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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-16
(45)【発行日】2024-05-24
(54)【発明の名称】BTNL8を発現するT細胞の検出
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/53 20060101AFI20240517BHJP
   C12Q 1/6851 20180101ALI20240517BHJP
   C07K 16/28 20060101ALI20240517BHJP
   C12Q 1/6876 20180101ALI20240517BHJP
   C12N 15/12 20060101ALN20240517BHJP
【FI】
G01N33/53 Y
G01N33/53 D
C12Q1/6851 Z ZNA
C07K16/28
C12Q1/6876 Z
C12N15/12
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2020512006
(86)(22)【出願日】2018-08-28
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-11-05
(86)【国際出願番号】 EP2018073124
(87)【国際公開番号】W WO2019042996
(87)【国際公開日】2019-03-07
【審査請求日】2021-08-11
(31)【優先権主張番号】17188204.6
(32)【優先日】2017-08-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】518322746
【氏名又は名称】トリゼル ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100124431
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 順也
(74)【代理人】
【識別番号】100174160
【弁理士】
【氏名又は名称】水谷 馨也
(74)【代理人】
【識別番号】100175651
【弁理士】
【氏名又は名称】迫田 恭子
(72)【発明者】
【氏名】ハッチンソン ジェイムズ アレクサンダー
【審査官】三木 隆
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2008/0279834(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2009/0142308(US,A1)
【文献】国際公開第2019/110370(WO,A1)
【文献】特表2019-508067(JP,A)
【文献】国際公開第2017/025533(WO,A1)
【文献】特表2013-501057(JP,A)
【文献】特開2016-222708(JP,A)
【文献】L. Walter,Generation of BTNL8+ Inducible Tregs By Allogeneic Human Regulatory Macrophages Is IDO- and B7-Dependent,Transplantation,2014年07月15日,Vol.98,Page.396
【文献】Paloma Riquelme,TIGIT+ iTregs elicited by human regulatory macrophages control T cell immunity,NATURE COMMUNICATIONS,2018年07月20日,Vol.9 No.1,Page.2858
【文献】Paloma Riquelme,Novel molecules mediate specialized functions of human regulatory macrophages,Curr Opin Organ Transplant,2018年,Vol.23,Page.533-537
【文献】Ryan M. Swanson,Butyrophilin-like 2 Modulates B7 Costimulation To Induce Foxp3 Expression and Regulatory T Cell Development in Mature T Cells,The Journal of Immunology,2013年03月01日,Vol.190 No.5,Page.2027-2035
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/53
C12Q 1/6851
C07K 16/28
C12Q 1/6876
C12N 15/12
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象において制御性T細胞(Treg)を検出するための方法であって、該対象から得られた試料において:
(a)Tregと関連することが知られている少なくとも1つのマーカーであって、CD25、CD127、CD121a、CD121b、GARP、LAPおよびFoxP3の群から選択されるマーカー、及び
(b)BTNL8
を検出することを含む、方法。
【請求項2】
次のマーカー:CD3、CD4、TIGITおよびHELIOSのうち1つ以上の検出をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
以下の(a)~(о):
(a)CD4、GARPおよびBTNL8の組み合わせ、
(b)CD4、LAPおよびBTNL8の組み合わせ、
(c)CD4、GARP、LAPおよびBTNL8の組み合わせ、
(d)CD4、CD25、GARPおよびBTNL8の組み合わせ、
(e)CD4、CD25、LAPおよびBTNL8の組み合わせ、
(f)CD4、CD25、GARP、LAPおよびBTNL8の組み合わせ、
(g)CD4、CD127、GARPおよびBTNL8の組み合わせ、
(h)CD4、CD127、LAPおよびBTNL8の組み合わせ、
(i)CD4、CD127、GARP、LAPおよびBTNL8の組み合わせ、
(j)CD4、CD121a、GARPおよびBTNL8の組み合わせ、
(k)CD4、CD121a、LAPおよびBTNL8の組み合わせ、
(l)CD4、CD121a、GARP、LAPおよびBTNL8の組み合わせ、
(m)CD4、CD121b、GARPおよびBTNL8の組み合わせ、
(n)CD4、CD121b、LAPおよびBTNL8の組み合わせ、並びに
(o)CD4、CD121b、GARP、LAPおよびBTNL8の組み合わせ
のいずれか1つの組み合わせの検出を含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
該Tregが定量されるステップをさらに含む、請求項1~3の何れかに記載の方法。
【請求項5】
前記試料が、前記Tregを検出する前に、制御性マクロファージ(Mreg)を含んだ細胞ベースプロダクトが投与された対象に由来する、請求項1~4の何れかに記載の方法。
【請求項6】
前記Tregと関連することが知られている少なくとも1つのマーカーおよび前記BTNL8の検出が、以下の技術:フローサイトメトリー、PCR、RT-PCR、リアルタイムPCRおよびELISAのうち1つ以上を使用する、請求項1~5の何れかに記載の方法。
【請求項7】
前記試料が血液試料または血液由来試料である、請求項1~6の何れかに記載の方法。
【請求項8】
非Tregが陰性対照として使用される、請求項1~6の何れかに記載の方法。
【請求項9】
対象における免疫学的疾患または症状の処置をモニタリングまたは評価するための方法であって、
