IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ スチュワード(フォーシャン)マグネティックス カンパニー リミテッドの特許一覧

特許7489515セラミック-無機材料複合体及び多層インダクタ
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-15
(45)【発行日】2024-05-23
(54)【発明の名称】セラミック-無機材料複合体及び多層インダクタ
(51)【国際特許分類】
   H01F 17/04 20060101AFI20240516BHJP
   H01F 41/04 20060101ALI20240516BHJP
   H01F 27/00 20060101ALI20240516BHJP
   H01F 27/29 20060101ALI20240516BHJP
【FI】
H01F17/04 F
H01F41/04 C
H01F17/04 A
H01F27/00 160
H01F27/29 F
【請求項の数】 18
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023044256
(22)【出願日】2023-03-20
(65)【公開番号】P2023138931
(43)【公開日】2023-10-03
【審査請求日】2023-03-24
(31)【優先権主張番号】202210276883.3
(32)【優先日】2022-03-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】523102069
【氏名又は名称】スチュワード(フォーシャン)マグネティックス カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】Steward(Foshan)Magnetics Co.,Ltd.
(74)【代理人】
【識別番号】100207837
【弁理士】
【氏名又は名称】小松原 寿美
(72)【発明者】
【氏名】チャン ジャッケン
(72)【発明者】
【氏名】チャン イート シン
(72)【発明者】
【氏名】パン ウェンシャン
【審査官】木下 直哉
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-161761(JP,A)
【文献】特開平10-199729(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第105679494(CN,A)
【文献】特開2017-092431(JP,A)
【文献】特開2013-012741(JP,A)
【文献】特開2013-140958(JP,A)
【文献】特開2014-131012(JP,A)
【文献】特開昭63-208210(JP,A)
【文献】特開昭54-139061(JP,A)
【文献】国際公開第2012/032930(WO,A1)
【文献】国際公開第2007/088914(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 17/00-17/08
H01F 27/00
H01F 27/24-27/255
H01F 27/29
H01F 41/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コイルのパターンで存在する複数の金属電極トラックの磁気コア領域内に配置され、かつ二以上の第1の層及び第2の層を備える、多層インダクタ用のセラミック-無機材料複合体であって、前記第1の層は、誘電率対温度の曲線において正の傾きを有するセラミック材料を含み、前記第2の層は、誘電率対温度の曲線において負の傾きを有する無機材料を含み、前記第1の層と前記第2の層とは、交互に互いの上に積層される、セラミック-無機材料複合体。
【請求項2】
前記誘電率対温度の曲線において正の傾きを有する前記セラミック材料は、二酸化チタン又は二酸化ジルコニウムである、請求項1に記載のセラミック-無機材料複合体。
【請求項3】
前記誘電率対温度の曲線において負の傾きを有する前記無機材料は、炭酸カルシウム、重炭酸カルシウム、又は酸化カルシウムである、請求項1に記載のセラミック-無機材料複合体。
【請求項4】
前記金属電極は、銀(Ag)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、銅(Cu)、金(Au)、ニッケル(Ni)、又はそれらの合金、あるいはそれらの複合体を含む、請求項1に記載のセラミック-無機材料複合体。
【請求項5】
請求項1に記載のセラミック-無機材料複合体であって、
前記誘電率対温度の曲線において正の傾きを有する前記セラミック材料は、二酸化チタン、又は二酸化ジルコニウムであり、
前記誘電率対温度の曲線において負の傾きを有する無機材料は、炭酸カルシウム、重炭酸カルシウム、又は酸化カルシウムである、セラミック-無機材料複合体。
【請求項6】
請求項1乃至5の何れか一項に記載のセラミック-無機材料複合体を含む多層インダクタであって、複数の磁性層と、該磁性層上に形成された複数の金属電極トラックと、を備え、前記セラミック-無機材料複合体が、コイルのパターンの前記金属電極トラックによって形成された前記磁気コア領域内に配置される、多層インダクタ。
【請求項7】
請求項6に記載の多層インダクタであって、
