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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-16
(45)【発行日】2024-05-24
(54)【発明の名称】車両
(51)【国際特許分類】
   B60T 7/12 20060101AFI20240517BHJP
【FI】
B60T7/12 B
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2021002013
(22)【出願日】2021-01-08
(65)【公開番号】P2022107211
(43)【公開日】2022-07-21
【審査請求日】2023-11-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100147
【弁理士】
【氏名又は名称】山野 宏
(72)【発明者】
【氏名】深津 良平
【審査官】山田 康孝
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/241637(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60T 7/12-8/1769
B60T 8/18-8/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動輪と従動輪とを備える車両であって、
ブレーキペダルと、
前記ブレーキペダルの入力に応じて前記駆動輪に常用制動力を付与するように構成された第一ブレーキ機構と、
前記ブレーキペダルの入力に応じて前記従動輪に常用制動力を付与するように構成された第二ブレーキ機構と、
前記第一ブレーキ機構と前記第二ブレーキ機構とを制御する制御部とを備え、
前記制御部は、
前記第一ブレーキ機構と前記第二ブレーキ機構とによって前記車両が停止したとき、前記ブレーキペダルの入力に関わらず両ブレーキ機構が動作した状態を維持し、
前記第一ブレーキ機構による常用制動力によって前記車両が停止した状態を維持できると判断した場合、前記第二ブレーキ機構による常用制動力を解除し、
前記第一ブレーキ機構による常用制動力によって前記車両が停止した状態を維持できないと判断した場合、前記車両が停止した状態を維持できる大きさに前記第一ブレーキ機構による常用制動力を増加させてから、前記第二ブレーキ機構による常用制動力を解除する、
車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、駆動輪と従動輪とを備える車両に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、走行状態の車両を停止させたときに、その停止状態を自動で維持する技術が開示されている。特許文献1は、常用制動力を発生させる第1の制動力制御手段と、駐車制動力を付与する第2の制動力制御手段とを備える。常用制動力は車両を減速させる制動力であり、必要に応じて変動する。駐車制動力はいわゆるパーキングブレーキである。車両の停止状態を長期にわたって維持するため、駐車制動力はほぼ一定である。この特許文献1の技術は、走行状態の車両が常用制動力によって停止する際、ノーズダイブの姿勢にある車両が水平姿勢に復帰する際に生じるピッチングを抑制する。ピッチングとは、車両の左右方向を軸とした回転運動のことである。このピッチングを抑制するために、特許文献1では、車両の停止後に駐車制動力を付与すると共に、車両停止後のピッチング状態に合わせて常用制動力を解除している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2007-15553号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述のように、特許文献1の技術では、常用制動力によって停車した車両に、停車後すぐに駐車制動力を付与している。このような車両に対して、信号待ちなどの短時間の停車においては常用制動力によって車両の停止状態を維持する車両もある。車両のピッチングは、常用制動力によって停車した状態にある車両が発進する際にも生じる恐れがある。このタイミングで生じるピッチングは、搭乗者に違和感を与える可能性があるため、改善することが望まれている。
【0005】
