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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-16
(45)【発行日】2024-05-24
(54)【発明の名称】二酸化炭素固定化装置及び電池
(51)【国際特許分類】
   B01D 53/14 20060101AFI20240517BHJP
   H01M 14/00 20060101ALI20240517BHJP
【FI】
B01D53/14 220
H01M14/00 Z
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2023182152
(22)【出願日】2023-10-23
【審査請求日】2023-11-08
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】502440492
【氏名又は名称】有限会社リベラル
(74)【代理人】
【識別番号】110002239
【氏名又は名称】弁理士法人G-chemical
(72)【発明者】
【氏名】久保田 徹
(72)【発明者】
【氏名】吉田 大智
【審査官】佐々木 典子
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第1924100(CN,A)
【文献】韓国公開特許第10-2021-0044453(KR,A)
【文献】特開2023-106331(JP,A)
【文献】特開2020-069414(JP,A)
【文献】特開2020-116555(JP,A)
【文献】Accounts of Chemical Research,2019年,52,1721-1729,DOI: 10.1021/acs.accounts.9b00179
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 53/00-53/96
C01B 32/50
C25B 5/00
H01M
PubMed
Science Direct
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアミン及び/又はその塩を含む水溶液と、正負の電極材料とを備え、
前記水溶液中のポリアミン及び/又はその塩濃度が1質量ppm以上1000質量ppm未満であり、
前記電極材料に通電した後に二酸化炭素由来の炭酸塩を生成し得る二酸化炭素固定化装置。
【請求項2】
前記ポリアミンは2個以上のアミノ基を分子内部に有し、重量平均分子量500以上50,000以下であり、揮発性を有さないポリアミンである、請求項1に記載の二酸化炭素固定化装置。
【請求項3】
前記水溶液の作製直後のpHが8.6以上14以下である請求項1又は2に記載の二酸化炭素固定化装置。
【請求項4】
通電前の状態で、前記水溶液は実質的に金属イオンを含まない請求項1又は2に記載の二酸化炭素固定化装置。
【請求項5】
前記水溶液の液面は大気に接している請求項1又は2に記載の二酸化炭素固定化装置。
【請求項6】
通電前の状態で、前記水溶液に大気中の二酸化炭素を飽和濃度まで溶解し得る請求項1又は2に記載の二酸化炭素固定化装置。
【請求項7】
前記負の電極材料はアルカリ金属以外の金属元素を含む請求項1又は2に記載の二酸化炭素固定化装置。
【請求項8】
前記負の電極材料は亜鉛、鉄、及びマグネシウムからなる群より選択される一種以上の金属元素を含む請求項1又は2に記載の二酸化炭素固定化装置。
【請求項9】
前記正の電極材料は前記負の電極材料に対して相対的に高い標準生成ギブスエネルギーとなる材料で構成される請求項1又は2に記載の二酸化炭素固定化装置。
【請求項10】
電気エネルギーを取り出し可能な請求項1又は2に記載の二酸化炭素固定化装置。
【請求項11】
通電後の状態で、前記水溶液のpHは5.8以上8.6未満である請求項1又は2に記載の二酸化炭素固定化装置。
【請求項12】
請求項1又は2に記載の二酸化炭素固定化装置を含む電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二酸化炭素固定化装置及び二酸化炭素固定化装置を含む電池に関する。
【背景技術】
【0002】
大気中の二酸化炭素濃度上昇の緩和ないし濃度下降を目指す技術を総称してネガティブエミッションシステムという。現状考えられているネガティブエミッションシステムは、BECCS(バイオマス燃料の使用時に排出された二酸化炭素を回収して地中に貯留する技術)やDACCS(大気中にすでに存在する二酸化炭素を直接回収して貯留する技術)等が知られているが、いずれの方法も大気中の二酸化炭素回収後、貯留前へ移行する段階において、エネルギーの投入が必要になるものであった。
【0003】
例えば、特許文献1では大気中の二酸化炭素をアルカリ土類金属炭酸塩として固定させる手段として、あらかじめ金属イオンとポリアミンとを溶解させた水溶液を準備し、大気暴露させて大気中の二酸化炭素を吸収(溶解)し、炭酸塩として析出させる方法が開示されている。
【0004】
また、特許文献2では炭酸ガスを含むガスを吸収塔内でアルカノールアミン水溶液と接触させて炭酸ガスを吸収させた後、その炭酸ガス吸収液を加熱して脱離塔で炭酸ガスを脱離回収させる方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2010-194378号公報
【文献】特開2006-240966号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の検討では特許文献1,2に記載されているように二酸化炭素固定時にエネルギー投入が必要であり、何らかの形でエネルギーを取り出すことは検討されていなかった。
【0007】
