(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-16
(45)【発行日】2024-05-24
(54)【発明の名称】アルミニウム合金製ファスニング部材、ファスナーチェーン及びアルミニウム合金製ファスニング部材の製造方法
(51)【国際特許分類】
C23C 22/66 20060101AFI20240517BHJP
A44B 17/00 20060101ALI20240517BHJP
A44B 1/02 20060101ALI20240517BHJP
A44B 19/00 20060101ALN20240517BHJP
【FI】
C23C22/66
A44B17/00
A44B1/02 A
A44B19/00
(21)【出願番号】P 2020116565
(22)【出願日】2020-07-06
【審査請求日】2023-05-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000006828
【氏名又は名称】YKK株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000232656
【氏名又は名称】日本表面化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】瓜田 侑己
(72)【発明者】
【氏名】荻原 敦
(72)【発明者】
【氏名】土田 茂
(72)【発明者】
【氏名】廣見 千賀子
(72)【発明者】
【氏名】荒 亮多
(72)【発明者】
【氏名】長沢 壮平
(72)【発明者】
【氏名】香取 光臣
(72)【発明者】
【氏名】保坂 美沙子
【審査官】▲辻▼ 弘輔
(56)【参考文献】
【文献】特開昭57-093003(JP,A)
【文献】特許第6004217(JP,B1)
【文献】国際公開第2017/047105(WO,A1)
【文献】特開2004-169120(JP,A)
【文献】特開昭54-107438(JP,A)
【文献】特開昭49-022350(JP,A)
【文献】特開平09-296281(JP,A)
【文献】特開平05-237450(JP,A)
【文献】特開2022-014297(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 22/00-22/86
A44B 1/00-9/20
A44B 13/00-18/00
A44B 19/00-19/64
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マンガンを成分元素として含む化成皮膜を備えたアルミニウム合金製ファスニング部材であって、
前記化成皮膜は、JIS Z8781-4(2013)にて規定されるCIELAB色空間において、
0≦a
*≦
10、
5≦b
*≦
18、及び、45≦L
*≦
60の色調範囲を満たすアルミニウム合金製ファスニング部材。
【請求項2】
前記化成皮膜は、マンガン元素を0質量%より多く35質量%以下含む請求項
1に記載のアルミニウム合金製ファスニング部材。
【請求項3】
前記化成皮膜は、平均膜厚が0.05μm以上3.00μm以下である請求項1
または2に記載のアルミニウム合金製ファスニング部材。
【請求項4】
前記化成皮膜の上に、クリア塗膜を備えており、
前記クリア塗膜の平均膜厚が、1.0μm以上40μm以下である請求項1~
3のいずれか一項に記載のアルミニウム合金製ファスニング部材。
【請求項5】
前記アルミニウム合金は、一般式:Al
aSi
bMg
c(a、b、cは質量%で、aは残部、0.1≦b≦1.5、0.2≦c≦5.6、不可避的不純物を含み得る)で示される組成を有する請求項1~
4のいずれか一項に記載のアルミニウム合金製ファスニング部材。
【請求項6】
スライドファスナー用エレメント、スライドファスナー用スライダー、スライドファスナー用止具、又はボタンである請求項1~
5のいずれか一項に記載のアルミニウム合金製ファスニング部材。
【請求項7】
マンガンを成分元素として含む化成皮膜を備えたアルミニウム合金製ファスニング部材であって、
前記化成皮膜は、JIS Z8781-4(2013)にて規定されるCIELAB色空間において、-3≦a
*
≦12、-5≦b
*
≦35、及び、45≦L
*
≦80の色調範囲を満たすアルミニウム合金製ファスニング部材と、
複数の糸で構成されているファスナーテープと、
を備え、
前記アルミニウム合金製ファスニング部材は、スライドファスナー用エレメントであり、前記スライドファスナー用エレメントが前記ファスナーテープに取り付けられており、
前記ファスナーテープに残留するマンガン元素が90ppm未満であるファスナーチェーン。
【請求項8】
アルミニウム合金製ファスニング部材を、過マンガン酸若しくはその塩と、無機酸及びその塩のいずれか一方又は両方と、縮合リン酸塩と、を含む化成処理用金属着色液に浸漬することで、前記マンガンを成分元素として含む化成皮膜を形成する工程を含む、
マンガンを成分元素として含む化成皮膜を備えたアルミニウム合金製ファスニング部材であって、
