(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-16
(45)【発行日】2024-05-24
(54)【発明の名称】非破壊検査装置
(51)【国際特許分類】
G01N 29/12 20060101AFI20240517BHJP
G01N 29/46 20060101ALI20240517BHJP
【FI】
G01N29/12
G01N29/46
(21)【出願番号】P 2020088393
(22)【出願日】2020-05-20
【審査請求日】2023-03-14
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 令和1年7月24日~7月26日に東京ビッグサイト西展示棟1~4ホール、南展示棟1・2ホール(東京都江東区有明3-11-1)において開催された一般社団法人日本非破壊検査工業会主催第9回非破壊評価総合展(メンテナンス・レジリエンス TOKYO2019 内)にて公開
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 令和1年10月17日に株式会社タツノ横浜工場(神奈川県横浜市栄区笠間4丁目1番1号)において開催された神奈川県非破壊試験技術交流会主催第24回神奈川県非破壊試験技術交流会・技術発表会にて公開
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 令和2年1月1日に日本工業出版により発行された「検査技術 第25巻 第1号(通巻279号)」の28ページ~36ページにて公開
(73)【特許権者】
【識別番号】391021385
【氏名又は名称】株式会社KJTD
(73)【特許権者】
【識別番号】501267357
【氏名又は名称】国立研究開発法人建築研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】弁理士法人一色国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田代 秀夫
(72)【発明者】
【氏名】奥田 聖哉
(72)【発明者】
【氏名】眞方山 美穂
(72)【発明者】
【氏名】棚野 博之
(72)【発明者】
【氏名】久下 幹雄
【審査官】村田 顕一郎
(56)【参考文献】
【文献】特公平02-054903(JP,B2)
【文献】特開2001-041940(JP,A)
【文献】特開2019-168389(JP,A)
【文献】特開2001-311724(JP,A)
【文献】特開2000-074889(JP,A)
【文献】特開2012-168022(JP,A)
【文献】特開2017-203711(JP,A)
【文献】特開2013-134221(JP,A)
【文献】特開2006-047162(JP,A)
【文献】特開2002-214209(JP,A)
【文献】特開2002-296253(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 29/00-29/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体に衝突する衝突物に設けられ、前記被検体と前記衝突物の衝突による打撃力を検出して、それを出力する打撃力センサと、
前記打撃力センサによる出力を所定周期で取得することにより、打撃力の時系列データを取得する第1取得手段と、
前記第1取得手段により取得された前記打撃力の時系列データから最大打撃力を抽出する第1抽出手段と、
前記被検体の表面の対向位置において前記被検体と前記
衝突物の衝突による打音の音圧を検出して、それを出力する電気音響変換器と、
前記電気音響変換器による出力を所定周期で取得することにより、音圧の時系列データを取得する第2取得手段と、
前記第2取得手段により取得された前記音圧の時系列データから音圧の絶対値の最大値を最大音圧として抽出する第2抽出手段と、
前記第2取得手段によって取得された前記音圧の時系列データをフーリエ変換することにより、振動数ごとの音圧のスペクトル強度を表した音圧振動数特性を算出するフーリエ変換手段と、
前記フーリエ変換手段によって算出された前記音圧振動数特性から固有振動数を抽出する固有振動数抽出手段と、
前記第1抽出手段によって抽出された前記最大打撃力と、前記第2抽出手段によって抽出された前記最大音圧又はその補正値と、前記固有振動数抽出手段によって抽出された前記固有振動数とに基づいて、前記被検体の前記表面下の内部欠陥の大きさと前記表面から前記内部欠陥までの深さとのうち少なくとも一方を算出する算出手段と、
を備え
、
前記内部欠陥の大きさをaとし、前記固有振動数抽出手段によって抽出された前記固有振動数をfnとし、前記第1抽出手段によって抽出された前記最大打撃力をFmaxとし、前記第2抽出手段によって抽出された前記最大音圧をPmaxとし、所定の定数をA又はBとし、前記被検体のヤング率をEとし、前記被検体のポアソン比をνとし、前記被検体の密度をρとした場合、
前記算出手段が次式(1)又は次式(2)を用いて前記内部欠陥の大きさを算出する
非破壊検査装置。
【数1】
【請求項2】
被検体に衝突する衝突物に設けられ、前記被検体と前記衝突物の衝突による打撃力を検出して、それを出力する打撃力センサと、
前記打撃力センサによる出力を所定周期で取得することにより、打撃力の時系列データを取得する第1取得手段と、
前記第1取得手段により取得された前記打撃力の時系列データから最大打撃力を抽出する第1抽出手段と、
前記被検体の表面の対向位置において前記被検体と前記
衝突物の衝突による打音の音圧を検出して、それを出力する電気音響変換器と、
前記電気音響変換器による出力を所定周期で取得することにより、音圧の時系列データを取得する第2取得手段と、
前記第2取得手段により取得された前記音圧の時系列データから音圧の絶対値の最大値を最大音圧として抽出する第2抽出手段と、
前記第2取得手段によって取得された前記音圧の時系列データをフーリエ変換することにより、振動数ごとの音圧のスペクトル強度を表した音圧振動数特性を算出するフーリエ変換手段と、
前記フーリエ変換手段によって算出された前記音圧振動数特性から固有振動数を抽出する固有振動数抽出手段と、
