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特許7489946C/SiC複合体粒子及びその製造方法、並びに、電極触媒及び固体高分子形燃料電池
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  • 特許-C/SiC複合体粒子及びその製造方法、並びに、電極触媒及び固体高分子形燃料電池 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-16
(45)【発行日】2024-05-24
(54)【発明の名称】C/SiC複合体粒子及びその製造方法、並びに、電極触媒及び固体高分子形燃料電池
(51)【国際特許分類】
   C01B 32/05 20170101AFI20240517BHJP
   C01B 32/20 20170101ALI20240517BHJP
   C01B 32/205 20170101ALI20240517BHJP
   C01B 32/97 20170101ALI20240517BHJP
   H01M 4/86 20060101ALI20240517BHJP
   H01M 8/10 20160101ALI20240517BHJP
【FI】
C01B32/05
C01B32/20
C01B32/205
C01B32/97
H01M4/86 B
H01M4/86 M
H01M8/10 101
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2021113188
(22)【出願日】2021-07-07
(65)【公開番号】P2023009699
(43)【公開日】2023-01-20
【審査請求日】2022-08-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000104607
【氏名又は名称】株式会社キャタラー
(74)【代理人】
【識別番号】100110227
【弁理士】
【氏名又は名称】畠山 文夫
(72)【発明者】
【氏名】竹下 朋洋
(72)【発明者】
【氏名】矢野 一久
(72)【発明者】
【氏名】井元 瑠伊
(72)【発明者】
【氏名】喜多尾 典之
(72)【発明者】
【氏名】山本 憲司
(72)【発明者】
【氏名】北山 悟大
【審査官】浅野 昭
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2013/0337365(US,A1)
【文献】特開2021-084852(JP,A)
【文献】特開2006-107967(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2011-0027915(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 32/00-32/991
H01M 4/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質カーボン粒子と、
前記多孔質カーボン粒子の細孔の内壁面に分布しているSiC粒子と
を備え、
Si質量比率が0mg/m2超6.8mg/m2以下であり、
比表面積が800m 2 /g以上である
C/SiC複合体粒子。
但し、「Si質量比率」とは、前記C/SiC複合体粒子の単位表面積当たりのSiの質量の割合をいう。
【請求項2】
前記多孔質カーボン粒子の細孔のモード径が1.5nm以上5.0nm以下である請求項1に記載のC/SiC複合体粒子。
【請求項3】
前記SiC粒子の平均1次粒子径が前記多孔質カーボン粒子の細孔のモード径以下である請求項1又は2に記載のC/SiC複合体粒子。
【請求項4】
平均1次粒子径が50nm以上200nm以下である請求項1から3までのいずれか1項に記載のC/SiC複合体粒子。
【請求項5】
細孔容量が0.5cc/g以上2.0cc/g以下である請求項1から4までのいずれか1項に記載のC/SiC複合体粒子。
【請求項6】
前記多孔質カーボン粒子の表面に導入された-OH基及び/又は-COOH基をさらに備えている請求項1から5までのいずれか1項に記載のC/SiC複合体粒子。
【請求項7】
鋳型となる多孔質シリカ粒子を準備する第1工程と、
前記多孔質シリカ粒子の細孔内にカーボンを析出させ、シリカ/カーボン複合体Aを得る第2工程と、
前記シリカ/カーボン複合体Aからシリカの一部を除去し、シリカ/カーボン複合体Bを得る第3工程と、
前記シリカ/カーボン複合体Bを熱処理し、前記カーボンを黒鉛化すると同時に、シリカと前記カーボンの一部とを反応させてSiCを生成させ、請求項1から5までのいずれか1項に記載のC/SiC複合体粒子を得る第4工程と
を備えたC/SiC複合体粒子の製造方法。
【請求項8】
前記第3工程は、前記C/SiC複合体粒子のSi質量比率が0mg/m2超6.8mg/m2以下となるように、前記シリカ/カーボン複合体Aから前記シリカの一部を除去するものからなる請求項7に記載のC/SiC複合体の製造方法。
【請求項9】
前記第4工程は、1300℃以上2300℃以下の温度において前記シリカ/カーボン複合体Bを熱処理するものからなる請求項7又は8に記載のC/SiC複合体粒子の製造方法。
【請求項10】
前記第4工程は、不活性ガス雰囲気下、又は、真空下において前記シリカ/カーボン複合体Bを熱処理するものからなる請求項7から9までのいずれか1項に記載のC/SiC複合体粒子の製造方法。
【請求項11】
前記第4工程の後、前記多孔質カーボン粒子の表面に-OH基及び/又は-COOH基を導入する賦活化処理を行う第5工程をさらに備えた請求項7から10までのいずれか1項に記載のC/SiC複合体粒子の製造方法。
【請求項12】
請求項1から6までのいずれか1項に記載のC/SiC複合体粒子と、
前記C/SiC複合体粒子の表面に担持された触媒粒子と
を備えた電極触媒。
【請求項13】
