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特許7489397R-CHOPとの組み合わせ及び複合薬におけるチダミドの適用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-15
(45)【発行日】2024-05-23
(54)【発明の名称】R-CHOPとの組み合わせ及び複合薬におけるチダミドの適用
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/4406 20060101AFI20240516BHJP
   A61K 31/475 20060101ALI20240516BHJP
   A61K 31/573 20060101ALI20240516BHJP
   A61K 31/675 20060101ALI20240516BHJP
   A61K 31/704 20060101ALI20240516BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20240516BHJP
   A61P 35/02 20060101ALI20240516BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240516BHJP
【FI】
A61K31/4406
A61K31/475
A61K31/573
A61K31/675
A61K31/704
A61K39/395 N
A61P35/02
A61P43/00 121
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021551329
(86)(22)【出願日】2019-11-18
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-28
(86)【国際出願番号】 CN2019119170
(87)【国際公開番号】W WO2020103788
(87)【国際公開日】2020-05-28
【審査請求日】2022-08-15
(31)【優先権主張番号】201811394614.7
(32)【優先日】2018-11-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】521129554
【氏名又は名称】シェンチェン チップスクリーン バイオサイエンシズ カンパニー、リミテッド
(73)【特許権者】
【識別番号】521216142
【氏名又は名称】ルイ ジン ホスピタル アフィリエイテッド トゥー シャンハイ ジャオ トン ユニバーシティー スクール オブ メディスン
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ルー、シエンビン
(72)【発明者】
【氏名】チャオ、ウェイリー
(72)【発明者】
【氏名】フー、シン
(72)【発明者】
【氏名】シュー、ペンペン
(72)【発明者】
【氏名】リュー、ティン
【審査官】梅田 隆志
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/017858(WO,A1)
【文献】XU, P., et al.,Blood,2017年,Vol.130, Suppl_1,p.4126.
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-31/80
A61K 39/00-39/44
A61P 1/00-43/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
B細胞リンパ腫を治療するための医薬の製造における、チダミドの使用であって、該医薬は、以下の表の投与方法に従って、リツキシマブ(R)、シクロホスファミド(CTX)、エピルビシン(EPI)、ビンクリスチン(VCR)及びプレドニゾン(Pred)と組み合わせて投与される、

【表1】


上記使用。
【請求項2】
前記B細胞リンパ腫が、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫である、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記びまん性大細胞型B細胞リンパ腫が、CD20陽性である、請求項2に記載の使用。
【請求項4】
チダミドと
リツキシマブ(R)、シクロホスファミド(CTX)、エピルビシン(EPI)、ビンクリスチン(VCR)及びプレドニゾン(Pred)との投与が、21日間毎に1回、6コース繰り返される、請求項1~3のいずれか一項に記載の使用。
【請求項5】
