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特許7489458連続鋳造用鋳型及び連続鋳造用鋳型の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-15
(45)【発行日】2024-05-23
(54)【発明の名称】連続鋳造用鋳型及び連続鋳造用鋳型の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B22D 11/059 20060101AFI20240516BHJP
【FI】
B22D11/059 110E
B22D11/059 110H
B22D11/059 110A
B22D11/059 110Z
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2022527367
(86)(22)【出願日】2020-05-27
(86)【国際出願番号】 JP2020020977
(87)【国際公開番号】W WO2021240696
(87)【国際公開日】2021-12-02
【審査請求日】2022-11-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000176626
【氏名又は名称】三島光産株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120086
【弁理士】
【氏名又は名称】▲高▼津 一也
(74)【代理人】
【識別番号】100090697
【弁理士】
【氏名又は名称】中前 富士男
(72)【発明者】
【氏名】徳本 潤平
(72)【発明者】
【氏名】森園 浩郁
(72)【発明者】
【氏名】高田 正人
(72)【発明者】
【氏名】山本 圭祐
(72)【発明者】
【氏名】鬼木 喬玄
【審査官】瀧澤 佳世
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-098371(JP,A)
【文献】特開2019-122973(JP,A)
【文献】特開2005-254317(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第106756244(CN,A)
【文献】特開2009-160632(JP,A)
【文献】特開2004-001073(JP,A)
【文献】特表2013-541423(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第101775525(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22D 11/059
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続鋳造用鋳型の基材の溶鋼接触面に、前記基材よりもレーザ光の吸収率の高いNi-Alでレーザクラッディングにより形成された下地層と、該下地層の上に、レーザクラッディングにより形成された、Ni、Co及びFeのいずれかを主成分金属とする自溶性合金の被覆層とを有することを特徴とする連続鋳造用鋳型。
【請求項2】
連続鋳造用鋳型の基材の溶鋼接触面に、前記基材よりもレーザ光の吸収率の高い材質でレーザクラッディングにより形成された下地層と、該下地層の上に、レーザクラッディングにより形成され多層化された、自溶性合金の被覆層とを有し、多層化された前記被覆層の前記基材に最も近い層から最も遠い層に向かって前記自溶性合金の主成分金属の含有率が減少することにより線膨張係数が減少していることを特徴とする連続鋳造用鋳型。
【請求項3】
請求項1又は2記載の連続鋳造用鋳型において、前記自溶性合金は、アルミニウムを含有することを特徴とする連続鋳造用鋳型。
【請求項4】
