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特許7489645コンピュータプログラム、情報処理装置、情報処理方法、学習済みモデル生成方法及び相関画像出力装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-16
(45)【発行日】2024-05-24
(54)【発明の名称】コンピュータプログラム、情報処理装置、情報処理方法、学習済みモデル生成方法及び相関画像出力装置
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/055 20060101AFI20240517BHJP
   G06T 7/00 20170101ALI20240517BHJP
【FI】
A61B5/055 380
G06T7/00 350C
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2022542567
(86)(22)【出願日】2020-08-14
(86)【国際出願番号】 JP2020030905
(87)【国際公開番号】W WO2022034691
(87)【国際公開日】2022-02-17
【審査請求日】2023-06-26
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】517168211
【氏名又は名称】株式会社Splink
(74)【代理人】
【識別番号】100114557
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 英仁
(74)【代理人】
【識別番号】100078868
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 登夫
(72)【発明者】
【氏名】ブランデンブルグ フェリックス ユリアン
(72)【発明者】
【氏名】奥野 晃裕
(72)【発明者】
【氏名】青山 裕紀
【審査官】永田 浩司
(56)【参考文献】
【文献】Yicheng Chen, et al.,QSMGAN: Improved Quantitative Susceptibility Mapping using 3D Generative Adversarial Networks with Increased Receptive Field,Neuroimage.,2020年02月15日,207,1-26
【文献】Kohsuke Kudo, et al.,IC-P-139,Alzheimer's Association International Conference 2019,2019年,Volume 15, Issue 7S_Part_2,P114
【文献】工藤 與亮,QSM解析で広がる新しい診断の世界,innnavi net,2019年,Vol.37
【文献】Haoyu Lan, et al.,SC-GAN: 3D self-attention conditional GAN with spectral normalization for multi-modal neuroimaging synthesis,bioRxiv,2020年06月11日
【文献】J. M. G. van Bergen, et al.,Simultaneous quantitative susceptibility mapping and Flutemetamol-PET suggests local correlation of iron and β- amyloid as an indicator of cognitive performance at high age,Neuroimage.,2018年,174,308-316
【文献】Scott Ayton, et al.,Cerebral quantitative susceptibility mapping predicts amyloid-b-related cognitive decline,BRAIN,2017年,140,2112-2119
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/055
G06T 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンピュータに、
被験者の強度画像及び位相画像を含むMRI画像を取得し、
強度画像及び位相画像を含むMRI画像を入力した場合に、前記MRI画像に基づいて特定可能な磁化率と、アミロイドβとの相関を示す相関画像を出力する学習済みモデルに、取得したMRI画像を入力して、前記被験者の磁化率とアミロイドβとの相関を示す相関画像を出力する、
処理を実行させるコンピュータプログラム。
【請求項2】
コンピュータに、
前記被験者のMRI画像に基づくT1強調画像及びT2強調画像を取得し、
T1強調画像及びT2強調画像を入力した場合、前記T2強調画像に基づいて特定可能な磁化率と、アミロイドβとの相関を示す相関画像を出力する前記学習済みモデルに、取得したT1強調画像及びT2強調画像を入力し、前記被験者の磁化率とアミロイドβとの相関を示す相関画像を出力する、
処理を実行させる請求項1に記載のコンピュータプログラム。
【請求項3】
前記学習済みモデルは、
脳に関するMRI画像を入力した場合に、前記脳の特定期間後の磁化率とアミロイドβとの相関を示す相関画像を出力する、
請求項1又は請求項2に記載のコンピュータプログラム。
【請求項4】
コンピュータに、
期間を特定する時間情報を取得し、
期間を特定する時間情報をさらに入力した場合、脳の前記期間後の、前記MRI画像に基づいて特定可能な磁化率と、アミロイドβとの相関を示す相関画像を出力する前記学習済みモデルに、取得した時間情報を入力して、前記被験者の脳の前記期間後の磁化率とアミロイドβとの相関を示す相関画像を出力する、
処理を実行させる請求項1又は請求項2に記載のコンピュータプログラム。
【請求項5】
コンピュータに、
前記学習済みモデルが出力する、前記被験者の脳の磁化率とアミロイドβとの相関を示す相関画像に基づいて、前記被験者の将来の認知症を含む神経変性疾患を推定する、