前記第1抽出手段によって抽出された前記最大打撃力と、前記第2抽出手段によって抽出された前記最大音圧又はその補正値と、前記固有振動数抽出手段によって抽出された前記固有振動数とに基づいて、前記被検体の前記表面下の内部欠陥の大きさと前記表面から前記内部欠陥までの深さとのうち少なくとも一方を算出する算出手段と、
を備え
、
前記被検体の前記表面から前記内部欠陥までの深さをhとし、前記固有振動数抽出手段によって抽出された前記固有振動数をfnとし、前記第1抽出手段によって抽出された前記最大打撃力をFmaxとし、前記第2抽出手段によって抽出された前記最大音圧をPmaxとし、所定の定数をAとし、所定の定数をCとし、所定の定数をDとし、前記被検体のヤング率をEとし、前記被検体のポアソン比をνとし、前記被検体の密度をρとした場合、
前記算出手段が次式(3)又は次式(4)を用いて前記内部欠陥までの深さを算出する非破壊検査装置。
【数2】
【請求項3】
被検体に衝突する衝突物に設けられ、前記被検体と前記衝突物の衝突による打撃力を検出して、それを出力する打撃力センサと、
前記打撃力センサによる出力を所定周期で取得することにより、打撃力の時系列データを取得する第1取得手段と、
前記第1取得手段により取得された前記打撃力の時系列データから最大打撃力を抽出する第1抽出手段と、
前記被検体の表面の対向位置において前記被検体と前記
衝突物の衝突による打音の音圧を検出して、それを出力する電気音響変換器と、
前記電気音響変換器による出力を所定周期で取得することにより、音圧の時系列データを取得する第2取得手段と、
前記第2取得手段により取得された前記音圧の時系列データから音圧の絶対値の最大値を最大音圧として抽出する第2抽出手段と、
前記第2取得手段によって取得された前記音圧の時系列データをフーリエ変換することにより、振動数ごとの音圧のスペクトル強度を表した音圧振動数特性を算出するフーリエ変換手段と、
前記フーリエ変換手段によって算出された前記音圧振動数特性から固有振動数を抽出する固有振動数抽出手段と、
前記第1抽出手段によって抽出された前記最大打撃力と、前記第2抽出手段によって抽出された前記最大音圧又はその補正値と、前記固有振動数抽出手段によって抽出された前記固有振動数とに基づいて、前記被検体の前記表面下の内部欠陥の大きさと前記表面から前記内部欠陥までの深さとのうち少なくとも一方を算出する算出手段と、
前記第1取得手段によって取得された前記打撃力の時系列データをフーリエ変換することにより、振動数ごとの打撃力のスペクトル強度を表した打撃力振動数特性を算出する第2フーリエ変換手段と、
前記第2フーリエ変換手段により算出された前記打撃力振動数特性から最大スペクトル強度を抽出する第3抽出手段と、
前記第2フーリエ変換手段により算出された前記打撃力振動数特性に、前記固有振動数抽出手段によって抽出された前記固有振動数を当て嵌めて、その固有振動数に対応するスペクトル強度を算出するスペクトル強度算出手段と、
前記第3抽出手段によって抽出された前記最大スペクトル強度と、前記スペクトル強度算出手段によって算出されたスペクトル強度とのレベル差を求めるレベル差算出手段と、
前記第2抽出手段によって抽出された前記最大音圧に、前記レベル差算出手段によって算出された前記レベル差に応じた倍率を乗ずることによって、前記最大音圧の前記補正値を算出する補正手段と、
を備える非破壊検査装置。
【請求項4】
被検体に衝突する衝突物に設けられ、前記被検体と前記衝突物の衝突による打撃力を検出して、それを出力する打撃力センサと、
前記打撃力センサによる出力を所定周期で取得することにより、打撃力の時系列データを取得する第1取得手段と、
前記第1取得手段により取得された前記打撃力の時系列データから最大打撃力を抽出する第1抽出手段と、
前記被検体の表面の対向位置において前記被検体と前記
衝突物の衝突による打音の音圧を検出して、それを出力する電気音響変換器と、
前記電気音響変換器による出力を所定周期で取得することにより、音圧の時系列データを取得する第2取得手段と、
前記第2取得手段により取得された前記音圧の時系列データから音圧の絶対値の最大値を最大音圧として抽出する第2抽出手段と、
前記第2取得手段によって取得された前記音圧の時系列データをフーリエ変換することにより、振動数ごとの音圧のスペクトル強度を表した音圧振動数特性を算出するフーリエ変換手段と、
前記フーリエ変換手段によって算出された前記音圧振動数特性から固有振動数を抽出する固有振動数抽出手段と、
前記第1抽出手段によって抽出された前記最大打撃力と、前記第2抽出手段によって抽出された前記最大音圧又はその補正値と、前記固有振動数抽出手段によって抽出された前記固有振動数とに基づいて、前記被検体の前記表面下の内部欠陥の大きさと前記表面から前記内部欠陥までの深さとのうち少なくとも一方を算出する算出手段と、
を備え
、
前記内部欠陥の大きさをaとし、前記固有振動数抽出手段によって抽出された前記固有振動数をfnとし、前記第1抽出手段によって抽出された前記最大打撃力をFmaxとし、前記第2抽出手段によって抽出された前記最大音圧の前記補正値をPmax’とし、所定の定数をA又はBとし、前記被検体のヤング率をEとし、前記被検体のポアソン比をνとし、前記被検体の密度をρとした場合、
前記算出手段が次式(6)又は次式(7)を用いて前記内部欠陥の大きさを算出する
非破壊検査装置。
【数3】
【請求項5】
被検体に衝突する衝突物に設けられ、前記被検体と前記衝突物の衝突による打撃力を検出して、それを出力する打撃力センサと、
前記打撃力センサによる出力を所定周期で取得することにより、打撃力の時系列データを取得する第1取得手段と、
前記第1取得手段により取得された前記打撃力の時系列データから最大打撃力を抽出する第1抽出手段と、
前記被検体の表面の対向位置において前記被検体と前記
衝突物の衝突による打音の音圧を検出して、それを出力する電気音響変換器と、
前記電気音響変換器による出力を所定周期で取得することにより、音圧の時系列データを取得する第2取得手段と、
前記第2取得手段により取得された前記音圧の時系列データから音圧の絶対値の最大値を最大音圧として抽出する第2抽出手段と、
前記第2取得手段によって取得された前記音圧の時系列データをフーリエ変換することにより、振動数ごとの音圧のスペクトル強度を表した音圧振動数特性を算出するフーリエ変換手段と、
