(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-16
(45)【発行日】2024-05-24
(54)【発明の名称】アンモニア酸化触媒装置
(51)【国際特許分類】
B01J 29/78 20060101AFI20240517BHJP
B01D 53/94 20060101ALI20240517BHJP
B01J 29/26 20060101ALI20240517BHJP
B01J 29/48 20060101ALI20240517BHJP
B01J 35/57 20240101ALI20240517BHJP
F01N 3/021 20060101ALI20240517BHJP
F01N 3/035 20060101ALI20240517BHJP
F01N 3/08 20060101ALI20240517BHJP
F01N 3/10 20060101ALI20240517BHJP
F01N 3/24 20060101ALI20240517BHJP
F01N 3/28 20060101ALI20240517BHJP
【FI】
B01J29/78 A ZAB
B01D53/94 222
B01D53/94 228
B01J29/26 A
B01J29/48 A
B01J35/57 L
F01N3/021
F01N3/035 E
F01N3/08 B
F01N3/10 A
F01N3/24 E
F01N3/28 301D
F01N3/28 301F
F01N3/28 301P
(21)【出願番号】P 2019087584
(22)【出願日】2019-05-07
【審査請求日】2022-04-19
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000104607
【氏名又は名称】株式会社キャタラー
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100208225
【氏名又は名称】青木 修二郎
(74)【代理人】
【識別番号】100217179
【氏名又は名称】村上 智史
(74)【代理人】
【識別番号】100122404
【氏名又は名称】勝又 秀夫
(72)【発明者】
【氏名】山下 嘉典
【審査官】佐藤 慶明
(56)【参考文献】
【文献】特開昭60-106535(JP,A)
【文献】特開平06-327943(JP,A)
【文献】特開平07-289897(JP,A)
【文献】特表2010-540230(JP,A)
【文献】特開2000-093749(JP,A)
【文献】特開平07-016462(JP,A)
【文献】特表2017-525554(JP,A)
【文献】特表2014-512956(JP,A)
【文献】特開2006-326437(JP,A)
【文献】特開平05-049931(JP,A)
【文献】特表2018-527161(JP,A)
【文献】国際公開第2017/180114(WO,A1)
【文献】特開2008-279334(JP,A)
【文献】特表2015-530921(JP,A)
【文献】特開2012-055810(JP,A)
【文献】特表2018-537264(JP,A)
【文献】特開昭63-051948(JP,A)
【文献】特表2007-532823(JP,A)
【文献】Seong Moon JUNG et al.,“The study of a synergetic effect over a H-ZSM-5/V2O5 hybrid catalyst on SCR reaction”,Journal of Molecular Catalysis A: Chemical,2005年07月,Vol. 236, No. 1-2,p.94-98,DOI: 10.1016/j.molcata.2005.03.028
【文献】Siva Sankar Reddy PUTLURU et al.,“Vanadia supported on zeolites for SCR of NO by ammonia”,Applied Catalysis B: Environmental,2010年06月18日,Vol. 97, No. 3-4,p.333-339,DOI: 10.1016/j.apcatb.2010.04.009特開昭63-051948号公報
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00 - 38/74
B01D 53/73 - 53/90
B01D 53/94 - 53/96
F01N 3/021
F01N 3/035
F01N 3/10 - 3/38
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、第1触媒コート層と、第2触媒コート層と、を有し、
前記第1触媒コート層が、無機酸化物粒子と、前記無機酸化物粒子上に担持されている触媒貴金属と、を含み、
前記第2触媒コート層が、NO
x選択還元触媒と、プロトンゼオライトと、を含み、
前記NO
x選択還元触媒が
、タングステン-セリウム-チタン-ケイ素複合酸化物
を含み、かつ、
前記基材と、前記第1触媒コート層と、前記第2触媒コート層との位置関係が下記A及びBのいずれかである、アンモニア酸化触媒装置:
A 前記第1触媒コート層が前記基材上に存在しており、かつ、
前記第2触媒コート層が前記第1触媒コート層上に存在していること;
B 排ガス流れの上流側では前記第2触媒コート層が前記基材上に存在しており、かつ、
排ガス流れの下流側では前記第1触媒コート層が前記基材上に存在していること。
【請求項2】
前記第2触媒コート層における前記プロトンゼオライトの含有量が、前記基材の容量1L当たり、250g/L以下である、請求項1に記載のアンモニア酸化触媒装置。
【請求項3】
前記第2触媒コート層における前記プロトンゼオライトの含有量が、前記基材の容量1L当たり、10g/L以上150g/L以下である、請求項2に記載のアンモニア酸化触媒装置。
【請求項4】
前記第2触媒コート層における前記NO
x選択還元触媒の含有量が、前記基材の容量1L当たりの金属酸化物換算質量として、50g/L以上である、請求項1~
3のいずれか一項に記載のアンモニア酸化触媒装置。
【請求項5】
前記第2触媒コート層における前記NO
x選択還元触媒の含有量が、前記基材の容量1L当たりの金属酸化物換算質量として、80g/L以上200g/L以下である、請求項
4に記載のアンモニア酸化触媒装置。
【請求項6】
前記第1触媒コート層における触媒貴金属が、白金及びパラジウムから選択される1種又は2種である、請求項1~
5のいずれか一項に記載のアンモニア酸化触媒装置。
【請求項7】
前記第1触媒コート層における無機酸化物粒子が、アルミナを含む、請求項1~
6のいずれか一項に記載のアンモニア酸化触媒装置。