(a)前記免疫学的疾患または症状の処置が開始された後に前記対象から得られた試料を提供し、前記免疫学的疾患または症状が、移植片拒絶、自己免疫疾患、炎症疾患および過敏症反応からなる群より選択され、前記処置が、Tregの投与若しくはTregを誘導可能な制御性マクロファージ(Mreg)の投与を含み;
(b)請求項1~8に記載の方法を実行し;
(c)BTNL8発現Tregを定量すること
を含み;
処置開始後のBTNL8発現Tregの数の増加が、該処置が有効であることを示す、
方法。
【請求項10】
制御性T細胞(Treg)を単離する方法であって、
(a)Tregを含有するまたは含有すると思われる試料を提供し;
(b)BTNL8およびTregと関連することが知られている少なくとも1つのマーカーの発現により、該試料中に含有される他の細胞からTregを分離することを含み、前記マーカーが、CD25、CD127、CD121a、CD121b、GARP、LAPおよびFoxP3の群から選択される、
方法。
【請求項11】
Tregを検出、濃縮、単離および/または定量するための、BTNL8タンパク質に特異的な親和性を有する化合物の使用。
【請求項12】
前記化合物が、BTNL8に対する抗体または抗体断片である、請求項11に記載の使用。
【請求項13】
T細胞のプール中で制御性T細胞(Treg)を検出するための方法であって、対象から得られた試料において:
(a)Tregと関連することが知られている少なくとも1つのマーカーであって、CD25、CD127、CD121a、CD121b、GARP、LAP及びFoxP3の群より選択されるマーカー、及び
(b)BTNL8
を検出することを含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規Tregマーカーの使用によって、対象の血液中の制御性T細胞(Treg)を検出するための方法に関する。本方法は、細胞表面マーカーBTNL8の検出と組み合わせた、制御性T細胞に対する少なくとも1つの一般に知られているマーカーの検出を含む。本方法により、免疫抑制および免疫寛容の維持などの重要な免疫学的機能に関与するTreg集団の信頼できる検出および定量が可能になる。本発明は、新規マーカーを使用する免疫学的疾患または症状に罹患している対象の処置をモニタリングするための方法も提供する。本発明は、Tregを検出するためのBTNL8の特異的な検出を可能にする手段の使用にも関する。BTNL8とともに広く一般に知られているTregのマーカーを検出するための手段を含むキットも提供される。
【背景技術】
【0002】
寛容性を確立する手段としての免疫学的に寛容なドナーから非寛容個体への免疫制御細胞の移動が現在真剣に注目されている[1]。免疫制御細胞のいくつかのクラス[2]は、現在、制御性T細胞(Treg)および抑制性骨髄細胞の様々な種を含め、実質臓器移植での使用のための補助的免疫抑制剤として開発されている[3-5]。
【0003】
Tregは、その免疫抑制効果のためにこの点で特に有用であることが証明されている制御性細胞の1タイプである。Tregは、免疫反応を抑制し、同種ドナーからの細胞または臓器に対する免疫寛容性を促進する能力を有するT細胞のサブグループである。近年、様々な生理学的および病理学的免疫反応を制御する際のTregの役割が明らかになってきており、自己免疫疾患、実質臓器移植および造血幹細胞移植の処置のためのTregの使用が示唆されている。ドナーからTregを単離し、これらの細胞をエクスビボで増量させ、処置する患者にそれらを注入し、それらが移植の免疫学的拒絶を抑制するという、いくつかの試験が現在進行中である。このようなアプローチにおいて、患者に注入された抑制性Tregのモニタリングは、処置効率を予測するために重要である。したがって、患者へのTreg投与後、Tregの検出およびモニタリングを可能にするマーカーが必要とされる。
【0004】
このようなマーカーは、単離Tregの投与に依存する処置に有用であるだけでなく、患者においてTregを誘導する能力を有する他のタイプの免疫制御細胞に基づく治療アプローチに対しても有用である。例えば、ヒト制御性マクロファージ(Mreg)は、細胞ベース医薬品としてのその開発において既に非常に進展している細胞タイプである[6]。早くも2008年に、免疫抑制薬処置への生体ドナー腎臓移植レシピエントの長期依存を短縮することを意図して、生体ドナー腎移植レシピエントを粗製Mreg調製物で術前に処置した[7]。Mregはマクロファージ分化の特有の状態を反映しており、それらの誘導方式、比較的安定な表現型および強力なサプレッサー機能により、他の活性化状態においてマクロファージとは区別される[8-9]。ヒトMregは、プラスチック面との接触、血清免疫グロブリンによるCD16のライゲーションおよび他の血清因子への曝露を必要とする時間依存的過程を通じて高濃度のヒト血清[10]とともに培養されたM-CSF刺激CD14+末梢血単球から発生する[11]。これらの培養条件下で、ヒトMregは徐々にそれらの特徴的な伸展形態および細胞表面表現型を獲得する。ヒトMregは、IFN-γ誘導性インドールアミン2,3-ジオキシゲナーゼ(IDO)活性を通じてインビトロでのマイトジェン刺激型同種T細胞増殖を妨げ、同時に活性化された同種T細胞の接触依存的な除去に介在する[12]。Mreg産生およびそれらの安定的な抑制活性の単純性により、それらは、免疫抑制療法での使用のための細胞ベース治療製品として適切となる。異所性マウス心臓移植モデルにおける前臨床実験から、i.v.注射により投与されるドナー系列Mregが免疫適格性の、完全にミスマッチのレシピエントにおける同種移植片生存を延長させる能力が明らかになった[13]。マウスへのi.v.注射後、同種Mregが肺、肝臓および脾臓に急速に蓄積したが、リンパ節には蓄積せず、それらは最長4週間にわたり持続した。Mregは、それらの生涯期間を超えて耐える移植片保護効果を発揮し、この効果には、レシピエントにおいて誘導されるTregが介在する。したがって、免疫抑制性TregはMreg誘導性免疫応答にも重要な役割を果たすと思われるので、それらの特異的な検出および定量はMreg療法の有効性を評価するために重要である。
【0005】
免疫抑制性Tregに対して特徴的であるマーカーパターンは、当技術分野で記載されており、CD3+、CD4+、CD25+、CD127low、LAP+、GARP+およびFOXP3+を含む。しかし、上記のマーカーによるTregの検出には問題があることが多く、曖昧な結果につながる。例えば、マーカーLAPおよびGARPは低レベルで発現されるが、これはつまり、弱陽性細胞と陰性細胞との区別が困難である場合があるということである。結果として、免疫抑制性Tregのかなりの部分が、蛍光標識細胞分取(FACS)または磁気ビーズに基づく分離などの細胞ソーティング法から漏れることが分かった。
【0006】
上記マーカーパターンの別の欠点は、マーカーFOXP3が細胞内転写因子であることであり、これはつまり、抗体が細胞に浸透し、このマーカーが発現される核に侵入することを可能にするためにT細胞が死滅させられざるを得ないということである[14]。したがって、FOXP3では、FACSまたは磁気ビーズに基づくソーティングによる生存可能なTreg細胞のソーティングが可能とならない。さらに、エフェクターT細胞は、それらの活性化時にFOXP3を上方制御させる[15]。同様に、マーカーCD3+、CD4+、CD25+およびCD127lowは、制御性Tregに特異的ではないが、ヒトT細胞の他の型と共通である。
【0007】