前記誘電率対温度の曲線において正の傾きを有する前記セラミック材料は、二酸化チタン又は二酸化ジルコニウムであることと、
前記誘電率対温度の曲線において負の傾きを有する無機材料は、炭酸カルシウム、重炭酸カルシウム、又は酸化カルシウムであることと、
のうち少なくとも一方を含む多層インダクタ。
【請求項8】
前記金属電極トラックは、有効な磁力線が存在しない、2つの隣接する金属電極トラックの間の空隙が最小化されるように配置される、請求項6に記載の多層インダクタ。
【請求項9】
前記金属電極トラックは、前記多層インダクタの前記金属電極トラックが垂直方向に近接して配置されることにより、前記金属電極トラックの間の前記磁性層の全体的な厚さが100μm以下になるように配置される、請求項6に記載の多層インダクタ。
【請求項10】
前記金属電極トラックは、前記多層インダクタの前記金属電極トラックが前記複数の磁性層に対して垂直な断面上で階段状にずれるように配置される、請求項6に記載の多層インダクタ。
【請求項11】
下層の前記金属電極トラックに対して、上層の前記金属電極トラックが階段状に一層ずつ左又は右にずれている、請求項6に記載の多層インダクタ。
【請求項12】
請求項6に記載の多層インダクタであって、
前記誘電率対温度の曲線において正の傾きを有するセラミック材料は、二酸化チタン又は二酸化ジルコニウムであり、
前記誘電率対温度の曲線において負の傾きを有する無機材料は、炭酸カルシウム、重炭酸カルシウム、又は酸化カルシウムであり、
前記金属電極トラックは、有効な磁力線が存在しない、2つの隣接する金属電極トラックの間の空隙が最小化されるように配置され、
前記金属電極トラックは、前記多層インダクタの前記金属電極トラックが垂直方向に近接して配置されることにより、前記金属電極トラックの間の前記磁性層の全体的な厚さが100μm以下になるように配置され、
前記金属電極トラックは、前記多層インダクタの前記金属電極トラックが前記複数の磁性層に対して垂直な断面上で階段状にずれるように配置され、
下層の前記金属電極トラックに対して、上層の前記金属電極トラックが階段状に一層ずつ左又は右にずれている、多層インダクタ。
【請求項13】
複数の磁性層と該磁性層上に形成された複数の金属電極トラックとを備える多層インダクタであって、
セラミック-無機材料複合体が、コイルのパターンで前記金属電極トラックによって形成された磁気コア領域内に配置され、
前記セラミック-無機材料複合体は、二以上の第1の層及び第2の層を含み、
前記第1の層は、誘電率対温度の曲線において正の傾きを有するセラミック材料を含み、
前記第2の層は、前記誘電率対温度の曲線において負の傾きを有する無機材料を含み、
前記第1の層と前記第2の層とが交互に互いの上に積層され、
前記金属電極トラックは、有効な磁力線が存在しない、2つの隣接する金属電極トラックの間の空隙が最小化されるように配置される、多層インダクタ。
【請求項14】
前記金属電極トラックは、前記多層インダクタの前記金属電極トラックが垂直方向に近接して配置されることにより、前記金属電極トラックの間の前記磁性層の全体的な厚さが100μm以下になるように配置される、請求項13に記載の多層インダクタ。
【請求項15】
前記金属電極トラックは、前記多層インダクタの前記金属電極トラックが前記複数の磁性層に対して垂直な断面上で階段状にずれるように配置される、請求項13に記載の多層インダクタ。
【請求項16】
下層の前記金属電極トラックに対して、上層の前記金属電極トラックが階段状に一層ずつ左又は右にずれている、請求項13に記載の多層インダクタ。
【請求項17】
請求項13乃至16のいずれか一項に記載の多層インダクタであって、
前記誘電率対温度の曲線において正の傾きを有する前記セラミック材料は、二酸化チタン又は二酸化ジルコニウムであり、
前記誘電率対温度の曲線において負の傾きを有する無機材料は、炭酸カルシウム、重炭酸カルシウム、又は酸化カルシウムである、多層インダクタ。
【請求項18】
請求項13に記載の多層インダクタであって、
前記誘電率対温度の曲線において正の傾きを有するセラミック材料は、二酸化チタン又は二酸化ジルコニウムであり、
前記誘電率対温度の曲線において負の傾きを有する無機材料は、炭酸カルシウム、重炭酸カルシウム、又は酸化カルシウムであり、
前記金属電極トラックは、前記多層インダクタの前記金属電極トラックが垂直方向に近接して配置されることにより、前記金属電極トラックの間の前記磁性層の全体的な厚さが100μm以下になるように配置され、
前記金属電極トラックは、前記多層インダクタの前記金属電極トラックが前記複数の磁性層に対して垂直な断面上で階段状にずれるように配置され、
下層の前記金属電極トラックに対して、上層の前記金属電極トラックが階段状に一層ずつ左又は右にずれている、多層インダクタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子デバイスの分野に関し、特に、電力用途のための多層インダクタ構造に関する。特に、多層インダクタは、電力伝送のための電圧-電流変換、データの伝送及び処理のためのインピーダンス整合、並びに電磁干渉のフィルタリングのために使用される。
【背景技術】
【0002】
受動素子のうちの1つとして、インダクタは、通常、フェライトコアの周りにコイルを巻き、その端部に電極を形成することによって製造される巻線型インダクタと、磁性層又は誘電体層に内部電極を印刷した後、磁性層又は誘電体層を積層することによって製造される多層型インダクタとに分類される。
