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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-16
(45)【発行日】2024-05-24
(54)【発明の名称】空調システム、建物及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   F24F 11/63 20180101AFI20240517BHJP
   F24F 11/52 20180101ALI20240517BHJP
   F24F 7/007 20060101ALI20240517BHJP
   F24F 110/10 20180101ALN20240517BHJP
   F24F 110/70 20180101ALN20240517BHJP
   F24F 120/10 20180101ALN20240517BHJP
【FI】
F24F11/63
F24F11/52
F24F7/007 B
F24F110:10
F24F110:70
F24F120:10
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2022524329
(86)(22)【出願日】2021-04-12
(86)【国際出願番号】 JP2021015231
(87)【国際公開番号】W WO2021235139
(87)【国際公開日】2021-11-25
【審査請求日】2022-08-15
(31)【優先権主張番号】P 2020086970
(32)【優先日】2020-05-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109210
【弁理士】
【氏名又は名称】新居 広守
(74)【代理人】
【識別番号】100137235
【弁理士】
【氏名又は名称】寺谷 英作
(74)【代理人】
【識別番号】100131417
【弁理士】
【氏名又は名称】道坂 伸一
(72)【発明者】
【氏名】久保田 浩史
(72)【発明者】
【氏名】坂本 慎司
(72)【発明者】
【氏名】寳角 真吾
【審査官】石田 佳久
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-075973(JP,A)
【文献】特開2008-304124(JP,A)
【文献】特開2018-048749(JP,A)
【文献】特開2007-101435(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F24F 11/00-11/89
F24F 7/007
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
給排気機能及び室内温度調整機能を有し、室内空間の空調を行う空調設備と、
前記室内空間内の第1位置に設置され、前記第1位置における二酸化炭素の第1濃度を測定するCOセンサと、
前記COセンサによって測定された第1濃度に基づいて、前記室内空間の床面又は天井面からの高さが前記第1位置とは異なり、前記第1位置を通る鉛直線上に位置する1以上の第2位置の各々における二酸化炭素の第2濃度を推定する信号処理部と、
前記第1濃度及び1以上の前記第2濃度のうちの最大濃度と閾値とを比較し、前記最大濃度が前記閾値を超えた場合に前記空調設備の制御条件を変更する制御部とを備え
前記第1濃度をA、前記第2濃度をBとした場合に、
前記信号処理部は、式:B=α×A+β(α及びβは係数)に基づいて、前記第2濃度を推定する、
空調システム。
【請求項2】
前記第1位置は、前記天井面又は前記床面に位置する、
請求項1に記載の空調システム。
【請求項3】
前記第1位置は、前記天井面に位置し、
前記1以上の第2位置は、前記第1位置を通る鉛直線上の互いに異なる複数の第2位置である、
請求項1又は2に記載の空調システム。
【請求項4】
前記COセンサを複数備え、
複数の前記COセンサは、前記天井面又は前記床面に平行な第1仮想平面内に位置しており、
前記信号処理部は、
複数の前記COセンサの各々によって測定された第1濃度に基づいて、前記第1仮想平面内の二酸化炭素の第1濃度分布を推定し、
推定した第1濃度分布に基づいて、前記第1仮想平面に平行で、かつ、前記1以上の第2位置をそれぞれ含む1以上の第2仮想平面内の二酸化炭素の第2濃度分布を推定する、
請求項1又は2に記載の空調システム。
【請求項5】
複数の前記COセンサは、5つ以上のCOセンサを含み、
複数の前記COセンサのうちの5つのCOセンサは、前記第1仮想平面内における前記室内空間の四隅と、当該四隅を頂点とする四角形の対角線の交点とに設置されている、
請求項に記載の空調システム。
【請求項6】
さらに、前記室内空間内に存在する人を検出する人検出センサを備え、
前記信号処理部は、前記人検出センサによって検出された人の位置にさらに基づいて前記第1濃度分布及び前記第2濃度分布を推定する、
請求項又はに記載の空調システム。
【請求項7】
複数の前記COセンサには、前記人検出センサと同じ位置に設置されたCOセンサが含まれる、
請求項に記載の空調システム。
【請求項8】
前記信号処理部は、前記室内空間内に存在する人の人数にさらに基づいて、前記第1濃度が測定された第1時刻より後の第2時刻における前記第2濃度を推定する、
請求項1~のいずれか1項に記載の空調システム。
【請求項9】
前記人数をnとし、前記第1時刻をt0とし、前記第2時刻をtとし、前記第2濃度をB(t)とし、前記第2時刻における前記第1位置における二酸化炭素の濃度の予測値をA(t)とした場合に、
前記信号処理部は、以下の2つの式に基づいて前記第2濃度を推定する、
請求項に記載の空調システム。
A(t)=f(n)×(t-t0)+γ×A(t0)+η
B(t)=α×A(t)+β
ここで、α、β、γ、ηは係数、かつ、f(n)は、nを変数とする関数である。
【請求項10】
前記制御部は、前記第1濃度及び1以上の前記第2濃度の少なくとも1つが所定の閾値を超えた場合に、前記室内温度調整機能よりも前記給排気機能を優先させて前記空調設備を制御する、
請求項1~のいずれか1項に記載の空調システム。
【請求項11】
さらに、前記第2濃度に関する情報を提示する提示部を備える、
請求項1~10のいずれか1項に記載の空調システム。
【請求項12】
前記信号処理部は、前記室内空間の前記第2濃度が規定範囲内である領域の体積割合を推定し、
前記提示部は、前記体積割合を提示する、
請求項11に記載の空調システム。
【請求項13】
前記提示部は、前記体積割合が所定値未満である場合に、画面表示、音による提示、及び、光による提示の少なくともいずれかを行う、
請求項12に記載の空調システム。
【請求項14】
前記信号処理部は、前記室内空間の前記第2濃度が規定範囲を外れるまでの推定時間を推定し、
前記提示部は、前記推定時間を提示する、
請求項1113のいずれか1項に記載の空調システム。
【請求項15】
前記提示部は、前記第2濃度が規定範囲を外れた場合に、画面表示、音による提示、及び、光による提示の少なくともいずれかを行う、
請求項1114のいずれか1項に記載の空調システム。
【請求項16】
請求項1~15のいずれか1項に記載の空調システムを備える建物。
【請求項17】
給排気機能及び室内温度調整機能を有し、室内空間の空調を行う空調設備を制御する制御方法をコンピュータに実行させるプログラムであって、
前記制御方法では、
前記室内空間の第1位置に設置されたCOセンサから前記第1位置における二酸化炭素の第1濃度を取得し、
前記第1濃度に基づいて、前記室内空間の床面又は天井面からの高さが前記第1位置とは異なり、前記第1位置を通る鉛直線上に位置する1以上の第2位置の各々における二酸化炭素の第2濃度を推定し、
前記第1濃度及び1以上の前記第2濃度のうちの最大濃度と閾値とを比較し、前記最大濃度が前記閾値を超えた場合に前記空調設備の制御条件を変更し、
前記第2濃度の推定では、前記第1濃度をA、前記第2濃度をBとした場合に、式:B=α×A+β(α及びβは係数)に基づいて、前記第2濃度を推定する、
プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空調システム、建物及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1には、空気調和機と換気装置とを備える空気調和システムが開示されている。特許文献1に開示された空気調和システムでは、空気調和機又は換気装置が備える二酸化炭素センサによって検出された二酸化炭素濃度(以下、CO濃度と記載)が設定濃度より大きい場合に、換気量を大きくするように換気装置を制御する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2014/109193号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
室内空間内におけるCO濃度は、人の密集具合に応じて局所的な高低が生じうる。このため、従来の空気調和システムでは、室内空間全体ではCO濃度が低くて換気が不要であるにも関わらず、二酸化炭素センサが設けられた位置で局所的にCO濃度が高いために換気装置が稼働し、本来不要な電力を消費することが起こりうる。
【0005】
逆に、室内空間全体ではCO濃度が高くて換気が必要であるにも関わらず、二酸化炭素センサが設けられた位置で局所的にCO濃度が低いために換気装置が稼働しないことが起こりうる。この場合には、CO濃度を低くすることができないので、室内空間の快適性を維持することができない。
【0006】
