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特許7489601熱硬化性樹脂組成物及びその硬化膜を備えるカラーフィルター
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-16
(45)【発行日】2024-05-24
(54)【発明の名称】熱硬化性樹脂組成物及びその硬化膜を備えるカラーフィルター
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/20 20060101AFI20240517BHJP
   C08F 220/32 20060101ALI20240517BHJP
   C08K 5/05 20060101ALI20240517BHJP
   C08L 63/00 20060101ALI20240517BHJP
   C09D 7/63 20180101ALI20240517BHJP
   C09D 163/00 20060101ALI20240517BHJP
【FI】
G02B5/20 101
C08F220/32
C08K5/05
C08L63/00
C09D7/63
C09D163/00
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020129778
(22)【出願日】2020-07-30
(65)【公開番号】P2022026360
(43)【公開日】2022-02-10
【審査請求日】2023-05-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000004341
【氏名又は名称】日油株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002826
【氏名又は名称】弁理士法人雄渾
(72)【発明者】
【氏名】権田 淳二
(72)【発明者】
【氏名】田口 寛之
(72)【発明者】
【氏名】中島 喜和
【審査官】横川 美穂
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-065051(JP,A)
【文献】特開2008-083421(JP,A)
【文献】特開2001-350010(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0243980(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/20
C08F 220/32
C08K 5/05
C08L 63/00
C09D 7/63
C09D 163/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(A)~(C)成分を含有する熱硬化性樹脂組成物であって、
前記(A)、(B)成分の合計100質量部中に、前記(A)成分を45~90質量部、前記(B)成分を10~55質量部含み、
前記(B)成分100質量部に対して、前記(C)成分を0.05~3.0質量部含むことを特徴とする、熱硬化性樹脂組成物(ただし、N-アルキルモルホリンを含む熱硬化性樹脂組成物を除く。)
(A)成分:一分子中にエポキシ基を2個以上有する多官能エポキシ樹脂
(B)成分:多価カルボン酸化合物のカルボキシル基が、ビニルエーテル化合物によりヘミアセタールエステルとしてブロック化された、多価カルボン酸ヘミアセタールエステル
(C)成分:下記式(1)で表される1価のアルコール
【化1】
(式中のRは炭素数が2~5の直鎖或いは分岐のアルキル基を表す。)
【請求項2】
前記(A)成分は、(a1)炭素-炭素不飽和結合とエポキシ基を有するモノマーと、(a2)(a1)以外の炭素-炭素不飽和結合を有するモノマーとからなるエポキシ基含有重合体を含む請求項1に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の熱硬化性樹脂組成物を硬化させてなる保護膜を有するカラーフィルター。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱硬化性樹脂組成物及びこれを硬化させてなる保護膜を有するカラーフィルターに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ディスプレイの光学特性向上を目的として、カラーフィルター保護膜の薄膜化(仕上がり膜厚:1.0μm程度)が進められている。このため、カラーフィルター保護膜用塗工液の低粘度化(3.0mPa・s以下)が必要とされている。しかしながら、塗工液の低粘度化により、基板端部のガラス部分での塗工液の液戻りや、塗膜のハジキといった塗工欠陥が発生し易くなり、カラーフィルターの歩留り低下が問題となっている。この塗工欠陥の発生を防止するため、保護膜用塗工液には低粘度設計においても塗布性に優れることが求められている。
【0003】
また、カラーフィルターの製造においては、着色パターン、保護膜及びフォトスペーサーなどの複数の部材の形成を並行して行うため、設備によっては複数部材で焼成オーブンを共用する場合がある。その際、部材間での生産調整が必要となり、生産性の低下に繋がる場合があった。そこで、カラーフィルターの生産性を向上させるため、保護膜用材料においては、例えば仮焼成の状態で数時間静置しても、塗工外観の悪化や硬化後に膜性能の低下がないなどの、プロセスマージン(製造工程における許容範囲)が広いことが求められている。また、上記のようなプロセスマージンの広い材料は、硬化膜形成中に装置トラブルで製造が中断した場合でも、トラブル解消後にそのまま使用できるといった利点もある。