前記フーリエ変換手段によって算出された前記音圧振動数特性から固有振動数を抽出する固有振動数抽出手段と、
前記第1抽出手段によって抽出された前記最大打撃力と、前記第2抽出手段によって抽出された前記最大音圧又はその補正値と、前記固有振動数抽出手段によって抽出された前記固有振動数とに基づいて、前記被検体の前記表面下の内部欠陥の大きさと前記表面から前記内部欠陥までの深さとのうち少なくとも一方を算出する算出手段と、
を備え
、
前記被検体の前記表面から前記内部欠陥までの深さをhとし、前記固有振動数抽出手段によって抽出された前記固有振動数をfnとし、前記第1抽出手段によって抽出された前記最大打撃力をFmaxとし、前記第2抽出手段によって抽出された前記最大音圧の前記補正値をPmax’とし、所定の定数をAとし、所定の定数をBとし、所定の定数をCとし、前記被検体のヤング率をEとし、前記被検体のポアソン比をνとし、前記被検体の密度をρとした場合、
前記算出手段が次式(8)又は次式(9)を用いて前記内部欠陥のまでの深さを算出す
る非破壊検査装置。
【数4】
【請求項6】
前記被検体の前記表面から前記内部欠陥までの深さをhとし、前記固有振動数抽出手段によって抽出された前記固有振動数をfnとし、前記第1抽出手段によって抽出された前記最大打撃力をFmaxとし、前記第2抽出手段によって抽出された前記最大音圧をPmaxとし、所定の定数をAとし、所定の定数をCとし、所定の定数をDとし、前記被検体のヤング率をEとし、前記被検体のポアソン比をνとし、前記被検体の密度をρとした場合、
前記算出手段が次式(
11)又は次式(
12)を用いて前記内部欠陥までの深さを算出する請求項
1に記載の非破壊検査装置。
【数5】
【請求項7】
前記内部欠陥の大きさをaとし、前記固有振動数抽出手段によって抽出された前記固有振動数をfnとし、前記第1抽出手段によって抽出された前記最大打撃力をFmaxとし、前記第2抽出手段によって抽出された前記最大音圧の前記補正値をPmax’とし、所定の定数をA又はBとし、前記被検体のヤング率をEとし、前記被検体のポアソン比をνとし、前記被検体の密度をρとした場合、
前記算出手段が次式(
14)又は次式(
15)を用いて前記内部欠陥の大きさを算出する
請求項3に記載の非破壊検査装置。
【数6】
【請求項8】
前記被検体の前記表面から前記内部欠陥までの深さをhとし、前記固有振動数抽出手段によって抽出された前記固有振動数をfnとし、前記第1抽出手段によって抽出された前記最大打撃力をFmaxとし、前記第2抽出手段によって抽出された前記最大音圧の前記補正値をPmax’とし、所定の定数をAとし、所定の定数をBとし、所定の定数をCとし、前記被検体のヤング率をEとし、前記被検体のポアソン比をνとし、前記被検体の密度をρとした場合、
前記算出手段が次式(
16)又は次式(
17)を用いて前記内部欠陥のまでの深さを算出す
る
請求項
3、4又は7に記載の非破壊検査装置。
【数7】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被検体の内部欠陥の大きさと、被検体の表面から内部欠陥までの深さとのうち少なくとも一方を測定する非破壊検査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
病院、学校等の特殊構造物は法令により打音検査等による診断が義務付けられている。また、道路橋やトンネル等のインフラも同じく法令により打音検査等による診断が義務付けられている。打音検査とは、コンクリート構造物等をハンマで叩いた際に発生する音で部材の剥離、浮き等欠陥の有無を診断する技術である。しかしながら、打音検査は検査員の経験に基づくところが大きく、判断基準が定量化されていない。そこで、例えば特許文献1には、コンクリート構造物を打撃し、コンクリートの振動加速度を測定することでコンクリートの剥離の有無を判定する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載された方法では、被検体の内部欠陥の有無を判定することしかできず、内部欠陥の大きさ及び内部欠陥までの深さを検出することができない。
【0005】
そこで、本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって被検体の内部欠陥の大きさと、被検体の表面から内部欠陥までの深さのうち少なくとも一方を測定できる非破壊検査装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以上の課題を解決するために、被検体に衝突する衝突物に設けられ、前記被検体と前記衝突物の衝突による打撃力を検出して、それを出力する打撃力センサと、前記打撃力センサによる出力を所定周期で取得することにより、打撃力の時系列データを取得する第1取得手段と、前記第1取得手段により取得された前記打撃力の時系列データから最大打撃力を抽出する第1抽出手段と、前記被検体の表面の対向位置において前記被検体と前記衝突部の衝突による打音の音圧を検出して、それを出力する電気音響変換器と、前記電気音響変換器による出力を所定周期で取得することにより、音圧の時系列データを取得する第2取得手段と、前記第2取得手段により取得された前記音圧の時系列データから音圧の絶対値の最大値を最大音圧として抽出する第2抽出手段と、前記第2取得手段によって取得された前記音圧の時系列データをフーリエ変換することにより、振動数ごとの音圧のスペクトル強度を表した音圧振動数特性を算出するフーリエ変換手段と、前記フーリエ変換手段によって算出された前記音圧振動数特性から固有振動数を抽出する固有振動数抽出手段と、前記第1抽出手段によって抽出された前記最大打撃力と、前記第2抽出手段によって抽出された前記最大音圧又はその補正値と、前記固有振動数抽出手段によって抽出された前記固有振動数とに基づいて、前記被検体の前記表面下の内部欠陥の大きさと前記表面から前記内部欠陥までの深さとのうち少なくとも一方を算出する算出手段と、を備える非破壊検査装置が提供される。
【発明の効果】
【0007】
本発明の実施の形態によれば、被検体を破壊することなく、被検体の内部欠陥の大きさと、被検体の表面から内部欠陥までの深さのうち少なくとも一方を測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】第1実施形態の非破壊検査装置のブロック図である。
