(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-16
(45)【発行日】2024-05-24
(54)【発明の名称】ウイルスの紫外線殺菌装置及び紫外線殺菌方法
(51)【国際特許分類】
A61L 2/10 20060101AFI20240517BHJP
【FI】
A61L2/10
(21)【出願番号】P 2020094721
(22)【出願日】2020-05-29
【審査請求日】2023-05-11
(73)【特許権者】
【識別番号】304020292
【氏名又は名称】国立大学法人徳島大学
(73)【特許権者】
【識別番号】391016886
【氏名又は名称】日本フネン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104949
【氏名又は名称】豊栖 康司
(74)【代理人】
【識別番号】100074354
【氏名又は名称】豊栖 康弘
(74)【代理人】
【識別番号】100214145
【氏名又は名称】藤原 尚恵
(72)【発明者】
【氏名】高橋 章
(72)【発明者】
【氏名】馬渡 一諭
(72)【発明者】
【氏名】下畑 隆明
(72)【発明者】
【氏名】芥川 正武
(72)【発明者】
【氏名】榎本 崇宏
(72)【発明者】
【氏名】児島 瑞基
(72)【発明者】
【氏名】和田 敬宏
【審査官】森 健一
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2014/0161664(US,A1)
【文献】特表2012-516197(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 2/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
紫外線で特定のウイルスを不活化するウイルスの紫外線殺菌装置であって、
第一主発光ピーク波長を有する紫外線を放射する第一UV-LEDと、
前記第一UV-LEDと異なる第二主発光ピーク波長を有する紫外線を放射する第二UV-LEDと、
前記第一UV-LED及び第二UV-LEDを同時に発光させた合成発光スペクトルを、前記特定のウイルスの吸収スペクトルと近似させるように、前記第一UV-LED及び第二UV-LEDにそれぞれ駆動電流を供給して発光させるための電流制御部と、
を備えるウイルスの紫外線殺菌装置。
【請求項2】
請求項1に記載のウイルスの紫外線殺菌装置であって、
前記第一UV-LED及び第二UV-LEDにそれぞれ、前記電流制御部で駆動電流を供給して同時に発光させた合成発光スペクトルS(λ)の、前記特定のウイルスの吸収スペクトルA(λ)に対する、次式で定義される相関度R
oを、0.7000以上とするウイルスの紫外線殺菌装置。
(上式において、Nは測定波長の数、λ
1、...λ
Nは測定波長であり、A(λ
i)とS(λ
i)の値は0から1に規格化されている。)
【請求項3】
請求項1に記載のウイルスの紫外線殺菌装置であって、
前記第一UV-LED及び第二UV-LEDにそれぞれ、前記電流制御部で駆動電流を供給して同時に発光させた合成発光スペクトルS(λ)の、前記特定のウイルスの吸収スペクトルA(λ)に対する、次式で定義される相関度Rを、0.7000以上とするウイルスの紫外線殺菌装置。
(上式において、covは吸収スペクトルA(λ)と合成発光スペクトルS(λ)の共分散を、σ
Aは吸収スペクトルA(λ)の標準偏差を、σ
Sは合成発光スペクトルS(λ)の標準偏差を、それぞれ示している。)
【請求項4】
請求項1に記載のウイルスの紫外線殺菌装置であって、
前記第一UV-LED及び第二UV-LEDにそれぞれ、前記電流制御部で駆動電流を供給して同時に発光させた合成発光スペクトルS(λ)の、前記特定のウイルスの吸収スペクトルA(λ)に対する、次式で定義される相関度R
AEを、0.7000以上とするウイルスの紫外線殺菌装置。
(上式において、Nは測定波長の数、λ
1、...λ
Nは測定波長であり、A(λ
i)とS(λ
i)の値は0から1に規格化されている。)
【請求項5】
請求項1に記載のウイルスの紫外線殺菌装置であって、
前記第一UV-LED及び第二UV-LEDにそれぞれ、前記電流制御部で駆動電流を供給して同時に発光させた合成発光スペクトルS(λ)の、前記特定のウイルスの吸収スペクトルA(λ)に対する相関度として、次式で定義されるコサイン類似度cosθを、0.7000以上とするウイルスの紫外線殺菌装置。
(上式において、Nは測定波長の数、λ
1、...λ
Nは測定波長であり、A(λ
i)とS(λ
i)の値は0から1に規格化されている。)
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の紫外線殺菌装置であって、
前記第一主発光ピーク
波長が、280nm以下であり、
前記第二主発光ピーク
波長が、280nm以下であるウイルスの紫外線殺菌装置。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の紫外線殺菌装置であって、
前記第一主発光ピーク
波長が、245nm~257nmに含まれており、
前記第二主発光ピーク
波長が、257nm~270nmに含まれてなるウイルスの紫外線殺菌装置。
【請求項8】
請求項
2~
5のいずれか一項に記載の紫外線殺菌装置であって、さらに、
前記第一主発光ピーク波長及び第二主発光ピーク波長と異なる第三主発光ピーク波長を有する紫外線を放射する第三UV-LEDを備え、
前記電流制御部は、
前記第一UV-LED、第二UV-LED、及び第三UV-LEDにそれぞれ、駆動電流を供給して発光させて、前記特定のウイルスの吸収スペクトルA(λ)に対し、前記第一UV-LED、第二UV-LED、及び第三UV-LEDの紫外線を組み合わせた合成発光スペクトルS(λ)の前記相関度を、0.7000以上としてなるウイルスの紫外線殺菌装置。
【請求項9】
請求項8に記載のウイルスの紫外線殺菌装置であって、
前記第三主発光ピーク
波長が、270nm~380nmに含まれてなるウイルスの紫外線殺菌装置。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか一項に記載の紫外線殺菌装置であって、
前記電流
制御部が、前記第一UV-LEDと第二UV-LEDに供給する駆動電流の値を可変としてなる紫外線殺菌装置。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか一項に記載の紫外線殺菌装置であって、
前記電流
制御部が、前記第一UV-LEDと第二UV-LEDに供給する駆動電流の比を、1:0から0:1としてなる紫外線殺菌装置。
【請求項12】
請求項
2~
5のいずれか一項に記載の紫外線殺菌装置であって、
前記電流
制御部が、複数の異なるウイルスの吸収スペクトルに応じた、合成発光スペクトルとの
前記相関度が0.7000以上となる駆動電流の値を、それぞれ予め設定しておき、これら複数の駆動電流の値を切り替え可能としてなる紫外線殺菌装置。
【請求項13】
請求項
2~
5のいずれか一項に記載の紫外線殺菌装置であって、
前記相関度が0.8000以上であるウイルスの紫外線殺菌装置。
【請求項14】
紫外線で特定のウイルスを不活化するウイルスの紫外線殺菌方法であって、
第一主発光ピーク波長を有する紫外線を放射する第一UV-LEDと、前記第一UV-LEDと異なる第二主発光ピーク波長を有する紫外線を放射する第二UV-LEDとを準備する工程と、
前記第一UV-LED及び第二UV-LEDを同時に発光させて、その合成発光スペクトルを、前記特定のウイルスの吸収スペクトルと近似させるように、電流制御部で前記第一UV-LED及び第二UV-LEDにそれぞれ駆動電流を供給して発光させる工程と、
を含むウイルスの紫外線殺菌方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ウイルスの紫外線殺菌装置及び紫外線殺菌方法に関する。
【背景技術】
【0002】
殺菌は、我々の日常生活のみならず産業上でも必要不可欠である。一般に殺菌方法としては塩素などによる薬剤殺菌、加熱殺菌、紫外線殺菌、オゾン殺菌などが知られているが、薬剤による弊害や環境意識の高まりから、殺菌する対象物が変質しないこと、不要な残留物がないこと、環境に優しいことなどの観点から、より質の高い殺菌技術が求められている。このような背景から、紫外線(UV)を用いた殺菌方法、すなわち紫外線殺菌が広く用いられるようになってきている。
【0003】
UVによるウイルスの不活化は、薬剤のように残留するものがなく、安全性において優れている。また、紫外線はウイルスのDNA又はRNAを破壊すると言われ、薬剤殺菌と違い耐性菌を作らないという利点もある。UVによる殺菌機構については、一般に次の説明がされている。細菌をはじめ、生物の細胞内には遺伝情報をつかさどる核酸(DNA又はRNA)が存在し、紫外線が照射されると核酸はその光を吸収し、一部の核酸に障害が起こり遺伝子からの転写制御が滞り新陳代謝に支障をきたし不活化される。
【0004】
図48は現在、国際的に標準のものとして認められている紫外線殺菌作用の波長特性を示している(非特許文献1参照)。
図48から明らかな通り、殺菌作用の最大値を示す波長は260nm付近にあり、この波長に近い253.7nmのUV(殺菌線または殺菌放射と呼ばれる)を効率的に放射するランプが殺菌灯(又は殺菌ランプ)として常用されている。
【0005】
しかしながら、殺菌灯は、殺菌線を透過させる特殊ガラス管で作られており、小型化や軽量化がし難く、また、形状にも制約があり、LEDに比べ消費電力が大きい等の問題がある。また、管内にはアルゴンガスと環境汚染物質である水銀が封入されており、廃棄時に特別な制約があり、煩雑であるなどの問題点がある。また、近年の環境意識の高まりやROHS規制などの環境対策により、水銀を用いた殺菌灯である水銀灯は嫌忌される傾向にある。
【0006】
このように問題点のある殺菌灯に代わって、近年、紫外線を照射可能なLED(UV-LED)を使用する紫外線殺菌装置の提案がなされている。本願発明者らは、長年UV-LEDを用いた殺菌装置の研究を行っており、特許出願も行ってきた(特許文献1~3参照)。
【0007】
一般にLEDは、水銀灯に比べ使用時間が長く低消費電力とされている。しかしながら、水銀灯のような253.7nmといった波長の短い紫外光(UVC)を放射可能なUV-LEDは技術的難易度が高く、実用化されていないのが実情である。またコストも他のLEDと比べて極めて高価である。このため、これよりも波長が長いUVAやUVBの近紫外光を放射可能なUV-LEDが代替的に用いられている。
【0008】
しかしながら、UVAやUVBを照射可能なUV-LEDは、UVCよりも波長が長いことから、殺菌能力が劣るとされてきた。
【0009】
一方で、近年のCOVID-19、いわゆる新型コロナウイルスの世界的流行によって、ウイルス対策が全世界的に求められている。このような状況下で、消耗品であるマスクや消毒液が世界的に入手困難なため、消耗品に頼らない永続的で簡便なウイルス対策として、紫外線殺菌装置が注目を集めている。
【0010】
しかしながら、上述の通りUVAを放射可能なUV-LEDを用いた殺菌装置ではウイルス除去性能が劣り、十分な殺菌力を発揮できないという懸念があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特開2008-161095号公報
【文献】特開2004-275335号公報
【文献】特許第4067496号公報
【非特許文献】
【0012】
【文献】Applications of Germicidal, Erythemal and Infrared Energy 1st.ed.1946, 111頁, 著者[Matthew Luckiesh]、出版社[D.Van Nostrand Company,Inc.]
