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特許7489617樹脂組成物、プリプレグ、樹脂付きフィルム、樹脂付き金属箔、金属張積層板、及びプリント配線板
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  • 特許-樹脂組成物、プリプレグ、樹脂付きフィルム、樹脂付き金属箔、金属張積層板、及びプリント配線板 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-16
(45)【発行日】2024-05-24
(54)【発明の名称】樹脂組成物、プリプレグ、樹脂付きフィルム、樹脂付き金属箔、金属張積層板、及びプリント配線板
(51)【国際特許分類】
   C08G 59/30 20060101AFI20240517BHJP
   C08L 63/00 20060101ALI20240517BHJP
   C08K 9/02 20060101ALI20240517BHJP
   C08K 3/22 20060101ALI20240517BHJP
   C08G 59/50 20060101ALI20240517BHJP
   C08J 5/24 20060101ALI20240517BHJP
   B32B 15/08 20060101ALI20240517BHJP
   H05K 1/03 20060101ALI20240517BHJP
【FI】
C08G59/30
C08L63/00 C
C08K9/02
C08K3/22
C08G59/50
C08J5/24 CFC
B32B15/08 U
H05K1/03 610L
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2021543730
(86)(22)【出願日】2020-08-27
(86)【国際出願番号】 JP2020032437
(87)【国際公開番号】W WO2021044946
(87)【国際公開日】2021-03-11
【審査請求日】2023-04-04
(31)【優先権主張番号】P 2019163408
(32)【優先日】2019-09-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002527
【氏名又は名称】弁理士法人北斗特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】入船 晃
(72)【発明者】
【氏名】相楽 隆
(72)【発明者】
【氏名】中島 剛之
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 和栄
(72)【発明者】
【氏名】花崎 正平
【審査官】中落 臣諭
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2011/118584(WO,A1)
【文献】特開2014-236090(JP,A)
【文献】国際公開第2013/001726(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G59/00-59/72
C08L1/00-101/14
C08K3/00-13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ樹脂と、硬化剤と、無機充填材と、を含有し、
前記エポキシ樹脂は、リン含有エポキシ樹脂を含み、
前記硬化剤は、ジシアンジアミドを含み、
前記無機充填材は、シリカで表面処理された水酸化マグネシウムであるシリカ処理水酸化マグネシウムと、水酸化アルミニウムと、を含み、
前記シリカ処理水酸化マグネシウム及び前記水酸化アルミニウムの含有量の合計は、前記エポキシ樹脂及び前記硬化剤の合計100質量部に対して、30質量部以上80質量部以下の範囲内である、
樹脂組成物。
【請求項2】
前記硬化剤の活性水素基の総量は、前記エポキシ樹脂のエポキシ基1当量に対して、0.2当量以上0.5当量以下の範囲内である、
請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記シリカ処理水酸化マグネシウムの含有量は、前記シリカ処理水酸化マグネシウム及び前記水酸化アルミニウムの合計100質量部に対して、1質量部以上50質量部以下の範囲内である、
請求項1又は2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記シリカ処理水酸化マグネシウムにおける前記シリカの含有量が、前記水酸化マグネシウム100質量部に対して、1質量部以上10質量部以下の範囲内である、
請求項1~3のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
前記リン含有エポキシ樹脂は、下記式(1)で表される構造、及び/又は下記式(2)で表される構造を有する、
請求項1~4のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【化1】
(式(1)(2)中、*は結合手を表す)
【請求項6】
前記リン含有エポキシ樹脂は、ナフタレン構造を有する、
請求項1~5のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項7】
前記リン含有エポキシ樹脂は、下記式(3)で表される構造を有する、
請求項1~6のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【化2】
(式(3)中、*は結合手を表す)
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載の樹脂組成物を含む樹脂層と、前記樹脂組成物が含浸された基材と、を備える、
プリプレグ。
【請求項9】
請求項1~7のいずれか1項に記載の樹脂組成物を含む樹脂層と、前記樹脂層を支持する支持フィルムと、を備える、
樹脂付きフィルム。
【請求項10】
請求項1~7のいずれか1項に記載の樹脂組成物を含む樹脂層と、前記樹脂層に接着された金属箔と、を備える、
樹脂付き金属箔。
【請求項11】