したがって、本発明の目的は効率よく大気中の二酸化炭素を固定してエネルギーを取り出すことが可能な二酸化炭素固定化装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意努力した結果、水溶性高分子化合物を含む水溶液と、正負の電極材料とを備え、上記電極材料に通電した後に二酸化炭素由来の炭酸塩を生成し得る二酸化炭素固定化装置であれば、二酸化炭素固定時にエネルギーを取り出すことが可能であることを見出した。本発明はこれらの知見に基づいて完成させたものに関する。
【0009】
上記二酸化炭素固定化装置において、大気中の二酸化炭素を炭酸塩として析出させ、固定しつつ、エネルギーを取り出すことができる。
【0010】
上記水溶性高分子化合物は2個以上のアミノ基を分子内部に有し、重量平均分子量500以上50,000以下であり、揮発性を有さないポリアミンであることが好ましい。水溶性高分子化合物が上記構成を有することにより、二酸化炭素を効率的に吸収でき、安全性にも優れる。
【0011】
上記水溶液中の上記水溶性高分子化合物の濃度が1質量ppm以上1000質量ppm未満であることが好ましい。水溶性高分子化合物が上記構成を有することにより、二酸化炭素を吸収しつつ、安全性に優れる。
【0012】
上記水溶液の作製直後のpHが8.6以上14以下であることが好ましい。pHが上記範囲内であることにより、二酸化炭素を上記水溶液中に吸収させることが容易となる。
【0013】
上記二酸化炭素固定化装置は通電前の状態で、上記水溶液は実質的に金属イオンを含まないことが好ましい。
【0014】
上記二酸化炭素固定化装置は上記水溶液の液面は大気に接しているものであることが好ましい。上記水溶液が高い安全性を有するため、直接大気中に暴露することができる。
【0015】
上記二酸化炭素固定化装置は通電前の状態で、上記水溶液に大気中の二酸化炭素が飽和濃度まで溶解し得ることが好ましい。
【0016】
上記負の電極材料はアルカリ金属以外の金属元素を含むことが好ましい。
【0017】
上記負の電極材料は亜鉛、鉄、及びマグネシウムからなる群より選択される一種以上の金属元素を含むことが好ましい。
【0018】
上記正の電極材料は上記負の電極材料に対して相対的に高い標準生成ギブスエネルギーとなる材料で構成されることが好ましい。
【0019】
上記二酸化炭素固定化装置は電気エネルギーを取り出し可能であることが好ましい。
【0020】
上記二酸化炭素固定化装置は通電後の状態で、上記水溶液のpHは5.8以上8.6未満であることが好ましい。
【0021】
また、本発明は上記二酸化炭素固定化装置を含む電池を提供する。
【発明の効果】
【0022】
本発明の二酸化炭素固定化装置は効率よく大気中の二酸化炭素を固定してエネルギーを取り出すことが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の二酸化炭素固定化装置の一実施形態を撮影した写真である。
図2】実施例1の二酸化炭素固定化装置における電圧の推移を示したグラフである。
図3】実施例1の二酸化炭素固定化装置における電流の推移を示したグラフである。
図4】実施例2の二酸化炭素固定化装置における電圧の推移を示したグラフである。
図5】実施例2の二酸化炭素固定化装置における電流の推移を示したグラフである。
図6】比較例1の二酸化炭素固定化装置における電圧の推移を示したグラフである。
図7】比較例1の二酸化炭素固定化装置における電流の推移を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
[二酸化炭素固定化装置]
本発明の二酸化炭素固定化装置は水溶性高分子化合物を含む水溶液と、正負の電極材料とを少なくとも備える。上記水溶液は上記水溶性高分子化合物を含むことで効率的に大気中の二酸化炭素を吸収し、炭酸イオンを生成することができる。また、上記二酸化炭素固定化装置は上記電極材料に通電することで、エネルギーを取り出しつつ、大気中の二酸化炭素を固定することができる。具体的には、上記二酸化炭素固定化装置は上記正負の電極材料を外部回路に接続することで、上記水溶液を通じて回路を形成し、通電することができ、外部回路に備えたLED等を通じてエネルギーとして取り出すことができる。さらに、上記外部回路に通電した際に上記水溶液中に吸収させた大気中の二酸化炭素が反応し、大気中の二酸化炭素由来の炭酸塩を生成させ、固定することができる。なお、本発明において「大気」とは開放系に存在する空気や二酸化炭素を含むのであれば排ガス等の気体も含むものである。
【0025】
したがって、上記二酸化炭素固定化装置は大気中の二酸化炭素を固定してエネルギーを取り出すことが可能である。すなわち、上記二酸化炭素固定化装置は大気中の二酸化炭素を固定し、回収するネガティブエミッションシステムとして使用可能でありながら同時にエネルギーを取り出し可能な装置である。
【0026】
なお、本発明において特に言及されていない場合は通電前の状態であることを意味するものとする。
【0027】
また、上記二酸化炭素固定化装置は上記正の電極材料と負の電極材料とを隔てるようにセパレータを備えることが好ましい。セパレータを備えることで電池として使用することが容易となる。上記セパレータとしては電池に使用される公知のものが使用でき特に限定されないが、樹脂製のセパレータを使用することが好ましい。
【0028】
(水溶性高分子化合物を含む水溶液)
上記二酸化炭素固定化装置は水溶性高分子化合物を含む水溶液((以下「水溶液」又は「電解液」と称する場合がある。)を備える。上記水溶液は上記水溶性高分子化合物を含むことで大気中の二酸化炭素を炭酸イオンとして効率よく吸収することができる。上記水溶液中の上記水溶性高分子化合物としては1種のみを使用してもよく、2種以上を使用してもよい。
【0029】
上記水溶性高分子化合物は窒素原子含有水溶性高分子化合物であることが好ましく、ポリアミン及び/又はその塩であることがより好ましい。
【0030】
