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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-16
(45)【発行日】2024-05-24
(54)【発明の名称】診断装置及び診断方法
(51)【国際特許分類】
   G01M 99/00 20110101AFI20240517BHJP
   G01H 17/00 20060101ALI20240517BHJP
【FI】
G01M99/00 A
G01H17/00 A
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021010878
(22)【出願日】2021-01-27
(65)【公開番号】P2022114564
(43)【公開日】2022-08-08
【審査請求日】2023-02-02
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託による研究成果に係る特許出願(平成30年度 国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「事業・プロジェクト名:高温超電導実用化促進技術開発」「研究テーマ:運輸分野への高温超電導適用基盤技術開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願)
(73)【特許権者】
【識別番号】000173784
【氏名又は名称】公益財団法人鉄道総合技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000958
【氏名又は名称】弁理士法人インテクト国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100120237
【弁理士】
【氏名又は名称】石橋 良規
(72)【発明者】
【氏名】小林 祐介
(72)【発明者】
【氏名】富田 優
(72)【発明者】
【氏名】宋 瀏陽
(72)【発明者】
【氏名】陳山 鵬
【審査官】中村 圭伸
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-018813(JP,A)
【文献】特許第6420885(JP,B1)
【文献】特開2020-085836(JP,A)
【文献】特開2020-144096(JP,A)
【文献】特開2017-077055(JP,A)
【文献】特開平04-276555(JP,A)
【文献】特開昭59-192421(JP,A)
【文献】特開昭62-137685(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0050599(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01H 1/00 - 17/00
G01M 13/00 - 13/045
G01M 99/00
H02K 17/00 - 19/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インバータ制御されたモータにより駆動されている回転機械の回転数の第1値を同定し、同定された前記第1値に基づいて、前記回転機械の状態を診断する診断装置において、
前記回転数の値が第2値である時に、前記回転機械の第1振動波形をセンサにより計測し、計測された前記第1振動波形を変換する、第1変換処理を、前記第2値を変更しながら繰り返すことにより、互いに異なる複数の前記第2値の各々について前記第1振動波形がそれぞれ変換された複数の第1周波数スペクトルを取得する第1変換部と、
前記第1変換部により前記複数の第1周波数スペクトルが取得された後、前記回転機械の第2振動波形を前記センサにより計測し、計測された前記第2振動波形を変換し、前記第2振動波形が変換された第2周波数スペクトルを取得する第2変換部と、
前記複数の第1周波数スペクトルのいずれかを第3周波数スペクトルとして選択する第1選択部と、
前記第1選択部により選択された前記第3周波数スペクトルと、前記第2変換部により取得された前記第2周波数スペクトルと、の間の第1乖離度を、DPマッチングを用いて算出する第1算出処理を実行する第1算出部と、
前記第1選択部により選択される前記第3周波数スペクトルを変更しながら前記第1算出部による前記第1算出処理を繰り返すことにより、前記複数の第1周波数スペクトルの各々についてそれぞれ算出された複数の前記第1乖離度を取得する取得部と、
前記複数の第1周波数スペクトルのうち、前記第1乖離度が最小になる前記第1周波数スペクトルを第4周波数スペクトルとして決定し、前記第2振動波形が計測された時の前記第1値を、前記第4周波数スペクトルに変換された前記第1振動波形が計測された時の前記第2値として同定する同定部と、
前記同定部により同定された前記第1値に基づいて、前記回転機械の状態を診断する診断部と、
を有し、
前記第1変換部は、前記回転数の値が前記第2値である時に、前記第1振動波形を計測し、計測された前記第1振動波形を第1周波数領域における前記第1周波数スペクトルに変換する、前記第1変換処理を、前記第2値を変更しながら繰り返すことにより、前記複数の第1周波数スペクトルを取得し、
前記第2変換部は、前記複数の第1周波数スペクトルが取得された後、前記第2振動波形を計測し、計測された前記第2振動波形を第2周波数領域における前記第2周波数スペクトルに変換し、
前記第1選択部は、前記複数の第1周波数スペクトルのいずれかを、前記第1周波数領域における前記第3周波数スペクトルとして選択し、
前記診断装置は、更に、
前記第2周波数スペクトルの前記第2周波数領域を、m個(mは2以上の整数)の第1部分領域に分割する第1分割部を有し、
前記第1算出部は、
前記第1選択部により選択された前記第3周波数スペクトルの前記第1周波数領域を、m個の第2部分領域に分割する第2分割部と、
前記第1分割部により分割された前記m個の第1部分領域のうち、中心周波数が低い方からk番目(kは1以上m以下の整数)の第1部分領域を選択する第2選択部と、
前記第2分割部により分割された前記m個の第2部分領域のうち、中心周波数が低い方からk番目の第2部分領域を選択する第3選択部と、
前記第2周波数スペクトルのうち前記第2選択部により選択された前記k番目の第1部分領域における第1部分スペクトルと、前記第3周波数スペクトルのうち前記第3選択部により選択された前記k番目の第2部分領域における第2部分スペクトルと、の間の第2乖離度を、DPマッチングを用いて算出する第2算出処理を実行する第2算出部と、
を含み、
前記第1算出部は、前記第1算出処理では、前記m個の第1部分領域の各々について前記第2算出処理を前記第2算出部によりそれぞれ実行することにより、前記m個の第1部分領域の各々における前記第1部分スペクトルについてそれぞれ算出されたm個の前記第2乖離度を取得し、取得された前記m個の第2乖離度に基づいて、前記第1乖離度を算出する、診断装置。
【請求項2】
請求項に記載の診断装置において、
前記第2周波数スペクトルを表す第1データの数をNとし、
前記第2振動波形のサンプリング周波数をfn[Hz]とし、
前記第2周波数スペクトルを表す前記第1データの間隔をΔf[Hz]とし、
前記回転数をrpm[回転/分]とし、
前記第2振動波形を計測している間の前記回転数の変動をΔrpm[回転/分]とし、
前記回転機械の回転周波数をfr[Hz]とし、
前記第2振動波形を計測している間の前記回転数の変動による前記回転周波数の変動をΔfr[Hz]としたとき、
mは、以下の数式(1)を満たす、診断装置。
【数1】
【請求項3】
請求項に記載の診断装置において、
前記第2算出部は、前記第2算出処理では、
前記第1部分スペクトルを表すI個(Iは2以上の整数)の第2データの各々がそれぞれ有するI個の周波数の第3値の各々、及び、前記I個の第2データを前記第3値の小さい順に並べたときの前記I個の第2データの各々の順番である第1順番、並びに、前記第2部分スペクトルを表すJ個(Jは2以上の整数)の第3データの各々がそれぞれ有するJ個の周波数の第4値の各々、及び、前記J個の第3データを前記第4値の小さい順に並べたときの前記J個の第3データの各々の順番である第2順番、をそれぞれ表す複数の第1ノードを含み、
前記複数の第1ノードのうち、前記第1ノードが表す前記第1順番が1番目であり、且つ、前記第1ノードが表す前記第2順番が1番目である、第1ノードを、第1基準ノードとし、
前記複数の第1ノードのうち、前記第1ノードが表す前記第1順番がI番目であり、且つ、前記第1ノードが表す前記第2順番がJ番目である、第1ノードを、第2基準ノードとする、第1グラフ、を作成する作成処理を実行し、
前記第1グラフは、
前記複数の第1ノードのうち、前記第1ノードが表す前記第1順番がi番目(iは2以上I以下の整数)であり、且つ、前記第1ノードが表す前記第2順番がj番目(jは2以上J以下の整数)である、第1ノードを、第2ノードとし、
前記複数の第1ノードのうち、前記第1ノードが表す前記第1順番が(i-1)番目(iは2以上I以下の整数)であり、且つ、前記第1ノードが表す前記第2順番が(j-1)番目(jは2以上J以下の整数)である、第1ノードを、第3ノードとし、
前記複数の第1ノードのうち、前記第1ノードが表す前記第1順番が(i-1)番目(iは2以上I以下の整数)であり、且つ、前記第1ノードが表す前記第2順番がj番目(jは2以上J以下の整数)である、第1ノードを、第4ノードとし、
前記複数の第1ノードのうち、前記第1ノードが表す前記第1順番がi番目(iは2以上I以下の整数)であり、且つ、前記第1ノードが表す前記第2順番が(j-1)番目(jは2以上J以下の整数)である、第1ノードを、第5ノードとしたとき、
前記第2ノードと前記第3ノードとを結合する第1エッジと、
前記第2ノードと前記第4ノードとを結合する第2エッジと、
前記第2ノードと前記第5ノードとを結合する第3エッジと、
を含み、
前記第1エッジ、前記第2エッジ及び前記第3エッジの各々は、前記第2ノードがそれぞれ表す前記第3値と前記第4値との間の差分を表すコストを有し、
前記第2算出部は、前記第2算出処理では、
