(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-16
(45)【発行日】2024-05-24
(54)【発明の名称】防護製品用布帛及びそれを用いた繊維製品
(51)【国際特許分類】
D04B 1/16 20060101AFI20240517BHJP
A41D 19/00 20060101ALI20240517BHJP
A41D 19/015 20060101ALI20240517BHJP
A41D 31/00 20190101ALI20240517BHJP
A41D 31/04 20190101ALI20240517BHJP
A41D 31/24 20190101ALI20240517BHJP
D02G 3/02 20060101ALI20240517BHJP
D02G 3/26 20060101ALI20240517BHJP
【FI】
D04B1/16
A41D19/00 A
A41D19/015 110Z
A41D31/00 502C
A41D31/00 503F
A41D31/04 C
A41D31/24
D02G3/02
D02G3/26
(21)【出願番号】P 2020064797
(22)【出願日】2020-03-31
【審査請求日】2023-02-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000219266
【氏名又は名称】東レ・デュポン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115440
【氏名又は名称】中山 光子
(72)【発明者】
【氏名】巽 薫
(72)【発明者】
【氏名】吉田 和義
【審査官】中西 聡
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-280140(JP,A)
【文献】実開昭59-095117(JP,U)
【文献】特開2016-194174(JP,A)
【文献】国際公開第2010/122836(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D04B、D02G、D03D、A41D
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
単繊維繊度が0.8~10.0dtexのアラミド繊維を含む紡績糸を用いてなる布帛であって、
JIS L 1096 8.4法に準じて測定される厚みが1.0mm以下であり、
前記紡績糸は、英国式綿番手40~70番の単糸又は双糸で構成され、
前記単糸の撚数は15~30t/inch、かつ、下記式で求められる撚係数は2.0~4.0であり、
前記双糸の上撚り数は300~700t/m、かつ、下記式で求められる上撚り撚係数は2.0~4.0であり、
撚係数=T/s
1/2
(T;撚数(t/inch)、s;綿番手)
JIS L 0217-103法平干し乾燥による洗濯処理5回後の厚み変化率が±5%以下であり、かつ、前記洗濯処理5回後のたて方向及びよこ方向における寸法変化率が±5%以下であることを特徴とする防護製品用布帛。
【請求項2】
前記紡績糸が、単繊維数100本以下/単糸で構成される請求項1に記載の防護製品用布帛。
【請求項3】
前記布帛が編物である請求項1または2に記載の防護製品用布帛。
【請求項4】
前記編物を編成するよこ編機のゲージ数が15ゲージ~21ゲージである請求項3に記載の防護製品用布帛。
【請求項5】
請求項1~4いずれかに記載の防護製品用布帛を用いてなる、インナー手袋、インナーウエア、リストガード、アームカバー及び靴下からなる群から選択されるいずれかの繊維製品。
【請求項6】
繊維製品がインナー手袋であり、断熱性あるいは低発塵性のアウター手袋、又は、革製、天然繊維製あるいはアラミド繊維製のアウター手袋に対する、インナー手袋として用いられる請求項5に記載の繊維製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防護製品用布帛及びそれを用いた繊維製品に関する。
【背景技術】
【0002】
