(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-15
(45)【発行日】2024-05-23
(54)【発明の名称】水蒸気バリア性コート剤及び積層体
(51)【国際特許分類】
C09D 133/00 20060101AFI20240516BHJP
B32B 27/10 20060101ALI20240516BHJP
B32B 27/28 20060101ALI20240516BHJP
B65D 65/40 20060101ALI20240516BHJP
C09D 7/61 20180101ALI20240516BHJP
C09D 7/63 20180101ALI20240516BHJP
C09D 125/10 20060101ALI20240516BHJP
【FI】
C09D133/00
B32B27/10
B32B27/28 101
B65D65/40 D
C09D7/61
C09D7/63
C09D125/10
(21)【出願番号】P 2023201251
(22)【出願日】2023-11-29
【審査請求日】2024-02-02
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000105947
【氏名又は名称】サカタインクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 玄太
(72)【発明者】
【氏名】田中 宏樹
(72)【発明者】
【氏名】藤田 篤史
【審査官】牟田 博一
(56)【参考文献】
【文献】特開2022-141604(JP,A)
【文献】特開2016-180028(JP,A)
【文献】特開2009-24288(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アニオン性バインダー樹脂、アミノ酸類、無機層状化合物、及び水系媒体を含有する水蒸気バリア性コート剤であり、
前記アニオン性バインダー樹脂の骨格となるポリマーが、スチレン・ブタジエン系共重合体、スチレン・アクリル系共重合体、及びオレフィン・不飽和カルボン酸系共重合体からなる群より選ばれる少なくとも1種であり、
前記水蒸気バリア性コート剤に含まれる全固形分中、
前記アニオン性バインダー樹脂の割合が40質量%以上95質量%以下であり、前記アミノ酸類の割合が0.5質量%以上40.0質量%以下であ
り、前記無機層状化合物の割合が1質量%以上30質量%以下であることを特徴とする水蒸気バリア性コート剤。
【請求項2】
前記アニオン性バインダー樹脂の骨格となるポリマーが、オレフィン・不飽和カルボン酸系共重合体であることを特徴とする請求項1に記載の水蒸気バリア性コート剤。
【請求項3】
紙基材に請求項1又は2に記載の水蒸気バリア性コート剤を塗工してなることを特徴とする積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水蒸気バリア性コート剤及び積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
紙を基材とし、水蒸気バリア性やガスバリア性(特に、酸素バリア性)を付与した包装材料は、食品、医療品、電子部品等の包装において、内容物の品質低下を防止するために、従来から用いられてきている。
【0003】
紙基材に水蒸気バリア性やガスバリア性を付与する方法としては、紙を支持体としてガスバリア性に優れた合成樹脂フィルムや金属箔を積層する方法が一般的である。しかし、紙基材に合成樹脂フィルム等を積層した材料は、使用後に紙や合成樹脂等をリサイクルすることが困難である問題、マイクロプラスチック問題等の環境面において課題を有するものであった。そこで、合成樹脂フィルム等を使用せずに、紙を基材とした水蒸気バリア性材料、ガスバリア性材料の開発が進められてきている。例えば、特許文献1には、紙基材上に、水蒸気バリア層、ガスバリア層がこの順で設けられた紙製バリア材料が開示されている。前記水蒸気バリア層は、層状無機化合物、カチオン性樹脂及びアニオン性バインダー樹脂を含有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、食品用の包装材料は、より安全性の高いカチオン性樹脂に代わる、より安全性の添加剤を使用した水蒸気バリア性コート剤が要求されるようになってきているが、特許文献1に記載された水蒸気バリア層を形成するカチオン性樹脂は、非可食材料である。
【0006】