処理を実行させる請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のコンピュータプログラム。
【請求項6】
前記相関画像は、
ボクセルの集合であるクラスタ単位、ボクセル単位又は関心領域単位での磁化率とアミロイドβとの相関を示す、
請求項1から請求項5のいずれか一項に記載のコンピュータプログラム。
【請求項7】
コンピュータに、
前記学習済みモデルが出力する相関画像と他のMRI画像とを重畳させて表示する、
処理を実行させる請求項1から請求項6のいずれか一項に記載のコンピュータプログラム。
【請求項8】
被験者の強度画像及び位相画像を含むMRI画像を取得する取得部と、
強度画像及び位相画像を含むMRI画像を入力した場合に、前記MRI画像に基づいて特定可能な磁化率と、アミロイドβとの相関を示す相関画像を出力する学習済みモデルに、取得したMRI画像を入力して、前記被験者の磁化率とアミロイドβとの相関を示す相関画像を出力する出力部と
を備える情報処理装置。
【請求項9】
被験者の強度画像及び位相画像を含むMRI画像を取得し、
強度画像及び位相画像を含むMRI画像を入力した場合に、前記MRI画像に基づいて特定可能な磁化率と、アミロイドβとの相関を示す相関画像を出力する学習済みモデルに、取得したMRI画像を入力して、前記被験者の磁化率とアミロイドβとの相関を示す相関画像を出力する、
情報処理方法。
【請求項10】
強度画像及び位相画像を含むMRI画像を取得し、
磁化率とアミロイドβとの相関を示す相関画像を取得し、
取得されたMRI画像及び相関画像を用いて、前記MRI画像に基づいて特定可能な磁化率と、アミロイドβとの相関を示す相関画像を出力する学習済みモデルを生成する、
学習済みモデル生成方法。
【請求項11】
被験者の強度画像及び位相画像を含むMRI画像を入力した場合に、前記被験者の磁化率とアミロイドβとの相関を示す相関画像を出力する、
相関画像出力装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンピュータプログラム、情報処理装置、情報処理方法、学習済みモデル生成方法及び相関画像出力装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高齢化が進み、認知症患者や認知症予備軍(軽度認知障害)の数が増加している。認知症の原因となる主な疾患はアルツハイマー型認知症と言われている。アルツハイマー型認知症の原因は未だ解明されていないが、病状の進行に伴って脳内に特有の病変が見られる。例えば、神経細胞の外側ではアミロイドβによる老人班の沈着が知られている。老人班の沈着は、アルツハイマー型認知症の発症の最も初期段階から生じ、臨床症状が現れるかなり前(例えば、十数年前)から始まることが明らかになっている。
【0003】
特許文献1には、脳組織内のアミロイドβと結合する薬剤を被検体に注射投与し、脳を横切る裁断面上の薬剤の濃度分布を表すPET(Positron Emission Tomography)画像を用いる装置が開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第WO2014/034724号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、薬剤を用いたPET画像の撮影は、少量とはいえ放射性物質を体内に摂取する必要があり、患者が被爆するおそれがある。また、腎臓病などの特定の疾病を患っている患者には薬剤を投与できない場合もある。
【0006】
本発明は、斯かる事情に鑑みてなされたものであり、PET画像を用いることなくアミロイドβに関連する疾患の兆候を推定できるコンピュータプログラム、情報処理装置、情報処理方法、学習済みモデル生成方法及び相関画像出力装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の実施の形態に係るコンピュータプログラムは、コンピュータに、被験者のMRI画像を取得し、MRI画像を入力した場合に、前記MRI画像に基づいて特定可能な磁化率と、アミロイドβとの相関を示す相関画像を出力する学習済みモデルに、取得したMRI画像を入力して、前記被験者の磁化率とアミロイドβとの相関を示す相関画像を出力する、処理を実行させる。
【0008】
本発明の実施の形態に係る情報処理装置は、被験者のMRI画像を取得する取得部と、MRI画像を入力した場合に、前記MRI画像に基づいて特定可能な磁化率と、アミロイドβとの相関を示す相関画像を出力する学習済みモデルに、取得したMRI画像を入力して、前記被験者の磁化率とアミロイドβとの相関を示す相関画像を出力する出力部とを備える。
【0009】
本発明の実施の形態に係る情報処理方法は、被験者のMRI画像を取得し、MRI画像を入力した場合に、前記MRI画像に基づいて特定可能な磁化率と、アミロイドβとの相関を示す相関画像を出力する学習済みモデルに、取得したMRI画像を入力して、前記被験者の磁化率とアミロイドβとの相関を示す相関画像を出力する。
【0010】
本発明の実施の形態に係る学習済みモデル生成方法は、MRI画像を取得し、磁化率とアミロイドβとの相関を示す相関画像を取得し、取得されたMRI画像及び相関画像を用いて、前記MRI画像に基づいて特定可能な磁化率と、アミロイドβとの相関を示す相関画像を出力する学習済みモデルを生成する。
【0011】
本発明の実施の形態に係る相関画像出力装置は、被験者のMRI画像を入力した場合に、前記被験者の磁化率とアミロイドβとの相関を示す相関画像を出力する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、PET画像を用いることなく認知症の兆候を推定できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本実施の形態の情報処理システムの構成の一例を示す模式図である。
図2】推定部による脳状態推定方法の第1例を示す模式図である。
図3】相関係数が大きい場合のMRI画像とPET画像の相関関係の一例を示す模式図である。
図4】相関係数が小さい場合のMRI画像とPET画像の相関関係の一例を示す模式図である。