【0004】
上記の2つの課題に対し、両課題を同時に解決でき、カラーフィルターの生産性向上が可能な熱硬化性樹脂組成物が望まれている。
【0005】
上述の課題に対し、特許文献1においては、貯蔵安定性に優れるカラーフィルター保護膜用の熱硬化性樹脂組成物として、エポキシ基含有重合体及び多価カルボン酸ヘミアセタールエステルを組み合わせた組成が提案されている。特許文献1に記載の発明によると、保存中及び塗工作業時の経時安定性に優れる塗工液を提供することができる。
【0006】
また、特許文献2においては、塗布性に優れるカラーフィルター保護膜用の熱硬化性樹脂組成物として、多官能エポキシ樹脂、エポキシ硬化剤、N-アルキルモルホリン、及びフッ素系ノニオン性界面活性剤を組み合わせた組成が提案されている。特許文献2に記載の発明によると、塗布性の良好なカラーフィルター保護膜用の熱硬化性樹脂組成物を提供することができる。
【0007】
しかしながら、従来の発明では低粘度設計における塗布性及びプロセスマージンという2つの課題を同時に解決することは困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2001-350010号公報
【文献】特開2011-65051号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は前記の従来技術に鑑みてなされたものであり、その目的は、低粘度設計においても塗布性に優れ、且つ、仮焼成の状態で数時間静置しても、塗工外観の悪化や硬化後に膜性能の低下がない(プロセスマージンが広い)硬化膜を形成可能な熱硬化性樹脂組成物と、その硬化物からなる保護膜を用いたカラーフィルターを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
アルコールのような水酸基を有する化合物は、カルボン酸ヘミアセタールエステルの脱ブロック化反応を促進することが知られており、多官能エポキシ樹脂、多価カルボン酸ヘミアセタールエステル、及びアルコール類を併用した場合、多価カルボン酸ヘミアセタールエステルの脱ブロック化反応により再生したカルボキシル基とエポキシ基の硬化反応が徐々に進行し、塗布性やプロセスマージンの悪化を招くことから、従来、上記成分の組み合わせは避けるべきとされていた。しかしながら、本発明者らの検討の結果、多官能エポキシ樹脂、多価カルボン酸ヘミアセタールエステル、及び炭素数が2~5のアルキル基を有する1価のアルコールを特定の比率範囲で組み合わせることにより、上述の2つの課題を同時に解決し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は次の〔1〕、〔2〕及び〔3〕である。
【0011】
〔1〕
以下の(A)~(C)成分を含有する熱硬化性樹脂組成物であって、
前記(A)、(B)成分の合計100質量部中に、前記(A)成分を45~90質量部、前記(B)成分を10~55質量部含み、
前記(B)成分100質量部に対して、前記(C)成分を0.05~3.0質量部含むことを特徴とする、熱硬化性樹脂組成物。
(A)成分:一分子中にエポキシ基を2個以上有する多官能エポキシ樹脂
(B)成分:多価カルボン酸化合物のカルボキシル基が、ビニルエーテル化合物によりヘミアセタールエステルとしてブロック化された、多価カルボン酸ヘミアセタールエステル
(C)成分:下記式(1)で表される1価のアルコール
【化1】
(式中のRは炭素数が2~5の直鎖或いは分岐のアルキル基を表す。)
〔2〕
前記(A)成分は、(a1)炭素-炭素不飽和結合とエポキシ基を有するモノマーと、(a2)(a1)以外の炭素-炭素不飽和結合を有するモノマーとからなるエポキシ基含有重合体を含む上記〔1〕に記載の熱硬化性樹脂組成物。
〔3〕
前記の〔1〕又は〔2〕に記載の熱硬化性樹脂組成物を硬化させてなる保護膜を有するカラーフィルター。
【発明の効果】
【0012】
本発明の熱硬化性樹脂組成物によれば、仮焼成の状態で数時間静置しても、塗工外観の悪化がなく、硬化後の膜性能の低下もないカラーフィルター保護膜を形成できる。また、本発明の熱硬化性樹脂組成物は、低粘度設計においても塗布性に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
≪熱硬化性樹脂組成物≫
本発明の熱硬化性樹脂組成物は、(A)多官能エポキシ樹脂、(B)多価カルボン酸化合物のカルボキシル基が、ビニルエーテル化合物によりヘミアセタールエステルとしてブロック化された、多価カルボン酸ヘミアセタールエステル、(C)炭素数が2~5のアルキル基を有する1価のアルコールを含む。
【0014】
<(A)多官能エポキシ樹脂>