アラミド繊維等の耐切創性繊維で製造される手袋、アームカバー、前掛け等の防護製品は、当該繊維が刃物で切断されにくいので、綿やウーリーナイロン等の繊維で製造される防護製品に比べて耐切創性が画期的に高い。そのため、バリの出た板金加工品を扱う作業、割れ易いガラス製品を扱う作業、あるいは金属片やガラス片が混入している可能性のある一般塵芥を扱うゴミ収集作業等、切創事故を起こし易い作業において作業者の手や体を保護するために広く使用されてきた。しかし、当該作業者等から、より一層安全な防護製品が強く要望されている。例えば防護手袋を着用する場合は、一般的に該手袋を1枚装着して作業する場合が多く、作業内容によってさらなる耐切創性が必要となり、かつ汚れ等による手袋交換が必要になることから、軍手タイプの手袋の上に、同タイプの手袋、革製の縫製手袋あるいはゴム製手袋等を重ね履きすることが多い。そのため、軽量かつ装着性(重ね履きし易いこと)及び着用感(作業し易いこと)の良いものが望まれている。
【0003】
一方、農作業、園芸、軽作業、調理作業等では、綿糸やウーリーナイロン等の繊維で製造される手袋等の繊維製品は、装着性が良いことに加えて通気性もよく、装着しての作業における蒸れ感等も軽減できるため、重ね履きの際のインナー手袋として適している。しかし、洗濯後の寸法変化が非常に大きいため、再使用した際の装着性及び着用感が著しく悪化する。また、耐切創性及び耐熱性等の機能がアラミド繊維に比べて著しく劣る。
【0004】
ところが、一般に、アラミド繊維等の高強力繊維は、耐切創性に優れている一方で剛性が高いためにごわごわ感があり、切創性と装着性は相互に取り合いの関係にある。
【0005】
また、作業用手袋や作業衣等においては、着用者に作業の妨げとなる疲労感や不快感を与えることは好ましくなく、止むを得ない場合でもこれらは許される最小程度でなければならない。耐切創性が優れていても、手袋等の防護製品では、硬い繊維端の刺激はチクチク感のような不快感を着用者に与えるため、チクチク感が少なく、耐切創性、装着性に優れる防護製品を工業的に生産することは極めて重要なことである。
【0006】
アラミド繊維は一般に、単糸繊度が大きくなるにつれ切断されにくくなるため、防護布帛の耐切創性向上には単糸繊度を大きくすることが有効と考えられてきた。特許文献1には、単糸繊度3.9~4.4dtexのアラミド短繊維からなる綿番手20番の紡績糸双糸を用いることで、単糸繊度1.7dtexの従来品よりも耐切創性が改善されることが示されている。しかし、綿番手20番のアラミド紡績糸を7ゲージの手袋編み機に供給して編み上げた手袋は、重量60g/双、甲部掌部あわせて厚さ4.0mmであるため、軽量性、重ね履きの際の装着性の点で課題があり、インナー手袋には不向きである。
【0007】
特許文献2には、繰り返しの使用や洗濯による毛羽の発生、脱落がない手袋として、ゴム手袋の内面に伸縮性のあるストレッチ素材からなる超薄繊維シートを接合させたゴム手袋が提案されているが、ゴム手袋は、装着している使用者に蒸れ感等による不快感を与えるため、インナー手袋には不向きである。また、特許文献3には、メタ系アラミド繊維紡績糸とウール紡績糸を72/28の比率で用いた糸を10ゲージ手袋編機で編成した薄手インナー手袋が開示されているが、重さが30g/双あるため、軽量性、装着性の点で課題がある。さらに、特許文献4には、作業性、フィット感の良い薄手の編み手袋を得るために、細いデニール(10~100デニール)の糸を使用して、ゲージ数が20~32ゲージの経編機で編成した編み手袋に、エラストマーや樹脂の滑り止めを施した手袋が開示されているが、コーティングが施されているため、洗濯して繰り返し使用される手袋ではない。
【0008】
したがって、耐切創性、軽量性、装着性及び耐洗濯性を兼ね備えた防護製品用布帛は現状得られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開平9-157981号公報
【文献】特開2011-127265号公報
【文献】特開2010-203012号公報
【文献】再公表2016-208694号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、かかる従来技術の背景に鑑み、耐切創性、軽量性、装着性及び耐洗濯性に優れる、インナー手袋等のインナー防護材として好適である防護製品用布帛、及びそれを用いた繊維製品を提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、かかる課題を解決するために、次の手段を採用するものである。すなわち、本発明は、以下の通りである。