請求項1~7のいずれか1項に記載の樹脂組成物の硬化物又は請求項8に記載のプリプレグの硬化物を含む絶縁層と、前記絶縁層に接着された金属層と、を備える、
金属張積層板。
【請求項12】
請求項1~7のいずれか1項に記載の樹脂組成物の硬化物又は請求項8に記載のプリプレグの硬化物を含む絶縁層と、前記絶縁層に接着された導体配線と、を備える、
プリント配線板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、一般に樹脂組成物、プリプレグ、樹脂付きフィルム、樹脂付き金属箔、金属張積層板、及びプリント配線板に関する。より詳細には本開示は、エポキシ樹脂と硬化剤と無機充填材とを含有する樹脂組成物、プリプレグ、樹脂付きフィルム、樹脂付き金属箔、金属張積層板、及びプリント配線板に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、リン含有エポキシ樹脂組成物がシート状基材に含浸されたプリプレグを開示する。上記のリン含有エポキシ樹脂組成物は、リン含有エポキシ樹脂と硬化剤とを含有する。また、上記のリン含有エポキシ樹脂は、リン含有有機化合物とエポキシ樹脂類とを反応させて得られたものである。さらに、上記のリン含有有機化合物は、キノン化合物類と、リン原子に結合した1個の活性水素を有する有機リン化合物類とを反応させて得られたものである。
【0003】
特許文献1のプリプレグには、リン含有エポキシ樹脂が含有されているので、このプリプレグを用いて形成されたプリント配線板は、難燃性を有すると考えられる。
【0004】
しかしながら、特許文献1のプリント配線板には、ドリル加工性、及びデスミア性について、更なる改良の余地がある。
【0005】
ドリル加工性が悪いと、ドリル摩耗率が上昇しやすく、ドリルビットの交換頻度が増加して、プリント配線板の生産性が低下するおそれがある。またドリル加工性が悪いと、所望の穴径を有するスルーホール等を形成できないおそれもある。
【0006】
一方、デスミア性が悪いと、スミア除去が不十分となったり、逆に過剰となったりするおそれがある。
【0007】
さらに、ドリル加工性及びデスミア性の不良は、イオンマイグレーションに悪影響を及ぼし得る。イオンマイグレーションは、端的に言えば、プリント配線板の電極間でイオンが移動して金属が析出することにより、電気的絶縁性が劣化する現象である。ドリル加工性及びデスミア性が悪ければ、イオンマイグレーションが発生しやすくなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2001-288247号公報
【発明の概要】
【0009】
本開示の目的は、イオンマイグレーションの発生を抑制し、ドリル加工性、デスミア性、及び難燃性を向上させることができる樹脂組成物、プリプレグ、樹脂付きフィルム、樹脂付き金属箔、金属張積層板、及びプリント配線板を提供することにある。
【0010】
本開示の一態様に係る樹脂組成物は、エポキシ樹脂と、硬化剤と、無機充填材と、を含有する。前記エポキシ樹脂は、リン含有エポキシ樹脂を含む。前記硬化剤は、ジシアンジアミドを含む。前記無機充填材は、シリカで表面処理された水酸化マグネシウムであるシリカ処理水酸化マグネシウムと、水酸化アルミニウムと、を含む。前記シリカ処理水酸化マグネシウム及び前記水酸化アルミニウムの含有量の合計は、前記エポキシ樹脂及び前記硬化剤の合計100質量部に対して、30質量部以上80質量部以下の範囲内である。
【0011】
本開示の一態様に係るプリプレグは、前記樹脂組成物を含む樹脂層と、前記樹脂組成物が含浸された基材と、を備える。
【0012】
本開示の一態様に係る樹脂付きフィルムは、前記樹脂組成物を含む樹脂層と、前記樹脂層を支持する支持フィルムと、を備える。
【0013】
本開示の一態様に係る樹脂付き金属箔は、前記樹脂組成物を含む樹脂層と、前記樹脂層に接着された金属箔と、を備える。
【0014】
本開示の一態様に係る金属張積層板は、前記樹脂組成物の硬化物又は前記プリプレグの硬化物を含む絶縁層と、前記絶縁層に接着された金属層と、を備える。
【0015】
本開示の一態様に係るプリント配線板は、前記樹脂組成物の硬化物又は前記プリプレグの硬化物を含む絶縁層と、前記絶縁層に接着された導体配線と、を備える。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、本開示の一実施形態に係るプリプレグを示す概略断面図である。
図2図2Aは、本開示の一実施形態に係る樹脂付きフィルム(保護フィルムなし)を示す概略断面図である。図2Bは、本開示の一実施形態に係る樹脂付きフィルム(保護フィルムあり)を示す概略断面図である。
図3図3は、本開示の一実施形態に係る樹脂付き金属箔を示す概略断面図である。
図4図4は、本開示の一実施形態に係る金属張積層板を示す概略断面図である。
図5図5は、本開示の一実施形態に係るプリント配線板を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(1)概要
本実施形態に係る樹脂組成物は、主としてプリント配線板5の材料として用いられる(図5参照)。プリント配線板5の材料としては、特に限定されないが、例えば、プリプレグ1、樹脂付きフィルム2、樹脂付き金属箔3、及び金属張積層板4が挙げられる(図1図4参照)。
【0018】
本実施形態に係る樹脂組成物は、エポキシ樹脂と、硬化剤と、無機充填材と、を含有する。エポキシ樹脂は、リン含有エポキシ樹脂を含む。硬化剤は、ジシアンジアミドを含む。無機充填材は、シリカ処理水酸化マグネシウムと、水酸化アルミニウムと、を含む。シリカ処理水酸化マグネシウムは、シリカで表面処理された水酸化マグネシウムである。シリカ処理水酸化マグネシウム及び水酸化アルミニウムの含有量の合計は、エポキシ樹脂及び硬化剤の合計100質量部に対して、30質量部以上80質量部以下の範囲内である。
【0019】
本実施形態に係る樹脂組成物によれば、イオンマイグレーションの発生を抑制し、ドリル加工性、デスミア性、及び難燃性を向上させることができる。
【0020】