(A)多官能エポキシ樹脂は、1分子中にエポキシ基を2個以上有する化合物であれば特に限定されず、公知の材料を用いることができる。1分子中にエポキシ基を2個以上有する化合物としては、エポキシ基含有重合体、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、臭素化ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ジフェニルエーテル型エポキシ樹脂、ハイドロキノン型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、フルオレン型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、オルソクレゾールノボラック型エポキシ樹脂、トリスヒドロキシフェニルメタン型エポキシ樹脂、テトラフェニロールエタン型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエンフェノール型エポキシ樹脂、水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ポリプロピレングリコール型エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂、脂環式型エポキシ樹脂及び複素環型エポキシ樹脂などが挙げられる。これらの多官能エポキシ樹脂は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、エポキシ基含有重合体が好ましい。多官能エポキシ樹脂として、エポキシ基含有重合体を用いると、仮焼成の状態で数時間静置しても、充分な架橋構造が得られるため、硬化後の耐薬品性の低下を抑制することができる。
【0015】
(エポキシ基含有重合体)
エポキシ基含有重合体は、重合体主鎖を構成する炭化水素鎖に対し、エポキシ基が直接または他の基を介して間接的に結合した構造を有する重合体である。
エポキシ基含有重合体は、(a1)炭素-炭素不飽和結合とエポキシ基を有するモノマーと、(a2)(a1)以外の炭素-炭素不飽和結合を有するモノマーとの両成分から誘導された構造からなる共重合体であることが好ましい。これらの構造を有する共重合体は(B)、(C)成分との相溶性に優れるため、低粘度設計における塗布性が良好となる。
【0016】
(a1)炭素-炭素不飽和結合とエポキシ基を有するモノマーは、炭素-炭素不飽和結合と、エポキシ基とを有していればよく、公知のいかなるモノマーも利用することができる。
また、(a1)成分のモノマーとして、水酸基を有しないモノマーが好ましい。水酸基を有しないモノマーは、カルボン酸ヘミアセタールエステルの脱ブロック化反応の進行を促進しないため、プロセスマージンを損なわない。
【0017】
(a1)炭素-炭素不飽和結合とエポキシ基を有するモノマーとして、例えば下記式(2)~(4)で表されるモノマーがより好ましい例として挙げられる。
【化2】
(式中、Rは水素原子又はメチル基、kは1~3の整数を示す。)
【0018】
【化3】
(式中、Rは水素原子又はメチル基、Rは-CHO-基又は-CH-基、Rは水素原子又は炭素数1~2のアルキル基、mは1~3の整数を示す。)
【0019】
【化4】
(式中、Rは水素原子又はメチル基、nは1~3の整数を示す。)
【0020】
前記式(2)~(4)の中でも特に好ましくは、式(2)としてはRがメチル基、kが1のモノマーであり、式(3)としてはRが水素原子、Rが-CHO-基、Rが水素原子、mが1のモノマーであり、式(4)としてはRがメチル基、nが1のモノマーである。
【0021】
(a2)(a1)以外の炭素-炭素不飽和結合を有するモノマーは、炭素-炭素不飽和結合を有し、(a1)に該当しない化合物であればよく、公知のいかなるモノマーも利用することができる。
また、(a2)成分のモノマーとして、エポキシ基と反応性を有する官能基を持たず、且つ、水酸基を有しないモノマーが好ましい。このようなモノマーは、仮焼成の状態で数時間静置しても硬化反応が進行せず、また、カルボン酸ヘミアセタールエステルの脱ブロック化反応の進行も促進しないため、プロセスマージンを損なわない。尚、エポキシ基との反応性を有する官能基が潜在化されている場合であっても、エポキシ基との反応性を有するものとして考える。
(a2)成分のモノマーとして、より好ましくは、下記式(5)~(8)で表されるモノマーが挙げられる。
【0022】
【化5】
(式中、Rは水素原子又はメチル基、Rは炭素数1~8のアルキル基、アリール基又は主環構成炭素数3~12の脂環式炭化水素基を示す。)
【0023】
【化6】
(式中、Rは水素原子又は炭素数1~5のアルキル基、R10は炭素数1~12のアルキル基、アルコキシ基、シロキシアルキル基又は芳香族炭化水素基を示す。)
【0024】
【化7】
(式中、R11は水素原子又は炭素数1~8のアルキル基、炭素数3~12の脂環式炭化水素基又は芳香族炭化水素基を示す。)
【0025】
【化8】
(式中、R12は水素原子又はメチル基、R13はメチル基又はエチル基、pは1~5の整数を示す。)
【0026】
前記式(5)~(8)の中でも特に好ましくは、式(5)としてはRが水素原子もしくはメチル基、Rが炭素数4のアルキル基のモノマーであり、式(6)としてはRが水素原子、R10が6員環の芳香族炭化水素基のモノマーであり、式(7)としてはR11が6員環の脂環式炭化水素基のモノマーであり、式(8)としてはR12及びR13がメチル基、pが3のモノマーである。
【0027】
エポキシ基含有重合体は、(a1)成分と(a2)成分とを共重合することによって得ることができる。その重合態様としては直鎖状であっても分岐していてもよく、ランダム共重合体、ブロック共重合体、グラフト共重合体等のいずれであってもよい。なお、(a1)成分又は(a2)成分の各成分として、モノマーを1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0028】
(a1)成分と(a2)成分との重合方法は特に限定されず、ラジカル重合及びアニオン重合などのイオン重合等の種々の重合法を用いることができる。また、塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法及び乳化重合法等の重合法を用いることができる。さらに、必要に応じて触媒や溶媒などの添加物を重合反応系に添加してもよい。
