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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-15
(45)【発行日】2024-05-23
(54)【発明の名称】光走査装置および光走査方法
(51)【国際特許分類】
   G02B 26/10 20060101AFI20240516BHJP
   G02B 26/08 20060101ALI20240516BHJP
   B23K 26/082 20140101ALI20240516BHJP
【FI】
G02B26/10 C
G02B26/08 E
G02B26/10 101
B23K26/082
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2023524005
(86)(22)【出願日】2022-02-28
(86)【国際出願番号】 JP2022008108
(87)【国際公開番号】W WO2022249606
(87)【国際公開日】2022-12-01
【審査請求日】2023-09-28
(31)【優先権主張番号】P 2021087100
(32)【優先日】2021-05-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005186
【氏名又は名称】株式会社フジクラ
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】難波 年賢
(72)【発明者】
【氏名】奥 大輔
(72)【発明者】
【氏名】高橋 建次
【審査官】鈴木 俊光
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-013597(JP,A)
【文献】特開2011-170240(JP,A)
【文献】特開2014-217875(JP,A)
【文献】米国特許第4708420(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 26/08 - 26/10
B23K 26/082
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ光を反射するミラーと、
前記ミラーを載置し、指令波形に応じて変位するピエゾ素子によって前記ミラーの傾きを変化させるチルトステージと、
前記ピエゾ素子の変位を検出する変位センサと、
前記変位センサが検出した前記変位に応じて前記指令波形を補正する補正値を生成する補正値生成部と、
前記指令波形と前記補正値とを合成することによって合成波形を生成する合成波形生成部と、
前記合成波形にしたがって前記ピエゾ素子を駆動する駆動部と、を備え、
前記指令波形は、周期的に振動し、且つ、振幅中心に対して対称な波形であり、
前記補正値は、周期的に振動する前記変位の振幅中心を目標値に近づけるように定められている、
ことを特徴とする光走査装置。
【請求項2】
前記補正値生成部は、前記変位センサの出力の平均値を算出し、当該平均値を前記振幅中心とする、
ことを特徴とする請求項1に記載の光走査装置。
【請求項3】
前記ピエゾ素子は、第1方向に対する前記ミラーの傾きを変化させる第1ピエゾ素子と、第2方向に対する前記ミラーの傾きを変化させる第2ピエゾ素子と、を含み、
前記チルトステージは、前記第1ピエゾ素子と、前記第2方向に対する前記ミラーの傾きを変化させる第2ピエゾ素子と、を備えた2軸チルトステージであり、
前記変位センサは、前記第1ピエゾ素子の変位である第1変位を検出する第1変位センサと、前記第2ピエゾ素子の変位である第2変位を検出する第2変位センサとを含み、
前記指令波形は、前記第1ピエゾ素子を制御するための第1指令波形であって、周期的に振動し、且つ、振幅中心に対して対称な波形である第1指令波形と、前記第2ピエゾ素子を制御するための第2指令波形であって、周期的に振動し、且つ、振幅中心に対して対称な波形である第2指令波形と、を含み、
前記補正値生成部は、周期的に振動する前記第1変位の振幅中心が第1目標値に近づくように第1補正値を生成し、且つ、周期的に振動する前記第2変位の振幅中心が第2目標値に近づくように第2補正値を生成し、
前記駆動部は、前記第1指令波形と前記第1補正値との和である第1合成波形にしたがって前記第1ピエゾ素子を駆動し、且つ、前記第2指令波形と前記第2補正値との和である第2合成波形にしたがって前記第2ピエゾ素子を駆動する、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の光走査装置。
【請求項4】
レーザ光を反射するミラーと、前記ミラーを載置し、指令波形に応じて変位するピエゾ素子によって前記ミラーの傾きを変化させるチルトステージと、前記ピエゾ素子の変位を検出する変位センサと、を用いた光走査方法であって、
前記変位センサが検出した前記変位に応じて前記指令波形を補正する補正値を生成する補正値生成工程と、
前記指令波形と前記補正値とを合成することによって合成波形を生成する合成波形生成工程と、
前記合成波形にしたがって前記ピエゾ素子を駆動する駆動工程と、を含み、
前記指令波形は、周期的に振動し、且つ、振幅中心に対して対称な波形であり、
前記補正値は、周期的に振動する前記変位の振幅中心を目標値に近づけるように定められている、
ことを特徴とする光走査方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
レーザ光によって対象物を走査する光走査装置および光走査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