ここで、イオンマイグレーションには、発生形態の観点から、デンドライト(Dendrite)と、CAF(Conductive Anodic Filament)と、が含まれる。デンドライトは、基板表層の平行した電極間において樹枝状に金属が析出したものである。デンドライトは、主に基板表面に発生する(例えば図5のY部分)。一方、CAFは、基板内層の主としてガラス繊維と樹脂との境界で、陽極から析出した金属イオンが析出したものである。CAFは、主に基板内層に発生する(例えば図5のX部分)。
【0021】
(2)詳細
<樹脂組成物>
樹脂組成物は、エポキシ樹脂と、硬化剤と、無機充填材と、を含有する。樹脂組成物は、硬化促進剤を更に含有してもよい。樹脂組成物は、熱硬化性を有する。樹脂組成物は、加熱されると半硬化物となり、更に加熱されると硬化物となる。半硬化物は、半硬化状態の物質であり、硬化物は、硬化状態(不溶不融状態)の物質である。ここで、半硬化状態とは、硬化反応の中間段階(Bステージ)の状態を意味する。中間段階は、ワニス状態の段階(Aステージ)と、硬化状態の段階(Cステージ)との間の段階である。
【0022】
以下、樹脂組成物の構成成分について説明する。
【0023】
≪エポキシ樹脂≫
エポキシ樹脂(エポキシ化合物)は、プレポリマーであり、分子内に少なくとも2つ以上のエポキシ基を持つ化合物である。ところで、一般に「樹脂」という用語には、架橋反応前の材料としての樹脂と、架橋反応後の生成物(製品)としての樹脂との2つの意味がある。本明細書において「樹脂」とは、基本的には前者を意味する。
【0024】
エポキシ樹脂は、リン含有エポキシ樹脂を含む。リン含有エポキシ樹脂は、分子中に2つ以上のエポキシ基及び1つ以上のリン原子を有する樹脂である。エポキシ樹脂がこのようなリン含有エポキシ樹脂を含むことで、ハロゲンを含有しなくても、難燃性を向上させることができる。
【0025】
リン含有エポキシ樹脂のリン含有量は、好ましくは0.5質量%以上5質量%未満の範囲内であり、より好ましくは1.5質量%以上3質量%以下の範囲内である。リン含有量が0.5質量%以上であることで、難燃性を更に向上させることができる。リン含有量が5質量%未満であることで、耐熱性の低下を抑制することができる。言い換えると、ガラス転移温度(Tg)の低下を抑制することができる。
【0026】
好ましくは、リン含有エポキシ樹脂は、分子中に、下記式(1)で表される構造、及び/又は下記式(2)で表される構造を有する。これにより、難燃性を更に向上させることができる。より好ましくは、リン含有エポキシ樹脂は、分子中に、少なくとも下記式(1)で表される構造を有する。またリン含有エポキシ樹脂は、分子中に、下記式(1)で表される構造、及び/又は下記式(2)で表される構造を複数有してもよい。
【0027】
【化1】
【0028】
(式(1)(2)中、*は結合手を表す)
好ましくは、リン含有エポキシ樹脂は、分子中に、ナフタレン構造を有する。これにより、耐熱性を向上させることができる。耐熱性が向上する理由は、縮合多環構造であるナフタレン構造により分子運動が抑制されて、ガラス転移温度(Tg)が高くなるためであると考えられる。
【0029】
好ましくは、リン含有エポキシ樹脂は、分子中に、下記式(3)で表される構造を有する。下記式(3)で表される構造は、上記式(1)で表される構造と、ナフタレン構造とを有しているので、難燃性及び耐熱性を更に向上させることができる。
【0030】
【化2】
【0031】
(式(3)中、*は結合手を表す)
エポキシ樹脂は、リン含有エポキシ樹脂以外のエポキシ樹脂(以下「リン非含有エポキシ樹脂」という)を含んでもよい。リン非含有エポキシ樹脂としては、特に限定されないが、例えば、ナフタレン型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、アルキルフェノールノボラック型エポキシ樹脂、アラルキル型エポキシ樹脂、ビフェノール型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、フェノール類とフェノール性水酸基を有する芳香族アルデヒドとの縮合物のエポキシ化物、トリグリシジルイソシアヌレート、及び脂環式エポキシ樹脂が挙げられる。エポキシ樹脂は、これらの群から選ばれた少なくとも1種のリン非含有エポキシ樹脂を含み得る。
【0032】
≪硬化剤≫
硬化剤は、ジシアンジアミドを含む。これにより、密着性及び難燃性を向上させることができる。特に硬化剤が、ジシアンジアミドの代わりに、フェノール樹脂(例えばノボラック型フェノール樹脂)を含む場合よりも、密着性及び難燃性を向上させることができる。
【0033】
ここで、本明細書において「密着性」とは、金属張積層板4における絶縁層41と金属層43との間の密着性、及びプリント配線板5における絶縁層51と導体配線53との間の密着性を意味する。すなわち、硬化剤がジシアンジアミドを含むことで、金属張積層板4における絶縁層41と金属層43との間の密着性が向上する。さらにプリント配線板5における絶縁層51と導体配線53との間の密着性が向上する。なお、本明細書において「絶縁層」とは、電気的絶縁性を有する層を意味する。
【0034】
硬化剤の活性水素基の総量は、特に限定されないが、好ましくは、エポキシ樹脂のエポキシ基1当量に対して、0.2当量以上0.5当量以下の範囲内である。硬化剤の活性水素基の総量が0.2当量以上であると、耐熱性及び密着性の低下を抑制し得る。逆に、硬化剤の活性水素基の総量が0.5当量以下であると、密着性、難燃性、及び成形性の低下を抑制し得る。具体的には、成形性については、ゲルタイムが短くなり過ぎるのを抑制し得る。また、硬化剤に含まれるジシアンジアミドの活性水素基の総量が、エポキシ樹脂のエポキシ基1当量に対して、0.2当量以上0.5当量以下の範囲内であることが好ましい。
【0035】
≪無機充填材≫
無機充填材は、シリカ処理水酸化マグネシウムと、水酸化アルミニウムと、を含む。シリカ処理水酸化マグネシウム及び水酸化アルミニウムは、加熱時に生じる分解水により燃焼熱を吸収することで、樹脂組成物の硬化物に難燃性を付与する。特に水酸化アルミニウムの難燃効果が高い。
【0036】
シリカ処理水酸化マグネシウムは、コロイダルシリカ等のシリカで表面処理された水酸化マグネシウムである。シリカ処理水酸化マグネシウムには、シリカを表面に有する水酸化マグネシウム、並びにシリカ及びアルミナの複合物を表面に有する水酸化マグネシウムが含まれる。