【請求項8】
排ガス流れの上流側から順に、NO
x選択触媒還元(SCR)装置と、請求項1~
7のいずれか一項に記載のアンモニア酸化触媒装置とを有する、排ガス浄化触媒システム。
【請求項9】
排ガス流れの上流側から順に、ディーゼル用酸化触媒(DOC)装置と、ディーゼル微粒子捕集フィルター(DPF)装置と、NO
x選択触媒還元(SCR)装置と、アンモニア酸化触媒装置とを有し、
前記アンモニア酸化触媒装置が、
基材と、第1触媒コート層と、第2触媒コート層と、を有し、
前記第1触媒コート層が、無機酸化物粒子と、前記無機酸化物粒子上に担持されている触媒貴金属と、を含み、
前記第2触媒コート層が、NO
x選択還元触媒と、プロトンゼオライトと、を含み、
前記NO
x選択還元触媒が、バナジウム、モリブデン、タングステン、及びビスマスから選択される1種又は2種以上の元素を含む酸化物であり、かつ、
前記基材と、前記第1触媒コート層と、前記第2触媒コート層との位置関係が下記A及びB:
A 前記第1触媒コート層が前記基材上に存在しており、かつ、
前記第2触媒コート層が前記第1触媒コート層上に存在していること;
B 排ガス流れの上流側では前記第2触媒コート層が前記基材上に存在しており、かつ、
排ガス流れの下流側では前記第1触媒コート層が前記基材上に存在していることのいずれかのアンモニア酸化触媒装置である、
排ガス浄化触媒システム。
【請求項10】
前記アンモニア酸化触媒装置の前記第2触媒コート層における前記プロトンゼオライトの含有量が、前記基材の容量1L当たり、250g/L以下である、請求項
9に記載の排ガス浄化触媒システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンモニア酸化触媒装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ディーゼルエンジン、希薄燃焼エンジン等からの排ガスに含まれるNOxを、高い水準で浄化するための技術として、選択的触媒還元(SCR:Selective Catalytic Reduction)が知られている。SCRは、排ガスに、アンモニア、又は尿素等のアンモニア前駆体を供給して、NOX(通常、NO+NO2)を、アンモニア(NH3)と触媒的に反応させて、窒素(N2)及び水(H2O)に変換することにより、NOXの浄化を行う技術である。
【0003】
このようなSCRを用いる排ガス浄化触媒装置については、精力的に研究されており、例えば、特許文献1~6の技術が提案されている。
【0004】
SCR装置では、NOxの浄化に寄与せずに、装置から排出されるアンモニアが存在し得る。このようなアンモニアがそのまま大気中に放出されることを防ぐために、アンモニア酸化触媒装置が用いられている。アンモニア酸化触媒装置は、SCR装置から排出されるアンモニアを酸化して除去する機能を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特表2016-511684号公報
【文献】特表2016-504183号公報
【文献】特開2016-41428号公報
【文献】特開2016-73971号公報
【文献】特表2010-519039号公報
【文献】特表2018-527161号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
アンモニア酸化触媒装置では、アンモニアスリップ性能と、NOxの浄化性能とが、好適なバランスを示すように、アンモニアに対して適度の吸着能を有する吸着材料が用いられている。なお、本明細書において、アンモニアスリップ性能とは、アンモニアを酸化してN2及びH2Oに変換する機能をいう。
【0007】
このことに関し、アンモニア酸化触媒装置における吸着材料のアンモニアの吸着能が低ければ、アンモニアとの反応によるNOx浄化の効率が低くなり、NOxの浄化反応に寄与せずにそのまま排出されるアンモニアスリップ量が増加すると考えられる。一方、アンモニア酸化触媒装置における吸着材料のアンモニアの吸着量が過度に多いと、大量のアンモニアを貯蔵した後の加速時等に、一気に脱離するアンモニアの量が、NOxの浄化反応によるアンモニアの消費量に対して過大になるため、アンモニアスリップ濃度が増加すると考えられる。
【0008】
上述の特許文献に代表される従来技術では、アンモニアスリップ性能とNOxの浄化性能とのバランスに優れるアンモニア酸化触媒装置は知られていない。
【0009】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされた。したがってその目的は、アンモニアスリップ性能とNOxの浄化性能とのバランスに優れるアンモニア酸化触媒装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、以下のとおりである。
【0011】
《態様1》基材と、第1触媒コート層と、第2触媒コート層と、を有し、
上記第1触媒コート層が、無機酸化物粒子と、上記無機酸化物粒子上に担持されている触媒貴金属と、を含み、
上記第2触媒コート層が、NOx選択還元触媒と、プロトンゼオライトと、を含み、かつ、
上記基材と、上記第1触媒コート層と、上記第2触媒コート層との位置関係が下記A及びBの少なくとも一方を満たす、アンモニア酸化触媒装置:
A 上記第1触媒コート層が上記基材上に存在しており、かつ、
上記第2触媒コート層が上記第1触媒コート層上に存在していること;
B 排ガス流れの上流側では上記第2触媒コート層が上記基材上に存在しており、かつ、
排ガス流れの下流側では上記第1触媒コート層が上記基材上に存在していること。
《態様2》上記第2触媒コート層における上記プロトンゼオライトの含有量が、上記基材の容量1L当たり、250g/L以下である、態様1に記載のアンモニア酸化触媒装置。
《態様3》上記第2触媒コート層における上記プロトンゼオライトの含有量が、上記基材の容量1L当たり、10g/L以上150g/L以下である、態様2に記載のアンモニア酸化触媒装置。
《態様4》上記第2触媒コート層における上記NOx選択還元触媒が、バナジウム及びタングステンから選択される1種又は2種以上の元素の酸化物を含む、態様1~3のいずれか一項に記載のアンモニア酸化触媒装置。
《態様5》上記NOx選択還元触媒が、鉄-バナジウム複合酸化物を含む、態様4に記載のアンモニア酸化触媒装置。
《態様6》上記NOx選択還元触媒が、タングステン-セリウム-チタン-ケイ複合酸化物を含む、態様4に記載のアンモニア酸化触媒装置。
《態様7》上記第2触媒コート層における上記NOx選択還元触媒の含有量が、上記基材の容量1L当たりの金属酸化物換算質量として、50g/L以上である、態様1~6のいずれか一項に記載のアンモニア酸化触媒装置。