【0012】
(1)単繊維繊度が0.8~10.0dtexのアラミド繊維を含む紡績糸を用いてなる布帛であって、
JIS L 1096 8.4法に準じて測定される厚みが1.0mm以下であり、
前記紡績糸は、英国式綿番手40~70番の単糸又は双糸で構成され、
前記単糸の撚数は15~30t/inch、かつ、下記式で求められる撚係数は2.0~4.0であり、
前記双糸の上撚り数は300~700t/m、かつ、下記式で求められる上撚り撚係数は2.0~4.0であり、
撚係数=T/s
1/2
(T;撚数(t/inch)、s;綿番手)
JIS L 0217-103法平干し乾燥による洗濯処理5回後の厚み変化率が±5%以下であり、かつ、前記洗濯処理5回後のたて方向及びよこ方向における寸法変化率が±5%以下であることを特徴とする防護製品用布帛。
(2)前記紡績糸が、単繊維数100本以下/単糸で構成される前記(1)に記載の防護製品用布帛。
(3)前記布帛が編物である前記(1)または(2)に記載の防護製品用布帛。
(4)前記編物を編成するよこ編機のゲージ数が15ゲージ~21ゲージである前記(1)~(3)いずれかに記載の防護製品用布帛。
(5)前記(1)~(4)いずれかに記載の防護製品用布帛を用いてなる、インナー手袋、インナーウエア、リストガード、アームカバー及び靴下からなる群から選択されるいずれかの繊維製品。
(6)繊維製品がインナー手袋であり、断熱性あるいは低発塵性のアウター手袋、又は、革製、天然繊維製あるいはアラミド繊維製のアウター手袋に対する、インナー手袋として用いられる前記(5)に記載の繊維製品。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、単繊維本数が少ない(綿番手が大きい)アラミド繊維紡績糸を用いることにより、薄型でありながら、綿やナイロンとは異なり、複数回洗濯しても布帛の厚み及び寸法の変化率が非常に小さい防護製品用布帛を提供できる。該布帛は、軽量性、装着性(手袋の重ね履き性)、耐切創性に優れているため、インナー手袋等の繊維製品として好適である。紡績糸の繊度が小さいため、よこ編機のゲージ数が15ゲージ以上のハイゲージ手袋を提供できる。
【0014】
本発明の防護製品用布帛は、耐熱性に優れているため、アウター手袋が断熱手袋や低発塵手袋である場合に、耐切創性インナー手袋として効果的に使用できる。
また、本発明の防護製品用布帛は、耐切創性に優れているため、アウター手袋が革製手袋や綿・麻・絹等の天然繊維製手袋である場合にインナー手袋として重ね履きすることにより、アウター手袋の欠点を補填することができる。
また、本発明の防護製品用布帛は、耐洗濯性に優れている(洗濯後の寸法変化が小さい)ため、アラミド繊維手袋等の耐切創性手袋のインナー手袋として重ね履きすることにより、汚れたアウター手袋の交換を効率的に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】実施例で作製した繊維製品(手袋)の長さ方向及び幅方向の寸法説明図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の防護布帛について詳細を説明する。
【0017】
アラミド繊維は一般に単糸繊度が太くなるにつれ切断されにくくなるため、布帛の耐切創性を向上させるためには、単糸繊度を大きくすることが有効と考えられてきたが、それを用いて編織された布帛は軽量性及び装着性が劣る傾向にある。本発明では、布帛の耐切創性を著しく低下させることなく、アラミド繊維布帛の軽量性と装着性の向上を図ることに注力し、従来、綿番手20番~40番の糸を用いて来た糸構成について大幅な見直しを行った。その結果、精紡時の単繊維構成本数が少ないため紡績糸としての入手が困難である細番手の紡績糸を用いることで、薄手のアラミド繊維布帛を得ることに成功し、それにより、アラミド繊維本来の特性を保持しながら、軽量性と装着性の課題を一挙に解決したものである。
【0018】