前記化成皮膜は、JIS Z8781-4(2013)にて規定されるCIELAB色空間において、-3≦a
*
≦12、-5≦b
*
≦35、及び、45≦L
*
≦80の色調範囲を満たすアルミニウム合金製ファスニング部材の製造方法。
【請求項9】
前記過マンガン酸若しくはその塩が、過マンガン酸、過マンガン酸ナトリウム、過マンガン酸カリウム、過マンガン酸亜鉛、過マンガン酸マグネシウム、過マンガン酸カルシウム、過マンガン酸アンモニウム、又はこれらの組み合わせである請求項
8に記載のアルミニウム合金製ファスニング部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム合金製ファスニング部材、ファスナーチェーン及びアルミニウム合金製ファスニング部材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、アルミニウム合金の着色において、陽極酸化や陽極酸化皮膜に染料を吸着させる方法が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、アルミニウム合金の素地表面に形成した電解発色又は自然発色による発色皮膜を、電解着色可能な皮膜構造とした後、電解着色を行って、色を重ね合わせて新たな色調の皮膜を得ることを特徴とするアルミニウム合金の電解着色方法が開示されている。そして、このような構成によれば、従来の電解着色方法では得られない様々な中間色を含む種々の色調を得ることができると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載されたアルミニウム合金の着色技術では、マロン酸、マレイン酸、シュウ酸、スルホサリチル酸等の有機酸浴中、或いは硫酸にSn、Mn、Co、Cu等の金属塩を添加した浴中で化成した発色皮膜が形成されている。また、当該金属塩として、具体的には、実施例において硫酸ニッケルを使用したことが記載されている。
【0006】
このように、従来、種々の金属塩を用いて化成皮膜を形成することで、アルミニウム合金の表面を着色しているが、アルミニウム合金の表面着色技術については更なる開発の余地がある。
【0007】
本発明は、着色皮膜として新規な化成皮膜を有するアルミニウム合金製ファスニング部材、ファスナーチェーン及びアルミニウム合金製ファスニング部材の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は一側面において、マンガンを成分元素として含む化成皮膜を備えたアルミニウム合金製ファスニング部材であって、前記化成皮膜は、JIS Z8781-4(2013)にて規定されるCIELAB色空間において、-3≦a*≦12、-5≦b*≦35、及び、45≦L*≦80の色調範囲を満たすアルミニウム合金製ファスニング部材である。
【0009】
本発明のアルミニウム合金製ファスニング部材は一実施形態において、前記化成皮膜は、JIS Z8781-4(2013)にて規定されるCIELAB色空間において、0≦a*≦10、5≦b*≦25、及び、45≦L*≦60の色調範囲を満たす。
【0010】
本発明のアルミニウム合金製ファスニング部材は別の一実施形態において、前記化成皮膜は、マンガン元素を0質量%より多く35質量%以下含む。
【0011】
本発明のアルミニウム合金製ファスニング部材は更に別の一実施形態において、前記化成皮膜は、平均膜厚が0.05μm以上3.00μm以下である。
【0012】
本発明のアルミニウム合金製ファスニング部材は更に別の一実施形態において、前記化成皮膜の上に、クリア塗膜を備えており、前記クリア塗膜の平均膜厚が、1.0μm以上40μm以下である。
【0013】
本発明のアルミニウム合金製ファスニング部材は更に別の一実施形態において、前記アルミニウム合金は、一般式:AlaSibMgc(a、b、cは質量%で、aは残部、0.1≦b≦1.5、0.2≦c≦5.6、不可避的不純物を含み得る)で示される組成を有する。
【0014】
本発明のアルミニウム合金製ファスニング部材は更に別の一実施形態において、スライドファスナー用エレメント、スライドファスナー用スライダー、スライドファスナー用止具、又はボタンである。
【0015】
本発明は別の一側面において、本発明の実施形態に係るアルミニウム合金製ファスニング部材と、複数の糸で構成されているファスナーテープとを備え、前記アルミニウム合金製ファスニング部材は、スライドファスナー用エレメントであり、前記スライドファスナー用エレメントが前記ファスナーテープに取り付けられており、前記ファスナーテープに残留するマンガン元素が90ppm未満であるファスナーチェーンである。
【0016】
本発明は更に別の一側面において、アルミニウム合金製ファスニング部材を、過マンガン酸若しくはその塩と、無機酸及びその塩のいずれか一方又は両方と、縮合リン酸塩と、を含む化成処理用金属着色液に浸漬することで、前記マンガンを成分元素として含む化成皮膜を形成する工程を含む本発明の実施形態に係るアルミニウム合金製ファスニング部材の製造方法である。
【0017】
