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特許7489926中性子捕捉療法のための生分解性ナノキャリア(BPMO)およびその方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-16
(45)【発行日】2024-05-24
(54)【発明の名称】中性子捕捉療法のための生分解性ナノキャリア(BPMO)およびその方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 41/00 20200101AFI20240517BHJP
   C07F 7/08 20060101ALI20240517BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240517BHJP
   A61K 9/14 20060101ALI20240517BHJP
   A61K 47/04 20060101ALI20240517BHJP
   A61K 31/69 20060101ALI20240517BHJP
   A61K 33/00 20060101ALI20240517BHJP
   A61K 33/24 20190101ALI20240517BHJP
   A61K 33/244 20190101ALI20240517BHJP
   A61K 47/24 20060101ALI20240517BHJP
【FI】
A61K41/00
C07F7/08 Y
A61P35/00
A61K9/14
A61K47/04
A61K31/69
A61K33/00
A61K33/24
A61K33/244
A61K47/24
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2020573563
(86)(22)【出願日】2019-05-31
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-11
(86)【国際出願番号】 US2019000027
(87)【国際公開番号】W WO2021050030
(87)【国際公開日】2021-03-18
【審査請求日】2022-05-30
(31)【優先権主張番号】62/763,156
(32)【優先日】2018-06-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】521034351
【氏名又は名称】ティーエーイー ライフ サイエンシーズ
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【弁護士】
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】玉野井 冬彦
【審査官】長部 喜幸
(56)【参考文献】
【文献】Nanoscale,2013年,Vol.5 No.19,p.9412-9418
【文献】J. Nucl. Med.,2013年,Vol.54 No.1,p.111-116
【文献】Chem. A Eur. J.,2016年,Vol.22 No.42,p.14806-14811
【文献】ACS Omega,2018年05月14日,Vol.3 No.5,p.5195-5201
【文献】Nanomedicine,2012年,Vol.8 No.2,p.212-220
【文献】Adv. Drug Deliv. Rev.,2015年,Vol.95 No.1,p.40-49
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 41/00
C07F 7/08
A61K 9/14
A61K 47/04
A61K 31/69
A61K 33/00
A61K 33/24
A61K 33/244
A61K 47/24
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
組成物であって、
a)生分解性周期的メソポーラス有機シリカ(BPMO)ナノ物質であって、前記BPMOが、ジスルフィド結合、テトラスルフィド結合、またはプロテアーゼ感受性の結合によって改変されており、そして前記BPMOの表面が、ホスホネートで改変されている、生分解性周期的メソポーラス有機シリカ(BPMO)ナノ物質;および
b)中性子捕捉薬剤;
を含む組成物。
【請求項2】
組成物であって、
a)生分解性周期的メソポーラス有機シリカ(BPMO)ナノ物質であって、前記BPMOが、ジスルフィド結合、テトラスルフィド結合、またはプロテアーゼ感受性の結合によって改変されており、そして前記BPMOの表面が、ホスホネートおよびジオールで改変されている、生分解性周期的メソポーラス有機シリカ(BPMO)ナノ物質;および
b)中性子捕捉薬剤;
を含む組成物。
【請求項3】
前記中性子捕捉薬剤は、前記BPMOの総重量のうちの15%~85%の間を構成する、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記中性子捕捉薬剤は、ホウ素同位体 10Bを含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
前記中性子捕捉薬剤は、リチウム同位体 Liを含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
前記中性子捕捉薬剤は、カドミウム同位体 113Cdを含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
前記中性子捕捉薬剤は、サマリウム同位体 149Smを含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
前記中性子捕捉薬剤は、ガドリニウム同位体 157Gdを含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項9】
中性子捕捉薬剤を、生分解性周期的メソポーラス有機シリカ(BPMO)ナノ物質へと製作する方法であって、
a)生分解性周期的メソポーラス有機シリカ(BPMO)を合成する工程であって、前記BPMOが、ジスルフィド結合、テトラスルフィド結合、またはプロテアーゼ感受性の結合によって改変されている、工程;
b)前記BPMOの表面改変を調製する工程であって、前記表面改変は、ホスホネートおよびジオールを含む、工程;ならびに
c)前記表面改変されたBPMOに中性子捕捉薬剤を担持させる工程、