レーザ加工の分野では、レーザ光によって対象物を走査する光走査装置が広く利用されている。例えば、特許文献1では、ピエゾ素子を用いた光走査装置の利用が検討されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】日本国公開特許公報特開2014-217875号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ピエゾ素子は、印加される電圧(以下において、印加電圧と称する)に応じて体積が変化するので、印加電圧に応じてステージの位置を変位させることができる。したがって、チルトステージは、印加電圧を表す指令波形にしたがって、所定の方向に対してミラーを傾ける(例えば、x軸を回転軸としてミラーを微小回転させる)機能を有している。なお、印加電圧に応じて体積が変化するピエゾ素子の代わりに、印加される電流(すなわち印加電流)に応じて体積が変化する素子を用いてもよい。
【0005】
ところで、ピエゾ素子は、ヒステリシスを有することが知られている。ヒステリシスに起因して、ピエゾ素子における印加電圧と変位との関係は、比例関係ではなく、且つ、印加電圧を変化させる方向に依存して変位が変化するオープンループな曲線を描く。また、ヒステリシスに起因して、ピエゾ素子の変位は、経時的にドリフトする。そのため、ピエゾ素子を用いたチルトステージにおいてミラーの傾きを精密に制御したい場合には、変位を連続的に検出する変位センサを用いたフィードバック制御を採用する。
【0006】
しかしながら、このようなチルトステージを用いた光走査装置においては、以下のような問題があった。
【0007】
すなわち、変位を連続的に検出する変位センサを用いたフィードバック制御では、常に変位を検出し、実際の変位を所望の変位に近づけるように印加電圧を補正し続ける。そのため、ピエゾ素子を用いた光走査装置においても走査の高速化に限界があった。印加電圧を補正する処理の所要時間が走査の高速化を律速するためである。所要時間を短縮すればするほど走査を高速化することができる。しかし、所要時間の短縮には限界があるため、走査の高速化にも限界がある。
【0008】
本発明の一態様は、上記の問題に鑑みてなされたものであり、ピエゾ素子の変位に生じ得る経時的なドリフトを抑制しつつ、走査を高速化できる光走査装置または光走査方法を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る光走査装置は、レーザ光を反射するミラーと、前記ミラーを載置し、指令波形に応じて変位するピエゾ素子によって前記ミラーの傾きを変化させるチルトステージと、前記ピエゾ素子の変位を検出する変位センサと、前記変位センサが検出した前記変位に応じて前記指令波形を補正する補正値を生成する補正値生成部と、前記指令波形と前記補正値とを合成することによって合成波形を生成する合成波形生成部と、前記合成波形にしたがって前記ピエゾ素子を駆動する駆動部と、を備え、前記指令波形は、周期的に振動し、且つ、振幅中心に対して対称な波形であり、前記補正値は、周期的に振動する前記変位の振幅中心を目標値に近づけるように定められている。
【0010】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る光走査方法は、レーザ光を反射するミラーと、前記ミラーを載置し、指令波形に応じて変位するピエゾ素子によって前記ミラーの傾きを変化させるチルトステージと、前記ピエゾ素子の変位を検出する変位センサと、を用いた光走査方法である。本光走査方法は、前記変位センサが検出した前記変位に応じて前記指令波形を補正する補正値を生成する補正値生成工程と、前記指令波形と前記補正値との和である合成波形にしたがって前記ピエゾ素子を駆動する駆動工程と、を含み、前記指令波形は、周期的に振動し、且つ、振幅中心に対して対称な波形であり、前記補正値は、周期的に振動する前記変位の振幅中心を目標値に近づけるように定められている。
【発明の効果】
【0011】
本発明の一態様によれば、ピエゾ素子の変位に生じ得る経時的なドリフトを抑制しつつ、走査を高速化できる光走査装置または光走査方法を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の一態様に係る光走査装置の構成を示すブロック図である。
図2図1に示す光走査装置が備えている第1補正値生成部の構成を示すブロック図である。
図3図1に示す光走査装置における指令波形を示すグラフである。
図4図1に示す光走査装置が備えているミラーの動作を説明する模式図である。
図5】本発明の一実施例およびその比較例における振幅中心の指令振幅依存性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の一実施形態に係る光走査装置1の基本的構成について、図1図4を参照して説明する。図1は、光走査装置1の構成を示すブロック図である。図2は、光走査装置1が備えている第1補正値生成部13aの構成を示すブロック図である。図3は、光走査装置1における指令波形を示すグラフである。図4は、光走査装置1が備えているミラー11の動作を説明する模式図である。なお、図4においては、光走査装置1が備えている2軸チルトステージ12の図示を省略している。
【0014】
(光走査装置の基本的構成)
光走査装置1は、基本的構成として、ミラー11と、2軸チルトステージ12と、第1補正値生成部13aと、第2補正値生成部13bと、第1合成波形生成部14aと、第2合成波形生成部14bと、駆動部15と、を備えている。光走査装置1は、例えば、レーザ加工機に内蔵され、レーザ光の照射点を対象物上で移動させるために利用される。
