(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-16
(45)【発行日】2024-05-24
(54)【発明の名称】ダイズの生長促進方法及びミリ波照射したダイズ種子、および、植物種子にミリ波を照射するミリ波照射システム
(51)【国際特許分類】
A01G 7/00 20060101AFI20240517BHJP
A01H 3/00 20060101ALI20240517BHJP
A01H 6/54 20180101ALN20240517BHJP
A01H 5/10 20180101ALN20240517BHJP
C12N 9/04 20060101ALN20240517BHJP
C12N 9/90 20060101ALN20240517BHJP
【FI】
A01G7/00 604C
A01H3/00
A01H6/54
A01H5/10
C12N9/04 Z
C12N9/90
(21)【出願番号】P 2020110223
(22)【出願日】2020-06-26
【審査請求日】2023-06-14
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 (1)発行日:令和2年1月12日 刊行物:International Journal of Molecular Sciences,2020,Vol.21,Iss.2,486;doi:10.3390/ijms21020486 (2)ウェブサイトの掲載日:令和2年1月12日ウェブサイトのアドレス:https://www.mdpi.com/1422-0067/21/2、https://www.mdpi.com/1422-0067/21/2/486/htm
(73)【特許権者】
【識別番号】390013815
【氏名又は名称】学校法人金井学園
(73)【特許権者】
【識別番号】504145320
【氏名又は名称】国立大学法人福井大学
(74)【代理人】
【識別番号】100124718
【氏名又は名称】増田 建
(74)【代理人】
【識別番号】100136216
【氏名又は名称】増田 恵美
(72)【発明者】
【氏名】小松 節子
(72)【発明者】
【氏名】谷 正彦
(72)【発明者】
【氏名】古屋 岳
【審査官】星野 浩一
(56)【参考文献】
【文献】出芽期大豆の冠水ストレス応答にカルシウムが関与する,作物研究所 2014年の成果情報,日本,農研機構,2014年,第1-3頁,https://www.naro.go.jp/project/results/laboratory/nics/2014/nics14_s07.html
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 7/00
A01H 3/00
A01H 6/54
A01H 5/10
C12N 9/04
C12N 9/90
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダイズ種子を播種して生長中の植物体(以下、「ダイズ」ともいう。)の生長を促進する方法において、
常温・常湿の環境下において平均照射強度0.06~0.51mW/cm
2(出力パワー5~40mW)のミリ波をダイズ種子に10~40分間照射して、該ダイズ種子を播種して生長中のダイズに含まれるタンパク質群を、
ミリ波未照射のダイズの含むタンパク質群より増加させることを特徴とする、ミリ波照射によるダイズの生長促進方法
であって、
該タンパク質群は、
(1)活性酸素消去系に関与するアスコルビン酸ペルオキシダーゼ、
(2)活性酸素消去系に関与するペルオキシレドキシン、
(3)解糖系に関与するトリオースリン酸イソメラーゼ、
のいずれか1以上のタンパク質又はタンパク質群である、
ミリ波照射によるダイズの生長促進方法。
【請求項2】
前記ダイズ種子に、平均照射強度0.06~0.25mW/cm
2(出力パワー5~20mW)のミリ波を10~40分間照射する、請求項1に記載のミリ波照射によるダイズの生長促進方法。
【請求項3】
常温・常湿の環境下において平均照射強度0.06~0.51mW/cm
2(出力パワー5~40mW)のミリ波を10~40分間照射した後、播種して生長中のダイズに含まれるタンパク質群が、
ミリ波未照射のダイズの含むタンパク質群より増加することを特徴とするダイズ種子であって、該タンパク質群は、
(1)活性酸素消去系に関与するアスコルビン酸ペルオキシダーゼ、
(2)活性酸素消去系に関与するペルオキシレドキシン、
(3)解糖系に関与するトリオースリン酸イソメラーゼ、
のいずれか1以上のタンパク質又はタンパク質群である、ミリ波照射により生長が促進されるダイズ種子。
【請求項4】
ダイズ種子を播種して成長中のダイズに冠水処理を行ったダイズ(以下、「冠水ダイズ」という。)の生長を促進する方法において、
常温・常湿の環境下において平均照射強度0.06~0.51mW/cm
2(出力パワー5~40mW)のミリ波をダイズ種子に10~30分間照射した後、
該ダイズ種子を播種したダイズに冠水処理を行った冠水ダイズの含むタンパク質群を,
ミリ波未照射の冠水ダイズの含むタンパク質群より増加させることを特徴とする、ミリ波照射による冠水ダイズの生長促進方法であって、
該タンパク質群は、
(1)活性酸素消去系に関与するアスコルビン酸ペルオキシダーゼ、
(2)活性酸素消去系に関与するペルオキシレドキシン、
(3)解糖系に関与するトリオースリン酸イソメラーゼ、
(4)解糖系に関与するグリセルアルデヒド3リン酸脱水素酵素、
(5)糖代謝系のトレハロース合成に関与するタンパク質群
のいずれか1以上のタンパク質又はタンパク質群である、
冠水ダイズの生長促進方法。
【請求項5】
前記ダイズ種子に、平均照射強度0.13~0.25mW/cm
2(出力パワー10~20mW)のミリ波を10~20分間照射する、請求項4に記載のミリ波照射による冠水ダイズの生長促進方法。
【請求項6】
前記タンパク質群は、活性酸素消去系に関与するアスコルビン酸ペルオキシダーゼであり、
ミリ波未照射のダイズ種子を播種後に冠水処理したダイズにおいて、冠水によるストレスにより減少するアスコルビン酸ペルオキシダーゼを、ダイズ種子へのミリ波照射により増加させる、請求項4に記載のミリ波照射による冠水ダイズの生長促進方法。
【請求項7】
前記タンパク質群は、活性酸素消去系に関与するペルオキシレドキシンであり、
ミリ波未照射のダイズ種子を播種後に冠水処理したダイズにおいて、冠水によるストレスにより増加するペルオキシレドキシンを、ミリ波照射により更に増加させる、請求項4に記載のミリ波照射による冠水ダイズの生長促進方法。
【請求項8】
前記タンパク質群は、解糖系に関与するトリオースリン酸イソメラーゼ及びグリセルアルデヒド3リン酸脱水素酵素であり、
ミリ波未照射のダイズ種子を播種後に冠水処理したダイズにおいて、冠水によるストレスにより増加するトリオースリン酸イソメラーゼ及びグリセルアルデヒド3リン酸脱水素酵素を、ダイズ種子へのミリ波照射により更に増加させる、請求項4に記載のミリ波照射による冠水ダイズの生長促進方法。
【請求項9】
前記タンパク質群は、糖代謝系のトレハロース合成に関与するタンパク質群であり、
前記冠水によるストレスにより減少するトレハロース合成に関与するタンパク質群を、ミリ波照射により回復させてトレハロースの合成を増加させる、請求項4に記載のミリ波照射による冠水ダイズの生長促進方法。
【請求項10】
ミリ波を照射することにより、その生長が促進されるダイズ種子において、
常温・常湿の環境下において平均照射強度0.06~0.51mW/cm
2(出力パワー5~40mW)のミリ波を10~30分間照射した後、播種して生長中のダイズを冠水させ