本開示では、常用制動力によって停車した状態にある車両が発進する際のピッチングを効果的に抑制できる車両を提供することを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、常用制動力によって停車状態にある車両が発進する際にピッチングが生じるメカニズムを検討した。図5は、従来の車両100におけるピッチングが生じるメカニズムを示す説明図である。車両100は前輪駆動車である。右向きのハッチングされた矢印は常用制動力、左向きの白抜き矢印は駆動輪2の駆動力である。車両100では、運転者がブレーキペダルから足を離した後にも駆動輪2と従動輪3に作用する常用制動力が維持される。この状態から運転者がアクセルペダルを操作すると、駆動輪2に駆動力が作用する。駆動輪2の駆動力が常用制動力を上回ったとき、車両100が発進する挙動が検知され、駆動輪2と従動輪3の常用制動力が解除される。駆動輪2と従動輪3の常用制動力が解除されるまでのわずかな時間、従動輪3に常用制動力が作用した状態にあり、従動輪3がその場に留まり続けようとするため、車両100の後部が下がるモーメントが発生する。このモーメントがピッチングを生じさせる。以上の知見に基づき、本発明者は、以下に示される本発明の車両を完成させた。
【0007】
本発明の一形態に係る車両は、
駆動輪と従動輪とを備える車両であって、
ブレーキペダルと、
前記ブレーキペダルの入力に応じて前記駆動輪に常用制動力を付与するように構成された第一ブレーキ機構と、
前記ブレーキペダルの入力に応じて前記従動輪に常用制動力を付与するように構成された第二ブレーキ機構と、
前記第一ブレーキ機構と前記第二ブレーキ機構とを制御する制御部とを備え、
前記制御部は、
前記第一ブレーキ機構と前記第二ブレーキ機構とによって前記車両が停止したとき、前記ブレーキペダルの入力に関わらず両ブレーキ機構が動作した状態を維持し、
前記第一ブレーキ機構による常用制動力によって前記車両が停止した状態を維持できるかどうかを判断して前記第二ブレーキ機構による常用制動力を解除する。
【発明の効果】
【0008】
上記車両では、駆動輪に付与された常用制動力によって車両が停止した状態を維持できる場合に、従動輪に作用する常用制動力を解除している。そのため、停車状態にある車両が発進する際、従動輪が車両の発進を阻害せず、ピッチングの原因となるモーメントの発生が抑制される。その結果、停車状態にある車両が発進する際、車両のピッチングが抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、実施形態1に係る車両の機能ブロック図である。
図2図2は、実施形態1に係る車両が実施するブレーキ制御のフローチャートである。
図3図3は、実施形態1に係る車両が停止状態から走行状態に移行する際の車両の挙動を示す模式図である。
図4図4は、実施形態2に係る車両が実施するブレーキ制御のフローチャートである。
図5図5は、従来の車両が停止状態から走行状態に移行する際の車両の挙動を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の実施形態に係る車両1を図面に基づいて説明する。図中の同一符号は同一名称物を示す。なお、本発明は、これらの例示に限定されず、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0011】
<実施形態1>
≪全体構造≫
図1に示される車両1は、駆動輪2と従動輪3とを備える2WDの車両1である。本例の車両1は、前輪が駆動輪2である前輪駆動車である。本例とは異なり、車両1は、後輪が駆動輪2である後輪駆動車であっても良い。
【0012】
本例の車両1は、主に停止状態から走行状態に移行する際の車両1のピッチングを抑制する構成を備える。そのような構成として、本例の車両1は、ブレーキペダル4と第一ブレーキ機構6と第二ブレーキ機構7と制御部5とを備える。本例の車両1は更に、ピッチングを抑制する構成として第一センサ8と第二センサ9とを備える。以下、本例の車両1に備わる各構成を詳細に説明する。
【0013】
≪第一ブレーキ機構≫