【0003】
近年、厚膜印刷プロセス及びLTCC材料の開発により、レジスタ、キャパシタ、及びインダクタなどの受動素子を更に小型化することが必要になった。小型の回路基板において、多層インダクタは、巻線型インダクタと比較してサイズを小型化し、コストを下げるための最良のSMTインダクタによる解決策として、徐々に優勢になりつつある。
【0004】
典型的には、多層インダクタは、高温の固相反応を受ける複数の磁性シート(又はストリップ)からなる多層体によって形成される単一のモノリシック構造からなる。導電性電極は、印刷によって磁性シート上にコイルパターンとして形成可能である(しかし、印刷には限定されない)。技術の発展に伴い、多層インダクタ構造を改善するための研究の様々な態様が従来技術に存在する。
【0005】
このために、特許文献1は、多層インダクタの層の間にエアギャップを導入することによってインダクタンスを高くする多層インダクタを提案している。しかしながら、このようなエアギャップは、インダクタの性能変動における問題を引き起こす。
【0006】
したがって、多層インダクタの欠点は、例えば、電流、周波数、温度などのような異なる適用条件下における、インダクタンス及びインピーダンスの不安定性は、この分野ではこれまで対処されてこなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】米国特許第6249205号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
一態様では、一般に、多層体を調製するとき、この分野では、インダクタの特性及びその安定性を調整するために、エアギャップの代わりに非磁性セラミックが選択される。しかしながら、これらの非磁性セラミックの特性も、温度及び周波数により変動するという問題がある。これに関して、本出願人は、電流、温度、及び周波数に対する磁気コア領域のギャップ位置における非磁性セラミックの不安定性の原因が、誘電率の変動であることを見出した。
【0009】
したがって、本発明の技術的目的は、このようなギャップ位置を満たし、電流、温度及び周波数による磁気コアの誘電率の変動をなくすことができるセラミック-無機材料複合体を提供することによって、安定した特性を有する多層インダクタ構造を実現することである。
【0010】
別の態様では、従来技術において、多層インダクタは、静的プレスを利用して磁性シート上に金属電極トラックを印刷し、次いで同時焼成するプロセスによって製造される。したがって、この製造プロセスの作業性を考慮すると、磁性シートの厚さは薄すぎてはならない。その結果、有効な磁力線が存在せず、インダクタの性能に寄与しない、金属電極トラックの隣接する2つの層の間の空隙(void space)の割合が高くなる。本出願人は、隣接する2つの層の金属電極トラックの間の空間を低減させることによって、又は金属電極トラックの配置を変更することによって、空隙を最大限に圧縮できることを発見した。
【0011】
したがって、本発明の他の技術的目的は、有効な磁力線が存在しない空隙を最小化することを可能にすることにより、多層インダクタの特性を向上させる(例えば、多層インダクタの有効な磁石利用率を向上させる)ことによって、インダクタのインダクタンス値の向上、電流安定性の改善、及びインピーダンス特性の最適化など、インダクタの特性を向上させることができる、多層インダクタを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の技術的課題を解決するために、一態様において、本発明は、コイルのパターンで存在する金属電極トラックの磁気コア領域内に配置され、かつ、二以上の第1の層及び第2の層を備える、多層インダクタ用のセラミック-無機材料複合体であって、第1の層は、誘電率対温度の曲線において正の傾きを有するセラミック材料を含み、第2の層は、誘電率対温度の曲線において負の傾きを有する無機材料を含み、第1の層と第2の層とは、交互に互いの上に積層される、多層インダクタ用のセラミック-無機材料複合体を提供する。
【0013】
この態様では、誘電率対温度の曲線において正の傾きを有するセラミック材料は、当該技術分野において一般的に使用されるほとんどの任意のセラミック材料、例えば、二酸化チタン、二酸化ジルコニウムなどの市販の材料から選択され得る。
【0014】
誘電率対温度の曲線において負の傾きを有する無機材料は、炭酸カルシウム、重炭酸カルシウム、酸化カルシウムなどの市販の材料から選択され得る。
金属電極は、銀(Ag)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、銅(Cu)、金(Au)、ニッケル(Ni)、又はそれらの合金、あるいはそれらの複合体を含む。
【0015】
この態様では、本発明は、複数の磁性層と、磁性層上に形成された金属電極トラックと、を備える多層インダクタであって、セラミック-無機材料複合体が、コイルのパターンの金属電極トラックによって形成された磁気コア領域内に配置され、セラミック-無機材料複合体は、二以上の第1の層及び第2の層を備え、第1の層は、誘電率対温度の曲線において正の傾きを有するセラミック材料を含み、第2の層は、誘電率対温度の曲線において負の傾きを有する無機材料を含み、第1の層と第2の層とは、交互に互いの上に積層される、多層インダクタに更に関する。
