(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-16
(45)【発行日】2024-05-24
(54)【発明の名称】鹿による採食・踏圧耐性の高い植物による緑化方法、及び緑化基材
(51)【国際特許分類】
A01G 20/00 20180101AFI20240517BHJP
A01C 1/04 20060101ALI20240517BHJP
A01M 29/00 20110101ALI20240517BHJP
A01M 29/12 20110101ALI20240517BHJP
E02D 17/20 20060101ALI20240517BHJP
【FI】
A01G20/00
A01C1/04 A
A01M29/00
A01M29/12
E02D17/20 102B
(21)【出願番号】P 2023162897
(22)【出願日】2023-09-26
【審査請求日】2023-11-14
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】592105723
【氏名又は名称】株式会社新日本緑化
(73)【特許権者】
【識別番号】508320011
【氏名又は名称】紅大貿易株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000170646
【氏名又は名称】国土防災技術株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001036
【氏名又は名称】弁理士法人暁合同特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】木村 元由輝
(72)【発明者】
【氏名】山下 剛
(72)【発明者】
【氏名】久保田 裕之
(72)【発明者】
【氏名】吉原 敬嗣
(72)【発明者】
【氏名】田中 淳
【審査官】吉田 英一
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-117597(JP,A)
【文献】特開2017-158471(JP,A)
【文献】橋本佳延、藤木大介,日本におけるニホンジカの採食植物・不嗜好性植物リスト,人と自然,2014年,Vol. 25,pp. 133 - 160
【文献】大西貴一、中村剛、藤原宣夫,ニホンジカの採食行動における不嗜好性順位に関する実験,日本緑化工学会誌,2022年08月31日,Vol. 48, No. 1,pp. 176 - 179
【文献】服部保、南山典子,不嗜好性植物の増殖と利用方法,兵庫ワイルドライフモノグラフ,日本,兵庫県森林動物研究センター,2012年03月,No. 4,pp. 125 - 132
【文献】鈴木虎太郎、坂田ゆず,五葉山においてシカの不嗜好性植物は近隣植物の食害を防ぐのか?,令和2年度森林林業技術交流発表会,2021年
【文献】島田博匡,コラム緑化植物ど・こ・ま・で・き・わ・め・るウラジロ,日本緑化工学会誌,2020年,Vol. 46, No. 2
【文献】内村慶彦,コラム緑化植物ど・こ・ま・で・き・わ・め・るタケニグサ,日本緑化工学会誌,2014年,Vol. 40, No. 2
【文献】五十嵐勇治、高徳佳絵、吉田弓子、木村恒太、鈴木智之,シカ食害下の秩父山地における不嗜好性植物による緑化のための播種試験,東京大学農学部演習林報告,2018年03月,No. 137 - 138,pp. 43 - 64
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 20/00
A01C 1/04
A01M 29/00
A01M 29/12
A01M 29/30
E02D 17/20
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
緑化対象地に付与される植物種子の全体量のうち、その全体量の発生期待本数において50%以上に相当する量が、以下に示される評価項目(a)~(e)の少なくとも1つ以上に該当する鹿による採食・踏圧耐性の高い選定植物の種子からなり、
前記選定植物が、クリーピングレッドフェスク、クリーピングベントグラス、バミューダグラス、レッドトップ、ケンタッキーブルーグラス、ハードフェスク、チューイングフェスク、ススキ、チカラシバ、ノシバ、カゼクサ、メドハギ、クララ、ナガバヤブマオ、レモンエゴマ、アオジソ、アオタデ、マツカゼソウ、オオバコ、アセビ、ミツマタ、コマツナギから選ばれる少なくとも1種以上を含み、
前記緑化対象地に対して、前記選定植物における窒素の含有量が8g/m
2以上に相当する分量の窒素肥料と、10g/m
2以上のケイ酸に相当する分量のケイ酸肥料とが付与される鹿による採食・踏圧耐性の高い植物による緑化方法。
(a)味覚評価:鹿が味覚異常や不味と感じる植物
(b)臭覚評価:鹿に対して忌避効果がある臭いを有する植物
(c)痛覚評価:鹿の痛覚を刺激する棘や堅い葉を有する植物
(d)難採食評価:鹿が食べ難く、食べ残しが生じ易い植物
(e)再生力評価:採食されても再生し易く、かつ踏圧耐性を有する匍匐型、分枝型又はロゼット型の植物
【請求項2】
緑化対象地の植栽に使用される植物全体の植被部分のうち、50%以上が、以下に示される評価項目(a)~(e)の少なくとも1つ以上に該当する鹿による採食・踏圧耐性の高い選定植物からなり、
前記選定植物が、クリーピングレッドフェスク、クリーピングベントグラス、バミューダグラス、レッドトップ、ケンタッキーブルーグラス、ハードフェスク、チューイングフェスク、ススキ、チカラシバ、ノシバ、カゼクサ、メドハギ、クララ、ナガバヤブマオ、レモンエゴマ、アオジソ、アオタデ、マツカゼソウ、オオバコ、アセビ、ミツマタ、コマツナギから選ばれる少なくとも1種以上を含み、
前記緑化対象地に対して、前記選定植物における窒素の含有量が8g/m
2以上に相当する分量の窒素肥料と、10g/m
2以上のケイ酸に相当する分量のケイ酸肥料とを付与する鹿による採食・踏圧耐性の高い植物による緑化方法。
(a)味覚評価:鹿が味覚異常や不味と感じる植物
(b)臭覚評価:鹿に対して忌避効果がある臭いを有する植物
(c)痛覚評価:鹿の痛覚を刺激する棘や堅い葉を有する植物
(d)難採食評価:鹿が食べ難く、食べ残しが生じ易い植物
(e)再生力評価:採食されても再生し易く、かつ踏圧耐性を有する匍匐型、分枝型又はロゼット型の植物
【請求項3】
基材と、