【0037】
水酸化マグネシウムがその表面にシリカを有するとは、例えば、水酸化マグネシウムの表面にシリカが付着していることを意味する。さらに付着には、例えば、被覆及び担持が含まれる。
【0038】
好ましくは、水酸化マグネシウムの表面をシリカが被覆している。この場合、例えば、シリカは層状をなしている。シリカが層状をなしている場合には、粒子状のシリカが連なって層状をなしている場合が含まれる。シリカは、水酸化マグネシウムの表面の少なくとも一部を被覆していればよい。すなわち、水酸化マグネシウムの表面全体がシリカで被覆されていてもよいし、水酸化マグネシウムの表面の一部のみがシリカで被覆されていてもよい。
【0039】
一方、水酸化マグネシウムにシリカが担持されているとは、水酸化マグネシウムを担体として、この担体の表面に粉末状のシリカが固定されていることを意味する。この場合、水酸化マグネシウムの表面の少なくとも一部にシリカが担持されていればよい。すなわち、水酸化マグネシウムの表面全体にシリカが担持されていてもよいし、水酸化マグネシウムの表面の一部のみにシリカが担持されていてもよい。
【0040】
シリカ処理水酸化マグネシウム中の水酸化マグネシウムがイオンマイグレーションの発生の抑制に寄与し得る。一方、シリカ処理水酸化マグネシウム中のシリカがデスミア性の向上に寄与し得る。シリカで表面処理されていないと、スミア除去が過剰となりやすく、デスミア処理後の穴の形が歪になったり、穴径が大きくなり過ぎたりするおそれがある。
【0041】
シリカ処理水酸化マグネシウムの平均粒子径は、好ましくは0.5μm以上10μm以下の範囲内であり、より好ましくは1.0μm以上5.0μm以下の範囲内である。なお、本明細書において「平均粒子径」とは、レーザ回折・散乱法によって求めた粒度分布における積算値50%での粒径を意味する。
【0042】
好ましくは、シリカ処理水酸化マグネシウムにおけるシリカの含有量が、水酸化マグネシウム100質量部に対して、1質量部以上10質量部以下の範囲内である。シリカの含有量が1質量部以上であることで、水酸化マグネシウムの表面を十分に処理することができ、デスミア処理において過剰なスミア除去を抑制し得る。逆に、シリカの含有量が10質量部以下であることで、難燃性の低下を抑制し得るとともに、イオンマイグレーションの発生も抑制し得る。
【0043】
シリカ処理水酸化マグネシウム及び水酸化アルミニウムの含有量の合計は、エポキシ樹脂及び硬化剤の合計100質量部に対して、30質量部以上80質量部以下の範囲内である。
【0044】
シリカ処理水酸化マグネシウム及び水酸化アルミニウムの含有量の合計が30質量部未満であると、難燃性が低下するおそれがある。また線膨張係数が増加するおそれがある。特に金属張積層板4及びプリント配線板5の厚さ方向の線膨張係数(CTE-Z)が増加しやすくなる。
【0045】
逆に、シリカ処理水酸化マグネシウム及び水酸化アルミニウムの含有量の合計が80質量部を超えると、ドリル加工性が低下するおそれがある。具体的にはドリル摩耗率が上昇しやすくなる。また密着性が低下するおそれがある。さらに耐熱性が低下するおそれがある。
【0046】
シリカ処理水酸化マグネシウムの含有量は、シリカ処理水酸化マグネシウム及び水酸化アルミニウムの合計100質量部に対して、好ましくは1質量部以上50質量部以下の範囲内であり、より好ましくは2質量部以上30質量部以下の範囲内である。シリカ処理水酸化マグネシウムの含有量が1質量部以上であることで、イオンマイグレーションの発生を更に抑制し得る。逆に、シリカ処理水酸化マグネシウムの含有量が50質量部以下であることで、難燃性の低下を抑制し得る。
【0047】
≪硬化促進剤≫
硬化促進剤としては、特に限定されないが、例えば、2-エチル-4-メチルイミダゾール、2-メチルイミダゾール、2-フェニル-4-メチルイミダゾール等のイミダゾール類、ジメチルベンジルアミン、トリエチレンジアミン、ベンジルジメチルアミン、トリエタノールアミン等のアミン類、トリフェニルホスフィン、ジフェニルホスフィン、フェニルホスフィン等の有機ホスフィン類、テトラフェニルホスホニウム・エチルトリフェニルボレート等のテトラ置換ホスホニウム・テトラ置換ボレート、及び2-エチル-4-メチルイミダゾール・テトラフェニルボレート等のテトラフェニルボロン塩が挙げられる。硬化促進剤は、これらの群から選ばれた少なくとも1種を含み得る。樹脂組成物が硬化促進剤を含有する場合、硬化促進剤の含有量は、特に限定されないが、例えば、エポキシ樹脂及び硬化剤の合計100質量部に対して、0.01質量部以上0.1質量部以下である。
【0048】
<プリプレグ>
図1に本実施形態に係るプリプレグ1を示す。プリプレグ1は、シート状である。プリプレグ1は、少なくとも1枚のシート状の基材12と、樹脂層11と、を備える。基材12には、樹脂組成物が含浸されている。樹脂層11は、樹脂組成物を含む。樹脂組成物は、半硬化物である。
【0049】
基材12は、補強材であり、特に限定されない。基材12の厚さは、特に限定されないが、好ましくは10μm以上300μm以下の範囲内であり、より好ましくは30μm以上200μm以下の範囲内である。
【0050】
基材12の具体例として、ガラスクロス、アラミドクロス、ポリエステルクロス、ガラス不織布、アラミド不織布、ポリエステル不織布、パルプ紙、及びリンター紙が挙げられる。ガラスクロスの型式は、#7628、#1501、#2116、#1080、#1078、及び#106が好ましい。
【0051】
プリプレグ1を製造するにあたって、ガラスクロスは、A-ステージの樹脂組成物を含浸させる前に、カップリング剤で処理されていることが好ましい。このように、ガラスクロスがカップリング剤で処理されていると、ガラスクロスと樹脂組成物との密着性を向上させることができる。
【0052】
好ましくは、カップリング剤は、1分子内に、無機材料と化学結合する反応基と、有機材料と化学結合する反応基と、を有する。無機材料と化学結合する反応基の具体例として、エトキシ基及びメトキシ基が挙げられる。有機材料と化学結合する反応基の具体例として、エポキシ基、アミノ基、イソシアネート基、ヒドロキシ基、及び酸無水物基が挙げられる。
