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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-15
(45)【発行日】2024-05-23
(54)【発明の名称】トウ付繊維強化複合ケーブルおよび電線
(51)【国際特許分類】
   H01B 5/08 20060101AFI20240516BHJP
   D07B 9/00 20060101ALI20240516BHJP
【FI】
H01B5/08
D07B9/00
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2022541557
(86)(22)【出願日】2021-08-03
(86)【国際出願番号】 JP2021028742
(87)【国際公開番号】W WO2022030477
(87)【国際公開日】2022-02-10
【審査請求日】2023-02-02
(31)【優先権主張番号】P 2020132789
(32)【優先日】2020-08-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003528
【氏名又は名称】東京製綱株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001830
【氏名又は名称】弁理士法人東京UIT国際特許
(72)【発明者】
【氏名】松田 明莉
(72)【発明者】
【氏名】山田 拓司
(72)【発明者】
【氏名】山下 弘展
【審査官】中嶋 久雄
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-20985(JP,A)
【文献】特開2018-80411(JP,A)
【文献】特開2018-6181(JP,A)
【文献】特開2002-116357(JP,A)
【文献】実開平5-83931(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 5/08
D07B 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
長手方向に連続する複数本の高強度繊維を束ねた繊維束に樹脂を含浸させかつ硬化させた繊維強化樹脂素線を複数本撚り合わせた繊維強化複合ケーブル,および
長手方向に連続する複数本の繊維が平坦かつ密集して並べられたトウを備え,
上記トウが,上記繊維強化複合ケーブルの表面に上記繊維強化樹脂素線の撚り方向と逆方向にらせん状に巻き付けられおり,
上記繊維強化複合ケーブルの表面の凹凸に上記トウを構成する繊維が着脱自在に絡みついている,
トウ付繊維強化複合ケーブル。
【請求項2】
上記トウを構成する繊維の融点または分解点が150℃以上である,
請求項1に記載のトウ付繊維強化複合ケーブル。
【請求項3】
上記トウを構成する繊維の強度が300から6,000MPaの範囲である,
請求項1または2に記載のトウ付繊維強化複合ケーブル。
【請求項4】
上記トウを構成する繊維の弾性率が3,000から270,000MPaの範囲である,
請求項1から3のいずれか一項に記載のトウ付繊維強化複合ケーブル。
【請求項5】
上記トウが,その側端同士が重なり合わないように上記繊維強化複合ケーブルの表面にらせん状に巻き付けられている,
請求項1から4のいずれか一項に記載のトウ付繊維強化複合ケーブル。
【請求項6】
上記トウが所定幅を有しており,上記トウの巻き付けピッチが,上記トウの幅よりも広くかつ上記繊維強化樹脂素線の撚りピッチよりも狭い,
請求項1から5のいずれか一項に記載のトウ付繊維強化複合ケーブル。
【請求項7】
上記繊維強化複合ケーブルが,心線および心線の周囲に撚り合わされた複数本の側線を備え,側線のそれぞれが上記樹脂の硬化性を利用して型付けられている,
請求項1から6のいずれか一項に記載のトウ付繊維強化複合ケーブル。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか一項に記載のトウ付繊維強化複合ケーブル,および