本発明は、上記のような状況に鑑みてなされたものであり、安全性が高く、水蒸気バリア性に優れる水蒸気バリア性コート剤及び積層体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち、本発明は以下の構成である。
[1]アニオン性バインダー樹脂、アミノ酸類、無機層状化合物、及び水系媒体を含有する水蒸気バリア性コート剤であり、前記水蒸気バリア性コート剤に含まれる全固形分中、前記アミノ酸類の割合が0.5質量%以上40.0質量%以下である水蒸気バリア性コート剤。
[2]前記アニオン性バインダー樹脂の骨格となるポリマーが、オレフィン・不飽和カルボン酸系共重合体であることが好ましい[1]に記載の水蒸気バリア性コート剤。
[3]紙基材に[1]又は[2]に記載の水蒸気バリア性コート剤を塗工してなる積層体。
【発明の効果】
【0008】
本発明の水蒸気バリア性コート剤及び積層体は、安全性が高く、水蒸気バリア性に優れている。アミノ酸は生体のタンパク質を構成するユニットであり、特に人体のタンパク質を構成する必須アミノ酸や非必須アミノ酸の多くは食品添加物として認可されており安全性の高い材料といえる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
<水蒸気バリア性コート剤>
本発明の水蒸気バリア性コート剤は、アニオン性バインダー樹脂、アミノ酸類、無機層状化合物、及び水系媒体を含有する。
【0010】
<アニオン性バインダー樹脂>
アニオン性バインダー樹脂は、無機層状化合物の分散性の機能を有し、カルボン酸等の酸基を含む単量体で変性されたバインダー樹脂が好ましく、バインダー樹脂の骨格となるポリマーとしては、例えば、スチレン・ブタジエン系共重合体、スチレン・アクリル系共重合体、メタクリレート・ブタジエン系共重合体、アクリルニトリル・ブタジエン系共重合体、オレフィン・不飽和カルボン酸系共重合体、アクリルエステル系重合体等が挙げられる。これらの中では、耐水性が良好で、伸びがよく、折割れによる塗工層の亀裂が生じにくいことから、スチレン・ブタジエン系共重合体、スチレン・アクリル系共重合体及びオレフィン・不飽和カルボン酸系共重合体からなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましく、より好ましくは、オレフィン・不飽和カルボン酸系共重合体である。アニオン性バインダー樹脂の形態は、ハンドリングの観点から、水分散体が好ましい。
【0011】
スチレン・ブタジエン系共重合体は、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン、p-t-ブチルスチレン、クロロスチレン等の芳香族ビニル化合物と、1,3-ブタジエン、イソプレン、2,3ジメチル-1,3-ブタジエン、1,3-ペンタジエン等の共役ジエン化合物、及びこれらと共重合可能なその他の化合物からなる単量体を乳化重合することによって得られる共重合体である。芳香族ビニル化合物としてはスチレン、また共役ジエン化合物としては1,3-ブタジエンが好適である。スチレン・ブタジエン系共重合体としては、Nipol SX1105A(商品名、日本ゼオン社製)等として市販されており、容易に入手し利用することができる。
【0012】
スチレン・アクリル系共重合体は、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン、p-t-ブチルスチレン、クロロスチレン等の芳香族ビニル化合物と、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、ケイ皮酸、イタコン酸、フマル酸、マレイン酸、ブテントリカルボン酸等の不飽和カルボン酸、イタコン酸モノエチルエステル、フマル酸モノブチルエステル及びマレイン酸モノブチルエステル等の少なくとも1個のカルボキシル基を有する不飽和ポリカルボン酸アルキルエステル、アクリルアミドプロパンスルホン酸、アクリル酸スルホエチルナトリウム塩、メタクリル酸スルホプロピルナトリウム塩等の不飽和スルホン酸単量体又はその塩、及びこれらと共重合可能なその他の化合物からなる単量体を乳化重合することによって得られる共重合体である。芳香族ビニル化合物としてはスチレン等が好適であり、また不飽和カルボン酸単量体、不飽和スルホン酸単量体又はその塩としてはアクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、フマル酸等が好適である。スチレン・アクリル系共重合体としては、Joncryl PDX 7741(商品名、BASFジャパン社製)等として市販されており、容易に入手し利用することができる。