前記基材に付与される植物の種子とを有する緑化基材であって、
前記植物の種子の全体量のうち、その全体量の発生期待本数において50%以上に相当する量が、以下に示される評価項目(a)~(e)の少なくとも1つ以上に該当する鹿による採食・踏圧耐性の高い選定植物の種子からなり、
前記選定植物が、クリーピングレッドフェスク、クリーピングベントグラス、バミューダグラス、レッドトップ、ケンタッキーブルーグラス、ハードフェスク、チューイングフェスク、ススキ、チカラシバ、ノシバ、カゼクサ、メドハギ、クララ、ナガバヤブマオ、レモンエゴマ、アオジソ、アオタデ、マツカゼソウ、オオバコ、アセビ、ミツマタ、コマツナギから選ばれる少なくとも1種以上を含み、
前記基材に対して、前記選定植物における窒素の含有量が8g/m
2以上に相当する分量の窒素肥料と、10g/m
2以上のケイ酸に相当する分量のケイ酸肥料とが
あらかじめ付与される緑化基材。
(a)味覚評価:鹿が味覚異常や不味と感じる植物
(b)臭覚評価:鹿に対して忌避効果がある臭いを有する植物
(c)痛覚評価:鹿の痛覚を刺激する棘や堅い葉を有する植物
(d)難採食評価:鹿が食べ難く、食べ残しが生じ易い植物
(e)再生力評価:採食されても再生し易く、かつ踏圧耐性を有する匍匐型、分枝型又はロゼット型の植物
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鹿による採食・踏圧耐性の高い植物による緑化方法、及び緑化基材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ニホンジカ、エゾジカ等の鹿の個体数が増加し、その生息分布が拡大している。そのため、各地の農地、森林、緑化地では、鹿による採食被害や踏圧被害が引き起こされている。特に、斜面(のり面を含む)や、公園等の緑地での採食被害等が増加しており、景観保全、災害等国土保全等の観点より、大きな影響が出ている。
【0003】
このような鹿による採食被害等を回避するために、従来、保護する場所に、動物(鹿等)の侵入を防ぐための柵やネットを設置すること(特許文献1)や、鹿が侵入しても全ての植物を食べ尽くさないように植物を金網等で覆うこと(特許文献2,3)が行われていた。
【0004】
また、従来、鹿が全く採食しない、或いは採食したとしても他の植物よりも相対的に採食の頻度が少ない不嗜好性植物が知られている(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第6507584号公報
【文献】特許第3793524号公報
【文献】特許第5981063号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】神奈川県自然環境保全センター発行、「神奈川県シカ不嗜好性植物図鑑」、2016年3月、https://www.agri-kanagawa.jp/tebiki/fushiko_2016.pdf
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来の鹿による採食被害対策は、上述したように、柵やネットで鹿の侵入を物理的に防ぐものや、植物全体を食べられないように金網等で物理的に保護するものであった。そのため、従来は、緑化工事に加えて、柵や金網等を設置する追加工事が必要となるため、工事全体の期間が長くなり、しかも、工事全体の費用が高くなってしまうという問題があった。また、柵や金網等は、時間の経過等により、破損することがあるため、鹿による採食被害対策として、十分な効果が得られない場合があった。
【0008】
なお、上述した不嗜好性植物を活用して、鹿による採食被害対策を行うことも考えられるが、従来、知られている不嗜好性植物(種子を含む)は、一般的な市場で流通しているものが少なく、入手が困難であり、現実的ではなかった。
【0009】
本発明の目的は、鹿による採食・踏圧被害が抑制された緑化方法、及び緑化基材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
<1> 緑化対象地に付与される植物種子の全体量のうち、その全体量の発生期待本数において50%以上に相当する量が、以下に示される評価項目(a)~(e)の少なくとも1つ以上に該当する鹿による採食・踏圧耐性の高い選定植物の種子からなり、
前記選定植物が、クリーピングレッドフェスク、クリーピングベントグラス、バミューダグラス、レッドトップ、ケンタッキーブルーグラス、ハードフェスク、チューイングフェスク、ススキ、チカラシバ、ノシバ、カゼクサ、メドハギ、クララ、ナガバヤブマオ、レモンエゴマ、アオジソ、アオタデ、マツカゼソウ、オオバコ、アセビ、ミツマタ、コマツナギから選ばれる少なくとも1種以上を含み、
前記緑化対象地に対して、前記選定植物における窒素の含有量が8g/m2以上に相当する分量の窒素肥料と、10g/m2以上のケイ酸に相当する分量のケイ酸肥料とが付与される鹿による採食・踏圧耐性の高い植物による緑化方法。
(a)味覚評価:鹿が味覚異常や不味と感じる植物
(b)臭覚評価:鹿に対して忌避効果がある臭いを有する植物
(c)痛覚評価:鹿の痛覚を刺激する棘や堅い葉を有する植物
(d)難採食評価:鹿が食べ難く、食べ残しが生じ易い植物
(e)再生力評価:採食されても再生し易く、かつ踏圧耐性を有する匍匐型、分枝型又はロゼット型の植物
【0011】
<2> 緑化対象地の植栽に使用される植物全体の植被部分のうち、50%以上が、以下に示される評価項目(a)~(e)の少なくとも1つ以上に該当する鹿による採食・踏圧耐性の高い選定植物からなり、
前記選定植物が、クリーピングレッドフェスク、クリーピングベントグラス、バミューダグラス、レッドトップ、ケンタッキーブルーグラス、ハードフェスク、チューイングフェスク、ススキ、チカラシバ、ノシバ、カゼクサ、メドハギ、クララ、ナガバヤブマオ、レモンエゴマ、アオジソ、アオタデ、マツカゼソウ、オオバコ、アセビ、ミツマタ、コマツナギから選ばれる少なくとも1種以上を含み、
前記緑化対象地に対して、前記選定植物における窒素の含有量が8g/m2以上に相当する分量の窒素肥料と、10g/m2以上のケイ酸に相当する分量のケイ酸肥料とを付与する鹿による採食・踏圧耐性の高い植物による緑化方法。
(a)味覚評価:鹿が味覚異常や不味と感じる植物
(b)臭覚評価:鹿に対して忌避効果がある臭いを有する植物
(c)痛覚評価:鹿の痛覚を刺激する棘や堅い葉を有する植物