を包含する方法。
【請求項10】
ヒトがんの処置において中性子捕捉療法を行う方法における使用のための組成物であって、前記組成物は、中性子捕捉薬剤が担持された生分解性周期的メソポーラス有機シリカ(BPMO)ナノ物質を含み、前記方法は、
a)前記組成物を腫瘍に注射し、それによって前記担持されたBPMOは、腫瘍細胞に蓄積する工程;および
b)前記担持されたBPMOに中性子を照射する工程であって、前記BPMOが、ジスルフィド結合、テトラスルフィド結合、またはプロテアーゼ感受性の結合によって改変されており、そして前記BPMOの表面が、ホスホネートで改変されている、工程
を包含する組成物。
【請求項11】
前記照射は、熱外中性子を含む、請求項10に記載の組成物。
【請求項12】
前記照射は、中性子活性化を誘発する、請求項10に記載の組成物。
【請求項13】
前記中性子捕捉薬剤は、ホウ素同位体 10B、リチウム同位体 Li、カドミウム同位体 113Cd、サマリウム同位体 149Sm、またはガドリニウム同位体 157Gdからなる群より選択される、請求項10に記載の組成物。
【請求項14】
請求項1に記載の組成物を含むキット。
【請求項15】
請求項10に記載の方法を行う、請求項1に記載の組成物を含むキット。
【請求項16】
請求項1に記載の組成物を含む単位剤形。
【請求項17】
前記中性子捕捉薬剤は、10BPAを含む、請求項1に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願への相互参照
本出願は、2018年6月18日出願の米国仮特許出願第62/763,156号(その内容は、本明細書に参考として援用される)に基づく優先権を主張する。
【0002】
政府支援を受けた研究の下でなされた発明に対する権利の陳述
適用なし。
【0003】
発明の分野
本明細書で記載される発明は、ナノテクノロジーおよびがん治療の分野に関する。具体的には、本発明は、ヒトにおいて中性子捕捉療法のためのビヒクルとして使用される生分解性メソポーラスシリカナノ粒子に関する。本発明はさらに、がんならびに他の免疫学的障害および疾患の処置に関する。
【背景技術】
【0004】
発明の背景
がんは、冠動脈疾患に次ぐヒトの死亡原因第2位である。全世界で、数百万人の人々が、毎年がんが原因で死亡する。米国単独では、アメリカがん協会によって報告されるように、がんは、年間50万人を優に超える死亡を引き起こし、1年あたり120万人超の新症例が診断されている。心疾患が原因の死亡は、顕著に減少してきているが、がんが原因の死亡は、概して上昇しつつある。
【0005】
全世界で、いくつかのがんが、主要な死亡原因として際立っている。特に、肺、前立腺、乳房、結腸、膵臓、卵巣および膀胱の癌腫は、がんによる死亡の主要原因の代表である。これらおよび実質的に全ての他の癌腫は、共通する致死的特徴を共有する。ごく少数の例外を除いて、癌腫から転移する疾患は、致死的である。さらに、それらの原発がんを最初は生き延びたそれらのがん患者に関してすら、彼らの生活が劇的に変化するという共通する経験が示されている。多くのがん患者は、再発または処置の失敗に関する可能性があることに気づくことによってもたらされる強い不安を経験する。多くのがん患者は、処置後に身体的衰弱を経験する。さらに、多くのがん患者は、再発を経験する。
【0006】
がん治療は、過去数十年間にわたって改善されており、生存率は上昇しているが、がんの多様性(heterogeneity)はなお、複数の処置モダリティーを利用する新たな治療ストラテジーを要求する。これは、ときおり標準的な放射線療法および/または化学療法に制限される解剖学的に極めて重要な部位における固形腫瘍(例えば、膠芽腫、頭頚部扁平上皮がん、および肺腺がん)を処置するにあたって特に該当する。にもかかわらず、これらの治療の有害効果は、化学療法抵抗性および放射線療法抵抗性であり、患者のクオリティー・オブ・ライフを低減する重篤な副作用に加えて、局所領域再発、遠隔転移および二次原発腫瘍を促進する。
【0007】
従って、再発を克服し、標的化治療によって副作用を低減するために新たな治療ストラテジーを開発することは、最も重要である。1つの可能性は、固形腫瘍の透過性および滞留の増強(enhanced permeability and retention)(EPR)効果をとり入れることである。漏出しやすい血管系およびリンパ排液の欠如に起因して、ナノ粒子のような小構造は、腫瘍の中に蓄積し得る。従って、薬物送達ビヒクルとしてナノ粒子を利用することは、有望なアプローチである。
【0008】
さらに、中性子捕捉療法(NCT)は、放射線療法の有望な形態である。NCT、および具体的にはホウ素中性子捕捉療法(「BNCT」)の概念的技術がたとえ周知であるとしても、このタイプの処置と関連する技術的制限は、進歩を遅らせている。しかし、(i)腫瘍の中で好ましくは濃縮される捕捉化合物の注入または送達、および(ii)中性子による腫瘍部位の照射、の両方の技術的改善を考慮すれば、NCT処置法は再起を遂げてきている。
【0009】
前述から、がんおよび他の免疫学的疾患の処置において新たな処置パラダイムが必要とされることは、当業者に容易に明らかである。最新のナノキャリアおよび最適化したNCTモダリティーを使用することによって、より有効な処置、低減した副作用、およびより低い生産コストという全体的な目標とともに、新たな疾患処置が達成され得る。
【0010】
NCTと関連する現在の欠陥を考慮すると、ナノキャリアおよびNCTを利用して、がん、免疫学的障害、および他の疾患を処置する新しく改善された方法を提供することは、本発明の目的である。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0011】
発明の要旨
本発明は、ヒト疾患、例えば、がん、免疫学的障害(関節リウマチ、強直性脊椎炎が挙げられるが、これらに限定されない)、および他の細胞性疾患(アルツハイマー病が挙げられるが、これらに限定されない)を処置するために、薬物送達モダリティーとしての使用のために製作されたナノ物質を提供する。ある特定の実施形態において、上記ナノ物質は、メソポーラスシリカナノ粒子(「MSN」または場合によっては「MSNs」)を含む。さらなる実施形態において、本発明のMSNは、上記MSNのフレームワーク内に生分解性の結合を含む。概して、および本発明の目的のために、ジスルフィド結合、テトラスルフィド結合、またはプロテアーゼ感受性の結合を組み込むことによって生分解性に調整された生分解性MSNは、本明細書中以降、生分解性周期的メソポーラス有機シリカ(「BPMO」または場合によっては「BPMOs」)といわれる。
