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特許7489451多層ポリイミドフィルムおよびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-15
(45)【発行日】2024-05-23
(54)【発明の名称】多層ポリイミドフィルムおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/34 20060101AFI20240516BHJP
   B32B 27/18 20060101ALI20240516BHJP
   C08G 73/10 20060101ALI20240516BHJP
   H05K 1/03 20060101ALI20240516BHJP
【FI】
B32B27/34
B32B27/18 Z
C08G73/10
H05K1/03 610N
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2022515800
(86)(22)【出願日】2019-10-23
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-11-17
(86)【国際出願番号】 KR2019013956
(87)【国際公開番号】W WO2021049707
(87)【国際公開日】2021-03-18
【審査請求日】2022-03-11
(31)【優先権主張番号】10-2019-0112533
(32)【優先日】2019-09-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】514225065
【氏名又は名称】ピーアイ アドヴァンスド マテリアルズ カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】PI Advanced Materials CO., Ltd.
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】弁理士法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】キム・キ-フン
(72)【発明者】
【氏名】リ・キル-ナム
【審査官】加賀 直人
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-158149(JP,A)
【文献】特開2010-115797(JP,A)
【文献】国際公開第2007/037192(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 27/34
B32B 27/18
C08G 73/10
H05K 1/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非熱可塑性ポリイミドを含有するコア層と、
前記コア層の片面または両面に積層された非熱可塑性ポリイミドを含有するスキン層とを含み、
前記コア層は、1種以上の脱水剤および1種以上のイミド化触媒を含み、
前記スキン層は、1種以上のイミド化触媒を含み、脱水剤を含まず、
前記スキン層のイミド化触媒は、前記スキン層に含まれた二無水物酸成分とジアミン成分の固形分対比0.1mol%超過1.2mol%未満含まれ
前記コア層および前記スキン層は、二無水物酸成分とジアミン成分とを含むポリアミック酸溶液をイミド化して得られ、
前記コア層および前記スキン層の前記ジアミン成分は、4,4’-ジアミノ-2,2’-ジメチルビフェニル(4,4’-diamino-2,2’-dimethylbiphenyl、m-tolidine)、3,5-ジアミノ安息香酸(3,5-diaminobenzoic acid、3,5-DABA)、パラフェニレンジアミン(p-phenylenediamine、PPD)、およびオキシジアニリン(4,4’-oxydianiline、ODA)からなるグループより選択された1種以上のジアミン成分であり、
前記多層ポリイミドフィルムの弾性率は、7GPa以上であり、
前記多層ポリイミドフィルムと銅箔との接着力は、1.0kgf/cm 2 以上である、
多層ポリイミドフィルム。
【請求項2】
前記コア層および前記スキン層の前記二無水物酸成分は、ピロメリティックジアンハイドライド(pyromellitic dianhydride、PMDA)、3,3',4,4'-ベンゾフェノンテトラカルボキシリックジアンハイドライド(3,3',4,4'-benzophenonetetracarboxylic dianhydride、BTDA)、オキシジフタリックアンハイドライド(oxydiphthalic anhydride、ODPA)、および3,3',4,4'-ビフェニルテトラカルボキシリックジアンハイドライド(3,3',4,4'-biphenyltetracarboxylic dianhydride、BPDA)からなるグループより選択された1種以上の二無水物酸成分である、請求項1に記載の多層ポリイミドフィルム。