本発明のアルミニウム合金製ファスニング部材の製造方法は一実施形態において、前記過マンガン酸若しくはその塩が、過マンガン酸、過マンガン酸ナトリウム、過マンガン酸カリウム、過マンガン酸亜鉛、過マンガン酸マグネシウム、過マンガン酸カルシウム、過マンガン酸アンモニウム、又はこれらの組み合わせである。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、着色皮膜として新規な化成皮膜を有するアルミニウム合金製ファスニング部材、ファスナーチェーン及びアルミニウム合金製ファスニング部材の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の実施形態に係るスライドファスナーの外観模式図である。
【
図2】
図1に示されるスライドファスナーのエレメント、上止具及び下止具の製造方法及びファスナーテープの芯部への取付けの仕方を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明のアルミニウム合金製ファスニング部材、ファスナーチェーン及びアルミニウム合金製ファスニング部材の製造方法の実施形態について説明するが、本発明は、これに限定されて解釈されるものではなく、本発明の範囲を逸脱しない限りにおいて、当業者の知識に基づいて、種々の変更、修正、改良を加え得るものである。
【0021】
〔アルミニウム合金製ファスニング部材〕
本発明の実施形態に係るアルミニウム合金製ファスニング部材は、アルミニウム合金で形成されたファスニング部材の表面に、マンガンを成分元素として含む化成皮膜を備えている。当該マンガンを成分元素として含む化成皮膜が着色皮膜となり、アルミニウム合金で形成されたファスニング部材の表面を着色することができる。
【0022】
<アルミニウム合金>
ファスニング部材の材質であるアルミニウム合金としては、Al-Si-Mg系合金、Al-Cu-Mg系合金、Al-Mn系合金、Al-Si系合金、Al-Mg系合金、又はAl-Zn-Mg系合金等を使用することができる。本発明の実施形態に係るアルミニウム合金製ファスニング部材は、特に、当該アルミニウム合金として、Al-Si-Mg系合金を使用することが好ましく、Al-Mg系合金を使用することがより好ましい。具体的には当該アルミニウム合金が、一般式:AlaSibMgc(a、b、cは質量%で、aは残部、0.1≦b≦1.5、0.2≦c≦5.6、不可避的不純物を含み得る)で示される組成を有するのが好ましい。
【0023】
Siは、Alマトリックス中に一度、固溶させた後、時効熱処理を行うことによりMgと極微小な金属間化合物を形成し、合金の機械的性質(強度、硬度)を向上させる効果がある。Siの組成割合が0.1質量%以上であると、アルミニウム合金の強度、硬度が向上するため好ましい。Siの組成割合が1.5質量%以下であると、Si単体の粗大な析出又は晶出を抑制することができ、塑性変形における伸びが大きくなり加工性を向上させる。Siの組成割合(b)は0.25(質量%)≦b≦0.9(質量%)、すなわち0.25質量%以上0.9質量%以下であるのがより好ましく、0.25質量%以上0.35質量%未満であるのが更により好ましい。
【0024】
Mgは、熱処理を行うことによりSiと極微小な金属間化合物を形成し、合金の機械的性質(強度、硬度)を向上させる効果がある。また、マトリックスであるAl中に固溶することにより合金の機械的性質(強度、硬度)を向上させる効果がある。Mgの組成割合(c)は0.8(質量%)≦c≦5.6(質量%)、すなわち0.8質量%以上5.6質量%以下であるのがより好ましく、4.5質量%以上5.6質量%以下であるのが更により好ましい。適量を添加した場合には、冷間加工後の加熱される工程(水洗・乾燥など)における軟化を防ぐことができる。特に、冷間圧延によって導入された転位の移動を時効熱処理によりAlマトリックス中に析出した原子(Mg)が妨げるため熱処理による強度低下を抑えることができる。
【0025】
不可避的不純物は、原料中に存在したり、製造工程において不可避的に混入したりするもので、本来は不要なものであるが、微量であり、特性に影響を及ぼさないため許容されている不純物のことである。本発明において、不可避的不純物として許容される各不純物元素の含有量は一般に0.1質量%以下であり、好ましくは0.05質量%以下である。
【0026】
<化成皮膜>
本発明の実施形態に係るアルミニウム合金製ファスニング部材の化成皮膜の成分元素として含まれるマンガンは、単体のマンガン(Mn)及び/又はマンガン化合物として含まれていてもよい。マンガン化合物としては、マンガン酸化物であってもよい。化成皮膜におけるマンガン及び/又はマンガン化合物の含有量は、所望する色調によって適宜調製することができる。通常、化成皮膜におけるマンガン及び/又はマンガン化合物の含有量を大きくするほど濃い色調となり、小さくするほど薄い色調となる。本発明の実施形態に係るアルミニウム合金製ファスニング部材の化成皮膜は、マンガン元素を0質量%より多く35質量%以下含んでもよく、10質量%以上30質量%以下含んでもよい。
【0027】
