(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-16
(45)【発行日】2024-05-24
(54)【発明の名称】薄膜用導電性ペーストおよびその利用
(51)【国際特許分類】
H01B 1/22 20060101AFI20240517BHJP
H01B 13/00 20060101ALI20240517BHJP
C08L 101/00 20060101ALI20240517BHJP
C08K 3/22 20060101ALI20240517BHJP
C08K 3/08 20060101ALI20240517BHJP
B22F 1/00 20220101ALI20240517BHJP
H01G 4/30 20060101ALI20240517BHJP
【FI】
H01B1/22 A
H01B13/00 Z
C08L101/00
C08K3/22
C08K3/08
B22F1/00 K
H01G4/30 516
H01G4/30 201D
(21)【出願番号】P 2020083420
(22)【出願日】2020-05-11
【審査請求日】2023-04-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000004293
【氏名又は名称】株式会社ノリタケカンパニーリミテド
(74)【代理人】
【識別番号】100117606
【氏名又は名称】安部 誠
(72)【発明者】
【氏名】河方 信吾
【審査官】中嶋 久雄
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-195405(JP,A)
【文献】特開2017-127856(JP,A)
【文献】特開2018-125433(JP,A)
【文献】特開2019-075231(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 1/22
H01B 13/00
C08L 101/00
C08K 3/22
C08K 3/08
B22F 1/00
H10N 30/87
H10N 30/06
H01G 4/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
厚さ1μm~3μmの薄膜電極層の形成に用いられる薄膜用導電性ペーストであって、
導電性粉末と、酸化マンガン粉末と、バインダと、溶剤と、を含み、
前記酸化マンガン粉末は、SEM観察に基づく粒度分布測定における累積50%粒子径(D
50)が500nm以下であり、かつ、累積90%粒子径(D
90)と累積10%粒子径(D
10)との差(D
90-D
10)が700nm以下であることを特徴とする、薄膜用導電性ペースト。
【請求項2】
前記酸化マンガン粉末の累積50%粒子径(D
50)が250nm以下である、請求項1に記載の薄膜用導電性ペースト。
【請求項3】
前記酸化マンガン粉末の累積90%粒子径(D
90)と累積10%粒子径(D
10)との差(D
90-D
10)が200nm以下である、請求項1または2に記載の薄膜用導電性ペースト。
【請求項4】
前記導電性粉末は、主成分として銀を含む銀粉末であることを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の薄膜用導電性ペースト。
【請求項5】
前記導電性粉末の含有量を100wt%としたときの前記酸化マンガン粉末の含有量が0.1wt%~10wt%であることを特徴とする、請求項1~4のいずれか一項に記載の薄膜用導電性ペースト。
【請求項6】
前記酸化マンガン粉末は、MnO、MnO
2、Mn
2O
3、Mn
3O
4からなる群から選択される少なくとも一種を含むことを特徴とする、請求項1~5のいずれか一項に記載の薄膜用導電性ペースト。
【請求項7】
分散剤として、1つまたは2つ以上のカルボキシル基を有する分散剤、1つまたは2つ以上のホスホン酸基を有する分散剤、1つまたは2つ以上のスルホン酸基を有する分散剤からなる群から選択される少なくとも一種をさらに含むことを特徴とする、請求項1~6のいずれか一項に記載の薄膜用導電性ペースト。
【請求項8】
圧電素子の電極層の形成に用いられる、請求項1~7のいずれか一項に記載の薄膜用導電性ペースト。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄膜用導電性ペーストに関する。具体的には、厚さ数μmの薄膜電極層の形成に好適な薄膜用導電性ペースト、当該薄膜用導電性ペーストの製造方法、および薄膜用導電性ペーストを用いて作製した電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
圧電素子、積層セラミックコンデンサ、サーミスタ等の電子部品は、導電性ペーストを乾燥・焼成することによって形成された電極層を備えている。この種の導電性ペーストは、銀(Ag)やパラジウム(Pd)などの導電性粉末を主成分として含有している。しかし、これらの導電性粉末は、焼成時に焼結することがある。かかる導電性粉末の焼結によって焼成後のペースト(電極)が大きく収縮すると、電極層の断線(アイランド化)や端子電極とのコンタクト不良(電極引き)などの原因になり得る。このため、一般的な導電性ペーストでは、焼結防止剤として酸化マンガン粉末(MnO2、Mn2O3、Mn3O4など)が添加されている。かかる酸化マンガン粉末を含む導電性ペーストの一例が特許文献1~3に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2007-18884号公報
【文献】特開2013-122916号公報