【請求項3】
前記コア層と前記スキン層との厚さ比は、6:4~9:1である、請求項1に記載の多層ポリイミドフィルム。
【請求項4】
前記イミド化触媒は、キノリン、イソキノリン、β-ピコリン、ピリジン、イミダゾール、2-イミダゾール、1,2-ジメチルイミダゾール、2-フェニルイミダゾール、およびベンズイミダゾールからなるグループより選択された1種以上である、請求項1に記載の多層ポリイミドフィルム。
【請求項5】
前記脱水剤は、酢酸無水物である、請求項1に記載の多層ポリイミドフィルム。
【請求項6】
前記コア層と前記スキン層に含まれた前記イミド化触媒は、同一または異なる、請求項1に記載の多層ポリイミドフィルム。
【請求項7】
前記多層ポリイミドフィルムは、前記コア層を形成するポリアミック酸溶液またはポリイミド樹脂と、前記スキン層を形成するポリアミック酸溶液またはポリイミド樹脂とを共押出するステップを含む製造方法により製造される、請求項1に記載の多層ポリイミドフィルム。
【請求項8】
コア層を形成する第1ポリアミック酸溶液または前記第1ポリアミック酸溶液をイミド化して製造される第1ポリイミド樹脂、1種以上のイミド化触媒、および1種以上の脱水剤を含む第1溶液を用意する第1溶液用意ステップと、
スキン層を形成する第2ポリアミック酸溶液または前記第2ポリアミック酸溶液をイミド化して製造される第2ポリイミド樹脂、1種以上のイミド化触媒を含み、脱水剤は含まない第2溶液を用意する第2溶液用意ステップと、
共押出ダイを介して前記第1溶液と前記第2溶液とを共押出する共押出ステップと、
前記共押出されて出た前記第1溶液と前記第2溶液を硬化する硬化ステップとを含み、
前記コア層と前記スキン層は、非熱可塑性ポリイミドであり、
前記スキン層のイミド化触媒は、前記スキン層に含まれた二無水物酸成分とジアミン成分の固形分対比0.1mol%超過1.2mol%未満含まれ
前記コア層および前記スキン層の前記ジアミン成分は、4,4’-ジアミノ-2,2’-ジメチルビフェニル(4,4’-diamino-2,2’-dimethylbiphenyl、m-tolidine)、3,5-ジアミノ安息香酸(3,5-diaminobenzoic acid、3,5-DABA)、パラフェニレンジアミン(p-phenylenediamine、PPD)、およびオキシジアニリン(4,4’-oxydianiline、ODA)からなるグループより選択された1種以上のジアミン成分であり、
前記多層ポリイミドフィルムの弾性率は、7GPa以上であり、
前記多層ポリイミドフィルムと銅箔との接着力は、1.5kgf/cm 2 以上である、 多層ポリイミドフィルムの製造方法。
【請求項9】
前記第1溶液として前記第1ポリアミック酸溶液を用い、
前記第2溶液として前記第2ポリアミック酸溶液を用いる場合、
前記硬化ステップの前に、前記共押出されて出た前記第1溶液と前記第2溶液をイミド化するイミド化ステップを含む、請求項に記載の多層ポリイミドフィルム製造方法。
【請求項10】
前記第1ポリアミック酸溶液および前記第2ポリアミック酸溶液の前記二無水物酸成分は、ピロメリティックジアンハイドライド(pyromellitic dianhydride、PMDA)、ベンゾフェノンテトラカルボキシリックジアンハイドライド(3,3',4,4'-benzophenonetetracarboxylic dianhydride、BTDA)、オキシジフタリックアンハイドライド(oxydiphthalic anhydride、ODPA)、および3,3',4,4'-ビフェニルテトラカルボキシリックジアンハイドライド(3,3',4,4'-biphenyltetracarboxylic dianhydride、BPDA)からなるグループより選択された1種以上の二無水物酸成分である
請求項に記載の多層ポリイミドフィルムの製造方法。
【請求項11】
前記イミド化触媒は、キノリン、イソキノリン、β-ピコリン、ピリジン、イミダゾール、2-イミダゾール、1,2-ジメチルイミダゾール、2-フェニルイミダゾール、およびベンズイミダゾールからなるグループより選択された1種以上であり、
前記脱水剤は、酢酸無水物である、
請求項に記載の多層ポリイミドフィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多層ポリイミドフィルムおよびその製造方法に関し、より詳しくは、多層ポリイミドの層間の界面接着力および銅箔との接着力に優れると同時に、弾性率が7GPa以上である多層ポリイミドフィルムおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリイミド(polyimide、PI)は、剛直な芳香族主鎖と共に、化学的安定性が非常に優れたイミド環に基づいて、有機材料の中でも最高水準の耐熱性、耐薬品性、電気絶縁性、耐化学性、耐候性を有する高分子材料である。