本発明の実施形態に係るアルミニウム合金製ファスニング部材は、JIS Z8781-4(2013)にて規定されるCIELAB色空間において、-3≦a*≦12、-5≦b*≦35、及び、45≦L*≦80の色調範囲を満たす。なお、a*はマゼンタ-緑系の色調(+マゼンタ寄り、-は緑寄り)を示す値であり、b*は黄-青系の色調(+は黄寄り、-は青寄り)を示す値である。L*は明度を示し、値が大きいと光沢感が高い。アルミニウム合金で形成されたファスニング部材の表面に、上記色調範囲を満たす化成皮膜を形成することで、黄色~茶色系の色調を得ることができる。
【0028】
本発明の実施形態に係るアルミニウム合金製ファスニング部材は、さらに、化成皮膜が、JIS Z8781-4(2013)にて規定されるCIELAB色空間において、0≦a*≦10、5≦b*≦25、及び、45≦L*≦60の色調範囲を満たすと、より美観性が向上するため好ましい。
【0029】
本発明の実施形態に係るアルミニウム合金製ファスニング部材の化成皮膜は、平均膜厚が0.05μm以上3.00μm以下であるのが好ましい。化成皮膜の当該平均膜厚は、以下の方法で評価することができる。まず、化成皮膜の当該黄色~茶色系の色調を呈する領域の断面を常法により研磨後、SEM等の電子顕微鏡で観察し、等間隔(例えば、互いに1μmの間隔)に任意の5点を選ぶ。続いて、当該5点における化成皮膜の膜厚を測定し、それらの平均値を算出し、黄色~茶色系の色調を呈する領域における平均膜厚とする。化成皮膜の当該平均膜厚が0.05μm未満であると、膜厚が薄いために母材の色が表出してシルバー色を呈してしまう。化成皮膜の当該平均膜厚が0.05μm以上であると、アルミニウム合金製ファスニング部材の表面に所望する黄色~茶色系の色調をより確実に着色することができる。化成皮膜の当該平均膜厚が3.00μm以下であると、アルミニウム合金製ファスニング部材の表面に所望する黄色~茶色系の色調をより確実に着色しながら化成皮膜の形成に必要なコストを抑えることができる。化成皮膜の当該平均膜厚は、より好ましくは0.1μm以上2.0μm以下である。
【0030】
本発明の実施形態に係るアルミニウム合金製ファスニング部材は、化成皮膜の上に、クリア塗膜を備えており、クリア塗膜の平均膜厚が、1.0μm以上40μm以下であるのが好ましい。クリア塗膜の平均膜厚が1.0μm以上であると、化成皮膜の色調保持(耐久性)が良好となる。クリア塗膜の平均膜厚が40μm以下であると、クリア塗膜を設けても化成皮膜の色調の変化を許容範囲に収めることが可能となる。クリア塗膜の平均膜厚は、3.0μm以上20μm以下であるのがより好ましい。クリア塗膜は透明の塗膜であり、構成材料は特に限定されず公知の材料を用いることができる。例えば、クリア塗膜は、エポキシ、アクリル、ウレタン、アルキド等の公知の樹脂材料などで形成されていてもよい。
【0031】
本発明の実施形態に係るアルミニウム合金製ファスニング部材は、スライドファスナー用エレメント、スライドファスナー用スライダー、スライドファスナー用止具、又はボタンであってもよい。
【0032】
<スライドファスナー用エレメント、スライドファスナー用スライダー、スライドファスナー用止具、ボタン>
図1に、本発明の実施形態に係るスライドファスナー10の外観模式図を示す。
図1に示すスライドファスナー10は、あくまで本発明の一実施形態を示すものであり、当該構成に限定されるものではない。スライドファスナー10は、一側端側に芯部2が形成された一対のファスナーテープ1とファスナーテープ1の芯部2に所定の間隔をおいてかしめ固定(装着)されたエレメント3(スライドファスナー用エレメント)と、エレメント3の上端及び下端でファスナーテープ1の芯部2にかしめ固定された上止具4(スライドファスナー用上止具)及び下止具5(スライドファスナー用下止具)と、対向する一対のエレメント3間に配され、エレメント3の噛合及び開離を行うための上下方向に摺動自在なスライダー6(スライドファスナー用スライダー)を備える。一本のファスナーテープ1の芯部2にエレメント3が装着された状態のものをスライドファスナーストリンガーといい、一対のファスナーテープ1の芯部2に装着されたエレメント3が噛合状態となっているものをスライドファスナーチェーン7という。このように、スライドファスナー10のエレメント3(スライドファスナーチェーン7)、スライダー6、上止具4及び下止具5として本発明の実施形態に係るアルミニウム合金製ファスニング部材を用いることで、スライドファスナーのエレメント(スライドファスナーチェーン)、スライダー、及び止具に所望の着色を行うことができ、例えば黄色~茶色系の色調を施して美観に優れたスライドファスナーを製造することができる。
【0033】
本発明の実施形態に係るファスナーチェーン7は、上述の通り、本発明の実施形態に係るエレメント3(アルミニウム合金製ファスニング部材)と、ファスナーテープ1とを備え、エレメント3がファスナーテープ1に取り付けられた構成を有している。ここで、ファスナーテープ1が複数の糸で構成された繊維状構造を有しているとき、ファスナーテープに残留するマンガン元素が90ppm未満、好ましくは40ppm以下に制御されている。
【0034】
図2は、
