(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-15
(45)【発行日】2024-05-23
(54)【発明の名称】医療用二層フィルム及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
A61L 31/12 20060101AFI20240516BHJP
A61L 31/04 20060101ALI20240516BHJP
B32B 5/24 20060101ALI20240516BHJP
B32B 5/30 20060101ALI20240516BHJP
【FI】
A61L31/12
A61L31/04 120
B32B5/24
B32B5/30
(21)【出願番号】P 2022074301
(22)【出願日】2022-04-28
【審査請求日】2022-04-28
(32)【優先日】2021-10-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】TW
(73)【特許権者】
【識別番号】501296612
【氏名又は名称】南亞塑膠工業股▲分▼有限公司
【氏名又は名称原語表記】NAN YA PLASTICS CORPORATION
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】廖 徳超
(72)【発明者】
【氏名】鐘 敏帆
(72)【発明者】
【氏名】袁 敬堯
(72)【発明者】
【氏名】鄭 文瑞
【審査官】工藤 友紀
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/093162(WO,A1)
【文献】特表2015-509147(JP,A)
【文献】特表2008-508444(JP,A)
【文献】特開2008-188994(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第105727346(CN,A)
【文献】特開2011-025581(JP,A)
【文献】J Biomed Mater Res Part B: Appl Biomater,2019年,Vol.107B,pp.2030-2039
【文献】J Biomed Mater Res Part B: Appl Biomater,2004年,Vol.70B,pp.191-202
【文献】Polymers,2019年,Vol.11,653 (page 1-18)
【文献】J. Appl. Polym. Sci.,2013年,Vol.130,pp.2311-2319
【文献】Applied Surface Science,2020年,Vol.509,145033 (page 1-8)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L
B32B
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
親水性繊維及び親水性粒子を含む親水性物質層と、
前記親水性物質層に積層で設置された
静電紡糸疎水性物質層と、を備える医療用二層フィルムであって、
前記親水性繊維及び前記親水性粒子は、親水性ポリマーを含み、
前記親水性ポリマーは、ヒアルロン酸、カルボキシメチルセルロース、コラーゲン、ゼラチン、アルギン酸塩及びキトサンからなる群から選択され、
前記
静電紡糸疎水性物質層は、疎水性ポリマーを含み、前記疎水性ポリマーは、ポリ乳酸(polylactic acid,PLA)、ポリカプロラクトン(polycaprolactone,PCL)、ポリヒドロキシアルカノエート(polyhydroxyalkanoates,PHA)、ポリグリコール酸(polyglycolic acid,PGA)又はそれらの組み合わせるものである、ことを特徴とする医療用二層フィルム。
【請求項2】
前記親水性ポリマーの分子量は、2000~2000000である、請求項1に記載の医療用二層フィルム。
【請求項3】
前記親水性繊維は賦形剤を更に含み、
