(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-16
(45)【発行日】2024-05-24
(54)【発明の名称】レーザ加工装置およびレーザ加工装置の光学調整方法
(51)【国際特許分類】
B23K 26/00 20140101AFI20240517BHJP
B23K 26/03 20060101ALI20240517BHJP
B23K 26/04 20140101ALI20240517BHJP
【FI】
B23K26/00 M
B23K26/03
B23K26/04
(21)【出願番号】P 2020140886
(22)【出願日】2020-08-24
【審査請求日】2023-06-23
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】横山 潤
(72)【発明者】
【氏名】浦島 毅吏
(72)【発明者】
【氏名】武智 洋平
【審査官】柏原 郁昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-210578(JP,A)
【文献】特開2015-196169(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0015931(US,A1)
【文献】特開2001-077046(JP,A)
【文献】特表2016-538134(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/00
B23K 26/03
B23K 26/035
B23K 26/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被加工物を加工するためのレーザ光を射出するレーザ光射出部と、
前記被加工物における前記レーザ光の照射位置を測定するための測定光を射出する測定光射出部と、
前記レーザ光の光軸に対する前記測定光の光軸の相対位置を導出する相対位置導出部と、
前記相対位置導出部によって導出された前記相対位置に基づいて、前記レーザ光および前記測定光の少なくとも一方の光路を変化させる光路変化部と、
加工点の深さを測定する測定部とを備え、
前記光路変化部は、
前記測定部によって測定された前記加工点の深さに基づいて、前記被加工物における前記レーザ光の照射位置と前記測定光との照射位置とを合わせるように、前記レーザ光および前記測定光の少なくとも一方の光路を変化させ、
前記被加工物における前記レーザ光の照射位置と前記測定光との照射位置とが合ったときにおける、前記相対位置導出部によって導出された前記相対位置に基づいて、前記レーザ光および前記測定光の少なくとも一方の光路を変化させる、
レーザ加工装置。
【請求項2】
前記レーザ光および前記測定光の少なくとも一方を前記被加工物に向けて反射させるミラーと、
前記ミラーと前記被加工物との間に配置され、前記レーザ光および前記測定光を前記被加工物に収束させるレンズと、をさらに備え、
前記相対位置導出部は、前記ミラーと前記レンズとの間に配置されている、
請求項1に記載のレーザ加工装置。
【請求項3】
前記相対位置導出部は、
前記レーザ光および前記測定光を、前記被加工物に向かう方向以外の方向に向けて反射させる反射部と、
前記反射部によって反射された前記レーザ光および前記測定光を受ける受光部と、を備え、
前記受光部における前記レーザ光の照射位置および前記測定光の照射位置に基づいて前記相対位置を導出する、
請求項1または2に記載のレーザ加工装置。
【請求項4】
前記反射部の前記レーザ光の反射率は、所定値以下となるように設定されている、
請求項3に記載のレーザ加工装置。
【請求項5】
前記相対位置導出部は、前記反射部を複数備えている、
請求項3または請求項4に記載のレーザ加工装置。
【請求項6】
前記測定部は、前記被加工物が前記測定光を反射した光と、前記測定光とが干渉することにより生じる波形に基づいて前記測定光の光路の長さを測定する干渉計である、
請求項1から5のいずれか一項に記載のレーザ加工装置。
【請求項7】
被加工物にレーザ光を射出するレーザ光射出部
、前記被加工物における前記レーザ光の照射位置を測定するための測定光を射出する測定光射出部、
および、加工点の深さを測定する測定部を備えるレーザ加工装置の光学調整方法であって、
前記測定部によって測定された前記加工点の深さに基づいて、前記被加工物における前記レーザ光の照射位置と前記測定光との照射位置とを合わせるように、前記レーザ光および前記測定光の少なくとも一方の光路を変化させ、前記測定光との照射位置とが合っているときに、前記レーザ光の光軸に対する前記測定光の光軸の相対位置を導出する相対位置導出ステップと、