【0029】
エポキシ基含有重合体の重量平均分子量(Mw)は3,000~100,000であり、好ましくは4,000~80,000であり、より好ましくは5,000~50,000である。重量平均分子量が3,000以上、或いは100,000以下の場合には、塗布性が向上する。また、エポキシ基含有重合体は、1種のみを単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0030】
エポキシ基含有重合体は、(a1)及び(a2)成分の合計100質量部中に、(a1)成分を10~90質量部、好ましくは20~80質量部含有し、(a2)成分を10~90質量部、好ましくは20~80質量部含有する。
【0031】
(A)多官能エポキシ樹脂の含有量は、(A)~(B)成分の合計100質量部中に、45~90質量部、好ましくは50~85質量部、より好ましくは55~80質量部、特に好ましくは60~75質量部含有する。(A)成分が45質量部以上であると、充分な架橋密度が得られ、硬化膜の耐薬品性が向上する。また、(A)成分が90質量部以下であると、仮焼成の状態で数時間静置した場合であっても、硬化膜の平滑性を維持できる。
【0032】
<(B)多価カルボン酸ヘミアセタールエステル>
(B)多価カルボン酸ヘミアセタールエステルは、多価カルボン酸化合物のカルボキシル基が、ビニルエーテル化合物によりヘミアセタールエステルとしてブロック化された、多価カルボン酸ヘミアセタールエステルである。多価カルボン酸ヘミアセタールエステルは、ビニルエーテル化合物によりヘミアセタールエステルとして、多価カルボン酸化合物のカルボキシル基が潜在化する。この潜在化は、「ブロック化された」といわれるので、(B)多価カルボン酸ヘミアセタールエステルは、ブロック化されたビニルエーテルブロック多価カルボン酸である。(B)多価カルボン酸ヘミアセタールエステルは、本発明の熱硬化性組成物を熱硬化させるときに、脱ブロックし、硬化剤として作用する。
多価カルボン酸とビニルエーテル化合物との反応による多価カルボン酸ヘミアセタールエステルの生成反応は、例えば、式(9)で表すことができる。
【0033】
【化9】
(R14は、炭素数4以上20以下の飽和又は不飽和の炭化水素基であり、R15は、炭素数1以上20以下の飽和又は不飽和の炭化水素基である。また、R14およびR15の炭化水素鎖中に、N、O、S、P、Siを含んでもよい。)
【0034】
(B)多価カルボン酸ヘミアセタールエステルの多価カルボン酸としては、好ましくはカルボキシル基以外の炭素数(式(9)におけるR14における炭素数)が4~20であり、カルボキシル基が2~8価、より好ましくは3~4価の化合物が挙げられる。好ましい多価カルボン酸として、シクロペンタンテトラカルボン酸、シクロヘキサントリカルボン酸等の脂環式多価カルボン酸;トリメリット酸、ピロメリット酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸等の芳香族多価カルボン酸が挙げられる。多価カルボン酸は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。また、本発明では、不飽和の炭化水素基は、芳香族炭化水素基を包含する。
多価カルボン酸の価数が8以下であれば、仮焼成の状態で数時間静置しても、充分な架橋密度が得られ、硬化膜の耐薬品性が向上する。その中でも、3~4価の多価カルボン酸を用いると、仮焼成の状態で数時間静置しても緻密な架橋が得られるため、特に好ましい。
【0035】
ビニルエーテル化合物のビニルの炭素を除いた炭素数(式(9)におけるR15における炭素数)は、特に制限されないが、例えば1~20であり、好ましくは3~8である。炭素数が3~8であると、(A)、(C)成分との相溶性が特に優れるため、低粘度設計における塗布性が良好となる。ビニルエーテル化合物の具体例としては、例えばメチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、i-プロピルビニルエーテル、n-プロピルビニルエーテル、n-ブチルビニルエーテル、i-ブチルビニルエーテル、t-ブチルビニルエーテル、2-エチルヘキシルビニルエーテル及びシクロヘキシルビニルエーテル等の脂肪族ビニルエーテル化合物が挙げられる。それらの中でも、入手が容易であり、硬化温度が保護膜のプロセスに適合する点から、n-プロピルビニルエーテル及びi-プロピルビニルエーテルが好ましい。なお、ビニルエーテル化合物は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0036】
(B)多価カルボン酸ヘミアセタールエステルは、多価カルボン酸とビニルエーテル化合物とを室温ないし150℃の範囲の温度で反応させることによって得ることができる。ブロック化反応は平衡反応であるため、多価カルボン酸に対してビニルエーテル化合物を一定過剰量加えると反応が促進され、収率を向上させることができる。また、多価カルボン酸とビニルエーテル化合物との反応には、目的に応じて触媒や溶媒を添加することもできる。ブロック化反応の進行により反応溶液の酸価が2.0mgKOH/g以下まで低下したら、充分に反応が進行したと判断し、反応を終了する。
【0037】
触媒としては、3級アミン類、イミダゾール類、有機リン系化合物、4級ホスホニウム塩類、ジアザビシクロアルケン類、有機金属化合物類、4級アンモニウム塩類、ホウ素化合物及び金属ハロゲン化物等が挙げられる。触媒は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0038】