上記トウ付繊維強化複合ケーブルの周囲に撚り合わされた複数本の導電性金属線を備えている,電線。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明はトウ付繊維強化複合ケーブルおよび電線に関する。
【背景技術】
【0002】
繊維強化樹脂ケーブルが中心に配置され,その周囲に複数本のアルミ線が撚り合わされた繊維強化アルミ線(ACFR)(Aluminum Conductor Fiber Reinforced )は,軽くかつ引張強度が高いので,架空送電線として利用に適している。特許文献1は円柱状複合コアまたは撚り線型複合コアの周囲に,複数本のアルミ線を撚り合わせた電線を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】米国特許公報第9,012,781号明細書
【0004】
電線の中心に配置されるコアに撚り線型複合コアを採用することによって,電線の柔軟性を高めることができる。しかしながら,撚り線型複合コアを採用すると,アルミ線をコアの周囲に撚り合わせるときに撚り線型複合コアの側線に浮きが発生することがある。撚り線型複合コアの側線の浮きの程度が大きくなるとその側線が破断するおそれもある。
【0005】
上記特許文献1は,ガラス織物およびシリコン接着材が積層されたアルミ箔テープを撚り線型複合コアの周囲に巻き付けることを記載する。撚り線型複合コアの周囲にアルミ箔テープを巻き付けることによって,撚り線型複合コアの周囲にアルミ線を撚り合わせるときの撚り線型複合コアの側線の浮きを防止することができる。
【0006】
たとえば電線の端末部分を鉄塔に固定するときに,電線の末端部分のアルミ線を切断して複合コアを剥き出しにし,そこに固定具を装着することがある。複合コアにアルミ箔テープが巻き付けられていると固定具の装着に支障が生じることがあるので,アルミ箔テープも剥がすのが一般的である。しかしながら,接着剤によって複合コアに巻き付けられたアルミ箔テープを現場において剥がすのには手間と時間を要する。
【発明の開示】
【0007】
この発明は,容易に剥がすことができる,撚り線浮き防止部材を備えるケーブルを提供することを目的とする。
【0008】
この発明によるトウ付繊維強化複合ケーブルは,長手方向に連続する複数本の高強度繊維を束ねた繊維束に樹脂を含浸させかつ硬化させた繊維強化樹脂素線を複数本撚り合わせた繊維強化複合ケーブル,および長手方向に連続する複数本の繊維が平坦かつ密集して並べられたトウを備え,上記トウが,上記繊維強化複合ケーブルの表面に上記繊維強化樹脂素線の撚り方向と逆方向にらせん状に巻き付けられていることを特徴とする。
【0009】
繊維強化樹脂素線は,長手方向に連続する複数本の高強度繊維を束ねた繊維束に樹脂を含浸させかつ硬化させたものである。
【0010】
高強度繊維は,炭素繊維,ガラス繊維,ボロン繊維,アラミド繊維,ポリエチレン繊維,PBO(ポリパラフェニレンベンズオキサゾール)繊維,バサルト繊維,その他の繊維を含む。これらの繊維は非常に細く,複数本の高強度繊維を束ねかつそこに樹脂を含浸することによって高い強度を発揮する。含浸される樹脂は,熱硬化性樹脂または熱可塑性樹脂のいずれであってもよい。熱硬化性の樹脂であれば熱を加えることによって,熱可塑性の樹脂であれば冷却することによって,上記樹脂は硬化する。エポキシ,飽和ポリエステル,ビニルエステル,フェノール,ポリアミド,ポリカーボネート等を含浸する樹脂として用いることができる。
【0011】
この発明によると,繊維強化複合ケーブルの表面に長手方向に連続する複数本の繊維が平坦かつ密集して並べられたトウが巻き付けられているので,繊維強化複合ケーブルを構成する素線(撚り線)の浮きを防止することができる。また,トウは繊維強化複合ケーブルのらせん方向(素線の撚り方向)と逆方向にらせん状に巻き付けられるので,トウが繊維強化複合ケーブルの表面の溝に沿うことで緩みが生じることが防止される。
【0012】
この発明によるトウ付繊維強化複合ケーブルが備えるトウは,繊維強化複合ケーブルを構成する素線の浮きを防止するものであるから,素線をケーブル中心に向けてしっかりと押さえつけるものでなければならない。好ましくは,上記トウを構成する繊維の強度が300から6,000MPaの範囲である。断線を生じることなく素線が浮こうとする力に十分に抗することができる。
【0013】