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、このような背景に鑑みてなされたものであり、その目的の一は、UV-LEDを用いながらも欠点とされた殺菌能力を大幅に向上させたウイルスの紫外線殺菌装置及び紫外線殺菌方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段及び発明の効果】
【0014】
本発明の第1の側面に係るウイルスの紫外線殺菌装置によれば、紫外線で特定のウイルスを不活化するウイルスの紫外線殺菌装置であって、第一主発光ピーク波長を有する紫外線を放射する第一UV-LEDと、前記第一UV-LEDと異なる第二主発光ピーク波長を有する紫外線を放射する第二UV-LEDと、前記第一UV-LED及び第二UV-LEDを同時に発光させた合成発光スペクトルを、前記特定のウイルスの吸収スペクトルと近似させるように、前記第一UV-LED及び第二UV-LEDにそれぞれ駆動電流を供給して発光させるための電流制御部とを備える。上記構成により、低圧水銀ランプを使用せずとも、波長の異なる複数のUV-LEDを組み合わせることで、殺菌対象のウイルスに対して効果的に殺菌性能を発揮させることが可能となる。
【0015】
また、本発明の第2の側面に係るウイルスの紫外線殺菌装置によれば、上記構成に加えて、前記第一UV-LED及び第二UV-LEDにそれぞれ、前記電流制御部で駆動電流を供給して同時に発光させた合成発光スペクトルS(λ)の、前記特定のウイルスの吸収スペクトルA(λ)に対する、次式で定義される相関度R
oを、0.7000以上とする。
【0016】
上式において、Nは測定波長の数、λ1、...λNは測定波長であり、A(λi)とS(λi)の値は0から1に規格化されている。上記構成により、波長の異なる複数のUV-LEDを組み合わせることで、優れた殺菌性能を発揮させることが可能となる。
【0017】
さらに、本発明の第3の側面に係るウイルスの紫外線殺菌装置によれば、上記構成に加えて、前記第一UV-LED及び第二UV-LEDにそれぞれ、前記電流制御部で駆動電流を供給して同時に発光させた合成発光スペクトルS(λ)の、前記特定のウイルスの吸収スペクトルA(λ)に対する、次式で定義される相関度Rを、0.7000以上とする。
【0018】
上式において、covは吸収スペクトルA(λ)と合成発光スペクトルS(λ)の共分散を、σAは吸収スペクトルA(λ)の標準偏差を、σSは合成発光スペクトルS(λ)の標準偏差を、それぞれ示している。
【0019】
さらにまた、本発明の第4の側面に係るウイルスの紫外線殺菌装置によれば、前記第一UV-LED及び第二UV-LEDにそれぞれ、前記電流制御部で駆動電流を供給して同時に発光させた合成発光スペクトルS(λ)の、前記特定のウイルスの吸収スペクトルA(λ)に対する、次式で定義される相関度R
AEを、0.7000以上とする。
【0020】
上式において、Nは測定波長の数、λ1、...λNは測定波長であり、A(λi)とS(λi)の値は0から1に規格化されている。
【0021】
さらにまた、本発明の第5の側面に係るウイルスの紫外線殺菌装置によれば、前記第一UV-LED及び第二UV-LEDにそれぞれ、前記電流制御部で駆動電流を供給して同時に発光させた合成発光スペクトルS(λ)の、前記特定のウイルスの吸収スペクトルA(λ)に対する相関度として、次式で定義されるコサイン類似度cosθを、0.7000以上とする。
【0022】
上式において、Nは測定波長の数、λ1、...λNは測定波長であり、A(λi)とS(λi)の値は0から1に規格化されている。
【0023】
さらにまた、本発明の第6の側面に係るウイルスの紫外線殺菌装置によれば、上記いずれかの構成に加えて、前記第一主発光ピークが、280nm以下であり、前記第二主発光ピークが、280nm以下である。
【0024】
さらにまた、本発明の第7の側面に係るウイルスの紫外線殺菌装置によれば、上記いずれかの構成に加えて、前記第一主発光ピーク波長が、245nm~257nmに含まれており、前記第二主発光ピーク波長が、257nm~270nmに含まれている。
【0025】
さらにまた、本発明の第8の側面に係るウイルスの紫外線殺菌装置によれば、上記いずれかの構成に加えて、さらに、前記第一主発光ピーク波長及び第二主発光ピーク波長と異なる第三主発光ピーク波長を有する紫外線を放射する第三UV-LEDを備え、前記電流制御部は、前記第一UV-LED、第二UV-LED、及び第三UV-LEDにそれぞれ、駆動電流を供給して発光させて、前記特定のウイルスの吸収スペクトルA(λ)に対し、前記第一UV-LED、第二UV-LED、及び第三UV-LEDの紫外線を組み合わせた合成発光スペクトルS(λ)の前記相関度を、0.7000以上とすることができる。上記構成により、波長の異なる三種類以上のUV-LEDを組み合わせることで、さらに優れた殺菌性能を発揮させることが可能となる。
【0026】
さらにまた、本発明の第9の側面に係るウイルスの紫外線殺菌装置によれば、上記いずれかの構成に加えて、前記第三主発光ピーク波長を、270nm~380nmに含まれるように構成できる。
【0027】
さらにまた、本発明の第10の側面に係るウイルスの紫外線殺菌装置によれば、上記いずれかの構成に加えて、前記電流制御部を、前記第一UV-LEDと第二UV-LEDに供給する駆動電流の値を可変とすることができる。
【0028】
さらにまた、本発明の第11の側面に係るウイルスの紫外線殺菌装置によれば、上記いずれかの構成に加えて、前記電流制御部が、前記第一UV-LEDと第二UV-LEDに供給する駆動電流の比を、1:0から0:1とすることができる。
【0029】
さらにまた、本発明の第12の側面に係るウイルスの紫外線殺菌装置によれば、上記いずれかの構成に加えて、前記電流制御部が、複数の異なるウイルスの吸収スペクトルに応じた、合成発光スペクトルとの前記相関度が0.7000以上となる駆動電流の値を、それぞれ予め設定しておき、これら複数の駆動電流の値を切り替え可能とすることができる。
【0030】
さらにまた、本発明の第13の側面に係るウイルスの紫外線殺菌装置によれば、上記いずれかの構成に加えて、相関度を0.8000以上とすることができる。
【0031】
さらにまた、本発明の第14の側面に係るウイルスの紫外線殺菌方法によれば、紫外線で特定のウイルスを不活化するウイルスの紫外線殺菌方法であって、第一主発光ピーク波長を有する紫外線を放射する第一UV-LEDと、前記第一UV-LEDと異なる第二主発光ピーク波長を有する紫外線を放射する第二UV-LEDとを準備する工程と、前記第一UV-LED及び第二UV-LEDを同時に発光させて、その合成発光スペクトルを、前記特定のウイルスの吸収スペクトルと近似させるように、電流制御部で前記第一UV-LED及び第二UV-LEDにそれぞれ駆動電流を供給して発光させる工程とを含むことができる。これにより、低圧水銀ランプを使用せずとも、波長の異なる複数のUV-LEDを組み合わせることで、殺菌対象のウイルスに対して効果的に殺菌性能を発揮させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】本発明の実施形態1に係るウイルスの紫外線殺菌装置を示すブロック図である。
【
図2】本発明の実施形態2に係るウイルスの紫外線殺菌装置を示すブロック図である。
【
図3】H1N1亜型に対するUV照射の照射時間毎の不活化効果を示すグラフである。
【
図4】H1N1亜型に対するUV照射のフルエンス毎の不活化効果を示す要部拡大図付きグラフである。
【
図5】参考例7、5、3のUV-LEDによる不活性化の度合いを示すグラフである。
【
図6】参考例7、5、3のUV-LEDによるRNA損傷の度合いを示すグラフである。
【
図7】UVCによるウイルスの不活性化機構を示す模式図である。
【
図8】UVA、UVBによるウイルスの不活性化機構を示す模式図である。
【
図9】H1N1亜型に対するUV照射後の宿主細胞内のvRNA量を示すグラフである。
【
図10】H1N1亜型に対するUV照射後の宿主細胞内のcRNA量を示すグラフである。
【
図11】H1N1亜型に対するUV照射後の宿主細胞内のmRNA量を示すグラフである。
【
図12】H1N1亜型に対するUV照射後の宿主細胞内のvRNAの変動量を示すグラフである。
【
図13】H1N1亜型に対するUV照射後の宿主細胞内のcRNAの変動量を示すグラフである。
【
図14】H1N1亜型に対するUV照射後の宿主細胞内のmRNAの変動量を示すグラフである。
【
図15】ウイルス亜種に対しUVA、UVB、UVCをそれぞれ照射してウイルス不活化比を測定した結果を示すグラフである。
【
図16】UV照射がvRNPの複製と転写を抑制する様子を示す模式図である。
【
図17】H1N1亜型に対する異なるピーク波長のUVC照射の不活化効果を示すグラフである。
【
図18】H1N1に異なる光源からUV光を照射した場合の感染比を示すグラフである。
【
図19】発育鶏卵に異なる光源からUV光を照射した場合の感染比を示すグラフである。
【
図20】H1N1にUV光を照射した場合の波長毎のウイルス不活化比を示すグラフである。
【
図21】発育鶏卵にUV光を照射した場合の波長毎のウイルス不活化比を示すグラフである。
【
図23】波長毎のウイルスvRNAセグメント6を示すグラフである。
【
図24】ウイルスvRNAセグメント6とウイルス不活化比の関係性を示すグラフである。
【
図25】波長毎のRNA傷害比を示すグラフである。
【
図26】ウイルスRNAの吸収曲線を示すグラフである。
【