多くの疾患および障害の処置のためのTregの根本的な関連性ゆえに、免疫抑制性Tregを検出し、モニタリングするのに有用である特異的なマーカーをさらに同定することが必要である。今回、本発明の過程で、免疫抑制性Tregがそれらの表面または細胞内貯蔵内で、エフェクターT細胞または他の型のT細胞よりも高いレベルのブチロフィリン様タンパク質8(BTNL8)を発現すると思われることが分かった。したがって、BTNL8は、免疫抑制性Tregの特異的な同定、検出、単離、定量、モニタリングおよび/または濃縮に使用され得る。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明は、BTNL8が免疫抑制性Tregの表面上に存在するという洞察に基づく。したがって第1の態様において、本発明は、対象において免疫抑制性Tregを検出するための方法を提供し、この方法は、対象から得られた細胞試料において、
(a)Tregと関連することが知られている少なくとも1つのマーカー;
(b)マーカーBTNL8
を検出することを含む。
【0009】
本発明の方法は、活性化免疫抑制性Tregにより発現されることが知られ、ある程度までこれらの細胞に特異的である少なくとも1つの広く一般に知られるマーカーと組み合わせた、新規マーカーBTNL8の検出に依存する。
【0010】
BTNL8は、ブチロフィリンファミリーに密接に関連するヒトにおける4員ブチロフィリン様遺伝子ファミリーに属する、あまり研究されていない細胞表面受容体であり、これらの両ファミリーは構造的および機能的にB7-同時刺激分子と関連がある。BTNL8は、IgVおよびIgCドメインを含む細胞外領域があるI型膜タンパク質である[16]。これは、T細胞により発現される、現在のところ特徴が分かっていない受容体に対する同時刺激または同時阻害リガンドとして働く細胞表面受容体である。BTNL8は、2つの異なる変異体の形態:57kDaのBTN様変異体および約37kDaのB7様変異体で発現される。57kDaのBTN様変異体は、37kDアイソフォームから欠失している細胞内B30.2ドメインを組み込む。両BTNL8 mRNAスプライシング変異体の発現は、好中球および好酸球[17]ならびに腸細胞において以前に報告されたが、T細胞、B細胞、NK細胞または単球におけるBTNL8発現は以前には報告されていない。以下の例で報告される一連の実験において、37kDaのB7様変異体は、Mreg細胞とともにそれらを共培養することによって活性化されている誘導型Treg(iTreg)により高度に上方制御されることが分かった。したがって、本願においてBTNL8に言及する場合、約37kDaの分子量を有するBTNL8のB7様変異体を意味する。BTNL8のB7様スプライシング変異体のヌクレオチド配列は本明細書中の配列番号1で示す。BTNL8のアミノ酸配列は配列番号2で示す。
【0011】
Tregに対する特異性を達成するために、マーカーBTNL8の検出を、免疫抑制性Tregにより発現されることが知られる少なくとも1つのマーカーの同時または連続的検出と組み合わせる。免疫抑制性Tregに特徴的であるマーカーは、当技術分野で公知であり、GARP、LAP、CD25、CD127、CD121a、CD121bおよびFoxP3が挙げられるが限定されない。これらのマーカーのうち1つ以上を新規BTNL8マーカーと組み合わせることによって、試料中での免疫抑制性Tregの非常に特異的な検出が実現可能となる。FoxP3とは異なり、新規マーカーBTNL8は免疫抑制性Tregの表面で発現され、したがってこれは、FoxP3に対する代用マーカーとして多くの設定で使用され得る。
【0012】
本発明の方法の一実施形態において、BTNL8がCD25と組み合わせて使用される。本明細書中で使用される場合、CD25は、インターロイキン-2(IL-2)受容体α鎖を指し、IL2RA遺伝子によりヒトにおいて含まれるタンパク質である[18]。IL2受容体α(IL2RA)鎖は、IL2受容体β(IL2RB)鎖およびIL2受容体γ鎖(IL2RG)と一緒に、高親和性のIL-2受容体を形成する。CD25は、T細胞、B細胞、一部の胸腺細胞、骨髄前駆細胞およびオリゴデンドロサイト上で提示されるI型受容体タンパク質である。このような実施形態において、免疫抑制性Tregは、マーカープロファイルBTNL8+CD25+により同定され得る。
【0013】
本発明の方法の別の実施形態において、BTNL8がCD127と組み合わせて使用される。本発明に関連して、CD127はインターロイキン-7受容体のαサブユニットを指す[19-20]。ヘテロ二量体インターロイキン-7受容体は、2本の個別のタンパク質鎖、すなわちインターロイキン-7受容体-α(CD127)および共通γ鎖受容体(CD132)からなる。CD127がインターロイキン-7受容体に特有である一方で、共通γ鎖受容体は、インターロイキン-2、-4、-9および-15を含め、様々なサイトカインと共有される。CD127は、ナイーブおよびメモリーT細胞を含め、様々な細胞型で発現される。重要なこととして、Tregは、従来のT細胞で観察されるものと比較してCD127発現が顕著により低いことを特徴とする。このような実施形態において、免疫抑制性Tregは、マーカープロファイルBTNL8+CD127lowにより同定され得る。
【0014】
本発明の方法のまた別の実施形態において、BTNL8がマーカー反復優位糖タンパク質A(glycoprotein A repetitions predominant)(GARP)と組み合わせて使用される。この80kDa膜貫通タンパク質は、662アミノ酸からなり、主に20ロイシンリッチ反復から構成される細胞外領域を有する[21-22]。GARPは、細胞発生において重要な役割を果たすことが示唆されているが、その実際の機能は未知である。GARPは免疫抑制性Tregの表面上で発現されることが示されている。このような実施形態において、免疫抑制性TregはマーカープロファイルBTNL8+GARP+により同定され得る。
【0015】
本発明の方法のまた別の実施形態において、BTNL8は、マーカーとして潜伏期関連ペプチド(LAP)と組み合わせて使用される。LAPは、一般的にTGF-β不活性を維持するためにTGF-βと会合するタンパク質である。TGF-βは、それが2つのポリペプチド[23-24]、すなわち潜在型TGF-ベータ結合タンパク質(LTBP)および潜伏期関連ペプチド(LAP)と複合体化する潜在型形態で、多くの細胞型により分泌される。その分泌後、血清プロテイナーゼが複合体からの活性TGF-βの放出を触媒する。TGF-βは、T細胞制御および分化の両方においても重要な役割を果たす。このような実施形態において、免疫抑制性TregはマーカープロファイルBTNL8+LAP+により同定され得る。
【0016】
本発明の方法のまた別の実施形態において、BTNL8がCD121aと組み合わせて使用される。本明細書中で使用される場合、CD121aは、インターロイキン1受容体(IL1R)ファミリーに属するインターロイキン1受容体I型、シングルパス、I型膜貫通糖タンパク質を指す。CD121aは、IL-1介在性炎症の誘発に関与することが分かっている[25]。このような実施形態において、免疫抑制性Tregは、マーカープロファイルBTNL8+CD121a+により同定され得る。
【0017】
本発明の方法のまた別の実施形態において、BTNL8がCD121bと組み合わせて使用される。本明細書中で使用される場合、CD121bは、同様にインターロイキン1容体(IL1R)ファミリーに属するインターロイキン1受容体II型を指す。CD121bは、インターロイキン-1α、インターロイキン-1βおよびインターロイキン1受容体アンタゴニストに対するデコイ受容体であり、それにより、それらがその通常の受容体と結合し、そのシグナル伝達を阻害することが妨げられる。このような実施形態において、免疫抑制性Tregは、マーカープロファイルBTNL8+CD121b+により同定され得る。
【0018】