(d)難採食評価:鹿が食べ難く、食べ残しが生じ易い植物
(e)再生力評価:採食されても再生し易く、かつ踏圧耐性を有する匍匐型、分枝型又はロゼット型の植物
【0012】
<3> 基材と、前記基材に付与される植物の種子とを有する緑化基材であって、
前記植物の種子の全体量のうち、その全体量の発生期待本数において50%以上に相当する量が、以下に示される評価項目(a)~(e)の少なくとも1つ以上に該当する鹿による採食・踏圧耐性の高い選定植物の種子からなり、
前記選定植物が、クリーピングレッドフェスク、クリーピングベントグラス、バミューダグラス、レッドトップ、ケンタッキーブルーグラス、ハードフェスク、チューイングフェスク、ススキ、チカラシバ、ノシバ、カゼクサ、メドハギ、クララ、ナガバヤブマオ、レモンエゴマ、アオジソ、アオタデ、マツカゼソウ、オオバコ、アセビ、ミツマタ、コマツナギから選ばれる少なくとも1種以上を含み、
前記基材に対して、前記選定植物における窒素の含有量が8g/m2以上に相当する分量の窒素肥料と、10g/m2以上のケイ酸に相当する分量のケイ酸肥料とが付与される緑化基材。
(a)味覚評価:鹿が味覚異常や不味と感じる植物
(b)臭覚評価:鹿に対して忌避効果がある臭いを有する植物
(c)痛覚評価:鹿の痛覚を刺激する棘や堅い葉を有する植物
(d)難採食評価:鹿が食べ難く、食べ残しが生じ易い植物
(e)再生力評価:採食されても再生し易く、かつ踏圧耐性を有する匍匐型、分枝型又はロゼット型の植物
【0013】
<4> 前記選定植物の種子が、エンドファイトに感染している前記<1>に記載の鹿による採食・踏圧耐性の高い植物による緑化方法。
【0014】
<5> 前記選定植物が、エンドファイトに感染している前記<2>に記載の鹿による採食・踏圧耐性の高い植物による緑化方法。
【0015】
<6> 前記選定植物の種子が、エンドファイトに感染している前記<3>に記載の緑化基材。
【0016】
<7> 前記植物種子、前記窒素肥料及び前記ケイ酸肥料が、種子散布工、客土吹付工、植生基材吹付工、植生基材注入工、又は有人・無人による航空緑化工により、前記緑化対象地に付与される前記<1>に記載の鹿による採食・踏圧耐性の高い植物による緑化方法。
【0017】
<8> 前記植物種子、前記窒素肥料及び前記ケイ酸肥料が、種子散布工、客土吹付工、植生基材吹付工、植生基材注入工、苗木設置吹付工、又は有人・無人機による航空緑化工により、前記緑化対象地に付与される前記<2>に記載の鹿による採食・踏圧耐性の高い植物による緑化方法。
【0018】
<9> 前記植物種子、前記窒素肥料及び前記ケイ酸肥料が、植生シート工、植生マット工、植生筋工又は植生土のう工により、前記緑化対象地に付与される前記<3>に記載の緑化基材。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、鹿による採食・踏圧被害が抑制された緑化方法、及び緑化基材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】実施形態1の緑化方法を模式的に表した説明図
【
図2】鹿による採食・踏圧耐性の高い選定植物と、評価項目(a)~(e)との対応関係をまとめた表
【
図3】実施形態2の緑化方法を模式的に表した説明図
【
図4】実施形態3の緑化方法で使用される緑化基材の構成を模式的に表した説明図
【
図5】施工から10カ月経過後の実施例1及び比較例1,2の施工箇所を撮影した写真
【
図6】実施例1及び比較例1,2の各植被率の結果を示すグラフ
【
図7】実施例1及び比較例1,2における合計被度と平均被害度との結果を示すグラフ
【
図8】実施例2及び比較例3の各植物の植被率(%)及び群落平均高さ(m)の結果を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0021】
<実施形態1>
本発明の実施形態1に係る鹿による採食・踏圧耐性の高い植物による緑化方法について、
図1及び
図2を参照しつつ説明する。
図1は、実施形態1の緑化方法を模式的に表した説明図である。本実施形態の緑化方法では、緑化対象地1に対して、鹿による採食・踏圧耐性の高い選定植物等の植物の種子が付与される。なお、
図1では、説明の便宜上、種子2が緑化対象地1上に示されているが、実際には、選定植物等の種子2を覆うように、土等が被せられる。
【0022】
本実施形態の緑化方法が適用される緑化対象地1は、山腹、斜面、のり面、緑地(公園等)等の鹿による採食被害が想定される箇所であり、本発明の目的を損なわない限り、特に制限はない。なお、採食・踏圧耐性の対象とされる鹿の種類としては、基本的には、ニホンジカ(亜種を含む)、エゾジカの在来種であるが、場合によっては、キョン等の外来種であってもよい。
【0023】
本実施形態の場合、緑化対象地1に付与される植物種子の全体量のうち、その全体量の発生期待本数において50%以上に相当する量が、以下に示される評価項目(a)~(e)の少なくとも1つ以上に該当する鹿による採食・踏圧耐性の高い選定植物の種子2からなる。
【0024】
前記選定植物は、クリーピングレッドフェスク、クリーピングベントグラス、バミューダグラス、レッドトップ、ケンタッキーブルーグラス、ハードフェスク、チューイングフェスク、ススキ、チカラシバ、ノシバ、カゼクサ、メドハギ、クララ、ナガバヤブマオ、レモンエゴマ、アオジソ、アオタデ、マツカゼソウ、オオバコ、アセビ、ミツマタ、コマツナギから選ばれる少なくとも1種以上を含む。
【0025】
図1には、2種類の選定植物の種子2a,2bが示されている。
【0026】
緑化対象地1に付与される植物種子としては、本発明の目的を損なわない限り、前記選定植物の種子2の他に、前記選定植物以外の植物(以下、「非選定植物」と称する場合がある)の種子5が使用されてもよい。
【0027】
発生期待本数とは、播種後1年程度の間に地表上に芽を出す個体の総数を指し、播種の緑化工の設計において一般的に使用されている。種子は、種類によって重さや発芽率等の条件が異なり、同じ重さや、同じ粒数を入れても同じだけ生えるとは限らない。そのような種子間の誤差を抑制するために、事前に発生期待本数を決定することが行われる。
【0028】
なお、植物の種子の全体量(選定植物の種子量と非選定植物の種子量との合計量)は、例えば、1m2(単位面積)当たり、発生期待本数合計が100本/m2以上50000本/m2以下なるように調整することが好ましい。
【0029】