《態様8》上記第2触媒コート層における上記NOx選択還元触媒の含有量が、上記基材の容量1L当たりの金属酸化物換算質量として、80g/L以上200g/L以下である、態様7に記載のアンモニア酸化触媒装置。
《態様9》上記第1触媒コート層における触媒貴金属が、白金及びパラジウムから選択される1種又は2種である、態様1~8のいずれか一項に記載のアンモニア酸化触媒装置。
《態様10》上記第1触媒コート層における無機酸化物粒子が、アルミナを含む、態様1~9のいずれか一項に記載のアンモニア酸化触媒装置。
《態様11》排ガス流れの上流側から順に、NOx選択触媒還元(SCR)装置と、態様1~10のいずれか一項に記載のアンモニア酸化触媒装置とを有する、排ガス浄化触媒システム。
《態様12》排ガス流れの上流側から順に、ディーゼル用酸化触媒(DOC)装置と、ディーゼル微粒子捕集フィルター(DPF)装置と、NOx選択触媒還元(SCR)装置と、態様1~10のいずれか一項に記載のアンモニア酸化触媒装置とを有する、排ガス浄化触媒システム。
【発明の効果】
【0012】
本発明の排ガス浄化触媒装置は、アンモニアスリップ性能とNOxの浄化性能とのバランスに優れており、NOxの浄化反応に寄与せずに排出されるアンモニアスリップ量が少なく、かつ、NOxの浄化率が高い。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、本発明のアンモニア酸化触媒装置の構成の一例を示す概略断面図である。
【
図2】
図2は、本発明のアンモニア酸化触媒装置の構成の別の一例を示す概略断面図である。
【
図3】
図3は、本発明のアンモニア酸化触媒装置の構成の更に別の一例を示す概略断面図である。
【
図4】
図4は、本発明の排ガス浄化触媒システムの構成の一例を示す概略図である。
【
図5】
図5は、本発明の排ガス浄化触媒システムの構成の別の一例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
《アンモニア酸化触媒装置》
本発明のアンモニア酸化触媒装置は、
基材と、第1触媒コート層と、第2触媒コート層と、を有し、
第1触媒コート層が、無機酸化物粒子と、無機酸化物粒子上に担持されている触媒貴金属と、を含み、
第2触媒コート層が、NOx選択還元触媒と、プロトンゼオライトと、を含む。
【0015】
本発明のアンモニア酸化触媒装置において、基材と、第1触媒コート層と、第2触媒コート層との位置関係は、下記A及びBの少なくとも一方を満たす:
A 第1触媒コート層が基材上に存在しており、かつ、
第2触媒コート層が第1触媒コート層上に存在していること;
B 排ガス流れの上流側では第2触媒コート層が基材上に存在しており、かつ、
排ガス流れの下流側では第1触媒コート層が基材上に存在していること。
【0016】
本発明のアンモニア酸化触媒装置は、上記のような構成により、NOxの浄化反応に寄与せずに排出されるアンモニアスリップ量が少なく、かつ、極めて高いNOxの浄化率を示す。その理由につき、本発明者らは以下のように推察している。
【0017】
ゼオライトは、比表面積が比較的大きく、アンモニアの吸着性能に優れることが知られており、アンモニア酸化触媒装置におけるアンモニア吸蔵材料として使用されている。しかしながら、ゼオライトを含むアンモニア酸化触媒装置では、アンモニア貯蔵後の加速時等に、吸着したアンモニアが一気に脱離する場合がある。そのため、アンモニアの脱離量が、NOxの浄化反応による消費量を上回り、アンモニアスリップ量が多くなる場合がある。
【0018】
本発明のアンモニア酸化触媒装置では、プロトンゼオライトを用いる。プロトンゼオライトは、イオン交換サイトにプロトンが存在することにより、アンモニア吸着サイトの酸性度が調整されており、アンモニア吸着力に優れる。そのため、プロトンゼオライトは、アンモニア貯蔵後の加速時等でも、吸着したアンモニアが一気に脱離することを抑制し、NOxの還元浄化に寄与しうる範囲で徐放されると考えられる。本発明のアンモニア酸化触媒装置では、このようなプロトンゼオライトを、NOx選択還元触媒とともに第2触媒コート層中に共存させることにより、優れたアンモニアスリップ抑制能と、高度のNOx浄化能とが両立されているものと考えられる。
【0019】
本発明のアンモニア酸化触媒装置では、更に、無機酸化物粒子と、該無機酸化物粒子上に担持されている触媒貴金属とを含む第1触媒コート層を有する。本発明の好ましい態様では、この第1触媒コート層は、第2触媒コート層におけるNO2の浄化反応に寄与しなかったアンモニアを酸化浄化する機能を有し、アンモニアスリップ量を更に低減することができる。
【0020】
以下、本発明のアンモニア酸化触媒装置を構成する各要素について、順に説明する。
【0021】
〈基材〉
本発明のアンモニア酸化触媒装置における基材としては、排ガス浄化触媒装置の基材として一般に使用されているものを使用することができる。例えば、コージェライト、SiC、ステンレス鋼、無機酸化物粒子等の材料から構成されている、例えばストレートタイプ又はウォールフロータイプのモノリスハニカム基材であってよい。
【0022】
〈第1触媒コート層〉
第1触媒コート層は、無機酸化物粒子と、この無機酸化物粒子上に担持されている触媒貴金属と、を含み、これら以外の任意成分を更に含んでいてよい。第1触媒コート層における任意成分は、例えば、アルカリ性化合物、バインダー等であってよい。
【0023】
(無機酸化物粒子)
第1触媒コート層に含まれる無機酸化物粒子は、例えばアルミニウム、ケイ素、チタニウム、ジルコニウム、希土類元素等から選択される1種又は2種以上の元素の酸化物の粒子であってよい。無機酸化物粒子として、具体的には例えば、アルミナ粒子、セリア-ジルコニア複合酸化物粒子等が挙げられる。
【0024】
第1触媒コート層における無機酸化物粒子は、例えばアルミナを含んでいてよい。
【0025】
〈触媒貴金属〉
第1触媒コート層における触媒貴金属は、白金族元素であってよく、具体的には例えば、白金、パラジウム、及びロジウムから選択される1種又は2種以上であってよい。
【0026】
本発明のアンモニア酸化触媒装置では、後述の第2触媒コート層が、NOx選択還元触媒を含み、アンモニアによるNOxの還元浄化の機能を有する。したがって、第1触媒コート層は、NO2の浄化反応に寄与しなかったアンモニアを酸化浄化する機能を有することが望まれる。この観点から第1触媒コート層における触媒貴金属は、白金及びパラジウムから選択される1種又は2種であってよい。
【0027】
第1触媒コート層における触媒貴金属は、無機酸化物粒子に担持されている。触媒貴金属は、すべての無機酸化物粒子に担持されていてもよいし、無機酸化物粒子の一部にのみ担持されていてもよい。
【0028】
