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特許7489555粉末、金属部品、電気接点、粉末の製造方法、および金属部品の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-15
(45)【発行日】2024-05-23
(54)【発明の名称】粉末、金属部品、電気接点、粉末の製造方法、および金属部品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B22F 1/00 20220101AFI20240516BHJP
   C22C 9/00 20060101ALI20240516BHJP
   B22F 1/05 20220101ALI20240516BHJP
   B22F 9/08 20060101ALI20240516BHJP
   B22F 3/02 20060101ALI20240516BHJP
   B22F 10/28 20210101ALI20240516BHJP
   B33Y 70/00 20200101ALI20240516BHJP
   B33Y 80/00 20150101ALI20240516BHJP
   B33Y 10/00 20150101ALI20240516BHJP
【FI】
B22F1/00 L
C22C9/00
B22F1/05
B22F1/00 R
B22F9/08 A
B22F3/02 K
B22F10/28
B33Y70/00
B33Y80/00
B33Y10/00
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2023562751
(86)(22)【出願日】2023-04-03
(86)【国際出願番号】 JP2023013853
(87)【国際公開番号】W WO2023238491
(87)【国際公開日】2023-12-14
【審査請求日】2023-10-16
(31)【優先権主張番号】PCT/JP2022/023145
(32)【優先日】2022-06-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】593016411
【氏名又は名称】住友電工焼結合金株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100147
【弁理士】
【氏名又は名称】山野 宏
(74)【代理人】
【識別番号】100116366
【弁理士】
【氏名又は名称】二島 英明
(72)【発明者】
【氏名】前澤 文宏
(72)【発明者】
【氏名】伊志嶺 朝之
【審査官】瀧澤 佳世
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-096647(JP,A)
【文献】特開2006-032036(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第109759584(CN,A)
【文献】特開2018-070972(JP,A)
【文献】国際公開第02/070762(WO,A1)
【文献】特開2002-241807(JP,A)
【文献】特開平06-116609(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 1/00
C22C 9/00
B22F 1/05
B22F 9/08
B22F 3/02
B22F 10/28
B33Y 70/00
B33Y 80/00
B33Y 10/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属元素を含む複数の粒子の集合体であり、
前記複数の粒子のそれぞれは、マトリックスと、前記マトリックス中に分散された複数の析出物と、を備え、
前記マトリックスは第一成分を含み、
前記複数の析出物のそれぞれは第二成分を含み、
前記第一成分と前記第二成分は、状態図において2液相分離領域を有する組み合わせであり、
前記第一成分と前記第二成分との含有比率は、前記2液相分離領域に対応する含有比率であり、
前記複数の粒子における前記第一成分の含有量の標準誤差が質量基準で1.2以下であり、
前記複数の粒子における前記第二成分の含有量の標準誤差が質量基準で1.2以下であり、
前記複数の析出物の平均粒径が5μm以下である、
粉末。
【請求項2】
前記複数の粒子における前記複数の析出物の平均粒径の標準誤差が0.1以下である、請求項1に記載の粉末。
【請求項3】
前記複数の粒子の平均粒径は200μm以下である、請求項1または請求項2に記載の粉末。
【請求項4】
前記複数の析出物の最大粒径が20μm以下である、請求項1または請求項2に記載の粉末。
【請求項5】
前記第一成分は銅であり、前記第二成分はクロムである、請求項1または請求項2に記載の粉末。
【請求項6】
金属元素を含む金属部品であって、
マトリックス部と、前記マトリックス部に分散された複数の島部と、を備え、
前記マトリックス部は第一成分を含み、
前記複数の島部のそれぞれは第二成分を含み、
前記第一成分と前記第二成分は、状態図において2液相分離領域を有する組み合わせであり、
前記第一成分と前記第二成分との含有比率は、前記2液相分離領域に対応する含有比率であり、
前記複数の島部の平均粒径が10μm以下であり、
異なる複数の観察視野における前記複数の島部の平均粒径の標準誤差が0.3以下である、
金属部品。
【請求項7】
前記第一成分は銅であり、前記第二成分はクロムである、請求項6に記載の金属部品。
【請求項8】
請求項6または請求項7に記載の金属部品によって構成されている、
電気接点。
【請求項9】
第一成分と第二成分とを含む原料部材を用意する工程Aと、
るつぼを有さない高周波誘導加熱装置によって前記原料部材を溶融する工程Bと、
前記工程Bによって得られた溶湯をアトマイズ法によって粉末にする工程Cと、を備え、
前記第一成分と前記第二成分は、状態図において2液相分離領域を有する組み合わせであり、
前記原料部材における前記第一成分と前記第二成分との含有比率は、前記2液相分離領域に対応する含有比率であり、
前記溶湯の温度は、前記状態図における前記2液相分離領域の温度である、
粉末の製造方法。
【請求項10】
前記原料部材は、前記第一成分を主成分とする粉末状の第一固体と、前記第二成分を主成分とする粉末状の第二固体とを含む圧粉成形体である、請求項9に記載の粉末の製造方法。
【請求項11】
前記第一成分は銅であり、前記第二成分はクロムである、請求項9または請求項10に記載の粉末の製造方法。
【請求項12】
請求項1または請求項2に記載の粉末を加圧成形することで圧粉成形体を作製し、前記圧粉成形体を焼結することで金属部品を作製する、
金属部品の製造方法。
【請求項13】
請求項1または請求項2に記載の粉末を用いた金属積層造形によって金属部品を作製する、
金属部品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、粉末、金属部品、電気接点、粉末の製造方法、および金属部品の製造方法に関する。
本出願は、2022年6月8日付の国際出願のPCT/JP2022/023145に基づく優先権を主張し、前記国際出願に記載された全ての記載内容を援用するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、真空遮断器などの電気接点材料の製造方法を開示する。この製造方法は、銅マトリックス中にクロムが分散した銅-クロム合金粉末を得る工程と、銅-クロム合金粉末を焼結する工程と、を備える。銅-クロム合金粉末は、銅とクロムとの混合物を溶融し、その溶湯をアトマイズ法によって微細化することで得られる。混合物におけるクロムの含有量は5質量%以上20質量%以下である。