前記相対位置導出ステップにより導出された相対位置と、前記相対位置導出ステップの後に導出された相対位置とに基づいて、前記レーザ光および前記測定光の少なくとも一方の光路を変化させる、
レーザ加工装置の光学調整方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、レーザ加工装置およびレーザ加工装置の光学調整方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、被加工物におけるレーザ光の進入深さを、測定光を用いて正確に測定する方法が開示されている。この測定は、被加工物におけるレーザ光の照射位置と測定光の照射位置との位置合わせをして行われる。この方法が適用されるレーザ加工装置は、射出されたレーザ光および測定光を被加工物に導くミラーやレンズなどの光学部材を備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したレーザ加工装置においては、レーザ光の出力が比較的高いために、レーザ光による加工中に、光学部材を固定する部材が熱変形する。このような状態下で、被加工物におけるレーザ光の照射位置および測定光の照射位置を変化させると、被加工物におけるレーザ光の照射位置と測定光の照射位置とがずれる。ひいては、レーザ光の照射位置を精度良く測定することができない。
【0005】
本開示は、上述した課題を解決するもので、被加工物におけるレーザ光の照射位置と測定光の照射位置との位置合わせを高精度に実現するレーザ加工装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するために、本開示におけるレーザ加工装置は、被加工物を加工するためのレーザ光を射出するレーザ光射出部と、前記被加工物における前記レーザ光の照射位置を測定するための測定光を射出する測定光射出部と、前記レーザ光の光軸に対する前記測定光の光軸の相対位置を導出する相対位置導出部と、前記相対位置導出部によって導出された前記相対位置に基づいて、前記レーザ光および前記測定光の少なくとも一方の光路を変化させる光路変化部と、加工点の深さを測定する測定部とを備え、前記光路変化部は、前記測定部によって測定された前記加工点の深さに基づいて、前記被加工物における前記レーザ光の照射位置と前記測定光との照射位置とを合わせるように、前記レーザ光および前記測定光の少なくとも一方の光路を変化させ、前記被加工物における前記レーザ光の照射位置と前記測定光との照射位置とが合ったときにおける、前記相対位置導出部によって導出された前記相対位置に基づいて、前記レーザ光および前記測定光の少なくとも一方の光路を変化させる。
【0007】
また、前記目的を達成するために、本開示におけるレーザ加工装置の光学調整方法は、被加工物にレーザ光を射出するレーザ光射出部、前記被加工物における前記レーザ光の照射位置を測定するための測定光を射出する測定光射出部、および、加工点の深さを測定する測定部を備えるレーザ加工装置の光学調整方法であって、前記測定部によって測定された前記加工点の深さに基づいて、前記被加工物における前記レーザ光の照射位置と前記測定光との照射位置とを合わせるように、前記レーザ光および前記測定光の少なくとも一方の光路を変化させ、前記測定光との照射位置とが合っているときに、前記レーザ光の光軸に対する前記測定光の光軸の相対位置を導出する相対位置導出ステップと、前記相対位置導出ステップにより導出された相対位置と、前記相対位置導出ステップの後に導出された相対位置とに基づいて、前記レーザ光および前記測定光の少なくとも一方の光路を変化させる。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、被加工物におけるレーザ光の照射位置と測定光の照射位置との位置合わせを高精度に実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本開示の実施の形態に係るレーザ加工装置を示す概要図
【
図2】相対位置導出部が加工光の光軸に対する測定光の光軸の相対位置を導出するときの状態を示す図
【
図3】制御装置が実行するプログラムのフローチャート
【
図4】1回目の光学調整において、撮像素子における加工光の照射位置および測定光の照射位置を示す図
【
図5】2回目以降の光学調整において、撮像素子における加工光の照射位置および測定光の照射位置を示す図