一般的には、マーカーの検出は、Tヘルパー細胞など、T細胞またはT細胞サブ集団上に存在することが一般に知られているマーカーも含む。したがって、Tregの検出は、T細胞マーカーCD3およびCD4も含むことが特に好ましい。マーカーCD3およびCD4は、T細胞の検出およびソーティングのために広く使用される周知のマーカーである。CD3が全てのT細胞の表面上に存在する一方で、CD4は、(Tregが属する)Tヘルパー細胞により発現される。したがって、CD3およびCD4の陽性検出によって、両方の表面マーカーを有する細胞がTヘルパー細胞であるという結論が可能となる。
【0019】
発明者らは、IDO依存性機序を通じて共培養T細胞においてMregがTIGIT発現を強く誘導したことを発見した。したがって、別の実施形態において、本発明の方法は、少なくとも1つの既知のTregマーカーおよびBTNL8の検出の他に、TIGITの検出も含む。さらに別の実施形態において、本発明の方法は、少なくとも1つの既知のTregマーカーおよびBTNL8の検出の他に、マーカーHELIOSの検出も含む。
【0020】
本開示に基づき、当業者は、Tregを確実に同定し、検出する様々なマーカーパターンを容易に設計可能である。原則として、新しいマーカーBTNL8を1つのさらなるTregマーカーと組み合わせることが十分なものである一方で、検出の特異性を向上させるために、2つを超えるマーカーを同時に使用することが好ましい。特に、検出された細胞がTヘルパー細胞の群に属することを確実にするためにさらなるマーカーとしてCD4を使用することが好ましい。本発明の実施に際した使用のための好ましいマーカーパターンは、次のマーカーの検出を含む:
(a)CD4、GARPおよびBTNL8、
(b)CD4、LAPおよびBTNL8、
(c)CD4、GARP、LAPおよびBTNL8、
(d)CD4、CD25、GARPおよびBTNL8、
(e)CD4、CD25、LAPおよびBTNL8、
(f)CD4、CD25、GARP、LAPおよびBTNL8、
(g)CD4、CD127、GARPおよびBTNL8、
(h)CD4、CD127、LAPおよびBTNL8、
(i)CD4、CD127、GARP、LAPおよびBTNL8、
(j)CD4、CD121a、GARPおよびBTNL8、
(k)CD4、CD121a、LAPおよびBTNL8、
(l)CD4、CD121a、GARP、LAPおよびBTNL8、
(m)CD4、CD121b、GARPおよびBTNL8、
(n)CD4、CD121b、LAPおよびBTNL8、
(o)CD4、CD121b、GARP、LAPおよびBTNL8。
【0021】
本発明によれば、Tregの検出は定性または定量ベースで行われ得る。いくつかの適用に対して、所望のマーカーパターンを有するある特定の細胞の存在を検出することは十分である。しかし、殆どの適用に対して、標的細胞を定量的に評価することが好ましい。したがって、上記方法は、Tregが定量されるさらなるステップを含み得る。細胞の定量は、特異的な検出方法に主に依存する様々な手段により達成され得る。例えばRT-PCRまたはフローサイトメトリーによる検出の定量は当技術分野で周知である。
【0022】
本発明の方法で使用される細胞試料は、免疫抑制性Tregを含有するかまたはそれを含有すると思わわれる何らかの試料であり得る。例えば、細胞試料は、例えばコアニードルバイオプシー、穿刺吸引などによって、試験する対象から得られている組織試料であり得る。本発明の方法で使用する前に、例えば細胞溶解および続くRNA精製によって、適切な緩衝液での希釈によって、または例えば蛍光標識抗体で細胞を染色することによって、試料をマーカー分析に適したものとするために、試料を処理し得る。特に好ましい実施形態において、対象から得られた細胞試料は、血液試料または血液試料由来である試料、例えば血清または血漿試料などである。
【0023】
特に好ましい本発明の実施形態において、本方法は、必要とする対象へのMregの投与により誘導されているTregの検出を目的とする。その場合、試料は、そのTreg検出前に細胞ベースプロダクト(cell-based product)が投与された対象由来であり、この細胞ベースプロダクトは好ましくはMregを含んだものである。
【0024】
特に好ましい実施形態において、ステップ(a)および(b)におけるマーカーの検出は、BTNL8および/または転写レベルでTregと関連することが知られている上記で論じたマーカーのうち少なくとも1つを測定することを含む。転写レベルでBTNL8遺伝子の発現をモニタリングするための適切な方法としては、好ましくは、mRNAレベルの定量的または半定量的検出を可能にするもの、例えば定量的RT-PCR(例えばTaqMan(商標)RT-PCR)、リアルタイムRT-PCR、ノーザンブロット分析または例えばSambrookら(eds.)Molecular Cloning:A Laboratory Manual,2nd ed.,Cold Spring Harbor Laboratory Press,1989に一般的に記載される他の方法が挙げられる。
【0025】
転写レベルでの発現レベルの検出は、通常、第1ステップとして対象の細胞試料からの、例えば血液試料からの、mRNAの単離を必要とする。mRNAなどのRNAを単離するための方法は、当技術分野で周知であり、文献で詳細に論じられている(例えばSambrookら(1989)、Molecular Cloning-A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory,Cold Spring Harbor,New YorkおよびAusubelら(1994),Current Protocols in Molecular Biology,Current Protocols Publishing,New York参照)。このような方法は、通常は試験する対象から得られる細胞または組織の溶解を含む。細胞溶解は細胞の形質膜を破壊可能である界面活性剤の使用によって行われ得る。例えば、グアニジンチオシアン酸塩および/またはSDSを含有する緩衝液を細胞溶解のために使用し得る。本方法は、発現レベルのモニタリングなど、さらなる下流の適用を妨害し得るDNAの痕跡のない純粋なRNAを得るために細胞のDNAを酵素により消化するステップを含み得る。RNAの分解につながる酵素の阻害剤も溶解緩衝液に添加され得る。高度精製RNAを調製するためのキットは、Qiagen、Ambion、Stratagene、Clontech、Invitrogen、Promegaなど、いくつかの製造者から入手可能である。
【0026】
市販キットの使用により細胞または組織試料から単離されるRNAは通常、様々なタイプのRNAを含む。好ましくは、組織試料から得られたRNAは、mRNA、転移RNA(tRNA)およびリボソームRNA(rRNA)を含むトータルRNAである。本発明の方法については、mRNA分画を他の細胞性RNAの分画に対して濃縮することが望ましい。好ましくは、mRNAを他のRNA分子から分離する。mRNAを濃縮するかまたは精製するための方法は当技術分野で公知である。例えば、mRNAがそれらの3’末端でポリ(A)テールを含有するので、セルロースもしくはSephadex(商標)マトリクスなどの固体マトリクスにカップリングされるオリゴ(dT)またポリ(U)を使用するアフィニティークロマトグラフィーが行われ得る(例えばAusubelら(1994)、Current Protocols in Molecular Biology,Current Protocols Publishing,New York参照)。アフィニティーマトリクスに結合されているポリ(A)+mRNAは、2mM EDTA/0.1%SDSを使用して溶出され得る。
【0027】