請求項12に記載の電極触媒をカソード触媒又はアノード触媒に用いた固体高分子形燃料電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、C/SiC複合体粒子及びその製造方法、並びに、電極触媒及び固体高分子形燃料電池に関し、さらに詳しくは、多孔質カーボン粒子の内壁面にSiC粒子が分布しているC/SiC複合体粒子、並びに、これを触媒担体として用いた電極触媒及び触媒層に関する。
【背景技術】
【0002】
固体高分子形燃料電池は、電解質膜の両面に触媒を含む電極(触媒層)が接合された膜電極接合体(Membrane Electrode Assembly,MEA)を備えている。触媒層の外側には、通常、ガス拡散層が配置される。さらに、ガス拡散層の外側には、ガス流路を備えた集電体(セパレータ)が配置される。固体高分子形燃料電池は、通常、このようなMEA、ガス拡散層及び集電体からなる単セルが複数個積層された構造(燃料電池スタック)を備えている。
【0003】
固体高分子形燃料電池の作動中において、カソード触媒層内又はアノード触媒層内において過酸化水素が生成し、この過酸化水素がフェントン反応により・OHラジカルとなり、・OHラジカルがMEA内の電解質を劣化させることが知られている。電解質の劣化は、燃料電池の耐久性を低下させ、あるいは、燃料電池の発電性能を低下させる原因となる。そこでこの問題を解決するために、従来から種々の提案がなされている。
【0004】
例えば、特許文献1には、
(a)平均粒径1~3μmのNbC粉末を含むカソード転写電極、及び、NbC粉末を含まないアノード転写電極を作製し、
(b)平均粒径50nmのSiC粉末を含む電解質膜を作製し、
(c)電解質膜の両面にカソード転写電極及びアノード転写電極を転写する
ことにより得られる膜電極接合体が開示されている。
【0005】
同文献には、
(A)ある種の炭化物、ホウ化物及びケイ化物は、高温、低pHの水中において比較的安定であり、相対的に高い過酸化物分解作用を有する点、及び、
(B)これを電解質膜及び/又は電極に固定すると、過酸化物ラジカルによる電解質の劣化を抑制することができる点
が記載されている。
【0006】
特許文献1に記載されているように、電解質膜及び/又は触媒層に、過酸化物分解作用を有する炭化物、ホウ化物又はケイ化物を添加すると、過酸化物ラジカルに起因する電解質の劣化をある程度抑制することができる。
しかしながら、過酸化物は、主として触媒粒子の表面において生成する。そのため、電解質膜や触媒層内に微粒子を添加する方法では、生成した過酸化水素を効率的に分解できず、電解質の劣化抑制効果が不十分となる場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2006-107967号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、燃料電池用の触媒担体として使用した時に、過酸化物ラジカルに起因する電解質の劣化を抑制することが可能なC/SiC複合体粒子、及び,その製造方法を提供することにある。
また、本発明が解決しようとする他の課題は、このようなC/SiC複合体粒子を用いた電極触媒及び固体高分子形燃料電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために本発明に係るC/SiC複合体粒子は、
多孔質カーボン粒子と、
前記多孔質カーボン粒子の細孔の内壁面に分布しているSiC粒子と
を備
Si質量比率が0mg/m 2 超6.8mg/m 2 以下であり、
比表面積が800m 2 /g以上である。
但し、「Si質量比率」とは、前記C/SiC複合体粒子の単位表面積当たりのSiの質量の割合をいう。
【0010】
本発明に係るC/SiC複合体粒子の製造方法は、
鋳型となる多孔質シリカ粒子を準備する第1工程と、
前記多孔質シリカ粒子の細孔内にカーボンを析出させ、シリカ/カーボン複合体Aを得る第2工程と、
前記シリカ/カーボン複合体Aからシリカの一部を除去し、シリカ/カーボン複合体Bを得る第3工程と、
前記シリカ/カーボン複合体Bを熱処理し、前記カーボンを黒鉛化すると同時に、シリカと前記カーボンの一部とを反応させてSiCを生成させ、本発明に係るC/SiC複合体粒子を得る第4工程と
を備えている。
【0011】
本発明に係る電極触媒は、
本発明に係るC/SiC複合体粒子と、
前記C/SiC複合体粒子の表面に担持された触媒粒子と
を備えている。
さらに、本発明に係る固体高分子形燃料電池は、本発明に係る電極触媒をカソード触媒又はアノード触媒に用いたものからなる。
【発明の効果】
【0012】
シリカ/カーボン複合体からシリカの一部を除去し、相対的に高温で熱処理すると、カーボンが黒鉛化すると同時に、シリカとカーボンが反応し、SiCが生成する。その結果、多孔質カーボン粒子の細孔の内壁面にSiC粒子が分布しているC/SiC複合体が得られる。
【0013】
SiC粒子は、過酸化水素を無害な水と酸素に分解する作用がある。そのため、C/SiC複合粒子の表面(例えば、細孔の内壁面)に触媒粒子を担持させると、触媒粒子表面で過酸化水素が生成しても、細孔内にあるSiC粒子が過酸化水素を速やかに分解する。その結果、過酸化物ラジカルに起因する電解質の劣化を抑制することができる。
さらに、電解質が劣化することにより生じる分解生成物(例えば、スルホン酸アニオン)は、触媒粒子の被毒源となり得る。これに対し、触媒粒子がC/SiC複合粒子の細孔内に担持されている場合には、被毒源による触媒粒子の被毒も抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施例1~2、及び、比較例1で得られたC/SiC複合粒子の細孔径分布である。
図2】C/SiC複合粒子のSi質量比率(C/SiC複合粒子の単位表面積あたりのSi質量)と比表面積との関係を示す図である。
図3図3(A)は、実施例3で得られた単セルの耐久試験前後のI-V特性である。図3(B)は、実施例4で得られた単セルの耐久試験前後のI-V特性である。図3(C)は、比較例2で得られた単セルの耐久試験前後のI-V特性である。
【0015】
