0.1kGy以上1000kGy以下の範囲が可能であり、好ましくは1kGy以上100kGy以下である。積算照射量を上記範囲とすることで、適度な凝集力(ゲル強度)と水分吸収性を持つ程度に架橋反応を制御することができる。そのため、放射線の積算照射量は、凝集力および水分吸収性が良好なハイドロゲルを形成できるよう、親水性高分子等の用いられる原料種類に応じ、適宜設定するのが好ましい。
【0094】
電子線で照射する場合は、電子線照射装置は、特に限定されず、カーテン方式、スキャン方式またはダブルスキャン方式のものとすればよい。この電子線照射による電子線の加速電圧は、特に限定されないが、たとえば、100kV以上1000kV以下の範囲のものとすればよい。また、電子線の積算照射量は、特に限定されないが、たとえば、5kGy以上100kGy以下の範囲とすればよい。
【0095】
電子線等の放射線を照射する際に、ハイドロゲル用組成物に対して電子線等の放射線を照射し易いように、またはハイドロゲル用組成物が硬化し易いように、たとえば、シート状基材、包装体および成形型等にハイドロゲル用組成物を載置、収容または充填しておくことが好ましい。電子線の照射は、ハイドロゲル用組成物を厚みが0.05mm以上5mm以下となるように塗り広げられた状態で行うことが好ましい。電子線照射後に、ハイドロゲルを水で洗浄してもよい。
【0096】
本発明の1以上の実施形態において、創傷被覆材は、ハイドロゲル(層)の肌側の反対側に積層される支持体層を含んでもよい。支持体層には、柔軟性で透湿性の各種不織布やフィルムを使用することができるが、創傷治癒に適した湿潤環境を保持し、創傷部へのクッション性、保護性の点からポリウレタンフィルムまたはポリウレタンフォームがより好ましい。支持体層は、創傷部へのハイドロゲルの固定、創傷部の外部刺激からの保護の役割を担うと共に、被覆材を創傷治癒に適した湿潤状態に保持するのに役立つ。
【0097】
創傷被覆材は、さらに、ハイドロゲル(層)と支持体層との投錨をよくし、一体化するための中間層を有してもよい。特に支持体層と中間層の間に、疎水性の粘着剤、たとえばアクリル粘着剤がラミネートされている場合には、疎水性粘着剤と親水性のハイドロゲルを一体化させることができる。
【0098】
中間層に用いる材料としては、各種不織布またはフィルムを用いることができるが、ハイドロゲル層とのなじみの良さ、透明性の点からPVA不織布またはPVAフィルムが好ましく、PVA不織布は柔軟性の点でも好ましい。
【0099】
本発明は、特に限定されないが、好ましくは下記の態様を含むことができる。
[1] 少なくともハイドロゲルを有する創傷被覆材であって、
前記ハイドロゲルはイオン性置換基を有する微細繊維状セルロースを含むことを特徴とする創傷被覆材。
[2] 前記イオン性置換基は、リンオキソ酸基、リンオキソ酸基に由来する置換基、カルボキシ基、カルボキシ基に由来する置換基、硫黄オキソ酸基、および硫黄オキソ酸基に由来する置換基からなる群から選ばれる一種以上のアニオン性基である、[1]に記載の創傷被覆材。
[3] 前記微細繊維状セルロースは、平均繊維幅が1000nm以下である、[1]または[2]に記載の創傷被覆材。
[4] 前記ハイドロゲルは、架橋された親水性高分子で形成されている、[1]~[3]のいずれか1項に記載の創傷被覆材。
[5] 前記親水性高分子は、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、およびカルボキシメチルセルロース・ナトリウムからなる群から選ばれる一種以上である、[4]に記載の創傷被覆材。
[6] 前記ハイドロゲルはイオン性置換基を有する微細繊維状セルロースを0.2質量%以上1.8質量%以下含む、[1]~[5]のいずれか1項に記載の創傷被覆材。