そこで、本発明は、空調設備の消費電力を抑制しながら室内空間の快適性を維持することができる空調システム、建物及びプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様に係る空調システムは、給排気機能及び室内温度調整機能を有し、室内空間の空調を行う空調設備と、前記室内空間内の第1位置に設置され、前記第1位置における二酸化炭素の第1濃度を測定するCOセンサと、前記COセンサによって測定された第1濃度に基づいて、前記室内空間の床面又は天井面からの高さが前記第1位置とは異なる1以上の第2位置の各々における二酸化炭素の第2濃度を推定する信号処理部と、前記第1濃度と前記第2濃度とに基づいて前記空調設備を制御する制御部とを備える。
【0008】
本発明の一態様に係る建物は、上記空調システムを備える。
【0009】
本発明の一態様に係るプログラムは、給排気機能及び室内温度調整機能を有し、室内空間の空調を行う空調設備を制御する制御方法をコンピュータに実行させるプログラムであって、前記制御方法では、前記室内空間の第1位置に設置されたCOセンサから前記第1位置における二酸化炭素の第1濃度を取得し、前記第1濃度に基づいて、前記室内空間の床面又は天井面からの高さが前記第1位置とは異なる1以上の第2位置の各々における二酸化炭素の第2濃度を推定し、前記第1濃度と前記第2濃度とに基づいて前記空調設備を制御する。
【0010】
また、本発明の一態様は、上記制御方法として実現することもできる。あるいは、本発明の一態様は、上記プログラムが記録されたコンピュータ読み取り可能な非一時的な記録媒体として実現することもできる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、空調設備の消費電力を抑制しながら室内空間の快適性を維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、実施の形態1に係る空調システムの構成を示す図である。
図2図2は、実施の形態1に係る空調システムの動作を示すフローチャートである。
図3図3は、実施の形態2に係る空調システムの構成を示す図である。
図4A図4Aは、室内空間内に居る人及び複数のCOセンサの各々の位置を示す斜視図である。
図4B図4Bは、図4Aに示される室内空間の天井面(センサ設置面)でのCO濃度分布を示す等値線図である。
図5図5は、実施の形態2に係る空調システムの動作を示すフローチャートである。
図6A図6Aは、複数のCOセンサの配置の第1例を示す斜視図である。
図6B図6Bは、複数のCOセンサの配置の第2例を示す斜視図である。
図6C図6Cは、複数のCOセンサの配置の第3例を示す斜視図である。
図7A図7Aは、室内空間の形状及び複数のCOセンサの配置の第1例を示す上面図である。
図7B図7Bは、室内空間の形状及び複数のCOセンサの配置の第2例を示す上面図である。
図7C図7Cは、室内空間の形状及び複数のCOセンサの配置の第3例を示す上面図である。
図7D図7Dは、室内空間の形状及び複数のCOセンサの配置の第4例を示す上面図である。
図7E図7Eは、室内空間の形状及び複数のCOセンサの配置の第5例を示す上面図である。
図7F図7Fは、室内空間の形状及び複数のCOセンサの配置の第6例を示す上面図である。
図8図8は、実施の形態3に係る空調システムの構成を示す図である。
図9図9は、CO濃度の時間変化を示すグラフである。
図10図10は、実施の形態3に係る空調システムの動作を示すフローチャートである。
図11図11は、実施の形態4に係る空調システムの構成を示す図である。
図12図12は、実施の形態4に係る情報提示部の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下では、本発明の実施の形態に係る空調システム、建物及びプログラムについて、図面を用いて詳細に説明する。なお、以下に説明する実施の形態は、いずれも本発明の一具体例を示すものである。したがって、以下の実施の形態で示される数値、形状、材料、構成要素、構成要素の配置及び接続形態、ステップ、ステップの順序などは、一例であり、本発明を限定する趣旨ではない。よって、以下の実施の形態における構成要素のうち、独立請求項に記載されていない構成要素については、任意の構成要素として説明される。
【0014】
また、各図は、模式図であり、必ずしも厳密に図示されたものではない。したがって、例えば、各図において縮尺などは必ずしも一致しない。また、各図において、実質的に同一の構成については同一の符号を付しており、重複する説明は省略又は簡略化する。
【0015】
また、本明細書において、平行又は垂直などの要素間の関係性を示す用語、及び、長方形、正方形又は円形などの要素の形状を示す用語、並びに、数値範囲は、厳格な意味のみを表す表現ではなく、実質的に同等な範囲、例えば数%程度の差異をも含むことを意味する表現である。
【0016】
また、本明細書及び図面において、x軸、y軸及びz軸は、三次元直交座標系の三軸を示している。各実施の形態では、z軸方向を鉛直方向とし、z軸に垂直な方向(xy平面に平行な方向)を水平方向としている。なお、z軸の正方向を鉛直上方としている。
【0017】
(実施の形態1)
[構成]
まず、実施の形態1に係る空調システムの構成について、図1を用いて説明する。図1は、本実施の形態に係る空調システム1の構成を示す図である。
【0018】
図1に示される空調システム1は、住宅、オフィス又は病院などの建物内の室内空間80の空気環境を調整するシステムである。室内空間80は、天井面81及び床面82を有する直方体状の閉空間である。室内空間80は、例えば、床面82の大きさが15m×15m、床面82から天井面81までの高さが2.5mから3.0m程度の比較的大きい空間である。
【0019】
室内空間80の空気環境とは、室内空間80内の温度、湿度及びCO濃度などである。空調システム1は、室内空間80の温度及び湿度の少なくとも一方、並びに、室内空間80のCO濃度を調整する。
【0020】
図1に示されるように、空調システム1は、空調設備10と、COセンサ20と、制御装置30と、クラウドサーバ40とを備える。制御装置30とクラウドサーバ40とは、インターネットなどの広域通信ネットワーク50を介して通信可能に接続されている。
【0021】
空調設備10は、給排気機能と室内温度調整機能とを有し、室内空間80の空調を行う。具体的には、空調設備10は、給気機器11と、排気機器12とを備える。給気機器11は、室外空間から室内空間80への給気を行う装置である。排気機器12は、室内空間80から室外空間への排気を行う装置である。給気機器11及び排気機器12はそれぞれ、例えば、送風機(ファン)である。給気機器11及び排気機器12は、給排気機能を有する単一の機器であってもよい。
【0022】
また、空調設備10は、室内空間80の温度を調整する室内温度調整機器(図示せず)をさらに有する。室内温度調整機器は、例えば、室内空間80の温度を調整する冷暖房機器である。室内温度調整機器は、さらに、室内空間80の湿度を調整してもよい。また、室内温度調整機器は、冷房機能のみを有する冷房機器であってもよく、暖房機能のみを有する暖房機器であってもよい。あるいは、空調設備10は、給気機器11、排気機器12及び冷暖房機器の各機能を有する単一の機器(例えば、全熱交換器)であってもよい。
【0023】
COセンサ20は、室内空間80内の位置P0に設置され、位置P0におけるCO濃度を測定する。COセンサ20によって測定されたCO濃度は、第1濃度の一例であり、CO濃度の測定値である。COセンサ20は、例えば赤外線吸収方式のCOセンサであるが、特に限定されない。COセンサ20は、測定したCO濃度を示す情報を制御装置30に出力する。
【0024】
COセンサ20の設置位置である位置P0は、室内空間80内の第1位置の一例であり、例えば、天井面81に位置する。図1に示されるように、位置P0は、天井面81の中央よりも四隅の1つに近い位置である。例えば、位置P0は、その鉛直下方に稀にしか人90が存在しない位置である。つまり、位置P0は、人90が着座する椅子、人90の作業領域、及び、室内空間80への人90の出入りが行われる扉近傍などの鉛直上方には位置しない。
【0025】
なお、COセンサ20の設置位置である位置P0は、床面82であってもよい。あるいは、位置P0は、天井面81又は床面82から鉛直方向に所定距離離れた位置であってもよい。
【0026】
制御装置30は、COセンサ20によって測定されたCO濃度に基づいて、空調設備10を制御する。制御装置30は、室内空間80内、又は、その近傍に設置されるローカルコントローラである。制御装置30は、第1通信部31と、信号処理部32と、制御部33と、記憶部34と、第2通信部35とを備える。
【0027】
第1通信部31は、制御装置30が空調設備10及びCOセンサ20と局所通信ネットワークを介して通信を行うための通信モジュール(通信回路)である。第1通信部31は、例えば、空調設備10の動作情報を取得する。動作情報は、具体的には、設定温度、設定湿度、又は、設定給排気量などの、空調設備10の動作状況を示す情報である。また、第1通信部31は、COセンサ20から位置P0のCO濃度を取得する。第1通信部31による通信は、有線通信であってもよく、無線通信であってもよい。通信に用いられる通信規格についても、特に限定されない。
【0028】
信号処理部32は、COセンサ20によって測定されたCO濃度に基づいて、位置P0とは異なる1以上の位置の各々におけるCO濃度を推定する。信号処理部32によって推定された1以上のCO濃度は、第2濃度の一例であり、CO濃度の推定値である。本実施の形態では、信号処理部32は、COセンサ20によってCO濃度が測定された時刻と同じ時刻における、測定位置P0とは異なる位置におけるCO濃度を推定する。
【0029】