特に、優れた絶縁特性、すなわち低い誘電率のような優れた電気的特性により、電気、電子、光学分野などに至るまで高機能性高分子材料として注目されている。
最近、電子製品の軽量化、小型化に伴い、集積度が高くて柔軟な薄型回路基板が活発に開発されている。
このような薄型回路基板は、優れた耐熱性、耐低温性および絶縁特性を有しながらも屈曲が容易なポリイミドフィルム上に金属箔を含む回路が形成されている構造が多く活用される傾向にある。
このような薄型回路基板としては軟性金属箔積層板が主に用いられており、一例として、金属箔として薄い銅板を用いる軟性銅箔積層板(Flexible Copper Clad Laminate、FCCL)が含まれる。その他にも、ポリイミドを薄型回路基板の保護フィルム、絶縁フィルムなどに活用したりする。
軟性金属箔積層板の製造方法としては、例えば、(i)金属箔上にポリイミドの前駆体であるポリアミック酸を流延(cast)、または塗布した後、イミド化するキャスティング法、(ii)スパッタリングまたはめっきによってポリイミドフィルム上に直接金属層を設けるメタライジング法、および(iii)熱可塑性ポリイミドを介してポリイミドフィルムと金属箔とを熱と圧力で接合させるラミネート法などが挙げられる。
このうち、ラミネート法は、適用可能な金属箔の厚さ範囲がキャスティング法よりも広く、装置費用がメタライジング法よりも安価であるという点で利点がある。
ただし、ラミネート法の場合、通常、ポリイミドフィルムと金属箔との接着に熱可塑性樹脂を用いるため、この熱可塑性樹脂の熱融着性を発現させるために、300℃以上の熱をポリイミドフィルムに加える必要がある。
このような高温のラミネート工程でポリイミドフィルムの貯蔵弾性率が大きく低下する問題が発生するが、低い貯蔵弾性率の下では、ポリイミドフィルムが緩くなることで、ラミネート終了後にポリイミドフィルムが平坦な形態で存在しない可能性が高く、寸法安定性が低くなり、多層形態のポリイミドフィルムではそれぞれの層または金属箔が分離される分層現象が発生したりする。
一方、ラミネート工程の温度に比べてポリイミドフィルムのガラス転移温度が著しく低い場合にも寸法安定性が低くなり、これにより、ラミネート後、ポリイミドフィルムの外観品質が低下する恐れがあり、同じく、多層形態のポリイミドフィルムではそれぞれの層または金属箔が分離される分層現象が発生したりする。
したがって、上記の問題を解決して工程性を大きく改善するために、層間の界面接着力および銅箔との接着力が高くて分層現象が発生せず、弾性率などの機械的特性に優れて安定した回路の実現が可能なポリイミドフィルムおよびその効果的な製造方法の開発が必要なのが現状である。
以上の背景技術に記載された事項は発明の背景に対する理解のためのものであって、この技術の属する分野における通常の知識を有する者にすでに知られた従来技術でない事項を含むことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】大韓民国公開特許公報第10-2012-0133807号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで、上記の問題を解決すべく、本発明は、層間の界面接着力および銅箔との接着力に優れると同時に、優れた機械的特性(弾性率など)が維持される多層ポリイミドフィルムおよびその製造方法を提供することを目的とする。
そのため、本発明は、その具体的な実施例を提供することに実質的な目的がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の目的を達成するための、本発明の一実施形態は、非熱可塑性ポリイミドを含有するコア層と、前記コア層の片面または両面に積層された非熱可塑性ポリイミドを含有するスキン層とを含み、前記コア層は、1種以上の脱水剤および1種以上のイミド化触媒を含み、前記スキン層は、1種以上のイミド化触媒を含み、脱水剤を含まない多層ポリイミドフィルムを提供する。
【0006】
前記多層ポリイミドフィルムの前記スキン層のイミド化触媒は、前記スキン層に含まれた二無水物酸成分とジアミン成分の固形分対比0.1mol%超過1.2mol%未満含まれる。
