(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-16
(45)【発行日】2024-05-24
(54)【発明の名称】変位検出装置
(51)【国際特許分類】
G01D 5/36 20060101AFI20240517BHJP
【FI】
G01D5/36 W
(21)【出願番号】P 2020099901
(22)【出願日】2020-06-09
【審査請求日】2023-05-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000146847
【氏名又は名称】DMG森精機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002273
【氏名又は名称】弁理士法人インターブレイン
(72)【発明者】
【氏名】田中 陽
【審査官】吉田 久
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-194855(JP,A)
【文献】特開平5-62881(JP,A)
【文献】特開2019-132859(JP,A)
【文献】特開2011-165919(JP,A)
【文献】特開平10-64805(JP,A)
【文献】特開2019-53023(JP,A)
【文献】特開2010-96767(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01D 5/26-5/38
G01B 9/00-11/30
G03F 7/20-7/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光源と、
前記光源の光出力を光干渉計に導入するための、
単一の偏波保持ファイバあるいは偏光ファイバと、
前記偏波保持ファイバあるいは前記偏光ファイバからの光を入力し、反射型回折格子を含み、前記反射型回折格子の面内方向の変位を偏光変化として出力する光干渉計と、
前記光干渉計に入力される前の光と前記光干渉計から出力される光との偏光出力をそれぞれ電圧信号として検出する偏光検出部と、
前記偏光検出部から得られた偏光出力の電圧信号に対して信号処理を行い、残留偏光に由来する見かけの変位量の変動がキャンセルされた変位量を出力する信号処理部と、
を備え、
被測定物の変位量を光によって測定する際、光を前記光干渉計に導入する前記偏波保持ファイバあるいは前記偏光ファイバの温度または曲げ変化あるいは振動によって生じる残留偏光に由来する見かけの変位量の変動をキャンセル
し、
前記偏光検出部は、前記光干渉計に入力する光の偏光強度の2成分であるI
1
およびI
2
と、前記光干渉計から出力する光の偏光強度の4成分であるI
H
、I
V
、I
P
、I
M
とを検出し、
前記信号処理部は、下記式(1)に基づいて前記見かけの変位量δ
ap
を算出し、補正する、変位検出装置。
【数1】
ここで、Kは前記反射型回折格子における格子の間隔Λに対して2π/Λで表され、I
max
は前記面内方向の変位をスキャンしてI
H
、I
V
、I
P
、I
M
を観測したときの最大値であり、I
min
は前記面内方向の変位をスキャンしてI
H
、I
V
、I
P
、I
M
を観測したときの最小値である。
【請求項2】
光源と、
前記光源の光出力を光干渉計に導入するための、
単一の偏波保持ファイバあるいは偏光ファイバと、
前記偏波保持ファイバあるいは前記偏光ファイバからの光を入力し、ミラーの面直方向の変位を偏光変化として出力する光干渉計と、
前記光干渉計に入力される前の光と前記光干渉計から出力される光との偏光出力を電圧信号として検出する偏光検出部と、
前記偏光検出部から得られた偏光出力の電圧信号に対して信号処理を行い、残留偏光に由来する見かけの変位量の変動がキャンセルされた変位量を出力する信号処理部と、
を備え、
被測定物の変位量を光によって測定する際、光を前記光干渉計に導入する前記偏波保持ファイバあるいは前記偏光ファイバの温度または曲げ変化あるいは振動によって生じる残留偏光に由来する見かけの変位量の変動をキャンセル
し、
前記偏光検出部は、前記光干渉計に入力する光の偏光強度の2成分であるI
1
およびI
2
と、前記光干渉計から出力する光の偏光強度の4成分であるI
H
、I
V
、I
P
、I
M
とを検出し、
前記信号処理部は、下記式(2)に基づいて前記見かけの変位量δ
ap
を算出し、補正する、変位検出装置。
【数2】
ここで、kは前記光源の波長λを用いて2π/λで表され、I
max
は前記面直方向の変位をスキャンしてI
H
、I
V
、I
P
、I
M
を観測したときの最大値であり、I
min
は前記面直方向の変位をスキャンしてI
H
、I
V
、I
P
、I
M
を観測したときの最小値である。
【請求項3】
光源と、
前記光源の光出力を光干渉計に導入するための、
単一の偏波保持ファイバあるいは偏光ファイバと、
前記偏波保持ファイバあるいは前記偏光ファイバからの光を入力し、透過型回折格子を含み、前記透過型回折格子の面内方向の変位を偏光変化として出力する光干渉計と、
前記光干渉計に入力される前の光と前記光干渉計から出力される光との偏光出力を電圧信号として検出する偏光検出部と、
前記
偏光検出部から得られた偏光出力の電圧信号に対して信号処理を行い、残留偏光に由来する見かけの変位量の変動がキャンセルされた変位量を出力する信号処理部と、
を備え、
被測定物の変位量を光によって測定する際、光を前記光干渉計に導入する前記偏波保持ファイバあるいは前記偏光ファイバの温度または曲げ変化あるいは振動によって生じる残留偏光に由来する見かけの変位量の変動をキャンセル
し、