前記作成処理にて作成された前記第1グラフに基づいて、前記第1基準ノードと前記第2基準ノードとの間の第1経路であって、前記複数の第1ノードのうちのいずれか複数の第6ノードと、前記複数の第6ノードのうち互いに隣り合う2つの第6ノードをそれぞれ結合する複数の第4エッジと、を含む前記第1経路を、前記第1経路に含まれる前記複数の第4エッジであって、前記複数の第6ノードのうち前記第1基準ノードを除いた複数の第7ノードの各々について、前記第7ノードが前記第2ノードであるとしたときに前記第2ノードをそれぞれ結合する前記第1エッジ、前記第2エッジ又は前記第3エッジである前記複数の第4エッジ、が有する前記コストの和が一定の範囲内に含まれるように、探索する探索処理と、
前記探索処理にて探索された前記第1経路に含まれる前記複数の第4エッジが有する前記コストの和に基づいて、前記第2乖離度を算出する第3算出処理と、
を実行する、診断装置。
【請求項4】
請求項1乃至のいずれか一項に記載の診断装置において、
前記診断部は、前記第1値に基づいて、前記回転機械の状態を、主成分分析法を用いて診断する、診断装置。
【請求項5】
インバータ制御されたモータにより駆動されている回転機械の回転数の第1値を同定し、同定された前記第1値に基づいて、前記回転機械の状態を診断する診断方法において、
(a)前記回転数の値が第2値である時に、前記回転機械の第1振動波形をセンサにより計測し、計測された前記第1振動波形を第1変換部により変換する、第1変換処理を、前記第2値を変更しながら繰り返すことにより、互いに異なる複数の前記第2値の各々について前記第1振動波形がそれぞれ変換された複数の第1周波数スペクトルを前記第1変換部により取得するステップ、
(b)前記(a)ステップの後、前記回転機械の第2振動波形を前記センサにより計測し、計測された前記第2振動波形を第2変換部により変換し、前記第2振動波形が変換された第2周波数スペクトルを前記第2変換部により取得するステップ、
(c)前記複数の第1周波数スペクトルのいずれかを第3周波数スペクトルとして第1選択部により選択するステップ、
(d)前記(c)ステップにて選択された前記第3周波数スペクトルと、前記(b)ステップにて取得された前記第2周波数スペクトルと、の間の第1乖離度を、DPマッチングを用いて第1算出部により算出するステップ、
(e)前記第1選択部により選択される前記第3周波数スペクトルを変更しながら前記(d)ステップを繰り返すことにより、前記複数の第1周波数スペクトルの各々についてそれぞれ算出された複数の前記第1乖離度を取得部により取得するステップ、
(f)前記複数の第1周波数スペクトルのうち、前記第1乖離度が最小になる前記第1周波数スペクトルを、第4周波数スペクトルとして同定部により決定し、前記第2振動波形が計測された時の前記第1値を、前記第4周波数スペクトルに変換された前記第1振動波形が計測された時の前記第2値として、前記同定部により同定するステップ、
(g)前記(f)ステップにて同定された前記第1値に基づいて、前記回転機械の状態を診断部により診断するステップ、
を有し、
前記第1変換部は、前記回転数の値が前記第2値である時に、前記第1振動波形を計測し、計測された前記第1振動波形を第1周波数領域における前記第1周波数スペクトルに変換する、前記第1変換処理を、前記第2値を変更しながら繰り返すことにより、前記複数の第1周波数スペクトルを取得し、
前記第2変換部は、前記複数の第1周波数スペクトルが取得された後、前記第2振動波形を計測し、計測された前記第2振動波形を第2周波数領域における前記第2周波数スペクトルに変換し、
前記第1選択部は、前記複数の第1周波数スペクトルのいずれかを、前記第1周波数領域における前記第3周波数スペクトルとして選択し、
更に、
前記第2周波数スペクトルの前記第2周波数領域を、m個(mは2以上の整数)の第1部分領域に分割する第1分割部を有し、
前記第1算出部は、
前記第1選択部により選択された前記第3周波数スペクトルの前記第1周波数領域を、m個の第2部分領域に分割する第2分割部と、
前記第1分割部により分割された前記m個の第1部分領域のうち、中心周波数が低い方からk番目(kは1以上m以下の整数)の第1部分領域を選択する第2選択部と、
前記第2分割部により分割された前記m個の第2部分領域のうち、中心周波数が低い方からk番目の第2部分領域を選択する第3選択部と、
前記第2周波数スペクトルのうち前記第2選択部により選択された前記k番目の第1部分領域における第1部分スペクトルと、前記第3周波数スペクトルのうち前記第3選択部により選択された前記k番目の第2部分領域における第2部分スペクトルと、の間の第2乖離度を、DPマッチングを用いて算出する第2算出処理を実行する第2算出部と、
を含み、
前記第1算出部は、第1算出処理では、前記m個の第1部分領域の各々について前記第2算出処理を前記第2算出部によりそれぞれ実行することにより、前記m個の第1部分領域の各々における前記第1部分スペクトルについてそれぞれ算出されたm個の前記第2乖離度を取得し、取得された前記m個の第2乖離度に基づいて、前記第1乖離度を算出する、診断方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インバータ制御されたモータにより駆動されている回転機械の状態を診断する診断装置及び診断方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電動機即ちモータにより駆動される回転機械の状態を診断するための様々な診断方法が提案されている。このような回転機械の状態を診断するための診断方法については、例えば非特許文献1及び非特許文献2に記載されている。
【0003】
また、モータによって駆動される回転機械の異常振動を選択的に検出する機械振動検出装置が知られている。特開平5-18813号公報(特許文献1)には、電動機によって駆動される回転機の振動を検出する機械振動検出装置において、回転機の回転速度を検出する速度センサと、電動機の入力電流を検出する電流センサと、回転機の振動を検出する振動センサと、振動センサによって検出された機械振動のデータをフーリエ変換するフーリエ変換手段と、回転機の正常運転時に種々の回転速度および入力電流のもとでフーリエ変換手段によって得られた振動データをそれぞれ同一時刻に検出された回転速度および入力電流の各データと組み合わせて保存するデータベースと、を備える技術が開示されている。
【0004】
一方、音響信号による異常検出方法として、診断用音響特徴パターンと標準音響パターンとの間でパターンマッチングを行う方法が知られている。特開平9-90977号公報(特許文献2)には、音響信号による異常検出方法において、直近で採録された音響特徴パターンを未知入力音響パターンとし、これ以前に採録されたものを標準音響パターンとして記録し、未知入力音響パターンを診断用音響特徴パターンに加工し、診断用音響特徴パターンと標準音響パターンとの間でパターンマッチングを行って各特徴量間の数値的な距離値を求め、距離値が所定の値を超えている場合は対象に異常が発生していると判定する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平5-18813号公報
【文献】特開平9-90977号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】宋瀏陽、外3名、「周波数領域のヒストグラムの特徴解析による設備状態識別法」、平成29年度日本設備管理学会秋季研究発表大会論文集、2017年、p.25-30
【文献】小林祐介、外3名、「異常軸受から離れた場所での自動診断法」、日本設備管理学会誌、2019年、第31巻、第1号、p.14-22
【文献】上坂吉則、外1名、「パターン認識と学習のアルゴリズム」、文一総合出版、1990年、p.140-152
【文献】陳山鵬、「回転機械設備診断の基礎と応用」、DET LLP.、2015年、p.69-71
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
近年、省エネルギー化又は省メンテナンス化を目的として、モータにより駆動される回転機械において、モータがインバータ制御されることが主流になっている。しかし、これまでに提案された診断方法のほとんどは、回転速度(以下、「回転数」とも称する)が一定である回転機械の状態を診断するためのものであり、このような診断方法を用いるだけでは、インバータ制御されたモータにより駆動される回転機械の状態、即ち可変速回転機械の状態、を容易に診断することができない。また、インバータ制御されたモータにより駆動されている回転機械について、即ち可変速回転機械について、負荷変動により回転数が変動したときに、回転数を精度良く検出することができない。
【0008】
本発明は、上述のような従来技術の問題点を解決すべくなされたものであって、インバータ制御されたモータにより駆動されている回転機械の回転数の値を同定し、同定された値に基づいて、回転機械の状態を診断する診断装置において、回転数が変動した場合でも、変動した回転数を精度良く同定することができる診断装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願において開示される発明のうち、代表的なものの概要を簡単に説明すれば、次のとおりである。
【0010】