本発明において、紡績糸に用いられるアラミド繊維としては、メタ系アラミド繊維、パラ系アラミド繊維が挙げられる。紡績糸は、メタ系又はパラ系アラミド繊維を任意の混紡率で混紡した混紡品、あるいは、パラ系アラミド繊維100%品でもよく、要求される防護製品用布帛の特性により選定することができる。中でも、耐切創性及び耐熱性に優れる点より、パラ系アラミド繊維を含む紡績糸が好適である。かかるパラ系アラミド繊維の市販品としては、ポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維(東レ・デュポン(株)製、商品名「ケブラー」(登録商標))、コポリパラフェニレン-3,4'-ジフェニルエーテルテレフタルアミド繊維(帝人(株)製、商品名「テクノーラ」(登録商標))等がある。これらの繊維の中でも、特に耐切創性に優れているポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維が好ましい。
【0019】
従来有機繊維のみを使用した軍手タイプの耐切創性手袋では、一般的に7ゲージや10ゲージを代表とする手袋編み機で作製したものが多く、この中で高い特性を示す7ゲージの手袋の切創力は、特許文献1に開示されているように、凡そ1.15~1.30kgである。この切創力が約0.25kg以上であれば、インナー手袋としては耐切創性が充分高いと言える。ところが、単繊維繊度が10.0dtexを超えてしまうと、綿番手の大きい紡績糸において単繊維本数が減少するため紡績糸の製造が困難になる、織編物等の布帛が硬くなるため装着性(手袋の重ね履き性)や作業性が低下してしまい、チクチク感を解消することも困難になる。
【0020】
本発明の紡績糸では、アラミド繊維の単繊維繊度が、好ましくは0.8~10.0dtexの範囲、より好ましくは1.0~6.5dtex、特に好ましくは1.2~4.5dtexの範囲にある短繊維を用いるのが良い。このような単繊維繊度としたのは、単繊維繊度が0.8dtex未満では、JIS T 8052:2005「防護服-機械的特性-鋭利物に対する切創抵抗性試験方法」に規定された試験方法に基づいて測定した耐切創性が不充分となるからである。
【0021】
短繊維の繊維長は、紡績糸の撚り係数を適正化する際の加工性を容易にし、同時にチクチク感を解消し、作業性や装着性を高めることのできる、最適な繊維長を選択するのが良い。平均繊維長として35~160mmの範囲が好ましく、より好ましくは45~130mmの範囲である。また、良好な紡績性を得るために、短繊維の捲縮数は、約3~約12山/inchが望ましい。
【0022】
紡績糸(単糸)の単繊維数としては、100本以下/単糸が好ましく、より好ましくは95本以下、さらに好ましくは90~25本である。
【0023】
本発明の紡績糸は、アラミド繊維を常法により綿紡績、スフ紡績又は梳毛紡績設備で製造したものであって良い。その際、紡績糸の繊度(番手)は、薄手布帛が得られ易い点より、英国式綿番手40~70番が好ましく使用される。ここで、紡績糸が細くなると番手数が大きくなる。綿番手70番以下であれば、インナー防護材に好適な軽量の防護製品用布帛を得ることが可能であり、綿番手40番よりも低番手になると、防護製品用布帛の耐洗濯性が低下する(寸法変化や厚み変化が大きくなる)虞がある。
【0024】
防護製品用布帛の製造に用いる好ましい紡績糸の形態は、紡績糸単糸、又は、紡績糸単糸を2本引き揃えて紡績糸単糸と逆方向に撚糸した紡績糸双糸である。その他、紡績糸単糸を3本引き揃えて撚り合わせた三子糸であっても良い。これらの紡績糸の中でも製編時の張力に耐えうる引張強さと、布帛の耐切創性に優れる観点より、双糸が好ましい。紡績糸双糸の番手は、綿番手40番/2s~70番/2sが好ましく、前記範囲内であれば加工性が著しく損なわれることがない。より好ましくは、40番/2s~60番/2s、さらに好ましくは50番/2s~60番/2sである。
【0025】
本発明の紡績糸では、単糸撚係数(K1)と、単糸及びそれを引き揃えた双糸の撚数(T1、T2)を適正化することが好ましい。紡績糸単糸を加撚する場合は、次式で求められる単糸撚係数(K1)を、2.0~4.0の範囲とすることが好ましい。単糸撚係数(K1)が2.0より小さいと、短繊維同士の絡みが弱くなりすぎ、短繊維の端部が紡績糸からはみ出し、チクチク感の多い布帛(手袋)となる。また、単糸撚係数(K1)が4.0より大きいと、強撚になりすぎて二重撚の発生が強くなって加工性が悪化し、紡績糸の引張強さも低下し、また風合いも劣る。より好ましい単糸撚係数(K1)は2.5~3.8の範囲である。また、単糸撚数(T1)は15~30t/inchが好ましく、より好ましくは18~25t/inchである。紡績糸単糸の撚方向は、S、Zのいずれでも良い。
