(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-15
(45)【発行日】2024-05-23
(54)【発明の名称】炭素繊維集合体及びその製造方法、並びに非水電解質二次電池用電極合剤層
(51)【国際特許分類】
D01F 9/14 20060101AFI20240516BHJP
D01F 9/12 20060101ALI20240516BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20240516BHJP
H01M 4/13 20100101ALI20240516BHJP
C01B 32/05 20170101ALN20240516BHJP
【FI】
D01F9/14
D01F9/12
H01M4/62 Z
H01M4/13
C01B32/05
(21)【出願番号】P 2022146100
(22)【出願日】2022-09-14
(62)【分割の表示】P 2020539395の分割
【原出願日】2019-08-22
【審査請求日】2022-10-13
(31)【優先権主張番号】P 2018158388
(32)【優先日】2018-08-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003001
【氏名又は名称】帝人株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100163120
【氏名又は名称】木村 嘉弘
(72)【発明者】
【氏名】小村 伸弥
【審査官】長谷川 大輔
(56)【参考文献】
【文献】再公表特許第2011/089754(JP,A1)
【文献】国際公開第2005/087991(WO,A1)
【文献】特開2017-008429(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B32/00-32/991
D01F9/08-9/32
H01M4/00-4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均繊維径が100~1000nmであり、
平均繊維長が10~30μmであり、分岐構造を有さず、かつ繊維径の変動係数(CV値)が0.50を超え1.0以下である炭素繊維集合体。
【請求項2】
前記炭素繊維集合体のX線回折法における結晶子面間隔(d002)が0.3400nm以上である、請求項1に記載の炭素繊維集合体。
【請求項3】
タップ密度が0.020~0.100g/cm
3である請求項1又は2に記載の炭素繊維集合体。
【請求項4】
圧力3.0kg/cm
2で加圧した状態で測定する嵩密度が前記タップ密度の5.0~30倍である、請求項3に記載の炭素繊維集合体。
【請求項5】
充填密度1.5g/cm
3で充填した際の粉体体積抵抗A(Ω・cm)が、充填密度0.50g/cm
3で充填した際の粉体体積抵抗B(Ω・cm)の7.0~20%である請求項1~4のいずれか1項に記載の炭素繊維集合体。
【請求項6】
圧力1.5kg/cm
2で加圧した状態で測定する嵩密度が、前記タップ密度の2.0~15倍である請求項3に記載の炭素繊維集合体。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか1項に記載の炭素繊維集合体と、電極活物質と、
を含む非水電解質二次電池用電極合剤層。
【請求項8】
(1)熱可塑性樹脂と、前記熱可塑性樹脂100質量部に対して30~150質量部のメソフェーズピッチと、からなる樹脂組成物を溶融状態で成形することにより前記メソフェーズピッチを繊維化して樹脂複合繊維を得る繊維化工程と、
(2)前記樹脂複合繊維を安定化し、樹脂複合安定化繊維を得る安定化工程と、
(3)前記樹脂複合安定化繊維から前記熱可塑性樹脂を除去して安定化繊維を得る熱可塑性樹脂除去工程と、
(4)前記安定化繊維を不活性雰囲気下で加熱して炭素化乃至黒鉛化し、炭素繊維集合体を得る炭化焼成工程と、
を含む請求項1~6のいずれか1項に記載の炭素繊維集合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は炭素繊維集合体及び炭素繊維集合体の製造方法、並びに非水電解質二次電池用電極合剤層に関するものである。
【背景技術】
【0002】
カーボンナノ材料、特に、平均繊維径が1μm以下である極細炭素繊維は、高結晶性、高導電性、高強度、高弾性率、軽量等の優れた特性を有していることから、高性能複合剤料のナノフィラーとして使用されている。その用途は、機械的強度向上を目的とした補強用ナノフィラーに留まらず、炭素材料に備わった高導電性、高熱伝導性を生かし、各種電池やキャパシタの電極への添加材料、電磁波シールド材、静電防止材用の導電性ナノフィラーとして、あるいは樹脂向けの静電塗料に配合するナノフィラーや、放熱材料への添加材料としての用途が検討されている。また、炭素材料としての化学的安定性、熱的安定性、微細構造の特徴を生かし、フラットディスプレー等の電界電子放出材料としての用途も期待されている。
【0003】
特許文献1には、ポリエチレン比率が80重量%、ピッチ比率が20重量%の複合繊維を順次安定化、脱ポリエチレン化、炭素化/黒鉛化して極細炭素繊維を製造したことが記載されている。しかしながら、非水電解質二次電池の電池特性については何ら触れられていない。
【0004】
特許文献2には、電解液に対する親和性が高く、電池材料の導電助剤として有用なピッチ系極細炭素繊維が開示されている。そして、このピッチ系極細炭素繊維は、繊維径のCV値が10~50%(変動係数0.1~0.5)であり、繊維径がこの範囲でほどよくばらついているので、電極合剤層中で様々な粒子径を有する電極活物質との接触性を高くすることができ、導電助剤としての性能が向上することが記載されている。しかしながら、電極合剤層内における活物質や導電助剤の充填性については述べられていない。
【0005】
特許文献3には、ポリビニルアルコール系ポリマーを海成分とし、ピッチを島成分とする複合繊維を原料として製造されたピッチ系炭素繊維が開示されている。この炭素繊維は、繊維径のCV値が0~10%であり、繊維径が均一である。繊維径がばらついていると、密度ムラを生じ、導電性能等の特性に局所的な偏りが発生するなどの問題があることが述べられている(段落0008)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2017-210705号公報
【文献】特開2017-66546号公報
【文献】特開2015-485651号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献2に記載のピッチ系極細炭素繊維は、繊維径のCV値が10~50%と小さい。つまり、繊維径は比較的揃っていると言える。したがって、このピッチ系極細炭素繊維を非水電解質二次電池用の電極合剤層に使用する場合、活物質粒子が形成する間隙に炭素繊維が効率的に配置され難い。そのため、活物質粒子及びピッチ系極細炭素繊維を含む電極合剤層の高密度化、高充填化は難しいことが予想される。
【0008】
本発明の目的は、高い電池性能を発揮することができる炭素繊維集合体であって、充填密度を高くすることができる形態を有する炭素繊維集合体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記の従来技術に鑑みて鋭意検討を重ねた結果、所定の繊維径分布を有する炭素繊維集合体は、充填密度を高くすることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
即ち、上記課題を解決する本発明は以下に記載するものである。