転写レベルで発現を検出するための通常使用される1つの方法はRT-PCRである。この方法において、逆転写(RT)反応によりmRNA鋳型がcDNAに移される。RNA鋳型の逆転写は逆転写酵素により触媒され、特異的なオリゴヌクレオチドプライマーにより、または代わりにオリゴ-dTプライマーにより反応が刺激され得る。次に、続くPCR反応のための鋳型としてcDNAを使用する。続くPCRステップにおいて、特異的なオリゴヌクレオチドプライマーおよびポリメラーゼ酵素、例えばTaqポリメラーゼの使用によりcDNAを増幅させる。好ましい実施形態において、リアルタイムRT-PCRとしてRT-PCR反応が行われるが、これにより、リアルタイムで増幅DNAの検出および同時定量が可能になる。絶対コピー数として、またはさらなる遺伝子発現産物の使用により正規化された相対量としての何れかで定量が行われる。
【0028】
さらなる好ましい実施形態において、BTNL8遺伝子および/または他のTregマーカー遺伝子の発現レベルを決定するためにTaqMan RT-PCRが使用される。TaqMan RT-PCRは、PCR中の特異的な増幅産物の蓄積を検出するフルオロフォアに基づくRT-PCR法である。TaqMan RT-PCRにおいて、RNAが最初に逆転写酵素によってcDNAに転写される。続くPCR反応において、DNA鋳型内であり、2つのPCRプライマーの間にある10~60ヌクレオチドのセグメントに相補的である1本鎖オリゴヌクレオチドプローブを添加する。フルオロフォアおよびクエンチャー色素をそれぞれプローブの5’および3’末端に共有結合させる。あるいは、クエンチャー色素を内部ヌクレオチドに結合させることもでき、一方でフルオロフォアをプローブの5’または3’末端に結合させるか、またはその逆を行う。フルオロフォアとプローブに結合されたクエンチャー色素との間の近接近により、そのフルオロフォアが選択的に励起されたとき、フルオロフォアからの蛍光発光が阻害される。PCRにおけるDNA合成中、Taqポリメラーゼの5’エクソヌクレアーゼ活性によって、鋳型DNAとハイブリッド形成するオリゴヌクレオチドプローブが切断され、それによりフルオロフォアおよびクエンチャー色素が空間的に分離される。PCRサイクリング中に蛍光を検出するが;これは放出されるフルオロフォアおよびPCR中に存在するDNA鋳型の量に正比例する。当技術分野で公知である全てのフルオロフォア-クエンチャー対を本発明の方法において使用し得る。適切なフルオロフォアの例は、FAM(6-カルボキシフルオレシン)、TET(テトラクロロフルオレシン)またはVICである。適切なクエンチャー色素はTAMRA(テトラメチルローダミン)である。TaqManアプローチにおいてプローブとして使用されるオリゴヌクレオチドの構築および標識は、文献において非常に詳細に記載されている。例えばABI PRISM 7700システム(Perkin-Elmer/Applied Biosystems,Foster City,Calif,USA)またはLightcyclerシステム(Roche Molecular Biochemicals,Manheim,Germany)を使用してTaqManアプローチRT-PCR反応を行い得る。
【0029】
マイクロアレイは、発現プロファイリングにおいて別の一般的に使用されるツールである。マイクロアレイは、基質上の空間的に分離されるプローブ、例えば核酸プローブ、の整然とした配列を指す。このようなアレイは、関心のある遺伝子、例えばBTNL8遺伝子および/または他のTregマーカー遺伝子と相補的であり、したがって個々の遺伝子配列またはその転写産物とハイブリッド形成する、少なくとも1つ、および好ましくは複数のオリゴヌクレオチドを含有し得る。基質は、好ましくは、表面の異なる既知の位置(スポット)に複数のプローブが結合している固体基質である。マイクロアレイ上のスポットは、通常、マイクロアレイ上に印刷されるかまたはフォトリソグラフィーもしくはインクジェット印刷により合成されるかの何れかである。一般的なマイクロアレイ上には数千個のスポットがあり得、各スポットが核酸断片またはオリゴヌクレオチドなどの多数の同一プローブを含有し得る。このようなマイクロアレイは一般的には少なくとも100オリゴヌクレオチドまたは断片/cm2の密度を有する。ある一定の実施形態において、アレイは、およそ、少なくとも500、少なくとも1000、少なくとも10,000、少なくとも105、少なくとも106、少なくとも107オリゴヌクレオチドまたは断片/cm2の密度を有し得る。支持体は、ガラスまたはプラスチックスライドまたは固定された位置またはスポットにプローブが結合している表面上の膜であり得る。
【0030】
本明細書中で言及されるPCRまたはRT-PCR反応で使用されるプライマーまたはプローブは、特異的なハイブリッド形成および個々のTregマーカー遺伝子、BTNL8遺伝子内の標的配列の連続増幅が可能になるように設計される。本開示に基づき、熟練者は、個々のTregマーカー遺伝子の発現を検出するために使用し得るオリゴヌクレオチドプライマーおよび/またはプローブを容易に設計可能である。PCRまたはRT-PCRのための配列特異的なオリゴヌクレオチドプライマーを設計するための方法は、科学文献、例えばDieffenbachおよびDveksler,“PCR Primer”,A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory Press,New York,2003で非常に詳細に論じられている。PCRプライマーを設計する際に考慮すべきパラメーターとしては、例えば、ヌクレオチド数、プライマーのG/C含量、融解温度、二次構造につながり得る相補的ヌクレオチドの存在などが挙げられる。本発明の方法での使用のためのオリゴヌクレオチドは、好ましくは少なくとも8ヌクレオチド、より好ましくは少なくとも10、12、14、16、18、20、22、24、26、28、30、32、34、36、38、40、42、44、46、48または50ヌクレオチドの長さを有する。当技術分野で公知である何らかの適切な技術によって、オリゴヌクレオチドプライマーを調製し得る。例えば、それらは、合成由来、例えばホスホアミダイト法によるものであり得る。天然のヌクレオチド塩基アデニン、チミン(ウリジン)、シトシンまたはグアニンを含有するオリゴマーまたはポリマーだけでなく、本発明のオリゴヌクレオチドプライマーは、修飾された塩基、例えば5-メチルシトシン、5-ヒドロキシメチルシトシンなども含み得る。
【0031】
BTNL8の検出のためのプローブおよびプライマーは、ヒトBTNL8遺伝子のコード配列、すなわちmRNAのスプライシング後に得られる配列、である配列番号1で示されるBTNL8配列に基づき通常の方法に従い設計され得る。好ましくは、発現レベルの検出を対象とする本発明の方法は、配列番号1で示されるヒトDNA配列に対応するmRNA配列を利用する。例えば天然の多型の結果から、ヒトBTNL8遺伝子のポリヌクレオチド配列は、限定数の配列の逸脱を示し得ることが認識される。したがって、結果として配列番号1の配列に対して少なくとも約90%、95%、96%、97%、98%、99%またはより高い配列同一性を示すmRNA分子を生じさせるポリヌクレオチドもBTNL8遺伝子という用語により包含される。例えばWisconsin Sequence Analysis Package,Version 8においてヌクレオチド配列間の同一性の度合いを決定するためのコンピュータプログラムは入手可能であり(Genetics Computer Group,Madison,USAから入手可能)、例えばプログラムBESTFIT、FASTAおよびGAPを含み、これらはSmithおよびWatermanのアルゴリズムに基づく。製造者により推奨されるとおり、標準的なパラメーターとともにこれらのプログラムを使用し得る。
【0032】