【
図6】本開示の実施の形態の変形例に係るレーザ加工装置において、2回目以降の光学調整が行われている状態を示す図
【
図7】本開示の実施の形態の変形例に係るレーザ加工装置において、1回目以降の光学調整が行われている状態を示す図
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本開示の実施の形態に係るレーザ加工装置1について、図面を用いて説明する。なお、
図1における上側および下側をそれぞれレーザ加工装置1の上方および下方とし、同じく左側および右側をそれぞれレーザ加工装置1の左方および右方とし、同じく紙面手前側および紙面奥側をレーザ加工装置1の前方および後方として説明する。
【0011】
レーザ加工装置1は、加工ヘッド2、計測部3、計測処理部4、レーザ発振器5を備えている。計測部3は、「測定光射出部」の一例である。計測処理部4は、「測定部」の一例である。レーザ発振器5は、「レーザ光射出部」の一例である。
【0012】
加工ヘッド2には、被加工物Wを加工するためのレーザ光である加工光LBが入力される。加工ヘッド2は、入力された加工光LBを加工ヘッド2の下方に配置された被加工物Wに照射する。また、加工ヘッド2には、被加工物Wにおける加工光LBの照射位置を測定するための測定光MBが入力される。加工ヘッド2は、入力された測定光MBを被加工物Wに照射する。
【0013】
計測部3は、例えば、OCT(Optical Coherence Tomography)測定用の光干渉計である。計測部3は、OCT測定用のレーザ光を測定光MBとして射出する。測定光MBの波長は、例えば1300nmである。射出された測定光MBは、測定光導入口6から加工ヘッド2へ入力され、下方に向けて進む。
【0014】
レーザ発振器5は、加工光LBを発振する。発振された加工光LBは、測定光導入口6の左方に配置された加工光導入口7から加工ヘッド2へ入力され、下方に向けて進む。加工光LBは、例えばYAGレーザまたはファイバーレーザである。加工光LBの波長は、測定光MBの波長と異なり、例えば1064nmである。加工ヘッド2内における加工光導入口7の下方には、第1ミラー8および第1レンズ9が配置されている。第1レンズ9は、「レンズ」の一例である。
【0015】
加工光導入口7から入力された加工光LBは、第1ミラー8を透過する。第1ミラー8は、ダイクロイックミラーである。第1ミラー8は、加工光LBの波長の光を透過し、測定光MBの波長の光を反射する特性を有する。
【0016】
さらに、加工光LBは、第1レンズ9によって収束され、被加工物Wの加工面Sにおける加工点WPに集められる。これにより、加工点WPがレーザ加工される。このとき、加工点WPでは、被加工物Wが溶融し、溶融池Mが形成される。また、溶融池Mにおいては溶融金属が蒸発し、蒸発によって生じる蒸気の圧力によってキーホールHが形成される。
【0017】
測定光導入口6から入力された測定光MBは、測定光導入口6の下方に配置されたコリメートレンズ10によって平行光に変換される。さらに、測定光MBは、コリメートレンズ10の下方に配置された第2ミラー11によって、加工光LBの光路上に配置された第1ミラー8に向けて反射される。続けて、測定光MBは、第1ミラー8によって、加工点WPに向けて反射される。第1ミラー8および第2ミラー11は、「ミラー」に相当する。
【0018】
また、第2ミラー11には、角度調整機構(不図示)が配置されている。角度調整機構は、第2ミラー11の角度を変更するものである。角度調整機構が第2ミラー11の角度を変更することで、第2ミラー11は、測定光MBの光路を変化させる。第2ミラー11は、「光路変化部」の一例である。
【0019】
さらに、測定光MBは、第1レンズ9によって収束され、加工点WPに向けて進む。後述するように第2ミラー11の角度が調整されることによって、測定光MBは、加工点WPに形成されたキーホールHの最下点に照射される。
【0020】
続けて、測定光MBは、キーホールHの最下点にて反射して、測定光MBの光路を遡って計測部3に到達する。計測部3は、反射した測定光MBの光路長と射出した測定光MBの光路長との差によって生じる干渉に基づいて、光干渉強度信号を生成する。
【0021】
計測処理部4は、計測部3によって生成された光干渉強度信号に基づいて、キーホールHの深さ、すなわち加工点WPの溶け込み深さを計測する。溶け込み深さとは、キーホールHの最下点と、加工面Sとの間の距離である。
【0022】