チダミドを含む、B細胞リンパ腫の治療のための医薬組成物であって、該医薬組成物は、以下の表の投与方法に従って、
リツキシマブ(R)、シクロホスファミド(CTX)、エピルビシン(EPI)、ビンクリスチン(VCR)及びプレドニゾン(Pred)と組み合わせて投与される、

【表2】

上記医薬組成物。
【請求項6】
前記B細胞リンパ腫が、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫である、請求項に記載の医薬組成物。
【請求項7】
前記びまん性大細胞型B細胞リンパ腫が、CD20陽性である、請求項に記載の医薬組成物。
【請求項8】
チダミドと
リツキシマブ(R)、シクロホスファミド(CTX)、エピルビシン(EPI)、ビンクリスチン(VCR)及びプレドニゾン(Pred)との投与が、21日間毎に1回、6コース繰り返される、請求項のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2018年11月20日に中国特許庁に提出された、発明の名称は「R-CHOPと組み合わせたチダミド及びその複合薬の使用」である、出願番号201811394614.7の中国特許出願の優先権を主張し、その内容全体が参照により本出願に組み込まれる。
【0002】
本発明は、医学の技術分野、特にR-CHOPと組み合わせたチダミド(Chidamide)及びその複合薬の使用に関する。
【背景技術】
【0003】
B細胞リンパ腫は、主にびまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)、濾胞性リンパ腫(FL)、辺縁帯B細胞リンパ腫(MZL)、マントル細胞リンパ腫(MCL)などを含む。現在、シクロホスファミド(CTX)、アドリアマイシン(ADR)、ビンクリスチン(VCR)及びプレドニゾン(Pred)を組み合わせたリツキシマブ(R)のR-CHOPレジメンが、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)の標準的な一次治療レジメンとして使用され(DLBCL)、良好な長期生存を達成している。現在の従来の免疫化学療法では、依然として3分の1の患者において治療効果がみられないか若しくは再発し、従来の化学療法の組み合わせの変更や標的薬物の追加など、まだ効果の改善の余地がある。高リスクの高齢DLBCL患者は、R-CHOPに対する有効性が低く、CR率は僅か約70%であり、長期生存も低いため、有効性を早急に改善する必要がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
発明の構成
【0005】
これを考慮して、本発明の目的は、B細胞リンパ腫を治療するための医薬の製造における、及び/又はB細胞リンパ腫の治療におけるR-CHOPと組み合わせたチダミドの使用を提供することである。その中で、R-CHOPとは、現場でのR-CHOP複合薬レジメン、つまり、シクロホスファミド(CTX)、アドリアマイシンまたはエピルビシン(ADR/EPI)、ビンクリスチン(VCR)及びプレドニゾン(Pred)と組み合わせたリツキシマブ(R)の複合薬レジメンを示し、本発明を実施するための特定の実施形態では、治療される特定の疾患としてびまん性大細胞型B細胞リンパ腫に対して臨床試験が行われた。
【0006】
チダミド(Epidaza)は、中国で独自に研究開発されたサブタイプ選択的ヒストンデアセチラーゼ(HDAC)阻害剤であり、クラス1.1の新薬である。その第一の適応症に対するチダミドの使用(再発性又は難治性末梢T細胞リンパ腫(PTCL)の単剤療法)は、2014年12月23日に中国食品医薬品局(CFDA)によって承認され、したがって、それは、世界で販売が承認されているこの適応症に対する最初の経口サブタイプ選択的HDAC阻害剤である。チダミドは、主にHDACのクラスIのサブタイプ1、2及び3並びにクラスIIbのサブタイプ10を標的とし、腫瘍の異常なエピジェネティックな機能に対する調節効果を有する。それは、関連するHDACサブタイプを阻害してクロマチンヒストンのアセチル化レベルを増加させることによりクロマチンリモデリングを誘導し、したがって、複数のシグナル伝達経路の遺伝子発現の変化(すなわち、エピジェネティックな変化)をもたらし、それによって腫瘍細胞周期を阻害して腫瘍細胞アポトーシスを誘導し、身体の細胞免疫に対する全体的な調節活性をもたらし、ナチュラルキラー細胞(NK)及び抗原特異的細胞傷害性T細胞(CTL)によって媒介される腫瘍殺傷効果が誘導及び増強される。また、チダミドは腫瘍幹細胞の分化の誘導やエピジェネティックな調節メカニズムを介して腫瘍細胞の上皮間葉表現型遷移(EMT)を逆転させるなどの機能を有し、それにより、薬剤耐性腫瘍細胞の薬剤に対する感受性の回復及び腫瘍の転移や再発などの阻害において潜在的な役割を果たす。