第1触媒コート層における触媒貴金属が白金を含むとき、無機酸化物粒子に担持されている白金の担持量は、無機酸化物粒子の質量を基準として、例えば、0.05質量%以上、0.07質量%以上、0.10質量%以上、0.15質量%以上、又は0.20質量%以上であってよく、例えば、1.0質量%以下、0.8質量%以下、0.7質量%以下、0.6質量%以下、又は0.5質量%以下であってよい。
【0029】
第1触媒コート層における触媒貴金属が白金を含むとき、第1触媒コート層中の白金の量は、基材容量1L当たりの金属白金換算質量として、例えば、0.01g/L以上、0.02g/L以上、0.05g/L以上、0.07g/L以上、又は0.08g/Lであってよく、例えば、1.0g/L以下、0.8g/L以下、0.6g/L以下、0.4g/L以下、又は0.2g/L以下であってよい。
【0030】
第1触媒コート層における触媒貴金属がパラジウムを含むとき、無機酸化物粒子に担持されているパラジウムの担持量は、例えば、0.70質量%以上、0.75質量%以上、又は0.80質量%以上であってよく、例えば、4.0質量%以下、3.0質量%以下、2.0質量%以下、又は1.0質量%以下であってよい。
【0031】
第1触媒コート層における触媒貴金属がパラジウムを含むとき、第1触媒コート層中のパラジウムの量は、基材容量1L当たりの金属パラジウム換算質量として、例えば、0.01g/L以上、0.02g/L以上、0.05g/L以上、又は0.10g/L以上であってよく、例えば、0.50g/L以下、0.40g//L以下、0.30g/L以下、又は0.20g/L以下であってよい。
【0032】
(アルカリ性化合物)
第1触媒コート層は、アルカリ性化合物を含んでいてよい。このアルカリ性化合物は、例えば、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類金属の化合物であってよく、これらの硫酸塩、硝酸塩、炭酸塩、オキソ酸塩(硫酸、硝酸、及び炭酸を除く)塩、酸化物等であってよい。
【0033】
(バインダー)
第1触媒コート層は、バインダーを含んでいてよい。バインダーとしては、例えば、アルミナゾル、ジルコニアゾル、シリカゾル、チタニアゾル等が挙げられる。
【0034】
(第1触媒コート層のコート量)
第1触媒コート層量は、基材容量1L当たりの第1触媒コート層の質量として、例えば、5g/L以上、6g/L以上、8g/L以上、10g/L以上、12g/L以上、又は15g/L以上であってよく、例えば、50g/L以下、45g/L以下、40g/L以下、35g/L以下、又は30g/L以下であってよい。
【0035】
〈第2触媒コート層〉
第2触媒コート層は、NOx選択還元触媒と、プロトンゼオライトと、を含み、これら以外の任意成分を更に含んでいてよい。第2触媒コート層における任意成分は、例えば、プロトンゼオライト以外の無機酸化物、バインダー等であってよい。
【0036】
(NOx選択還元触媒)
第2触媒コート層におけるNOx選択還元触媒は、排ガス中のNOxと、後述のプロトンゼオライトから徐放されるアンモニアとの反応によるNOxの還元浄化を触媒する機能を有する。NOx選択還元触媒は、例えば、バナジウム、モリブデン、タングステン、鉄、銅、ビスマス等から選択される1種又は2種以上の元素を含む酸化物であってよく、これらの元素と、アルミニウム、ジルコニウム、セリウム、ケイ素、チタン等から選択される1種又は2種以上の元素とを含む酸化物であってもよい。
【0037】
第2コート層中のNOx選択還元触媒として、好ましくは、バナジウム及びタングステンから選択される1種又は2種以上の元素の酸化物であり、特に好ましくは、バナジウム酸化物、鉄-バナジウム複合酸化物、ビスマス-バナジウム複合酸化物、銅-バナジウム複合酸化物、タングステン酸化物、タングステン-セリウム-チタン-ケイ素複合酸化物等である。
【0038】
第2触媒コート層におけるNOx選択還元触媒の含有量は、触媒能を有効に発現させるとの観点から、基材の容量1L当たりの金属酸化物換算質量として、例えば、50g/L以上、60g/L以上、70g/L以上、又は80g/L以上であってよく、例えば、200g/L以下、180g/L以下、150g/L以下、130g/L以下、又は120g/L以下であってよい。NOx選択還元触媒の含有量は、触媒反応に寄与しない材料の量を削減し、合わせて基材の排ガス流路を広く維持するとの観点から、基材の容量1L当たりの金属酸化物換算質量として、好ましくは50g/L以上であり、より好ましくは80g/L以上200g/L以下である。
【0039】
なお、第2コート層中のNOx選択還元触媒がケイ素元素を含む場合、該ケイ素元素の質量は、ケイ素酸化物の質量に換算されたうえで、NOx選択還元触媒の金属酸化物換算質量に含めて計算されるものとする。
【0040】
(プロトンゼオライト)
第2触媒コート層におけるプロトンゼオライトは、アニモニアを吸着して貯蔵し、状況に応じて貯蔵したアンモニアを徐放することにより、NOxの還元浄化反応に資するとともに、アンモニアスリップを抑制する機能を有する。
【0041】
プロトンゼオライトにおいて、ゼオライトの結晶構造は任意である。本発明に適用可能なプロトンゼオライトの結晶構造を、それぞれの構造コード(カッコ内に記載)とともに示せば、例えば、A型(LTA)、フェリエライト(FER)、MCM-22(MWW)、ZSM-5(MFI)、モルデナイト(MOR)、L型(LTL)、X型又はY型(FAU)、ベータ型(BEA)、チャパサイト(CHA)等であってよく、CDO型、GON型等であってもよい。
【0042】
本明細書では、特定の結晶構造を有するプロトンゼオライトを、以下、母体ゼオライトの構造コードの前に「H-」を付して参照する。例えば、ベータ型のプロトンゼオライトは、「H-BEA」と表記する。
【0043】
本発明における好ましいプロトンゼオライトは、H-BEA、H-CHA、H-MFI、H-MOR等である。
【0044】
第2触媒コート層におけるプロトンゼオライトの含有量は、アンモニアの適切な吸脱着能を発現させるために、基材の容量1L当たりの質量として、10g/L以上、15g/L以上、20g/L以上、25g/L以上、30g/L以上、40g/L以上、又は50g/L以上であってよい。
【0045】
一方で、プロトンゼオライトの含有量が過度に多いと、アンモニア吸着の容量が大きくなりすぎて、NOxの還元浄化に要するアンモニア放出量が不足し、或いは、アンモニア貯蔵後の加速時等に、一気に脱離するアンモニアの量が増えすぎるおそれがある。これを避ける観点から、プロトンゼオライトの含有量は、基材の容量1L当たりの質量として、例えば、220g/L以下、200g/L以下、180g/L以下、160g/L以下、150g/L以下、140g/L以下、120g/L以下、又は100g/L以下であってよい。
【0046】
第2触媒コート層におけるプロトンゼオライトの含有量は、典型的には、基材の容量1L当たり、10g/L以上150g/L以下であってよい。
【0047】