【0003】
混合物の溶融温度は、銅とクロムの状態図において混合物が液相状態となる温度である。液相状態となった混合物をアトマイズ法によって微細化することで、銅のマトリックス中に微細なクロムの析出物が分散した粒子が得られる。このような粒子を焼結することで得られる電気接点材料は、均一な品質を有しており、電気的特性に優れる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平4-95318号公報
【発明の概要】
【0005】
本開示の粉末は、
金属元素を含む複数の粒子の集合体であり、
前記複数の粒子のそれぞれは、マトリックスと、前記マトリックス中に分散された複数の析出物と、を備え、
前記マトリックスは第一成分を含み、
前記複数の析出物のそれぞれは第二成分を含み、
前記複数の粒子における前記第一成分の含有量の標準誤差が質量基準で1.2以下であり、
前記複数の粒子における前記第二成分の含有量の標準誤差が質量基準で1.2以下である。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1図1は、実施形態に記載される粉末の製造方法に用いられるアトマイザーの概略図である。
図2図2は、銅とクロムの状態図である。
図3図3は、鉄と銅の状態図である。
図4図4は、実施形態に記載される粉末を調べるために作製された試料の断面写真である。
図5図5は、図4に示される試料に含まれる粒子の反射電子像を示す図である。
図6図6は、図5に示される粒子のスペクトルを示す図である。
図7図7は、図5とは別の粒子の反射電子像を示す図である。
図8図8は、複数の粒子のそれぞれにおける銅の含有量とクロムの含有量とを示す棒グラフである。
図9図9は、図8に示される銅の含有量の平均値とクロムの含有量の平均値とを示す棒グラフである。
図10図10は、図5に示される粒子における析出物の大きさの分布を示す棒グラフである。
図11図11は、試験例2の金属部品の断面の反射電子像を示す図である。
図12図12は、図11に示される金属部品における島部の大きさの分布を示す棒グラフである。
図13図13は、試験例3の金属部品の断面の反射電子像を示す図である。
図14図14は、図13に示される金属部品における島部の大きさの分布を示す棒グラフである。
図15図15は、試験例4の金属部品の断面の反射電子像を示す図である。
図16図16は、図15に示される金属部品における島部の大きさの分布を示す棒グラフである。
図17図17は、実施形態に記載される真空遮断器の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
[本開示が解決しようとする課題]
電気接点材料の用途によっては、電気接点材料に含まれるクロムの含有量が多いことが望まれている。しかし、クロムの含有量が多く、かつ電気的特性に優れる電気接点材料を作製することは難しい。なぜなら、電気接点材料を作製するための粉末の品質にばらつきが生じ易いからである。銅とクロムの状態図においてクロムの含有量が多くなるほど、液相状態を達成するための温度が高くなる。クロムの含有量が多くなると、るつぼの耐熱温度を超えてしまうので、銅とクロムの混合物を液相状態とすることができない。るつぼの耐熱温度未満の温度で加熱された混合物の溶湯中ではクロムの一部が固体として存在する。この溶湯をアトマイズすることで得られた粒子では、クロムの析出物が粗大化し易い。粗大化した析出物の粒径はばらつきが大きく、粉末の各粒子の品質にばらつきが生じやすい。この粉末を焼結することで得られる電気接点材料の品質もばらつき易い。このような問題点は、銅とクロムの組み合わせ以外の組み合わせにおいても存在しうる。
【0008】
本開示の目的の一つは、マトリックス中に微細な析出物が均一に分散した粒子の集合体である粉末、およびその粉末の製造方法を提供することにある。本開示の別の目的は、マトリックス部に微細な島部が均一に分散した金属部品、およびその金属部品の製造方法を提供することにある。本開示の他の目的は、本開示の金属部品によって構成された電気接点を提供することにある。
【0009】
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施形態を列挙して説明する。
【0010】
<1>実施形態に係る粉末は、
金属元素を含む複数の粒子の集合体であり、
前記複数の粒子のそれぞれは、マトリックスと、前記マトリックス中に分散された複数の析出物と、を備え、
前記マトリックスは第一成分を含み、
前記複数の析出物のそれぞれは第二成分を含み、
前記複数の粒子における前記第一成分の含有量の標準誤差が質量基準で1.2以下であり、
前記複数の粒子における前記第二成分の含有量の標準誤差が質量基準で1.2以下である。
【0011】
第一成分の含有量の標準誤差は次のように求められる。まず、樹脂中に粉末が分散した試料を作製し、その試料を切断する。試料の断面から所定数の粒子を抽出し、各粒子における第一成分の含有量を測定する。つまり、各粒子に対応した複数の第一成分の含有量が得られる。複数の第一成分の含有量から求められる標準誤差が、上記『前記複数の粒子における前記第一成分の含有量の標準誤差』である。第二成分の含有量の標準誤差も、第一成分の含有量の標準誤差と同様に求められる。第一成分と第二成分の含有量の標準誤差の規定は、各粒子における析出物の分散状態が類似していることを示す指標の一つである。つまり、上記標準誤差の規定は、粉末を構成する各粒子の品質が揃っていることを示している。
【0012】
実施形態に係る粉末は、平均粒径が小さい複数の粒子の集合体であり、しかも各粒子の品質も揃っている。このような特徴を有する粉末は、この粉末を加圧成形することで得られる圧粉成形体の品質、およびこの圧粉成形体を焼結することで得られる金属部品の品質を向上させる。また、このような特徴を有する粉末は、この粉末を用いた金属積層造形によって得られる金属部品の品質を向上させる。
【0013】
ここで、析出物はデンドライト状に形成されていても良い。本明細書では、析出物の評価を行う際に、粒子の断面を観察している。デンドライト状の析出物の場合、特定の断面において粒子状に見える析出物は、別の断面において粒子状に見える析出物と3次元的につながった形態であり得る。
【0014】
<2>上記<1>に記載される粉末において、
前記複数の粒子における前記複数の析出物の平均粒径の標準誤差が0.1以下であっても良い。
【0015】
複数の析出物の平均粒径の標準誤差は次のようにして求められる。まず、樹脂中に粉末が分散した試料の断面から所定数の粒子を抽出し、各粒子に含まれる複数の析出物の平均粒径を測定する。つまり、各粒子に対応した複数の平均粒径が得られる。複数の平均粒径から求められた標準誤差が、上記『前記複数の粒子における前記複数の析出物の平均粒径の標準誤差』である。上記<2>に示される平均粒径の標準誤差の規定は、各粒子における析出物の分散状態が類似していることを示す指標の一つである。このような特徴を有する粉末は、この粉末を加圧成形することで得られる圧粉成形体の品質、およびこの圧粉成形体を焼結することで得られる焼結体の品質を向上させる。また、このような特徴を有する粉末は、この粉末を用いた金属積層造形によって得られる金属部品の品質を向上させる。
【0016】
<3>上記<1>または<2>に記載される粉末において、
前記第一成分と前記第二成分は、状態図において2液相分離領域(two liquid phases separate region)を有する組み合わせであり、
前記第一成分と前記第二成分との含有比率は、前記2液相分離領域に対応する含有比率であっても良い。
【0017】
第一成分と第二成分との含有比率は、第一成分と第二成分との合計含有量を100質量%としたときの第一成分の含有量と第二成分の含有量との比率である。第一成分と第二成分との含有比率が2液相分離領域に対応する含有比率である場合、粉末を構成する各粒子の品質が揃い易い。
