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特許7489571石油増進回収のための炭化水素可動化の可能性の決定
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-16
(45)【発行日】2024-05-24
(54)【発明の名称】石油増進回収のための炭化水素可動化の可能性の決定
(51)【国際特許分類】
   E21B 47/00 20120101AFI20240517BHJP
   E21B 43/00 20060101ALI20240517BHJP
【FI】
E21B47/00
E21B43/00 Z
【請求項の数】 20
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2020149333
(22)【出願日】2020-09-04
(65)【公開番号】P2021038646
(43)【公開日】2021-03-11
【審査請求日】2023-09-01
(31)【優先権主張番号】16/559,877
(32)【優先日】2019-09-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】514180812
【氏名又は名称】ダッソー システムズ アメリカス コーポレイション
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100067013
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 文昭
(74)【代理人】
【識別番号】100120525
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100139712
【弁理士】
【氏名又は名称】那須 威夫
(74)【代理人】
【識別番号】100141553
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 信彦
(74)【代理人】
【識別番号】100086771
【弁理士】
【氏名又は名称】西島 孝喜
(74)【代理人】
【氏名又は名称】上杉 浩
(72)【発明者】
【氏名】バーンド クルーズ
(72)【発明者】
【氏名】ガナパティ バラスブラマニアン
【審査官】彦田 克文
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2020/0063532(US,A1)
【文献】国際公開第2019/097272(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0059447(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0067347(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0141303(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0048007(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2019/0212241(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0268080(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0343858(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E21B 47/00
E21B 43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1つまたは2つ以上の石油増進回収(EOR)技法によって多孔質貯留岩から回収可能な炭化水素の量を推定するためのコンピュータ実施方法であって、
計算システムによって、物理的多孔質貯留岩サンプル(多孔質貯留岩)のデジタル表現を保持するデータ構造を検索するステップであって、前記デジタル表現が、前記多孔質貯留岩の水攻法の存在下での油の流動挙動の予測を取得するための多相流シミュレーションの実行後の、前記多孔質貯留岩に対応する孔隙空間および粒子空間のデータを含む、ステップと、
前記計算システムによって、前記多孔質貯留岩の前記検索されたデジタル表現において実質的に不動の油の塊またはパッチの位置を特定するステップと、
前記計算システムによって、前記不動の油の塊に、所与の1つまたは2つ以上のEOR技法の分析を実行し、前記所与の1つまたは2つ以上のEOR技法の第1の反復は第1の作業レベルを費やし、前記所与の1つまたは2つ以上のEOR技法の第2の反復は第2のより高い作業レベルを費やすものである、ステップと、N個の実質的に不動の油の塊またはパッチ(塊)について、
前記計算システムによって、前記EOR技法の前記所与の1つについて前記塊の易動度の変化を判断するステップと、
前記計算システムによって、前記所与の1つまたは2つ以上のEOR技法の第1の反復と第2の反復との間の前記塊の可動化の変化量の推定を生成するステップと、
を含む、コンピュータ実施方法。
【請求項2】
前記計算システムによって、前記不動の油の塊に、追加的な作業レベルで追加的な反復を実行するステップと、
前記所与の1つまたは2つ以上のEOR技法の、前記追加的な作業レベルでのすべての反復を統合して、前記作業レベルに応じて、前記1つまたは2つ以上のEOR技法について油回収可能な油の増分量の概算を提供するステップと、
前記計算システムに関連する表示デバイス上に表示するため、前記所与の1つまたは2つ以上のEOR技法について前記塊の可動化の前及び後の油の塊の体積の比較を生成するステップと、
をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記所与のEOR技法が、第1のEOR技法であり、前記塊の前記易動度の変化を判断するステップが、
第2の異なるEOR技法の2回以上の反復にわたって前記塊の易動度を判断して、前記第2の異なるEOR技法の第1の反復と第2の反復との間の前記塊の可動化の変化量を推定するステップであって、前記第2のEOR技法の前記1回または2回以上の反復のうちの前記第1の反復が、第1の作業レベルを費やし、前記第2の異なるEOR技法の前記1回または2回以上の反復のうちの前記第2の反復が、第2のより高い作業レベルを費やす、ステップ
をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記第1のEOR技法および前記第2のEOR技法のそれぞれについての油回収可能な油の増分量の概算を提供するための前記生成された概算に基づいて、前記第1のEOR技法および前記第2のEOR技法のそれぞれについて判断を生成するステップをさらに含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記塊を評価するステップが、
前記第1のEOR技法および前記第2のEOR技法のそれぞれの、前記第1の作業レベルおよび前記第2の作業レベルを含む、異なる作業レベルでのすべての反復を統合して、前記作業レベルに応じて、前記第1のEOR技法および前記第2のEOR技法のそれぞれについて油回収可能な油の増分量の概算を提供するステップ
をさらに含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記塊が、接続された油相領域および/または前記多孔質貯留岩の壁に付着した油である油パッチを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
作業が、前記所与のEOR技法のパラメータの量の増加を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
作業が、1つまたは複数の圧入流量および圧入界面活性剤の種類を含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
作業が、前記多孔質貯留岩に適用される前記第1のEOR技法および前記第2のEOR技法のそれぞれのパラメータの量の増加を含む、請求項3に記載の方法。
【請求項10】
作業が、1つまたは複数の圧入流量および圧入界面活性剤の種類を含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
混和性ガス攻法によって多孔質貯留岩から回収可能な炭化水素の量を推定するためのシステムであって、
1つまたは複数のプロセッサデバイスと、
前記1つまたは複数のプロセッサデバイスに動作可能に結合されたメモリと、
前記システムに、
物理的多孔質貯留岩サンプル(多孔質貯留岩)のデジタル表現を保持するデータ構造を検索することであって、前記デジタル表現が、前記多孔質貯留岩の水攻法の存在下での油の流動挙動の予測を取得するための多相流シミュレーションの実行後の、前記多孔質貯留岩に対応する孔隙空間および粒子空間のデータを含む、検索することと、
