(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-16
(45)【発行日】2024-05-24
(54)【発明の名称】音声処理装置、音声出力システム、音声処理方法、及び音声処理プログラム
(51)【国際特許分類】
H04B 14/02 20060101AFI20240517BHJP
【FI】
H04B14/02
(21)【出願番号】P 2024029689
(22)【出願日】2024-02-29
【審査請求日】2024-02-29
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】522097832
【氏名又は名称】株式会社アレックス
(74)【代理人】
【識別番号】100190274
【氏名又は名称】山下 滋之
(72)【発明者】
【氏名】岩澤 弘則
(72)【発明者】
【氏名】太田 博幸
(72)【発明者】
【氏名】山崎 健一
【審査官】後澤 瑞征
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-150389(JP,A)
【文献】特開2001-69008(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2002/0135419(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 14/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力データに応じたPWM信号を出力する第1ポート及び第2ポートを介して音声データに基づくPWM信号を出力する音声処理装置であって、
所定のビット数の前記音声データに前記第1ポート及び前記第2ポートのPWM周期内のクロック数を乗じた値を2の前記ビット数乗で除して拡張データを求め、前記拡張データの整数部分を前記第1ポートへ出力すると共に、前記拡張データの小数部分を増幅させて前記第2ポートへ出力する演算処理部を有する、音声処理装置。
【請求項2】
請求項1に記載の音声処理装置と、
前記第1ポートから出力されるPWM信号と、前記第2ポートからの出力を減衰させたPWM信号とを合成する合成処理器と、
前記合成処理器による合成後のPWM信号を増幅して音声を出力するスピーカユニットと、を有する、音声出力システム。
【請求項3】
1又は複数のプロセッサにより、入力データに応じたPWM信号を出力する第1ポート及び第2ポートを介して音声データに基づくPWM信号を出力する音声処理方法であって、
所定のビット数の前記音声データに前記第1ポート及び前記第2ポートのPWM周期内のクロック数を乗じた値を2の前記ビット数乗で除して拡張データを求め、
前記拡張データの整数部分を前記第1ポートへ出力すると共に、前記拡張データの小数部分を増幅させて前記第2ポートへ出力する、音声処理方法。
【請求項4】
音声データに基づくPWM信号を、入力データに応じたPWM信号を出力する第1ポート及び第2ポートに出力させるコンピュータを、
所定のビット数の前記音声データに前記第1ポート及び前記第2ポートのPWM周期内のクロック数を乗じた値を2の前記ビット数乗で除して拡張データを求める拡張処理手段、
及び、前記拡張データの整数部分を前記第1ポートへ出力すると共に、前記拡張データの小数部分を増幅させて前記第2ポートへ出力する抽出処理手段、として機能させるための音声処理プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、音声データに基づくPWM(Pulse Width Modulation)信号を生成する音声処理装置、音声出力システム、音声処理方法、及び音声処理プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、音声データに基づくPWM信号に増幅処理を施してスピーカから出力する音声出力システムが知られている(例えば特許文献1参照)。特許文献1に記載の音声出力システムは、マイコンによって音声データをPWM信号に変換し、マイコンから出力されるPWM信号をもとに駆動回路がスピーカの駆動を制御するよう構成されている。こうした音声出力システムは、家電製品等にも搭載されており、1つのPWMポート(PWM出力器)によって音声データがPWM信号に変換され、当該PWM信号に基づく音声が再生されるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、音声データをPWM周期毎に1つのPWMポートにセットして出力する従来の手法では、PWMポートの分解能が音声の再現性の高さを左右する。つまり、音声データのビット数よりも低い分解能のPWMポートをもつマイコン等では、PWM信号への変換時に変換誤差が生じ、音声品質が劣化する。例えば、16ビットの音声データを再現するには、分解能10ビットのPWMポートでは不十分であり、より高い分解能のPWMポートが必要となる。