[7] 前記イオン性置換基を有する微細繊維状セルロースにおいて、イオン性置換基の導入量は、微細繊維状セルロース単位質量あたり、0.10mmol/g以上5.20mmol/g以下である、[1]~[6]のいずれか1項に記載の創傷被覆材。
[8] 少なくともハイドロゲルを有する創傷被覆材の製造方法であって、
親水性高分子、およびイオン性置換基を有する微細繊維状セルロースを含むハイドロゲル用組成物を用いてハイドロゲルを得る工程を含むことを特徴とする創傷被覆材の製造方法。
[9] 前記ハイドロゲル用組成物は、親水性高分子の水溶液と、イオン性置換基を有する微細繊維状セルロースの水分散液を混合することで得られる、[8]に記載の創傷被覆材の製造方法。
[10] 前記ハイドロゲル用組成物に対して放射線を照射することで親水性高分子を架橋させてハイドロゲルを形成する、[8]または[9]に記載の創傷被覆材の製造方法。
[11] 前記親水性高分子の水溶液は、親水性高分子を10質量%以上90質量%以下含む、[9]または[10]に記載の創傷被覆材の製造方法。
[12] 前記イオン性置換基を有する微細繊維状セルロースの水分散液は、イオン性置換基を有する微細繊維状セルロースを0.1質量%以上15質量%以下含む、[9]~[11]に記載の創傷被覆材の製造方法。
【実施例】
【0100】
以下に実施例と比較例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0101】
(製造例1)
<リンオキソ酸化処理>
原料パルプとして、王子製紙(株)製の針葉樹クラフトパルプ(固形分93質量%、坪量208g/m2シート状、離解してJIS P 8121-2:2012に準じて測定されるカナダ標準濾水度(CSF)が700mL)を使用した。この原料パルプに対してリンオキソ酸化処理を次のようにして行った。まず、上記原料パルプ100質量部(絶乾質量)に、リン酸二水素アンモニウムと尿素の混合水溶液を添加して、リン酸二水素アンモニウム45質量部、尿素120質量部、水150質量部となるように調整し、薬液含浸パルプを得た。次いで、得られた薬液含浸パルプを165℃の熱風乾燥機で200秒加熱し、パルプ中のセルロースにリンオキソ酸基を導入し、リンオキソ酸化パルプを得た。
【0102】
<洗浄処理>
次いで、得られたリンオキソ酸化パルプに対して洗浄処理を行った。洗浄処理は、リンオキソ酸化パルプ100g(絶乾質量)に対して10Lのイオン交換水を注いで得たパルプ分散液を、パルプが均一に分散するよう撹拌した後、濾過脱水する操作を繰り返すことにより行った。濾液の電気伝導度が100μS/cm以下となった時点で、洗浄終点とした。
【0103】
<中和処理>
洗浄後のリンオキソ酸化パルプに対して、さらに上記リンオキソ酸化処理および上記洗浄処理をこの順に1回ずつ行った。次いで、洗浄後のリンオキソ酸化パルプに対して中和処理を次のようにして行った。まず、洗浄後のリンオキソ酸化パルプを10Lのイオン交換水で希釈した後、撹拌しながら1Nの水酸化ナトリウム水溶液を少しずつ添加することにより、pHが12以上13以下のリンオキソ酸化パルプスラリーを得た。次いで、当該リンオキソ酸化パルプスラリーを脱水して、中和処理が施されたリンオキソ酸化パルプを得た。
【0104】
これにより得られたリンオキソ酸化パルプに対しFT-IRを用いて赤外線吸収スペクトルの測定を行った。その結果、1230cm-1付近にリンオキソ酸基のP=Oに基づく吸収が観察され、パルプにリンオキソ酸基が付加されていることが確認された。また、得られたリンオキソ酸化パルプを供試して、X線回折装置にて分析を行ったところ、2θが14°以上17°以下付近と2θが22°以上23°以下付近の2箇所の位置に典型的なピークが確認され、セルロースI型結晶を有していることが確認された。
【0105】
<解繊処理>