前記多孔質貯留岩の前記検索されたデジタル表現において実質的に不動の油の塊またはパッチの位置を特定することと、
前記不動の油の塊に、所与の1つまたは2つ以上のEOR技法の分析を実行し、前記所与の1つまたは2つ以上のEOR技法のための前記分析の第1の反復は第1の作業レベルを費やし、前記所与の1つまたは2つ以上のEOR技法のための前記分析の第2の反復は第2のより高い作業レベルを費やすものである、分析を実行することと、N個の実質的に不動の油の塊またはパッチ(塊)について、
前記所与のEOR技法の前記塊の易動度の変化を判断して、前記所与の1つまたは2つ以上のEOR技法の前記第1の反復と前記第2の反復との間の前記塊の可動化の変化量の推定を生成することと、
を実行させる、実行可能プログラム命令を記憶するコンピュータストレージと
を備える、システム。
【請求項12】
前記不動の油の塊に、追加的な作業レベルで追加的な反復を実行することと、
前記所与の1つまたは2つ以上のEOR技法の、前記追加的な作業レベルでのすべての反復を統合して、前記作業レベルに応じて、前記所与の1つまたは2つ以上のEOR技法について油回収可能な油の増分量の概算を提供することと、
前記システムに関連する表示デバイス上に表示するため、前記所与の1つまたは2つ以上のEOR技法について前記塊の可動化の前及び後の油の塊の体積の比較を生成することと、
をさらに実行するように構成される、請求項11に記載のシステム。
【請求項13】
前記所与のEOR技法が、第1のEOR技法であり、前記システムが、
第2の異なるEOR技法の2回以上の反復にわたって前記塊の易動度を判断して、前記第2の異なるEOR技法の第1の反復と第2の反復との間の前記塊の可動化の変化量を推定するようにさらに構成され、前記第2のEOR技法の前記2回以上の反復のうちの前記第1の反復が、第1の作業レベルを費やし、前記第2の異なるEOR技法の前記2回以上の反復のうちの前記第2の反復が、第2のより高い作業レベルを費やす、請求項11に記載のシステム。
【請求項14】
前記第1のEOR技法および前記第2のEOR技法のそれぞれの、前記第1の作業レベルおよび前記第2の作業レベルを含む、異なる作業レベルでのすべての反復を統合して、前記作業レベルに応じて、前記第1のEOR技法および前記第2のEOR技法のそれぞれについて油回収可能な油の増分量の概算を提供する
ようにさらに構成される、請求項13に記載のシステム。
【請求項15】
作業が、前記所与のEOR技法のパラメータの量の増加を含む、請求項13に記載のシステム。
【請求項16】
記多相流シミュレーションは、第1の数値多相流シミュレーションであり、前記システムはさらに、第2の数値多相流シミュレーションを実行して、前記多孔質貯留岩のガス攻法の流動挙動の予測を取得する
ようにさらに構成される、請求項11に記載のシステム。
【請求項17】
混和性ガス攻法によって多孔質貯留岩から回収可能な炭化水素の量を推定するための、非一時的記憶デバイス上に有形に記憶されたコンピュータプログラム製品であって、システムに、
物理的多孔質貯留岩サンプル(多孔質貯留岩)のデジタル表現を保持するデータ構造を検索することであって、前記デジタル表現が、前記多孔質貯留岩の水攻法の存在下での油の流動挙動の予測を取得するための多相流シミュレーションの実行後の、前記多孔質貯留岩に対応する孔隙空間および粒子空間のデータを含む、検索することと、
前記多孔質貯留岩の前記検索されたデジタル表現において実質的に不動の油の塊またはパッチの位置を特定することと、
前記不動の油の塊に、所与の1つまたは2つ以上のEOR技法の分析を実行し、前記所与の1つまたは2つ以上のEOR技法のための前記分析の第1の反復は第1の作業レベルを費やし、前記所与の1つまたは2つ以上のEOR技法のための前記分析の第2の反復は第2のより高い作業レベルを費やすものである、分析を実行することと、N個の実質的に不動の油の塊またはパッチ(塊)について、
前記所与のEOR技法の前記塊の易動度の変化を判断して、前記所与の1つまたは2つ以上のEOR技法の前記第1の反復と前記第2の反復との間の前記塊の可動化の変化量の推定を生成することと、
を実行させる命令を含む、コンピュータプログラム製品。
【請求項18】
前記不動の油の塊に、追加的な作業レベルで追加的な反復を実行することと、
前記所与の1つまたは2つ以上のEOR技法の、前記追加的な作業レベルでのすべての反復を統合して、前記作業レベルに応じて、前記所与の1つまたは2つ以上のEOR技法について油回収可能な油の増分量の概算を提供することと、
前記システムに関連する表示デバイス上に表示するため、前記所与の1つまたは2つ以上のEOR技法について前記塊の可動化の前及び後の油の塊の体積の比較を生成することと、
のための命令をさらに含む、請求項17に記載のコンピュータプログラム製品。
【請求項19】
前記所与のEOR技法が、第1のEOR技法であり、
第2の異なるEOR技法の2回以上の反復にわたって前記塊の易動度を判断して、前記第2の異なるEOR技法の第1の反復と第2の反復との間の前記塊の可動化の変化量を推定し、前記第2のEOR技法の前記2回以上の反復のうちの前記第1の反復が、第1の作業レベルを費やし、前記第2の異なるEOR技法の前記2回以上の反復のうちの前記第2の反復が、第2のより高い作業レベルを費やし、
前記第1のEOR技法および前記第2のEOR技法のそれぞれの、前記第1の作業レベルおよび前記第2の作業レベルを含む、異なる作業レベルでのすべての反復を統合して、前記作業レベルに応じて、前記第1のEOR技法および前記第2のEOR技法のそれぞれについて油回収可能な油の増分量の概算を提供する
ための命令をさらに含む、請求項17に記載のコンピュータプログラム製品。
【請求項20】
1つまたは複数の圧入流量および圧入界面活性剤の種類を変更することによって作業レベルを変更する
ための命令をさらに含む、請求項17に記載のコンピュータプログラム製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、多相流体流シミュレーションに関し、特に、流体置換プロセスのシミュレーションまたはモデル化に関する。
【背景技術】
【0002】
二相相対浸透率(たとえば、相対浸透率曲線(kr))は、ある流体、たとえば油が、別の流体、たとえば水の存在下で、多孔質媒体を通ってどの程度容易に移動できるかを表す。二相相対浸透率は、炭化水素貯留岩の重要な特性であり、油およびガスの貯留層のモデル化およびシミュレーション活動への重要な入力データである。
【0003】
多孔質岩石中の油の水置換(water displacement)の文脈において、水は圧入井(injector well)を通して圧入されて油を置換し、油を生産井(producer well)へと押し出す。置換中、一部の油が、多孔質岩の孔隙空間にトラップされる可能性がある。このような油は不動(immobile)と見なされ、通常の置換プロセスでは置換することができない。多孔質岩の孔隙空間にトラップされた不動の油は、石油増進回収(EOR:enhanced oil recovery)法を適用しない限り置換することができない。EOR法は、トラップされた油を可動化(mobilize)し、それにより石油回収を高めるよう試みる。
【0004】
「濡れ性」という用語は、同じ孔隙空間内の第2の流体と比較した、流体が表面に付着する(または濡らす)傾向、すなわちある流体が、他の非混和性流体の存在下で固体表面に広がるまたは付着する傾向の尺度として使用される。石油の文脈において、濡れ性は、貯留岩の表面が多相または二相流体系内の特定の流体に優先的に接触する傾向である。
【0005】
一般に、多孔質媒体を通る相対浸透率および多相流は、岩石表面の特性、各流体の物理的特性、および流動条件を含む、流体-流体-岩石系の様々な特性に依存する。流動特性の1つは、粘性力と毛細管力との比を表す無次元の「キャピラリー数」(Ca)である。「キャピラリー数」(Ca)は通常、表面流体速度に基準流体の粘度を乗算したものを、流体-流体の界面張力で除算したものと定義される。別の特性は、ある流体を別の流体と比較した岩石表面に対する優先度を表す「濡れ性」であり、接触角として知られる測定可能な特性として現れる。濡れ性は、しばしば、親水性(water-wet)(平均接触角0~90度)、中性の濡れ性(neutral-wet)(約90度)、親油性(oil-wet)(90~180度)、または強親水性もしくは弱親油性などのそれらのいくつかの変形に分類される。
【0006】
濡れ性は、貯留岩を流れる油と水、油とガス、または水とガスなどの多孔質物質の多相流挙動に大きく影響を及ぼす。貯留岩(人工物とは異なる)は、空間的に異なる濡れ性を有する傾向があり、すなわち、接触角は、岩石の孔隙空間内の表面上の場所ごとに異なる。接触角分布は、炭化水素含有岩石の鉱物組成および地質学的歴史、ならびに表面の質感、岩石と接触する流体(たとえば、水、油)の化学組成などの結果である。岩石は、油と接触する前は、ほとんどの場合、生来親水性であり、地質学的な時間の経過とともに油が孔隙空間に侵入すると、油相内の物質の付着により、一定の場所において初期の親水性の特性が変化する場合がある。濡れ性の変化のメカニズムは、圧力、温度、鉱物種類、および流体組成などの様々な局所系の特性によって異なる。