【0005】
本発明は、上述のような課題を解決するためになされたものであり、音声データのビット数に対し分解能が不十分なPWMポートを用いても、当該音声データの再現性向上を可能とする音声処理装置、音声出力システム、音声処理方法、及び音声処理プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様に係る音声処理装置は、入力データに応じたPWM信号を出力する第1ポート及び第2ポートを介して音声データに基づくPWM信号を出力する音声処理装置であって、所定のビット数の音声データに第1ポート及び第2ポートのPWM周期内のクロック数を乗じた値を2の上記ビット数乗で除して拡張データを求め、拡張データの整数部分を第1ポートへ出力すると共に、拡張データの小数部分を増幅させて第2ポートへ出力する演算処理部を有するものである。
【0007】
本発明の一態様に係る音声出力システムは、上記の音声処理装置と、第1ポートから出力されるPWM信号と、第2ポートからの出力を減衰させたPWM信号とを合成する合成処理器と、合成処理器による合成後のPWM信号を増幅して音声を出力するスピーカユニットと、を有するものである。
【0008】
本発明の一態様に係る音声処理方法は、1又は複数のプロセッサにより、入力データに応じたPWM信号を出力する第1ポート及び第2ポートを介して音声データに基づくPWM信号を出力する音声処理方法であって、所定ビット数の音声データCに第1ポート及び第2ポートのPWM周期内のクロック数を乗じた値を2の上記ビット数乗で除して拡張データを求め、拡張データの整数部分を第1ポートへ出力すると共に、拡張データの小数部分を増幅させて第2ポートへ出力するようになっている。
【0009】
本発明の一態様に係る音声処理プログラムは、音声データに基づくPWM信号を、入力データに応じたPWM信号を出力する第1ポート及び第2ポートに出力させるコンピュータを、所定ビット数の音声データに第1ポート及び第2ポートのPWM周期内のクロック数を乗じた値を2の上記ビット数乗で除して拡張データを求める拡張処理手段、及び、拡張データの整数部分を第1ポートへ出力すると共に、前記拡張データの小数部分を増幅させて第2ポートへ出力する抽出処理手段、として機能させるものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、音声データ及びPWM周期内のクロック数に基づく拡張データの整数部分を第1ポートへ出力すると共に、拡張データの小数部分を増幅させて第2ポートへ出力するようになっている。そして、第1ポートから出力されるPWM信号と、第2ポートから出力され減衰されたPWM信号とを合成すれば、合成後のPWM信号に拡張データの整数部分及び小数部分を反映させることができる。そのため、第1ポート及び第2ポートが音声データのビット数に応じた分解能を持たなくても、音声品質を高めることができる。すなわち、音声データのビット数に対し分解能が不足するPWMポートを用いても、当該音声データの再現性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の実施の形態に係る音声出力システムを例示した構成図である。
【
図2】
図1の演算処理部の機能的構成例と、これに関連する機器の構成例を示す説明図である。
【
図3】
図1の音声出力システムによる音声データの再現性を概略的に示す説明図である。
【
図4】
図1の音声出力システムでのシミュレーション結果の一例を示す表である。
【
図5】
図1の音声出力システムでのシミュレーション結果の他の例を示す表である。
【
図6】
図5における音源データの出力値、第1ポートのPWM出力、及び合成処理器による合成出力の時間変化を示すグラフである。
【
図7】
図5における音声データを基準とした、第1ポートに係る換算値、及び合成処理器の合成出力に係る換算値の時間変化を示すグラフである。
【
図8】本実施の形態における音声処理方法を含む音声出力方法の動作の流れを例示したフローチャートである。
【
図9】PWMポートを1つだけ備えた従来の音声出力システムによる音声データの再現性を概略的に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
実施の形態.