また、コア層および前記スキン層は、ピロメリティックジアンハイドライド(pyromellitic dianhydride、PMDA)、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボキシリックジアンハイドライド(3,3’,4,4’-benzophenonetetracarboxylic dianhydride、BTDA)、オキシジフタリックアンハイドライド(oxydiphthalic anhydride、ODPA)、および3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボキシリックジアンハイドライド(3,3’,4,4’-biphenyltetracarboxylic dianhydride、BPDA)からなるグループより選択された1種以上の二無水物酸成分と、
4,4’-ジアミノ-2,2’-ジメチルビフェニル(4,4’-diamino-2,2’-dimethylbiphenyl、m-tolidine)、3,5-ジアミノ安息香酸(3,5-diaminobenzoic acid、3,5-DABA)、パラフェニレンジアミン(p-phenylenediamine、PPD)、およびオキシジアニリン(4,4’-oxydianiline、ODA)からなるグループより選択された1種以上のジアミン成分とを含むポリアミック酸溶液をイミド化して得られる。
前記多層ポリイミドフィルムの前記コア層と前記スキン層との厚さ比は、6:4~9:1であってもよい。
前記多層ポリイミドフィルムの前記イミド化触媒は、キノリン、イソキノリン、β-ピコリン、ピリジン、イミダゾール、2-イミダゾール、1,2-ジメチルイミダゾール、2-フェニルイミダゾール、およびベンズイミダゾールからなるグループより選択された1種以上であり、前記脱水剤は、酢酸無水物であってもよいし、コア層とスキン層に含まれたイミド化触媒は、同一または異なっていてもよい。
前記多層ポリイミドフィルムの弾性率は、7GPa以上であり、前記多層ポリイミドフィルムと銅箔との接着力は、1.0kgf/cm2以上である。
前記多層ポリイミドフィルムは、前記コア層を形成するポリアミック酸溶液またはポリイミド樹脂と、前記スキン層を形成するポリアミック酸溶液またはポリイミド樹脂とを共押出するステップを含む製造方法により製造される。
【0007】
本発明の他の実施形態は、コア層を形成する第1ポリアミック酸溶液または前記第1ポリアミック酸溶液をイミド化して製造される第1ポリイミド樹脂、1種以上のイミド化触媒、および1種以上の脱水剤を含む第1溶液を用意する第1溶液用意ステップと、スキン層を形成する第2ポリアミック酸溶液または前記第2ポリアミック酸溶液をイミド化して製造される第2ポリイミド樹脂、1種以上のイミド化触媒を含み、脱水剤は含まない第2溶液を用意する第2溶液用意ステップと、共押出ダイを介して前記第1溶液と前記第2溶液とを共押出する共押出ステップと、前記共押出されて出た第1溶液と第2溶液を硬化する硬化ステップとを含む製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0008】
以上で説明したように、本発明は、コア層が1種以上のイミド化触媒および1種以上の脱水剤を含む非熱可塑性ポリイミド樹脂からなり、コア層の片面または両面に積層されるスキン層は、1種以上のイミド化触媒を含むが、脱水剤を含まない多層ポリイミドフィルムおよびその製造方法により、層間の界面接着力および銅箔との接着力に優れると同時に、優れた弾性率を有する多層ポリイミドフィルムを提供することにより、これらの特性が要求される多様な分野、特に軟性金属箔積層板などの電子部品などに有用に適用可能である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明による「多層ポリイミドフィルム」および「多層ポリイミドフィルムの製造方法」の順に発明の実施形態をより詳細に説明する。
これに先立ち、本明細書および特許請求の範囲に使われた用語や単語は、通常または辞書的な意味に限定して解釈されてはならず、発明者は自らの発明を最善の方法で説明するために用語の概念を適切に定義できるという原則に則って本発明の技術的思想に符合する意味と概念で解釈されなければならない。
したがって、本明細書に記載された実施例の構成は、本発明の最も好ましい一つの実施例に過ぎず、本発明の技術的思想をすべて代弁するものではないので、本出願時点においてこれらを代替できる多様な均等物と変形例が存在し得ることを理解しなければならない。
本明細書において、単数の表現は文脈上明らかに異なって意味しない限り、複数の表現を含む。本明細書において、「含む」、「備える」または「有する」などの用語は、実施された特徴、数字、段階、構成要素またはこれらを組み合わせたものが存在することを指定しようとするものであって、1つまたはそれ以上の他の特徴や数字、段階、構成要素またはこれらを組み合わせたものの存在または付加の可能性を予め排除しないことが理解されなければならない。