溶媒としては、芳香族炭化水素、エーテル類、エステル類、エーテルエステル類、ケトン類、リン酸エステル類、ニトリル類、非プロトン性極性溶媒及びプロピレングリコールアルキルエーテルアセテート類等が挙げられる。溶媒は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0039】
(B)多価カルボン酸ヘミアセタールエステルは、(A)~(B)成分の合計100質量部中に、10~55質量部、好ましくは15~50質量部、より好ましくは20~45質量部、特に好ましくは25~40質量部含有する。(B)成分が10質量部以上であると、充分な架橋密度が得られ、硬化膜の耐薬品性が向上する。また、(B)成分が、55質量部以下であれば、仮焼成の状態で数時間静置しても、硬化膜の平滑性を維持できる。
【0040】
<(C)炭素数が2~5のアルキル基を有する1価のアルコール>
(C)炭素数が2~5のアルキル基を有する1価のアルコールは、下記式(1)で表される1価のアルコールである。
【化10】
(式中のRは炭素数が2~5の直鎖或いは分岐のアルキル基を表す。)
【0041】
上記式(1)に含まれる水酸基(-OH)は、基材表面の親水性基との親和性に優れ、塗布性を向上させる効果を有している。このような利点がある一方、上述したように水酸基はカルボン酸ヘミアセタールエステルの脱ブロック化反応を促進するため最適なプロセスマージンを得にくくなる。このため、優れたプロセスマージンを得るためには、水酸基を有する成分が仮焼成時に充分に揮発しなければならない。したがって、(C)成分は基材表面との親和性を有し、かつ揮発性が高い1価のアルコールが好ましい。(C)成分のアルコールは、1級、2級又は3級のいずれのアルコールであっても使用することができる。
【0042】
また、(C)成分中のアルキル基は、多官能エポキシ樹脂や多価カルボン酸ヘミアセタールエステルとの相溶性を高める効果を有している。アルキル基の炭素数は2~4が好ましく、より好ましくは3~4、特に好ましくは3である。炭素数が3であると、他材料との相溶性を特に高めることができ、低粘度設計における塗布性の向上効果が高い。炭素数が1であると、他材料との相溶性が低く、低粘度設計における塗布性が不充分となる。一方、炭素数が5を超えると、仮焼成後の塗膜に(C)成分が残留し、仮焼成の状態で数時間静置した際に、塗工外観の悪化や、硬化膜の平滑性、透明性及び耐薬品性の低下を招く。
【0043】
(C)成分として、エタノール(沸点78℃)、1-プロパノール(沸点98℃)、2-プロパノール(沸点82℃)、1-ブタノール(沸点117℃)、2-ブタノール(沸点99℃)、2-メチル-1-プロパノール(沸点108℃)及び2-メチル-2-プロパノール(沸点82℃)を挙げることができる。これらは、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。特に基材表面の親水基との親和性、多官能エポキシ樹脂や多価カルボン酸ヘミアセタールエステルとの相溶性、仮焼成時の優れた揮発性といった、トータルのバランスより、炭素数が3で、沸点が100℃未満の1価アルコール(1-プロパノール、2-プロパノール)を好ましく用いることができる。
【0044】
(C)炭素数が2~5のアルキル基を有する1価のアルコールは、(B)成分の合計100質量部に対して0.05~3.0質量部、好ましくは0.07~2.0質量部、より好ましくは0.10~1.5質量部、特に好ましくは0.10~1.0質量部含有する。(C)成分が0.05質量部以上であると、低粘度設計においても充分な塗布性が得られる。また、(C)成分が、3.0質量部以下であれば、仮焼成後の塗膜に(C)成分が残留しないため、仮焼成の状態で数時間静置しても、塗工外観や、硬化膜の平滑性、透明性及び耐薬品性を維持できる。
【0045】
<その他の添加剤>
本発明の熱硬化性樹脂組成物は、発明の効果を阻害しない範囲で、シランカップリング剤、レベリング剤、酸化防止剤、安定剤及び有機溶剤等の添加剤を加えることができる。
【0046】
<シランカップリング剤>
シランカップリング剤は、一分子中にアルコキシシリル基(Si-O-R)と反応性基(本発明においては、エポキシ基と反応性を有する官能基を除く)を有する化合物である。反応性基としては、エポキシ基を有するものが好ましい。
エポキシ基を有するシランカップリング剤としては、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、及び2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等が挙げられる。これらシランカップリング剤は、1種単独で又は2種以上を併用することができる。シランカップリング剤として、エポキシ基と反応性を有する官能基を持たないシランカップリング剤を用いると、プロセスマージンを損なわない。
【0047】
<レベリング剤>