【0018】
<4>上記<1>から<3>のいずれかに記載される粉末において、
前記複数の粒子の平均粒径は200μm以下であっても良い。
【0019】
200μm以下の平均粒径を有する粉末によれば、稠密な圧粉成形体が得られ易い。なぜなら、平均粒径が小さい粉末を加圧成形する際、粒子間の隙間が小さくなり易いからである。
【0020】
<5>上記<1>から<4>のいずれかに記載される粉末において、
前記複数の析出物の平均粒径が5μm以下であっても良い。
【0021】
上記<5>に示される平均粒径の規定は、各粒子において析出物が微細に分散していることを示す指標の一つである。このような特徴を有する粉末は、この粉末を加圧成形することで得られる圧粉成形体の品質、およびこの圧粉成形体を焼結することで得られる焼結体の品質を向上させる。
【0022】
<6>上記<1>から<5>のいずれかに記載される粉末において、
前記複数の析出物の最大粒径が20μm以下であっても良い。
【0023】
上記<5>に示される最大粒径の規定は、各粒子において析出物が微細に分散していることを示す指標の一つである。このような特徴を有する粉末は、この粉末を加圧成形することで得られる圧粉成形体の品質、および圧粉成形体を焼結することで得られる焼結体の品質を向上させる。
【0024】
<7>上記<1>から<6>のいずれかに記載される粉末において、
前記第一成分は銅であり、前記第二成分はクロムであっても良い。
【0025】
第一成分が銅であり、第二成分がクロムである粉末、即ち銅のマトリックス中にクロムの析出物が分散された粒子の集合体である粉末は、電気接点の材料に好適である。クロムの含有量が高い電気接点では、放電アークが短時間で消失し易い。従って、真空遮断器の性能が向上する。
【0026】
第一成分が銅、第二成分がクロムである粉末は例えば、遮断器における電気接点の材料に適している。粉末におけるクロムの含有量が高くなるほど、遮断器の性能が向上し易い。粉末におけるクロムの含有量は例えば、40質量%以上である。粉末におけるクロムの含有量は、粉末に含まれる銅とクロムとの合計含有量を100質量%としたときのクロムの割合である。
【0027】
<8>実施形態に係る金属部品は、
金属元素を含む金属部品であって、
マトリックス部と、前記マトリックス部に分散された複数の島部と、を備え、
前記マトリックス部は第一成分を含み、
前記複数の島部のそれぞれは第二成分を含み、
前記複数の島部の平均粒径が10μm以下である。
【0028】
複数の島部の平均粒径は次のようにして求められる。まず、金属部品の断面から所定数の観察視野を抽出し、各観察視野における全ての島部の粒径を測定する。全ての島部の粒径の平均が、上記『複数の島部の平均粒径』である。上記構成を備える金属部品は、全体的に均一な電気的特性を有する。
【0029】
<9>上記<8>に記載される金属部品において、
異なる複数の観察視野における前記複数の島部の平均粒径の標準誤差が0.3以下であっても良い。
【0030】
複数の島部の平均粒径は次のようにして求められる。まず、金属部品の断面から所定数の観察視野を抽出し、各観察視野における複数の島部の平均粒径を測定する。つまり、各観察視野に対応した複数の平均粒径が得られる。複数の平均粒径から求められた標準誤差が、上記『異なる複数の観察視野における前記複数の島部の平均粒径の標準誤差』である。上記構成を備える金属部品は、全体的に均一な電気的特性を有する。
【0031】
<10>上記<8>または<9>に記載される金属部品において、
前記第一成分と前記第二成分は、状態図において2液相分離領域を有する組み合わせであっても良い。
【0032】
上記金属部品は例えば、実施形態に係る粉末から作製される。実施形態に係る粉末を加圧成形することで成形体が得られる。この成形体を焼結することで上記金属部品が得られる。上記<10>に記載される金属部品は、第一成分と第二成分との組み合わせに応じた特性を有する。
【0033】
<11>上記<8>から<10>のいずれかに記載される金属部品において、
前記第一成分は銅であり、前記第二成分はクロムであっても良い。
【0034】
第一成分が銅であり、第二成分がクロムである金属部品は、例えば真空遮断器における電気接点の材料に好適である。クロムの含有量が高い電気接点では、放電アークが短時間で消失し易い。従って、真空遮断器の性能が向上する。
【0035】
<12>上記<8>から<11>のいずれかに記載される金属部品において、
前記第一成分と前記第二成分との含有比率は、状態図において2液相分離領域に対応する含有比率であっても良い。
【0036】
上記金属部品が実施形態に係る粉末によって作製されていれば、金属部品における第一成分と第二成分との含有比率は2液相分離領域に対応する含有比率となる。上記<12>に記載の金属部品は、第一成分と第二成分との含有比率に応じた特性を有する。
【0037】
ここで、実施形態に係る金属部品を作製する際、実施形態に係る粉末に加えて別の粉末が原料粉末に含まれていれば、金属部品における第一成分と第二成分との含有比率は変化し得る。例えば、第一成分が銅で、第二成分がクロムである実施形態の粉末に加えて、銅の粉末が原料粉末に含まれていれば、金属部品における第一成分と第二成分との含有比率は、2液相分離領域に対応する含有比率よりも低くなる。
【0038】
<13>実施形態に係る電気接点は、
上記<8>から<12>のいずれかに記載される金属部品によって構成されている。
【0039】
実施形態に係る電気接点は、全体的に均一な電気的特性を有する金属部品によって構成されている。従って、実施形態に係る電気接点は、誤動作などの不具合を抑制できる。
【0040】
<14>実施形態に係る粉末の製造方法は、
第一成分と第二成分とを含む原料部材を用意する工程Aと、
るつぼを有さない高周波誘導加熱装置によって前記原料部材を溶融する工程Bと、
前記工程Bによって得られた溶湯をアトマイズ法によって粉末にする工程Cと、を備える。
【0041】
原料部材は、第一成分と第二成分とが実質的に均一に含まれるように複合化された部材である。原料部材は単一種の固体で構成されていても良いし、一つにまとめられた複数種の固体で構成されていても良い。るつぼを有さない高周波誘導加熱装置は、るつぼの耐熱温度以上の温度に原料部材を加熱することができる。るつぼを使用しないことで、るつぼからのコンタミネーションを防止できる。
【0042】
高周波誘導加熱装置は、短時間で原料部材を加熱できる。従って、溶湯において第一成分と第二成分とがマクロな2液に分離する前に工程Cのアトマイズ工程を実施することができる。また、高周波誘導加熱装置が発生する磁界によって溶湯が撹拌されるので、アトマイズ工程に供される溶湯中で、第一成分の溶湯に第二成分の溶湯が微細に分散した状態となる。従って、均一な品質を有する複数の粒子からなる粉末が得られ易い。
【0043】
<15>上記<14>に記載される粉末の製造方法の一形態において、
前記原料部材は、前記第一成分を主成分とする粉末状の第一固体と、前記第二成分を主成分とする粉末状の第二固体とを含む圧粉成形体であっても良い。
【0044】
粉末状の第一固体と粉末状の第二固体との圧粉成形体によって構成された原料部材では、原料部材の全体にわたって第一成分と第二成分とが均一的に存在している。そのため、この原料部材を溶融した溶湯における第一成分と第二成分との含有比率が均一になり易い。従って、粉末を構成する粒子における第一成分と第二成分との含有比率も均一になり易い。
【0045】
<16>上記<14>または<15>に記載される粉末の製造方法の一形態において、
前記第一成分と前記第二成分は、状態図において2液相分離領域を有する組み合わせであり、