【発明の概要】
【0007】
本開示の主題は、不動の油(トラップされた油)を分析することによって様々なEOR法の有効性を予測し、EOR研究を計画するためのガイダンスを提供するための効果的な技術を提供する。計算システムは、多相流シミュレーションを実行して、多孔質貯留岩の水攻法の存在下での油の流動挙動の予測を取得する。多相流シミュレーションの実行に続いて、多孔質貯留岩内の不動の油の塊(immobile oil blobs)またはパッチが位置特定され、識別される。サンプルの孔隙空間内のこれらの油塊は、サイズ、形状、境界面および接続された孔隙空間領域などの周囲の孔隙空間の特性に関して分析される。サンプルの孔隙空間内の油塊は、局所的および大域的な流動条件(たとえば、圧力および速度場)、ならびに塊近傍の岩石の濡れ性に関しても分析される。分析された各塊は、条件の変更を反復する間に評価されて、その油塊を可動化する条件が決定される。すべての油塊にわたる統合は、一定のEOR法の効率の評価につながる。
【0008】
一態様において、少なくとも1つの石油増進回収(EOR)技法によって多孔質貯留岩から回収可能な炭化水素の量を推定するためのコンピュータ実施方法は、計算システムによって、物理的多孔質貯留岩サンプル(多孔質貯留岩)の表現を検索するステップであって、表現が、多孔質貯留岩の水攻法の存在下での油の流動挙動の予測を取得するための多相流シミュレーションの実行後の、多孔質貯留岩に対応する孔隙空間および粒子空間のデータを含む、ステップと、多孔質貯留岩の検索された表現において実質的に不動の油の塊またはパッチの位置を特定するステップと、N個の実質的に不動の油の塊またはパッチ(塊)について、所与のEOR技法の2回以上の反復にわたって塊の易動度(mobility)の変化を評価して、所与のEOR技法の第1の反復と第2の反復との間の塊の可動化の変化量を推定するステップであって、2回以上の反復のうちの第1の反復が、第1の作業レベルを費やし、2回以上の反復のうちの第2の反復が、第2のより高い作業レベルを費やす、ステップとを含む。
【0009】
他の態様は、非一時的コンピュータ可読媒体上に有形に記憶されたコンピュータプログラム製品、およびコンピュータシステム、コンピュータサーバなどの計算システムを含む。
【0010】
以下は、上記の1つまたは複数の態様に含まれる追加の機能の一部である。
【0011】
所与のEOR技法の第1の作業レベルおよび第2の作業レベルを含む、異なる作業レベルでのすべての反復の統合は、作業レベルに応じた所与のEOR技法の油回収可能な油の増分量の概算を提供する。所与のEOR技法は、第1のEOR技法であり、塊を評価するステップは、第2の異なるEOR技法の2回以上の反復にわたって塊の易動度を評価して、第2の異なるEOR技法の第1の反復と第2の反復との間の塊の可動化の変化量を推定するステップであって、第2のEOR技法の2回以上の反復のうちの第1の反復が、第1の作業レベルを費やし、第2の異なるEOR技法の2回以上の反復のうちの第2の反復が、第2のより高い作業レベルを費やす、ステップをさらに含む。
【0012】
態様は、第1のEOR技法および第2のEOR技法のそれぞれについての評価を生成するステップをさらに含み得る。塊を評価するステップは、第1のEOR技法および第2のEOR技法のそれぞれの第1の作業レベルおよび第2の作業レベルを含む、異なる作業レベルでのすべての反復を統合して、作業レベルに応じて、第1のEOR技法および第2のEOR技法のそれぞれについて回収可能な油の増分量の概算を提供するステップをさらに含む。塊は、接続された油相領域および/または多孔質貯留岩の壁に付着した油である油パッチを含む。作業は、所与のEOR技法のパラメータの量の増加を含む。作業は、1つまたは2つ以上の圧入流量(injection flow rate)および圧入界面活性剤(injection surfactants)の種類を含む。作業は、多孔質貯留岩に適用される第1のEOR技法および第2のEOR技法のそれぞれのパラメータの量の増加を含む。作業は、1つまたは2つ以上の圧入流量および圧入界面活性剤の種類の値に対する変更を含む。
【0013】
上記の態様の1つまたは複数は、以下の利点のうちの1つまたは複数を提供し得る。
【0014】
上記の態様は、可能な各EOR法の実際のシミュレーションを実行することなく、貯留層に適用され得る様々な可能なEOR法の効率の推定値を提供する。効率の推定値を比較して、EOR法の特定の1つを展開するためのガイダンスを提供することができ、したがってEOR設計空間を探索するために必要なテストの範囲を低減することができる。態様は、多相流シミュレーションにおける相対浸透率または毛細管圧シミュレーションの値を増やし、可動化効率の統計的分布への洞察を提供することができる。態様は、krシミュレーション構成設定の最適化および結果の解釈に有用である場合がある。たとえば、1つの結果は、ある流体の別の流体による置換が臨界キャピラリー数を上回って発生したか、または下回って発生したかの予測とすることができる(キャピラリー数は、粘性力と毛細管力との比であり、臨界キャピラリー数は、油の回収につながる油の可動化の開始を定義するキャピラリー数の値である)。これらの態様は、実験室の流体置換実験で物理的な岩石サンプルから取得された3D画像から得られる孔隙空間(pore space)内の流体分布に適用してもよい。
【0015】
本発明の他の特徴および利点は、以下の説明および特許請求の範囲から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】様々な石油増進回収技法の相対的有効性を予測するためのシステムのブロック図である。
図2】様々な石油増進回収技法の相対的有効性を予測するための動作を示すフローチャートである。
図3】石油回収を推定するためのガス攻法シミュレーション動作を示すフローチャートである。
図4】スロート本体を通る塊の可動化の2D図である。
図5】スロート-本体-スロートのチューブ束の例を示す図である。
図6】孔隙スロート/本体の中心線に沿った圧力分布を示す図である。
図7図5の例についての理論的に予測された可動圧力対シミュレート後の可動圧力のプロットである。
図8】ベレア砂岩B200の相対浸透率(kr)曲線のプロットである。
図9】塊の体積の視覚表現、ならびに塊の長さおよび塊の数に基づく塊の推進力のプロットである。
図10A-10B】2つのキャピラリー数の棒グラフである。
図11】可動化前後の油塊の体積の比較を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
石油増進回収(EOR)は、しばしば三次回収と呼ばれ、一次石油回収中または二次石油回収中に油が抽出されなかった貯留層から油を抽出するための様々な技法を含む。微視的なレベルでは、抽出されなかった油は、しばしば、トラップされた油または不動の油と関連している。EOR法はすべて、トラップされた油または不動の油を最小限に抑えるように試みる。置換効率としては、微視的置換効率および巨視的置換効率の2種類が考えられる。
【0018】
微視的置換効率は、相対浸透率関数の形式で説明することができる。二相相対浸透率(kr)は、ある流体が別の流体の存在下で多孔質媒体をどれだけ容易に通過できるかを表す。相対浸透率曲線は、しばしば残留油と呼ばれる、トラップされた油の量も含む。相対浸透率曲線は、炭化水素貯留岩の特徴であり、油およびガス貯留層のモデル化およびシミュレーション活動への入力データである。一般に、相対浸透率、および多孔質媒体を通る多相流は、岩石表面の特性、各流体の物理的特性、および流動条件を含む、流体-流体-岩石系の様々な特性に依存する。
【0019】
流動条件の1つは、粘性力と毛細管力との比を表す無次元のキャピラリー数(Ca)であり、通常、平均流体速度に基準流体の粘度を乗算したものを流体-流体の界面張力で除算したものと定義される。別の特性は、「濡れ性」、すなわち、ある流体を別の流体と比較した岩石表面に対する優先度である。濡れ性は、接触角として知られる測定可能な特性として現れる。濡れ性は、しばしば、親水性(平均接触角0度~最大約90度)、中性の濡れ性(約90度)、親油性(90度をわずかに上回る~180度)、または強い親水性もしくは弱い親油性などのそれらのいくつかの変形に分類される。
【0020】