【
図2】打撃力の時系列データの一例を波形によって表したチャートである。
【
図3】音圧の時系列データの一例を波形によって表したチャートである。
【
図4】振動数ごとの音圧のスペクトル強度を波形によって表したチャートである。
【
図5】内部欠陥の大きさの測定値と公称値の比較結果を示したグラフである。
【
図6】内部欠陥の大きさの測定値と公称値の比較結果を示したグラフである。
【
図7】内部欠陥までの深さの測定値と公称値の比較結果を示したグラフである。
【
図8】内部欠陥までの深さの測定値と公称値の比較結果を示したグラフである。
【
図11】最大音圧と最大加速度の比と、内部欠陥の大きさとの関係を示したグラフである。
【
図12】第2実施形態の非破壊検査装置のブロック図である。
【
図13】振動数ごとの打撃力のスペクトル強度を波形によって表したチャートである。
【
図14】内部欠陥の大きさの測定値と公称値の比較結果を示したグラフである。
【
図15】内部欠陥までの深さの測定値と公称値の比較結果を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。但し、以下に述べる実施形態には、本発明を実施するために技術的に好ましい種々の限定が付されているところ、本発明の範囲を以下の実施形態及び図示例に限定するものではない。
【0010】
〔第1の実施の形態〕
<<1. 非破壊検査装置の構成>>
図1は、非破壊検査装置10を示した図面である。
この非破壊検査装置10は、被検体90の内部に存在する内部欠陥93の大きさa[m]と、被検体90の表面91から内部欠陥93までの深さh[m]とを検出する装置である。特に、深さhが100~2500 mmである場合のみならず、深さhが100 mm以下である場合でも、つまり内部欠陥93が被検体90の表面近傍に存在する場合でも、この非破壊検査装置10では内部欠陥93の大きさa及び内部欠陥93までの深さhを正確に検出することができる。
【0011】
被検体90は、例えばコンクリート、セメント、モルタル、石材、金属、セラミック又は樹脂からなる。
内部欠陥93とは、例えば剥離又は内部亀裂のことをいう。
内部欠陥93の大きさaとは、表面91に沿う方向における内部欠陥93の長さのことをいう。内部欠陥93が正方形型の剥離である場合、内部欠陥93の大きさaとはその正方形の辺長をいい、内部欠陥93が円形型の剥離である場合、内部欠陥93の大きさaとはその円形の直径をいい、内部欠陥93が長方形型の剥離である場合、内部欠陥93の大きさaとはその長方形の短辺長又は長辺長をいい、内部欠陥93が長円型の剥離である場合、内部欠陥93の大きさaとは長円の長径又は短径をいう。なお、本明細書において、「長方形」は、正方形を含まない意で用い、「方形」は、正方形及び長方形を含む意で用いる。
【0012】
図1に示すように、非破壊検査装置10は、ハンマ21、電気音響変換器22、信号処理回路23、A/Dコンバータ24、打撃力センサ25、信号処理回路26、A/Dコンバータ27、コンピュータ30、ストレージ60、入力デバイス70及び表示デバイス80を備える。
【0013】
入力デバイス70は、押しボタンスイッチ、タッチパネル、ポインティングデバイス若しくはキーボード又はこれらの組み合わせからなる。入力デバイス70は、作業者によって操作されることによって操作内容に応じた信号をコンピュータ30に出力する。入力デバイス70は、設定値の入力に用いられる。
【0014】
表示デバイス80はドットマトリクス式表示器又はセグメント表示器である。表示デバイス80は、コンピュータ30から入力した表示信号に応じた表示をする。表示デバイス80は、検出結果、つまり内部欠陥93の大きさa及び内部欠陥93までの深さhの算出結果の表示に用いられる。
【0015】
ハンマ21は、被検体90を叩くために用いられる衝突物である。作業者がハンマ21を被検体90の表面91に衝突させて、打撃力を被検体90に付与する。被検体90に打撃力が付与されると、被検体90の表面91が振動し、その振動による音圧が発生する。
【0016】
電気音響変換器22はハンマ21のヘッドの側面に設けられており、ハンマ21が被検体90に衝突することによって被検体90の表面91が振動する時には電気音響変換器22が被検体90の表面91に対向する。電気音響変換器22はマイクロフォンである。つまり、電気音響変換器22は、被検体90の表面91から発生した音圧を電気信号に変換して、音圧を表す電気信号を信号処理回路23に出力する。
【0017】
信号処理回路23は、電気音響変換器22の出力信号を増幅するとともに、その信号を濾波することによってその信号からノイズを除去する。信号処理回路23は、増幅及び濾波した信号をA/Dコンバータ24に出力する。
【0018】
A/Dコンバータ24は、信号処理回路23から入力したアナログ信号を標本化、量子化及び符号化することによって、アナログ信号をデジタル信号に変換する。A/Dコンバータ24は、音圧を表すデジタル信号をコンピュータ30に出力する。
【0019】
打撃力センサ25は、ハンマ21のヘッドに設けられている。打撃力センサ25は、被検体90とハンマ21の衝突による打撃力を電気信号に変換して、打撃力を表す電気信号を信号処理回路26に出力する。打撃力センサ25は例えば歪みゲージである。
【0020】
信号処理回路26は、打撃力センサ25の出力信号を増幅するとともに、その信号を濾波することによってその信号からノイズを除去する。信号処理回路26は、増幅及び濾波した信号をA/Dコンバータ27に出力する。
【0021】
A/Dコンバータ27は、信号処理回路26から入力したアナログ信号を標本化、量子化及び符号化することによって、アナログ信号をデジタル信号に変換する。A/Dコンバータ27は、打撃力を表すデジタル信号をコンピュータ30に出力する。
【0022】
コンピュータ30は、CPU、RAM、システムバス及び各種インターフェース等を備えた小型コンピュータである。
【0023】
ストレージ60は、半導体メモリ又はハードディスクドライブ等からなる記憶装置である。
【0024】
上述のような信号処理回路23、A/Dコンバータ24、信号処理回路26、A/Dコンバータ27、コンピュータ30、ストレージ60、入力デバイス70及び表示デバイス80が、ハンマ21に、特にハンマ21の柄部に設けられていてもよい。