図5】推定部による脳状態推定結果の第1例を示す模式図である。
図6】認知障害に応じたアミロイドβの分布状態の一例を示す模式図である。
図7】推定部による脳状態推定結果の第2例を示す模式図である。
図8】推定部による脳状態推定方法の第2例を示す模式図である。
図9】推定部による脳状態推定方法の第3例を示す模式図である。
図10】学習処理部での学習済みモデルの生成方法の第1例を示す模式図である。
図11】学習処理部での学習済みモデルの生成方法の第2例を示す模式図である。
図12】脳状態推定処理の手順の一例を示すフローチャートである。
図13】学習済みモデル生成処理の手順の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。図1は本実施の形態の情報処理システムの構成の一例を示す模式図である。情報処理システムは、情報処理装置としてのサーバ50を備える。サーバ50は、通信ネットワーク1に接続されている。通信ネットワーク1には、医療従事者や研究者などが使用する端末装置10が接続されている。端末装置10としては、例えば、パーソナルコンピュータ、スマートフォン、タブレット等を用いることができる。また、端末装置10は、不図示のMRI装置等から医療用画像を取得又は転送することができる。
【0015】
サーバ50は、サーバ50全体を制御する制御部51、通信部52、記憶部53、出力処理部54、推定部55、及び学習処理部56を備える。サーバ50には、画像DB61が接続されている。制御部51は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)及びRAM(Random Access Memory)などで構成することができる。サーバ50の各機能は、複数のサーバに分散してもよい。例えば、推定部55をサーバ50に設け、学習処理部56を別のサーバに設けてもよい。また、情報処理装置は、サーバ50に組み込むことができるが、サーバ50以外の他の装置に組み込んでもよい。
【0016】
通信部52は、所要の通信モジュール等で構成され、通信ネットワーク1を介して端末装置10との間の通信機能を提供する。通信部52は、例えば、端末装置10から被験者の医療用画像(例えば、MRI画像)、時間情報などを取得することができる。MRI画像、時間情報の詳細は後述する。MRI画像はMR画像とも称する。
【0017】
記憶部53は、ハードディスク、半導体メモリ等で構成することができ、サーバ50内の処理の結果得られたデータなどの所要のデータを記憶することができる。
【0018】
出力処理部54は、脳状態推定結果を端末装置10に提供する際の出力処理を行う。
【0019】
推定部55は、脳状態の推定処理を行う機能を有し、入力データ生成部551及びモデル部552を備える。モデル部552は、半導体メモリ又はハードディスク等で構成され、機械学習によって生成されたモデル(学習済みのモデル)を格納している。学習済みモデルは、例えば、ニューラルネットワークで構成することができる。入力データ生成部551は、脳状態の推定処理を行う際に学習モデルに入力するデータを生成する。
【0020】
学習処理部56は、機械学習により学習済みモデルを生成する機能を有し、学習データ生成部561、モデル部562、及びパラメータ決定部563を備える。モデル部562は、半導体メモリ又はハードディスク等で構成され、機械学習前のモデルを格納している。学習処理部56で機械学習を行って生成された学習済みモデルは、推定部55のモデル部552に格納することができる。なお、モデル部562に、機械学習途中のモデル、再学習用のモデル、学習済みのモデルを格納してもよい。また、学習処理部56は必須の構成ではなく、学習処理を行う別のサーバに具備する構成でもよい。学習データ生成部561は、学習済みモデルを生成する際に、学習用入力データ及び教師データを生成する。パラメータ決定部563は、学習済みモデルを生成する際に、ニューラルネットワークのパラメータ(例えば、重み、バイアスなど)を調整し、最終的にパラメータを決定する。
【0021】
学習処理部56は、例えば、CPU(例えば、複数のプロセッサコアを実装したマルチ・プロセッサなど)、GPU(Graphics Processing Units)、DSP(Digital Signal Processors)、FPGA(Field-Programmable Gate Arrays)などのハードウェアを組み合わせることによって構成することができる。
【0022】
画像DB61は、学習済みモデルを生成する際に、機械学習で使用する各種画像を記録しておくことができる。また、画像DB61は、サーバ50による脳状態推定結果に関する各種画像を記録することができる。
【0023】
次に、サーバ50による脳状態推定方法の詳細について説明する。具体的には、脳状態とは、脳内でのアミロイドβの蓄積状態、すなわちアミロイドβの分布状態を推定する。発明者は、生体組織の磁化率を定量的に画像化する手法であるQSM(Quantitative Susceptibility Mapping)と、アミロイドβの蓄積をPET(Positron Emission Tomography)で検出するアミロイドPETとの間に有意な相関関係が存在するという知見に留まらず、被験者のアミロイドβの分布状態を推定する推定方法を見出した。以下、詳細に説明する。
【0024】
図2は推定部55による脳状態推定方法の第1例を示す模式図である。モデル部552は、学習済みモデルであり、モデルは、ニューラルネットワークで構成され、入力層、中間層、出力層を備え、機械学習によって、ニューラルネットワークのパラメータ(重み、バイアスなど)が決定されている。入力データ生成部551は、通信部52を介して端末装置10から取得したMRI画像を入力データとしてモデル部552に入力する。
【0025】