【0026】
撚係数 K=T/s1/2
T;撚数(t/inch)
s;綿番手
【0027】
上記の所定の撚り(撚数T1)を加えた紡績糸単糸を2本引き揃え、ダブルツイスターで所定の逆撚り(撚数T2)を加えて、紡績糸双糸に加工する。双糸上撚数(T2)は300~700t/mが好ましく、より好ましくは400~600t/mである。
上記の式で求められる双糸の上撚り撚係数(K2)は、2.0~4.0の範囲とすることが好ましい。双糸撚係数(K2)が2.0より小さいと、短繊維の端部が紡績糸からはみ出し、チクチク感の多い手袋となる。また、双糸撚係数(K2)が4.0より大きいと、強撚になりすぎて二重撚の発生が強くなって加工性が悪化し、紡績糸の引張強さも低下し、また風合いも劣る。より好ましい双糸撚係数(K2)は2.0~3.3の範囲である。このとき、紡績糸の単糸下撚り数(T1)と双糸上撚り数(T2)の比率(T2/T1)(%)が30~95%、より好ましくは50~90%の範囲になるように加撚することが望ましい。
【0028】
本発明の紡績糸は、単糸繊度が0.8~10.0dtexのアラミド長繊維を切断し、ステープル化したものを用いて、従来公知の紡績手段で製造することができる。ステープルをスライバーとし、それをリング撚糸機等にて所定の撚係数の撚りを加え、さらにダブルツイスター等にて、所定の撚数比率とする。こうして得られる、本発明の紡績糸の引張強さは、綿番手50/sの単糸で少なくとも0.4kg、綿番手50/2sの双糸で少なくとも1.4kgある。このことから、本発明の紡績糸を用いてなる布帛は、引張強さの点でも優れているので、インナー手袋をはじめとする各種のインナー防護製品用布帛として好適である。
【0029】
また、本発明の紡績糸を製造する場合、本発明の効果を妨げない範囲で、約30質量%以下で他の短繊維(例えば、綿、レーヨン、ポリエステル、ナイロン等)を混用することができる。好ましくはアラミド繊維(特に好ましくはパラ系アラミド繊維)を紡績糸全体の質量のうち、70~100%の範囲とするのが良い。
【0030】
さらに、本発明の繊維製品は、全てを、本発明の防護製品用布帛で構成してもよく、又はそれらを部分的に使用することでも良い。例えば、作業用手袋では、作業内容により指先部分や手の平部分だけのように、特定の部分に防護製品用布帛を使うことができる。防護製品用布帛には、必要に応じ、樹脂コーティングを施すこともできる。手袋を編成する場合は、手の平部の目付が70~220g/m2の範囲になるように編みあげることが好ましく、目付70g/m2以上にすることで、耐切創性、耐洗濯性に優れるインナー手袋を得ることができ、また目付220g/m2以下にすることで、軽量で重ね履き性が良い手袋となる。手の平部の目付が220g/m2を超える手袋の場合は、手袋の厚みが大きいためインナー手袋としては不向きとなる。さらに好ましくは、手の平部の目付が85~200g/m2の範囲にするのが良い。この場合の構成する紡績糸の本数は、紡績糸の太さ(番手)と防護製品用布帛の目付が関係するが、それぞれの範囲内であれば、1~複数本で使用できる。
【0031】
本発明の防護製品用布帛は、JIS L 1096:2010 8.4 による厚み測定方法に基づいて測定した厚みが1.0mm以下である。好ましくは0.9mm以下である。そのため、手袋に編成した際に、従来にない薄手かつ重ね履き性に優れる手袋が得られる。また、手袋の重さ(1双あたり)は、番手が大きい紡績糸を用いるため、ウーリーナイロン製手袋並みの軽量性を有している。また、アラミド繊維を含む紡績糸を用いるため、耐洗濯性に優れる手袋が得られ、手袋の洗濯5回後の厚み変化率(%)並びに手袋のたて(長さ)方向及びよこ(幅)方向の寸法変化率は、±5%以下を達成できる。繊維製品の洗濯はJIS L 0217-103記載の方法に基づき、厚み変化率及び寸法変化率はJIS L 1096 8.39.8記載の方法に基づく。前記の厚み変化率及び寸法変化率は、好ましくは±2%以下、さらに好ましくは±1%以下であるのが良い。
【0032】