図1に示されるスライドファスナーのエレメント3、上止具4及び下止具5の製造方法及びファスナーテープ1の芯部2への取付けの仕方を示す模式図である。
図2に示すようにエレメント3は、断面略Y字状からなる金属製の異形線8を所定寸法ごとに切断し、これをプレス成形することにより、係合頭部9を形成し、その後、ファスナーテープ1の芯部2へ両方の脚部14をかしめることにより、装着される。上止具4は、断面矩形状の金属製の矩形線11(平角線)を所定寸法ごとに切断し、曲げ加工により略断面コ字状に成形し、その後、ファスナーテープ1の芯部2へかしめることにより、装着される。下止具5は、断面略X字状からなる金属製の異形線12を所定寸法ごとに切断し、その後、ファスナーテープ1の芯部2へかしめることにより、装着される。なお、
図2においては、金属製のエレメント3、上下止具4、5が、同時にファスナーテープ1に装着されるように見えるが、実際は、まず、ファスナーテープ1に所定領域ごと間欠的に金属製のエレメント3を取付けてファスナーストリンガーを作製し、一対のファスナーストリンガーの対向するエレメント列を噛み合わせてファスナーチェーンを作製する。次いで、ファスナーチェーンのエレメント3が取着されていない領域に所定の上下止具4又は5が装着される。
【0035】
本発明の実施形態に係るアルミニウム合金製ファスニング部材はスライドファスナーに用途限定されるわけではなく、スナップファスナー、及び、その他の金属製ファスナー用の部材としても適用可能である。また、本発明の実施形態に係るアルミニウム合金製ファスニング部材がボタンであってもよい。ボタンの形態は特に限定されず、公知のボタンに適用可能である。
【0036】
〔アルミニウム合金製ファスニング部材の製造方法〕
次に、本発明の実施形態に係るアルミニウム合金製ファスニング部材の製造方法について詳述する。まず、過マンガン酸若しくはその塩と、無機酸及びその塩のいずれか一方又は両方と、縮合リン酸塩とを含む化成処理用金属着色液が入った浴槽を準備する。次に、浴槽中の化成処理用金属着色液の温度を制御しながら、処理対象のアルミニウム合金製ファスニング部材を化成処理用金属着色液に浸漬する。所定時間経過後、浴槽から処理対象の金属を引き上げることで、表面に着色皮膜である化成皮膜が形成され、所望の色調に着色されたアルミニウム合金製ファスニング部材を得る。このように、本発明の実施形態に係るアルミニウム合金製ファスニング部材の製造方法によれば、処理対象のアルミニウム合金製ファスニング部材を、過マンガン酸若しくはその塩と、無機酸及びその塩のいずれか一方又は両方と、縮合リン酸塩とを含む化成処理用金属着色液に浸漬するだけで、所望の色調に着色することができる。このため、アルミニウム合金製ファスニング部材の表面を着色する際に、当該アルミニウム合金製ファスニング部材の表面に酸化皮膜を形成しておく必要もなく、電解によって着色する必要もなくなり、処理効率が良好となる。
【0037】
また、本発明の実施形態に係るアルミニウム合金製ファスニング部材の製造方法において、処理対象のアルミニウム合金製ファスニング部材を化成処理用金属着色液に浸漬する以外に、例えば、金属着色液の吹き付け工程によって、表面に化成処理用金属着色液を接触させて、アルミニウム合金製ファスニング部材の表面を着色してもよい。
【0038】
<化成処理用金属着色液>
(過マンガン酸若しくはその塩)
化成処理用金属着色液における過マンガン酸若しくはその塩としては、過マンガン酸、過マンガン酸ナトリウム、過マンガン酸カリウム、過マンガン酸亜鉛、過マンガン酸マグネシウム、過マンガン酸カルシウム、過マンガン酸アンモニウム、又はこれらの組み合わせを用いることができる。また、過マンガン酸若しくはその塩としては、過マンガン酸ナトリウム、過マンガン酸カリウムがより好ましい。
【0039】
化成処理用金属着色液における過マンガン酸塩の含有量は、処理対象の金属の種類、及び、どの程度の黄色~茶色系の色調に着色するかによるが、例えば、0.5~50g/Lとすることができる。基本的には、過マンガン酸塩の含有量が少ないほど、金属表面を薄い黄色~濃い黄色系の色調に着色することができる。また、過マンガン酸塩の含有量が多いほど、金属表面を薄い茶色~濃い茶色系の色調に着色することができる。過マンガン酸塩の含有量は、1~30g/Lであることがより好ましく、2~20g/Lであることがより好ましい。
【0040】
化成処理用金属着色液は、後述のように、オキソ酸若しくはその塩等を含んでもよいが、これらの成分を含まない化成処理用金属着色液の場合、特にアルミニウム、アルミニウム合金などの金属表面を、より美観に優れた黄色~茶色系の色調に着色することができる。
【0041】
(無機酸若しくはその塩)
化成処理用金属着色液の無機酸及びその塩は、リン酸、硫酸、硝酸、炭酸、塩酸、及びこれらの塩、又はこれらの組み合わせであるのが好ましい。リン酸、硫酸、硝酸、炭酸、塩酸の塩としては、これらの金属塩、又はアンモニウム塩などを用いることができる。また、無機酸及びその塩としては、リン酸三ナトリウム、硝酸、硝酸銅、塩化亜鉛がより好ましい。
【0042】