【0015】
ミラー11は、レーザ光を反射するための構成である。例えば、ミラー11にて反射されたレーザ光は、直接、対象物に照射される。或いは、ミラー11にて反射されたレーザ光は、ガルバノスキャナを介して、対象物に照射される。
【0016】
2軸チルトステージ12は、ピエゾ素子を用いてミラー11の傾きを変化させるための構成である。2軸チルトステージ12は、第1柱状ピエゾ素子と、第2柱状ピエゾ素子と、第1変位センサ12aと、第2変位センサ12bと、を備えている。なお、図1においては、第1柱状ピエゾ素子および第2柱状ピエゾ素子の図示を省略している。
【0017】
本実施形態においては、2軸チルトステージ12として、(1)第1柱状ピエゾ素子の伸縮によって、ミラー11を載置するステージをx軸を回転軸として微小回転させること、及び、(2)第2柱状ピエゾ素子の伸縮によって、ミラー11を載置するステージをy軸を回転軸として微小回転させることが可能な2軸一体ピエゾステージを用いている。第1柱状ピエゾ素子および第2柱状ピエゾ素子の各々が伸縮することによって、第1柱状ピエゾ素子および第2柱状ピエゾ素子の各々の高さが変化する。以下において、第1柱状ピエゾ素子の高さの変化量を第1変位とよび、第2柱状ピエゾ素子の高さの変化量を第2変位とよぶ。なお、第1柱状ピエゾ素子および第2柱状ピエゾ素子の各々は、それぞれ、第1ピエゾ素子および第2ピエゾ素子の一例である。
【0018】
また、本実施形態において、第1変位センサ12aは、第1柱状ピエゾ素子における第1変位を検出し、第2変位センサ12bは、第2柱状ピエゾ素子における第2変位を検出する。
【0019】
2軸チルトステージ12は、例えば、ミラー11により反射されたレーザ光の照射点が対象物上で円軌道を描くようにミラー11の傾きを変化させる。この場合、対象物の並進移動、又は、ガルバノスキャナによるレーザ光の照射点の並進移動を組み合わせることによって、レーザ光の照射点が対象物上で螺旋軌道を描くウォブリングを実現することができる。
【0020】
なお、2軸チルトステージ12のステージをx軸を回転軸Aとして微小回転させることを、本明細書においては、2軸チルトステージ12を第1方向に対して傾ける、とも記載する。また、x軸を回転軸Aとするステージの第1基準位置Pからの回転角のことを、本明細書においては、2軸チルトステージ12の第1方向に対する傾きとも記載する(図3参照)。なお、第1基準位置Pは、第1柱状ピエゾ素子に印加される電圧が0Vである場合におけるステージの第1方向における位置である。すなわち、第1基準位置Pは、第1変位がゼロである場合におけるステージの第1方向における位置である。
【0021】
一方、y軸を回転軸としてステージを微小回転させることを、本明細書においては、2軸チルトステージ12を第2方向に傾ける、とも記載する。また、y軸を回転軸とするステージの第2基準位置からの回転角のことを、本明細書においては、2軸チルトステージ12の第2方向に対する傾きとも記載する。ここでは、y軸を回転軸としてステージを微小回転させる場合の回転軸と、第2基準位置とについては図示を省略するが、x軸を回転軸としてステージを微小回転させる場合の回転軸Aと、第1基準位置Pと同様である。なお、第2基準位置は、第2柱状ピエゾ素子に印加される電圧が0Vである場合におけるステージの第1方向における位置である。すなわち、第2基準位置は、第2変位がゼロである場合におけるステージの第1方向における位置である。
【0022】
(指令波形および2軸チルトステージの動作)
指令波形は、ピエゾ素子の変位を制御するために用いられる制御信号の波形である。ピエゾ素子は、印加される電圧に応じて変位するため、指令波形は、電圧信号の波形であることが好ましい。
【0023】
上述したように、2軸チルトステージ12は、2軸チルトステージ12を第1方向に対して傾けるために用いる第1柱状ピエゾ素子と、2軸チルトステージ12を第2方向に対して傾けるために用いる第2柱状ピエゾ素子と、備えている。したがって、指令波形は、第1柱状ピエゾ素子の第1変位を制御するために用いられる第1指令波形と、第2柱状ピエゾ素子の第2変位を制御するために用いられる第2指令波形とを含む。以下では、第1指令波形を例として用いて、2軸チルトステージ12を第1方向に対して傾ける場合のミラー11の動作について図3および図4を参照して説明する。第2指令波形を用いて、2軸チルトステージ12を第2方向に対して傾ける場合のミラー11の動作は、回転軸がx軸とy軸とで異なる以外は、第1指令波形を例として用いて、2軸チルトステージ12を第1方向に対して傾ける場合のミラー11の動作と同様である。したがって、ここでは、第2指令波形を用いて、2軸チルトステージ12を第2方向に対して傾ける場合のミラー11の動作の詳しい説明を省略する。
【0024】
図3に示すように、第1指令波形は、時間変化する正の電圧により表される電圧信号の波形である。ウォブル走査を実施するために、第1指令波形は、周期的に振動し、且つ、振幅中心電圧Vに対して対称な波形を有する。振幅中心電圧Vは、指令波形が電圧信号の波形である場合における振幅中心である。本実施形態において、第1指令波形は、周波数fと、振幅中心電圧Vと、振幅Vとにより規定される正弦波の形状を有する。第1指令波形の最大電圧VW+および最小電圧VWーの各々は、それぞれ、VW+=V+V/2、および、VWー=V-V/2で与えられる。
【0025】
第1柱状ピエゾ素子は、印加される電圧が0Vである場合、すなわち、第1指令波形がオフである場合、第1変位がゼロである。その結果、図4に示すように、2軸チルトステージ12の第1方向に対する傾きは第1基準位置Pをとり、ミラー11の反射面は、y軸と平行な状態をとる。