前記偏光検出部は、前記光干渉計に入力する光の偏光強度の2成分であるI
1
およびI
2
と、前記光干渉計から出力する光の偏光強度の4成分であるI
H
、I
V
、I
P
、I
M
とを検出し、
前記信号処理部は、下記式(1)に基づいて前記見かけの変位量δ
ap
を算出し、補正する、変位検出装置。
【数3】
ここで、Kは前記透過型回折格子における格子の間隔Λに対して2π/Λで表され、I
max
は前記面内方向の変位をスキャンしてI
H
、I
V
、I
P
、I
M
を観測したときの最大値であり、I
min
は前記面内方向の変位をスキャンしてI
H
、I
V
、I
P
、I
M
を観測したときの最小値である。
【請求項4】
前記偏波保持ファイバあるいは前記偏光ファイバは、1本あるいは脱着可能なコネクタで複数本が勘合されている、請求項1から3のいずれか1項に記載の変位検出装置。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載の変位検出装置と、
被加工物を載せるステージと、を備え、
前記変位検出装置で、前記ステージの変位を検出する装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光を用いて被測定物の変位量を高精度かつ安定に測定する装置に関し、特に光干渉計を利用した精密計測技術に関する。
【背景技術】
【0002】
これまで変位量を高精度に計測する技術として、光干渉計を利用した変位検出装置が広く利用されてきた。その代表的な例として、特許文献1に記載の技術が挙げられる。この文献の技術では、光源から発生した光を偏波保持ファイバあるいは偏光ファイバ経由で光干渉計に導入し、光干渉計の光路に配置された被測定物の変位に由来する光位相の変化を光干渉計出力の偏光の回転によって求めている。この光位相の変化は、光干渉計の光路に置かれたミラーの反射面の面直方向への変位や、回折格子の格子面内方向への変位といった被測定物の変位によって与えられる。こうした微小変位の検出装置の需要は、EUV技術に代表される半導体露光装置の高集積化および微細加工の高精度化を支えるセンサ用途として今後ますます増大するものと考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2019-132859号公報
【文献】DE102017220407A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の特許文献1に記載された変位検出方式では、物理的な制約から光出力の直線偏光の偏光軸と偏波保持ファイバ(二つの直交する偏波モードがファイバ内部を伝搬)あるいは偏光ファイバ(一つの偏波モードのみがファイバ内部を伝搬)のfast軸の間における角度ずれや、複数の偏波保持ファイバあるいは偏光ファイバをカスケード接続する際に各ファイバのfast軸間の角度ずれが存在し、内部を伝搬する偏光モード間で光パワーの交換(偏波クロストーク)が生じる。このため、光干渉計に入力される光の偏光は本来想定している直線偏光のみならず、それと直交する直線偏光が微かに残留する。こうした状況では、偏波保持ファイバあるいは偏光ファイバの温度変化や曲げ条件の変化や振動などの環境変化によって偏波保持ファイバあるいは偏光ファイバの複屈折性が変化することに伴い、2つの直線偏光間の位相差が変動し、光干渉計の出力偏光が変動する。その結果、計測される変位量は、被測定物の変位量と異なり、ファイバ温度や曲げ・振動に依存して変動する見かけの変位量を含んだものになる。特許文献1に記載の技術は、この見かけの変位量の変動を最小化するために避けるべき偏波保持ファイバあるいは偏光ファイバの長さを求めていたが、残留偏光の影響を完全に除去することはできない。
【0005】
さらに本発明と関連する特許文献2に記載の技術においては、ヘテロダイン測定を用いた変位検出測定装置において、残留偏光を除去するために光源の光を偏光子に入射し、偏光子を透過した直線偏光を光干渉計に入力している。しかしながら、こうした手法を偏波保持ファイバあるいは偏光ファイバにも適用すると、ファイバ温度や曲げ・振動に依存した偏光回転に伴って光干渉計に入る光出力が減少し、変位を検出するのに十分な信号強度が得られない問題が想定されることから、特許文献2に記載の方式は実用上不適切である。
【0006】
本発明の目的は、上記の変位検出装置でこれまで除去できなかった残留偏光に由来する見かけの変位量の変動をキャンセルするために、偏波保持ファイバあるいは偏光ファイバの環境変化に対してロバストな変位検出装置のハードウェアおよびシステムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のある態様の変位検出装置は、光源と、光源の光出力を光干渉計に導入するための、偏波保持ファイバあるいは偏光ファイバと、偏波保持ファイバあるいは偏光ファイバからの光を入力し、反射型回折格子を含む、反射型回折格子の面内方向の変位を偏光変化として出力する光干渉計と、光干渉計に入力される前の光と光干渉計から出力される光との偏光出力をそれぞれ電圧信号として検出する偏光検出部と、偏光検出部から得られた偏光出力の電圧信号に対して信号処理を行い、残留偏光に由来する見かけの変位量の変動がキャンセルされた変位量を出力する信号処理部と、を備える。この変位検出装置は、被測定物の変位量を光によって測定する際、光を光干渉計に導入する偏波保持ファイバあるいは偏光ファイバの温度または曲げ変化あるいは振動によって生じる残留偏光に由来する見かけの変位量の変動をキャンセルする。
【0008】