第一ブレーキ機構6は、ブレーキペダル4の入力に応じて駆動輪2に常用制動力を付与するように構成されている。第一ブレーキ機構6は、ブレーキ本体60と、図示しない駆動部とを備える。ブレーキ本体60は、駆動輪2の回転、具体的には駆動輪2のホイールの回転を抑制する。ブレーキ本体60としては、例えばドラムブレーキやディスクブレーキなどが挙げられる。ブレーキ本体60がドラムブレーキの場合、ブレーキ本体60はブレーキドラムとブレーキシューとを備える。ブレーキ本体60がディスクブレーキの場合、ブレーキ本体60はキャリパーとディスクとを備える。駆動部は、ブレーキ本体60を動作させるための構成である。駆動部は、ブレーキ本体60の動作状態を調整し、常用制動力の大きさを変化させることができる構成であれば、特に限定されない。例えば駆動部は、油圧によってブレーキ本体60を動作させる油圧式駆動部でも良いし、モータによってブレーキ本体60を動作させる電動式駆動部でも良い。駆動部が油圧式の場合、駆動部は、マスターシリンダーと、マスターシリンダーからブレーキ本体60に延びるブレーキオイルの管路とを含む。駆動部が電動式の場合、駆動部はキャリパーやブレーキシューを動作させるモータを含む。
【0014】
≪第二ブレーキ機構≫
第二ブレーキ機構7は、ブレーキペダル4の入力に応じて従動輪3に常用制動力を付与するように構成されている。第二ブレーキ機構7は、第一ブレーキ機構6と同様、ブレーキ本体70と、図示しない駆動部とを備える。ブレーキ本体70は、例えばドラムブレーキやディスクブレーキなどである。第二ブレーキ機構7の駆動部も、ブレーキ本体70の動作状態を調整し、常用制動力の大きさを変化させることができる構成であれば、特に限定されない。駆動部は、油圧式駆動部でも良いし電動式駆動部でも良い。
【0015】
本例のブレーキ機構6,7の駆動部は共に、マスターシリンダーを含む油圧式駆動部である。この油圧式駆動部は更に、ABS(Anti-lock Braking System)アクチュエータを備える。ABSアクチュエータは、マスターシリンダーから各輪に向かう油圧を制御する部材である。本例とは異なり、油圧式のブレーキ機構6,7はABSアクチュエータを備えないが、駆動輪2と従動輪3とに油圧を分配する構成を備えるものであっても良い。
【0016】
≪制御部≫
制御部5は、第一ブレーキ機構6と第二ブレーキ機構7とを制御する。制御部5は、代表的には、コンピュータにより構成される。コンピュータは、プロセッサ50及びメモリ51などを備える。メモリ51には、プロセッサ50に実行させるためのプログラムなどが格納されている。プロセッサ50は、メモリ51に格納されたプログラムを読み出して実行する。制御部5によるプログラムの処理手順については、後述する≪ブレーキ制御の手順≫の項で詳しく説明する。
【0017】
ここで、本例のブレーキ機構6,7は、ABSアクチュエータを備える。従って、制御部5は、ABSアクチュエーターを制御することで、両ブレーキ機構6,7を制御している。本例とは異なり、ブレーキ機構6,7が電気式駆動部を備える場合、制御部5は、ブレーキ本体60,70を動作させるモータを制御する。第一ブレーキ機構6と第二ブレーキ機構7の一方が油圧式駆動部を備え、他方が電気式駆動部を備えていても良い。
【0018】
≪第一センサ≫
第一センサ8は、車両1の前後方向の勾配に関する第一情報を測定するセンサである。第一センサ8は、上記第一情報を測定できるものであれば特に限定されない。本例の第一センサ8は、加速度センサである。加速度センサとしては、車両1に搭載される既存の加速度センサが挙げられる。加速度センサは、例えばクルーズコントロールやナビゲーションシステムに車両1の速度の情報を伝えるために設けられている。その他、第一センサ8として、例えばジャイロセンサなどが挙げられる。
【0019】
≪第二センサ≫
第二センサ9は、車両1の駆動輪2に付与される常用制動力に関する第二情報を測定するセンサである。第二センサ9は上記第二情報を測定できるものであれば特に限定されない。本例の第二センサ9は、第一ブレーキ機構6の油圧を測定する油圧センサである。第一ブレーキ機構6の油圧の大きさは、駆動輪2に付与される常用制動力の大きさに相関する。油圧が大きいほど、駆動輪2の常用制動力が大きくなる。
【0020】
≪ブレーキ制御の手順≫
本例の車両1では、運転者のブレーキペダル4の操作に伴い、第一ブレーキ機構6と第二ブレーキ機構7がブレーキペダル4の入力に応じた常用制動力を発生させる。第一ブレーキ機構6と第二ブレーキ機構7とによって車両1が停止したら、制御部5は、車両1を停車させた常用制動力を維持してから本例のブレーキ制御を開始する。本例の車両1におけるブレーキ制御の一例を図2の制御フローチャートに基づいて説明する。
【0021】