一般的に、従来、鹿に関する不嗜好性植物として知られている植物は、市場で全く流通していない又は流通量が極めて限られている等の事情により、入手が困難である。そのため、本実施形態の緑化方法で使用される前記選定植物は、市場で入手可能な植物の中から選定されている。選定時に使用される評価項目(a)~(e)は、以下のとおりである。
【0030】
評価項目(a)は、鹿の味覚を基準として評価される植物である。この評価項目(a)に該当する植物とは、含まれる毒や苦み等に対して鹿が味覚異常を感じる植物や、栄養価が低い等の理由により鹿が不味と感じる植物である。評価項目(a)に該当する具体的な植物としては、例えば、クララ、レモンエゴマ、アオタデ(ヤナギタデ)等が挙げられる。クララ、アセビ等には、鹿にとって有害物質が含まれているため、それらを鹿が採食することはない。また、レモンエゴマ、ハスノハカズラ等には、硝酸塩が含まれており、鹿に採食され難い。ヤナギタデ等は、苦みが原因で、鹿に採食され難い。
【0031】
評価項目(b)は、鹿の臭覚を基準として評価される植物である。この評価項目(b)に該当する植物とは、鹿に対して忌避効果がある臭いを有する植物である。評価項目(b)に該当する具体的な植物としては、例えば、ナガバヤブマオ、レモンエゴマ、アオジソ、マツカゼソウ等が挙げられる。更に、ミント、ラベンダー等のハーブ類、エゴマ等も評価項目(b)に該当する。また、ミカン科の木本植物(レモン等)も、臭いが原因で鹿に採食され難い。
【0032】
評価項目(c)は、鹿の痛覚を基準として評価される植物である。この評価項目(c)に該当する植物とは、鹿の痛覚を刺激する棘や堅い葉を有する植物である。鹿は、植物の棘が刺さることや、堅い葉の縁等の刺激を嫌がる。評価項目(c)に該当する具体的な植物としては、ススキ、チカラシバ等が挙げられる。更に、ジャケツイバラ、セイヨウオニアザミ、イラクサ等が、評価項目(c)に該当する。
【0033】
評価項目(d)は、鹿の食感を基準として評価される植物である。この評価項目(d)に該当する植物とは、葉が細い、植物が小さい等の理由により、鹿が食べ難く、食べ残しが生じ易い植物である。鹿の上顎には前歯がないため、鹿が植物を採食する際、下顎の前歯(下歯)と上顎の先端部分との間で、植物を挟んでちぎるような動作を行う。そのため、植物の葉が細い場合や、植物自体が小さい場合等では、鹿が植物を採食し難くなるため、植物が食べ尽くされずに残り易い。評価項目(d)に該当する具体的な植物としては、クリーピングレッドフェスク、クリーピングベントグラス、バミューダグラス、ハードフェスク、チューイングフェスク、カゼクサ等が挙げられる。更に、ホワイトクローバーも、評価項目(d)に該当する。
【0034】
評価項目(e)は、植物の有する再生力を基準として評価される植物である。この評価項目(e)に該当する植物とは、鹿に採食されても再生し易く、かつ鹿の踏圧に耐性を有する匍匐型、分枝型又はロゼット型の植物である。評価項目(e)に該当する具体的な植物としては、クリーピングベントグラス、バミューダグラス、レッドトップ、ケンタッキーブルーグラス、ノシバ、オオバコ、メドハギ等が挙げられる。
【0035】
鹿による採食・踏圧耐性の高い選定植物と、評価項目(a)~(e)との対応関係を、
図2の表にまとめた。表中の「〇」は、各評価項目に該当する場合を意味する。
【0036】
本実施形態の緑化方法では、前記選定植物が、クリーピングレッドフェスク、クリーピングベントグラス、バミューダグラス、レッドトップ、ケンタッキーブルーグラス、ハードフェスク、チューイングフェスク、ススキ、チカラシバ、ノシバ、カゼクサ、メドハギ、クララ、ナガバヤブマオ、レモンエゴマ、アオジソ、アオタデ、マツカゼソウ、オオバコ、アセビ、ミツマタ、コマツナギから選ばれる少なくとも1種以上を含むように設定される。
【0037】
なお、前記選定植物の中でも、チカラシバ、ススキ、ノシバ、クララ、メドハギ、コマツナギから選ばれる少なくとも1種以上を含むものは、鹿による採食・踏圧耐性に特に優れた植物であり、しかも、日本の在来植物であるため、生態系への悪影響も少なく、好ましい。
【0038】
特に、チカラシバ、ススキ、ノシバといったイネ科植物は、本実施形態の緑化方法における肥効が終わった後でも、緑化対象地で優占するため、永続的な植生を維持することができる。
【0039】
また、本実施形態の緑化方法では、緑化対象地に対して、選定植物における窒素の含有量が8g/m2以上に相当する分量の窒素肥料3と、10g/m2以上のケイ酸に相当する分量のケイ酸肥料4とが付与される。
【0040】
窒素肥料3は、主成分として窒素(N)を含む肥料である。窒素肥料としては、例えば、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、尿素、石灰窒素、硝酸ナトリウム、硝酸アンモニウム等が挙げられる。窒素肥料の形態は、粒状、顆粒状等の固形状が好ましい。なお、本発明の目的を損なわない限り、窒素肥料を所定の溶媒に溶解又は分散させた液状のものを、用いてもよい。
【0041】
硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、尿素、石灰窒素、硝酸ナトリウム、硝酸アンモニウム等の窒素肥料を緑化対象地1に付与すると、植物は、窒素をアンモニア態窒素若しくは、硝酸化成作用(硝化作用)によって生成される硝酸窒素として吸収する。この効果のために供給される窒素肥料は、選定植物における窒素の含有量が8g/m2以上に相当する分量で使用される。つまり、このような分量の窒素肥料が緑化対象地に付与される。窒素肥料が、このような分量で使用されると、緑化対象地における選定植物が、鹿によって更に採食され難くなる。窒素肥料を使用すると、植物中に硝酸態窒素(硝酸塩中の窒素)が蓄積されるため、鹿は硝酸塩中毒を避けるために、硝酸塩が蓄積された植物の採食を回避するようになる。
【0042】
なお、「硝酸態窒素」とは、硝酸塩と同義語であり、硝酸イオンのように酸化窒素の形で存在する窒素のことである。通常は、硝酸イオン(NO3-)に金属が結合した硝酸塩の形で存在しているが、このうちNの部分だけをとって、「硝酸態窒素」と称する。植物体内において、硝酸態窒素は、硝酸態カリウムや硝酸態カルシウム等として存在する。
【0043】