本発明の別の態様の変位検出装置は、光源と、光源の光出力を光干渉計に導入するための、偏波保持ファイバあるいは偏光ファイバと、偏波保持ファイバあるいは偏光ファイバからの光を入力し、ミラーを含む、ミラーの面直方向の変位を偏光変化として出力する光干渉計と、光干渉計に入力される前の光と光干渉計から出力される光との偏光出力を電圧信号として検出する偏光検出部と、偏光検出部から得られた偏光出力の電圧信号に対して信号処理を行い、残留偏光に由来する見かけの変位量の変動がキャンセルされた変位量を出力する信号処理部と、を備える。この変位検出装置は、被測定物の変位量を光によって測定する際、光を光干渉計に導入する偏波保持ファイバあるいは偏光ファイバの温度または曲げ変化あるいは振動によって生じる残留偏光に由来する見かけの変位量の変動をキャンセルする。
【0009】
本発明のさらに別の態様の変位検出装置は、光源と、光源の光出力を光干渉計に導入するための、偏波保持ファイバあるいは偏光ファイバと、偏波保持ファイバあるいは偏光ファイバからの光を入力し、透過型回折格子を含み、透過型回折格子の面内方向の変位を偏光変化として出力する光干渉計と、光干渉計に入力される前の光と光干渉計から出力される光との偏光出力を電圧信号として検出する偏光検出部と、偏光出力部から得られた偏光出力の電圧信号に対して信号処理を行い、残留偏光に由来する見かけの変位量の変動がキャンセルされた変位量を出力する信号処理部と、を備える。この変位検出装置は、被測定物の変位量を光によって測定する際、光を光干渉計に導入する偏波保持ファイバあるいは偏光ファイバの温度または曲げ変化あるいは振動によって生じる残留偏光に由来する見かけの変位量の変動をキャンセルする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、偏波保持ファイバあるいは偏光ファイバの温度変化や曲げ条件の変化・振動などの環境変化に対して見かけの変位量の変動が消失し、変位量測定の安定性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】変位検出装置(反射型回析格子を変位させる例)を示す構成図である。
【
図2】変位検出装置(マイケルソン干渉計のミラーを変位させる例)を示す構成図である。
【
図3】変位検出装置(透過型回析格子を変位させる例)を示す構成図である。
【
図4】変位検出装置の信号処理部を示す構成図である。
【
図5】偏波保持ファイバあるいは偏光ファイバの例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[1.変位検出装置の例(反射型回析格子を変位させる例)]
図1は、反射型回折格子110の変位量を検出するための変位検出装置100の構成を示す。光源101は、空間的・時間的なコヒーレンスを有する直線偏光を出射する光源であり、具体的には半導体レーザー,固体レーザー,気体レーザー,色素レーザー,ファイバレーザー,スーパールミネッセントダイオード,LEDなどの形態が考えられる。
【0013】
この光源101の光出力を第1レンズ102で平行光束にした後、第2レンズ103で集光し、偏波保持ファイバあるいは偏光ファイバ104に導入する。この偏波保持ファイバあるいは偏光ファイバ104は、任意の長さからなる任意の個数の偏波保持ファイバを脱着可能なコネクタで直列に接続したもの、あるいは任意の長さからなる任意の個数の偏光ファイバを脱着可能なコネクタで直列に接続したものである。なお、偏波保持ファイバあるいは偏光ファイバを用いる理由としては、シングルモードファイバと異なりレーザーの偏波保持力が高く単一の直線偏光を入射できるため、変位検出装置100の正常動作に適していること、およびレーザー光源101を変位検出箇所から遠ざけることにより変位検出箇所の光学系の小型化につながることが挙げられる。
【0014】
ここで、偏波保持ファイバあるいは偏光ファイバ104の光の入射面におけるslow軸と、光源101から出射される直線偏光の偏光軸を一致させることにより、偏波保持ファイバあるいは偏光ファイバ104内部を伝搬する直線偏光の形状を保持する。実際には、技術的な問題で偏波保持ファイバあるいは偏光ファイバ104の光の入射面におけるslow軸と直交なfast軸方向にも微小量の直線偏光成分が存在している。
【0015】
偏波保持ファイバあるいは偏光ファイバ104内部を伝搬した後に自由空間内に出射した光出力は、光干渉計に入射する。光干渉計の信号強度を最大にするため、偏波保持ファイバあるいは偏光ファイバ104の光の出射面におけるslow軸は、変位検出装置100のx軸からz軸に向かって45度傾ける。
【0016】
この光出力は第3レンズ105で平行光束となり、第1無偏光ビームスプリッター(第1NPBS:Non Polarizing Beam Splitter)106によって偏光に依存せず部分的に反射され、後述する偏光計測に用いられる。第1NPBS106を透過した光出力は、第1偏光ビームスプリッター(第1PBS:Polarizing Beam Splitter)107によってP偏光が透過、S偏光が反射する。
【0017】
第1PBSを反射したS偏光は第1ミラー108、透過したP偏光は第2ミラー109で反射され、反射型回折格子110に反射される。このとき、S偏光およびP偏光ともに回折光を生じる。これら2つの回折光の次数は絶対値が同じかつ互いに符号が逆となる条件(例として、P偏光は+1次で回折し、S偏光は-1次で回折するなど)を満たしており、回折時に光が照射される反射型回折格子内の位置に依存した位相シフトが生じる。
【0018】