レベリング剤は、得られる塗膜の外観を向上させる目的で配合されるものであって、この種のカラーフィルター用保護膜において従来から一般的に使用されている、シリコーン系、フッ素系、アクリル系等を特に制限無く使用することができる。レベリング剤の市販品としては、例えばメガファックF-410(DIC(株))、同F-477(同)、同F-552(同)、同F-553(同)、同F-554(同)、同F-555(同)、同F-556(同)、同F-558(同)、同F-559(同)、同F-561(同)、ノベックFC-4430(住友スリーエム(株))、FC-4432(同)、サーフロンS-611(AGCセイミケミカル(株))、同S-651(同)、S-386(同)、フタージェント208G(ネオス(株))、同602A(同)、同650A(同)、同610FM(同)、同710FM(同)、FTX-218(同)、BYK―302(ビックケミー・ジャパン(株))、BYK-307(同)、BYK-337(同)、ポリフローKL-400HF(共栄社化学(株))、KL-700(同)、LE-604(同)等を使用できる。
【0048】
<酸化防止剤>
酸化防止剤としては、IRGANOX1010(BASF)、IRGANOX1035(同)、IRGANOX1076(同)、IRGANOX1135(同)、IRGANOX1726(同)等のヒンダードフェノール系酸化防止剤等を使用できる。
【0049】
<安定剤>
安定剤は、前記「<(B)多価カルボン酸ヘミアセタールエステル>」に記載の過剰のビニルエーテルのことを指し、多価カルボン酸ヘミアセタールエステルの収率向上の目的で添加される。具体的には、前記「<(B)多価カルボン酸ヘミアセタールエステル>」に記載のビニルエーテルが挙げられる。
【0050】
<有機溶剤>
有機溶剤は、熱硬化性樹脂組成物の粘度等を調整する目的で添加され、アルコール系の溶剤を除く公知の溶剤を用いることができる。具体的には、酢酸アミル等のエステル類、エチルエトキシプロピオネート及び3-メトキシ-3-メチル-1-ブチルアセテート等のエーテルエステル類;メチルエチルケトン及びシクロヘキサノン等のケトン類;プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート及びプロピレングリコールジアセテート、ジエチレングリコールエチルメチルエーテル等のグリコール誘導体が挙げられる。
【0051】
(カラーフィルター保護膜の形成)
本発明のカラーフィルターは、上記熱硬化性樹脂組成物を硬化させてなる硬化物の層を、保護膜として備える。当該熱硬化性樹脂組成物は、基板上に配置された着色層やブラックマトリックスを覆うように塗布される。その塗布方法は特に限定されることは無く、インクジェット法、スピンコート法及びダイコート法等の公知の塗工方法を採用することができる。
【0052】
得られた塗膜を乾燥し、さらに必要に応じて予備加熱(以下、「仮焼成」という。)を行った後、本硬化加熱(以下、「ポストベーク」という。)を経て樹脂硬化物の層を形成する。この際には、仮焼成条件として40~140℃、0~1時間、ポストベーク条件として150~280℃、0.2~2時間が好ましい条件として挙げられる。また、この際の加熱手法は特に限定されるものではなく、例えば、密閉式硬化炉や連続硬化が可能なトンネル炉等の硬化装置を採用することができる。加熱源は特に制約されることなく、熱風循環、赤外線加熱及び高周波加熱等の方法で行うことができる。
【実施例
【0053】
以下に、実施例及び比較例を挙げて本発明を具体的に説明する。
<重合例1:エポキシ基含有重合体(A-1)の合成>
温度計、還流冷却器、攪拌機、滴下ロートを備えた4つ口フラスコに、溶剤としてプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)を76.0質量部仕込み、攪拌しながら加熱して88℃に昇温した。次いで、88℃の温度で、(a1)成分としてグリシジルメタクリレート(GMA)64.0質量部、(a2)成分としてシクロヘキシルアクリレート(CHMA)36.0質量部、重合開始剤として日油(株)製の過酸化物系重合開始剤「パーヘキシルO(PHO)」8.0質量部、及びPGMEA16.0質量部を予め均一混合したもの(滴下成分)を、2時間かけて滴下ロートより等速滴下した。その後、88℃の温度を5時間維持し、重量平均分子量(Mw)14,000のエポキシ基含有重合体(A-1)の50%PGMEA溶液を得た。
【0054】
<カルボン酸ヘミアセタールエステル構造を有するモノマーの合成>
温度計、還流冷却器、攪拌機を備えた4つ口フラスコに、炭素-炭素不飽和結合を有するカルボン酸としてメタクリル酸(MAA)20.0g(0.23mol)、ビニルエーテルとしてn-プロピルビニルエーテル(NPVE)80.0g(0.93mol)を仕込み、攪拌しながら加熱し80℃に昇温した。次いで、温度を保ちながら攪拌し続け、混合物の酸価が2.0mgKOH/g以下に到達したことを確認後、反応を終了した。その後、エバポレーターで過剰のNPVEを除去し、酸価1.5mgKOH/gのカルボン酸ヘミアセタールエステル構造を有するモノマー(MAA-NPVE)を得た。
【0055】
<重量平均分子量(Mw)>
重量平均分子量(Mw)は、東ソー(株)製ゲルパーミエーションクロマトグラフィー装置HLC-8320GPCを用いて、カラムとして東ソー(株)製TSKgel HZM-Mを用い、THFを溶離液とし、RI検出器により測定してポリスチレン換算により求めた。
【0056】
<重合例2~9:エポキシ基含有重合体(A-2~A-9)の合成>
表1に示す原料を表1に示す条件で混合し、重合例1と同様の方法でA-2~A-9の重合体を得た。各原料の仕込み量、反応温度及び重量平均分子量を表1に示す。
【0057】
【表1】
【0058】
表1中の略号は次の通りである。
(a1)成分
GMA:グリシジルメタクリレート
(a2)成分
CHMA:シクロヘキシルメタクリレート
MPS:メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン
CHMI:シクロヘキシルマレイミド