アンモニア吸着量を適切な範囲に保ち、NOxの還元浄化に必要な範囲で吸着アンモニアを適切な速度で徐放するために、第2触媒コート層中のプロトンゼオライトの量は、上述のNOx選択還元触媒の量に対して適切な割合であることが望まれる。この観点から、第2触媒コート層におけるプロトンゼオライトの質量は、NOx選択還元触媒の金属酸化物換算質量に対して、例えば、0.10倍以上、0.12倍以上、0.15倍以上、又は0.18倍以上であってよく、例えば、3.0倍以下、1.0倍以下、0.80倍以下、0.50倍以下、又は0.30倍以下であってよい。
【0048】
(プロトンゼオライト以外の無機酸化物)
第2触媒コート層は、プロトンゼオライト以外の無機酸化物を更に含んでいてもよい。第2触媒コート層に含まれる無機酸化物粒子は、例えばアルミニウム、ケイ素、チタニウム、ジルコニウム、希土類元素等から選択される1種又は2種以上の元素の酸化物の粒子であってよい。無機酸化物粒子として、具体的には例えば、アルミナ粒子、セリア-ジルコニア複合酸化物粒子等が挙げられる。
【0049】
(バインダー)
第2触媒コート層は、バインダーを更に含んでいてもよい。バインダーとしては、例えば、アルミナゾル、ジルコニアゾル、シリカゾル、チタニアゾル等が挙げられる。
【0050】
(第2触媒コート層のコート量)
第2触媒コート層量は、基材容量1L当たりの第2触媒コート層の質量として、例えば、50g/L以上、70g/L以上、80g/L以上、又は100g/L以上であってよく、例えば、300g/L以下、250g/L以下、200g/L以下、180g/L以下、150g/L以下、又は120g/L以下であってよい。
【0051】
〈基材、第1触媒コート層、及び第2触媒コート層の位置関係〉
本発明のアンモニア酸化触媒装置では、基材と、第1触媒コート層と、第2触媒コート層との位置関係が下記A及びBの少なくとも一方を満たす:
A 上記第1触媒コート層が上記基材上に存在しており、かつ、
上記第2触媒コート層が上記第1触媒コート層上に存在していること(構成A);
B 排ガス流れの上流側では上記第2触媒コート層が上記基材上に存在しており、かつ、
排ガス流れの下流側では上記第1触媒コート層が上記基材上に存在していること(構成B)。
【0052】
上述したとおり、本発明のアンモニア酸化触媒装置では、アンモニアの吸着力に優れ、吸着したアンモニアを徐放して、適度のアンモニア吸脱着性を示すプロトンゼオライトを含む第2触媒コート層により、優れたアンモニアスリップ抑制能と、高度のNOx浄化能とが両立されている。更に、本発明の好ましい態様では、この第1触媒コート層は、第2触媒コート層におけるNO2の浄化反応に寄与しなかったアンモニアを酸化浄化する機能を有し、アンモニアスリップ量が更に低減される。
【0053】
したがって、本発明のアンモニア酸化触媒装置に流入する排ガスは、最初に第2触媒コート層と接触し、第2触媒コート層と接触した後に、第1触媒コート層と接触することにより、本発明の所期する機能が最大限に発揮されることになる。
【0054】
このような観点から、本発明のアンモニア酸化触媒装置の触媒コート層では、
二層型の場合には、上記「構成A」のように、第2触媒コート層は上層に、第1触媒コート層は下層に配置され、
タンデム型の場合には、上記「構成B」のように、第2触媒コート層は排ガス流れの上流側に、第1触媒コート層は排ガス流れの下流側に配置される。
【0055】
第1触媒コート層及び第2触媒コート層の層構成が上記構成Bであるアンモニア酸化触媒装置では、第1触媒コート層と、第2触媒コート層との長さの比は、任意である。第1触媒コート層及び第2触媒コート層の長さの合計に対する第2触媒コート層の名側の示す割合は、例えば、30%以上、40%以上、50%以上、60%以上、又は70%以上であってよく、60%以下、50%以下、40%以下、又は30%以下であってよい。
【0056】
本発明のアンモニア酸化触媒装置では、基材と、第1触媒コート層と、第2触媒コート層との位置関係が、構成A及び構成Bの双方を満たしてもよい。基材と、第1触媒コート層と、第2触媒コート層との位置関係が、構成A及び構成Bの双方を満たす場合とは、例えば、排ガス流れの上流側では、基材上に第2触媒コート層が存在しており、かつ、排ガス流れの下流側では、基材上に第1触媒コート層及び第2触媒コート層がこの順に積層されている場合等である。
【0057】
以下、図面を参照して、本発明のアンモニア酸化触媒装置の構成について説明する。
【0058】
図1のアンモニア酸化触媒装置(10)は、基材(3)と、第1触媒コート層(1)と、第2触媒コート層(2)と、を有する。第1触媒コート層(1)は、無機酸化物粒子(MO)と、無機酸化物粒子(MO)上の触媒貴金属(PGM)と、を含む。ここで、触媒貴金属(PGM)は無機酸化物粒子(MO)上に担持されて、触媒貴金属担持無機酸化物粒子(PGM/MO)を構成している。第2触媒コート層(2)は、NO
x選択還元触媒(SCR)と、プロトンゼオライト(H-Zeolite)と、を含む。
【0059】
アンモニア酸化触媒装置(10)では、第1触媒コート層(1)が基材(3)上に存在し、第2触媒コート層(2)が第1触媒コート層(1)上に存在し、二層構成の触媒コート層を形成している。
【0060】
図2のアンモニア酸化触媒装置(20)は、
基材(3)と第1触媒コート層(1)と第2触媒コート層(2)とを有し、
第1触媒コート層(1)が、無機酸化物粒子(MO)と無機酸化物粒子(MO)上の触媒貴金属(PGM)とを含み、これらが触媒貴金属担持無機酸化物粒子(PGM/MO)を構成しており、そして
第2触媒コート層(2)が、NO
x選択還元触媒(SCR)とプロトンゼオライト(H-Zeolite)とを含む
ことについては、アンモニア酸化触媒装置(10)と同様である。
【0061】
しかしながら、アンモニア酸化触媒装置(20)では、
排ガス流れの上流側では第2触媒コート層(2)が基材(3)上に存在しており、そして
排ガス流れの下流側では第1触媒コート層(1)が基材(3)上に存在している
ことにおいて、アンモニア酸化触媒装置(10)と異なっている。
【0062】
アンモニア酸化触媒装置(20)の第1触媒コート層(1)及び第2触媒コート層(2)は、ぞれぞれ、単一の基材(3)上に存在し、前段側コート層及び後段側コート層を構成している。
【0063】
図3のアンモニア酸化触媒装置(30)は、
基材(3)と第1触媒コート層(1)と第2触媒コート層(2)とを有し、
第1触媒コート層(1)が、無機酸化物粒子(MO)と無機酸化物粒子(MO)上の触媒貴金属(PGM)とを含み、これらが触媒貴金属担持無機酸化物粒子(PGM/MO)を構成しており、
第2触媒コート層(2)が、NO
x選択還元触媒(SCR)とプロトンゼオライト(H-Zeolite)とを含み、
排ガス流れの上流側では第2触媒コート層(2)が基材上に存在しており、そして