本発明の一態様としての診断装置は、インバータ制御されたモータにより駆動されている回転機械の回転数の第1値を同定し、同定された第1値に基づいて、回転機械の状態を診断する診断装置である。当該診断装置は、回転数の値が第2値である時に、回転機械の第1振動波形をセンサにより計測し、計測された前記第1振動波形を変換する、第1変換処理を、第2値を変更しながら繰り返すことにより、互いに異なる複数の第2値の各々について第1振動波形がそれぞれ変換された複数の第1周波数スペクトルを取得する第1変換部と、第1変換部により複数の第1周波数スペクトルが取得された後、回転機械の第2振動波形をセンサにより計測し、計測された第2振動波形を変換し、第2振動波形が変換された第2周波数スペクトルを取得する第2変換部と、を有する。また、当該診断装置は、複数の第1周波数スペクトルのいずれかを第3周波数スペクトルとして選択する第1選択部と、第1選択部により選択された第3周波数スペクトルと、第2変換部により取得された第2周波数スペクトルと、の間の第1乖離度を、DPマッチングを用いて算出する第1算出処理を実行する第1算出部と、第1選択部により選択される第3周波数スペクトルを変更しながら第1算出部による第1算出処理を繰り返すことにより、複数の第1周波数スペクトルの各々についてそれぞれ算出された複数の第1乖離度を取得する取得部と、を有する。また、当該診断装置は、複数の第1周波数スペクトルのうち、第1乖離度が最小になる第1周波数スペクトルを第4周波数スペクトルとして決定し、第2振動波形が計測された時の第1値を、第4周波数スペクトルに変換された第1振動波形が計測された時の第2値として同定する同定部と、同定部により同定された前記第1値に基づいて、回転機械の状態を診断する診断部と、を有し、第1変換部は、回転数の値が第2値である時に、第1振動波形を計測し、計測された第1振動波形を第1周波数領域における第1周波数スペクトルに変換する、第1変換処理を、第2値を変更しながら繰り返すことにより、複数の第1周波数スペクトルを取得し、第2変換部は、複数の第1周波数スペクトルが取得された後、第2振動波形を計測し、計測された第2振動波形を第2周波数領域における第2周波数スペクトルに変換し、第1選択部は、複数の第1周波数スペクトルのいずれかを、第1周波数領域における第3周波数スペクトルとして選択し、診断装置は、更に、第2周波数スペクトルの第2周波数領域を、m個(mは2以上の整数)の第1部分領域に分割する第1分割部を有し、第1算出部は、第1選択部により選択された第3周波数スペクトルの第1周波数領域を、m個の第2部分領域に分割する第2分割部と、第1分割部により分割されたm個の第1部分領域のうち、中心周波数が低い方からk番目(kは1以上m以下の整数)の第1部分領域を選択する第2選択部と、第2分割部により分割された前記m個の第2部分領域のうち、中心周波数が低い方からk番目の第2部分領域を選択する第3選択部と、第2周波数スペクトルのうち第2選択部により選択されたk番目の第1部分領域における第1部分スペクトルと、第3周波数スペクトルのうち第3選択部により選択されたk番目の第2部分領域における第2部分スペクトルと、の間の第2乖離度を、DPマッチングを用いて算出する第2算出処理を実行する第2算出部と、を含み、第1算出部は、第1算出処理では、m個の第1部分領域の各々について第2算出処理を第2算出部によりそれぞれ実行することにより、m個の第1部分領域の各々における第1部分スペクトルについてそれぞれ算出されたm個の前記第2乖離度を取得し、取得されたm個の第2乖離度に基づいて、前記第1乖離度を算出する。
【0012】
また、他の一態様として、第2周波数スペクトルを表す第1データの数をNとし、第2振動波形のサンプリング周波数をf[Hz]とし、第2周波数スペクトルを表す第1データの間隔をΔf[Hz]とし、回転数をrpm[回転/分]とし、第2振動波形を計測している間の回転数の変動をΔrpm[回転/分]とし、回転機械の回転周波数をf[Hz]とし、第2振動波形を計測している間の回転数の変動による回転周波数の変動をΔf[Hz]としたとき、mは、以下の数式(1)を満たしてもよい。
【0013】
【数1】
【0014】
また、他の一態様として、第2算出部は、第2算出処理では、第1部分スペクトルを表すI個(Iは2以上の整数)の第2データの各々がそれぞれ有するI個の周波数の第3値の各々、及び、I個の第2データを第3値の小さい順に並べたときのI個の第2データの各々の順番である第1順番、並びに、第2部分スペクトルを表すJ個(Jは2以上の整数)の第3データの各々がそれぞれ有するJ個の周波数の第4値の各々、及び、J個の第3データを第4値の小さい順に並べたときのJ個の第3データの各々の順番である第2順番、をそれぞれ表す複数の第1ノードを含み、複数の第1ノードのうち、第1ノードが表す第1順番が1番目であり、且つ、第1ノードが表す第2順番が1番目である、第1ノードを、第1基準ノードとし、複数の第1ノードのうち、第1ノードが表す第1順番がI番目であり、且つ、第1ノードが表す第2順番がJ番目である、第1ノードを、第2基準ノードとする、第1グラフ、を作成する作成処理を実行してもよい。第1グラフは、複数の第1ノードのうち、第1ノードが表す第1順番がi番目(iは2以上I以下の整数)であり、且つ、第1ノードが表す第2順番がj番目(jは2以上J以下の整数)である、第1ノードを、第2ノードとし、複数の第1ノードのうち、第1ノードが表す第1順番が(i-1)番目(iは2以上I以下の整数)であり、且つ、第1ノードが表す第2順番が(j-1)番目(jは2以上J以下の整数)である、第1ノードを、第3ノードとし、複数の第1ノードのうち、第1ノードが表す第1順番が(i-1)番目(iは2以上I以下の整数)であり、且つ、第1ノードが表す第2順番がj番目(jは2以上J以下の整数)である、第1ノードを、第4ノードとし、複数の第1ノードのうち、第1ノードが表す第1順番がi番目(iは2以上I以下の整数)であり、且つ、第1ノードが表す第2順番が(j-1)番目(jは2以上J以下の整数)である、第1ノードを、第5ノードとしたとき、第2ノードと第3ノードとを結合する第1エッジと、第2ノードと第4ノードとを結合する第2エッジと、第2ノードと第5ノードとを結合する第3エッジと、を含み、第1エッジ、第2エッジ及び第3エッジの各々は、第2ノードがそれぞれ表す第3値と第4値との間の差分を表すコストを有してもよい。第2算出部は、第2算出処理では、作成処理にて作成された第1グラフに基づいて、第1基準ノードと第2基準ノードとの間の第1経路であって、複数の第1ノードのうちのいずれか複数の第6ノードと、複数の第6ノードのうち互いに隣り合う2つの第6ノードをそれぞれ結合する複数の第4エッジと、を含む第1経路を、第1経路に含まれる複数の第4エッジであって、複数の第6ノードのうち第1基準ノードを除いた複数の第7ノードの各々について、第7ノードが第2ノードであるとしたときに第2ノードをそれぞれ結合する第1エッジ、第2エッジ又は第3エッジである複数の第4エッジ、が有するコストの和が一定の範囲内に含まれるように、探索する探索処理と、探索処理にて探索された第1経路に含まれる複数の第4エッジが有するコストの和に基づいて、第2乖離度を算出する第3算出処理と、を実行してもよい。
【0015】
また、他の一態様として、診断部は、第1値に基づいて、回転機械の状態を、主成分分析法を用いて診断してもよい。
【0016】
本発明の一態様としての診断方法は、インバータ制御されたモータにより駆動されている回転機械の回転数の第1値を同定し、同定された第1値に基づいて、回転機械の状態を診断する診断方法である。当該診断方法は、回転数の値が第2値である時に、回転機械の第1振動波形をセンサにより計測し、計測された第1振動波形を第1変換部により変換する、第1変換処理を、第2値を変更しながら繰り返すことにより、互いに異なる複数の第2値の各々について第1振動波形がそれぞれ変換された複数の第1周波数スペクトルを第1変換部により取得する(a)ステップと、(a)ステップの後、回転機械の第2振動波形をセンサにより計測し、計測された第2振動波形を第2変換部により変換し、第2振動波形が変換された第2周波数スペクトルを第2変換部により取得する(b)ステップとを有する。また、当該診断方法は、複数の第1周波数スペクトルのいずれかを第3周波数スペクトルとして第1選択部により選択する(c)ステップと、(c)ステップにて選択された第3周波数スペクトルと、(b)ステップにて取得された第2周波数スペクトルと、の間の第1乖離度を、DPマッチングを用いて第1算出部により算出する(d)ステップと、第1選択部により選択される第3周波数スペクトルを変更しながら(d)ステップを繰り返すことにより、複数の第1周波数スペクトルの各々についてそれぞれ算出された複数の第1乖離度を取得部により取得する(e)ステップと、を有する。また、当該診断方法は、複数の第1周波数スペクトルのうち、第1乖離度が最小になる第1周波数スペクトルを、第4周波数スペクトルとして同定部により決定し、第2振動波形が計測された時の第1値を、第4周波数スペクトルに変換された第1振動波形が計測された時の第2値として、同定部により同定する(f)ステップと、(f)ステップにて同定された第1値に基づいて、前記回転機械の状態を診断部により診断する(g)ステップとを有し、第1変換部は、回転数の値が第2値である時に、第1振動波形を計測し、計測された第1振動波形を第1周波数領域における第1周波数スペクトルに変換する、第1変換処理を、第2値を変更しながら繰り返すことにより、複数の第1周波数スペクトルを取得し、第2変換部は、複数の第1周波数スペクトルが取得された後、第2振動波形を計測し、計測された第2振動波形を第2周波数領域における第2周波数スペクトルに変換し、第1選択部は、複数の第1周波数スペクトルのいずれかを、第1周波数領域における第3周波数スペクトルとして選択し、更に、第2周波数スペクトルの第2周波数領域を、m個(mは2以上の整数)の第1部分領域に分割する第1分割部を有し、第1算出部は、第1選択部により選択された第3周波数スペクトルの第1周波数領域を、m個の第2部分領域に分割する第2分割部と、第1分割部により分割されたm個の第1部分領域のうち、中心周波数が低い方からk番目(kは1以上m以下の整数)の第1部分領域を選択する第2選択部と、第2分割部により分割されたm個の第2部分領域のうち、中心周波数が低い方からk番目の第2部分領域を選択する第3選択部と、第2周波数スペクトルのうち第2選択部により選択されたk番目の第1部分領域における第1部分スペクトルと、第3周波数スペクトルのうち第3選択部により選択されたk番目の第2部分領域における第2部分スペクトルと、の間の第2乖離度を、DPマッチングを用いて算出する第2算出処理を実行する第2算出部と、を含み、第1算出部は、第1算出処理では、m個の第1部分領域の各々について第2算出処理を第2算出部によりそれぞれ実行することにより、m個の第1部分領域の各々における第1部分スペクトルについてそれぞれ算出されたm個の第2乖離度を取得し、取得されたm個の第2乖離度に基づいて、第1乖離度を算出する。
【発明の効果】
【0017】
本発明の一態様を適用することで、インバータ制御されたモータにより駆動されている回転機械の回転数の値を同定し、同定された値に基づいて、回転機械の状態を診断する診断装置において、回転数が変動した場合でも、変動した回転数を精度良く同定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】実施の形態の診断装置により状態が診断される回転機械を含む実施の形態の診断装置の全体構成を示す図である。
図2】実施の形態の診断方法を示すフロー図である。
図3】DPマッチングを説明するための模式的なグラフである。
図4】DPマッチングを説明するためのイメージ図である。
図5】実施の形態の診断装置の構成を示すブロック図である。
図6】実施の形態の診断方法の一部のステップを示すフロー図である。
図7】振動波形及び周波数スペクトルを説明するための模式的なグラフである。
図8】周波数領域を分割しない場合におけるDPマッチングを説明するための図である。