図4】Si質量比率(C/SiC複合粒子の単位表面積あたりのSi質量)と、活性維持率との関係を示す図である。
図5図5(A)は、実施例3で得られた単セルの耐久試験中のCVである。図5(B)は、実施例4で得られた単セルの耐久試験中のCVである。図5(C)は、比較例2で得られた単セルの耐久試験中のCVである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の一実施の形態について詳細に説明する。
[1. C/SiC複合体粒子]
本発明に係るC/SiC複合体粒子は、
多孔質カーボン粒子と、
前記多孔質カーボン粒子の細孔の内壁面に分布しているSiC粒子と
を備えている。
【0017】
[1.1. 構造]
本発明に係るC/SiC複合体粒子は、
(a)多孔質シリカ粒子を作製し、
(b)多孔質シリカ粒子の細孔内に炭素源を導入し、炭化させることによりシリカ/カーボン複合体Aを作製し、
(c)シリカ/カーボン複合体Aからシリカの一部を除去し、
(d)シリカの一部が除去されたシリカ/カーボン複合体Bを高温で焼成する
ことにより得られる。
【0018】
このようにして得られたC/SiC複合体粒子は、多孔質カーボン粒子の細孔の内壁面にSiC粒子が分布している構造を備えている。
この場合、多孔質カーボン粒子の外形は、鋳型に用いた多孔質シリカ粒子の外形とほぼ同等となる。例えば、球状の多孔質シリカ粒子を鋳型に用いた場合、球状の多孔質カーボン粒子が得られる。
あるいは、複数の1次粒子が数珠状に連結している構造(以下、これを「連珠状構造」ともいう)を備えた多孔質シリカ粒子を鋳型に用いた場合、連珠状構造を備えた多孔質カーボン粒子が得られる。この場合、1次粒子は、球状粒子であっても良く、あるいは、アスペクト比が1.1~3程度のいびつな形状を有する粒子であっても良い。
【0019】
SiC粒子は、多孔質カーボン粒子の細孔内に残存しているSiO2と、多孔質カーボン粒子の細孔壁を構成するカーボンとが反応することにより形成される。そのため、SiO2と反応するカーボン量が相対的に少ない場合、多孔質カーボン粒子の細孔構造は、鋳型(多孔質シリカ粒子)の細孔壁の構造にほぼ対応した構造となる。一方、SiO2と反応するカーボン量が相対的に多い場合、多孔質カーボン粒子の細孔構造が崩れ、鋳型の細孔壁の構造とは異なる構造に変化する場合がある。
【0020】
[1.2. 表面官能基]
C/SiC複合体粒子は、多孔質カーボン粒子の表面に導入された-OH基及び/又は-COOH基をさらに備えていても良い。
ここで、「多孔質カーボン粒子の表面」とは、多孔質カーボン粒子の外表面、及び/又は、細孔の内表面をいう。
【0021】
C/SiC複合体粒子の表面に触媒粒子を担持させる場合において、多孔質カーボン粒子の表面に-OH基及び/又は-COOH基があると、多孔質カーボン粒子の表面に微細な触媒粒子を担持できる。多孔質カーボン粒子の表面におけるこれらの官能基の濃度は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な濃度を選択することができる。
【0022】
[1.3. 物性値]
[1.3.1. 細孔のモード径]
「細孔のモード径」とは、細孔の内壁にSiC粒子が分布している多孔質カーボン粒子(すなわち、C/SiC複合粒子)の窒素吸着等温線の吸着側データをBJH法で解析した場合において、細孔容量が最大となるときの細孔径(最頻出ピーク値)をいう。
【0023】
多孔質カーボン粒子の細孔のモード径が小さくなりすぎると、細孔内に触媒粒子を担持するのが困難となる。従って、細孔のモード径は、1.5nm以上が好ましい。細孔のモード径は、さらに好ましくは、2.0nm以上である。
一方、細孔のモード径が大きくなりすぎると、被毒物質が細孔内に侵入しやすくなり、細孔内に担持されている触媒粒子の活性が低下する場合がある。従って、細孔のモード径は、5.0nm以下が好ましい。細孔のモード径は、さらに好ましくは、4.0nm以下である。
【0024】
[1.3.2. SiC粒子の平均1次粒子径]
上述したように、SiC粒子は、多孔質カーボン粒子の細孔内に残存しているSiO2と、多孔質カーボン粒子の細孔壁を構成するカーボンとが反応することにより形成される。そのため、SiC粒子の平均1次粒子径は、通常、多孔質カーボン粒子の細孔のモード径以下となる。製造条件を最適化すると、SiC粒子の平均1次粒子径は、多孔質カーボン粒子の細孔のモード径より小さくなる。
【0025】
[1.3.3. Si質量比率]
「Si質量比率」とは、細孔の内壁にSiC粒子が分布している多孔質カーボン粒子(すなわち、C/SiC複合粒子)の単位表面積当たりのSiの質量の割合をいう。
【0026】
C/SiC複合体粒子に含まれるSiの大半は、SiC粒子として存在している。Si質量比率が高いことは、細孔の内壁面に分布しているSiC粒子の量が多いことを意味する。SiC粒子は、過酸化水素を分解する作用を有しているため、Si質量比率が高くなるほど、C/SiC複合粒子の過酸化水素の分解能が高くなる。このような効果を得るためには、Si質量比率は、0mg/m2超である必要がある。Si質量比率は、好ましくは、0.4mg/m2以上、さらに好ましくは、1.0mg/m2以上である。
【0027】
一方、Si質量比率が高いことは、より多くのカーボンがSiCの生成に消費されたことを意味する。そのため、Si質量比率が高くなりすぎると、多孔質カーボン粒子内の細孔が消失する場合がある。従って、Si質量比率は、6.8mg/m2以下が好ましい。Si質量比率は、さらに好ましくは、3.3mg/m2以下、さらに好ましくは、1.6mg/m2以下である。
【0028】
[1.3.4. 平均1次粒子径]
C/SiC複合粒子の「平均1次粒子径」とは、C/SiC複合粒子の1次粒子の粒径の平均値であって、SEM像から任意に抽出した100個の粒子の短軸方向の長さの平均値をいう。
【0029】
C/SiC複合粒子の平均1次粒子径が小さくなりすぎると、1次粒子間の隙間が小さくなり、反応ガス(水素や酸素)の移動抵抗が大きくなる場合がある。また、反応で生じる水の排水性が低下することで、電池性能が低下する場合がある。従って、平均1次粒子径は、50nm以上が好ましい。平均1次粒子径は、さらに好ましくは、75nm以上である。