また、防護製品用布帛として編物を編成する場合、使用するよこ編み機のゲージ数は、15ゲージ以上に設定することが好ましく、より好ましくは15~21ゲージであり、手袋の耐洗濯性を確保するという観点からは15~18ゲージとするのが良い。
【0033】
本発明の防護製品用布帛は、手袋、アームカバー、靴下等の重ね履きが必要な程度の耐切創性が要求される用途に特に適しているため、これらの布帛を、インナー手袋あるいは防護材等、各種繊維製品に用いることができる。これには、直接防護目的として使用されるものはもちろん、結果的に防護機能が果たされるものも含まれる。具体的には、作業用又は工業用のインナー手袋、インナーウエア、リストガード、アームカバー、靴下等が挙げられる。その他、溶接用作業衣、レーシングスーツ、スポーツウエア、スキーウエア、スケートウエア等のアンダーウエア等の用途が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【実施例】
【0034】
以下、実施例及び比較例を用いて本発明を更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例のみに限定されるものではない。なお、以下の実施例及び比較例における各物性値の測定方法は次の通りである。
【0035】
[単繊維繊度]
JIS L 1013:2010 化学繊維フィラメント糸試験方法8.3 B法(簡便法)により測定した。
【0036】
[紡績糸の引張強さ、伸び]
JIS L 1095:2010「一般紡績糸試験方法」9.5に準じて紡績糸の引張強さ(N)を測定した。
【0037】
[手袋の切創力]
JIS T 8052:2005「防護服-機械的特性-鋭利物に対する切創抵抗性試験方法」に準拠し、手袋1枚における手の平部の切創力(N)を測定した。切創力(N)を織編物の目付で除して、耐切創性を求めた。切創力の値が大きいほど切れ難いと判定した。
【0038】
[手袋の耐洗濯性]
JIS L 0217 103の試験方法に準じて洗濯処理を行い、平干し乾燥した。ドライアイロンによる仕上げ無しとした。前記洗濯処理を5回行った後に、JIS L 1096 8.2.2 長さ、に準じて手袋の全長(長さ方向)及び4本胴(幅方向)の寸法を測定し(
図1参照)、JIS L 1096 8.4 厚さ、に準じて手の平部の厚みを測定し、JIS L 1096 8.39.8 計算、に準じて寸法変化率及び厚み変化率を算出した。
【0039】
ΔL=[(L2-L1)/L1]×100
(ここで、ΔL:寸法変化率(%)、L1:洗濯処理前の長さ(mm)、L2:洗濯処理後の長さ(mm))
【0040】
ΔD=[(D2-D1)/D1]×100
(ここで、ΔD:厚み変化率(%)、D1:洗濯処理前の厚み(mm)、D2:洗濯処理後の厚み(mm))
【0041】
(実施例1)
アラミド短繊維糸条として、繊度1.67dtexのパラ系アラミド繊維(東レ・デュポン(株)製“Kevlar(R)29”、引張強さ20.3cN/dtex)にステープル加工を施した、繊維長51mm、捲縮数約8山/inchのパラ系アラミド短繊維100%を用いた。
これを、開綿機、カード、練条の順で通しスライバーとした。次に、これをリング精紡機に仕掛け、撚数(T1)20.3t/inch、撚係数2.87、撚り方向がZ撚りの撚りを加えて、糸番手50(綿番手)、引張強さ910gの紡績糸の単糸を得た。この紡績糸を2本引き揃え、ダブルツイスターで撚数(T2)519t/mの逆(S)撚りを加えて、糸番手が50/2(綿番手)、引張強さ2050gの双糸を得た。
さらに、双糸を2本引き揃えて、15ゲージタイプの手袋編み機((株)島精機製作所)に供給して手袋を編みあげた。
【0042】
(実施例2)
アラミド短繊維糸条として、繊度2.5dtexのパラ系アラミド繊維(東レ・デュポン(株)製)にステープル加工を施した、繊維長51mm、捲縮数約8山/inchのパラ系アラミド短繊維100%を用いた。
これを、開綿機、カード、練条の順で通しスライバーとした。次に、これをリング精紡機に仕掛け、撚数(T1)20.5t/inch、撚係数2.90、撚り方向がZ撚りの撚りを加えて、糸番手50(綿番手)、引張強さ450gの紡績糸の単糸を得た。この紡績糸を2本引き揃え、ダブルツイスターで撚数(T2)525t/mの逆(S)撚りを加えて、糸番手が50/2(綿番手)、引張強さ1430gの双糸を得た。