上記の2つの回折光はそれぞれ第4レンズ111と第5レンズ112で集光され、第1位相板113を透過することによってそれぞれ直交する円偏光(右回り円偏光と左回り円偏光)に変換される。この円偏光は、集光位置に第3ミラー114を配置するキャッツアイ条件によって光干渉計内部の光路のポインティング安定性を向上させ、反射した光出力が再び第1位相板113を透過する。こうして第1位相板113を2回透過した2つの光出力の偏光軸は、透過前と比べて90度回転している(P偏光がS偏光に、S偏光がP偏光に変換される)。
【0019】
これらの光出力はそれぞれ第4レンズ111と第5レンズ112で再び平行光束に戻されたのち、反射型回折格子110で再度回折する。この2回目の回折においては、1回目の回折次数と絶対値および符号が同じ条件にある(1つの光出力は+1次回折→+1次回折、もう一つの光出力は-1次回折→-1次回折など)。こうして2回回折した2つの光出力は、それぞれ第1ミラー108と第2ミラー109で反射され、第1PBS107で合波し、x軸方向に出力される。
【0020】
次に、第1NPBS106で反射された光出力および第1PBS107からx軸方向に出射した光出力は、偏光検出部115に送られ、光干渉計の前後における偏光出力を電圧信号として検出する。
【0021】
第1NPBS106で反射された光の偏光成分は、偏波保持ファイバあるいは偏光ファイバ104のslow軸に平行なメインの直線偏光およびfast軸に平行な微小量の直線偏光からなる。これを第2位相板116で偏光を回転させ、第2PBS117によってslow軸に平行な偏光を透過させ、fast軸に平行な偏光を反射させる。そして第1検出器118によってslow軸に平行な偏光の光パワーI1を、第2検出器119によってfast軸に平行な偏光の光パワーI2を、光パワーに比例した電圧信号に変換する。変換された電圧信号は、信号処理部に送られる。これを後述の変動がキャンセルされた変位量を出力する際に用いる。
【0022】
第1PBS107からx軸方向に出力された光出力は、第3位相板120によってP偏光を右回り円偏光に、S偏光を左回り円偏光に変換され、第2NPBS121によって偏光に依存せず半分の光出力を反射、半分の光出力を透過させる。
【0023】
第2NPBS121を反射した光出力は、第3PBS122によってP偏光を透過、S偏光を反射し、P偏光の光パワーIHを第3検出器123、S偏光の光パワーIVを第4検出器124によって、光パワーに比例した電圧信号に変換する。残留偏光が存在しない場合、第3検出器123と第4検出器124の差分信号として、Acos(4Kδ+φ)の干渉信号が得られる。ここで、Aは干渉信号の振幅であり、Kは2π/Λで示される波数である。δは反射型回折格子110の面内方向の変位を示しており、φは初期位相である。Λは反射型回折格子110における格子の間隔である。
【0024】
第2NPBS121を透過した光出力は、第4位相板125によって斜め45度偏光をP偏光、斜め-45度偏光をS偏光に変換し、第4PBS126によってP偏光を透過、S偏光を反射する。P偏光の光パワーIPを第5検出器127、S偏光の光パワーIMを第6検出器128によって、光パワーに比例した電圧信号に変換する。残留偏光が存在しない場合、第5検出器127と第6検出器128の差分信号として、Asin(4Kδ+φ)の干渉信号を得る。
【0025】
上記第1検出器118、第2検出器119、第3検出器123、第4検出器124、第5検出器127、第6検出器128の出力は、信号処理部129によって変位データに変換される。なお、本実施形態における光干渉計は、第1ミラー、第2ミラー、第3ミラー、第4レンズ、第5レンズ、反射型回折格子、第1位相板、第1PBS、第1NPBSを含む構成である。
【0026】
[2.変位検出装置の例(マイケルソン干渉計のミラーを変位させる例)]
図2は、第1ミラー209の変位量を検出するための変位検出装置200の構成を示す。光源201は、空間的・時間的なコヒーレンスを有する直線偏光を出射する光源であり、具体的には半導体レーザー,固体レーザー,気体レーザー,色素レーザー,ファイバレーザー,スーパールミネッセントダイオード,LEDなどの形態が考えられる。
【0027】
この光源201の光出力を第1レンズ202で平行光束にした後、第2レンズ203で集光し、偏波保持ファイバあるいは偏光ファイバ204に導入する。この偏波保持ファイバあるいは偏光ファイバ204は、任意の長さからなる任意の個数の偏波保持ファイバを脱着可能なコネクタで直列に接続したもの任意の長さからなる任意の個数の偏光ファイバを脱着可能なコネクタで直列に接続したものである。
【0028】
なお、偏波保持ファイバあるいは偏光ファイバを用いる理由としては、シングルモードファイバと異なりレーザーの偏波保持力が高く単一の直線偏光を入射できるため変位検出装置200の正常動作に適していること、単一偏光モードしか通さない偏光ファイバにあった曲げに伴う伝搬ロスが極めて小さいことから取り回しが容易であること、さらにレーザー光源201を変位検出箇所から遠ざけることにより変位検出箇所の光学系の小型化につながること、が挙げられる。
【0029】
ここで、偏波保持ファイバあるいは偏光ファイバ204の光の入射面におけるslow軸と、光源201から出射される直線偏光の偏光軸を一致させることにより、偏波保持ファイバあるいは偏光ファイバ204内部を伝搬する直線偏光の形状を保持する。実際には、技術的な問題で偏波保持ファイバあるいは偏光ファイバ204の光の入射面におけるslow軸と直交なfast軸方向にも微小量の直線偏光成分が存在している。
【0030】
偏波保持ファイバあるいは偏光ファイバ204内部を伝搬した後に自由空間内に出射した光出力は、光干渉計に入射する。光干渉計の信号強度を最大にするため、偏波保持ファイバあるいは偏光ファイバ204の光の出射面におけるslow軸は、変位検出装置200のx軸からz軸に向かって45度傾ける。
【0031】
