(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-16
(45)【発行日】2024-05-24
(54)【発明の名称】紫外線透過フィルタ
(51)【国際特許分類】
G02B 5/28 20060101AFI20240517BHJP
C23C 14/08 20060101ALI20240517BHJP
C23C 14/10 20060101ALI20240517BHJP
C23C 14/58 20060101ALI20240517BHJP
【FI】
G02B5/28
C23C14/08 F
C23C14/10
C23C14/58 A
(21)【出願番号】P 2020135102
(22)【出願日】2020-08-07
【審査請求日】2023-07-13
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 1.令和1年9月17日ウシオ電機株式会社(兵庫県姫路市別所町佐土1194)において納入。
(73)【特許権者】
【識別番号】000231475
【氏名又は名称】日本真空光学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100153497
【氏名又は名称】藤本 信男
(72)【発明者】
【氏名】延与 知紀
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 裕仁
(72)【発明者】
【氏名】佐野 大希
【審査官】岩井 好子
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-188500(JP,A)
【文献】特開2006-163046(JP,A)
【文献】国際公開第2018/100991(WO,A1)
【文献】特開2004-161602(JP,A)
【文献】特開2018-010275(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第107561613(CN,A)
【文献】高田賢志 et al.,HfO2基強誘電体スパッタ薄膜の成長時の酸素分圧が結晶成長・結晶構造に与える影響,第66回応用物理学会春季学術講演会,応用物理学会,2019年02月25日,10p-W631-1,p.60
【文献】佐保勇樹 et al.,HfO2基強誘電体スパッタ薄膜の成長時の酸素分圧が電気特性におよぼす影響,第66回応用物理学会春季学術講演会,応用物理学会,2019年02月25日,10p-W631-2,p.61
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/28
C23C 14/08
C23C 14/10
C23C 14/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
屈折率の異なる層が交互に積層された多層の光干渉膜を有する紫外線透過フィルタであって、
前記光干渉膜が酸化ハフニウム層を含み、
前記酸化ハフニウム層の結晶構造は、直方晶系構造及び正方晶系構造に由来するX線回折によるスペクトルピーク強度(I
b)が単斜晶系構造に由来するX線回折によるスペクトルピーク強度(I
a)より小さいことを特徴とする紫外線透過フィルタ。
【請求項2】
前記直方晶系構造及び正方晶系構造に由来するX線回折によるスペクトルピーク強度(I
b)が、前記単斜晶系構造に由来するX線回折によるスペクトルピーク強度(I
a)の1/10以下であることを特徴とする請求項1に記載の紫外線透過フィルタ。
【請求項3】
前記光干渉膜が、酸化ハフニウム層と酸化ケイ素層が交互に積層されたものであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の紫外線透過フィルタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
屈折率の異なる層が交互に積層された多層の光干渉膜を有する紫外線透過フィルタ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、発光デバイス、撮像デバイス、測定デバイス、通信デバイス等において、その使用用途や機能に応じて、所定の波長帯域を選択的に遮断、透過するために紫外線透過フィルタを使用することが慣用されている。
そして、紫外線透過フィルタとして、基板上に屈折率の異なる層が交互に積層された多層の光干渉膜を有する構成のものは周知である。
また、紫外線透過フィルタを構成する光干渉膜として酸化ハフニウム層を含むものが公知である(例えば、特許文献1等参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
酸化ハフニウム層を含む光干渉膜は、透過波長域(例えば220~270nmの波長域)での高い透過性を有し、遮断波長域(例えば300~400nmの波長域)で高い遮光性を有していることから、特定波長の紫外線を選択的に透過する光源等の紫外線透過フィルタの光干渉膜として好適である。
しかしながら、長時間の紫外線の照射によって光干渉膜の透過帯域の透過率が劣化してしまうという問題があった。
【0005】
そこで、本発明は前述した課題を解決するものであり、酸化ハフニウム層の結晶構造を制御することで光干渉膜の耐光性を向上させ、長時間の紫外線の照射によっても透過帯域の透過率の低下を抑制できる紫外線透過フィルタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る紫外線透過フィルタは、屈折率の異なる層が交互に積層された多層の光干渉膜を有する紫外線透過フィルタであって、前記光干渉膜が酸化ハフニウム層を含み、前記酸化ハフニウム層の結晶構造は、直方晶系構造及び正方晶系構造に由来するX線回折によるスペクトルピーク強度が単斜晶系構造に由来するX線回折によるスペクトルピーク強度より小さいことにより、前記課題を解決するものである。
【発明の効果】