上記水溶性高分子化合物の重量平均分子量は500以上150,000以下であることが好ましく、より好ましくは1000以上100,000以下であり、さらに好ましくは1500以上50,000以下である。また、上限としては特に好ましくは40,000以下であり、30,000以下、20,000以下、又は15,000以下であってもよい。重量平均分子量が500以上であることにより、揮発しにくくすることができ、150,000以下であることにより、上記水溶性高分子化合物と溶解した二酸化炭素とで上記水溶性高分子化合物のカルボン酸塩もしくはエステル生成に起因する分子全体の疎水性上昇により水溶液中から上記水溶性高分子化合物が沈殿物として脱離することによる大気中の二酸化炭素吸引能力減衰を抑制することができる。なお、上記重量平均分子量は、GPCで測定することができ、例えば、以下の条件で測定することができる。
装置:ゲル浸透クロマトグラフGPC(機器名「No.GPC-31」)
検出器:示差屈折率検出器RI(昭和電工株式会社製RI-501、感度32)
カラム:TSKgel G6000PWXL-CP1本、G3000PWXL-CP1本(7.8mm×30cm、東ソー株式会社製)
溶媒:0.1M酢酸緩衝液(pH4)
流速:0.7mL/min
カラム温度:40oC
注入量:0.2mL
標準試料:東ソー株式会社及びAgilent社製単分散ポリエチレンオキサイド(PEO)、ポリエチレングリコール(PEG)
データ処理:TRC製GPCデータ処理システム
【0031】
上記水溶性高分子化合物は分子内に2個以上のアミノ基を有するものであることが好ましく、より好ましくは3個以上、さらに好ましくは4個以上有するものである。上記水溶性高分子化合物は分子内にアミノ基を2個以上有することにより、大気中の二酸化炭素とカルバメート化合物を形成することが容易となり、効率的に大気中の二酸化炭素を水溶液中に吸収することができる。また、生成したカルバメートの自発的な加水分解を誘発し、水溶液中の炭酸イオンの生成を促進することができる。
【0032】
また、上記水溶性高分子化合物は揮発性を有さないものであることが好ましい。上記水溶性高分子化合物が揮発性を有さないことにより、上記水溶液が大気中に接した状態であっても安全性に優れることができる。なお、本発明において揮発性を有さないとは、常温(25℃)、常圧(1気圧)で揮発性を有さない化合物であることを意味する。
【0033】
上記水溶液中の上記水溶性高分子化合物の含有量は、上記水溶液100質量%に対して1質量ppm以上1000質量ppm未満であることが好ましく、より好ましくは3質量ppm以上900質量ppm以下、さらに好ましくは5質量ppm以上800質量ppm以下、特に好ましくは10質量ppm以上700質量ppm以下、最も好ましくは15質量ppm以上600質量ppmである。上記含有量が1質量ppm以上であることにより、二酸化炭素を吸収しやすくすることができる。1000質量ppm未満であることにより、十分な安全性を有し、排水処理が容易となる。
【0034】
<ポリアミン>
上記ポリアミンの有するアミノ基は、第1級アミン、第2級アミン、第3級アミンのいずれを構成するものであってもよい。
【0035】
上記ポリアミンとしては、例えば、下記式(1)で表されるポリアミンが挙げられる。
【化1】

(式中、mは0~1000の整数を示すことを示し、R1、R2は、それぞれ独立に炭素数2~8の直鎖状又は分岐鎖状のアルキレン基を示す。mが2以上の場合、複数個のR1は同一であってもよく異なっていてもよい。)
【0036】
上記R1、R2は、それぞれ好ましくは炭素数2~6の直鎖状又は分岐鎖状アルキレン基、さらに好ましくは炭素数3~5の直鎖状又は分岐鎖状アルキレン基を示す。
【0037】
上記mは、より好ましくは1~500の整数、さらに好ましくは2~100の整数、特に好ましくは3~50の整数、特に好ましくは5~10の整数を示す。
【0038】
上記式(1)で表されるポリアミンのうち、mが0であるポリアミンとしては、例えば、エチレンジアミン、1,2-ジアミノプロパン、1,3-ジアミノプロパン、1,4-ジアミノブタン(プトレスシン)、1,5-ジアミノペンタン、1,6-ジアミノヘキサン、1,7-ジアミノヘプタン、1,8-ジアミノオクタンなどが挙げられる。
【0039】
上記式(1)で表されるポリアミンのうち、mが1以上であるポリアミンとしては、例えば、スペルミジン、スペルミン;ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラアミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン、ヘキサエチレンヘプタミン、ヘプタエチレンオクタミン、オクタエチレンノナミン、ノナエチレンデカミンなどのポリエチレンアミン;ジプロピレントリアミン、トリプロピレンテトラミン、テトラプロピレンペンタミン、ペンタプロピレンヘキサミン、ヘキサプロピレンヘプタミン、ヘプタプロピレンオクタミン、オクタプロピレンノナミン、ノナプロピルデカミンなどのポリプロピレンポリアミンなどが挙げられる。
【0040】
上記式(1)で表されるポリアミンとしては、市販品を用いることができる。市販品の例を表1に示す。
【表1】
【0041】
また、上記ポリアミンとしては、例えば、下記式(2)で表される環状アミンに由来する構造単位を有するポリマー(以下「ポリマーA」と称する場合がある。)が挙げられる。このポリマーAは、下記式(2)で表される環状アミンの開環重合により得られる。
【化2】

(式中、R3、R4、R5、R6はそれぞれ独立に、水素原子又はメチル基を示す。)
【0042】
上記式(2)で表される環状アミンとしては、例えば、アジリジン(エチレンイミン)、2-メチルアジリジン、2,2-ジメチルアジリジン、2,3-ジメチルアジリジンなどが挙げられる。上記ポリマーAのうちホモポリマーとしては、例えば、ポリエチレンイミン、ポリ(2-メチルアジリジン)、ポリ(2,2-ジメチルアジリジン)、ポリ(2,3-ジメチルアジリジン)などが挙げられる。
【0043】
上記ポリマーAとしては、市販品を用いることができる。市販品の例を表2に示す。
【表2】
【0044】