図28】合成発光スペクトルとウイルスRNAの吸収スペクトルを重ねたグラフである。
【
図29】実施例1の合成発光スペクトルと、参考例1、2、3のUV-LED、比較例1の低圧水銀ランプの発光スペクトルを重ねたグラフである。
【
図30】H1N1に対する実施例1、参考例1~3及び比較例1の不活化効果を示すグラフである。
【
図31】H6N2に対する実施例1、参考例1~3及び比較例1の不活化効果を示すグラフである。
【
図32】発育鶏卵に対しH1N1ウイルスを適用した場合の不活化効果を示すグラフである。
【
図33】発育鶏卵に対しH6N2ウイルスを適用した場合の不活化効果を示すグラフである。
【
図34】MDCKに対する相関度と不活性化の関係を示すグラフである。
【
図35】発育鶏卵に対する相関度と不活性化の関係を示すグラフである。
【
図36】不活化比と波長の相関、及び不活化と相関度R
AEを、宿主がMDCK、発育鶏卵についてまとめた表である。
【
図37】UV照射によるウイルスの不活化効果を示すグラフである。
【
図38】UVAの照射によるウイルスの不活化効果を示すグラフである。
【
図39】UVBの照射によるウイルスの不活化効果を示すグラフである。
【
図40】UV照射後のRT-qPCRプロダクト及びFCVの相関関係を示すグラフである。
【
図41】実施例2に係るウイルスの紫外線殺菌装置のUV-LEDの組み合わせを決定する手順を示すフローチャートである。
【
図42】実施例2に係る合成発光スペクトルとウイルスの吸収スペクトルを示すグラフである。
【
図43】実施例3に係る合成発光スペクトルとウイルスの吸収スペクトルを示すグラフである。
【
図44】実施例4に係るウイルスの紫外線殺菌装置のUV-LEDの組み合わせを決定する手順を示すフローチャートである。
【
図45】実施例4に係る実測LED発光スペクトルと、推定LED発光スペクトルを示すグラフである。
【
図46】実施例4に係る合成発光スペクトルとウイルスの吸収スペクトルを示すグラフである。
【
図47】実施例5に係る合成発光スペクトルとウイルスの吸収スペクトルを示すグラフである。
【
図48】紫外線殺菌作用の波長特性を示すグラフである。
【
図49】実施例6に係る合成発光スペクトルとウイルスの吸収スペクトルを示すグラフである。
【
図50】実施例7に係る合成発光スペクトルとウイルスの吸収スペクトルを示すグラフである。
【
図51】実施例8に係る合成発光スペクトルとウイルスの吸収スペクトルを示すグラフである。
【
図52】実施例9に係る合成発光スペクトルとウイルスの吸収スペクトルを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明の実施形態を、必要に応じて図面を参照して説明する。ただし、以下に示す実施形態は、本発明の技術思想を具体化するための例示であって、本発明は以下のものに特定されない。また、本明細書は、特許請求の範囲に示される部材を、実施形態の部材に特定するものでは決してない。特に実施形態に記載されている構成部材の寸法、材質、形状、その相対的配置等は特に特定的な記載がない限りは、本発明の範囲をそれのみに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。なお、各図面が示す部材の大きさや位置関係等は、説明を明確にするため誇張していることがある。さらに以下の説明において、同一の名称、符号については同一もしくは同質の部材を示しており、詳細説明を適宜省略する。さらに、本発明を構成する各要素は、複数の要素を同一の部材で構成して一の部材で複数の要素を兼用する態様としてもよいし、逆に一の部材の機能を複数の部材で分担して実現することもできる。また、一部の実施例、実施形態において説明された内容は、他の実施例、実施形態等に利用可能なものもある。
[実施形態1]
【0034】
本発明の実施形態1に係るウイルスの紫外線殺菌装置100を、
図1のブロック図に示す。この図に示すウイルスの紫外線殺菌装置100は、第一UV-LED1と、第二UV-LED2と、電流制御部5を備える。このウイルスの紫外線殺菌装置100は、電流制御部5が第一UV-LED1と第二UV-LED2にそれぞれ駆動電流を供給して、これら第一UV-LED1と第二UV-LED2を点灯させて紫外線を照射させる。このようなウイルスの紫外線殺菌装置100で、例えば殺菌対象物WKに対して紫外線を照射させて、殺菌対象物WKに付着したウイルスを殺菌する。なお本明細書においてウイルスの殺菌とは、ウイルスの不活性化や不活化を含む意味で使用する。
【0035】
第一UV-LED1は、第一主発光ピーク波長を有する紫外線を発光する発光ダイオードである。第一主発光ピーク波長は、280nm以下、好ましくは245nm~260nm、より好ましくは245nm~257nmの範囲に含まれる。好適な第一主発光ピークは、250.3nm、又は256nm、あるいは247.4nmとする。
【0036】
第二UV-LED2は、第一UV-LED1と異なる第二主発光ピーク波長を有する紫外線を発光する発光ダイオードである。第二主発光ピーク波長は、280nm以下、好ましくは256.5nm~270nm、より好ましくは257nm~270nm、さらに好ましくは260nm~270nmの範囲に含まれる。好適な第二主発光ピークは、262.7nm、又は270nm、あるいは257.6nmとする。
【0037】
好ましくは、ウイルスの吸収スペクトルのピークが1となるように正規化された状態で、第一UV-LED1の発光スペクトルの最大振幅を、0.95~0.99とする。また第二UV-LED2の発光スペクトルの最大振幅を、0.92~0.95とする。
【0038】
第一UV-LED1と第二UV-LED2は、それぞれ一個としてもよいし、複数の第一UV-LED、第二UV-LED2を、それぞれ直列又は並列に接続してもよい。UV-LEDの数を増やすことで、紫外線の照射量を大きくすることができる。また、第一UV-LED1と第二UV-LED2は、物理的に分離したパッケージとして構成される他、例えば共通のパッケージ内に2つのLEDチップを含めて構成してもよい。
【0039】
このような紫外線発光ダイオードには、窒化ガリウム系の半導体発光ダイオードが好適に利用できる。例えば、組成がInXAlYGa1-X-YN(0≦X、0≦Y、X+Y≦1)で表される窒化物系半導体を用いた半導体発光素子を用いることができる。これによって、高効率で入力に対する出力のリニアリティが高く、機械的衝撃にも強い安定した紫外線殺菌装置100が得られる。
(電流制御部5)
【0040】
電流制御部5は、直流電源6に接続されている。直流電源6は、例えば交流50Hzや60Hzの商用電源を整流して直流に変換する電流変換器や直流安定化電源が利用できる。また、電流制御部5に、このような電流変換機能を持たせてもよい。この場合は、電流制御部5を直接商用電源に接続して利用できる。
【0041】
電流制御部5は、第一UV-LED1及び第二UV-LED2にそれぞれ、駆動電流を供給して同時に発光させて、これらの発光を組み合わせた合成発光スペクトルS(λ)の光MSを照射する。なお、本明細書において光とは可視光を意味するものでなく、典型的には紫外光のような光又は電磁波を意味する。
【0042】
ここで、ウイルスの紫外線殺菌装置100で殺菌対象とする特定のウイルスの、吸収スペクトルA(λ)を予め取得しておく。そして、この吸収スペクトルA(λ)に対し、第一UV-LED1及び第二UV-LED2を同時に発光させた際の合成発光スペクトルを、ウイルスの吸収スペクトルと近似させるように電流制御部で発光させる。これにより、低圧水銀ランプを使用せずとも、波長の異なる複数のUV-LEDを組み合わせることで、殺菌対象のウイルスに対して効果的に殺菌性能を発揮させることが可能となる。
【0043】
具体的には、吸収スペクトルA(λ)に対し、第一UV-LED1及び第二UV-LED2の紫外線を組み合わせた合成発光スペクトルS(λ)の相関度Roを、次式数1に基づいて計算する。
【0044】
【0045】
上式において上式において、Nは測定波長の数、λ1、...λNは測定波長であり、A(λi)とS(λi)の値は0から1に規格化されている。この相関度Roが、0.7000以上となるように、電流制御部5で第一UV-LED1と第二UV-LED2の駆動電流を調整する。これによって、波長の異なる複数のUV-LEDを組み合わせることで、優れた殺菌性能を発揮させることが可能となる。
【0046】
また、ウイルスの吸収スペクトルA(λ)と合成発光スペクトルS(λ)の相関度を求める式は、上式以外にも利用できる。例えば、次式数2を利用できる。
【0047】
【0048】
上式において、covは吸収スペクトルA(λ)と合成発光スペクトルS(λ)の共分散を、σAは吸収スペクトルA(λ)の標準偏差を、σSは合成発光スペクトルS(λ)の標準偏差を、それぞれ示している。
【0049】
相関度Rは、ウイルスの吸収スペクトルのエネルギー値で割ることにより、正規化することができる。このような例として、数1のウイルスの吸収スペクトルA(λ)と合成発光スペクトルS(λ)の相関度を求める式を変形した次式数3を用いてもよい。
【0050】
【0051】
上式において、Nは測定波長の数、λ1、...λNは測定波長であり、A(λi)とS(λi)の値は0から1に規格化されている。
【0052】
あるいはまた、ウイルスの吸収スペクトルA(λ)と合成発光スペクトルS(λ)の相関度を求める式として、次式数4で定義されるコサイン類似度cosθを用いてもよい。
【0053】
【0054】