油塊の可動化は、油塊の少なくとも部分的な回収につながる。可動化は石油回収を増進させる。1つのEOR技法の1つの作業レベルに対するすべての油塊の可動化の統合は、一定量の増分の石油回収に相当する。したがって、特定のEOR技法(たとえば、界面活性剤の圧入)の場合、プロセスは2つ以上の作業(たとえば、界面活性剤濃度の連続的な増加)を評価し、貯留岩内のすべての油塊の可動化の増加量を決定する。各作業レベル(たとえば、界面活性剤濃度の増加)のすべての油塊にわたる結果を統合することによって回収を決定することができるので、複数の作業レベルは、評価のために使用およびプロットされ得る複数の統合された結果、または評価のためにレンダリングされた他の結果をもたらす。
【0021】
図1を参照すると、1つまたは2つ以上の石油増進回収技法によって多孔質貯留岩(porous reservoir rock)から回収可能な炭化水素の相対量を決定するためのシステム10が示されている。この実装形態におけるシステム10は、クライアントサーバまたはクラウドベースのアーキテクチャに基づいており、大規模並列計算システム12(スタンドアロンまたはクラウドベース)として実装されたサーバシステム12、およびクライアントシステム14を含む。サーバシステム12は、メモリ18、バスシステム22、インターフェース20(たとえば、ユーザインターフェース/ネットワークインターフェース/ディスプレイまたはモニタインターフェースなど)、および処理デバイス24を含む。
【0022】
メモリ18には、たとえば、多孔質貯留岩層のデジタル表現を生成する3D画像化エンジン32と、多孔質貯留岩層のデジタル表現の分析から、多孔質貯留岩層における孔隙空間網の形状の特性を決定する画像分析エンジン32bとがある。また、メモリ18には、多孔質貯留岩層のデジタル表現を通じて、様々な飽和値に対して数値多相流シミュレーションを実行して、相対浸透率を含む流動挙動の予測を飽和率の関数として取得するシミュレーションエンジン34がある。いくつかの実施形態では、多相流挙動のシミュレーションは、ガス井または油井(たとえば、掘削リグ37)に隣接する貯留岩を通して行われる。
【0023】
多孔質貯留岩層のデジタル表現、および孔隙空間網の特性を決定するために使用される、エンジン32によって実施される画像分析は、サーバ12とは異なるシステムで実行されるサードパーティアプリケーションとすることができる。システム10は、単に、地層のデジタル表現、およびシミュレーションエンジン34への入力として利用可能な孔隙空間網の分析のみを必要とする。貯留岩サンプルのデジタル表現を提供するための1つの手法は、たとえば、貯留岩サンプルのマイクロCTスキャンから生成される多孔質貯留岩層の3D画像化から表現を取得することである。
【0024】
メモリ18はまた、鉱物種類33aを粒子に割り当てて、その鉱物種類のそれぞれの表面特性、ならびに表面の質感および粗度の特性を決定することによって得られる粒子表面特性など、エンジン34によって使用されるパラメータも記憶する。メモリ18はまた、流体特性33b、たとえば、予想される各流体(たとえば、水、ガス、油のうちの2つ以上)の流体密度および粘度、および流体-流体の界面張力特性などのパラメータも記憶する。メモリ18はまた、流体の化学組成データ33c、および特定の鉱物種類に対する流体成分の親和性データ33dなどのパラメータも記憶する。メモリ18はまた、流体と組み合わせた各鉱物種類の分離圧33e、およびエージングエンジン32によって使用される選択されたエージング時間33fも記憶する。加えて、貯留層の圧力および温度のデータも記憶される。評価される鉱物種類は、貯留層の実際の場所で見つかった、または予想されたものであり得る。
【0025】
シミュレーションエンジン34は、貯留岩サンプルシミュレーション環境を設定するためのモジュール(図示せず)と、水攻法の孔隙スケール数値シミュレーションを実行するためのモジュール(図示せず)とを含む。システムはまた、EOR研究を計画するためのガイダンスを提供するために、多孔質貯留岩のシミュレートされた水攻法に続いて、不動の油(トラップされた油)を分析することによって、1つまたは2つ以上のEOR法のそれぞれについて異なる作業レベル(effort level)の相対的有効性を調査することを可能にする、分析モジュール34aを含む。
【0026】
一般に、シミュレーションは、所与の貯留岩サンプルに対して1回だけ実行する必要があり、シミュレーションの完了時に、分析エンジン34aを使用して、1つまたは2つ以上のEOR法のそれぞれの相対的有効性の作業レベルを決定する。ほとんどの実装形態では、計算コスト(プロセッサ、メモリリソースなど、および時間など)は、シミュレーションエンジン34よりも分析エンジン34aの実行の方が低くなる可能性が最も高い。
【0027】
分析エンジン(モジュール)34aは、所与のEOR技法に使用されるパラメータの変更を1回または2回以上の反復にわたって、油塊のサイズ、形状、孔隙空間の周囲の形状(境界および接続された孔隙空間領域)に関して孔隙空間内の各油塊を分析するとともに、局所的および大域的な流動条件(圧力および速度場)ならびに塊近傍の濡れ性を分析する。いくつかの実装形態では、EOR技法ごとに1回の反復が使用される場合があるが、他の実装形態では、2回以上の反復が必要になる場合がある。いくつかの実装形態では、分析には1つまたは複数のEOR法の2つ以上の高い作業レベルが含まれ、他の実装形態では、分析には2つ以上のEOR法の1つまたは複数の高い作業レベルが含まれる。
【0028】
参照により本明細書に組み込まれる、2019年8月20日に出願された「Determination of Oil Removed by Gas via Miscible Displacement in Reservoir Rock」という名称の米国特許出願第16/545,387号には、貯留岩サンプルシミュレーション環境を設定するためのモジュールおよび水攻法の孔隙スケール数値シミュレーションを実行するためのモジュールの例が記載されている。
【0029】
これらの分析からデータを取得すると、多孔質貯留岩の水攻法のシミュレーション後に残存している各塊が位置特定される。残存している塊は、実質的に不動の(たとえば、動きが遅い、またはトラップされた)油の塊またはパッチである。N個のこれらの実質的に不動の油の塊またはパッチ(塊)について、モジュール34aは、1つまたは2つ以上のEOR技法のそれぞれについて様々な作業レベルにわたって塊を評価して、その1つまたは2つ以上のEOR技法のそれぞれについて作業レベルごとの塊の可動化量を推定する。言い換えると、各塊の易動度の変化を分析して、各EOR技法がその油塊を可動化するために必要な最適な作業レベルを決定する。モジュール34aは、EOR技法のそれぞれに適用された複数の作業のそれぞれについて、すべての油塊にわたる可動化量の統合を実行して、様々なEOR技法の予測効率の測定値を提供する。
【0030】
次に図2を参照すると、モジュール34aは、EORスクリーニング40を実行する。モジュール34aは、水攻法の単一のシミュレーションを実行するように構成され(42)、サイズ、幾何学的範囲、濡れ条件を伴う周囲の粒子空間、局所的な流れ場(圧力、速度)、および大域的な流れ場(圧力、速度)に関して、トラップされた各油塊を文書化する。分析モジュール34aは、1つまたは2つ以上の異なるEOR技法のそれぞれについて、様々な作業レベルに対する分析の数回の反復を実行するように構成される(44)。
【0031】
すなわち、シミュレーションエンジン34は、水攻法後の孔隙空間の状態を提供する。この孔隙空間の状態は、所与のEOR技法についての最適な作業レベルの量を決定するために、分析エンジン(モジュール)34aが作業レベルおよびEOR技法の分析を実施するために使用する表現35である。この表現35は、シミュレーション後の(トラップされた油塊の特性を含む)孔隙空間の状態を説明するデータを体系的に格納するデータ構造の形式をとることができる。他の実装形態では、フラットファイルもしくはグラフ、または他のコンピュータ構造を使用することができる。表現35は、分析モジュール34aに供給され、シミュレーションの結果を分析するために分析モジュール34aによって使用される(46)。表現35は、分析エンジン34aによって動作されて、所与の作業レベルを表す特性のセットを塊に適用することによって作業レベルの様々な反復にわたって分析エンジン34aから決定されるような、トラップされた油塊のその後の特性が決定される。作業の各反復は、塊の易動度の相対的な増加を決定することによって、反復の有効性を表すデータを生成する。生成されたデータは、作業反復ごとおよびEOR技法ごとに記憶される(48)。モジュール34aは、反復が所与のEOR技法の最後の作業反復であるかどうかを判定する(50)ように構成される。反復が最後の作業反復ではない場合(50)、モジュール34aは、特性のセットの作業レベルを変更し(52)、新しい作業レベルを表す、新しい、すなわち変更された特性のセットを用いた所与のEOR技法を使用して別の作業反復を実行する(46)ように構成される。
【0032】