た冠水ダイズの含むタンパク質群が、
ミリ波未照射の冠水ダイズの含むタンパク質群より増加することを特徴とするダイズ種子であって、該タンパク質群が、
(1)活性酸素消去系に関与するアスコルビン酸ペルオキシダーゼ、
(2)活性酸素消去系に関与するペルオキシレドキシン、
(3)解糖系に関与するトリオースリン酸イソメラーゼ、
(4)解糖系に関与するグリセルアルデヒド3リン酸脱水素酵素、
(5)糖代謝系のトレハロース合成に関与するタンパク質群
のいずれか1以上のタンパク質又はタンパク質群である、ミリ波照射により冠水耐性を獲得したダイズ種子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダイズの生長促進方法及びミリ波照射したダイズ種子、および、植物種子にミリ波を照射するミリ波照射システムに関し、より詳しくは、ミリ波照射によるダイズの生長促進方法及びミリ波照射により生長が促進されるダイズ種子、および、ミリ波照射による冠水ダイズの生長促進方法及びミリ波照射により冠水耐性を獲得したダイズ種子、および、トレハロースを添加されたダイズ、更に、植物種子にミリ波を照射するミリ波照射システムに関する。
【背景技術】
【0002】
図11に示すように、近年のわが国におけるダイズ生産量とその消費量は共にほぼ横ばいであるが、ダイズの国内生産量は極端に低く、その消費量の93%以上を輸入に頼っているのが現状である。
【0003】
ダイズの国内生産量が低い原因として、ダイズ生産の85%を水田転換畑で栽培していることが挙げられる。すなわち、水田転換畑で発生しやすい湿害が、生産性低下の原因のひとつとなっている。特にわが国では、ダイズの生育初期に梅雨の季節が重なり、湿害により出芽不良による欠株が増加して、生産性の低下を招いている。その他、雑草との生育競合や土壌病原菌の感染が、ダイズの生産量が低い原因となっている。
【0004】
このように、ダイズの生長と収量は、多様な環境条件の影響を強く受ける。したがって、環境ストレス下のダイズの品質と耐性の改善が大変重要である。
【0005】
ダイズを含む多くの作物は、冠水ストレスに特に敏感である。これは、土壌中の酸素濃度の低下を引き起こし、 根の生長を阻害するためである。更に、酸化的リン酸化により、ATP産生とエネルギー変換が阻害され、ダイズの生長に深刻な影響を及ぼす。
【0006】
ダイズ種子は播種後5日以内に出芽し、側根が生長し始める。出芽後の損傷は、根頂分裂組織を含む根端の細胞死を誘発して、ダイズの根系の発達を著しく脅かし、根の伸長と重量が抑制される。
【0007】
そこで、植物の生長を促進するため、 初期のダイズの冠水耐性を改善するためにいくつかの戦略が使用された。例えば、以下の例が報告されている。
(1)アブシジン酸を添加したダイズは、対照と比較して、冠水後の生存率が高かった(非特許文献3参照)。
(2)ガンマ線照射突然変異体から選抜された冠水耐性ダイズは、水除去後に生長を回復した(非特許文献4参照)。
(3)ダイズは、冠水時に植物由来煙水を添加することにより水除去後に生長を回復した(非特許文献5参照)。
【0008】
これらの応用例は冠水耐性ダイズの開発へ重要な影響をもつ。冠水被害からダイズ植物を保護するには、単純で安全な手法の探求が必要である。
【0009】
ミリ波は30~300GHzの範囲の無線周波数帯域であり、1~10mmの波長範囲である。ミリ波照射は環境的に適切な技術であり、長波長であるため人間の健康に無脅威で、生物に正の影響を与えることが報告されている。それは、生命活動、細胞分裂、酵素活性、いくつかの微生物のバイオマス蓄積に影響を及ぼす。例えば、ミリ波照射されたコムギの種子は、無処理に比べて、生長もよく収穫量も多いことが報告されている(非特許文献1参照)。また、ミリ波に隣接するマイクロ波(主に2.45GHz、波長122mm程度、一般には波長10mm~1m)ではあるが、植物の種子等が発芽して新芽を形成した後の所定の時期にマイクロ波を所定の時間照射することにより植物の育成を図る植物の育成方法が公開されている(特許文献2参照)。また、生の植物に所定の温度環境下で弱いマイクロ波を照射することにより、葉や根茎中の酵素を活性化して、有用な特定の機能性成分の含有量が増大した植物を提供するマイクロ波照射法が公開されている(特許文献1参照)。反対に、ミリ波の照射は、ジャガイモの生長には正の影響が確認されなかった(非特許文献2参照)。
【0010】
したがって、ミリ波の照射は、一部の作物で収穫を促進することが確認されているが、影響を与えない作物も存在しており、ミリ波の照射のダイズへの影響に関する報告は、これまでのところなされていない。
【0011】
一方、植物の生長と発達を研究する手法として、種子の処理には、簡易性や経済的実現可能性などの利点がある。例えば、磁場、レーザー、またはナノ粒子によるダイズ種子の処理が知られており、ダイズの生長を促し、栄養化合物のより良い蓄積をもたらす。ミリ波照射によるダイズ種子の処理は、ダイズの生長と発達を促進するための潜在的な方法であり、ストレスの多い条件下でダイズ代謝を正方向に制御する。ただし、ダイズへのミリ波の影響は研究されていない。
【0012】
【文献】Betskii,O. et al. J.Sci.Eng.2007,23,236-252
【文献】Jakubowski,T. et al. Inzynieria Rol.2010,14,57-64
【文献】Komatsu,S. et al. J. Proteome Res.2013,12,4769-4784
【文献】Komatsu,S. et al. J. Proteomics 2013,79,231-250
【文献】Li,X. et al. J. Proteomics 2018,181,238-248
【文献】Zhong.Z. et al. Int.J.Mol.Sci. 2020,21,486
【文献】特開2019-146566号公報
【文献】特許第6210581号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
上述のように、ダイズの収量は、初期生育に依存して変動し、特に湿害は収量に影響を及ぼす一つの要因である。このことより、冠水に対して耐性をもつ冠水耐性ダイズの作出は、重要な課題となっている。
【0014】
例えば、上記のようにミリ波に隣接するマイクロ波(一般に波長10mm~1m)ではあるが、植物の種子等が発芽して新芽を形成した後の所定の時期にマイクロ波を所定の時間照射することにより植物の育成を図る植物の育成方法が公開されている(特許文献2参照)。また、生の植物に所定の温度環境下で弱いマイクロ波を照射することにより、葉や根茎中の酵素を活性化して、有用な特定の機能性成分の含有量が増大した植物を提供するマイクロ波照射法が公開されている(特許文献1参照)。しかし、これらの文献は、冠水ストレス下の植物の生長に関しては言及していない。
【0015】
そこで、本発明は、冠水ストレスを受けたダイズの生長を回復させる方法として、ミリ波照射に着目した。すなわち、本発明は、ミリ波照射による冠水ダイズの生長促進方法及びミリ波照射により冠水耐性を獲得したダイズ種子を提供し、これに用いるミリ波を照射するミリ波照射システムを併せて提供する。更に本発明は、生長中のダイズが冠水の際に、トレハロースを添加する冠水ダイズの生長促進方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明に係るミリ波照射によるダイズの生長促進方法は、
ダイズ種子を播種して生長中の植物体(以下、「ダイズ」ともいう。)の生長を促進する方法において、