上式において、Nは測定波長の数、λ1、...λNは測定波長であり、A(λi)とS(λi)の値は0から1に規格化されている。
【0055】
これらの相関度は、高いほど好ましい。好ましくは0.8000以上となるように、電流制御部5で駆動電流を制御する。
【0056】
電流制御部は、第一UV-LED1と第二UV-LED2に供給する駆動電流の値を可変としてもよい。また電流制御部が、第一UV-LED1と第二UV-LED2に供給する駆動電流の比を、1:0から0:1とすることができる。
【0057】
さらにウイルスの紫外線殺菌装置100は、殺菌対象となる特定のウイルスを一種類に限定した構成とする他、複数の異なるウイルスの殺菌を効果的に行えるようにしてもよい。この場合は、殺菌対象のウイルスの吸収スペクトルと合成発光スペクトルとの相関度Rが高くなるように、複数のUV-LEDの駆動電流を調整可能とすることが好ましい。例えば、複数の異なるウイルスの吸収スペクトルに応じた、合成発光スペクトルとの相関度が0.7000以上となる駆動電流の値をそれぞれ、電流制御部に予め設定しておく。そして、殺菌対象のウイルスに応じて、これら複数の駆動電流の値を切り替え可能としてもよい。また、このような駆動電流の切り替えは、自動で行わせてもよい。例えば殺菌対象のウイルスを4種類として、各ウイルスの吸収スペクトルに応じた駆動電流の組み合わせを、周期的に変更する。例えば、30秒間ずつ、各ウイルスの吸収スペクトルに応じて相関度Rが0.7000以上となる駆動電流を供給して、順次自動で切り替えていくことにより、4種類のウイルスを同時に殺菌することが可能となる。
(ウイルスの紫外線殺菌方法)
【0058】
以上のウイルスの紫外線殺菌装置100を用いて、紫外線で特定のウイルスを不活化するウイルスの紫外線殺菌方法を説明する。まず、第一主発光ピーク波長を有する紫外線を放射する第一UV-LED1と、第一UV-LED1と異なる第二主発光ピーク波長を有する紫外線を放射する第二UV-LED2とを準備する。次に、これら第一UV-LED1及び第二UV-LED2にそれぞれ、電流制御部5で駆動電流を供給して発光させて、特定のウイルスの吸収スペクトルA(λ)に対し、第一UV-LED1及び第二UV-LED2の紫外線を組み合わせた合成発光スペクトルS(λ)の、次式で定義される相関度Rを、0.7000以上とする。これにより、波長の異なる複数のUV-LEDを組み合わせることで、優れた殺菌性能を発揮させることが可能となる。
[実施形態2]
【0059】
上記の例では、UV-LEDとして、主発光ピーク波長の異なる第一UV-LEDと第二UV-LEDの2種類を使用しているが、さらに主発光ピーク波長の異なるUV-LEDを組み合わせてもよい。このような例として、実施形態2に係るウイルスの紫外線殺菌装置200を、
図2のブロック図に示す。この図において、上述した
図1と同様の部材について、同じ符号を付して詳細説明を適宜省略する。
【0060】
図2のウイルスの紫外線殺菌装置200は、第一UV-LED1と、第二UV-LED2と、第三UV-LED3と、電流制御部5を備えている。第三UV-LED3は、第一主発光ピーク波長及び第二主発光ピーク波長と異なる第三主発光ピーク波長を有する紫外線を放射する。第三主発光ピーク波長は、270nm~380nm、好ましくは272nm~290nmの範囲に含まれている。
【0061】
電流制御部5は、これら第一UV-LED1、第二UV-LED2、第三UV-LED3にそれぞれ、駆動電流を供給して発光させる。そして、これら第一UV-LED1、第二UV-LED2、第三UV-LED3の紫外線を組み合わせた合成発光スペクトルS(λ)と、ウイルスの吸収スペクトルA(λ)との、数1で定義される相関度Rを、0.7000以上とする。
(特定のウイルス)
【0062】
近年のCOVID-19、いわゆる新型コロナウイルスの世界的流行により、新型コロナウイルスを含めた有害なウイルスの殺菌の重要性が叫ばれている。
【0063】
従来の殺菌方法としては、塩素等の薬剤を用いた殺菌、オゾン殺菌、加熱殺菌、紫外線殺菌等が知られている。この内、塩素などによる薬剤殺菌では、殺菌後に残留する塩素が人体に有害であるという問題がある。また、薬剤耐性菌の出現も懸念されている。一方、オゾン殺菌では殺菌効果持続が困難であり、また人体に有害という問題がある。さらに加熱殺菌は、加熱のためのエネルギー消費量が大きい上、加熱に手間がかかるため利便性に欠けるという問題がある。
【0064】
これに対し、紫外線発光ダイオードを用いた殺菌では、薬剤殺菌と比べ、残留物質が発生せず、また広く普及している低圧水銀ランプと異なり、水銀性廃棄物も発生しない。さらに連続使用が可能であり、比較的低消費電力で、しかも装置の小型化が可能であるなどの利点を有する。
【0065】
しかしながら、低圧水銀ランプで用いられている波長253.7nm(約254nm)の紫外線を、発光ダイオードで実現することは困難であり、未だ実用化には至っていない。特に、窒化ガリウム(GaN)は360nm以下の波長を吸収してしまうため、発光ダイオードの活性層にAlGaNを利用するところ、波長の短い領域ではAlGaNでは発光効率が悪いという問題があった。
【0066】
そこで本願発明者らは、現状得られている紫外線発光ダイオードを用いつつ、効果的なウイルスの殺菌を実現する方法を鋭意検討し、本願発明を成すに至ったものである。ここでは、ウイルスに対する紫外線発光ダイオードの照射による不活化効果の検討し、不活化機構の解明を試みた。具体的には、ウイルスとして鳥インフルエンザウイルスを用いて、紫外線発光ダイオードとして実用化されている、UVA-LED、UVB-LED及びUVC-LEDの、主発光ピーク波長の違いによる不活性効果を比較した。また、ウイルス亜型を用いたUV照射不活化機構を検討した。さらに、ウイルス亜型の違いによる不活化効果を比較した。ここでは、A型インフルエンザウイルス亜型として、以下の2種類を用いた。
・H1N1(A/Puerto Rico/8/1934):ヒトから分離した季節性インフルエンザウイルス
・H5N1(A/Duck/Hong Kong/960/1980):高病原性鳥インフルエンザウイルス(HPAI)。東南アジアをはじめ、世界各国で発生した。ヒトへ感染すると50%以上の高い致死率を示す。
(1:UV-LEDの主発光ピーク波長の違いによる不活性効果)
【0067】
まず、UVA-LED、UVB-LED、UVC-LEDを、それぞれ発光させて、ウイルスに照射して不活性効果を比較した。ここでは、H1N1ウイルスを、ステンレス製容器に入れて、上部よりUV-LEDを照射した。容器は、高さ15mm、深さ10mm、直径10mmの、上端を開口した円筒状とした。このステンレス製容器に、ウイルス溶液をそれぞれ0.3mL入れて、容器の上部から紫外線を照射させた。
【0068】
一般に近紫外線は、UVA(400~315nm)、UVB(315~280nm)、UVC(280nm未満)に分けられている。ここでは、実用化されているUVA-LEDとして、日亜化学工業株式会社製NVSU233A(主発光ピーク波長365nm、パワー106mW/cm2、UVB-LEDとして、同NCSU234A(310nm、4.4mW/cm2)、UVC-LEDとして同NCSU234A(280nm、5.5mW/cm2)を用いた。各UV-LEDは、それぞれ定格最大順電流で照射した。なお、365nmのUVA-LEDを参考例7、310nmのUVB-LEDを参考例6、280nmのUVC-LEDを参考例3とする。
【0069】
ウイルス力価は10
6PFU/mLであった。その後、プラークアッセイ(PFU)によりH1N1亜型の不活化比を評価した。この結果を、
図3及び
図4のグラフに示す。これらの図において、
図3は照射時間に対するUV照射の不活化効果を示している。また
図4は、フルエンス(単位面積を通過する放射束の時間的積分値)に対するUV照射の不活化効果を示している。
図4においては、一部を拡大したグラフを付記している。これらの図に示すように、H1N1亜型に対してUV-LEDの照射によって不活化効果が認められた。不活性化効果は波長の短さに比例し、280nmが最も不活化効率が高かった。
【0070】
次に、ウイルスの不活性化機構を調べるべく、参考例7に係るUVA-LED、参考例6に係るUVB-LED、参考例3に係るUVC-LEDのそれぞれについて、ウイルスを同程度、ここでは
図5に示すようにウイルス不活化比[log 10 ratio]が-1~-1.5程度に不活化させる照射量の紫外線を照射した。この状態でRNAの傷害を調べた。ここでは、RT-qPCRで処理して、Segment6vRNAの量を調べた。この結果を
図6のグラフに示す。この図に示すように、UVCの照射にのみRNA傷害が認められた。このことから、UVCとUVAとでは殺菌作用が異なることが判明した。すなわち、UVCでは、
図7に示すように、核酸のチニジンに作用する物理的な力で二重螺旋を切断してRNAの能力を損なわせている。これに対し、UVAやUVBでは、
図8に示すようにウイルスの不活性化機構は酸化作用によるものと推測される。
【0071】
さらに、H1N1亜型に対するUV照射後の感染初期の宿主細胞内のvRNA、cRNA、mRNA量を調べた。この結果を、
図9、
図10、
図11のグラフにそれぞれ示す。これらの図において、
図9はH1N1亜型に対し、UV-LEDを照射しない例、参考例7に係るUVA-LEDを照射する例、参考例6に係るUVB-LEDを照射する例、参考例3に係るUVC-LEDを照射する例のそれぞれについて、照射から2時間後の宿主細胞内のvRNA量、
図10はcRNA量、