また、上記ポリアミンとしては、例えば、下記式(3)で表される不飽和アミンに由来する構造単位を有するポリマー(以下「ポリマーB」と称する場合がある。)が挙げられる。このポリマーBは、下記式(3)で表される不飽和アミンの不飽和基の重合により得られる。
【化3】
(式中、nは0~2の整数を示し、pは1~3の整数を示し、R7,R8、R9はそれぞれ独立に、水素原子又はメチル基を示す。)
【0045】
上記式(3)で表される不飽和アミンとしては、例えば、ビニルアミン、ジビニルアミン、トリビニルアミン、アリルアミン、ジアリルアミン、トリアリルアミン、メタリルアミン、ジメタリルアミン、トリメタリルアミン、クロチルアミン、ジクロチルアミン、トリクロチルアミン、3-メチル-2-ブテニルアミン、3-ブテニルアミンなどが挙げられる。
【0046】
上記ポリマーBのうち、ホモポリマーとしては、例えば、ポリビニルアミン、ポリジビニルアミン、ポリアリルアミン、ポリジアリルアミン、ポリトリアリルアミン、ポリメタクリルアミン、ポリクロチルアミン、ポリ(3-ブテニルアミン)などが挙げられる。
【0047】
また、上記ポリマーAと上記ポリマーBは、上記ホモポリマーのほか、コポリマーであってもよい。上記コポリマーの配列の様式は、統計、ランダム、交互、周期コポリマーのいずれであってもよく、また、ポリマー鎖のつながり方は、ブロックコポリマー、グラフトコポリマーのいずれであってもよい。
【0048】
上記ポリマーAがコポリマーの場合、上記式(2)で表される2種以上の環状アミンのコポリマーであってもよく、上記ポリマーBがコポリマーの場合、上記式(3)で表される不飽和アミンの2種以上のコポリマーであってもよく、上記式(3)で表される不飽和アミンの1種又は2種以上と該式(3)で表される不飽和アミンと共重合可能な他のモノマーとのコポリマーであってもよい。
【0049】
上記式(3)で表される不飽和アミンと共重合可能な他のモノマーとしては、例えば、二酸化硫黄、(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリル酸、マレイン酸などが挙げられる。
【0050】
上記ポリマーBがコポリマーの場合、上記式(3)で表される不飽和アミンに由来する構造単位(アミノ基に置換基が導入されたもの及び塩が形成されたものを含む)のコポリマー全体に対する割合は、例えば20質量%以上、好ましくは40質量%以上、より好ましくは60質量%以上、さらに好ましくは80質量%以上、特に好ましくは90質量%以上である。
【0051】
また、上記ポリマーBがコポリマーの場合、上記式(3)で表される不飽和アミンに由来する構造単位のうちアミノ基に置換基が導入されていないもの(アミノ基が塩を形成しているものを含む)のコポリマー全体に対する割合は、例えば、20質量%以上、好ましくは40質量%以上、より好ましくは60質量%以上、さらに好ましくは80質量%以上、特に好ましくは90質量%以上である。
【0052】
上記式(3)で表される不飽和アミンに由来する構造単位を有するポリマー、すなわちポリマーBの代表的な例としては、ポリビニルアミン、ポリジビニルアミン、ポリアリルアミン、ポリジアリルアミン、ポリトリアリルアミン、ポリメタリルアミン、ポリクロチルアミン、ポリ(3-ブテニルアミン)、ジアリルアミン重合体、ポリ(N,N-ジメチルアリルアミン)、ポリ(N-アセチルアリルアミン)などのホモポリマー、アリルアミン-ジアリルアミン共重合体、アリルアミン-ジメチルアリルアミン共重合体、部分メトキシカルボニル化アリルアミン共重合体、部分尿素化アリルアミン重合体、ジアリルアミン-二酸化硫黄共重合体、メチルジアリルアミン-二酸化硫黄共重合体、ジアリルアミン-アクリルアミド共重合体、アリルアミン-マレイン酸共重合体、ジアリルアミン-マレイン酸共重合体、メチルジアリルアミン-マレイン酸共重合体、部分ホルミル化アリルアミン重合体、部分アセチル化アリルアミン重合体、部分プロピオニル化アリルアミン重合体、アリルアミン-N,N-ジメチルアリルアミン共重合体、部分ホルミル化ジアリルアミン重合体、部分アセチル化ジアリルアミン重合体、部分プロピオニル化ジアリルアミン重合体などのコポリマーが挙げられる。
【0053】
また、上記式(1)で表されるポリアミン、上記ポリマーA、及び上記ポリマーBのいずれも、分子内のアミノ基は置換基を有していてもよく、有していなくてもよい。
【0054】
上記置換基としては、例えば、メチル基、エチル基などの炭素数1~4までのアルキル基;ホルミル基、アセチル基、プロピオニル基などの炭素数1~4のアシル基;メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基などのアルコキシ部分の炭素数が1~4のアルコキシカルボニル基;カルバモイル基などが挙げられる。これらの置換基は、モノマーの段階で導入されていてもよく、重合後に導入されていてもよい。上記置換基は1種のみであってもよく、2種以上使用されていてもよい。
【0055】
上記ポリアミンは、上記式(1)で表されるポリアミン、上記ポリマーA、又は上記ポリマーBからなる群より選択される少なくとも1種の化合物であることが好ましい。中でも、より経済性に優れ、入手しやすいとの観点から、上記ポリアミンは、上記ポリマーA、及び/又は、上記ポリマーBのいずれかであることがより好ましく、上記ポリマーBであることが最も好ましい。
【0056】
上記ポリマーBとしては、市販品を用いることができる。市販品の例を表3に示す。
【表3】
【0057】
上記ポリアミンの塩とは、酸との塩、第4級アンモニウム塩のいずれであってもよい。上記酸とは、例えば、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、ホウ酸などの無機酸;ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、イソ酪酸、ペンタン酸、ヘキサン酸、オクタン酸、デカン酸、ドデカン酸などの1価の脂肪族カルボン酸;シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸などの2価の脂肪族カルボン酸;グリコール酸、乳酸、リンゴ酸、酒石酸などのヒドロキシカルボン酸;メタンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸などのスルホン酸などの有機酸が挙げられる。