一方、C/SiC複合粒子の平均1次粒子径が大きくなりすぎると、1次粒子内部のプロトンや反応ガス(水素や酸素)の移動距離が長くなり、移動抵抗が大きくなる場合がある。また、反応で生じる水の排水性が低下することで、電池性能が低下する場合がある。従って、平均1次粒子径は、200nm以下が好ましい。平均1次粒子径は、さらに好ましくは、150nm以下、さらに好ましくは、125nm以下である。
【0030】
[1.3.5. 細孔容量]
「細孔容量」とは、C/SiC複合粒子の窒素吸着等温線のP/P0=0~0.95の窒素の吸収量から算出される値をいう。
【0031】
C/SiC複合粒子の細孔容量が少なくなりすぎると、細孔内に触媒粒子を担持するのが困難となる。従って、細孔容量は、0.5cc/g以上が好ましい。
一方、細孔容量が多くなりすぎると、C/SiC複合粒子の体積に占める細孔壁の体積の割合が小さくなり、細孔構造の強度が低下し、耐久上、問題となる場合がある。従って、細孔容量は、2.0cc/g以下が好ましい。
【0032】
[2. 電極触媒]
本発明に係る電極触媒は、
本発明に係るC/SiC複合体粒子と、
前記C/SiC複合体粒子の表面に担持された触媒粒子と
を備えている。
【0033】
[2.1. C/SiC複合粒子]
本発明に係る電極触媒において、触媒担体には、本発明に係るC/SiC複合体粒子が用いられる。C/SiC複合粒子の詳細については、上述した通りであるので、説明を省略する。
【0034】
[2.2. 触媒粒子]
C/SiC複合体粒子の表面には、触媒粒子が担持される。
ここで、触媒粒子が担持されるC/SiC複合体粒子の「表面」とは、多孔質カーボン粒子の外表面、及び/又は、細孔の内表面をいう。触媒被毒を低減するためには、触媒粒子は、多孔質カーボン粒子の細孔内に担持されているのが好ましい。
【0035】
本発明において、触媒粒子の材料は、酸素還元反応活性又は水素酸化反応活性を示す材料である限りにおいて、特に限定されない。触媒粒子の材料としては、例えば、
(a)貴金属(Pt、Au、Ag、Pd、Rh、Ir、Ru、Os)、
(b)2種以上の貴金属元素を含む合金、
(c)1種又は2種以上の貴金属元素と、1種又は2種以上の卑金属元素(例えば、Fe、Co、Ni、Cr、V、Tiなど)とを含む合金、
(d)金属酸窒化物、
(e)カーボンアロイ
などがある。
【0036】
[3. 固体高分子形燃料電池]
固体高分子形燃料電池は、電解質膜の一方の面にカソード触媒層が接合され、他方の面にアノード触媒層が接合された膜電極接合体を備えている。
カソード触媒層は、カソード触媒と触媒層アイオノマとの複合体からなる。また、アノード触媒層は、アノード触媒と触媒層アイオノマとの複合体からなる。
【0037】
本発明に係る固体高分子形燃料電池は、本発明に係る電極触媒をカソード触媒又はアノード触媒に用いたものからなる。本発明に係る固体高分子形燃料電池は、カソード触媒とアノード触媒の双方に本発明に係る電極触媒を用いたものでも良い。
電極触媒の詳細については、上述した通りであるので、説明を省略する。
【0038】
[4. 多孔質シリカ粒子(鋳型)の製造方法]
本発明に係るC/SiC複合粒子は、多孔質シリカ粒子を鋳型として用いて製造される。本発明に係る多孔質シリカ粒子の製造方法は、
シリカ源、界面活性剤及び触媒を含む反応溶液中において、前記シリカ源を縮重合させ、前駆体粒子を得る重合工程と、
前記反応溶液から前記前駆体粒子を分離し、乾燥させる乾燥工程と、
前記前駆体粒子を焼成し、メソポーラスシリカを得る焼成工程と
を備えている。
本発明に係る多孔質シリカ粒子の製造方法は、乾燥させた前駆体粒子に対して拡径処理を行う拡径工程をさらに備えていても良い。
【0039】
[4.1. 重合工程]
まず、シリカ源、界面活性剤及び触媒を含む反応溶液中において、前記シリカ源を縮重合させ、前駆体粒子を得る(重合工程)。
【0040】
[4.1.1. シリカ源]
本発明において、シリカ源の種類は、特に限定されない。シリカ源としては、例えば、
(a)テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラブトキシシラン、ジメトキシジエトキシシラン、テトラエチレングリコキシシラン等のテトラアルコキシシラン類、
(b)3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-(2-アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン等のトリアルコキシシラン類、
(c)ケイ酸ソーダ、カネマイト等のケイ酸塩類
などがある。シリカ源には、これらのいずれか1種を用いても良く、あるいは、2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0041】
[4.1.2. 界面活性剤]
シリカ源を反応溶液中で縮重合させる場合において、反応溶液に界面活性剤を添加すると、反応溶液中において界面活性剤がミセルを形成する。ミセルの周囲には親水基が集合しているため、ミセルの表面にはシリカ源が吸着する。さらに、シリカ源が吸着しているミセルが反応溶液中において自己組織化し、シリカ源が縮重合する。その結果、1次粒子内部には、ミセルに起因するメソ孔(直径が2nm以下のマイクロ孔を含む。以下、同じ。)が形成される。メソ孔の大きさは、主として、界面活性剤の分子長により制御(1~50nmまで)することができる。
【0042】
本発明において、界面活性剤の種類は特に限定されないが、界面活性剤には、アルキル4級アンモニウム塩を用いるのが好ましい。アルキル4級アンモニウム塩とは、次の(a)式で表される化合物をいう。
CH3-(CH2)n-N+(R1)(R2)(R3)X- ・・・(a)
【0043】