化成処理用金属着色液における無機酸及びその塩の含有量は、処理対象の金属の種類、及び、どの程度の黄色~茶色系の色調に着色するかによるが、例えば、0.5~100g/Lとすることができる。基本的には、無機酸及びその塩の含有量が少ないほど、金属表面を薄い黄色~濃い黄色系の色調に着色することができる。また、無機酸及びその塩の含有量が多いほど、金属表面を薄い茶色~濃い茶色系の色調に着色することができる。無機酸及びその塩の含有量は、1~30g/Lであることがより好ましく、2~20g/Lであることがより好ましい。
【0043】
(縮合リン酸塩)
化成処理用金属着色液における縮合リン酸塩は、ピロリン酸カリウム、トリポリリン酸ナトリウム、又はこれらの組み合わせであるのが好ましい。縮合リン酸塩の含有量は、処理対象の金属の種類、及び、どの程度の黄色~茶色系の色調に着色するかによるが、例えば、1~150g/Lとすることができる。基本的には、縮合リン酸塩の含有量が少ないほど、金属表面を薄い黄色~濃い黄色系の色調に着色することができる。また、縮合リン酸塩が多いほど、金属表面を薄い茶色~濃い茶色系の色調に着色することができる。縮合リン酸塩は、3~50g/Lであることがより好ましく、4~40g/Lであることがより好ましい。
【0044】
(オキソ酸若しくはその塩)
化成処理用金属着色液は、更に、オキソ酸若しくはその塩を含んでもよい。化成処理用金属着色液は、オキソ酸若しくはその塩を含んでも、良好な処理効率で前述の処理対象の金属表面を黄色~茶色系の色調に着色することができる。また、化成処理用金属着色液は、オキソ酸若しくはその塩を含むことにより、特に銅、銅合金、鉄、鉄合金、亜鉛、亜鉛合金などの金属の表面を、より美観に優れた黄色~茶色系の色調に着色することができる。
【0045】
オキソ酸若しくはその塩が、過塩素酸、塩素酸、亜塩素酸、次亜塩素酸、臭素酸、ホウ酸、若しくはこれらの塩、又はこれらの組み合わせであるのが好ましい。過塩素酸、塩素酸、亜塩素酸、次亜塩素酸、臭素酸、ホウ酸の塩としては、これらの金属塩、又はアンモニウム塩などを用いることができる。
【0046】
化成処理用金属着色液におけるオキソ酸若しくはその塩の合計含有量は、0.5~100g/Lとすることができる。基本的には、オキソ酸若しくはその塩の合計含有量が少ないほど、金属表面を薄い黄色~濃い黄色系の色調に着色することができる。また、オキソ酸若しくはその塩の合計含有量が多いほど、金属表面を薄い茶色~濃い茶色系の色調に着色することができる。オキソ酸若しくはその塩の合計含有量は、1~50g/Lであることがより好ましく、10~30g/Lであることがより好ましい。
【0047】
(水性媒体)
化成処理用金属着色液は、前述の各種成分に、水性媒体を混合したものであってもよい。水性媒体は、水を主成分とする媒体を示す。水性媒体としては、例えば、水を主成分とし、水と混和可能なアルコール等の有機溶媒を含む媒体が挙げられる。水性媒体は、本発明の実施形態に係る化成処理用金属着色液の調製の際、化成処理用金属着色液の保存の際、又は金属表面を着色した後において、当該金属の着色表面の何らかの特性向上のために有利に作用する各種の成分、又は本発明の効果を実質的に阻害しない各種成分を、必要に応じて含むことができる。例えばpH調整剤、保存安定剤等は、そのような成分の具体例である。
【0048】
<処理温度>
化成処理用金属着色液による処理温度は、10~80℃の範囲が好ましく、10~60℃の範囲がより好ましく、30~60℃の範囲が更により好ましい。処理温度が10℃以上であると表面処理の反応速度が増し、80℃以下であると蒸発による化成処理用金属着色液の液面の低下を抑制することができる。
【0049】
<処理時間>
化成処理用金属着色液による処理時間は、30秒~20分間の範囲が好ましく、1分~20分間の範囲がより好ましく、1分~10分間の範囲が更により好ましい。基本的には、処理時間が短いほど、金属表面を薄い黄色~濃い黄色系の色調に着色することができる。また、処理時間が長いほど、金属表面を薄い茶色~濃い茶色系の色調に着色することができる。
【0050】
<前処理>
金属表面処理を行う際、あらかじめアルミニウム合金製ファスニング部材の脱脂、活性化、表面調整を行うことで、アルミニウム合金製ファスニング部材の外観、耐食性及び化成処理用金属着色液との反応性を向上させることが可能である。
【0051】
<後処理>
金属表面処理後に、ケイ素、樹脂及びワックスからなる群のうちの一種以上を含有するコーティング剤にて後処理を行っても良い。アルミニウム合金製ファスニング部材の表面の所望の色調に影響を与えない範囲において、これらコーティング剤に特に限定はなく、アクリル樹脂、オレフィン樹脂、アルキド樹脂、尿素樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、フッ素樹脂、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリプロピレン、メタクリル樹脂、フェノール樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン、ポリアミド、ポリカーボネート等の樹脂類やケイ酸塩、コロイダルシリカ等を成分とするコーティング剤を用いても良い。これらの樹脂濃度は、0.01~800g/Lが好ましいが、適切な濃度は樹脂の種類により異なる。