鹿は、反芻動物であり、硝酸塩を多く含む植物を摂取すると、亜硝酸及びハイドロキシルアミンが生成され、それらが血液中に含まれるヘモグロビンと結合することで、メトヘモグロビンが形成される。そのため、ヘモグロビンの酸素運搬能力が奪われ、酸素欠乏状態となり、所謂、硝酸中毒を発症する。そのため、反芻動物の多くは、硝酸塩を多く含む植物の採食を回避する。
【0044】
なお、使用する窒素肥料の分量の上限は、本発明の目的を損なわない限り、特に制限はないが、植物の肥料障害(所謂、肥料焼け)を抑制する等の観点より、選定植物における窒素の含有量が50g/m2以下に相当する分量で使用されことが好ましい。
【0045】
ケイ酸肥料4は、植物の踏圧耐性を高めるために、肥料として、緑化対象地に付与される。選定植物等の植物が、鹿の踏圧による損傷を受け難くするために、植物内にケイ酸を吸収させることを目的として、緑化対象地に、所定量のケイ酸肥料が付与される。植物内にケイ酸を吸収させると、植物の葉や茎が丈夫になり、光合成の効率が高まる。ケイ酸が植物内に吸収されると、葉の細胞の表面に蓄積され、ケイ化細胞という形で葉の表面をコーティングする。葉の表皮組織の外側を形成するクチクラ層の下にケイ酸が集積し、固いシリカ層と細胞膜の間隙を満たすシリカセルロース膜が形成されることで、葉の厚みが増す。このため、植物内にケイ酸を吸収させると、植物の葉や茎が丈夫になり、光合成の効率が高まる。
【0046】
このようなケイ酸肥料4は、10g/m2以上のケイ酸に相当する分量で使用される。
【0047】
なお、使用するケイ酸肥料の分量の上限は、本発明の目的を損なわない限り、特に制限はないが、経済性等の観点より、50g/m2以下のケイ酸に相当する分量で使用されることが好ましい。
【0048】
窒素肥料及びケイ酸肥料を、緑化対象地に付与する方法としては、本発明の目的を損なわない限り、特に制限はなく、公知の施肥方法を用いることができる。緑化対象地が、法面や斜面緑化等の場合、肥料に加えて、生育の補助となる基盤材(例えば、バーク堆肥、ピートモス、パーライト、ゼオライト、バーミキュライト、ベントナイト等の土壌改良材、土砂、腐葉土等の混合物)が流れないように、緑化対象地に対してそれらを付与する必要がある。そのため、例えば、窒素肥料及びケイ酸肥料等を、種子散布工、客土吹付工、植生基材吹付工、植生基材注入工、又は有人・無人機による航空緑化工により、緑化対象地に付与してもよい。
【0049】
本実施形態では、窒素肥料及びケイ酸肥料は、それぞれ別の肥料として調製されているが、本発明の目的を損なわない限り、窒素肥料及びケイ酸肥料が1つになった肥料を、使用してもよい。
【0050】
なお、本発明の目的を損なわない限り、緑化対象地には、窒素肥料及びケイ酸肥料以外の肥料や、保水材(剤)、植物活性材(剤)、生育促進材(剤)、農薬(殺虫剤、殺菌剤等)、忌避剤(山火事後等の焦げ臭い臭いを発する物質、オオカミ等の鹿の捕食者の排泄物、唐辛子等の刺激食品物)等を付与してもよい。
【0051】
以上のような本実施形態の緑化方法は、鹿による採食・踏圧耐性の高い植物による優れた緑化方法であり、鹿による採食被害や踏圧被害が抑制される。
【0052】
本実施形態の緑化方法において、生育される植物(選定植物)は、採食耐性を持つ(食べられ難い、又は食べられても生き残る)植物であることに加えて、鹿に対する毒性(硝酸塩)を付与することでより食べられ難くなり、しかも、堅く食べ難い資質を獲得することで、鹿による採食被害と踏圧被害を抑制することができる。
【0053】
本実施形態の緑化方法を実施した後(施工後)、3年程度は、導入した植物の中でも成長の早い牧草等が採食被害を受けながら育成し、肥効が切れる3年程度後には、採食被害も受けるが、より生き残り易いチカラシバ、ススキ、ノシバといった在来植物や、有毒なクララ、シキミ、アセビ等が優占する植物群落とすることができる。
【0054】
なお、本実施形態の緑化方法を実施時(施工時)から2~3年後を目処に、窒素分を中心とした追肥(つまり、窒素肥料の追肥)等を行うことで、毒性の発現による採食耐性を回復させることができる。また、踏圧耐性を高める等の目的で、本実施形態の緑化方法を実施時(施工時)から1~3年後を目処に、ケイ酸肥料の追肥を行ってもよい。
【0055】
<実施形態2>
次いで、実施形態2に係る緑化方法で使用される緑化基材6を、
図3を参照しつつ説明する。
図3は、実施形態3の緑化方法で使用される緑化基材6の構成を模式的に表した説明図である。本実施形態の緑化方法は、緑化対象地に対して、選定植物等の植物の種子を含んだ緑化基材6を設置するものである。この緑化方法で使用される緑化基材6は、所謂、植生マットと称されるものであり、
図3に示されるように、基材7と、基材7に付与される植物の種子2(2a,2b)と、肥料(窒素肥料3、ケイ酸肥料4)等を含む肥料袋9と、ネット10とを備える。
【0056】
基材7は、所定の厚みを有しつつ可撓性を備えたシート状又はマット状の部材である。ここでは、基材7として、紙や不織布シートを使用する場合を例に挙げて説明する。紙や不織布シートの目付は、例えば、5~50g/m2に設定されてもよい。
【0057】
植物の種子2(2a,2b)は、基材(不織布シート)7の裏面に対して、糊、接着剤等を使用して接着(固定)されてもよい。なお、種子2(2a,2b)が接着された基材7を、「種子付き基材8」と称する。
【0058】
ネット10は、網目状の基材であり、ネット10としては、例えば、10~20mm×15~25mmの目合いを有するラッセル編み(鎖編み)の化繊ネットを用いてもよい。
【0059】
ネット10には、その長手方向に間隔をおいて複数の肥料袋9が装着される。ネット10は、例えば、全体にわたって又は部分的に2重のネットで構成し、この2重ネットの間に、ネット10の短手方向に延びる長尺の肥料袋9を収容する袋状の収容部を形成し、その収容部内に、長尺の肥料袋9が差し込まれる形で装着される。
【0060】
なお、肥料袋9は、肥料(窒素肥料3、ケイ酸肥料4)の他に、生育に必要な基盤材等を含んでいる。
【0061】
肥料袋9を装着したネット10の裏側に、上述した種子付き基材8が積層される。ネット10と、種子付き基材8の基材7とは、例えば、接着剤等を利用して互いに固定されてもよい。
【0062】
緑化基材6は、緑化対象地に対して、公知の手法(アンカー等)を利用して、適宜、固定される。
【0063】