請求項1又は2記載の連続鋳造用鋳型において、前記自溶性合金は、(1)Niを主成分金属とし、Cr:0~26質量%、B:1~4.5質量%、Si:0.5~5質量%、C:0.4~3質量%、Fe:0~5質量%、Co:0~1質量%、Al:1~5質量%、Mo:0~20質量%、Nb:0~4質量%、W:0~5質量%、Mn:0~2質量%、V:0~1質量%を含有するNi基自溶性合金、(2)Coを主成分金属とし、Cr:5~30質量%、Si:0.5~3質量%、C:0.05~3質量%、Fe:0~2質量%、Mo:0~30質量%、W:0~15質量%を含有するCo基自溶性合金、及び(3)Feを主成分金属とし、Cr:0~30質量%、Si:0.3~1.3質量%、C:0~3質量%、Ni:0~16質量%、Mo:0~5質量%を含有するFe基自溶性合金のいずれか1であることを特徴とする連続鋳造用鋳型。
【請求項5】
請求項記載の連続鋳造用鋳型において、前記被覆層は多層化され、前記基材に最も近い層から最も遠い層に向かって前記自溶性合金の主成分金属の含有率が減少することにより線膨張係数が減少していることを特徴とする連続鋳造用鋳型。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1記載の連続鋳造用鋳型において、前記自溶性合金に炭化物、硼化物、珪化物又は窒化物のセラミックスが混合されていることを特徴とする連続鋳造用鋳型。
【請求項7】
連続鋳造用鋳型の基材の溶鋼接触面に、前記基材よりもレーザ光の吸収率の高いNi、Ni-Al及びNi-Cuのいずれかでレーザクラッディングにより下地層を形成し、該下地層の上に、レーザクラッディングにより、Co又はFeを主成分金属とする自溶性合金の被覆層を形成する又は前記基材よりもレーザ光の吸収率の高いNi-Al又はNi-Cuでレーザクラッディングにより下地層を形成し、該下地層の上に、レーザクラッディングにより、Ni、Co及びFeのいずれかを主成分金属とする自溶性合金の被覆層を形成することを特徴とする連続鋳造用鋳型の製造方法。
【請求項8】
連続鋳造用鋳型の基材の溶鋼接触面に、前記基材よりもレーザ光の吸収率の高い材質でレーザクラッディングにより下地層を形成し、該下地層の上に、レーザクラッディングにより多層化された、自溶性合金の被覆層を形成し、多層化された前記被覆層の前記基材に最も近い層から最も遠い層に向かって前記自溶性合金の主成分金属の含有率を減少させることにより、線膨張係数を減少させたことを特徴とする連続鋳造用鋳型の製造方法。
【請求項9】
連続鋳造用鋳型の基材の溶鋼接触面に、前記基材よりもレーザ光の吸収率の高い材質でレーザクラッディングにより下地層を形成して、該下地層の上に、レーザクラッディングにより、自溶性合金の被覆層を形成するに際し、前記基材へのレーザ光の照射開始前に該基材を予熱し、前記基材へのレーザ光の照射中に該基材を冷却することを特徴とする連続鋳造用鋳型の製造方法。
【請求項10】
請求項7~9のいずれか1記載の連続鋳造用鋳型の製造方法において、前記自溶性合金は、アルミニウムを含有することを特徴とする連続鋳造用鋳型の製造方法。
【請求項11】
請求項7~9のいずれか1記載の連続鋳造用鋳型の製造方法において、前記自溶性合金は、(1)Niを主成分金属とし、Cr:0~26質量%、B:1~4.5質量%、Si:0.5~5質量%、C:0.4~3質量%、Fe:0~5質量%、Co:0~1質量%、Al:1~5質量%、Mo:0~20質量%、Nb:0~4質量%、W:0~5質量%、Mn:0~2質量%、V:0~1質量%を含有するNi基自溶性合金、(2)Coを主成分金属とし、Cr:5~30質量%、Si:0.5~3質量%、C:0.05~3質量%、Fe:0~2質量%、Mo:0~30質量%、W:0~15質量%を含有するCo基自溶性合金、及び(3)Feを主成分金属とし、Cr:0~30質量%、Si:0.3~1.3質量%、C:0~3質量%、Ni:0~16質量%、Mo:0~5質量%を含有するFe基自溶性合金のいずれか1であることを特徴とする連続鋳造用鋳型の製造方法。