常温・常湿の環境下において平均照射強度0.06~0.51mW/cm2(出力パワー5~40mW)のミリ波をダイズ種子に10~40分間照射して、該ダイズ種子を播種して生長中のダイズに含まれるタンパク質群を、
ミリ波未照射のダイズの含むタンパク質群より増加させることを特徴とする、ミリ波照射によるダイズの生長促進方法であって、
該タンパク質群は、
(1)活性酸素消去系に関与するアスコルビン酸ペルオキシダーゼ、
(2)活性酸素消去系に関与するペルオキシレドキシン、
(3)解糖系に関与するトリオースリン酸イソメラーゼ、
のいずれか1以上のタンパク質又はタンパク質群である。
【0017】
本明細書中において、ダイズ種子を播種して生長中の植物体を「ダイズ」といい、冠水処理を行ったダイズを「冠水ダイズ」と、冠水処理を行わないダイズを「非冠水ダイズ」というものとする。また、ダイズ種子にミリ波照射を行ったダイズを「照射ダイズ」と、ミリ波照射を行わないダイズ種子を「未照射ダイズ」という。
【0018】
本発明に係るミリ波照射によるダイズの生長促進方法は、前記ダイズ種子に、平均照射強度0.06~0.25mW/cm2(出力パワー5~20mW)のミリ波を10~40分間照射するのが好ましい。
【0019】
本発明に係るミリ波照射によるダイズの生長促進方法は、前記タンパク質群は、活性酸素消去系に関与するアスコルビン酸ペルオキシダーゼであり、ダイズ種子へのミリ波照射により、アスコルビン酸ペルオキシダーゼを増加させる。
【0020】
本発明に係るミリ波照射によるダイズの生長促進方法は、前記タンパク質群は、活性酸素消去系に関与するペルオキシレドキシンであり、ダイズ種子へのミリ波照射により、ペルオキシレドキシンを増加させる。
【0021】
本発明に係るミリ波照射によるダイズの生長促進方法は、前記タンパク質群は、解糖系に関与するトリオースリン酸イソメラーゼであり、ダイズ種子へのミリ波照射により、トリオースリン酸イソメラーゼを増加させる。
【0022】
本発明に係るミリ波照射により生長が促進されるダイズ種子は、
常温・常湿の環境下において平均照射強度0.06~0.51mW/cm2(出力パワー5~40mW)のミリ波を10~40分間照射した後、播種して生長中のダイズに含まれるタンパク質群が、
ミリ波未照射のダイズの含むタンパク質群より増加することを特徴とするダイズ種子であって、該タンパク質群は、
(1)活性酸素消去系に関与するアスコルビン酸ペルオキシダーゼ、
(2)活性酸素消去系に関与するペルオキシレドキシン、
(3)解糖系に関与するトリオースリン酸イソメラーゼ、
のいずれか1以上のタンパク質又はタンパク質群である。
【0023】
本発明に係るミリ波照射による冠水ダイズの生長促進方法は、
ダイズ種子を播種して成長中のダイズに冠水処理を行ったダイズ(以下、「冠水ダイズ」という。)の生長を促進する方法において、
常温・常湿の環境下において平均照射強度0.06~0.51mW/cm2(出力パワー5~40mW)のミリ波をダイズ種子に10~30分間照射した後、
該ダイズ種子を播種したダイズに冠水処理を行った冠水ダイズの含むタンパク質群を,
ミリ波未照射の冠水ダイズの含むタンパク質群より増加させることを特徴とする、ミリ波照射による冠水ダイズの生長促進方法であって、
該タンパク質群は、
(1)活性酸素消去系に関与するアスコルビン酸ペルオキシダーゼ、
(2)活性酸素消去系に関与するペルオキシレドキシン、
(3)解糖系に関与するトリオースリン酸イソメラーゼ、
(4)解糖系に関与するグリセルアルデヒド3リン酸脱水素酵素、
(5)糖代謝系のトレハロース合成に関与するタンパク質群
のいずれか1以上のタンパク質又はタンパク質群である。
【0024】
本発明に係るミリ波照射による冠水ダイズの生長促進方法は、前記ダイズ種子に、平均照射強度0.13~0.25mW/cm2(出力パワー10~20mW)のミリ波を10~20分間照射するのが好ましい。
【0025】
本発明に係るミリ波照射による冠水ダイズの生長促進方法は、前記タンパク質群は、活性酸素消去系に関与するアスコルビン酸ペルオキシダーゼであり、ミリ波未照射のダイズ種子を播種後に冠水処理したダイズにおいて、冠水によるストレスにより減少するアスコルビン酸ペルオキシダーゼを、ダイズ種子へのミリ波照射により増加させる。
【0026】
本発明に係るミリ波照射による冠水ダイズの生長促進方法は、前記タンパク質群は、活性酸素消去系に関与するペルオキシレドキシンであり、ミリ波未照射のダイズ種子を播種後に冠水処理したダイズにおいて、冠水によるストレスにより増加するペルオキシレドキシンを、ミリ波照射により更に増加させる。
【0027】
本発明に係るミリ波照射による冠水ダイズの生長促進方法は、前記タンパク質群は、解糖系に関与するトリオースリン酸イソメラーゼ及びグリセルアルデヒド3リン酸脱水素酵素であり、ミリ波未照射のダイズ種子を播種後に冠水処理したダイズにおいて、冠水によるストレスにより増加するトリオースリン酸イソメラーゼ及びグリセルアルデヒド3リン酸脱水素酵素を、ダイズ種子へのミリ波照射により更に増加させる。
【0028】
本発明に係るミリ波照射による冠水ダイズの生長促進方法は、前記タンパク質群は、糖代謝系のトレハロース合成に関与するタンパク質群であり、前記冠水によるストレスにより減少するトレハロース合成に関与するタンパク質群を、ミリ波照射により回復させてトレハロースの合成を増加させる。
【0029】
本発明に係るミリ波照射により冠水耐性を獲得したダイズ種子は、
ミリ波を照射することにより、その生長が促進されるダイズ種子において、
常温・常湿の環境下において平均照射強度0.06~0.51mW/cm2(出力パワー5~40mW)のミリ波を10~30分間照射した後、播種して生長中のダイズを冠水させた冠水ダイズの含むタンパク質群が、
ミリ波未照射の冠水ダイズの含むタンパク質群より増加することを特徴とするダイズ種子であって、該タンパク質群が、
(1)活性酸素消去系に関与するアスコルビン酸ペルオキシダーゼ、
(2)活性酸素消去系に関与するペルオキシレドキシン、
(3)解糖系に関与するトリオースリン酸イソメラーゼ、
(4)解糖系に関与するグリセルアルデヒド3リン酸脱水素酵素、
(5)糖代謝系のトレハロース合成に関与するタンパク質群
のいずれか1以上のタンパク質又はタンパク質群である。
【0030】
本発明に係るトレハロースを添加する冠水ダイズの生長促進方法は、ミリ波を照射しないで播種したダイズ種子の冠水下での生長を促進する方法であって、当該ダイズ種子が播種されて生長中のダイズが冠水の際に、トレハロースを添加することを特徴とする。
【0031】
本発明に係るトレハロースを添加されたダイズは、ミリ波を照射しないで播種したダイズ種子が播種されて生長中のダイズであって、当該ダイズが冠水された際に、トレハロースを添加されたダイズである。
【0032】
本発明に係る植物種子にミリ波を照射するミリ波照射システムは、ミリ波を発振するミリ波光源を含むミリ波照射装置と、鉛直方向に単層となるように植物種子を動径方向に密に配列し得る透明容器と、を含み、当該ミリ波照射装置が、当該透明容器の鉛直方向から、ミリ波を反鉛直方向に当該透明容器に照射し得るミリ波照射システムであって、前記ミリ波照射装置は、前記ミリ波光源と、当該ミリ波光源から放射されるミリ波を導波する導波管と、当該導波管により導波された当該ミリ波を空間に放射するホーンアンテナと、を含み、
(1)当該透明容器と当該ホーンアンテナ間の距離、
(2)当該透明容器の動径方向の長さ(又は直径)、
(3)当該ホーンアンテナにより放射する当該ミリ波の放射角、
を調整することにより、前記ホーンアンテナから前記透明容器に対して反鉛直方向に放射されるミリ波の強度が、当該透明容器の重心位置で最大強度となり、当該透明容器の端部で最大強度のe-2となるガウス分布となるように、当該透明容器と前記ミリ波照射装置が配置される。