【0012】
1つの実施形態において、BPMOの表面は、ホスホネートで改変される。
【0013】
別の実施形態において、本発明のMSNまたはBPMOは、中性子捕捉薬剤が担持される。
【0014】
さらなる実施形態において、上記中性子捕捉薬剤は、ホウ素同位体 10Bを含む。
【0015】
さらなる実施形態において、上記中性子捕捉薬剤は、リチウム同位体 Liを含む。
【0016】
さらなる実施形態において、上記中性子捕捉薬剤は、He同位体 Heを含む。
【0017】
さらなる実施形態において、上記中性子捕捉薬剤は、カドミウム同位体 113Cdを含む。
【0018】
さらなる実施形態において、上記中性子捕捉薬剤は、サマリウム同位体 149Smを含む。
【0019】
さらなる実施形態において、上記中性子捕捉薬剤は、ガドリニウム同位体 157Gdを含む。
【0020】
さらなる実施形態において、上記中性子捕捉薬剤は、Au(金)の同位体を含む。
【0021】
さらなる実施形態において、上記中性子捕捉薬剤は、都合の良い中性子捕捉断面を有する同位体を含む。
【0022】
さらなる実施形態において、本発明は、細胞の中に中性子を濃縮する方法であって、上記方法は、(i)MSNおよび/またはBPMOに中性子捕捉薬剤を担持する工程;(ii)担持された上記MSNまたはBPMOを患者に投与する工程、ならびに(iii)上記細胞に中性子を照射する工程を含む方法を包含する。
【0023】
別の実施形態において、本開示は、中性子捕捉薬剤を有するMSNおよび/またはBPMOを製作する方法を教示する。
【0024】
別の実施形態において、本開示は、ヒトにおいてがん、免疫学的障害および他の疾患を処置する方法を教示する。
特定の実施形態では、例えば、以下が提供される:
(項目1)
組成物であって、
a)生分解性周期的メソポーラス有機シリカ(BPMO)ナノ物質;および
b)中性子捕捉薬剤;
を含む組成物。
(項目2)
前記BPMOは、ジスルフィド結合、テトラスルフィド結合、またはプロテアーゼ感受性の結合を組み込むことによって改変される、項目1に記載の組成物。
(項目3)
表面が改変されている、項目1に記載の組成物。
(項目4)
担持される前記中性子捕捉薬剤は、担持される前記BPMOの総重量のうちの15%~85%の間を構成する、項目1に記載の組成物。
(項目5)
前記中性子捕捉薬剤は、ホウ素同位体 10 Bを含む、項目1に記載の組成物。
(項目6)
前記中性子捕捉薬剤は、リチウム同位体 Liを含む、項目1に記載の組成物。
(項目7)
前記表面電荷改変は、ホスホネートおよびジオールを使用する合成後グラフト化工程を包含する、項目3に記載の組成物。
(項目8)
前記中性子捕捉薬剤は、カドミウム同位体 113 Cdを含む、項目1に記載の組成物。
(項目9)
前記中性子捕捉薬剤は、サマリウム同位体 149 Smを含む、項目1に記載の組成物。
(項目10)
前記中性子捕捉薬剤は、ガドリニウム同位体 157 Gdを含む、項目1に記載の組成物。
(項目11)
中性子捕捉薬剤を、生分解性周期的メソポーラス有機シリカ(BPMO)ナノ物質へと製作する方法。
(項目12)
ヒトがんの処置において中性子捕捉療法を行う方法であって、前記方法は、
a)生分解性周期的メソポーラス有機シリカ(BPMO)ナノ物質に中性子捕捉薬剤を担持する工程;
b)担持された前記BPMOを腫瘍に注射し、それによって前記担持されたBPMOは、腫瘍細胞に蓄積する工程;および
c)担持された前記BPMOに中性子を照射する工程、
を包含する方法。
(項目13)
前記照射は、熱外中性子を含む、項目13に記載の方法。
(項目14)
前記照射は、中性子活性化を誘発する、項目13に記載の方法。
(項目15)
前記中性子捕捉薬剤は、ホウ素同位体 10 B、リチウム同位体 Li、カドミウム同位体 113 Cd、サマリウム同位体 149 Sm、またはガドリニウム同位体 157 Gdからなる群より選択される、項目13に記載の方法。
(項目16)
項目1に記載の組成物を含むキット。
(項目17)
項目13に記載の方法を行うために具体的に適合されている、項目1に記載の組成物を含むキット。
(項目18)
項目1に記載の組成物を含む単位剤形。
(項目19)
前記BPMOは、ホスホネートで表面改変される、項目1に記載の組成物。
(項目20)
前記中性子捕捉薬剤は、 10 BPAを含む、項目1に記載の組成物。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1図110BPAを担持し、ホスホネートで表面改変されたBPMOの合成。
【0026】
図2図2。BPMOナノ粒子の特徴付け。図2(1)(a)は、SEMによって分析される本発明のBPMOを示す。図2(1)(b)は、TEMによって分析される本発明のBPMOを示す。図2(2)は、TEMを使用してBPMO上で行われる分解分析を示す。
【0027】
図3図3。BPAを担持したホスホネート改変BPMOの腫瘍標的化を評価するスキーム。
【0028】
図4図4。BPAを担持したホスホネート改変BPMOの腫瘍標的化。
【0029】
図5図5。BPAを担持したホスホネート改変BPMOの腫瘍標的化。
【0030】
図6図6。鶏卵腫瘍モデルにおけるBPAを担持したBPMOとともにBNCTを使用する実験プロトコールのフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0031】
発明の詳細な説明
節のアウトライン
I.)定義
II.)メソポーラスシリカナノ粒子(MSN)および周期的メソポーラス有機シリカ(PMO)
III.)中性子捕捉薬剤
IV.)中性子捕捉薬剤を担持したPMO
V.)ホウ素中性子捕捉療法
VI.)中性子捕捉薬剤を細胞に送達する方法
VII.)がんおよび他の免疫学的障害を処置する方法
VIII.)キット/製造物品
【0032】
I.)定義:
別段定義されなければ、技術、表記法および他の科学用語の全ての用語または本明細書で使用される用語法は、文脈が別段明らかに示さなければ、本発明が属する分野の当業者によって一般に理解される意味を有することが意図される。いくつかの場合には、一般に理解される意味を有する用語は、明瞭性および/または容易な参照のために本明細書で定義され、本明細書中のこのような定義の包含は、当該分野で一般に理解されていることに対する実質的な差異を表すとは必ずしも解釈されるべきではない。