T細胞においてBTNL8 mRNAが高レベルに検出される場合、この細胞がTreg細胞であることが想定され得る。エフェクターT細胞などの非Treg細胞もある程度までBTNL8を発現する可能性がある一方で、このような発現は比較的低い。本発明によれば、それゆえに、非Treg細胞による、特にエフェクターT細胞によるBTNL8(または何らかの他のTregマーカー)の発現が陰性対照として使用されることが好ましい。陰性対照における、すなわち例えばエフェクターT細胞などの非Treg細胞における個々の量よりも、少なくとも約50%、少なくとも約75%、少なくとも約150%、少なくとも約200%、少なくとも約250%、少なくとも約300%、少なくとも約350%、少なくとも約400%、少なくとも約450%、少なくとも約500%、少なくとも約550%、少なくとも約600%、少なくとも約750%または少なくとも約1000%高いRNAレベルでBTNL8発現を測定することにより、試験した細胞が免疫抑制性Treg細胞であることが明らかに示される。
【0033】
また別の特に好ましい実施形態において、ステップ(a)および(b)におけるTregマーカーの検出は、翻訳レベルでのTregマーカー遺伝子発現の検出を含む。これは、BTNL8などの個々のTregマーカーのタンパク質レベルが決定されることを意味する。Tregタンパク質レベルは、生体試料中でBTNL8タンパク質を特異的に検出することが可能な何らかの適切な方法により決定され得る。このタンパク質の検出は、このタンパク質に特異的に結合する分子に基づき得るか、またはこれは、このタンパク質を試料中に存在する他のタンパク質から分離することに基づき得る。Tregマーカータンパク質に特異的に結合する分子としては、BTNL8などのTregマーカーに対して結合活性を有する抗体および抗体断片が挙げられる。GARP、LAP、CD25、CD127、CD121a、CD121bおよびFoxP3のようなTregマーカータンパク質を対象とする多くの抗体が調製されており、商業的に購入し得る。このような抗体またはその断片は、ウエスタンブロット、定量的ウエスタンブロット、酵素結合免疫吸着法(ELISA)、極性化分析、(定量的)表面プラズモン共鳴(SPR)において、または定量的電子顕微鏡法を含め、免疫組織化学的方法において、Tregマーカータンパク質の検出のために使用され得る。本発明の特に好ましい実施形態において、上記方法のステップ(a)および(b)での検出はELISAを使用する。特異的な結合を検出することが可能な他の方法としては、例えば蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)が挙げられる。生体試料中でそのタンパク質を他の構成要素から分離することによるTregマーカータンパク質の定量的検出を可能とする方法としては、定量的質量分析法、電気泳動法、例えば二次元ゲル電気泳動など、およびクロマトグラフィー法、例えばサイズ排除クロマトグラフィーまたはイオン交換クロマトグラフィー、などが挙げられる。
【0034】
上記のように、エフェクターT細胞もBTNL8を少量産生し得る可能性がある。したがって、陰性対照を提供するためにエフェクターT細胞などの非Treg細胞のタンパク質レベルも測定すべきである。試験した細胞に対するタンパク質レベルから、BTNL8発現が陰性対照よりも高いことが明らかになる場合、これによって、試験した細胞がTregであると結論付けることが可能となる。具体的に、陰性対照における、すなわちエフェクターT細胞などの非Treg細胞における個々の量よりも少なくとも約50%、少なくとも約75%、少なくとも約150%、少なくとも約200%、少なくとも約250%、少なくとも約300%、少なくとも約350%、少なくとも約400%、少なくとも約450%、少なくとも約500%、少なくとも約550%、少なくとも約600%、少なくとも約750%または少なくとも約1000%高いタンパク質レベルでBTNL8発現を測定することにより、試験した細胞が免疫抑制性Treg細胞であることが明らかに示される。
【0035】
本発明のさらにより好ましい実施形態において、本発明の方法のステップ(a)および(b)におけるTregマーカーの検出は、フローサイトメトリーを含む。フローサイトメトリーは、細胞表面マーカーおよび細胞内分子の発現を分析するために広く使用される方法である。これは、細胞カウント、細胞ソーティングおよびバイオマーカープロファイリングのような適用に日常的に使用される。特にこれは不均質な細胞集団中で異なる細胞型を定めるために使用され得る。フローサイトメトリーは主に、細胞表面上のマーカーを検出する蛍光標識抗体により生成される蛍光強度を測定するために使用される。これは細胞内マーカーの検出にも使用され得るものの、抗体が細胞に浸透しなければならならず、細胞を殺してしまうので、このような検出はあまり望ましくない。これにより、生存可能な均質細胞集団の提供を目的とする細胞ソーティング適用のための細胞内マーカーの検出が妨げられる。
【0036】
Tregの表面上でBTNL8が発現されるという洞察から、Tregの誘導を目的とする免疫疾患の処置をモニタリングする機会がもたらされる。したがって、本発明の第2の態様において、対象において免疫疾患または症状の処置をモニタリングまたは評価するための方法が提供され、この方法は、
(a)前記の免疫疾患または症状の処置が開始された後に対象から得られた試料を提供し;
(b)上記の検出方法を行い;
(c)BTNL8発現Tregを定量すること;
を含み、処置開始後のBTNL8発現Treg数の増加は処置が有効であることを示す。
【0037】
この方法により、このようなTregの検出および定量が特異的に可能になるので、患者におけるTreg数の増加を求める免疫疾患または障害の処置が有効か否かを決定することが可能になる。前記方法の第1ステップにおいて、試料は免疫学的疾患または症状に罹患している対象から提供される。好ましくは、この試料は、血漿または血清試料などの血液または血液由来試料である。対象における免疫学的疾患または症状の処置は既に始まっている。例えば、対象は、試料回収の6時間、12時間、24時間または48時間前に免疫学的疾患または症状の処置に対する投薬を受けているものであり得る。試料は、本明細書中の他所で論じられるような従来の方法により対象から得られ得る。続くステップにおいて、BTNL8発現Tregを検出するために、本発明の第1の態様による検出方法が行われる。次に、BTNL8発現Tregを定量し、場合によっては陰性対照と比較する。適切な陰性対照は、処置の開始前の同じ対象、すなわち投薬を全く受けていない対象からの試料であり得る。BTNL8発現Treg数の増加は、投与される医薬品、例えばMregベース組成物(Mreg-based composition)などが有効であり、Tregを誘導することを示す。
【0038】
処置は、特に、上記方法により定量されるBTNL8発現Treg数が、未処置対象、すなわち処置が開始される前の対象におけるBTNL8発現Treg数と比較して、少なくとも2倍、少なくとも5倍、少なくとも10倍、少なくとも20倍、少なくとも50倍、少なくとも75倍、少なくとも100倍、少なくとも150倍、少なくとも250倍、少なくとも500倍または少なくとも1000高い場合、有効である。
【0039】
免疫学的疾患または障害の処置は、Tregの投与または、代わりにTregを誘導可能な化合物または細胞の投与を含み得る。処置は、好ましくは細胞ベース組成物(cell-based composition)の投与を含む。細胞ベース組成物は、例えば抑制性骨髄細胞またはMregを含み得る。Tregの誘導または投与により処置され得るかまたは緩和され得る免疫学的疾患または障害は、器官、組織または細胞移植片など、移植を受けた対象において移植片拒絶を抑制するかまたは移植片生存を延長させることを求める処置を含む。移植する器官は例えば腎臓、肝臓、心臓、肺または膵臓であり得る。レシピエントに移植する器官がヒト器官であることが特に好ましい。移植片は組織移植片でもあり得る。移植される組織は、好ましくはヒト組織、例えば腸、角膜、皮膚、複合組織、骨髄または膵臓の膵島組織などである。移植片が細胞移植片である場合、移植する細胞の性質は一般に制限されないが、移植される細胞が、成人幹細胞移植片、単離肝細胞移植片、造血幹細胞(HSC)移植片または白血球細胞移植片からなる群から選択されることが好ましい。移植片は通常、同種移植片、すなわち遺伝学的に異なるがレシピエントと同種に属するドナー由来の移植片である。