【0016】
第2の態様において、本発明は、複数の磁性層と、磁性層上に形成された金属電極トラックと、を備える多層インダクタであって、金属電極トラックが、有効な磁力線が存在しない、2つの隣接する金属電極トラックの間の空隙が最小化されるように配置される、多層インダクタを提供する。
【0017】
第2の態様によれば、金属電極トラックは、多層インダクタの多層金属電極トラックが垂直方向に近接して配置されることにより、金属電極トラックの間の磁性層の全体的な厚さが10μm以下になるように配置される。
【0018】
第2の態様では、複数の磁性層及び金属電極トラックは、印刷法、エッチング法及びレーザ法によって形成される。とりわけ、多重印刷技術によって複数の磁性層及び金属電極トラックを形成する際、磁性層又は金属層の厚さは、各印刷について5μm以下である。
【0019】
第2の態様によれば、代替的に、金属電極トラックは、多層インダクタの多層金属電極トラックが複数の磁性層に対して垂直な断面上で階段状にずれるように配置するように配置される。
【0020】
具体的には、下層の金属電極トラックに対して、上層の金属電極トラックが階段状に一層ずつ左又は右にずれている。
磁性層の材料は、フェライト材料であってもよい。
【0021】
第3の態様において、本発明は、複数の磁性層と、磁性層上に形成された金属電極トラックと、を備える多層インダクタであって、セラミック-無機材料複合体が、金属電極トラックによって形成されたコイルのパターンの磁気コア領域内に配置され、セラミック-無機材料複合体は、二以上の第1の層及び第2の層を備え、第1の層は、誘電率対温度曲線において正の傾きを有するセラミック材料を含み、第2の層は、誘電率対温度曲線において負の傾きを有する無機材料を含み、第1の層と第2の層とは、交互に互いの上に積層され、金属電極トラックが、有効な磁力線が存在しない、2つの隣接する金属電極トラックの間の空隙が最小化されるように配置される、多層インダクタを提供する。
【発明の効果】
【0022】
本発明の第1の態様によれば、本発明のセラミック-無機材料複合体は、電流、温度及び周波数によるコアの誘電率の変動をなくし、それによって、安定した特性を有する多層インダクタ構造を実現することができる。
【0023】
本発明の第2の態様によれば、多層インダクタの金属電極トラックの間の空隙が最小化されるため、コアの利用可能な磁気容量の増加及びDC抵抗の減少が可能になる。
加えて、金属電極トラックを近接させて位置合わせすることによって、製品の歪み、亀裂、及び不安定な信頼性をもたらし得るデラミネーション又は機械収縮率の異方性を生じさせることなく、後続のプロセス例えば、焼結を実行することができる。
【0024】
本発明の第3の態様によれば、多層インダクタは、安定した特性を達成しながら、デバイスの電気的性能及び磁気的性能を改善することができ、それにより、多層インダクタの有効な磁石利用率を向上させ、それによって、インダクタのインダクタンス値の向上、電流安定性の改善、及びインピーダンス特性の最適化など、インダクタの特性を向上させることができる。
【0025】
本明細書に示される添付の図面は、考えられ得るすべての実施形態ではなく、選択された例のみを示すことを目的としており、本発明の範囲を限定することを意図するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1A】従来技術における多層インダクタ構造の概略斜視図である。
図1B】従来技術における多層インダクタ構造の概略断面図である。
図2A】本発明のセラミック-無機材料複合体の概略断面図である。
図2B】本発明のセラミック-無機材料複合体を含む多層インダクタ構造の概略断面図である。
図3】従来技術の多層インダクタ構造の空隙の概略断面図である。
図4A】本発明の近接して配置された多層金属電極トラックを備える多層インダクタ構造の概略断面図である。
図4B】多重印刷技術を使用して形成された、図4Aに示した構造の部分拡大図である。
図4C】本発明のずれた多層金属電極トラックによって形成された多層インダクタ構造と、その内部の磁力線の分布の概略断面図である。
図5】実施例1で得られた多層インダクタのインピーダンス-周波数曲線を示す。
図6】実施例1で得られた多層インダクタのインダクタンス-電流曲線を示す。
図7A】比較例1で得られた多層インダクタの有効磁力線の模式図を示す。
図7B】実施例1で得られた多層インダクタの有効磁力線の模式図を示す。
図8】実施例3で得られた多層インダクタのインダクタンス-電流曲線を示す。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明についてより詳細に説明する。
本明細書及び特許請求の範囲で使用される用語は、発明者によって適切に定義され得るという原則に基づいて、関連分野の文脈及び本発明の技術的思想における意味と一致する意味を有すると解釈され得ると理解すべきである。本明細書で使用される用語は、例示的な実施形態を説明することのみを意図しており、本発明を限定することを意図するものではない。
【0028】
更に、本明細書で使用される場合、「備える」、「含む」、「含有する」、又は「有する」という用語は、本明細書で使用される場合、記述された特徴、形、ステップ、要素、又はそれらの組み合わせが存在することを示すが、一以上の他の特徴、形、ステップ、要素、又はそれらの組み合わせが存在すること、あるいは、それらを包含することを除外するものではないと理解すべきである。