【0033】
商品名が本明細書で使用される場合、商品名への言及はまた、文脈によって別段示されなければ、製品製剤、後発医薬品、および商品名の製品の活性な薬学的成分に言及する。
【0034】
用語「進行したがん(advanced cancer)」、「局所的に進行したがん(locally advanced cancer)」、「進行した疾患(advanced disease)」および「局所的に進行した疾患(locally advanced disease)」とは、関連する組織被膜を貫通して拡大したがんを意味し、アメリカ泌尿器科学会(AUA)システムの下でのステージC疾患、Whitmore-Jewettシステムの下でのステージC1~C2疾患、ならびにTNM(腫瘍、リンパ節、転移)システムの下でのT3-T4疾患およびN+疾患を含むことが意味される。一般に、外科手術は、局所的に進行した疾患を有する患者に対しては推奨されず、これらの患者は、臨床上限局した(器官に限局した)がんを有する患者と比較して、実質的にあまり有利でない転帰を有する。
【0035】
用語「阻害する(inhibit)」または「の阻害(inhibition of)」とは、本明細書で使用される場合、測定可能な量が低減されること、または完全に防止されることを意味する。
【0036】
用語「哺乳動物(mammal)」とは、哺乳動物として分類される任意の生物(マウス、ラット、ウサギ、イヌ、ネコ、ウシ、ウマおよびヒトが挙げられる)をいう。本発明の1つの実施形態において、上記哺乳動物は、マウスである。本発明の別の実施形態において、上記哺乳動物は、ヒトである。
【0037】
用語「転移性のがん(metastatic cancer)」および「転移性の疾患(metastatic disease)」とは、所属リンパ節または遠隔部位へと拡がってしまったがんを意味し、AUAシステムの下でのステージD疾患およびTMNシステムの下でのステージT×N×M+を含むことが意味される。
【0038】
「分子認識(molecular recognition)」とは、宿主分子が第2の分子(すなわち、ゲスト)と複合体を形成し得る化学的事象を意味する。このプロセスは、非共有結合的化学結合(水素結合、疎水性相互作用、イオン性相互作用が挙げられるが、これらに限定されない)を通じて起こる。
【0039】
「薬学的に受容可能な(pharmaceutically acceptable)」とは、非毒性で、不活性の、および/またはヒトもしくは他の哺乳動物と生理学的に適合性である組成物に言及する。
【0040】
「ナノ物質(nanomaterial)」は、任意の次元の形態(0、1、2、3)および40~400ナノメートルの範囲にあるドメインサイズにある物質を意味する。
【0041】
「ナノ構造(nanostructure)」とは、500ナノメートル未満の少なくとも一次元を有する構造を意味する。例としては、ナノ結晶、ナノ複合材、ナノ粒子(nanograin)、ナノチューブ、ナノセラミック、およびナノ粉末が挙げられるが、これらに限定されない。
【0042】
「ナノ充填剤(nanofiller)」(別名ナノ構造化充填剤)は、マトリクスと密に混合されて、ナノ構造化複合材を形成する構造または粒子を意味する。ナノ構造化充填剤およびナノ構造化複合材のうちの少なくとも一方は、それぞれ、ミクロンスケール充填剤またはミクロンスケール複合材に関する同じ材料特性から少なくとも20%異なる所望の材料特性を有する。所望の材料特性は、屈折率、光に対する透過性、反射特性、抵抗率、誘電率、透過性、保磁力、BH積(B-H product)、磁気ヒステリシス、破壊電圧(breakdown voltage)、表皮深さ、キュリー温度、誘電正接(dissipation factor)、仕事関数、バンドギャップ、電磁シールド性能(electromagnetic shielding effectiveness)、耐放射性、化学反応性、熱伝導性、電気的特性の温度係数、電気的特性の電圧係数、熱衝撃抵抗性、生体適合性および摩耗率からなる群より選択される。上記ナノ構造化充填剤は、周期表のsブロック、pブロック、dブロックおよびfブロック(s, p, d, and f groups of the periodic table)から選択される1もしくはこれより多くの元素を含んでいてもよいし、1つもしくはこれより多くのこのような元素と、1もしくはこれより多くの適切なアニオン(例えば、アルミニウム、アンチモン、ホウ素、臭素、炭素、塩素、フッ素、ゲルマニウム、水素、インジウム、ヨウ素、ニッケル、窒素、酸素、リン、セレン、ケイ素、硫黄、またはテルル)との化合物を含んでいてもよい。上記マトリクスは、ポリマー(例えば、ポリ(メチルメタクリレート)、ポリ(ビニルアルコール)、ポリカーボネート、ポリアルケン、またはポリアリール)、セラミック(例えば、酸化亜鉛、酸化インジウムスズ、炭化ハフニウム、またはフェライト)、または金属(例えば、銅、スズ、亜鉛、または鉄)であり得る。ナノ充填剤の担持は、95%程度の高さでもよいが、80%もしくはこれより小さい担持が好ましい。本発明はまた、上記ナノ充填剤を組み込むデバイス(例えば、電子デバイス、磁気デバイス、光学デバイス、生物医学デバイス、および電気化学デバイス)を含む。
【0043】
用語「中性子捕捉薬剤(neutron capture agent)」とは、中性子によって活性化される場合に、α線およびγ線を生じる安定な非反応性化学的同位体を意味する。
【0044】
用語「中性子捕捉療法(neutron capture therapy)」とは、中性子捕捉薬剤に中性子を照射することによって、局所的に侵襲性の悪性腫瘍(例えば、原発性脳腫瘍および再発性頭頚部癌ならびに他の免疫学的障害および疾患を処置するための非侵襲性治療モダリティーを意味する。
【0045】
本明細書で使用される場合、「処置すること(to treat)」または「治療の(therapeutic)」および文法所関連する用語は、疾患の任意の転帰の任意の改善(例えば、生存の長期化、罹患率の低下、および/または代替の治療モダリティーの副生成物である副作用の減少)に言及する;当該分野で容易に認識されるように、疾患の完全な根治は好ましいが、にもかかわらず処置行為の要件ではない。
【0046】
II.) メソポーラスシリカナノ粒子(MSN)および生分解性周期的メソポーラス有機シリカ(BPMO)