【0053】
具体的には、カップリング剤は、シランカップリング剤である。シランカップリング剤は、例えば、エポキシシラン、アミノシラン、イソシアネートシラン、及び酸無水物シランを含む。エポキシシランの具体例として、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシランが挙げられる。アミノシランの具体例として、3-アミノプロピルトリエトキシシランが挙げられる。イソシアネートシランの具体例として、3-イソシアネートプロピルトリエトキシシランが挙げられる。
【0054】
プリプレグの製造方法は、基材12にA-ステージの樹脂組成物を含浸させる工程と、基材12に含浸された樹脂組成物がB-ステージとなるまで加熱する工程と、を含む。ここで、A-ステージとは、樹脂組成物がある種の液体に可溶性であり、かつ可融性である初期の段階をいう。つまり、A-ステージの樹脂組成物はワニスである。
【0055】
<樹脂付きフィルム>
図2A及び図2Bに本実施形態に係る樹脂付きフィルム2を示す。樹脂付きフィルム2は、プリント配線板5の多層化(ビルドアップ法)などに利用される。樹脂付きフィルム2は、全体としてフィルム状である。樹脂付きフィルム2は、樹脂層21と、支持フィルム22と、を備える。図2Aは、保護フィルム23を備えない樹脂付きフィルム2である。図2Bは、保護フィルム23を更に備える樹脂付きフィルム2である。図2Bに示す樹脂付きフィルム2から保護フィルム23を剥離すると、図2Aに示す樹脂付きフィルム2となり得る。
【0056】
樹脂層21は、樹脂組成物を含む。樹脂組成物は、半硬化物である。半硬化物は、加熱されることにより、硬化物となる。このように、樹脂層21は、絶縁層を形成し得る。
【0057】
樹脂層21の厚さは、特に限定されないが、好ましくは120μm以下、より好ましくは100μm以下、さらに好ましくは60μm以下、さらにより好ましくは40μm以下である。これにより、絶縁層の厚さを薄くすることができ、基板の薄型化を実現することができる。樹脂層21の厚さは10μm以上であることが好ましい。
【0058】
支持フィルム22は、樹脂層21を支持する。このように、支持フィルム22が樹脂層21を支持していることで、樹脂層21を扱いやすくなる。
【0059】
支持フィルム22は、例えば電気絶縁性フィルムである。支持フィルム22としては、特に限定されないが例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム、ポリイミドフィルム、ポリエステルフィルム、ポリパラバン酸フィルム、ポリエーテルエーテルケトンフィルム、ポリフェニレンスルフィドフィルム、アラミドフィルム、ポリカーボネートフィルム、及びポリアリレートフィルムが挙げられる。
【0060】
支持フィルム22の樹脂層21を支持する面には離型剤層(不図示)が設けられていてもよい。離型剤層によって、支持フィルム22は、必要に応じて樹脂層21から剥離可能である。好ましくは、樹脂層21を硬化させて絶縁層を形成した後に、この絶縁層から支持フィルム22が剥離される。
【0061】
図2Aでは、樹脂層21の一方の面を支持フィルム22が被覆しているが、図2Bに示すように、樹脂層21の他方の面を保護フィルム23で被覆してもよい。このように、支持フィルム22及び保護フィルム23で樹脂層21の両面を被覆することで、樹脂層21を更に扱いやすくなる。また異物が樹脂層21に付着することを抑制することができる。
【0062】
保護フィルム23は、例えば電気絶縁性フィルムである。保護フィルム23としては、特に限定されないが、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム、ポリオレフィンフィルム、ポリエステルフィルム、及びポリメチルペンテンフィルムが挙げられる。
【0063】
保護フィルム23の樹脂層21に重ねられている面には離型剤層(不図示)が設けられていてもよい。離型剤層によって、保護フィルム23は、必要に応じて樹脂層21から剥離可能である。
【0064】
<樹脂付き金属箔>
図3に本実施形態に係る樹脂付き金属箔3を示す。樹脂付き金属箔3は、全体としてフィルム状である。樹脂付き金属箔3は、樹脂層31と、金属箔32と、を備える。樹脂付き金属箔3は、プリント配線板5の多層化(ビルドアップ法)などに利用される。
【0065】
樹脂層31は、樹脂組成物を含む。樹脂組成物は、半硬化物である。半硬化物は、加熱されることにより、硬化物となり得る。このように、樹脂層31は、絶縁層を形成し得る。
【0066】
樹脂層31の厚さは、特に限定されないが、好ましくは120μm以下、より好ましくは100μm以下、さらに好ましくは60μm以下、さらにより好ましくは40μm以下である。これにより、樹脂層31が硬化して形成される絶縁層の厚さを薄くすることができ、基板の薄型化を実現することができる。樹脂層31の厚さは10μm以上であることが好ましい。
【0067】
金属箔32は、樹脂層31に接着されている。金属箔32の具体例として、銅箔が挙げられるが、特にこれに限定されない。金属箔32は、サブトラクティブ法などにおいて不要部分がエッチングにより除去されることで、導体配線を形成し得る。
【0068】
金属箔32の厚さは、特に限定されないが、好ましくは35μm以下、より好ましくは18μm以下である。金属箔32の厚さは5μm以上であることが好ましい。
【0069】
ところで、金属箔32は、いわゆるキャリア付き極薄金属箔(図示省略)の極薄金属箔(例えば極薄銅箔)で構成されてもよい。キャリア付き極薄金属箔は3層構造である。すなわち、キャリア付き極薄金属箔は、キャリアと、キャリアの表面に設けられた剥離層と、剥離層の表面に設けられた極薄金属箔と、を備える。極薄金属箔は、単独では取り扱うのが難しいほど極薄であり、もちろんキャリアよりも薄い。キャリアは、極薄金属箔を保護し支持する役割を有する金属箔(例えば銅箔)である。キャリア付き極薄金属箔は、ある程度の厚さを有しているので取り扱いやすい。極薄金属箔及びキャリアの厚さは特に限定されないが、例えば、極薄金属箔の厚さは1μm以上10μm以下の範囲内であり、キャリアの厚さは18μm以上35μm以下の範囲内である。極薄金属箔は、必要に応じて剥離層から剥離可能である。