基材7に付与される植物の種子の全体量のうち、その全体量の発生期待本数において50%以上に相当する量が、実施形態1等と同様の評価項目(a)~(e)の少なくとも1つ以上に該当する鹿による採食・踏圧耐性の高い選定植物の種子からなる。選定植物は、実施形態1等と同様、クリーピングレッドフェスク、クリーピングベントグラス、バミューダグラス、レッドトップ、ケンタッキーブルーグラス、ハードフェスク、チューイングフェスク、ススキ、チカラシバ、ノシバ、カゼクサ、メドハギ、クララ、ナガバヤブマオ、レモンエゴマ、アオジソ、アオタデ、マツカゼソウ、オオバコ、アセビ、ミツマタ、コマツナギから選ばれる少なくとも1種以上を含む。
【0064】
本実施形態の場合、基材に対して、選定植物における窒素の含有量が8g/m2以上に相当する分量の窒素肥料と、10g/m2以上のケイ酸に相当する分量のケイ酸肥料とが付与される。なお、各肥料の上限値は、実施形態1と同様である。
【0065】
以上のような本実施形態の緑化基材を使用した緑化方法も、実施形態1等と同様、鹿による採食・踏圧耐性の高い植物による優れた緑化方法であり、鹿による採食被害や踏圧被害が抑制される。なお、本実施形態の緑化基材は、一例であり、他の実施形態においては、例えば、厚みのある基材を、更に、上述した緑化基材の下側に積層するような構成であってもよい。また、他の実施形態においては、肥料(窒素肥料、ケイ酸肥料)を、厚みのあるマット状の基材中に含有させる構成であってもよい。なお、緑化基材としては、本発明の目的を損なわない限り、基盤材、種子、肥料等を含みつつ、吹付やシートマット等で提供される部材であれば、特に制限はない。
【0066】
<実施形態3>
次いで、実施形態3に係る鹿による採食・踏圧耐性の高い植物による緑化方法を、
図4等を参照しつつ説明する。
図4は、実施形態3の緑化方法を模式的に表した説明図である。本実施形態の緑化方法は、緑化対象地1の植栽に使用される植物全体の植被部分のうち、50%以上が、鹿による採食・踏圧耐性の高い選定植物11(11a,11b)からなる。植栽に使用される植物としては、本発明の目的を損なわない限り、前記選定植物の他に、前記選定植物以外の植物(非選定植物12)が使用されてもよい。
図4には、2種類の選定植物11a,11bが示されている。
【0067】
緑化対象地が、例えば、10m×10m(100m2)の正方形の場合、その正方形内に使用される植物全体の植被部分のうち、50%以上が、鹿による採食・踏圧耐性の高い選定植物からなる。
【0068】
本実施形態の緑化方法では、緑化対象地の植栽として使用される植物全体の植被部分のうち、50%以上が、上述した選定植物となるように、植物が緑化対象地に植えられる。
【0069】
緑化対象地の植栽には、1種又は2種以上の植物(植物種)が使用される。使用する植物全体の植被部分とは、緑化対象地に生えている全ての種類の植物(つまり、緑化対象地の植生全体)が、その緑化対象地を覆う範囲(部分)である。例えば、緑化対象地の植被率が40%の場合、その緑化対象地の面積全体の40%の面積に相当する部分が、植物全体の植被部分に対応することになる。
【0070】
このような植被部分のうち、50%以上(好ましくは、60%以上、より好ましくは70%以上)の範囲が、以下に示される評価項目(a)~(e)の少なくとも1つ以上に該当する鹿による採食・踏圧耐性の高い選定植物からなる。
【0071】
また、本実施形態の場合も、実施形態1と同様、緑化対象地1に対して、選定植物における窒素の含有量が8g/m2以上に相当する分量の窒素肥料3と、10g/m2以上のケイ酸に相当する分量のケイ酸肥料4とが付与される。なお、各肥料の上限値は、実施形態1と同様である。
【0072】
本実施形態において、植物種子、窒素肥料及びケイ酸肥料は、緑化対象地に対して、公知の手法(例えば、植栽工、施肥工、追肥工)を用いて、付与されてもよい
【0073】
以上のような本実施形態の緑化方法も、実施形態1と同様、鹿による採食・踏圧耐性の高い植物による優れた緑化方法であり、鹿による採食被害や踏圧被害が抑制される。
【0074】
以下、実施例に基づいて本発明を更に詳細に説明する。なお、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
【0075】
〔実施例1〕
(緑化基材の作製)
鹿による採食・踏圧耐性の高い選抜植物であるバミューダグラス、クリーピングレッドフェスク、レッドトップ、クリーピングベントグラス、アオジソ、クララ、ススキ、チカラシバの各種子と、保水材とを不織布(基材)に展着させた。また、複数の筒状の肥料袋を用意し、それらを40cm間隔で、長尺状(長手状)の分解性ポリエチレン製シート(ネット)に付着させた。各肥料袋には、肥料(窒素肥料、ケイ酸肥料)、基盤材、生育促進材等を含ませた。
【0076】
なお、植物の種子の全体量は、1m2(単位面積)当たり、発生期待本数合計3950本/m2となるように調整した。各種子の播種量及び発生期待本数は、以下の通りである。
【0077】
・バミューダグラス:播種量(0.46g/m2)、発生期待本数(500本/m2)
・クリーピングレッドフェスク:播種量(0.66g/m2)、発生期待本数(500本/m2)
・レッドトップ:播種量(0.05g/m2)、発生期待本数(500本/m2)
・クリーピングベントグラス:播種量(0.09g/m2)、発生期待本数(500本/m2)
・アオジソ:播種量(0.76g/m2)、発生期待本数(500本/m2)
・クララ:播種量(3.51g/m2)、発生期待本数(50本/m2)
・ススキ:播種量(6.67g/m2)、発生期待本数(1000本/m2)
・チカラシバ:播種量(4.90g/m2)、発生期待本数(400本/m2)
【0078】
そして、植物の種子全体のうち、その発生期待本数全体の50%以上のものが、上述した評価項目(a)~(e)の少なくとも1つ以上に該当する鹿による採食・踏圧耐性の高い選抜植物の種子となるように調整した。
【0079】
また、肥料として、前記選抜植物における窒素の含有量が15g/m2に相当する分量の窒素肥料と、27g/m2のケイ酸に相当する分量のケイ酸肥料とを使用した。
【0080】
(緑化基材の施工)
得られたマット状の緑化基材を、野生の鹿が生息する奈良県川上町某所の礫質盛土の斜面(傾斜角:約30°)に、2021年11月に施工した。緑化基材による斜面の施工面積は、約15m2である。
【0081】
〔比較例1〕