【0029】
本明細書において、添付図面を参照して構成要素の構造を説明するとき、「上」、「下」、「上層」、「下層」などの用語は、構成要素の相対的な位置関係を指し、添付図面に示された構造に限定されるものではない。
【0030】
以下、本発明の多層インダクタについて説明する。
最初に、従来技術における多層インダクタ構造の概略斜視図である図1Aを参照する。多層インダクタ又は多層インダクタ構造100は、複数の磁性層101と、複数の磁性層上に形成された複数の金属電極トラック102と、を備える。個々の磁性層によって形成される金属電極トラックは、コイルパターンである。コイルパターンの中央は、本発明で説明される「磁気コア領域」103に相当する。
【0031】
これに関して、従来技術の多層インダクタ構造100の(部分的)概略断面図を示す図1Bを参照し、同様の参照番号は同様の構成要素を示している。図1Bを見ると分かるように、本明細書で説明される「磁気コア領域」103は、コイルによって取り囲まれた中央の領域を指す。
【0032】
本発明のセラミック-無機材料複合体は、図1Bの長くて黒い領域に示される位置など、磁気コア領域103内の任意の位置に配置され得る。
上述のように、第1の態様において、本発明は、コイルのパターンで存在する金属電極トラックの磁気コア領域内に配置され、かつ、二以上の第1の層及び第2の層を備える、多層インダクタ用のセラミック-無機材料複合体であって、第1の層は、誘電率対温度曲線において正の傾きを有するセラミック材料を含み、第2の層は、誘電率対温度曲線において負の傾きを有する無機材料を含み、第1の層と第2の層とは、交互に互いの上に積層される、多層インダクタ用のセラミック-無機材料複合体を提供する。
【0033】
これに関して、本発明のセラミック-無機材料複合体の概略断面図である図2Aを参照する。セラミック-無機材料複合体200は、2つの層、第1の層201及び第2の層202を備え、第1の層201は、誘電率対温度曲線において正の傾きを有するセラミック材料を含み、第2の層202は、誘電率対温度曲線において負の傾きを有する無機材料を含む。
【0034】
ここで、「誘電率対温度曲線の傾き」とは、材料の誘電率が温度と共に高くなる又は低くなる際の誘電率対温度曲線における変化率を意味する。変化率が大きくなった場合には正の傾きとなり、変化率が小さくなった場合には負の傾きとなる。
【0035】
好ましくは、誘電率対温度の曲線において正の傾きを有するセラミック材料は、0.1~1の傾きを有し、誘電率対温度の曲線において負の傾きを有する無機材料は、-0.1~0.05の傾きを有する。
【0036】
なお、図2Aには、2層構造を有するセラミック-無機材料複合体のみが示されているが、本発明のセラミック-無機材料複合体は、二以上の第1の層及び第2の層を備えてもよい。また、二以上の第1の層及び第2の層が含まれるとき、第1の層と第2の層とは、交互に、すなわち、「第1の層/第2の層/第1の層/第2の層...」のように積層される。
【0037】
図2Aに示したセラミック-無機材料複合体200は、図1Bに示した磁気コア領域103の長くて黒い位置など、多層インダクタの磁気コア領域内の任意の位置に配置され得る。
【0038】
多層インダクタの磁気コア領域を埋め込んだ後、誘電率対温度曲線において正の傾きを有するセラミック材料と誘電率対温度曲線において負の傾きを有する無機材料とを互いに重ね合わせて、電流、温度及び周波数によるコアの誘電率の変動をなくすため、安定した特性を有する多層インダクタ構造体を実現することができる。
【0039】
第1の態様において、本発明は、複数の磁性層と、磁性層上に形成された金属電極トラックと、を備える多層インダクタであって、セラミック-無機材料複合体が、金属電極トラックによって形成されたコイルのパターンの磁気コア領域内に配置され、セラミック-無機材料複合体は、二以上の第1の層及び第2の層を備え、第1の層は、誘電率対温度の曲線において正の傾きを有するセラミック材料を含み、第2の層は、誘電率対温度の曲線において負の傾きを有する無機材料を含み、第1の層と第2の層とは、交互に互いの上に積層される、多層インダクタに更に関する。
【0040】
図2Bは、本発明のセラミック-無機材料複合体を含む多層インダクタ構造の概略断面図である。多層インダクタ300において、複数の第1の層及び第2の層を備えるセラミック-無機材料複合体200は、磁気コア領域内に配置される。これに関して、前述したように、セラミック-無機材料複合体200は、磁気コア領域内の任意の位置に配置してもよく、図2Bに示した位置には限定されない。
【0041】
このような態様では、この分野において、一般的に使用されるセラミック材料のほとんどすべては、誘電率対温度曲線において正の傾きを有するセラミック材料であり、したがって、本明細書におけるセラミック材料として使用され得る。通常、誘電率対温度の曲線において正の傾きを有するセラミック材料は、二酸化チタン、二酸化ジルコニウムなどの市販の材料であってもよい。
【0042】
誘電率対温度の曲線において負の傾きを有する無機材料は、炭酸カルシウム、重炭酸カルシウム、酸化カルシウムなどの市販の材料から選択され得る。