MRI画像には、T1強調画像及びT2強調画像が含まれる。MR(Magnetic Resonance)信号に再構成処理を施すことにより、実部と虚部からなる複素数画像を生成することができる。強度画像は、各画素の実部と虚部の絶対値を表す画像である。各画素の実部と虚部間の位相を表す位相画像は、生体組織間の磁化率差などに生じる位相の差を表す画像である。強度画像及び位相画像は、例えば、T1強調画像、T2強調画像等である。また、MRI画像には、MRI画像から所定の画像処理によって生成される画像を含めてもよい。例えば、QSM(Quantitative Susceptibility Mapping)画像は、定量的磁化率マッピング画像とも称し、MRI画像から生成することができる。QSM画像は、位相画像から局所の磁化率を定量的に求めてマップ化したものである。磁化率は、物質が外部磁場に反応して生じる磁気分極(磁化)の起こりやすさを表す物性値で、すべての物質は弱い反磁性を持つため、生体組織はわずかに負の磁化率を示し、鉄沈着が起きると正の磁化率を示す。なお、磁化率の変化は鉄沈着以外の要因、例えば、線維化やヘモグロビンの脱酸素化などによっても起こり得る。磁化率を定量的に画像化できることにより、生体組織での鉄沈着の量、分布やその経時変化も確認することができる。脳内の鉄沈着は広範囲に生じるが、特定の部位に過剰に沈着すると認知機能障害を引き起こす。QSMでは、常磁性体(主に鉄成分)と反磁性体の2つの物性からコントラストが得られ、脳内の各部位での鉄沈着を確認することができ、アルツハイマー型認知症等の診断にも利用することができる。なお、QSM画像の生成は、公知の手法を用いればよい。
【0026】
なお、本明細書では、MRI画像は、磁化率が特定でき、当該MRI画像から生成できる画像であればよい。すなわち、MRI画像には、T1強調画像に加えてT2強調画像や、MRI画像から所定の画像処理によって生成されるQSM画像も含まれる。
【0027】
モデル部552は、相関画像出力装置としての機能を有し、脳に関するMRI画像を入力した場合に、磁化率とアミロイドβとの相関を示す相関画像を出力することができる。この場合、モデル部552は、現在のアミロイドβの分布状態を推定することもできるが、モデル部552が、どの程度将来(例えば、1年後、2年後など)のアミロイドβの分布状態を推定するかは、予め、特定期間として定めておくことができる。また、1年後、2年後など将来の複数の時点での推定を行う場合には、将来の複数の時点それぞれに特化した、特定期間毎のモデル部552を準備すればよい。なお、学習済みモデルの生成方法の詳細は後述する。
【0028】
相関画像は、MRI画像とPET画像のそれぞれ対応する画素(ボクセル)毎に、磁化率とPET画像のPET信号(例えば、SUV(Standardized Uptake Value)、SUVR(Standardized Uptake Value Ratio))との相関係数rを特定したものである。相関係数rを図示化(画像化)するには、種々の方法を用いることができ、例えば、閾値以上の相関係数rを有するボクセルを図示してもよく、相関係数rの大小をヒートマップのように識別可能に画像化してもよい。MRI画像、PET画像及び相関画像のサイズは同一であり、例えば、128×128×64(合計で1048576ボクセル)とすることができるが、これに限定されない。SUVRは、大脳灰白質の4つの部位(前頭前野、前後帯状皮質、頭頂葉、及び外側側頭葉)のSUV(アミロイドβ蛋白の集積度)の合算を、特定の参照領域(例えば、小脳など)のSUVで除算することにより求めることができる。相関係数rは、例えば、0≦r≦1とすることができ、1に近いほど相関が大きい。
【0029】
図3は相関係数rが大きい場合のMRI画像とPET画像の相関関係の一例を示す模式図である。MRI画像のあるボクセルの信号(QSM画像の場合は鉄負荷、磁化率等)と、PET画像の当該ボクセルと対応するボクセル(3次元画像上の同一座標のボクセル)のPET信号を、信号(鉄負荷)とPET信号(SUV)で定まる2次元座標にマッピングする。2次元座標にマッピングされたデータが、図3に示すように、例えば、信号間の関連性が強い場合、相関係数rが大きい。ボクセルの数が所定の閾値以上であれば、クラスタ単位の相関関係を求めることができ、ボクセルの数が所定の閾値未満であれば、ボクセル単位の相関関係を求めることができる。また、予め関心領域を定めておき、関心領域内のボクセルに基づいて関心領域単位の相関関係を求めることができる。
【0030】
図4は相関係数rが小さい場合のMRI画像とPET画像の相関関係の一例を示す模式図である。MRI画像のあるボクセルの信号(鉄負荷)と、PET画像の当該ボクセルと対応するボクセル(3次元画像上の同一座標のボクセル)のPET信号を、信号(鉄負荷)とPET信号(SUV)で定まる2次元座標にマッピングする。2次元座標にマッピングされたデータが、図4に示すように、例えば、信号間の関連性が弱い場合、相関係数rが小さい。
【0031】
上述のように、被験者のMRI画像をモデル部552に入力して、当該被験者の脳のアミロイドβの分布状態を推定することができる。これにより、PET画像を用いることなくアミロイドβに関連する疾患の兆候を推定できる。アミロイドβに関連する疾患は、例えば、軽度認知障害(MCI:Mild cognitive impairment)、アルツハイマー病による軽度認知障害(MCIdue to AD)、前駆期アルツハイマー病(prodromal AD)、アルツハイマー病の発症前段階/プレクリニカルAD(preclinical AD)、パーキンソン病、多発性硬化症、認知機能の低下、認知機能障害、アミロイド陽性/陰性に係る疾患などの神経変性疾患を含む。
【0032】
図5は推定部55による脳状態推定結果の第1例を示す模式図である。前述のとおり、モデル部552は、脳に関するMRI画像を入力した場合に、磁化率とアミロイドβとの相関を示す相関画像を出力することができる。相関画像は、磁化率とアミロイドβとの相関係数がボクセル毎に特定された画像であるから、各ボクセルの値は、アミロイドβの量に関連する値を表している。これにより、ある時点の脳のMRI画像が得られれば、脳のアミロイドβの分布状態を推定することが可能となる。
【0033】
図5の例では、クラスタ単位、ボクセル単位、関心領域単位毎に相関画像を模式的に表している。図5に示すような画像は、例えば、出力処理部54によって処理して端末装置10に表示させることができる。相関画像内の点は、アミロイドβの沈着の位置を表す。図示していないが、アミロイドβの量に関連する値は、ボクセルの値(例えば、明暗の程度で表現してもよい)によって表すことができる。