【0070】
キャリア付き極薄金属箔を使用する場合には、次のようにして樹脂付き金属箔3を製造することができる。すなわち、キャリア付き極薄金属箔の極薄金属箔の表面に樹脂組成物を塗布し、加熱して、樹脂層31を形成する。その後、極薄金属箔からキャリアを剥離する。極薄金属箔は、樹脂層31の表面に金属箔32として接着されている。剥離層は、キャリアと共に剥離されて、極薄金属箔の表面に残らないことが好ましいが、残っていたとしても容易に除去可能である。樹脂層31の表面に接着している極薄金属箔は、モディファイドセミアディティブ法(MSAP:Modified Semi Additive Process)におけるシード層として利用可能であり、このシード層に電解めっき処理を行って導体配線を形成することができる。
【0071】
<金属張積層板>
図4に本実施形態に係る金属張積層板4を示す。金属張積層板4は、絶縁層41と、金属層43と、を備える。絶縁層41は、少なくとも1枚以上のプリプレグ1の硬化物を含む。このように、金属張積層板4は、プリプレグ1を材料として製造可能である。絶縁層41は、電気的絶縁性を有し、不溶不融状態の層である。金属層43は、絶縁層41に接着されている。
【0072】
金属層43は、金属を含む層であれば、特に限定されない。金属層43の具体例として銅箔が挙げられる。金属層43の厚さは、18μm以上210μm以下の範囲内であることが好ましい。金属層43の十点平均粗さRzjisは5.0μm以上であることが好ましい。この場合、絶縁層41と金属層43との密着性を更に向上させることができる。
【0073】
金属張積層板4の製造方法は、例えば、1枚のプリプレグ1又は2枚以上のプリプレグ1からなる積層体の片面又は両面に、金属箔等の金属層43を重ねて加熱加圧する工程を含む。好ましくは、積層体に金属層43を重ねる前に、金属層43の表面(少なくとも積層体に重なる面)をカップリング剤で処理する。このように、金属層43がカップリング剤で表面処理されていると、カップリング剤が、プリプレグ1中の有機材料と金属層43とを結合することで、絶縁層41と金属層43との密着性を更に向上させることができる。カップリング剤は、上述のものが使用可能である。加熱加圧の条件は特に限定されない。図4は、1枚のプリプレグ1からなる積層体の両面に金属層43を重ねて加熱加圧する工程を経て得られた金属張積層板4を示している。
【0074】
<プリント配線板>
図5に本実施形態に係るプリント配線板5を示す。プリント配線板5は、少なくとも1層以上の絶縁層51と、少なくとも1層以上の導体層530と、を備える。絶縁層51は、少なくとも1枚以上のプリプレグ1の硬化物を含む。絶縁層51は、電気的絶縁性を有し、不溶不融状態の層である。導体層530は、絶縁層51に接着されている。本明細書において「導体層」とは、信号層、電源層、及びグラウンド層などの導電性を有する層を意味する。プリント配線板5は、3層以上の導体層530を備える多層プリント配線板を含む概念である。なお、図5は、2層の導体層530及び1層の絶縁層51を備えるプリント配線板を示している。
【0075】
プリント配線板5は、例えば、金属張積層板4を材料としてサブトラクティブ法を使用することにより製造可能である。さらに樹脂付きフィルム2及び樹脂付き金属箔3を用いてビルドアップ法によりプリント配線板5を多層化してもよい。
【0076】
プリント配線板5は、1つ以上のスルーホールめっき54を有し得る。スルーホールめっき54は、例えば、絶縁層51にドリルによって穴をあけ、デスミア処理を行った後、この穴の内壁に銅めっき等を施して形成される。デスミア処理は、例えば、過マンガン酸法によって行うことができる。なお、図示省略しているが、プリント配線板5は、1つ以上のブラインドバイアホールを有してもよい。なお、穴は、貫通穴でも非貫通穴でもよい。
【0077】
ここで、絶縁層51のドリル加工性が良好であるため、絶縁層51にドリルによって穴をあける場合に、ドリル摩耗率の上昇を抑制し得る。ドリル摩耗率が上昇しにくくなると、絶縁層51の切削温度も上昇しにくくなるので、スミアが発生しにくくなる。さらにドリル摩耗率が上昇しにくくなると、ドリルビットの交換頻度を減少させることができ、プリント配線板5の生産性を向上させることができる。
【0078】
また絶縁層51のデスミア性が良好であるため、穴にデスミア処理を行う場合に、スミアが十分に除去されやすい。そのため、スミアの残留による導通不良が起こりにくくなる。さらに穴にデスミア処理を行う場合に、穴の内壁が必要以上に除去されにくいので、穴の形が歪になりにくく、穴径が大きくなり過ぎることも抑制される。
【0079】
さらに絶縁層51のドリル加工性及びデスミア性が良好であるため、イオンマイグレーションも発生しにくくなる。具体的には、絶縁層51の内部(例えば図5のX部分)において、基材52に沿ってCAFが発生しにくくなる。また絶縁層51の外部(例えば図5のY部分)において、デンドライトが発生しにくくなる。その結果、プリント配線板5の長期的な絶縁信頼性を向上させることができる。
【0080】
以上のように、本実施形態によれば、イオンマイグレーションの発生を抑制し、ドリル加工性、デスミア性、及び難燃性を向上させることができる。
【0081】
(3)まとめ
上記実施形態から明らかなように、本開示は、下記の態様を含む。なお、以下では、実施形態との対応関係を明示するためだけに、符号を括弧付きで付している。
【0082】
第1の態様に係る樹脂組成物は、エポキシ樹脂と、硬化剤と、無機充填材と、を含有する。前記エポキシ樹脂は、リン含有エポキシ樹脂を含む。前記硬化剤は、ジシアンジアミドを含む。前記無機充填材は、シリカで表面処理された水酸化マグネシウムであるシリカ処理水酸化マグネシウムと、水酸化アルミニウムと、を含む。前記シリカ処理水酸化マグネシウム及び前記水酸化アルミニウムの含有量の合計は、前記エポキシ樹脂及び前記硬化剤の合計100質量部に対して、30質量部以上80質量部以下の範囲内である。
【0083】