【0058】
上記水溶液は、本発明の効果を損なわない限り、他の成分として種々の添加剤を含んでもよい。上記その他の成分としては、例えば、有機溶媒、増粘安定剤、粘稠剤、防腐剤、界面活性剤、品質安定剤等を1種、又は2種以上配合してもよい。
【0059】
なお、上記水溶液はリチウムイオンを実質的に含まないことが好ましく、金属イオンを実質的に含まないことがより好ましい。上記水溶液が金属イオンを実質的に含まないことにより使用後の排水処理が容易となる。なお、本発明において金属イオンを実質的に含まないとは、電極材料を浸す以外の金属元素を含む原料を積極的に添加せず、例えば、上記水溶液中の金属イオン濃度が1.0mol/L以下であることを意味する。
【0060】
上記ポリアミン及び/又はその塩の奏する機能を最大限に発揮させる観点から、上記水溶液中の水、ポリアミン、及びポリアミンの塩以外の他の成分の含有量は、上記水溶液100質量%に対して5質量%未満であることが好ましく、より好ましくは3質量%未満、さらに好ましくは1質量%未満であり、無配合であることが特に好ましい。上記他の成分の含有量が5質量%未満の場合、水溶液中の他の成分に干渉されることがないため、ポリアミン及び/又はその塩の効果が一層効果的に発揮される。
【0061】
上記水溶液は、ポリアミン及び/又はその塩を機能成分として含有し、水、ポリアミン、ポリアミンの塩の総含有量は、上記水溶液100質量%に対して、例えば95質量%以上であり、好ましくは98質量%以上、99質量%以上、より好ましくは99.5質量%以上、さらに好ましくは99.95質量%以上、特に好ましくは99.98質量%以上、最も好ましくは100質量%である。
【0062】
上記水溶液の作製直後のpHが8.6以上14以下であることが好ましく、より好ましくは9以上13以下、さらに好ましくは9.5以上12以下である。pHが8.6以上であると、二酸化炭素を十分に吸収することができ、pHが14以下であると、水溶液として安全性が十分となり、排水処理が容易となる。
【0063】
上記水溶液は大気中の二酸化炭素を飽和濃度まで溶解し得ることが好ましい。上記構成を有することで、効率よく大気中の二酸化炭素を固定することができる。
【0064】
上記水溶液は大気中の二酸化炭素を飽和濃度まで溶解するために、室温、常圧の条件で100時間以上静置することが好ましい。
【0065】
上記水溶液を大気中で静置後(好ましくは大気中で100時間以上静置後)のpHは7.5以上10以下であることが好ましく、より好ましくは7.7以上9.5以下、さらに好ましくは8.1以上9.0以下である。上記高分子化合物を含む水溶液静置後のpHが上記範囲内であることにより、二酸化炭素が十分に吸収されたことを確認することができる。
【0066】
(電極材料)
上記二酸化炭素固定化装置は正負の電極材料を備える。上記正負の電極材料は、それぞれ、1種の原料のみからなるものであってもよいし、2種以上の原料を含むものであってもよい。
【0067】
上記負の電極材料としては公知乃至慣用の負の電極材料を使用することができる。中でも、上記負の電極材料としては炭酸塩の標準生成ギブスエネルギーが水酸化物の標準生成ギブスエネルギーよりも低い値となるものが好ましい。上記負の電極材料の炭酸塩の標準生成ギブスエネルギーが水酸化物の標準生成ギブスエネルギーよりも低い値であると上記二酸化炭素固定化装置に通電後(放電後)に炭酸塩を生じさせることが容易となる。
【0068】
また、水に対する溶解度積は、個別の塩について固有の値を有しており、塩を構成するイオン種のモル濃度の積が溶解度積を超過する場合、塩は結晶として析出する。そのため、上記水溶液中に金属イオンと大気中の二酸化炭素とが連続的に供給される場合、そこから連続的に炭酸塩が析出し続けることができる。上記二酸化炭素固定化装置は通電した際に、負極における酸化反応により水溶液中に金属イオンが連続して溶出し、二酸化炭素と反応して炭酸塩を構成するため、炭酸塩を生じさせることが容易となる。
【0069】
具体的には、上記負の電極材料はアルカリ金属以外の金属元素を含むことが好ましく、亜鉛、鉄、銅、及びマグネシウムからなる群より選択される1種以上の金属元素を含むことがより好ましく、亜鉛、鉄、及びマグネシウムからなる群より選択される1種以上の金属元素を含むことがさらに好ましく、亜鉛を含むことが特に好ましい。上記負の電極材料はアルカリ金属を含まないことにより、安全性を担保することが容易となる。また、亜鉛、鉄、及びマグネシウムからなる群より選択される1種以上の金属元素を含むことにより、通電後に炭酸塩として固定化することが容易となる。
【0070】
上記負の電極材料中のアルカリ金属以外の金属の含有量は上記負の電極材料100質量%に対して、90質量%以上であることが好ましく、より好ましくは95質量%以上であり、さらに好ましくは100質量%である。上記範囲を満たすことにより、通電した際に水溶液(電解液)中の二酸化炭素を炭酸塩として容易に固定することができる。
【0071】
上記負の電極材料から生じる水酸化物の標準生成ギブスエネルギーは-200kJ/mol以下であることが好ましく、より好ましくは-300kJ/mol以下であり、さらに好ましくは-400kJ/mol以下である。また、下限としては特に限定されないが-1000kJ/mol以上であることが好ましい。
【0072】
上記負の電極材料から生じる炭酸塩の標準生成ギブスエネルギーは-500kJ/mol以下であることが好ましく、より好ましくは-600kJ/mol以下であり、さらに好ましくは-700kJ/mol以下である。上記炭酸塩の標準生成ギブスエネルギーが-500kJ/mol以下であることにより、炭酸塩を生成することが容易となる。また、下限としては特に限定されないが-3000kJ/mol以上であることが好ましい。