得られたリンオキソ酸化パルプにイオン交換水を添加し、固形分濃度が2質量%のスラリーを調製した。このスラリーを、湿式微粒化装置(スギノマシン社製、スターバースト)で200MPaの圧力にて2回処理し、固形分濃度が2質量%の微細繊維状セルロース含有分散液を得た。製造例1で得られた微細繊維状セルロース含有分散液に含まれる微細繊維状セルロースをP-CNFとして、後述の実施例に用いた。
【0106】
X線回折により、製造例1の微細繊維状セルロースがセルロースI型結晶を維持していることが確認された。また、製造例1の微細繊維状セルロースの繊維幅を、透過型電子顕微鏡を用いて測定したところ、繊維幅は3~5nmであった。なお、後述の方法で測定されるリン酸基量(第1解離酸量強酸性基量)は、1.45mmol/gであった。なお、総解離酸量は、2.45mmol/gであった。
【0107】
<置換基量の測定>
P-CNFに含まれるリンオキソ酸基量は、対象となる微細繊維状セルロースを含む微細繊維状セルロース含有分散液をイオン交換水で含有量が0.2質量%となるように希釈して作製した微細繊維状セルロース含有スラリーに対し、イオン交換樹脂による処理を行った後、アルカリを用いた滴定を行うことにより測定した。
イオン交換樹脂による処理は、上記微細繊維状セルロース含有スラリーに体積で1/10の強酸性陽イオン交換樹脂(アンバージェット1024;オルガノ株式会社、コンディショニング済)を加え、1時間振とう処理を行った後、目開き90μmのメッシュ上に注いで樹脂とスラリーを分離することにより行った。
また、アルカリを用いた滴定は、イオン交換樹脂による処理後の微細繊維状セルロース含有スラリーに、0.1Nの水酸化ナトリウム水溶液を5秒に10μLずつ加えながら、スラリーが示すpHの値の変化を計測することにより行った。なお、滴定開始の15分前から窒素ガスをスラリーに吹き込みながら滴定を行った。この中和滴定では、
図1に示すように、アルカリを加えた量に対して測定したpHをプロットした曲線において、増分(pHのアルカリ滴下量に対する微分値)が極大となる点が二つ観測された。これらのうち、アルカリを加えはじめて先に得られる増分の極大点を第1終点と呼び、次に得られる増分の極大点を第2終点と呼ぶ(
図1)。滴定開始から第1終点までに必要としたアルカリ量が、滴定に使用したスラリー中の第1解離酸量と等しくなる。また、滴定開始から第2終点までに必要としたアルカリ量が滴定に使用したスラリー中の総解離酸量と等しくなる。なお、滴定開始から第1終点までに必要としたアルカリ量(mmol)を、滴定対象スラリー中の固形分(g)で除した値をリンオキソ酸基量(第1解離酸量)(mmol/g)とした。また、滴定開始から第2終点までに必要としたアルカリ量(mmol)を、滴定対象スラリー中の固形分(g)で除した値を総解離酸量(mmol/g)とした。
【0108】
(製造例2)
<TEMPO酸化処理>
原料パルプとして、王子製紙(株)製の針葉樹クラフトパルプ(固形分93質量%、坪量208g/m2シート状、離解してJIS P 8121-2:2012に準じて測定されるカナダ標準濾水度(CSF)が700mL)を使用した。この原料パルプに対してTEMPO酸化処理を次のようにして行った。
【0109】
まず、乾燥質量100質量部相当の上記原料パルプと、TEMPO(2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル)1.6質量部と、臭化ナトリウム10質量部を、水10000質量部に分散させた。次いで、13質量%の次亜塩素酸ナトリウム水溶液を、1.0gのパルプに対して10mmolになるように加えて反応を開始した。反応中は0.5Mの水酸化ナトリウム水溶液を滴下してpHを10以上10.5以下に保ち、pHに変化が見られなくなった時点で反応終了と見なした。