トウを構成する繊維が伸びてしまうと,素線が浮こうとする力に十分に抗することができなくなる。好ましくは,上記トウを構成する繊維の弾性率(弾性係数)が3,000から270,000MPaの範囲である。比較的伸びにくい繊維をトウに用いることによって,素線が浮こうとする力に抗することができる。
【0014】
一実施態様では,上記トウを構成する繊維の融点または分解点が150℃以上である。150℃程度の温度下に晒される環境において,トウ付繊維強化複合ケーブルを用いることができる。
【0015】
具体的には,ポリエステル,ビニロン,ナイロン,アクリル,アラミド繊維,ポリアリレート繊維,PBO(ポリパラフェニレンベンズオキサゾール)繊維,PPS(ポリフェニレンサルファイド)繊維,PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)繊維,ポリイミド繊維,フッ素繊維などを,トウを構成する繊維(トウ繊維)として好適に用いることができる。
【0016】
長手方向に連続する複数本の繊維が平坦かつ密集して並べられたトウを用いるのは,接着剤を用いずとも,トウを繊維強化複合ケーブルに巻き付けたときに繊維強化複合ケーブルの表面に対してしっかりとした定着を図るためである。上述したように,繊維強化複合ケーブルを構成する繊維強化樹脂素線は,複数本の高強度繊維に樹脂を含浸させかつ硬化させたものであるから,その表面には細かい凹凸が存在している。この細かい凹凸は,繊維強化樹脂素線を撚り合わせて形成される繊維強化複合ケーブルにおいても残存している。この繊維強化複合ケーブルの表面の凹凸にトウを構成する繊維が絡みつく(引っかかる)ことで,巻き付けられたトウは繊維強化複合ケーブルの表面にしっかりと定着される。すなわち,接着剤を用いずとも,一旦トウを繊維強化複合ケーブルに巻き付けると,滑って緩みが生じることがない。さらに,繊維強化樹脂素線はその外周に被覆フィラメントを垂直な方向に巻き付けたものであってもよい。繊維強化樹脂素線に被覆フィラメントを巻き付けておけば,繊維強化樹脂素線の表面の凹凸がさらに顕著かつ安定して形成され,トウを構成する繊維がより絡みつきやすくなる。
【0017】
トウは接着剤によって繊維強化複合ケーブルに硬く固定されるものではないので,上述のように,巻き付けられている状態においては繊維強化複合ケーブルにしっかりと定着することができるとともに,繊維強化複合ケーブルから引き剥がすのが容易でもある。接着剤が不要であることから歩留まりの向上も期待することができる。
【0018】
一実施態様では,上記トウが,その側端同士が重なり合わないように上記繊維強化複合ケーブルの表面にらせん状に巻き付けられている。所定長さのトウ付繊維強化ケーブルに用いられるトウの長さを短くすることでき,歩留まりが向上する。また,現場においてトウを引き剥がすときの手間を少なくすることもできる。
【0019】
もっとも,トウの巻き付け間隔(巻き付けピッチ)を広げすぎると,素線が浮こうとする力の抑制効果が発揮できなくなるおそれがある。好ましくは,上記トウが所定幅を有している場合に,上記トウの巻き付けピッチが,上記トウの幅よりも広く(これによってトウはその側端同士が重なり合わないことになる)かつ上記繊維強化樹脂素線の撚りピッチよりも狭い。繊維強化樹脂素線の撚りピッチよりも狭い間隔の巻き付けピッチでトウを繊維強化複合ケーブルに巻き付けることによって,繊維強化樹脂素線にその1ピッチにわたってトウが巻き付けられていない箇所は存在しなくなる。
【0020】
好ましくは,上記繊維強化複合ケーブルが,心線および心線の周囲に撚り合わされた複数本の側線を備え,側線のそれぞれが上記樹脂の硬化性を利用して型付けられている。あらかじめ行われる上記樹脂の硬化性を利用した型付けによって,繊維強化複合ケーブルの内部に,具体的には,心線とその周囲の側線の間,および隣り合う側線同士の間に,実質的に撚った状態を損なわずに適宜の空間ないし隙間を確保することができ,心線とその周囲の側線,および隣り合う側線同士にすべりが許容される。曲げが加えられたときに適度な撓みを生じやすく,取り扱いに優れた繊維強化複合ケーブルが提供される。
【0021】