【0033】
本発明に係る植物種子にミリ波を照射するミリ波照射システムにおいて、前記ミリ波光源は、Gunn発振器又はジャイロトロンであってよい。
【発明の効果】
【0034】
本発明に係るミリ波照射を行ったダイズ種子は、冠水処理の有無にかかわらず生長が促進された。すなわち、ダイズ種子に有効な出力のミリ波照射を一定時間行うことにより、播種後のダイズの生長は促進され、活性酸素消去系及び糖代謝系、解糖系に関与するタンパク質が増減した。
【0035】
また、例えば平均照射強度0.13mW/cm2(出力パワー10mW)のミリ波を20分間ダイズ種子に照射することにより、播種後の生長中のダイズは冠水ストレスに対して抵抗性を示した。すなわち、有効な出力のミリ波照射を一定時間行うことにより、ダイズの冠水耐性が付与された。
【0036】
上記ミリ波照射の結果として、冠水ダイズにおいて解糖系のトリオースリン酸イソメラーゼとグリセルアルデヒド3リン酸脱水素酵素の阻止効果が回復した。すなわち、解糖系の制御により、冠水耐性が付与された。
【0037】
上記ミリ波を照射したダイズは、アスコルビン酸ペルオキシダーゼの正方向の制御により、酸化ストレスに対する耐性が高まった。すなわち、活性酸素消去系の制御により、冠水耐性が付与された。
【0038】
また、糖代謝系は冠水下の未照射のダイズでは抑制されるが、ミリ波を照射したダイズでは活性化された。冠水下でのトレハロースの添加は、ミリ波照射時と同様な冠水耐性を冠水ダイズに付与した。
【0039】
以上のように、ダイズ種子へのミリ波照射は、解糖系及び活性酸素消去系の制御を介して、播種後のダイズの生長に対して正の効果を与える。更に、ミリ波照射ダイズにおける糖代謝系の活性化は、冠水ストレス下のダイズの耐性において重要な役割を果たし、冠水ダイズの生長を促進することができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【
図1】ダイズ種子に対して、強度を変えてミリ波を20分間照射した場合の形態学的効果を表す写真図であり、非冠水ダイズ(左)と冠水ダイズ(右)の写真図である。
【
図2】ダイズ種子に対して、ミリ波の強度を変えて20分間照射した場合の形態学的効果を表すグラフ図であり、(a)ミリ波強度に対する非冠水ダイズ(左)と冠水ダイズ(右)の胚軸の長さ(棒グラフ)と重量(折線)を表すグラフ図、(b)ミリ波強度に対する非冠水ダイズ(左)と冠水ダイズ(右)の主根の長さ(棒グラフ)と根の重量(折線)を表すグラフ図、である。
【
図3】ダイズ種子に対して照射時間を変えて平均照射強度0.13mW/cm
2(出力パワー10mW)のミリ波を照射した場合の形態学的効果を表す写真図であり、非冠水ダイズ(左)と冠水ダイズ(右)の写真図である。
【
図4】ダイズ種子に対して照射時間を変えて平均照射強度0.13mW/cm
2(出力パワー10mW)のミリ波を照射した場合の形態学的効果を表すグラフ図であり、(a)ミリ波照射時間に対する非冠水ダイズ(左)と冠水ダイズ(右)の胚軸の長さ(棒グラフ)と重量(折線)を表すグラフ図、(b)ミリ波照射時間に対する非冠水ダイズ(左)と冠水ダイズ(右)の主根の長さ(棒グラフ)と根の重量(折線)を表すグラフ図、である。
【
図5】抗原抗体反応による活性酸素消去系に関与するタンパク質の蓄積量を表す写真図(左)及びこれに対応するグラフ図(右)であり、左右の図において、夫々、左側4つのデータは非冠水ダイズに対するデータ、右側4つのデータは冠水処理を行ったダイズに対するデータを表示しており、夫々の4つのデータは左側から0、5、10、20mW(夫々0、0.06、0.13、0.25mW/cm
2)のミリ波照射を行った場合のタンパク質の蓄積量を表し、それぞれ抗体が(a)アスコルビン酸ペルオキシダーゼ、(b)グルタチオンレダクターゼ、(c)ペルオキシレドキシンの場合のタンパク質の蓄積量を表す写真図及びグラフ図である。
【
図6】抗原抗体反応による解糖系に関与するタンパク質の蓄積量を表す写真図(左)及びこれに対応するグラフ図(右)であり、左右の図において、夫々、左側4つのデータは非冠水ダイズに対するデータ、右側4つのデータは冠水処理を行ったダイズに対するデータを表示しており、夫々の4つのデータは左側から出力パワー0、5、10、20mW(照射強度では夫々0、0.06、0.13、0.25mW/cm
2)のミリ波照射を行った場合のタンパク質の蓄積量を表し、それぞれ抗体が(a)フルクトースビスリン酸アルドラーゼ、(b)トリオースリン酸イソメラーゼ、および、(c)グリセルアルデヒド3リン酸脱水素酵素の場合のタンパク質の蓄積量を表す写真図及びグラフ図である。
【
図7】それぞれ左側から非冠水/未照射、冠水処理/未照射、冠水処理にトレハロース添加/ミリ波未照射、冠水処理/照射、を行ったダイズの生長に関する図であり、(a)それぞれの条件で生長したダイズの写真図、(b)(a)で撮影されたダイズの夫々の長さを表すグラフ図、(c)(a)で撮影されたダイズの夫々の重量を表すグラフ図である。
【
図8】ミリ波照射・冠水ダイズ(左)、ミリ波未照射・冠水ダイズ(中)、ミリ波未照射・冠水時にトレハロースを添加したダイズ(右)、の、夫々実験経過と結果を表すフロー図である。
【
図9】Gunn発振器を用いたミリ波照射の実験装置の正面模式図(上)とその平面写真図(下)である。
【
図10】ミリ波照射及び冠水処理の実験方法を示すフロー図である。
【
図11】わが国におけるダイズ生産量とその消費量を表すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0041】
以下、図面を参照しながら本発明に係るミリ波照射を行ったダイズ種子の実施形態及び実施例について説明する。なお、以下各図面を通して同一の構成要素には同一の符号を使用するものとする。
(A)ミリ波照射によるダイズの生長促進方法とその実験概要
【0042】
[ミリ波照射によるダイズの生長促進方法]
本発明に係るミリ波照射によるダイズの生長促進方法は、ダイズ種子にミリ波を照射して、当該ダイズ種子の生長を促進する方法である。本発明のミリ波照射によるダイズの生長促進方法は、例えば,
図9のようにGunn発振器にミリ波を出力させ、常温・常湿の環境下において平均照射強度0.06~0.51mW/cm
2(出力パワー5~40mW)のミリ波をダイズ種子に10~40分間照射して、当該ダイズ種子を播種して生長中のダイズに含まれるタンパク質群を増減させることにより、ダイズの生長を促進することができる。ここで、常温・常湿の環境下とは、温度25℃、湿度60%の環境下をいい、以下同様である。
【0043】
本発明のミリ波照射によるダイズの生長促進方法は、ダイズ種子に、平均照射強度0.06~0.25mW/cm2(出力パワー5~20mW)のミリ波を10~40分間照射するのがより好適である。
【0044】
[ミリ波照射による冠水ダイズの生長促進方法]
また、本発明に係るミリ波照射による冠水ダイズの生長促進方法は、ダイズ種子にミリ波を照射して、当該ダイズ種子を播種後の冠水ダイズの生長を促進する方法である。本発明のミリ波照射による冠水ダイズの生長促進方法は、同じく
図9のようにGunn発振器にミリ波を出力させ、平均照射強度0.06~0.51mW/cm
2(出力パワー5~40mW)のミリ波をダイズ種子に10~30分間照射した後、これを播種して生長中のダイズを冠水させて、ダイズのタンパク質群を増減させることにより、冠水ダイズの生長を促進することができる。本発明のミリ波照射による冠水ダイズの生長促進方法は、ダイズ種子に、平均照射強度0.13~0.25mW/cm
2(出力パワー10~20mW)のミリ波を10~20分間照射するのがより好適である。