【文献】特開2018-133166号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、近年の電子機器の更なる小型化への要請に伴って、電子機器に搭載される電子部品にも一層の小型化が求められている。具体的には、近年の電子部品では、電極層の厚みを数μm(典型的には1μm~3μm程度)まで薄膜化することが求められている。しかし、従来の導電性ペーストを用いて厚さ数μm程度の電極層を形成すると、焼成後の電極層の表面平滑性が損なわれ、種々の性能低下を招くおそれがあった。
【0005】
本発明は、かかる課題を解決するためになされたものであり、その目的は、焼成後の電極層の表面平滑性を損なうことなく、厚さ数μm程度の電極層を形成できる技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、従来の導電性ペーストを用いて薄膜電極層を形成すると、焼成後の電極層の表面平滑性が損なわれる原因について様々な角度から検討を行った。その結果、従来の導電性ペーストでは、焼結防止剤として添加した酸化マンガン粒子が凝集した粗大粒子が大量に形成されており、厚さ数μm程度の電極層を形成すると、当該酸化マンガンの粗大粒子が電極層の表面から突出して表面平滑性が損なわれることがわかった。
【0007】
そこで、本発明者は、導電性ペーストにおいて酸化マンガン粒子が凝集した粗大粒子が形成されることを抑制するための手段について検討を行った。その結果、導電性ペーストの全ての材料を同時に混練するのではなく、酸化マンガン粉末を溶剤に分散させた酸化マンガン分散液を予め調製し、当該酸化マンガン分散液に他の材料を添加して混練することを考えた。そして、実験を行った結果、かかる手順で調製された導電性ペーストは、酸化マンガン粒子の凝集が適切に抑制され、表面平滑性に優れた電極層を形成できることが分かった。
【0008】
ここに開示される薄膜用導電性ペーストの製造方法(以下、単に「製造方法」ともいう)は、上述の知見に基づいてなされたものである。ここに開示される製造方法は、厚さ1μm~3μmの薄膜電極層の形成に用いられる薄膜用導電性ペーストを製造する方法である。かかる製造方法は、酸化マンガン粉末と溶剤とを混合することにより酸化マンガン分散液を調製する分散液調製工程と、酸化マンガン分散液に、導電性粉末とバインダとを添加して混練することにより薄膜用導電性ペーストを調製するペースト調製工程とを備えることを特徴とする。
【0009】
上述したように、酸化マンガン粉末を溶剤に十分に分散させた酸化マンガン分散液を予め調製した後に、当該酸化マンガン分散液に他の材料を添加して混練することよって酸化マンガン粒子の凝集が抑制された導電ペーストを調製できる。かかる導電ペーストによると、酸化マンガンの粗大粒子による表面平滑性の低下を抑制できるため、厚さ数μm程度の薄膜電極層を好適に形成できる。
【0010】
ここに開示される製造方法の好適な一態様では、分散液調製工程において、分散剤をさらに混合する。導電性ペーストの製造では、無機材料(導電性粉末、酸化マンガン粉末など)の凝集を抑制するために分散剤を添加することがあるが、ここに開示される製造方法では、酸化マンガン分散液の調製の際に分散剤を添加することが好ましい。これによって、酸化マンガン粒子の凝集をより好適に抑制できる。
【0011】
ここに開示される製造方法の好適な一態様では、分散液調製工程を2回以上10回以下実施することを特徴とする。これによって、高い生産効率を維持しつつ、酸化マンガン粒子の凝集をさらに好適に抑制し、酸化マンガン粉末のD50とD90-D10をさらに低下させることができる。
【0012】
ここに開示される技術の他の側面として、上述した製造方法によって製造された導電性ペーストが提供される。ここに開示される導電性ペーストは、厚さ1μm~3μmの薄膜電極層の形成に用いられる薄膜用導電性ペーストである。かかる導電性ペーストは、導電性粉末と、酸化マンガン粉末と、バインダと、溶剤と、を含む。そして、ここで開示される導電性ペーストの酸化マンガン粉末は、SEM観察に基づく累積50%粒子径(D50)が500nm以下であり、かつ、累積90%粒子径(D90)と累積10%粒子径(D10)との差(D90-D10)が700nm以下であることを特徴とする。
【0013】
上述した通り、ここに開示される導電性ペーストでは、酸化マンガンの凝集が抑制されている。このため、SEM観察による粒度分布測定において、最も頻度の多い酸化マンガン粒子の粒子径(D50粒子径)が500nm以下になる。さらに、小粒子を示すD10粒子径と、大粒子を示すD90粒子径との差が700nm以下というシャープな粒度分布が得られる。このような最頻粒子径が微小であり、かつ、粒度分布がシャープな酸化マンガン粉末を含む導電性ペーストを使用することによって、厚みが数μm程度の電極層を形成した場合でも表面平滑性の低下を防止できる。
【0014】
なお、本明細書における「SEM観察に基づく粒子径」は、以下の手順に沿って算出される。まず、導電ペーストを乾燥させた乾燥膜を作製し、当該乾燥膜を走査型電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)を用いて5000倍の倍率で観察する。次に、当該SEM観察において確認された酸化マンガン粒子(塊状体、凝集体、凝集粒子を含む)の粒子径を20個×10視野(合計200個)分測定する。そして、測定した200個分の粒子径を粒径順に並べ、小さい方から100個分の粒子径データを削除する。そして、残りの100個の粒子を粒径順に並べた粒度分布を作成し、当該粒度分布における小さい方から10個目の粒子の粒子径を「個数基準の累積10%粒子径(D10粒子径)」とし、50個目の粒子の粒子径を「個数基準の累積50%粒子径(D50粒子径)」とし、90個目の粒子の粒子径を「個数基準の累積90%粒子径(D90粒子径)」とする。
【0015】
ここに開示される薄膜用導電性ペーストの好適な一態様では、酸化マンガン粉末の累積50%粒子径(D50)が250nm以下である。これにより、さらに平滑性に優れた電極層を形成できる。
【0016】