例えば、信号処理部32は、図1に示される位置P1及びP2の各々におけるCO濃度を推定する。位置P1及びP2はいずれも、床面82又は天井面81からの高さが位置P0とは異なる第2位置の一例である。位置P1は、床面82からの高さが1.2mの位置である。位置P1は、椅子に着座した人90の口元付近と同じ高さに相当する。位置P2は、床面82上の位置である。位置P1及びP2のいずれも、位置P0を通る鉛直線VL上の互いに異なる位置である。
【0030】
本実施の形態では、信号処理部32は、位置P1及びP2の各々のCO濃度が、位置P0におけるCO濃度を変数とする一次関数で表されることを利用する。具体的には、信号処理部32は、以下の式(1)に基づいてCO濃度を推定する。
【0031】
(1) B=α×A+β
【0032】
式(1)において、Aは、COセンサ20によって測定されたCO濃度、すなわち、位置P0におけるCO濃度の測定値である。Bは、位置P1又はP2におけるCO濃度の推定値である。α及びβはそれぞれ、係数である。具体的には、α及びβは、推定される位置によって異なりうる値である。
【0033】
例えば、αは、床面82に近い位置の推定に利用される場合に、天井面81に近い位置の推定に利用される場合よりも小さい値になる。このことは、人90の呼気に含まれる二酸化炭素の移動経路を考慮することによって導出される。具体的には、人90の呼気に含まれる二酸化炭素は、図1に示されるように、人90の体温によって発生する上昇気流91によって天井面81に向かって移動する。二酸化炭素は、人90の鉛直上方において天井面81に到達した後、天井面81に沿って拡散し、かつ、二酸化炭素は空気より重いので、徐々に下降することによって室内空間80に広がる。一方で、室内に人が存在する状態では、人周囲で二酸化炭素の上昇が頻繁に発生するため、天井面81に近い程、CO濃度は高くなり、床面82に近い程、CO濃度が低くなる。
【0034】
なお、人90の口元付近の高さ(位置P1)では、近くに人90が居る場合のように、人90が呼出した二酸化炭素が存在する場合が起こりうる。このため、位置P1におけるCO濃度は、天井面81のCO濃度よりも大きくなる場合がある。以上のことから、例えば、位置P1でのCO濃度Bを算出する場合のαは、0.9以上1.5以下の値である。また、位置P2でのCO濃度Bを算出する場合のαは、0.6以上0.9以下の値である。α及びβは、位置P1及びP2の人90からの距離に基づいて変更されてもよい。
【0035】
なお、信号処理部32がCO濃度を推定する位置は、1ヶ所のみでもよい。例えば、信号処理部32は、位置P2のCO濃度のみを推定してもよい。あるいは、信号処理部32は、鉛直線VLに沿って連続的にCO濃度を推定してもよい。つまり、鉛直線VL上において、十分に小さい等間隔(例えば10cm以下)で並ぶ複数の位置の各々におけるCO濃度を推定してもよい。これにより、鉛直線VL上におけるCO濃度の分布(すなわち、垂直分布)を生成することができる。
【0036】
信号処理部32は、プロセッサ、マイクロコンピュータ又は専用回路である。信号処理部32は、プロセッサ、マイクロコンピュータ又は専用回路のうちの2つ以上の組み合わせによって実現されてもよい。信号処理部32が行う機能は、ソフトウェアで実現されてもよく、ハードウェアで実現されてもよい。
【0037】
制御部33は、COセンサ20によって測定されたCO濃度Aと、信号処理部32によって推定された複数のCO濃度Bとに基づいて空調設備10を制御する。具体的には、制御部33は、CO濃度A及び複数のCO濃度Bの少なくとも1つが所定の閾値Dthを超えた場合に、室内温度調整機能よりも給排気機能を優先させて空調設備10を制御する。
【0038】
閾値Dthは、室内空間80内のCO濃度が上回るべきではない基準値、すなわち、CO濃度の許容濃度である。閾値Dthは、400ppmより大きく、2000ppm以下の値である。閾値Dthは、700ppm以上1000ppm以下の値であってもよい。一例として、閾値Dthは、1000ppmである。
【0039】
制御部33は、空調設備10の能力を示す能力情報に基づいて空調設備10の制御条件を決定し、決定した制御条件で空調設備10を動作させるように、第1通信部31を介して空調設備10に制御コマンドを出力する。なお、能力情報は、例えば、第1通信部31を介して空調設備10から取得される。あるいは、能力情報は、第2通信部35を介してクラウドサーバ40から取得されてもよい。
【0040】
制御部33は、プロセッサ、マイクロコンピュータ又は専用回路である。制御部33は、プロセッサ、マイクロコンピュータ又は専用回路のうちの2つ以上の組み合わせによって実現されてもよい。制御部33が行う機能は、ソフトウェアで実現されてもよく、ハードウェアで実現されてもよい。制御部33と信号処理部32とは、同一のハードウェアを共用することで実現されてもよい。
【0041】
記憶部34は、CO濃度の推定を行うプログラム及び空調設備10の制御を行うプログラムなどが記憶される記憶装置である。記憶部34は、例えば、半導体メモリなどの不揮発性記憶素子である。
【0042】
第2通信部35は、制御装置30が広域通信ネットワーク50を介してクラウドサーバ40と通信を行うための通信モジュール(通信回路)である。第2通信部35によって行われる通信は、無線通信であってもよく、有線通信であってもよい。
【0043】
クラウドサーバ40は、COセンサ20によって測定されたCO濃度の時系列データを記憶するコンピュータシステムである。COセンサ20によって測定されたCO濃度を示す情報は、制御装置30の第1通信部31によって取得された後、第2通信部35を介してクラウドサーバ40に送信される。クラウドサーバ40において、CO濃度が時刻とともに時系列データとして記憶される。なお、CO濃度の時系列データは、制御装置30の記憶部34に記憶されてもよい。この場合、制御装置30は、第2通信部35を備えなくてもよく、空調システム1は、クラウドサーバ40を備えなくてもよい。
【0044】
[動作]
次に、本実施の形態に係る空調システム1の動作について、図2を用いて説明する。図2は、本実施の形態に係る空調システム1の動作を示すフローチャートである。図2は、主に制御装置30の動作を示している。
【0045】
図2に示されるように、まず制御部33が、空調設備10の給排気機能の能力情報を取得する(S10)。このとき、制御部33は、空調設備10の動作情報を取得してもよい。制御部33は、空調設備10の動作情報と能力情報とを比較することにより、空調設備10の制御条件を適切に決定することができる。
【0046】
次に、信号処理部32は、第1通信部31を介してCOセンサ20からCO濃度の測定値を取得する(S11)。COセンサ20は、例えば制御部33からの指示に基づいて、位置P0におけるCO濃度を測定し、測定したCO濃度を示す情報を制御装置30に出力する。あるいは、COセンサ20は、CO濃度の測定を常時又は定期的に行っており、測定されたCO濃度を常時又は定期的に出力していてもよい。
【0047】
次に、信号処理部32は、CO濃度の垂直分布D(z)を算出する(S12)。垂直分布D(z)は、図1に示される鉛直線VL上の複数の位置における推定CO濃度を示している。信号処理部32は、推定位置毎に適切に決められたα及びβを用いて、上述した式(1)に基づいて、各位置におけるCO濃度を推定する。推定された垂直分布D(z)は、例えば記憶部34に一時的に記憶される。
【0048】
次に、信号処理部32は、垂直分布D(z)からCO濃度が最大である最大濃度Dmaxを抽出する(S13)。信号処理部32は、抽出した最大濃度Dmaxと所定の閾値Dthとを比較する(S14)。
【0049】
最大濃度Dmaxが閾値Dth以下である場合(S14でYes)、制御部33は、空調設備10の現在の制御条件を維持する(S15)。つまり、鉛直線VL上のいずれの位置においてもCO濃度が閾値Dthを超えていないので、室内空間80内のCO濃度は許容範囲内であり、制御条件を変更しなくてよい。
【0050】
最大濃度Dmaxが閾値Dthを超えている場合(S14でNo)、制御部33は、能力情報に基づいて最大濃度Dmaxを閾値Dth以下にするための制御条件を決定する(S16)。例えば、制御部33は、最大濃度Dmaxを閾値Dth以下にするために必要な給排気量を算出し、算出した給排気量を実現する制御条件を決定する。なお、能力情報は、制御条件を決定に利用するので、能力情報の取得(S10)は、最大濃度Dmaxが閾値Dthを超えていると判定された後に行われてもよい。
【0051】
次に、制御部33は、室内温度調整機能よりも給排気機能を優先させて空調設備10を制御する(S17)。具体的には、制御部33は、ステップS16で決定した制御条件に基づいて、給気機器11及び排気機器12を稼働させる。
【0052】
以降、制御装置30は、ステップS11からの処理を繰り返す。これにより、室内空間80のCO濃度が閾値Dthを超えた場合に、CO濃度を速やかに低下させ、室内空間80の快適性を維持することができる。
【0053】
なお、ステップS12において、信号処理部32は、位置P1又はP2の1つのみの位置におけるCO濃度を推定してもよい。この場合、ステップS13は省略される。
【0054】
[効果など]
以上のように、本実施の形態に係る空調システム1は、給排気機能及び室内温度調整機能を有し、室内空間の空調を行う空調設備10と、室内空間80内の第1位置に設置され、第1位置における二酸化炭素の第1濃度を測定するCOセンサ20と、COセンサ20によって測定された第1濃度に基づいて、室内空間80の床面82又は天井面81からの高さが第1位置とは異なる1以上の第2位置の各々における二酸化炭素の第2濃度を推定する信号処理部32と、第1濃度と第2濃度とに基づいて空調設備10を制御する制御部33とを備える。
【0055】