所与のEOR技法の特性のセットは、特定の技法によって管理される。たとえば、特性には、流量、界面活性剤、ポリマー、および界面活性剤-ポリマーの組合せの相対濃度ならびに種類、水ガス交互圧入(WAG:water alternating gas)サイクルおよびデューティサイクルなどが含まれ得る。他の例には、塩水または水に分解された他のタイプの化学物質の圧入、蒸気の圧入、ガスの圧入などが含まれる。他の特性には、推進力(圧力ヘッド、体積力、圧入流量)、混和性置換(CO2圧入)、濡れ性の変化、易動度比の変化などが含まれる。特性のセットは、シミュレートされるEOR技法のタイプによって異なる。したがって、作業反復は、所与のEOR技法の1つまたは2つ以上の特性を変更して、その変更が塊の易動度の変化にどのように影響するかを分析する。
【0033】
反復が、構成された反復の最後である場合(50)、モジュール34aは、エンジン34aが最後のEOR技法をシミュレートしたかどうかを判定する(54)ように構成される。そのEOR技法が、最後のEOR技法ではない場合、分析モジュール34aは、技法を変更し(56)、新しいEOR技法を提供するように構成される。分析モジュール34aは、新しいEOR技法で構成され、新しいEOR技法に従って、サイズ、幾何学的範囲、濡れ条件を伴う周囲の粒子空間、局所的な流れ場(圧力、速度)、および大域的な流れ場(圧力、速度)に関して、トラップされた各油塊の文書化された特性について別の分析を実行する。分析モジュール34aは、異なる作業レベル(所与のEOR技法の特性のセット)を伴う所与の回数の作業反復について、作業レベルの様々な反復にわたるシミュレーションの結果(文書化された特性)を分析する(46)。そのEOR技法が、最後のEOR技法である場合、モジュール34aは、EOR技法ごとのすべての反復からの結果を評価し(58)、シミュレートされた様々なEOR技法に対して評価を生成する(60)ように構成される。
【0034】
次に図3を参照すると、モジュール34aは、水攻法から開始して、第1のEORシミュレーション70を実行する。たとえば、モジュール34aは、ガス攻法を実行し、ガス攻法によってどれだけの量の油が生成されるか、ならびにその生成された油のどれだけの量が、抽出および膨張に対して直接置換に起因するものであるかを算出する。システム10は、2Dおよび/または3Dメッシュ、座標系、および計算流体力学またはいわゆる格子ボルツマン法などの任意のよく知られた計算技法を使用するシミュレーションで使用され得るライブラリを格納する、データリポジトリ38にアクセスする。
【0035】
他の実施例では、貯留岩の孔隙空間の状態を表すためにガス攻法が使用されるのではなく、界面活性剤攻法またはポリマー攻法が使用される。その理由は、ガス圧入が一般的に許容される第3の相(油、水、ガス)である一方で、界面活性剤攻法またはポリマー攻法を使用することも可能であるためである。界面活性剤攻法またはポリマー攻法は、新しい相とは見なされない。代わりに、界面活性剤またはポリマーを使用して水または塩水の基本的な物理的特性(粘度、界面張力)を変更することで、回収率を高める。
【0036】
貯留岩サンプルの孔隙空間および粒子空間のデジタル表現を受信または検索すると(72)、シミュレーションエンジンモジュール34bは、水攻法の孔隙スケール数値シミュレーションを実行するための入力パラメータおよび条件を設定し、設定されたシミュレーション環境を使用して、水攻法の孔隙スケール数値シミュレーションを実行する(74)。水攻法を実行すると(74)、シミュレーションエンジン34は、孔隙空間の状態をメモリに記憶し(76)、ガス攻法シミュレーションを実行する(78)。ガス攻法を実行すると(78)、シミュレーションエンジン34はまた、ガス攻法シミュレーション実行(78)後の孔隙空間の状態をメモリに記憶する(80)。シミュレーションエンジンの一部であり得る推定エンジンは、ガス攻法のシミュレーション結果を使用して、直接置換に起因してガス攻法によって回収される油の量を算出し(46a)、抽出および膨張に起因して回収される量を計算する(46b)。
【0037】
システム10は、水攻法およびガス攻法などのシミュレーションを実施するためにLBM技法を使用するものとして説明されているが、前述のように、計算流体力学でよく知られている様々な計算技法のいずれかを使用することができる。
【0038】
説明のために、流体流シミュレーションのための「格子ボルツマン法」(LBM:Lattice Boltzmann Method)を使用して、多相シミュレーションについて簡単に説明する。巨視的特性(すなわち、質量、運動量、およびエネルギー)の保存方程式を数値的に解く他の計算流体力学技法とは異なり、LBM技法は、流体を「粒子」としてモデル化し、その粒子が、ボクセルで構成された格子メッシュ上で連続的な伝播および衝突プロセスを実行する。ボクセルは、様々なサイズのものとすることができ、流体流分析の基本単位面積として機能する。ボクセルは、特定の領域内の流体の状態を表す特性(たとえば、その領域内の流体の速度を表す速度ベクトルを含む)に関連付けられる。シミュレーションの各時間ステップ中、流体は、速度ベクトルに従って、あるボクセルから別のボクセルに移動し得る。衝突演算子は、流体の動きによって衝突する様々な流体の影響を表す。
【0039】
LBM技法は、スケーラブルなコンピュータプラットフォームに効率的に実装して、時間非定常流および複雑な境界条件に対して優れたロバスト性を伴って実行することができる。一実施例では、孔隙スケール多相流体流シミュレーションの結果を使用して、貯留岩内の流体置換メカニズムを理解することができる。貯留岩のマイクロCT画像を使用して、各シミュレーションへの入力として使用される孔隙率ジオメトリを構築することができる。
【0040】
LBM技法を使用するシステム10は、相対浸透率、および多孔質媒体を通る多相流を決定し、これらは一般に、岩石表面の特性、各流体の物理的特性、および流動条件を含む、流体-流体-岩石系の様々な特性に依存する。流動条件の1つは、粘性力と毛細管力との比を表す無次元のキャピラリー数(Ca)であり、通常、平均流体速度に基準流体の粘度を乗算したものを流体-流体の界面張力で除算したものと定義される。別の特性は、ある流体を別の流体と比較した岩石表面に対する優先度を表す濡れ性であり、接触角として知られる測定可能な特性として現れる。
【0041】
システム10は、水攻法およびガス攻法のシミュレーションを実施するように構成される場合、最初に水攻法シミュレーションを実施するように構成される。水攻法をシミュレートするために、シミュレーションは、孔隙空間に圧入される水を一方の流体とし、油を他方の流体とした、2流体シミュレーションとして設定される。水攻法プロセスのシミュレーションは、本質的に、水の圧入により生じる置換をシミュレートすることである。典型的な濡れ性プロセスの場合、プロセスは、濡れ性の変更が実行された後に流体相が再分布される反復プロセスとして設定される。このプロセスは、(さらに繰り返しても結果(たとえば、接触角)が大幅には変化しないことによって測定されるように)濡れ性の変化が収束するとエンジン34が判断するまで繰り返される。プロセス40は、接触角を変化させる必要がある量を提供する確立された閾値を参照し、必要がない場合は、濡れ性変更シミュレーションのさらなる反復を停止する。このようなプロセスの1つは、2019年1月9日に出願された「DETERMINING FLUID FLOW CHARACTERISTICS OF POROUS MEDIUMS」という名称の米国特許出願第16/243,285号において開示されており、その内容全体は参照により本明細書に組み込まれる。濡れ性プロセスは、二相相対浸透率(kr)プロセスを使用して、ある流体、たとえば油が、別の流体、たとえば水の存在下で、どの程度容易に移動できるかを判断する。
【0042】
二相相対浸透率は、炭化水素貯留岩の重要な特性であり、油およびガス貯留層のモデル化およびシミュレーション活動への重要な入力データである。二相相対浸透率を決定するための1つの技法は、2014年11月20日に米国特許出願公開第2014/0343858号として公開されている、2014年5月15日に出願された「MASS EXCHANGE MODEL FOR RELATIVE PERMEABILITY SIMULATION」という名称の米国特許出願第14/277,909号において開示されており、その内容全体は参照により本明細書に組み込まれる。
【0043】
システム10は、水攻法およびガス攻法のシミュレーションを実施するように構成される場合、地層内の塊を追跡することもできる。二相相対浸透率を決定するための1つの技法は、2015年9月24日に米国特許出願公開第2015/0268080号として公開されている、2015年3月17日に出願された「FLUID BLOB TRACKING FOR EVALUATION OF MULTIPHASE FLOW SIMULATIONS」という名称の米国特許出願第14/660,019号において開示されており、その内容全体は参照により本明細書に組み込まれる。
【0044】