図11はmRNA量を、それぞれ示している。なおこれらの図において、vRNA、cRNA、mRNAは特異的に増加していることを確認済みである。これらの図から、UV-LED照射はvRNAには影響を与えないことが判明した。このことから、UV照射はH1N1亜型の細胞内への接着、侵入には影響を与えないことが推測される。
【0072】
さらにまた、H1N1亜型に対するUV照射後の宿主細胞内のvRNA、cRNA、mRNAの変動について測定した。この結果を、
図12、
図13、
図14のグラフにそれぞれ示す。これらの図において、
図12は、H1N1亜型に対し、UV-LEDを照射しない例、参考例7に係るUVA-LEDを照射する例、参考例6に係るUVB-LEDを照射する例、参考例3に係るUVC-LEDを照射する例のそれぞれについて、UV照射後の宿主細胞内のvRNA量の時間変動、
図13はcRNA量の時間変動、
図14はmRNA量の時間変動を、それぞれ示している。また
図12のvRNAと
図13のcRNAは宿主細胞内での複製抑制効果を、
図14のmRNAは転写抑制効果を、それぞれ表す。これらの図から、UV照射は
図16に示すように、UVA、UVB、UVCのいずれも、vRNPの複製と転写の両方を抑制することが判明した。
【0073】
以上から、(1)UV照射によるウイルスの不活化効率は、波長によって異なることが判明した。具体的には主発光ピーク波長により、280nm>310nm>365nmとなり、波長の短いほど不活性化効率が高かった。また(2)UV照射によるウイルスの不活化機構も、波長によって異なることが判明した。具体的は、UVAとUVBは、宿主細胞内での転写・複製抑制を示すこと、UVCはウイルスRNA傷害と、宿主細胞内での転写・複製抑制効果を示すことが確認された。さらに、(3)UV照射による不活化効果は、ウイルス亜型によって異なった。具体的には、H5N1のUV照射による不活化効果は、UVB、UVC照射の場合、H1N1よりも多かった。ここで、ウイルス亜種に対しUVA、UVB、UVCをそれぞれ照射してウイルス不活化比を測定した結果を
図15に示す。この図において、UVAはUVA-LED(主発光ピーク波長365nmの参考例7)を、UVBについてはUVB-LED(310nmの参考例6)を、それぞれ用いて5分間照射した。前者はエネルギー密度31.8J/cm
2、後者は1.32J/cm
2であった。またUVCはUVC-LED(280nmの参考例3)を10秒間し、エネルギー密度は0.055J/cm
2であった。またウイルス亜種はH1N1、H5N1を用いて、ウイルス不活化比[log 10 ratio]を測定して縦軸に示した。以下、これらの詳細について検討する。
(1:波長による不活化効率の違い)
【0074】
まず、波長による不活化効率の違いについて、UV照射による不活化効率は波長によって異なる。ここで、現状の殺菌用途に多用されている主発光ピーク波長が253.7nmの水銀ランプを含めて検討すると、254nm<270nm>280nm>310nm>365nmとなり、270nmが最も不活性効率が高かった。このことから、単に波長が短いだけではなく、不活性効率の高い波長域、あるいはピーク波長の存在が推測される。Kim SJらによるバクテリア殺菌効果の報告(Kim S.J. et al. Appl. Environ. Microbiol. 2015, 18;82(1):11-7)では、水銀ランプの254nmよりも、UV-LEDの266nmの方が不活性化効率が高いとされている。この理由は、DNA最大吸収波長は細胞内では異なるため、又は長い波長の方が吸収され易いためと考えられる。波長260nm付近はDNAの最大吸収波長(細胞外)である。以上から、バクテリア殺菌やウイルス不活化に関して、より効果的な波長は260nm~270nm付近である可能性が示唆された。以上から、従来考えられてきた、波長の短い方がウイルスの不活性化効果が高い、または水銀ランプの254nmが殺菌に適しているとの認識とは、異なる知見が得られた。
(2:波長による不活化機構の違い)
【0075】
また、UV照射による不活化機構は波長によって異なった。具体的には、上述の通りUVA、UVBでは宿主細胞内での転写・複製抑制が、一方UVCではウイルスRNA傷害と宿主細胞内での転写・複製抑制が、それぞれ作用していると考えられる。特に、UVA、UVB照射による不活化機構では、核酸への傷害が認められなかったことから、ポリメラーゼ活性への傷害による転写・複製抑制が推測される。
(3:ウイルス種による不活化効果の違い)
【0076】
さらに、ウイルス種による不活化効果の違いについて、ウイルス種による感受性の違いが報告されている。例えばKim D.K. et al., Food. Res. Int. 2017, 91:115-123)の報告によれば、主発光ピーク波長280nmのUVC-LED照射は、コリファージ(Coliphage)を不活化させたとある。このことから、UVC-LEDに対する感受性は、H1N1よりもColiphageの方が高いと考えられる。また、Beck S.E. et al., Water. Res. 2016, 109:207-216.によれば、主発光ピーク波長280nmのUVC-LED照射によるUV抵抗性を持つヒトアデノウイルスセロタイプ2(HAdV2)の不活化には、IAVよりも、より多くの照射エネルギー量が必要であったとある。これらから、UV照射による感受性はウイルス種によって異なると推測される。
【0077】
以上をまとめると、UV-LED照射は鳥インフルエンザウイルスを含むA型インフルエンザウイルスを不活化させたこと、また不活化効率はウイルス亜型、UV波長によって異なることから、不活化に最適な亜型、波長の組み合わせの探索が必要であることが判明した。
(波長による感受性の違い)
【0078】
次に、ウイルス種の波長による感受性の違いについて、検討する。まず、H1N1亜型に対する異なるピーク波長のUVC照射の不活化効果を比較した。ここでは、2種類のUV-LEDとして、従前の主発光ピーク波長が280nmのものと、より波長の短い270nmを用いた。また比較例として254nmの水銀ランプを用いた。この結果を
図17のグラフに示す。グラフの横軸は照射エネルギー量、縦軸は不活化効果を示している。このグラフから、H1N1亜型に対するUV-LED、水銀ランプのそれぞれの照射によって不活化効果が認められたところ、その不活化効率は、波長の短さに比例せず、270nmが最も不活化効率が高いことが示された。
【0079】
ここで、一般に使用されている低圧水銀ランプとUV-LEDの、インフルエンザウイルスに対する不活化効果の違いは不明である。またインフルエンザウイルスに対する各波長域での不活化効果も不明である。そこで、様々な波長領域の紫外線発光ダイオード(UV-LED)照射による鳥インフルエンザウイルスの不活化効果の検討を行った。具体的には、
(1)低圧水銀ランプとUV-LEDの比較
(2)どの波長のUV-LEDが効果的か
(3)高い不活性化が期待できる照射条件の検討
を行った。
【0080】
まず、低圧水銀ランプとUV-LEDの比較を行う。ここでは、ウイルスとして上述したH1N1亜型へ照射を行い、宿主となるMDCK細胞と発育鶏卵(Embryonated Chicken egg)を用いた。これらに対して、主発光ピーク波長254nmの低圧水銀ランプ(比較例1)、主発光ピーク波長260nmのUV-LED(参考例1)、同じくUV-LEDとして主発光ピーク波長が270nm(参考例2)、280nm(参考例3)、290nm(参考例4)、300nm(参考例5)、310nm(参考例6)、365nm(参考例7)のものを用いて、紫外線を照射した。これらの結果を、
図18~
図21に示す。これらの図において、
図18、
図19は紫外光光源毎の感染比[log]を示すグラフ、
図20、
図21は波長[nm]毎の感染比[log]を示すグラフを、それぞれ示している。また
図18、
図20はMDCK細胞、
図19、
図21は発育鶏卵に感染した結果を示している。これらの図から、260nmのUV-LEDが他の波長に比べ、優位にウイルスを不活性化できることが確認された。
【0081】
また、各ウイルスに対してHAタイター実験を行った結果を、
図22の写真に示す。HAタイターの実験の結果、いずれの光源においてもHAタイターを変化させなかった。すなわちウイルスHAには変化が見られなかった。このことからUV照射は細胞への侵入活性に変化を及ぼさないと考えられる。
【0082】
次に、不活化は何に起因するものかを検討する。ここでは、RT-qPCRを使用してウイルスvRNAセグメント6の傷害性を確認した。この結果を、主発光ピーク波長毎のSegment6vRNA[log 10 ratio]をプロットしたグラフである
図23に示す。またSegment6vRNA[log 10 ratio]を横軸に取り、感染比[log]を縦軸に取ったグラフを、
図24に示す。
図24においては、宿主として、発育鶏卵(Embryonated chicken eggs:R=0.91027;P=1.69×10
-3,
図24の●)と、MDCK細胞(R=0.9524;P=2.6×10
-4,
図24の□))を用いた。さらに、横軸にUV-LEDによるウイルスRNA傷害性、縦軸にRNA傷害比[log]を取ったグラフを
図25に示す。各UV-LEDの照射は、エネルギー密度4.8mJ/cm
2とした。これら図から、260nmで優位な傷害が得られることが確認された。ここではウイルスvRNAに傷害性が見られた。このように、傷害性と不活性化比の間で強い相関が確認できることから、ウイルスの不活性化はウイルスRNAの傷害によるものであると考えられる。