この発明は,上述したトウ付繊維強化複合ケーブル,および上記トウ付繊維強化複合ケーブルの周囲に撚り合わされた複数本の導電性金属線を備えている電線も提供する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】電線の斜視図である。
図2】炭素繊維強化樹脂素線の拡大断面図である。
図3】ラッピング・トウの拡大断面図である。
図4】ラッピング・トウが巻き付けられた炭素繊維強化樹脂素線の表面の拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
図1は電線1の斜視図であり,電線1の中心に位置する電線用コア10,およびその周囲の導電層20を,それぞれ露出して示している。
【0024】
電線1は,電線用コア10と,電線用コア10の周囲を包囲する導電層20,30とから構成される。電線用コア10は電線1の補強材として用いられ,電流はその周囲の導電層20,30を流れる。
【0025】
導電層20,30は,電線用コア10の周囲に配列される複数本のアルミ線21,31によってそれぞれ形成される。図1に示す電線1は,電線用コア10を包囲する断面台形の6本のアルミ線21によって構成される導電層20と,導電層20を包囲する断面台形の10本のアルミ線31によって構成される導電層30の2層構造を持つ。アルミ線21,31はいずれも電線1の長手方向にのびかつ緩やかに撚られている。電線用コア10を包囲する導電層の層数,ならびに導電層20,30の各層を構成するアルミ線21,31の本数および形状は,適宜変更することができる。たとえばアルミ線21,31の断面形状は円形であってもよい。
【0026】
電線用コア10は,その中心に位置する1本の長尺の炭素繊維強化樹脂素線11(以下,心線11とも呼ぶ)と,その周囲に撚り合わされた6本の長尺の炭素繊維強化樹脂素線12(以下,側線12とも呼ぶ)の,合計7本の炭素繊維強化樹脂素線11,12から構成される。断面からみて,電線用コア10および炭素繊維強化樹脂素線11,12のそれぞれはいずれもほぼ円形の形状を持つ。電線用コア10はたとえば5.0~20mm程度の直径を持つように形成される。
【0027】
図2を参照して,図2は電線用コア10を構成する炭素繊維強化樹脂素線11,12の拡大断面図である。炭素繊維強化樹脂素線11,12は,樹脂14を含浸させた多数本たとえば数万本の長尺の炭素繊維13を断面円形に束ねたもので,電線用コア10の全体には数十万本程度の炭素繊維13が含まれる。炭素繊維13のそれぞれは非常に細く,たとえば5.0~7.0μmの直径を持つ。多数本の炭素繊維13の束を捩ることによって炭素繊維強化樹脂素線11,12を形成してもよいし,ストレートにのびる多数本の炭素繊維13によって炭素繊維強化樹脂素線11,12を形成してもよい。炭素繊維強化樹脂素線11,12の断面形状は適宜変更することができ,たとえば円形に代えて台形の断面であってもよい。炭素繊維13に代えて,他の高強度繊維,たとえばガラス繊維,ボロン繊維,アラミド繊維,ポリエチレン繊維,PBO繊維,バサルト繊維を用いてもよい。炭素繊維13の束に被覆フィラメント,たとえば1000~12000dtexのポリエステルなどの汎用繊維のマルチフィラメントを垂直な方向に巻き付けて炭素繊維13の束の断面円形の形状を保持するようにしてもよい。
【0028】
心線11および側線12は,この実施例では同じ太さ(断面積)のものが用いられている。心線11よりも細い,または太い側線12を用いてもよい。炭素繊維13の本数によって心線11および側線12のそれぞれの太さは任意に調整することができ,電線用コア10の太さも任意に調整することができる。もちろん,側線12の本数によって電線用コア10の太さを調整することもできる。
【0029】
樹脂14は加熱することによって硬化する熱硬化性樹脂であってもよいし,冷却することによって硬化する熱可塑性樹脂であってもよい。未硬化の樹脂14を炭素繊維13の束に含浸し,その後に加熱または冷却することで樹脂14を硬化させることによって,炭素繊維強化樹脂素線11,12は作られる。たとえば熱硬化性樹脂であるエポキシ樹脂を,炭素繊維13の束に含浸する樹脂14として好適に用いることができる。飽和ポリエステル,ビニルエステル,フェノール,ポリアミド,ポリカーボネート等を用いてもよい。
【0030】