【0011】
〔1〕 平均繊維径が100~1000nmであり、かつ繊維径の変動係数(CV値)が0.50を超え1.0以下である炭素繊維集合体。
【0012】
〔2〕 前記炭素繊維集合体のX線回折法における結晶子面間隔(d002)が0.3400nm以上である、〔1〕に記載の炭素繊維集合体。
【0013】
〔3〕 タップ密度が0.020~0.100g/cm3である〔1〕又は〔2〕に記載の炭素繊維集合体。
【0014】
〔4〕 圧力3.0kg/cm2で加圧した状態で測定する嵩密度が前記タップ密度の5.0~30倍である、〔3〕に記載の炭素繊維集合体。
【0015】
〔5〕 充填密度1.5g/cm3で充填した際の粉体体積抵抗A(Ω・cm)が、充填密度0.50g/cm3で充填した際の粉体体積抵抗B(Ω・cm)の7.0~20%である〔1〕に記載の炭素繊維集合体。
【0016】
〔6〕 圧力1.5kg/cm2で加圧した状態で測定する嵩密度が、前記タップ密度の2.0~15倍である〔1〕に記載の炭素繊維集合体。
【0017】
〔7〕 〔1〕乃至〔6〕のいずれかに記載の炭素繊維集合体と、電極活物質と、
を含む非水電解質二次電池用電極合剤層。
【0018】
〔8〕 (1)熱可塑性樹脂と、前記熱可塑性樹脂100質量部に対して30~150質量部のメソフェーズピッチと、からなる樹脂組成物を溶融状態で成形することにより前記メソフェーズピッチを繊維化して樹脂複合繊維を得る繊維化工程と、
(2)前記樹脂複合繊維を安定化し、樹脂複合安定化繊維を得る安定化工程と、
(3)前記樹脂複合安定化繊維から前記熱可塑性樹脂を除去して安定化繊維を得る熱可塑性樹脂除去工程と、
(4)前記安定化繊維を不活性雰囲気下で加熱して炭素化乃至黒鉛化し、炭素繊維集合体を得る炭化焼成工程と、
を含む〔1〕~〔6〕のいずれかに記載の炭素繊維集合体の製造方法。
【発明の効果】
【0019】
本発明の炭素繊維集合体は、平均繊維径が100~1000nmであり、かつ繊維径のCV値が0.50超~1.0と繊維径分布が広いため、電極合剤層の充填密度を高くすることができる。そのため、各種導電助剤として有用である。特に、非水電解質二次電池用の電極合剤層に使用する場合、活物質粒子が形成する間隙に効率的に配置できる。そのため、電極合剤層中に活物質粒子をより多く含むことができ、高密度充填が可能であり、体積あたりのエネルギー容量の大きな非水電解質二次電池を得ることができる。また、活物質の量を減少しなくても多量の炭素繊維を混合することができ、活物質の電子伝導性を上げ、さらには寿命特性の改善に寄与する。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明について説明する。
1. 炭素繊維集合体の性状
本発明の炭素繊維集合体は、平均繊維径が100~1000nm、繊維径のCV値が0.50超~1.0である。即ち、繊維径分布が広い。そのため、大きい繊維径を有する炭素繊維によって太い導電パスが形成され、さらにそのような炭素繊維が入り込むことができない小さな間隙に小さい繊維径を有する炭素繊維が入り込み、さらなる導電パスを形成することができる。
【0021】
本発明の炭素繊維集合体の平均繊維径は、100~1000nmである。該上限値は、900nm以下であることが好ましく、800nm以下であることがより好ましく、600nm以下であることがさらに好ましく、500nm以下であることがさらにより好ましく、400nm以下であることがさらにより好ましく、300nm以下であることがよりさらに好ましい。該下限値は、110nm以上であることが好ましく、120nm以上であることがより好ましく、150nm以上であることがさらに好ましく、200nm以上であることがさらに好ましく、200nmを超えることが特に好ましい。
100nm未満であると、嵩密度が非常に小さくハンドリング性に劣る。また、1000nm超である場合、電極材として使用すると電極密度を高くすることが困難である。
【0022】
ここで、本発明における炭素繊維の繊維径は、電界放射型走査電子顕微鏡を用いて倍率1000倍で撮影した炭素繊維の断面又は表面の写真図から測定された値を意味する。炭素繊維の平均繊維径は、得られた電子顕微鏡写真から無作為に300箇所を選択して繊維径を測定し、それらすべての測定結果(n=300)の平均値を平均繊維径とする。
【0023】
本発明の炭素繊維集合体の繊維径の変動係数(CV値)は、0.50を超え1.0以下である。変動係数は0.50を超えることが好ましく、0.51以上がより好ましい。変動係数は0.90以下であることが好ましく、0.80以下であることがさらに好ましい。変動係数がこの範囲にあることにより、繊維径の分布が広く、充填密度を高くすることができる。変動係数が1.0を超える場合、繊維径の分布が広過ぎて電池材料として用いる場合に電池性能を高度に制御し難い。一方、変動係数が0.50以下である場合には、非水電解質二次電池用の電極合剤層に使用する場合、活物質粒子が形成する間隙に効率的に配置され難く、充填密度を高くすることが困難となる。
本発明において、変動係数とは、炭素繊維の繊維径の標準偏差を平均繊維径で除した値である。繊維径の測定方法は上述のとおりである。
【0024】
本発明の炭素繊維集合体を構成する炭素繊維は、広角X線測定により測定した隣接するグラファイトシート間の距離(d002)が0.3400nm以上であることが好ましく、0.3410nm以上がより好ましく、0.3420nm以上がさらに好ましい。またd002は0.3450nm以下が好ましく、0.3445nm以下であることがより好ましい。d002が0.3400nm以上の場合、炭素繊維が脆くなり難い。そのため、解砕や混練スラリーを作成するなどの加工時に、繊維が折損し難く、繊維長が保持される。その結果、長い距離の導電パスを形成し易くなる。また、リチウムイオン二次電池の充放電に伴う活物質の体積変化に追従して導電パスが維持され易い。ただし、用途によっては、(d002)が0.3350~0.3400nmであることが好ましく、0.3350~0.3390nmであることがより好ましい場合もある。0.3350~0.3400nmの範囲であることにより、黒鉛結晶性が高く、耐酸化性に優れる。
【0025】
本発明の炭素繊維集合体のタップ密度は、0.020~0.100g/cm3であることが好ましい。タップ密度が低いと、非水電解質二次電池用の電極合剤層に使用する場合に、電極合剤層中の充填率を高めることが困難となる場合がある。タップ密度の下限は、0.030g/cm3であることがより好ましく、0.035g/cm3であることがさらに好ましい。また、電極合剤層中の充電密度を高める観点からは、タップ密度が高い方が好ましいが、タップ密度が高すぎると、電極中での分散性が低くなることが想定されることから好ましくない。タップ密度の上限は、0.080g/cm3であることがより好ましい。本発明の炭素繊維集合体は、繊維径分布が広いため、大きい繊維径を有する炭素繊維の繊維間の間隙に小さい繊維径を有する炭素繊維が入り込み、タップ密度を高くすることができる。
【0026】
本発明の炭素繊維集合体は、繊維径分布が広いため、電極合剤層中における炭素繊維の充填率を高めることができる。即ち、低い圧力であっても高度に圧縮することができる。そのため、炭素繊維集合体を圧縮しても、炭素繊維の座屈破壊が生じ難い。具体的には、圧力3.0kg/cm2で加圧した状態で測定する嵩密度を、上述のタップ密度の5.0~30倍とすることができる。該嵩密度が上述のタップ密度の5.0倍未満の場合には、電極形成時のプレスによって電極密度を高めることが困難となる。また、該嵩密度が上述のタップ密度の30倍を超える場合、炭素繊維が破壊されていると推定される。したがって、電極形成時のプレスによって炭素繊維が容易に破壊される。そのため、電極合剤層中で長距離の導電パスが形成され難い。該嵩密度は上述のタップ密度の6.0~25倍であることが好ましく、6.0~20倍であることがより好ましい。