図9】実施の形態の変形例の診断装置の構成を示すブロック図である。
図10】実施の形態の変形例の診断方法の一部のステップを示すフロー図である。
図11】周波数領域を分割する場合におけるDPマッチングを説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、本発明の各実施の形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0020】
なお、開示はあくまで一例にすぎず、当業者において、発明の主旨を保っての適宜変更について容易に想到し得るものについては、当然に本発明の範囲に含有されるものである。また、図面は説明をより明確にするため、実施の態様に比べ、各部の幅、厚さ、形状等について模式的に表される場合があるが、あくまで一例であって、本発明の解釈を限定するものではない。
【0021】
また本明細書と各図において、既出の図に関して前述したものと同様の要素には、同一の符号を付して、詳細な説明を適宜省略することがある。
【0022】
更に、実施の形態で用いる図面においては、断面図であっても図面を見やすくするためにハッチング(網掛け)を省略する場合もある。また、平面図であっても図面を見やすくするためにハッチングを付す場合もある。
【0023】
(実施の形態)
<診断装置による診断方法>
初めに、実施の形態の診断装置による診断方法について説明する。本実施の形態の診断装置は、インバータ制御されたモータにより駆動されている回転機械の回転数の値を同定し、同定された値に基づいて、回転機械の状態を診断する診断装置である。
【0024】
実施の形態の診断装置による診断方法では、インバータ制御されたモータにより駆動されている回転機械の回転数の各値について、即ち可変速回転機械の回転数の各値について、正常振動データ(学習データ)のスペクトルを、予め取得する。次に、予め取得された正常振動データ(学習データ)のスペクトルと、診断用に取得された振動データのスペクトルと、のマッチング度合(乖離度)を、動的計画法(Dynamic Programming)を用いたマッチングであるDPマッチングを用いて算出し、算出されたマッチング度合(乖離度)が最小になるように、回転数を同定する。次に、同定された回転数の値に基づいて、主成分分析法又は正準判別分析法等の多変量解析法を用いて、回転機械の状態を診断する。また、DPマッチングの基本的な概念については、例えば非特許文献3に記載されている。
【0025】
なお、後述する図8を用いて説明するように、DPマッチングでは、マッチング度合が最小になるように、回転数を同定することから、本願明細書では、マッチング度合を、乖離度と称する場合がある。
【0026】
図1は、実施の形態の診断装置により状態が診断される回転機械を含む実施の形態の診断装置の全体構成を示す図である。図2は、実施の形態の診断方法を示すフロー図である。図3は、DPマッチングを説明するための模式的なグラフである。図4は、DPマッチングを説明するためのイメージ図である。
【0027】
図5は、実施の形態の診断装置の構成を示すブロック図である。図6は、実施の形態の診断方法の一部のステップを示すフロー図である。図6は、図2に示す診断方法の一部のステップを示している。
【0028】
図7は、振動波形及び周波数スペクトルを説明するための模式的なグラフである。図7の上側のグラフGR1は、振動波形を説明するための模式的なグラフであり、図7の下側のグラフGR2は、周波数スペクトルを説明するための模式的なグラフである。
【0029】
まず、図1及び図2を参照し、本実施の形態の診断装置の具体例、及び、このような本実施の形態の診断装置の具体例による診断方法の全体的なフローを説明する。
【0030】
図1に示すように、本実施の形態の診断装置1の具体例では、インバータ制御されたモータ(図示は省略)により駆動されている回転機械2、即ち可変速回転機械に、センサとしての振動加速度センサ3が取り付けられている。振動加速度センサ3は、データロガ4を介してパーソナルコンピュータ等のコンピュータ5に接続されており、振動加速度センサ3により計測された振動波形は、データロガ4を介してコンピュータ5に取得される。
【0031】
本実施の形態の診断方法では、事前に様々な回転数での正常加速度データ(学習データ)として、複数の周波数スペクトルFS1(図3参照)を取得する(図2のステップS1)。その際の回転数は既知とする。即ち、ステップS1では、回転数が既知の正常状態における周波数スペクトルを、既知周波数スペクトルとして取得する。このステップS1の詳細については、後述する図5乃至図7を用いて説明する。
【0032】
次に、診断用の振動加速度データとして、周波数スペクトルFS2(図3参照)を取得し、診断用に取得した振動加速度データとしての周波数スペクトルFS2と、学習データとしての周波数スペクトルFS1と、をマッチングさせ、現在の回転数を同定する(図2のステップS2)。図4に示すように、DPマッチングは波形の伸縮を許すマッチング手法である。即ち、ステップS2では、回転機械の状態が正常だと仮定し、周波数スペクトルをマッチングすることにより回転数を同定する。このステップS2の詳細については、後述する図5乃至図7を用いて説明する。
【0033】
その後、同定した回転数の学習データを用い、例えば主成分分析法又は正準判別分析法等の多変量解析法を用いて、回転機械の状態を診断する(図2のステップS3)。即ち、ステップS3では、多変量解析法により回転機械の状態を判定する。このステップS3については、一例を後述する。
【0034】
次に、図1図3及び図5乃至図7を参照し、本実施の形態の診断装置、及び、本実施の形態の診断装置による診断方法の詳細について説明する。
【0035】
図1図3及び図5に示すように、本実施の形態の診断装置1は、インバータ制御されたモータ(図示は省略)により駆動されている回転機械2の回転数の値VL1を同定(推定)し、同定された回転数の値VL1に基づいて、回転機械2の状態を診断する診断装置である。診断装置1は、第1変換部11と、第2変換部12と、第1選択部13と、第1算出部14と、取得部15と、同定部16と、診断部17と、を有する。第1変換部11と、第2変換部12と、第1選択部13と、第1算出部14と、取得部15と、同定部16と、診断部17と、を有する診断装置1として、後述する診断方法の各ステップの動作及び処理を行うためのプログラムを実行するコンピュータ5を用いることができ、例えば図1に示したコンピュータ5、又は、例えば図1に示したコンピュータ5及びデータロガ4、を用いることができる。
【0036】
第1変換部11は、回転数の値が値VL2である時に、回転機械2の振動波形WF1をセンサとしての振動加速度センサ3により計測し、計測された振動波形WF1を、周波数スペクトルFS1、即ち、周波数領域FR1における周波数スペクトルFS1、に例えばフーリエ変換により変換する、第1変換処理を、値VL2を変更しながら繰り返すことにより、互いに異なる複数の値VL2の各々について、回転数の値が値VL2である時の振動波形WF1がそれぞれ変換された複数の周波数スペクトルFS1を取得する。
【0037】
第2変換部12は、第1変換部11により周波数スペクトルFS1が取得された後、回転機械の振動波形WF2をセンサとしての振動加速度センサ3により計測し、計測された振動波形WF2を周波数スペクトルFS2、即ち周波数領域FR2における周波数スペクトルFS2、に例えばフーリエ変換により変換し、振動波形WF2が変換された周波数スペクトルFS2を取得する。
【0038】
第1選択部13は、複数の周波数スペクトルFS1のいずれかを、周波数スペクトルFS3、即ち周波数領域FR1における周波数スペクトルFS3、として選択する。
【0039】
第1算出部14は、第1選択部13により選択された周波数スペクトルFS3と、第2変換部12により取得された周波数スペクトルFS2と、の間の乖離度DV1を、DPマッチングを用いて算出する第1算出処理を実行する。
【0040】
取得部15は、第1選択部13により選択される周波数スペクトルFS3を変更しながら第1算出部14による第1算出処理を繰り返すことにより、複数の周波数スペクトルFS1の各々についてそれぞれ算出された複数の乖離度DV1を取得する。
【0041】
同定部16は、複数の周波数スペクトルFS1のうち、乖離度DV1が最小になる周波数スペクトルFS1を周波数スペクトルFS4として決定し、振動波形WF2が計測された時の値VL1を、周波数スペクトルFS4に変換された振動波形WF1が計測された時の値VL2として同定(推定)する。
【0042】
診断部17は、同定部16により同定された値VL1に基づいて、回転機械2の状態を診断する。診断部17が回転機械2の状態を診断する方法として、特に限定されるものではないが、本願明細書では、多変量解析法により状態を診断する方法について後述する。
【0043】
本実施の形態の診断装置1として用いられるコンピュータ5は、中央演算処理装置(Central Processing Unit:CPU)、RAM(Random Access Memory)、記憶部、データ・指令入力部、画像表示部及び出力部等により構成されている。
【0044】
CPUは、図示は省略するが、各種データに対して、四則演算(加算、減算、乗算及び除算)、論理演算(論理積、論理和、否定及び排他的論理和等)、又は、データ比較、若しくはデータシフト等の処理を実行する部分である。なお、記憶部は、図示は省略するが、ハードディスク装置(Hard Disk Drive:HDD)、又は、ROM(Read Only Memory)等を有しており、CPUを制御するための制御プログラム、及び、CPUが用いる各種データ等を格納している部分である。また、ROMは、一般に、半導体チップ等により構成される。
【0045】
また、本実施の形態の診断装置1として用いられるコンピュータ5は、以下に説明する診断方法の各ステップの動作及び処理を行うためのプログラムを実行するものである。
【0046】
本実施の形態の診断装置1による診断方法は、インバータ制御されたモータ(図示は省略)により駆動されている回転機械2の回転数の値VL1を同定(推定)し、同定された値VL1に基づいて、回転機械2の状態を診断する診断方法である。
【0047】