これにより、室内空間80内の2ヶ所以上の位置におけるCO濃度に基づいて空調設備10が制御されるので、室内空間80内でのCO濃度の局所的な高低(すなわち、濃度むら)による影響を抑え、空調設備10を効率良く動作させることができる。したがって、空調設備10の消費電力を抑制しながら室内空間80の快適性を維持することができる。
【0056】
また、多数のCOセンサを配置する必要がなく、最小限の構成として1つのみのCOセンサ20が設けられていればよい。一方、多数のCOセンサを配置した場合には、室内空間80内のCO濃度の空間分布を高精度に生成することができる効果がある。しかしながら、この場合は、多数のCOセンサから取得したCO濃度のデータを処理するシステムの複雑化及び高コスト化の副作用がある。これに対して、本実施の形態に係る空調システム1によれば、最小のセンサ数で空調設備10を効率良く動作させることができる。もちろん、室内形状又は給排気による複雑な風の流れに起因して空気齢が大きい領域が複数ある場合などは、その位置に相当する天井面にCOセンサ20を追加で設置することもできる。
【0057】
なお、空調設備10によって室内空間80内で温度又は湿度の調整が行われている場合に換気が行われると、室内空間80の温度又は湿度が変化し、室内空間80に居る人90の快適性を損なう場合がある。快適性を損なわないようにするためには、温度又は湿度の調整を速やかに行う必要がある。この場合、空調設備10による室内温度調整機能を強く発揮させるため、空調設備10の消費電力が増加する。
【0058】
本実施の形態に係る空調システム1によれば、室内空間80内のCO濃度に基づいて空調設備10が制御されるので、必要な場合に換気を行うことができ、不要な場合には換気を行わないようにすることができる。例えば、CO濃度が低く維持されているのであれば、一般的な換気回数である0.5回/時間よりも換気回数を減らすことも可能になる。これにより、空調設備10の消費電力を抑制しながら室内空間の快適性を維持することができる。
【0059】
また、給気機器11及び排気機器12の制御をこまめに行うこともできるので、1回の換気量を少なくすることができる。換気量が少なくなることで、室内空間80の温度又は湿度を一定に保ちやすくなるので、室内温度調整機能の動作も安定させることができる。つまり、温度又は湿度の変動が小さくなるので、室内温度調整機能の出力も小さくて済み、消費電力を抑制することができる。
【0060】
また、例えば、COセンサ20による測定位置である第1位置は、天井面81又は床面82に位置する。
【0061】
これにより、人90の口元から離れた位置にCOセンサ20を配置することができる。COセンサ20によって測定されたCO濃度の測定値が、人90の呼吸によって急激に増減するのを抑制することができ、測定値の信頼性を高めることができる。このため、測定値に基づいて推定されたCO濃度の推定値の信頼性も高められる。したがって、室内空間80内での濃度むらによる影響を抑え、空調設備10を効率良く動作させることができる。
【0062】
また、COセンサ20が天井面81に設置された場合には、人90、物又は水などが接触する可能性が低い。このため、COセンサ20が故障する可能性も低く、信頼性の高い空調システム1を実現することができる。
【0063】
ところで、空調システム1では、流体力学を応用した気流の物理的モデルを構築し、シミュレーションを行うことで、室内空間80内のCO濃度分布を精度良く生成することも可能である。しかしながら、演算量が多くなるだけでなく、室内空間80に人90が出入りする度に物理的モデルの再構築も必要になる。このため、室内空間80内の実情に合わせて空調設備10を効率良く制御することが難しい。
【0064】
これに対して、本実施の形態に係る空調システム1では、例えば、第1濃度をA、第2濃度をBとした場合に、信号処理部32は、式:B=α×A+β(α及びβは係数)に基づいて、第2濃度を推定する。
【0065】
これにより、複雑で処理量の多い演算を行わなくてよいので、空調設備10の高効率な制御に要する演算量を少なくすることができる。
【0066】
また、例えば、COセンサ20による測定位置である第1位置は、天井面81に位置し、1以上の第2位置は、第1位置を通る鉛直線VL上の互いに異なる複数の第2位置である。
【0067】
これにより、CO濃度の推定値の数を増やすことにより、室内空間80内での濃度むらによる影響を一層抑えることができ、空調設備10をより効率良く動作させることができる。
【0068】
また、例えば、制御部33は、第1濃度及び1以上の第2濃度の少なくとも1つが所定の閾値Dthを超えた場合に、室内温度調整機能よりも給排気機能を優先させて空調設備10を制御する。
【0069】
これにより、CO濃度が閾値Dthを超えた場合に速やかにCO濃度を低くするように空調設備10を動作させることができる。したがって、室内空間80の快適性を維持することができる。例えば、一般的な換気回数である0.5回/時間に従った動作では室内空間80のCO濃度を低下させることができない場合に、給排気機能を優先させて制御することができるので、速やかに室内空間80のCO濃度を低下させることができる。
【0070】
また、例えば、本実施の形態に係るプログラムは、給排気機能及び室内温度調整機能を有し、室内空間80の空調を行う空調設備10を制御する制御方法をコンピュータに実行させるプログラムである。制御方法では、室内空間80の第1位置に設置されたCOセンサ20から第1位置における二酸化炭素の第1濃度を取得し、第1濃度に基づいて、室内空間80の床面82又は天井面81からの高さが第1位置とは異なる1以上の第2位置の各々における二酸化炭素の第2濃度を推定し、第1濃度と第2濃度とに基づいて10空調設備を制御する。
【0071】
これにより、空調システム1の場合と同様に、空調設備10の消費電力を抑制しながら室内空間80の快適性を維持することができる。
【0072】
(実施の形態2)
続いて、実施の形態2について説明する。
【0073】
実施の形態2では、複数のCOセンサと人検出センサとが室内空間内に設置される点が実施の形態1と主として異なる。以下では、実施の形態1との相違点を中心に説明を行い、共通点の説明を省略又は簡略化する。
【0074】
[構成]
まず、実施の形態2に係る空調システムの構成について、図3を用いて説明する。図3は、本実施の形態に係る空調システム101の構成を示す図である。
【0075】
図3に示されるように、空調システム101は、空調設備10と、複数のCOセンサ20a~20eと、人検出センサ120と、制御装置130と、クラウドサーバ40とを備える。
【0076】
複数のCOセンサ20a~20eはそれぞれ、実施の形態1に係るCOセンサ20と同じである。複数のCOセンサ20a~20eは、それぞれの設置位置が互いに異なっている。以下では、COセンサ20a~20eの各々に共通する特徴の説明を行う場合など、COセンサ20a~20eを区別する必要がない場合には、COセンサ20として説明する場合がある。
【0077】
COセンサ20の個数が増える程、室内空間80のCO濃度分布を精度良く生成することができるが、演算量の増加が避けられない。このため、COセンサ20の個数は、少ない方がよい。本実施の形態に係る空調システム101では、COセンサ20の配置を工夫することにより、限定的な数のCOセンサ20によって室内空間80の濃度むらの影響を抑制する。
【0078】
具体的には、複数のCOセンサ20は、天井面81又は床面82に平行な第1仮想平面内に位置している。複数のCOセンサ20のうちの4つは、第1仮想平面の四隅に設置されている。本実施の形態では、第1仮想平面は天井面81である。つまり、複数のCOセンサ20は、天井面81に設置されている。
【0079】
例えば、4つのCOセンサ20a~20dはそれぞれ、天井面81の四隅に設置されている。残りの1つのCOセンサ20eは、天井面81の中央に設置されている。COセンサ20eは、人検出センサ120と同じ位置に設置されている。
【0080】
ここで、「同じ位置」とは、実質的に同じであるとみなせる範囲であればよく、完全に一致していなくてもよい。COセンサ20eと人検出センサ120とは、例えば、最大で数cmから十数cm程度は離れて設けられていてもよい。同様に、「隅」とは、天井面81の平面視形状である長方形の頂点に一致している場合だけでなく、頂点と実質的に同じであるとみなせる範囲であればよい。例えば、「隅」とは、長方形の頂点から、数cmから十数cm程度離れて設けられていてもよい。
【0081】
人検出センサ120は、室内空間80内に存在する人90を検出する。人検出センサ120は、例えば、赤外線センサ又はイメージセンサなどである。人検出センサ120は、椅子又は作業領域などの人90が存在する可能性が高い領域の鉛直上方に配置される。
【0082】
人検出センサ120は、人90の検出結果を制御装置130に出力する。検出結果は、人90の存否を示す情報を含む。検出結果は、さらに、検出された人90の位置及び人数の少なくとも一方を示す情報を含んでもよい。
【0083】
制御装置130は、複数のCOセンサ20の各々によって測定されたCO濃度に基づいて、空調設備10を制御する。本実施の形態では、制御装置130は、人検出センサ120による検出結果にさらに基づいて、空調設備10を制御する。制御装置130は、実施の形態1に係る制御装置30と比較して、信号処理部32の代わりに信号処理部132を備える。
【0084】
信号処理部132は、複数のCOセンサ20によって計測されたCO濃度に基づいて、複数のCOセンサ20が設置された第1仮想平面内の二酸化炭素の第1濃度分布を推定する。5つのCOセンサ20a~20eが天井面81に設置されているので、第1濃度分布は、天井面81におけるCO濃度分布になる。第1濃度分布は、x座標及びy座標で定められる位置毎にCO濃度A(x,y)を含んでいる。
【0085】