HEMA:ヒドロキシエチルメタクリレート
MAA-NPVE:メタクリル酸とn-プロピルビニルエーテルのヘミアセタールエステル
(重合開始剤)
PHO:t-ヘキシルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート(日油(株)製の過酸化物系重合開始剤「製品名:パーヘキシルO」)
(溶剤)
PGMEA:プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート
【0059】
<合成例1:(B)多価カルボン酸ヘミアセタールエステル(B-1)の合成>
温度計、還流冷却器、攪拌機を備えた4つ口フラスコに、溶剤としてプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)26.8質量部、多価カルボン酸としてトリメリット酸(TMA)26.9質量部、ビニルエーテルとしてn-プロピルビニルエーテル(NPVE)46.3質量部を仕込み、攪拌しながら加熱し80℃に昇温した。次いで、温度を保ちながら攪拌し続け、混合物の酸価が2.0mgKOH/g以下に到達したことを確認後、反応を終了し、溶液の酸価0.6mgKOH/gの多価カルボン酸ヘミアセタールエステル(B-1)の60%PGMEA溶液を得た。
【0060】
<酸価>
酸価はJIS K0070-1992「化学製品の酸価,けん化価,エステル価,よう素価,水酸基価及び不けん化物の試験方法」に準拠した方法で測定した。
【0061】
<合成例2~4:多価カルボン酸ヘミアセタールエステル(B-2~B-4)の合成>
表2に示す原料を表2に示す条件で混合し、合成例1と同様の方法でB-2~B-4の反応物を得た。各原料の仕込み量、反応温度及び酸価を表2に示す。
【0062】
【表2】
【0063】
表2中の略号は次の通りである。
(多価カルボン酸)
TMA:トリメリット酸
CHTA:1,2,4-シクロヘキサントリカルボン酸
PMA:ピロメリット酸
(ビニルエーテル)
NPVE:n-プロピルビニルエーテル
IPVE:i-プロピルビニルエーテル
(溶剤)
PGMEA:プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート
【0064】
<実施例1~30、比較例1~10>
表3~表7に示す各成分を表3~表7に示す配合量で溶解混合し、実施例1~30及び比較例1~10のカラーフィルター保護膜用の熱硬化性樹脂組成物の塗工液を調製した。なお、表3~表7において、各成分の含有量を示す数値は質量部である。また、表3~表7中の略号は次の通りである。
【0065】
<(A)多官能エポキシ樹脂>
EP157:ビスフェノールAノボラック型エポキシ化合物(三菱化学(株)製、商品名:「jER 157S70」、エポキシ当量210g/eq、重量平均分子量(Mw)2160)
VG3101L:グリシジルエーテル型エポキシ化合物((株)プリンテック製、商品名:「テクモアVG3101L」、エポキシ当量210g/eq)
CEL2021P:3’,4’-エポキシシクロヘキシルメチル3,4-エポキシシクロヘキサンカルボキシレート((株)ダイセル製、商品名:「セロキサイド2021P」、エポキシ当量130g/eq)
<(C)炭素数2~5のアルキル基を有する1価のアルコール>
1-PrOH:1-プロパノール
EtOH:エタノール
2-PrOH:2-プロパノール
2-BtOH:2-ブタノール
MtOH:メタノール
1-HxOH:1-ヘキサノール
<シランカップリング剤>
OFS-6040:3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(東レ・ダウコーニング(株)製、商品名:「OFS-6040」)
KBM-903:3-アミノプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業(株)製、商品名:「KBM-903」)
KR-516:エポキシ基含有オリゴマー型シランカップリング剤(信越化学工業(株)製、商品名:「KR-516」)
<レベリング剤>
F-477:フッ素系レベリング剤(DIC(株)製、商品名:「メガファック F-477」)
BYK-307:シリコーン系レベリング剤(ビックケミー・ジャパン(株)製、商品名:「BYK-307」)
FTX-218:フッ素系レベリング剤((株)ネオス製、商品名:「FTX-218」)
<その他の添加剤>
NMM:N-メチルモルホリン(日本乳化剤(株)製、商品名:「N-メチルモルホリン」)
<安定剤>
NPVE:n-プロピルビニルエーテル
IPVE:i-プロピルビニルエーテル
<溶剤>
PGMEA:プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート
EEP:エチルエトキシプロピオネート
【0066】
実施例1~30及び比較例1~10のカラーフィルター保護膜用の熱硬化性樹脂組成物の塗工液は、それぞれメンブレンフィルター(材質:PE、孔径:0.2μm)で濾過した後、更に中空系フィルター(材質:PP、孔径:0.02μm)で濾過した。得られたカラーフィルター保護膜用の熱硬化性樹脂組成物の塗工液を、スピンコーター(型式1H-DX-2、ミカサ(株)製)により無アルカリガラス基板上に回転塗布した。塗布後、基板を90℃のクリーンオーブン中で2分間仮焼成し、23℃×50%RH環境下で3時間、又は6時間静置した。その後、230℃のクリーンオーブン中で30分間加熱することにより、所定の膜厚の硬化膜を得た。カラーフィルター保護膜用の熱硬化性樹脂組成物或いは得られた硬化膜について、塗布性、塗工外観、平滑性、透明性及び耐薬品性の評価を、次のように行った。評価の結果を表3~表7に示す。