【0027】
本発明の炭素繊維集合体は、圧力1.5kg/cm2で加圧した状態で測定する嵩密度が上述のタップ密度の2.0~15倍であることが好ましい。該嵩密度は上述のタップ密度の3.0~12倍であることが好ましく、5.0~10倍であることがより好ましい。
【0028】
本発明の炭素繊維集合体は、電極合剤層の導電助剤として用いる場合、嵩密度の低い状態で導電性が発現することが好ましく、充填密度1.5g/cm3で充填した際の粉体体積抵抗A(Ω・cm)が、充填密度0.50g/cm3で充填した際の粉体体積抵抗B(Ω・cm)の7~20%であることが好ましい。より好ましくは7~15%である。
【0029】
本発明の炭素繊維集合体の平均繊維長は、10μm以上であることが好ましい。平均繊維長が10μm未満である場合、電極合剤層内の導電性、電極の強度、及び電解液保液性が低くなる場合がある。また、平均繊維長が30μm超の場合、個々の炭素繊維の分散性が損なわれ易い。即ち、炭素繊維が長過ぎる場合、個々の炭素繊維が電極合剤層の面内方向に配向し易くなる。その結果、電極合剤層の膜厚方向への導電パスを形成し難い。
平均繊維長は、10~30μmであることが好ましく、12~28μmであることがより好ましい。
【0030】
本発明の炭素繊維集合体の繊維長のCV値は、1.0~1.3であることが好ましく、1.0~1.2であることがより好ましい。CV値が1.3よりも大きくなると、個々の炭素繊維の分散性が損なわれ易い。
【0031】
本発明の炭素繊維集合体は、電極合剤層内における導電性のネットワークを形成する能力、電池出力改善、及び電池耐久性向上の観点から分岐構造を有しない炭素繊維であることが好ましい。炭素繊維としては、カーボンナノチューブ、カーボンナノリボンなどの気相成長炭素材料も含まれるが、気相成長炭素繊維は分岐構造を有することがある。溶融紡糸法によって製造される炭素繊維は分岐構造を有しないため、取扱い性や分散性に優れる。中でも、結晶性の高い炭素材料であることが好ましい場合には、PAN系よりもピッチ系炭素繊維が好ましい。
【0032】
本発明の炭素繊維集合体を構成する炭素繊維は、特に限定されるものではないが、前記したように実質的に分岐を有さない直線構造であることが好ましい。分岐とは、炭素繊維の主軸が中途で枝分かれしていることや、炭素繊維の主軸が枝状の副軸を有することをいう。実質的に分岐を有さない直線構造とは、炭素繊維の分岐度が0.01個/μm以下であることを意味する。なお、分岐構造を有する炭素繊維としては、例えば、触媒として鉄の存在下、高温雰囲気中でベンゼン等の炭化水素を気化させる気相法によって製造した気相成長炭素繊維(例えば、昭和電工社製VGCF(登録商標))が知られている。
【0033】
本発明の炭素繊維集合体を構成する炭素繊維は、中空(チューブ状)や多孔質であってもよいが、炭素繊維の製造過程において、樹脂複合繊維を経ることが好ましい。そのため、本発明の炭素繊維は実質的に中実であり、表面は基本的に平滑である。
【0034】
本発明の炭素繊維集合体を構成する炭素繊維は、全体として繊維状の形態を有していればよく、例えば、1μm未満の炭素繊維が接触したり結合したりして一体的に繊維形状を有しているもの(例えば、球状炭素が融着等により数珠状に連なっているもの、極めて短い複数本の繊維が融着等によりつながっているものなど)も含む。さらに、平均繊維径が1000μmを超える繊維径の太い炭素繊維を粉砕等によって繊維径を細くしたものも含む。
【0035】
本発明の炭素繊維集合体を構成する炭素繊維は、X線回折法で測定したグラフェン(網平面群)の厚さ(Lc)が130nm以下であることが好ましく、50nm以下がより好ましく、20nm以下がさらに好ましく、10nm以下がさらにより好ましい。ただし、1.0nm未満である場合、炭素繊維の導電率が著しく低下してしまうため、その用途によっては好ましくない。
本発明において、X線回折法で測定した結晶子サイズ(Lc)とは、日本工業規格JIS R 7651(2007年度版)「炭素材料の格子定数及び結晶子の大きさ測定方法」により測定される値をいう。
【0036】
本発明の炭素繊維集合体を構成する炭素繊維は、金属元素の含有率が合計で50ppm以下であることが好ましく、30ppm以下であることがより好ましく、20ppm以下であることがさらに好ましい。金属元素の含有率が50ppmを超える場合、金属の触媒作用により電池を劣化させ易くなる。本発明において、金属元素の含有率とは、Li、Na、Ti、Mn、Fe、Ni及びCoの合計含有率を意味する。特に、Feの含有率は5ppm以下であることが好ましく、3ppm以下であることがより好ましく、1ppm以下であることがさらに好ましい。Feの含有率が5ppmを超える場合、特に電池を劣化させ易くなるため好ましくない。
【0037】
本発明の炭素繊維集合体を構成する炭素繊維は、水素、窒素、灰分の何れもが0.5質量%以下であることが好ましく、0.3質量%以下であることがより好ましい。炭素繊維中の水素、窒素、灰分の何れもが0.5質量%以下である場合、グラファイト層の構造欠陥が一段と抑制され、電池中での副反応を抑制できるため好ましい。
【0038】
本発明の炭素繊維集合体を構成する炭素繊維は、ホウ素を実質的に含有しないことが好ましい。炭素原子と結合したホウ素原子が繊維状炭素の表面に存在する場合、そのホウ素原子が活性点となって電池電解質の分解反応を引き起こす可能性がある。ここで、実質的に含有しないとは、ホウ素含有率が1質量ppm以下であることをいう。
【0039】
2. 炭素繊維集合体の製造方法
以下、本発明の炭素繊維集合体の製造方法について説明する。
本発明の炭素繊維集合体は、ピッチ系炭素繊維集合体であることが好ましい。以下、ピッチ系炭素繊維集合体の製造方法の一例について説明する。本発明によるピッチ系炭素繊維集合体の製造方法は、次に記載する(1)~(4)の工程を経る。
(1) 熱可塑性樹脂と、この熱可塑性樹脂100質量部に対して30~150質量部のメソフェーズピッチと、からなるメソフェーズピッチ樹脂組成物を溶融状態で成形することにより、メソフェーズピッチを繊維化して樹脂複合繊維を得る繊維化工程、
(2) 得られた樹脂複合繊維を安定化し、樹脂複合安定化繊維を得る安定化工程、
(3) 得られた樹脂複合安定化繊維から熱可塑性樹脂を除去して安定化繊維を得る熱可塑性樹脂除去工程、
(4) 得られた安定化繊維を不活性雰囲気下で加熱して炭素化乃至黒鉛化し、炭素繊維集合体を得る炭化焼成工程。
【0040】
(1) 繊維化工程
繊維化工程では、熱可塑性樹脂と、この熱可塑性樹脂100質量部に対して25~150質量部のメソフェーズピッチと、からなるメソフェーズピッチ組成物を溶融状態で成形する。これにより、繊維化されたメソフェーズピッチを内部に含む樹脂複合繊維を得る。
【0041】
<熱可塑性樹脂>
本発明による炭素繊維集合体の製造方法で使用する熱可塑性樹脂は、樹脂複合繊維を製造後、熱可塑性樹脂除去工程において容易に除去される必要がある。このような熱可塑性樹脂としては、ポリオレフィン、ポリメタクリレート、ポリメチルメタクリレート等のポリアクリレート系ポリマー、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリエステル、ポリアミド、ポリエステルカーボネート、ポリサルホン、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリケトン、ポリ乳酸が例示される。これらの中でも、ポリオレフィンが好ましく用いられる。