例えば、信号処理部132は、複数のCOセンサ20の各々の設置位置におけるCO濃度に基づいて、統計的手法を利用してCO濃度分布を生成する。統計的手法は、具体的には、等値線を算出するためのアルゴリズムを利用することである。アルゴリズムは、例えば、最大傾斜法、Enhanced TIN(Triangulated Irregular Network)法、クリギング法、又は、スプライン法などである。本明細書において、統計的手法は、流体力学を用いたシミュレーションなどの物理シミュレーション的な処理を行う意味ではない。
【0086】
例えば、図4Aに示されるように、天井面81に設置された6つのCOセンサ20a~20fの各々によるCO濃度の測定値に基づいて、図4Bに示されるようなCO濃度分布を生成することができる。なお、図4Aは、室内空間80内に居る人90及び92並びに複数のCOセンサ20の各々の位置を示す斜視図である。図4Bは、図4Aに示される室内空間80の天井面81(センサ設置面)でのCO濃度分布を示す等値線図である。図4Bにおけるx軸及びy軸の各々の単位はメートルである。
【0087】
図4Aに示される例では、4つのCOセンサ20a~20dが天井面81の四隅に設置されている。2つのCOセンサ20e及び20fはそれぞれ、人90及び92の直上方向に配置されている。これにより、人90及び92が呼出する二酸化炭素によるCO濃度の変化を精度良く検出することができ、CO濃度分布の推定精度を高めることができる。
【0088】
信号処理部132は、推定した第1濃度分布に基づいて、第1仮想平面に平行な1以上の第2仮想平面内の二酸化炭素の第2濃度分布を推定する。具体的には、信号処理部132は、第1濃度分布に含まれる位置(x,y)でのCO濃度をCO濃度Aとして、実施の形態1で示した式(1)に基づいて、第2濃度分布に含まれるCO濃度Bを算出する。算出したCO濃度Bは、位置(x,y)を通る鉛直線上の位置での値であり、第2仮想平面に含まれる第2位置である。信号処理部132は、座標(x,y)の各々に対してCO濃度Bを算出することにより、第2濃度分布を生成する。信号処理部132は、室内空間80の高さ方向(z軸方向)に沿って、連続的に第2濃度分布を推定することにより、室内空間80全体の三次元的なCO濃度分布を生成することができる。三次元的なCO濃度分布(本実施の形態では、「垂直分布」とも記載する)は、座標(x,y,z)で表される位置毎にCO濃度B(x,y,z)を含んでいる。
【0089】
本実施の形態では、信号処理部132は、人検出センサ120によって検出された人90の位置にさらに基づいて第1濃度分布及び第2濃度分布を推定する。人90の鉛直上方ではCO濃度が高くなるので、人90の位置を推定に利用することで、第1濃度分布及び第2濃度分布の精度を高めることができる。具体的には、人90周辺のCO濃度分布を、人90を内部に含む立体形状、例えば、円柱状、回転楕円体状、上に開いたラッパ状、などで近似し、上記で求めたCO濃度の空間分布に重畳することで高精度化が図れる。このとき、人90の呼気のCO濃度は4.5%であるので、呼吸量と二酸化炭素の拡散速度とを考慮すれば、上記立体形状の内部のCO濃度分布の推定が可能である。また、この推定を人検出センサ120付近のCO濃度の値を用いて補正することで高精度化が図れる。
【0090】
[動作]
次に、本実施の形態に係る空調システム101の動作について、図5を用いて説明する。図5は、本実施の形態に係る空調システム101の動作を示すフローチャートである。図5は、主に制御装置130の動作を示している。
【0091】
図5に示されるように、まず制御部33が、空調設備10の給排気機能の能力情報を取得する(S10)。次に、信号処理部132は、第1通信部31を介して人検出センサ120によって検出された人90及び92の位置を示す位置情報を取得する(S20)。なお、位置情報の取得(S20)は、能力情報の取得(S10)より先に行われてもよく、次のCO濃度の測定値の取得(S21)の後に行われてもよい。
【0092】
次に、信号処理部132は、第1通信部31を介して複数のCOセンサ20の各々からCO濃度の測定値を取得する(S21)。複数のCOセンサ20は、例えば制御部33からの指示に基づいて、各設置位置におけるCO濃度を測定し、測定したCO濃度を示す情報を制御装置130に出力する。あるいは、複数のCOセンサ20はそれぞれ、CO濃度の測定を常時又は定期的に行っており、測定されたCO濃度を常時又は定期的に出力していてもよい。
【0093】
次に、信号処理部132は、CO濃度の水平分布D(x,y)を算出する(S22)。具体的には、信号処理部132は、複数の測定値に基づいて統計的手法により、天井面81におけるCO濃度分布を生成する。例えば、図4Bに示される濃度分布が生成される。
【0094】
次に、信号処理部132は、水平分布D(x,y)をz軸方向に拡張することにより、CO濃度の垂直分布D(x,y,z)を算出する(S23)。垂直分布D(x,y,z)は、室内空間80内のCO濃度の三次元分布である。信号処理部132は、床面82からの高さ毎に適切なα及びβを用いて、上述した式(1)に基づいて、各高さにおけるCO濃度分布を推定する。推定された垂直分布D(x,y,z)は、例えば記憶部34に一時的に記憶される。
【0095】
以降の処理は、実施の形態1と同じである。室内温度調整機能よりも給排気機能を優先させて空調設備10を制御した後、制御装置130は、ステップS20からの処理を繰り返す。これにより、室内空間80のCO濃度が閾値Dthを超えた場合に、CO濃度を速やかに低下させ、室内空間80の快適性を維持することができる。
【0096】
なお、ステップS23において、信号処理部132は、床面82からの高さが所定の高さのみにおけるCO濃度分布を推定してもよい。例えば、信号処理部132は、床面82におけるCO濃度分布のみを推定してもよい。
【0097】
[効果など]
以上のように、本実施の形態に係る空調システム101は、COセンサ20を複数備える。複数のCOセンサ20は、天井面81又は床面82に平行な第1仮想平面内に位置している。信号処理部132は、複数のCOセンサ20の各々によって測定された第1濃度に基づいて、第1仮想平面内の二酸化炭素の第1濃度分布を推定し、推定した第1濃度分布に基づいて、第1仮想平面に平行で、かつ、1以上の第2位置をそれぞれ含む1以上の第2仮想平面内の二酸化炭素の第2濃度分布を推定する。
【0098】
これにより、室内空間80内の三次元的なCO濃度分布を生成することができるので、空調設備10をより効率良く動作させることができる。
【0099】
また、例えば、複数のCOセンサ20は、4つ以上のCOセンサ20を含む。複数のCOセンサ20のうちの4つのCOセンサ20は、第1仮想平面内における室内空間80の四隅に設置されている。
【0100】
これにより、人90が稀にしか存在しない四隅にCOセンサ20が設けられるので、4つのCOセンサ20によって測定されたCO濃度は、人90の呼吸に含まれる二酸化炭素に直接影響を受けにくい。したがって、仮想平面内のCO濃度分布の推定精度を高めることができる。
【0101】
また、例えば、本実施の形態に係る空調システム101は、さらに、室内空間80内に存在する人を検出する人検出センサ120を備える。信号処理部132は、人検出センサ120によって検出された人の位置にさらに基づいて第1濃度分布及び第2濃度分布を推定する。また、例えば、複数のCOセンサ20には、人検出センサ120と同じ位置に設置されたCOセンサが含まれる。
【0102】
これにより、人90が呼出する二酸化炭素による影響をCO濃度分布の推定に反映させることができ、CO濃度分布の推定精度を高めることができる。
【0103】
[複数のCOセンサの配置の変形例]
以下では、複数のCOセンサ20の配置の変形例について、図6A図6Cを用いて説明する。図6A図6Cはそれぞれ、複数のCOセンサ20の配置の第1例~第3例を示す斜視図である。
【0104】
図6Aに示される例では、4つのCOセンサ20a~20dが床面82の四隅に設置されている。なお、4つのCOセンサ20a~20dは、天井面81と床面82との間の所定の高さに設置されていてもよい。
【0105】
また、図6Bに示される例では、5つのCOセンサ20a~20eが天井面81の四隅と中央とに設置されている。さらに、COセンサ20fが床面82に設置されている。COセンサ20fは、床面82の四隅の1つに設置されているが、床面82の中央に、又は、中央と隅との間の所定位置に設置されていてもよい。
【0106】
また、図6Cに示される例では、4つのCOセンサ20a~20dが床面82の四隅に設置されている。さらに、COセンサ20eが天井面81に設置されている。COセンサ20eは、天井面81の四隅の1つに設置されているが、天井面81の中央に、又は、中央と隅との間の所定位置に設置されていてもよい。
【0107】
また、天井面81と床面82との各々の四隅にCOセンサ20が配置されてもよい。つまり、室内空間80には合計8個のCOセンサ20が設けられてもよい。あるいは、天井面81及び床面82の少なくとも一方の中央に、追加的にCOセンサ20が設けられてもよい。室内空間80には合計10個のCOセンサ20が設けられてもよい。
【0108】
以上のように、図6A図6Cはいずれも、直方体状の室内空間80における複数のCOセンサ20の配置例を示している。なお、室内空間80の形状は直方体状でなくてもよい。
【0109】
図7A図7Fはそれぞれ、室内空間の形状及び複数のCOセンサ20の配置の第1例~第6例を示す上面図である。
【0110】
図7Aに示される例では、上面視形状が正方形の室内空間80aが示されている。つまり、天井面81及び床面82の平面視形状がいずれも正方形であり、同じ大きさである。また、図7Bに示される例では、上面視形状が長方形の室内空間80bが示されている。つまり、天井面81及び床面82の平面視形状がいずれも長方形であり、同じ大きさである。図7A及び図7Bのいずれの場合においても、4つのCOセンサ20a~20dが四隅に配置され、1つのCOセンサ20eが中央に配置されている。