この光出力は第3レンズ205で平行光束となり、第1無偏光ビームスプリッター(第1NPBS:Non Polarizing Beam Splitter)206によって偏光に依存せず部分的に反射され、後述する偏光計測に用いられる。第1NPBS206を透過した光出力は、第1偏光ビームスプリッター(第1PBS:Polarizing Beam Splitter)207をP偏光が透過、S偏光が反射する。
【0032】
第1PBS207を反射したS偏光、および透過したP偏光はそれぞれ第1位相板208あるいは第2位相板210を透過し、直交する円偏光(右回り円偏光と左回り円偏光)に変換される。この円偏光は、第1ミラー209あるいは第2ミラー211によって反射され、再び第1位相板208あるいは第2位相板210を透過する。こうして位相板を2回透過した2つの光出力の偏光軸は、透過前と比べて90度回転している(P偏光がS偏光に、S偏光がP偏光に変換される)。
【0033】
上記の過程において、第1ミラー209の位置を移動させることにより、第1PBS207と第1ミラー209間の距離が第1PBS207と第2ミラー211の距離に対して増減した結果、2つの光出力間の光位相差を変化させることができ、変位量計測が可能となる。これらの2つの光出力は、第1PBS207で合波し、
図2のx軸方向に出力される。
【0034】
次に、第1NPBS206で反射された光出力および第1PBS207でx軸方向に出射した光出力は、検出部212に送られ、光干渉計の前後における偏光出力を電圧信号として検出する。
【0035】
第1NPBS206で反射された光の偏光成分は、偏波保持ファイバあるいは偏光ファイバ204のslow軸に平行なメインの直線偏光およびfast軸に平行な微小量の直線偏光からなる。これを第3位相板213で偏光を回転させ、第2PBS214によってslow軸に平行な偏光を透過、fast軸に平行な偏光を反射させる。そして第1検出器215によってslow軸に平行な偏光の光パワーI1を、第2検出器216によってfast軸に平行な偏光の光パワーI2を、光パワーに比例した電圧信号に変換する。これを後述の変動がキャンセルされた変位量を出力する際に用いる。
【0036】
第1PBS207からx軸方向に出力された光束は、第4位相板217によってP偏光を右回り円偏光に、S偏光を左回り円偏光に変換され、第2NPBS218によって半分の光出力を反射、半分の光出力を透過させる。
【0037】
第2NPBS218を反射した光出力は、第3PBS219によってP偏光を透過、S偏光を反射し、P偏光の光パワーIHは第3検出器220、S偏光の光パワーIVは第4検出器221によって、光パワーに比例した電圧信号に変換される。残留偏光が存在しない場合、第3検出器220と第4検出器221の差分信号として、Acos(2kδ+φ)の干渉信号が得られる。ここで、Aは干渉信号の振幅であり、kは2π/λで示される波数である。δはミラーのx軸方向の変位を示しており、φは初期位相である。λは光の波長である。
【0038】
第2NPBS218を透過した光出力は、第5位相板222によって斜め45度偏光をP偏光、斜め-45度偏光をS偏光に変換し、第4PBS223によってP偏光を透過、S偏光を反射する。P偏光の光パワーIPは第5検出器224、S偏光の光パワーIMは第6検出器225によって、光パワーに比例した電圧信号に変換される。残留偏光が存在しない場合、第5検出器224と第6検出器225の差分信号として、Asin(2kδ+φ)の干渉信号を得る。上記第1検出器215、第2検出器216、第3検出器220、第4検出器221、第5検出器224、第6検出器225の出力は信号処理部226によって変位データに変換される。
【0039】
なお、光干渉計を用いた変位検出手法としては上記のQuadrature測定と言われる手法の他にもHeterodyne測定という手法が知られているが、これは光源を得られた高周波信号の位相差から変位を求めるため、上記手法に含まれるものとする。なお、本実施形態における光干渉計は、第1ミラー、第2ミラー、第1位相板、第2位相板、第1PBS、第1NPBS、を含む構成である。
【0040】
[3.変位検出装置の例(透過型回析格子を変位させる例)]
図3は、透過型回折格子310の変位量を検出するための変位検出装置300の構成を示す。光源301は、空間的・時間的なコヒーレンスを有する直線偏光を出射する光源であり、具体的には半導体レーザー,固体レーザー,気体レーザー,色素レーザー,ファイバレーザー,スーパールミネッセントダイオード,LEDなどの形態が考えられる。
【0041】
この光源301の光出力を第1レンズ302で平行光束にした後、第2レンズ303で集光し、偏波保持ファイバあるいは偏光ファイバ304に導入する。この偏波保持ファイバあるいは偏光ファイバ304は、任意の長さからなる任意の個数の偏波保持ファイバを脱着可能なコネクタで直列に接続したものあるいは任意の長さからなる任意の個数の偏光ファイバを脱着可能なコネクタで直列に接続したものである。
【0042】
なお、偏波保持ファイバあるいは偏光ファイバを用いる理由としては、シングルモードファイバと異なりレーザーの偏波保持力が高く単一の直線偏光を入射できるため変位検出装置300の正常動作に適していること、単一偏光モードしか通さない偏光ファイバにあった曲げに伴う伝搬ロスが極めて小さいことから取り回しが容易であること、さらにレーザー光源301を変位検出箇所から遠ざけることにより変位検出箇所の光学系の小型化につながること、が挙げられる。
【0043】