【0045】
[ミリ波照射によるダイズの生長促進方法の実験概要]
本発明のミリ波照射による冠水ダイズの生長促進方法の特徴は、以下の実施例2に記載するように、ミリ波を照射したダイズの形態学的分析(実験2及び実験3)により得られる。このダイズ種子に対するミリ波照射に用いる装置及び処理方法は、実施例1に示す。そして、実施例2のダイズ種子へのミリ波照射後、
図10のフロー図に示すようにダイズ種子を播種して栽培し、冠水や水除去などの処理を行って、ダイズの生長における冠水の影響を解析した。
【0046】
すなわち、本発明において、
図10(a)に示すフローのように条件を変えて育成したダイズについて形態学的分析を行い、ミリ波照射及び冠水がダイズの生長に及ぼす効果を解析した。更に、
図10(b)に示すフローのように条件を変えて育成したダイズを採取して、プロテオミクス解析や抗体抗原反応等の解析を行い、ミリ波照射及び冠水によりダイズの生長及びその冠水ストレスの耐性に関与するタンパク質群を特定した。
(B)ミリ波照射
【実施例1】
【0047】
(実験1)
[ミリ波照射システム]
本発明の冠水ダイズの生長促進方法を確立するに当たり、ミリ波照射は、
図9のように、光源としてGunn発振器(ガン発振器)を用いた実験装置を使用した。本発明に係る実験では、Caristrom社製のGunn発振器を用いた。
【0048】
このGunn発振器は、79-115GHzの周波数範囲で70~80mWの出力を提供するが、本発明に係る実験では、周波数110GHz及び減衰器によって調整された出力パワーで、フリーランで動作した 。そして、ミリ波は、17度の片側放射角を持つホーンアンテナによって自由空間に放射された。
【0049】
その詳細な説明は(F)項で行うが、このようなGunn発振器を用いた本発明に係るミリ波照射システム1は、ミリ波を発振するミリ波光源12を含むミリ波照射装置10と、鉛直方向に単層となるようにダイズ種子を動径方向に密に配列し得るシャーレ20と、を含み、ミリ波照射装置10が、シャーレ20の鉛直方向から、ミリ波を反鉛直方向にシャーレ20に照射し得るミリ波照射システムであって、ミリ波照射装置10は、ミリ波光源12と、ミリ波光源12から放射されるミリ波を導波する導波管16と、導波管16により導波されたミリ波を空間に放射する17度の片側放射角を持つホーンアンテナ18とを含む。
【0050】
そして、
(1)シャーレ20とホーンアンテナ18間の距離(15cm)、
(2)シャーレ20の直径(9cm)、
(3)ホーンアンテナ18により放射するミリ波の片側放射角(角度17度)、
を調整することにより、ホーンアンテナ18からシャーレ20に対して反鉛直方向に放射されるミリ波の強度が、シャーレ20の重心位置で最大強度となり、シャーレ20の端部で最大強度のe-2となるガウス分布となるように、シャーレ20とミリ波照射装置10が配置される。本発明では、(3)のホーンアンテナ18として片側放射角が17度のホーンアンテナ18を使用し、(2)のシャーレ20の直径を9cmとしたので、(1)のシャーレ20とホーンアンテナ18間の距離を15cmに調整してミリ波を照射した。
【0051】
[ミリ波照射]
本発明においては、ダイズ種子をシャーレ20に並べ、上記のミリ波照射システム1(
図9参照)を用いてミリ波をシャーレ20に照射した。ミリ波照射装置10から放射されるミリ波の出力パワーを0、5、10、20、および40mWとし、夫々20分間照射を行った(実験2、
図1、
図2参照)。これらの出力パワーは、ミリ波がシャーレ20に照射される際には、それぞれ0、0.06、0.13、0.25、および0.51mW/cm
2の平均照射強度に対応する。この平均照射強度は、シャーレ20の重心位置で最大強度となり、シャーレ20の端部で最大強度のe
-2となるガウス分布となるミリ波の照射強度を、ガウス分布に従って積分し、シャーレ20の被照射面積で除した値である。
【0052】
次に、照射時間に対する応答として、平均照射強度0.13mW/cm
2(出力パワー10mW)のミリ波を0、10、20、40、および80分間照射した(実験3、
図3、
図4参照)。この際、ダイズの温度上昇は最大でも1Kを十分下回ると推定された。
【0053】
以下に記載する実験において参照する図面(
図2、
図5、
図6)では、ミリ波照射装置10から放射されるミリ波の出力パワーは、記載の便宜のため0、5、10、20、および40mWの出力パワーを記載するが、シャーレ20に配置されたダイズ種子に照射されるミリ波の平均照射強度は、表1のように換算される。
【表1】
(C)ダイズの形態学的分析
【実施例2】
【0054】
[ミリ波を照射したダイズの形態学的分析]
ダイズ及び冠水ストレス下のダイズへのミリ波照射の影響を調査するため、異なる処理後のダイズの形態変化を分析した(
図1及び
図2参照)。
【0055】
(実験2)
[強度を変えたミリ波照射]
ダイズの種子に出力パワー5、10、20、40mW(夫々平均照射強度0.06、0.13、0.25、0.51mW/cm
2)のミリ波を照射し、一方、未照射ダイズ種子を対照として使用した(出力パワー及び平均照射強度0)。
図1は、ダイズ種子に対して、強度を変えてミリ波を20分間照射した場合の形態学的効果を表す写真図であり、左側が非冠水ダイズを、右側が冠水ダイズの写真図を示している。左側の非冠水ダイズと右側の冠水ダイズの写真図において、夫々左端のダイズが未照射ダイズの写真である。
【0056】
図1の写真図から明らかなように、ダイズの生長は冠水により抑圧されたが、ミリ波照射は非冠水ダイズ及び冠水ストレスのある冠水ダイズの胚軸の伸長を、共に促進した。
【0057】
また、
図2は、同じくダイズ種子に対してミリ波の強度を変えて20分間照射した場合の形態学的効果を表すグラフ図であり、
図2(a)、(b)に示される夫々の折線及び棒グラフは、
図1に撮影されたダイズと左から順にそれぞれ対応している。
図2(a)はミリ波出力パワーに対する非冠水ダイズ(左)と冠水ダイズ(右)の胚軸の長さ(棒グラフ)と重量(折線)を表すグラフ図であり、
図2(b)はミリ波出力パワーに対する非冠水ダイズ(左)と冠水ダイズ(右)の根の長さ(棒グラフ)と重量(折線)を表すグラフ図である。
【0058】
図2(a)、(b)において、何れも右側に表示される冠水ダイズの胚軸(上)及び根(下)の長さ(棒グラフ)と重量(折線)を表すグラフ図により、平均照射強度0.06~0.51mW/cm
2(出力パワー5~40mW)で20分間ミリ波照射した場合、照射ダイズの生長は何れも未照射ダイズを上回った。したがって、少なくとも平均照射強度0.06~0.51mW/cm
2のミリ波をダイズ種子に20分間照射後、当該ダイズ種子を播種して生長中のダイズを冠水させれば、この冠水ダイズの生長を促進することが分かる。
【0059】
また、
図2(a)、(b)の左側に示されるグラフ図は、未照射ダイズに対して平均照射強度0.06~0.51mW/cm
2(出力パワー5~40mW)で20分間ミリ波照射した場合の胚軸と根の生長を表す。左上側に表示される非冠水ダイズの胚軸の長さ(棒グラフ)と重量(折線)を表すグラフ図により、平均照射強度0.06~0.51mW/cm
2(出力パワー5~40mW)で20分間ミリ波照射した場合、ミリ波照射ダイズの胚軸の生長は何れも未照射ダイズを上回った。一方、左下側に表示される非冠水ダイズの根の長さ(棒グラフ)と重量(折線)を表すグラフ図により、ミリ波照射による非冠水ダイズの根の生長への顕著な影響はみられなかった。しかし、上記のように非冠水ダイズの胚軸の生長を促進することから、少なくとも平均照射強度0.06~0.51mW/cm