【0073】
また、上記炭酸塩の標準生成ギブスエネルギーは上記水酸化物の標準生成ギブスエネルギーよりも100kJ/mol以上小さいことが好ましく、より好ましくは150kJ/mol以上小さく、さらに好ましくは200kJ/mol以上小さい。上記範囲を満たすことにより、二酸化炭素固定化装置を通電した際に炭酸塩を安定して生成することができる。
【0074】
上記負の電極材料から生じる物質の標準生成ギブスエネルギーは-300kJ/mol以下であることが好ましく、より好ましくは-400kJ/mol以下であり、さらに好ましくは-500kJ/mol以下である。上記範囲を満たすことにより、負極として使用することが容易となる。
【0075】
上記負の電極材料の形状に関しては特に限定されず、二酸化炭素固定化装置の形状に応じて、板状、棒状、粒子状等の形状を使用することができる。
【0076】
上記正の電極材料としては公知乃至慣用の正の電極材料を使用することができ、特に上記正の電極材料は上記負の電極材料に対して相対的に高い標準生成ギブスエネルギーとなる材料で構成されることが好ましい。なお、上記正の電極材料全体として上記負の電極材料よりも高い標準生成ギブスエネルギーとなるのであれば、上記負の電極材料よりも標準生成ギブスエネルギーの低い材料を含んでいてもよいが、含まないことが好ましい。上記構成を有することで、上記二酸化炭素固定化装置を通電した際に、エネルギーを取り出すことが容易となる。
【0077】
上記正の電極材料としては、例えば、二酸化マンガン、炭素などを使用することができる。なお、正極材料として炭素を使用する場合、空気中の酸素を正極として使用する空気極を形成するものである。
【0078】
上記正の電極材料から生じる物質の標準生成ギブスエネルギーは具体的に、-500kJ/mol以上であることが好ましく、より好ましくは-400kJ/mol以上であり、さらに好ましくは-300kJ/mol以上である。上記範囲を満たすことにより、正極として使用することが容易となる。
【0079】
また、上記負の電極材料と正の電極材料との標準生成ギブスエネルギーの変化量の差が200kJ/mol以上であることが好ましく、より好ましくは250kJ/mol以上であり、さらに好ましくは300kJ/mol以上である。標準生成ギブスエネルギーの変化量の差が200kJ/mol以上であることにより、電池として起電力を十分とすることが容易となる。また、上限としては特に限定されないが、2000kJ/mol以下であることが好ましい。
【0080】
上記正の電極材料の形状に関しては特に限定されず、板状、棒状、粒子状等の形状を使用することができる。
【0081】
上記負の電極材料と上記正の電極材料の組合わせとしては特に限定されないが、負の電極材料として亜鉛又はマグネシウムを、正の電極材料として二酸化マンガンを使用するもの、又は負の電極材料として亜鉛又はマグネシウムを、正の電極材料として炭素を使用するものであることが好ましい。
【0082】
上記二酸化炭素固定化装置は上記水溶液の液面が大気に接していることが好ましい。上記水溶液は安全性が高いため、大気に接した状態でも使用することができる。上記水溶性高分子化合物は揮発性を有さない場合、大気に接しても揮発せず、大気中の二酸化炭素を効率よく吸収させることができる。
【0083】
上記二酸化炭素固定化装置は初期電圧を安定させるために通電前に静置することが好ましい。その後、上記二酸化炭素固定化装置は外部回路を接続し、通電することで、エネルギーを取り出しつつ、上記水溶液中の二酸化炭素が反応し、炭酸塩として固定し、析出させることができる。
【0084】
上記炭酸塩は使用する負の電極材料の材質によるが、塩基性の炭酸塩であることが好ましく、具体的には炭酸亜鉛、炭酸鉄、炭酸マグネシウム、炭酸マグネシウム3水和物、炭酸マグネシウム5水和物、炭酸銅、及びそれらの塩基性の炭酸塩などが挙げられ、特に炭酸亜鉛、及び塩基性炭酸亜鉛が好ましい。
【0085】
通電後の上記水溶液のpHは5.8以上8.6未満であることが好ましく、より好ましくは6.0以上8.4以下であり、さらに好ましくは6.2以上8.2以下である。通電後の水溶液のpHが上記範囲を満たすことにより、河川もしくは公共下水道等への排水を容易にし、安全性の高いものとすることができる。
【0086】
上記二酸化炭素固定化装置は上述の構成を有するため、大気中の二酸化炭素を固定化しつつ、エネルギーを取り出すことができる。上記エネルギーとしては電気エネルギーが好ましい。また、その電荷としては108C以上であることが好ましく、より好ましくは150C以上、さらに好ましくは200C以上である。上記電気エネルギーを108C以上取り出し可能であることにより、電池として使用することに適する。
【0087】
また、上記通電後の二酸化炭素固定化装置は再度大気中の二酸化炭素を上記水溶液中に吸収させることで繰り返し、二酸化炭素を固定、析出させながらエネルギーを取り出すことができる。
【0088】
さらに、上記炭酸塩は上記水溶液中に析出されているため、上記二酸化炭素固定化装置中から容易に回収することができる。上記炭酸塩回収後の水溶液は、低濃度のポリアミンと電極由来の成分とを含有するのみであるため安全性に優れ、排水処理も容易である。
【0089】
[電池]
本発明の一実施形態として、上記二酸化炭素固定化装置を含む電池を挙げることができる。上記電池は上記水溶液を電解液とし、大気中の二酸化炭素を炭酸塩として固定しながら回収可能な電池として使用することができる。すなわち、従来のネガティブエミッションシステムでは二酸化炭素を固定するためにエネルギーを投入する必要があったのに対し、上記電池は大気中の二酸化炭素を固定化するネガティブエミッションシステムとして機能しつつ、さらに、エネルギーの投入を必要とせず、逆に電池として電気エネルギーを取り出すことができる。
【0090】