【0007】
チダミドの第I相臨床試験の結果は、T細胞非ホジキン悪性リンパ腫の単剤療法におけるチダミドの有効寛解率が80%であることを示したが、登録されたB細胞非ホジキンリンパ腫患者の3例では、1例はチダミドによる治療後に疾患の進行を示し、他の2例は治癒効果のない安定した疾患を示したため、上記の結果は、チダミド単独ではB細胞リンパ腫の治療に有効性を示さなかったことを示唆した。
【発明の効果】
【0008】
しかしながら、R-CHOPと組み合わされたチダミドが、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫の治療において相乗効果を示し、特に、新たに治療される高リスク及び高齢のDLBCL患者に対してより良好な効力を有することが、本発明において予想外に見出された。本発明の複合薬戦略を用いた後の中期評価では、合計31名の評価可能な患者のCR率は90.3%、PR率は6.5%であった。最終評価では、合計23人の評価可能な患者のCR率は87%、ORRは100%だった。この臨床試験の結果は、チダミドと組み合わせたR-CHOPが、R-CHOPレジメンと比較して、新たに治療される高齢の高リスクびまん性大細胞型B細胞リンパ腫の治療において有意に改善された有効性を有することを示した。
【0009】
技術的効果に基づいて、本発明は、同時、個別又は連続の投与のための有効量のチダミド、リツキシマブ、シクロホスファミド、アドリアマイシン又はエピルビシン、ビンクリスチン及びプレドニゾンを含む、提案された使用による複合薬を具体的に提供する。
【0010】
同時に、本発明は、上記の複合薬を主な活性成分として使用し、互いに影響しない他の活性成分及び/又は調製添加剤とともに添加される、B細胞リンパ腫を治療するための製剤も提供する。互いに影響しない他の活性成分は、B細胞リンパ腫を治療するための活性成分、又は他の疾患を治療するための活性成分、あるいはその2つの組み合わせであり得る。
【0011】
さらに、本発明は、同時に、個別に又は連続して、有効量のチダミド、リツキシマブ、シクロホスファミド、アドリアマイシン又はエピルビシン、ビンクリスチン及びプレドニゾンを投与することを含む、B細胞リンパ腫を治療するための方法も提供する。
【0012】
上記の技術的解決策から、本発明は、B細胞リンパ腫に対して相乗的な治療効果を有するR-CHOPと組み合わせたチダミドの治療レジメンの使用を提案し、臨床試験を通じて、R-CHOPと組み合わせたチダミドのレジメンがR-CHOPレジメンと比較して、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫の治療においてより優れた効果を示すことを検証し、この使用により、B細胞リンパ腫の患者をより効率的に治療できることが分かる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、R-CHOPと組み合わせたチダミド及びその複合薬の使用を開示し、当業者は、本明細書の内容から学び、同様のものを達成するためにプロセスパラメータを適切に改善することができる。すべての類似した置換及び改変は当業者には明らかであり、それらはすべて本発明に含まれるとみなされることは特に指摘されるべきである。本発明の使用は、好ましい例を通して説明されており、当業者は、本発明の技術を実施及び適用するために、本発明の内容、精神および範囲から逸脱することなく、本明細書に記載の使用に変更又は適切な変更及び組み合わせを明らかに加えることができる。
【0014】
以下は、本発明によって提供されるR-CHOPと組み合わせたチダミド及びその複合薬の使用のさらなる説明である。
【実施例
【0015】
例1:新たに治療される高齢の高リスクびまん性大細胞型B細胞リンパ腫の治療におけるR-CHOPレジメンと組み合わせたチダミドの前向き、単群、オープン第II相試験
【0016】
試験薬:チダミド錠:オフホワイト錠、5mg/錠。深センチップスクリーンバイオサイエンス株式会社製。化学療法薬と組み合わせたR-CHOP:シクロホスファミド(CTX)、アドリアマイシン又はエピルビシン(ADR/EPI)、ビンクリスチン(VCR)、プレドニゾン(Pred)と組み合わせたリツキシマブ(R)。
【0017】
ケースの数:合計49人の患者がこの臨床試験に登録されることが計画された。
【0018】
登録基準:登録されるためには、患者は次のすべての基準を満たさなければならない。
1.組織病理学的にびまん性大細胞型B細胞リンパ腫と診断され、CD20陽性;
2.年齢:61歳以上、75歳以下;