【0025】
ストレージ60には、コンピュータ30にとって読取可能・実行可能なプログラム61が格納されている。コンピュータ30がプログラム61を実行することによって、コンピュータ30が第1取得部31、第1抽出部32、第2取得部33、第2抽出部34、高速フーリエ変換部35、固有振動数抽出部36及び算出部37として機能する。以下、コンピュータ30の機能について詳細に説明する。
【0026】
<<2. コンピュータの機能>>
(1) 第1取得部
第1取得部31として機能するコンピュータ30は、A/Dコンバータ27の出力デジタル信号(つまり、打撃力センサ25によって検出された打撃力)を所定周期で取得することにより、打撃力の時系列データを取得する。打撃力の時系列データとは、打撃力センサ25によって検出された打撃力の所定周期おきの値を時系列で配列したデータ列のことをいう。コンピュータ30がA/Dコンバータ27の出力デジタル信号を取得する際のサンプリングレートは、A/Dコンバータ27のサンプリングレートに等しくても良いし、等しくなくてもよい。
【0027】
ここで、作業者がハンマ21を被検体90に衝突させると、衝突の瞬間に打撃力センサ25の出力信号が立ち上がって、その出力信号にトリガが発生する。コンピュータ30は、A/Dコンバータ27の出力デジタル信号を所定の閾値と比較することによって、トリガの有無を判断する。そして、A/Dコンバータ27の出力デジタル信号が所定の閾値を超えた場合に、コンピュータ30がトリガの発生を認識する。そして、コンピュータ30は、トリガの発生時よりも少し前の時から所定期間の経過後までの間の打撃力の時系列データを一時的にRAM等に記憶する。
【0028】
図2のチャートは、コンピュータ30が取得して一時的に記憶した打撃力の時系列データの一例を波形によって示したものである。
図2のチャートにおいて、横軸は時間を表し、縦軸は打撃力を表す。
【0029】
(2) 第1抽出部
第1抽出部32として機能するコンピュータ30は、
図2に示すように、第1取得部31が取得して一時的に記憶した打撃力の時系列データから最大打撃力F
max [N] を抽出して、一時的に記憶する。
【0030】
(3) 第2取得部
第2取得部33として機能するコンピュータ30は、A/Dコンバータ24の出力デジタル信号(つまり、電気音響変換器22によって検出された音圧)を所定周期で取得することにより、音圧の時系列データを取得する。音圧の時系列データとは、電気音響変換器22によって検出された音圧の所定周期おきの値を時系列で配列したデータ列のことをいう。コンピュータ30がA/Dコンバータ24の出力デジタル信号を取得する際のサンプリングレートは、A/Dコンバータ24のサンプリングレートに等しくても良いし、等しくなくてもよい。
【0031】
ここで、前述のように、作業者がハンマ21を被検体90に衝突させることによって、コンピュータ30がトリガの発生を認識したら、そのコンピュータ30は、トリガの発生時よりも少し前の時から所定期間の経過後までの間の音圧の時系列データを一時的にRAM等に記憶する。
【0032】
図3のチャートは、コンピュータ30が取得して一時的に記憶した音圧の時系列データの一例を波形によって示したものである。
図3のチャートにおいて、横軸は時間を表し、縦軸は音圧を表す。
【0033】
(4) 第2抽出部
第2抽出部34として機能するコンピュータ30は、
図3に示すように、第2取得部33が取得して一時的に記憶した音圧の時系列データから音圧の絶対値の最大値P
max [Pa] を抽出して、一時的に記憶する。以下、最大値P
maxを最大音圧P
maxという。
【0034】
(5) 高速フーリエ変換部
高速フーリエ変換部35として機能するコンピュータ30は、第2取得部33が取得した音圧の時系列データを高速フーリエ変換処理することにより、振動数ごとの音圧のスペクトル強度を表した音圧振動数特性を算出して、一時的に記憶する。
【0035】
図4のチャートは、コンピュータ30が算出して一時的に記憶した音圧振動数特性の一例を波形によって示したものである。
図4のチャートにおいて、横軸は振動数 [Hz] を表し、縦軸は音圧のスペクトル強度 [dB] を表す。
【0036】
(6) 固有振動数抽出部
固有振動数抽出部36として機能するコンピュータ30は、
図4に示すように、高速フーリエ変換部35が算出した音圧振動数特性から極大値をn次(nは1以上の正数であり、振動モードの次数を表す。)の固有振動数f
n [Hz] として抽出して、一時的に記憶する。ここで、1次固有振動数f
1の抽出が好ましい。
【0037】
振動モードの次数nは、予め決められたものでもよい。或いは、ユーザーが入力デバイス70を用いて次数nの数値を入力することによって、コンピュータ30が入力値を取得するとともに、その入力値に応じた固有振動数fnを抽出してもよい。
【0038】
(7) 算出部
算出部37として機能するコンピュータ30は、第1抽出部32が抽出した最大打撃力Fmaxと、第2抽出部34が抽出した最大音圧Pmaxと、固有振動数抽出部36が抽出した固有振動数fnとから次式(1)又は次式(2)により内部欠陥93の大きさa [m] を算出する。更に、コンピュータ30は、第1抽出部32が抽出した最大打撃力Fmaxと、第2抽出部34が抽出した最大音圧Pmaxと、固有振動数抽出部36が抽出した固有振動数fnとから次式(3)又は次式(4)により内部欠陥93までの深さh [m] を算出する。ここで、式(3)の右辺にaが存在するところ、式(1)の右辺が式(3)の右辺のaに当て嵌められる。また、大きさaの算出に式(1)が用いられる場合、深さhの算出に式(3)が用いられることが好ましい(但し、式(4)が用いられてもよい)。また、大きさaの算出に式(2)が用いられる場合、深さhの算出に式(4)が用いられることが好ましい(但し、式(3)が用いられてもよい)。式(1)、式(2)、式(3)及び式(4)については、後に詳細に説明する。
【0039】
【0040】
【0041】
【0042】
式(1)~(4)中のA、B、C及びDはそれぞれ以下の式(5)~(8)で表すことができるところ、次式(5)~(8)において、αは内部欠陥93の形状によって決まる定数であり、Parは振動モードによって決まる定数である。