前記原料部材における前記第一成分と前記第二成分との含有比率は、前記2液相分離領域に対応する含有比率であり、
前記溶湯の温度は、前記状態図における前記2液相分離領域の温度以上であっても良い。
【0046】
状態図における2液相分離領域では、第一成分と第二成分とが共に液体として存在している。高周波誘導加熱装置の磁界によって第一成分の溶湯に第二成分の溶湯が微細に分散した状態になる。従って、均一な品質を有する複数の粒子からな粉末が得られ易い。
【0047】
<17>上記<14>から<16>のいずれかに記載される粉末の製造方法において、
前記第一成分は銅であり、前記第二成分はクロムであっても良い。
【0048】
第一成分が銅、第二成分がクロムである粉末は例えば、遮断器における電気接点の材料に適している。粉末におけるクロムの含有量が高くなるほど、遮断器の性能が向上し易い。
【0049】
銅とクロムの含有比率が、状態図における2液相分離領域に対応する含有比率である場合、銅とクロムの合計含有量に占めるクロムの含有量は47質量%以上80質量%以下である。この場合、クロムの含有量が高い粉末が得られる。クロムの含有量が高い粉末は、特に遮断器の電気接点材料として好適である。
【0050】
<18>実施形態に係る金属部品の製造方法は、
上記<1>から<7>のいずれかに記載の粉末を加圧成形することで圧粉成形体を作製し、前記圧粉成形体を焼結することで金属部品を作製する。
【0051】
上記金属部品の製造方法に用いられる粉末は、均一な品質を有する粉末の集合体である。従って、上記金属部品の製造方法によれば、全体的に均一な電気的特性を有する金属部品を作製できる。
【0052】
<19>別の実施形態に係る金属部品の製造方法は、
上記<1>から<7>のいずれかに記載の粉末を用いた金属積層造形によって金属部品を作製する。
【0053】
上記金属部品の製造方法に用いられる粉末は、均一な品質を有する粉末の集合体である。従って、上記金属部品の製造方法によれば、全体的に均一な電気的特性を有する金属部品を作製できる。
【0054】
[本開示の実施形態の説明]
以下、本開示の実施態様を列記して説明する。
【0055】
[本開示の実施形態の詳細]
以下、本開示の粉末の製造方法、粉末、金属部品、および電気接点の具体例を図面に基づいて説明する。以下、図中の同一符号は同一または相当部分を示す。各図面が示す部材の大きさは、説明を明確にする目的で表現されており、必ずしも実際の寸法を表すものではない。なお、本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0056】
<実施形態1>
≪粉末の製造方法≫
図1には、実施形態に記載の粉末の製造方法を実施するための装置の一例として、アトマイザー1が示されている。アトマイザー1は、ハウジング10と仕切り11と押込み装置12と高周波誘導加熱装置13とノズル14と回収ポット15とを備える。
【0057】
ハウジング10は、作業環境を外部環境から区画する。仕切り11は、ハウジング10の高さ方向の中間部に配置され、ハウジング10の内部空間を区画する。仕切り11の上方の空間では原料部材2が溶融される。従って、上方の空間は高温となる。原料部材2の溶湯20は、仕切り11の孔から、仕切り11の下方の空間に落下する。仕切り11の下方の空間では溶湯20がアトマイズ法によって微細化される。ハウジング10内は例えば、不活性雰囲気である。
【0058】
押込み装置12は、長尺の原料部材2を高周波誘導加熱装置13に供給する。図中には、押込み装置12のうち、上下方向に移動可能に構成されたロッド12rのみが示されている。ロッド12rの先端に原料部材2が固定されている。原料部材2の溶融状態に応じてロッド12rが下方に移動することで、高周波誘導加熱装置13に所定量の原料部材2が供給され続ける。
【0059】
高周波誘導加熱装置13はるつぼを有さない。高周波誘導加熱装置13は例えば、コイル13cと、コイル13cに高周波電力を供給する電力線と、コイル13cに供給する電力量を調整する制御部と、を備える。図中にはコイル13cのみが図示されている。コイル13cが発生する磁場は、誘導加熱により原料部材2を溶融して溶湯20にすると共に溶湯20を撹拌する。
【0060】
ノズル14は、仕切り11の下方の空間にて、ガスまたは水などの流体を噴射する。ガスまたは水によって飛散された溶湯20は、冷却され、粒子4となる。粒子4は、ハウジング10の底部に配置される回収ポット15に貯まる。回収ポット15の底部に貯まった複数の粒子4の集合体である粉末3は、例えばサイクロン回収機によって回収されても良い。サイクロン回収機によって、所定の粒径以下の微細な粒子4が回収される。粗大な粒子4は回収ポット15内にとどまる。粉末3はふるいにかけられても良い。
【0061】
本例の粉末の製造方法は、以下の工程を備える。本例では例示として図1のアトマイザー1を用いた粉末の製造方法を説明する。
・工程A…第一成分と第二成分とを含む原料部材2を用意する工程。
・工程B…るつぼを有さない高周波誘導加熱装置13によって原料部材2を溶融する工程。
・工程C…工程Bによって得られた溶湯20をアトマイズ法によって粉末3にする工程。
以下、各工程を詳細に説明する。
【0062】
[工程A]
原料部材2における第一成分と第二成分は例えば、状態図において2液相分離領域を有する組み合わせである。第一成分と第二成分はそれぞれ、金属元素、または金属元素の化合物である。本明細書において、シリコン(Si)は金属元素に含まれる。第一成分は、粒子4においてマトリックスを形成する。第二成分は、粒子4においてマトリックス中に分散する析出物を形成する。原料部材2は不可避的不純物を含んでいても良い。
【0063】
原料部材2は、第一成分を主成分とする第一固体と、第二成分を主成分とする第二固体とから構成されていても良い。その場合、第一成分は、第一固体にのみ含まれていても良いし、第一固体と第二固体とに含まれていても良い。同様に、第二成分は、第二固体にのみ含まれていても良いし、第一固体と第二固体とに含まれていても良い。原料部材2は、第一固体と第二固体とは異なる組成を有する少なくとも一つの別の固体を含んでいても良い。
【0064】
原料部材2は、例えば粉末状の第一固体と粉末状の第二固体とを含む原料粉末を圧縮した圧粉成形体である。原料粉末の平均粒径は例えば、1μm以上150μm以下である。平均粒径が1μm以上の原料粉末は、取り扱いおよびコストを含めた生産性に優れる。平均粒径が小さい原料粉末は、作製に手間がかかる。平均粒径が150μm以下の原料粉末は、原料部材2の各部における含有比率のばらつきを抑制できる。そのため、原料部材2を用いて作製された粉末3の品質が均一化される。原料粉末の平均粒径は、20μm以上75μm以下でも良い。原料粉末の平均粒径は粒度分布計によって測定できる。本例では、平均粒径は質量基準のD50である。
【0065】
原料部材2は、例えば線状の第一固体と線状の第二固体とが束ねられたものであっても良いし、撚られたものであっても良い。第一固体と第二固体の断面形状は、円形でも良いし、多角形でも良いし、星形などの異形でも良い。第一固体の長さ方向に直交する切断面における第一固体の1つの線の断面積は例えば、1mm以上7mm以下である。第二固体の長さ方向に直交する切断面における第二固体の1つの線の断面積は例えば、1mm以上7mm以下である。断面積が1mm以上の第一固体および第二固体は、コストを含めた生産性に優れる。断面積が小さい線材は、作製に手間がかかる。1つの線の断面積が7mm以下の第一固体および第二固体は、原料部材2の長さ方向の各部における第一成分と第二成分との含有比率のばらつきを抑制できる。そのため、原料部材2を用いて作製された粉末3の品質が均一化される。第一固体および第二固体の1つの線の断面積は、2mm以上4mm以下でも良いし、2mm以上3mm以下でも良い。
【0066】