水攻法シミュレーションの実行後、(特定のEORタイプの)ガス攻法シミュレーションが実行される。したがって、シミュレーションエンジン34は、水攻法シミュレーションの結果として生じる孔隙空間の状態からガス攻法シミュレーションを実施するように構成され、孔隙空間内の残留水を一方の流体とし、炭化水素(混和性ガス+油)を他方の流体とする。ガス攻法シミュレーションは、シミュレーションが炭化水素(圧入されたガスと油の合計量)と残留水に対して構成されていることを除いて、上記の技法を使用して実施される。
【0045】
水攻法およびガス攻法のシミュレーションの例示的なシミュレーション技法について上述したが、これらは例示であることが理解されよう。したがって、EOR技法による潜在的な石油回収の予測量を推定するいくつかの実装形態では、他のシミュレーション技法を使用することができる。加えて、いくつかの実施形態では、シミュレーションを実施する代わりに、孔隙空間の状態の実際のフィールドデータを使用することができる。
【0046】
以下に説明するのは、作業レベルの様々な反復にわたるシミュレーションの結果(シミュレーションエンジン34から決定されるような、トラップされた油塊の文書化された特性)に対して実行される分析モデルの実施例である。
【0047】
次に図4を参照すると、水置換油の多流体流における油可動化を図示する2次元(2D)モデルは、孔隙スロート85の前でトラップされた油滴83(中央の円)を示している。スロートの上部84の圧力P1は、スロートの下部87の圧力P0と比較して高い。油塊は孔隙空間の境界に押し付けられるため、水流は不可能であり、すなわち粘性力は存在しない。
【0048】
抵抗力は、スロートの半径によって定義され、ラプラスの法則を使用して表すことができる(以下の式1を参照)。油塊をスロートに押し込むには、加えられる圧力差P1-P0は、PL以上、すなわちP1-P0≧PLである必要があり、式中、PLは、PL=σ/rとして与えられる抵抗毛細管圧である。P1-P0≧PLの場合、油塊の表面の曲率は、油塊82が孔隙スロート89に侵入するために必要な曲率1/rを達成することができる。したがって、トラッピングメカニズムが分かっている限り(この場合は、油塊がスロートをブロックしている)、塊を可動化するために必要な力を予測/推定することができる。
【0049】
(実施例1 スロート-本体-スロートのチューブ束)
次に図5を参照すると、スロート-本体-スロートのチューブ束CDC(Capillary desaturation curve:毛細管脱飽和曲線)であるモデルを用いた実施例1が示されている。この第1の実施例では、チューブ束は、EOR技法の作業レベルを評価するためのモデルとして使用される、一連の単純な孔隙スロート-孔隙本体チューブを有するか、またはそれらで構成される。
【0050】
毛細管脱飽和曲線手法は、キャピラリー数が段階的に増加され、残存している油の飽和率が上記のように測定およびプロットされる方法である。この場合、(図5の垂直中心にある)各孔隙本体は円筒形であり、半径は10ボクセルである。(参照されない)孔隙スロートは、円筒形であり、様々な半径を有する。左側の最大半径は6ボクセルの半径であり、右側の最小孔隙スロート半径は2ボクセルである。非濡れ性流体(non-wetting fluid)は、孔隙本体でのみ初期化される。このモデルは、流体領域の上部と下部を接続するz方向に周期的である。体積力は、推進力として使用される。本体からスロートに向かう孔隙半径(孔隙アスペクト比)の減少は、非濡れ性流体のトラッピングにつながる。
【0051】
次に図6を参照すると、図5の孔隙スロート/本体の中心線に沿った圧力分布が示されている。図6は、静圧をZ(位置格子長)の関数としたプロットを示す。トラップされた非濡れ性流体を可動化するには、推進力(たとえば、体積力)が、少なくとも、抵抗力、すなわち孔隙スロート半径に関連する毛細管圧と同じくらい高い必要がある。推進力は、流れ方向の孔隙スロートの幾何学的な広がり、および孔隙空間境界の物質特性(たとえば、濡れ性)によって引き起こされる毛細管力と比較して大きい。
【0052】
次式は、この力の均衡を説明しており、左辺は重力による推進力を表し、右辺はラプラスの法則によって記述される毛細管力を表す。
【数1】
【0053】
次に図7を参照すると、図4の例についての、理論的に予測された可動圧力に対するシミュレートされた可動圧力が示されている。図示のように、必要な推進力は、ラプラスの法則(式1)を使用した理論的推定と比較的よく一致する。この場合、可動化に必要な推進力は、理論的な比較を考慮することによって分かった。これが可能だった理由は、形状のトポロジが正確に分かっており、形状トポロジ、たとえば、孔隙スロートおよび孔隙本体の半径(R1とR2)、ならびに孔隙スロートの長さ(LtopおよびLbottom)および孔隙本体の長さ(Lmiddle)が単純だったためである。
【0054】
可動化の開始を決定する別の方法は、非濡れ性流体の上部の圧力(Ptop)および非濡れ性流体の真下の圧力(Pbottom)を測定することである。可動化の開始を定義する力の均衡は以下のように与えられる。
【数2】
【0055】
多孔質岩石の孔隙空間のような複雑な孔隙空間では、流体分布と組み合わされた形状のトポロジは単純ではなく、理論的推定方法は信頼性が低い可能性がある。
【0056】
しかしながら、本明細書に記載の手法は、トラップされた流体エンティティ(塊)近傍のすべての力の寄与を測定することによって力の均衡を調査し、そのトラップされた流体エンティティを可動化するために必要な推進力の増加の推定値を算出する。この場合、その計算は、Ptop、Pbottom、Lmiddle、ならびにR1およびR2を測定することを意味する。これらの量はすべて孔隙空間において測定することができ、トラップされた流体エンティティを可動化するために必要な推進力(たとえば、体積力)を推定することができる。
【0057】
(実施例2:ベレア砂岩CDC)
物理的な岩石の孔隙空間では、孔隙空間および流体流は、上記の実施例1と比較してより複雑である。油が非濡れ性流体である、親水性の岩石の場合、実施例1で説明したような力の均衡は依然として有効であり、適用され得る。基本的な概念を説明するために、いくつかの簡易化について紹介する。実際の岩石の孔隙空間では、トラップされた油塊は、しばしば、濡れ性流体の流れを妨げることはなく、これにより、Ptop、Pbottomがほぼ同一であるので、式(2)の簡易化につながる。この例をさらに簡易化するために、孔隙本体の半径R1が、スロートの半径R2よりもはるかに大きいと仮定することができる。これらの簡易化は、本開示の主題の可能性についての簡単な説明を提供するために提示されているが、本明細書に記載の主題を実践するために特に必要というわけではない。
【0058】
結果として得られる簡易方程式は以下の通りである。
【数3】
【0059】
式3の左辺は、一定の長さLmiddleのトラップされた塊に作用する推進力を表し、右辺は、その塊がトラップされた次のスロートのスロート半径R2によって引き起こされる毛細管圧を表す。孔隙スケールEORスクリーニングの可能性を実証するために、テストケースとして、比較的小さい領域(B200)が選択されている。
【0060】
図8は、浸透率対水飽和率を示し、テストケースとして使用されたベレア砂岩B200のキャピラリー数1.0E-5についてシミュレートされた相対浸透率kr曲線を図示している。残留油飽和率は42%である。これは、図8において、(100%-点81における水飽和率の値(58%))によって示されている。この孔隙空間のボトルネック半径(たとえば、臨界スロート半径)は2.2ボクセルである。さらに簡易化するために、実証では、すべての孔隙スロートが半径2.2ボクセルである、たとえば均一な孔隙空間を有していると仮定している。他の実装形態は、各塊がトラップされるスロートサイズを測定することによって、トラップされた各塊の流れ方向の数値的に正確な孔隙スロート半径を取得するための関連する詳細のすべてを含み得る。
【0061】
次に図9を参照すると、塊の体積の視覚表現(左)、ならびに塊の長さおよび塊の数に基づく塊の推進力のプロット(右)が示されている。孔隙形状(岩石中の孔隙)は視覚化されていない。一定の推進力にさらされる塊(棒)の数は、それらの塊のz拡張(塊の長さL)によって決定される。推進力は、塊の長さLと、塊の流体の密度ρと、推進力g(重力)との積で概算することができる。流体は、z方向(トップダウン)の体積力gによって推進される。水平線は、一定のスロートの半径に対する毛細管力を表す。線91は、ボトルネックの孔隙スロートサイズを通り抜けるために必要な毛細管力を表す。推進力がボトルネックの孔隙スロートを通り抜けるために必要な毛細管力を上回る塊は存在しない。
【0062】