【0042】
ポリオレフィンの具体例としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ-4-メチルペンテン-1及びこれらを含む共重合体が挙げられる。熱可塑性樹脂除去工程において除去し易いという観点からは、ポリエチレンを用いることが好ましい。ポリエチレンとしては、高圧法低密度ポリエチレン、気相法・溶液法・高圧法直鎖状低密度ポリエチレンなどの低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレンなどの単独重合体;又はエチレンとα-オレフィンとの共重合体;エチレン・酢酸ビニル共重合体などのエチレンと他のビニル系単量体との共重合体が挙げられる。
【0043】
本発明で使用する熱可塑性樹脂は、JIS K 7210 (1999年度)に準拠して測定されるメルトマスフローレート(MFR)が0.1~10g/10minであることが好ましく、0.1~5g/10minであることがより好ましく、0.1~3g/10minであることが特に好ましい。MFRが上記範囲であると、熱可塑性樹脂中に炭素前駆体を良好にミクロ分散することができる。また、樹脂複合繊維を成形する際に、繊維(炭素前駆体)が引き延ばされることにより、得られる炭素繊維の繊維径をより小さくすることができる。本発明で使用する熱可塑性樹脂は、炭素前駆体と容易に溶融混練できるという点から、非晶性の場合はガラス転移温度が250℃以下、結晶性の場合は融点が300℃以下であることが好ましい。
【0044】
<炭素前駆体>
炭素前駆体としてはメソフェーズピッチを用いることが好ましい。以下、炭素前駆体としてメソフェーズピッチを用いる場合について説明する。メソフェーズピッチとは溶融状態において光学的異方性相(液晶相)を形成しうるピッチである。本発明で使用するメソフェーズピッチとしては、石炭や石油の蒸留残渣を原料とするものや、ナフタレン等の芳香族炭化水素を原料とするものが挙げられる。例えば、石炭由来のメソフェーズピッチは、コールタールピッチの水素添加・熱処理を主体とする処理、あるいは水素添加・熱処理・溶剤抽出を主体とする処理等により得られる。
【0045】
より具体的には、以下の方法により得ることができる。
先ず、キノリン不溶分を除去した軟化点80℃のコールタールピッチを、Ni-Mo系触媒存在下、圧力13MPa、温度340℃で水添し、水素化コールタールピッチを得る。この水素化コールタールピッチを常圧下、480℃で熱処理した後、減圧して低沸点分を除き、粗メソフェーズピッチを得る。この粗メソフェーズピッチをフィルターを用いて温度340℃でろ過を行って異物を取り除くことにより、精製メソフェーズピッチを得ることができる。
【0046】
メソフェーズピッチの光学的異方性含有量(メソフェーズ率)は、80%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましい。
【0047】
また、上記メソフェーズピッチは、軟化点が100~400℃であることが好ましく、150~350℃であることがより好ましい。
【0048】
<樹脂組成物>
本発明による炭素繊維集合体の製造方法において用いられる、熱可塑性樹脂とメソフェーズピッチとから成る樹脂組成物(以下、「メソフェーズピッチ組成物」ともいう)は、熱可塑性樹脂100質量部に対してメソフェーズピッチ30~150質量部を含んで成ることが好ましい。メソフェーズピッチの含有量は35~150質量部であることがより好ましく、40~100質量部であることがさらにより好ましい。メソフェーズピッチの含有量が150質量部を超えると、炭素繊維集合体を構成する炭素繊維の繊維径が増大し、所望の繊維径の炭素繊維が得られない。メソフェーズピッチの含有量が30質量部未満であると、メソフェーズピッチの分散径分布が狭くなる結果、最終的に得られる炭素繊維の繊維径分布が小さくなる。
【0049】
繊維径が1000nm未満である炭素繊維を製造するためには、熱可塑性樹脂中におけるメソフェーズピッチの分散径を0.01~50μmとすることが好ましく、0.01~30μmとすることがより好ましい。メソフェーズピッチの熱可塑性樹脂中への分散径が0.01~50μmの範囲を逸脱すると、所望の炭素繊維を製造することが困難となることがある。なお、メソフェーズピッチ組成物中において、メソフェーズピッチは球状又は楕円状の島成分を形成するが、本発明における分散径とは、島成分が球状の場合はその直径を意味し、楕円状の場合はその長軸径を意味する。
【0050】
メソフェーズピッチの分散径は、メソフェーズピッチ組成物を300℃で3分間保持した後において維持していることが好ましく、300℃で5分間保持した後において維持していることがより好ましく、300℃で10分間保持した後において維持していることが特に好ましい。一般に、メソフェーズピッチ組成物を溶融状態で保持しておくと、熱可塑性樹脂中においてメソフェーズピッチが時間の経過と共に凝集する。メソフェーズピッチが凝集してその分散径が50μmを超えると、所望の炭素繊維を製造することが困難となることがある。熱可塑性樹脂中におけるメソフェーズピッチの凝集速度は、使用する熱可塑性樹脂及びメソフェーズピッチの種類により変動する。
【0051】
メソフェーズピッチ組成物は、熱可塑性樹脂とメソフェーズピッチとを溶融状態において混練することにより製造することができる。熱可塑性樹脂とメソフェーズピッチとの溶融混練は公知の装置を用いて行うことができる。例えば、一軸式混練機、二軸式混練機、ミキシングロール、バンバリーミキサーからなる群より選ばれる1種類以上を用いることができる。これらの中でも、熱可塑性樹脂中にメソフェーズピッチを良好にミクロ分散させるという目的から、二軸式混練機を用いることが好ましく、特に各軸が同方向に回転する二軸式混練機を用いることが好ましい。
【0052】
混練温度としては、熱可塑性樹脂とメソフェーズピッチとが溶融状態であれば特に制限されないが、100~400℃であることが好ましく、150~350℃であることが好ましい。混練温度が100℃未満であると、メソフェーズピッチが溶融状態にならず、熱可塑性樹脂中にミクロ分散させることが困難である。一方、400℃を超える場合、熱可塑性樹脂及びメソフェーズピッチの分解が進行する。また、溶融混練の時間としては、0.5~20分間であることが好ましく、1~15分間であることがより好ましい。溶融混練の時間が0.5分間未満の場合、メソフェーズピッチのミクロ分散が困難である。一方、20分間を超える場合、炭素繊維集合体の生産性が低下する。
【0053】
溶融混練は、酸素ガス含有量10体積%未満の不活性雰囲気下で行うことが好ましく、酸素ガス含有量5体積%未満の不活性雰囲気下で行うことがより好ましく、酸素ガス含有量1%体積未満の不活性雰囲気下で行うことが特に好ましい。本発明で使用するメソフェーズピッチは、溶融混練時に酸素と接触することにより変性してしまい、熱可塑性樹脂中へのミクロ分散を阻害することがある。このため、不活性雰囲気下で溶融混練を行い、酸素とメソフェーズピッチとの反応を抑制することが好ましい。
【0054】
<樹脂複合繊維>
上記のメソフェーズピッチ組成物から樹脂複合繊維を製造する方法としては、メソフェーズピッチ組成物を紡糸口金より溶融紡糸する方法を例示することができる。これにより、樹脂複合繊維に含まれるメソフェーズピッチの初期配向性を高くすることができる。
【0055】
メソフェーズピッチ組成物を紡糸口金より溶融紡糸をする際に、口金の紡糸孔数はそのまま繊維束の繊維本数になる。この繊維本数は100~3000本であることが好ましく、200~2000本がより好ましく、300~1500本がさらに好ましい。100本未満であると生産性が低下し、3000本を超えると工程安定性が低下し易い。