ここに開示される薄膜用導電性ペーストの好適な一態様では、酸化マンガン粉末の累積90%粒子径(D90)と累積10%粒子径(D10)との差(D90-D10)が200nm以下である。これにより、さらに平滑性に優れた電極層を形成できる。
【0017】
ここに開示される薄膜用導電性ペーストの好適な一態様では、導電性粉末は、主成分として銀を含む銀粉末である。銀粉末は、安価である一方で焼結収縮が生じやすいという特徴を有している。このため、銀粉末を含む薄膜用導電性ペーストは、導電性粉末の焼結を防止するために多量の酸化マンガン粉末を添加する必要があり、焼成後の電極層の表面平滑性が低下しやすい。しかし、ここに開示される技術によると、多量の酸化マンガン粉末を添加しても電極層の表面平滑性の低下を防止できるため、安価な銀粉末を好適に使用できる。
【0018】
ここに開示される薄膜用導電性ペーストの好適な一態様では、導電性粉末の含有量を100wt%としたときの酸化マンガン粉末の含有量が0.1wt%~10wt%である。これによって、焼成後の電極層の表面平滑性をより好適な範囲に維持しつつ、導電性粉末の焼結を適切に防止できる。
【0019】
ここに開示される薄膜用導電性ペーストの好適な一態様では、酸化マンガン粉末は、MnO、MnO2、Mn2O3、Mn3O4からなる群から選択される少なくとも一種を含む。これらのマンガン酸化物は、何れも、導電性粉末の焼結を防止する焼結防止剤として適切に機能し得る。
【0020】
ここに開示される薄膜用導電性ペーストの好適な一態様では、分散剤として、1つまたは2つ以上のカルボキシル基を有する分散剤、1つまたは2つ以上のホスホン酸基を有する分散剤、1つまたは2つ以上のスルホン酸基を有する分散剤からなる群から選択される少なくとも一種をさらに含む。これらの分散剤を添加することによって、ペースト内での無機材料の分散状態を長期間に亘って維持できる。
【0021】
ここに開示される薄膜用導電性ペーストは、例えば、圧電素子の電極層の形成に用いられる。圧電素子の電極層の表面平滑性は、当該圧電素子の性能(例えば圧電特性)に大きな影響を与える。ここに開示される導電性ペーストは、表面平滑性に優れた電極層を形成できるため、圧電素子の電極層の形成に特に好適に使用できる。
【0022】
また、ここに開示される技術の他の側面として電子部品が提供される。かかる電子部品は、少なくとも導電性粉末と酸化マンガン粉末とを含む電極層を備えている。そして、かかる電子部品は、電極層の厚さが1μm~3μmであり、かつ、平均表面粗さSaが200nm以下である。上述した薄膜用導電性ペーストによると、このような3μm以下の薄い電極層を形成した場合でも、平均表面粗さSaが200nm以下という表面平滑性に優れた電極層を形成できる。かかる電極層を備えた電子部品は、小型であるにも関わらず、高い性能(例えば圧電特性)を発揮できる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項(例えば、導電性ペーストの組成、導電性ペーストの調製方法等)以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄(例えば、電極層の形成対象等)は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。また、本明細書において数値範囲を示す「A~B」の表記は、A以上B以下を意味する。
【0024】
1.導電性ペースト
ここで開示される薄膜用導電性ペーストは、膜厚が1μm~3μmの薄膜の電極層の形成に用いられる。なお、本明細書において「ペースト」とは、インクやスラリーを包含する用語である。ここで開示されるペーストは、少なくとも、導電性粉末と、酸化マンガン粉末と、バインダと、溶剤とを含む。以下、ここに開示される薄膜用導電性ペーストに含まれる各成分について説明する。
【0025】
(1)導電性粉末
導電性粉末は、焼成後の電極層の主成分であり、所定の電気伝導性を有する無機粉末である。導電性粉末の種類等は、特に限定されず、従来公知の導電性粉末から用途等に応じて1種または2種以上を選択することができる。導電性粉末の一好適例として、銀(Ag)、パラジウム(Pd)、ニッケル(Ni)、白金(Pt)、金(Au)、銅(Cu)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、イリジウム(Ir)、オスミウム(Os)、アルミニウム(Al)等の金属の単体、およびこれらの混合物や合金等が例示される。
【0026】
ここに開示する導電性ペーストを限定する意図はないが、例えば圧電素子を形成する用途では、圧電層の材料(ジルコン酸鉛(PbZrO3)、チタン酸鉛(PbTiO3)など)と同程度の融点を有し、かつ、焼成時に焼結しにくい無機粉末が導電性粉末として使用される。具体的には、圧電素子形成用の導電性ペーストの導電性粉末には、銀とパラジウムの合金(Ag/Pd合金)が好ましく用いられる。一方、近年では、Pdを含まない銀(Ag)粉末の使用が検討されている。このAg粉末は、安価である一方で焼結収縮が生じやすいため、多量の焼結防止剤(酸化マンガン粉末)の添加が必要になる。しかし、ここに開示される導電性ペーストでは、多量の酸化マンガン粉末を添加しても電極層の表面平滑性の低下を防止できるため、導電性粉末として安価なAg粉末を好適に使用できる。
【0027】
導電性粉末を構成する粒子(導電性粒子)のサイズは、焼成後の電極層の表面平滑性を確保できる限りにおいて特に限定されない。換言すると、導電性粒子の粒子径は、電極層の厚みに収まる範囲内であれば、特に制限なく調節することができる。一例として、1μm~3μmの薄膜の電極層を形成する場合、導電性粉末のD50粒子径は、0.01μm~2μmであってもよい。また、より優れた表面平滑性を有する電極層を形成するという観点から、SEM観察に基づく導電性粉末のD50粒子径は、1μm以下が好ましく、0.75μm以下がより好ましい。一方、導電性粒子が小さくなりすぎると、粒子同士の凝集が促進されて、粗大な二次粒子が形成される可能性が生じる。かかる観点から、導電性粉末のD50粒子径の下限値は、0.05μm以上が好ましく、0.07μm以上がより好ましく、0.1μm以上がさらに好ましく、0.25μm以上が特に好ましい。