【0034】
また、出力処理部54は、モデル部552が出力する相関画像と他のMRI画像(例えば、T1強調画像)とを重畳させて表示することができる。図5の例では、クラスタ単位、ボクセル単位、関心領域単位毎に相関画像と他のMRI画像とを重畳させた画像を模式的に表している。他のMRI画像は、例えば、脳の構造が見やすい特徴を持つT1強調画像を使用することができる。これにより、相関画像が示すアミロイドβの分布状態が脳のどの部位に該当するかを容易に判断することができる。
【0035】
図6は認知障害に応じたアミロイドβの分布状態の一例を示す模式図である。図6には、NC(健常老年者)、MCI(軽度認知障害)、及びAD(アルツハイマー病)の被験者の脳内のアミロイドβの分布状態を模式的に図示している。なお、実際のアミロイドβの分布状態とは異なる場合もある。NCの場合には、アミロイドβの分布はほとんど見られない。一方、ADの場合には、脳内の複数の部位でアミロイドβの沈着が生じていることが分かる。
【0036】
アルツハイマー型認知症の診断では、MRIの3次元画像から脳の萎縮の程度を客観的に評価することができるVBM(Voxel Based Morphometry)が用いられる場合が多い。アルツハイマー病の進行において、脳の萎縮はMCI後期やADの段階で発生する。しかし、アルツハイマー病は、T1強調画像などのMRI画像で発症が診断されるよりもさらに前の時点(例えば、十数年前)に発症している場合が多い。すなわち、T1強調画像は、バイオマーカとしては十分ではない。一方、アミロイドβによる老人班の沈着は、アルツハイマー病発症過程の最も初期段階から生じる病理学的変化であると考えられており、臨床症状が現れる十数年前から始まると言われている。図6に示すように、MCIの場合には、アミロイドβの分布がNCに比較して顕著になっていることが分かる。このように、本実施の形態の脳状態推定方法によれば、アルツハイマー病発症過程に極めて初期の段階において、発症の診断を行うことが可能であり、被験者の認知障害の早期発見に役立つのみならず、臨床前のアルツハイマー病の研究に有用である。
【0037】
図7は推定部55による脳状態推定結果の第2例を示す模式図である。図7は、ある被験者の現在、1年後、及び2年後の脳内のアミロイドβの分布状態を示す。1年後のアミロイドβの分布状態を推定するためには、特定期間を1年として構築済みの時系列モデルを使用すればよい。時系列モデルの構築の一例としては、機械学習によるモデル(学習済みモデル)の生成を行うことができる。また、2年後のアミロイドβの分布状態を推定するためには、特定期間を2年として構築済みの時系列モデルを使用すればよい。具体的には、推定部55は、モデル部552が出力する、被験者の脳の磁化率とアミロイドβとの相関を示す相関画像に基づいて、当該被験者の将来の認知症を含む神経変性疾患を推定することができる。図7の例では、現時点で被験者は、MCIと診断されるが、2年後には、ADと診断される可能性があることを現時点で予測することができる。なお、図7の例は一例であって、1年後、2年後に限定されるものではない。また、同様にして、現在は健常者であるが、将来、MCI(軽度認知障害)になる可能性があると推定することもでき、あるいは、現在はMCIであるが、将来、ADを発症する可能性があると、推定することもできる。
【0038】
図8は推定部55による脳状態推定方法の第2例を示す模式図である。モデル部552の構成は、図2に例示した第1例と同様である。入力データ生成部551は、MRI画像に加えて、期間を特定する時間情報を入力データとしてモデル部552に入力する。特定する期間は、ある時点の脳の状態から、どの程度の期間が経過した時点の脳の状態を推定するかを特定する期間(特定期間)であり、1年、2年などとすることができる。
【0039】
モデル部552は、MRI画像と共に期間を特定する時間情報が入力された場合、MRI画像が示す脳の当該期間後の磁化率とアミロイドβとの相関を示す相関画像を出力することができる。例えば、特定期間が1年であれば、モデル部552は、1年後の脳の磁化率とアミロイドβとの相関を示す相関画像を出力し、特定期間が2年であれば、モデル部552は、2年後の脳の磁化率とアミロイドβとの相関を示す相関画像を出力することができる。
【0040】
このように、モデル部552に、期間を特定する時間情報を入力することにより、時間情報で特定される期間後の被験者の脳のアミロイドβの分布状態を推定することができる。また、所要の期間を特定する時間情報をモデル部552に入力すれば、被験者の現在の脳の状態のMRI画像を得るだけで、現在から所要の期間が経過した後の被験者の脳のアミロイドβの分布状態を推定することができる。
【0041】
図9は推定部55による脳状態推定方法の第3例を示す模式図である。モデル部552の構成は、図2に例示した第1例と同様である。入力データ生成部551は、被験者の脳のT1強調画像及びT2強調画像をモデル部552に入力する。なお、図9の例では、T1強調画像及びT2強調画像がモデル部552に直接入力される形態が図示されているが、これに限定されるものではなく、T1強調画像及びT2強調画像を画像処理する工程を含めて、画像処理後の画像をモデル部552に入力してもよい。
【0042】
すなわち、推定部55は、被験者のMRI画像に基づくT1強調画像及びT2強調画像を取得し、T1強調画像及びT2強調画像を入力した場合、T2強調画像に基づいて特定可能な磁化率と、アミロイドβとの相関を示す相関画像を出力するモデル部552に、取得したT1強調画像及びT2強調画像を入力し、当該被験者の磁化率とアミロイドβとの相関を示す相関画像を出力することができる。
【0043】
T2強調画像は、鉄の沈着の検出に用いることができる。T1強調画像は、水や血液以外の物質を強調することができ、例えば、脳内の新皮質から大脳皮質の全域に亘って皮質の厚みを観測することができる。アミロイドβによる老人班は、新皮質の基底部から蓄積し始め、その後、大脳皮質の全領域に広がることが知られている。また、アルツハイマー型認知症では、側頭葉外側皮質、脳梁膨大部後皮質などの各皮質での萎縮率が徐々に高くなることが知られている。