【0043】
【0044】
内部欠陥93が方形状である場合、αが内部欠陥93のアスペクト比によって定まるところ、内部欠陥93が正方形状であれば、α=0.0056である。1次振動モードの場合、Par=35.98である。K1及びK2は予め実験により求めた定数であり一例を挙げると、K1=0.16388 [Pa/(m2s-2)]であり、K2=0.02438 [Pa/(ms-2)] である。
【0045】
式(1)~(8)におけるA、B、C、D、α、Par、E、ρ及びνのうち少なくとも1つは、予め決められた数値として、プログラム61に組み込まれていてもよい。また、ユーザーが入力デバイス70を用いてA、B、C、α、Par、E、ρ及びνのうち少なくとも1つの数値を入力することによって、コンピュータ30が入力値を取得するとともに、入力値を式(1)~(8)におけるA、B、C、D、α、Par、E、ρ及びνのうち少なくとも1つに当て嵌めるものとしてもよい。また、ユーザーが入力デバイス70を用いて振動モードの次数nの数値を入力することによって、コンピュータ30が入力値を取得するとともに、その入力値に応じたA、B、C、D、Parの値を定めるものとしてもよい。
【0046】
なお、コンピュータ30が、内部欠陥93の大きさaと内部欠陥93までの深さhの両方を算出するのではなく、内部欠陥93の大きさaと内部欠陥93までの深さhのうちどちらか一方のみを算出するものとしてもよい。
【0047】
(8) 結果の出力
算出部37が内部欠陥93の大きさa及び内部欠陥93までの深さhを算出すると、コンピュータ30は表示デバイス80に大きさa及び深さhを表示させる。更に、コンピュータ30は大きさa及び深さhをストレージ60に記録する。
【0048】
<<3. 有利な効果>>
以上の非破壊検査装置10を用いると、被検体90を破壊することなく内部欠陥93の大きさaと、表面91から内部欠陥93までの深さhを検出することができる。特に、内部欠陥93までの深さhが100 mm以下である場合でも内部欠陥93の大きさa及び内部欠陥93までの深さhを検出することができる。
【0049】
ここで、非破壊検査装置10を用いて内部欠陥93の大きさと内部欠陥93までの深さを測定し、大きさの測定値と公称値を比較するとともに、深さの測定値と公称値を比較した。式(1)による大きさの測定値と公称値の比較結果を
図5に示すところ、測定値と公称値が近似していることが分かる。式(2)による大きさの測定値と公称値の比較結果を
図6に示すところ、測定値と公称値が近似しているものの、式(2)による測定値は式(1)による測定値よりも精度が劣ることが分かる。式(1)を当て嵌めた式(3)による深さの測定値と公称値の比較結果を
図7に示すところ、測定値と公称値が近似していることがわかる。式(4)による深さの測定値と公称値の比較結果を
図8に示すところ、測定値と公称値が近似しているものの、式(4)による測定値は式(3)による測定値よりも精度が劣ることが分かる。
【0050】
<<4. 式(1)、式(2)、式(3)及び式(4)>>
以下に、上記式(1)、式(2)、式(3)及び式(4)について詳細に説明する。
【0051】
(1) 被検体及び内部欠陥モデル
図9及び
図10に示すようなモデルを想定する。
図9及び
図10に示すように、被検体190の表面191に対してほぼ平行な正方形状の内部欠陥193が被検体190の内部に存在すると想定する。内部欠陥193の辺長をaとし、被検体190の表面191から内部欠陥193までの深さをhとすると、被検体190のうち内部欠陥193を覆った領域194は、厚さがhであり、幅及び長さがaである正方形平板とみなせ、その正方形平板の4辺は固定端とみなせる。以下、この領域194を振動板194という。
【0052】
(2) 振動板の変位応答及び加速度応答
振動板194に単位インパルスの入力荷重を与えた時、振動板194の変位の時間的変化が減衰振動であるところ、振動板194の変位応答スペクトルにおける最大スペクトル強度は、入力荷重に等しい静的な垂直単位荷重を振動板194に与えた場合の撓みに等しい。振動板194の変位応答スペクトルにおける最大振幅は1/k1となり、振動板194の変位応答スペクトルにおける1次固有振動数はf1=ω1/2πとなる。振動板194の加速度の時間的変化も減衰振動であるところ、振動板194の加速度応答スペクトルにおける最大スペクトル強度はω1
2/k1となり、振動板194の加速度応答スペクトルにおける1次固有周波数はf1となる。ここで、ω1は1次固有角振動数であり、k1は1次固有振動数における振動板194のバネ定数である。
【0053】
(3) 振動板の固有振動数
振動板194の(m,n)次モードの固有振動数fmnは、式(9)で与えられる(参考文献1)。
【0054】
【0055】
【0056】
1次振動モードの固有振動数f1は、式(9)に式(10)を代入し、式(11)で与えられる。
【0057】
【0058】
振動板194の振動のフーリエ解析により1次固有振動数f1を求めただけでは、振動板194の辺長a及び厚さhを求めることができない。そこで、以下に説明する別の条件が必要となる。
【0059】
(4) 振動板の振動レベル
振動板194が方形板状であるところ、その方形において2つの対角線が重なる位置に、すなわち方形板の中央に垂直な集中荷重Fmaxを加えたとき、その中央の最大たわみδmaxは式(12)で与えられる(参考文献2)。
【0060】
【0061】
【0062】
式(12)から、フックの法則より1次振動モードのバネ定数k1は、式(13)で示すことができる。
【0063】
【0064】
ここで、ハンマ等の衝突物が集中荷重Fmax [N] の衝突力で振動板194に衝突するときを考える。上記(2)の項で述べた通り、衝突物が振動板194に衝突することによって、打撃力Fmax [N] が振動板194に与えられると、その振動板194の変位の時間的変化が減衰振動であるところ、その変位応答スペクトルにおける最大スペクトル強度は振動板194に静荷重Fmax [N] を与えた時の静たわみに等しい。このような減衰振動を加速度応答として置き換えると、振動板194の振動の加速度の最大値Amaxは、式(14)で与えられる。
【0065】
【0066】