図1~
図9に基づき、本発明の実施の形態における音声処理装置10及び音声出力システム100の構成例及び動作例について説明する。各図では、煩雑化を避ける等の意図で符号の一部を適宜省略する。
【0013】
図1に例示するように、音声出力システム100は、音声処理装置10と、記憶装置20と、合成処理器40と、スピーカユニット80と、を有している。音声出力システム100は、音声処理装置10が、合成処理器40及び増幅器60を介してスピーカ70を駆動し、スピーカ70から音声を再生するよう構成されている。
【0014】
図1では、記憶装置20に音声データCが格納された例を示している。音声データCは、例えば、音声に係るアナログ信号がPCM(Pulse Code Modulation:パルス符号変調)により変換されたPCMデータにより構成される。音声データCは、予め設定された所定のビット数(以下「所定ビット数」ともいう。)データである。記憶装置20は、RAM(Random Access Memory)及びROM(Read Only Memory)、フラッシュメモリ、eMMC(embedded Multi Media Card)、SSD(Solid State Drive)、又はHDD(Hard Disk Drive)などにより構成される。
【0015】
音声処理装置10は、第1ポート(第1出力器)13a及び第2ポート(第2出力器)13bを介して音声データCに基づくPWM信号を出力するものである。
図1に例示する音声処理装置10は、記憶部11と、演算処理部12と、第1ポート13aと、第2ポート13bと、を有している。
【0016】
記憶部11には、音声処理プログラム11pなどの演算処理部12の動作プログラムの他、種々の情報が格納される。記憶部11は、RAM及びROM、フラッシュメモリ、eMMC、又はSSDなどにより構成される。第1ポート13a及び第2ポート13bは、入力データに応じたPWM信号を生成して出力するものである。より具体的に、第1ポート13a及び第2ポート13bは、内部のカウンタにセットされたデータに基づくデューティ比のパルス信号を、PWM周期ごとに出力するものである。第1ポート13aとしては、拡張データの整数部分に応じた分解能をもつPWMポートを採用するとよく、第2ポート13bとしては、拡張データの小数部分に応じた分解能をもつPWMポートを採用するとよい。本実施の形態では、第1ポート13a及び第2ポート13bとして、互いに分解能の等しいPWMポートを採用している。
【0017】
演算処理部12は、所定ビット数の音声データCに周期クロック数を乗じた値を2の所定ビット数乗で除して拡張データを求め、拡張データの整数部分(整数部)を第1ポート13aへ出力すると共に、拡張データの小数部分(小数部)を増幅させて第2ポート13bへ出力する。周期クロック数とは、PWM周期内のクロック数(PWM周期ごとのクロック数)のことであり、ここでのPWM周期は、第1ポート13a及び第2ポート13bのPWM周期(
図3参照)を指す。クロック数とは、クロックを用いて音声処理装置10(マイコン等)の内部回路を単位時間内に同期する回数のことである。つまり、周期クロック数とは、音声処理装置10(マイコン等)がPWM周期内に刻むクロックの数のことである。
【0018】
演算処理部12は、PWM周期ごとに拡張データを求め、その整数部分を抽出して第1ポート13aへ出力すると共に、その小数部分を増幅させて第2ポート13bへ出力する。演算処理部12は、1又は複数のプロセッサにより構成される。つまり、演算処理部12は、CPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)、又はMPU(Micro-Processing Unit)などにより構成することができる。本実施の形態における音声処理装置10は、いわゆるマイコンにより構成されている。
【0019】
合成処理器40は、第1ポート13aから出力されるPWM信号と、第2ポート13bからの出力を減衰させたPWM信号とを合成して出力するものである。スピーカユニット80は、合成処理器40で合成されたPWM信号を増幅して音声を出力するものである。より具体的に、スピーカユニット80は、増幅器60とスピーカ70とを含み、増幅器60で増幅されたPWM信号によってスピーカ70から音声を再生するものである。スピーカ70は、音声処理装置10から出力される2つのPWM信号によって制御され、音声を出力するものである。スピーカ70は、圧電スピーカ又はダイナミックスピーカなどにより構成される。なお、圧電スピーカは、印加される電圧により変形するピエゾ素子(圧電素子)を含み、ピエゾ素子の変形に起因した空気の振動により音声を出力するものである。
【0020】
なお、