【0044】
モデル部552は、T1強調画像及びT2強調画像を入力した場合、T2強調画像に基づいて特定可能な磁化率と、アミロイドβとの相関を示す相関画像を出力することができる。この場合、モデル部552は、現在のアミロイドβの分布状態を推定することもできるが、モデル部552が、どの程度将来(例えば、1年後、2年後など)のアミロイドβの分布状態を推定するかは、予め、特定期間として定めておくことができる。
【0045】
モデル部552は、T1強調画像を用いて学習されているので、脳内の老人班の広がりや萎縮率などを考慮して、被験者の脳の将来のアミロイドβの分布状態をさらに精度よく推定することができる。これにより、PET画像を用いることなく認知症を含むアミロイドβに関連する疾患の兆候をさらに精度よく推定することができる。
【0046】
なお、図示していないが、図9の例において、図8で例示したような時間情報をさらに入力するようにしてもよい。これにより、モデル552は、入力される時間情報によって特定される特定期間が経過した(将来の)時点での被験者の脳のアミロイドβの分布状態をさらに精度よく推定することができる。
【0047】
次に、学習済みモデルの生成方法について説明する。
【0048】
図10は学習処理部56での学習済みモデルの生成方法の第1例を示す模式図である。モデル部562は、例えば、ニューラルネットワークで構成することができる。学習データ生成部561は、学習用入力データとして、脳に関するMRI画像を取得し、教師データとして、磁化率とアミロイドβとの相関を示す相関画像を取得してモデル部562に与える。パラメータ決定部563は、モデル部562にMRI画像を入力した場合に、モデル部562が出力する相関画像が、教師データとしての相関画像に近づくように(損失関数の値が最小になるように)、モデル部のパラメータ(例えば、重みwij、バイアスbkl)を調整して、最終的に決定することにより、学習済みモデルを生成することができる。この場合、モデル部562が出力する相関画像及び教師データとしての相関画像は、MRI画像が示す磁化率が得られた時点の脳から特定期間(例えば、1年、2年など)が経過したときの脳の磁化率とアミロイドβとの相関を示す。
【0049】
図11は学習処理部56での学習済みモデルの生成方法の第2例を示す模式図である。モデル部562は、図10に示す第1例と同様である。学習データ生成部561は、学習用入力データとして、脳に関するMRI画像に加えて、期間を特定する時間情報を取得し、教師データとして、磁化率とアミロイドβとの相関を示す相関画像を取得してモデル部562に与える。これにより、モデル部562に、期間を特定する時間情報をさらに入力し、モデル部562が出力する相関画像が、MRI画像が示す脳の当該期間後の磁化率とアミロイドβとの相関を示す相関画像であることを学習させることができる。これにより、図8に示すモデル部552を生成することができる。
【0050】
図示していないが、図9に示すモデル部552を生成するには、図10に示すモデル部562に、T1強調画像及びT2強調画像を入力すればよい。すなわち、モデル部562に、T1強調画像及びT2強調画像を入力し、モデル部562が出力する相関画像が、教師データとしての相関画像に近づくように、モデル部562のパラメータ(例えば、重みwij、バイアスbkl)を調整することにより、学習済みモデルを生成することができる。また、図9の例において、図8で例示したような時間情報をさらに入力可能なモデル部552を生成するには、図10に示すモデル部562に、T1強調画像、T2強調画像及び時間情報を入力すればよい。
【0051】
モデル562の学習には、ボクセルの集合であるクラスタ単位、ボクセル単位又は関心領域単位それぞれの相関画像を個別に用いて行うことができる。本明細書において、ボクセルは、3次元画像の最小構成単位であり、スカラー値又はベクトル値を持つ小さな体積の立方体である。クラスタは、複数のボクセルで構成される3次元領域である。関心領域(ROI:Region Of Interest)は、観察や測定のために特定の絞り込まれた領域である。
【0052】
次に、サーバ50の動作について説明する。
【0053】
図12は脳状態推定処理の手順の一例を示すフローチャートである。以下では便宜上、処理の主体を制御部51として説明する。制御部51は、被験者のMRI画像を取得する(S11)。MRI画像は、例えば、T2強調画像でもよく、QSM画像でもよく、T2強調画像とT1強調画像の組み合わせでもよく、QSM画像とT1強調画像の組み合わせでもよい。制御部51は、取得したMRI画像を学習済みモデルに入力する(S12)。
【0054】
制御部51は、学習済みモデルが出力する相関画像を端末装置10に表示させ(S13)、MRI画像(例えば、T1強調画像)と重畳させるか否かを判定する(S14)。なお、相関画像とMRI画像を重畳させるか否かは、端末装置10からの指示に基づいて判定できる。MRI画像と重畳させない場合(S14でNO)、制御部51は、処理を終了する。MRI画像と重畳させる場合(S14でYES)、制御部51は、相関画像とMRI画像を重畳して端末装置10に表示させ(S15)、処理を終了する。
【0055】
図13は学習済みモデル生成処理の手順の一例を示すフローチャートである。制御部51は、モデルを読み出し(S21)、ニューラルネットワークのパラメータの初期値を設定する(S22)。制御部51は、MRI画像を取得し(S23)、教師データとしての相関画像を取得する(S24)。ここで、MRI画像は、例えば、T2強調画像でもよく、QSM画像でもよく、T2強調画像とT1強調画像の組み合わせでもよく、QSM画像とT1強調画像の組み合わせでもよい。
【0056】
制御部51は、MRI画像をモデルに入力し、モデルが出力する相関画像と教師データとして取得した相関画像とに基づく損失関数の値が最小になるようにニューラルネットワークのパラメータを調整する(S25)。
【0057】
制御部51は、損失関数の値が許容範囲内であるか否かを判定し(S26)、損失関数の値が許容範囲内でない場合(S26でNO)、ステップS25以降の処理を続ける。損失関数の値が許容範囲内である場合(S26でYES)、制御部51は、生成した学習済みモデルを記憶し(S27)、処理を終了する。