3.ECOGの身体状態スコア:0、1、又は2ポイント;
4.悪性腫瘍の病歴がなく、同時に他の腫瘍の発生なし;
5.治験責任医師の判断によると、少なくとも6か月の平均余命を有する患者;
6.患者またはその法定代理人は、特別な検査又は研究手順を行う前に、書面でインフォームドコンセントを提供しなければならない;
7.国際予後指標(IPI):>1ポイント
【0019】
治療レジメン:
1.研究対象の薬剤の名称と投与量を以下の表に示し、以下の表の投与方法を患者に適用した。
【表1】
【0020】
被験者は、21日に1回、6コースのチダミドと組み合わせたR-CHOPレジメンを連続して受けた。被験者は、治療が完了した後(患者は時間とイベントの表に記載されたフォローアップ期間に入る)、処方されたフォローアップ期間が終了するまで(合計研究期間は3年だった)、又は患者が離脱基準を満たすまで、絶え間なく評価された。
【0021】
継続治療に必要な条件は以下のとおりであり、以下の条件が満たされれば、次の治療コースは計画通りに実施される:
(1)骨髄抑制後、好中球と血小板の総数は上昇段階にあった;
(2)次の治療コースの初日に、血中好中球≧1.0×10/L、WBC≧3.0×10/L;
(3)次の治療コースの初日、血小板数≧75×10/L;
満たされない場合は、次の治療コースを3~4日間遅らせ、血液細胞検査を繰り返す必要がある。それでも上記の指標に達しない場合は、上記の化学療法基準が満たされるまで、治療はさらに3~4日間延期される。治療が14日以上延期され、それでも基準が満たされない場合、患者は治療を中止し、これは有害事象として記録される。患者は、プロトコルの要求に応じて絶えずフォローアップされる。
【0022】
細胞毒性薬の削減基準:
(1)グレード2以上の神経毒性を有する患者の場合、VCRは1mgに減少した、
(2)好中球または血小板の総数が不十分な場合は、化学療法薬の削減を検討する必要がある。これは、以下の標準を参照して実行され得る:
[1]次の治療コースの遅延時間が0~7日以内の場合:元の投与量を維持する必要がある;
[2]次の治療コースの遅延時間が8~14日以内の場合、又は最後の治療コースでグレード4の骨髄抑制が発生した場合は、次のように投与量を調整する必要がある:
CTX 75%
EPI 75%
VCR 100%
Pred 100%
チダミド 100%
【0023】
チダミド:病気が進行しなかった場合、又は容認し得ない副作用がなかった場合は、投与を継続することが推奨された。治療プロセス全体で、グレード3~4の骨髄抑制が発生した場合は、好中球の絶対値が1.5×10/L以上に回復し、血小板が75.0×10/L以上に回復するまで投与を中断し、その後、この製品による治療が継続され得る。
【0024】
3.併用投与と治療:
化学療法の最初のコースでは、大きな腫瘍量(巨大な腫瘤又は500u/L以上の乳酸デヒドロゲナーゼ)又はPSが2又は胃腸NHL(胃腸穿孔の予防)を有する患者には、アロプリノールと重曹を投与する必要があり、プレドニゾンは最初に経口投与することができ、必要に応じて、腫瘍崩壊症候群を予防するために化学療法を2日で投与することができる。
【0025】
顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF):臨床的プロンプトに基づいて、セラピストが必要であると判断した場合にのみ使用され得る。G-CSFの使用は、CRFテーブルに記録する必要がある。
【0026】
有害事象による併用治療が報告基準を満たしている場合は、それも報告する必要があり、その内容はCRFフォームの有害事象ページに記入する必要がある。必要に応じて、患者は全血及び血液製剤の注入、抗生物質治療、制吐治療などを含む適切な支持療法を受ける必要がある。治療理由、及び患者の投与量と治療日もCRFテーブルに記録する必要がある。
【0027】
巨大な腫瘤のある患者に対して、放射線療法を行うべきかどうかを決定するのは治験責任医師の責任だった。
【0028】
臨床試験結果:中間評価では、評価可能な合計31名の患者について、CR率は90.3%、PR率は6.5%だった。最終評価では、合計23人の評価可能な患者のCR率は87%、ORRは100%だった。
【0029】
この臨床試験の結果は、チダミドと組み合わせたR-CHOPが、R-CHOPレジメンと比較して、新たに治療される高齢の高リスクびまん性大細胞型B細胞リンパ腫の治療において有意に改善された有効性を有することを示した。
【0030】
上記は、本発明の好ましい実施形態にすぎない。当業者にとって、本発明の原理から逸脱することなく、いくつかの改善および修正を行うことができ、これらの改善および修正もまた、本発明の保護範囲に含まれると見なされるべきであることに留意されたい。