さらに、双糸を2本引き揃えて、15ゲージタイプの手袋編み機((株)島精機製作所)に供給して手袋を編みあげた。
【0043】
(実施例3)
アラミド短繊維糸条として、繊度3.3dtexのパラ系アラミド繊維(東レ・デュポン(株)製)にステープル加工を施した、繊維長51mm、捲縮数約8山/inchのパラ系アラミド短繊維100%を用いた。
これを、開綿機、カード、練条の順で通しスライバーとした。次に、これをリング精紡機に仕掛け、撚数(T1)24.8t/inch、撚係数3.50、撚り方向がZ撚りの撚りを加えて、糸番手50(綿番手)、引張強さ510gの紡績糸の単糸を得た。この紡績糸を2本引き揃え、ダブルツイスターで撚数(T2)556t/mの逆(S)撚りを加えて、糸番手が50/2(綿番手)、引張強さ1460gの双糸を得た。
さらに、双糸を2本引き揃えて、15ゲージタイプの手袋編み機((株)島精機製作所)に供給して手袋を編みあげた。
【0044】
(実施例4)
アラミド短繊維糸条として、繊度1.67dtexのパラ系アラミド繊維(東レ・デュポン(株)製“Kevlar(R)29”、引張強さ20.3cN/dtex)にステープル加工を施した、繊維長51mm、捲縮数約8山/inchのパラ系アラミド短繊維100%を用いた。
これを、開綿機、カード、練条の順で通しスライバーとした。次に、これをリング精紡機に仕掛け、撚数(T1)22.5t/inch、撚係数2.90、撚り方向がZ撚りの撚りを加えて、糸番手60(綿番手)、引張強さ670gの紡績糸の単糸を得た。この紡績糸を2本引き揃え、ダブルツイスターで撚数(T2)505t/mの逆(S)撚りを加えて、糸番手が60/2(綿番手)、引張強さ1620gの双糸を得た。
さらに、双糸を2本引き揃えて、15ゲージタイプの手袋編み機((株)島精機製作所)に供給して手袋を編みあげた。
【0045】
(実施例5)
実施例1で得た紡績糸の双糸を1本用い、18ゲージタイプの手袋編み機((株)島精機製作所)に供給して手袋を編み上げた。
【0046】
(実施例6)
実施例2で得た紡績糸の双糸を1本用い、18ゲージタイプの手袋編み機((株)島精機製作所)に供給して手袋を編み上げた。
【0047】
(実施例7)
実施例4で得た紡績糸の双糸を1本用い、21ゲージタイプの手袋編み機((株)島精機製作所)に供給して手袋を編み上げた。
【0048】
(比較例1)
アラミド短繊維糸条として、繊度1.67dtexのパラ系アラミド繊維(東レ・デュポン(株)製“Kevlar(R)29”、引張強さ20.3cN/dtex)にステープル加工を施した、繊維長51mm、捲縮数約8山/inchのパラ系アラミド短繊維100%を用いた。これを、開綿機、カード、練条の順で通しスライバーとした。次に、これをリング精紡機に仕掛け、撚数(T1)13.0t/inch、撚係数2.90、撚り方向がZ撚りの撚りを加えて、糸番手20(綿番手)、引張強さ2173gの紡績糸の単糸を得た。この紡績糸を2本引き揃え、ダブルツイスターで撚数(T2)331t/mの逆(S)撚りを加えて、糸番手が20/2(綿番手)、引張強さ4724gの双糸を得た。
さらに、双糸を5本引き揃えて、7ゲージタイプの手袋編み機((株)島精機製作所)に供給して手袋を編みあげた。
【0049】
(比較例2)
繊度78dtexのウーリーナイロン繊維を2本引き揃えて、18ゲージタイプの手袋編み機((株)島精機製作所)に供給して、手袋を編みあげた。
【0050】
実施例1~7、比較例1~2で得た紡績糸の特性を表1、手袋の特性を表2にまとめた。
【0051】
表1及び表2より、本発明の紡績糸は、単繊維の構成本数が少なく繊度が小さいが、引張強さ及び伸びの点で、耐切創性手袋を編成するのに充分な特性を有していた。また、編成した手袋は、重さが10g以下で厚みが1.0mm以下と非常に薄いにも拘わらず、ウーリーナイロン(双糸)手袋の2倍以上の切創力を有していた。さらに、洗濯後の厚み変化率及び寸法変化率が非常に小さいものであった。
【0052】
【0053】
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明の紡績糸を用いてなる防護製品用布帛は、作業用又は工業用のインナー手袋等として好適に用いられる他、レーシングスーツ、スポーツウエア等の各種衣服を着用する際のインナー繊維製品として幅広く用いることができる。