図1に示す破線の四角形は、電子基板の外周を想定したものである。つまり、音声処理装置10、記憶装置20、合成処理器40、及び増幅器60は、同一の基板上に取り付けられてもよい。もっとも、かかる想定に限らず、例えば、上記各部材と同一の基板上にスピーカ70が設けられてもよく、音声処理装置10、記憶装置20、及び合成処理器40だけが同一の基板上に設けられてもよい。増幅器60とスピーカ70が一体型のスピーカユニット80を採用した場合、スピーカユニット80の所在は基板の内外を問わない。
【0021】
次に、
図2を参照して、演算処理部12の機能的構成例と合成処理器40の構成例について説明する。
図2に例示する合成処理器40は、第1ポート13aに接続される第1導線部W1と、第2ポート13bに接続される第2導線部W2と、を有している。合成処理器40は、第1導線部W1に設けられた第1抵抗R1と、第2導線部W2に設けられた第2抵抗R2及び第3抵抗R3を有している。第2導線部W2の第2ポート13bとは反対側の端部は、接地されている(GNDに接続されている)。第2導線部W2において、第2ポート13b側の第2抵抗R2と、GND側の第3抵抗R3との間には、第3導線部W3が接続されている。第3導線部W3は、第1導線部W1の第1ポート13aとは反対側の端部に接続されており、当該接続箇所から、増幅器60に接続される第4導線部W4が延びている。第1導線部W1と第3導線部W3と第4導線部W4との接続箇所が混合器として機能する。
【0022】
合成処理器40は、第2ポート13bから出力されるPWM信号を減衰させる機能を有しており、その減衰率は、第1抵抗R1の抵抗値と第2抵抗R2の抵抗値によって決まる。以下、第2ポート13bからのPWM信号に対する減衰率のことを「合成処理器40による減衰率」ともいう。
図2の構成の場合、合成処理器40による減衰率は、R1/R2(より具体的には「(R1/R3)/(R2/R3)」)となる。すなわち、合成処理器40では、第2抵抗R2の方が第1抵抗R1よりも抵抗値が大きくなっている。
【0023】
演算処理部12は、拡張処理手段12aと、抽出処理手段12bと、を有している。拡張処理手段12aは、所定ビット数の音声データCに周期クロック数を乗じた値を2の所定ビット数乗で除して拡張データを求めるものである。すなわち、拡張データは、下記式(1)のように、音声データCに、周期クロック数を2の所定ビット数乗で除した値を乗じることにより求めることができる。2の所定ビット数乗で除する演算は、音声データCに周期クロック数を乗じた値の小数点を、所定ビット数分左にシフトさせる処理と同義である。
【0024】
【0025】
抽出処理手段12bは、拡張データの整数部分を第1ポート13aへ出力すると共に、拡張データの小数部分を増幅させて第2ポート13bへ出力するものである。抽出処理手段12bが小数部分を増幅させる際の増幅率(第2ポート前増幅率)は、合成処理器40による減衰率の逆数となる。つまり、
図2の構成の場合、第2ポート前増幅率は、R2/R1(R2>R1)となる。第2ポート前増幅率は、周期クロック数以下となるように設定される。第2ポート前増幅率は、周期クロック数を超えない範囲で最大となるように設定するとよい。
図2の構成の場合、第2ポート前増幅率は、第1抵抗R1と第2抵抗R2との組み合わせに依存する。
【0026】
演算処理部12は、CPU、GPU、又はMPUなどの演算装置と、こうした演算装置と協働して上記又は下記の各種機能を実現させるソフトウェア(音声処理プログラム11pを含む)とにより構成することができる。音声処理プログラム11pは、音声データCに基づくPWM信号を第1ポート13a及び第2ポート13bに出力させるコンピュータを、拡張処理手段12a及び抽出処理手段12bとして機能させるためのものである。記憶部11は、音声処理プログラム11pを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体に相当する。もっとも、演算処理部12における各種機能のうちの一部は、ハードウェアにより実現してもよい。
【0027】
ここで、
図3及び
図9を参照し、音声処理装置10及び音声出力システム100によって得られる効果の概要について説明する。
図3は、音声出力システム100による音声データの再現性を概略的に示す説明図である。
図9は、PWMポートを1つだけ備えた従来の音声出力システムによる音声データの再現性を概略的に示す説明図である。
図3及び
図9には、音声データの電圧値を示す波形と、PWM信号のオンのパルス幅に応じた電圧値を示す棒グラフとを例示している。
【0028】
音声データをそのまま1つのPWMポートでパルス化すると、
図9のように、実線で示す音声データとの間に大きな変換誤差Eが生じる。これに対し、音声出力システム100の場合は、拡張データの整数部分に対応するPWM信号に、拡張データの小数部分に対応するPWM信号が加算されるため、
図3に灰色で示すとおり、変換誤差が抑制される。なお、
図3及び
図9では、周期クロック数が8の例を簡易的に示している。
【0029】