次に図10Aおよび図10Bを参照すると、2つのキャピラリー数の棒グラフは、周期境界条件(トップダウン)にまたがり、かつρ*g*L=0.02(図10A)付近の棒グラフに表示されている2つの最大の塊92a、92b(図9)が除去されたことを示している。これらの塊が除去されたことは、ボトルネック半径に必要な毛細管圧である線91の上に(図10Bにおいて棒で表される)塊が存在しないことによって示されている。これは、トラッピング基準がこの例に当てはまることの現れである。2つの最大の塊92a、92bを可動化するために、推進力(ここでは体積力)を増加させる必要がある。これは、たとえば棒グラフから、より高いキャピラリー数をもたらすことになり、体積力(および結果としてキャピラリー数)が50%増加すると、2つの最大の塊が可動化される可能性が高いことが分かる。
【0063】
次に図11を参照すると、可動化前後における油塊の体積の比較が示されている。シミュレーションがより高いキャピラリー数1.5E-5で継続されたとき、2つの最大の塊92a、92bが予想通りに可動化されたことが分かる。2つの棒グラフを比較すると、2つの最大の塊92a、92bが消えただけでなく、いくつかのより小さい塊に分割されていることも分かる。
【0064】
この場合も、Ca=1.5E-5では、ρ*g*L>0.02の塊は存在しない。可動化により、残留油飽和率は42%から36%に減少した。油塊が可動化されるとき、必ずしも油塊全体が回収されて孔隙空間から除去される必要はないことに留意されたい。それよりもむしろ、塊が動き始め、最終的にスナップオフ現象(分割の事象)が発生することを示しているだけである。結果として生じたより小さい塊は、隣の孔隙に移動し、下流の塊と合流する可能性があり、これは、その結果として生じる可動化現象につながる可能性がある。可動化の増加によって回収される油の量の正確な決定は、簡単な決定ではないが、相関関係に基づいて推定され得る。他の手法では、機械学習手法を使用して、孔隙空間および油塊のトポロジを可動化後の油塊の体積の減少と関連付けることができる。塊は消えずにいくつかのより小さい塊に分割されるが、塊は、実際に回収されて孔隙空間から除去される油の一部の量を占める。
【0065】
可動化後の塊状態の決定は、可動化シミュレーションのデータベースに格納される。可動化シミュレーションのデータベースを使用して、(機械学習技法の使用の有無にかかわらず)相関関係を生成し、毛細管脱飽和曲線全体の推定値を提供することができる。
【0066】
毛細管脱飽和曲線全体の推定値を提供するための1つの手法は、以下のように設定される。
【0067】
システム10は、一定のキャピラリー数の第1のkr曲線をシミュレートして、CDC曲線の第1の点を提供する。第1のキャピラリー数は、典型的には、非常に小さい。システム10は、可動化に関して孔隙スケール分析を実行して、一定の増分油生産を達成するために必要なキャピラリー数を推定する。これが、CDC曲線の第2の点である。システムは、孔隙スケール分析を繰り返して、第3の点を取得する。
【0068】
このタイプの孔隙スケール分析の別の成果は、塊が、生成されることからどれだけ「近い」かに基づいて、流動様式がキャピラリー数支配の様式の範囲内にあるかどうかを確認できることである。これは、どの岩石も、可動化の開始を定義する異なる特定の臨界キャピラリー数を有しているために発生する。要約すると、実施例2の場合、適用されるプロセスは、基本概念の説明で記載されているプロセスと一致する。
【0069】
トラップされた塊近傍の流体および流れを調査する:圧力差を測定し(または、ここでは0と想定し)、ρ*g*Lを使用して、その塊の推進力を推定した。トラップされた塊近傍の孔隙空間を調査した:抵抗力を推定するために必要な孔隙スロート半径を決定した(ここでは、ボトルネック半径を使用した)。可動化の基準を評価するために、力の均衡という形式での関係が確立された。生成された増分油の量を推定し、置換が臨界キャピラリー数(可動化の閾値)を上回って行われたか、臨界キャピラリー数を下回って行われたか、またはその臨界キャピラリー数で行われたかどうかを判断する方法が提案された。領域全体の可動化作業と増分の石油回収を統合する。
【0070】
(実施例3:ピン止めされた油(パッチ))
粒子が水ではなく油と優先的に接触する場合、したがって親油性の岩石中にある場合、残留油はしばしば、孔隙本体の中心に位置するのではなく、しばしば比較的薄いパッチ形状で壁に付着している。油パッチは、ピン止め、たとえば濡れ性の変化によって完全にトラップされ得るか、または油パッチが膜流によって非常にゆっくりと生成され得る。どちらの場合も、異なる可動化メカニズムが必要である。ピン止めされた油パッチの場合、接触角ヒステリシスを克服する必要がある。推進力は、圧力降下から生じるか、また他の流体相のバイパス流からの粘性力から生じ得る。抵抗力は、接触角の変化によるものであり、ある意味では、毛細管力でもある。
【0071】
ピン止め効果を克服して油の塊/パッチを可動化するために必要な作業を推定するためのプロセスは、基本概念および上記の実施例2について説明したものと実質的に同じである。このプロセスは、トラップされた塊近傍の流体および流れの調査、トラップされた塊近傍の孔隙空間の調査、力の均衡ひいては可動化基準の確立、増分油回収量の推定、ならびに領域全体の可動化作業と増分油回収の統合を含む。
【0072】
(実施例4:油膜)
このシナリオでは、岩石は同様に親油性であるが、油パッチは連続している、すなわち油パッチは油膜である。このシナリオでは、トラッピングは発生しないが、油回収が非常に遅く、経済的ではない可能性がある。可動化の代わりに、油生産の時間スケールが増分油回収の期間に取って代わるように、油生産をスピードアップすることを目標とすることができる。プロセスは上記と同一である。増分油回収を最適化する代わりに、増分油回収率は、採用されているEORプロセスの最適化機能である。
【0073】
(実施例5:拡散-行き止まりの孔隙内の油、または親油性粘土内の油)
他の流体相によって(直接接触して)アクセスしにくいという理由だけで、油を置換することが困難であるシナリオは多くある。これは、油が行き止まりの孔隙内にある場合、または油が親油性粘土内にある場合に当てはまることがある。このようなシナリオでは、ガス圧入がEOR法の選択肢となり得、置換メカニズムは油のガス相への拡散であり、豊富なガス生産をもたらす。メカニズムは上で説明したメカニズムと同一である。
【0074】
本明細書に記載の主題および動作の実施形態は、デジタル電子回路において、または本明細書に開示される構造およびそれらの構造的均等物を含むコンピュータソフトウェア、ファームウェア、もしくはハードウェアにおいて、またはそれらの1つまたは複数の組合せにおいて実装され得る。本明細書に記載の主題の実施形態は、1つまたは複数のコンピュータプログラム(データ処理プログラムとも呼ばれる)(すなわち、データ処理装置による実行のために、またはデータ処理装置の動作を制御するためにコンピュータ記憶媒体上に符号化された、コンピュータプログラム命令の1つまたは複数のモジュール)として実装され得る。コンピュータ記憶媒体は、コンピュータ可読記憶デバイス、コンピュータ可読記憶基板、ランダムアクセスもしくはシリアルアクセスのメモリアレイもしくはメモリデバイス、またはそれらの1つまたは複数の組合せであり得るか、またはそれらに含まれ得る。コンピュータ記憶媒体はまた、1つまたは複数の別個の物理的構成要素もしくは媒体(たとえば、複数のCD、ディスク、もしくは他の記憶デバイス)であり得るか、またはそれらに含まれ得る。主題は、非一時的コンピュータ記憶媒体に記憶されたコンピュータプログラム命令に実装され得る。
【0075】
本明細書に記載の動作は、1つまたは複数のコンピュータ可読記憶デバイス上に記憶されているか、または他のソースから受信されたデータに対してデータ処理装置によって実行される動作として実装され得る。
【0076】
「データ処理装置」という用語は、例として、プログラマブルプロセッサ、コンピュータ、チップ上のシステム、もしくは前述の複数のもの、または前述の組合せを含む、データを処理するためのあらゆる種類の装置、デバイス、および機械を包含する。装置は、専用論理回路(たとえば、FPGA(フィールドプログラマブルゲートアレイ)またはASIC(特定用途向け集積回路))を含み得る。装置はまた、ハードウェアに加えて、問題としているコンピュータプログラム用の実行環境を作成するコード(たとえば、プロセッサファームウェア、プロトコルスタック、データベース管理システム、オペレーティングシステム、クロスプラットフォームランタイム環境、仮想マシン、またはそれらの1つまたは複数の組合せを構成するコード)も含み得る。装置および実行環境は、ウェブサービス、分散コンピューティングインフラストラクチャ、グリッドコンピューティングインフラストラクチャなどの様々な異なるコンピューティングモデルインフラストラクチャを実現することができる。
【0077】