【0110】
<洗浄処理>
次いで、得られたTEMPO酸化パルプに対して洗浄処理を行った。洗浄処理は、TEMPO酸化後のパルプスラリーを脱水し、脱水シートを得た後、5000質量部のイオン交換水を注ぎ、撹拌して均一に分散させた後、濾過脱水する操作を繰り返すことにより行った。濾液の電気伝導度が100μS/cm以下となった時点で、洗浄終点とした。
【0111】
また、得られたTEMPO酸化パルプを供試して、X線回折装置にて分析を行ったところ、2θが14°以上17°以下付近と2θが22°以上23°以下付近の2箇所の位置に典型的なピークが確認され、セルロースI型結晶を有していることが確認された。
【0112】
<解繊処理>
得られたTEMPO酸化パルプにイオン交換水を添加し、固形分濃度が2質量%のスラリーを調製した。このスラリーを、湿式微粒化装置(スギノマシン社製、スターバースト)で200MPaの圧力にて2回処理し、固形分濃度が2質量%の微細繊維状セルロース含有分散液を得た。製造例2で得られた微細繊維状セルロース含有分散液に含まれる微細繊維状セルロースをC-CNFとして、後述の実施例に用いた。
【0113】
X線回折により、製造例2の微細繊維状セルロースがセルロースI型結晶を維持していることが確認された。また、製造例2の微細繊維状セルロースの繊維幅を、透過型電子顕微鏡を用いて測定したところ、繊維幅は3~5nmであった。なお、後述の方法で測定されるカルボキシ基量(第1解離酸量強酸性基量)は、1.80mmol/gだった。
【0114】
<置換基量の測定>
C-CNFに含まれるカルボキシ基量は、対象となる微細繊維状セルロースを含む微細繊維状セルロース含有分散液をイオン交換水で含有量が0.2質量%となるように希釈して作製した微細繊維状セルロース含有スラリーに対し、イオン交換樹脂による処理を行った後、アルカリを用いた滴定を行うことにより測定した。
イオン交換樹脂による処理は、上記微細繊維状セルロース含有スラリーに体積で1/10の強酸性陽イオン交換樹脂(アンバージェット1024;オルガノ株式会社、コンディショニング済)を加え、1時間振とう処理を行った後、目開き90μmのメッシュ上に注いで樹脂とスラリーを分離することにより行った。
また、アルカリを用いた滴定は、イオン交換樹脂による処理後の微細繊維状セルロース含有スラリーに、0.1Nの水酸化ナトリウム水溶液を5秒に10μLずつ加えながら、スラリーが示すpHの値の変化を計測することにより行った。なお、滴定開始の15分前から窒素ガスをスラリーに吹き込みながら滴定を行った。この中和滴定では、
図2に示すように、アルカリを加えた量に対して測定したpHをプロットした曲線において、増分(pHのアルカリ滴下量に対する微分値)が極大となる点が一つ観測された。この増分の極大点を第1終点と呼ぶ(
図2)。ここで、
図2における滴定開始から第1終点までの領域を第1領域と呼ぶ。第1領域で必要としたアルカリ量が、滴定に使用したスラリー中のカルボキシ基量と等しくなる。そして、滴定曲線の第1領域で必要としたアルカリ量(mmol)を、滴定対象スラリー中の固形分(g)で除すことで、カルボキシ基の導入量(mmol/g)を算出した。
【0115】
(製造例3)
(硫黄オキソ酸化処理)
原料パルプとして、王子製紙(株)製の針葉樹クラフトパルプ(固形分93質量%、坪量245g/m2シート状、離解してJIS P 8121-2:2012に準じて測定されるカナダ標準濾水度(CSF)が700mL)を使用した。この原料パルプに対して硫黄オキソ酸化処理を次のようにして行った。まず、上記原料パルプ100質量部(絶乾質量)に、アミド硫酸と尿素の混合水溶液を添加して、アミド硫酸38質量部、尿素120質量部、水150質量部となるように調製し、薬液含浸パルプを得た。次いで、得られた薬液含浸パルプを165℃の熱風乾燥機で19分間加熱し、パルプ中のセルロースに硫酸基を導入し、硫黄オキソ酸化パルプを得た。