【0013】
オレフィン・不飽和カルボン酸系共重合体は、オレフィン、とりわけ、エチレン、プロピレン等のα-オレフィンとアクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、ケイ皮酸、イタコン酸、フマル酸、マレイン酸、ブテントリカルボン酸等の不飽和カルボン酸、イタコン酸モノエチルエステル、フマル酸モノブチルエステル及びマレイン酸モノブチルエステル等の、少なくとも1個のカルボキシル基を有する不飽和ポリカルボン酸アルキルエステル、アクリルアミドプロパンスルホン酸、アクリル酸スルホエチルナトリウム塩、メタクリル酸スルホプロピルナトリウム塩等の不飽和スルホン酸単量体又はその塩、及びこれらと共重合可能なその他の化合物からなる単量体を乳化重合することによって得られる共重合体である。オレフィンとしては、α-オレフィン、とりわけエチレン等が好適であり、また不飽和カルボン酸単量体、不飽和スルホン酸単量体又はその塩としては、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、フマル酸等が好適である。オレフィン・不飽和カルボン酸系共重合体の具体例としては、例えば、エチレン・アクリル酸共重合体アンモニウム塩の水性分散液が、ザイクセンAC、ザイクセンA等(商品名、住友精化株式会社製)として市販されており、容易に入手し利用することができる。
【0014】
アニオン性バインダー樹脂の含有割合は、特に限定されず、水蒸気バリア性コート剤に含まれる全固形分中、20質量%以上が好ましく、40質量%以上がより好ましく、50質量%以上がさらに好ましく、60質量%以上が特に好ましい。一方、アニオン性バインダー樹脂の含有割合は、水蒸気バリア性コート剤に含まれる全固形分中、95質量%以下が好ましく、85質量%以下がより好ましい。
【0015】
<アミノ酸類>
アミノ酸類は、食品添加物として認可されているものが多く存在し、安全性が高く、また、無機層状化合物の分散作用をもつため、水蒸気バリア性を向上できる。アミノ酸類としては、バリン、ロイシン、イソロイシン、フェニルアラニン、トリプトファン、リジン、ヒスチジン、メチオニン、トレオニン、グリシン、アラニン、プロリン、アスパラギン酸、グルタミン酸、アスパラギン、グルタミン、チロシン、アルギニン、システイン、セリン等のアミノ酸およびアミノ酸誘導体が挙げられる。また、カルノシン、アンセリン、ホモアンセリン、キョートルフィン、バレニン、アスパルテーム、グロリン、バレチン、シュードプロリン等のジペプチド、アイゼニン、グルタチオン、イソロイシン-プロリン-プロリン、ロイペプチン、メラノスタチン、オフタルミン酸、ノルオフタルミン酸などのトリペプチド、アマニチン、アンチパイン、セルレチド、グルタチオン、ネトロプシン、ペプスタチン、ペプチドT、ファロイジン、テプロチド、タフトシン等のオリゴペプチドであってもよい。また、ポリバリン、ポリロイシン、ポリイソロイシン、ポリフェニルアラニン、ポリトリプトファン、ポリリジン、ポリヒスチジン、ポリグリシン、ポリアラニン、ポリプロリン、ポリアスパラギン酸、ポリグルタミン酸、ポリチロシン、ポリアルギニンなどのアミノ酸類のホモポリマーであってもよい。または上記のアミノ酸類を組み合わせたコポリマーであってもよい。アミノ酸類は、単独で、複数併用で使用しても良い。
【0016】
アミノ酸類の含有割合は、水蒸気バリア性コート剤に含まれる全固形分中、0.5質量%以上40.0質量%以下である。アミノ酸類の含有割合は、水蒸気バリア性コート剤に含まれる全固形分中、1.0質量%以上であることが好ましく、2.0質量%以上であることがより好ましく、そして、30質量%以下であることが好ましく、20質量%以下であることがより好ましい。
【0017】
<無機層状化合物>
無機層状化合物としては、天然物もしくは合成物のいずれであっても良く、またこれらを混合したものでも良い。天然物としてはモンモリロナイト、カオリナイト(カオリン鉱物)、パイロフィライト、タルク、バイデライト、ノントロナイト、サポナイト、ヘクトライト、ソーコナイト、スチーブンサイト等のスメクタイト系の粘土鉱物、ベントナイト、純雲母、脆雲母等のマイカ系粘土鉱物が挙げられる。合成物としては、合成ヘクトライト(ケイ酸ナトリウム・マグネシウム)、合成ベントナイト、合成サポナイト、合成マイカ等が挙げられる。これらの中でも特に、分散性を向上させる観点から、水膨潤性のモンモリロナイト、ベントナイト及び合成マイカ、合成ヘクトライト、合成ベントナイトからなる群より選ばれる少なくとも1種が好ましく、また、バリア性を向上させる観点から、モンモリロナイト、合成マイカ、合成ヘクトライトがより好ましい。無機層状化合物は、単独で、複数併用で使用しても良い。