【0040】
レシピエントにおける移植片拒絶の抑制および同種器官、組織または細胞移植片の受容の誘導は、Mregの投与により誘導され得る。細胞は、注射または点滴により静脈内投与され得る。注射または点滴は術前または術後の何れかに与えられ得る。細胞が術前に投与される場合、それらは、術前に少なくとも1回、好ましくは2回、より好ましくは3回レシピエントに投与される。
【0041】
MregがTregの誘導のために使用される場合、手術の1週間前より早くない時期に、例えば手術の6日、5日、4日、3日、2日または1日前に、レシピエントにMregが投与されることが好ましい。Mreg細胞が術後に投与される場合、最初の投与は、好ましくは術後24時間以内、より好ましくは術後36時間、48時間、60時間または72時間以内に与えられる。あるいは安定に免疫抑制された移植片レシピエントにおいて、移植後の何れかの時点でMreg治療薬を投与し得る。あるいは、急性または慢性移植片拒絶を起こしている移植片レシピエントにMregを投与し得る。そして、Mregは、移植片に対するレシピエントの免疫系のT細胞反応を忌避すること、およびレシピエントに対して長期移植片受容を付与するための十分な長期間にわたりレシピエントの身体(特に脾臓、肝臓、肺および骨髄)において持続させることが可能である。
【0042】
Tregにより処置され得る免疫学的疾患としては、免疫状態の制御解除または過剰な炎症反応、特に慢性炎症疾患を特徴とする疾患または障害がさらに挙げられる。このような疾患または障害としては、例えば、自己免疫疾患、炎症疾患および過敏症反応が挙げられる。疾患は、局所または全身自己免疫状態であり得る。処置する自己免疫疾患のタイプとしては、全身性紅斑性狼瘡(SLE)、強皮症、シェーグレン症候群、多発性筋炎、皮膚筋炎および他の全身性自己免疫状態;関節リウマチ(RA)、若年性関節リウマチおよび他の炎症性関節炎;潰瘍性大腸炎、クローン病および他の炎症性腸疾患;自己免疫肝炎、原発性胆汁性肝硬変および他の自己免疫肝臓疾患;皮膚小血管脈管炎、多発性血管炎を伴う肉芽腫症、多発性血管炎を伴う好酸球性肉芽腫症、ベーチェット病、閉塞性血栓血管炎、川崎病および自己免疫病因の他の大、中または小血管血管炎;多発性硬化症(MS)および神経免疫学的障害;I型糖尿病、自己免疫甲状腺機能不全、自己免疫下垂体機能不全および他の自己免疫内分泌障害;溶血性貧血、血小板減少性紫斑病および血液および骨髄の他の自己免疫障害;乾癬、尋常性天疱瘡、類天疱瘡および皮膚に関連する他の自己免疫状態が挙げられる。
【0043】
処置は急性または慢性炎症疾患または病態生理学的に重要な炎症性要因を伴う疾患も対象とし得る。処置する炎症疾患は局所または全身性であり得る。Tregが有効である炎症疾患または症状のタイプは限定されず、動脈閉塞疾患、例えば末梢動脈閉塞疾患(pAOD)、重症虚血肢、動脈硬化症、大脳梗塞、心筋梗塞、腎臓梗塞、腸閉塞、狭心症および動脈硬化または狭窄により引き起こされる他の症状;心臓シンドロームXとしても知られる微小血管アンギナ;II型糖尿病および肥満関連メタボリックシンドロームを含む、炎症を付随する全身性代謝性疾患;または湿疹を含む皮膚疾患が挙げられるが限定されない。好ましくは、処置する炎症疾患は、動脈壁の内膜の慢性炎症、例えば心筋梗塞、卒中発作、重症虚血肢血管炎およびpAODを特徴とする。処置は、好ましくは喘息、湿疹、アレルギー性鼻炎、血管浮腫、薬物過敏症および肥満細胞症の群から選択される過敏性反応も対象とし得る。
【0044】
第3の態様において、本発明は、制御性T細胞(Treg)を濃縮、単離またはソーティングするための方法に関し、この方法は、
(a)Tregを含有する、または含有すると思われる試料を提供し;
(b)BTNL8およびTregと関連することが知られている少なくとも1つのマーカーの発現により、試料中に含有される他の細胞からTregを分離することを含み、該マーカーは好ましくはCD25、CD127、CD121a、CD121b、GARP、LAPおよびFoxP3の群から選択される。
【0045】
好ましくはBTNL8に対して親和性を有する化合物、より好ましくは以下に記載のような抗体または抗体断片の使用によって調製ステップ(b)を行う。一実施形態において、本方法は、蛍光標識細胞分取(FACS)など、フローサイトメトリーに基づく細胞ソーティング法であり得る。この方法において、TregをBTNL8に対する蛍光標識抗体または抗体断片、および、別のTregマーカー、好ましくはCD25、CD127、CD121a、CD121b、GARP、LAPおよびFoxP3の群からのマーカーに対する少なくとも1つのさらなる抗体または抗体断片と接触させる。電気的検出装置を通じて流体ストリーム(fluid stream)中にBTNL8発現Tregを送る。流体ストリーム(fluid stream)は、各液滴が1個以下の細胞を含むことを確保するサイズを持つ液滴に分割される。ストリームが分割されて液滴になる直前に、細胞の蛍光シグナルを測定する蛍光測定装置を通じて流体ストリーム(fluid stream)を送る。検出されるシグナルに基づき、細胞を異なる容器に導いて、異なって標識される細胞の分離を達成する。別の好ましい実施形態において、本方法は磁気ビーズ細胞分離を含み得る。この方法は、細胞にタグ付加するためにサイズが約100nmである超常磁性ナノ粒子を使用する。次にナノ粒子に対して親和性を有するカラムにおいて細胞を捕捉する。
【0046】
第4の態様において、本発明は、Tregを検出、濃縮、単離および/または定量するためにBTNL8タンパク質に対して親和性を有する化合物の使用に関する。親和性化合物は、細胞の表面上でBTNL8に結合する化合物として広く理解される。親和性化合物は、好ましくはタンパク質分子、例えば受容体、リガンドまたは抗体などである。特定の好ましい実施形態において、この親和性化合物は、BTNL8に対する抗体または抗体断片である。Treg表面上でBTNL8が発現されるという洞察により、血液試料などの不均質組成物においてBTNL8発現Tregを検出、濃縮、単離および定量する可能性がもたらされる。BTNL8に対する抗体は、当技術分野で記載されており、異なる製造者からも市販されている。本発明の関連で、「抗体」という用語は、それらが所望の免疫学的活性を呈する、すなわちBTNL8に特異的に結合する限り、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、多特異性抗体、例えば二特異性抗体、抗イディオタイプ抗体、キメラ抗体およびヒト化抗体を含むことを広く理解しなければならない。特に、この用語は、グラフト技術などにより調製されたあらゆる種類の人工抗体分子を含むものとして理解すべきである。本方法での使用のための抗体は、何らかのアイソタイプクラス、例えばIgG、IgM、IgA、IgEおよびIgDならびにそれらのサブクラス、例えばIgG1、IgG2などであり得る。
【0047】
全抗体の他、抗体のBTNL8結合断片も使用し得る。本明細書中で使用される場合、抗体のBTNL8結合断片は、BTNL8に対する特異的な結合活性の少なくとも一部を保持する断片である。特に本発明のBTNL8結合断片は、Fv、Fab、F(ab’)およびF(ab’)2断片を含み得る。「BTNL8結合断片」という用語によりさらに含まれるのは、(本明細書中で「scFv抗体とも呼ばれる)1本鎖Fv抗体断片およびジスルフィド結合Fv断片(dsFv)である。抗体断片の組み換え産生のための方法は先行技術において記載されており、それには、例えばファージディスプレイまたはリボソームディスプレイなどの技術が含まれる。これらの方法により産生される組み換え抗体断片は、精製され、結合親和性およびBTNL8に対する特異性について試験され得る。