【0116】
<洗浄処理>
次いで、得られた硫黄オキソ酸化パルプに対して洗浄処理を行った。洗浄処理は、硫黄オキソ酸化パルプ100g(絶乾質量)に対して10Lのイオン交換水を注いで得たパルプ分散液を、パルプが均一に分散するよう撹拌した後、濾過脱水する操作を繰り返すことにより行った。ろ液の電気伝導度が100μS/cm以下となった時点で、洗浄終点とした。
【0117】
次いで、洗浄後の硫黄オキソ酸化パルプに対して中和処理を次のようにして行った。まず、洗浄後の硫黄オキソ酸化パルプを10Lのイオン交換水で希釈した後、撹拌しながら1Nの水酸化ナトリウム水溶液を少しずつ添加することにより、pHが12以上13以下の硫黄オキソ酸化パルプスラリーを得た。次いで、当該硫黄オキソ酸化パルプスラリーを脱水して、中和処理が施された硫黄オキソ酸化パルプを得た。次いで、中和処理後の硫黄オキソ酸化パルプに対して、上記洗浄処理を行い、硫黄オキソ酸化パルプ(1回中和済み)を得た。
【0118】
得られた硫黄オキソ酸化パルプに、上記中和処理と、洗浄処理をさらに4回繰り返して、硫黄オキソ酸化パルプ(5回中和済み)を得た。
【0119】
<解繊処理>
得られた硫黄オキソ酸化パルプ(5回中和済み)にイオン交換水を添加後、撹拌し、固形分濃度が0.5質量%のスラリーにした。このスラリーを、解繊処理装置(高速回転解繊処理装置 クレアミックス2.2S エム・テクニック社製)を用いて21500回転/分の条件で30分間解繊処理を行い、繊維幅が3~5nmである微細繊維状セルロース含有分散液を得た。製造例3で得られた微細繊維状セルロース含有分散液に含まれる微細繊維状セルロースをS-CNFとして、後述の実施例に用いた。なお、後述の方法で測定される硫黄オキソ酸基量は、1.20mmol/gだった。
【0120】
<置換基量の測定>
S-CNFに含まれる硫黄オキソ酸基量は、凍結乾燥及び粉砕処理後の試料を密閉容器中で硝酸を用いて加圧加熱分解し、適宜希釈してICP-OESで硫黄量を測定した。供試した微細繊維状セルロースの絶乾質量で割り返して算出した値を硫黄オキソ酸基量(mmol/g)とした。
【0121】
(実施例1)
PVAの水溶液(和光純薬のPVA(「160-08295」、けん化度:72~82モル%、平均重合度:約2,000)を用いて作製した20質量%(w/w)水溶液、以下においても同様である。)40質量部(PVA水溶液の質量は0.8g)に製造例1で得られたP-CNFの水分散液60質量部(P-CNF水分散液の質量は1.2g)を添加してミクロスパーテルで撹拌することで混合してハイドロゲル用組成物を得た。該ハイドロゲル用組成物を、ポリスチレン製シャーレ上に厚みが1mmとなるように薄く広げた。次に、エレクトロカーテン型電子線照射装置EC250/30/90L(岩崎電気社製)を用い、窒素雰囲気下で、加速電圧250kVで50kGyの電子線を照射して架橋反応を行った。その後、得られたハイドロゲル(以下、PVA-P-CNFゲルとも記す。)にイオン交換水を添加し、ミクロスパーテルでPVA-P-CNFゲルをポリスチレン製シャーレから剥離した。剥離したPVA-P-CNFゲルをイオン交換水で5回洗浄し、未反応のPVAを除去した。
【0122】
(実施例2)
PVAの水溶液40質量部(PVA水溶液の質量は0.8g)に製造例2で得られたC-CNFの水分散液60質量部(C-CNF水分散液の質量は1.2g)を添加して撹拌・混合して得られたハイドロゲル用組成物を用いた以外は、実施例1と同様にしてハイドロゲル(以下、PVA-C-CNFゲルとも記す。)を作製した。
【0123】
(実施例3)