図5及び図6に示すように、本実施の形態の診断装置1による診断方法では、回転数の値が値VL2である時に、回転機械2の振動波形WF1をセンサとしての振動加速度センサ3により計測し、計測された振動波形WF1を第1変換部11により、例えばフーリエ変換により変換する、第1変換処理を、値VL2を変更しながら繰り返すことにより、互いに異なる複数の値VL2の各々について、回転数の値が値VL2である時の振動波形WF1がそれぞれ変換された複数の周波数スペクトルFS1(図3参照)を第1変換部11により取得する(図6のステップS11)。
【0048】
図7の上側のグラフGR1は、ステップS11にて計測された振動波形WF1の一例を模式的に示している。また、図7の下側のグラフGR2は、ステップS11にて取得された周波数スペクトルFS1の一例を模式的に示している。
【0049】
なお、前述した図2を用いて説明したステップS1は、図6のステップS11を含むものである。
【0050】
次に、ステップS11の後、回転機械2の振動波形WF2をセンサとしての振動加速度センサ3により計測し、計測された振動波形WF2を第2変換部12により、例えばフーリエ変換により変換し、振動波形WF2が変換された周波数スペクトルFS2を第2変換部12により取得する(図6のステップS12)。なお、センサの種類又はセンサの位置によって振動波形が変化するため、振動波形WF2を計測する振動加速度センサは、振動波形WF1を計測する振動加速度センサと同一の振動加速度センサであることが望ましい。しかし、センサの種類又はセンサの位置による振動波形の変化が小さい場合には、振動波形WF2を計測する振動加速度センサとして、振動波形WF1を計測する振動加速度センサと異なる振動加速度センサを用いることもできる。
【0051】
図7の上側のグラフGR1は、ステップS12にて計測された振動波形WF2の一例を、ステップS11にて計測された振動波形WF1の一例と同様に、模式的に示している。また、図7の下側のグラフGR2は、ステップS12にて取得された周波数スペクトルFS2の一例を、ステップS11にて取得された周波数スペクトルFS1の一例と同様に、模式的に示している。
【0052】
次に、複数の周波数スペクトルFS1のいずれかを周波数スペクトルFS3として第1選択部13により選択する(図6のステップS13)。
【0053】
次に、ステップS13にて選択された周波数スペクトルFS3と、ステップS12にて取得された周波数スペクトルFS2と、の間の乖離度DV1を、DPマッチングを用いて第1算出部14により算出する第1算出処理を実行する(図6のステップS14)。なお、具体的なDPマッチングの方法については、後述する図8を用いて説明する。また、前述した図4を用いて説明したように、DPマッチングは波形の伸縮を許すマッチング手法である。
【0054】
次に、第1選択部13により選択される周波数スペクトルFS3を変更しながらステップS14を取得部15により繰り返すことにより、複数の周波数スペクトルFS1の各々についてそれぞれ算出された複数の乖離度DV1を取得部15により取得する(図6のステップS15)。
【0055】
次に、複数の周波数スペクトルFS1のうち、乖離度DV1が最小になる周波数スペクトルFS1を、周波数スペクトルFS4として同定部16により決定し、振動波形WF2が計測された時の値VL1を、周波数スペクトルFS4に変換された振動波形WF1が計測された時の値VL2として、同定部16により同定(推定)する(図6のステップS16)。
【0056】
なお、前述した図2を用いて説明したステップS2は、図6のステップS12乃至ステップS16を含むものである。
【0057】
次に、診断部17は、ステップS16にて同定部16により同定された値VL1に基づいて、回転機械2(図1参照)の状態を診断部17により診断する(図6のステップS17)。具体的には、診断部17は、ステップS17では、ステップS16にて同定部16により同定された値VL1に基づいて、回転機械2の状態を、多変量解析法を用いて診断することができる。
【0058】
なお、前述した図2を用いて説明したステップS3は、図6のステップS17を含むものである。また、図2では、多変量解析法を用いて回転機械2の状態を診断すること、即ち多変量解析法により回転機械の状態を判定することを、ステップS31として示している。
【0059】
ここで、インバータ制御されたモータにより駆動される回転機械の状態を診断する際の問題点について説明する。
【0060】
近年、省エネルギー化又は省メンテナンス化を目的として、モータにより駆動される回転機械において、モータがインバータ制御されることが主流になっている。しかし、これまでに提案された診断方法のほとんどは、回転速度が一定である回転機械の状態を診断するためのものであり、このような診断方法を用いるだけでは、インバータ制御されたモータにより駆動される回転機械の状態、即ち可変速回転機械の状態、を容易に診断することができない。また、インバータ制御されたモータにより駆動されている回転機械について、即ち可変速回転機械について、負荷変動により回転数が変動したときに、回転数を精度良く検出することができない。
【0061】
上記特許文献1には、機械振動検出装置において、データベースに保存された振動データを回転機の任意の運転時に振動センサおよびフーリエ変換手段を介して振動データを得た時の回転速度および入力電流のもとでの振動データに補間法により補正し振動ノイズデータとして出力する振動データ補間手段と、回転機の任意の運転時に振動センサおよびフーリエ変換手段を介して得られた振動データから振動ノイズデータを削除するノイズキャンセル手段とを備えた技術が開示されている。
【0062】
しかし、上記特許文献1に記載された技術では、ある回転数の振動データから振動ノイズデータを削除することはできるものの、計測された時の回転数が未知である振動波形から回転数の値を同定することができない。また、負荷変動により回転数が変動したときに、回転数を精度良く検出することができない。
【0063】
上記特許文献2には、連続して発生している入力音響パターンと標準パターンとの間のマッチング方法の従来例の一つとして、採録された未知の入力パターンおよび標準パターンの信号に含まれるパワースペクトル信号に着目し、スペクトル信号の最大或は極大ピーク位置を検出し、両者のマッチングを行う際の基準位置とする技術が開示されている。
【0064】
しかし、上記特許文献2に記載された技術では、スペクトル信号のピーク位置を検出し、両者のマッチングを行う際の基準位置とするため、回転数が変動しやすい場合に、計測された時の回転数が未知である振動波形から回転数の値を同定することができない。そのため、負荷変動により回転数が変動したときに、回転数を精度良く検出することができない。
【0065】
一方、本実施の形態の診断装置による診断方法では、診断装置1は、回転数の値VL2が既知の状態で予め取得された複数の周波数スペクトルFS1の各々と、計測された振動波形WF2が変換された周波数スペクトルFS2と、の間の乖離度DV1を、DPマッチングを用いて第1算出部14により算出し、複数の周波数スペクトルFS1のうち、乖離度DV1が最小になる周波数スペクトルFS1を決定し、振動波形WF2が計測された時の回転数の値VL1を、決定された周波数スペクトルFS1が計測された時の回転数の値VL2として、同定する。
【0066】
即ち、本実施の形態の診断装置を用いた診断方法では、計測された周波数が未知である振動波形から変換された未知周波数スペクトルと、周波数が既知である振動波形から変換された既知周波数スペクトルと、の間の乖離度(マッチング度合の逆数に相当)を、DPマッチングを用いて算出し、算出された乖離度が最小となる既知周波数スペクトルに変換された振動波形に基づいて、回転数の値を同定する。
【0067】
このような診断方法によれば、インバータ制御されたモータにより駆動されている回転機械の回転数の値を同定し、同定された値に基づいて、回転機械の状態を診断する診断方法において、回転数が変動した場合でも、変動した回転数を精度良く同定することができる。そのため、インバータ制御されたモータにより駆動される回転機械の状態、即ち可変速回転機械の状態、を容易に診断することができる。また、インバータ制御されたモータにより駆動されている回転機械について、即ち可変速回転機械について、負荷変動により回転数が変動したときにも、回転数を精度良く検出することができる。特に、近年、省エネルギー化又は省メンテナンス化を目的として、モータにより駆動される回転機械において、モータがインバータ制御されることが主流になっているため、本実施の形態の診断方法による効果は大きい。
【0068】
また、本実施の診断装置を用いた診断方法によれば、上記特許文献1に記載された技術と異なり、計測された時の回転数が未知である振動波形から回転数の値を同定することが想定された診断方法であるから、計測された時の回転数が未知である振動波形から回転数の値を容易に同定することができ、負荷変動により回転数が変動したときにも、回転数を精度良く検出することができる。
【0069】
また、本実施の診断装置を用いた診断方法によれば、上記特許文献2に記載された技術と異なり、信号のピーク位置を検出し、両者のマッチングを行う際の基準位置とするのではなく、DPマッチングを用いて、予め取得された複数の周波数スペクトルFS1の各々と、計測された振動波形WF2が変換された周波数スペクトルFS2と、のうち少なくとも一方の周波数スペクトルを周波数軸方向に伸縮させながら、乖離度DV1を算出する。そのため、回転数が変動しやすい場合にも、計測された時の回転数が未知である振動波形から回転数の値を容易に同定することができ、負荷変動により回転数が変動したときにも、回転数を精度良く検出することができる。
【0070】
<DPマッチングを用いた乖離度の算出方法>
ここで、図8を参照し、周波数スペクトルFS3(図3参照)と周波数スペクトルFS2(図3参照)との間のマッチング度合としての乖離度DV1(図3参照)をDPマッチングを用いて算出する算出方法について説明する。図8は、周波数領域を分割しない場合におけるDPマッチングを説明するための図であり、周波数スペクトルFS2(図3参照)が有するI個のデータDT2(図3参照)の順番を横軸とし、周波数スペクトルFS3(図3参照)が有するJ個のデータDT3(図3参照)の順番を縦軸としたグラフモデルを示す図である。
【0071】
DPマッチングは、前述した図4に示したように、波形の変形をある程度許容しながら波形同士のマッチングを行う方法である。以下では、周波数スペクトルFS3(図3参照)と周波数スペクトルFS2(図3参照)との間の乖離度DV1(図3参照)をDPマッチングを用いて算出する際に、周波数領域FR1及びFR2(図3参照)を分割せずに算出する算出方法について、説明する。
【0072】