【0028】
また、ここに開示される技術を限定する意図はないが、導電性ペーストに含まれる無機粉末(導電性粉末、酸化マンガン粉末、共材粉末など)の形状は、真球状または略球状であることが好ましい。換言すると、無機粉末の平均アスペクト比(電子顕微鏡観察に基づいて算出される粒子の長径に対する短径の比の平均値)が1~2(より好ましくは1~1.5)であると好ましい。このような球状に近い粒子を含む無機粉末を使用することによって、ペースト粘度の上昇を抑制して電極層形成時の作業性を向上できる。
【0029】
また、導電性ペースト中の導電性粉末の含有割合は、用途や目的に応じて特に制限なく調整できる。例えば、導電性粉末の含有量が増加するにつれて、焼成後の電極層の導電性や緻密性が向上する傾向がある。かかる観点から、導電性ペーストの総量を100wt%としたときの導電性粉末の含有量は、30wt%以上であってもよく、35wt%以上であってもよく、40wt%以上であってもよい。一方、導電性粉末の含有量を減少させるにつれて、ペースト粘土が低下して成膜時の作業性が向上する傾向がある。かかる観点から、導電性粉末の含有量の上限は、80wt%以下であってもよく、70wt%以下であってもよく、60wt%以下であってもよく、50wt%以下であってもよい。
【0030】
(2)酸化マンガン粉末
酸化マンガン粉末は、導電性粉末の焼結収縮を防止する焼結防止剤として機能する。かかる酸化マンガン粉末は、MnO、MnO2、Mn2O3、Mn3O4の何れかが主成分であれば特に限定されず、何れの材料であっても十分な焼結防止機能を発揮する。また、酸化マンガン粉末は、酸化マンガン以外の副成分を含んでいてもよい。かかる副成分としては、酸化チタン(TiO2)、酸化スズ(SnO2)、酸化ジルコニウム(ZrO2)、酸化ケイ素(SiO2)、酸化銅(CuO)などの金属酸化物粒子が挙げられる。
【0031】
そして、ここで開示される導電性ペーストの酸化マンガンは、SEM観察に基づく累積50%粒子径(D50)が500nm以下であり、かつ、累積90%粒子径(D90)と累積10%粒子径(D10)との差(D90-D10)が700nm以下である。このように、D50粒子径が微小であり、かつ、粒度分布がシャープな(D90-D10が小さい)酸化マンガン粉末を使用することによって、焼成後の電極層の表面から酸化マンガン粒子が突出して表面平滑性を低下させることを防止できる。すなわち、ここに開示される導電性ペーストによると、導電性粉末の焼結収縮が好適に防止され、かつ、優れた表面平滑性を有する高品質な電極層を形成できる。
【0032】
なお、さらに優れた表面平滑性を有する電極層を形成するという観点から、酸化マンガン粉末のD50粒子径は、450nm以下が好ましく、350nm以下がより好ましく、300nm以下がさらに好ましく、250nm以下が特に好ましい。一方、酸化マンガン粉末のD50粒子径の下限値は、特に限定されず、10nm以上であってもよく、50nm以上であってもよく、100nm以上であってもよい。
【0033】
また、D90粒子径とD10粒子径との差(D90-D10)が小さくなり、粒度分布がシャープになった酸化マンガン粉末を用いることによって、粗大粒子による局所的な突起の形成を抑制できる。かかる点を考慮すると、D90粒子径とD10粒子径との差(D90-D10)は、650nm以下が好ましく、550nm以下がより好ましく、400nm以下がさらに好ましく、350nm以下が特に好ましい。なお、詳しくは後述するが、ここに開示される技術によると、D90粒子径とD10粒子径との差(D90-D10)が200nm以下(典型的には150nm以下)という酸化マンガン粉末の粒度分布が極端にシャープな導電性ペーストを得ることもできる。このような導電ペーストによると、局所的な突起の形成を確実に防止し、特に優れた表面平滑性を有する電極層を形成できる。一方、D90粒子径とD10粒子径との差(D90-D10)の下限値は、特に限定されず、5nm以上であってもよく、10nm以上であってもよく、20nm以上であってもよく、30nm以上であってもよく、40nm以上であってもよく、50nm以上であってもよい。
【0034】
なお、酸化マンガン粉末は、導電性粉末の焼結収縮を防止する焼結防止剤として機能するため、その含有量は、導電性粉末の含有量との関係で調節することが好ましい。例えば、導電性粉末の含有量を100wt%としたと場合、酸化マンガン粉末の含有量は、0.05wt%以上が好ましく、0.1wt%以上がより好ましく、0.25wt%以上がさらに好ましく、0.5wt%以上が特に好ましい。これによって、導電性粉末の焼結収縮を好適に防止できる。一方、酸化マンガン粉末の含有量が多くなり過ぎると、相対的に導電性粉末の含有量が少なくなるため、焼成後の電極層の導電性が低下する可能性がある。また、ペーストを印刷する素体への拡散等の悪影響を与える可能性がある。かかる観点から、酸化マンガン粉末の含有量の上限は、10wt%以下が好ましく、7.5wt%以下がより好ましく、5wt%以下がさらに好ましく、2.5wt%以下が特に好ましい。
【0035】
(3)バインダ
バインダは、導電性ペーストに粘着性を付与して、焼成を行う前の電極層の形成対象(例えば、基材など)に対する密着性を向上させる成分である。なお、バインダには、導電性ペーストの焼成(例えば、酸化雰囲気での600℃以上の加熱処理)によって焼失する有機重合体(ポリマー)を用いることが好ましい。換言すると、バインダには、焼成温度よりも沸点が低い有機重合体が好ましく用いられる。
【0036】