また、レーザ加工装置1は、相対位置導出部20および制御装置30をさらに備えている。
【0023】
相対位置導出部20は、加工光LBの光軸に対する測定光MBの光軸の相対位置を導出するものである。相対位置導出部20は、第1ミラー8と第1レンズ9との間に配置されている。相対位置導出部20は、反射部21、ビーム終端器22、第2レンズ23、および、受光部24を備えている。
【0024】
反射部21およびビーム終端器22は、加工光LBおよび測定光MBの光路上から外れた第1位置P1(
図1)と、加工光LBおよび測定光MBの光路上に位置する第2位置P2(
図2)との間を移動可能に構成されている。第2レンズ23および受光部24は、反射部21の左方に配置されている。
【0025】
反射部21は、第2位置P2に位置した場合に、加工光LBおよび測定光MBを第2レンズ23に向けて反射するミラーである。また、反射部21は、加工光LBの波長の光を反射光および透過光に分け、かつ、測定光MBの波長の光を全反射する特性を有する。反射部21の加工光LBの反射率は、所定値となるように設定されている。所定値は、受光部24に照射される加工光LBの反射光の強さが所定の範囲内となる値である。所定の範囲は、下限値が測定光MBの強さよりも小さく、上限値が測定光MBの強さよりも大きい範囲であり、かつ、受光部24が受光可能な強さの範囲である。
【0026】
例えば、定格出力が1kW以上のファイバーレーザが加工光LBに選定された場合、加工光LBの最小出力は、100W程度である。一方、測定光MBとしてOCT用光源を用いた場合の測定光MBの出力は、数10mW程度である。よって、100Wの加工光LBを数10mWの測定光MBと同じオーダー(数10mW)の出力まで低減させるためには、反射部21の加工光LB反射率を、0.1%以下に設定することが望ましい。なお、測定光MBは減衰する必要がないため、反射部21の測定光MBの反射率は、90%以上に設定することが望ましい。
【0027】
また、受光部24に加工光LBを照射する場合における加工光LBの出力は、レーザ発振器5の定格出力の10%以上の出力に設定することが望ましい。特にレーザ発振器5がファイバーレーザである場合において、加工光LBの出力が定格出力の10%未満であると、加工光LBの発振状態が不安定になり、受光部24における加工光LBの照射位置LPの精度が低下するためである。
【0028】
ビーム終端器22は、第2位置P2において、反射部21を透過した透過光を受けて、透過光を終端するものである。
【0029】
第2レンズ23は、反射光および測定光MBを収束させるものである。収束された反射光および測定光MBは、受光部24に向けて進む。
【0030】
受光部24は、反射光および測定光MBを受けるものである。受光部24は、加工光LBおよび測定光MBの波長に対して感度を有する2次元撮像素子である。受光部24は、例えば、CCD(Charge-Copled Device)、CMOS(Complementary Metal Oxide Semicondector)もしくはInGaAs(ヒ化インジウムガリウム)などの素子を有した市販の産業用カメラ、または、2次元ビームプロファイラである。
【0031】
受光部24における反射光および測定光MBを受ける受光面にて、収束された反射光および測定光MBの焦点が位置するように、第2レンズ23の形状および受光部24と第2レンズ23との距離が設定されている。
【0032】
制御装置30は、レーザ加工装置1を統括制御するコンピュータである。制御装置30は、角度調整機構を制御して、第2ミラー11の角度を調整する。
【0033】
次に、上述したレーザ加工装置1の動作および制御装置30が実行するプログラムについて、
図3のフローチャートを用いて説明する。このプログラムは、被加工物Wにおける加工光LBの照射位置と測定光MBの照射位置とを合わせる光学調整を行うものである。反射部21およびビーム終端器22が第1位置P1に位置している状態(
図1)から説明する。
【0034】
制御装置30は、S100にて、今回の光学調整が1回目の光学調整であるか否かを判定する。後述する受光部24における加工光LBの照射位置LPに対する測定光MBの照射位置MPである相対位置Rが制御装置30に記憶されていない場合、今回の光学調整は、1回目の光学調整である。この場合(S100にてYES)、制御装置30は、S102にて、被加工物Wにおける加工光LBの照射位置と測定光MBの照射位置とを合わせる。
【0035】