また、上記電池は通電後に、大気中の二酸化炭素を上記電解液中に再吸収させることで、繰り返し大気中の二酸化炭素を炭酸塩として固定化するネガティブエミッションシステムとして機能することができる。加えて、上記電池は電解液の安全性が高いため、固定化された炭酸塩を容易に分離、回収することができる。したがって、上記電池は、大気中の二酸化炭素を固定可能であり電池として電気エネルギーを取り出すことができ、さらに、固定した炭酸塩を容易に分離、回収できる、ネガティブエミッションシステムを備える電池として継続的に使用することができる。
【実施例
【0091】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0092】
実施例1
ガラスビーカーに濃度100質量ppm、分子量1600のポリアリルアミンを含む水溶性高分子化合物水溶液75mlを作製し、そのpHを測定したところ10.18であった。上記水溶液を18~22℃の条件で大気に接した状態で150時間静置し再度pHを測定したところ8.22であり、大気中の二酸化炭素が上記水溶性高分子水溶液に吸収されるものと推測された。
【0093】
参考例1
実施例1の水溶性高分子水溶液に代えて10倍濃縮液(濃度1000質量ppm)のポリアリルアミン水溶性高分子水溶液を作製し、そのpHを測定したところ、11.19であった。参考例1の濃縮液に同様の試験を実施したところ、pHは8.60まで低下することが確認された。
【0094】
実施例1と参考例1の両方共に、静置後にpHが低下しており、大気中の二酸化炭素を吸収することが確認された。また、実施例1と参考例1とを比較すると実施例1の方が大気中の二酸化炭素濃度から想定されるpHとの誤差が小さかったため、実施例1の水溶液を後の試験に供した。
【0095】
(二酸化炭素固定化装置の作製)
正極材料として電気分解用炭素棒セット(商品名「B10-2064」、株式会社ナリカ製)の炭素棒、ターミナル、電極板ホルダーを使用し、セパレートカップ(商品名「ダニエル電池DT-B」、株式会社ナリカ製)にセットした。次いで粒状酸化マンガン(IV)(林純薬工業株式会社製)を3mmまで粉砕した物と粉末黒鉛(商品名「FK-300」、株式会社モナミ製)の混合物をセパレートカップに敷き詰め、正極を作製した。
【0096】
100mlビーカー(商品名「PB-100」、新潟精機株式会社製)に上記正極と、上記セパレートカップによって正極側と負極側をセパレートした負極側に負極として亜鉛板とをセットした。次いで、上記実施例1の水溶液を約50ml添加して、実施例1の二酸化炭素固定化装置を作製した。
【0097】
図1に示すように実施例1の二酸化炭素固定化装置を2セット作製し、上記水溶液の液面が空気に接触するようにして直列接続した段階で電圧を計測したところ、1.25V×2で2.5Vを出力した。21時間後には電圧は2.8Vまで上昇し、24時間後も2.8Vであったため、この時点で放電前の初期電圧に到達したと判断し、後述の放電試験に供した。なお、電解液が正極側へ浸透した分、上記水溶液を約10ml追加し、ビーカーの目盛の上で100mlの位置に液面を合わせた。
【0098】
上記二酸化炭素固定化装置の評価方法に関して、通電することを目視可能な赤色発光ダイオード(以下LEDとする)を負荷とした。回路としては、LEDと326.9Ω(実測値)のLED電流制限抵抗(以下Rとする)の直列回路とした。
また、取得データとしては二酸化炭素固定化装置端子電圧とR両端電圧の2点で、電流はR両端電圧を抵抗値326.9Ω(実測値)で除した値を電流値とした。
【0099】
(放電試験)
下記の条件で複数回放電試験に供しつつ、上記水溶液のpH、電圧、及び電流を測定し、平均電流と電荷を算出した。その結果を図2,3及び表1、2に記載した。
1.1度目の放電でLEDの発光が確認できなくなるまで通電状態を維持する。
2.放電終了後静置し、放電前の電圧2.8Vの99%となる2.77Vを超えたら回復完了とし、2度目の放電を開始する。
3.2度目の放電もLEDの発光が確認できなくなるまで通電状態を維持する。
4.2度目の放電終了後静置し、電圧回復特性を確認し、2.77Vの99%となる2.74Vを超えたら回復完了とし、亜鉛板を新規のものに交換し、放電・回復を繰り返す。
【0100】
【表4】
【0101】
【表5】
【0102】
実施例1の二酸化炭素固定化装置に関して、上記二酸化炭素固定化装置が30mAh(=108C)を基準とし、これを超えて放電が継続していたため、エネルギーを取り出し可能であり、電池として使用可能であることが示唆された。二酸化炭素を再度上記水溶液中に再吸収させる回復期間を設定することで、電池として再生可能であり、繰り返し使用可能であることが示唆された。
【0103】
また、上記放電試験後の負極の亜鉛板を粉末X線回折に供したところ、酸化亜鉛は確認されず、塩基性炭酸亜鉛Zn5(OH)6(CO32が確認された。すなわち、大気中の二酸化炭素が上記水溶液中に吸収され、電池の電解液の成分として作用しつつ、炭酸塩として固定されることが確認された。
【0104】
実施例2
正極材料として粒状酸化マンガン(IV)(林純薬工業株式会社製)を3mmまで粉砕した物と粉末黒鉛(商品名「FK-300」、株式会社モナミ製)の代わりに、活性炭(商品名「気相用粒状活性炭4GG」、アズワン株式会社製)を使用した以外は実施例1と同様にして、実施例2の二酸化炭素固定化装置を作製した。
【0105】
実施例2の二酸化炭素固定化装置を2セット作製し、上記水溶液の液面が空気に接触するようにして直列接続した段階で電圧を計測したところ、1.652Vを出力した。電解液がセパレータを通過しながら正極(活性炭)側に徐々に浸透していくため、ビーカーの目盛が100mlの位置を保つように適宜電解水を補充しながら電圧の特性を計測した。実施例2の活性炭正極では電圧上昇に時間を要し、負極の亜鉛板には自己放電によるものと考えられる白色の腐食生成物が堆積していった。最終的に168時間(7日間)経過時点で約1.99Vとなり、さらなる上昇傾向もみられたものの、これを放電前の初期電圧に設定すると判断し、後述の放電試験に供した。
【0106】
(放電試験)