続いて、表1及び
図4に基づき、実際のシミュレーション結果の一例について説明する。音声処理装置10のタイマークロック周波数、PWM周波数、周期クロック数、第2ポート前増幅率は、下記の表1のように設定した。音声データCは、16bitのPCMデータを想定した。PWM周波数は、サンプリング周波数の正の整数倍となっている。
図4では、各数値について適宜端数処理を行っている。
【0030】
【0031】
図4の表の1列目には、PWM周期ごとの音声データを示しており、その括弧内の値(正規化値)は、元データを0以上1未満の数値に正規化したものである。PWM周期ごとの音声データに、それぞれ、周期クロック数である「1000」を乗じ、その値を2の所定ビット数乗である「2
16」で除すると、整数部分(整数部)と小数部分(小数部)を含む拡張データが得られる。
【0032】
第1ポート13aには、整数部分の値が設定され、これにより、第1ポート13aから出力されるPWM信号のデューティ比(設定値/周期クロック数)が決まる。一方、第2ポート13bには、小数部分に増幅率である「800」を乗じた値が設定され、これにより、第2ポート13bから出力されるPWM信号のデューティ比(設定値/周期クロック数)が決まる。
【0033】
合成処理器40では、第2ポート13bから出力されるPWM信号に対し、減衰率を「1/800」とする減衰処理が施され、減衰後のPWM信号と、第1ポート13aから出力されるPWM信号とが合成される(
図4の「合成出力」参照)。
図4から分かるように、音声データの正規化値と、第1ポート13aからのPWM信号の出力値との間には、相対的に大きさ誤差が生じている。これに対し、合成処理器40による合成出力には、拡張データの小数部分が加わっているため、音声データの正規化値との間の誤差が極めて小さくなっている。
【0034】
なお、
図4の表に示す換算値は、音声出力システム100による誤差の低減をより明確に示すべく、下記式(2)より求めた指標である。換算値は、音声データと出力値との間の乖離が小さいほど、-16.0との差が小さくなる(-16.0に近づく)という特徴をもつ。第1ポート13aに係る換算値と、合成出力に係る換算値との違いからも、音声出力システム100において最終的に出力されるPWM信号の精度が良好であることが伺える。
【0035】
【0036】
次いで、音声出力システム100により音声データの再現性が高まることを一見して把握できるよう、表2のように設定を変更し、上記同様のシミュレーションを行った。
図5~
図7にその結果を示す。
図5の表は、
図4の表と同様に構成されているため、重複する説明については省略又は簡略化する。
【0037】
【0038】
PWM周期ごとの音声データに、それぞれ、周期クロック数である「62」を乗じ、その値を2の所定ビット数乗である「216」で除すると、整数部分(整数部)と小数部分(小数部)を含む拡張データが得られる。第1ポート13aには、整数部分の値が設定され、これにより、第1ポート13aから出力されるPWM信号のデューティ比(設定値/周期クロック数)が決まる。一方、第2ポート13bには、小数部分に増幅率である「62」を乗じた値が設定され、これにより、第2ポート13bから出力されるPWM信号のデューティ比(設定値/周期クロック数)が決まる。
【0039】
合成処理器40では、第2ポート13bから出力されるPWM信号に対し、減衰率を「1/62」とする減衰処理が施され、減衰後のPWM信号と、第1ポート13aから出力されるPWM信号とが合成される(
図5の「合成出力」参照)。
図5から分かるように、音声データの正規化値と、第1ポート13aからのPWM信号の出力値との間には、相対的に大きさ誤差が生じている。これに対し、合成処理器40による合成出力には、拡張データの小数部分が加わっているため、音声データの正規化値との間の誤差が極めて小さくなっている。
【0040】
図6は、音源データの出力値(
図5の(a)に対応)、第1ポート13aのPWM出力(
図5の(b)に対応)、及び合成出力(
図5の(c)に対応)の時間変化を示すグラフである。
図6では、第1ポート13aのPWM出力と音源データの出力値との間に大きな乖離があるが、合成出力と音源データの出力値とは、ほぼ一致している。
図7は、音声データ(-16.0)を基準とした、第1ポート13aに係る換算値(
図5の(A)に対応)、及び合成出力に係る換算値(
図5の(B)に対応)の時間変化を示すグラフである。
図7からは、第1ポート13aに係る換算値と-16.0との間に見られる差が、合成出力に係る換算値では縮まっていることが読み取れる。つまり、音声処理装置10及び音声出力システム100を用いることで、音声データの再現性が高まり、音声品質を向上させることができる。
【0041】
次に、
図8のフローチャートを参照して、本実施の形態における音声処理方法及び音声出力方法について説明する。音声処理装置10の記憶部11等には、適時、音声データのビット数の情報、及び周期クロック数が記憶されているものとする。