【0083】
以上から、低圧水銀ランプとUV-LEDとの比較においては、主発光ピーク波長270nm、280nmのUV-LEDと同程度のウイルス不活化効果を示しており、特に260nmで最も効果的に不活化されることが確認された。また、不活性化に効果的な波長として、上述の通り260nmのUV-LEDが最も効果的であり、ピーク波長が短いほど効果的という訳ではないことが判明した。さらにウイルスを不活化できた要因として、ウイルス構成するHAへの影響は見られなかった一方で、RNAの傷害性を確認したところ、感染後細胞内での増殖が抑制された可能性があることが判明した。このことからウイルスの不活性化の要因はHAではなく、ウイルスRNAの傷害性によるものであると考えられる。よって、最大吸収波長よりも吸収曲線に波形が近いことが重要である可能性があるとの考えに至り、次にRNA吸収曲線と発光スペクトルを比較した。
(ウイルスRNA吸収曲線とLEDの関係性)
【0084】
【0085】
ここで、両者の関係性を示す指標として、相関度Roを次式数5で規定した。
【0086】
【0087】
上式において、Nは測定波長の数、λ1、...λNは測定波長であり、A(λi)とS(λi)の値は0から1に規格化されている。
【0088】
図26のRNAの相関度R
Aを100とした場合の、
図27A~
図27Fの相関度R
AEを計算したところ、それぞれ11.1、68.6、42.2、21.4、8.8、0.3であった。以上から、インフルエンザウイルスRNAの吸収波長スペクトルと最も相関の高い波長は、相関度R
AE=68.6の260nmであることが確認された。そして上記試験結果から、260nmのUV-LEDのウイルスの不活性化効果が最も高いことから、この相関度がウイルスの不活化を示す指標となり得ると考えられる。次に、この260nmよりも高いR
AEのUV-LEDの作成を検討した。
[実施例1:3波長合体型LED(HYBRID-LED)]
【0089】
ここでは、複数のUV-LEDを組み合わせたハイブリッドLEDを検討した。具体的には、UV-LED単体で相関度R
AE=68.6を達成していることから、これよりも高い相関度R
AE=70以上を目標とした。まず、
図2に示すように3つのUV-LEDを用いて、各主発光ピーク波長をそれぞれ256nm、260nm、270nmとしたウイルスの紫外線殺菌装置を実施例1として作成した。ここでは、各UV-LEDを各波長0.8mW/cm
2(合計2.4mW/cm
2)で照射した。各光源はいずれも放射照度2.4mW/cm
2であった。この紫外線殺菌装置の合成発光スペクトルを、ウイルスRNAの吸収スペクトルと重ねたグラフを
図28に示す。また、実施例1の合成発光スペクトル(R
AE=86.3)に加えて、上述した260nmのUV-LEDを参考例1(R
AE=68.6)、270nmのUV-LEDを参考例2(R
AE=42.2)、280nmのUV-LEDを参考例3(R
AE=21.4)、及び低圧水銀ランプを比較例1(R
AE=11.1)として、それぞれ発光スペクトルを重ねて表示させたグラフを
図29に示す。
【0090】
図28において、ウイルスRNAの吸収スペクトルとの相関度R
AEは86.3であり、上述した260nmのUV-LEDよりも高い相関を確認した。
(3波長合体型LED(HYBRID-LED)の不活化効果)
【0091】
次に、実施例1に係るウイルスの紫外線殺菌装置で、複数のウイルスに対する不活性効果を確認した。ここではウイルスとして、H1N1とH6N2を用いた。H1N1は季節性インフルエンザであり、スペイン型(1918年)や、ソ連型(1977年)が知られている。一方、H6N2は低病原性鳥インフルエンザウイルス(LPAI)であり、ヒトへの感染事例はない。これらを用いた結果を、
図30~
図33に示す。これらの図において、
図30はH1N1に対する実施例1、参考例1~3及び比較例1の紫外線光源を用いて、各4.8mJ/cm
2で照射し、MDCK細胞に感染したときの感染比[log]、
図31は同じくH6N2に対する不活化比を、それぞれ示している。また
図32は宿主となる発育鶏卵に対しH1N1ウイルスを適用した場合の不活化比、
図33は同じく発育鶏卵に対しH6N2ウイルスを適用した場合の不活化比を、それぞれ示している。これらの図に示すように、RNAの吸収スペクトルとの相関度の高い実施例1に係るウイルスの紫外線殺菌装置で、効果的に不活化できることが確認された。
(実施例1のRNA傷害性)
【0092】
さらに、実施例1に係るウイルスの紫外線殺菌装置のRNA傷害性を調べた。ここでは、不活性化を示すlog生存比を縦軸に、RNAとの相関を示す相関度R
AEを横軸に散布図にプロットした。この結果を
図34~
図35に示す。これらの図において、
図34は宿主がMDCK、
図35は発育鶏卵の例を示している。このように、ウイルスRNAの吸収スペクトルと高い相関のある波長の紫外線を照射すると、効果的に不活化できることが確認された。すなわち、ウイルスRNA吸収スペクトルと紫外線発光スペクトルとの間で強い相関を確認した。さらに、不活化比と波長の相関、及び不活化と相関度R
AEを、宿主がMDCK、発育鶏卵のそれぞれについてまとめた結果を、
図36に示す。この図に示すように、不活化と相関度R
AEにおいて高い相関があることが確認された。またウイルスの不活化には波長ではなく、RNA吸収曲線によりフィットした波形の発光スペクトルであることが重要であることが確認された。
【0093】
以上の通り、ウイルスRNAとの相関の高い実施例1に係るウイルスの紫外線殺菌装置で効果的に不活化できることが確認された。すなわち、波長の異なる複数のUV-LEDを組み合わせた合成発光スペクトルを、吸収曲線と近似させることにより、ウイルスを効果的に不活化できることが確認された。
【0094】
また、ウイルスの亜型と宿主との関係について、2つのウイルスの亜型間においては、感受性に違いがあることが確認されたものの、不活化傾向は変わらなかった。また宿主が変わった場合には、感染力は変化した。ただしこの場合も、不活化の傾向は変わらず示された。
【0095】
さらに不活化の要因として、ウイルスの最大吸収波長ではなく、吸収曲線全体によりフィットする形の波長を照射することが重要であることが判明した。特に、相関度RAEが効果的な不活化を導く指標となり得ることが確認された。
(亜型・宿主の違い)
【0096】
図30~
図33で示した通り、ウイルスの亜型の違いによって、UVに対する感受性が異なった。具体的には、H1N1、H6N2で比較すると、H1N1の方がlog(-0.5)~log(-1)程度、不活化された。なお、インフルエンザは亜型によって感染時の特徴が異なることが報告されている(Park J.E., et al., Infect. Genet. Evol.65:288-292.)。このように、H1N1の方がより不活化されるという結果は、亜型の違いによって感染時の特徴が異なるという報告例とも合致する。
【0097】
また宿主の違いによって、ウイルスの感染力が異なった。具体的には、宿主としてMDCKと発育鶏卵を使用して比較すると、両亜型ともMDCKの方が、発育鶏卵に比べて感染し難かった。なお、宿主の違いが感染状況に影響を与えるとの報告例もある(Kash J.C., et. al., Am. J. Pathol. 2015, 185(6):1528-36)。よって、MDCKと発育鶏卵の2つの宿主細胞を比較すると、発育鶏卵の方が感染し易く、宿主の違いが感染状況に影響を与えるという報告例とも合致する。
【0098】
ただ、実施例1に係るウイルスの紫外線殺菌装置を用いることで最も不活化されるという傾向はいずれも同じであった。これらのことから、上記実施例で未検討の他のウイルス亜型においてもUV照射は同様に効果的であると思われる。
(有効な波長域)
【0099】
さらに、UV-LED、低圧水銀ランプによる不活化効果は、波長によって異なった。上述の通り、主発光ピーク波長が260nmのUV-LEDが最も高かった。また、比較例1に係る254nmの低圧水銀ランプは、主発光ピーク波長270nmや280nmのUV-LEDと同程度の不活化を示した。さらに、これより波長の長いUV-LEDについては、波長が長くなるにつれて不活化効率が低下した。参考例に係るUV-LEDでは、290nm>300nm>310nm>365nmとなった。
【0100】
なお、ウイルスHAには変化が見られず、一方でウイルスvRNAには傷害性が見られた。このことから、ウイルスを構成するRNAが傷害され、宿主細胞内で増殖できなくなったと考えられる。
【0101】
また、実施例1に係るウイルスの紫外線殺菌装置と他の6種類の光源を比較すると、実施例1に係る260nmのUV-LEDが他の光源に比べ、最も効果的に不活化できた。また、広く利用されている低圧水銀ランプよりも効果的であり、ウイルスRNAに傷害を与えたことに起因するものと考えられる。特に実施例1によれば、3つの異なる波長のUV-LEDを組み合わせて、合計4.8mW/cm
2を照射した効果は、