【0058】
サーバ50は、CPU(プロセッサ)、RAMなどを備えたコンピュータを用いて実現することもできる。図12及び図13に示すような処理の手順を定めたコンピュータプログラム(記録媒体に記録可能)をコンピュータに備えられた記録媒体読取部で読み取り、読み取ったコンピュータプログラムをRAMにロードし、コンピュータプログラムをCPU(プロセッサ)で実行することにより、コンピュータ上でサーバ50を実現することができる。
【0059】
上述の実施の形態では、主に脳内のアミロイドβの蓄積について説明したが、本実施の形態は、脳内の部位に限定されるものではなく、脳以外の他の部位でのアミロイドβの蓄積が何らかの疾患と関連する場合には、当該部位についても本実施の形態を適用することができる。
【0060】
本実施の形態のコンピュータプログラムは、コンピュータに、被験者のMRI画像を取得し、MRI画像を入力した場合に、前記MRI画像に基づいて特定可能な磁化率と、アミロイドβとの相関を示す相関画像を出力する学習済みモデルに、取得したMRI画像を入力して、前記被験者の磁化率とアミロイドβとの相関を示す相関画像を出力する、処理を実行させる。
【0061】
本実施の形態の情報処理装置は、被験者のMRI画像を取得する取得部と、MRI画像を入力した場合に、前記MRI画像に基づいて特定可能な磁化率と、アミロイドβとの相関を示す相関画像を出力する学習済みモデルに、取得したMRI画像を入力して、前記被験者の磁化率とアミロイドβとの相関を示す相関画像を出力する出力部とを備える。
【0062】
本実施の形態の情報処理方法は、被験者のMRI画像を取得し、MRI画像を入力した場合に、前記MRI画像に基づいて特定可能な磁化率と、アミロイドβとの相関を示す相関画像を出力する学習済みモデルに、取得したMRI画像を入力して、前記被験者の磁化率とアミロイドβとの相関を示す相関画像を出力する。
【0063】
本実施の形態の学習済みモデル生成方法は、MRI画像を取得し、磁化率とアミロイドβとの相関を示す相関画像を取得し、取得されたMRI画像及び相関画像を用いて、前記MRI画像に基づいて特定可能な磁化率と、アミロイドβとの相関を示す相関画像を出力する学習済みモデルを生成する。
【0064】
本実施の形態の相関画像出力装置は、被験者のMRI画像を入力した場合に、前記被験者の磁化率とアミロイドβとの相関を示す相関画像を出力する。
【0065】
コンピュータプログラムは、被験者のMRI画像を取得する。MRI画像には、T1強調画像及びT2強調画像が含まれる。MR(Magnetic Resonance)信号に再構成処理を施すことにより、実部と虚部からなる複素数画像を生成することができる。強度画像は、各画素の実部と虚部の絶対値を表す画像である。各画素の実部と虚部間の位相を表す位相画像は、生体組織間の磁化率差などに生じる位相の差を表す画像である。強度画像及び位相画像は、例えば、T1強調画像、T2強調画像等である。また、MRI画像には、MRI画像から所定の画像処理によって生成される画像を含めてもよい。例えば、QSM(Quantitative Susceptibility Mapping)画像は、定量的磁化率マッピング画像とも称し、MRI画像から生成することができる。QSM画像は、位相画像から局所の磁化率を定量的に求めてマップ化したものである。磁化率は、物質が外部磁場に反応して生じる磁気分極(磁化)の起こりやすさを表す物性値で、すべての物質は弱い反磁性を持つため、生体組織はわずかに負の磁化率を示し、鉄沈着が起きると正の磁化率を示す。
【0066】
学習済みモデルは、MRI画像を入力した場合に、MRI画像に基づいて特定可能な磁化率と、アミロイドβとの相関を示す相関画像を出力することができる。MRI画像に基づいて特定可能な磁化率とは、例えば、T2強調画像やQSM画像などのMRI画像又はMRI画像から画像処理によって得られる画像に基づいて特定することができる磁化率である。すなわち、MRI画像には、磁化率が特定でき、当該MRI画像から生成できる画像を含めることができる。相関画像は、MRI画像(例えば、QSM画像)とPET画像のそれぞれ対応する画素(ボクセル)毎に、磁化率とPET画像のPET信号(例えば、SUVR(Standardized Uptake Value Ratio))との相関係数rを特定したものである。相関係数rは、例えば、0≦r≦1とすることができ、1に近いほど相関が大きい。
【0067】
学習前のモデル(単に「モデル」とも称する)は、例えば、ニューラルネットワークで構成することができる。学習用入力データとして、MRI画像を取得し、教師データとして、当該MRI画像に基づいて特定可能な磁化率と、アミロイドβとの相関を示す相関画像を取得する。モデルに、MRI画像を入力し、モデルが出力する相関画像が、教師データとしての相関画像に近づくように、モデルのパラメータ(例えば、重み、バイアス)を調整することにより、学習済みモデルを生成することができる。
【0068】
すなわち、取得した被験者のMRI画像を学習済みモデルに入力して、当該被験者のアミロイドβの分布状態を推定することができる。これにより、PET画像を用いることなくアミロイドβに関連する疾患の兆候を推定できる。
【0069】
本実施の形態のコンピュータプログラムは、コンピュータに、前記被験者のMRI画像に基づくT1強調画像及びT2強調画像を取得し、T1強調画像及びT2強調画像を入力した場合、前記T2強調画像に基づいて特定可能な磁化率と、アミロイドβとの相関を示す相関画像を出力する前記学習済みモデルに、取得したT1強調画像及びT2強調画像を入力し、前記被験者の磁化率とアミロイドβとの相関を示す相関画像を出力する、処理を実行させる。
【0070】
コンピュータプログラムは、被験者のMRI画像に基づくT1強調画像及びT2強調画像を取得する。T2強調画像は、鉄の沈着の検出に用いることができる。T1強調画像は、水や血液以外の物質を強調することができ、例えば、脳内の新皮質から大脳皮質の全域に亘って皮質の厚みを観測することができる。アミロイドβによる老人班は、新皮質の基底部から蓄積し始め、その後、大脳皮質の全領域に広がることが知られている。また、アルツハイマー型認知症では、側頭葉外側皮質、脳梁膨大部後皮質などの各皮質での萎縮率が徐々に高くなることが知られている。