前記選抜植物における窒素の含有量が7.5g/m2に相当する分量の窒素肥料のみを肥料として使用したこと(また、ケイ酸肥料の使用量は0g/m2)以外は、実施例1と同様にして、緑化基材を作製した。得られた比較例1の緑化基材を、実施例1の緑化基材を使用した施工箇所の近くの斜面(傾斜角:約30°)に、実施例1と同日に、同様の条件(施工面積:約15m2)で施工した。
【0082】
〔比較例2〕
実施例1と同質の緑化マット(植生マット)を用意し、その緑化マットを、上述した実施例1の緑化基材を使用した施工箇所の近くの斜面(傾斜角:約30°)に、実施例1と同日に施工した。この緑化マットによる斜面の施工面積は、実施例1と同様、約15m2である。比較例2の緑化マットに使用した種子は、トールフェスク、ベレニアルライグラス、オーチャードグラス、バヒアグラス、ホワイトクローバーである。
【0083】
なお、比較例2における植物の種子の全体量は、1m2(単位面積)当たり、発生期待本数合計4000本/m2となるように調整した。各種子の播種量及び発生期待本数は、以下の通りである。
【0084】
・トールフェスク:播種量(3.29g/m2)、発生期待本数(1000本/m2)
・ベレニアルライグラス:播種量(2.27g/m2)、発生期待本数(1000本/m2)
・オーチャードグラス:播種量(1.13g/m2)、発生期待本数(1000本/m2)
・バヒアグラス:播種量(4.05g/m2)、発生期待本数(500本/m2)
・ホワイトクローバー:播種量(0.79g/m2)、発生期待本数(1000本/m2)
【0085】
また、肥料としては、窒素の含有量が7.5g/m2に相当する分量の窒素肥料を使用した。なお、比較例1との違いは、ケイ酸肥料は使用しなかった点である。
【0086】
〔施工箇所の経過観察〕
実施例1及び比較例1,2の各施工箇所を、施工から10カ月の間、経過観察を行った。具体的には、各施工箇所の植被率(%)を測定した。また、各施工箇所について、方形区画法(コドラート法)による植生調査を行い、コドラート内に出現した植物の被度及び被害度を測定した。そして、植物毎に、コドラートの被度及び被害度の各平均値を求めた。被度及び被害度は、共に階級幅が異なるため、定量的な評価ができるよう各階層の中央値をその植物の被度及び被害度として計算した。
【0087】
なお、被度は、ブラウン・ブランケ法に基づいて、6つの階級に基づいて、測定した。ブラウン・ブランケ法の評価基準は、以下の通りである。
【0088】
<ブラウン・ブランケ法の評価基準>
・被度「+」:僅かな被度を持ち少数の状態。被度の中央値(0.5)
・被度「1」:個体数は多いが被度は低いか、または割合少数で有賀被度は高い状態。被度の中央値(5.5)
・被度「2」:非常に多数又は被度10~25%未満の状態。被度の中央値(17.5)
・被度「3」:被度25%以上50%未満であり、個体数は任意の状態。被度の中央値(37.5)
・被度「4」:被度50%以上75%未満であり、個体数は任意の状態。被度の中央値(62.5)
・被度「5」:被度75%以上100%以下であり、個体数は任意の状態。被度の中央値(87.5)
【0089】
また、被害度指数については、経過時間に応じた標準的な状態に対して、個体(植物)のどの程度が採食被害を受けたのかを示す値として、以下に示される4つのクラス分けによる評価基準に基づいて、測定及び計算を行った。
【0090】
<評価基準>
・被害度「1」(著しい食害):採食された部位が個体の75%以上の状態。被害度の中央値(87.5)
・被害度「2」(酷い食害):採食された部位が個体の25%以上75%未満の状態。被害度の中央値(50.0)
・被害度「3」(軽度の食害):採食された部位が個体の10%以上25%未満の状態。被害度の中央値(17.5)
・被害度「4(ほぼ食害なし):採食された部位が個体の10%未満の状態。被害度の中央値(5.0)
【0091】
〔試験結果〕
(植被率)
実施例1の緑化基材による緑化の場合、試験区(施工箇所)全体の植被率は、42.5%であった。一方、比較例1の緑化基材による緑化の場合、試験区(施工箇所)全体の植被率は30.0%であり、比較例2の緑化マットによる緑化の場合、試験区(施工箇所)全体の植被率は、28.3%であった。実施例1のように、採食耐性を持つ植物を使用しつつ、所定量の窒素及びケイ酸を含むものが、最も植被率が高くなることが確かめられた。比較例1の場合、実施例1と同様、採食耐性を持つ植物を使用した緑化であるものの、植被率は30.0%に留まった。また、比較例2のような通常の緑化の場合、植被率が最も低くなった。
【0092】
なお、施工から10カ月の後の実施例1及び比較例1,2の各施工箇所(試験区)の状態を、
図5に示した。
図5は、施工から10カ月経過後の実施例1、比較例1及び比較例2の施工箇所を撮影した写真である。
図5の左側に示される上下2段の写真が実施例1であり、
図5の中央側に示される上下2段の写真が比較例1であり、
図5の右側に示される上下2段の写真が比較例2である。なお、各下段の写真は、拡大写真である。
【0093】
また、
図6に、実施例1及び比較例1,2の各植被率の結果を示すグラフ(棒グラフ)を示した。
【0094】
〔被度及び被害度〕
被度及び被害度の結果は、
図7に示した。
図7は、実施例1及び比較例1,2における合計被度と平均被害度との結果を示すグラフである。
図7の左側の縦軸は、合計被度(%)を表し、
図7の右側の縦軸は、平均被害度(%)を表す。2022年9月の調査時における植物導入種の平均被度の合計値について、実施例1の緑化の場合は、39.5%であり、比較例1の緑化の場合は、18.0%であり、比較例2の通常緑化の場合は、34.5%であった。このように、採食耐性を持つ植物を使用しつつ、所定量の窒素及びケイ酸を含むものが、最も導入植物がよく生き残ることが確かめられた。なお、比較例2の通常緑化では、植物導入種の被度の合計が、前述の植被率よりも高い値となっているが、これは、被度が各植物の植被率であるため、植物同士が重なっている場合等の合計被度は、全体の植被率を上回ることがある。
【0095】
また、平均被害度については、実施例1の緑化の場合、45.0%であり、比較例1の緑化の場合、43.4%であり、比較例2の緑化の場合、60.0%であった。このように、採食耐性を持つ植物を使用しつつ、所定量の窒素及びケイ酸を含むものが、導入した植物の被害が最も少ない結果となった。
【0096】
以上のように、実施例1の採食耐性緑化では、導入種の被度(植被率)が高く、被害度が少ないという結果となった。したがって、実施例1の採食・踏圧耐性緑化は、鹿による採食・踏圧耐性に優れた緑化方法であると言える。