具体的には、制御装置30は、光学調整を行うために用意された調整用の被加工物(不図示)の加工面に加工光LBを照射して微小穴を形成する。続けて、制御装置30は、第2ミラー11の角度を調整して測定光MBの光路を変化させながら測定光MBにより微小穴を走査し、微小穴の最下点すなわち測定光MBの光路長さが最長となる位置を、計測処理部4の計測結果から導出する。微小穴の最下点は加工光LBの照射位置に相当する。制御装置30は、第2ミラー11の角度を調整し、測定光MBの照射位置を微小穴の最下点に合わせることにより、調整用の被加工物における加工光LBの照射位置と測定光MBとの照射位置とを合わせる。これにより、実際の被加工物Wにおける加工光LBの照射位置と測定光MBとの照射位置とが合う。
【0036】
続けて、制御装置30は、S104にて、反射部21およびビーム終端器22を第2位置P2に移動させる(
図2)。加工光LBの透過光は、ビーム終端器22によって終端される。一方、加工光LBの反射光および測定光MBは、反射部21によって反射され、第2レンズ23によって収束されて、受光部24に照射される。
【0037】
このとき、被加工物Wにおける加工光LBの照射位置と測定光MBの照射位置とが合っているにも関わらず、受光部24における反射光の照射位置LPと測定光MBの照射位置MPは合っていない(
図4)。これは、被加工物Wにおける加工光LBの照射位置と測定光MBの照射位置とが合っていても、加工光LBと測定光MBとは上述したように波長が異なるため、第1レンズ9の色収差の影響により、加工光LBの光軸と測定光MBの光軸とは合っていないためである。さらに、受光部24に照射される加工光LBである反射光および測定光MBは、第1レンズ9とは色収差が異なる第2レンズ23によって収束される。これらのため、受光部24における反射光の照射位置LPと測定光MBの照射位置MPは合っていない。
【0038】
しかしながら、このときの受光部24における加工光LBの反射光の照射位置LPに対する測定光MBの照射位置MPである相対位置(つまり、反射光の照射位置LPと測定光MBの照射位置MPのずれ)Rは、被加工物Wにおける加工光LBの照射位置と測定光MBの照射位置とが合っているときの受光部24における相対位置Rである。
【0039】
相対位置Rは、受光部24によって測定される。なお、受光部24における相対位置Rは、加工光LBの光軸に対する測定光MBの光軸の相対位置と相関関係を有する。すなわち、受光部24は、加工光LBの光軸に対する測定光MBの光軸の相対位置を間接的に導出する。受光部24の測定結果は、制御装置30に出力される。
【0040】
制御装置30は、S106にて、受光部24の測定結果から、このときの受光部24における反射光の照射位置LPに対する測定光MBの照射位置MPである相対位置Rを、被加工物Wにおける加工光LBの照射位置と測定光MBの照射位置とが合っているときの受光部24における相対位置Rとして導出して、記憶する。
【0041】
続けて、制御装置30は、S108にて、反射部21およびビーム終端器22を第1位置P1に移動させてプログラムを終了する。この後、被加工物Wの加工を行う。制御装置30は、加工中において光学調整を行うために、所定のタイミング(例えば所定時間(10秒間)毎)にプログラムを実行する。
【0042】
制御装置30は、再度プログラムを開始すると、S100にて、今回の光学調整が1回目の光学調整であるか否かを判定する。上述した相対位置Rが制御装置30に記憶されている場合、今回の光学調整は2回目以降の光学調整である。この場合(S100にてNO)、制御装置30は、S110にて、反射部21及びビーム終端器22を第2位置P2に移動させる(
図2)。これにより、上述したように、加工光LBおよび測定光MBは、反射部21によって反射され、第2レンズ23によって収束されて、受光部24に照射される。
【0043】
このとき、受光部24における加工光LBの反射光の照射位置LPおよび測定光MBの照射位置MP(調整前の測定光MBの照射位置MP)は、1回目の光学調整したときから変位している(
図5)。つまり、受光部24における相対位置Rは、制御装置30によって導出された相対位置Rと異なっている。
【0044】
これは、加工光LBが比較的高出力であるため、加工ヘッド2の構成部材ひいては構成部材を固定する固定部材の温度が上昇することにより、固定部材の熱変形ひいては構成部材の変位が発生して、加工光LBの光路および測定光MBの光路が変化するからである。なお、このとき、反射部21およびビーム終端器22が第1位置P1に位置する場合には、加工光LBおよび測定光MBの第1レンズ9への入射角度、ひいては、被加工物Wにおける加工光LBの照射位置および測定光MBの照射位置も変位している。