【0056】
このようにして得られた樹脂複合繊維の平均単糸径は10~200μmである。平均繊維径の下限は、50μm以上であることが好ましく、70μm以上であることがより好ましく、80μm以上であることがさらに好ましい。平均繊維径の上限は、150μm以下であることが好ましく、130μm以下であることがより好ましく、120μm以下であることがさらに好ましい。200μmを超える場合、後述の安定化工程の際に反応性ガスが樹脂複合繊維の内部に分散するメソフェーズピッチと接触し難くなる。そのため、生産性が低下する。一方、10μm未満の場合、樹脂複合繊維の強度が低下して工程安定性が低下する恐れがある。
【0057】
メソフェーズピッチ組成物から樹脂複合繊維を製造する際の温度は、メソフェーズピッチの溶融温度よりも高いことが必要であり、150~400℃であることが好ましく、180~350℃であることがより好ましい。400℃を超える場合、メソフェーズピッチの変形緩和速度が大きくなり、繊維の形態を保つことが難しくなる。
【0058】
吐出線速度と引取り速度との比率であるドラフト比は、2~50であることが好ましく、2.5~30であることがより好ましく、3~20であることがさらに好ましく、3を超え18以下であることが特に好ましい。50より大きいとメソフェーズピッチの変形が追随できず、メソフェーズピッチを繊維状に変形させることができなくなるので好ましくない。2未満であるとメソフェーズピッチの分子配向性を高くすることができず、その結果、得られる繊維状炭素の結晶性が低くなる。
【0059】
上述した樹脂複合繊維を製造する際の温度、及び前記ドラフト比を変えることにより、樹脂複合繊維を安定して成形することができる、また、繊維径やメソフェーズピッチの分子配向性を制御することができる。その結果、最終的に得られる炭素繊維集合体の繊維径や結晶性を調整することができる。
【0060】
また、樹脂複合繊維の製造工程は冷却工程を有していてもよい。冷却工程としては、例えば、溶融紡糸の場合、紡糸口金の下流の雰囲気を冷却する方法が挙げられる。冷却工程を設けることにより、メソフェーズピッチが伸長により変形する領域を調整でき、ひずみの速度を調整することができる。また、冷却工程を設けることにより、紡糸後の樹脂複合繊維を直ちに冷却固化させて安定した成形を可能とする。
【0061】
これらの工程を経て得られた樹脂複合繊維は、混練時の熱可塑性樹脂中にメソフェーズピッチがミクロ分散した状態で繊維化されている。
【0062】
(2) 安定化工程
<樹脂複合安定化繊維>
上述の樹脂複合繊維に含まれるメソフェーズピッチ繊維を安定化(不融化)することにより、樹脂複合安定化繊維が製造される。
【0063】
安定化は、空気、酸素、オゾン、二酸化窒素、ハロゲンなどを用いるガス気流処理、酸性水溶液などを用いる溶液処理など公知の方法で行うことができる。生産性の面からガス気流処理による安定化が好ましい。
使用するガス成分としては、取り扱いの容易性から空気、酸素、又はこれを含む混合ガスであることが好ましく、コストの関係から空気を用いることが特に好ましい。使用する酸素ガス濃度としては、全ガス組成の10~100体積%の範囲にあることが好ましい。酸素ガス濃度が全ガス組成の10体積%未満であると、樹脂複合繊維に含まれるメソフェーズピッチの安定化に多大の時間を要する。
【0064】
安定化の反応温度は、50~350℃が好ましく、60~300℃がより好ましく、100~300℃がさらに好ましく、200~300℃が特に好ましい。安定化の処理時間は、10~1200分間が好ましく、10~600分間がより好ましく、30~300分間がさらに好ましく、60~210分間が特に好ましい。
【0065】
上記安定化処理によりメソフェーズピッチの軟化点は著しく上昇する。所望の炭素繊維を得るという目的から、メソフェーズピッチの軟化点は400℃以上とすることが好ましく、500℃以上とすることがさらに好ましい。
【0066】
(3) 熱可塑性樹脂除去工程
上述のようにして得られる樹脂複合安定化繊維は、その中に含まれる熱可塑性樹脂が除去されて安定化繊維が分離される。この工程では、安定化繊維の熱分解を抑制しながら、熱可塑性樹脂を分解・除去する。熱可塑性樹脂を分解・除去する方法としては、例えば、熱可塑性樹脂を溶剤を用いて除去する方法や、熱可塑性樹脂を熱分解して除去する方法が挙げられる。このうち、溶剤で除去する方法は、溶剤が大量に必要になり、回収の必要もあるなど、工程コストが増大する。したがって、後者の熱分解による除去が現実的であり好ましい。
【0067】
熱可塑性樹脂の熱分解は、不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。ここでいう不活性ガス雰囲気とは、二酸化炭素、窒素、アルゴン等のガス雰囲気をいい、その酸素濃度は30体積ppm以下であることが好ましく、20体積ppm以下であることがより好ましい。本工程で使用する不活性ガスとしては、コストの関係から二酸化炭素及び窒素を用いることが好ましく、窒素を用いることが特に好ましい。
【0068】
熱可塑性樹脂を熱分解によって除去する場合、減圧下で行うこともできる。減圧下で熱分解することにより、熱可塑性樹脂を十分に除去することができる。その結果、安定化繊維を炭素化又は黒鉛化して得られる炭素繊維又は黒鉛化繊維の繊維間における融着を少なくすることができる。雰囲気圧力は低いほど好ましいが、50kPa以下であることが好ましく、30kPa以下であることがより好ましく、10kPa以下であることがさらに好ましく、5kPa以下であることが特に好ましい。一方、完全な真空は達成が困難であるため、圧力の下限は一般に0.01kPa以上である。
【0069】
熱可塑性樹脂を熱分解によって除去する場合、上記の雰囲気圧力が保たれれば、微量の酸素や不活性ガスが存在してもよい。特に微量の不活性ガスが存在すると、熱可塑性樹脂の熱劣化による繊維間の融着が抑制される利点があり好ましい。なお、ここでいう微量の酸素雰囲気下とは、酸素濃度が30体積ppm以下であることをいい、微量の不活性ガス雰囲気下とは、不活性ガス濃度が20体積ppm以下であることをいう。用いる不活性ガスの種類は、上述したとおりである。
【0070】
熱分解の温度は、350~600℃であることが好ましく、380~550℃であることがより好ましい。熱分解の温度が350℃未満である場合、安定化繊維の熱分解は抑えられるものの、熱可塑性樹脂の熱分解を十分行うことができない場合がある。一方、600℃を超える場合、熱可塑性樹脂の熱分解は十分行うことができるものの、安定化繊維までが熱分解される場合があり、その結果、炭素化時の収率が低下し易い。熱分解の時間としては、0.1~10時間であることが好ましく、0.5~10時間であることがより好ましい。
【0071】
本発明の製造方法では、安定化工程及び熱可塑性樹脂除去工程は、樹脂複合繊維又は樹脂複合安定化繊維を、支持基材上に目付け2kg/m2以下で保持して行うことが好ましい。支持基材に保持することによって、安定化処理時又は熱可塑性樹脂除去時の加熱処理による樹脂複合繊維又は樹脂複合安定化繊維の凝集を抑制することができ、通気性を保つことが可能となる。
【0072】
支持基材の材質としては、溶剤や加熱によって変形や腐食を生じないことが必要である。また、支持基材の耐熱温度としては、上記の熱可塑性樹脂除去工程の熱分解温度で変形しないことが必要であることから、600℃以上の耐熱性を有していることが好ましい。このような材質としては、ステンレスなどの金属材料やアルミナ、シリカなどのセラミックス材料を挙げることができる。
【0073】