前記親水性繊維において、前記親水性ポリマーと前記賦形剤との重量比(親水性ポリマー:賦形剤)は、1:30~5:1である、請求項1に記載の医療用二層フィルム。
【請求項4】
前記
静電紡糸疎水性物質層は、直径が200nm~3000nmである疎水性繊維で形成される、請求項1に記載の医療用二層フィルム。
【請求項5】
引張強度は、1.1MPa~5.2MPaである、請求項1に記載の医療用二層フィルム。
【請求項6】
親水性溶液で親水性繊維及び親水性粒子を含む親水性物質層を形成することと、
前記親水性物質層及
び前記親水性物質層に積層で設置された
静電紡糸疎水性物質層を備えた医療用二層フィルムを製造することと、を含み、
前記親水性繊維及び前記親水性粒子は、親水性ポリマーを含み、
前記親水性ポリマーは、ヒアルロン酸、カルボキシメチルセルロース、コラーゲン、ゼラチン、アルギン酸塩及びキトサンからなる群から選択され、
前記
静電紡糸疎水性物質層は、疎水性ポリマーを含み、前記疎水性ポリマーは、ポリ乳酸(polylactic acid,PLA)、ポリカプロラクトン(polycaprolactone,PCL)、ポリヒドロキシアルカノエート(polyhydroxyalkanoates,PHA)、ポリグリコール酸(polyglycolic acid,PGA)又はそれらの組み合わせるものである、ことを特徴とする医療用二層フィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療用二層フィルム及びその製造方法に関し、特に、癒着防止効果を果たせる、医療用二層フィルム及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
手術後、患者の体内にさまざまな傷がでる。傷の治癒過程で体液や血液がにじみ出たり、傷が他の臓器に接触すると癒着(adhesion)を引き起こすことがある。癒着の発生を防ぐために、医師は手術後に癒着防止フィルム(anti-adhesion film)で傷口を覆い、癒着の可能性を減らす。
【0003】
従来の癒着防止フィルムはいずれも単層構造であり、癒着防止フィルムを形成する成分がポリ乳酸又はカルボキシメチルセルロースであることは多い。しかしながら、ポリ乳酸(polylactic acid)やカルボキシメチルセルロース(carboxymethyl cellulose)で製造された癒着防止フィルムは未だ欠点を有するため、応用にとって不利となる。
【0004】
ポリ乳酸が疎水性物質であるため、ポリ乳酸で製造された癒着防止フィルムは、傷口に貼りにくい問題を有する。医者は、癒着防止フィルムを傷口に固定するために、更に縫合する必要がある。
【0005】
カルボキシメチルセルロースで製造された癒着防止フィルムは傷口への付着が容易であるが、水を吸収するとカルボキシメチルセルロースが膨潤し、手袋や器具への付着が容易になる。したがって、カルボキシメチルセルロースで製造された癒着防止フィルムを使用する場合、タイベック(Tyvek(登録商標))と組み合わせることが多い。タイベックで癒着防止フィルムを覆うことによって、縫合や他の手順を容易にする。
【0006】
上記内容によれば、ポリ乳酸又はカルボキシメチルセルロースで製造された癒着防止フィルムはいずれも、使用上に欠点を有するため、未だ改善する余地がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする技術の課題は、従来技術の不足に対し、医療用二層フィルム及びその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の技術的課題を解決するために、本発明が採用する一つの技術的手段は、医療用二層フィルムを提供する。医療用二層フィルムは、親水性物質層と親水性物質層に設置された疎水性物質層とを、備える。親水性物質層は、親水性繊維、親水性粒子又はそれらの組み合わせを含み、親水性繊維及び親水性粒子は、親水性ポリマーを含有する。
【0009】