排ガス流れの下流側では第1触媒コート層(1)が基材上に存在している
ことについては、アンモニア酸化触媒装置(20)と同様である。
【0064】
しかしながら、アンモニア酸化触媒装置(30)では、基材(3)が、
排ガス流れの上流側の基材前段部(3(1))と、排ガス流れの下流側の基材後段部(3(2))とに分割されており、
第2触媒コート層(2)が基材前段部(3(1))上に存在しており、そして
第1触媒コート層(1)が基材後段部(3(2))上に存在している
ことにおいて、アンモニア酸化触媒装置(20)と異なっている。
【0065】
《アンモニア酸化触媒装置の製造方法》
本発明のアンモニア酸化触媒装置は、任意の方法によって製造されてよい。
【0066】
第1触媒コート層及び第2触媒コート層の層構成が上記構成Aであるアンモニア酸化触媒装置は、例えば、
基材上に、第1触媒コート層、及び第2の触媒コート層を順次に形成すること
を含む方法(方法A)によって製造されてよい。
【0067】
一方、第1触媒コート層及び第2触媒コート層の層構成が上記構成Bであるアンモニア酸化触媒装置は、例えば、
基材上に、第1触媒コート層を形成して、第1触媒コート層を有する基材を得ること、
上記とは別の基材上に、第2触媒コート層を形成して、第2触媒コート層を有する基材を得ること、及び
排ガス流れの上流側に上記第2触媒コート層を有する基材を配置し、下流側に上記第1触媒コート層を有する基材を配置し、両基材を直列に接続すること
を含む方法(方法B-1)、又は
基材前段部と基材後段部とから構成される分割された基材を準備すること、
基材後段部上に、第1触媒コート層を形成して、第1触媒コート層を有する基材後段部を得ること、
基材前段部上に、第2触媒コート層を形成して、第2触媒コート層を有する基材前段部を得ること、及び
排ガス流れの上流側に上記第2触媒コート層を有する基材前段部を配置し、下流側に上記第1触媒コート層を有する基材後段部を配置し、両基材を直列に接続すること
を含む方法(方法B-2)によって製造されてよい。
【0068】
〈基材〉
基材としては、本発明のアンモニア酸化触媒装置が有すべき所望の基材を選択して用いてよい。例えば上述したような、コージェライト、SiC、ステンレス鋼、無機酸化物粒子等の材料から構成されている、例えばストレートタイプ又はウォールフロータイプのモノリスハニカム基材である。
【0069】
〈触媒コート層の形成〉
(方法A)
本発明のアンモニア酸化触媒装置を製造するための方法Aは、
基材上に、第1触媒コート層、及び第2の触媒コート層を順次に形成すること
を含む方法である。
【0070】
方法Aにおいて、基材上に第1触媒コート層を形成するには、例えば、基材上に、第1触媒コート層形成用塗工液をコートした後、乾燥及び焼成することによって形成されてよい。
【0071】
第1触媒コート層形成用塗工液は、第1触媒コート層に含まれる所望の成分が、適当な溶媒(例えば水)中に、溶解又は分散されて成る液状物であってよい。第1触媒コート層中の触媒貴金属は、予め無機酸化物粒子上に担持された触媒貴金属担持無機酸化物粒子として、塗工液中に含有されることが好ましい。
【0072】
触媒貴金属担持無機酸化物粒子は、例えば、適当な溶媒(例えば水)中に、触媒貴金属前駆体及び無機酸化物粒子を投入し、乾燥及び焼成することにより、得ることができる。触媒貴金属前駆体は、例えば、所望の触媒貴金属の、硝酸塩、硫酸塩、塩化物等であってよい。
【0073】
塗工液のコート、並びにコート後の乾燥及び焼成は、それぞれ、公知の方法に準じて行われてよい。
【0074】
方法Aでは、第1触媒コート層が形成された基材上に、次いで、第2触媒コート層を形成する。
【0075】
第2触媒コート層は、例えば、第2触媒コート層形成用塗工液を、第1触媒コート層が形成された基材上にコートした後、乾燥及び焼成することによって形成されてよい。
【0076】
第2触媒コート層形成用塗工液は、第2触媒コート層に含まれる所望の成分が、適当な溶媒(例えば水)中に、溶解又は分散されて成る液状物であってよい。
【0077】
塗工液のコート、並びにコート後の乾燥及び焼成は、それぞれ、公知の方法に準じて行われてよい。
【0078】
(方法B-1)
本発明のアンモニア酸化触媒装置を製造するための方法B-1は、
基材前段部と基材後段部とから構成される分割された基材を準備すること、
基材後段部上に、第1触媒コート層を形成して、第1触媒コート層を有する基材後段部を得ること、
基材前段部上に、第2触媒コート層を形成して、第2触媒コート層を有する基材前段部を得ること、及び
排ガス流れの上流側に上記第2触媒コート層を有する基材前段部を配置し、下流側に上記第1触媒コート層を有する基材後段部を配置し、両基材を直列に接続すること
を含む方法である。
【0079】
方法B-1では、先ず、基材前段部と基材後段部とから構成される分割された基材を準備する。これは、1個の基材を所望の分割割合で2つに分割する方法によってもよいし、別途の基材を2個準備して、一方を前段部とし、もう一方を後段部として用いてもよい。
【0080】
基材後段部上に、第1触媒コート層を形成して、第1触媒コート層を有する基材後段部を得る工程は、方法Aにおける第1触媒コート層の形成と同様に行われてよい。基材前段部上に、第2触媒コート層を形成して、第2触媒コート層を有する基材前段部を得る工程は、第1触媒コート層が形成された基材の代わりに別の基材と用いる他は、方法Aにおける第2触媒コート層の形成と同様に行われてよい。これらの工程は、順不同で行われてよい。
【0081】
方法B-1では、次いで、排ガス流れの上流側に第2触媒コート層を有する基材を配置し、下流側に第1触媒コート層を有する基材を配置し、両基材を直列に接続する。この工程は、当業者に理解可能な適宜の方法で行われてよい。
【0082】
(方法B-2)
本発明のアンモニア酸化触媒装置を製造するための方法B-2は、
基材のうちの排ガス流れ下流側に第1触媒コート層を形成すること、及び
基材のうちの排ガス流れ上流側に第2触媒コート層を形成すること
を含む方法である。
【0083】
方法B-2において、第1触媒コート層は、例えば、第1触媒コート層形成用塗工液を、基材の排ガス流れ下流側端部から所定の範囲までコートした後、乾燥及び焼成することによって形成されてよい。第2触媒コート層は、例えば、第2触媒コート層形成用塗工液を、基材の排ガス流れ上流側端部から所定の範囲までコートした後、乾燥及び焼成することによって形成されてよい。第1触媒コート層及び第2触媒コート層の形成順は任意であってよい。
【0084】
或いは別法として、第1触媒コート層形成用塗工液を、基材の排ガス流れ下流側端部から所定の範囲までコートした後、乾燥し、次いで、第2触媒コート層形成用塗工液を、基材の排ガス流れ上流側端部から所定の範囲までコートした後、乾燥し、然る後に第1触媒コート層及び第2触媒コート層をまとめて焼成する方法によってもよい。第1触媒コート層形成用塗工液及び第2触媒コート層形成用塗工液のコート順は、上記と逆であってもよい。