マッチング対象の2つの離散スペクトルデータであるF及びGが、以下の数式(2)及び数式(3)で表されるものとする。
【0073】
【数2】
【0074】
【数3】
【0075】
上記数式(2)及び上記数式(3)で表されるF及びGに対し、周波数軸の伸縮対応を、図8に示すような格子グラフ上の点(1,1)から点(I,J)へ至るルートによって表現する。ここで、格子点が、以下の数式(4)で表されるとき、上記数式(2)及び上記数式(3)で表されるFとGとの対応関係を表すPは、以下の数式(5)で表される。
【0076】
【数4】
【0077】
【数5】
【0078】
また、格子点の移動は、k≧2において、以下の数式(6)で表されるように、制限される。
【0079】
【数6】
【0080】
ここで、以下の数式(7)で表される漸化式(k≧2)を用い、以下の数式(8)で表されるh(p)を初期値としてh(p)を求めると、マッチング度合であるD(F,G)は、以下の数式(9)で表される。
【0081】
【数7】
【0082】
【数8】
【0083】
【数9】
【0084】
上記数式(7)におけるd(i,j)は、以下の数式(10)で表される。
【0085】
【数10】
【0086】
上記数式(9)で表されるマッチング度合が小さいほど2つのスペクトルデータは似ている(マッチしている)ことを示している。従って、以下では、マッチング度合を、乖離度DV1及びDV2(図3参照)とも称する。
【0087】
また、上記したDPマッチングを言い換えると、以下の通りである。
【0088】
まず、第1算出部14(図5参照)は、前述したステップS14(図6参照)の第1算出処理では、図8に示すように、複数のノードND1を含むグラフGR3を作成する作成処理を実行する。
【0089】
なお、周波数領域FR1及びFR2(図3参照)を分割する場合のDPマッチングを用いた乖離度の算出方法としては、第1算出部14(図5参照)に代えて、後述する図9を用いて説明する第2算出部25とし、ステップS14(図6参照)の第1算出処理に代えて、後述する図10を用いて説明するステップS25の第2算出処理を実行することにより、第2算出部25は、ステップS25の第2算出処理では、複数のノードND1を含むグラフGR3を作成する作成処理を実行することになる。
【0090】
図8に示すように、グラフGR3は、複数のノードND1を含む。複数のノードND1は、周波数スペクトルFS2(図3参照)を表す(構成する)I個(Iは2以上の整数)のデータDT2(図3参照)の各々がそれぞれ有するI個の周波数の値VL3(図3参照)の各々をそれぞれ表す。また、複数のノードND1は、I個のデータDT2を値VL3の小さい順に並べたときのI個のデータDT2の各々の順番であるiの各々をそれぞれ表す。また、複数のノードND1は、周波数スペクトルFS3(図3参照)を表す(構成する)J個(Jは2以上の整数)のデータDT3(図3参照)の各々がそれぞれ有するJ個の周波数の値VL4(図3参照)の各々をそれぞれ表す。また、複数のノードND1は、J個のデータDT3を値VL4の小さい順に並べたときのJ個のデータDT3の各々の順番であるjの各々をそれぞれ表す。
【0091】
なお、周波数領域FR1及びFR2(図3参照)を分割する場合のDPマッチングを用いた乖離度の算出方法としては、周波数スペクトルFS2に代えて後述する部分スペクトルPS1(図3参照)とし、周波数スペクトルFS3に代えて後述する部分スペクトルPS2(図3参照)とすることにより、部分スペクトルPS1と部分スペクトルPS2との間のDPマッチングも、周波数スペクトルFS2と周波数スペクトルFS3との間のDPマッチングと同様にすることができる(以下のDPマッチングの説明においても同様)。
【0092】
ここで、グラフGR3において、ノードND1が表す値VL3(図3参照)が値VL3の低い方から(値VL3が低い順における)1番目の値VL3であり(値VL3が最小であり)、且つ、ノードND1が表す値VL4(図3参照)が値VL4の低い方から(値VL4が低い順における)1番目の値VL4である(値VL4が最小である)、ノードND1を、基準ノードNSとする。即ちノードND1が表すデータDT2(図3参照)の第1順番が1番目(i=1)であり、且つ、ノードND1が表すデータDT3(図3参照)の第2順番が1番目(j=1)である、ノードND1を、基準ノードNSとする(周波数領域FR1及びFR2(図3参照)を分割する場合も同様)。
【0093】
また、グラフGR3において、ノードND1が表す値VL3(図3参照)が値VL3の低い方から(値VL3が低い順における)I番目の値VL3であり(値VL3が最大であり)、且つ、ノードND1が表す値VL4(図3参照)が値VL4の低い方から(値VL4が低い順における)J番目の値VL4である(値VL4が最大である)、ノードND1を、基準ノードNGとする。即ちノードND1が表すデータDT2(図3参照)の第1順番がI番目(i=I)であり、且つ、ノードND1が表すデータDT3(図3参照)の第2順番がJ番目(j=J)である、ノードND1を、基準ノードNSとする(周波数領域FR1及びFR2(図3参照)を分割する場合も同様)。
【0094】
また、複数のノードND1のうち、ノードND1が表す値VL3(図3参照)が低い方から(値VL3が低い順における)i番目(iは2以上I以下の整数)の値VL3であり、且つ、ノードND1が表す値VL4(図3参照)が低い方から(値VL4が低い順における)j番目(jは2以上J以下の整数)の値VL4である、ノードND1を、ノードND2とする。或いは、ノードND1が表すデータDT2(図3参照)の第1順番がi番目(iは2以上I以下の整数)であり、且つ、ノードND1が表すデータDT3(図3参照)の第2順番がj番目(jは2以上J以下の整数)である、ノードND1を、ノードND2とする(周波数領域FR1及びFR2(図3参照)を分割する場合も同様)。
【0095】
また、複数のノードND1のうち、ノードND1が表す値VL3(図3参照)が低い方から(値VL3が低い順における)(i-1)番目の値VL3であり、且つ、ノードND1が表す値VL4(図3参照)が低い方から(値VL4が低い順における)(j-1)番目の値VL4である、ノードND1を、ノードND3とする。或いは、ノードND1が表すデータDT2(図3参照)の第1順番が(i-1)番目(iは2以上I以下の整数)であり、且つ、ノードND1が表すデータDT3(図3参照)の第2順番が(j-1)番目(jは2以上J以下の整数)である、ノードND1を、ノードND3とする(周波数領域FR1及びFR2(図3参照)を分割する場合も同様)。
【0096】
また、複数のノードND1のうち、ノードND1が表す値VL3(図3参照)が低い方から(値VL3が低い順における)(i-1)番目の値VL3であり、且つ、ノードND1が表す値VL4(図3参照)が低い方から(値VL4が低い順における)j番目の値VL4であるノードND1を、ノードND4とする。或いは、ノードND1が表すデータDT2(図3参照)の第1順番が(i-1)番目(iは2以上I以下の整数)であり、且つ、ノードND1が表すデータDT3(図3参照)の第2順番がj番目(jは2以上J以下の整数)である、ノードND1を、ノードND4とする(周波数領域FR1及びFR2(図3参照)を分割する場合も同様)。
【0097】
また、複数のノードND1のうち、ノードND1が表す値VL3(図3参照)が低い方から(値VL3が低い順における)i番目の値VL3であり、且つ、ノードND1が表す値VL4(図3参照)が低い方から(値VL4が低い順における)(j-1)番目の値VL4であるノードND1を、ノードND5とする。或いは、ノードND1が表すデータDT2(図3参照)の第1順番がi番目(iは2以上I以下の整数)であり、且つ、ノードND1が表すデータDT3(図3参照)の第2順番が(j-1)番目(jは2以上J以下の整数)である、ノードND1を、ノードND5とする(周波数領域FR1及びFR2(図3参照)を分割する場合も同様)。
【0098】
このような場合において、グラフGR3は、ノードND2とノードND3とを結合するエッジED1と、ノードND2とノードND4とを結合するエッジED2と、ノードND2とノードND5とを結合するエッジED3と、を含む(周波数領域FR1及びFR2(図3参照)を分割する場合も同様)。
【0099】
なお、ノードND1が表すデータDT2(図3参照)の第1順番がi番目(iは2以上I以下の整数)であり、且つ、ノードND1が表すデータDT3(図3参照)の第2順番が1番目である、ノードND1を、ノードND2としたときは、ノードND3及びノードND5が存在せず、ノードND4のみが存在するので、グラフGR3は、ノードND2とノードND4とを結合するエッジED2のみを含むことになる。また、ノードND1が表すデータDT2の第1順番が1番目であり、且つ、ノードND1が表すデータDT3の第2順番がj番目(jは2以上J以下の整数)である、ノードND1を、ノードND2としたときは、ノードND3及びノードND4が存在せず、ノードND5のみが存在するので、グラフGR3は、ノードND2とノードND5とを結合するエッジED3のみを含むことになる(周波数領域FR1及びFR2(図3参照)を分割する場合も同様)。
【0100】
エッジED1は、ノードND2がそれぞれ表す値VL3(図3参照)と値VL4(図3参照)との間の差分と、ノードND2とノードND3との間の距離と、の積を表すコストCS1を有する。エッジED2は、ノードND2がそれぞれ表す値VL3と値VL4との間の差分と、ノードND2とノードND4との間の距離と、の積を表すコストCS2を有する。エッジED3は、ノードND2がそれぞれ表す値VL3と値VL4との間の差分と、ノードND2とノードND5との間の距離と、の積を表すコストCS3を有する(周波数領域FR1及びFR2(図3参照)を分割する場合も同様)。
【0101】
また、第1算出部14(図5参照)は、前述したステップS14(図6参照)の第1算出処理では、探索処理と、第3算出処理と、を実行する。
【0102】
なお、周波数領域FR1及びFR2(図3参照)を分割する場合は、第1算出部14(図5参照)に代えて、後述する図9を用いて説明する第2算出部25とし、ステップS14(図6参照)の第1算出処理に代えて、後述する図10を用いて説明する第2算出処理を実行することにより、第2算出部25は、第2算出処理では、探索処理と、第3算出処理と、を実行することになる。
【0103】