【0071】
学習済みモデルは、T1強調画像及びT2強調画像を入力した場合、T2強調画像に基づいて特定可能な磁化率と、アミロイドβとの相関を示す相関画像を出力することができる。モデルに、T1強調画像及びT2強調画像を入力し、モデルが出力する相関画像が、教師データとしての相関画像に近づくように、モデルのパラメータ(例えば、重み、バイアス)を調整することにより、学習済みモデルを生成することができる。
【0072】
学習済みモデルは、T1強調画像を用いて学習されているので、老人班の広がりや萎縮率などを考慮して、当該被験者のアミロイドβの分布状態をさらに精度よく推定することができる。これにより、PET画像を用いることなくアミロイドβに関連する疾患の兆候をさらに精度よく推定することができる。
【0073】
本実施の形態のコンピュータプログラムにおいて、前記学習済みモデルは、脳に関するMRI画像を入力した場合に、前記脳の特定期間後の磁化率とアミロイドβとの相関を示す相関画像を出力する。
【0074】
学習済みモデルは、脳に関するMRI画像を入力した場合に、当該脳の特定期間後の磁化率とアミロイドβとの相関を示す相関画像を出力する。学習済みモデルは、以下のようにして生成することができる。学習用入力データとして、脳に関するMRI画像を取得し、教師データとして、MRI画像が示す当該脳の特定期間後の磁化率とアミロイドβとの相関を示す相関画像を取得する。モデルに、MRI画像を入力し、モデルが出力する相関画像が、教師データとしての相関画像に近づくように、モデルのパラメータ(例えば、重み、バイアス)を調整することにより、学習済みモデルを生成することができる。この場合、モデルが出力する相関画像及び教師データとしての相関画像は、MRI画像が示す磁化率が得られた時点の脳から特定期間(例えば、1年、2年など)が経過したときの脳の磁化率とアミロイドβとの相関を示す。これにより、ある時点の脳のMRI画像が得られれば、当該時点から特定期間が経過したときの脳のアミロイドβの分布状態を推定することが可能となる。
【0075】
本実施の形態のコンピュータプログラムは、コンピュータに、期間を特定する時間情報を取得し、期間を特定する時間情報をさらに入力した場合、脳の前記期間後の、前記MRI画像に基づいて特定可能な磁化率と、アミロイドβとの相関を示す相関画像を出力する前記学習済みモデルに、取得した時間情報を入力して、前記被験者の脳の前記期間後の磁化率とアミロイドβとの相関を示す相関画像を出力する、処理を実行させる。
【0076】
コンピュータプログラムは、期間を特定する時間情報を取得する。特定する期間は、ある時点の脳の状態から、どの程度の期間が経過した時点の脳の状態を推定するかを特定する期間である。
【0077】
学習済みモデルは、期間を特定する時間情報をさらに入力した場合、脳の当該期間後の、MRI画像に基づいて特定可能な磁化率と、アミロイドβとの相関を示す相関画像を出力することができる。モデルに、期間を特定する時間情報をさらに入力し、モデルが出力する相関画像が、脳の当該期間後の、MRI画像に基づいて特定可能な磁化率と、アミロイドβとの相関を示す相関画像であることを学習させることができる。
【0078】
学習済みモデルに、期間を特定する時間情報を入力することにより、時間情報で特定される期間後の被験者の脳のアミロイドβの分布状態を推定することができる。また、時間情報を所要の期間を特定する時間情報とすれば、例えば、被験者の現在の脳の状態のMRI画像を得るだけで、現在から所要の期間が経過した後の被験者の脳のアミロイドβの分布状態を推定することができる。
【0079】
本実施の形態のコンピュータプログラムは、コンピュータに、前記学習済みモデルが出力する、前記被験者の脳の磁化率とアミロイドβとの相関を示す相関画像に基づいて、前記被験者の将来の認知症を含む神経変性疾患を推定する、処理を実行させる。
【0080】
コンピュータプログラムは、学習済みモデルが出力する、被験者の脳の磁化率とアミロイドβとの相関を示す相関画像に基づいて、被験者の将来の認知症を含む神経変性疾患を推定することができる。例えば、アミロイドβの蓄積(集積度)の変化率の大小に応じて、被験者が、認知症などのアミロイドβの蓄積と関連する疾患を発症するか否かを予測することが可能となる。
【0081】
本実施の形態のコンピュータプログラムにおいて、前記相関画像は、ボクセルの集合であるクラスタ単位、ボクセル単位又は関心領域単位での磁化率とアミロイドβとの相関を示す。
【0082】
相関画像は、ボクセルの集合であるクラスタ単位、ボクセル単位又は関心領域単位それぞれでの磁化率とアミロイドβとの相関を示すことができる。ボクセルは、3次元画像の最小構成単位であり、スカラー値又はベクトル値を持つ小さな体積の立方体である。クラスタは、複数のボクセルで構成される3次元領域である。関心領域(ROI:Region Of Interest)は、観察や測定のために特定の絞り込まれた領域である。モデルの学習には、ボクセルの集合であるクラスタ単位、ボクセル単位又は関心領域単位それぞれの相関画像を個別に用いて行うことができる。
【0083】
本実施の形態のコンピュータプログラムは、コンピュータに、前記学習済みモデルが出力する相関画像と他のMRI画像とを重畳させて表示する、処理を実行させる。
【0084】
コンピュータプログラムは、学習済みモデルが出力する相関画像と他のMRI画像とを重畳させて表示することができる。他のMRI画像は、例えば、脳の構造が見やすい特徴を持つT1強調画像を使用することができる。これにより、相関画像が示すアミロイドβの分布状態が脳のどの部位に該当するかを容易に判断することができる。
【符号の説明】
【0085】
1 通信ネットワーク
10 端末装置
50 サーバ
51 制御部
52 通信部
53 記憶部
54 出力処理部
55 推定部
551 入力データ生成部
552 モデル部
56 学習処理部
561 学習データ生成部
562 モデル部
563 パラメータ決定部
61 画像DB
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13