その他、原料部材2は、多孔質材料に溶湯を充填させる溶浸法によって作製されても良い。この場合、例えば多孔質材料は第一成分によって構成され、溶湯は第二成分によって構成されていても良い。その他、水冷銅ハースなどの中で、アーク溶解法などによって第一成分と第二成分を含む材料を液相領域まで加熱し、急冷してインゴット状の原料部材2を作製しても良い。液相領域は、第一成分と第二成分とが分離せずに一つの液相として存在する領域である。
【0067】
状態図における2液相分離領域とは、第一成分の溶湯と第二成分の溶湯とが分離した状態で存在する領域である。2液相分離領域の温度は一般的に、液相領域の温度よりも低い。
【0068】
状態図は2元系の状態図でも良いし、多元系の状態図でも良い。第一成分と第二成分とは異なる材料で構成されている。第一成分の融点と第二成分の融点とは異なる。第一成分と第二成分との組み合わせは、例えば金属元素-金属元素、金属元素-金属元素と非金属元素との化合物、または金属元素と非金属元素との化合物-金属元素と非金属元素との化合物である。具体的な第一成分と第二成分との組み合わせは例えば、銀(Ag)-マンガン(Mn)、Ag-ニッケル(Ni)、アルミニウム(Al)-ビスマス(Bi)、Al-インジウム(In)、Bi-ガリウム(Ga)、Bi-亜鉛(Zn)、銅(Cu)-クロム(Cr)、Cu-ニオブ(Nb)、鉄(Fe)-Cu、Fe-In、Fe-スズ(Sn)、リチウム(Li)-LiH、Ag-AgO、バリウム(Ba)-BaO、Bi-BiO、コバルト(Co)-Co、Cr-Cr、Cu-CuO、Fe-FeO、Ni-NiO、Sn-SnO、Zr-ZrO、およびFe-SiOである。上記組み合わせにおいて、第一成分は『-』の左側に、第二成分は『-』の右側に記載されている。上記組み合わせは、Fe-Cuのように、液体状態で混和性(Immiscibility)を示す合金が、過冷却状態あるいは不純物の存在下で2液相分離状態となる組み合わせも含まれる。
【0069】
状態図の一例を図2および図3に示す。図2は、Cu-Crの状態図である。図2の横軸は、Cu-Cr合金に占めるCrの含有量である。下側の横軸の単位は原子%であり、上側の横軸の単位は質量%である。図2の縦軸は温度である。温度の単位は℃である。図中の『L』は液相領域、『L+L』は2液相分離領域である。図3は、Fe-Cuの状態図である。図3の横軸は、Fe-Cu合金におけるCuのモル比率であり、縦軸は温度である。温度の単位はケルビンである。図3では、1361Kの水平線と太破線とで囲まれる領域が2液相分離領域である。例えば、Fe-Cuにおいて炭素や酸素などの微量元素の含有比率を増大させることでFeとCuが2液相分離し易くなる、そのような微量元素の調整によって形成される成分の組み合わせも本発明の範囲内である。製品の特性向上に寄与する等の理由で、2液相領域の形成に影響を及ぼさない、または阻害しない範囲で、原料部材2に別の元素が含まれていても良い。
【0070】
原料部材2における第一成分と第二成分との含有比率は、状態図における2液相分離領域に対応する含有比率である。図2に示されるCu-Crの状態図では、原料部材に含まれるCuとCrとの合計含有量を100質量%としたとき、合計含有量に占めるCrの含有量は47質量%以上80質量%以下である。47質量%以上80質量%以下のCrを含有する原料部材2は、原料部材2の温度の上昇に伴い、2液相分離状態となり得る。
【0071】
[工程B]
工程Bでは、るつぼを有さない高周波誘導加熱装置13によって原料部材2を溶融する。2液相分離領域の温度は、液相領域の温度よりも低い。るつぼを有さない高周波誘導加熱装置では溶湯20を貯留しておくことができないので、液相領域の温度にまで溶湯を加熱することは難しい。
【0072】
高周波誘導加熱装置13が発生する磁場は、溶湯20を激しく攪拌する。溶湯20が、第一成分の溶湯と第二成分の溶湯の2液相分離状態であっても、第一成分の溶湯と第二成分の溶湯とが激しく撹拌される。この撹拌によって、第一成分の溶湯に第二成分の溶湯が微細に分散した状態となる。このとき、溶湯20は全て液化しているため、第一固体が第一成分と第二成分の両方を含む合金であっても良いし、第二固体が第一成分と第二成分の両方を含む合金であっても良い。高周波誘導加熱装置13を作動させる電流の周波数は例えば、100kHz以上である。100kHz以上の高周波電流は、コイル13cの温度を迅速に上昇させる。また、100kHz以上の高周波電流は、第一成分の溶湯と第二成分の溶湯とを十分に撹拌できる。上記周波数は、125kHz以上でも良いし、150kHz以上でも良い。
【0073】
[工程C]
工程Cでは、溶湯20をアトマイズ法によって粉末3にする。アトマイズ法では、ノズル14から溶湯20に向かってガスまたは水などの流体が噴射される。ガスまたは水によって溶湯20が飛散され、飛散された溶湯20が急速に凝固する。その結果、微細な粒子4からなる粉末3が得られる。ガスは例えば、アルゴン、ヘリウム、または窒素である。ガスの圧力によって、粒子4の粒径が変化する。また、流体の種類によって、粒子4の冷却速度は変化し、粒子4の内部組織が変化する。特に気体であるガスと液体である水の冷却能の差は大きい。
【0074】
≪粉末≫
上記粉末の製造方法によって作製された粉末3の平均粒径、即ち複数の粒子4の平均粒径は例えば200μm以下である。平均粒径が200μm以下の粉末を加圧成形することで、空隙が少ない稠密な圧粉成形体を作製することができる。粉末3の平均粒径は、SEM(Scanning Electron Microscope)を用いた画像解析によって求められる。粒子4の平均粒径は、100μm以下でも良いし、50μm以下でも良いし、10μm以下でも良い。粒子4の平均粒径の下限値は例えば1μm以上である。
【0075】
図4は、後述する試験例1において作製された試料6の断面のSEM画像である。試料6は、粉末3を樹脂5で固めることで作製されたものである。本明細書では、SEM画像における粒子4の円相当径が粒子4の粒径である。円相当径は、以下のようにして求める。まず、SEM画像を二値化処理し、視野内の各粒子4の面積を求める。各粒子4の面積と同じ大きさの円の直径が円相当径である。視野内の全ての粒子4の円相当径を平均したものが、粉末3の平均粒径である。
【0076】
各粒子4の組織を図5に基づいて説明する。図5は、後述する試験例1において作製した粒子4の二次電子像である。二次電子像は、SEM-EDX(Energy Dispersive X-ray Spectroscopy)によって得られる。図5に示されるように、粒子4は、マトリックス40と、マトリックス40中に分散された複数の析出物41と、を備える。マトリックス40は第一成分を主成分として構成され、析出物41は第二成分を主成分として構成されている。図5におけるマトリックス40は銅、析出物41はクロムである。
【0077】
粒子4における第一成分と第二成分との含有比率は、状態図における2液相領域に対応する含有比率である。粒子4における含有比率は、粉末の製造方法において用意した原料部材2における含有比率が維持されると考えてよい。
【0078】
複数の粒子4における第一成分の含有量の標準誤差は、質量基準で1.2以下である。また、複数の粒子4における第二成分の含有量の標準誤差も、質量基準で1.2以下である。これらの指標は、各粒子における第一成分の含有量と第二成分の含有量のばらつきが小さいことを示す。即ち、この指標を満たす粉末3は、均一な品質を有する複数の粒子4から構成される。
【0079】