ここで、偏波保持ファイバあるいは偏光ファイバ304の光の入射面におけるslow軸と、光源301から出射される直線偏光の偏光軸を一致させることにより、偏波保持ファイバあるいは偏光ファイバ304内部を伝搬する直線偏光の形状を保持する。実際には、技術的な問題で偏波保持ファイバあるいは偏光ファイバ304の光の入射面におけるslow軸と直交なfast軸方向にも微小量の直線偏光成分が存在している。
【0044】
偏波保持ファイバあるいは偏光ファイバ304内部を伝搬した後に自由空間内に出射した光出力は、光干渉計に入射する。光干渉計の信号強度を最大にするため、偏波保持ファイバあるいは偏光ファイバ304の光の出射面におけるslow軸は、変位検出装置300のx軸からz軸に向かって45度傾ける。
【0045】
この光出力は第3レンズ305で平行光束となり、第1無偏光ビームスプリッター(第1NPBS:Non Polarizing Beam Splitter)306によって偏光に依存せず部分的に反射され、後述する偏光計測に用いられる。第1NPBS306を透過した光出力は、第1偏光ビームスプリッター(第1PBS:Polarizing Beam Splitter)307をP偏光が透過、S偏光が反射する。
【0046】
第1PBS307を反射したS偏光は第1ミラー308、透過したP偏光は第2ミラー309で反射され、透過型回折格子310を透過する際、それぞれ回折光を生じる。2つの回折光の次数は絶対値が同じかつ互いに符号が逆となる条件(例として、P偏光は+1次で回折し、S偏光は-1次で回折するなど)を満たしており、光が照射される透過型回折格子310内の位置に依存した位相シフトが生じる。
【0047】
上記の2つの回折光はそれぞれ第1ミラー308と第2ミラー309で再び反射され、第1位相板311および第2位相板312を透過することによってそれぞれ直交する円偏光(右回り円偏光と左回り円偏光)に変換され、第3ミラー313に導かれる。そして、第3ミラー313で反射した光出力が再び第1位相板311および第2位相板312を透過する。こうして位相板を2回透過した2つの光出力の偏光軸は、透過前と比べて90度回転している(P偏光がS偏光に、S偏光がP偏光に変換される)。
【0048】
これらの光出力はそれぞれ第1ミラー308と第2ミラー309で再び反射され、透過型回折格子310で再度透過・回折する。この2回目の回折においては、1回目の回折次数と絶対値および符号が同じ条件にある(1つの光出力は+1次回折→+1次回折、もう一つの光出力は-1次回折→-1次回折など)。こうして2回回折した2つの光出力はそれぞれ第1ミラー308と第2ミラー309で反射されたのち、第1PBS307で合波し、x軸方向に出力される。
【0049】
次に、第1NPBS306で反射された光出力および第3PBS307でx軸方向に伝搬した光出力は、検出部314に送られ、光干渉計の前後における偏光出力を電圧信号として検出する。
【0050】
第1NPBS306で反射された光の偏光成分は、偏波保持ファイバあるいは偏光ファイバ304のslow軸に平行なメインの直線偏光およびfast軸に平行な微小量の直線偏光からなる。これを第3位相板315で偏光を回転させ、第2PBS316によってslow軸に平行な偏光を透過、fast軸に平行な偏光を反射させる。そして第1検出器317によってslow軸に平行な偏光の光パワーI1を、第2検出器318によってfast軸に平行な偏光の光パワーI2を、光パワーに比例した電圧信号に変換する。これを後述の変動がキャンセルされた変位量を出力する際に用いる。
【0051】
第1PBS307からx軸方向に出力された光出力は、第4位相板319によってP偏光を右回り円偏光に、S偏光を左回り円偏光に変換され、第2NPBS320によって偏光に依存せず半分の光出力を反射、半分の光出力を透過させる。
【0052】
第2NPBS320を反射した光出力は第3PBS321によってP偏光を透過、S偏光を反射し、水平偏光の光パワーIHを第3検出器322、垂直偏光の光パワーIVを第4検出器323によって、光パワーに比例した電圧信号に変換し、後述の変動がキャンセルされた変位量を出力する際に用いる。残留偏光が存在しない場合、第3検出器322と第4検出器323の差分信号として、Acos(4Kδ+φ)の干渉信号が得られる。ここで、Aは干渉信号の振幅であり、Kは2π/Λで示される波数である。δは透過型回折格子310の面内方向の変位を示しており、φは初期位相である。Λは透過型回折格子310における格子の間隔である。
【0053】
第2NPBS320を透過した光出力は、第5位相板324によって斜め45度偏光をP偏光、斜め-45度偏光をS偏光に変換し、第4PBS325によってP偏光を透過、S偏光を反射し、P偏光の光パワーIPを第5検出器326、S偏光の光パワーIMを第6検出器327によって、光パワーに比例した電圧信号に変換する。残留偏光が存在しない場合、第5検出器326と第6検出器327の差分信号として、Asin(4Kδ+φ)の干渉信号を得る。
【0054】
上記第1検出器317、第2検出器318、第3検出器322、第4検出器323、第5検出器326、第6検出器327の出力は、信号処理部328によって変位データに変換される。なお、本実施形態における光干渉計は、第1ミラー、第2ミラー、第3ミラー、第1位相板、第2位相板、透過型回折格子、第1PBS、第1NPBS、第1NPBS、を含む構成である。
【0055】
[4.変位検出装置における演算処理の例]
上記の[1.変位検出装置の例(反射型回析格子を変位させる例)][2.変位検出装置の例(マイケルソン干渉計のミラーを変位させる例)][3.変位検出装置の例(透過型回析格子を変位させる例)]のいずれにおいても、各偏光の光パワーI1,I2,IH,IV,IP,IMが電圧信号に変換されたものが得られ、反射型回折格子110,ミラー209および透過型回折格子310の変位量xがIH,IV,IP,IMより推定できることを述べた。