【0085】
方法B-2における第1触媒コート層形成用塗工液、及び第2触媒コート層形成用塗工液は、それぞれ、方法Aにおける第1触媒コート層形成用塗工液、及び第2触媒コート層形成用塗工液と同じであってよい。
【0086】
以上の方法により、本発明のアンモニア酸化触媒装置を製造することができる。しかしながら上記に説明した方法は、本発明のアンモニア酸化触媒装置の製造方法の一例にすぎず、本発明のアンモニア酸化触媒装置は、上記以外の任意の方法によって製造されてもよい。
【0087】
《排ガス浄化触媒システム》
本発明の別の観点では、排ガス流れの上流側から順に、NOx選択触媒還元(SCR)装置と、本発明のアンモニア酸化触媒装置とを有する、排ガス浄化触媒システムが提供される。
【0088】
本発明の排ガス浄化触媒システムにおけるSCR装置としては、公知のものを使用できる。アンモニアがSCR装置に直接供給されるアンモニアSCR装置であってもよいし、アンモニアの代わりにアンモニア前駆体としての尿素が供給される尿素SCR装置であってもよい。取り扱いが容易なため、本発明では、特に尿素SCR装置であってよい。
【0089】
尿素SCR装置は、例えば、尿素水タンクと、尿素水噴射装置と、SCR触媒と、を含んでいてよい。SCR触媒は、例えば、チタニア、バナジウム、タングステン等から選択される元素の酸化物を含む触媒であってよい。
【0090】
排ガス浄化触媒システムは、排ガス流れの上流側に、ディーゼル用酸化触媒(DOC)装置、及びディーゼル微粒子捕集フィルター(DPF)装置を更に含み、排ガス流れの上流側から順に、ディーゼル用酸化触媒(DOC)装置と、ディーゼル微粒子捕集フィルター(DPF)装置と、NOx選択触媒還元(SCR)装置と、本発明のアンモニア酸化触媒装置とを有する、排ガス浄化触媒システムであってもよい。
【0091】
本発明の排ガス浄化触媒システムにおけるDOC装置としては、公知のものを使用できる。例えば、コージェライト等から構成される基材上に、ジルコニア粒子、セリア粒子等の無機酸化物粒子、及び該無機酸化物粒子上に担持された触媒貴金属を含むコート層が形成されている触媒装置であってよい。
【0092】
本発明の排ガス浄化触媒システムにおけるDPF装置としては、公知のものを使用できる。例えば、コージェライト等から構成される基材上に、アルミナ粒子等の無機酸化物粒子、及び該無機酸化物粒子上に担持された触媒貴金属を含むコート層が形成されている触媒装置であってよい。
【0093】
以下、図面を参照して、本発明の排ガス浄化触媒システムの構成について説明する。
【0094】
図4の排ガス浄化触媒システムは、排ガス流れの上流側から順に、NO
x選択触媒還元(SCR)装置と、本発明のアンモニア酸化触媒装置とを有する。
【0095】
図5の排ガス浄化触媒システムは、排ガス流れの上流側から順に、ディーゼル用酸化触媒(DOC)装置と、ディーゼル微粒子捕集フィルター(DPF)装置と、NO
x選択触媒還元(SCR)装置と、本発明のアンモニア酸化触媒装置とを有する。
【実施例】
【0096】
《実施例1》
〈第1の触媒コート層形成用塗工液の調製〉
純水300mL中に、白金金属換算0.1g相当量のジニトロジアミン白金硝酸を溶解させた後、γ-アルミナ30gを加えて混合し、スラリーとした。得られたスラリーを120℃に加熱して乾燥させた後、500℃にて焼成して、アルミナを基準とするPt担持量が0.33質量%のPt担持粉末(粉末A)を得た。得られた粉末Aの全量(30.1g)、バインダーとしてのアルミナゾル3.0g、及び純水100mLを混合して、第1の触媒コート層形成用塗工液を調製した。
【0097】
〈第2の触媒コート層形成用塗工液の調製〉
NOx選択還元触媒として、金属酸化物換算質量100g相当量のフェロバナジウム(FeV)粉末、ゼオライトとして、イオン交換サイトにプロトンが存在するBEA型ゼオライト(BEA型プロトンゼオライト、H-BEA)(シリカ対アルミナモル比(SAR)=40)20g、バインダー10g、及び純水300mLを混合して、第2の触媒コート層形成用塗工液を調製した。
【0098】
〈アンモニア酸化触媒装置の製造〉
容量約1Lのハニカム基材上に、第1の触媒コート層形成用塗工液の全量を塗布し、加熱処理して下層を形成した。次いで、得られた下層上に、第2の触媒コート層形成用塗工液の全量を塗布し、加熱処理して上層を形成することにより、基材上に、コート量30.1g/Lの第1の触媒コート層(下層)と、コート量130g/Lの第2の触媒コート層(上層)とを有するアンモニア酸化触媒装置を製造した。
【0099】
〈アンモニア酸化触媒装置の評価〉
(1)NH3スリップ性の評価
NH3スリップ性の評価は、以下の構成の排ガス浄化触媒システムを用いて行った。すなわち、ガス流れの上流側に銅ゼオライト系NOx選択触媒還元(SCR)装置を配置し、下流側にアンモニア酸化触媒装置を配置し、両者を直列に連結して排ガス浄化触媒システムを製造し、これを用いて評価した。「銅ゼオライト」とは、イオン交換サイトに銅イオンが存在するゼオライトを意味する。
【0100】
NH3スリップ性の評価は、上記の構成の排ガス浄化触媒システムのNH3吸脱着挙動を調べることによって行った。具体的には、a:NH3パージ、b:NH3吸着、及びc:NH3脱離の各段階において、それぞれ、所定組成のガスを所定の温度変化で排ガス浄化触媒システムの上流側から導入し、排ガス浄化触媒システム内を流通させて下流側端部から排出させる操作を連続して行った。このとき、c:NH3脱離段階において、排ガス浄化触媒システムの下流側端部から排出されるガス中のNH3濃度を経時的に測定し、NH3脱離濃度の経時変化を示すグラフを作成した。得られたグラフにおける、NH3脱離のピーク温度及びピーク濃度を、当該排ガス浄化触媒システムに含まれるアンモニア酸化触媒装置のNH3スリップ性の指標とした。
【0101】
各段階の操作条件は、それぞれ以下のとおりである。
【0102】
a:NH3パージ段階
操作時間:約30分
導入ガスの温度変化:室温から30℃/分の速度で600℃に到達するまで昇温させ、600℃到達後、-40℃/分の速度で150℃に到達するまで降温
導入ガスの組成:NH30ppm、O210%、H2O5%、及びN2バランス
【0103】
b:NH3吸着段階
操作時間:排ガス浄化触媒システムのNH3吸着が飽和に達するまで
導入ガスの温度変化:150℃(一定温度を維持)
導入ガスの組成:NH3300ppm、O210%、H2O5%、及びN2バランス
【0104】
c:NH3脱離の試験
操作時間:15分以上