一つの実施形態において、親水性ポリマーは、ヒアルロン酸(hyaluronic acid)、カルボキシメチルセルロース(carboxymethyl cellulose)、コラーゲン(collagen)、ゼラチン(gelatin)、アルギン酸塩(alginate)及びキトサン(chitosan)からなる群から選択される。
【0010】
一つの実施形態において、親水性ポリマーの分子量は、2000~2000000である。
【0011】
一つの実施形態において、親水性繊維は賦形剤を更に含み、親水性繊維において、親水性ポリマーと賦形剤との重量比(親水性ポリマー:賦形剤)は、1:30~5:1である。
【0012】
一つの実施形態において、疎水性物質層は、直径が200nm~3000nmである疎水性繊維で形成される。
【0013】
一つの実施形態において、疎水性物質層は静電紡糸で形成される。
【0014】
一つの実施形態において、医療用二層フィルムの引張強度は、1.1MPa~5.2MPaである。
【0015】
上記の技術的課題を解決するために、本発明が採用するもう一つの技術的手段は、医療用二層フィルムの製造方法を提供する。医療用二層フィルムの製造方法は、エレクトロスピニング溶液を用いて静電紡糸で親水性物質層を形成することと、親水性繊維を含む親水性物質層及び親水性物質層に設置された疎水性物質層を備えた医療用二層フィルムを製造することと、を含む。親水性繊維は親水性ポリマーを含む。
【0016】
一つの実施形態において、親水性繊維は賦形剤を更に含み、エレクトロスピニング溶液は、アルコール5重量%~75重量%と、水25重量%~95重量%と、親水性ポリマー0.5重量%~5重量%と、賦形剤2重量%~15重量%とを含む。
【0017】
上記の技術的課題を解決するために、本発明が採用するもう一つの技術的手段は、医療用二層フィルムの製造方法を提供する。医療用二層フィルムの製造方法は、親水性溶液で親水性繊維、親水性粒子又はそれらの組み合わせを含む親水性物質層を形成することと、親水性物質層及び親水性物質層に設置された疎水性物質層を備えた医療用二層フィルムを製造することと、を含む。親水性繊維及び親水性粒子は、親水性ポリマーを含有する。
【発明の効果】
【0018】
本発明の有利な効果として、本発明に係る医療用二層フィルム及びその製造方法は、「親水性物質層は、親水性繊維、親水性粒子又はそれらの組み合わせで形成される」、「疎水性物質層が前記親水性物質層に設置される」といった技術特徴により、医療用単層フィルムの使用不便を解決するためのものである。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明に係る医療用二層フィルムの使用模式図である。
【
図2】本発明に係る医療用二層フィルムの側面断面図である。
【
図3】
図2におけるIII部分の部分拡大模式図である。
【
図4】本発明に係る医療用二層フィルムの製造方法を実施するための静電紡糸装置を示す模式図である。
【
図5】
図2におけるV部分の部分拡大模式図である。
【
図6】本発明の一つの実施形態に係る医療用二層フィルムの製造方法のフローチャートである。
【
図7】本発明のもう一つの実施形態に係る医療用二層フィルムの製造方法のフローチャートである。
【
図8】本発明のもう一つの実施形態に係る医療用二層フィルムの製造方法のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の特徴及び技術内容がより一層分かるように、以下の本発明に関する詳細な説明と添付図面を参照されたい。しかし、提供される添付図面は参考と説明のために提供するものに過ぎず、本発明の請求の範囲を制限するためのものではない。
【0021】
以下、所定の具体的な実施態様によって「医療用二層フィルム及びその製造方法」を説明し、当業者は、本明細書に開示された内容に基づいて本発明の利点と効果を理解することができる。本発明は、他の異なる具体的な実施態様によって実行または適用でき、本明細書における各細部についても、異なる観点と用途に基づいて、本発明の構想から逸脱しない限り、各種の修正と変更を行うことができる。また、事前に説明するように、本発明の添付図面は、簡単な模式的説明であり、実際のサイズに基づいて描かれたものではない。以下の実施形態に基づいて本発明に係る技術内容を更に詳細に説明するが、開示される内容によって本発明の保護範囲を制限することはない。また、本明細書において使用される「または」という用語は、実際の状況に応じて、関連して挙げられる項目におけるいずれか1つまたは複数の組み合わせを含むことがある。