金属電極は、銀(Ag)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、銅(Cu)、金(Au)、ニッケル(Ni)、又はそれらの合金、あるいはそれらの複合体を含む。
【0043】
磁性層の材料は、フェライト材料の主要なカテゴリに属する磁性材料例えば、磁性セラミック材料、好ましくは、ニッケル-亜鉛-銅フェライト材料であってもよい。例えば、フェライト粉末は、酸化鉄粉末と、酸化亜鉛粉末と、酸化銅粉末と、酸化ニッケル粉末と、酸化ビスマス粉末と、少量の酸化ケイ素粉末と、を含む。
【0044】
本発明のセラミック-無機材料複合体は、以下の方法で製造され得る。
誘電率対温度の曲線において正の傾きを有するセラミック材料(及び任意の改質剤)と、誘電率対温度の曲線において負の傾きを有する無機材料(及び任意の改質剤)とを、分散させるために溶媒に溶解して、誘電率対温度の曲線において正の傾きを有するセラミック材料を含有するスラリーAと、誘電率対温度の曲線において負の傾きを有する無機材料を含有するスラリーBと、を得る。次に、スラリーAとスラリーBとを交互に基材に適用し、高温で焼結して、セラミック-無機材料複合体を得る。
【0045】
上記の製造方法では、使用される溶媒は、エチルセルロース及びパインアルコールから選択され得る。
上記の製造方法では、使用されるセラミック材料及び無機材料は、上述した通りである。
【0046】
上記の製造方法では、改質剤を添加する目的は、スラリー粒子の表面の表面エネルギー及び活性を変化させることであり、それにより、得られた生成物が、処理品質に影響を与え得る凝集を起こしにくくなる。改質剤は、好ましくは、フェロ社(FERRO)から入手可能なM1159材料であり、改質剤は、好ましくは、溶媒に添加する前に、改質剤をセラミック材料又は無機材料と一緒に撹拌される。
【0047】
上記の製造方法では、ボールミルを使用して、3~5時間にわたって、例えば4時間にわたって分散プロセスを実行される。
上記の製造方法では基材は、多層インダクタで使用される磁性層用の磁性基材である。
【0048】
上記の製造方法では、交互印刷プロセスにより、スラリーAとスラリーBとを交互に基材上に印刷する。
上記の製造方法において、上記焼結工程焼結温度は800℃~950℃、例えば900℃であり、時間は当該技術分野において通常使用される適切な時間であってよい。
【0049】
第2の態様において、複数の磁性層と、磁性層上に形成された金属電極トラックと、を備える多層インダクタであって、金属電極トラックが、有効な磁力線が存在しない、2つの隣接する金属電極トラックの間の空隙が最小化されるように配置される、多層インダクタが提供される。
【0050】
図3を参照すると、多層インダクタ400は、複数の磁性層101と、その上に形成された金属電極トラック102と、を備える。複数の金属電極トラック102は、互いに対して実質的に平行に配置される。磁性層を形成するために使用される磁気バンドの厚さが大きい、典型的には100μm以上であることに起因して、隣接する2つの層の金属電極トラック102の間に大きな空間が存在する。本出願人は、このような空間では、デバイスの使用時に有効な磁力線が存在しないため、デバイスの性能に寄与しないことを見出した。したがって、本明細書では、有効な磁力線が存在しない金属電極トラック102の隣接する2つの層の間の空間は、図3の参照番号410によって示されるように、「空隙」と呼ばれる。
【0051】
具体的には、図3の左側を参照すると、デバイスが使用されているとき、上層の金属電極トラックにより発生する磁力線と、中間層の金属電極トラックにより発生する磁力線とは反対方向である。例えば、上層の金属電極トラックにより発生する磁力線は、図3では時計回り方向で示されているが、中間層の金属電極トラックにより発生する磁力線は、反時計回り方向である。したがって、それらの間の空隙410’において、金属電極トラックの2つの層の磁力線は互いに打ち消し合った結果、有効な磁力線が存在しない空隙が生じる。
【0052】
本発明において、本出願人は、金属電極トラックの配置を変更することによって、有効な磁力線が存在しない2つの隣接する金属電極トラックの間の空隙を最小化することによって、多層インダクタデバイスの性能を向上させることができることを見出した。
【0053】
第2の態様によれば、解決策1として、多層インダクタの多層金属電極トラックが垂直方向に近接して配置されることにより、金属電極トラックの間の磁性層の全体的な厚さが100μm以下になるように金属電極トラックを配置することができる。
【0054】
図4Aは、解決策1の多層金属電極トラックの概略断面図を示す。図4Aに示すように、複数の金属電極トラック502は垂直方向に近接して配置され、金属電極トラックの間の磁性層空間510の厚さが100μm以下に圧縮される。好ましくは、磁性層空間510の厚さは、10μm~50μmなど、50μm以下である。
【0055】
図4Bは、解決策1の金属電極トラック構造の部分拡大図を示す。上述したように、このような近接して配置された金属電極トラック構造は、印刷、エッチング、レーザなどによって形成され得る。好ましくは、図4Bに示した構造は、多重印刷技術を使用して形成され得る。
【0056】