【0042】
〔音声処理装置〕
演算処理部12は、音声データC及び周期クロック数をもとに、PWM周期ごとの拡張データを求める。すなわち、演算処理部12は、式(1)に示すように、音声データCに対し、周期クロック数を2の所定ビット数乗で除した値を乗じることにより、PWM周期ごとの拡張データを求める(ステップS101)。次いで、演算処理部12は、拡張データの整数部分を第1ポート13aへ出力する(ステップS102)。また、演算処理部12は、拡張データの小数部分を増幅させて第2ポート13bへ出力する(ステップS103)。演算処理部12は、ステップS101~S103の一連の処理をPWM周期ごとに繰り返し実行する。
【0043】
〔2つのPWMポート〕
第1ポート13aは、拡張データの整数部分に基づくPWM信号を生成して出力する(ステップS104)。また、第2ポート13bは、増幅された拡張データの小数部分に基づくPWM信号を生成して出力する(ステップS105)。
【0044】
〔合成処理器〕
合成処理器40は、第2ポート13bから出力されたPWM信号を減衰させ(ステップS106)、減衰させたPWM信号と第1ポート13aから出力されたPWM信号とを合成して出力する(ステップS107)。
【0045】
〔スピーカユニット〕
スピーカユニット80は、合成処理器40において合成されたPWM信号を増幅器60によって増幅し(ステップS108)、増幅後のPWM信号に基づく音声をスピーカ70から出力する(ステップS109)。
【0046】
上記の動作は、
図8のステップ番号の順に説明したが、処理の順序はこれに限定されない。例えば、ステップS102の処理とステップS103の処理は、並行処理でもよく、順序が入れ替わってもよい。なお、ステップS104とステップS105は便宜上の順序である。また、ステップS106の処理とステップS107の処理とは、ほぼ同時に行われる。
【0047】
以上のように、本実施の形態の音声処理装置10は、音声データC及び周期クロック数に基づく拡張データの整数部分を第1ポート13aへ出力すると共に、拡張データの小数部分を増幅させて第2ポート13bへ出力するよう構成されている。よって、第1ポート13aから出力されるPWM信号と、第2ポート13bから出力され減衰されたPWM信号とを合成すれば、合成後のPWM信号に拡張データの整数部分及び小数部分を反映させることができる。そのため、第1ポート13a及び第2ポート13bが音声データのビット数に応じた分解能を持たなくても、音声品質を高めることができる。したがって、音声データCのビット数に対し分解能が不十分なPWMポートを用いても、音声データCの再現性を高めることができ、音声品質の向上が実現可能となる。
【0048】
上述した実施の形態は、音声処理装置、音声出力システム、音声処理方法、及び音声処理プログラムにおける一例に過ぎず、本発明の技術的範囲は、これらの態様に限定されるものではない。例えば、音声データは、記憶部11に格納されてもよく、この場合、音声出力システム100は記憶装置20を有しなくてよい。
図4及び
図5では、16bitの音声データを例示したが、これに限らず、処理の対象となる音声データは、例えば24bitのデータなど、16bitよりも大きなビット数のデータであってもよく、16bitよりも小さなビット数のデータであってもよい。
図2では、合成処理器40による減衰処理が3つの抵抗により実現される例を示したが、これに限定されない。合成処理器40は、3つのコンデンサを含むよう構成し、当該3つのコンデンサの容量差によって減衰処理を実現してもよい。音声出力システム100は、合成処理器40の前段又は後段にローパスフィルタを有していてもよい。
【符号の説明】
【0049】
10 音声処理装置、11 記憶部、11p 音声処理プログラム、12 演算処理部、12a 拡張処理手段、12b 抽出処理手段、13a 第1ポート、13b 第2ポート、20 記憶装置、40 合成処理器、60 増幅器、70 スピーカ、80 スピーカユニット、100 音声出力システム、R1 第1抵抗、R2 第2抵抗、R3 第3抵抗。
【要約】
【課題】音声データのビット数に対し分解能が不十分なPWMポートを用いても、当該音声データの再現性向上を可能とする音声処理装置、音声出力システム、音声処理方法、及び音声処理プログラムを提供すること。
【解決手段】入力データに応じたPWM信号を出力する第1ポート及び第2ポートを介して音声データに基づく2つのPWM信号を出力する音声処理装置。音声処理装置は、所定ビット数の音声データに第1ポート及び第2ポートのPWM周期内のクロック数を乗じた値を2の所定ビット数乗で除して拡張データを求める。そして、音声処理装置は、拡張データの整数部分を第1ポートへ出力すると共に、拡張データの小数部分を増幅させて第2ポートへ出力する。
【選択図】
図1