メソポーラスシリカナノ粒子(MSN)は、強力な薬物送達ビヒクルとして出現している。概して、これらのシリカ粒子は、40~400nmの範囲に及ぶ直径を有し、とりわけ、抗がん薬物が格納され得る数千もの孔を含む。MSNが抗がん薬物を送達する有効性を指摘する種々の細胞研究および動物研究が、報告されている。例えば、Wang, Y.ら, Mesoporous silica nanoparticles in drug delivery and biomedical applications. Nanomedicine. 11, 313-327 (2015)を参照のこと。これらナノ物質の相対的安定性が原因で、種々の化学的改変が、これらナノ粒子に適用され得る。表面電荷特性は、生物学的媒体中での粒子の凝集を防止するために、および循環の長期化を達成するために、変えられ得る。さらに、種々のナノマシンが、光および磁場への曝露を含む刺激の際に、抗がん薬物を放出する能力を付与するために、粒子表面上に工作され得る。
【0047】
当業者は近年、生分解性PMO(周期的メソポーラス有機シリカ)ナノ粒子(「BPMO」)といわれる新世代のメソポーラスナノ粒子を開発した。これは、ジスルフィド結合、テトラスルフィド結合、またはプロテアーゼ感受性の結合を組み込むことによって生分解性に調整され、ナノメディシン適用の優れた候補をもたらす。例えば、Croissant, J.ら, Biodegradable oxamide-phenylene-based mesoporous organosilica nanoparticles with unprecedented drug payloads for delivery in cells. Chem. Eur. J. 22, 14806-14811 (2016)を参照のこと。これらのナノ粒子は、上記で記載されるMSNの有利な特徴を保持し、さらに、それらは、増強した分解性を有する。上記BPMOは、当該分野で公知である中性子捕捉薬剤(例えば、ホウ素)、および他の抗がん薬物に伴う効率的な担持容量を示し、上記中性子捕捉薬剤は、ヒトがん細胞へと送達され得る。
【0048】
近年開発されたBPMOは、メソポーラスシリカネットワークのフレームワーク内に生分解性の結合を含むので、細胞内部の条件(例えば、還元環境)によって分解性である。これが理由で、ジスルフィド結合またはテトラスルフィド結合を含む2タイプのBPMOナノ粒子が開発されている。好ましい実施形態において、本発明のBPMOは、ジスルフィド結合またはテトラスルフィド結合を含む前駆体とともにゾルゲル合成法を使用して合成される。合成のためのこれらの特別な前駆体の使用は、これら生分解性の結合をナノ粒子のフレームワークへ組み込むことを生じる。
【0049】
合成中に、界面活性剤CTAB(セチルトリメチルアンモニウムブロミド)を含めて、多孔性構造を生成した。概して、本発明の好ましいBPMOを、ビス(トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィドとビス(トリエトキシシリル)エチレンとを混合(50-50比)することによって合成した。得られたBPMOは、100~300nmの直径を有し、2~3.5nmの直径を有する孔を含む。
【0050】
さらに別の好ましい実施形態において、本開示のBPMOを、1,2-ビス(トリエトキシシリル)エタンとCTABおよびNaOHとを混合することによって合成し、激しく撹拌し、次いで、その混合物を80℃へと加熱した。次に、上記溶液をフラスコに滴下し、ビス[3(トリエトキシシリル)プロピル]テトラスルフィドを直後に添加した。80℃において2.0時間縮合した後、BPMOを遠心分離によって集め、エタノールで2回洗浄した。CTABを上記孔から除去するために、上記粒子を、硝酸アンモニウムのエタン酸溶液中で一晩還流した。上記粒子をエタノールで(3回)洗浄することによって精製し、完全に乾燥させた。
【0051】
さらに別の好ましい実施形態において、本開示のBPMOを、合成後グラフト化法によって、GOPTS(3-グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン)で官能化した。GOPTSのエポキシ環を開くために、官能化したBPMOを水の中に懸濁し、70℃において2日間加熱した。この工程は、ジオール改変BPMOを生成する。表面上にホスホネートを付加するさらなる改変を、3(トリヒドロキシルシリル)プロピルメチルホスホネートを使用して達成した。10BPA(4 ボロノL-フェニルアラニン)を、10BPAがジオール改変BPMOに対してキレート化されるように、ナノ粒子に添加した。
【0052】
別の好ましい実施形態において、ホスホネートで表面改変されているBPMOに、中性子捕捉薬剤を担持し、それによって、上記中性子捕捉薬剤を上記BPMO内に被包した。さらなる実施形態において、上記中性子捕捉薬剤を、BPMOの表面に化学的に結合させる。本発明の中性子捕捉薬剤の例示的な実施形態は、本明細書で示される。
【0053】
当業者は、本明細書で開示される発明の機能および目的を変化させることなく、開示される実施形態に対するバリエーションおよび改変を行うことを認識し、可能にする。このようなバリエーションおよび改変は、本開示の範囲内であることが意図される。
【0054】
III.)中性子捕捉薬剤
本発明の別の局面は、改善された中性子捕捉薬剤に関する。概して、中性子捕捉薬剤の成功は、腫瘍細胞における選択的局在化および腫瘍への適切なエネルギーの中性子の適切なフラックスに対して推定される。中性子捕捉療法に伴う現在の欠点は、正常細胞における濃縮を最小限にすると同時に中性子捕捉薬剤が腫瘍の中に適切に濃縮され得ないことである。当業者によって認識されるように。本発明のいくつかの中性子捕捉薬剤は、本開示に有益な特性を有する。例えば、熱中性子相互作用の高い断面は、高いイオン化能力を引き起こし、それによって、中性子捕捉薬剤が富化された細胞は殺滅され、正常細胞はそれほど損傷を受けない。しかし、今日まで、健康な正常細胞の損傷の減少(dimishment)は、達成されてこなかった。本発明の目的は、この欠陥を改善することである。
【0055】
さらなる実施形態において、上記中性子捕捉薬剤は、ホウ素同位体 10Bを含む。
【0056】
さらなる実施形態において、上記中性子捕捉薬剤は、リチウム同位体 Liを含む。
【0057】
さらなる実施形態において、上記中性子捕捉薬剤は、He同位体 Heを含む。
【0058】
さらなる実施形態において、上記中性子捕捉薬剤は、カドミウム同位体 113Cdを含む。
【0059】
さらなる実施形態において、上記中性子捕捉薬剤は、サマリウム同位体 149Smを含む。