【0067】
<塗布性>
保護膜用塗工液を無アルカリガラス基板(EAGLEXG、コーニング社製)上に硬化後膜厚が1.0μmとなる条件でスピンコートした後、23℃×50%RH環境下で1分間、又は5分間静置した。静置後に基板端部の液戻りが見られない場合を◎、液戻りの最大幅が2mm未満であった場合を○、液戻りの最大幅が2mm以上であった場合を×と評価した。塗布性が○又は◎であれば、塗布性は良好である。
【0068】
<塗工外観>
仮焼成後に23℃×50%RH環境下で3時間、又は6時間静置した基板の外観を目視にて確認した。静置後の塗膜表面の塗工外観が良好な場合を○、塗膜の表面荒れや白化が見られた場合を×と評価した。塗工外観が○であれば、塗工外観は良好である。
【0069】
<平滑性>
1.0μm厚の硬化膜を形成した無アルカリガラス基板を、走査型プローブ顕微鏡(AFM5100N、(株)日立ハイテクサイエンス製)にて測定し、硬化膜表面の算術平均粗さを測定した。算術平均粗さ(Ra)は2.0nm以下を合格とした。
【0070】
<透明性>
1.0μm厚の硬化膜を形成した無アルカリガラス基板(EAGLEXG、コーニング社製)の光線透過率を紫外-可視光分光光度計(型式UV-3700、(株)島津製作所製)を用いて測定した。波長400nmにおける透過率が98.0%以上を合格とした。
【0071】
<耐薬品性>
1.0μm厚の硬化膜を形成した無アルカリガラス基板(EAGLEXG、コーニング社製)を、25℃でNMPに30分間浸漬した際の試験前後の硬化膜の膜厚を測定し、膜厚変化率を算出した。試験前後の膜厚変化率について、2.0%以下を合格とした。
【0072】
【表3】
【0073】
【表4】
【0074】
【表5】
【0075】
【表6】
【0076】
【表7】
【0077】
表3~5の結果から、実施例1~30では、低粘度設計においても塗布性が良好であり、且つ仮焼成後に3時間又は6時間静置した場合でも、塗工外観の悪化がなく、硬化膜の平滑性、透明性及び耐薬品性も良好であった。
なお、実施例1、4、5、10、11、13~18、23~25、27、29及び30は、(A)成分として、エポキシ基と反応性を有する官能基及び水酸基を有さず、重量平均分子量(Mw)が3,000以上のエポキシ基含有重合体を60~75質量部、(B)成分として多価カルボン酸ヘミアセタールエステルを25~40質量部、(C)成分としてアルキル基の炭素数が3である1価のアルコールを(B)成分100質量部に対して0.10~1.0質量部含有するため、低粘度設計における塗布性、仮焼成後に3時間又は6時間静置した場合の塗工外観及び硬化膜の平滑性、透明性及び耐薬品性が特に良好であった。
詳細には、実施例1~7を対比すると、(A)成分が60~75質量部及び(B)成分が25~40質量部の場合に、仮焼成後に3時間又は6時間静置した場合の塗工外観及び硬化膜の平滑性、透明性及び耐薬品性が特に良好である。
実施例1、8~12を対比すると、(C)成分の含有量が(B)成分100質量部に対して1.0質量部以下である場合に、仮焼成後に3時間又は6時間静置した場合の塗工外観及び硬化膜の平滑性、透明性及び耐薬品性が特に良好である。また、(C)成分の含有量が(B)成分100質量部に対して0.1質量部以上である場合に、低粘度設計における塗布性が特に良好である。
実施例1、13~20を対比すると、(A)成分として、エポキシ基と反応性を有する官能基及び水酸基を含有しないエポキシ基含有重合体を含む場合に、仮焼成後に3時間又は6時間静置した場合の塗工外観及び硬化膜の平滑性、透明性及び耐薬品性が特に良好である。なお、実施例19及び実施例20は、エポキシ基と反応性を有する官能基としてカルボン酸ヘミアセタールエステルを有するエポキシ基含有重合体、及び、水酸基を有するエポキシ基含有重合体を含む熱硬化性樹脂組成物である。
実施例1と実施例21を対比すると、(a1)炭素-炭素不飽和結合とエポキシ基を有するモノマーと、(a2)(a1)以外の炭素-炭素不飽和結合を有するモノマーとからなるエポキシ基含有重合体の含有量を増加した場合に、仮焼成後に3時間又は6時間静置した場合の塗工外観及び硬化膜の平滑性、透明性及び耐薬品性が特に良好である。
実施例1と実施例22を対比すると、(A)成分として、重量平均分子量(Mw)が3,000以上のエポキシ基含有重合体を使用した場合に、仮焼成後に3時間又は6時間静置した場合の塗工外観及び硬化膜の平滑性、透明性及び耐薬品性が特に良好である。
実施例1と実施例26、28を対比すると、(C)成分としてアルキル基の炭素数が3である1価のアルコールを使用した場合に、低粘度設計における塗布性、仮焼成後に3時間又は6時間静置した場合の塗工外観及び硬化膜の平滑性、透明性及び耐薬品性が特に良好であった。
【0078】
一方、表6の結果から、比較例1~6では(C)成分を使用していない、又は(C)成分の配合量が過少或いは過剰であるため、低粘度設計における塗布性、或いは仮焼成後に3時間又は6時間静置した際の塗工外観や硬化膜性能が不充分であった。また、表7の結果から、比較例7及び8では、(C)成分として、炭素数が1或いは6のアルキル基を有する1価のアルコールを用いたため、低粘度設計における塗布性、或いは仮焼成後に6時間静置した際の塗工外観や硬化膜性能が不充分であった。また、比較例9及び10では、(A)又は(B)成分の配合量が過少或いは過剰であるため、仮焼成後に3時間又は6時間静置した際の硬化膜性能が不充分であった。