第一成分と第二成分の含有量は、SEM-EDXによって求められる。まず、SEM画像中の複数の粒子4のうち、特定のサイズの観察視野を内包できる10個以上の粒子を選択する。選択された各粒子4の観察視野から特性X線のスペクトルを取得する。スペクトルにおける第一成分に対応するピークの面積と、第二成分に対応するピークの面積とから、第一成分と第二成分の含有量が求められる。本例では、第一成分と第二成分の含有量は、Oxford Instruments製のXmax70+Aztec ver.3のソフトによって自動で求められた。
【0080】
各粒子4における複数の析出物41の平均粒径は例えば、5μm以下である。この規定は、各粒子4において析出物41が微細に分散していることを示す指標の一つである。このような特徴を有する粉末3は、この粉末3を加圧成形することで得られる圧粉成形体の品質、およびこの圧粉成形体を焼結することで得られる金属部品の品質を向上させる。析出物41の粒径は、SEM-EDX画像から得られる析出物41の円相当径である。複数の析出物41の平均粒径は、任意に抽出された所定数の粒子4から得られた複数の析出物41の粒径の平均値である。前記所定数は10以上である。析出物41の平均粒径は例えば、2μm以下でも良い。
【0081】
複数の粒子4における析出物41の平均粒径の標準誤差は例えば、0.1以下である。この規定は、各粒子4における析出物41の分散状態が類似していることを示す指標の一つである。即ち、この指標を満たす粉末3は、均一な品質を有する複数の粒子4から構成されている。平均粒径を測定する粒子4は、反射電子のスペクトルを取得した粒子4と同じである。各粒子4における析出物41の平均粒径は、各粒子4における所定範囲の観察視野内に存在する全ての析出物41の円相当径の平均である。上記標準誤差は例えば、0.5以下でも良い。
【0082】
複数の粒子4における複数の析出物41の最大粒径は例えば、20μm以下である。粉末3に含まれる複数の粒子4のそれぞれにおける析出物41の最大粒径が20μm以下であることは、各粒子4において析出物41が微細に分散していることを示す指標の一つである。このような特徴を有する粉末3は、この粉末3を加圧成形することで得られる圧粉成形体の品質、および圧粉成形体を焼結することで得られる焼結体の品質を向上させる。最大粒径を測定する粒子4は、反射電子のスペクトルを取得した粒子4と同じである。上記最大粒径は例えば、15μm以下でも良い。
【0083】
≪金属部品≫
本例の金属部品は例えば、上記粉末3を原料として作製される。図11は後述する試験例2において作製された金属部品7の断面の二次電子像である。図13は後述する試験例3において作製された金属部品7の断面の二次電子像である。ここでは代表して、図11を参照して金属部品7の構成を説明する。
【0084】
図11の金属部品7は、マトリックス部70と複数の島部71とを備える。複数の島部71は、マトリックス部70中に分散している。マトリックス部70は第一成分によって構成されている。島部71は第二成分によって構成されている。第一成分と第二成分は、状態図において2液相分離領域を有する組み合わせである。
【0085】
島部71は粒子状に形成されていても良いし、デンドライト状に形成されていても良い。デンドライト状の島部71の場合、特定の断面において粒子状に見える島部71は、別の断面において粒子状に見える島部71と3次元的につながった形態であり得る。
【0086】
複数の島部71の平均粒径は10μm以下である。この規定は、金属部品7において島部71が微細に分散していることを示す指標の一つである。本明細書では、島部71の粒径は、SEM-EDX画像から得られる島部71の円相当径である。複数の島部71の平均粒径は、任意に抽出された所定数の観察視野から得られた複数の島部71の粒径の平均値である。所定数は10以上である。島部71の平均粒径は例えば、4μm以下でも良いし、3.5μm以下でも良い。
【0087】
金属部品7における複数の島部71の平均粒径の標準誤差は例えば、0.3以下である。この規定は、金属部品7の全域にわたって島部71の分散状態が類似していることを示す指標の一つである。即ち、この指標を満たす金属部品7は全体的に均一な品質を有する。上記標準誤差は以下のようにして求められる。まず、特定の大きさを有する複数の観察視野を抽出する。各観察視野の大きさは例えば、100μm×100μmである。観察視野の数は例えば10個である。各観察視野内の全ての島部71の平均粒径、即ち平均円相当径を求める。各観察視野から得られた複数の平均粒径に基づいて、上記標準誤差を求める。上記標準誤差は、0.25以下でも良いし、0.15以下でも良い。
【0088】
本例の金属部品7における第一成分と第二成分との含有比率は、粉末3における第一成分と第二成分との含有比率に等しい。金属部品7における含有比率は、粉末3における含有比率と同様の手法によって求められる。つまり、金属部品7の断面をSEM-EDXによって分析することで、金属部品7における含有比率が求められる。例えば、第一成分が銅であり、第二成分がクロムである場合、金属部品7におけるクロムの含有量は47質量%以上80質量%である。ここで、金属部品7の原料粉末において、粉末3の他に銅粉が含まれていた場合、金属部品7におけるクロムの含有量は低下する。この場合、クロムの含有量が30質量%以上47質量%未満である金属部品7が得られる。また、金属部品7の原料粉末において、粉末3の他にクロム粉が含まれていた場合、金属部品7におけるクロムの含有量は上昇する。この場合、クロムの含有量が80質量%超である金属部品7が得られる。
【0089】
島部71の最大粒径は例えば50μm以下である。粗大な島部71を有さない金属部品7は、全体的に均一な品質を有する。島部71の最大粒径は例えば、40μm以下でも良いし、30μm以下でも良い。
【0090】
≪金属部品の製造方法≫
第一の金属部品の製造方法は、上記粉末3を加圧成形することで圧粉成形体を作製し、その圧粉成形体を焼結することで金属部品7を作製する。加圧成形の圧力は例えば、10MPa(メガパスカル)以上100MPa以下である。焼結の温度は例えば800℃以上1050℃以下である。焼結時の雰囲気は例えば、真空雰囲気である。
【0091】
第二の金属部品の製造方法は、上記粉末3を用いた金属積層造形によって金属部品7を作製する。金属積層造形装置は、指向性エネルギー堆積方式の装置でも良いし、パウダーベッド方式の装置であっても良い。指向性エネルギー堆積方式の装置では、粉末3を噴射しながらレーザー光によって粉末3を溶融し、溶融した金属を積層する。パウダーベッド方式の装置では、粉末3を敷き詰めた後、粉末3にレーザー光または電子ビームを照射し、粉末3を溶融する。金属積層造形に供される粉末3の平均粒径は例えば、20μm以上100μm以下である。このような平均粒径を有する粉末3は溶融し易く、そのため金属部品7の電気的特性が均一になり易い。
【0092】
粉末3に銅が含まれる場合、ブルーレーザー光であれば粉末3が溶融し易い。なぜなら、銅はブルーレーザー光を吸収し易いからである。ブルーレーザー光の出力は例えば、100W以上300W以下である。ブルーレーザー光の掃引速度は例えば、5mm/s以上40mm/s以下である。
【0093】
≪電気接点材料の製造方法≫
上記粉末3は例えば、電気接点の材料となる。電気接点を備える機器は例えば、ガス遮断器または真空遮断器である。図17は、真空遮断器9の概略図である。真空遮断器9は、真空バルブ90と固定端子91と可動端子92とベローズ93とアークシールド94とを備える。真空バルブ90内は真空引きされている。固定端子91は、電極棒91Aと固定接点91Bとを備える。可動端子92は、電極棒92Aと可動接点92Bとを備える。可動端子92は、電極棒92Aの軸方向に沿って往復可能に構成されている。ベローズ93は、可動端子92の移動に伴って伸び縮みし、真空バルブ90内の真空を維持する。アークシールド94は、固定接点91Bと可動接点92Bとの間に発生したアークをシールドする。
【0094】