【0060】
さらなる実施形態において、上記中性子捕捉薬剤は、ガドリニウム同位体 157Gdを含む。
【0061】
さらなる実施形態において、上記中性子捕捉薬剤は、Au(金)の同位体を含む。
【0062】
さらなる実施形態において、上記中性子捕捉薬剤は、都合の良い中性子捕捉断面を有する同位体を含む。
【0063】
当業者は、本明細書で開示される発明の機能および目的を変化させることなく、開示される実施形態に対するバリエーションおよび改変を行うことを認識し、可能にする。このようなバリエーションおよび改変は、本開示の範囲内であることが意図される。
【0064】
IV.)中性子捕捉薬剤を担持したBPMO
本発明の一局面は、中性子捕捉薬剤を担持したBPMOに関する。先に考察されるように、本開示のBPMOは、適切なpHにおいて高い担持容量を有する。好ましい実施形態において、上記pHは、およそ8.5である。さらに、一旦担持された後、上記中性子捕捉薬剤は、BPMOの総重量に対して20%~60%の間である。好ましい実施形態において、上記中性子捕捉薬剤は、上記担持されるBPMOの総重量のうちの30%~50%の間を構成する。さらなる実施形態において、上記中性子捕捉薬剤は、ホウ素同位体 10Bを含む。さらなる実施形態において、上記中性子捕捉薬剤は、10BPAを含む。さらなる実施形態において、上記中性子捕捉薬剤は、リチウム同位体 Liを含む。さらなる実施形態において、上記中性子捕捉薬剤は、He同位体 Heを含む。さらなる実施形態において、上記中性子捕捉薬剤は、カドミウム同位体 113Cdを含む。さらなる実施形態において、上記中性子捕捉薬剤は、サマリウム同位体 149Smを含む。さらなる実施形態において、上記中性子捕捉薬剤は、ガドリニウム同位体 157Gdを含む。
【0065】
中性子捕捉薬剤が、当該分野で公知の種々の手段(例えば、被包化)によってPMOに製作され得る、またはBPMOの表面に化学的に結合され得る、および/または当該分野で公知の方法を使用して、BPMOに結合体化され得ることは、当業者によって認識される。このようなバリエーションおよび改変は、本開示の範囲内であることが意図される。
【0066】
V.) 10 Bを担持したBPMOを使用するホウ素中性子捕捉療法
本開示の一局面は、ホウ素中性子捕捉療法(「BNCT」)に関するモダリティーとしての、10Bを担持したBPMOの使用である。簡潔には、BNCTは、いずれの構成要素も単独では合法でも高度に毒性でもない二元処置モダリティー(binary treatment modality)である。その2つの構成要素は、(i)腫瘍の中で優先的に濃縮される捕捉化合物の注入または送達、および(ii)中性子による腫瘍部位の照射、を含む。10Bとの熱中性子相互作用の大きな断面を考慮すれば、結論として、ホウ素核がHeおよびLiに分裂する確率は高い。HeおよびLiのイオン化能力が高いことを考慮すれば、実行は短時間であり、次いで、好ましくはホウ素が富化した細胞は死滅させられ、健康な細胞はそれほど損傷を受けない。このことを考慮すれば、BNCTの利点は、高度に外傷性の外科的手順のない腫瘍細胞の破壊である。しかし、当業者によって理解されるように、成功は、腫瘍細胞における、推定される10Bの高濃度および選択的局在化である。
【0067】
1つの実施形態において、10Bは、本発明のBPMOに担持され、腫瘍細胞に局在される。10Bを含むBPMOは、腫瘍中へと濃縮され、上記腫瘍は、熱外中性子を使用して照射される。上記腫瘍細胞は破壊される。
【0068】
VI.中性子捕捉薬剤を細胞に送達する方法
当業者によって認識されるように、本開示の改善された中性子捕捉薬剤を細胞に効率的に送達する能力は、本発明の利点である。
【0069】
ナノ粒子製剤(本開示のBPMO)が、より多量の中性子捕捉薬剤が、哺乳動物に安全に投与されることを可能にすることが示される。簡潔には、中性子捕捉薬剤の腫瘍送達を調査するために、中性子捕捉薬剤を担持したPMOナノ粒子の注射後1~5日間までの腫瘍における中性子捕捉薬剤の蛍光が示される。腫瘍において蛍光が観察される。蛍光が主に腫瘍において観察されるか否かを調べるために、種々の器官を除去し、処理し、蛍光顕微鏡検査法または当該分野で公知の他の検出法によって調べる。蛍光が主に腫瘍において観察されるのに対して、種々の器官では蛍光がほとんど観察されないことが示される。コントロール腫瘍は、ナノ粒子注射を受けなかったモデルから得られる腫瘍サンプルを表す。従って、中性子捕捉薬剤は、優先的に腫瘍に送達され得る。
【0070】
さらに、上記BPMOが腫瘍に局在化されるか否かを調査するために、ローダミン-Bで標識した合成BPMOナノ粒子を調製することが示される。簡潔には、ローダミンB標識BPMOナノ粒子は、蛍光性ローダミンBイソチオシアネート(RBITC)色素をアミノプロピルトリエトキシシラン(APTES)と化学的に連結するかまたは当該分野で公知の他の方法によって調製したローダミンB-APTESとの共投与によって調製する。これらは、赤色蛍光を追跡することによって、BPMO生体分布の特徴付けを可能にする。ローダミンB標識ナノ粒子を注射し、赤色蛍光の分布を、注射後1~3日間調べる。サンプルから腫瘍および種々の器官を切り出す。赤色蛍光を、注射の2~3日後に主に腫瘍において検出したことが示される。それほど多くない赤色蛍光が、肝臓のような他の器官から検出された。コントロール腫瘍は、BPMO注射を受けなかったモデルから得た腫瘍サンプルを表す。類似の結果は、分析を注射の1日後に行った場合に得られる。従って、BPMOナノ粒子は、腫瘍の中に優先的に蓄積する。他方で、正電荷を有するように表面改変したBPMOは、肝臓および腎臓の中により多く蓄積した。
【0071】
よって、中性子捕捉薬剤を担持した本開示のBPMOは、腫瘍細胞において高濃度で選択的に局在するように改変され得ることが示される。
【0072】
IX.)キット/製造物品
本明細書で使用される実験、予後、予防、診断および治療適用における使用のために、本発明の範囲内にはキットがある。このようなキットは、バイアル、チューブなどのような1またはこれより多くの容器(その容器の各々は、上記方法において使用されるべき別個の要素をうちの1つを含む)を受容するように区画化されているキャリア、パッケージ、または容器を、使用(例えば、本明細書で記載される使用)のための説明書を含むラベルまたは挿入物とともに、含み得る。例えば、上記容器は、検出可能に標識されるかもしくは標識され得る、および/または中性子捕捉薬剤を担持したBPMOを含み得る。キットは、薬物単位を含む容器を含み得る。上記キットは、上記BPMOおよび/または中性子捕捉薬剤の全てまたは一部を含み得る。