【0026】
また、第1柱状ピエゾ素子は、正電圧を印加された場合、その正電圧に応じた第1変位を示す。その結果、図4に示すように、2軸チルトステージ12は、第1方向(図4においては反時計回りの方向)に対して傾く。
【0027】
図4においては、(1)振幅中心電圧Vが印加された場合のミラー11の位置を振幅中心位置Pで表し、(2)最大電圧VW+が印加された場合のミラー11の位置を振幅最大位置PW+で表し、(3)最小電圧VWーが印加された場合のミラー11の位置を振幅最小位置PWーで表している。また、図4においては、振幅中心位置Pにおけるミラー11と第1基準位置Pにおけるミラー11とのなす角を角θと表す。また、振幅最大位置PW+におけるミラー11と振幅中心位置Pにおけるミラー11とのなす角を角θと表す。
【0028】
上述したように、第1指令波形は、正弦波であり、振幅中心電圧Vに対して対称な波形を有する。したがって、振幅最大位置PW+と振幅最小位置PW-とは、振幅中心位置Pに対して対称である。結果として、振幅最小位置PW-におけるミラー11と振幅中心位置Pにおけるミラー11とのなす角も角θとなる。
【0029】
ところで、第1柱状ピエゾ素子は、ヒステリシスを有する。そのため、第1柱状ピエゾ素子に同じ電圧(例えば、振幅中心電圧V)を印加した場合であっても、角θの値が異なる場合が多い。このように、角θの値がばらつくことによって、第1柱状ピエゾ素子に同じ電圧を印加した場合であってもミラー11により反射されたレーザ光の照射点の位置がばらつく。光走査装置1においては、第1補正値生成部13aが生成する第1補正値を用いて第1指令波形を補正することによって、この照射点のばらつきを抑制することができる。なお、第1補正値生成部13aの詳しい機能については、図2を参照して後述する。
【0030】
(指令波形の補正)
第1変位センサ12aは、時間的に変化する第1変位を表す第1モニタ波形を生成する。
【0031】
第2変位センサ12bは、時間的に変化する第2変位を表す第2モニタ波形を生成する。
【0032】
第1補正値生成部13aは、2軸チルトステージ12の第1方向に対する傾きを制御するための第1モニタ波形および第1目標値に基づいて第1補正値を生成する。第1補正値は、周期的に振動する第1変位の振幅中心(ひいては第1方向における振幅中心位置P)に生じ得る経時的なドリフトを補正するための補正値であり、第1変位の振幅中心を第1目標値に近づけるための補正値である。第1補正値は、例えば、第1目標値と第1変位の振幅中心との差分(第1目標値-第1変位の振幅中心)を算出することにより得られる。第1変位の振幅中心が第1目標値よりも小さい場合、第1補正値は正となり、第1変位の振幅中心が第1目標値よりも大きい場合、第1補正値は負となる。第1補正値は、第1合成波形生成部14aに提供される。
【0033】
第1補正値生成部13aの構成例を図2に示す。図2に示すように、第1補正値生成部13aの構成例は、ローパスフィルタ(LPF)13a1と、平均化部13a2と、比較部13a3と、PID制御部13a4と、リミッタ13a5とを備えている。
【0034】
LPF13a1は、所定の中心周波数と、所定の帯域とにより規定される通過帯域を有する。LPF13a1は、第1モニタ波形のうち、通過帯域に含まれる成分を信号として通過させ、それ以外の成分をノイズとして遮断する。本実施形態において、LPF13a1の通過帯域は、第1指令波形の周波数fを含んでいる。LPF13a1を通過した第1モニタ波形は、平均化部13a2に供給される。
【0035】
平均化部13a2は、第1モニタ波形のうちLPF13a1が通過させた成分を平均化することによって、第1変位の振幅中心を算出する第1変位の振幅中心は、比較部13a3に供給される。
【0036】
比較部13a3は、第1目標値と第1変位の振幅中心との差分を算出することによって第1補正値を生成する。本実施形態においては、比較部13a3として減算回路を用いている。第1目標値および第1補正値は、PID制御部13a4に供給される。
【0037】
PID制御部13a4は、第1変位の振幅中心が第1目標値に近づけるために(より好ましくは一致させるために)、第1補正値をPID(Proportional-Integral-Differential)制御する。PID制御された第1補正値は、リミッタ13a5に供給される。
【0038】
リミッタ13a5においては、上限値および下限値が定められている。リミッタ13a5は、PID制御部13a4から供給された第1補正値と、上限値および下限値とを参照し、(1)第1補正値が下限値以上かつ上限値未満である場合には第1補正値を第1合成波形生成部14aに供給し、(2)第1補正値が下限値未満である場合には第1補正値として下限値を第1合成波形生成部14aに供給し、(3)第1補正値が上限値以上である場合には第1補正値として上限値を第1合成波形生成部14aに供給する。
【0039】
なお、第1補正値生成部13aにおいて、PID制御部13a4およびリミッタ13a5は省略可能である。
【0040】
第1合成波形生成部14aは、第1指令波形と第1補正値とを合成することによって、第1合成波形を生成するための構成である。本実施形態においては、第1合成波形生成部14aとして、加算回路を用いている。第1合成波形生成部14aにて生成された第1合成波形は、駆動部15に提供される。
【0041】