【0111】
図7C及び図7Dに示される例では、上面視形状が台形の室内空間80cが示されている。つまり、天井面81及び床面82の平面視形状がいずれも台形であり、同じ大きさである。
【0112】
図7Cの場合では、4つのCOセンサ20a~20dが四隅に配置され、1つのCOセンサ20eが中央に配置されている。ここでの中央は、台形の対角線の交点である。なお、COセンサ20eは、四隅以外の位置であればよく、例えば、台形の重心位置であってもよい。
【0113】
あるいは、台形の室内空間80cを四角形の領域80c1と三角形の領域80c2とに分けてもよい。図7Dに示されるように、5つのCOセンサ20a~20eは、四角形の領域80c1の四隅と中央とに配置される。また、COセンサ20c、20d及び20fは、三角形の領域80c2の三隅に配置される。四角形の領域80c1と三角形の領域80c2とで共有される頂点には1つのCOセンサ(具体的には、COセンサ20c又は20d)が配置されている。
【0114】
また、図7Eに示される例では、上面視形状が複数の四角形の組み合わせで表される室内空間80dが示されている。室内空間80dは、大きい四角形の領域80d1と小さい四角形の領域80d2とに分けることができる。5つのCOセンサ20a~20eは、四角形の領域80d1の四隅と中央とに配置される。また、COセンサ20d、20f~20hは、四角形の領域80d2の四隅に配置される。四角形の領域80d1と四角形の領域80d2とで共有される頂点には1つのCOセンサ(具体的には、COセンサ20d)が配置されている。なお、小さい四角形の領域80d2の中央にもCOセンサ20が配置されていてもよい。
【0115】
また、図7Fに示される例では、上面視形状が円形の室内空間80eが示されている。つまり、天井面81及び床面82の平面視形状がいずれも円形であり、同じ大きさである。この場合、4つのCOセンサ20a~20dは、円周に沿って等間隔に配置されている。また、COセンサ20eは、円の中心に配置されている。なお、室内空間80eの上面視形状は、楕円形であってもよい。
【0116】
本実施の形態では、天井面81の四隅の各々にCOセンサ20が設置された例を示したが、四隅のうちの少なくとも1つにはCOセンサ20が設置されていなくてもよい。COセンサ20が設けられていない箇所のCO濃度は、他のCOセンサ20の測定値の平均値で代替することができる。これは、室内空間80の四隅のように、人90が居ない場所のCO濃度は、空間気流で撹拌されて差が小さくなるためである。つまり、四隅のCO濃度は、おおよそ同じ値になる。
【0117】
(実施の形態3)
続いて、実施の形態3について説明する。
【0118】
実施の形態3では、CO濃度が測定された時刻よりも後の時刻のCO濃度の推定を行う点が実施の形態1及び2とは主として異なる。以下では、実施の形態1及び2との相違点を中心に説明を行い、共通点の説明を省略又は簡略化する。
【0119】
[構成]
まず、実施の形態3に係る空調システムの構成について、図8を用いて説明する。図8は、本実施の形態に係る空調システム201の構成を示す図である。
【0120】
図8に示されるように、空調システム201は、空調設備10と、COセンサ20と、人検出センサ120と、制御装置230と、クラウドサーバ40とを備える。
【0121】
制御装置230は、CO濃度が測定された第1時刻より後の第2時刻におけるCO濃度を推定する。本実施の形態では、制御装置230は、実施の形態1に係る制御装置30と比較して、信号処理部32及び制御部33の代わりに、信号処理部232及び制御部233を備える。
【0122】
信号処理部232は、COセンサ20によって測定されたCO濃度と、人検出センサ120によって検出された人の人数とに基づいて、CO濃度が測定された第1時刻より後の第2時刻におけるCO濃度を推定する。第2時刻は、例えば第1時刻の10分後、30分後又は1時間後などである。第2時刻は、CO濃度の推定を行う時刻よりも後の未来の時刻である。つまり、信号処理部232は、CO濃度の予測を行う。
【0123】
信号処理部232は、所定位置におけるCO濃度が、室内空間80内に存在する人の人数と時間とに比例して増加することを利用する。所定位置は、例えば、床面82の隅などの、人の移動が少ない場所である。
【0124】
図9は、CO濃度の時間変化を示すグラフである。図9において、横軸は時間(単位:分)を表し、縦軸はCO濃度(単位:ppm)を表している。図9は、所定の大きさの閉空間で人数の増減がない場合におけるCO濃度の変化を計測した実測値を表している。図9に示されるように、CO濃度の増加の割合は、ほぼ一定であることが分かる。
【0125】
このことから、所定位置における第2時刻のCO濃度は、時間を変数とする一次関数で簡易的に表すことができる。信号処理部232は、以下の式(2)及び(3)に基づいてCO濃度を推定する。
【0126】
(2) A(t)=f(n)×(t-t0)+γ×A(t0)+η
(3) B(t)=α×A(t)+β
【0127】
式(2)及び(3)において、nは、人検出センサ120によって検出された人の人数である。t0は、COセンサ20によってCO濃度が測定された第1時刻である。tは、第1時刻より後の第2時刻であり、CO濃度の予測時刻である。
【0128】
A(t)は、時刻tにおけるCOセンサ20が設置された位置P0でのCO濃度である。A(t0)は、COセンサ20によるCO濃度の測定値、いわゆる初期値に相当する。B(t)は、時刻tにおける位置P0とは異なる位置P1でのCO濃度の推定値である。図8に示されるように、位置P1は、例えば床面82に含まれている。位置P1は、位置P0を通る鉛直線上に位置している。なお、位置P1は、鉛直線上の任意の位置であってもよい。
【0129】
α、β、γ及びηはいずれも係数である。α及びβは、実施の形態1と同様に、推定される位置によって異なりうる値である。γ及びηは、空調設備10の動作状態に基づいて定められる値である。
【0130】
f(n)は、人数を因子とする関数である。人数が多い程、CO濃度の増加量は多くなり、人数が少ない程、CO濃度の増加量は少なくなる。この人数とCO濃度との関係を関数f(n)によって表している。f(n)×(t-t0)は、CO濃度の測定時刻t0から予測時刻tまでの期間(すなわち、経過時間t-t0)に、室内空間80内に存在する人の人数nによって増加するCO濃度を表している。例えば、複数の人のCO排出量が互いに同じであると仮定すると、f(n)=n×(単位時間当たり、1人当たりのCO濃度)である。
【0131】
制御部233は、信号処理部232によって推定されたCO濃度A(t)及びB(t)に基づいて空調設備10を制御する。具体的には、制御部233は、CO濃度A(t)及びB(t)が閾値Dthより大きい場合に、時刻tにおいてCO濃度が閾値Dthを下回るように空調設備10を制御する。つまり、制御部233は、現時点(第1時刻)においてCO濃度が閾値Dthを超えていない場合であっても、必要に応じて給排気機能を室内温度調整機能より優先させるように空調設備10を制御する。
【0132】
[動作]
次に、本実施の形態に係る空調システム201の動作について、図10を用いて説明する。図10は、本実施の形態に係る空調システム201の動作を示すフローチャートである。図10は、主に制御装置230の動作を示している。
【0133】
図10に示されるように、まず制御部233が、空調設備10の給排気機能の能力情報を取得する(S10)。次に、信号処理部232は、第1通信部31を介して人検出センサ120によって検出された人の人数nを示す人数情報を取得する(S30)。なお、人数情報の取得(S30)は、能力情報の取得(S10)より先に行われてもよく、次のCO濃度の測定値の取得(S11)の後に行われてもよい。
【0134】
次に、信号処理部232は、第1通信部31を介してCOセンサ20からCO濃度の測定値を取得する(S11)。COセンサ20は、例えば制御部33からの指示に基づいて、設置位置P0におけるCO濃度を測定し、測定したCO濃度を示す情報を制御装置230に出力する。取得した測定値は、式(2)におけるA(t0)である。
【0135】
次に、信号処理部232は、COセンサ20による測定位置P0での時刻tの濃度A(t)を推定する(S32)。具体的には、信号処理部232は、式(2)に人数nとCO濃度A(t0)と代入することにより、CO濃度A(t)を算出する。
【0136】
次に、信号処理部232は、測定位置P0とは異なる位置P1での時刻tのCO濃度B(t)を推定する(S33)。具体的には、信号処理部232は、式(3)に、算出したA(t)を代入することにより、CO濃度B(t)を算出する。
【0137】
このとき、信号処理部232は、測定位置P0とは異なる複数の位置の各々における時刻tのCO濃度を算出してもよい。例えば、信号処理部232は、鉛直線VLに沿ってCO濃度の予測値の垂直分布を算出してもよい。実施の形態1と同様に、床面82からの高さ毎に式(1)を適用することで、CO濃度の予測値の垂直分布を算出することができる。
【0138】
次に、信号処理部232は、CO濃度B(t)と閾値Dthとを比較する(S34)。なお、複数のCO濃度B(t)を算出した場合には、信号処理部232は、複数のCO濃度B(t)の中から最大値Dmax(t)を抽出し、抽出した最大値Dmax(t)と閾値Dthとを比較する。
【0139】
CO濃度B(t)が閾値Dth以下である場合(S34でYes)、制御部233は、空調設備10の現在の制御条件を維持する(S15)。つまり、将来の時刻tにおいてもCO濃度が閾値Dthを超えないと予測されたので、室内空間80内のCO濃度は許容範囲内であり、制御条件を変更しなくてよい。