バインダの一好適例として、繰り返し構成単位としてのセルロースを含むセルロース系樹脂が挙げられる。セルロース系樹脂は、焼成時の燃焼分解性に優れ、かつ、環境への悪影響が少ないため好適である。かかるセルロース系樹脂の典型例として、セルロースの水酸基(-OH)の水素原子の一部または全部が、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基等のアルキル基、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基等のアリル基、メチロール基、エチロール基、カルボキシメチル基、カルボキシエチル基等で置換されたセルロース有機酸エステル(セルロース誘導体)が挙げられる。このセルロース誘導体の具体例としては、例えば、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシエチルセルロース、カルボキシエチルメチルセルロース、酢酸フタル酸セルロース、ニトロセルロース等が挙げられる。
【0037】
また、バインダの他の例として、ブチラール系樹脂やアクリル系樹脂が挙げられる。ブチラール系樹脂としては、例えば、酢酸ビニルの単独重合体(ホモポリマー)や、酢酸ビニルを主モノマーとして当該主モノマーに共重合性を有する副モノマーを含む共重合体(コポリマー)が挙げられる。なお、本明細書において「主モノマー」とは、単量体全体の50wt%以上を占める成分をいう。上記単独重合体の一例として、ポリビニルブチラールが挙げられる。また、共重合体の一例としては、主鎖骨格に、繰り返し構成単位として、ビニルブチラール(ブチラール基)と、酢酸ビニル(アセチル基)と、ビニルアルコール(水酸基)と、を含むポリビニルブチラール(PVB)等が挙げられる。一方、アクリル系樹脂としては、例えば、アルキル(メタ)アクリレートの単独重合体や、アルキル(メタ)アクリレートを主モノマーとして当該主モノマーに共重合性を有する副モノマーを含む共重合体が挙げられる。単独重合体の具体例としては、例えば、ポリメチル(メタ)アクリレート、ポリエチル(メタ)アクリレート、ポリブチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。共重合体の具体例としては、例えば、構成単位としてメタクリル酸エステルの重合体ブロックとアクリル酸エステルの重合体ブロックとを含むブロック共重合体等が挙げられる。なお、本明細書中において「(メタ)アクリレート」とは、アクリレートおよびメタクリレートを意味する用語である。
【0038】
また、バインダの重量平均分子量は、概ね2万以上、典型的には2万~100万、例えば5万~50万程度であるとよい。バインダの重量平均分子量が増加するに従って、バインダの粘着性が高くなるため、少ない添加量で好適な粘着効果を発揮できる。一方、バインダの重量平均分子量が低下するに従ってペースト粘度が低下するため、ペーストのハンドリング性やセルフレベリング性を向上できる。
【0039】
なお、バインダは、上述した有機重合体(セルロース系樹脂、ブチラール系樹脂、アクリル系樹脂)に限定されない。ここに開示される導電性ペーストでは、バインダとして一般的に使用される樹脂材料から1種または2種以上を適宜選択して使用できる。当該バインダの他の例として、エポキシ系樹脂、フェノール系樹脂、アルキド系樹脂、ロジン系樹脂、エチレン系樹脂等が挙げられる。
【0040】
また、バインダの含有割合は、特に限定されず、他の成分の含有量や電極層の形成対象などを考慮して適宜調節することができる。一例として、導電性粉末の含有量に対するバインダの含有量は、0.1wt%以上が好ましく、0.5wt%以上がより好ましく、1wt%以上がさらに好ましく、2wt%以上が特に好ましい。これによって、電極層の形成対象に対して好適な接着力を有する導電性ペーストを調製できる。一方、ペースト塗布時のハンドリング性などを考慮すると、導電性粉末の含有量に対するバインダの含有量は、20wt%以下が好ましく、15wt%以下がより好ましく、10wt%以下がさらに好ましく、7wt%以下が特に好ましい。
【0041】
(4)溶剤
溶剤には、導電性粉末と酸化マンガン粉末を適切に分散でき、かつ、バインダを溶解できる有機溶剤が用いられる。溶剤は、導電性ペーストの調製に使用され得る一般的な各種の有機溶剤を特に制限なく選択することができる。かかる有機溶剤の一好適例として、ターピネオール、テキサノール、ジヒドロターピネオール、ベンジルアルコール等の、-OH基を有するアルコール系溶剤;エチレングリコール、ジエチレングリコール等の、グリコール系溶剤;ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ブチルカルビトール(ジエチレングリコールモノブチルエーテル)等の、グリコールエーテル系溶剤;イソボルニルアセテート、エチルジグリコールアセテート、ブチルグリコールアセテート、ブチルジグリコールアセテート、ブチルセロソルブアセテート、ブチルカルビトールアセテート(ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセタート)等の、エステル結合基(R-C(=O)-O-R’)を有するエステル系溶剤;トルエン、キシレン等の炭化水素系溶剤;ミネラルスピリット等が挙げられる。なお、成膜時の作業性や保存安定性等の観点からは、沸点が概ね200℃以上、例えば200~300℃の有機溶剤を溶剤の主成分(50体積%以上を占める成分。)とした方が好ましい。
【0042】
また、有機溶剤の含有割合についても特に限定されず、他の成分の含有量などを考慮して適宜調節できる。一例として、導電性ペーストの全体を100wt%としたときの有機溶剤の含有割合は、10wt%~75wt%が好ましく、20wt%~70wt%がより好ましく、30wt%~65wt%がさらに好ましく、40wt%~60wt%が特に好ましい。
【0043】
(5)添加成分