【0056】
実際の光学系では、偏波保持ファイバあるいは偏光ファイバ104、204、304のslow軸と平行な偏光成分のパワーであるI
1が変位検出装置100、200、300に入射するパワーの大半を占める一方、fast軸と平行な偏光成分I
2が存在する。その結果、干渉計の2つの光路に各偏光の両方が1:1に分割され、互いに干渉し、検出部115、314で検出される各偏光成分のパワーが下記式(1)に示される値となる。
【数1】
【0057】
ここで、偏波保持ファイバあるいは偏光ファイバのslow軸方向の偏光の電場振幅をp、fast軸方向の偏光の電場振幅をq、光干渉計において各ビームが回折格子に入射する位置をδ1,δ2、ReとImを複素数の実部と虚部とする。
【0058】
残留偏光が存在しないとき(|q|=0)、IH-IVは|p|2cos(4Kδ2+2K(δ1-δ2))となり、|p|2をA、δ2をδ、2K(δ1-δ2)をφと書き直すとAcos(4Kδ+φ)と表せる。同様にIP-IMはAsin(4Kδ+φ)と表せる。
【0059】
一方、残留偏光が存在するとき(|q|≠0)、I
H-I
Vは((|p|
2-|q|
2)
2+(2Im(pq
*))
2)
1/2cos(4Kδ
2+2K(δ
1-δ
2)+β)、I
P-I
Mは((|p|
2-|q|
2)
2+(2Im(pq
*))
2)
1/2sin(4Kδ
2+2K(δ
1-δ
2)+β)となる。ここでβは下記式(2)で表される位相項であり、残留偏光の振幅およびメインの偏光との相対位相によって変動する。
【数2】
【0060】
残留偏光の振幅は、光出力の直線偏光の偏光軸と偏波保持ファイバあるいは偏光ファイバのfast軸の間での角度ずれや、複数の偏波保持ファイバあるいは偏光ファイバをカスケード接続する際に各ファイバのfast軸の間での角度ずれ、および偏波クロストークによって絶対値が決まる。残留偏光とメインの偏光との相対位相は、偏波保持ファイバあるいは偏光ファイバの温度変化,曲げ,振動によって偏波保持ファイバあるいは偏光ファイバの複屈折率が変化することにより、各偏光間の光路長が変化することによって生じる。特に後者は偏波保持ファイバあるいは偏光ファイバのおかれた環境変動と関連して変動するため、見かけの変位量δap=β/(4K)が環境変動と共に変動し、真の変位量の推定が困難となる。
【0061】
上記の議論は
図1の反射型回折格子110および
図3の透過型回折格子310を用いる場合に成立したが、同様に
図1のミラー209を用いる場合についてもδ
1,δ
2を各ミラーの軸方向の位置と定義し、位相項における4Kを光源の波長λを用いた2k=4π/λに置き換えることにより、同様の議論が成り立つ。
【0062】
以上の議論より、残留偏光によって生じる見かけの変位量δ
apをキャンセルし、変位量δ
2を出力する信号処理部400を
図4に示す。この装置に入力される各偏光成分の光パワーであるI
1を第1検出器401(
図1の118、
図2の215、
図3の317)、I
2を第2検出器402(
図1の119、
図2の216、
図3の318)、I
Hを第3検出器403(
図1の123、
図2の220、
図3の322)、I
Vを第4検出器404(
図1の124、
図2の221、
図3の323)、I
Pを第5検出器405(
図1の127、
図2の224、
図3の326)、I
Mを第6検出器406(
図1の128、
図2の225、
図3の327)によって、光パワーに比例する電圧信号に変換し、信号処理部400内部に送り込む。
【0063】
各電圧信号は増幅器407-412によってそれぞれ増幅され、それぞれアナログ・デジタル変換器(ADC:Analog to Digital Converter)413-418によってデジタル信号に変換され、それぞれローパスフィルタ(LPF:Low-Pass Filter)419-424によって不要な高周波成分を除去した後、補正・数値処理回路425によって数値演算を行い、残留偏光に由来する見かけの変位量の変動がキャンセルされた変位量を出力する。
補正・数値処理回路425においては、残留偏光によって生じる位相項βが各偏光の光パワーを用いて下記式(3)で表される関係にあることから、各偏光の光パワーI
1,I
2,I
H,I
V,I
P,I
MとI
max,I
minを元にxとyを計算し、xとyからβを求め、βから見かけの変位量δ
ap=β/(4K)を算出することができ、これによって変位検出装置100、200、300が出力する変位量からx
apを差し引く補正を行う、という演算を実行する。
【数3】
【0064】
ここで、ImaxとIminは上記式(1)の信号の変位をスキャンした時の最大値と最小値であり、光源が時間的・空間的に完全に干渉する時は(Imax-Imin)/(Imax+Imin)=1となる一方、マルチモードレーザーなどの有限の波長幅を有する光源で、光干渉計中の2つのビームの光路差がゼロでないとき、および2つのビームの重なりが不完全な時などには、光干渉の明瞭度が低下するため、明瞭度の測定および補正を変位検出測定前に行う。
【0065】
もう一つの手法として、変位検出測定中に信号処理部内部のメモリに保存された電圧信号の履歴を参照し、上記の明瞭度の補正をアクティブに行う。信号処理部は、残留偏光に由来する見かけの変位量の変動がキャンセルされた変位量δ2(式(1)のδ2)を出力する。
【0066】
以上の方法により、変位検出装置の動作中に常にリアルタイムでアクティブに見かけの変位量をキャンセルすることが可能となり、偏波保持ファイバあるいは偏光ファイバの設置環境に応じて変動する見かけの変位量を被測定物の変位量から分離し、被測定物の変位を測定することが可能となる。