【0073】
本発明のキットは、代表的には、上記の容器、ならびに商業的およびユーザーの観点から望ましい材料(緩衝液、希釈剤、フィルター、針、シリンジが挙げられる)を含む上記容器と関連付けられる1もしくはこれより多くの他の容器;キャリア、パッケージ、容器、バイアルならびに/または内容物を挙げるチューブラベルおよび/もしくは使用説明書、ならびに使用説明書を伴うパッケージ挿入物を含む。
【0074】
ラベルは、組成物が具体的治療または非治療適用(例えば、予後、予防、診断または実験適用)のために使用されることを示すために容器上にまたは容器とともに存在し得、インビボもしくはインビトロいずれかの使用(例えば、本明細書で記載されるもの)のための指示もまた示し得る。指示および/または他の情報はまた、上記キットとともにまたは上記キット上に含まれる挿入物またはラベル上に含まれ得る。上記ラベルは、容器上にあり得るか、または上記容器と関連付けられ得る。ラベルは、上記ラベルを形成する文字(letter)、数字または他の文字(character)が上記容器自体に成形またはエッチングで施される場合に、容器上にあり得る;ラベルは、これが、上記容器をも保持する入れ物またはキャリア内に存在する場合に、例えば、パッケージ挿入物として容器と関連付けられ得る。上記ラベルは、組成物が、がんまたは他の免疫学的障害のような状態を診断、処置、予防または予後を予測するために使用されることを示し得る。
【0075】
用語「キット(kit)」および「製造物品(article of manufacture)」は、同義語として使用され得る。
【0076】
本発明の別の実施形態において、製造物品は、組成物(例えば、BPMOおよび/または中性子捕捉薬剤および/または中性子捕捉薬剤を担持したBPMO)を含む。上記製造物品は、代表的には、少なくとも1つの容器および少なくとも1つのラベルを含む。適切な容器としては、例えば、ボトル、バイアル、シリンジ、および試験管が挙げられる。上記容器は、種々の材料(例えば、ガラス、金属またはプラスチック)から形成され得る。上記容器は、BPMOおよび中性子捕捉薬剤を保持し得る。
【0077】
上記容器は、代わりに、1つの状態を処置する、診断する、予後を予測するまたは予防するために有効である組成物を保持し得、滅菌アクセスポートを有し得る(例えば、上記容器は、静脈内液剤バッグまたは皮下注射針によって穿刺可能なストッパーを有するバイアルであり得る)。上記組成物中の活性成分は、中性子捕捉薬剤を担持したBPMOであり得る。
【0078】
製造物品は、薬学的に受容可能な緩衝液(例えば、リン酸緩衝化生理食塩水、リンゲル液および/またはデキストロース溶液)を含む第2の容器をさらに含み得る。製造物品は、商業的およびユーザーの観点から望ましい他の材料(他の緩衝液、希釈剤、フィルター、撹拌子、針、シリンジ、ならびに/または適応症および/もしくは使用説明書を伴うパッケージ挿入物が挙げられる)をさらに含み得る。
【実施例
【0079】
本発明の種々の局面は、以下に続くいくつかの実施例によってさらに記載および例証される。そのいずれも、本発明の範囲を限定することは意図されない。
【0080】
実施例1: BPMOの合成
1つの実施形態において、本開示のBPMOを、以下の様式で合成した。第1に、1,2-ビス(トリエトキシシリル)エタンを、CTABおよびNaOHと混合し、激しく撹拌し、次いで、その混合物を80℃に加熱した。次に、上記溶液をフラスコに滴下し、ビス[3(トリエトキシシリル)プロピル]テトラスルフィドを直後に添加した。80℃で2.0時間縮合した後、BPMOを遠心分離によって集め、エタノールで2回洗浄した。孔からのCTABの除去を、硝酸アンモニウムのエタン酸溶液中で一晩還流することによって行った。上記粒子をエタノールで(3回)洗浄することによって精製し、完全に乾燥させた。図1を参照のこと。
【0081】
実施例2: BPMOナノ粒子の特徴付け
実施例1(BPMOの合成)に示されるBPMOを、当該分野で公知の技術を使用して、走査型電子顕微鏡検査法(「SEM」)および透過型電子顕微鏡検査法(「TEM」)によって特徴づけた。SEMを使用するBPMOの分析は、100~200nm直径を有する均質なナノ粒子を示す。図2(1)(a)を参照のこと。
【0082】
TEMを使用するBPMOの分析は、孔構造の存在を示す。図2(1)(b)を参照のこと。
【0083】
最後に、BPMOに対する分解分析を、TEMを使用して行った。簡潔には、BPMO(0.1mg/ml)を、10mM グルタチオン(GSH)を含むPBS(リン酸緩衝化生理食塩水)溶液中で、37℃において5日間インキュベートし、TEM(透過型電子顕微鏡検査法)によって可視化した。結果は、BPMOが還元条件下で分解性であったことを示す。図2(2)を参照のこと。
【0084】
実施例3: ホスホネートおよびジオールで表面改変されたBPMOの合成
「BPMOの合成」という標題の実施例に従って生成したBPMOを、表面改変した。簡潔には、合成したBPMOを、トルエン中に浸漬し、その混合物を10分間、超音波処理した。次いで、3-グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン(GOPTS):
【化1】
をこの混合物に添加し、一晩還流した。固体生成物を遠心分離によって集め、エタノールで3回洗浄した。乾燥した生成物を得、脱イオン水に添加した。この混合物を70℃で2日間加熱した。ジオール-BPMOを3(トリヒドロキシシリル)プロピルメチルホスホネートでさらに改変して、上記3(トリヒドロキシルシリル)プロピルメチルホスホネートを70℃で撹拌することによって表面に負電荷を提供した。図1を参照のこと。
【0085】
実施例4: 表面改変BPMOに 10 BPAを担持する方法
「ホスホネートおよびジオールで表面改変されたBPMOの合成」という標題の実施例に記載されるとおりにジオールおよびホスホネートで官能化したBPMOに、中性子捕捉薬剤 10BPAを担持した。簡潔には、BPMO-ジオールを、10BPA溶液に添加し、pHをおよそ8.5~8.8に調節し、その混合物を4℃で24時間撹拌した。その生成物を遠心分離によって集め、次いで、脱イオン水およびエタノールで洗浄した。乾燥した生成物をエバポレーション後に得た。得られた組成物 P-BPMO-ジオール-10BPAは、図1に記載されるプロセスによって示され、本発明の範囲内である。