LEDの発光が確認できなくなるまで通電状態を維持する放電試験に供し、実施例2の水溶液のpH、電圧、及び電流を測定した。その結果を図4,5に示す。
【0107】
実施例2の二酸化炭素固定化装置は図4にある通り、1824時間(76日間)放電が継続し、放電中の平均電圧は1.614V(最大値1.630V,最小値1.578V)であった。また、図5に示す通り平均電流は157.1μA、放電終止時の電解液のpHは7.27であり、電荷量1031.5Cとなった。
【0108】
また、上記放電試験後の実施例2の二酸化炭素固定化装置の亜鉛板に関して、粉末X線回折に供したところ、塩基性炭酸亜鉛Zn5(OH)6(CO32が確認された。したがって、実施例2の二酸化炭素固定化装置に関しても電池としてエネルギーを取り出し可能であった。また、大気中の二酸化炭素が上記水溶液中に吸収され、電池の電解液の成分として作用しつつ、固定されることが確認された。
【0109】
比較例1
ガラスビーカーに0.1mmol/Lの水酸化カリウム水溶液75mlを作製し、そのpHを測定したところ10.55であった。上記水溶液を18~22℃の条件で大気に接した状態で120時間静置し再度pHを測定したところ7.73であり、大気中の二酸化炭素が上記水酸化カリウム水溶液に吸収されるものと推測された。
【0110】
実施例2の水溶液の代わりに上記水酸化カリウム水溶液を使用した以外は実施例2と同様にして、比較例1の二酸化炭素固定化装置を作製した。
【0111】
比較例1の二酸化炭素固定化装置を2セット作製し、上記水溶液の液面が空気に接触するようにして直列接続した段階で電圧を計測したところ、1.690Vを出力した。電解液がセパレータを通過しながら正極(活性炭)側に徐々に浸透していくため、ビーカーの目盛が100mlの位置を保つように適宜電解水を補充しながら電圧の特性を計測した。最終的に168時間(7日間)経過時点で1.986Vとなり、これを放電前の初期電圧に設定すると判断し、後述の放電試験に供した。
【0112】
(放電試験)
LEDの発光が確認できなくなるまで通電状態を維持する放電試験に供し、比較例1の水溶液のpH、電圧、及び電流を測定した。その結果を図6,7に示す。
【0113】
比較例1の二酸化炭素固定化装置は図6にある通り、1800時間(75日間)放電が継続し、放電中の平均電圧は1.594V(最大値1.660V,最小値1.560V)であった。また、図7に示す通り平均電流は142.4μA、放電終止時の電解液のpHは7.08であり、電荷量900Cとなった。
【0114】
また、上記放電試験後の比較例1の二酸化炭素固定化装置の亜鉛板に関して、粉末X線回折に供したところ、塩基性炭酸亜鉛Zn5(OH)6(CO32が確認された。したがって、比較例1の二酸化炭素固定化装置に関しても電池としてエネルギーを取り出し可能であった。また、大気中の二酸化炭素が上記水溶液中に吸収され、電池の電解液の成分として作用しつつ、固定されることが確認された。
【0115】
実施例2と比較例1の二酸化炭素固定化装置を比較すると、実施例の二酸化炭素固定化装置が平均電圧、平均電流、及び電荷量により優れ、より効率的に大気中の二酸化炭素を固定し、電池として使用できる結果となった。また、実施例2の二酸化炭素固定化装置は水酸化カリウム水溶液を使用した比較例1と比較して安全性に優れるものであった。
【0116】
以下に本発明のバリエーションを記載する。
[付記1]
水溶性高分子化合物を含む水溶液と、正負の電極材料とを備え、
前記電極材料に通電した後に二酸化炭素由来の炭酸塩を生成し得る二酸化炭素固定化装置。
[付記2]
前記水溶性高分子化合物は2個以上のアミノ基を分子内部に有し、重量平均分子量500以上50,000以下であり、揮発性を有さないポリアミンである付記1に記載の二酸化炭素固定化装置。
[付記3]
前記水溶液中の前記水溶性高分子化合物の濃度が1質量ppm以上1000質量ppm未満である付記1又は2に記載の二酸化炭素固定化装置。
[付記4]
前記水溶液の作製直後のpHが8.6以上14以下である付記1~3のいずれか1つに記載の二酸化炭素固定化装置。
[付記5]
通電前の状態で、前記水溶液は実質的に金属イオンを含まない付記1~4のいずれか1つに記載の二酸化炭素固定化装置。
[付記6]
前記水溶液の液面は大気に接している付記1~5のいずれか1つに記載の二酸化炭素固定化装置。
[付記7]
通電前の状態で、前記水溶液に大気中の二酸化炭素を飽和濃度まで溶解し得る付記1~6のいずれか1つに記載の二酸化炭素固定化装置。
[付記8]
前記負の電極材料はアルカリ金属以外の金属元素を含む付記1~7のいずれか1つに記載の二酸化炭素固定化装置。
[付記9]
前記負の電極材料は亜鉛、鉄、及びマグネシウムからなる群より選択される一種以上の金属元素を含む付記1~8のいずれか1つに記載の二酸化炭素固定化装置。
[付記10]
前記正の電極材料は前記負の電極材料に対して相対的に高い標準生成ギブスエネルギーとなる材料で構成される付記1~9のいずれか1つに記載の二酸化炭素固定化装置。
[付記11]
電気エネルギーを取り出し可能な付記1~10のいずれか1つに記載の二酸化炭素固定化装置。
[付記12]
通電後の状態で、前記水溶液のpHは5.8以上8.6未満である付記1~11のいずれか1つに記載の二酸化炭素固定化装置。
[付記13]
付記1~12のいずれか1つに記載の二酸化炭素固定化装置を含む電池。
【要約】
【課題】効率よく大気中の二酸化炭素を固定しつつエネルギーを取り出すことが可能な二酸化炭素固定化装置を提供する。
【解決手段】本発明の二酸化炭素固定化装置は水溶性高分子化合物を含む水溶液と、正負の電極材料とを備え、前記電極材料に通電した後に二酸化炭素由来の炭酸塩を生成し得る。また、前記溶性高分子化合物は2個以上のアミノ基を分子内部に有し、重量平均分子量500以上50,000以下であり、揮発性を有さないポリアミンであることが好ましい。
【選択図】なし
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7