【0140】
CO濃度B(t)が閾値Dthを超えている場合(S34でNo)、制御部233は、能力情報に基づいて時刻tでCO濃度B(t)を閾値Dth以下にするための制御条件を決定する(S36)。例えば、制御部233は、CO濃度B(t)を閾値Dth以下にするために必要な給排気量を算出し、算出した給排気量を実現する制御条件を決定する。なお、能力情報は、制御条件を決定に利用するので、能力情報の取得(S10)は、CO濃度B(t)が閾値Dthを超えていると判定された後に行われてもよい。
【0141】
次に、制御部233は、決定した制御条件で空調設備10を動作させるための開始時刻tsを算出する(S37)。開始時刻tsは、第1時刻t0よりも後で、第2時刻tよりも前の時刻である。つまり、第2時刻tにおいてCO濃度B(t)を閾値Dth以下にするために、給排気機能を優先させた空調設備10の動作を開始すべき時刻である。通常、給排気機能を優先させたとしても、室内空間80のCO濃度が低下するのに一定期間を要する。このため、第2時刻tよりも前の時刻tsから給排気機能を優先させて空調設備10を動作させることにより、第2時刻tにおいてCO濃度B(t)が閾値Dthを超えないようにすることができる。例えば、給排気機能を最大出力で動作させた場合に、CO濃度B(t)を閾値Dth以下にするのに30分必要である場合、制御部233は、t-30分を時刻tsとして決定する。
【0142】
次に、制御部233は、時刻tsになったときに、ステップS36で決定した制御条件で空調設備10を制御する(S38)。つまり、制御部233は、時刻ts以降において、室内温度調整機能よりも給排気機能を優先させて空調設備10を制御する。
【0143】
以降、時刻tにΔtを加えた後(S39)、制御装置230は、ステップS30からの処理を繰り返す。Δtは、例えば1秒、10秒、1分又は10分などであるが、特に限定されない。
【0144】
これにより、室内空間80のCO濃度B(t)が閾値Dthを超えると予測された場合に、CO濃度が閾値Dthを超えないように空調設備10を動作させることができる。したがって、CO濃度が閾値Dthを超える期間が発生しないようにすることができるので、室内空間80の快適性を維持することができる。
【0145】
[効果など]
以上のように、本実施の形態に係る空調システム201では、信号処理部232は、室内空間80内に存在する人の人数にさらに基づいて、第1濃度が測定された第1時刻より後の第2時刻における第2濃度を推定する。
【0146】
これにより、CO濃度が閾値Dthを超えないように空調設備10を動作させることができるので、室内空間80の快適性を維持することができる。また、余裕を持って給排気機能を優先させた動作を行うことができるので、急激な換気による温度又は湿度の変化を抑制することができる。このため、温度又は湿度を一定に保つための室内温度調整機能の動作を抑制することができるので、消費電力の増加を抑制することができる。
【0147】
また、例えば、人数をnとし、第1時刻をt0とし、第2時刻をtとし、第2濃度をB(t)とし、第2時刻における第1位置における二酸化炭素の濃度の予測値をA(t)とした場合に、信号処理部232は、上述した式(2)及び(3)に基づいて前記第2濃度を推定する。
【0148】
これにより、複雑で処理量の多い演算を行わなくてよいので、空調設備10の高効率な制御に要する演算量を少なくすることができる。
【0149】
なお、空調システム201は、実施の形態2と同様に、複数のCOセンサ20を備えてもよく、複数のCOセンサ20の設置面における第1時刻のCO濃度分布を推定してもよい。推定した第1時刻のCO濃度分布に基づいて、第2時刻のCO濃度分布を推定してもよい。
【0150】
(実施の形態4)
続いて、実施の形態4について説明する。
【0151】
実施の形態4では、所定の情報を提示する提示部を備える点が、実施の形態1~3とは主として異なる。以下では、実施の形態1~3との相違点を中心に説明を行い、共通点の説明を省略又は簡略化する。
【0152】
[構成]
まず、実施の形態4に係る空調システムの構成について、図11を用いて説明する。図11は、本実施の形態に係る空調システム301の構成を示す図である。図11に示されるように、空調システム301は、実施の形態1に係る空調システム1と比較して、情報提示部330をさらに備える。
【0153】
図12は、本実施の形態に係る情報提示部330の構成を示す図である。図12に示されるように、情報提示部330は、表示モニター331と、音発生部333と、光発生部335とを備える。情報提示部330は、室内の所定の位置のCO濃度に関する情報を提示する。具体的には、情報提示部330は、COセンサ20による測定値に基づいて推定されたCO濃度(第2濃度)に関する情報を提示する。
【0154】
表示モニター331は、CO濃度に関する情報を含む画像を表示する表示部である。表示モニター331は、例えば液晶ディスプレイパネル又は有機ELディスプレイパネルなどで実現される。表示モニター331には、CO濃度の特定時刻での平均値及び/又はモニタリングした時間変化が表示される。CO濃度のモニタリング表示は、例えば床上1.2mの位置のCO濃度の時間変化の表示である。1.2mは、立っている人の、概ね胴体付近に相当する。例えば、図12の表示モニター331には、横軸が時間を表し、縦軸がCO濃度を表すグラフによって、CO濃度の時間変化(モニタリング結果)が表示されている。
【0155】
また、平均値を表示する場合は、例えば、床上0.6m、1.2m、1.8mなど複数の点を抽出して平均してもよい。これにより、人の人体全体が晒されるCO濃度のおよその値が近似できる。例えば、図12の表示モニター331には、複数の位置のCO濃度の平均値を示すテキスト情報が表示されている。
【0156】
また、表示モニター331は、所定の条件が満たされた場合に、情報提示の一例として警告表示を行ってもよい。所定の条件は、例えば、CO濃度が規定範囲を外れることである。なお、所定の条件が満たされたか否かは、例えば、制御装置30の制御部33、又は、情報提示部330の制御部(図示せず)によって判定される。
【0157】
CO濃度の規定範囲は、例えば下限300ppm、上限1000ppmであるが、これに限定されない。一般的に、屋外大気のCO濃度は400ppm程度である。また、快適面でのCO濃度の上限は、1000ppmとされている。CO濃度が400ppmを大きく下回ると、空気とは異なる有毒ガスが流入した可能性もある。このため、快適性の観点から上限を定めるだけでなく、CO濃度の下限も決めて管理する。これにより、快適性及び安全性の観点でより有用な空調システム301が実現される。
【0158】
警告表示を行う場合、表示モニター331では、CO濃度を表す数値の表示色を赤色に変化させる。あるいは、図12に示されるように、モニタリング表示に異常点として所定の色(例えば、赤色)の輝点表示332を表示する。
【0159】
音発生部333及び光発生部335はそれぞれ、警告を行う警告部の一例である。音発生部333及び光発生部335は、所定の条件が満たされた場合に、警告を発する。
【0160】
音発生部333は、警告音などの所定の音を発するスピーカーである。音発生部333が発生させる警告音は、音による提示の一例である。
【0161】
光発生部335は、可視光を発する光源部であり、例えば、警告ランプなどの赤色光を発する赤色灯である。光発生部335が発する赤色光は、光による提示の一例である。
【0162】
なお、情報提示部330が提示する情報は、CO濃度の数値だけに限定されない。例えば、情報提示部330は、室内空間80内に占めるCO濃度が既定範囲内である領域、すなわち、CO濃度が低くて快適な空間の体積割合(以下、良好空間割合と記載する)を提示してもよい。例えば、図12の表示モニター331には、良好空間割合(単位:%)が表示されている。これにより、CO濃度の平均値の表示のみより、さらに室内空間80内の環境状況を把握できる。
【0163】
良好空間割合は、例えば、制御装置30の信号処理部32によって推定される。具体的には、信号処理部32は、室内空間80内のCO濃度の三次元分布の推定結果に基づいて、CO濃度が規定範囲内である領域の体積を算出する。室内空間80の体積(容積)は、例えば記憶部34に予め記憶されている。これにより、信号処理部32は、良好空間割合を算出することができる。
【0164】
また、このとき、情報提示部330は、良好空間割合が所定値未満である場合に、警告を行ってもよい。警告は、表示モニター331による表示色の変化、音発生部333による警告音の発生、光発生部335による赤色光の発生などの少なくとも1つである。所定値は、予め設定された許容範囲の下限値であり、例えば記憶部34に記憶されている。
【0165】
また、情報提示部330は、CO濃度が規定範囲を外れるまでの推定時間を提示してもよい。例えば、図12の表示モニター331には、室内空間80でCO濃度が規定範囲を外れるまでの推定時間が換気推奨予測時間として表示されている。これにより、室内空間80の環境異常を早期に予測することができる。
【0166】
予測時間は、例えば、制御装置30の信号処理部32によって推定される。具体的には、信号処理部32は、室内空間80内のCO濃度の時間変化に基づいて、CO濃度が上昇している場合、推定時点におけるCO濃度の瞬時値及び変化の割合に基づいて規定範囲の上限値に達するまでの時間を推定する。
【0167】
[効果など]
以上のように、本実施の形態に係る空調システム301は、CO濃度に関する情報を提示する情報提示部330を備える。
【0168】
これにより、室内空間80内のCO濃度に関する情報が提示されるので、室内空間80内にいるユーザ又は室内空間80の管理者などによる空間内の環境状態の把握及びその対処の補助に有用である。