第2補正値生成部13bは、2軸チルトステージ12の第1方向に対する傾きを制御するための第2モニタ波形および第2目標値に基づいて第2補正値を生成する。第2補正値は、周期的に振動する第2変位の振幅中心(ひいては第2方向における振幅中心位置P)に生じ得る経時的なドリフトを補正するための補正値であり、第2変位の振幅中心を第2目標値に近づけるための補正値である。第2補正値は、第1補正値と同様に、例えば、第2目標値と第2変位の振幅中心との差分(第2目標値-第2変位の振幅中心)を算出することにより得られる。第2補正値は、第2合成波形生成部14bに提供される。
【0042】
第2補正値生成部13bの構成例は、図2に示した第1補正値生成部13aの構成例と同様に構成することができる。したがって、ここでは、第2補正値生成部13bの構成例の詳しい説明を省略する。
【0043】
第2合成波形生成部14bは、第2指令波形と第2補正値とを合成することによって、第2合成波形を生成するための構成である。本実施形態においては、第2合成波形生成部14bとして、加算回路を用いている。第2合成波形生成部14bにて生成された第2合成波形は、駆動部15に供給される。
【0044】
駆動部15は、第1合成波形に従って2軸チルトステージ12を駆動することにより、2軸チルトステージ12の第1方向に対する傾きを制御するための構成である。同様に、駆動部15は、第2合成波形に従って2軸チルトステージ12を駆動することにより、2軸チルトステージ12の第2方向に対する傾きを制御するための構成である。
【0045】
上述したように、第1補正値生成部13aが生成する第1補正値は、第1変位の振幅中心を第1目標値に近づけるように定められている。第1指令波形と第1補正値とを合成することによって得られる第1合成波形に従って駆動部15が2軸チルトステージ12の第1方向に対する傾きを制御することによって、第1変位の振幅中心を第1目標値に近づけることができる。同様に、第2補正値生成部13bが生成する第2補正値は、第2変位の振幅中心を第2目標値に近づけるように定められている。第2指令波形と第2補正値とを合成することによって得られる第2合成波形を用いて2軸チルトステージ12の第2方向に対する傾きを制御することによって、第2変位の振幅中心を第2目標値に近づけることができる。
【0046】
ピエゾ素子の振幅中心において生じ得る経時的なドリフトは、指令波形の1周期と比較して遅い現象である。これは以下の理由による。すなわち、フィードバック制御(補正)は制御対象の変化に対して、十分に速い周期(頻度)で制御対象の角度や位置をサンプリングし、目標値と一致するように補正値を出力する必要がある。ここで、ピエゾ素子のドリフトは徐々に変化する(例えば、10分で0.1mrad変化)為、その変化に間に合う周期でフィードバック制御を行えばドリフトを抑制できる(例えば10s周期で補正すればフィードバック制御が間に合う。一方、指令波形が振幅0.1mrad、周波数1000Hzの正弦波の条件にて角度フィードバック制御してピエゾ素子を駆動する場合(角度補正あり)、指令波形の周期1msよりも十分に速い周期でフィードバック制御を行う必要がある(例えば1μs以下の周期で補正)。このようにドリフトの周期は指令波形の周期より十分に遅い為、ドリフトの補正頻度は指令波形の補正頻度に比べて非常に低い(例えば、ドリフトの補正頻度は指令波形の補正頻度の1/10000000以下)。このことから、指令波形の数百~数千周期に1回、ドリフトの補正を行えばドリフトを抑制できる。そのため、第1補正値生成部13aが第1補正値を生成する頻度を第1指令波形の周波数に大きく依存せずに定めることができる。また、第2補正値生成部13bが第2補正値を生成する頻度を指令波形の周波数に大きく依存せずに定めることができる。したがって、光走査装置1は、ピエゾ素子の変位に生じ得る経時的なドリフトを抑制しつつ、走査を高速化することができる。
【0047】
(基本的構成により得られる効果)
以上のように、光走査装置1は、レーザ光を反射するミラー11と、ミラー11を載置し、指令波形(第1指令波形,第2指令波形)に応じて変位するピエゾ素子(第1柱状ピエゾ素子および第2柱状ピエゾ素子)によってミラー11の傾きを変化させるチルトステージ(2軸チルトステージ12)と、ピエゾ素子(第1柱状ピエゾ素子および第2柱状ピエゾ素子)の変位(第1変位,第2変位)を検出する変位センサ(第1変位センサ12a,第2変位センサ12b)と、変位センサ(第1変位センサ12a,第2変位センサ12b)が検出した変位(第1変位,第2変位)に応じて指令波形(第1指令波形,第2指令波形)を補正する補正値(第1補正値,第2補正値)を生成する補正値生成部(第1補正値生成部13a,第2補正値生成部13b)と、指令波形(第1指令波形,第2指令波形)と補正値(第1補正値,第2補正値)とを合成することによって合成波形(第1合成波形,第2合成波形)を生成する合成波形生成部(第1合成波形生成部14a,第2合成波形生成部14b)と、合成波形(第1合成波形,第2合成波形)にしたがってピエゾ素子(第1柱状ピエゾ素子および第2柱状ピエゾ素子)を駆動する駆動部15と、を備え、指令波形(第1指令波形,第2指令波形)は、周期的に振動し、且つ、振幅中心に対して対称な波形であり、補正値生成部(第1補正値生成部13a,第2補正値生成部13b)は、周期的に振動する前記変位の振幅中心を目標値(第1目標値,第2目標値)に近づけるように補正値(第1補正値,第2補正値)を定める。
【0048】