図30に示すようにFFU(focus forming unit)でlog(-3)であった。なお、インフルエンザウイルスでは無いものの、複数の波長を組み合わせた場合、より殺菌効果が高いという報告例もある(Nyangaresi P.O., et al. Water. Res. 2018, 147:331-341.)。これによれば、267nm、275nmを組み合わせた他の報告よりも約半分のエネルギーで同等の効果が得られたとされており、当該報告例にも沿う結果が得られた。なお、3種類以上の波長を組み合わせて照射した報告例は、本願発明者の知る限り存在しない。また、相関の高い波長の紫外線は、ウイルスRNAに対し高い傷害性があることも確認している。さらに大腸菌に対しUVC/UVBとUVAを組み合わせることで効果的に不活化できる報告例(Song K., et al. Sci. Total. Environ. 2019, 665:1103-1110.)や、腸炎ビブリオに対してUVA-LEDと低圧水銀ランプの組み合わせが相乗的に殺菌効果を発揮する報告例(Nakahashi M., et al. Photochem. Photobiol. 2014, 90(6):1397-1403.)もある。
【0102】
これらから、効果的に不活化するためには、ウイルスRNAの最大吸収波長に、ピーク波長(260nm)を合わせることが重要なのか、あるいはウイルスRNAの吸収曲線に光源の発光スペクトル波形全体を合わせることが重要であるのかを検証したところ、ウイルスRNAに発光波長をフィットさせることが重要と考えられ、これによって最もウイルスを不活化できると思われる。また、上述の通り定義した相関度RAEによって、効果的な照射曲線を求めることができ、インフルエンザウイルスの不活化において新たな指標として利用できる。
【0103】
以上の通り、UV-LEDの中では260nmがインフルエンザウイルスを効果的に不活化させることが可能であり、この260nmに加えて、3つのUV-LEDを組み合わせることでさらに256nm、270nmを組み合わせることで、さらに不活性化効率を向上することに成功した。また、ウイルスRNAから不活化に最適な波長を、相関度RAEを指標に導出できる。
(他のウイルス)
【0104】
次に、他のウイルスついても検討する。ウイルスは、国際ウイルス分類委員会の分類体系によれば、以下のように分類される。
・第1群(GroupI)-2本鎖DNA
・第2群(GroupII)-1本鎖DNA
・第7群(GroupVII)-2本鎖DNA逆転写
・第3群(GroupIII)-2本鎖RNA
・第4群(GroupIV)-1本鎖RNA+鎖(mRNAとして作用)
・第5群(GroupV)-1本鎖RNA-鎖
・第6群(GroupVI)-1本鎖RNA+鎖逆転写
【0105】
ここでは、ウイルスとして、Feline calci virus、HSV-1、Adenovirusの3種類を用いた。これらのウイルスにUV照射した際の不活化の結果を、
図37のグラフに示す。ここでは、比較例1に係る低圧水銀ランプ、参考例1に係る主発光ピーク波長260nmのUV-LED、参考例2に係る主発光ピーク波長270nmのUV-LED、参考例3に係る主発光ピーク波長280nmのUV-LED、参考例6に係る主発光ピーク波長310nmのUV-LED、参考例7に係る主発光ピーク波長365nmのUV-LEDを用いて、それぞれ4.8J/cm
2で紫外線を照射した。
【0106】
また、参考のためUVA-LED、UVB-LEDを用いたUV照射による不活化の結果を、
図38、
図39のグラフにそれぞれ示す。これらの図において、横軸はUV-LEDのエネルギー[J/cm
2]、縦軸は細胞変性単位(Log TCID50(Tissue Culture Infectious Dose 50))としている。また用いたウイルスは、FCV、Herpes simplex virus-1(HSV-1)、Adenovirus、H1N1とした。
【0107】
図40は、FCVへ4.8mJ/cm
2でUV照射後の、RT-qPCRプロダクト及びFCVの感染比の相関関係を示している。このグラフは、横軸にLog CFU、縦軸にRT-qPCR(reverse transcription qPCR)を取っている。これらの図から、UV照射によるRT-qPCRプロダクトの減少(ウイルスRNAの傷害度)と不活化効果には高い相関があることが判る。
【0108】
以上から、ウイルスのよりUVの感受性が異なること、ウイルスゲノムの損傷と不活化はよく相関することが確認された。
【0109】
以上の実施例1では、主発光ピーク波長の異なる3種類のUV-LEDとして、主発光ピーク波長が256nm、260nm、270nmのものを用いてウイルスの紫外線殺菌を構成した例を説明したが、各UV-LEDの主発光ピーク波長は上記に限定されるものでないことは、いうまでもない。例えば第一UV-LEDの第一主発光ピークを245nm~260nmに、第二UV-LEDの第二主発光ピークを260nm~270nmに、第三UV-LEDの第三主発光ピークを270nm~290nmに、それぞれ設定することができる。
[実施例2]
【0110】
また実施例1では、予め選択された第一UV-LED、第二UV-LED、第三UV-LEDに対して、これらのUV-LEDを発光させた紫外線の合成発光スペクトルS(λ)の相関度Rを演算する例を説明した。逆に、相関度Rから、これら第一UV-LED、第二UV-LED、第三UV-LEDの最適な組み合わせをシミュレーションで求めることもできる。このような例を実施例2に係るウイルスの紫外線殺菌装置として、以下説明する。
【0111】
実施例2では、3つのLEDを使用して、ウイルス不活化に最適なLEDの組み合わせを検討する。ここでは、
図41のフローチャートに示す手順により、コンピュータシミュレーションを実行する。
【0112】
まずステップS1として、組み合わせの候補となるUV-LEDの発光スペクトルを取得する。ここでは、組み合わせの候補となる候補UV-LEDを準備して、各UV-LEDの発光スペクトルを計測する。ここでは、候補UV-LEDとして、主発光ピーク波長が、256nm、260nm、270nm、280nm、290nm、300nm、310nm、365nmの8つを準備する。またLED発光スペクトルは、必要に応じて補間する。例えばスプライン補間により、245nmから400nmの範囲で、0.1nmの間隔で補間する。
【0113】
次にステップS2で、ウイルスRNA吸収スペクトルA(λ)を得る。ここで対象となるウイルスとして、H1N1のRNAを測定する。ここでもLED発光スペクトルと同様、必要に応じて補間する。例えばスプライン補間により、245nmから400nmの範囲で、0.1nmの間隔で補間する。ここでは、ウイルスRNA吸収スペクトルは0から1の範囲となるように正規化されている。
【0114】
さらにステップS3で、LED発光スペクトルから3つのLED発光スペクトルを抽出し、合成発光スペクトルS(λ)を取得する。ここでは、ステップS1で得られた8つのLED発光スペクトルSi(λ),i=1,2,...,8から、3つのLED発光スペクトルを選ぶ。その組み合わせは、8C3=56通りであり、各組み合わせについて重ね合わせを行う。例えば、1つ目のLED発光スペクトルと、2つ目のLED発光スペクトルと、3つ目のLED発光スペクトルを重ね合わせて、合成発光スペクトルS(λ)=S1(λ)+S2(λ)+S3(λ)を生成する。また3つのLEDを組み合わせた混合型LEDの合成発光スペクトルS(λ)は、ウイルスRNA吸収スペクトルと同様に、0から1の範囲となるように正規化される。
【0115】
最後にステップS4で、上述した数1の相関度Roが最大となる組み合わせを算出する。ここでは、56通りのUV-LEDの組み合わせをすべて実行し、相関度Roが最大となる組み合わせを導き出す。
【0116】
このようなシミュレーションを実行した結果、3つのUV-LEDとして、主発光ピーク波長が256nm、270nm、280nmのUV-LEDを用いて得られる混合型LED合成発光スペクトルを使用した場合、相関度R
oが最大となることが確認された。この実施例2に係るウイルスの紫外線殺菌装置で、第一UV-LEDとして256nm、第二UV-LEDとして270nm、第三UV-LEDとして280nmの主発光ピーク波長を用いた場合の、合成発光スペクトルと、除菌対象ウイルスであるH1N1の吸収スペクトルを、
図42のグラフに示す。この例では、相関度R
oは119.3948という高い値を示した。
[実施例3]
【0117】
以上の例では、主発光ピーク波長の異なる3種類のUV-LEDを用いてウイルスの紫外線殺菌装置を構成した例を説明した。ただ本発明は、用いるLEDの数を3個に特定するものでなく、4個以上としてもよいし、逆に2個としてもよい。このように本発明においては、複数のUV-LEDを使用すれば足りる。
【0118】
ここで、実施例3に係るウイルスの紫外線殺菌装置として、
図1に示すようにUV-LEDを2個用いる例を説明する。実施例3でも、実施例2と同じくシミュレーションによって、8つのUV-LEDの中から、2つのLEDを抽出して、ウイルス不活化に最適なLEDの組み合わせを検討した。シミュレーションの結果、256nmと270nmの2つのUV-LEDから得られる混合型LED合成発光スペクトルを使用した場合、相関度R
oが最大となることが確認された。この合成発光スペクトルと、ウイルスRNAの吸収スペクトルを、
図43のグラフに示す。この例では、相関度R
oは107.6404であった。
【0119】
以上の結果から、数1の相関度Roは、2つのUV-LEDを組み合わせた場合よりも、3つのUV-LEDを組み合わせた場合の方が大きくなることが示唆された。
[実施例4]
【0120】
以上の実施例2、3では、シミュレーションにより、相関度Rから第一UV-LEDと第二UV-LED、選択的に第三UV-LEDを加えた最適な組み合わせを求める例を説明した。ただ本発明は相関度Rから選択する対象を候補UV-LEDに限らず、その主発光ピーク波長の組み合わせをシミュレーションで演算することもできる。このような例を実施例4に係るウイルスの紫外線殺菌装置及び方法として、以下