(a)式中、R1、R2、R3は、それぞれ、炭素数が1~3のアルキル基を表す。R1、R2、及び、R3は、互いに同一であっても良く、あるいは、異なっていても良い。アルキル4級アンモニウム塩同士の凝集(ミセルの形成)を容易化するためには、R1、R2、及び、R3は、すべて同一であることが好ましい。さらに、R1、R2、及び、R3の少なくとも1つは、メチル基が好ましく、すべてがメチル基であることが好ましい。
(a)式中、Xはハロゲン原子を表す。ハロゲン原子の種類は特に限定されないが、入手の容易さからXは、Cl又はBrが好ましい。
【0044】
(a)式中、nは7~21の整数を表す。一般に、nが小さくなるほど、メソ孔の中心細孔径が小さい球状のメソ多孔体が得られる。一方、nが大きくなるほど、中心細孔径は大きくなるが、nが大きくなりすぎると、アルキル4級アンモニウム塩の疎水性相互作用が過剰となる。その結果、層状の化合物が生成し、メソ多孔体が得られない。nは、好ましくは、9~17、さらに好ましくは、13~17である。
【0045】
(a)式で表されるものの中でも、アルキルトリメチルアンモニウムハライドが好ましい。アルキルトリメチルアンモニウムハライドとしては、例えば、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムハライド、オクタデシルトリメチルアンモニウムハライド、ノニルトリメチルアンモニウムハライド、デシルトリメチルアンモニウムハライド、ウンデシルトリメチルアンモニウムハライド、ドデシルトリメチルアンモニウムハライド、テトラデシルアンモニウムハライド等がある。
これらの中でも、特に、アルキルトリメチルアンモニウムブロミド又はアルキルトリメチルアンモニウムクロリドが好ましい。
【0046】
多孔質シリカ粒子を合成する場合において、1種類のアルキル4級アンモニウム塩を用いても良く、あるいは、2種以上を用いても良い。しかしながら、アルキル4級アンモニウム塩は、1次粒子内にメソ孔を形成するためのテンプレートとなるので、その種類は、メソ孔の形状に大きな影響を与える。より均一なメソ孔を有する多孔質シリカ粒子を合成するためには、1種類のアルキル4級アンモニウム塩を用いるのが好ましい。
【0047】
[4.1.3. 触媒]
シリカ源を縮重合させる場合、通常、反応溶液中に触媒を加える。多孔質シリカ粒子を合成する場合、触媒には、水酸化ナトリウム、アンモニア水等のアルカリを用いても良く、あるいは、塩酸等の酸を用いても良い。
【0048】
[4.1.4. 溶媒]
溶媒には、水、アルコールなどの有機溶媒、水と有機溶媒の混合溶媒などを用いる。
アルコールは、
(1)メタノール、エタノール、プロパノール等の1価のアルコール、
(2)エチレングリコール等の2価のアルコール、
(3)グリセリン等の3価のアルコール、
のいずれでも良い。
【0049】
[4.1.5. 反応溶液の組成]
反応溶液の組成は、合成される多孔質シリカ粒子の外形や細孔構造に影響を与える。特に、反応溶液中の界面活性剤の濃度、及びシリカ源の濃度は、多孔質シリカ粒子の1次粒子の平均粒径、細孔径、細孔容量、及び線形度に与える影響が大きい。
【0050】
[A. 界面活性剤の濃度]
界面活性剤の濃度が低すぎると、多孔質構造を形成するのに必要な界面活性剤が不足し、1次粒子の形状や大きさが不均一になる場合がある。従って、界面活性剤の濃度は、0.003mol/L以上が好ましい。界面活性剤の濃度は、好ましくは、0.0035mol/L以上、さらに好ましくは、0.004mol/L以上である。
【0051】
一方、界面活性剤の濃度が高すぎると、1次粒子径が過度に大きくなる場合がある。従って、界面活性剤の濃度は、1.0mol/L以下が好ましいる。界面活性剤の濃度は、好ましくは、0.95mol/L以下、さらに好ましくは、0.90mol/L以下である。
【0052】
[B. シリカ源の濃度]
シリカ源の濃度が低すぎると、シリカ源に対して界面活性剤が過剰となり、1次粒子が過度に大きくなる場合がある。従って、シリカ源の濃度は、0.05mol/L以上が好ましい。シリカ源の濃度は、好ましくは、0.06mol/L以上、さらに好ましくは、0.07mol/L以上である。
【0053】
一方、シリカ源の濃度が高すぎると、アスペクト比の小さな粒子ではなく、シート状の粒子が得られる場合がある。従って、シリカ源の濃度は、1.0mol/L以下が好ましい。シリカ源の濃度は、好ましくは、0.95mol/L以下、さらに好ましくは、0.9mol/L以下である。
【0054】
[C. 触媒の濃度]
本発明において、触媒の濃度は、特に限定されない。一般に、触媒の濃度が低すぎると、粒子の析出速度が遅くなる。一方、触媒の濃度が高すぎると、粒子の析出速度が速くなる。最適な触媒の濃度は、シリカ源の種類、界面活性剤の種類、目標とする物性値などに応じて最適な濃度を選択するのが好ましい。
例えば、触媒として酸を用いる場合、反応溶液のpHが9以下となるように、触媒の濃度を調整するのが好ましい。反応溶液のpHは、好ましくは、8.5以下、さらに好ましくは、5未満である。
一方、触媒としてアルカリを用いる場合、反応溶液のpHが7超となるように、触媒の濃度を調整するのが好ましい。
【0055】
[4.1.6 反応条件]
所定量の界面活性剤を含む溶媒中に、シリカ源を加え、加水分解及び重縮合を行う。これにより、界面活性剤がテンプレートとして機能し、シリカ及び界面活性剤を含む前駆体粒子が得られる。
反応条件は、シリカ源の種類、前駆体粒子の粒径等に応じて、最適な条件を選択する。一般に、反応温度は、-20~100℃が好ましい。反応温度は、好ましくは、0~100℃、さらに好ましくは、0~90℃、さらに好ましくは、10~80℃、さらに好ましくは、35~80℃である。
【0056】
[4.2. 乾燥工程]
次に、前記反応溶液から前記前駆体粒子を分離し、乾燥させる(乾燥工程)。
乾燥は、前駆体粒子内に残存している溶媒を除去するために行う。乾燥条件は、溶媒の除去が可能な限りにおいて、特に限定されるものではない。
【0057】
[4.3. 拡径処理]
次に、必要に応じて、乾燥させた前駆体粒子に対して拡径処理を行っても良い(拡径工程)。「拡径処理」とは、1次粒子内のメソ孔の直径を拡大させる処理をいう。