【0018】
無機層状化合物の含有割合は、水蒸気バリア性コート剤に含まれる全固形分中、40質量%以下が好ましく、30質量%以下であることがより好ましく、20質量%以下であることがさらに好ましく、20質量%以下であることが特に好ましい。一方、無機層状化合物の含有割合は、水蒸気バリア性コート剤に含まれる全固形分中、1質量%以上であることが好ましく、2質量%以上であることがより好ましく、5質量%以上であることがさらに好ましい。
【0019】
<水系媒体>
水系媒体としては、水のみであっても、水と、メタノール、エタノール、プロパノール等のアルコール類、エチレングリコール、プロピレングリコール等の多価アルコールとそのアルキルエーテル誘導体、ギ酸エチル、酢酸メチル、酢酸エチル等のエステル類、アセトン等のケトン類といった水混和性有機溶媒とを混合した水系媒体であってもよい。
【0020】
<その他添加剤>
水蒸気バリア性コート剤には、必要に応じて、分散剤、界面活性剤、消泡剤、濡れ剤、染料、色合い調整剤、増粘剤等を添加することが可能である。
【0021】
<水蒸気バリア性コート剤の製造方法>
上記構成材料を使用して水蒸気バリア性コート剤を製造する方法としては、特に限定はされないが、例えば、(1)アニオン性バインダー樹脂溶液に、無機層状化合物(水等の分散媒に予め膨潤・へき開させておいてもよい)、アミノ酸類および水系媒体を添加混合し、攪拌装置や分散装置を利用して無機層状化合物を分散させる方法、(2)無機層状化合物を、水等の分散媒に膨潤・へき開させた後、攪拌装置や分散装置を利用し、更に、無機層状化合物をへき開、分散した分散液(分散溶液)に、アニオン性バインダー樹脂溶液、アミノ酸および水系媒体を添加混合する方法、(3)無機層状化合物を、水等の分散媒に膨潤・へき開させた後、アミノ酸類を加え、攪拌装置や分散装置を利用し、更に、無機層状化合物をへき開、分散した分散液(分散溶液)に、アニオン性バインダー樹脂溶液及び水系媒体を添加混合する方法等を挙げることができる。
【0022】
上記攪拌装置や分散装置としては、通常の撹拌装置や分散装置であれば特に限定されず、これらを用いて分散液中で無機層状化合物を均一に分散することができるが、透明で安定な無機層状化合物分散液が得られる点から、高圧分散機、超音波分散機等を使用することが好ましい。高圧分散機としては、例えば、ナノマイザー(商品名、ナノマイザー社製)、マイクロフルイダイザー(商品名、マイクロフルイデックス社製)、アルティマイザー(商品名、スギノマシン社製)、DeBEE(商品名、BEE社製)、ニロ・ソアビホモジナイザー(商品名、ニロ・ソアビ社)等が挙げられ、これら高圧分散機の圧力条件として100MPa以下で分散処理を行うことが好ましい。圧力条件が100MPaを超えると、無機層状化合物の破砕が起こり易くなり、目的であるガスバリア性が低下する場合がある。
【0023】
<積層体>
本発明の積層体は、紙基材の少なくとも一方の面上に水蒸気バリア性コート剤を塗工、乾燥してなる水蒸気バリア層を有する。また、ガスバリア性が要求される場合は、例えば、さらに、水蒸気バリア層の上にガスバリアコート剤を塗工し、乾燥することによりガスバリア層を設ければよい。なお、ガスバリア層を設ける場合は、水蒸気バリア性コート剤を塗工し、完全に乾燥させずに、その上からガスバリアコート剤を塗工してもよい。
【0024】
<紙基材>
紙基材層に使用する紙基材としては、植物由来のパルプを主成分として一般的に用いられている紙であれば特に制限はない。具体的には、晒または未晒クラフト紙、上質紙、板紙、ライナー紙、塗工紙、片艶紙、グラシン紙、グラファン紙等が挙げられる。紙基材は、機械的離解作用により水中で分散しやすいパルプを主成分とする紙であることが好ましい。
【0025】
<水蒸気バリア層>
水蒸気バリア層は、水蒸気バリア性コート剤を塗工し乾燥することで得られる。水蒸気バリア層の厚さは、1~30μmであることが好ましく、3~20μmであることがより好ましい。また、水蒸気バリア層の塗工量は、固形分として、1~30g/m2であることが好ましく、3~20g/m2であることがより好ましい。
【0026】
<ガスバリア層>
ガスバリア層は、ガスバリア性コート剤を塗工し乾燥することで得られる。ガスバリア層の厚さは、0.1~10μmであることが好ましく、0.5~5μmであることがより好ましい。また、ガスバリア層の塗工量は、固形分として、0.1~10g/m2であることが好ましく、0.5~7g/m2であることがより好ましい。