補正値生成部(第1補正値生成部13a,第2補正値生成部13b)は、周期的に振動する前記変位の振幅中心を算出したうえで、当該振幅中心を用いて補正値(第1補正値,第2補正値)を生成する。ピエゾ素子(第1柱状ピエゾ素子および第2柱状ピエゾ素子)の振幅中心において生じ得る経時的なドリフトは、指令波形(第1指令波形,第2指令波形)の1周期と比較して遅い現象である。そのため、光走査装置1においては、補正値生成部(第1補正値生成部13a,第2補正値生成部13b)が補正値(第1補正値,第2補正値)を生成する頻度を指令波形(第1指令波形,第2指令波形)の周波数fに大きく依存せずに定めることができる。したがって、光走査装置1は、ピエゾ素子(第1柱状ピエゾ素子および第2柱状ピエゾ素子)の変位に生じ得る経時的なドリフトを抑制しつつ、ウォブル走査の動作周波数をより高めることができる。すなわち、光走査装置1は、ドリフトを抑制しつつ走査を高速化することができる。
【0049】
また、光走査装置1において、補正値生成部(第1補正値生成部13a,第2補正値生成部13b)は、変位センサ(第1変位センサ12a,第2変位センサ12b)の出力の平均値を算出し、当該平均値を前記振幅中心とする、という構成が採用されている。
【0050】
このように、変位(第1変位,第2変位)の振幅中心は、例えば、変位センサ(第1変位センサ12a,第2変位センサ12b)の出力の平均値を算出することによって得ることができる。上述したように、ピエゾ素子(第1柱状ピエゾ素子および第2柱状ピエゾ素子)の振幅中心において生じ得る経時的なドリフトは、指令波形(第1指令波形,第2指令波形)の1周期と比較して遅い現象である。そのため、変位センサ(第1変位センサ12a,第2変位センサ12b)の出力の平均値を振幅中心として用い、目標値と振幅中心との差分を取ることによって補正値を算出できるので、ピエゾ素子(第1柱状ピエゾ素子および第2柱状ピエゾ素子)の経時的なドリフトを容易に抑制することができる。
【0051】
また、光走査装置1において、補正値生成部(第1補正値生成部13a,第2補正値生成部13b)は、PID制御を用いて補正値(第1補正値,第2補正値)を生成する、という構成が採用されている。
【0052】
このように、振幅中心を目標値に近づけるフィードバック制御としては、PID制御が好適である。
【0053】
また、光走査装置1において、ピエゾ素子は、第1方向に対する前記ミラーの傾きを変化させる第1ピエゾ素子と、第2方向に対する前記ミラーの傾きを変化させる第2ピエゾ素子と、を含み、チルトステージ(2軸チルトステージ12)は、前記第1ピエゾ素子(第1柱状ピエゾ素子)と、前記第2ピエゾ素子(第2柱状ピエゾ素子)と、を備えた2軸チルトステージであり、変位センサ(第1変位センサ12a,第2変位センサ12b)は、第1ピエゾ素子(第1柱状ピエゾ素子)の変位である第1変位を検出する第1変位センサ12aと、第2ピエゾ素子(第2柱状ピエゾ素子)の変位である第2変位を検出する第2変位センサ12bとを含み、指令波形は、前記第1ピエゾ素子を制御するための第1指令波形であって、周期的に振動し、且つ、振幅中心に対して対称な波形である第1指令波形と、前記第2ピエゾ素子を制御するための第2指令波形であって、周期的に振動し、且つ、振幅中心に対して対称な波形である第2指令波形と、を含み、補正値生成部(第1補正値生成部13a,第2補正値生成部13b)は、周期的に振動する前記第1変位の振幅中心が第1目標値に近づくように第1補正値を生成し、且つ、周期的に振動する前記第2変位の振幅中心が第2目標値に近づくように第2補正値を生成し、駆動部15は、第1指令波形と第1補正値との和である第1合成波形にしたがって第1ピエゾ素子(第1柱状ピエゾ素子)を駆動し、且つ、第2指令波形と前記第2補正値との和である第2合成波形にしたがって第2ピエゾ素子(第2柱状ピエゾ素子)を駆動する、という構成が採用されている。
【0054】
上記の構成によれば、レーザ光の照射点を独立した2つの方向である第1方向及び第2方向に沿って走査することができる。そのため、対象物上に描く照射点の軌道を設定する場合の自由度を高めることができる。光走査装置1は、例えば、対象物上に円軌道または螺旋軌道を描くことができる。また、上記の構成によれば、第1ピエゾ素子および第2ピエゾ素子の変位に生じ得る経時的なドリフトを抑制しつつ、走査を高速化し得る。
【0055】
また、光走査装置1においては、指令波形(第1指令波形,第2指令波形)の周波数が1000Hz以上である、という構成が採用されている。
【0056】
光走査装置1においては、補正値生成部(第1補正値生成部13a,第2補正値生成部13b)が補正値(第1補正値,第2補正値)を生成する頻度を指令波形(第1指令波形,第2指令波形)の周波数に大きく依存せずに定めることができる。したがって、光走査装置1は、指令波形(第1指令波形,第2指令波形)の周波数が1000Hz以上の場合に効果的である。
【0057】
(光走査装置の変形例)
本実施形態では、光走査装置1が2つのピエゾ素子である第1柱状ピエゾ素子と第2柱状ピエゾ素子とを備えている場合について説明した。ただし、光走査装置1においては、二次元の描画(例えば円描画)ではなく一次元の描画(例えば直線描画)の場合、第2柱状ピエゾ素子を省略することができる。
【0058】
光走査装置1において、第2柱状ピエゾ素子を省略した場合(第1柱状ピエゾ素子のみを備えている場合)、光走査装置1は、2軸チルトステージ12を第1方向に対してのみ傾けることができる。したがって、光走査装置1は、対象物上においてレーザ光の照射点を第1方向に対応した方向に沿って走査することができる。そのうえで、ガルバノスキャナを用いて、第1方向に対応した方向に交わる方向(好ましくは直交する方向)に照射点を並進移動させることによって、照射点が対象物上でジグザグな軌道を描くウォブリングを実現することができる。
【0059】
(光走査装置の追加的構成)
光走査装置1の追加的構成について、引き続き図1を参照して説明する。光走査装置1は、上述した基本的構成に加えて、第1指令波形生成部16aと、第2指令波形生成部16bと、制御部17と、を、追加的構成として備えている。