【0097】
〔実施例2〕
(緑化基材の作製)
エンドファイト感染及び肥料成分による鹿への採食耐性について確認するため、試験を行った。エンドファイト(内生菌)は、植物と共生する真菌や細菌であり、植物の耐虫性や成長に有用な物質を作ることが知られている。特に、イネ科牧草に感染する真菌エンドファイトは毒素を産生するため、鹿に対してエンドファイト中毒を発生させることが記載される。エンドファイト感染した種子としては、チューイングフェスク、クリーピングレッドフェスク、ハードフェスク等が挙げられる。これらは、一般的に市販されている。
【0098】
鹿による採食・踏圧耐性の高い選抜植物であるクリーピングフェスク(エンドファイト感染した種)、チカラシバ、ケンタッキーブルーグラス、ハードフェスク、レッドトップ、バミューダグラス、メドハギ、コマツナギ、ヨモギ、ヤマハギの各種子を、それぞれ不織布に展着させた。また、複数の筒状の肥料袋を用意し、それらを40cm間隔で、分解性ポリエチレン製シート(ネット)に付着させた。各肥料袋には、肥料(窒素肥料、ケイ酸肥料)、基板材、生育促進材等を充填した。
【0099】
実施例2の植物の種子は、全体のうち、その発生期待本数全体の50%以上のものが、上述した評価項目(a)~(e)の少なくとも1つ以上に該当する鹿による採食・踏圧耐性の高い選抜植物の種子となるように調整した。各種子の播種量及び発生期待本数は、以下の通りである。
【0100】
・クリーピングレッドフェスク(エンドファイト感染した種子):播種量(3.87g/m2)、発生期待本数(3000本/m2)
・チカラシバ:播種量(1.31g/m2)、発生期待本数(100本/m2)
・ケンタッキーブルーグラス:播種量(0.63g/m2)、発生期待本数(1800本/m2)
・ハードフェスク:播種量(1.61g/m2)、発生期待本数(1500本/m2)
・レッドトップ:播種量(0.11g/m2)、発生期待本数(1000本/m2)
・バミューダグラス:播種量(0.96g/m2)、発生期待本数(3000本/m2)
・メドハギ:播種量(2.57g/m2)、発生期待本数(750本/m2)
・コマツナギ:播種量(1.33g/m2)、発生期待本数(150本/m2)
・ヨモギ:播種量(0.30g/m2)、発生期待本数(200本/m2)
・ヤマハギ:播種量(1.17g/m2)、発生期待本数(70本/m2)
【0101】
実施例2の肥料としては、植物における窒素の含有量が15g/m2に相当する分量の窒素肥料と、10g/m2のケイ酸に相当する分量のケイ酸肥料とを使用した。以上のようにして、実施例2の緑化基材(緑化マット)を作製した。
【0102】
〔比較例3〕
一方、比較対象として比較例3の緑化基材を作製した。種子としては、実施例2で使用した各種子から、エンドファイト感染していないクリーピングレッドフェスクに変えたこと以外は同じ配合とした。また、肥料は、植物における窒素の含有量が7.5g/m2に相当する分量の窒素肥料を使用した。なお、比較例3では、ケイ酸肥料は使用しなかった。その他の条件は、実施例2と同様にして、比較例3の緑化基材(植生マット)を作製した。
【0103】
(緑化基材の施工)
得られたマット状の緑化基材を、野生のシカが生息する静岡県小山町某所のスコリアの斜面(傾斜角:約30°)に、2017年8月に施工した。緑化基材による斜面の施工面積は、約30m2である。
【0104】
〔施工箇所の経過観察〕
実施例2及び比較例3の各施工箇所を、施工5年が経過した2022年10月に調査した。その結果、実施例2の植被率は92%、エンドファイト感染のクリーピングレッドフェスクが7%、他の植物が85%であった。また、平均群落高も110cmであった。
【0105】
一方、比較例3の植被率は58%、そのうちエンドファイト感染していないクリーピングレッドフェスクが3%、他の植物が55%であった。平均群落高も60cmであり、鹿の採食被害を強く受けていた。
【0106】
以上の結果から、エンドファイト感染した種と窒素を多く、かつシリカを投入した場合、エンドファイト感染した種自体の生存率が高まり、試験区全体の他の植物の植被率も高くなるということが確かめられた。
【0107】
なお、
図8は、実施例2及び比較例3の植被率(%)及び群落平均高さ(m)の結果を示すグラフである。
図8の左側の縦軸は、各植物の植被率(%)を表し、
図8の右側の縦軸は、群落平均高さ(m)を表す。
【0108】
<他の実施形態>
本発明は上記記述及び図面によって説明した実施形態に限定されるものではなく、例えば次のような実施形態も本発明の技術的範囲に含まれる。
【0109】
(1)他の実施形態において、選定植物(又は種子)として、エンドファイト感染した種子を使用してもよい。例えば、実施形態1~3において、上述した評価項目(a)~(e)の少なくとも1つ以上に該当する鹿による採食・踏圧耐性の高い選定植物又は前記選定植物の種子が、エンドファイトに感染していてもよい。
【0110】
(2)上記実施形態では、窒素肥料及びケイ酸肥料は、それぞれ別の肥料として調製されているが、本発明の目的を損なわない限り、他の実施形態においては、窒素肥料及びケイ酸肥料が1つになった肥料を、使用してもよい。
【符号の説明】
【0111】
1…緑化対象地、2…選定植物、3…窒素肥料、4…ケイ酸肥料、5…非選定植物、6…緑化基材、7…基材、8…種子付き基材、9…肥料袋、10…ネット、11…選定植物
【要約】 (修正有)
【課題】鹿による採食・踏圧被害が抑制された緑化方法等の提供。
【解決手段】緑化対象地に付与される植物種子の全体量の発生期待本数において50%以上に相当する量が、(a)味覚評価、(b)臭覚評価、(c)痛覚評価、(d)難採食評価、(e)再生力評価の少なくとも1つ以上に該当する選定植物の種子からなり、クリーピングレッドフェスク、クリーピングベントグラス、バミューダグラス、レッドトップ、ケンタッキーブルーグラス、ハードフェスク、チューイングフェスク、ススキ、チカラシバ、ノシバ、カゼクサ、メドハギ、クララ、ナガバヤブマオ、レモンエゴマ、アオジソ、アオタデ、マツカゼソウ、オオバコ、アセビ、ミツマタ、コマツナギから選ばれる少なくとも1種以上を含み、緑化対象地に対して、窒素の含有量が8g/m
2以上に相当する窒素肥料と、10g/m
2以上のケイ酸に相当するケイ酸肥料とが付与される方法。
【選択図】
図1