【0007】
請求項1に係る紫外線透過フィルタによれば、酸化ハフニウム層の直方晶系構造及び正方晶系構造に由来するX線回折によるスペクトルピーク強度が、前記単斜晶系構造に由来するX線回折によるスペクトルピーク強度より小さいことにより、酸化ハフニウム層を含む光干渉膜の透過波長域での高い透過性、遮断波長域で高い遮光性を維持しつつ、紫外線に対する耐光性を向上でき、長時間の紫外線の照射によっても光干渉膜の透過帯域の透過率の低下を抑制できる。
本請求項2、3に記載の構成によれば、さらに紫外線に対する耐光性を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明に係る紫外線透過フィルタの概略説明図。
【
図2】従来の紫外線透過フィルタのX線回折によるスペクトル分布のグラフ。
【
図3】本発明紫外線透過フィルタのX線回折によるスペクトル分布のグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の一実施形態である紫外線透過フィルタ100について、図に基づき説明する。
紫外線透過フィルタ100は、石英からなる基板101に、酸化ハフニウム(HfO2)層111と酸化ケイ素(SiO2)層112が交互に積層された多層の光干渉膜110を形成することで構成されている。
【0011】
光干渉膜110の各層は、スパッタリング法、蒸着法、イオンアシスト蒸着法のいずれかで形成される。
酸化ハフニウム層は形成方法により、アモルファス状態あるいはアモルファスと結晶が混在した状態で形成され、結晶状態のほうが透過性に優れることが知られているため、熱処理または電磁気によりアニール処理が施されて透過性を向上させる。
従来は、結晶構造の違い、すなわち、直方晶系構造、正方晶系構造、単斜晶系構造等の比率の違いによる耐光性の向上について知見も課題も存在せず、単に結晶化による透過性の向上のみを目的として、結晶構造の制御を行うことは全く意図されずにアニール処理が行われていた。
これに対し、本発明では酸化ハフニウム層の結晶構造が、熱処理または電磁気によりアニール処理をコントロールすることによって、直方晶系構造、正方晶系構造、単斜晶系構造等の比率が制御される。
【0012】
本実施例では、酸化ハフニウム層の結晶構造における直方晶系構造、正方晶系構造、単斜晶系構造等の比率について、X線回折によるスペクトル分布を指標とし、直方晶系構造及び正方晶系構造に由来するX線回折によるスペクトルピーク強度(Ib)が、前記単斜晶系構造に由来するX線回折によるスペクトルピーク強度(Ia)より小さくなるように制御される。
より好ましくは、直方晶系構造及び正方晶系構造に由来するX線回折によるスペクトルピーク強度が(Ib)、前記単斜晶系構造に由来するX線回折によるスペクトルピーク強度(Ia)の1/10以下になるよう制御される。
【0013】
従来の紫外線透過フィルタの酸化ハフニウム層は、
図2に示すように、直方晶系構造または正方晶系構造に由来するスペクトルピーク強度(I
b)(2θ=30.7付近のシグナル:約90000)は、単斜晶系構造に由来するスペクトルピーク強度(I
a)(2θ=28.5付近のシグナル:約40000、31.6付近のシグナル:20000、合計60000)に比べて大きい。
これに対し、本実施例の紫外線透過フィルタ100の酸化ハフニウム層111は、
図3に示すように直方晶系構造または正方晶系構造に由来するスペクトルピーク強度(I
b)(2θ=30.7付近のシグナル:約5000)は、単斜晶系構造に由来するスペクトルピーク強度(I
a)(2θ=28.5付近のシグナル:約110000、31.6付近のシグナル:約30000、合計140000) より小さい。
スペクトルピークの強度I
a、I
bは、以下のように求めることができる。例えば、ピーク強度I
a、I
bは
図2のようにX線回折スペクトルから算出されたベースラインからのピークの高さで表される。このベースラインは27.0°と33°の値から求め、これを基に2θ=28.5±0.5°ならびに31.6±0.6°の範囲に現れるピークの強度I
aと2θ=30.4±0.5°の範囲に現れるピークの強度I
bとを決定できる。以上のようにして、ピークの強度I
a、I
bを求めることができる。
【0014】
従来の紫外線透過フィルタの酸化ハフニウム層では、
図4に示すように、透過波長域である220~270nmの透過度が、UV照射前の90%から、130時間のUV照射後には80%まで低下している。
これに対し、本実施例の紫外線透過フィルタ100の酸化ハフニウム層111は、
図5に示すように、透過波長域である220~270nmの透過度が、UV照射前の90%から、130時間のUV照射後もほとんど低下していない。
このことで、酸化ハフニウム層の結晶構造を、熱処理または電磁気によりアニール処理によって制御することで、遮断波長域で高い遮光性を維持しつつ、紫外線に対する耐光性を向上でき、長時間の紫外線の照射によっても光干渉膜の透過帯域の透過率の低下を抑制できる事がわかる。
【0015】
なお、基板101は石英に限定されず、例えば、ガラス、色ガラス、水晶、透明樹脂などでもよく、基板101そのものに特定の波長の光を吸収する特性をもたらすもの、例えば、透明樹脂に所定の波長の光を吸収する色素を添加したものであってもよい。
また、光干渉膜110は、酸化ハフニウム層を含んでいれば、酸化ケイ素以外の層と積層されてもよく、3種以上の材質の層が積層されていてもよい。
例えば、酸化ハフニウム(HfO2)層の他に、高屈折率膜としては、Al2O3、ZrO2、LaF3、GdF3等の層、低屈折率膜としては、SiO2、Al2O3,MgF2等の層が存在してもよい。
また、本発明の紫外線透過フィルタは、発光機器、撮像機器、測定機器、通信機器等をはじめ、様々な分野において応用可能である。
【符号の説明】
【0016】
100 ・・・ 紫外線透過フィルタ
101 ・・・ 基板
110 ・・・ 光干渉膜
111 ・・・ 酸化ハフニウム層
112 ・・・ 酸化ケイ素層