【0067】
また、本手法により特許文献1で問題とされていた偏波保持ファイバあるいは偏光ファイバの長さについての制約が無くなることから、任意の長さの偏波保持ファイバあるいは偏光ファイバを任意個数・任意の曲げ条件で設置することが可能となり、設置条件に関する制約が除去され、実用上重要な技術革新となる。
【0068】
[5.偏波保持ファイバあるいは偏光ファイバの例を示す断面図]
図5に偏波保持ファイバあるいは偏光ファイバ500への光の導入形態を説明するためのファイバの断面図を示す。偏波保持ファイバあるいは偏光ファイバ500のコア501内部を光が伝搬するにあたり、応力付与部502を設けてコア501の屈折率に異方性を持たせることにより、光の偏光方向を保存する原理となっている。
【0069】
変位検出装置100,200,300の一般的な製造条件では、ファイバへの入力直線偏光504はfast軸503に対して完全に垂直とはならず、ファイバ軸に対して偏光がわずかな角度θだけ傾くことが考えられる。さらに製造条件により、ファイバコネクタキー505もslow軸506と完全には一致せず、わずかな角度φで傾くことが考えられる。その結果、現実的な製造条件では、光源の入力直線偏光504は偏波保持ファイバあるいは偏光ファイバ500のslow軸506と完全に平行にはならず、fast軸503方向に残留偏光が生じる。これに加え、偏波保持ファイバあるいは偏光ファイバ500内部での偏波クロストークなどにより、slow軸506を伝搬していた光がfast軸503に移り、残留偏光が発生する効果も存在する。これらの効果が生じた結果、見かけの変位量δapが発生する。
【0070】
(その他)
これまでの説明の構成要件を備えれば、偏波保持ファイバあるいは偏光ファイバの温度変化や曲げ条件の変化・振動などの環境変化に対して見かけの変位量の変動が消失し、変位量測定の長期的安定性・確度が向上するほか、特許文献1で説明されていた光ファイバ長の制約が無くなり、光ファイバによる光の伝搬経路の自由な設計が可能になる効果がある。
【0071】
また、これまで説明した変位検出装置を用いて、被加工物を載せるステージの変位を検出することができる。このため、変位検出装置とステージとを備える露光装置やFPD製造装置などの装置へ応用が考えられる。
【符号の説明】
【0072】
100...変位検出装置、101...光源、102...第1レンズ、103...第2レンズ、104...偏波保持ファイバあるいは偏光ファイバ、105...第3レンズ、106...第1NPBS、107...第1PBS、108...第1ミラー、109...第2ミラー、110...反射型回折格子、111...第4レンズ、112...第5レンズ、113...第1位相板、114...第3ミラー、115...検出部、116...第2位相板、117...第2PBS、118...第1検出器、119...第2検出器、120...第3位相板、121...第2NPBS、122...第3PBS、123...第3検出器、124...第4検出器、125...第4位相板、126...第4PBS、127...第5検出器、128...第6検出器、129...信号処理部、200...変位検出装置、201...光源、202...第1レンズ、203...第2レンズ、204...偏波保持ファイバあるいは偏光ファイバ、205...第3レンズ、206...第1NPBS、207...第1PBS、208...第1位相板、209...第1ミラー、210...第2位相板、211...第2ミラー、212...検出部、213...第3位相板、214...第2PBS、215...第1検出器、216...第2検出器、217...第4位相板、218...第2NPBS、219...第3PBS、220...第3検出器、221...第4検出器、222...第5位相板、223...第4PBS、224...第5検出器、225...第6検出器、226...信号処理部、300...変位検出装置、301...光源、302...第1レンズ、303...第2レンズ、304...偏波保持ファイバあるいは偏光ファイバ、305...第3レンズ、306...第1NPBS、307...第1PBS、308...第1ミラー、309...第2ミラー、310...透過型回折格子、311...第1位相板、312...第2位相板、313...第3ミラー、314...検出部、315...第3位相板、316...第2PBS、317...第1検出器、318...第2検出器、319...第4位相板、320...第2NPBS、321...第3PBS、322...第3検出器、323...第4検出器、324...第5位相板、325...第4PBS、326...第5検出器、327...第6検出器、328...信号処理部、400...信号処理部、401...第1検出器、402...第2検出器、403...第3検出器、404...第4検出器、405...第5検出器、406...第6検出器、407...増幅器、408...増幅器、409...増幅器、410...増幅器、411...増幅器、412...増幅器、413...ADC、414...ADC、415...ADC、416...ADC、417...ADC、418...ADC、419...LPF、420...LPF、421...LPF、422...LPF、423...LPF、424...LPF、425...補正・数値処理回路、500...偏波保持ファイバあるいは偏光ファイバ、501...コア、502...応力付与部、503...fast軸、504...入力直線偏光、505...ファイバコネクタキー、506...slow軸。