また、支持基材の形状としては、面垂直方向への通気性を有する形状であることが好ましい。このような形状としては網目構造が好ましい。網目の目開きは0.1~5mmであることが好ましい。目開きが5mmよりも大きい場合、加熱処理によって網目の線上に繊維が凝集し易くなり、メソフェーズピッチの安定化や熱可塑性樹脂の除去が不十分となる場合があり好ましくない。一方、網目の目開きが0.1mm未満である場合、支持基材の開孔率の減少により、支持基材の面垂直方向への通気性が低下する場合があり好ましくない。
【0074】
(4) 炭化焼成工程
上記安定化繊維を不活性ガス雰囲気下で炭素化及び/又は黒鉛化することにより、本発明の炭素繊維集合体が得られる。その際に使用する容器としては、黒鉛製のルツボ状のものが好ましい。ここで、炭素化とは比較的低温(好ましくは1000℃程度)で加熱することをいい、黒鉛化とはさらに高温で加熱(好ましくは3000℃程度)することにより黒鉛の結晶を成長させることをいう。
【0075】
上記安定化繊維の炭素化及び/又は黒鉛化時に使用される不活性ガスとしては、窒素、アルゴン等が挙げられる。不活性ガス中の酸素濃度は、20体積ppm以下であることが好ましく、10体積ppm以下であることがより好ましい。炭素化及び/又は黒鉛化時の焼成温度は、500~3500℃が好ましく、800~3200℃がより好ましい。特に黒鉛化の際の焼成温度としては、1500~3200℃が好ましい。黒鉛化時の温度が1500℃未満である場合、結晶成長が妨げられ、結晶子長さが不十分となり導電性が著しく低下するおそれがある。また、黒鉛化温度が3000℃を超える場合、結晶成長の点では好ましいが、炭素繊維の酸素含有量が減少する傾向がある。焼成時間は、0.1~24時間が好ましく、0.2~10時間がより好ましい。
【0076】
<粉砕処理>
本発明の炭素繊維集合体の製造方法は、粉砕処理工程を有していても良い。粉砕処理は、熱可塑性樹脂除去工程、及び/又は、炭化焼成工程おいて実施するのが好ましい。粉砕方法としては、ジェットミル、ボールミル、ビーズミル、インペラーミル、カッターミル等の微粉砕機を適用することが好ましく、粉砕後に必要に応じて分級を行ってもよい。湿式粉砕の場合、粉砕後に分散媒体を除去するが、この際に2次凝集が顕著に生じるとその後の取り扱いが非常に困難となる。このような場合は、乾燥後、ボールミルやジェットミル等を用いて解砕操作を行うことが好ましい。
【0077】
2.非水二次電池用電極合剤層
第2の本発明は、上記炭素繊維集合体を用いた非水電解質二次電池用電極合剤層(以下、単に「電極合剤層」ともいう)である。この電極合剤層は、電極活物質と上記本発明の炭素繊維集合体と、好ましくはバインダーとを含有する。本発明の電極合剤層は、他の炭素系導電助剤をさらに含んでいても良い。
【0078】
本発明の電極合剤層は、通常、電極活物質中に、本発明の炭素繊維集合体を構成する炭素繊維が分散している。そして、電極合剤層内で複数の炭素繊維が3次元にランダム分散している。このような分散した炭素繊維は、炭素繊維同士が互いに接触し、電極活物質とも接触しつつ、電極合剤層の膜厚方向を貫通する導電パスを形成している。
【0079】
本発明の電極合剤層の厚さ(膜厚)は特に制限されないが、50μm以上であることが好ましく、70μm以上であることがより好ましく、80μm以上であることがさらに好ましく、100μm以上であることが特に好ましい。膜厚の上限は特に制限されないが、1000μm以下が好ましく、1000μm未満がより好ましく、800μm未満であることが特に好ましい。膜厚が50μm未満であると、任意容量のセルを製造しようとした場合、セル内におけるセパレータや集電体の体積占有率が増大し、セル内における電極合剤層の体積占有率が低下する。これは、エネルギー密度の観点から好ましくなく、用途がかなり制限されてしまう。膜厚が1000μm以上であると、電極合剤層にクラックが発生し易く、製造が比較的困難である。また、膜厚が1000μm以上であると、Liイオンの輸送が阻害されやすく、抵抗が上昇し易い。電極合剤層の膜厚の測定方法としては特に限定されないが、例えばマイクロメーターを使用して計測することができる。
【0080】
本発明の電極合剤層を用いて製造する非水電解質二次電池としては、リチウムイオン二次電池が代表的な電池として挙げられる。以下、リチウムイオン二次電池に用いられる正極活物質及び負極活物質について説明する。
【0081】
<正極活物質>
本発明の電極合剤層に含まれる正極活物質としては、非水電解質二次電池において、正極活物質として知られている従来公知の材料の中から、任意のものを1種又は2種以上適宜選択して用いることができる。例えば、リチウムイオン二次電池であれば、リチウムイオンを吸蔵・放出可能なリチウム含有金属酸化物が好適である。このリチウム含有金属酸化物としては、リチウムと、Co、Mg、Mn、Ni、Fe、Al、Mo、V、W及びTiなどからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素とを含む複合酸化物を挙げることができる。
【0082】
具体的には、LixCoO2、LixNiO2、LixMnO2、LixCoaNi1-aO2、LixCobV1-bOz、LixCobFe1-bO2、LixMn2O4、LixMncCo2-cO4、LixMncNi2-cO4、LixMncV2-cO4、LixMncFe2-cO4、(ここで、x=0.02~1.2、a=0.1~0.9、b=0.8~0.98、c=1.2~1.96、z=2.01~2.3である。)、LiFePO4などからなる群より選ばれる少なくとも1種が挙げられる。好ましいリチウム含有金属酸化物としては、LixCoO2、LixNiO2、LixMnO2、LixCoaNi1-aO2、LixMn2O4、LixCobV1-bOz(ここで、x、a、b及びzは上記と同じである。)からなる群より選ばれる少なくとも1種を挙げることができる。なお、xの値は充放電開始前の値であり、充放電により増減する。
【0083】
上記正極活物質は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、当該正極活物質の平均粒子径は、10μm以下であることが好ましく、0.05~7μmであることがより好ましく、1~7μmであることがさらに好ましい。平均粒子径が10μmを超えると、大電流下での充放電反応の効率が低下してしまう場合がある。
【0084】
本発明の電極合剤層における正極活物質の含有量は、60質量%以上であることが好ましく、70~98.5質量%であることがより好ましく、75~98.5質量%であることがさらに好ましい。60質量%未満である場合、エネルギー密度の要求の高い電源用途への適用は困難となってしまう場合がある。98.5質量%を超える場合、バインダー量が少な過ぎて電極合剤層にクラックが発生したり、電極合剤層が集電体から剥離する場合がある。さらに、炭素繊維や炭素系導電助剤の含有量が少な過ぎて電極合剤層の導電性が不十分になる場合がある。
【0085】
<負極活物質>
本発明の電極合剤層に含まれる負極活物質としては、非水電解質二次電池において、負極活物質として知られている従来公知の材料の中から、任意のものを1種又は2種以上適宜選択して用いることができる。例えば、リチウムイオンを吸蔵・放出可能な材料として、炭素材料、Si及びSnの何れか、又はこれらの少なくとも1種を含む合金や酸化物などを用いることができる。これらの中でもコストなどの観点からは炭素材料が好ましい。上記炭素材料としては、天然黒鉛、石油系又は石炭系コークスを熱処理することで製造される人造黒鉛、樹脂を炭素化したハードカーボン、メソフェーズピッチ系炭素材料などが挙げられる。
【0086】