第1算出部14(図5参照)は、探索処理では、作成処理にて作成されたグラフGR3に基づいて、基準ノードNSと基準ノードNGとの間の経路PT1であって、複数のノードND1のうちのいずれか複数のノードND6と、複数のノードND6のうち互いに隣り合う2つのノードND6をそれぞれ結合する複数のエッジED4と、を含む経路PT1を、経路PT1に含まれる複数のエッジED4であって、複数のノードND6のうち基準ノードNSを除いた複数のノードND7の各々について、ノードND7がノードND2であるとしたときにノードND2をそれぞれ結合するエッジED1、エッジED2又はエッジED3である複数のエッジED4、が有するコストの和が、一定の範囲内に含まれるように、具体的には例えば最小になるように、探索する。このような場合、複数のエッジED4の各々が有するコストとは、複数のエッジED4の各々が有するコストCS1、コストCS2又はコストCS3である。
【0104】
第1算出部14(図5参照)は、第3算出処理では、探索処理にて探索された経路PT1に含まれる複数のエッジED4が有するコストの和に基づいて、乖離度DV1(図3参照)を算出する。なお、周波数領域FR1及びFR2(図3参照)を分割する場合は、第1算出部14は、乖離度DV1に代えて、後述する図10を用いて説明する乖離度DV2(図3参照)を算出することになる。
【0105】
このような場合、DPマッチングを用いることにより、前述したように、波形の変形をある程度許容しながら波形同士のマッチングを行うことができる。そのため、サンプリング時間中に回転数が変動し、計測された周波数スペクトルにおけるピーク位置が、サンプリング時間中に回転数が変動しない場合に比べて、識別しにくくなった場合でも、計測された周波数スペクトルと、既知の周波数スペクトルと、のマッチングを容易且つ精度良く行うことができる。従って、回転数が変動した場合でも、変動した回転数を精度良く同定することができる。
【0106】
<周波数領域を分割する場合のDPマッチングを用いた乖離度の算出方法>
次に、図7乃至図11を参照し、実施の形態の変形例の診断装置による診断方法について説明する。本実施の形態の変形例の診断装置による診断方法は、周波数スペクトルFS3(図3参照)と周波数スペクトルFS2(図3参照)との間の乖離度DV1(図3参照)をDPマッチングを用いて算出する際に、周波数領域FR1及びFR2(図3参照)を分割して算出する点で、本実施の形態の診断装置による診断方法と異なる。
【0107】
図9は、実施の形態の変形例の診断装置の構成を示すブロック図である。図10は、実施の形態の変形例の診断方法の一部のステップを示すフロー図である。図10は、図6に示す診断方法の一部のステップに相当するステップを示している。図11は、周波数領域を分割する場合におけるDPマッチングを説明するための図であり、周波数スペクトルFS2(図3参照)が有するI個のデータDT2(図3参照)の順番を横軸とし、周波数スペクトルFS3(図3参照)が有するJ個のデータDT3(図3参照)の順番を縦軸としたグラフモデルを示す図である。
【0108】
周波数領域FR1及びFR2(図3参照)を分割する場合、好適には、DPマッチングの際には、周波数領域をm個の区間に分割し、分割されたm個の区間におけるマッチング度合いを統合、例えば平均化する。ここで、各区間におけるデータ数は、M=N/mで表される。また、Nは、解析対象である周波数領域のスペクトルデータ総数である。
【0109】
このような場合、更に、好適には、mは、回転数の安定性に応じて、以下の数式(11)を満たすように、決定される。なお、以下の数式(11)は、上記数式(1)と同一の数式である。
【0110】
【数11】
【0111】
(但し、f:サンプリング周波数[Hz]、Δf:スペクトルデータの間隔[Hz]、rpm:回転数[回転/分]、Δrpm:サンプリング中の回転数の変動[回転/分](なお、Δrpmは既知であり、予め見積もっておくものとする)、f:回転周波数[Hz]、Δf=Δrpm/60:サンプリング中の回転数の変動による回転周波数fの変動[回転/分])
【0112】
言い換えれば、周波数領域FR2(図7の下側のグラフGR2を参照)における周波数スペクトルFS2(図7の下側のグラフGR2を参照)を表す(構成する)データDT4(図7の下側のグラフGR2を参照)の数をNとする。また、振動波形WF2(図5及び図7の上側のグラフGR1を参照)を振動加速度センサ3(図5参照)により計測している間のサンプリング周波数をf[Hz](図7の下側のグラフGR2を参照、但し図7の下側のグラフGR2ではfに代えてfと表記)とする。また、周波数領域FR2における周波数スペクトルFS2を表し(構成し)且つ周波数軸方向において互いに隣り合う2つのデータDT4の周波数軸方向における間隔をΔf[Hz](図7の下側のグラフGR2を参照)とする。また、回転数をrpm[回転/分]とする。また、振動波形WF2を振動加速度センサ3により計測している間のサンプリング中の回転数の変動(変動分)をΔrpm[回転/分]とする。また、回転機械の回転周波数をf[Hz]とする。また、振動波形WF2を振動加速度センサ3により計測している間のサンプリング中の回転数の変動(変動分)による回転周波数の変動(変動分)をΔf[Hz]とする。このような場合、更に、好適には、mは、上記数式(11)を満たす。
【0113】
また、周波数領域FR1及びFR2(図3参照)を分割する場合、診断装置1は、図10のステップS14において、周波数スペクトルFS2の周波数領域FR2を、m個(mは2以上の整数)の部分領域PR1(図3参照)に分割する。このような場合、診断装置1は、図9に示すように、更に、第1分割部21を有し、第1分割部21は、周波数スペクトルFS2の周波数領域FR2を、m個(mは2以上の整数)の部分領域PR1に分割する(図10のステップS21)。
【0114】
また、図9に示すように、周波数領域FR1及びFR2(図3参照)を分割する場合、第1算出部14は、第2分割部22と、第2選択部23と、第3選択部24と、第2算出部25と、を含む。
【0115】
第2分割部22は、第1選択部13により選択された周波数スペクトルFS3(図3参照)の周波数領域FR1(図3参照)を、m個の部分領域PR2(図3参照)に分割する(図10のステップS22)。
【0116】
第2選択部23は、第1分割部21により分割されたm個の部分領域PR1(図3参照)のうち、中心周波数が低い方からk番目(kは1以上m以下の整数)、即ち中心周波数が低い順におけるk番目、の部分領域PR1(図3参照)を選択する(図10のステップS23)。
【0117】
第3選択部24は、第2分割部22により分割されたm個の部分領域PR2(図3参照)のうち、中心周波数が低い方からk番目、即ち中心周波数が低い順におけるk番目、の部分領域PR2(図3参照)を選択する(図10のステップS24)。
【0118】
第2算出部25は、周波数スペクトルFS2(図3参照)のうち第2選択部23により選択されたk番目の部分領域PR1(図3参照)における部分スペクトルPS1(図3参照)と、周波数スペクトルFS3(図3参照)のうち第3選択部24により選択されたk番目の部分領域PR2(図3参照)における部分スペクトルPS2(図3参照)と、の間の乖離度DV2(図3参照)を、DPマッチングを用いて算出する第2算出処理を実行する(図10のステップS25)。
【0119】
前述したように、周波数領域FR1及びFR2(図3参照)を分割する場合のDPマッチングを用いた乖離度の算出方法としては、周波数領域FR1及びFR2を分割しない場合の第1算出部14(図5参照)に代えて、第2算出部25とし、ステップS14(図6参照)の第1算出処理に代えて、ステップS25の第2算出処理を実行する。そのため、第2算出部25は、ステップS25の第2算出処理では、まず、複数のノードND1を含むグラフGR3を作成する作成処理を実行することになる。
【0120】
また、周波数領域FR1及びFR2(図3参照)を分割する場合、周波数領域FR1及びFR2を分割しない場合における周波数スペクトルFS2に代えて部分スペクトルPS1とし、周波数領域FR1及びFR2を分割しない場合の周波数スペクトルFS3に代えて部分スペクトルPS2とする。これにより、部分スペクトルPS1と部分スペクトルPS2との間のDPマッチングも、周波数スペクトルFS2と周波数スペクトルFS3との間のDPマッチングと同様にすることができる。
【0121】
そのため、周波数領域FR1及びFR2(図3参照)を分割する場合には、複数のノードND1は、部分スペクトルPS1(図3参照)を表す(構成する)I個(Iは2以上の整数)のデータDT2(図3参照)の各々がそれぞれ有するI個の周波数の値VL3(図3参照)の各々をそれぞれ表す。また、複数のノードND1は、I個のデータDT2を第3値の小さい順に並べたときのI個のデータDT2の各々の順番であるiの各々をそれぞれ表す。また、複数のノードND1は、部分スペクトルPS2(図3参照)を表す(構成する)J個(Jは2以上の整数)のデータDT3(図3参照)の各々がそれぞれ有するJ個の周波数の値VL4(図3参照)の各々をそれぞれ表す。また、複数のノードND1は、J個のデータDT3を値VL4の小さい順に並べたときのJ個のデータDT3の各々の順番であるjの各々をそれぞれ表す。なお、それ以外の点については、複数のノードND1を含むグラフGR3を作成する作成処理においては、周波数領域FR1及びFR2を分割する場合でも、周波数領域FR1及びFR2を分割しない場合と同様にすることができる。
【0122】
また、第2算出部25は、ステップS25の第2算出処理では、探索処理を実行する。第2算出部25は、探索処理では、作成処理にて作成されたグラフGR3に基づいて、基準ノードNSと基準ノードNGとの間の経路PT1であって、複数のノードND1のうちのいずれか複数のノードND6と、複数のノードND6のうち互いに隣り合う2つのノードND6をそれぞれ結合する複数のエッジED4と、を含む経路PT1を、経路PT1に含まれる複数のエッジED4であって、複数のノードND6のうち基準ノードNSを除いた複数のノードND7の各々について、ノードND7がノードND2であるとしたときにノードND2をそれぞれ結合するエッジED1、エッジED2又はエッジED3である複数のエッジED4、が有するコストの和が、一定の範囲内に含まれるように、具体的には例えば最小になるように、探索する。このような場合、複数のエッジED4の各々が有するコストとは、複数のエッジED4の各々が有するコストCS1、コストCS2又はコストCS3である。
【0123】