【0169】
また、例えば、信号処理部32は、室内空間80のCO濃度が規定範囲内である領域の体積割合を推定してもよい。情報提示部330は、推定された体積割合を提示してもよい。
【0170】
これにより、CO濃度が低い領域(すなわち、快適な領域)の割合が提示されるので、空間内の環境状態をより分かりやすくユーザ又は管理者などに知らせることができる。
【0171】
また、例えば、情報提示部330は、体積割合が所定値未満である場合に、画面表示、音による提示、及び、光による提示の少なくともいずれかを行ってもよい。
【0172】
これにより、快適な領域の割合が少ない場合に警告を行うことができる。
【0173】
また、例えば、信号処理部32は、室内空間80のCO濃度が規定範囲を外れるまでの推定時間を推定してもよい。情報提示部330は、推定時間を提示してもよい。
【0174】
これにより、CO濃度の上昇に応じて快適性が損なわれるようになるまでの推定時間が表示されるので、空間内の環境状態をより分かりやすくユーザ又は管理者などに知らせることができる。
【0175】
また、例えば、情報提示部330は、CO濃度が規定範囲を外れた場合に、画面表示、音による提示、及び、光による提示の少なくともいずれかを行ってもよい。
【0176】
これにより、快適性又は安全性が損なわれている可能性がある場合に警告を行うことができる。
【0177】
情報提示部330は、制御装置30とは別体で構成され、互いに有線又は無線で通信可能であってもよい。例えば、情報提示部330は、人90が所持するスマートフォン、タブレット端末又はパーソナルコンピュータなどの情報処理端末であってもよい。あるいは、情報提示部330は、制御装置30とは一体的に構成された1つの装置であってもよい。
【0178】
また、情報提示部330は、音発生部333及び光発生部335を備えなくてもよい。また、音発生部333は、表示モニター331に表示される情報を音声として出力してもよい。つまり、音発生部333は、警告の発生だけでなく、情報の提示機能を有してもよい。この場合、情報提示部330は、表示モニター331を備えなくてもよい。
【0179】
(その他)
以上、本発明に係る空調システム及びプログラムについて、上記の実施の形態などに基づいて説明したが、本発明は、上記の実施の形態に限定されるものではない。
【0180】
例えば、本発明の一態様は、上述した各実施の形態に係る空調システム1、101又は201を備える建物として実現されてもよい。ここで、建物は、具体的には、室内空間80を備える一般家庭、オフィスビル、学校、病院又は介護施設などであるが、これらに限定されない。また、本発明の一態様は、これらの建物の一部(例えば、一部屋)として実現されてもよい。また、本発明の一態様は、上記の空調システム及び室内空間80を備える電車、バス又は船舶などの移動体として実現されてもよい。
【0181】
また、例えば、上記各実施の形態では、COセンサ20によるCO濃度の測定値、及び、当該測定値に基づいて推定された複数の推定値のうちの最大値Dmaxが閾値Dthを超えた場合に、給排気機能を優先する例を示したが、これに限らない。例えば、信号処理部32、132又は232は、最大値Dmaxと最小値Dminとの差分を算出してもよい。最小値Dminは、COセンサ20によるCO濃度の測定値、及び、当該測定値に基づいて推定された複数の推定値のうちの最小値である。
【0182】
上述したように、CO濃度は、人90の口元付近から人90の鉛直上方の領域において高くなり、人90から離れる程、CO濃度は低くなる傾向がある。しかしながら、室内空間80の換気が行われず、人90からの二酸化炭素の排出量が多くなると、室内空間80内に二酸化炭素が溜まり、全体的にCO濃度が均一になる。このため、最大値Dmaxと最小値Dminとの差分が所定の閾値より小さくなる。したがって、制御部33は、算出された差分が所定の閾値より小さい場合に、室内温度調整機能より給排気機能を優先させて空調設備10を制御してもよい。これにより、室内空間80の快適性を維持することができる。
【0183】
あるいは、制御部33は、床面82におけるCO濃度の推定値が所定の閾値を超えた場合に、室内温度調整機能より給排気機能を優先させて空調設備10を制御してもよい。室内空間80の床面82の四隅のように、人90から離れた位置での床面82近くのCO濃度が所定の閾値より高い場合には、室内空間80全体には二酸化炭素が多く含まれており、換気を行うべき状態であると判断することができる。
【0184】
なお、各実施の形態では、COセンサ20が天井面又は床面に設置される例を説明したが、これに限定されない。例えば、COセンサ20は、持ち運びが容易なハンディ型のCOセンサであってもよい。例えば、ハンディ型のCOセンサ20は、人90によって机上などに設置され、CO濃度を測定してもよい。この場合は、CO濃度の推定式も上記とは異なる。例えば、信号処理部32、132又は232は、机上に置かれたCOセンサの床上からの高さと、その設置場所でのCO濃度とを基準に一次式で高さ方向の分布を推定する。
【0185】
また、例えば、CO濃度が許容範囲を外れたら警報を発することで、現場の遠隔診断に活用できる。その他にも、CO濃度が異常値の場合には、センサ故障診断及び/又は修理連絡など、ファシリティマネージャーなど保全担当者の業務支援にも活用できる。
【0186】
また、上記実施の形態で説明した装置間の通信方法については特に限定されるものではない。装置間で無線通信が行われる場合、無線通信の方式(通信規格)は、例えば、ZigBee(登録商標)、Bluetooth(登録商標)、又は、無線LAN(Local Area Network)などの近距離無線通信である。あるいは、無線通信の方式(通信規格)は、インターネットなどの広域通信ネットワークを介した通信でもよい。また、装置間においては、無線通信に代えて、有線通信が行われてもよい。有線通信は、具体的には、電力線搬送通信(PLC:Power Line Communication)又は有線LANを用いた通信などである。
【0187】
また、上記実施の形態において、特定の処理部が実行する処理を別の処理部が実行してもよい。また、複数の処理の順序が変更されてもよく、あるいは、複数の処理が並行して実行されてもよい。また、空調システム1、101又は201が備える構成要素の複数の装置への振り分けは、一例である。例えば、一の装置が備える構成要素を他の装置が備えてもよい。
【0188】
例えば、上記実施の形態において説明した処理は、単一の装置(システム)を用いて集中処理することによって実現してもよく、又は、複数の装置を用いて分散処理することによって実現してもよい。また、上記プログラムを実行するプロセッサは、単数であってもよく、複数であってもよい。すなわち、集中処理を行ってもよく、又は分散処理を行ってもよい。
【0189】
また、上記実施の形態において、制御部などの構成要素の全部又は一部は、専用のハードウェアで構成されてもよく、あるいは、各構成要素に適したソフトウェアプログラムを実行することによって実現されてもよい。各構成要素は、CPU(Central Processing Unit)又はプロセッサなどのプログラム実行部が、HDD(Hard Disk Drive)又は半導体メモリなどの記録媒体に記録されたソフトウェアプログラムを読み出して実行することによって実現されてもよい。
【0190】
また、制御部などの構成要素は、1つ又は複数の電子回路で構成されてもよい。1つ又は複数の電子回路は、それぞれ、汎用的な回路でもよいし、専用の回路でもよい。
【0191】
1つ又は複数の電子回路には、例えば、半導体装置、IC(Integrated Circuit)又はLSI(Large Scale Integration)などが含まれてもよい。IC又はLSIは、1つのチップに集積されてもよく、複数のチップに集積されてもよい。ここでは、IC又はLSIと呼んでいるが、集積の度合いによって呼び方が変わり、システムLSI、VLSI(Very Large Scale Integration)、又は、ULSI(Ultra Large Scale Integration)と呼ばれるかもしれない。また、LSIの製造後にプログラムされるFPGA(Field Programmable Gate Array)も同じ目的で使うことができる。
【0192】
また、本発明の全般的又は具体的な態様は、システム、装置、方法、集積回路又はコンピュータプログラムで実現されてもよい。あるいは、当該コンピュータプログラムが記憶された光学ディスク、HDD若しくは半導体メモリなどのコンピュータ読み取り可能な非一時的記録媒体で実現されてもよい。また、システム、装置、方法、集積回路、コンピュータプログラム及び記録媒体の任意な組み合わせで実現されてもよい。
【0193】
その他、各実施の形態に対して当業者が思いつく各種変形を施して得られる形態や、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で各実施の形態における構成要素及び機能を任意に組み合わせることで実現される形態も本発明に含まれる。
【符号の説明】
【0194】
1、101、201、301 空調システム
10 空調設備
11 給気機器
12 排気機器
20、20a、20b、20c、20d、20e、20f、20g、20h COセンサ
32、132、232 信号処理部
33、233 制御部
80、80a、80b、80c、80d、80e 室内空間
81 天井面
82 床面
90、92 人
120 人検出センサ
330 情報提示部
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5
図6A
図6B
図6C
図7A
図7B
図7C
図7D
図7E
図7F
図8
図9
図10
図11
図12