電線用コア10を構成する複数本の炭素繊維強化樹脂素線11,12同士の間の適度なすべりを許容するために,樹脂14の硬化性を利用して硬化させた状態の心線11の周囲に,同じく樹脂14の硬化性を利用して硬化させた状態の側線12を配置して撚り合わされた状態とするとよい。たとえば,未硬化のエポキシ樹脂14が含浸されたストレートにのびる1本の心線11の周囲に,未硬化のエポキシ樹脂14が含浸された6本の側線12を撚り合わせ,その全体に熱を加えることでエポキシ樹脂14を硬化する。その後,心線11および6本の側線12を分解し(7本の炭素繊維強化樹脂素線11,12をバラバラにする),再度7本の炭素繊維強化樹脂素線11,12を元の形状に戻す。これにより7本の炭素繊維強化樹脂素線11,12同士はエポキシ樹脂14によっては互いに拘束されず,しかしながら形状的に互いに拘束されるものとなる。上述したように,複数本の炭素繊維強化樹脂素線11,12同士の間の適度なすべりが許容されるので,曲がりに強い(曲げが加えられたときに破損しにくい)電線用コア10を得ることができる。
【0031】
図1を参照して,電線用コア10のらせん方向(電線用コア10を構成する側線12の撚り方向)と,電線用コア10を包囲する導電層20のらせん方向(導電層20を構成するアルミ線21の撚り方向)は逆向きとされる。導電層20のらせん方向と導電層30のらせん方向(導電層30を構成するアルミ線31の撚り方向)も逆方向とされる。電線用コア10と導電層20の間,および導電層20と導電層30の間の不要な位置ずれを防止することができ,また特定箇所(たとえば電線用コア10を構成する6本の側線12のうちの特定の側線12)に対する力の集中を防止することができる。
【0032】
図1を参照して,電線用コア10の周囲にラッピング・トウ40がらせん状に巻き付けられている。
【0033】
ラッピング・トウ40は,電線用コア10を構成する側線12の浮き(外方への飛び出し)を防止し,6本の側線12が電線用コア10として一体にまとまった状態を維持するために用いられる。上述したように電線用コア10の周囲の導電層20,30は,電線用コア10の周囲に撚り合わされる複数本のアルミ線21,31によって構成される。アルミ線21,31を電線用コア10の周囲に撚り合わせると,電線用コア10はその中心に向かって周囲から締め付けられる。アルミ線21,31は電線用コア10の一端から他端に向かって一方向に徐々に撚り合わされるので,アルミ線21,31によって締め付けられた範囲とこれから締め付けられる範囲とが生じ,これらの2つの範囲では電線用コア10の直径にわずかな差が発生する。これが,アルミ線21,31を電線用コア10の周囲に撚り合わせている途中に側線12に浮きが生じる要因となる。側線12に発生した浮きは蓄積されやすく(アルミ線21,31の撚り合わせを進めるに連れて,浮きの程度が大きくなる),浮きが蓄積されるとアルミ線21,31を撚り合わせている途中でその側線12に破断が生じてしまうおそれもある。側線12が破断してしまうとその電線1はもはや使用することができない。
【0034】
ラッピング・トウ40を電線用コア10の外周面に巻き付けておくことによって,アルミ線21,31を撚り合わせるときに発生しうる側線12の浮きを防止または少なくとも軽減することができ,電線1の製造をスムーズに終了することができる。
【0035】
ラッピング・トウ40には,ポリエステル,ビニロン,ナイロン,アクリル,アラミド繊維,ポリアリレート繊維,PBO繊維,PPS繊維,PEEK繊維,ポリイミド繊維,フッ素繊維などを用いることができる。これらの繊維は300から6,000MPaの強度を持ち,かつ3,000から270,000MPaの弾性率(弾性係数)を持つ。6本の側線12をその周囲からラッピング・トウ40によってしっかりと束ねることができる。
【0036】
アルミ線21,31に電流が流れると,電線1は150℃程度の温度に達することがある。電線1の使用下において熱融解または熱分解することのない材料をラッピング・トウ40に用いることも重要である。すなわち,融点または分解点が150℃以上,好ましくは200℃以上の材料をラッピング・トウ40の材料に用いるのが好適である。
【0037】