PVAの水溶液40質量部(PVA水溶液の質量は0.8g)に製造例3で得られたS-CNFの水分散液60質量部(S-CNF水分散液の質量は1.2g)を添加して撹拌・混合して得られたハイドロゲル用組成物を用いた以外は、実施例1と同様にしてハイドロゲル(以下、PVA-S-CNFゲルとも記す。)を作製した。
【0124】
(比較例1)
PVAの水溶液40質量部(PVA水溶液の質量は0.8g)のみを用いた以外は、実施例1と同様にしてハイドロゲル(以下、PVAゲルとも記す。)を得た。
【0125】
実施例1~3および比較例1のハイドロゲルの保水率を下記のように測定し、比較例1の保水率を100%とした場合の相対保水率(%)の結果を下記表1に示した。
【0126】
(保水率の測定)
以下の手順に従って、保水率を測定した。なお、保水率が高いほど、保水力が高いことになる。
(1)ハイドロゲルを室温(20℃)で72時間以上風乾し、乾燥質量を測定した(W0)。
(2)乾燥したゲルの質量に対して150倍量以上のイオン交換水に乾燥したゲルを入れ、24時間吸水させた。
(3)吸水した含水ゲルを取り出し、ろ紙(No.5C(Advantec製))上で10秒間、過剰の水分を除去した後、質量を測定した(W1)。
(4)次式により保水率WR(%)を求めた。
WR(%)=(W1-W0)/(W0)×100
【0127】
【0128】
上記表1の結果から分かるように、実施例1、実施例2および実施例3のハイドロゲルの相対保水率は、比較例1の3倍以上であり、実施例1、実施例2および実施例3のハイドロゲルは比較例1のハイドロゲルに比べて格段に高い保水力を有していた。これは、実施例1、実施例2および実施例3のハイドロゲルが、イオン性置換基を有する微細繊維状セルロースを含むことに起因する。また、実施例1、実施例2および実施例3のハイドロゲルは、イオン性置換基を有する微細繊維状セルロースを含むことから、強度が高まり破れにくく、たとえば、ピンセット等でつまんだ時のハンドリング性が良好であるとともに、所定のサイズにカットしやすかった。
【0129】
(実施例4)
PVAの水溶液40質量部にP-CNFの水分散液60質量部を添加して撹拌することで混合してハイドロゲル用組成物を得た。該ハイドロゲル用組成物におけるPVAおよびP-CNFの割合は実施例1におけるハイドロゲル用組成物と同じである。該ハイドロゲル用組成物1gを6ウェルプレートにのせ、約2cm径くらい(25φ)になるように形を整えた。次に、エレクトロカーテン型電子線照射装置EC250/30/90L(岩崎電気社製)を用い、窒素雰囲気下で、加速電圧250kVで50kGyの電子線を照射して架橋反応を行った。その後、得られたハイドロゲル(以下、PVA-P-CNFゲルとも記す。)をミクロスパーテルにてプレートからはがし、ピンセットでつまんでイオン交換水で洗浄し、未反応のPVAを除去した。その後、イオン交換水中に保管し、冷蔵保存した。
【0130】
(比較例2)
PVAの水溶液のみを用いた以外は、実施例4と同様にしてハイドロゲルを得た。
【0131】
(参考例1)
医療用ガーゼタイプI(4層)を20mm角に裁断して参考例1として用いた。
【0132】
実施例4および比較例2のハイドロゲル、並びに参考例1のガーゼを用いて下記のように創傷治癒効果を確認した。
【0133】
(創傷治癒試験)
(1)使用動物
(1.1)動物種,系統および性別:ラット,Slc:Wistar,SPF,雄
(1.2)供給源:日本エスエルシー株式会社(静岡県浜松市)
(1.3)週齢および使用数:
入荷時週齢:15週齢;入荷時:19匹
試験実施時の週齢:16~17週齢
(1.4)検疫および馴化方法
(a)入荷後7日間の検疫・馴化期間を設けた。
(b)検疫・馴化期間中に、一般状態を1日1回観察し、動物入荷の翌日および検疫・馴化終了日に体重を測定した。
(c)検疫・馴化期間中の一般状態と体重成績で順調な発育が認められた健康な動物を試験に使用した。