【0045】
続けて、制御装置30は、S112にて、導出された相対位置Rに基づいて、受光部24における相対位置Rを調整する。具体的には、受光部24における相対位置Rが、導出された相対位置Rとなるように、制御装置30は、第2ミラー11の角度を調整して、測定光MBの光路を変化させることにより、受光部24における測定光MBの照射位置MPを変位させる。これにより、受光部24における反射光の照射位置LPに対する調整後の測定光MBの照射位置MPである調整後の相対位置Rは、導出された相対位置Rと一致する(
図5)。
【0046】
さらに、制御装置30は、S108にて反射部21およびビーム終端器22を第1位置P1に移動させる。これにより、加工光LBおよび測定光MBが被加工物Wに照射される。このとき、受光部24における相対位置Rが調整されたため、被加工物Wにおける加工光LBの照射位置と測定光MBの照射位置は合っている。
【0047】
このように、2回目以降の光学調整においては、測定光MBにより微小穴を走査することなく被加工物Wにおける加工光LBの照射位置と測定光MBの照射位置とを合わせることができるため、制御装置30は、簡便に光学調整をすることができる。また、測定光MBを走査させて微小穴の最下点に対応する測定光MBの照射位置を導出する場合に比べて、受光部24における加工光LBの照射位置LPに対する測定光MBの照射位置MPを導出する場合の方が、制御装置30は、加工光LBの照射位置に対する測定光MBの照射位置を高精度に導出できる。よって、制御装置30は、被加工物Wにおける加工光LBの照射位置と測定光MBの照射位置を高精度に合わせることができる。さらに、2回目の光学調整においては、調整用の被加工物を準備しなくてもよい。
【0048】
上述した実施の形態によれば、レーザ加工装置1は、被加工物Wに加工光LBを射出するレーザ発振器5と、被加工物Wにおける加工光LBの照射位置を測定するための測定光MBを射出する計測部3と、加工光LBの光軸に対する測定光MBの光軸の相対位置を導出する相対位置導出部20と、相対位置導出部20によって導出された相対位置Rに基づいて、測定光MBの光路を変化させる第2ミラー11と、を備えている、
【0049】
これによれば、被加工物Wにおける加工光LBの照射位置と測定光MBの照射位置との位置合わせを簡便に、かつ、高精度に実現することができる。
【0050】
また、レーザ加工装置1は、測定光MBを被加工物Wにおける加工光LBの照射位置に向けて反射させる第1ミラー8および第2ミラー11と、第1ミラー8および第2ミラー11と被加工物Wとの間に配置され、加工光LBおよび測定光MBを被加工物Wに収束させる第1レンズ9と、をさらに備えている。相対位置導出部20は、第1ミラー8および第2ミラー11と第1レンズ9との間に配置されている。
【0051】
これによれば、相対位置導出部20は、第1ミラー8および第2ミラー11の変位によって生じた測定光MBの光路の変化の影響を含めて、加工光LBの光軸に対する測定光MBの光軸の相対位置を導出することができる。
【0052】
また、相対位置導出部20は、加工光LBおよび測定光MBを、被加工物Wに向かう方向以外の方向に向けて反射させる反射部21と、反射部21によって反射された加工光LBおよび測定光MBを受ける受光部24と、を備えている。受光部24における加工光LBの照射位置LPおよび測定光MBの照射位置MPに基づいて相対位置Rを導出する。
【0053】
これによれば、被加工物Wにおける加工光LBの照射位置と測定光MBの照射位置との位置合わせを、より簡便に、かつ、より高精度に実現することができる。
【0054】
また、反射部21の加工光LBの反射率は、所定値以下となるように設定されている。
【0055】
これによれば、受光部24に照射される反射光の強さおよび測定光MBの強さを所定の範囲内にできるため、複数の受光部24を用いずに、一つの受光部24を用いて、反射光の照射位置LPに対する測定光MBの照射位置MPを簡便に導出できる。なぜなら、反射光の強さおよび測定光MBの強さの一方が所定範囲から外れている場合、それぞれの強さに対応する受光部24が必要となるからである。
【0056】
また、レーザ加工装置1は、加工点WPの深さを測定する計測処理部4をさらに備えている。第2ミラー11は、計測処理部4によって測定された加工点WPの深さに基づいて、被加工物Wにおける加工光LBの照射位置と測定光MBとの照射位置と合わせるように、測定光MBの光路を変化させ、被加工物Wにおける加工光LBの照射位置と測定光MBとの照射位置とが合ったきにおける、相対位置導出部20によって導出された相対位置Rに基づいて、測定光MBの光路を変化させる。