2(出力パワー5~40mW)のミリ波をダイズ種子に20分間照射することにより、非冠水ダイズの生長は促進されるといえる。
【0060】
(実験3)
[照射時間を変えたミリ波照射]
ミリ波照射の最適時間を更に調査するために、平均照射強度0.13mW/cm
2(出力パワー10mW)のミリ波により10、20、40、および80分間、ダイズの種子を照射した。すなわち、(B)で上述したように、ダイズ種子に対しミリ波の出力を平均照射強度0.13mW/cm
2(出力パワー10mW)で固定し、照射時間を変化させた。そして、
図10(a)のフロー図に示すように、未照射のダイズ種子(左側の2つのフロー)と照射したダイズ種子(右側の2つのフロー)を夫々準備し、左から2番目と4番目のフローでは、播種後2日目に冠水処理を行い、更に2日目で水除去し、更にそれから4日目で試料採取して生長具合を測定した(左から2番目と4番目のフロー)。また、
図10(a)のフロー図において、左から1番目と3番目のフローは、非冠水ダイズのフローであり、播種後8日目で試料採取し、生長具合を測定した。
【0061】
図3及び
図4に、ダイズ種子に対するミリ波照射の形態学的効果を表す写真図及びグラフ図を示す。
図3は、ダイズ種子に対して照射時間を変えて平均照射強度0.13mW/cm
2(出力パワー10mW)のミリ波を照射した場合の形態学的効果を表す写真図であり、非冠水ダイズ(左)と冠水ダイズ(右)の写真図である。
【0062】
図4は、同じく、ダイズ種子に対して照射時間を変えて平均照射強度0.13mW/cm
2(出力パワー10mW)のミリ波を照射した場合の形態学的効果を表すグラフ図であり、
図4(a)、(b)に示される夫々の折線及び棒グラフは、
図3に撮影されたダイズと左から順にそれぞれ対応している。
図4において、バーは1cmを示し、棒グラフは根/胚軸の長さを、折線グラフは根/胚軸の重さを示す。これらのデータは、3つの独立した生物学的反復からの平均±標準誤差を表している。そして、
図4(a)は、ミリ波照射時間に対する非冠水ダイズ(左)と冠水ダイズ(右)の胚軸の長さ(棒グラフ)と重量(折線)を表すグラフ図である。また、
図4(b)は、ミリ波照射時間に対する非冠水ダイズ(左)と冠水ダイズ(右)の根の長さ(棒グラフ)と重量(折線)を表すグラフ図である。
【0063】
非冠水ダイズの生長の結果は、ミリ波未照射に対し、平均照射強度0.13mW/cm2(出力パワー10mW)・20分照射において、胚軸の伸長と重量及び根の重量が最も増加した。そして、照射時間が10~40分間の場合、照射ダイズの胚軸又は根の伸長又は重量が、未照射ダイズに比べて増加した。
【0064】
また、冠水処理ダイズの生長の結果は、ミリ波未照射に対し、平均照射強度0.13mW/cm2(出力パワー10mW)・10 分及び20分照射において、胚軸の伸長と重量及び根の伸長が最も増加した。そして、照射時間が10~30分間の場合、照射ダイズの胚軸又は根の伸長又は重量が、未照射ダイズに比べて増加した。
【0065】
以上の実験から、ダイズ種子にミリ波照射を行うことでダイズの生長を促進し、かつ冠水ストレスに耐性を示すことが明らかになった。
(D)ダイズタンパク質のプロテオミクス解析
【実施例3】
【0066】
(実験4)
[プロテオミクス解析と抗原抗体反応解析のための試料採取]
実施例2で行った形態学的結果に基づいて、さらなるプロテオミクス解析のために、ダイズ種子に平均照射強度0.13mW/cm2(出力パワー10mW)ミリ波の20分間の照射を設定した。そして、プロテオミクス解析の結果を可視化するために、MapManソフトを用いた。
【0067】
ミリ波照射後、種子を3%次亜塩素酸ナトリウム溶液で滅菌し、水で2回すすぎ、400mLのケイ砂が入った苗木ケースに播種した。続いて行われる実験に備えて、各苗木ケースに、合計14個の種子を均等に播種した。この播種したダイズを、25℃、湿度60%の環境下において、白色蛍光灯下で栽培した(160μmоlm-2・s-2、16h光周期/日)。
【0068】
図10(b)のフロー図に示すように、ミリ波を未照射のダイズ種子(左側の2つのフロー)と照射したダイズ種子(右側の2つのフロー)を準備し、左から2番目と4番目のフローのダイズ種子について、夫々播種後2日目に冠水処理を行った。すなわち、播種後2日目のダイズを浸すために、土壌表面上に水を加えた。そして、プロテオミクス解析と抗原抗体反応解析のために播種後2日目及び播種後4日目のダイズの胚軸を含む根を、各条件で5個体収集した。
【0069】
一方、
図10(b)のフロー図において、左から1番目と3番目のフローは、上記左から2番目と4番目のフローに示す冠水処理した未照射ダイズと照射ダイズと比較する対照として、非冠水の未照射ダイズと照射ダイズの生育条件を表す。冠水処理を行わない生育条件で播種後4日目の未照射ダイズと照射ダイズを試料採取し、冠水処理したダイズと同一の解析を行った。
【0070】
すべての実験について、生物学的反復として3つの独立した実験を行い、この3つの独立した実験では、ダイズ種子は異なる日に播種した。そして、照射/未照射及び冠水/非冠水ダイズを収集した。
【実施例4】
【0071】
[プロテオミクス解析]
(実験5)
[ミリ波照射したダイズの根胚軸組織中のタンパク質の同定と機能的調査]
上記のようにミリ波照射したダイズ種子の生長へのタンパク質群の増減の影響を調べるために、ゲルフリー/ラベルフリーのプロテオミクス解析技術を使用した。
【0072】
タンパク質は、冠水処理時を開始時点とし、冠水処理前及び処理後のダイズの根胚軸組織から抽出した。そのため、本実験に用いたダイズは次の4つのグループに分けられる。即ち、照射、未照射及び冠水、非冠水である。そして、照射ダイズからと未照射ダイズからのタンパク質の相対的な蓄積量を比較した。これらのタンパク質の機能的カテゴリーは、MapManビンコードを使用して決定され、異なる処理を受けたタンパク質の異なる蓄積量が示された。
【0073】
[ダイズのミリ波照射に関連する代謝経路の特定]
MapManビンコードの機能分類の結果を可視化するためにMapManソフトウェアを用いた(非特許文献6参照)。MapManソフトウェアによる代謝経路の可視化の結果、MapManビンコードによる機能分類の結果と同様に、活性酸素消去系及び糖代謝系、解糖系に関与するタンパク質の増減が顕著であった。
(E)代謝経路に関与するタンパク質群の蓄積量の解析
【0074】
上記のように、MapManビンコードによる機能分類の結果、および、MapManソフトウェアによる代謝経路の可視化の結果から、活性酸素消去系及び糖代謝系、解糖系に関与するタンパク質の増減が明らかになったので、これらのタンパク質に着目してKEGGデータベースに基づいてマッピングを行い解析した(非特許文献6参照)。
(E-1)活性酸素消去系に関与するタンパク質群
【実施例5】
【0075】
プロテオミクス解析を行い、量的に変化した活性酸素消去系に関与するタンパク質のマッピングを行った(非特許文献6参照)。更に、その真偽を検証するために、抗原抗体反応を行い、活性酸素消去系に関与するタンパク質群の蓄積量を可視化した(実験6;
図5)。
【0076】
その結果、グルタチオンレダクターゼは、ミリ波照射や冠水ストレスで変動しないことが分かる。また、アスコルビン酸ペルオキシダーゼは、ミリ波照射で減少し、冠水下では更に減少するが、ミリ波照射で対照レベルまで回復することが明らかである。その真偽を検証するために、抗原抗体反応を行った。
【0077】
(実験6)
[活性酸素消去系に関与するタンパク質群の蓄積量(抗原抗体反応)]
活性酸素消去系に関与するアスコルビン酸ペルオキシダーゼ、グルタチオンレダクターゼ、ペルオキシレドキシンの抗体を用いて、抗原抗体反応を行い、タンパク質の蓄積量を解析した。抗原抗体反応によるタンパク質群の蓄積量の測定(実験6)は、以下の手順で行った。