【0086】
実施例5: 10 BPAを担持したホスホネート改変BPMOの腫瘍標的化
先の実施例に示されるBPMOの評価を、10BPAを担持したBPMOの腫瘍標的化活性を示すために行った。簡潔には、受精卵を10日間インキュベートした。そのときに、ヒトがん細胞をCAM膜(漿尿膜)上に移植した。GFP発現卵巣がん細胞を使用する。3日後、腫瘍がCAM膜上に形成される。実施例2に記載されるように合成し、ローダミン-B標識したBPMOを、静脈内注射し、赤色蛍光(BPMO)および緑色蛍光(GFP発現腫瘍)の重なり合いを調査する。
【0087】
その結果は、0.2mg/鶏卵において静脈内注射した場合、10BPAを担持したBPMOが腫瘍に蓄積することを示す。注射の2日後に、その腫瘍およびニワトリ胚に由来する種々の器官を切り出し、当該分野で公知の技術を使用して、蛍光顕微鏡検査法の下で検鏡した。BPMOの赤色蛍光が、腫瘍の緑色蛍光と重なり合うことに注意のこと。図3および図4を参照のこと。
【0088】
その後の分析において、図4において使用され、示された腫瘍および器官を、薄い切片へと切り出し、次いで、当該分野で公知の技術を使用して共焦点顕微鏡法によって検鏡した。その結果は、BPMOの赤色蛍光が、正常肝臓において些細な量を伴ったが、腫瘍の中で検出されたことを示す。腫瘍の緑色蛍光は、GFP発現がん細胞に起因する。図4および図5を参照のこと。
【0089】
実施例6: 10 BPAを担持した、ホスホネートで表面改変されたBPMOを使用するBNCT
BNCTにおける治療モダリティーとしてホスホネートで表面改変された10BPAを担持したBPMOの有効性を、以下の方法を使用して示す。第1に、ヒトがん細胞を、鶏卵内部のCAM膜上に移植する。第2に、上記10BPAを担持した、ホスホネートで表面改変されたBPMOを注射し、1~2日間静置させる。中性子線への曝露を開始する。中性子への曝露(通常はおよそ60分)後、その鶏卵を、3日間インキュベートする。3日後、その腫瘍を当該分野で公知の技術で分析し、その腫瘍のサイズおよび重量を測定する。その腫瘍サイズおよび重量を調べる。図6を参照のこと。
【0090】
本明細書で記載されるものと同じプロトコールを使用して種々のさらなる中性子捕捉薬剤が利用され得ることは、当業者によって理解される。
【0091】
実施例7: 中性子捕捉薬剤を担持したBPMOを使用することによるヒト癌腫の処置に関するヒト臨床試験
中性子捕捉薬剤を担持したBPMOを、本発明に従って使用する。これは腫瘍細胞の中に特異的に蓄積し、ある特定の腫瘍および他の免疫学的障害ならびに/または他の疾患の処置において使用される。これらの適応症の各々に関連して、2つの臨床的アプローチが、成功裡に続行される。
【0092】
I.)補助療法: 補助療法において、患者を、化学療法剤または薬学的薬剤または生物製剤またはこれらの組み合わせとの組み合わせにおいて、中性子捕捉薬剤を担持したBPMOで処置する。原発性がん標的を、中性子捕捉薬剤を担持したBPMOを追加することによって標準プロトコール下で処置し、次いで、照射する。プロトコールデザインは、以下の例によって評価されるとおりの有効性(原発病変または転移病変の腫瘍塊の低減、無増悪生存期間の増大、全生存、患者の健康状態の改善、疾患安定化、ならびに標準的化学療法および他の生物製剤の通常用量を低減できることが挙げられるが、これらに限定されない)に取り組む。これらの投与量低減は、上記化学療法剤または生物製剤の用量関連毒性を低減することによって、さらなるおよび/または長期の治療を可能にする。
【0093】
II.)単剤療法: 腫瘍の単剤療法において中性子捕捉薬剤を担持したBPMOの使用に関連して、中性子捕捉薬剤を担持したBPMOを、化学療法剤も薬学的薬剤も生物学的薬剤もなしに、患者に投与する。1つの実施形態において、単剤療法を、広範な転移性疾患を有する末期ステージのがん患者において臨床的に行う。プロトコールデザインは、以下の例によって評価されるとおりの有効性(原発病変または転移病変の腫瘍塊の低減、無増悪生存期間の増大、全生存、患者の健康状態の改善、疾患安定化、ならびに標準的化学療法および他の生物製剤の通常用量を低減できることが挙げられるが、これらに限定されない)に取り組む。
【0094】
投与量
投与レジメンを、最適な望ましい応答を提供するように調節し得る。例えば、担持したBPMOの1回の注射を投与してもよいし、いくつかに分割した用量を経時的に投与してもよいし、用量を、治療状況の切迫によって示されるように、比例して増減してもよい。「単位剤形(Dosage Unit Form)」とは、本明細書で使用される場合、処置されるべき哺乳動物被験体のための単位投与量として適した物理的に分離した単位に言及する;各単位は、必要とされる絵薬学的キャリアと会合した状態で所望の治療効果を生じるように計算された活性化合物の所定の量を含む。本発明の単位剤形に関する仕様は、(a)中性子捕捉薬剤を担持したBPMOの特有の特徴、照射機構(反応器)の個々の力学および達成されるべき特定の治療効果または予防効果、ならびに(b)個体における感度の処置のために、このような化合物を配合するという技術に内在する制限によって規定されかつこれらに直接依存する。
【0095】
臨床開発計画(CDP)
CDPは、中性子捕捉薬剤を担持したBPMOを使用し、次いで、補助療法または単剤療法に関連して、中性子捕捉療法を使用して照射される処置を追跡および開発する。治験は始めに安全性を示し、その後、反復用量において有効性を確認する。治験は非盲検試験であり、標準的化学療法を、標準治療+中性子捕捉薬剤を担持したBPMO、次いで、中性子捕捉療法を使用して照射されるものと比較する。認識されるように、患者の登録に関連して利用され得る1つの非限定的基準は、当該分野で公知の標準的検出法によって決定されるとおりの、腫瘍における中性子捕捉薬剤の濃度である。
【0096】
本発明は、本明細書で開示される実施形態によって範囲が限定されるべきではない。上記実施形態は、本発明の個々の局面の1つの例証として意図され、機能的に均等であるいずれのものも本発明の範囲内である。本発明のモデル、方法、およびライフサイクル方法論に対する種々の改変は、本明細書で記載されるものに加えて、前述の記載および教示から当業者に明らかになり、本発明の範囲内に入ることが同様に意図される。このような改変または他の実施形態は、本発明の真の範囲および趣旨から逸脱することなく実施され得る。
図1
図2
図3
図4
図5
図6