この態様によれば、イオンマイグレーションの発生を抑制し、ドリル加工性、デスミア性、及び難燃性を向上させることができる。
【0084】
第2の態様に係る樹脂組成物では、第1の態様において、前記硬化剤の活性水素基の総量は、前記エポキシ樹脂のエポキシ基1当量に対して、0.2当量以上0.5当量以下の範囲内である。
【0085】
この態様によれば、硬化剤の活性水素基の総量が0.2当量以上であると、耐熱性及び密着性の低下を抑制し得る。逆に、硬化剤の活性水素基の総量が0.5当量以下であると、成形性の低下を抑制し得る。
【0086】
第3の態様に係る樹脂組成物では、第1又は2の態様において、前記シリカ処理水酸化マグネシウムの含有量は、前記シリカ処理水酸化マグネシウム及び前記水酸化アルミニウムの合計100質量部に対して、1質量部以上50質量部以下の範囲内である。
【0087】
この態様によれば、シリカ処理水酸化マグネシウムの含有量が1質量部以上であることで、イオンマイグレーションの発生を更に抑制し得る。逆に、シリカ処理水酸化マグネシウムの含有量が50質量部以下であることで、難燃性の低下を抑制し得る。
【0088】
第4の態様に係る樹脂組成物では、第1~3のいずれかの態様において、前記シリカ処理水酸化マグネシウムにおける前記シリカの含有量が、前記水酸化マグネシウム100質量部に対して、1質量部以上10質量部以下の範囲内である。
【0089】
この態様によれば、シリカの含有量が1質量部以上であることで、水酸化マグネシウムの表面を十分に処理することができ、デスミア処理において過剰なスミア除去を抑制し得る。逆に、シリカの含有量が10質量部以下であることで、難燃性の低下を抑制し得るとともに、イオンマイグレーションの発生も抑制し得る。
【0090】
第5の態様に係る樹脂組成物では、第1~4のいずれかの態様において、前記リン含有エポキシ樹脂は、分子中に、下記式(1)で表される構造、及び/又は下記式(2)で表される構造を有する。
【0091】
【化3】
【0092】
(式(1)(2)中、*は結合手を表す)
この態様によれば、難燃性を更に向上させることができる。
【0093】
第6の態様に係る樹脂組成物では、第1~5のいずれかの態様において、前記リン含有エポキシ樹脂は、ナフタレン構造を有する。
【0094】
この態様によれば、耐熱性を向上させることができる。
【0095】
第7の態様に係る樹脂組成物では、第1~6のいずれかの態様において、前記リン含有エポキシ樹脂は、下記式(3)で表される構造を有する。
【0096】
【化4】
【0097】
(式(3)中、*は結合手を表す)
この態様によれば、難燃性及び耐熱性を更に向上させることができる。
【0098】
第8の態様に係るプリプレグ(1)は、第1~7のいずれかの態様に係る樹脂組成物を含む樹脂層(11)と、前記樹脂組成物が含浸された基材(12)と、を備える。
【0099】
この態様によれば、イオンマイグレーションの発生を抑制し、ドリル加工性、デスミア性、及び難燃性を向上させることができる。
【0100】
第9の態様に係る樹脂付きフィルム(2)は、第1~7のいずれかの態様に係る樹脂組成物を含む樹脂層(21)と、前記樹脂層(21)を支持する支持フィルム(22)と、を備える。
【0101】
この態様によれば、イオンマイグレーションの発生を抑制し、ドリル加工性、デスミア性、及び難燃性を向上させることができる。
【0102】
第10の態様に係る樹脂付き金属箔(3)は、第1~7のいずれかの態様に係る樹脂組成物を含む樹脂層(31)と、前記樹脂層(31)に接着された金属箔(32)と、を備える。
【0103】
この態様によれば、イオンマイグレーションの発生を抑制し、ドリル加工性、デスミア性、及び難燃性を向上させることができる。
【0104】
第11の態様に係る金属張積層板(4)は、第1~7のいずれかの態様に係る樹脂組成物の硬化物又は第の態様に係るプリプレグの硬化物を含む絶縁層(41)と、前記絶縁層(41)に接着された金属層(43)と、を備える。
【0105】
この態様によれば、イオンマイグレーションの発生を抑制し、ドリル加工性、デスミア性、及び難燃性を向上させることができる。
【0106】
第12の態様に係るプリント配線板(5)は、第1~7のいずれかの態様に係る樹脂組成物の硬化物又は第の態様に係るプリプレグの硬化物を含む絶縁層(51)と、前記絶縁層(51)に接着された導体配線(53)と、を備える。
【0107】
この態様によれば、イオンマイグレーションの発生を抑制し、ドリル加工性、デスミア性、及び難燃性を向上させることができる。
【実施例
【0108】
以下、本開示を実施例によって具体的に説明するが、本開示は実施例に限定されない。
【0109】
[原材料]
各実施例及び比較例の樹脂組成物の原材料として以下のものを用いた。
【0110】
≪エポキシ樹脂≫
・日鉄ケミカル&マテリアル株式会社製、品名:FX-289、式(1)で表される構造を有するリン含有エポキシ樹脂、リン含有量:2.2質量%、エポキシ当量:310g/eq
・DIC株式会社製、品名:EPICLON 860、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、リン含有量:0質量%、エポキシ当量:245g/eq
・DIC株式会社製、品名:EPICLON N-680、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、リン含有量:0質量%、エポキシ当量:210g/eq。
【0111】
≪硬化剤≫
・ジシアンジアミド(DICY)、アミン当量:21g/eq
・DIC株式会社製、品名:TD-2090、ノボラック型フェノール樹脂、水酸基当量:105g/eq。
【0112】
≪無機充填材≫
・住友化学株式会社製、品名:CL-303、水酸化アルミニウム、平均粒子径:4μm
・神島化学工業株式会社製、品名:マグシーズEP-1S(シリカ処理水酸化マグネシウム)、平均粒子径:2μm
・協和化学工業株式会社製、品名:キスマ8(KISUMA 8)、水酸化マグネシウム(シリカで表面処理されていない)、平均粒子径:1.5μm
・株式会社龍森製、品名:FLB-2(溶融シリカ)、平均粒子径:1.4μm。
【0113】
≪硬化促進剤≫
・2-エチル-4-メチルイミダゾール(2E4MZ)。