具体的には、最も下の磁性層501bには金属電極トラックが形成されない。次いで、多重印刷技術を使用して、金属電極トラックの層、例えば502aが最初に次の下層上に形成され、その金属電極トラックの上に別の磁性層501cが印刷される。この手順は、金属電極トラックの複数の層例えば3つ又は4つの層と磁性層とが形成されるまで繰り返され、502aと501cとが互いの上に積層される。加えて、金属電極トラック502aの2つの層を、メッシュ503によって接続することができる。メッシュとして、厚さ0.01~0.1ミリメートル(mm)の中間開口部と35~50ニュートン(N)の引張強度とを有するアルミニウム合金メッシュを使用することができる。
【0057】
多重印刷技術のプロセスは以下の通りである。
最初に、磁性層用のスラリーを調製する。ここで、結合剤、分散剤、消泡剤及びセラミック粉末(フェライト材料)を別々に溶媒に添加し、ボールミル中で3~8時間(h)分散させて、200~600mPa・s(200~600センチポアズ(CPS))の粘度を有するスラリーを生成する。
【0058】
スラリーを調製するために使用される溶媒、結合剤、分散剤、消泡剤などは、当該技術分野において一般的に使用される材料とすることができ、ここでは説明を省略する。
その後、メッシュを使用することによって、設計要件に従って、磁性層を形成するためのスラリー及び金属スラリー(例えば、銀スラリー)を積層させて印刷する。具体的なプロセス工程は以下の通りである。
【0059】
(1)磁性層又は金属層の厚さは、各印刷について5μm以下であり、各印刷の後、1時間にわたって50℃~70℃で焼成することによって乾燥させた結果、100μm以下の総厚を有する多層構造体、すなわち、多層金属電極又は多層磁性層が得られる。
【0060】
(2)異なる層の間の金属電極トラックが完全なコイルを形成できることを保証するために、メッシュ構造(例えば、1/2メッシュ、1/3メッシュ、1/4メッシュ)が金属電極トラックの接続点に使用される。
【0061】
次に、第2の態様によれば、解決策2として、金属電極トラックは、多層インダクタの多層金属電極トラックが複数の磁性層に対して垂直な断面上で階段状にずれて配置されるように配置される。具体的には、下層の金属電極トラックに対して、上層の金属電極トラックが階段状に一層ずつ左又は右へとずれている。
【0062】
これに関して、最初に図1Bを参照すると、多層インダクタの一方の側(図の左側又は右側)に、従来技術の多層金属電極が、垂直方向に互いに位置合わせして配置されている。しかしながら、本出願人は、多層金属電極トラックを階段状にずらずことによって、多層金属電極トラック間の磁性層の厚さを減少させなくても、有効な磁力線が存在しない空隙を最小化されることができることを見出した。
【0063】
図4Cは、ずれた多層金属電極トラックによって形成された多層インダクタ構造と、その内部の磁力線の分布の概略断面図である。図4Cを参照すると、金属電極トラックは、多層インダクタの多層金属電極トラックが複数の磁性層に対して垂直な断面上で階段状に一層ずつ左へとずれるように配置される。具体的には、下方層の金属電極トラックに対して、上方層の金属電極トラックが階段状に一層ずつ左へとずれている。しかしながら、図4Cは、左側へとずれている場合を示しているが、本発明は、多層金属電極トラックが階段状に右へとずれている場合も含む。
【0064】
図4Cに示すように、多層金属電極トラックをずらずことによって、磁性層の厚さがより厚く(例えば、20μm以上に)維持されている場合であっても、空隙を大幅に低減することができるため、デバイスの性能が改善される。
【0065】
デバイス設計の違いに応じて、上層の金属電極トラックは、下層の金属電極トラックに対して異なる距離で左又は右へとずれている。
第2の態様において、金属電極は、銀(Ag)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、銅(Cu)、金(Au)、ニッケル(Ni)、又はそれらの合金、あるいはそれらの複合体を含む。
【0066】
磁性層の材料は、磁性材料、例えば、磁気特性を有するセラミック材料であってもよく、その主要なカテゴリは、フェライト材料、好ましくは、ニッケル-亜鉛-銅フェライト材料である。
【0067】
上述のように、本発明の第3の態様は、第1の態様と第2の態様との組み合わせ、すなわち、
複数の磁性層と、磁性層上に形成された金属電極トラックと、を備える多層インダクタであって、セラミック-無機材料複合体が、金属電極トラックによって形成されたコイルのパターンで磁気コア領域内に配置され、セラミック-無機材料複合体は、二以上の第1の層及び第2の層を備え、第1の層は、誘電率対温度の曲線において正の傾きを有するセラミック材料を含み、第2の層は、誘電率対温度の曲線において負の傾きを有する無機材料を含み、第1の層と第2の層とは、交互に互いの上に積層され、金属電極トラックが、有効な磁力線が存在しない、2つの隣接する金属電極トラックの間の空隙が最小化されるように配置される、多層インダクタを提供する。
【0068】
セラミック-無機材料複合体の特性及び金属トラックの配置は、第1の態様及び/又は第2の態様と同じであるので、ここでは詳細な説明を省略する。
実施例
実施例を参照して、本発明を以下に詳細に説明する。しかし、本発明の実施例は他の様々な形態へと変形されてもよく、本発明の範囲は、以下に説明する実施例に限定されるものではない。本発明の実施例は、当該技術分野における通常の知識を有する者に本発明の全体を説明するために提供されるものである。
【0069】
比較例1:従来技術の多層インダクタ