真空遮断器9では、例えば固定端子91の固定接点91B、および可動端子92の可動接点92Bが粉末3によって作製される。具体的には、粉末3を加圧成形することで圧粉成形体を作製する。次いで、圧粉成形体を焼結することで、電気接点材料を作製する。電気接点材料をサイジングすることで固定接点91Bおよび可動接点92Bを作製する。電気接点材料に切削加工などを施しても良い。その他、電子ビーム方式またはレーザー溶融方式などの金属積層造形装置を用いて固定接点91Bおよび可動接点92Bを作製しても良い。例えば、金属積層造形時のベースプレートとして電極棒91A,92Aを用い、固定接点91Bと可動接点92Bとをそれぞれ電極棒91Aと電極棒92Aに一体化しても良い。この場合、電極棒91Aと固定接点91B、および電極棒92Aと可動接点92Bとの接合に必要な材料、工程は省略される。
【0095】
固定接点91Bと可動接点92Bに含まれるクロムの含有量が多くなると、固定接点91Bと可動接点92Bとの間で発生したアークが消滅し易くなる。従って、クロムの含有量が47質量%以上80質量%以下のCu-Cr合金からなる固定接点91Bと可動接点92Bとを備える真空遮断器9は、優れた遮断性能を有する。本例では、固定接点91Bと可動接点92Bは銅のマトリックスにクロムが微細に分散した組織で形成されている。このような組織を有する固定接点91Bと可動接点92Bとの間ではアークが消滅し易くなる。従って、本例の真空遮断器9は、優れた遮断性能を有する。本例の粉末3はベローズ93の原料として利用されても良い。
【0096】
≪試験例1≫
試験例1では、図1に示されるアトマイザー1を用いて実際に粉末3を作製し、粉末3の組織などを調べた。
【0097】
銅粉とクロム粉とを加圧成形することで原料部材2を作製した。銅粉は水アトマイズ法によって作製された。銅粉の平均粒径は150μmであった。クロム粉はテルミット法によって作製された。クロム粉の平均粒径は150μmであった。銅粉とクロム粉の平均粒径は、粒度分布計により測定したD50である。D50は質量基準である。クロム粉には不可避的不純物としてアルミナが含まれている。原料部材2における銅粉とクロム粉の含有比率は、Cu-Cr状態図における2液相分離領域に対応する含有比率であった。具体的には、原料部材2における銅とクロムの合計を100質量%としたとき、銅の含有量は50質量%、クロムの含有量は50質量%であった。
【0098】
加圧成形は、冷間静水圧加圧(CIP)によって実施した。CIPのゴム型の内寸は、直径60mm、長さ270mmの円柱状であった。CIPの圧力は390MPaであった。
【0099】
アトマイザー1に原料部材2をセットし、周波数125kHz、電流値200mAの条件で高周波誘導加熱装置13を作動させ、原料部材2を溶解させた。ノズル14から窒素ガスを噴射し、原料部材2の下端から落下する溶湯20を飛散させ、複数の粒子4を作製した。
【0100】
回収ポット15に貯まった粉末3を回収し、回収した粉末3をふるいにかけた。ふるいの目開き(aperture)は150μmであった。
【0101】
上記粉末3を用いて、図4に示される試料6を作製した。試料6は、樹脂5と粉末3とを混合し、樹脂5を硬化させることで作製される。図4は、試料6を収束イオンビームによって切断した断面をSEMによって撮影したSEM画像である。
【0102】
図4のSEM画像を画像解析することで、粉末3の平均粒径を測定した。図4の視野サイズは0.5mm×0.5mmであった。画像解析では、SEM画像を二値化処理し、視野内の全ての粒子4を抽出した。粒子4の面積と同じ大きさの円の直径を求めた。この円相当径を粒子4の粒径とみなす。粉末3の平均粒径、即ち複数の粒子4の平均粒径は、視野内の全ての粒子4の円相当径の平均である。本例における粒子4の母数は150個であった。試験例の粉末3の平均粒径は120μmであった。
【0103】
次に、SEM-EDXによって、個々の粒子4の組織を観察した。図5は任意の粒子4の反射電子像である。図5における白色の部分はCuからなるマトリックス40であり、灰色の部分はCrからなる析出物41であり、黒点はアルミナである。図5に示されるように、本例の粒子4では、マトリックス40中に微細な複数の析出物41が分散した状態が観察された。
【0104】
粉末3を構成する複数の粒子4の均一性を調べるために、任意の10個の粒子4における銅の含有量とクロムの含有量とを測定した。測定のために選択された粒子4は、粒子4の外周輪郭の内側に400μmの四角形の観察視野を確保できる大きさを有する。図5中に薄く示される矩形が観察視野である。この観察視野におけるスペクトルを取得した。図6は、図5に示される粒子4のスペクトルである。横軸は反射電子のエネルギー(keV)、縦軸は計数率(cps/eV)である。このスペクトルから銅の含有量とクロムの含有量とが求められるが、この数値はSEMの電子銃の加速電圧によって、電子線の広がり方が元素毎に異なるため、加速電圧の設定値で結果が変動する。あくまで粒子毎の標準誤差を定義するための指標である。今回は、加速電圧を5kVに設定し、エネルギー分散型特性X線分析装置(EDX)を用いた。この時、十分なS/N比が得られるように電子銃と検出素子を設定する。この設定は、使用検出素子サイズに合わせて、デッドタイムが10%から20%程度になるように行った。今回は日本電子製:JSM-7600Fを用い、対物レンズの絞りを4、照射電流を1nA、プロセスタイムは5を使用した。粉末3全体における第一成分と第二成分の含有比率は、島津製作所製のICPS-8100のICP発光分光分析装置によって取得される。今回の実施例において作製された粉末3の分析値はクロム:50.6質量%であった。
【0105】
図7は、図5とは別の粒子4の反射電子像である。図7に示される粒子4における析出物41の大きさおよび分散状態は、図5に示される粒子4とほぼ同じであった。本明細書では図示しないが、10個の粒子4の反射電子像は非常に似た見た目を有する。
【0106】
図8は、10個の粒子4のそれぞれにおける銅の含有量とクロムの含有量を示す棒グラフである。横軸は試料No.であり、縦軸は質量%である。45°のハッチングを有するカラムは銅の含有量であり、135°のハッチングを有するカラムはクロムの含有量である。図9は、銅の平均含有量とクロムの平均含有量とを示す棒グラフである。図中のエラーバーは標準誤差を示す。本例における銅の平均含有量の標準誤差は1.1であった。また、クロムの標準誤差も1.1であった。図8および図9の結果から、各粒子4における銅の含有量とクロムの含有量のばらつきが非常に小さいことが分かった。
【0107】
次に、粒子4に含まれる複数の析出物41のそれぞれの粒径を測定した。図10は、図5に示される粒子4の各析出物41の円相当径の測定結果をまとめたグラフである。本例では、析出物41の円相当径を析出物41の粒径とみなす。0.39μm以下の円相当径を有する測定対象は析出物41としてカウントしなかった。図10の横軸は円相当径、縦軸は個数基準の相対頻度である。円相当径の単位はμmである。円相当径が整数kの位置にあるカラムは、円相当径がkμm以上k+0.5μm未満の析出物41の個数を集計したものである。例えば、円相当径が0μmの位置にあるカラムは、円相当径が0以上0.5μm未満の析出物41の個数を集計したものである。円相当径が整数kと整数k+1の間にあるカラムは、円相当径がk+0.5μm以上kμm以下の析出物41の個数を集計したものである。例えば円相当径が0μmと1μmとの間にあるカラムは、円相当径が0.5μm以上1.0μm以下の析出物41の個数を集計したものである。
【0108】
本明細書では図示しないが、図5に示される粒子4以外の9個の粒子4においても図10に示されるグラフに類似するグラフが得られた。10個の粒子4のそれぞれにおける析出物41の平均粒径および最大粒径を表1に示す。10個の粒子4において、20μm超の析出物41は確認されなかった。