【0060】
第1指令波形生成部16aは、第1指令波形を生成するための構成である。例えば、第1指令波形生成部16aは、第1指令波形として、制御部17により指定された周波数f、振幅中心電圧V、および振幅Vを有する正弦波を生成する。第1指令波形生成部16aにて生成された第1指令波形は、第1合成波形生成部14aに供給される。
【0061】
第2指令波形生成部16bは、第2指令波形を生成するための構成である。例えば、第2指令波形生成部16bは、第2指令波形として、制御部17により指定された周波数f、振幅中心電圧V、および振幅Vを有する正弦波を生成する。第2指令波形生成部16bにて生成された第2指令波形は、第2合成波形生成部14bに提供される。
【0062】
制御部17は、第1変位センサ12aおよび第2変位センサ12bの各々より、それぞれ、第1モニタ波形および第2モニタ波形を取得する。また、制御部17は、ユーザが選択したウォブル走査に応じて、第1指令波形および第2指令波形の各々における周波数f、振幅中心電圧V、および振幅Vと、第1目標値と、第2目標値と、第1指令波形と第2指令波形との位相差と、を生成する。例えば、第1指令波形および第2指令波形の各々における周波数f、振幅中心電圧V、および振幅Vが等しく、第1指令波形と第2指令波形との位相差がπ/2である場合、レーザ光の照射点が対象物上で円軌道を描くことができる。この場合、例えば、ガルバノスキャナによるレーザ光の照射点の並進移動を組み合わせることによって、レーザ光の照射点が対象物上で螺旋軌道を描くウォブリングを実現することができる。
【0063】
第1指令波形の周波数f、振幅中心電圧V、および振幅Vは、第1指令波形生成部16aに供給され、第1モニタ波形および第1目標値は、第1補正値生成部13aに供給される。また、第2指令波形の周波数f、振幅中心電圧V、および振幅Vは、第2指令波形生成部16bに供給され、第2モニタ波形および第2目標値は、第2補正値生成部13bに供給される。
【0064】
〔実施例〕
光走査装置1の実施例と、当該実施例に対する比較例とについて、以下に説明する。本実施例では、第1指令波形の周波数f、振幅中心電圧V、および振幅Vとして、それぞれ、f=3000Hz、V=3.59V、およびV=0.68Vを採用した。V=3.59Vは、第1目標値であるθ=1.3mrad.に対応し、V=0.68Vは、θ=0.2mrad.に対応する。
【0065】
なお、比較例は、本実施例をベースにして、第1補正値生成部13a、第1合成波形生成部14a、を省略することによって得られた。すなわち、比較例においては、第1指令波形に対する補正を実施していない。
【0066】
光走査装置1の実施例および比較例の各々を用いて、10分間にわたって第1ピエゾ素子のみを連続動作させてウォブル走査を実施した結果であって、第1方向に対する傾きの結果を、以下の表1に示す。なお、比較例の振幅中心電圧Vは、V=3.40Vである。
【表1】
表1を参照すれば、本実施例は、比較例と比較して、周波数が3000Hzであるウォブル走査を10分間にわたって実施した場合に、ピエゾ素子の振幅中心である角θにおいて生じる経時的なドリフトを抑制できることが分かった。なお、従来の角度フィードバック制御を用いた光走査装置においては、ウォブル走査の周波数が高くなると(例えば1000Hzを超えると)ウォブル走査の周波数に角度フィードバック制御が追いつかなくなり、ウォブル走査が乱れる。本実施例においては、角度フィードバック制御を用いていないので、3000Hzのように高い周波数であっても、ウォブル走査が乱れることはなかった。
【0067】
次に、本実施例および比較例の各々において、第2指令波形の振幅Vとして、V=0.70V,2.11V,3.51Vと変化させた場合について説明する。V=0.70V,2.11V,3.51Vの各々は、それぞれ、θ=0.2mrad,0.6mrad,1.0mrad.に対応する。また本実施例では、第2指令波形の周波数f、振幅中心電圧Vcとして、それぞれ、f=3000Hz、Vc=3.50Vを採用した。Vc=3.50Vは、第2目標値であるθc=1.225mrad.に対応する。このような光走査装置1の実施例および比較例の各々を用いて、ウォブル走査を実施した結果であって、θwを順次0.2mrad,0.6mrad,1.0mradと変化させたときの第2方向に対する傾きの結果を図5に示す。なお、比較例の振幅中心電圧Vは、V=3.40Vである。
【0068】
図5を参照すれば、比較例においては、(1)θ=0.2mrad.のとき、θ=1.185mrad.であり、(2)θ=0.6mrad.のとき、θ=1.225mrad.であり、(3)θ=1.0mrad.のとき、θ=1.257mrad.であった。その一方で、本実施例においては、角θがθ=0.2mrad,0.6mrad,1.0mrad.の何れの場合においても、10分後の角θがθ=1.225mrad.でほぼ変化しないことが分かった。
【0069】
図5の結果より、本実施例は、比較例と比較して、角θwを変化させながら周波数が3000Hzであるウォブル走査を実施した場合に、ピエゾ素子の振幅中心である角θにおける角θに依存するドリフトを抑制できることが分かった。
【0070】
〔付記事項〕
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【0071】