コンピュータプログラム(プログラム、ソフトウェア、ソフトウェアアプリケーション、スクリプト、またはコードとも呼ばれる)は、コンパイラ型言語またはインタープリタ型言語、宣言型言語または手続き型言語を含む、あらゆる形式のプログラミング言語で記述され得、スタンドアロンプログラムとして、またはモジュール、コンポーネント、サブルーチン、オブジェクト、または計算環境での使用に適した他のユニットとしての形式を含む、あらゆる形式で展開され得る。コンピュータプログラムは、ファイルシステム内のファイルに対応する場合があるが、対応する必要はない。プログラムは、他のプログラムもしくはデータを保持するファイルの一部(たとえば、マークアップ言語ドキュメントに記憶された1つまたは複数のスクリプト)、問題としているプログラム専用の単一ファイル、または複数の調整されたファイル(たとえば、1つまたは複数のモジュール、サブプログラム、またはコードの一部を記憶するファイル)に記憶され得る。コンピュータプログラムは、1台のコンピュータ上で、または1つの拠点に配置されているか、もしくは複数の拠点に分散され、通信ネットワークによって相互接続されている複数のコンピュータ上で実行されるように展開され得る。
【0078】
本明細書に記載のプロセスおよび論理フローは、1つまたは複数のコンピュータプログラムを実行する1つまたは複数のプログラマブルプロセッサによって実行されて、入力データに対して動作し、出力を生成することによって、アクションを実行することができる。プロセスおよび論理フローはまた、専用論理回路(たとえば、FPGA(フィールドプログラマブルゲートアレイ)またはASIC(特定用途向け集積回路))によって実行され得、装置もまた、専用論理回路(たとえば、FPGA(フィールドプログラマブルゲートアレイ)またはASIC(特定用途向け集積回路))として実装され得る。
【0079】
コンピュータプログラムの実行に適したプロセッサには、例として、汎用マイクロプロセッサと専用マイクロプロセッサの両方、および任意の種類のデジタルコンピュータの任意の1つまたは複数のプロセッサが含まれる。一般に、プロセッサは、読み取り専用メモリもしくはランダムアクセスメモリまたはその両方から、命令およびデータを受信する。コンピュータの不可欠な要素は、命令に従ってアクションを実行するためのプロセッサ、ならびに命令およびデータを記憶するための1つまたは複数のメモリデバイスである。一般に、コンピュータはまた、データを記憶するための1つまたは複数の大容量記憶デバイス(たとえば、磁気、光磁気ディスク、または光ディスク)を含むか、またはそれらからデータを受信するように動作可能に結合されるか、またはそれらにデータを転送するように動作可能に結合されるか、あるいはその両方であるが、コンピュータにそのようなデバイスが必要なわけではない。さらに、コンピュータは、別のデバイス(たとえば、携帯電話、携帯情報端末(PDA)、携帯オーディオまたはビデオプレーヤ、ゲーム機、全地球測位システム(GPS)受信機、または携帯型記憶デバイス(たとえば、ユニバーサルシリアルバス(USB)フラッシュドライブ))に埋め込まれ得る。コンピュータプログラム命令およびデータを記憶するのに適したデバイスには、例として、半導体メモリデバイス(たとえば、EPROM、EEPROM、およびフラッシュメモリデバイス)、磁気ディスク(たとえば、内蔵ハードディスクまたはリムーバブルディスク)、光磁気ディスク、ならびにCDROMおよびDVD-ROMディスクを含む、あらゆる形態の不揮発性のメモリ、メディア、およびメモリデバイスが含まれる。プロセッサおよびメモリは、専用論理回路よって補完され得るか、または専用論理回路に組み込まれ得る。
【0080】
ユーザとの対話を提供するために、本明細書に記載の主題の実施形態は、情報をユーザに表示するための表示デバイス(たとえば、CRT(陰極線管)またはLCD(液晶ディスプレイ)モニタ)、ならびにユーザがコンピュータに入力を提供できるキーボードおよびポインティングデバイス(たとえば、マウスまたはトラックボール)を有するコンピュータ上に実装され得る。ユーザとの対話を提供するために、他の種類のデバイスも同様に使用することができ、たとえば、ユーザに提供されるフィードバックは、任意の形式の感覚フィードバック(たとえば、視覚フィードバック、聴覚フィードバック、または触覚フィードバック)とすることができ、ユーザからの入力は、音響、音声、または触覚の入力を含む任意の形式で受け取られることができる。加えて、コンピュータは、ユーザによって使用されるデバイスとの間でドキュメントを送受信することによって(たとえば、ウェブブラウザから受信した要求に応答して、ユーザのユーザデバイス上のウェブブラウザにウェブページを送信することによって)、ユーザと対話することができる。
【0081】
本明細書に記載の主題の実施形態は、バックエンドコンポーネント(たとえば、データサーバとして)を含むか、またはミドルウェアコンポーネント(たとえば、アプリケーションサーバ)を含むか、またはフロントエンドコンポーネント(たとえば、ユーザが本明細書に記載の主題の実装と対話できるグラフィカルユーザインターフェースもしくはウェブブラウザを有するユーザコンピュータ)、または1つまたは複数のこのようなバックエンドコンポーネント、ミドルウェアコンポーネント、もしくはフロントエンドコンポーネントの任意の組合せを含む、計算システムにおいて実装され得る。システムのコンポーネントは、デジタルデータ通信の任意の形式または媒体(たとえば、通信ネットワーク)によって相互接続され得る。通信ネットワークの例には、ローカルエリアネットワーク(「LAN」)およびワイドエリアネットワーク(「WAN」)、インターネットワーク(たとえば、インターネット)、およびピアツーピアネットワーク(たとえば、アドホックピアツーピアネットワーク)が含まれる。
【0082】
計算システムは、ユーザおよびサーバを含み得る。ユーザおよびサーバは通常、互いに遠く離れており、典型的には通信ネットワークを介して対話する。ユーザとサーバの関係は、それぞれのコンピュータで実行され、相互にユーザとサーバの関係を有するコンピュータプログラムによって発生する。いくつかの実施形態では、サーバは、(たとえば、ユーザデバイスと対話しているユーザにデータを表示し、そのユーザからユーザ入力を受信する目的で)データ(たとえば、HTMLページ)を、ユーザデバイスに送信する。ユーザデバイスで生成されたデータ(たとえば、ユーザ対話の結果)は、ユーザデバイスからサーバで受信され得る。
【0083】
本明細書は多くの特定の実施の詳細を含むが、これらは、いかなる発明の範囲、または請求され得るものの範囲の制限としても解釈されるべきではなく、特定の発明の特定の実施形態に固有の特徴の説明として解釈されるべきである。別個の実施形態の文脈で本明細書に記載されているいくつかの特徴はまた、単一の実施形態において組み合わせて実施され得る。逆に、単一の実施形態の文脈で説明される様々な特徴はまた、複数の実施形態で別々に、または任意の適切な下位組合せで実施され得る。さらに、特徴は、特定の組合せで作用するものとして上記に記載され、当初はそのように特許請求される場合でも、特許請求される組合せからの1つまたは複数の特徴は、場合によっては組合せから削除されることが可能であり、特許請求される組合せは、下位組合せまたは下位組合せの変形を対象としてもよい。
【0084】
同様に、動作は特定の順序で図面に示されているが、これは、望ましい結果を得るために、そのような動作が図示の特定の順序でもしくは一連の順序で実行されること、または図示されたすべての動作が実行されることが必要であると理解されるべきではない。特定の状況では、マルチタスク処理および並列処理が有利になり得る。さらに、上記の実施形態における様々なシステムコンポーネントを分離することは、すべての実施形態においてそのような分離が必要であると理解されるべきではなく、記載されたプログラムコンポーネントおよびシステムは、一般に、単一のソフトウェア製品として一緒に統合され得る、または複数のソフトウェア製品の中にパッケージ化され得ると理解されるべきである。
【0085】
このように主題の特定の実施形態を説明してきた。他の実施形態は、添付の特許請求の範囲内にある。たとえば、孔隙空間に関連して説明されている上記の技法のいずれも、貯留岩サンプルなどの物理媒体に関連して、またはそれに関して実行されることも可能である。場合によっては、特許請求の範囲に記載された挙動は、異なる順序で実行されることが可能であり、それでもなお望ましい結果を得ることができる。加えて、添付の図に示されたプロセスは、望ましい結果を得るために、図示の特定の順序または一連の順序を必ずしも必要としない。いくつかの実装では、マルチタスク処理および並列処理が有利になり得る。
【符号の説明】
【0086】
10 システム
12 サーバシステム
14 クライアントシステム
18 メモリ
20 インターフェース
22 バスシステム
24 処理デバイス
32 3D画像化エンジン
32b 画像分析エンジン
34 シミュレーションエンジン
34a 分析エンジン(モジュール)
83 油滴
84 スロートの上部
85 孔隙スロート
87 スロートの下部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10A-10B】
図11