【0022】
図1及び
図2に示すように、本発明の医療用二層フィルムは、積層で設置された親水性物質層1と疎水性物質層2とを備える。親水性物質層1と疎水性物質層2とは直接に接着される。なかでも、親水性物質層1は、傷口Aと接触し、良好な付着性を有する。疎水性物質層2は、傷口Aと周囲の器官との癒着を防止し、且つ医療機器Tや医療用消耗品に付着しにくいため、本発明の医療用二層フィルムは、良好な使いやすさを有する。
【0023】
使いやすさの点から見ると、医療用二層フィルムの総厚さは、10μm~100μmである。なかでも、親水性物質層1の厚さは、5μm~50μmであり、疎水性物質層2の厚さは、5μm~90μmである。好ましくは、疎水性物質層2の厚さは、親水性物質層1の厚さより厚い。より好ましくは、疎水性物質層2と親水性物質層1との厚さ比(疎水性物質層2:親水性物質層1)は、2:1~6:1である。それによって、本発明の医療用二層フィルムは、取りやすいとの効果を果たせる。
【0024】
本発明の親水性物質層1は、エレクトロスピニング又は塗布で形成されてもよいが、本発明はこれに制限されるものではない。親水性物質層1は、親水性繊維、親水性粒子又はそれらの組み合わせを含む。
【0025】
一つの実施形態において、
図3に示すように、親水性物質層1は、1本以上の親水性繊維11で形成される。親水性繊維11は、親水性ポリマーを含む。親水性ポリマーは、生体適合性高分子であり、例えば、親水性ポリマーは、ヒアルロン酸、コラーゲン、ゼラチン、アルギン酸塩、キトサン又はそれらの組み合わせであってもよい。また、親水性ポリマーの分子量は、2000~2000000であり、6000~200000であることが好ましい。
【0026】
一つの実施形態において、親水性繊維11は、賦形剤を更に含んでもよい。賦形剤に親水性ポリマーが付着されて、親水性物質層1の構造特性を改善することができる。例えば、賦形剤は例えば、ポリビニルアルコール(polyvinyl alcohol,PVA)、ポリエチレングリコール(polyethylene glycol,PEG)、ポリビニルピロリドン(polyvinyl pyrrolidone,PVP)、カルボキシメチルセルロース(carboxymethyl cellulose)、ステアリン酸(stearic acid)、でん粉又はそれらの組み合わせであってもよい。また、賦形剤の分子量は、1000~2000000であり、100000~600000であることが好ましい。例えば、賦形剤がポリビニルアルコールである場合、ポリビニルアルコールの分子量は、2000000以下である。賦形剤がポリエチレングリコールである場合、ポリビニルアルコールの分子量は、1000000以下である。
【0027】
もう一つの実施形態において、親水性物質層1は、1つ以上の親水性粒子で形成される。好ましくは、親水性粒子の粒子径は、30μm~200μmである。親水性粒子は親水性ポリマーを含む。親水性ポリマーは、生体適合性高分子であり、例えば、親水性ポリマーは、ヒアルロン酸、コラーゲン、ゼラチン、アルギン酸塩、キトサン又はそれらの組み合わせであってもよい。また、親水性ポリマーの分子量は、2000~2000000であり、6000~200000であることが好ましい。
【0028】
本発明において、塗布で親水性繊維を含む親水性物質層及び親水性粒子を含む親水性物質層を形成し、両種の親水性物質層の接觸角を測定した。測定の結果については、表1に示すように、親水性粒子を含む親水性物質層は、より優れた親水性を有する。
【0029】
【0030】
もう一つの実施形態において、親水性物質層1は親水性繊維及び親水性粒子の両方で形成される。親水性繊維及び親水性粒子の材料について、前述と同様であるので、ここでその説明を省略する。