また、上述した実施形態では、本発明を装置(光走査装置)として表現した。ただし、本発明は、方法(光走査方法)としても表現することができる。すなわち、「レーザ光を反射するミラーと、前記ミラーを載置し、指令波形に応じて変位するピエゾ素子によって前記ミラーの傾きを変化させるチルトステージと、前記ピエゾ素子の変位を検出する変位センサと、を用いた光走査方法であって、前記変位センサが検出した前記変位に応じて前記指令波形を補正する補正値を生成する補正値生成工程と、前記指令波形と前記補正値とを合成することによって合成波形を生成する合成波形生成工程と、前記合成波形にしたがって前記ピエゾ素子を駆動する駆動工程と、を含み、前記指令波形は、周期的に振動し、且つ、振幅中心に対して対称な波形であり、前記補正値は、周期的に振動する前記変位の振幅中心を目標値に近づけるように補正値を生成する、ことを特徴とする光走査方法」も本発明の範疇に含まれる。
【0072】
〔まとめ〕
本発明の第1の態様に係る光走査装置は、レーザ光を反射するミラーと、前記ミラーを載置し、指令波形に応じて変位するピエゾ素子によって前記ミラーの傾きを変化させるチルトステージと、前記ピエゾ素子の変位を検出する変位センサと、前記変位センサが検出した前記変位に応じて前記指令波形を補正する補正値を生成する補正値生成部と、前記指令波形と前記補正値とを合成することによって合成波形を生成する合成波形生成部と、前記合成波形にしたがって前記ピエゾ素子を駆動する駆動部と、を備え、前記指令波形は、周期的に振動し、且つ、振幅中心に対して対称な波形であり、前記補正値は、周期的に振動する前記変位の振幅中心を目標値に近づけるように定められている。
【0073】
上記の構成によれば、前記補正値生成部は、周期的に振動する前記変位の振幅中心を算出したうえで、当該振幅中心を用いて補正値を生成する。ピエゾ素子の振幅中心において生じ得る経時的なドリフトは、指令波形の1周期と比較して長い時間を掛けて生じ得る現象である。そのため、本光走査装置においては、指令波形をリアルタイムで補正し続けなくてもよく、ドリフトが生じ得る周期に応じた頻度で指令波形を補正すればよい。言い替えれば、前記補正値生成部が補正値を生成する頻度を指令波形の周波数に大きく依存せずに定めることができる。したがって、本光走査装置は、ピエゾ素子の変位に生じ得る経時的なドリフトを抑制しつつ、走査を高速化することができる。
【0074】
本発明の第2の態様に係る光走査装置においては、第1の態様に加えて、前記補正値生成部は、前記変位センサの出力の平均値を算出し、当該平均値を前記振幅中心とする、という構成が採用されている。
【0075】
このように、ピエゾ素子の変位の振幅中心は、例えば、変位センサの出力の平均値を算出することによって得ることができる。上述したように、ピエゾ素子の振幅中心において生じ得る経時的なドリフトは、指令波形の1周期と比較して遅い現象である。そのため、変位センサの出力の平均値を振幅中心として用い、目標値と振幅中心との差分を取ることによって補正値を算出できるので、ピエゾ素子の経時的なドリフトを容易に抑制することができる。
【0076】
本発明の第3の態様に係る光走査装置においては、第1の態様または第2の態様に加えて、前記ピエゾ素子は、第1方向に対する前記ミラーの傾きを変化させる第1ピエゾ素子と、第2方向に対する前記ミラーの傾きを変化させる第2ピエゾ素子と、を含み、前記チルトステージは、前記第1ピエゾ素子と、前記第2ピエゾ素子と、を備えた2軸チルトステージであり、前記変位センサは、前記第1ピエゾ素子の変位である第1変位を検出する第1変位センサと、前記第2ピエゾ素子の変位である第2変位を検出する第2変位センサとを含み、前記指令波形は、前記第1ピエゾ素子を制御するための第1指令波形であって、周期的に振動し、且つ、振幅中心に対して対称な波形である第1指令波形と、前記第2ピエゾ素子を制御するための第2指令波形であって、周期的に振動し、且つ、振幅中心に対して対称な波形である第2指令波形と、を含み、前記補正値生成部は、周期的に振動する前記第1変位の振幅中心が第1目標値に近づくように第1補正値を生成し、且つ、周期的に振動する前記第2変位の振幅中心が第2目標値に近づくように第2補正値を生成し、前記駆動部は、前記第1指令波形と前記第1補正値との和である第1合成波形にしたがって前記第1ピエゾ素子を駆動し、且つ、前記第2指令波形と前記第2補正値との和である第2合成波形にしたがって前記第2ピエゾ素子を駆動する、という構成が採用されている。
【0077】
上記の構成によれば、第1ピエゾ素子および第2ピエゾ素子の変位に生じ得る経時的なドリフトを抑制しつつ、走査を高速化し得る。
【0078】
本発明の第4の態様に係る光走査方法は、レーザ光を反射するミラーと、前記ミラーを載置し、指令波形に応じて変位するピエゾ素子によって前記ミラーの傾きを変化させるチルトステージと、前記ピエゾ素子の変位を検出する変位センサと、を用いた光走査方法である。本光走査方法は、前記変位センサが検出した前記変位に応じて前記指令波形を補正する補正値を生成する補正値生成工程と、前記指令波形と前記補正値との和である合成波形にしたがって前記ピエゾ素子を駆動する駆動工程と、を含み、前記指令波形は、周期的に振動し、且つ、振幅中心に対して対称な波形であり、前記補正値は、周期的に振動する前記変位の振幅中心を目標値に近づけるように定められている。
【0079】
本光走査方法は、第1の態様に係る光走査装置と同じ効果を奏する。
【符号の説明】
【0080】
1 光走査装置
11 ミラー
12 2軸チルトステージ
12a 第1変位センサ
12b 第2変位センサ
13a 第1補正値生成部
13a1 ローパスフィルタ(LPF)
13a2 平均化部
13a3 比較部
13a4 PID制御部
13a5 リミッタ
13b 第2補正値生成部
14a 第1合成波形生成部
14b 第2合成波形生成部
15 駆動部
16a 第1指令波形生成部
16b 第2指令波形生成部
17 制御部
図1
図2
図3
図4
図5