拡径処理は、具体的には、合成された前駆体粒子(界面活性剤の未除去のもの)を、拡径剤を含む溶液中で水熱処理することにより行う。この処理によって前駆体粒子の細孔径を拡大させることができる。
【0058】
拡径剤としては、例えば、
(a)トリメチルベンゼン、トリエチルベンゼン、ベンゼン、シクロヘキサン、トリイソプロピルベンゼン、ナフタレン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ウンデカン、ドデカンなどの炭化水素、
(b)塩酸、硫酸、硝酸などの酸、
などがある。
【0059】
炭化水素共存下で水熱処理することにより細孔径が拡大するのは、拡径剤が溶媒から、より疎水性の高い前駆体粒子の細孔内に導入される際に、シリカの再配列が起こるためと考えられる。
また、塩酸などの酸共存下で水熱処理することにより細孔径が拡大するのは、1次粒子内部においてシリカの溶解・再析出が進行するためと考えられる。製造条件を最適化すると、シリカ内部に放射状細孔が形成される。これを酸共存下で水熱処理すると、シリカの溶解・再析出が起こり、放射状細孔が連通細孔に変換される。
【0060】
拡径処理の条件は、目的とする細孔径が得られる限りにおいて、特に限定されない。通常、反応溶液に対して、0.05mol/L~10mol/L程度の拡径剤を添加し、60~150℃で水熱処理するのが好ましい。
【0061】
[4.4. 焼成工程]
次に、必要に応じて拡径処理を行った後、前記前駆体粒子を焼成する(焼成工程)。これにより、本発明に係る多孔質シリカ粒子が得られる。
焼成は、OH基が残留している前駆体粒子を脱水・重合させるため、及び、メソ孔内に残存している界面活性剤を熱分解させるために行われる。焼成条件は、脱水・結晶化、及び界面活性剤の熱分解が可能な限りにおいて、特に限定されない。焼成は、通常、大気中において、400℃~800℃で1時間~10時間加熱することにより行われる。
【0062】
[5. C/SiC複合粒子の製造方法]
本発明に係るC/SiC複合体粒子の製造方法は、
鋳型となる多孔質シリカ粒子を準備する第1工程と、
前記多孔質シリカ粒子の細孔内にカーボンを析出させ、シリカ/カーボン複合体Aを得る第2工程と、
前記シリカ/カーボン複合体Aからシリカの一部を除去し、シリカ/カーボン複合体Bを得る第3工程と、
前記シリカ/カーボン複合体Bを熱処理し、前記カーボンを黒鉛化すると同時に、シリカと前記カーボンの一部とを反応させてSiCを生成させ、本発明に係るC/SiC複合体粒子を得る第4工程と
を備えている。
【0063】
本発明に係るC/SiC複合体粒子の製造方法は、
前記第4工程の後、前記多孔質カーボン粒子の表面に-OH基及び/又は-COOH基を導入する賦活化処理を行う第5工程
をさらに備えていても良い。
【0064】
[5.1. 第1工程(鋳型の作製)]
まず、鋳型となる多孔質シリカ粒子を準備する(第1工程)。多孔質シリカ粒子の製造方法の詳細については、上述した通りであるので、説明を省略する。
【0065】
[5.2. 第2工程(細孔内へのカーボン析出)]
次に、多孔質シリカ粒子の細孔内にカーボンを析出させ、シリカ/カーボン複合体Aを得る(第2工程)。
細孔内へのカーボンの析出は、具体的には、
(a)細孔内にカーボン前駆体を導入し、
(b)細孔内において、カーボン前駆体を重合及び炭化させる
ことにより行われる。
【0066】
[5.2.1. カーボン前駆体の導入]
「カーボン前駆体」とは、熱分解によって炭素を生成可能なものをいう。このようなカーボン前駆体としては、具体的には、
(1) 常温で液体であり、かつ、熱重合性のポリマー前駆体(例えば、フルフリルアルコール、アニリン等)、
(2) 炭水化物の水溶液と酸の混合物(例えば、スクロース(ショ糖)、キシロース(木糖)、グルコース(ブドウ糖)などの単糖類、あるいは、二糖類、多糖類と、硫酸、塩酸、硝酸、リン酸などの酸との混合物)、
(3) 2液硬化型のポリマー前駆体の混合物(例えば、フェノールとホルマリン等)、
などがある。
これらの中でも、ポリマー前駆体は、溶媒で希釈することなく細孔内に含浸させることができるので、相対的に少数回の含浸回数で、相対的に多量の炭素を細孔内に生成させることができる。また、重合開始剤が不要であり、取り扱いも容易であるという利点がある。
【0067】
液体又は溶液のカーボン前駆体を用いる場合、1回当たりの液体又は溶液の吸着量は、多いほど良く、細孔全体が液体又は溶液で満たされる量が好ましい。
また、カーボン前駆体として炭水化物の水溶液と酸の混合物を用いる場合、酸の量は、有機物を重合させることが可能な最小量とするのが好ましい。
さらに、カーボン前駆体として、2液硬化型のポリマー前駆体の混合物を用いる場合、その比率は、ポリマー前駆体の種類に応じて、最適な比率を選択する。
【0068】
[5.2.2. カーボン前駆体の重合及び炭化]
次に、重合させたカーボン前駆体を細孔内において炭化させる。
カーボン前駆体の炭化は、非酸化雰囲気中(例えば、不活性雰囲気中、真空中など)において、カーボン前駆体を含む多孔質シリカ粒子を所定温度に加熱することにより行う。加熱温度は、具体的には、500℃以上1200℃以下が好ましい。加熱温度が500℃未満であると、カーボン前駆体の炭化が不十分となる。一方、加熱温度が1200℃を超えると、シリカと炭素が反応するので好ましくない。加熱時間は、加熱温度に応じて、最適な時間を選択する。
【0069】
なお、細孔内に生成させる炭素量は、多孔質シリカ粒子の一部を除去した時に、カーボン粒子が形状を維持できる量以上であればよい。従って、1回の充填、重合及び炭化で生成する炭素量が相対的に少ない場合には、これらの工程を複数回繰り返すのが好ましい。この場合、繰り返される各工程の条件は、それぞれ、同一であっても良く、あるいは、異なっていても良い。
また、充填、重合及び炭化の各工程を複数回繰り返す場合、各炭化工程は、相対的に低温で炭化処理を行い、最後の炭化処理が終了した後、さらにこれより高い温度で、再度、炭化処理を行っても良い。最後の炭化処理を、それ以前の炭化処理より高い温度で行うと、複数回に分けて細孔内に導入されたカーボンが一体化しやすくなる。