図44のフローチャートに基づいて説明する。ここでは、LEDの発光スペクトルが製品や個体差により異なることが考えられるため、スペクトル半値幅を推定して、相関度R
oが最大となるUV-LEDの組み合わせを探索する。
【0121】
まず、2つのUV-LEDを使用して、相関度Roが最大となる最適なUV-LEDの組み合わせを検討する。ここでは、以下の手順により、モンテカルロ・シミュレーションを実行する。
【0122】
ステップS1’において、UV-LEDの発光スペクトルを取得する。具体的にはUV-LED発光スペクトルは、正規分布f(m,σ)を基に推定する。ここでmはLED発光スペクトルの中心波長、σはスペクトルの半値幅とする。σは、計測したLED発光スペクトルから推定することができる。このようにして実測したLED発光スペクトル(中心波長:310nm)と、推定されたLED発光スペクトル(正規分布f(650,50))を、
図45に示す。実施例4では、
図45のようにフィッティング処理を行い、σ=50と推定された。また上述した実施例2、3と同様、スプライン補間により245nmから400nmの範囲で、0.1nmの間隔で補間した。さらに振幅は、0から1の範囲になるよう正規化した。
【0123】
次にステップS2’において、合成発光スペクトルを取得する。ここでは、正規分布f(m,50)を基に、LED発光スペクトルを2つ推定する。mは245nmから310nmの範囲でランダムに選定することができる。同様に合成発光スペクトルS(λ)の振幅は、α、βを使用して、0から1の範囲でランダムに選択することができる。例えば、S(λ)=αS1(λ)+βS2(λ)として表現される
【0124】
このようにmとスペクトルの振幅α、βを選定した後、2つのLED発光スペクトルを重ね合わせる。この合成発光スペクトルS(λ)=αS1(λ)+βS2(λ)も、ウイルスRNA吸収スペクトルと同様に、0から1の範囲となるように正規化される。
【0125】
最後にステップS3’において、相関度R
oが最大となる組み合わせを演算する。ここでは、試行回数をN回、mとスペクトル振幅α、βをランダムに選定して、相関度R
oが最大となる組み合わせを導き出す。この結果、N=1000回、モンテカルロ・シミュレーションを実行した結果、2つの推定されたLED発光スペクトルを使用した場合、250.3nmと262.7nmから得られる合成発光スペクトルを用いた場合、相関度R
oが最大となることが確認された。このような合成発光スペクトルを
図46に示す。ここでは、相関度R
oは152.6380を示した。また、このときの第一UV-LED、第二UV-LEDの発光スペクトルの最大振幅は、ウイルスの吸収スペクトルのピークが1となるように正規化された状態で、それぞれ0.9812、0.9353であった。
[実施例5]
【0126】
以上の実施例4では、2つのUV-LEDを用いた場合の合成発光スペクトルから、相関度Roが最大となる主発光ピーク波長の組み合わせをシミュレーションで演算する例を説明した。同様にして、3つのUV-LEDを用いた場合の合成発光スペクトルから、相関度Roが最大となる主発光ピーク波長の組み合わせをシミュレーションで演算する例を、実施例5に係るウイルスの紫外線殺菌装置として、以下説明する。
【0127】
ここでは、3つの推定されたLED発光スペクトルを使用して、
図41と同様の手順でN=1000回、モンテカルロ・シミュレーションを実行した。この結果、第一主発光ピーク波長が247.4nm、第二主発光ピーク波長が257.6nm、第三種発光ピーク波長が268.1nmの第一UV-LED、第二UV-LED、第三UV-LEDから得られる合成発光スペクトルを使用した場合、相関度R
oが最大となる。この合成発光スペクトルとウイルスRNAの吸収スペクトルを、
図47のグラフに示す。このときの相関度R
oは、181.9675となった。また、そのときの第一UV-LED、第二UV-LED、第三UV-LEDの発光スペクトルの最大振幅は、ウイルスの吸収スペクトルのピークが1となるように正規化された状態で、それぞれ0.9814、0.7312、0.9293であった。
[実施例6]
【0128】
以上の実施例2~5では、ウイルスの吸収スペクトルと合成発光スペクトルの相関度を、数1を用いて演算した。ただ本発明は、相関度の演算を数1に限定するものでなく、他の式、例えば数2~数4を用いてもよい。ここでUV-LEDを3つ用いる実施例2の例において、数1に変えて数2を用いて相関度Rを演算した場合を、実施例6として説明する。ここでは、
図41のフローチャートに示す手順により、コンピュータシミュレーションを実行した。組み合わせの候補となる候補UV-LEDとして、主発光ピーク波長が256nm、260nm、270nm、280nm、290nm、300nm、310nm、365nmの8つを準備して演算したところ、
図49のグラフに示すように、3つのUV-LED、すなわち主発光ピーク波長256nm、260nm、270nmから得られる合成発光スペクトルを使用した場合、数2のRが最大(R=0.8266)となることが確認された。このときの各UV-LEDの駆動電流の比率は、主発光ピーク波長256nmの第一UV-LEDと、260nmの第二UV-LEDと、270nmの第三UV-LEDで、0.1:1:0.68であった。
[実施例7]
【0129】
同様に、UV-LEDを2つ用いる実施例3の例において、数1に変えて数2を用いて相関度Rを演算した場合を、実施例7として説明する。ここでも、
図41のフローチャートに示す手順でコンピュータシミュレーションを実行するに際し、組み合わせの候補となる候補UV-LEDとして、主発光ピーク波長が256nm、260nm、270nm、280nm、290nm、300nm、310nm、365nmの8つを準備して演算したところ、
図50のグラフに示すように、2つのUV-LED、すなわち主発光ピーク波長256nmと270nmから得られる合成発光スペクトルを使用した場合、数2のRが最大(R=0.8287)となることが確認された。このときの各UV-LEDの駆動電流の比率は、主発光ピーク波長256nmの第一UV-LEDと、270nmの第二UV-LEDで、0.9:1であった。
【0130】
このように、数2の相関度に基づけば、8つの候補UV-LEDからLEDの組み合わせを検討する場合においては、数2の相関度Rは、3つの候補UV-LEDを組み合わせた場合よりも、2つの候補UV-LEDを組み合わせた場合の方が、若干ではあるが、大きくなることが示唆された。
[実施例8]
【0131】
以上の実施例6、7では、実施例2、3と同様、シミュレーションにより、相関度Rから第一UV-LEDと第二UV-LED、選択的に第三UV-LEDを加えた最適な組み合わせを求める例を説明した。ただ本発明は上述の通り、相関度R
oから選択する対象を候補UV-LEDに限らず、実施例4のように主発光ピーク波長の組み合わせをシミュレーションで演算することもできる。この場合においても、相関度として数1に限らず、他の相関度を用いてもよい。ここで、
図44のフローチャートに基づきスペクトル半値幅を推定して、数2の相関度Rが最大となるUV-LEDの組み合わせを探索する例を、実施例8として説明する。この実施例8において、N=5000回、モンテカルロ・シミュレーションを実行した結果、2つの推定されたLED発光スペクトルを使用した場合、254.1nm、268.5nmから得られる混合型LED発光スペクトルを使用した場合に、Rが最大となることが確認された。この結果、
図51に示すように相関度R=0.9184であった。また、このときのスペクトルの最大振幅は、それぞれ、0.8066、0.6711であった。
[実施例9]
【0132】
以上の実施例8では、2つのUV-LEDを用いた場合の合成発光スペクトルから、相関度Rが最大となる主発光ピーク波長の組み合わせをシミュレーションで演算する例を説明した。同様にして、3つのUV-LEDを用いた場合の合成発光スペクトルから、数2で規定した相関度Rが最大となる主発光ピーク波長の組み合わせをシミュレーションで演算する例を、実施例9として以下説明する。
【0133】
ここでも、3つの推定されたLED発光スペクトルを使用して、
図41と同様の手順でN=5000回、モンテカルロ・シミュレーションを実行した。その結果、249.7nm、261.4nm、274.2nmから得られる混合型LED発光スペクトルを使用した場合に、相関度Rが最大となることが確認された。このときの相関度Rは、
図52に示すようにR=0.9694であった。またこのときのスペクトルの最大振幅は、それぞれ、0.8542、0.8687、0.8822であった。
【0134】
以上のように、主発光ピーク波長の異なる複数のUV-LEDを組み合わせることで、殺菌対象のウイルスRNAの吸収スペクトルとの相関度をより高めて、不活性効果を向上させたウイルスの紫外線殺菌装置を得ることが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0135】
本開示に係るウイルスの紫外線殺菌装置及び紫外線殺菌方法は、工場の入口や天井に設置する殺菌灯、トイレなどに設置する殺菌灯、車内や電車内に設置する殺菌灯、ドアやカウンターなど不特定多数の人が使用する場所への殺菌灯等として好適に利用できる。
【符号の説明】
【0136】
100、200…紫外線殺菌装置
1…第一UV-LED
2…第二UV-LED
3…第三UV-LED
5…電流制御部
6…直流電源
WK…殺菌対象物
MS…合成発光スペクトルの光