式(11)の1次固有振動数と、式(14)の単位打撃力あたりの最大振動加速度とから、振動板194の大きさa及び厚さhはそれぞれ次式(15)及び(16)により算出することができる。
【0067】
【0068】
(5) 振動板の振動と検出音圧の関係
振動板194から距離R [m] だけ離れた位置195における音圧と、振動板194の振動の加速度とは、次式(17)の関係にある。ここで、P(s)は位置195の音圧のラプラス変換であり、G1(s)は振動板194の振動の加速度のラプラス変換であり、ρ0は媒体、つまり空気の密度であり、rは振動板194が円形板である場合の振動板194の半径であり、Rは振動板194から位置195までの距離である。
【0069】
【0070】
式(17)を考慮すると、位置195の音圧と振動板194の加速度の比が振動板194の大きさaの2乗に比例することが想定されるところ、振動モード形状を考慮すると、位置195の音圧と振動板194の加速度の比が振動板194の大きさaに比例すると考えられる。そこで、実験により位置195の最大音圧P
maxと振動板194の最大加速度A
maxの比と、振動板194の大きさaとの関係を調べた。その結果を
図11に示す。
図11から明らかなように、最大音圧P
maxと最大加速度A
maxの比は大きさaに比例することが分かる。その比例定数をK
1とすると、最大音圧P
maxと最大加速度A
maxと大きさaは次式(18)の関係を満たす。
【0071】
【0072】
式(18)を式(15)及び式(16)に当て嵌めると、次式(19)及び次式(20)のようになる。
【0073】
【0074】
式(19)及び式(20)をn次振動モードに一般化したものがそれぞれ式(1)及び式(3)である。
【0075】
ところで、定数K1を求めるには、内部欠陥の既知の大きさが異なる複数の試験片を準備して、多数回の衝撃試験を行う必要があるため、多大な労力とコストが掛かる。そこで、準備する試験片を少なくするために、内部欠陥の既知の大きさが或る特定値の試験片を準備して、複数回の衝撃試験を行い、最大音圧Pmaxと最大加速度Amaxの比を求めてもよい。こうして求めた比が式(18)におけるK1aに相当するところ、K1a=K2とすると、式(18)は式(21)のようになる。
【0076】
【0077】
式(21)を式(15)及び式(16)に当て嵌めると、次式(22)及び次式(23)のようになる。
【0078】
【0079】
式(22)及び式(23)をn次振動モードに一般化したものがそれぞれ式(2)及び式(4)である。
【0080】
(6) 参考文献
参考文献1;共立出版ホームページ、付録A1自由度系(自由振動)の解放、インターネット<URL:https://www.kyoritsu-pub.co.jp/app/file/goods_contents/46.pdf>
【0081】
参考文献2:堀部・富田・大高、弾性平板の大たわみ問題のFEM解析、茨城県技術センター研究報告、第20号、インターネット<URL: http://www.itic.pref.ibaraki.jp/periodical/reseach/20/N20P018.pdf>
【0082】
〔第2の実施の形態〕
図12は、第2実施形態における非破壊検査装置10Aのブロック図である。ここで、第2実施形態の非破壊検査装置10Aと第1実施形態の非破壊検査装置10の間で互いに共通する構成要素に同一の符号を付す。以下、第2実施形態の非破壊検査装置10Aについては、第1実施形態の非破壊検査装置10と相違する点を主に説明する。以下に説明する相違点以外については、第2実施形態における非破壊検査装置10Aは第1実施形態における非破壊検査装置10と共通している。
【0083】
第2実施形態のプログラム61Aは第1実施形態のプログラム61と相違する。コンピュータ30がこのプログラム61Aを実行すると、コンピュータ30が第1取得部31、第1抽出部32、第2取得部33、第2抽出部34、高速フーリエ変換部35、固有振動数抽出部36、第2高速フーリエ変換部41A、第3抽出部42A、スペクトル強度算出部43A、レベル差算出部44A、補正部45A及び算出部37Aとして機能する。以下、コンピュータ30の機能について詳細に説明する。
【0084】
<<1.コンピュータの機能>>
(1) 第1取得部31、第1抽出部32、第2取得部33、第2抽出部34、高速フーリエ変換部35及び固有振動数抽出部36はそれぞれ第1実施形態のそれと同一に機能して、同一の演算を行う。
【0085】
(2) 第2高速フーリエ変換部
第2高速フーリエ変換部41Aとして機能するコンピュータ30は、第1取得部31が取得した打撃力の時系列データを高速フーリエ変換処理することにより、振動数ごとの打撃力のスペクトル強度を表した打撃力振動数特性を算出して、一時的に記憶する。
【0086】
図13のチャートは、コンピュータ30が算出して一時的に記憶した打撃力振動数特性の一例を波形によって示したものである。
図13のチャートにおいて、横軸は振動数 [Hz] を表し、縦軸は打撃力のスペクトル強度 [dB] を表す。
【0087】
(3) 第3抽出部
第3抽出部42Aとして機能するコンピュータ30は、
図13に示すように、第2高速フーリエ変換部41Aが算出した打撃力振動数特性から打撃力の最大スペクトル強度L
max [dB] を抽出する。
【0088】
(4) スペクトル強度算出部
スペクトル強度算出部43Aとして機能するコンピュータ30は、
図13に示すように、固有振動数抽出部36が抽出した固有振動数f
nを、前記第2高速フーリエ変換部41Aが算出した打撃力振動数特性に当て嵌めることによって、その固有振動数f
nに対応するスペクトル強度L
1 [dB] を算出する。なお、前述のように固有振動数f
nは1次固有振動数f
1であることが好ましい。
【0089】
(5) レベル差算出部
レベル差算出部44Aとして機能するコンピュータ30は、第3抽出部42Aが抽出した最大スペクトル強度Lmaxと、スペクトル強度算出部43Aが算出したスペクトル強度L1とのレベル差Lmax-L1 [dB] を算出する。レベル差とは、単位をデシベルとしたレベル表現における最大スペクトル強度Lmaxのデシベル値とスペクトル強度L1のデシベル値の差をいう。
【0090】
(6) 補正部