【0070】
[5.3. 第3工程(鋳型の一部除去)]
次に、シリカ/カーボン複合体Aからシリカの一部を除去する(第3工程)。これにより、シリカ/カーボン複合体Aよりもシリカ含有量が少ないシリカ/カーボン複合体Bが得られる。
多孔質シリカ粒子の除去方法としては、具体的には、
(1)シリカ/カーボン複合体Aを水酸化ナトリウムなどのアルカリ水溶液中で加熱する方法、
(2)シリカ/カーボン複合体Aをフッ化水素酸水溶液でエッチングする方法、
などがある。
【0071】
この時、水溶液の組成、水溶液の温度、処理時間などを最適化すると、多孔質カーボン粒子の細孔内にシリカの一部が残存しているシリカ/カーボン複合体Bが得られる。
細孔内に残存しているシリカの量は、C/SiC複合体粒子の特性に影響を与える。一般に、シリカの残存量が少なくなりすぎると、多孔質カーボン粒子の細孔内に生成するSiC粒子の量が過度に少なくなる。一方、シリカの残存量が過剰になると、多量のカーボンがSiC粒子の生成に消費され、多孔質カーボン粒子の細孔構造が壊れる場合がある。従って、第3工程は、C/SiC複合体粒子のSi質量比率が0mg/m2超6.8mg/m2以下となるように、シリカ/カーボン複合体Aからシリカの一部を除去するものが好ましい。
【0072】
[5.4. 第4工程(SiC粒子の生成)]
次に、シリカ/カーボン複合体Bを熱処理し、カーボンを黒鉛化すると同時に、シリカとカーボンの一部とを反応させてSiCを生成させる(第4工程)。これにより、本発明に係るC/SiC複合体粒子が得られる。
【0073】
熱処理温度は、SiC粒子が生成する温度以上であれば良い。一般に、熱処理温度が低すぎると、実用的な処理時間内にSiCが生成しない。従って、熱処理温度は、1300℃以上が好ましい。熱処理温度は、さらに好ましくは、1400℃以上である。
一方、熱処理温度が高くなりすぎると、SiCが分解する場合がある。従って、熱処理温度は、2300℃以下が好ましい。熱処理温度は、さらに好ましくは、2000℃以下である。
【0074】
第4工程は、不活性ガス雰囲気下、又は、真空下においてシリカ/カーボン複合体Bを熱処理するものが好ましい。
不活性ガス雰囲気下において熱処理を行った場合、主として、次の式(1)及び式(2)の反応が起こると考えられる。この場合、より多くのカーボンがSiCの生成に消費されると、細孔構造が崩れやすくなる。
SiO2+C → SiO+CO …(1)
SiO+2C → SiC+CO …(2)
【0075】
一方、真空下において熱処理を行った場合、式(1)の反応で生じたSiOが気化し、式(2)の反応が生じにくくなる。その結果、カーボンの消費量は少なくなるが、SiCの生成量も減少する。
【0076】
従って、熱処理時の温度及び雰囲気は、これらの点を考慮して、最適な雰囲気を選択するのが好ましい。特に、C/SiC複合体粒子のSi質量比率が0mg/m2超6.8mg/m2以下となるように、熱処理時の温度及び雰囲気を選択するのが好ましい。
【0077】
[5.5. 第5工程(賦活処理)]
次に、必要に応じて、多孔質カーボン粒子の表面に-OH基及び/又は-COOH基を導入する賦活化処理を行う(第5工程)。
賦活処理を行うと、多孔質カーボン粒子の表面(外表面及び細孔内の内表面)が親水化される。その結果、細孔内に微細な触媒粒子を担持しやすくなる。
【0078】
賦活処理は、多孔質カーボン粒子の表面に-OH基及び/又は-COOH基を導入可能なものである限りにおいて、特に限定されない。賦活処理方法としては、例えば、酸化剤を用いて、カーボン粒子表面を酸化させる方法がある。酸化剤としては、例えば、空気、酸素、オゾン、過酸化水素、硝酸などがある。
【0079】
[6. 作用]
シリカ/カーボン複合体からシリカの一部を除去し、相対的に高温で熱処理すると、カーボンが黒鉛化すると同時に、シリカとカーボンが反応し、SiCが生成する。その結果、多孔質カーボン粒子の細孔の内壁面にSiC粒子が分布しているC/SiC複合体が得られる。
【0080】
SiC粒子は、過酸化水素を無害な水と酸素に分解する作用がある。そのため、C/SiC複合粒子の表面(例えば、細孔の内壁面)に触媒粒子を担持させると、触媒粒子表面で過酸化水素が生成しても、細孔内にあるSiC粒子が過酸化水素を速やかに分解する。その結果、過酸化物ラジカルに起因する電解質の劣化を抑制することができる。
さらに、電解質が劣化することにより生じる分解生成物(例えば、スルホン酸アニオン)は、触媒粒子の被毒源となり得る。これに対し、触媒粒子がC/SiC複合粒子の細孔内に担持されている場合には、被毒源による触媒粒子の被毒も抑制することができる。
【0081】
C/SiC複合体粒子の細孔内に触媒粒子が担持された電極触媒を固体高分子形燃料電池のカソード触媒又はアノード触媒として用いた場合、細孔内の触媒粒子と触媒層アイオノマとの接触が回避されるので、高い触媒活性が得られる。
また、開回路及び発電で生じる過酸化水素は、電解質膜を劣化させる原因物質の一つである。本発明に係るC/SiC複合体粒子は、過酸化水素の分解触媒として働くSiC粒子が多孔質カーボン粒子の細孔の内表面に分布しているので、過酸化水素に起因する電解質膜の劣化を抑制することができる。また、電解質の劣化で生じる遊離のスルホン酸アニオンが少なくなり、スルホン酸アニオンによる触媒粒子の被毒が低減される。そのため、触媒活性の経時劣化を抑制することができる。
【実施例
【0082】
(実施例1~4、比較例1)
[1. C/SiC複合体粒子の作製]
[1.1.1. 鋳型シリカの合成]
表1に、鋳型シリカを合成するための原料組成を示す。以下の手順に従い、鋳型シリカを合成した。
【0083】
【表1】
【0084】
まず、界面活性剤として、30mass%塩化セチルトリメチルアンモニウム水溶液を用いた。所定量の界面活性剤水溶液に所定量の水、メタノール、及びエチレングリコール(以下、「EG」ともいう)を加えて攪拌した。そこに、シリカ源の加水分解触媒として、所定量の1N水酸化ナトリウム水溶液を添加し、溶液Aを得た。