本明細書において、量、濃度、または他の値またはパラメータが範囲、好ましい範囲または好ましい上限値および好ましい下限値の列挙として与えられる場合、範囲が別途に開示されるかに関係なく、任意の一対の任意の上側範囲の限界値または好ましい値、および任意の下側範囲の限界値または好ましい値で形成されたすべての範囲を具体的に開示すると理解されなければならない。
数値の範囲が本明細書において言及される場合、他に記述されなければ、その範囲はその終点およびその範囲内のすべての整数と分数を含むと意図される。本発明の範疇は、範囲を定義する時に言及される特定値に限定されないと意図される。
本明細書において、「二無水物酸」は、その前駆体または誘導体を含むと意図されるが、これらは、技術的には二無水物酸でないかも知れないが、それにもかかわらず、ジアミンと反応してポリアミック酸を形成するはずであり、このポリアミック酸は再度ポリイミドに変換される。
【0010】
本発明による多層ポリイミドフィルムは、非熱可塑性ポリイミドを含有するコア層と、前記コア層の片面または両面に積層された非熱可塑性ポリイミドを含有するスキン層とを含み、前記コア層が1種以上の脱水剤および1種以上のイミド化触媒を含み、前記スキン層は、1種以上のイミド化触媒を含み、脱水剤を含まない。
【0011】
前記非熱可塑性ポリイミドは、熱可塑性ポリイミドを除いたポリイミドで、本発明の多層ポリイミドフィルムは、非熱可塑性ポリイミドのみからなる。
非熱可塑性ポリイミドを形成するために使用される二無水物酸成分としては、ピロメリティックジアンハイドライド(pyromellitic dianhydride、PMDA)、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボキシリックジアンハイドライド(3,3’,4,4’-benzophenonetetracarboxylic dianhydride、BTDA)、オキシジフタリックアンハイドライド(oxydiphthalic anhydride、ODPA)、および3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボキシリックジアンハイドライド(3,3’,4,4’-biphenyltetracarboxylic dianhydride、BPDA)からなるグループより選択された1種以上を使用することができるが、これに限定されるものではない。
ジアミン成分としては、4,4’-ジアミノ-2,2’-ジメチルビフェニル(4,4’-Diamino-2,2’-dimethylbiphenyl、m-tolidine)、3,5-ジアミノ安息香酸(3,5-diaminobenzoic acid、3,5-DABA)、パラフェニレンジアミン(p-phenylenediamine、PPD)、およびオキシジアニリン(4,4’-oxydianiline、ODA)からなるグループより選択された1種以上を使用することができるが、これに限定されるものではない。
コア層とスキン層の非熱可塑性ポリイミド樹脂は、同一または異なっていてもよい。すなわち、コア層とスキン層を形成するポリイミド樹脂の二無水物酸成分とジアミン成分は、それぞれ同一または異なっていてもよく、同一の二無水物酸成分とジアミン成分が使用されるとしても各成分の組成比が異なっていてもよい。
【0012】
また、スキン層は、コア層の片面または両面に積層され、特にコア層の両面に積層されて3層からなる多層ポリイミドフィルムを形成することが好ましい。
コア層の片面および両面に、スキン層は、1層以上の多層に形成されてもよい。
コア層とスキン層との厚さ比は、6:4~9:1であることが好ましいが、これに限定されるものではない。コア層の厚さが6部未満であるか、9部を超える場合、誘電損失値が高くなり、スキン層の厚さが1部未満であるか、4部を超える場合には、接着力特徴が低下することがある。
本発明のコア層とスキン層は、いずれもイミド化触媒を含む。また、コア層は、脱水剤を含むが、スキン層は、脱水剤を含まない。
【0013】
イミド化触媒の例としては、脂肪族3級アミン、芳香族3級アミン、ヘテロ環式3級アミンなどが挙げられ、脱水剤の脱水閉環作用を促進する効果を有する成分であれば、いかなる成分でも使用可能である。
特に、キノリン、イソキノリン、β-ピコリン、ピリジン、イミダゾール、2-イミダゾール、1,2-ジメチルイミダゾール、2-フェニルイミダゾール、およびベンズイミダゾールからなるグループより選択された1種以上であることが好ましく、さらに好ましくは、イソキノリン、β-ピコリンのいずれか1種以上であってもよい。
【0014】
脱水剤は、ポリアミド酸に対する脱水閉環剤の役割を果たし、脂肪族酸無水物、芳香族酸無水物、N,N’-ジアルキルカルボジイミド、低級脂肪族ハロゲン化物、ハロゲン化低級脂肪族酸無水物、アリールスルホン酸ジハロゲン化物、チオニルハロゲン化物などの化合物が挙げられる。