ここで開示される薄膜用導電性ペーストは、上述した必須材料以外に必要に応じて種々の添加成分を含んでいてもよい。添加成分は、ここに開示される技術の効果を著しく損なわない限りにおいて、一般的な導電性ペーストにおいて使用され得る成分を特に制限なく選択できる。このような添加成分の一例として、共材粉末、分散剤、焼結助剤、無機フィラー、レベリング剤、消泡剤、増粘剤、可塑剤、pH調整剤、安定剤、酸化防止剤、防腐剤、着色剤(顔料、染料等)等が挙げられる。以下、添加成分の一例として、共材粉末と分散剤を説明する。
【0044】
(a)共材粉末
共材粉末は、電極層の形成対象と導電性ペーストの焼成時の挙動(焼成開始温度、焼成収縮率等)を近似させるために添加される無機粉体である。かかる共材粉末を導電性ペーストに添加することによって、焼成後の電極層にクラック(破断)が生じることを防止できる。共材粉末は、電極層の形成対象の焼成時の挙動に応じて従来公知の材料から適宜選択することができる。かかる共材粉末の一例として、チタン酸バリウム(BaTiO3)、チタン酸ストロンチウム(SrTiO3)、チタン酸カルシウム(CaTiO3)、ジルコン酸バリウム(BaZrO3)、ジルコン酸ストロンチウム(SrZrO3)、ジルコン酸カルシウム(CaZrO3)、ニオブ酸リチウム(LiNbO3)、ニオブ酸カリウム(KNbO3)、ニオブ酸ナトリウム(NaNbO3)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化ジルコニウム(ジルコニア:ZrO2)、酸化マグネシウム(マグネシア:MgO)、酸化アルミニウム(アルミナ:Al2O3)、二酸化ケイ素(シリカ:SiO2)、酸化チタン(チタニア:TiO2)、酸化セリウム(セリア:CeO2)、酸化イットリウム(イットリア:Y2O3)等が挙げられる。また、共材粉末の含有量は、電極層の形成対象と導電性ペーストとの焼成時の挙動を近似させることができ、ここに開示される技術の効果を阻害しない範囲で適宜調節できる。例えば、導電性粉末の含有量に対する共材粉末の含有量は、1wt%~20wt%であってもよいし、5wt%~15wt%であってもよい。また、より優れた表面平滑性を有する電極層を形成するという観点から、共材粉末のD50粒子径は、1μm以下が好ましく、0.75μm以下がより好ましく、0.6μm以下がさらに好ましく、0.5μm以下が特に好ましい。一方、共材粉末が小さくなりすぎると、粒子同士の凝集が促進されて、粗大な二次粒子が形成される可能性が生じる。かかる観点から、共材粉末のD50粒子径の下限値は、0.02μm以上が好ましく、0.05μm以上がより好ましく、0.07μm以上がさらに好ましく、0.1μm以上が特に好ましい。
【0045】
(b)分散剤
分散剤は、ペースト中の無機成分(導電性粉末、酸化マンガン粉末、共材粉末など)の凝集を抑制する成分である。かかる分散剤を添加することによって、酸化マンガン粉末を含む無機粉末の分散状態を長期間に亘って維持できる。なお、本明細書における「分散剤」とは、親水性部位と親油性部位とを有する両親媒性を有する化合物全般をいい、界面活性剤、湿潤分散剤、乳化剤をも包含する用語である。
【0046】
分散剤の種類等は、特に限定されず、導電性ペーストに使用され得る各種の分散剤から用途等に応じて1種または2種以上を適宜選択できる。また、分散剤は、バインダと同様に、焼成時に焼失する材料であることが好ましい。かかる分散剤の典型例として、酸価を有する分散剤(有酸価分散剤)が挙げられる。かかる有酸価分散剤は、典型的には、親水性基として1つまたは2つ以上の酸性基を有している。有酸価分散剤の一例として、1つまたは2つ以上のカルボキシル基(COO-基)を有する分散剤(カルボン酸系分散剤)、1つまたは2つ以上のホスホン酸基(PO3
-基、PO3
2-基)を有する分散剤(リン酸系分散剤)、1つまたは2つ以上のスルホン酸基(SO3
-基、SO3
2-基)を有する分散剤(スルホン酸系分散剤)等が挙げられる。なかでも、カルボン酸系分散剤は、比較的少ない使用量で無機粉体の分散性を長期間維持することができる。カルボン酸系分散剤としては、例えば、モノカルボン酸系の分散剤、ジカルボン酸系の分散剤、ポリカルボン酸系の分散剤、ポリカルボン酸部分アルキルエステル系の分散剤等が挙げられる。なお、分散剤は、上述した有酸価分散剤に限定されない。すなわち、分散剤は、酸価を有しない分散剤(無酸価分散剤)であってもよい。無酸価分散剤の一例として、1つまたは2つ以上のアミノ基を親水性基として有するアミン系の分散剤が挙げられる。
【0047】
分散剤の含有量は特に限定されないが、導電性ペーストの総量を100wt%としたときに、概ね0.01wt%以上、典型的には0.05wt%以上、好ましくは0.1wt%以上、例えば0.12wt%以上であるとよい。これによって、無機粉体の分散性をより好適に維持することができる。一方、分散剤の含有割合の上限は、概ね5wt%以下、好ましくは3wt%以下、より好ましくは2wt%以下、例えば1wt%以下であるとよい。これによって、焼成後の電極層に分散剤が残存し、ポアや亀裂等が生じることを抑制できる。
【0048】
2.薄膜用導電性ペーストの製造方法
次に、ここに開示される薄膜用導電性ペーストを製造する方法について説明する。かかる薄膜用導電性ペーストの製造方法は、上述した各材料を混練して導電性ペーストを調製する前に、酸化マンガン粉末と溶剤とを混合した酸化マンガン分散液を予め調製することによって特徴づけられる。すなわち、ここに開示される製造方法は、分散液調製工程と、ペースト調製工程とを備える。以下、各工程について説明する。
【0049】
(1)分散液調製工程
本工程では、酸化マンガン粉末と溶剤とを混合することにより酸化マンガン分散液を調製する。このように、ペースト調製前に、酸化マンガン粉末と溶剤とを混合した酸化マンガン分散液を調製することによって酸化マンガン粉末の凝集を抑制できる。
【0050】