【0109】
【表1】
【0110】
表1における『析出物の平均粒径』は、各粒子4に含まれる析出物41の平均値である。『平均』は、10個の平均粒径の平均値、即ち粉末3全体における析出物41の平均粒径である。10個の平均粒径の標準偏差は0.19、標準誤差は0.06であった。複数の粒子4における析出物41の平均粒径の標準誤差が0.1以下であることは、各粒子4における析出物41の分散状態が類似することを示す指標の一つである。このような特徴を有する粉末3は、この粉末3を加圧成形することで得られる圧粉成形体の品質、およびこの圧粉成形体を焼結することで得られる金属部品7の品質を向上させる。
【0111】
≪試験例2≫
試験例2では、試験例1の粉末3から金属部品7を作製し、その金属部品7の組織を調べた。
【0112】
まず、粉末3を加圧成形することで圧粉成形体を作製した。加圧成形は、油圧プレスによって実施した。油圧プレスの面圧は、20トン/cm(1961MPa)であった。圧粉成形体は、直径30mmの円柱形状であった。次いで、圧粉成形体を900℃で真空焼結し、金属部品7を作製した。
【0113】
作製された金属部品7の断面をSEMによって撮影し、金属部品7の断面の組織を観察した。断面は、コロイダルシリカによって研磨されている。観察視野の数は10であった。観察視野の大きさは100μm×100μmであった。図11は、10個の観察視野のうちの一つの反射電子像である。10個の観察視野の反射電子像は類似している。反射電子像の取得条件は、試験例1と同じであった。図11の倍率は3000倍である。図11の画像は観察視野の一部であって、観察視野よりも狭い。
【0114】
断面の反射電子像から島部71の粒径、即ち円相当径を測定した。島部71の円相当径の測定方法は、試験例1における析出物41の測定方法と同じである。0.28μm以下の円相当径を有する測定対象は島部71としてカウントしなかった。図12は、図11に示される観察視野における島部71の円相当径の測定結果をまとめたグラフである。図12の見方は、図10と同じである。10個の観察視野のそれぞれから得られた島部71の平均粒径と最大粒径を表2に示す。表2の見方は、表1と同じである。
【0115】
【表2】
【0116】
表2における『平均』、即ち金属部品7に含まれる全ての島部71の平均粒径は3.35μmであった。島部71の平均粒径が10μm以下であることは、マトリックス部70中に島部71が微細に分散していることを示す指標の一つである。また、10個の観察視野の平均粒径の標準偏差は0.65、標準誤差は0.21であった。標準誤差が0.3以下であることは、金属部品7の全域にわたって島部71の分散状態が類似していることを示す指標の一つである。さらに、島部71の最大粒径は45.26μmであった。最大粒径が50μm以下であることは、金属部品7が全体的に均一な品質を有することを示す指標の一つである。従って、試験例2に示される金属部品7は全体的に均一な品質を有することが明らかになった。
【0117】
≪試験例3≫
試験例3では、試験例2とは異なる金属部品7を作製し、その金属部品7の組織を調べた。試験例3における試験例2との相違点は、真空焼結の温度が1000℃であることのみである。
【0118】
図13は、本例の金属部品7の断面における1つの観察視野の反射電子像である。図13の倍率は3000倍である。図14は、図13に示される観察視野における島部71の円相当径の測定結果をまとめたグラフである。本例では互いに異なる10個の観察視野を調べた。10個の観察視野のそれぞれから得られた島部71の平均粒径と最大粒径を表3に示す。
【0119】
【表3】
【0120】
表3における『平均』、即ち金属部品7に含まれる全ての島部71の平均粒径は3.74μmであった。標準偏差および標準誤差はそれぞれ、0.41および0.13であった。従って、試験例3に示される金属部品7も全体的に均一な品質を有することが明らかになった。
【0121】
試験例3における全ての島部71の平均粒径は、試験例2における全ての島部71の平均粒径よりも若干大きかった。また、試験例3における10個の観察視野の最大粒径の平均値も、試験例2における10個の観察視野の最大粒径の平均値よりも若干大きかった。試験例3と試験例2との相違点は、真空焼結の温度のみである。従って、真空焼結の温度が高くなるほど、島部71が粗大化する傾向にあることが分かった。
【0122】
≪試験例4≫
試験例4では、試験例1の粉末3を用いた金属積層造形によって金属部品7を作製し、その金属部品7の組織を調べた。
【0123】
金属積層造形装置は、株式会社村谷機械製作所のALPION Type Blueであった。この金属積層造形装置は、粉末3を噴射しながら3本のブルーレーザー光を照射することで、造形を行う装置である。各ブルーレーザー光の最大出力は100W、波長は445nmである。
【0124】
本例の金属積層造形の条件は、以下の通りである。
・粉末3の平均粒径…80μm
・粉末3の噴射量…10g/分
・ブルーレーザー光の出力…100W
・ブルーレーザー光の掃引速度…40mm/s
【0125】
作製された金属部品7の断面を、試験例2および試験例3と同様の方法によって観察した。図15は、本例の金属部品7の断面における観察視野の反射電子像である。図15の倍率は1000倍である。図16は、図15に示される観察視野から得られた島部71の円相当径の測定結果をまとめたグラフである。本例では互いに異なる10個の観察視野を調べた。10個の観察視野のそれぞれから得られた島部71の平均粒径と最大粒径を表4に示す。
【0126】
【表4】
【0127】
表4における『平均』、即ち金属部品7に含まれる全ての島部71の平均粒径は1.14μmであった。島部71の平均粒径が10μm以下であることは、マトリックス部70中に島部71が微細に分散していることを示す指標の一つである。また、10個の観察視野の平均粒径の標準偏差は0.09、標準誤差は0.03であった。標準誤差が0.3以下であることは、金属部品7の全域にわたって島部71の分散状態が類似していることを示す指標の一つである。さらに、島部71の最大粒径は41.62μmであった。最大粒径が50μm以下であることは、金属部品7が全体的に均一な品質を有することを示す指標の一つである。従って、試験例4に示される金属部品7は全体的に均一な品質を有することが明らかになった。
【0128】
図15の写真に示されるように、金属積層造形では層間に島部71が比較的多く存在する濃化層75が形成され易い。これは、既存層の上に新規層を形成する際、新規層を構成する溶融金属が既存層に冷却され易いからである。溶融金属に含まれるクロムの融点が銅の融点よりも高いため、溶融金属が冷却されるとクロムが銅よりも先に固化する。そのため、既存層と新規層との間に濃化層75が形成される。
【0129】
金属積層造形によって作製された金属部品7を図17の固定接点91Bおよび可動接点92Bに適用する場合、電流が流れる方向に沿うように濃化層75を配置すると良い。この場合、濃化層75が真空遮断器9の機能に与える影響を低減できる。
【符号の説明】
【0130】
1 アトマイザー
10 ハウジング
11 仕切り
12 押込み装置、12r ロッド
13 高周波誘導加熱装置、13c コイル
14 ノズル
15 回収ポット
2 原料部材
20 溶湯
3 粉末
4 粒子
40 マトリックス
41 析出物
5 樹脂
6 試料
7 金属部品
70 マトリックス部、71 島部
75 濃化層
9 真空遮断器
90 真空バルブ
91 固定端子、91A 電極棒、91B 固定接点
92 可動端子、92A 電極棒、92B 可動接点
93 ベローズ、94 アークシールド
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17