図1Bに示した構造を有する従来技術の多層インダクタを準備した。
実施例1:本発明の多層インダクタ(セラミック-無機材料複合体と、近接して配置された多層金属電極トラックと、を備える)。
【0070】
原材料:宝鋼社(Bao steel)によって供給される超微細なフェライト粉末。
油性有機物:
溶媒:酢酸エチル及びイソプロパノール
分散剤:ポリエチレングリコール、デュポン社(DuPont)
DBP可塑剤:米国のフェロ社(Ferro、USA)
装置及び機器:
ボールミル:ジルコニア遊星型4ジャーボールミル
試験用鋳造機:長さ3mの試験機、製造業者:ガンドンフェンシュア・アドバンスド・テクノロジ社(Fenghua Hi-Tec)
WK3260シリーズのDC電源及びインダクタンス試験機器
アジレント(Agilent)4396スペクトラムアナライザ
(1)磁性体の作成
超微細なフェライト粉末を原材料として使用し、上述の油性有機物を添加剤として使用することによって、ボールミリングプロセスによりスラリーを調製し、試験用キャストマシンにより磁性体を作成した。
【0071】
(2)金属電極トラック及びセラミック-無機材料複合体の作成
二酸化チタン及び石灰石粉末の各々を、溶媒としてのエチルセルロース及びパインオイルアルコールに溶解し、改質剤(例えば、フェロ社(FERRO)のM1159材料)を添加し、その後、ボールミルを使用して4時間にわたってボールミリングして、2つのスラリー:正の誘電率の温度係数を有する二酸化チタン系セラミック体と、負の誘電率を有する石灰石系無機体とを得た。
【0072】
次いで、交互印刷プロセスを使用することによって、2つのスラリーをコア基材上にそれぞれ印刷し、約900℃で高温焼結することによって、この複合セラミック体を得た。
以下のように、近接して配置された多層電極構造を得た。
【0073】
結合剤、分散剤、消泡剤及びセラミック粉末の各々をボールミル中に添加し、8時間にわたってボールミリングを行って、400mP・s(400CPS)の粘度を有するスラリーを生成し、それによって、磁性層を形成するためのスラリーが得られた。
【0074】
電極トラックを形成するための材料として銀スラリーを使用した。
磁性層用スラリーと銀スラリーとを積層し、設計要件に従って、銀メッシュを使用して印刷した。具体的なプロセス工程は以下の通りであった。
【0075】
磁性層及び金属トラック層について、各印刷の厚さは5μm以下であり、各印刷は、各印刷の後に60℃で1時間にわたって焼成する必要がある。層の厚さが要件に達しない場合、数回の印刷及び焼成を実行した。
【0076】
異なる層の間の銀電極トラックが完全なコイルを形成できることを保証するために、銀メッシュ構造(例えば、1/2メッシュ)が銀電極トラックの接続点に使用される。
(3)多層インダクタの作成
磁性体、金属電極トラック、及びセラミック-無機材料複合体を一緒にプレスし、900℃で焼結して、多層インダクタを得た。得られた多層インダクタは、上述したように、セラミック-無機材料複合体と、近接して配置された金属電極トラックとを含有していた。
【0077】
(4)性能の測定
WK3260シリーズのDC電源及びインダクタンス試験機器とアジレント(Agilent)4396スペクトラムアナライザとを使用して、比較例1及び実施例1から得られた製品の電気的性能を試験した。結果を図5及び図6の各々にそれぞれ示す。
【0078】
図5を見ると分かるように、本明細書のセラミック-無機材料複合体を提供することによって、多層インダクタの緩やかな(mild)AC電流による総誘電率の変動が改善された。約15%改善されたことが推定される。
【0079】
図6を見ると分かるように、本明細書に記載した近接して配置された多層電極トラック構造によって、デバイスのインダクタンスが改善された。加えて、磁気コアの利用可能な磁気容量が約10%増加し、DC抵抗は約5%減少したと推定される。
【0080】
加えて、図7A及び図7Bを見ると分かるように、本明細書に記載した近接して配置された多層電極トラック構造は、有効な磁力線が存在しない多層インダクタ内の空隙を大幅に低減することによって、デバイスの性能が改善された。
【0081】
実施例2:多層金属電極のずれた配置を含む多層インダクタ
多層金属電極が図4Cに示すずれた構造になるように形成されていることを除いて、実施例1と同様にして、本実施例の多層金属電極のずれた配置を含んでいる多層インダクタを調製した。
【0082】
WK3260シリーズのDC電源及びインダクタンス試験機器とアジレント(Agilent)4396スペクトラムアナライザとを使用して、比較例1及び実施例2から得られた製品の電気的性能を試験した。結果を図8にそれぞれ示す。
【0083】
図8を参照すると、コイル層のずれた構造が垂直であることによって、インダクタンスを改善した。加えて、磁束体積利用率は、約5%~10%の最適化を達成したと推定される。
【0084】
前述の明細書及び関連する添付の図面に存在する教示の助けを借りて、当業者は、本明細書に記載される技術的解決策の種々の変形形態及び他の実施形態を認識するであろう。したがって、本発明は、開示した特定の実施形態には限定されず、任意の変形形態及び他の実施形態は、添付の特許請求の範囲内に含まれるとみなされることが理解されるであろう。
図1A
図1B
図2A
図2B
図3
図4A
図4B
図4C
図5
図6
図7A
図7B
図8