【0114】
[ワニスの調製]
上記の原材料を表1及び表2に示す組成で配合し、この配合物を、固形分が70質量%となるように、溶媒であるメチルエチルケトンに溶解又は分散させ、ディスパーで攪拌することによって、各実施例及び比較例の樹脂組成物を含むワニスを調製した。
【0115】
[プリプレグの製造]
基材として、ガラスクロス(南亜製「#7628」)を用い、このガラスクロスに上記のワニスを室温で含浸させ、その後、非接触タイプの加熱ユニットにより、約160℃で4~5分加熱することにより、ワニス中の溶媒を乾燥除去し、樹脂組成物を半硬化させることによってプリプレグを製造した。プリプレグの樹脂含有量は、50質量%となるように調整した。
【0116】
[銅張積層板の製造]
上記のプリプレグを4枚重ね、これらのプリプレグを2枚の銅箔(厚さ35μm)の粗化面の間に挟んで180℃、2.94MPa(30kgf/cm)で90分間加熱加圧成形することで、絶縁層全体の厚さが800μmの銅張積層板(CCL)を製造した。
【0117】
[評価試験]
(ガラス転移温度(Tg))
上記の銅張積層板の銅箔をエッチングにより除去して、銅箔で覆われていない絶縁基板(いわゆるアンクラッド板)とし、この絶縁基板から円板状の試料を切り出した。この試料を乾燥させた後、DSC法によりガラス転移温度(Tg)を測定した。測定温度は30℃~220℃、昇温速度は20℃/分である。Tgは、DSC曲線において、ガラス状態からゴム状態への相転移を示す吸熱ピーク時の温度とした。
【0118】
(ゲルタイム)
上記のワニスを170℃の熱板上に10mL程度滴下し、20秒保持した。その後、テフロン棒(テフロンは登録商標)で攪拌し始めてから、ワニス粘度が上昇し、テフロン棒から糸を引かなくなるまでの時間を測定した。
【0119】
(線膨張係数(CTE-Z))
上記の銅張積層板の銅箔をエッチングにより除去して、アンクラッド板とし、このアンクラッド板から円板状の試料を切り出した。この試料を乾燥させた後、TMA法により、ガラス転移温度(Tg)以下での試料の厚さ方向の線膨張係数(CTE-Z)を測定した。測定温度は30℃~290℃、昇温速度は10℃/分である。以下の基準で評価した。
【0120】
A:線膨張係数が40ppm/℃以下
B:線膨張係数が40ppm/℃超50ppm/℃以下
C:線膨張係数が50ppm/℃超。
【0121】
(オーブン耐熱性)
上記の銅張積層板を5cm角の大きさに切り出して試料とした。この試料を250℃のオーブンに1時間入れて、膨れの有無を目視により確認した。膨れとは、試料における絶縁層同士の間又は絶縁層と銅箔との間に生じる部分的に隆起した剥がれを意味し、層間剥離の一形態である。以下の基準で評価した。
【0122】
A:膨れなし
B:1又は2箇所の膨れあり
C:3箇所以上の膨れあり。
【0123】
(ドリル加工性)
上記の銅張積層板を4枚重ね、これをエントリーボードとバックアップボードとの間に挟んだ後、ドリル加工機に取り付けられたドリルビットによって穴あけを行った。ドリル加工の条件は、以下のとおりである。
【0124】
エントリーボード:アルミニウム板(厚さ0.15mm)
バックアップボード:ベークライト板(厚さ1.5mm)
ドリルビット:ユニオンツール株式会社製「NHU-L020」(刃径0.3mm、刃長5.5mm)
回転数:160000rpm
送り速度:3.2m/min
チップロード:20μm/rev
ヒット数:3000。
【0125】
そして、以下の式により、ドリル摩耗率(W)を算出した。
【0126】
W=(S1-S2)×100/S1
S1:ドリル加工前の刃部の面積
S2:ドリル加工後の刃部の面積。
【0127】
なお、刃部は、切削に直接あずかる部分である。刃部の面積は、ドリルビットを先端から撮影して得られた画像における刃部の面積である。以下の基準で評価した。
【0128】
A:ドリル摩耗率が50%未満
B:ドリル摩耗率が50%以上。
【0129】
(デスミア性)
上記の銅張積層板の銅箔をエッチングにより除去して、評価基板(アンクラッド板)を得た。この評価基板をデスミア処理液(ロームアンドハース社製、品名:MLB213)により、FR4条件で1回デスミア処理した。そして、デスミア処理後の評価基板の重量を測定し、このデスミア処理後の評価基板の重量と、デスミア処理前の評価基板の重量とから、デスミア処理による重量減少量(mg/dm)を算出した。以下の基準で評価した。
【0130】
A:重量減少量が5mg/dm以上15mg/dm以下
B:重量減少量が5mg/dm未満、又は15mg/dm超。
【0131】
(耐CAF性)
上記の銅張積層板に1.65mmピッチで50穴のスルーホールを有する配線を形成して試料とした。スルーホール内壁間隔は0.6mmである。この試料について、温度85℃及び湿度85%RHの雰囲気下において、500Vの電圧を1000時間印加した。電圧印加前の絶縁層の抵抗値(初期値)と電圧印加後の絶縁層の抵抗値とを測定し、以下の基準で耐CAF性を評価した。
【0132】
S:初期値に対して抵抗値の低下が1桁以内
A:初期値に対して抵抗値の低下が2桁
B:初期値に対して抵抗値の低下が3桁
C:初期値に対して抵抗値の低下が4桁以上。
【0133】
(銅箔密着性)
上記の銅張積層板の銅箔密着性(引きはがし強さ)をJIS C6481に準拠して測定した。
【0134】
(難燃性)
UL94燃焼試験を行って難燃性を評価した。具体的には、上記の銅張積層板の銅箔をエッチングにより除去して、アンクラッド板とし、このアンクラッド板から、長さ125mm、幅12.5mmの短冊状の試料を切り出した。この試料をクランプに垂直に取り付け、20mm炎による10秒間接炎を2回行い、その燃焼挙動により、V-0、V-1、V-2、Notの判定を行った。
【0135】
以上の試験結果を表1及び表2に示す。
【0136】
【表1】
【0137】
【表2】
【符号の説明】
【0138】
1 プリプレグ
11 樹脂層
12 基材
2 樹脂付きフィルム
21 樹脂層
22 支持フィルム
3 樹脂付き金属箔
31 樹脂層
32 金属箔
4 金属張積層板
41 絶縁層
43 金属層
5 プリント配線板
51 絶縁層
53 導体配線
図1
図2
図3
図4
図5