【実施例】
【0052】
以下、本発明の実施例を示すが、これらは本発明をより良く理解するために提供するものであり、本発明が限定されることを意図するものではない。
【0053】
〔ファスナーチェーンの着色試験〕
-試験例1-
試験例1のサンプルとして、表1の試験例1に示す合金組成を有するJIS H4040:2015にて規定されるA5056アルミニウム合金製エレメントを、複数の糸で構成された繊維状のファスナーテープに取り付けたスライドファスナーチェーンを処理条件毎に準備し、それぞれ連続する12個のエレメントに対して分析を行った。表1はその平均値を示している。ファスナーテープの延在する面における当該アルミニウム合金製エレメントのサイズは、いずれも4.0mm2であった。
次に、サンプルの表面に、脱脂、水洗を順に行った。
次に、液組成が、過マンガン酸カリウム:30g/Lである化成処理用金属着色液を入れた浴槽を準備し、pHを表1の値に調製した。化成処理用金属着色液の水性媒体は純水を使用した。
【0054】
次に、浴槽中の化成処理用金属着色液を、表1に記載の温度に制御した状態で、サンプルを浸漬した、表1の時間だけ浸漬させた後、サンプルを取り出した。
次に、サンプルの表面を水洗し、続いて乾燥した。
【0055】
-試験例2-
試験例2のサンプルとして、表1の試験例2に示す合金組成を有するアルミニウム合金製エレメントを、試験例1と同様のファスナーテープに取り付けたスライドファスナーチェーンを準備し、それぞれ連続する12個のエレメントに対して分析を行った。表1はその平均値を示している。ファスナーテープの延在する面における当該アルミニウム合金製エレメントのサイズは、いずれも4.0mm2であった。次に、試験例1と同様の化成処理用金属着色液を入れた浴槽を準備し、試験例1と同様の条件でサンプルを浸漬させた後、取り出した。
次に、サンプルの表面を水洗し、続いて乾燥した。
【0056】
-試験例3-
試験例3のサンプルとして、表1の試験例3に示す合金組成を有するアルミニウム合金製エレメントを、試験例1と同様のファスナーテープに取り付けたスライドファスナーチェーンを準備し、それぞれ連続する12個のエレメントに対して分析を行った。表1はその平均値を示している。ファスナーテープの延在する面における当該アルミニウム合金製エレメントのサイズは、いずれも4.0mm2であった。次に、スライドファスナーチェーンを硫酸電解液槽に入れ、電気分解を行い、アルミニウム合金製エレメントの表面に酸化皮膜(アルマイト)を形成した。
次に、サンプルの表面を水洗し、続いて乾燥した。
【0057】
〔色調評価〕
試験例1~3の各サンプルについて、処理後のスライドファスナーチェーンのエレメントの一方の面に対して、池上通信機株式会社製の色彩色差計RTC-21を用いて、0~40℃、85%RH以下の条件で、JIS Z8781-4(2013)にて規定されるCIELAB色空間におけるa*、b*、及びL*を求めた。光源はLED照明を使用した。
また、試験例1~3の各サンプルの外観を目視で観察し、どのような色に見えるかを評価した。なお、試験例2及び3の母材の外観は、試験例1と類似するシルバー色である。
【0058】
〔化成皮膜の平均膜厚評価〕
各試験用サンプルについて、JIS Z8781-4(2013)にて規定されるCIELAB色空間において、-3≦a*≦12、-5≦b*≦35、及び、45≦L*≦80の色調範囲を満たす領域における平均膜厚を以下の方法で評価した。まず、化成皮膜の当該色調範囲を満たす領域の断面を常法により研磨後、走査電子顕微鏡(SEM)で観察し、等間隔(互いに0.1μmの間隔)に任意の5点を選んだ。続いて、当該5点における化成皮膜の膜厚を測定し、それらの平均値を算出し、当該色調範囲を満たす領域における平均膜厚とした。
【0059】
〔化成皮膜の成分評価〕
各試験用サンプルについて、化成皮膜における、マンガンの含有量を以下の方法で評価した。まず、集束イオンビーム(FIB:Focused Ion Beam)加工で薄片に加工後、走査型透過電子顕微鏡(STEM:Scanning Transmission Electron Microscope、株式会社日立ハイテク製 HD-2300A、加速電流200kV)のエネルギー分散型X線分析(EDX:Energy dispersive X-ray spectrometry、AMETEK株式会社製 GENESIS)にて組成分析を行った。
各試験例について、試験条件及び評価結果を表1に示す。
【0060】
【0061】
〔評価結果〕
上記化成処理用金属着色液で処理を行った試験例1、2については、マンガンを成分元素として含む化成皮膜を有しており、各サンプルの表面に着色皮膜を形成することができたことが確認された。なお、ここでいうブロンズとは、アンティークゴールドとも表現されることがある。
マンガンを化成皮膜の成分元素として含まない試験例3については、所望の外観が得られなかった。
【0062】
〔変形例〕