【0027】
<ガスバリア性コート剤>
ガスバリア性コート剤は、例えば、水溶性高分子、水系媒体を含有する。また、無機層状化合物を含有していても良い。
【0028】
<水溶性高分子>
水溶性高分子としては、例えば、ポリビニルアルコール、変性ポリビニルアルコール、デンプン及びその誘導体、セルロース誘導体、ポリビニルピロリドン、ウレタン系樹脂、ポリアクリル酸及びその塩、カゼイン、ポリエチレンイミン等が挙げられる。これらの中でも、ガスバリア性がより優れていることから、完全ケン化もしくは部分ケン化したポリビニルアルコール、または変性ポリビニルアルコールが好ましい。変性ポリビニルアルコールとしては、エチレン変性ポリビニルアルコール、カルボキシ変性ポリビニルアルコール、珪素変性ポリビニルアルコール、アセトアセチル変性ポリビニルアルコール、ジアセトン変性ポリビニルアルコール等が挙げられる。水溶性高分子は、単独で、複数併用で使用しても良い。水溶性高分子の含有量は、ガスバリア性コート剤の全固形分中50~100質量%であることが好ましく、70~100質量%であることがより好ましい。
【0029】
<無機層状化合物>
無機層状化合物としては、水蒸気バリア層と同様に、前記水蒸気バリア性コート剤で記載した無機層状化合物が使用できる。無機層状化合物は、単独で、複数併用で使用しても良い。無機層状化合物の含有量は、特に限定されず、ガスバリア性コート剤の水溶性高分子100質量部に対して、1~40質量部程度が好ましい。無機層状化合物としては、バリア性を向上させる観点から、マイカ、ベントナイト及びカオリンからなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0030】
<水系媒体>
水系媒体としては、水のみであっても、水と、メタノール、エタノール、プロパノール等のアルコール類、エチレングリコール、プロピレングリコール等の多価アルコールとそのアルキルエーテル誘導体、ギ酸エチル、酢酸メチル、酢酸エチル等のエステル類、アセトン等のケトン類といった水混和性有機溶媒とを混合した水系媒体であってもよい。
【0031】
<ガスバリア性コート剤の製造方法>
ガスバリア性コート剤の製造方法としては、特に限定されず、例えば、水溶性高分子、無機層状化合物、水系媒体を混合し、常温で充分に攪拌、混合することにより、所定濃度のガスバリア性コート剤を調製することができる。
【0032】
<塗工方法>
水蒸気バリア性コート剤、ガスバリア性コート剤を塗工するための塗工方法には、特に限定はなく、公知の方法を用いることができる。塗工方法としては、例えば、ブレードコーター、バーコーター、エアナイフコーター、スリットダイコーター、グラビアコーター、マイクログラビアコーター、ゲートロールコーター等が挙げられる。特に水蒸気バリア層の形成には、リバースグラビアコーター、キスリバースグラビアコーター、ブレードコーター、バーコーター、エアナイフコーター、スリットダイコーター等の塗工表面をスクレイプするコーターが無機層状化合物の配向を促すという点で好ましい。
【0033】
水蒸気バリア性コート剤、ガスバリア性コート剤を乾燥するための乾燥設備には、特に限定はなく、公知の設備を用いることができる。乾燥設備としては、例えば、熱風乾燥機、赤外線乾燥機、ガスバーナー、熱板等が挙げられる。
【0034】
<シーラント層>
本発明の積層体は、紙基材層の少なくとも一方の面上に水蒸気バリア層、又は水蒸気バリア層及びガスバリア層を有しているが、さらに、積層体の少なくとも一方の最外層にシーラント層を形成してもよい。
【0035】
シーラント層は、加熱や超音波で溶融し接着する層であり、積層体同士をヒートシール等により相互に結合させることができる層である。シーラント層は、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン・酢酸ビニル系重合体、ポリ酢酸ビニル重合体等の合成樹脂を溶融押出ラミ法やドライラミ法によって積層することによって形成することができる。また、シーラント層は、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン・酢酸ビニル系重合体、ポリ酢酸ビニル重合体等の合成樹脂の乳化分散液を塗工することによって形成することもできる。シーラント層の厚さは、1~50μmであることが好ましく、3~30μmであることがより好ましい。また、シーラント層の形成量は、固形分として、1~50g/m2であることが好ましく、3~30g/m2であることがより好ましい。