【0031】
親水性物質層1が親水性繊維11で形成される場合、親水性物質層1は、エレクトロスピニング又は塗布で形成されることができる。一つの具体的な実施形態において、親水性物質層1は、静電紡糸装置3を用いて、静電紡糸で形成される。
【0032】
図4に示すように、静電紡糸装置3は、紡糸口金31、高電圧電源32及びコレクタ板33を備える。紡糸口金31は、貯液槽311及びノズル312を含む。第1ノズル312と貯液槽311の底部の流体とが連通される。高電圧電源32の正極及び負極はそれぞれ、ノズル312及びコレクタ板33に電気的に接続されている。
【0033】
使用する際に、エレクトロスピニング溶液Lを貯液槽311に入れて、高電圧電源32で紡糸口金31とコレクタ板33との間に所定の強度を有する電界を生成する。エレクトロスピニング溶液Lがノズル312から吐出され、硬化でコレクタ板33に沈積した親水性繊維11を形成する。紡糸口金31の移動を制御することによって、親水性繊維11が所定の方向で緊密に積み重ねられたり、ねじれたり、織り交ぜられたりし、均一な厚さを有する親水性物質層1を形成する。
【0034】
エレクトロスピニング溶液Lの主成分として、固形分及び固形分を分散させるための溶剤を含む。親水性物質層を形成するためのエレクトロスピニング溶液Lにおける固形分は、親水性ポリマー及び賦形剤を含む。溶剤は、細胞毒性がなく、医療材料の仕様に準拠している水性溶媒であり、例えば、水及びアルコールの混合物である。なかでも、水とアルコールとの重量比(水:アルコール)は、1:9~9:1であっでもよい。
【0035】
一つの好ましい実施形態において、親水性物質層1を形成するためのエレクトロスピニング溶液Lは、アルコール5重量%~75重量%と、水25重量%~95重量%と、親水性ポリマー0.5重量%~5重量%と、賦形剤2重量%~15重量%とを含むが、本発明はこれに制限されるものではない。
【0036】
また、静電紡糸装置3で制御できるパラメータは、エレクトロスピニング溶液Lの濃度、紡糸温度、電界強度、収集距離(又は、紡糸距離とも称す)、収集時間などを含む。本実施形態において、紡糸温度が5℃~95℃であり、10℃~90℃であることが好ましい。電圧強度は、5kV~60kVであり、10kV~25kVであることが好ましい。エレクトロスピニング溶液Lの吐出速度は、0.1cc/min~10cc/minである。ノズル312とコレクタ板33との間にある収集距離は、15cm~90cmである。しかしながら、上述したパラメータはあくまでも静電紡糸の実施例に過ぎなく、本発明はこれに制限されるものではない。
【0037】
親水性繊維11は、前記親水性ポリマー及び賦形剤(即ち、エレクトロスピニング溶液における固形分である)を含む。親水性ポリマーと賦形剤との重量比(親水性ポリマー:賦形剤)は、1:30~5:1であり、1:10~3:1であることが好ましい。
【0038】
図5に示すように、本発明の疎水性物質層2は、1本以上の疎水性繊維21で形成されるが、本発明はこれに制限されるものではない。微視的に、疎水性物質層2は多孔質構造である。疎水性繊維21の直径は、200nm~3000nmであるため、疎水性物質層2に基材とする適切な構造強度を与える。しかしながら、疎水性物質層2の構造はこれに制限されるものではない。疎水性物質層2は、中実体層、または他の構造の層であってもよい。
【0039】
疎水性物質層2は、エレクトロスピニング、塗布又は押出で形成されてもよい。一つの好ましい実施形態において、疎水性物質層2は、上記の親水性物質層を形成する方法と類似するように静電紡糸で形成される。両者の相違点は、疎水性物質層2を形成するためのエレクトロスピニング溶液Lは、親水性物質層1を形成するためのエレクトロスピニング溶液Lと相違する。
【0040】
疎水性物質層2を形成するためのエレクトロスピニング溶液Lは、疎水性ポリマーを含有する固形分及び溶剤を含む。
【0041】