【請求項12】
請求項7又は9記載の連続鋳造用鋳型の製造方法において、前記被覆層を多層化し、前記基材に最も近い層から最も遠い層に向かって前記自溶性合金の主成分金属の含有率を減少させることにより線膨張係数を減少させたことを特徴とする連続鋳造用鋳型の製造方法。
【請求項13】
請求項7~12のいずれか1記載の連続鋳造用鋳型の製造方法において、前記自溶性合金に炭化物、硼化物、珪化物又は窒化物のセラミックスを混合したことを特徴とする連続鋳造用鋳型の製造方法。
【請求項14】
請求項7又は8記載の連続鋳造用鋳型の製造方法において、前記基材へのレーザ光の照射開始前に該基材を予熱し、前記基材へのレーザ光の照射中に該基材を冷却することを特徴とする連続鋳造用鋳型の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄鋼等の製造に使用される連続鋳造用鋳型及び連続鋳造用鋳型の製造方法に係り、更に詳細には、耐熱性、耐食性及び耐摩耗性に優れる連続鋳造用鋳型及び連続鋳造用鋳型の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、連続鋳造用鋳型の耐摩耗性を高めるために、めっき及び/又は溶射を用いて、基材(銅板)の溶鋼接触面(内面)に被覆処理(コーティング)を行っている。
そして、耐食性及び耐衝撃性等を向上させるために、めっき及び溶射の材料並びに製造条件等につき、様々な検討が行われている。
例えば、特許文献1では、溶鋼接触面側に、粗面化処理が行われた下地めっき層と溶射皮膜を順次形成する連続鋳造用鋳型の製造方法において、Co:5質量%以上15質量%以下、Cr:2質量%以上6質量%以下、及び残部WCからなる粒状のサーメット材料と、0を超え8質量%以下のAlを含有する粒状のNi-Al合金とを、混合して形成され、しかも、全体の20質量%以上60質量%以下をNi-Al合金とした溶射粒子を火炎溶射機で溶射し、サーメット材料の粒界にNi-Al合金を存在させた溶射皮膜を形成している。また、特許文献2は、(半導体)レーザ光による自溶性合金の被覆方法で、被覆層の材料となる粉末材料にレーザ光を照射し、基材を直接被覆している。
しかしながら、めっきは、施工時間が長く、大掛かりな設備を必要とするという欠点がある。また、溶射は、施工時間は短いが、高温の熱処理の影響により銅板が熱変形し、寸法精度及び平坦精度が低下し易いという欠点がある。特許文献1に記載の溶射皮膜は、皮膜施工後の高温の熱処理を必要としないタイプであり、皮膜施工後に熱処理を施すタイプに比べ、母材や下地との強固な密着性を確保する点において課題があった。
一方、特許文献2では、銅板の表面に自溶性合金粒子を供給しながら半導体レーザ装置からレーザ光を照射し、自溶性合金を溶融、凝固させて被覆層を形成する自溶性合金の被覆方法が提案されており、溶射後の熱処理を必要とする一般的な溶射皮膜とは異なり、熱変形の問題を改善することができる。また、特許文献1等の溶射被膜に比べ、下地に対する強固な密着性が確保できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第6109106号公報
【文献】特開2005-254317号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献2では、被覆層の材料成分、被覆層の構造及び被覆層の製造条件等についての検討が十分であるとは言えず、これらの改良が必要であった。
本発明はかかる事情に鑑みてなされたもので、異物が少なく、緻密で、基材への密着性に優れた被膜を有し、耐熱性、耐食性及び耐摩耗性に優れる連続鋳造用鋳型及び連続鋳造用鋳型の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記目的に沿う第1の発明に係る連続鋳造用鋳型は、連続鋳造用鋳型の基材の溶鋼接触面に、前記基材よりもレーザ光の吸収率の高い材質でレーザクラッディングにより形成された下地層と、該下地層の上に、レーザクラッディングにより形成された、自溶性合金の被覆層を有する。