導入ガスの温度変化:150℃から30℃/分の速度で600℃に到達するまで昇温させ、600℃到達後にはその温度を維持
導入ガスの組成:NH30ppm、O210%、H2O5%、及びN2バランス
【0105】
「b:NH3吸着段階」における操作時間の「排ガス浄化触媒システムのNH3吸着が飽和に達するまで」とは、排出ガス中のNH3濃度が、流入ガス中のNH3濃度(300ppm)の99%(297ppm)以上に達するまでの時間を意味する。
【0106】
(2)NOx浄化性能の評価
NOx浄化性能の評価は、アンモニア酸化触媒装置を単独で用い、評価温度200℃にて行った。
【0107】
NOx浄化性能の評価は、アンモニア酸化触媒装置に、濃度既知のNOx及びNH3を含むモデルガスを導入して流通させ、排出ガス中のNOx濃度を測定し、以下の数式によって算出されたNOx浄化率をNOx浄化性能の指標とした。
NOx浄化性能(%)={(導入ガス中のNOx濃度-排出ガス中のNOx濃度)/導入ガス中のNOx濃度}×100
【0108】
具体的には、a:温度調整、及びb:NOx浄化性能評価の各段階において、それぞれ、温度が200℃に設定された所定組成のガスをアンモニア酸化触媒装置に導入し、b:NOx浄化性能評価段階における導入ガス及び排出ガス中のNOx濃度を、上記数式に代入して評価した。
【0109】
各段階の操作条件は以下のとおりである。
【0110】
a:温度調整段階
操作時間:排出ガスの温度が安定するまで
導入ガス温度:200℃
導入ガスの組成:NO300ppm、NO20ppm、NH30ppm、O210%、H2O5%、及びN2バランス
対NOxアンモニア比(ANR):0
導入ガスの空間速度:60,000hr-1
【0111】
b:NOx浄化性能評価段階
操作時間:-
導入ガス温度:200℃
導入ガスの組成:NO300ppm、NO20ppm、NH3330ppm、O210%、H2O5%、及びN2バランス
対NOxアンモニア比(ANR):1.1
導入ガスの空間速度:60,000hr-1
【0112】
評価結果は表1に示した。
【0113】
《実施例2~5、7及び8、並びに比較例1~5》
表1に記載の種類及び量のNOx選択還元触媒及びゼオライトをそれぞれ用いた他は、実施例1と同様にして第2の触媒コート層形成用塗工液を調製し、これを用いて実施例1と同様にしてアンモニア酸化触媒装置を製造し、評価した。
【0114】
比較例1では、ゼオライトを使用しなかった。比較例2~4では、NOx選択還元触媒を使用しなかった。比較例4では、ゼオライトとともに、その他の無機酸化物としてγ-アルミナ100gを使用した。
【0115】
《実施例6》
〈触媒コート層形成用塗工液の調製〉
実施例1と同様にして、第1の触媒コート層形成用塗工液及び第2の触媒コート層形成用塗工液を、それぞれ調製した。
【0116】
〈アンモニア酸化触媒装置の製造〉
容量約1Lのハニカム基材上に、第1の触媒コート層形成用塗工液の全量を塗布し、加熱処理して、基材上にコート量30.1g/Lの第1の触媒コート層を有する、アンモニア酸化触媒装置の後段用触媒を調製した。上記とは別の容量約1Lのハニカム基材上に、第2の触媒コート層形成用塗工液の全量を塗布し、加熱処理して、基材上にコート量130g/Lの第2の触媒コート層を有する、アンモニア酸化触媒装置の前段用触媒を調製した。
【0117】
上記で得られた前段用触媒及び後段用触媒を直列に接続することにより、タンデム型のアンモニア酸化触媒装置を製造した。このとき、前段用触媒が排ガス流れの上流側に配置されるように構成した。
【0118】
〈アンモニア酸化触媒装置の評価〉
上記で得られたアンモニア酸化触媒装置を使用した他は、実施例1と同様にして、各種の評価を行った。
【0119】
評価結果は表1に示した。
【0120】
表1におけるNOx選択還元触媒の種類の略称は、それぞれ、以下の意味であり、量は、基材1L当たりの金属酸化物換算質量である。
FeV:フェロバナジウムから得られた鉄-バナジウム複合酸化物
WCeTiSi:硝酸セリウム及びタングステン酸を含む水溶液中にTiSi担体を浸漬し、次いでこれを焼成して得られたタングステン-セリウム-チタン-ケイ複合酸化物
【0121】
表1におけるゼオライトの種類の略称は、それぞれ、以下の意味である。
H-BEA:BEA型プロトンゼオライト
H-MFI:MFI型プロトンゼオライト
H-CHA:CHA型プロトンゼオライト
H-MOR:MOR型プロトンゼオライト
Fe-BEA:BEA型鉄ゼオライト(イオン交換サイトに鉄イオンが存在するBEA型ゼオライト)
Cu-CHA:CHA型銅ゼオライト(イオン交換サイトに銅イオンが存在するBEA型ゼオライト)
【0122】
【0123】
表1を参照することにより、以下のことが理解される。
【0124】
比較例1のアンモニア酸化触媒装置では、第2の触媒コート層が、NOx選択還元触媒を含むがゼオライトを含まない。この比較例1の排ガス触媒装置では、NH3スリップのピーク濃度は比較的低かったものの、200℃におけるNOx浄化率は不足していた。
【0125】
一方、比較例2及び3のアンモニア酸化触媒装置では、第2の触媒コート層が、NOx選択還元触媒は含まないが、ゼオライト(BEA型鉄ゼオライト、Fe-BEA)を含む。これらのアンモニア酸化触媒装置では、比較例1のアンモニア酸化触媒装置に比べて、200℃におけるNOx浄化率は向上したが、NH3スリップのピーク濃度が極めて高くなった。
【0126】
比較例4のアンモニア酸化触媒装置では、第2の触媒コート層において比較例2のゼオライト(Fe-BEA)に代えて、BEA型プロトンゼオライト(H-BEA)とγ-アルミナとを併用したものである。この比較例4のアンモニア酸化触媒装置では、比較例2のアンモニア酸化触媒装置に比べて、NH3スリップのピーク濃度が更に高くなり、かつ、200℃におけるNOx浄化率が極めて低かった。
【0127】
更に、比較例5のアンモニア酸化触媒装置は、比較例1のアンモニア酸化触媒装置の第2の触媒コート層に、Fe-BEAを加えたものである。この比較例5のアンモニア酸化触媒装置は、、比較例1のアンモニア酸化触媒装置に比べて、200℃におけるNOx浄化率は少し向上したが、NH3スリップのピーク濃度が高くなった。
【0128】
これらに対して、実施例1~8のアンモニア酸化触媒装置では、第2の触媒コート層が、NOx選択還元触媒、及びプロトンゼオライトの双方を含む。これらのアンモニア酸化触媒装置は、NH3スリップのピーク濃度が低く、かつ、200℃におけるNOx浄化率が高い値を示した。
【0129】
以上の結果により、本発明所定のアンモニア酸化触媒装置は、NH3スリップ性能と、NOx浄化能とが、高い水準で両立されていることが検証された。
【符号の説明】
【0130】
1 第1触媒コート層
2 第2触媒コート層
3 基材
3(1) 基材前段部
3(2) 基材後段部
10、20、30 アンモニア酸化触媒装置