表1に記載の試験例1、2では、最終成形後のエレメントが取り付けられたスライドファスナーチェーンを化成処理用金属着色液に浸漬したため、エレメント全体は目視において同一の色調となった。ところで、異形線材の状態でアルマイト処理をした場合、異形線材の側面にのみアルマイト皮膜が形成されることになり、この異形線材から作製されるエレメントは、脚部にアルマイト皮膜を有し、異形線材の切断後にプレス成形される係合頭部にはアルマイト皮膜が設けられていない。アルマイト皮膜は、アルミニウムを陽極酸化することで形成される蜂の巣状のポーラスな多孔質皮膜に染料や金属塩を吸着させて、封孔処理を行うことで着色するものであるが、本発明の実施形態に係るアルミニウム合金製ファスニング部材に形成された化成皮膜は、アルマイト皮膜上には形成されない特徴がある。そのため、上記アルマイト処理後の異形線材から形成されるエレメントを取り付けたスライドファスナーチェーンに化成処理を施した場合、アルマイト皮膜を有する脚部には化成皮膜が形成されず、アルマイト皮膜を有していない係合頭部には化成皮膜が形成されたエレメントを含むスライドファスナーチェーンが得られた。この時、アルマイト皮膜と化成皮膜を異なる色調とすることで、2色の皮膜を有するエレメントを含む意匠性に富むスライドファスナーチェーンが得られる。
【0063】
〔ファスナーチェーンの着色試験〕
-試験例4-
試験例4のサンプルとして、JIS H4040:2015にて規定されるA5056アルミニウム合金製エレメントを、複数の糸で構成された繊維状のファスナーテープに取り付けたスライドファスナーチェーンを準備した。ファスナーテープの延在する面における当該アルミニウム合金製エレメントのサイズは、4.0mm2であった。
次に、サンプルの表面に、脱脂、水洗を順に行った。
次に、液組成が、過マンガン酸カリウム:30g/Lである化成処理用金属着色液を入れた浴槽を準備し、pHを表2の値に調製した。化成処理用金属着色液の水性媒体は純水を使用した。
【0064】
次に、浴槽中の化成処理用金属着色液を、表2に記載の温度に制御した状態で、サンプルを浸漬した。表2の時間だけ浸漬させた後、サンプルを取り出した。
次に、サンプルの表面を水洗し、続いて乾燥した。
上記手順でサンプルを2つ作製し、それぞれ、ファスナーテープについて、XPSによる組成分析(Quantera II、X線源、単色化Al(1486.6eV)、ビーム径100μm、25W、TOA45°、中和電子銃及びArモノマーイオンによる測定)及びICP-OESによる定量分析(試料0.1gに、硝酸5ml添加してマイクロウェーブで分解し、50mlに定容してY内標準補正にて測定)を行った。表2に、試験結果として、ファスナーテープに残留するマンガン元素の量の平均値を示す。
【0065】
-試験例5-
試験例5のサンプルとして、試験例4と同様のアルミニウム合金製エレメントを、試験例4と同様のファスナーテープに取り付けたスライドファスナーチェーンを準備した。ファスナーテープの延在する面における当該アルミニウム合金製エレメントのサイズは、4.0mm2であった。
次に、サンプルの表面に、脱脂、水洗を順に行った。
次に、液組成が、過マンガン酸カリウム:30g/Lである化成処理用金属着色液を入れた浴槽を準備し、pHを表2の値に調製した。化成処理用金属着色液の水性媒体は純水を使用した。
【0066】
次に、浴槽中の化成処理用金属着色液を、表2に記載の温度に制御した状態で、サンプルを浸漬した。表2の時間だけ浸漬させた後、サンプルを取り出した。
次に、サンプルの表面を水洗し、続いて乾燥した。
上記手順でサンプルを2つ作製し、それぞれ、ファスナーテープについて、XPSによる組成分析及びICP-OESによる定量分析を行った。表2に、試験結果として、ファスナーテープに残留するマンガン元素の量の平均値を示す。
【0067】
-試験例6-
試験例6のサンプルとして、試験例4と同様のアルミニウム合金製エレメントを、試験例4と同様のファスナーテープに取り付けたスライドファスナーチェーンを準備した。ファスナーテープの延在する面における当該アルミニウム合金製エレメントのサイズは、4.0mm2であった。
次に、サンプルの表面に、脱脂、水洗を順に行った。
なお、試験例6のスライドファスナーチェーンは、金属着色液による処理は行わなかった。
上記手順でサンプルを2つ作製し、それぞれ、ファスナーテープについて、XPSによる組成分析及びICP-OESによる定量分析を行った。表2に、試験結果として、ファスナーテープに残留するマンガン元素の量の平均値を示す。
【0068】
【0069】
〔評価結果〕
上記化成処理用金属着色液で処理を行った試験例4については、ファスナーテープにおけるマンガンの残留量が51ppmであり、ファスナーテープにおけるマンガンの残留を良好に抑制することができた。
一方、従来の酸性着色処理である試験例5では、ファスナーテープにおけるマンガンの残留量が1600ppmであり、ファスナーテープにおけるマンガンの残留を抑制することができなかった。
【符号の説明】
【0070】
1 ファスナーテープ
2 芯部
3 エレメント
4 上止具
5 下止具
6 スライダー
7 ファスナーチェーン(スライドファスナーチェーン)
10 スライドファスナー