ここで、自溶性合金の主成分金属としては、Ni、Co及びFeが好適に用いられるが、これらに限定されるものではない。また、これらの金属は、2種類以上を組み合わせて用いてもよい(以上、第2の発明においても同様)。
【0006】
第1の発明に係る連続鋳造用鋳型において、前記自溶性合金は、アルミニウムを含有することが好ましい。
【0007】
第1の発明に係る連続鋳造用鋳型において、前記自溶性合金は、(1)Niを主成分金属とし、Cr:0~26質量%、B:1~4.5質量%、Si:0.5~5質量%、C:0.4~3質量%、Fe:0~5質量%、Co:0~1質量%、Al:1~5質量%、Mo:0~20質量%、Nb:0~4質量%、W:0~5質量%、Mn:0~2質量%、V:0~1質量%を含有するNi基自溶性合金、(2)Coを主成分金属とし、Cr:5~30質量%、Si:0.5~3質量%、C:0.05~3質量%、Fe:0~2質量%、Mo:0~30質量%、W:0~15質量%を含有するCo基自溶性合金、及び(3)Feを主成分金属とし、Cr:0~30質量%、Si:0.3~1.3質量%、C:0~3質量%、Ni:0~16質量%、Mo:0~5質量%を含有するFe基自溶性合金のいずれか1であることがさらに好ましい。
ここで、Ni基自溶性合金におけるCr、Fe、Co、Mo、Nb、W、Mn及びV、Co基自溶性合金におけるFe、Mo及びW、Fe基自溶性合金におけるCr、C、Ni及びMoは、それぞれ必須成分ではなく、上記範囲(0を含む)で含有量を選択できる任意成分である(第2の発明においても同様)。
【0008】
第1の発明に係る連続鋳造用鋳型において、前記被覆層は多層化され、前記基材に最も近い層から最も遠い層に向かって線膨張係数が減少していてもよい。
【0009】
第1の発明に係る連続鋳造用鋳型において、多層化された前記被覆層の前記基材に最も近い層から最も遠い層に向かって前記自溶性合金の主成分金属の含有率が減少していることが好ましい。
【0010】
第1の発明に係る連続鋳造用鋳型において、前記自溶性合金に炭化物、硼化物、珪化物又は窒化物のセラミックスが混合されてもよい。
【0011】
【0012】
前記目的に沿う第2の発明に係る連続鋳造用鋳型の製造方法は、連続鋳造用鋳型の基材の溶鋼接触面に、前記基材よりもレーザ光の吸収率の高い材質でレーザクラッディングにより下地層を形成し、該下地層の上に、レーザクラッディングにより、自溶性合金の被覆層を形成する。
【0013】
第2の発明に係る連続鋳造用鋳型の製造方法において、前記自溶性合金は、アルミニウムを含有することが好ましい。
【0014】
第2の発明に係る連続鋳造用鋳型の製造方法において、前記自溶性合金は、(1)Niを主成分金属とし、Cr:0~26質量%、B:1~4.5質量%、Si:0.5~5質量%、C:0.4~3質量%、Fe:0~5質量%、Co:0~1質量%、Al:1~5質量%、Mo:0~20質量%、Nb:0~4質量%、W:0~5質量%、Mn:0~2質量%、V:0~1質量%を含有するNi基自溶性合金、(2)Coを主成分金属とし、Cr:5~30質量%、Si:0.5~3質量%、C:0.05~3質量%、Fe:0~2質量%、Mo:0~30質量%、W:0~15質量%を含有するCo基自溶性合金、及び(3)Feを主成分金属とし、Cr:0~30質量%、Si:0.3~1.3質量%、C:0~3質量%、Ni:0~16質量%、Mo:0~5質量%を含有するFe基自溶性合金のいずれか1であることがさらに好ましい。
【0015】
第2の発明に係る連続鋳造用鋳型の製造方法において、前記被覆層を多層化し、前記基材に最も近い層から最も遠い層に向かって線膨張係数を減少させてもよい。
【0016】