疎水性物質層2は、疎水性ポリマーを含む。疎水性ポリマーは、ポリ乳酸(polylactic acid,PLA)、ポリカプロラクトン(polycaprolactone,PCL)、乳酸グリコール酸共重合体(poly(lactic-co-glycolic acid,PLGA)、ポリヒドロキシアルカノエート(polyhydroxyalkanoates,PHA)、ポリグリコール酸(polyglycolic acid,PGA)又はそれらの組み合わせであってもよい。
【0042】
一つの好ましい実施形態において、疎水性ポリマーはポリ乳酸であり、D型ポリ乳酸及びL型ポリ乳酸を同時に含む。特筆すべきことは、疎水性ポリマーがポリ乳酸である場合、エレクトロスピニング溶液Lは、D型ポリ乳酸及びL型ポリ乳酸を同時に含む必要がある。そうでなければ、ポリ乳酸は、均一な分散液を形成することができない。一つの実施形態において、D型ポリ乳酸とL型ポリ乳酸との重量比(D型ポリ乳酸:L型ポリ乳酸)は、1:9~9:1であり、5:5~8:2であることが好ましい。より好ましくは、D型ポリ乳酸の含有量は、L型ポリ乳酸の含有量を超える。
【0043】
溶剤は、細胞毒性のない有機溶媒である。溶剤は、例えば、アセトン、ブタノン、エチレングリコール、ヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)及びイソプロパノールの中の一つと、脱アセチル化キチン(DAC)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMAC)、ジメチルスルホキシド(DMSO)及びエチルエーテルの中の一つとを含んでもよい。一つの好ましい実施形態において、有機溶剤は、アセトンとジメチルアセトアミドとの混合物であり、アセトンとジメチルアセトアミドとの重量比(アセトン:ジメチルアセトアミド)は、1:9~9:1である。
【0044】
一つの好ましい実施形態において、疎水性物質層2を形成するためのエレクトロスピニング溶液Lは、ブタノン85重量%~99.5重量%(99重量%を含む)と疎水性ポリマー0.5重量%~15重量%とを含むが、本発明はこれに制限されるものではない。
【0045】
特筆すべきことは、静電紡糸で疎水性繊維を形成する場合、疎水性ポリマーの結晶性に影響しない。よって、本発明の静電紡糸で形成された疎水性物質層2は、ホットプレスで形成された疎水性物質層2に比べて、より優れた引張強度を有する。
【0046】
一つの好ましい実施形態において、親水性物質層1及び疎水性物質層2はいずれも、静電紡糸で形成される。微視的には、親水性物質層1と疎水性物質層2との間に、移行領域を有する。移行領域において、親水性繊維11及び疎水性繊維22は、厚み方向に絡み合っていることによって、親水性物質層1と疎水性物質層2との間に十分な接着力を有する。よって、本発明の医療用二層フィルムは、良好な弾性及び伸展性を有する。
【0047】
市販の、押出法で製造された単層ポリ乳酸の癒着防止フィルムの、ASTM D882に基づいて測定された引張強度は、0.3MPaである。本発明は、静電紡糸で親水性物質層1及び疎水性物質層2がそれぞれ形成された医療用二層フィルムの、ASTM D882に基づいて測定された引張強度は、2.58MPaである。
【0048】
本発明の医療用二層フィルムの製造方法は、親水性物質層を形成することと、親水性物質層を備えた医療用二層フィルムを製造することと、を含む。なかでも、親水性物質層は、親水性繊維、親水性粒子又はそれらの組み合わせを含む。親水性繊維又は親水性粒子は、親水性ポリマーを含有する。医療用二層フィルムは、親水性物質層に設置された疎水性物質層を更に備える。
【0049】
特筆すべきことは、親水性物質層1及び疎水性物質層2の形成順が限られず、即ち、疎水性物質層2を先に形成した後に、疎水性物質層2に親水性物質層1を形成したり、親水性物質層1を先に形成した後に、親水性物質層1に疎水性物質層2を形成してもよい。
【0050】