【0057】
これによれば、被加工物Wにおける加工光LBの照射位置と測定光MBの照射位置との位置合わせを、より確実に高精度に実現することができる。
【0058】
また、計測処理部4は、被加工物Wが測定光MBを反射した光と、測定光MBとが干渉することにより生じる波形に基づいて測定光MBの光路の長さを測定する干渉計である。
【0059】
これによれば、レーザ加工装置1は、被加工物Wにおける測定光MBの照射位置を精度よく導出することができる。
【0060】
なお、本開示は、これまでに説明した実施の形態に限定されるものではない。本発明の主旨を逸脱しない限り、各種変形を本実施の形態に施したものや、異なる実施の形態における構成要素を組み合わせて構築される形態も、本発明の範囲内に含まれる。
【0061】
例えば、
図3に示すフローチャートは、制御装置30が実行するプログラムとして説明したが、
図3のフローチャートの各ステップをレーザ加工装置1の使用者が実行するようにしてもよい。この場合、制御装置30には、受光部24における相対位置Rを表示する表示部(不図示)、並びに、反射部21およびビーム終端器22の位置の切替、および、第2ミラー11の角度の調整を、使用者が実行するための操作部(不図示)を備えている。
【0062】
また、受光部24における相対位置Rは、受光部24における測定光MBの照射位置MPを変位させることで調整されているが、これに代えて、受光部24における反射光の照射位置LPを変位させることで調整してもよい。この場合、例えば、加工光導入口7に角度調整機構が配置されて、制御装置30は、この角度調整機構を制御して、加工光LBの光路を変化させてもよい。なお、第2ミラー11および加工光導入口7の両方に角度調整機構が配置されて、制御装置30は、両方の角度調整機構を制御して、加工光LBの光路および測定光MBの光路を変化させて、受光部24における相対位置Rを調整してもよい。また、第2ミラー11に配置された角度調整機構は、測定光導入口6に配置されてもよい。さらに、それぞれの角度調整機構は、制御装置30によって制御されてもよいし、手動式であってもよい。
【0063】
また、上述した実施の形態において、相対位置導出部20は反射部21を1つ備えているが、複数備えてもよい。この場合、
図6に示すように、第1位置P1と第2位置P2との間を移動する第1の反射部21aと、第1の反射部21aが反射した反射光および測定光MBを第2レンズ23および受光部24に向けて反射する第2の反射部21bと、を備えてもよい。また、この場合、ビーム終端器22は、反射部21の個数に対応するように複数備える。第1の反射部21aから透過した透過光は、第1のビーム終端器22aによって終端される。第2の反射部21bを透過した透過光は、第2のビーム終端器22bによって終端される。このように、複数の反射部21を備えることで、加工光LBの強さと測定光MBの強さとが比較的大きい場合であっても、反射光の強さおよび測定光MBの強さを所定の範囲内に調整することができる。
【0064】
また、反射部21は加工光LBを透過光と反射光に分けるミラーを用いているが、これに加えて、加工光LBを全反射するミラーを備えてもよい。この場合、ビーム終端器22を備えなくてもよい。
【0065】
また、上述した実施の形態において、加工光LBおよび測定光MBは、反射部21を反射して第2レンズ23を透過してから受光部24に照射される。これに代えて、加工光LBおよび測定光MBは、第2レンズ23を透過して、反射部21によって反射してから、受光部24に照射されてもよい。この場合、第2レンズ23が移動可能に配置される。これによれば、焦点距離が長い第2レンズ23が選定された場合であっても、反射光および測定光MBの光路が折り曲げられるため、相対位置導出部20の大型化を抑制することができる。
【0066】
また、相対位置導出部20は、2つの受光部(不図示)によって構成されてもよい。第1の受光部は、2回目の光学調整において、加工光導入口7と第1ミラー8との間に配置され、加工光LBが第1の受光部に照射される。第2の受光部は、2回目の光学調整において、コリメートレンズ10と第2ミラー11との間に配置され、測定光MBが第2の受光部に照射される。第1の受光部に照射された加工光LBの中心が、加工光の光軸に相当する。また、第2の受光部に照射された測定光の中心が測定光MBの光軸に相当する。よって、制御装置30は、第1の受光部に照射された加工光LBの中心位置および第2の受光部に照射された測定光MBの中心位置に基づいて、加工光LBの光軸に対する測定光MBの光軸の相対位置を直接導出することができる。また、この場合、制御装置30は、測定光導入口6に配置された角度調整機構を制御することにより、測定光導入口6の角度を調整して、測定光MBの光路を変化させる。