第2の発明に係る連続鋳造用鋳型の製造方法において、多層化された前記被覆層の前記基材に最も近い層から最も遠い層に向かって前記自溶性合金の主成分金属の含有率を減少させることが好ましい。
【0017】
第2の発明に係る連続鋳造用鋳型の製造方法において、前記自溶性合金に炭化物、硼化物、珪化物又は窒化物のセラミックスを混合することができる。
【0018】
【0019】
第2の発明に係る連続鋳造用鋳型の製造方法において、前記基材へのレーザ光の照射開始前に該基材を予熱することが好ましい。
【0020】
第2の発明に係る連続鋳造用鋳型の製造方法において、前記基材へのレーザ光の照射中に該基材を冷却することがさらに好ましい。
【発明の効果】
【0021】
第1の発明に係る連続鋳造用鋳型及び第2の発明に係る連続鋳造用鋳型の製造方法では、レーザクラッディングにより、自溶性合金の被覆層が形成されることにより、連続鋳造用鋳型の耐熱性、耐食性及び耐摩耗性を向上させている。
【0022】
第1、第2の発明において、自溶性合金が、アルミニウムを含有する場合、酸化作用の強いアルミニウムで脱酸効果を向上させ、被覆層に含まれる異物(気泡及び酸化物)を減少させると共に、NiAlの析出硬化により被覆層の耐摩耗性を向上させることができる。
【0023】
第1、第2の発明において、自溶性合金が、(1)Niを主成分金属とし、Cr:0~26質量%、B:1~4.5質量%、Si:0.5~5質量%、C:0.4~3質量%、Fe:0~5質量%、Co:0~1質量%、Al:1~5質量%、Mo:0~20質量%、Nb:0~4質量%、W:0~5質量%、Mn:0~2質量%、V:0~1質量%を含有するNi基自溶性合金、(2)Coを主成分金属とし、Cr:5~30質量%、Si:0.5~3質量%、C:0.05~3質量%、Fe:0~2質量%、Mo:0~30質量%、W:0~15質量%を含有するCo基自溶性合金、及び(3)Feを主成分金属とし、Cr:0~30質量%、Si:0.3~1.3質量%、C:0~3質量%、Ni:0~16質量%、Mo:0~5質量%を含有するFe基自溶性合金のいずれか1である場合、被覆層を緻密化して基材への密着性を高めることができる。
【0024】
第1、第2の発明において、被覆層が多層化され、基材に最も近い層から最も遠い層に向かって線膨張係数が減少している場合、被覆層の割れを効果的に防止することができる。
【0025】
第1、第2の発明において、多層化された被覆層の基材に最も近い層から最も遠い層に向かって自溶性合金の主成分金属の含有率が減少している場合、各層の線膨張係数を容易に調整することができる。
【0026】
第1、第2の発明において、自溶性合金に炭化物、硼化物、珪化物又は窒化物のセラミックスが混合されている場合、被覆層の硬度低下を抑えて耐摩耗性を向上させることができる。
【0027】
第1、第2の発明では、基材と被覆層との間に、レーザクラッディングにより下地層が形成されているので、レーザ光の吸収率を高め、被覆層を効率的に形成できると共に、被覆層の密着性を高めることができる。
【0028】
第2の発明において、基材へのレーザ光の照射開始前に基材を予熱した場合、レーザ光の熱が熱伝導率の低い銅等の基材に拡散することを抑え、自溶性合金を効率的に溶融することができると共に、被覆層の急速冷却を防ぎ、割れの発生を防止することができる。
【0029】
第2の発明において、基材へのレーザ光の照射中に基材を冷却した場合、レーザ光により基材が軟化点以上の温度に加熱されることを防ぎ、基材の強度低下及び割れの発生を効果的に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】本発明の第1の実施例に係る連続鋳造用鋳型の製造方法で製造された連続鋳造用鋳型を示す正断面図である。
図2】本発明の第2の実施例に係る連続鋳造用鋳型の製造方法により被覆層が形成された連続鋳造用鋳型の基材を示す断面図である。