また、第2算出部25は、ステップS25の第2算出処理では、第3算出処理を実行する。第2算出部25は、第3算出処理では、探索処理にて探索された経路PT1に含まれる複数のエッジED4が有するコストの和に基づいて、乖離度DV2(図3参照)を算出する。
【0124】
第1算出部14は、ステップS14(図6参照)の第1算出処理では、第2選択部23により選択される部分領域PR1(図3参照)、及び、第3選択部24により選択される部分領域PR2(図3参照)、を変更しながらステップS25の第2算出処理を繰り返し、m個の部分領域PR1の各々についてステップS25の第2算出処理を第2算出部25によりそれぞれ実行することにより、m個の部分領域PR1の各々における部分スペクトルPS1についてそれぞれ算出されたm個の乖離度DV2(図3参照)を取得し、取得されたm個の乖離度DV2に基づいて、乖離度DV1を算出する(図10のステップS26)。
【0125】
ステップS26では、乖離度DV1(図3参照)が、例えばm個の乖離度DV2(図3参照)の平均値に等しくなるように、乖離度DV1を算出することができる。また、周波数領域を分割する場合、前述した図8を用いて説明したグラフGR3の経路PT1は、図11に示すように、(m-1)個のノードND8を定点として必ず通過する経路となる。
【0126】
上記数式(11)において、Δf/ΔfのΔf(図7の下側のグラフGR2を参照)は、スペクトルデータの間隔であり、周波数の分解能を表す。Δf/Δfが1を超え、回転周波数の変動ΔfがΔfを超える場合、回転周波数の変動が周波数の分解能よりも大きくなるので、回転周波数の変動によりマッチング精度に影響が及ぼされ、マッチング精度が低下する。よって、周波数スペクトルの周波数領域を、m≧Δf/Δfを満たすm個に分割することにより、マッチング精度を向上させることができる。
【0127】
一方、Δf/Δfが1以下であり、回転周波数の変動ΔfがΔf(図7の下側のグラフGR2を参照)以下である場合、回転周波数の変動によりマッチング精度に影響が及ぼされず、マッチング精度は低下しない。よって、周波数スペクトルの周波数領域を分割する必要はない。
【0128】
なお、上記数式(11)のうち、少なくともm≧Δf/Δfを満たすだけでもよい。そのため、上記数式(11)における2Δf/Δf≧mの2Δfの係数2の値については、2以外の値であってもよく、例えば2~5程度の値であってもよい。
【0129】
例えばΔrpmが20[回転/分]であり、サンプリング時間が40[s]のとき、mを14~26とすることができる。また、例えばΔrpmが10[回転/分]であり、サンプリング時間が10[s]のとき、mを2~3とすることができる。また、例えばΔrpmが10[回転/分]であり、サンプリング時間が1[s]のとき、周波数スペクトルの周波数領域を分割しないようにすることができる。
【0130】
これにより、回転数の変動具合に応じてマッチング回数を変化させる処理、言い換えればDPマッチング周波数領域区分分け処理、を実行することができるので、マッチング精度を向上させることができる。
【0131】
周波数領域を分割する場合でも、周波数領域を分割しない場合と同様に、DPマッチングを用いることにより、前述した図8を用いて説明したように、波形の変形をある程度許容しながら波形同士のマッチングを行うことができる。そのため、サンプリング時間中に回転数が変動し、計測された周波数スペクトルにおけるピーク位置が、サンプリング時間中に回転数が変動しない場合に比べて、識別しにくくなった場合でも、計測された周波数スペクトルと、既知の周波数スペクトルと、のマッチングを容易且つ精度良く行うことができる。従って、回転数が変動した場合でも、変動した回転数を精度良く同定することができる。
【0132】
更に、周波数領域をm分割する場合は、マッチング度合いを統合、例えば平均化した分だけマッチングの統計的精度が上がるため、計測された周波数スペクトルと、既知の周波数スペクトルと、のマッチングを更に容易且つ更に精度良く行うことができる。従って、回転数が大きく変動した場合でも、変動した回転数を更に精度良く同定することができる。
【0133】
<主成分分析法を用いた回転機械の状態の診断>
次に、図2図5及び図6を参照し、ステップS3の一例を説明する。前述したように、診断部17は、図2のステップS3では、同定部16により同定された値VL1に基づいて、回転機械2(図1参照)の状態を、多変量解析法を用いて診断する(図2及び図6のステップS3並びに図6のステップS17)。即ち、実施の形態の診断装置及び実施の形態の変形例の診断装置は、図2及び図6のステップS3並びに図6のステップS17では、多変量解析法により回転機械の状態を判定する。
【0134】
前述したように、多変量解析法には、主成分分析法又は正準判別分析法等が含まれる。即ち、主成分分析法とは、多変量解析法に含まれる方法の一つである。そのため、好適には、診断部17は、同定部16により同定された値VL1に基づいて、回転機械2(図1参照)の状態を、主成分分析法を用いて診断する(図2のステップS31)。
【0135】
この主成分分析法については、例えば非特許文献4に記載されているため、以下では、主成分分析法を用いた診断方法の一例を、簡単に説明する。なお、主成分分析法を用いた回転機械の状態の診断は、以下の例に限定されるものではない。
【0136】
主成分分析法を用いた診断方法の一例として、まず、診断部17は、ステップS31では、振動加速度波形のスペクトルの特徴を表すために、主成分分析法を用いる前に、振動波形WF2(図5及び図7の上側のグラフGR1を参照)の各々に対し、統計フィルタ処理とマルチバンドフィルタ処理とを行った後、周波数領域のヒストグラム(正規化スペクトル)を算出する。
【0137】
具体的には、診断部17は、振動波形WF2(図5及び図7の上側のグラフGR1を参照)に対し、統計フィルタ処理とマルチバンドフィルタ処理とを行った後、振動波形WF2の時間領域をJ個に分割し、分割された振動波形WF2の各々がそれぞれ変換されたJ個の周波数スペクトル(サンプルデータ)を取得することができる。また、J個のサンプルデータの各々について、周波数スペクトルの周波数領域をI個に分割し、分割されたI個の周波数領域f~fにおいて、ヒストグラムのセグメント値Vhist_i(i=1,2,・・・,I)を算出することができる。また、当該ヒストグラムのセグメント値Vhist_i(i=1,2,・・・,I)が主成分変換係数行列を用いてN個の主成分(z~z)に変換されるものとする。なお、主成分変換係数行列の係数は、診断基準データとしての振動波形WF1から求められる。
【0138】
診断部17は、このような処理をJ個のサンプルデータについて実行することにより、J個のサンプルデータよりなるヒストグラムのセグメント値行列を算出し、算出されたヒストグラムのセグメント値行列を更に正規化すること等により、正規化主成分行列を算出する。
【0139】
次に、診断部17は、算出された正規化主成分行列の成分であるz’nj(n=1,2,・・・,N、j=1,2,・・・,J)が、一定の範囲内、例えば第n正規化主成分の平均値を中心として、正負両側に、第n正規化主成分の標準偏差に係数K(例えばK=3)を乗じた値だけそれぞれ離れた値を、下限値及び上限値とする範囲内であれば、回転機械の状態は正常、即ち設備は正常であると判定する(図2のステップS32)。
【0140】
具体的には、診断部17は、例えば40秒間のサンプリング時間のうち20秒間の振動波形を更に10個に分割し、10個のサンプルデータを取得することができる。また、10個のサンプルデータのうち、半数である5個より多くのサンプルデータについてz’njが一定の範囲内であれば、回転機械の状態は正常、即ち設備は正常であると判定し(図2のステップS32)、そうでなければ異常と判定する。
【0141】
一方、診断部17は、ステップS31において、算出された正規化主成分行列の成分であるz’nj(n=1,2,・・・,N、j=1,2,・・・,J)が、一定の範囲内でなければ、異常と判定し、精密診断(図2のステップS33)を行って回転機械の状態が異常か否か判定し(図2のステップS34)、回転機械の状態は異常であると判定するか(図2のステップS35)、又は、例えば回転数のミスマッチ(図2のステップS36)によるものであり回転機械の状態は異常ではないと判定する。
【0142】
このように、DPマッチングを用いて同定部16により回転数の値VL1が同定された後、診断部17が、同定部16により同定された値VL1に基づいて、回転機械の状態を、主成分分析法を用いて診断することにより、同定部16により回転数の値VL1が精度良く同定された上で、更に、回転機械の状態が正常か、異常であるかを精度良く判定することができる。そのため、実際には回転機械の状態が正常であるにも関わらず回転機械の状態が異常であると誤判定することを、防止又は抑制することができる。
【0143】
以上、本発明者によってなされた発明をその実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることは言うまでもない。
【0144】
本発明の思想の範疇において、当業者であれば、各種の変更例及び修正例に想到し得るものであり、それら変更例及び修正例についても本発明の範囲に属するものと了解される。
【0145】
例えば、前述の各実施の形態に対して、当業者が適宜、構成要素の追加、削除若しくは設計変更を行ったもの、又は、工程の追加、省略若しくは条件変更を行ったものも、本発明の要旨を備えている限り、本発明の範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0146】
本発明は、インバータ制御されたモータにより駆動されている回転機械の状態を診断する診断装置及び診断方法に適用して有効である。
【符号の説明】
【0147】
1 診断装置
2 回転機械
3 振動加速度センサ
4 データロガ
5 コンピュータ
11 第1変換部
12 第2変換部
13 第1選択部
14 第1算出部
15 取得部
16 同定部
17 診断部
21 第1分割部
22 第2分割部
23 第2選択部
24 第3選択部
25 第2算出部
CS1~CS3 コスト
DT2~DT4 データ
DV1、DV2 乖離度
ED1~ED4 エッジ
FR1、FR2 周波数領域
FS1~FS4 周波数スペクトル
GR1~GR3 グラフ
ND1~ND8 ノード
NG、NS 基準ノード
PR1、PR2 部分領域
PS1、PS2 部分スペクトル
PT1 経路
VL1~VL4 値
WF1、WF2 振動波形

図1
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