これらの化合物は、単独で用いてもよく、2種以上を適宜組み合わせて用いてもよい。
これらの中でも、脂肪族酸無水物、芳香族酸無水物などが好ましく、酢酸無水物を用いることがさらに好ましいが、これに限定されるものではない。
【0015】
コア層は、脱水剤を、前記コア層に含まれた二無水物酸成分とジアミン成分の固形分対比1.5mol%~4mol%含むことができる。
ここで、コア層とスキン層に含まれたイミド化触媒は、それぞれ前記コア層およびスキン層に含まれた二無水物酸成分とジアミン成分の固形分対比0.1mol%超過1.2mol%未満含むことができる。
コア層とスキン層のイミド化触媒の含有量は、前記含有量範囲内でコア層とスキン層のイミド化速度を制御するために、互いに同一または異なって調節可能である。
例えば、コア層とスキン層のイミド化触媒の含有量を異なって調節する場合、コア層に含まれたイミド化触媒の含有量が、スキン層に含まれたイミド化触媒の含有量より多いか、または少なくてよい。
好ましくは、スキン層のイミド化速度を制御するために、スキン層に含まれたイミド化触媒は、スキン層に含まれた二無水物酸成分とジアミン成分の固形分対比0.2mol%~1.1mol%であってもよく、さらに好ましくは0.4mol%~1.0mol%であってもよい。
コア層と、コア層に積層されたスキン層とを含む多層ポリイミドフィルムにおいて、コア層にのみイミド化触媒が投入される場合、コア層とスキン層との界面密着特性が低下して、多層ポリイミドフィルムが分層されてフィルム特性が悪化する問題が発生した。
また、スキン層がイミド化触媒を0.1mol%以下で含む場合には、層間の界面接着力および銅箔との接着力が低くて製品への適用に適合しないだけでなく、弾性率が非常に低くなった。
スキン層が触媒を1.2mol%含む場合、イミド化速度の調節が難しくてコア層上のスキン層がまともに形成されなかった。
これに対し、コア層とスキン層ともにイミド化触媒を適量含ませてコア層とスキン層のイミド化速度を調節する場合、スキン層とコア層との界面密着力を改善できただけでなく、多層ポリイミドフィルムと銅箔との接着力も向上させることができ、優れた弾性率も維持することができた。特に、コア層とスキン層のイミド化が類似の速度で進行することが好ましい。
すなわち、脱水剤およびイミド化触媒が前記範囲を下回ると、化学的イミド化が不十分であり、焼成途中に破断したり、機械的強度が低下した。
また、それらの量が前記範囲を上回ると、イミド化が速く進行して、フィルム状にキャスティングすることが困難になった。
コア層とスキン層に使用されるイミド化触媒は、互いに同一または異なっていてもよく、好ましくは、同一のイミド化触媒を使用することができるが、これに限定されない。
コア層とスキン層が適宜調節された含有量のイミド化触媒を含み、コア層のみ脱水剤を含む多層ポリイミドフィルムは、弾性率が7GPa以上であり、多層ポリイミドフィルムと銅箔との接着力は1.0kgf/cm2以上であった。
【0016】
多層ポリイミドフィルムの弾性率は、7GPa以上で、好ましくは7.5GPa以上であり、さらに好ましくは8GPa以上であってもよい。
また、多層ポリイミドフィルムと銅箔との接着力は、1.0kgf/cm2以上で、好ましくは1.5kgf/cm2以上であってもよい。
【0017】
製造された多層ポリイミドフィルムのスキン層上には、使用用途によって他の機能層が積層されてもよく、特に、熱可塑性ポリイミド樹脂層(thermoplastic polyimide、TPI)、金属箔などが追加的に積層されてもよいが、これに限定されるものではない。
使用する金属箔としては特に限定されるものではないが、電子機器または電気機器の用途に本発明の軟性金属箔積層板を用いる場合には、例えば、銅または銅合金、ステンレス鋼またはその合金、ニッケルまたはニッケル合金(42合金も含む)、アルミニウムまたはアルミニウム合金を含む金属箔であってもよい。
【0018】
製造された多層ポリイミドフィルムは、キャスティング法、メタライジング法、ラミネート法などにより金属箔(特に、銅箔)を積層して軟性金属箔積層板を製造することができる。
特に、本発明の多層ポリイミドフィルムは、優れた弾性率と金属箔(特に、銅箔)との優れた接着力は、軟性金属箔積層板(特に、軟性銅箔積層板)の製造において有利であり、製造された軟性金属箔積層板の優れた特性の発現に寄与する。
【0019】
本発明の多層ポリイミドフィルムは、コア層を形成するポリアミック酸溶液またはポリイミド樹脂と、スキン層を形成するポリアミック酸溶液またはポリイミド樹脂とを共押出するステップにより製造される。