図3】本発明の第3の実施例に係る連続鋳造用鋳型の製造方法により被覆層が形成された連続鋳造用鋳型の基材を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
続いて、添付した図面を参照して本発明を具体化した実施例について説明する。
図1に示す本発明の第1の実施例に係る連続鋳造用鋳型の製造方法は、鉄鋼等の製造に使用される連続鋳造用鋳型の基材10の耐熱性、耐食性及び耐摩耗性を向上させるものである。
図1に示すように、銅又は銅合金(例えば、Cu-Cr-Zr等)で形成された連続鋳造用鋳型の基材10の溶鋼接触面に、レーザクラッディングにより、自溶性合金の被覆層12を形成する。
レーザクラッディングでは、レーザ加工ヘッド13から基材10の溶鋼接触面にレーザ光14を照射しながら、粉末供給部15から基材10の溶鋼接触面に被覆層12の原料となる自溶性合金の粉末16を吹き付ける。粉末16はレーザ光14で加熱されて溶融し、基材10の溶鋼接触面に溶着して被覆層12を形成する。レーザ加工ヘッド13を移動させることにより、基材10の溶鋼接触面に帯状の被覆層12を連続的に形成し、やがて基材10の溶鋼接触面全体を自溶性合金がレーザクラッディングされた被覆層12で覆うことができる。
【0032】
ここで、粉末供給部の配置を含めたレーザ加工ヘッドの構造は、本実施例に限定されず、レーザ光の照射位置に粉末を吹き付けることができればよく、適宜、選択することができる。例えば、粉末供給部はレーザ加工ヘッドと一体ではなく分離されていてもよい。
自溶性合金は、アルミニウムを含有することが好ましく、より具体的には、Niを主成分金属とし、Cr:0~26質量%、B:1~4.5質量%、Si:0.5~5質量%、C:0.4~3質量%、Fe:0~5質量%、Co:0~1質量%、Al:1~5質量%、Mo:0~20質量%、Nb:0~4質量%、W:0~5質量%、Mn:0~2質量%、V:0~1質量%を含有するNi基自溶性合金が好適に用いられる。自溶性合金がアルミニウムを含有することにより、アルミニウムの強い酸化作用で脱酸効果を向上させ、被覆層12に含まれる異物(気泡及び酸化物)を減少させることができる。また、自溶性合金が主成分金属としてNiを含有する場合、NiAlの析出硬化により被覆層12の耐摩耗性を向上させることができる。さらに、B(硼素)及びSi(珪素)を含有することにより、主成分金属のNi等の融点を下げると共に、溶融状態でNiに付着している空気(酸素)と結合し、硼珪酸ガラスを形成して浮上させ、脱酸作用を発揮して被覆層12の緻密化を図り、基材10への密着性を高めることができる。
【0033】
なお、自溶性合金としては、Niを主成分金属とするNi基自溶性合金以外に、Coを主成分金属とするCo基自溶性合金及びFeを主成分金属とするFe基自溶性合金を用いることができ、より具体的には、Coを主成分金属とし、Cr:5~30質量%、Si:0.5~3質量%、C:0.05~3質量%、Fe:0~2質量%、Mo:0~30質量%、W:0~15質量%を含有するCo基自溶性合金、及びFeを主成分金属とし、Cr:0~30質量%、Si:0.3~1.3質量%、C:0~3質量%、Ni:0~16質量%、Mo:0~5質量%を含有するFe基自溶性合金が好適に用いられる。
また、自溶性合金の成分は上記以外にも、適宜、選択することができ、例えば、上記の自溶性合金に炭化物セラミックス(WC又はNbC等)、硼化物セラミックス、珪化物セラミックス又は窒化物セラミックスを混合し、硬度低下を抑えて耐摩耗性を向上させることもできるし、NiにCrを固溶させたMCアロイ(Ni-Cr-Fe、Cr45%)を用いて耐硝フッ酸性及び耐硝化腐食性を向上させることもできる。なお、レーザ光の波長及びエネルギー密度等は自溶性合金の成分及び基材の成分に応じて適宜、選択することができる。
【0034】