本工程で使用される攪拌混合装置は、無機粉末を含む分散液の調製に使用され得る従来公知の装置を特に制限なく使用することができ、ここに開示される技術を限定するものではない。かかる攪拌混合装置の一例として、自転公転式ミキサー、プラネタリーミキサー、ビーズミル、ロールミル、マグネチックスターラー、ディスパー等が挙げられる。一例として、自転公転式ミキサーを使用して酸化マンガン分散液を調製する場合には、公転速度を500rpm~2000rpm(より好ましくは700rpm~1500rpm、特に好ましくは1000rpm~1500rpm)に設定し、自転速度を100rpm~1500rpm(より好ましくは400rpm~1000rpm、特に好ましくは600rpm~800rpm)に設定することが好ましい。これによって、酸化マンガン粒子の凝集を好適に抑制できる。また、酸化マンガン粉末の分散性と調製に要する時間とを考慮すると、撹拌時間を30秒~600秒(より好ましくは60秒~300秒)に設定することが好ましい。
【0051】
また、使用する攪拌混合装置を問わず、酸化マンガン分散液の調製は複数回実施してもよい。例えば、本工程を2回以上繰り返すことによって、酸化マンガン粉末のD50とD90-D10をさらに低下させることができる。一例として、本工程において、酸化マンガン分散液の撹拌・混合を5回以上繰り返すことによって、酸化マンガン粉末の累積50%粒子径(D50)が250nm以下であり、かつ、酸化マンガン粉末の累積90%粒子径(D90)と累積10%粒子径(D10)との差(D90-D10)が200nm以下である導電性ペーストを容易に得ることができる。なお、上記撹拌・混合処理の回数の上限は、特に限定されず、40回以下であってもよい。但し、撹拌・混合処理の回数は、10回を超えたあたりで分散性向上効果が飽和し始めるため、生産効率を考慮すると、30回以下が適当であり、20回以下が好ましく、10回以下がより好ましい。
【0052】
なお、導電性ペーストに分散剤を添加する場合には、本工程において酸化マンガン粉末と共に分散剤を混合した方が好ましい。これによって、ペースト調製前の酸化マンガン分散液において酸化マンガン粉末が再凝集することを抑制できる。一方、分散剤以外の成分は、酸化マンガン粉末の分散を阻害する可能性があるため、後述するペースト調製工程において添加することが好ましい。換言すると、ここに開示される製造方法では、分散液調製工程において、酸化マンガン粉末と分散剤以外の成分を混合しない方が好ましい。
【0053】
(2)ペースト調製工程
本工程では、酸化マンガン分散液に、導電性粉末とバインダとを添加して混練する。また、上述の通り、酸化マンガン粉末と分散剤以外の全ての材料は、本工程において混練することが好ましい。ここに開示される製造方法では、分散液調製工程において酸化マンガン粉末が高度に分散した酸化マンガン分散液を予め調製している。この酸化マンガン分散液に他の材料を添加して混練することによって、酸化マンガン粉末のD50粒子径が微小であり、かつ、粒度分布がシャープな状態の導電性ペーストを調製できる。なお、本工程では、従来公知の攪拌混合装置を特に制限なく使用することができる。本工程における導電性ペーストの混練に使用される装置の一例として、ロールミル、マグネチックスターラー、自転公転式ミキサー、プラネタリーミキサー、ディスパー、ビーズミル等が挙げられる。
【0054】
また、ここに開示される製造方法では、使用予定の溶剤の一部を分散液調製工程で使用し、残部をペースト調製工程で使用することが好ましい。このように、分散液調製工程とペースト調製工程の各々で溶剤を添加することによって、ペースト調製工程における無機粉末の凝集を好適に防止できる。さらに、ペースト調製工程で溶剤を添加する場合には、当該溶剤に予めバインダを溶解させておくと好ましい。これによって、バインダの溶解不良を抑制できる。なお、分散液調製工程で使用する溶剤と、ペースト調製工程で使用する溶剤は、同じ有機溶剤であってもよいし、異なる有機溶剤であってもよい。
【0055】
以上の工程を経ることによって、D50粒子径が500nm以下であり、かつ、D90粒子径とD10粒子径との差(D90-D10)が700nm以下という状態で酸化マンガン粉末を含む導電性ペーストを調製できる。かかる導電性ペーストによると、3μm以下の薄膜の電極層を形成した場合でも、表面平滑性を低下させることなく、導電性粉末の焼結収縮を防止できる。
【0056】
3.電子部品
次に、ここに開示される薄膜用導電性ペーストを用いて作製された電子部品について説明する。かかる電子部品は、少なくとも導電性粉末と酸化マンガン粉末とを含む電極層を備えている。この電極層は、上述した導電性ペーストを乾燥・焼成することによって形成される。このときの乾燥条件は、溶媒を好適に除去できる温度・時間に設定される。また、焼成条件は、ペーストに添加した有機物(分散剤、バインダ等)が焼失し、かつ、導電性粉末が焼結しない温度と時間に設定される。
【0057】
そして、ここに開示される電子部品の電極層の厚さは1μm~3μmである。このような薄膜化された電極層は、電極層の形成対象(基材など)の表面に、1.5μm~6μm程度の厚さで導電性ペーストを塗布し、乾燥・焼成することによって形成できる。そして、上述したように、ここに開示される導電性ペーストを用いることによって、焼成後の電極層の表面から酸化マンガン粉末の凝集粒子(粗大粒子)が突出することを防止できる。このため、焼結防止剤である酸化マンガン粉末を添加し、厚さ1μm~3μmという薄膜の電極層を形成しているにも関わらず、平均表面粗さSaが200nm以下(好適には150nm以下)という優れた表面平滑性を有した電極層を形成できる。そして、かかる電極層を有する電子部品は、小型であるにも関わらず、優れた性能を発揮できる。
【0058】