すなわち、コア層を形成する第1ポリアミック酸溶液または前記第1ポリアミック酸溶液をイミド化して製造される第1ポリイミド樹脂、1種以上のイミド化触媒、および1種以上の脱水剤を含む第1溶液を用意する第1溶液用意ステップと、スキン層を形成する第2ポリアミック酸溶液または前記第2ポリアミック酸溶液をイミド化して製造される第2ポリイミド樹脂、1種以上のイミド化触媒を含み、脱水剤は含まない第2溶液を用意する第2溶液用意ステップと、共押出ダイを介して前記第1溶液と前記第2溶液とを共押出する共押出ステップと、前記共押出されて出た第1溶液と第2溶液を硬化する硬化ステップとを含む製造方法により製造される。
具体的には、本発明の多層ポリイミドフィルムを製造するために、第1ポリアミック酸溶液または第1ポリアミック酸溶液をイミド化して製造される第1ポリイミド樹脂である第1溶液を第1貯留槽に充填する第1充填ステップと、第2ポリアミック酸溶液または第2ポリアミック酸溶液をイミド化して製造される第2ポリイミド樹脂である第2溶液を第2貯留槽に充填する第2充填ステップと、第1貯留槽に連結された第1流路、第2貯留槽にそれぞれ連結された第2流路および第3流路が内部にそれぞれ形成された共押出ダイを介して第1溶液と第2溶液とを共押出する共押出ステップと、共押出されて出た第1溶液と第2溶液を硬化する硬化ステップとを含んで行われる。
一方、第1溶液として前記第1ポリアミック酸溶液を用い、第2溶液として前記第2ポリアミック酸溶液を用いる場合、硬化ステップの前に共押出されて出た第1溶液と第2溶液をイミド化するイミド化ステップをさらに含んで行われることが好ましい。
【0020】
前記ポリアミック酸溶液は特に限定されないが、通常、固形分含有量が5~35重量%、好ましくは10~30重量%の濃度で得られるが、この範囲の濃度の場合、ポリアミック酸溶液は、適当な分子量と溶液粘度を得る。
前記ポリアミック酸溶液を合成するための溶媒は特に限定されるものではなく、ポリアミック酸を溶解させる溶媒であればいかなる溶媒も使用可能であり、具体的には、溶媒は、有機極性溶媒であってもよく、詳しくは、非プロトン性極性溶媒(aprotic polar solvent)であってもよいし、好ましくは、アミド系溶媒であってもよい。例えば、N,N’-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N’-ジメチルアセトアミド、N-メチル-ピロリドン(NMP)、ガンマブチロラクトン(GBL)、ジグリム(diglyme)からなる群より選択された1つ以上であってもよいが、これに限定されるものではなく、必要に応じて単独でまたは2種以上組み合わせて使用可能である。一つの例において、溶媒は、N,N-ジメチルホルムアミドおよびN,N-ジメチルアセトアミドが好ましく使用できる。
前記ポリアミック酸の製造ステップにおいて、単量体の種類および所望するポリイミドフィルムの物性に応じてすべての単量体を一度に添加するか、または各単量体を順次に添加することができ、この場合、単量体間の部分的重合が起こり得る。
【0021】
また、前記ポリアミック酸溶液の製造時、摺動性、熱伝導性、導電性、コロナ耐性、ループ硬さなどフィルムの様々な特性を改善する目的で充填材を添加してもよい。
添加される充填材は特に限定されるものではないが、好ましい例としては、シリカ、酸化チタン、アルミナ、窒化ケイ素、窒化ホウ素、リン酸水素カルシウム、リン酸カルシウム、雲母などが挙げられる。
充填材の粒径は特に限定されるものではなく、改質すべきフィルム特性と添加する充填材の種類によって決定可能である。
一般的には、平均粒径が0.05~100μm、好ましくは0.1~75μm、さらに好ましくは0.1~50μm、特に好ましくは0.1~25μmであってもよい。
粒径がこの範囲を下回ると、改質効果が現れにくくなり、この範囲を上回ると、表面性を大きく損なったり、機械的特性が大きく低下する場合がある。
また、充填材の添加量についても特に限定されるものではなく、改質すべきフィルム特性や充填材粒径などによって決定可能である。
一般的に、充填材の添加量は、ポリイミド100重量部に対して0.01~100重量部、好ましくは0.01~90重量部、さらに好ましくは0.02~80重量部であってもよい。
充填材の添加量がこの範囲を下回ると、充填材による改質効果が現れにくく、この範囲を上回ると、フィルムの機械的特性が大きく損なわれる可能性がある。
充填材の添加方法は特に限定されるものではなく、公知のいかなる方法を用いてもよい。
【0022】
イミド化触媒と脱水剤とを含む本発明の多層ポリイミドフィルムは、主に化学イミド化法または複合イミド化法が適用可能であるが、これに限定されるものではない。
化学イミド化法の一例として、40℃~300℃の温度範囲、好ましくは80℃~200℃、さらに好ましくは100℃~180℃に熱処理して脱水剤およびイミド化触媒を活性化させることにより、部分的に硬化および/または乾燥させて、自己支持性を有する中間体であるゲルを形成する。以後、支持体からゲルを剥離する工程、および前記ゲルをさらに加熱して、残りのアミック酸(amic acid)をイミド化し乾燥させる工程(以下、「焼成過程」ともいう)を含むことが好ましい。