(1)タンパク質はダイズから抽出し、10%SDS-ポリアクリルアミドゲルで電気泳動により分離してポリビリニデンジフルオリド膜に転写した。
(2)膜は、抗アスコルビン酸ペルオキシダーゼ、抗グルタチオンレダクターゼ、および、抗ペルオキシレドキシン抗体で交差反応された。
(3)クマシーブリリアントブルー染色パターンがローディング対照として使用された。
(4)バンド密度は、ImageJソフトウェアで計算された。
【0078】
図5は、活性酸素消去系に関与する抗原抗体反応によるタンパク質の蓄積量を表す写真図(左)及びこれに対応するグラフ図(右)であり、夫々、抗体が(a)アスコルビン酸ペルオキシダーゼ、(b)グルタチオンレダクターゼ、(c)ペルオキシレドキシンの場合のタンパク質の蓄積量を表す写真図(左)及びグラフ図(右)である。
図5の右側に表示するデータにおいて、左側4つのデータは非冠水ダイズに対するデータ、右側4つのデータは冠水処理を行ったダイズに対するデータであり、夫々左側から出力パワー0、5、10、20mW(夫々、平均照射強度0、0.06、0.13、0.25mW/cm
2)のミリ波照射を行った場合のタンパク質群の蓄積量を表している。
図5の左側に表示する写真は、3つの独立した生物学的反復の結果であり、
図5の右側に表示するデータと対応している。この
図5の右側に表示するデータは、3つの独立した生物学的反復からの平均±標準誤差として示されている。
【0079】
この結果、以下のことが明らかになった。
(1)非冠水ダイズでは、アスコルビン酸ペルオキシダーゼとペルオキシレドキシンは増加したが、グルタチオンレダクターゼは変動しなかった。
(2)ペルオキシレドキシンは、冠水ストレスで増加し、照射ダイズにおいて更に増加した。
(3)アスコルビン酸ペルオキシダーゼは、冠水ストレスで減少するが、ミリ波照射により冠水ストレス下でも未冠水のレベルまで回復した。
(4)グルタチオンレダクターゼは、ミリ波照射及び冠水処理の有無で変化しなかった。
(5)特にアスコルビン酸ペルオキシダーゼは、冠水ダイズの生長と同様な増減を示し、冠水耐性と関係していることが示唆される。
【0080】
したがって、本発明に係るミリ波照射によるダイズの生長促進方法は、常温・常湿の環境下において平均照射強度0.06~0.51mW/cm2(出力パワー5~40mW)のミリ波をダイズ種子に10~40分間照射した後、当該ダイズ種子を播種して生長中のダイズの含むアスコルビン酸ペルオキシダーゼ及びペルオキシレドキシンを増加させることを特徴とする。
【0081】
また、本発明に係るミリ波照射による冠水ダイズの生長促進方法は、常温・常湿の環境下において平均照射強度0.06~0.51mW/cm2(出力パワー5~40mW)のミリ波をダイズ種子に10~30分間照射した後、当該ダイズ種子を播種して生長中のダイズを冠水させて、当該ダイズの含むアスコルビン酸ペルオキシダーゼ及びペルオキシレドキシンを増加させることを特徴とし、特に、冠水ストレスにより減少するアスコルビン酸ペルオキシダーゼの蓄積量を回復させることができる。
(E-2)解糖系に関与するタンパク質群
【実施例6】
【0082】
プロテオミクス解析を行い、量的に変化した解糖系に関与するタンパク質のマッピングを行った(非特許文献6参照)。更に、その真偽を検証するために、抗原抗体反応を行い、活性酸素消去系に関与するタンパク質群の蓄積量を可視化した(実験7;
図6)。
【0083】
プロテオミクス解析の結果、フルクトースビスリン酸アルドラーゼとグリセルアルデヒド3リン酸脱水素酵素は、ミリ波照射で増加することが分かる。冠水処理により更に増加し、ミリ波照射により対照レベルまで回復することが明らかである。また、トリオースリン酸イソメラーゼがミリ波照射により減少することが明らかである(非特許文献6参照)。その真偽を検証するために、次の実験7で抗原抗体反応を行った。
【0084】
(実験7)
[解糖系に関与するタンパク質群の蓄積量(抗原抗体反応)]
解糖系に関与するフルクトースビスリン酸アルドラーゼ、トリオースリン酸イソメラーゼ、グリセルアルデヒド3リン酸脱水素酵素の抗体を用いて、抗原抗体反応を行い、タンパク質の蓄積量を解析した。抗原抗体反応によるタンパク質群の蓄積量の測定(実験7)は、上記実施例5の(実験6)と同様の手順で行った。
【0085】
図6の右側に表示するデータは、3つの独立した生物学的反復の結果であり、実験6と同様に、左側4つのデータは非冠水ダイズに対するデータ、右側4つのデータは冠水処理を行ったダイズに対するデータであり、夫々左側から出力パワー0、5、10、20mW(夫々、平均照射強度0、0.06、0.13、0.25mW/cm
2)のミリ波照射を行った場合のタンパク質群の蓄積量を表している。
図6の左側に表示する写真は、
図6の右側に表示するデータと対応している。また、
図6の右側に表示するデータは、3つの独立した生物学的反復からの平均±標準誤差として示されている。
【0086】
この結果、以下のことが明らかになった。すなわち、
(1)非冠水ダイズでは、トリオースリン酸イソメラーゼはミリ波照射により増加したが、グリセルアルデヒド3リン酸脱水素酵素は変動しなかった。
(2)トリオースリン酸イソメラーゼとグリセルアルデヒド3リン酸脱水素酵素は、冠水ストレスにより増加し、ミリ波照射により冠水下で更に増加した。
(3)グリセルアルデヒド3リン酸脱水素酵素には、ストレスへの耐性の獲得機能も報告されており、ミリ波照射により、ストレス耐性を獲得したことが示唆される。
【0087】
したがって、本発明に係るミリ波照射によるダイズの生長促進方法は、常温・常湿の環境下において平均照射強度0.06~0.51mW/cm2(出力パワー5~40mW)のミリ波をダイズ種子に10~40分間照射した後、当該ダイズ種子を播種して生長中のダイズの含むトリオースリン酸イソメラーゼを増加させることを特徴とする。
【0088】
また、本発明に係るミリ波照射による冠水ダイズの生長促進方法は、常温・常湿の環境下において平均照射強度0.06~0.51mW/cm2(出力パワー5~40mW)のミリ波をダイズ種子に10~30分間照射した後、当該ダイズ種子を播種して生長中のダイズを冠水させて、当該ダイズの含むトリオースリン酸イソメラーゼ及びグリセルアルデヒド3リン酸脱水素酵素を増加させることを特徴とする。
(E-3)糖代謝系に関与するタンパク質群
【実施例7】
【0089】
プロテオミクス解析を行い、量的に変化した糖代謝系に関与するタンパク質のマッピングを行った(非特許文献6参照)。その結果、トレハロース合成に関与する酵素類の蓄積量は冠水ストレスにより減少するが、ミリ波照射により増加した。すなわち、プロテオミクス解析結果のKEGG解析により、ダイズ種子にミリ波照射後、播種したダイズは冠水下でトレハロース合成に関与するタンパク質群が増加した。
【0090】
そこで、以下の実験8では、未照射ダイズにおいて、冠水時にトレハロースを添加することによる生長への影響を解析した(
図7)。
【0091】
(実験8)
[トレハロース添加による冠水・未照射のダイズの生長]
図7(a)は、左側から非冠水/ミリ波未照射、冠水処理/ミリ波未照射、冠水処理にトレハロース添加/ミリ波未照射、冠水処理/ミリ波照射を行ったダイズの写真図である。また、
図7(b)は、
図7(a)で撮影されたダイズの長さを表すグラフ図、
図7(c)は、同じく
図7(a)で撮影されたダイズの重量を表すグラフ図である。
【0092】
この結果、以下のことが明らかになった。すなわち、
(1)ミリ波照射したダイズ種子を播種後、冠水処理したダイズは、冠水後の水除去により生長の回復を示す。