【0067】
また、上述した実施の形態において、反射部21は、板状に形成されているが、加工光LBおよび測定光MBを反射する部位が平面状であれば、板状以外の形状でもよい。
【0068】
また、相対位置導出部20は、ビーム終端器22を備えているが、これに代えて、透過光の強さが比較的小さい場合はビーム終端器22を備えなくてもよい。
【0069】
また、反射部21は、測定光MBを全反射しているが、これに代えて、測定光MBを反射光と透過光とに分けるように反射率を設定してもよい。この場合、被加工物Wの加工をしながらリアルタイムに受光部24における相対位置Rを導出できるため、被加工物Wを加工しながらリアルタイムに被加工物Wにおける加工光LBの照射位置と測定光MBの照射位置とを合わせることができる。
【0070】
なお、加工点WPでのビーム径が50μm以下となるようなレーザ光(例えばシングルモードのファイバーレーザ)が用いられた場合、加工光LBの照射位置および測定光MBの照射位置の調整の精度は10μm以下が要求されるが、上述したレーザ加工装置1の光学調整は、この要求精度に対応可能である。
【0071】
また、1回目の光学調整は、上述したように加工点WPに形成された微小穴を測定光MBによって走査することで行われているが、これに代えて、
図7に示すように、スリット141が形成された板部材140および加工光LBの強さを検出するパワーメータ150を用いて行うようにしてもよい。
【0072】
この場合、制御装置30は、加工光LBによりスリット141を走査するように加工光LBの光路を変化させ、パワーメータ150によって加工光LBの強さの変化を検出する。制御装置30は、この検出された加工光LBの強さの変化に基づいて、スリット141に対する加工光LBの光路の相対位置を調整する。同様に、制御装置30は、スリット141に対する測定光MBの光路の相対位置を調整して、被加工物Wにおける加工光LBの照射位置と測定光MBの照射位置とを合わせる。
【0073】
また、測定光MBを被加工物Wにおける加工光LBの照射位置に向けて反射するミラーは、第1ミラー8および第2ミラー11の2つであるが、ミラーの数がこれに限定されないことは言うまでもない。例えば、このミラーの数は2つ以上でもよい。また、測定光導入口6の配置が変更されて、ミラーの数を1つとしてもよい。この場合、例えば、第1ミラー8の右方に測定光導入口6およびコリメートレンズ10が配置され、ミラーを第1ミラー8のみとしてもよい。なお、この場合、第1ミラー8に角度調整機構が配置されてもよい。
【0074】
また、第1ミラー8は、加工光LBを透過し、かつ、測定光MBを反射する特性を有するが、これに代えて、測定光MBを透過し、かつ、加工光LBを反射する特性を有するようにしてもよい。この場合、例えば、第1ミラー8には、右方から加工光LBが入射され、かつ、上方から測定光MBが入射される。また、第1ミラー8は、加工光LBおよび測定光MBの両方を反射する特性を有するようにしてもよい。この場合、例えば、第1ミラー8には、右方から加工光LBおよび測定光MBが入射される。このように、第1ミラーは、加工光LBおよび測定光MBの少なくとも一方を被加工物Wに向けて反射する。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本開示のレーザ加工装置およびレーザ加工装置の光学調整方法は、レーザ溶接機、レーザ表面処理装置などのレーザ光を用いた装置に利用可能である。
【符号の説明】
【0076】
1 レーザ加工装置
2 加工ヘッド
3 計測部(測定光射出部)
4 計測処理部(測定部)
5 レーザ発振器(レーザ光射出部)
6 測定光導入口
7 加工光導入口
8 第1ミラー(ミラー)
9 第1レンズ(レンズ)
10 コリメートレンズ
11 第2ミラー(光路変更部、ミラー)
20 相対位置導出部
21 反射部
22 ビーム終端器
23 第2レンズ
24 受光部
30 制御装置
LB 加工光
LP 受光部における加工光の照射位置
MB 測定光
MP 受光部における測定光の照射位置
R 相対位置
W 被加工物