複合イミド化法の一例として、ポリアミック酸溶液に脱水剤およびイミド化触媒を投入した後、80~200℃、好ましくは100~180℃で加熱して、部分的に硬化および乾燥した後に、200~400℃で5~400秒間加熱することにより、ポリイミド樹脂を得ることができる。
【実施例
【0023】
以下、本発明を製造例、比較例および実施例を用いてさらに詳細に説明する。下記の製造例、比較例および実施例は本発明の例証のためのもので、本発明の範囲がこれに限るものではない。
【0024】
製造例:多層ポリイミドフィルムの製造
コア層のワニスとして、二無水物酸成分とジアミン成分としてそれぞれピロメリティックジアンハイドライド(pyromellitic dianhydride、PMDA)とオキシジアニリン(4,4’-oxydianiline、ODA)をDMF溶媒で1:1反応させて、固形分18.5%のポリアミック酸を製造した。
以後、ミキサにより、前記コア層のワニスの固形分対比1.5~4mol%の酢酸無水物(脱水剤)および0.1~1mol%のイソキノリン(イミド化触媒)が供給され、最終固形分が12.3重量%のコア層のワニスが多層ダイ(Multi-layer Die)に吐出される。
前記コア層のワニスの50重量%の比率で混合触媒(脱水剤として酢酸無水物(Acetic anhydride)、イミド化触媒としてイソキノリンまたはβ-ピコリンを含む)が供給され、最終固形分12.3重量%のコア層のワニスが多層ダイ(Multi-layer Die)に吐出される。
スキン層のワニスも、コア層のワニスと同一のモノマーを用いて、ポリアミック酸を製造した後、イミド化触媒として含有量が調整されたイソキノリンをDMFと混合して(ただし、スキン層のワニスの場合、脱水剤を含まない)、最終固形分をコア層のワニスと同一に12.3重量%に製造し、多層ダイ(Multi-layer Die)内に供給して、最終的にスキン/コア/スキン構造を有する3層構造の多層ポリイミドフィルムを共押出により製造した。
【0025】
比較例および実施例
先に説明した製造例により製造しかつ、多層ポリイミドフィルムのスキン層のイミド化触媒の含有量を下記表1のように調節して、多層ポリイミドフィルムの弾性率と接着力を測定した。
コア層の場合、コア層のワニスの固形分対比2.7mol%の酢酸無水物(脱水剤)および0.4mol%のイソキノリン(イミド化触媒)を使用した。
本発明の多層ポリイミドフィルムの弾性率は、ASTM D882規定に基づいて測定した。
本発明の多層ポリイミドフィルムの銅箔との接着力は、両面に銅箔をラミネーションした軟性金属箔積層板上にInnoflex(1mil、Epoxy type、Innox製品)を置き、両面にPVCフィルムと保護用PIフィルムを置いて、160℃に昇温した後に、30分間10Kgf/cm2の圧力で熱圧着した。フィルムを13mmの幅に切って裁断した後に、180゜剥離試験(Peel test)を実施した。
【0026】
【表1】
【0027】
スキン層のイミド化触媒の含有量がスキン層に含まれた二無水物酸成分とジアミン成分の固形分対比0.4mol%~1.0mol%に相当する場合(実施例1~4)、銅箔との接着力が1.5kgf/cm2に維持され、多層ポリイミドフィルムの弾性率は7.64GPa~8.92GPaと測定された。スキン層のイミド化触媒の含有量の増加に伴って弾性率も向上する傾向を示した。
一方、スキン層にイミド化触媒が全く含まれない場合(比較例1)、銅箔との接着力の測定中、コア層とスキン層とが分離される分層現象が発生し、弾性率も3.57GPaで、スキン層に適正量のイミド化触媒が含まれている実施例に比べて非常に低かった。
また、スキン層にイミド化触媒が0.1mol%含まれる場合(比較例2)、銅箔との接着力は0.2~0.3kgf/cm2で、スキン層に適正量のイミド化触媒が含まれている実施例に比べて非常に低く、弾性率(3.75GPa)も、比較例1に比べると一部向上したものの、非常に低い水準であった。
スキン層にイミド化触媒が過剰使用された比較例3(1.2mol%)および比較例4(1.5mol%)の場合、スキン層のイミド化速度の調節が難しくて製膜が適切になされていないので、多層ポリイミドフィルムがまともに形成されておらず、形成されたポリイミドフィルムの外観が非常に不良で製品として適用することができなかった。
【0028】
以上、本発明の詳細な説明を通じて本発明の実施例を説明したが、本発明の属する分野における通常の知識を有する者であれば、上記の内容に基づいて本発明の範疇内で多様な応用および変形を行うことが可能であろう。