なお、ここに開示される導電性ペーストは、種々の電子部品の製造に使用できる。かかる電子部品の一例として、圧電素子、積層セラミックコンデンサ、サーミスタなどが挙げられる。一例として、圧電素子を製造する場合には、まず、シリコン基板などの基材の上面に導電性ペーストを塗布・乾燥することによって下部電極の前駆体を形成する。次に、下部電極の前駆体の上面に圧電材料を含むペーストを塗布・乾燥することによって圧電層の前駆体を形成する。さらに、圧電層の前駆体の上面に、再び導電性ペーストを塗布・乾燥することによって上部電極の前駆体を形成する。そして、この積層体を焼成した後に基材を除去することによって圧電素子が作製される。このように作製された圧電素子では、電極層(下部電極、上部電極)の表面平滑性が圧電特性に大きな影響を与えるため、ここに開示される導電性ペーストを特に好適に使用することができる。
【0059】
[試験例]
以下、本発明に関する試験例を説明するが、かかる試験例に示すものに本発明を限定することを意図したものではない。
【0060】
1.サンプルの準備
(1)ペーストの材料
本試験例では、7種類の導電性ペースト(サンプル1~7)を準備した。サンプル1~7では、D50粒子径が500nmの導電性粉末(Ag粉末)と、酸化マンガン粉末と、バインダ(エチルセルロースSTD型グレード100)と、スルホン酸系分散剤と、溶剤(ジヒドロターピネオール)と、を含む導電性ペーストを調製した。各成分の含有量を以下に示す。
【0061】
導電性粉末 45wt%
酸化マンガン粉末 0.5wt%
バインダ 2.3wt%
分散剤 0.5wt%
溶剤 52wt%
【0062】
そして、本試験例では、サンプル1~4と、サンプル5~7とで導電性ペーストを調製する手順を異ならせた。まず、サンプル1~4では、酸化マンガン粉末と、分散剤と、溶剤とを混合した酸化マンガン分散液を予め調製する「予備分散(分散液調製工程)」を行った後、当該酸化マンガン分散液に、導電性粉末、共材粉末、バインダ、溶剤をさらに添加して混練することによって導電性ペーストを調製した。このとき、サンプル1~4では、自転公転式ミキサー(倉敷紡績株式会社製、マゼルスター(KK-VT300))を使用し、120秒の撹拌・混合処理を実施することによって酸化マンガン分散液を調製した。また、サンプル1~4において導電性ペーストを調製する際には、三本ロールミルにて混練処理を行った。なお、本試験では、予備分散における混合条件をサンプル1、2とサンプル3、4とで異ならせた。具体的には、サンプル1、2では、自転公転式ミキサーの公転速度を700rpm、自転速度を462rpmに設定した。一方、サンプル3、4では、自転公転式ミキサーの公転速度を700rpm、自転速度を462rpmに設定し、1回目の撹拌・混合処理を実施した後に、公転速度を1300rpm、自転速度を715rpmに変更して2回目の撹拌・混合処理を実施した。
【0063】
一方、サンプル5~7では、サンプル1~4のような分散液調製工程を実施せず、導電性粉末と、酸化マンガン粉末と、バインダと、共材粉末と、分散剤と、溶剤とを同時に混練する「全成分混合」を行うことによって導電性ペーストを調製した。なお、サンプル5~7では、三本ロールミルにて混練処理を行った。
【0064】
2.評価試験
(1)粒度分布の測定
まず、フィルムアプリケータを使用し、各サンプルの導電性ペーストを10μmの厚みでガラス基板上に塗布し、120℃5分間の乾燥処理を行った。そして、各サンプルの乾燥膜を5000倍の倍率でSEM観察し、確認された酸化マンガン粒子(塊状体、凝集体、凝集粒子を含む)の粒子径を20個×10視野(合計200個)分測定した。そして、測定した200個分の粒子径を粒径順に並べ、小さい方から100個分の粒子径データを削除した後、残りの100個の粒子を粒径順に並べることによって各サンプルの粒度分布を作成した。そして、各サンプルの粒度分布における小さい方から10個目の粒子の粒子径をD10粒子径とし、50個目の粒子の粒子径をD50粒子径とし、90個目の粒子の粒子径をD90粒子径とした。上記酸化マンガン粒子のD10粒子径、D50粒子径およびD90粒子径を表1に示す。
【0065】
(2)表面平滑性の評価
まず、サンプル1~7の導電性ペーストをガラス基板上に塗布して電極層を形成した。ペーストの塗布には、ニューロング社製のスクリーン印刷装置(型式:LS-150)を使用し、♯500のメッシュを通過させた導電性ペーストを基材表面に幅2mm、厚さ1.2μmの条件で塗布した後に、乾燥処理(80℃、3分間)を行った。そして、ペーストが塗布された基材を大気雰囲気の焼成炉内に配置し、10℃/minの昇温速度で最高温度900℃まで昇温させた後、最高温度を30分維持する焼成処理を行った。 そして、本評価では、乾燥後のペーストと焼成後の電極層の表面粗さをJIS B 0601:2001に準拠して測定した。表面粗さの測定では、表面粗さ測定器(株式会社東京精密製、surfcom480A)を用い、測定長を1mmに設定して測定を3回実施し、平均表面粗さ(Ra)と最大表面粗さ(Rmax)を求めた。結果を表1に示す。
【0066】
【0067】
表1に示すように、サンプル1~4の何れにおいても、酸化マンガン粉末のD50粒子径が500nm以下に抑制され、かつ、D90粒子径とD10粒子径との差(D90-D10)も700nm以下に抑制されていた。このことから、このことから、導電性ペーストを調製する前に、酸化マンガン粉末を予め分散する分散液調製工程を実施することによって、酸化マンガン粒子の凝集を抑制できることが分かった。そして、このように酸化マンガン粉末が微小であり、かつ、シャープな粒度分布を有する導電性ペースト(サンプル1~4)によると、非常に優れた表面平滑性を有する電極層および乾燥膜を作製できることが分かった。加えて、サンプル1~4を比較すると、サンプル3、4のように、予備分散における撹拌・混合処理を2回以上実施することによって、酸化マンガン粉末が顕著に分散した導電性ペーストを調製でき、電極層の表面平滑性を更に改善できることが確認された。
【0068】
以上、本発明を詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、本発明はその主旨を逸脱しない範囲で種々変更を加え得るものである。