ステップS1では、制御部5は車両1の前後方向の勾配が第一閾値以下であるか否かを判断する。本例では、制御部5のプロセッサ50が、加速度センサである第一センサ8からの情報に基づいて車両1の勾配を求める。勾配は、第一センサ8の測定値と勾配との相関関係を示すルックアップテーブルから求められる。ルックアップテーブルは、メモリ51に記憶されている。プロセッサ50は、メモリ51からルックアップテーブルを読み出し、第一センサ8の測定値をルックアップテーブルに照らし合わせて、車両1の現在の勾配を求める。プロセッサ50は、車両1の勾配を第一閾値と比較し、勾配が第一閾値以下であればステップS2の処理を行う。勾配が第一閾を超えていれば、プロセッサ50は処理を終了し、本例の制御を行わない。その結果、車両1が停車したときの駆動輪2と従動輪3の制動が維持される。第一閾値は、メモリ51に記憶された規定値である。この第一閾値は、駆動輪2のみを制動することで車両1が安全に停止状態を維持できる車両1の勾配の限界値である。第一閾値は、実験によって求められる。
【0022】
ステップS2では、制御部5は駆動輪2の常用制動力が第二閾値以上であるか否かを判断する。本例では、駆動輪2の常用制動力を評価する指標として、圧力センサである第二センサ9から得られた油圧の値が利用される。従って、常用制動力と比較される第二閾値は、第一閾値の勾配を有する車両1が駆動輪2のみを制動することで安全に停止状態を維持できる油圧の値である。制御部5のプロセッサ50は、油圧の値が第二閾値以上であればステップS3の処理を行う。油圧が第二閾値未満であれば、プロセッサ50は処理を終了し、本例の制御を行わない。第二閾値は、メモリ51に記憶された規定値である。第二閾値は実験によって求められる。第二閾値は車両1の勾配に応じた変動値であっても良い。例えば、第二閾値は、第一閾値未満の勾配を有する車両1が、その勾配に応じて駆動輪2のみを制動することで安全に停止状態を維持できる油圧の値である。その場合、勾配の値と第二閾値との相関関係を示すルックアップテーブルを利用することが挙げられる。
【0023】
ステップS3では、制御部5は従動輪3の常用制動力を解除する。具体的には、制御部5は、第二ブレーキ機構7のブレーキ本体70による従動輪3の拘束を解除する。ステップS3が終了したら、制御部5は処理を終了する。
【0024】
≪効果≫
本例の車両1によれば、車両1が発進する際のピッチングが抑制される。ピッチングが抑制されるメカニズムを図3に基づいて説明する。図3の見方は、図5と同じである。
【0025】
図3に示されるように、本例1の車両1では、停車状態において従動輪3に常用制動力が作用していない。この状態から、クリープ現象やアクセルペダルの操作によって駆動輪2に駆動力が作用したとき、従動輪3が車両1の発進を阻害しない。そのため、車両1の後部が下がるモーメントが発生し難い。駆動輪2の駆動力が常用制動力を上回れば、車両1は発進する。このとき、上記モーメントの発生が抑制されているので、車両1のピッチングが抑制される。
【0026】
<実施形態2>
実施形態2では、図1に示される構成を備える車両1において、従動輪3の常用制動力を解除する前に、駆動輪2の常用制動力を増加させる例を説明する。その説明にあたっては図4のフローチャートを参照する。
【0027】
実施形態2の車両1に備わる車両1は、第一ブレーキ機構6と第二ブレーキ機構7とによって車両1が停止したら、図4に示されるフローチャートの制御を実施する。図4のステップS1,S2は、実施形態1と同じである。
【0028】
本例の制御部5は、図4のステップS2において、駆動輪2の常用制動力が閾値未満であった場合、ステップS4の処理を行う。ステップS4では、制御部5は第一ブレーキ機構6を制御して駆動輪2の常用制動力を増加させる。例えば、制御部5は、ABSアクチュエータを動作させ、第一ブレーキ機構6の液圧を上昇させる。その後、制御部5は、再度ステップS2の処理を行う。制御部5は、第一ブレーキ機構6の液圧が閾値以上となるまでステップS2の処理を行い、液圧が閾値以上となったらステップS3の処理を行う。
【0029】
本例の構成によれば、停車状態にある車両1が発進する際にピッチングがより確実に抑制される。
【符号の説明】
【0030】
1 車両
2 駆動輪
3 従動輪
4 ブレーキペダル
5 制御部
50 プロセッサ、51 メモリ
6 第一ブレーキ機構、60 ブレーキ本体
7 第二ブレーキ機構、70 ブレーキ本体
8 第一センサ
9 第二センサ
100 車両
図1
図2
図3
図4
図5