補正部45Aとして機能するコンピュータ30は、第2抽出部34が抽出した最大音圧Pmaxに、レベル差算出部44Aが算出したレベル差Lmax-L1に応じた倍率Mを乗ずる。このような乗算により得られた積が、最大音圧Pmaxの補正値Pmax’ [Pa] である。
【0091】
【0092】
(7) 算出部
算出部37Aとして機能するコンピュータ30は、第1抽出部32が抽出した最大打撃力Fmaxと、補正部45Aが算出した補正値Pmax
’と、固有振動数抽出部36が抽出した固有振動数fnとから次式(24)又は次式(25)により内部欠陥93の大きさaを算出する。更に、コンピュータ30は、第1抽出部32が抽出した最大打撃力Fmaxと、補正部45Aが算出した補正値Pmax
’と、固有振動数抽出部36が抽出した固有振動数fnとから次式(26)又は次式(27)により内部欠陥93までの深さhを算出する。ここで、式(26)の右辺にaが存在するところ、式(24)の右辺が式(26)の右辺のaに当て嵌められる。また、大きさaの算出に式(24)が用いられる場合、深さhの算出に式(26)が用いられることが好ましい(但し、式(27)が用いられてもよい)。また、大きさaの算出に式(25)が用いられる場合、深さhの算出に式(27)が用いられることが好ましい(但し、式(26)が用いられてもよい)。
【0093】
【0094】
【0095】
(8)結果の出力
算出部37Aが内部欠陥93の大きさa及び内部欠陥93までの深さhを算出すると、コンピュータ30は表示デバイス80に大きさa及び深さhを表示させる。更に、コンピュータ30は大きさa及び深さhをストレージ60に記録する。
【0096】
<<2. 補正値の意義>>
(1) 打撃力と最大加速度の関係
上記式(1)~(4)、(15)及び(16)を求めるにあたって、振動板194に与える入力荷重は理想インパルスを想定している。理想インパルスとは、打撃の瞬間の微小時間(微小時間とは、限りなく0に近いことをいう。)に打撃力が立ち上がり、その微小時間の前後では打撃力が0になるような入力荷重をいう。理想インパルスの打撃力の振動数特性は、
図13中に二点鎖線で示すように、打撃力のスペクトル強度が振動数に関わらず一定の値をとる。
【0097】
それに対して、ハンマ21によって被検体90を打撃すると、その入力荷重は理想インパルスとはならず、打撃力の時間的変化の波形は
図2に示すように正規分布の曲線に近似する。このような打撃力の振動数特性は、
図13に示すように、振動数が高くなるほどスペクトル強度が低下する傾向にあることがわかる。上述のように、理想インパルスの打撃力のスペクトル強度が振動数に関わらず一定の値をとることから、上述のように抽出した最大スペクトル強度L
maxは理想インパルスの打撃力のスペクトル強度とみなせる。そうすると、1次固有振動数f
1におけるスペクトル強度L
1が最大スペクトル強度L
maxから低下することは、スペクトル強度L
1が理想インパルスの打撃力のスペクトル強度から低下していることとみなせる。
【0098】
一方、加速度と打撃力は運動方程式から明らかなように比例関係にあることから、測定した加速度のスペクトル強度も理想インパルスの入力荷重における真の加速度のスペクトル強度よりも小さく、測定した最大加速度Amaxも理想インパルスの入力荷重における真の最大加速度よりも小さい。また、最大加速度Amaxと最大音圧Pmaxは上記の式(18)又は式(21)の関係にあることから、測定した最大音圧Pmaxも理想インパルスの入力荷重における真の最大音圧よりも小さい。そこで、最大音圧Pmaxを理想インパルスの入力荷重における真の最大音圧に補正すべく、最大スペクトル強度Lmaxと1次固有振動数f1のスペクトル強度L1とのレベル差Lmax-L1に応じた倍率Mを最大音圧Pmaxに乗じて、補正値Pmax’を求める。
【0099】
<<3. 有利な効果>>
以上の非破壊検査装置10Aを用いると、深さhが100 mm以下である場合でも、被検体90を破壊することなく内部欠陥93の大きさaと、表面91から内部欠陥93までの深さhを正確に検出することができる。
【0100】
ここで、非破壊検査装置10,10Aを用いて内部欠陥93の大きさを測定し、大きさの測定値と公称値を比較した。その結果を
図14に示すところ、横軸は内部欠陥93の大きさの公称値を表し、縦軸は非破壊検査装置10,10Aによる測定値を表す。
図14に示すように、非破壊検査装置10を用いた場合には、最大音圧P
maxを補正しないため、測定値と公称値の乖離が大きい。特に、内部欠陥93の大きさが小さいほど、公称値と測定値の乖離が大きい。一方、非破壊検査装置10Aを用いた場合は、最大音圧P
maを補正したため、測定値は剥離の大きさに関わらず公称値と近似しており、非破壊検査装置10を用いたよりも測定値のばらつきが小さく、測定精度が改善している。
【0101】
非破壊検査装置10,10Aを用いて内部欠陥93までの深さを測定し、深さの測定値と公称値を比較した。その結果を
図15に示すところ、横軸は内部欠陥93までの深さの公称値を表し、縦軸は非破壊検査装置10,10Aによる測定値を表す。非破壊検査装置10を用いた場合、内部欠陥93までの深さが深いほど、公称値と測定値の乖離が大きい。また、内部欠陥93の深さが深いほど、測定値のばらつきも大きい。一方、非破壊検査装置10Aを用いた場合は、測定値は内部欠陥93までの深さに関わらず公称値と近似しており、非破壊検査装置10を用いたよりも測定値のばらつきが小さく、測定精度が改善している。
【0102】
上記の非破壊検査装置10,10Aの何れにおいても、測定項目は音圧と打撃力であり、両者の相違点はプログラム61,61Aにある。それゆえ、第1実施形態のプログラム61を第2実施形態のプログラム61Aに変更するだけで、内部欠陥93の大きさa及び内部欠陥93までの深さhの算出精度を大幅に向上させることができる。
【符号の説明】
【0103】
10、10A…非破壊検査装置
21…ハンマ
22…電気音響変換器
25…打撃力センサ
30…コンピュータ
31…第1取得部
32…第1抽出部
33…第2取得部
34…第2抽出部
35…高速フーリエ変換部
36…固有振動数抽出部
37,37A…算出部
41A…第2高速フーリエ変換部
42A…第3抽出部
43A…スペクトル強度算出部
44A…レベル差算出部
45A…補正部
60…ストレージ
61…プログラム
90…被検体