天然黒鉛や人造黒鉛を用いる場合、電池容量の増大の観点から、粉末X線回折による黒鉛構造の(002)面の面間隔d(002)が0.335~0.337nmの範囲にあるものが好ましい。天然黒鉛とは、鉱石として天然に産出する黒鉛質材料のことをいう。天然黒鉛は、その外観と性状によって、結晶化度の高い鱗状黒鉛と結晶化度が低い土状黒鉛の2種類に分けられる。鱗状黒鉛はさらに外観が葉状の鱗片状黒鉛と、塊状である鱗状黒鉛とに分けられる。黒鉛質材料となる天然黒鉛は、産地や性状、種類は特に制限されない。また、天然黒鉛又は天然黒鉛を原料として製造した粒子に熱処理を施して用いてもよい。
【0087】
人造黒鉛とは、広く人工的な手法で作られた黒鉛及び黒鉛の完全結晶に近い黒鉛質材料をいう。代表的な例としては、石炭の乾留、原油の蒸留による残渣などから得られるタールやコークスを原料にして、500~1000℃程度の焼成工程、2000℃以上の黒鉛化工程を経て得たものが挙げられる。また、溶解鉄から炭素を再析出させることで得られるキッシュグラファイトも人造黒鉛の一種である。
【0088】
負極活物質として炭素材料の他に、Si及びSnの少なくとも1種を含む合金を使用することは、Si及びSnのそれぞれを単体で用いる場合やそれぞれの酸化物を用いる場合に比べ、電気容量を小さくすることができる点で有効である。これらの中でも、Si系合金が好ましい。Si系合金としては、B、Mg、Ca、Ti、Fe、Co、Mo、Cr、V、W、Ni、Mn、Zn及びCuなどからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素と、Siと、の合金などが挙げられる。具体的には、SiB4、SiB6、Mg2Si、Ni2Si、TiSi2、MoSi2、CoSi2、NiSi2、CaSi2、CrSi2、Cu5Si、FeSi2、MnSi2、VSi2、WSi2、ZnSi2などからなる群より選ばれる少なくとも1種が挙げられる。
【0089】
本発明の電極合剤層においては、負極活物質として、既述の材料を1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、当該負極活物質の平均粒子径は10μm以下とする。平均粒子径が10μmを超えると、大電流下での充放電反応の効率が低下してしまう。平均粒子径は0.1~10μmとすることが好ましく、1~7μmとすることがより好ましい。
【0090】
<バインダー>
本発明の電極合剤層に用いられるバインダーとしては、電極成形が可能であり、十分な電気化学的安定性を有しているバインダーであれば用いることが可能である。係るバインダーとしては、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、カルボキシメチルセルロース、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、フルオロオレフィン共重合体架橋ポリマー、ポリイミド、ポリアミドイミド、アラミド、フェノール樹脂等よりなる群から選ばれる1種以上を用いることが好ましく、特にポリフッ化ビニリデン(PVDF)が好ましい。バインダーとして用いる際の形態としては特に制限はなく、固体状であっても液体状(例えばエマルション)であってもよく、電極の製造方法(特に乾式混練か湿式混練か)、電解液への溶解性等を考慮して適宜選択することができる。
【0091】
本発明の電極合剤層におけるバインダーの含有量は、1~25質量%であることが好ましく、3~15質量%であることがより好ましく、5~10質量%であることがさらに好ましい。1質量%未満である場合、電極合剤層にクラックが発生したり、電極合剤層が集電体から剥離してしまうことがある。25質量%を超える場合、電極中の活物質量が少なくなり、得られる電池のエネルギー密度が低下し易い。
【0092】
(本発明の炭素繊維集合体以外の炭素系導電助剤)
本発明の電極合剤層は、本炭素繊維集合体の他に炭素系導電助剤を含むこともできる。本炭素繊維集合体以外の炭素系導電助剤としては、例えば、カーボンブラック、アセチレンブラック、カーボンナノチューブ、VGCF、鱗片状炭素、グラフェン、グラファイトを挙げることができる。これらの炭素系導電助剤は、単独で用いてもよいし、2種以上を併用しても良い。
【0093】
これらの炭素系導電助剤の形状は特に限定されないが、微粒子状であることが好ましい。炭素系導電助剤の平均粒子径(一次粒子径)は10~200nmであることが好ましく、20~100nmであることがより好ましい。これらの炭素系導電助剤のアスペクト比は、10以下であり、1.0~5.0であることが好ましく、1.0~3.0であることがより好ましい。
本発明の電極合剤層における炭素繊維以外の炭素系導電助剤の含有量は、0.5~5質量%であることが好ましく、0.5~4質量%であることがより好ましく、1~3質量%であることがさらに好ましい。
【0094】
電極合剤層の製造方法としては、例えば、上記の電極活物質と炭素繊維と溶媒を混合したスラリーを準備する。このスラリーを、基材上に塗布等により付着させ、次いで溶媒を乾燥させ除去し、プレスにより加圧成形し必要により基材を剥離して製造することができる。または、上記の正極活物質及び炭素繊維を粉体混合後、プレスにより加圧成形して製造することができる。
【実施例】
【0095】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。実施例中の各種測定や分析は、それぞれ以下の方法に従って行った。
【0096】
(1)炭素繊維の形状確認
卓上電子顕微鏡(日本電子株式会社製、型式NeoScope JCM-6000)を用いて観察及び写真撮影を行った。得られた電子顕微鏡写真から無作為に300箇所を選択して繊維径を測定し、それらすべての測定結果(n=300)の平均値を炭素繊維の平均繊維径とした。平均繊維長も同様に測定した。
【0097】
(2)炭素繊維のX線回折測定
X線回折測定はリガク社製RINT-2100を用いてJIS R7651法に準拠し、格子面間隔(d002)、結晶子大きさ(Lc)を測定した。
【0098】
(3)タップ密度の測定
内径31mm、容量150mlのガラス製メスシリンダーに、目開き1mmの篩いを通した上で、炭素繊維集合体を入れ、タップ密度測定機(筒井理化学器械株式会社、TPM-1A型)により、タップ速度40回/分、タップストローク範囲60mm、タップ回数500の条件で、タップを行い、タップ密度を測定した。
【0099】
(4)正極合剤層の圧力下での密度測定
炭素繊維集合体と正極活物質を乾燥下で粉体混合させ粉体混合物を得た。次いで、直径20mmの円筒シリンダーに、予め質量を測定した粉体混合物を投入し、荷重測定装置を具備したピストンにより、粉体混合物を圧縮させた。その際のピストンとシリンダー底面との間隙を測定することにより、粉体混合物(正極合材層)の圧力下での密度を算出した。(株式会社三菱ケミカルアナリティック社製、粉体抵抗測定システムMCP-PD51型を使用)
【0100】
[参考例1](メソフェーズピッチの製造方法)
キノリン不溶分を除去した軟化点80℃のコールタールピッチを、Ni-Mo系触媒存在下、圧力13MPa、温度340℃で水添し、水素化コールタールピッチを得た。この水素化コールタールピッチを常圧下、480℃で熱処理した後、減圧して低沸点分を除き、メソフェーズピッチを得た。このメソフェーズピッチを、フィルターを用いて温度340℃でろ過を行い、ピッチ中の異物を取り除き、精製されたメソフェーズピッチを得た。
【0101】
[実施例1]