図6に示すように、本発明の一つの実施形態に係る医療用二層フィルムの製造方法は、親水性物質層1を形成するための第1のエレクトロスピニング溶液及び疎水性物質層2を形成するための第2のエレクトロスピニング溶液を調製する工程(工程S1)と、第1のエレクトロスピニング溶液を用いて静電紡糸でコレクタ板33にスプレーする工程(工程S2a)と、第1のエレクトロスピニング溶液を乾燥・硬化することで、親水性物質層1を形成する工程(工程S3a)と、第2のエレクトロスピニング溶液を用いて静電紡糸で親水性物質層1にスプレーする工程(工程S4a)と、第2のエレクトロスピニング溶液を乾燥・硬化することで、親水性物質層1に疎水性物質層2を形成して、医療用二層フィルムを得る工程(工程S5a)と、を含む。
【0051】
図7に示すように、本発明のもう一つの実施形態に係る医療用二層フィルムの製造方法は、親水性物質層1を形成するための第1のエレクトロスピニング溶液及び疎水性物質層2を形成するための第2のエレクトロスピニング溶液を調製する工程(工程S1)と、第2のエレクトロスピニング溶液を用いて静電紡糸でコレクタ板33にスプレーする工程(工程S2b)と、第2のエレクトロスピニング溶液を乾燥・硬化することで、疎水性物質層2を形成する工程(工程S3b)と、第1のエレクトロスピニング溶液を用いて静電紡糸で疎水性物質層2にスプレーする工程(工程S4b)と、第1のエレクトロスピニング溶液を乾燥・硬化することで、疎水性物質層2に親水性物質層1を形成して、医療用二層フィルムを得る工程(工程S5b)と、を含む。
【0052】
前記医療用二層フィルムの製造方法により製造された医療用二層フィルムは、良好な弾性及び伸展性を有する。また、親水性物質層1と疎水性物質層2との間に、移行領域を有する。移行領域において、親水性繊維11及び疎水性繊維22は、厚み方向に絡み合っていることによって、親水性物質層1と疎水性物質層2との間に十分な接着力を有する。
【0053】
図8に示すように、本発明のもう一つの実施形態に係る医療用二層フィルムの製造方法は、親水性繊維、親水性粒子又はそれらの組み合わせを含む親水性物質層1を形成するための親水性溶液を調製し、親水性繊維及び親水性粒子が親水性ポリマーを含有する工程(工程S1c)と、親水性溶液で親水性物質層1を形成する工程(工程S2c)と、親水性物質層1を備えた医療用二層フィルムを製造する工程(工程S3c)と、を含む。工程S2cにおいて、親水性物質層1を形成する方法として、塗布であってもよいが、本発明はこれに制限されるものではない。工程S3cにおいて、疎水性物質層2に親水性物質層1を形成したり、先に親水性物質層1を形成した後に、親水性物質層1に疎水性物質層2を設置してもよい。
【0054】
[実施形態による有利な効果]
本発明の有利な効果として、本発明に係る医療用二層フィルム及びその製造方法は、「親水性物質層1は、親水性繊維11、親水性粒子又はそれらの組み合わせで形成される」、「疎水性物質層2が前記親水性物質層1に設置される」といった技術特徴により、医療用単層フィルムの使用不便を解決するためのものである。
【0055】
更に説明すると、「前記親水性物質層1は静電紡糸で形成される」といった技術特徴により、医療用二層フィルムの引張強度を向上させることができる。
【0056】
更に説明すると、「前記親水性物質層1は親水性粒子を含む」といった技術特徴により、医療用二層フィルムにおける親水性物質層1の親水性を向上させることができる。
【0057】
更に説明すると、「疎水性物質層2は、直径が200nm~3000nmである疎水性繊維21で形成される」といった技術特徴により、医療用二層フィルムの構造強度及び引張強度を向上させることができる。
【0058】
以上に開示された内容は、ただ本発明の好ましい実行可能な実施態様であり、本発明の請求の範囲はこれに制限されない。そのため、本発明の明細書及び図面内容を利用して成される全ての等価な技術変更は、いずれも本発明の請求の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0059】
1…親水性物質層
11…親水性繊維
2…疎水性物質層
21…疎水性繊維
3…静電紡糸装置
31…紡糸口金
311…貯液槽
312…ノズル
32…高電圧電源
33…コレクタ板
A…傷口
T…医療機器
L…エレクトロスピニング溶液