図3を参照して,図3はラッピング・トウ40の拡大断面図である。ラッピング・トウ40は長手方向にのびかつ密集した複数本の連続するトウ繊維41から構成される。電線用コア10と異なり,ラッピング・トウ40を構成する複数本のトウ繊維41に樹脂等は含浸されず,複数本のトウ繊維41同士は互いに拘束されてはいない。ラッピング・トウ40を電線用コア10の周囲に巻き付けると,ラッピング・トウ40は平坦な広がり(おおよそ一定幅)を有するテープ状の形態となる(図1も参照)。
【0038】
ラッピング・トウ40の繊度は好ましくは1,000dtex以上とされる。たとえば,幅5.0mm,厚さ0.1~0.2mm程度の寸法を持つ,直径数十μmのアラミド繊維から構成されるラッピング・トウ40の繊度は8,000dtex程度である。
【0039】
ラッピング・トウ40は,電線用コア10の周囲に,電線用コア10のらせん方向(側線12の撚り方向)と逆方向に巻き付けられる。電線用コア10のらせん方向と同方向にラッピング・トウ40を巻き付けると,側線12間の溝部にラッピング・トウ40が沿ったときにラッピング・トウ40の巻き付けに緩みが生じることがある。上述したように,電線用コア10のらせん方向と逆方向にラッピング・トウ40を巻き付けることによって,ラッピング・トウ40の緩みを防止することができ,側線12の浮き防止効果を十分に発揮させることができる。
【0040】
図4は,ラッピング・トウ40が巻き付けられた電線用コア10(側線12)の表面の拡大断面模式図である。図4には2つのラッピング・トウ40が図示されているが,2本のラッピング・トウ40ではなく,1本のラッピング・トウ40が電線用コア10にらせん状に巻き付けられており,この1本のラッピング・トウ40が断面において2か所に示されていることを理解されたい。
【0041】
電線用コア10を構成する心線11および側線12は,多数本の炭素繊維13の束にエポキシ樹脂14を含浸させて硬化させたものであるので,その表面は滑らかではなく細かな凹凸を持つ。また,側線12の間には溝部も存在する。他方,電線用コア10に巻き付けられるラッピング・トウ40は,多数本の細いトウ繊維41が密集することで形成されている。ラッピング・トウ40を電線用コア10の周囲に巻き付けると,多数本のトウ繊維41は電線用コア10(側線12)の表面の凹凸に絡みつく(軽く引っかかりを生じる)。すなわち,電線用コア10にラッピング・トウ40を巻き付けると,巻き付けられたラッピング・トウ40が滑ってしまうことはなく,ラッピング・トウ40に緩みが生じることはない。ラッピング・トウ40は,それを電線用コア10に巻き付けるだけで,電線用コア10(側線12)の表面にしっかりと定着される。側線12が上述した被覆フィラメントを巻き付けたものであれば,その表面の凹凸がさらに顕著かつ安定して形成されるので,ラッピング・トウ40はさらにしっかりと電線用コア10(側線12)の表面に定着される。
【0042】
ラッピング・トウ40は電線用コア10の表面にたとえば接着剤を用いて硬く固定されるものではないので,ラッピング・トウ40を電線用コア10の外方に向けて引っ張れば,軽い力でラッピング・トウ40を引き剥がすことができる。現場においてラッピング・トウ40を引き剥がすのも容易である。
【0043】
ラッピング・トウ40は電線用コア10に隙間なく(ラッピング・トウ40の側端同士を重ね合わせる)緊密にらせん状に巻き付けてもよい。もっとも,間隔を設けて,すなわちラッピング・トウ40の側端同士が重なり合わないようにして,ラッピング・トウ40をらせん状に電線用コア10に巻き付けても,側線12の浮き防止の観点においては十分である。現場においてラッピング・トウ40を剥がすときの手間を考えると,緊密に巻き付けるのではなく,間隔を設けてラッピング・トウ40を電線用コア10に巻き付けておくのがよい。もちろん,間隔を広げすぎると側線12の浮き防止効果が劣ることになるので,ラッピング・トウ40の巻き付けピッチは,上記ラッピング・トウ40の幅よりも広くかつ側線12の撚りピッチよりも狭くするとよい。
【符号の説明】
【0044】
1 電線
10 電線用コア
11 炭素繊維強化樹脂素線(心線)
12 炭素繊維強化樹脂素線(側線)
13 炭素繊維
14 樹脂
20,30 導電層
21,31 アルミ線
40 トウ
41 トウ繊維
図1
図2
図3
図4