(2)未照射ダイズにおいて、冠水時にトレハロースを添加することにより、水除去後、生長の回復を示した。
(3)したがって、ミリ波照射は、トレハロースの合成に関するタンパク質群を蓄積し、冠水耐性を付与することが示唆された。
【0093】
したがって、本発明に係るミリ波照射による冠水ダイズの生長促進方法は、常温・常湿の環境下において平均照射強度0.06~0.51mW/cm2(出力パワー5~40mW)のミリ波をダイズ種子に10~30分間照射した後、当該ダイズ種子を播種して生長中のダイズを冠水させて、当該ダイズの含む糖代謝系のトレハロース合成に関与するタンパク質群を増加させることを特徴とする。更に、本発明に係る冠水ダイズの生長促進方法は、ミリ波を照射しないで播種したダイズ種子の冠水下での生長を促進する方法であって、ダイズ種子が播種されて生長中のダイズが冠水の際に、トレハロースを添加する冠水ダイズの生長促進方法である。
(E-4)小括(代謝経路に関与するタンパク質群の蓄積量の解析)
【0094】
以上のように、本発明では、上記実験2~8を行い、ダイズ種子へのミリ波照射の有無と、播種後の生長中のダイズの冠水処理の有無が、ダイズの生長促進に与える影響を解析した。また、ミリ波を照射しないで播種した生長中のダイズが冠水の際に、トレハロースを添加して、ダイズの生長促進に与える影響を解析した。
図8は、ミリ波照射・冠水ダイズ(左)、ミリ波未照射・冠水ダイズ(中)、ミリ波未照射・冠水時にトレハロースを添加したダイズ(右)の、夫々実験経過と結果を表すフロー図である。
【0095】
図8に示すように、ダイズ種子へのミリ波照射の有無と、播種後のダイズの冠水処理の有無等により、ダイズの生長促進に関与したと考えられるタンパク質群は、以下の通りであった。
【0096】
本発明のミリ波照射により生長が促進されるダイズ種子は、常温・常湿の環境下において、平均照射強度0.06~0.51mW/cm2(出力パワー5~40mW)のミリ波を10~40分間照射した後、播種して生長中のダイズに含まれるタンパク質群が増減することを特徴とし、そのタンパク質群は、
(1)活性酸素消去系に関与するアスコルビン酸ペルオキシダーゼ、
(2)活性酸素消去系に関与するペルオキシレドキシン、
(3)解糖系に関与するトリオースリン酸イソメラーゼ、
のいずれか1以上のタンパク質又はタンパク質群である。
【0097】
また、本発明のミリ波照射により生長が促進される冠水ダイズ種子は、常温・常湿の環境下において、平均照射強度0.06~0.51mW/cm2(出力パワー5~40mW)のミリ波を10~30分間照射した後、播種して生長中のダイズを冠水させて、当該ダイズの含むタンパク質群が増減することを特徴とするダイズ種子であって、当該タンパク質群が、
(1)活性酸素消去系に関与するアスコルビン酸ペルオキシダーゼ、
(2)活性酸素消去系に関与するペルオキシレドキシン、
(3)解糖系に関与するトリオースリン酸イソメラーゼ、
(4)解糖系に関与するグリセルアルデヒド3リン酸脱水素酵素、
(5)糖代謝系のトレハロース合成に関与するタンパク質群
のいずれか1以上のタンパク質又はタンパク質群である。
【0098】
更に、本発明に係る生長が促進される冠水ダイズは、ミリ波を照射しないで播種したダイズ種子の冠水下での生長が促進されたダイズ種子であって、ダイズ種子が播種されて生長中のダイズが冠水の際に、トレハロースを添加した冠水ダイズである。
(F)植物種子にミリ波を照射するミリ波照射システム
【0099】
[ミリ波照射システム]
上記
図9は、Gunn発振器を用いたミリ波照射の実験装置の正面模式図(上)とその平面写真図(下)である。以下、
図9を例として、本発明に係る植物種子にミリ波を照射するミリ波照射システム1について説明する。
【0100】
このような本発明に係る植物種子にミリ波を照射するミリ波照射システム1は、
図9のように、ミリ波を発振するミリ波光源(Gunn発振器)12を含むミリ波照射装置10と、鉛直方向に単層となるように植物種子を動径方向に密に配列し得る透明容器20と、を含む。そして、このミリ波照射装置10は、透明容器20の鉛直方向から、ミリ波を反鉛直方向に透明容器20に照射することができる。そのため、透明容器20を固定具22に固定してもよい。また、ミリ波照射装置10から放射されるミリ波が、できるだけ均等に透明容器20内に配列された植物種子に照射されるようにするため、透明容器20は平面視が円形であるのが望ましい。
【0101】
ミリ波照射システム1において、ミリ波照射装置10は、ミリ波光源12と、ミリ波光源12から放射されるミリ波を導波する導波管16と、導波管16により導波されたミリ波を空間に放射するホーンアンテナ18と、を備える。ミリ波光源12の前方には、ミリ波光源12から放射されたミリ波の逆進を防ぐアイソレーター(図示せず)を配置するのが望ましい。また、ミリ波光源12とホーンアンテナ18間には、
図9のように、ミリ波光源12から放射されたミリ波の強度を調整する調整器14が挿入されてもよい。また、ミリ波光源12から発振されたミリ波を閉じ込める金属容器からなる共振器(図示せず)を配置してもよい。
【0102】
本発明に係る植物種子にミリ波を照射するミリ波照射システム1は、透明容器20内に配列された植物種子にミリ波に、できるだけ均一なミリ波が均等に照射されるようにするため、
(1)透明容器20とホーンアンテナ18間の距離、
(2)透明容器20の動径方向の長さ(又は透明容器20の直径)、
(3)ホーンアンテナ18により放射するミリ波の放射角、
を調整することにより、透明容器20とミリ波照射装置10の配置を最適化することができる。本発明のミリ波照射システム1においては、ホーンアンテナ18から透明容器20に対して反鉛直方向に放射されるミリ波の強度が、透明容器20の重心位置で最大強度となり、透明容器20の端部で最大強度のe-2となるガウス分布となるように上記(1)~(3)を調整し、透明容器20とミリ波照射装置10とを配置する。
【0103】
なお、本発明に係る植物種子にミリ波を照射するミリ波照射システム1において、ミリ波光源12はGunn発振器であってよく、高出力のミリ波が必要であれば、ミリ波光源12としてジャイロトロンを使用してもよい。
【0104】
上述のように、本発明の冠水ダイズの生長促進方法を確立するに当たり、ミリ波照射は、
図9のように、光源としてCaristrom社製のGunn発振器12を用いたミリ波照射装置10を用いて行った。このGunn発振器12は、79-115GHzの周波数範囲で70~80mWの出力を提供するが、本発明に係る実験では、周波数110GHz及び減衰器によって調整された出力電力で、フリーランで動作した 。そして、ミリ波は、17度の片側放射角を持つホーンアンテナ18によって自由空間に放射された。
【0105】
以上、本発明に係るダイズの生長促進方法、ミリ波照射により冠水耐性を獲得したダイズ種子、植物種子にミリ波を照射するミリ波照射システムについて説明したが、本発明は上記実施形態や実施例に限定されるものではない。本発明に係るミリ波照射を行う装置、システムを構成する材料、材質、種類等は特に限定されず、その寸法等も適宜変更可能である。
【0106】
その他、本発明は、その主旨を逸脱しない範囲で当業者の知識に基づき種々の改良、修正、変更を加えた態様で実施できるものである。
【産業上の利用可能性】
【0107】
本発明に係るミリ波照射を行ったダイズ種子は、ダイズ栽培において冠水被害を受ける可能性のあるダイズ種子に利用することができる。
【符号の説明】
【0108】
1:ミリ波照射システム
10:ミリ波照射装置
12:ミリ波光源
14:強度調整器
16:導波管
18:ホーンアンテナ
20:透明容器(シャーレ)
22:固定具