【0048】
第5の態様において、本発明は、本明細書中の他所で論じられる検出方法を行うためのキットに関する。本キットは次の要素を含む:
(a)Tregと関連することが知られている少なくとも1つのマーカー、好ましくはCD25、CD127、CD121a、CD121b、GARP、LAPまたはFoxP3の検出のための手段;および
(b)BTNL8の検出のための手段。
【0049】
上記で論じられるように、転写または翻訳レベルでマーカー検出を行い得る。検出が転写レベルで行われる場合、本キットは、BTNL8遺伝子に対する少なくとも1つのポリヌクレオチドプライマーまたはプローブを含む。好ましくは、本キットは、BTNL8遺伝子に対する複数のポリヌクレオチドプライマーまたはプローブを含む。プライマーによって、BTNL8遺伝子の発現の検出が可能になる。本明細書中の他所で論じられるようにPCRまたはRT-PCRによって検出を行い得る。翻訳レベルで検出が行われる場合、本キットは、好ましくはこのような抗体または抗体断片の複数において、BTNL8に対する少なくとも1つの抗体または抗体断片を含む。本キットは、実行する検出方法に適切である緩衝液および試薬をさらに含み得る。
【図面の簡単な説明】
【0050】
図1図1は、MregまたはIFN-y Mcpとともに共培養したT細胞、単独培養したCD4+T細胞および新鮮単離CD4+T細胞におけるBTNL8 mRNAに対するqPCRの結果を示す(n=9;平均±SEM)。
図2図2は、活性化および非活性化Tregまたは従来のT細胞におけるBTNL8 mRNA発現の分析の結果を示す。
図3図3は、同種MregまたはIFN-y Mcpと共培養したT細胞および単独培養したT細胞から、ヤギ抗BTNL8 pAbを使用したBTNL8に対するウエスタンブロットを示す。
図4図4は、抗BTNL8抗体で染色後、フローサイトメトリーによりMreg誘導性TregにおいてBTNL8発現が検出されたことを示す。
【実施例
【0051】
本発明の例示のために次の実施例を提供する。
【0052】
実施例1:Mreg誘導性Tregと関連する新規マーカーの同定
【0053】
Mreg誘導性Tregの表現型の特徴をより詳しく調べるために、マイクロアレイによる全ゲノム遺伝子発現プロファイリング研究を行った。5名のドナーからMregおよびIFN-y-Mcpを作製した。HLA-A2が異なる5名の無関係のドナーから非分画CD3+T細胞を単離した。RNA単離のために、新鮮単離CD3+T細胞の試料をCD4+およびCD8+分画にフローソーティングした。1:1の比でのMregまたはIFN-y-Mcpとの直接共培養に非分画T細胞をまた添加したか、または刺激なしで5日間にわたり単独培養した。培養5日後、CD4+およびCD8+T細胞をFACSソーティングし、トータルRNAを抽出した。これらのRNA試料を使用して、単色ハイブリッド形成により作製される8種類の細胞型の3組の試料を含むマイクロアレイデータセットを作製した。ヒートマップから、比較物であるT細胞集団のうち何れか2つにおいて有意に(p<0.01)および非常に差異的に(>20倍)制御された一元配置ANOVAによりリターンされたレポーターセットの階層的クラスタ分析が示された。対照状態と比較してMreg-共培養CD4+T細胞において独特に上方制御される遺伝子を同定するために、判別遺伝子分析(DGA)を行った。BTNL8が、IFN-y Mcp-共培養CD4+T細胞と比較して、同種Mreg共培養CD4+T細胞において最もよく上方制御されるレポーターのうちの1つであることが分かった。
【0054】
実施例2:Mregと共培養されるT細胞におけるBTNL8 mRNAに対するqPCR
【0055】
BTNL8のBTN様およびB7様変異体両方を増幅させるプライマーを使用して、T細胞におけるBTNL8 mRNAに対するqPCRを行った。具体的には、Qiagenからの既に最適化されたプライマー対BTNL8_2_SGを使用した(cat.#QT01670991)。MregまたはIFN-y McpとともにT細胞を共培養し、CD4+T細胞を単独培養し、CD4+T細胞を新鮮単離した(n=9;平均±SEM)。逆転写のためにSuperScript-III(Invitrogen)を使用した。FastStart DNA Master SYBR Green Iキット(Roche-Diagnostics,Penzberg)を使用してLightCycler(商標)リアルタイムPCRシステムによりqPCRを行った。アンプリコンシーケンシングによって特異性を確認した(MWG-Biotech,Ebersberg)。結果を図1で示す。アイソフォーム特異的なプライマーセットおよびアンプリコンのシーケンシングを使用して、Mreg共培養T細胞がBTNL8のB7-様、37-kD変異体のみを発現すると判定された。さらに、Mregとともに共培養したT細胞のみが大量のBTNL8を発現することが分かり得る。
【0056】
次に、フローソーティングによって、ヒト末梢血液から単離されたCD4+CD25+CD127intTregおよび従来のCD4+T細胞においてBTNL8 mRNAの発現を定量した。この目的のために、CD3+CD4+CD25+CD127int TregおよびCD3+CD4+CD25+CD127int非Tregの分画のために、ヒト末梢血T細胞をフローソーティングした。図2で結果を示す。BTNL8 mRNA発現は、非活性化Tregまたは従来のT細胞において検出されなかったが、5日間にわたるaCD3/aCD28ビーズでのポリクローナル活性化において誘導され得た。活性化された従来のT細胞におけるBTNL8 mRNAの発現は、活性化Tregの場合と比較してかなり低かった。
【0057】
実施例3:ウエスタンブロット分析
【0058】
同種MregまたはIFN-y Mcpと共培養したT細胞および単独培養したT細胞からヤギa-BTNL8 pAbを使用してBTNL8に対するウエスタンブロットを行った。プロテインG-Plusセファロース(Sigma-Aldrich)を使用して、BTNL8の免疫沈降を行った。従来の方法に従い、SDS-PAGEおよび免疫ブロッティングを行った。
【0059】
図3で結果を示す。BTNL8に対応する明瞭なバンドを37kDで検出した。3ドナーペアからの例を示す。ウエスタンブロッティングから、IFN-y-Mcp共培養T細胞またはT細胞単独培養と比較して、Mreg共培養T細胞におけるBTNL8の37kDアイソフォームのより強い発現が明らかになった。
【0060】
実施例4:フローサイトメトリーによるTregの検出
【0061】
BTNL8のaa161-210に対して生成させたウサギ抗体(LSBio#C453018)での染色後、フローサイトメトリーによって、Mreg共培養T細胞においてBTNL8発現を検出した。ヒストグラムは、生存CD3+CD4+CD8’CD25+FoxP3+単一事象でゲーティングする。
【0062】
結果を図4で示す。抗BTNL8抗体での染色後、フローサイトメトリーによりMreg誘導性TregにおいてBTNL8発現を検出した。特異的なペプチド(LSBio#E18020)とウサギα-BTNL8 pAbを予め温置することによってBTNL8の検出が阻止され、一方でBTNL8のN末端に対応する非特異的ペプチド(LSBio#E18019)は効果がなく;したがって、フローサイトメトリーによるBTNL8の検出は特異的である。
【0063】
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図1
図2
図3
図4
【配列表】
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