ここで、銅又は銅合金で形成された基材10は熱伝導率が非常に高く、レーザ光14の照射時の入熱が高速で拡散して冷却し易いため、基材10への被覆層12の溶着が阻害される。そこで、基材10へのレーザ光14の照射開始前に基材10を予熱し、レーザ光14の熱が基材10に拡散することを抑え、自溶性合金を効率的に溶融させると共に、被覆層12の急速冷却を防ぎ、割れの発生を防止する。
また、基材10にレーザ光14を照射することにより、基材10が軟化点以上に加熱され、基材10の強度が低下すると、基材10に割れが発生するおそれがある。そこで、基材10へのレーザ光14の照射中に基材10を冷却し、レーザ光14により基材10が軟化点以上に加熱されることを防ぎ、基材10の強度低下及び割れの発生を防止する。
よって、基材10にレーザ光14を照射して被覆層12を形成している間は、基材10の冷却と加熱のバランスを取りながら、基材10を所定の温度範囲に維持する必要がある。なお、基材10を予熱するための加熱手段(図示せず)及び基材10を冷却するための冷却手段(図示せず)の種類及び組合せは、適宜、選択することができる。
【0035】
次に、第2の実施例に係る連続鋳造用鋳型の製造方法について説明する。なお、第1の実施例と同様の構成については、同一の符号を付して説明を省略する。
第2の実施例に係る連続鋳造用鋳型の製造方法が、第1の実施例と異なる点は、図2に示すように、連続鋳造用鋳型の基材10に被覆層19を多層化(ここでは5層)して形成している点である。そして、基材10に最も近い層20aから最も遠い層20eに向かって線膨張係数を減少させることにより、被覆層19の割れを効果的に防止することができる。このとき、多層化された被覆層19の基材10に最も近い層20aから最も遠い層20eに向かって自溶性合金の主成分金属(例えばNi)の含有率を減少させることにより、各層20a~20eの線膨張係数を容易に調整することができるが、線膨張係数の調整方法は適宜、選択することができる。なお、その他の製造方法は第1の実施例と同様である。
【0036】
次に、第3の実施例に係る連続鋳造用鋳型の製造方法について説明する。なお、第1の実施例と同様の構成については、同一の符号を付して説明を省略する。
第3の実施例に係る連続鋳造用鋳型の製造方法が、第1、第2の実施例と異なる点は、図3に示すように、連続鋳造用鋳型の基材10と被覆層22との間に、めっき又はレーザクラッディングにより下地層23を形成している点である。
ここで、被覆層22は、被覆層12と同様の材質で形成してもよいし、被覆層19と同様に多層化してもよく、その他の製造方法は第1の実施例と同様である。また、下地層23をめっきで形成する場合、50℃程度のめっき浴で行われ、材質としてはNi等が好適に用いられる。そして、下地層23をレーザクラッディングで形成する場合、製造方法は第1の実施例と同様であり、材質としてはNi、Ni-Al、Ni-Cu等が好適に用いられる。
このようにレーザ光の吸収率の高い材質で下地層23を形成することにより、被覆層22を形成する際のレーザ光の吸収率を高め、被覆層22を効率的に形成できると共に、被覆層22の密着性を高めることができる。
【0037】
以上、本発明の実施例を説明したが、本発明は何ら上記した実施例に記載の構成に限定されるものではなく、請求の範囲に記載されている事項の範囲内で考えられるその他の実施例や変形例も含むものである。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明に係る連続鋳造用鋳型及び連続鋳造用鋳型の製造方法により、連続鋳造用鋳型の耐熱性、耐食性及び耐摩耗性を従来よりも向上させて長寿命化を図ることができ、鉄鋼等の製造メーカにおける連続鋳造用鋳型のメンテナンスに要する手間と費用を削減し、新たな連続鋳造用鋳型の普及を促進することができる。
【符号の説明】
【0039】
10:基材、12:被覆層、13:レーザ加工ヘッド、14:レーザ光、15:粉末供給部、16:粉末、19:被覆層、20a~20e:層、22:被覆層、23:下地層
図1
図2
図3