熱可塑性樹脂として直鎖状低密度ポリエチレン(EXCEED(登録商標)1018HA、ExxonMobil社製、MFR=1g/10min)60質量部、及び参考例1で得られたメソフェーズピッチ(メソフェーズ率90.9%、軟化点303.5℃)40質量部を同方向二軸押出機(東芝機械(株)製「TEM-26SS」、バレル温度300℃、窒素気流下)で溶融混練してメソフェーズピッチ組成物を調製した。ここで、メソフェーズピッチのポリエチレン中の平均分散径は2.8μm、標準偏差2.6μmであった。平均分散径は、メソフェーズピッチ組成物を蛍光顕微鏡で観察し、蛍光顕微鏡写真から無作為に200箇所を選択して分散径を測定し、それらすべての測定結果(n=200)の平均値を平均分散径とした。
【0102】
次いで、このメソフェーズピッチ組成物を溶融紡糸機により、直径が0.2mm、導入角60°である円形口金を用いて繊維径90μmの長繊維に成形した。口金温度は360℃、1紡糸孔当たりの吐出量は16.8g/口金/時間、吐出線速度と引取り速度との比率であるドラフト比は5であった。
【0103】
上記操作で得られたメソフェーズピッチ含有繊維束0.1kgを用い、循環方式により、温度100℃、反応性ガスにおける二酸化窒素と酸素とのモル比(NO2/O2)を0.61とし、100分間かけて反応させた。二酸化窒素と酸素との流通速度は0.4m/sとした。これにより、メソフェーズピッチを安定化させ、安定化メソフェーズピッチ含有繊維束を得た。上記安定化メソフェーズピッチ含有繊維束を、真空ガス置換炉中で窒素置換を行った後に1kPaまで減圧し、該減圧状態下で、5℃/分の昇温速度で500℃まで昇温し、500℃で1時間保持することにより、熱可塑性樹脂を除去して安定化繊維を得た。
【0104】
ついで、この安定化繊維を窒素雰囲気下、1000℃で30分間保持して炭素化し、さらにアルゴンの雰囲気下、1750℃に加熱し30分間保持して黒鉛化した。
【0105】
ついで、この黒鉛化した炭素繊維集合体を、エアジェットミル(日清エンジニアリング(株)製「スーパージェットミル、SJ-1500」)で粉砕し、粉体状の炭素繊維集合体を得た。炭素繊維は分岐のない直線構造であった(分岐度0)。
【0106】
得られた炭素繊維集合体の平均繊維径は260nm、繊維径のCV値は0.55、平均繊維長は13.5μm、繊維長のCV値は1.2であり、タップ密度は、0.036であった。圧力3kg/cm2で加圧した状態で測定する嵩密度は0.388g/cm3であり、タップ密度に対して、10.8倍の嵩密度であった。また、圧力1.5kg/cm2で加圧した状態で測定する嵩密度は0.321g/cm3であり、タップ密度に対して、8.9倍の嵩密度であった。
【0107】
さらに、充填密度1.5g/cm3で充填した際の粉体体積抵抗Aは、0.008(Ω・cm)、充填密度0.5g/cm3で充填した際の粉体体積抵抗Bは、0.063(Ω・cm)であり、A/Bは、12.7%であった。また、結晶性の程度を示すd002は0.3432nm、Lcは、11.3nmであった。
また、得られた炭素繊維集合体を2質量部、リン酸鉄リチウム(TATUNG FINE CHEMICALS CO.製、Model P13f)を91質量部、乾燥下で粉体混合させ、リチウムイオン電池の電極(正極)合剤層を作製し、この電極合剤層の圧力下での密度を測定した。10MPaで圧縮した際の電極合剤層の密度は、1.60g/cm3であった。
【0108】
[比較例1]
熱可塑性樹脂として直鎖状低密度ポリエチレン(EVOLUE(登録商標)SP-1510、(株)プライムポリマ-製、MFR=1g/10min)80質量部、及び参考例1で得られたメソフェーズピッチ(メソフェーズ率90.9%、軟化点303.5℃)20質量部を同方向二軸押出機(東芝機械(株)製「TEM-26SS」、バレル温度270℃、窒素気流下)で溶融混練してメソフェーズピッチ組成物を調製した。ここで、メソフェーズピッチのポリエチレン中の平均分散径は2.0μm、標準偏差0.9μmであった。平均分散径は、メソフェーズピッチ組成物を蛍光顕微鏡で観察し、蛍光顕微鏡写真から無作為に200箇所を選択して分散径を測定し、それらすべての測定結果(n=200)の平均値を平均分散径とした。
【0109】
次いで、このメソフェーズピッチ組成物を溶融紡糸機により、直径が0.2mm、導入角60°である円形口金を用いて繊維径115μmの長繊維に成形した。口金温度は330℃、1紡糸孔当たりの吐出量は4.1g/口金/時間、吐出線速度と引取り速度との比率であるドラフト比は3であった。
【0110】
上記操作で得られたメソフェーズピッチ含有繊維束0.1kgを用い、循環方式により、温度100℃、反応性ガスにおける二酸化窒素と酸素とのモル比(NO2/O2)を0.61とし、100分間かけて反応させた。二酸化窒素と酸素との流通速度は0.4m/sとした。これにより、メソフェーズピッチを安定化させ、安定化メソフェーズピッチ含有繊維束を得た。上記安定化メソフェーズピッチ含有繊維束を、真空ガス置換炉中で窒素置換を行った後に1kPaまで減圧し、該減圧状態下で、5℃/分の昇温速度で500℃まで昇温し、500℃で1時間保持することにより、熱可塑性樹脂を除去して安定化繊維を得た。
【0111】
ついで、この安定化繊維を窒素雰囲気下、1000℃で30分間保持して炭素化し、さらにアルゴンの雰囲気下、1750℃に加熱し30分間保持して黒鉛化した。
【0112】
ついで、この黒鉛化した炭素繊維集合体を、エアジェットミル(日清エンジニアリング(株)製「スーパージェットミル、SJ-1500」)で粉砕し、粉体状の炭素繊維集合体を得た。炭素繊維は分岐のない直線構造であった(分岐度0)。
得られた炭素繊維集合体の平均繊維径は260nm、繊維径のCV値は0.36、平均繊維長は16.9μm、繊維長のCV値は1.3であり、タップ密度は、0.017であった。圧力3kg/cm2で加圧した状態で測定する嵩密度は0.354g/cm3であり、タップ密度に対して、20.8倍の嵩密度であった。また、圧力1.5kg/cm2で加圧した状態で測定する嵩密度は0.289g/cm3であり、タップ密度に対して、17.0倍の嵩密度であった。
【0113】
さらに、充填密度1.5g/cm3で充填した際の粉体体積抵抗Aは、0.010(Ω・cm)、充填密度0.5g/cm3で充填した際の粉体体積抵抗Bは、0.081(Ω・cm)であり、A/Bは、12.3%であった。また、結晶性の程度を示すd002は0.3433nm、Lcは、9.2nmであった。
また、得られた炭素繊維集合体を2質量部、リン酸鉄リチウム(TATUNG FINE CHEMICALS CO.製、Model P13f)を91質量部、乾燥下で粉体混合させ、リチウムイオン電池の電極(正極)合剤層を作製し、この電極合剤層の圧力下での密度を測定した。10MPaで圧縮した際の電極合剤層の密度は、1.57g/cm3であった。
【0114】
(実施例2~4)
直鎖状低密度ポリエチレンとメソフェーズピッチの仕込み量(組成比)を表1のように変更した以外は、実施例1と同様の操作を行って、炭素繊維集合体を得た。結果を表1に示す。
【0115】
(比較例2)
直鎖状低密度ポリエチレンとメソフェーズピッチの仕込み量(組成比)を表1のように変更した以外は、比較例1と同様の操作を行って、炭素繊維集合体を得た。結果を表1に示す。
【0116】
上記実施例と比較例の数値を下記表1にまとめた。また、上記実施例と比較例における製法の条件を下記表1にまとめた。なお、何れの炭素繊維集合体も、金属元素(Li、Na、Ti、Mn、Fe、Ni及びCo)の合計含有率が20ppm以下であり、ホウ素の含有率は1質量ppm以下であった。
【0117】
【0118】
上記実施例及び比較例から、本発明の炭素繊維集合体を含有する電極合剤層は、電極密度が高い。炭素繊維集合体が、活物質粒子が形成する間隙に効率的に配置されているため、電極合剤層中に活物質粒子をより多く含むことができ、高密度充填されていると推察される。