【実施例】
【0036】
以下に実施例を挙げて本発明の水蒸気バリア性コート剤及び積層体をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例及び比較例中の「部」及び「%」は、特に断らない限り、それぞれ「質量部」及び「質量%」を示す。実施例・比較例に用いた原材料は以下のとおりである。
【0037】
<紙基材>
OKブリザード(坪量70g/m2、王子マテリア社製)
<アニオン性バインダー樹脂>
エチレン・アクリル酸共重合体(商品名「ザイクセンA」、固形分25質量%、住友精化社製)
スチレン・アクリル系共重合体(商品名「Joncryl PDX 7741」、固形分50質量%、BASFジャパン社製)
スチレン・ブタジエン系共重合体(商品名「Nipol SX1105A」、固形分45.5質量%、日本ゼオン社製)
<無機層状化合物>
合成マイカ(商品名「ソマシフME300B-4T」、固形分7.9質量%、片倉コープアグリ社製)
モンモリロナイト(商品名「クニピアF」、クニミネ工業社製、イオン交換水に分散し固形分4%としたものを使用)
<アミノ酸類>
L-バリン(固形分100質量%、東京化成工業社製)
L-ロイシン(固形分100質量%、東京化成工業社製)
L-イソロイシン(固形分100質量%、東京化成工業社製)
L-フェニルアラニン(固形分100質量%、東京化成工業社製)
L-トリプトファン(固形分100質量%、東京化成工業社製)
L-リジン(固形分100質量%、東京化成工業社製)
L-ヒスチジン(固形分100質量%、東京化成工業社製)
L-メチオニン(固形分100質量%、東京化成工業社製)
L-トレオニン(固形分100質量%、東京化成工業社製)
L-グリシン(固形分100質量%、東京化成工業社製)
L-アラニン(固形分100質量%、東京化成工業社製)
L-プロリン(固形分100質量%、東京化成工業社製)
L-アスパラギン酸(固形分100質量%、東京化成工業社製)
L-グルタミン酸(固形分100質量%、東京化成工業社製)
L-アスパラギン(固形分100質量%、東京化成工業社製)
L-グルタミン(固形分100質量%、東京化成工業社製)
L-アルギニン(固形分100質量%、東京化成工業社製)
L-システイン(固形分100質量%、東京化成工業社製)
L-セリン(固形分100質量%、東京化成工業社製)
L-シトルリン(固形分100質量%、東京化成工業社製)
ジグリシン(固形分100質量%、東京化成工業社製)
トリグリシン(固形分100質量%、東京化成工業社製)
ε-ポリリジン(固形分25質量%、JNC社製)
【0038】
<水蒸気バリア性コート剤の製造方法>
表1及び2の割合となるようにアニオン性バインダー樹脂、無機層状化合物、アミノ酸類、水性媒体を混合し、撹拌機で攪拌し実施例、比較例の水蒸気バリア性コート剤を製造した。
【0039】
<積層体の製造方法>
紙基材の一方の面上に、上記で得られた水蒸気バリア性コート剤を乾燥後塗布量が5g/m2となるように、バーコーターにて塗布後、熱風乾燥機を用いて60℃のドライヤー風にて乾燥して水蒸気バリア層を形成した。
【0040】
<評価方法>
<水蒸気バリア性>
上記で得られた積層体をJIS Z 0208-1976に準じて、水蒸気透過率(WVTR値、g/m2/day)を測定した。温湿度条件は、温度40±0.5℃、相対湿度90±2%とした。以下の「◎」、または「〇」を合格基準とした。
[評価基準]
◎:水蒸気透過率がアミノ酸を含有しない場合と比較して、50%以上減少した。
〇:水蒸気透過率がアミノ酸を含有しない場合と比較して、25%以上50%未満減少した。
△:水蒸気透過率がアミノ酸を含有しない場合と比較して、0%を超えて25%未満減少した。
×:水蒸気透過率がアミノ酸を含有しない場合と比較して、増加した。
具体的には、実施例1~25及び比較例5、6は、比較例1(636g/m2/day)と対比し、実施例26は、比較例2(517g/m2/day)と対比し、実施例27は、比較例3(120g/m2/day)と対比し、実施例28は、比較例4(230g/m2/day)と対比した。
【0041】
【0042】
【要約】
【課題】安全性が高く、水蒸気バリア性に優れる水蒸気バリア性コート剤及び積層体を提供すること。
【解決手段】アニオン性バインダー樹脂、アミノ酸類、無機層状化合物、及び水系媒体を含有する水蒸気バリア性コート剤であり、前記水蒸気バリア性コート剤に含まれる全固形分中、前記アミノ酸類の割合が0.5質量%以上40.0質量%以下であることを特徴とする水蒸気バリア性コート剤。
【選択図】なし