(1.5)群分け方法
馴化終了日の体重に基づいて、全例のラットについて体重の重い動物から2匹および軽い動物から2匹を除いた15匹を選択し、コンピュータを用いた完全無作為抽出法により各群の体重の平均が等しくなるよう3群に群分けを行った。
(2)群構成および処理方法
(2.1)群構成、被験物質、投与用量、処置および例数
【表2】
(2.2)対照物質および被験物質の投与方法
(a)投与回数および投与期間:1日1枚の被覆材を8日間貼付した。
(b)投与方法:創傷部位を完全に覆うように被覆材を貼付し、ラットが被覆材を剥がさないように防水フィルム(ニチバン株式会社)を貼った。防水フィルムを伸縮テープ(ティアライトテープ、ミューラージャパン株式会社)で固定した後、ラット用のジャケット(服)を着用させた。
(3)操作項目
(3.1)状態観察
被験物質貼付期間中は,全例について状態を毎日観察した。
(3.2)体重測定
被験物質貼付1日目(創傷作製日)から貼付9日目まで毎日体重を測定した。
(3.3)皮膚創傷の作製
ラットに麻酔を行い、直径15mmの欠損創を作製した。
(3.4)皮膚創傷の写真撮影および面積測定
(a)被験物質貼付1日目(創傷作製日)から貼付8日目の被験物質貼付前および創傷作製日から9日目にデジタルカメラ(Power Shot S3 IS、キャノン株式会社)で創傷部位を撮影した。
(b)撮影した創傷デジタル画像から創傷部位を画像ソフト(Photo Studio 4 for Canon、ArcSoft. Inc.)を用いてマーキングした後,ImageJ(Ver.10.2)により面積(cm
2)を測定した。
(c)被験物質の貼付開始日の創傷部の面積を100%として各測定日における面積比(%)を算出した。
(4)統計学的方法
(a)各測定値は群毎に平均値±標準誤差で表した。
(b)被験物質貼付日における創傷部の面積および面積比の群間比較については,それぞれA1~A3群の3群でTukeyの多重比較検定を行った。
(c)統計解析には、StatLightR(ユックムス株式会社)を使用し、有意水準は5%未満とした。
【0134】
ラットの背部に創傷を作製した後、被覆材として実施例4のPVA-P-CNFゲル、比較例2のハイドロゲルおよび参考例1のガーゼを9日間貼付したときのラットの体重推移を
図3に示した。いずれの貼付群も創傷作製の翌日から緩やかな体重の減少を示したが、実施例4のPVA-P-CNFゲル、比較例2のハイドロゲルおよび参考例1のガーゼを貼付した群の各測定日の体重については,いずれの測定日においても有意な変化は認められず,貼付期間中の一般状態についても特記すべき異常は観察されなかった。なお、被覆材のラット皮膚に対する貼り付け性および剥離性も良好であった。
【0135】
創傷作製日(Day1)から被覆材として実施例4のPVA-P-CNFゲル、比較例2のハイドロゲルおよび参考例1のガーゼを貼付した最終日(Day9)までのDay1の創傷面積を100%としたときの面積比を
図4に示した。被覆材として実施例4のPVA-P-CNFゲル、比較例2のハイドロゲルおよび参考例1のガーゼを貼付した群の作製時の創傷面積の平均値は,それぞれ2.10、1.85および2.08cm
2であった。Day1の創傷面積を100%としたときの面積比について、Day9までに実施例4のPVA-P-CNFゲル、比較例2のハイドロゲルおよび参考例1のガーゼ貼付群では,それぞれ30.1、35.8および47.4%まで減少を示した。参考例1のガーゼ貼付群の創傷面積比に対して、実施例4のPVA-P-CNFゲルおよび比較例2のハイドロゲル貼付群ではDay2からDay9まで有意な減少を示すとともに、Day3からDay6では比較例2のハイドロゲル貼付群に比べて、実施例4のPVA-P-CNFゲル貼付群で創傷面積比の有意な減少が認められた。