これとは別に、所定量のメタノールとEGとの混合溶媒に、シリカ源として所定量のテトラエトキシシラン(以下、「TEOS」ともいう)を分散させ、溶液Bを得た。
【0085】
溶液Aに溶液Bを加え、室温で6時間攪拌した。一晩放置した後、溶液を吸引ろ過した。得られたろ物を蒸留水に分散させ、超音波処理により洗浄した。さらに、吸引ろ過でろ物を回収し、45℃の乾燥器で一晩乾燥させた。
次に、細孔径調整のため、乾燥後のシリカ前駆体を1N硫酸に分散させた。次いで、これを耐圧容器に入れ、120℃で68時間、水熱処理を行った。その後、上記同様に、ろ過及び洗浄を行った後、大気中で室温から550℃まで2時間かけて昇温し、550℃で6時間保持することでシリカ前駆体を焼成し、鋳型シリカを得た。
【0086】
[1.1.2. カーボンの析出]
PFA製容器に鋳型シリカを秤量し、窒素吸着量測定で求めておいた細孔容量と等しい体積に相当する量のフルフリルアルコール(以下、「F-AL」ともいう)を加えて密封した。容器を振とうすることで、鋳型シリカの細孔内にF-ALを浸み込ませた後、150℃のオーブンで18時間加熱することでF-ALを重合させた。さらに、管状炉を用いて、窒素フロー(1L/min)下で室温から500℃まで2時間かけて昇温し、500℃で6時間保持することでF-ALを炭化させた。
この1回目の炭化後、同様の処理を半分の量のF-ALで再度行った。但し、熱処理は、500℃で6時間加熱した後、さらに900℃まで2時間かけて昇温し、900℃で6時間保持することにより行った。
【0087】
最後に、鋳型シリカを除去するため、炭化後の試料に所定濃度のフッ化水素酸(HF)又は水酸化ナトリウム(NaOH)を加え、3時間攪拌した。ここで、Si残存量の異なるカーボンを作製するため、処理条件(処理溶液中のHF又はNaOHの濃度、及び/又は、処理溶液の温度)を変えて、鋳型シリカの除去を行った。
鋳型シリカの除去後、吸引ろ過によりろ物を回収した。さらに、超音波処理による水洗を行い、再度、吸引ろ過でろ物を回収し、それを45℃の乾燥器で一晩乾燥させた。表2に、鋳型シリカの除去処理後のSi残存量(蛍光X線分析値)を示す。
【0088】
【表2】
【0089】
[1.1.3. カーボンの黒鉛化]
得られたシリカ/カーボン複合体について、黒鉛化処理を行い、C/SiC複合体粒子を得た。黒鉛化処理の温度は、1900℃とした。また、黒鉛化処理時の雰囲気は、Ar雰囲気下(実施例1~3、比較例1)、又は、真空下(実施例4)とした。
【0090】
[2. 試験方法]
[2.1. 窒素吸着等温線]
Si残存量に対する黒鉛化後の細孔構造の違いを調べるため、C/SiC複合体粒子の窒素吸着等温線を測定し、BJH解析により細孔分布を求めた。
[2.2. Si質量比率]
C/SiC複合体粒子について蛍光X線分析(XRF)を行い、Si質量比率を算出した。
【0091】
[3. 結果]
[3.1. 窒素吸着等温線]
図1に、実施例1~2、及び、比較例1で得られたC/SiC複合粒子の細孔径分布を示す。実施例1及び2は、細孔径が3~4nmである細孔が残っていた。一方、比較例1は、細孔径が3~4nmである細孔が消失した。これは、多孔質カーボン粒子の細孔壁が多量に残存しているシリカと反応し、細孔構造が壊れたためと考えられる。
【0092】
[3.2. Si質量比率]
図2に、C/SiC複合粒子のSi質量比率(C/SiC複合粒子の単位表面積あたりのSi質量)と比表面積との関係を示す。図2より、Si質量比率が大きくなるほど、C/SiC複合粒子の比表面積が小さくなることが分かる。また、触媒担体として必要な800m2/g以上の比表面積を得るためには、Si質量比率を6.8mg/m2以下にすれば良いことが分かる。
【0093】
(実施例3~4、比較例2)
[1. 試料の作製]
[1.1. 電極触媒の作製]
触媒担体には、実施例3、4で得られたC/SiC複合粒子に対して空気賦活を行ったものを用いた。空気賦活の条件は、480℃で1時間とした。また、比較として、市販の多孔質カーボンをそのまま触媒担体に用いた(比較例2)。
これらの触媒担体の表面に触媒粒子を担持し、電極触媒を得た。触媒粒子には、白金合金触媒を用いた。触媒担持量は、40mass%とした。
【0094】
[1.2. 触媒層の作製]
得られた電極触媒及びアイオノマを溶媒に分散させ、触媒インクを作製した。この触媒インクをアプリケータでポリテトラフルオロエチレンシート上に塗布し、大気中で乾燥させることにより、触媒層を得た。
【0095】
[1.3. MEAの作製]
ホットプレスにより、カソード触媒層及びアノード触媒層を電解質膜に転写することでMEAを作製した。
なお、電解質膜には、フッ素系高分子膜(NR211)を用いた。カソード触媒層には、[1.2.]で作製した触媒層を用いた。さらに、アノード触媒層には、市販のPt/C触媒とアイオノマとを用いて作製したものを用いた。
【0096】
[2. 試験方法]
[2.1. Si質量比率]
触媒担持後のC/SiC複合体粒子について蛍光X線分析(XRF)を行い、Si質量比率を算出した。
【0097】
[2.2. セル評価]
得られたMEAを用いて単セルを作製した。単セルの慣らし運転を行った後、初期のI-V特性と電極特性(サイクリックボルタモグラム)とを評価した。その後、耐久試験を行い、耐久試験後の性能評価を行った。評価内容の詳細は、以下の通りである。
【0098】
[2.2.1. 単セル]
MEAの両面に、それぞれ、拡散層及び集電体を配置し、単セルを作製した。単セルの詳細は、以下の通りである。
セル:1cm2用角セル
拡散層:カーボンペーパ(マイクロポーラス層付き)
集電体:流路一体型金メッキ銅板
【0099】
[2.2.2. 慣らし運転]
電圧掃引で単セルの慣らし運転を行った。条件は、以下の通りである。
セル温度/相対湿度(両極):60℃/80%RH
空気極ガス:Air、1000mL/min、大気圧
燃料極ガス:H2、500mL/min、大気圧
電圧掃引:開回路電圧から-0.1Vになるまで50mV/sで掃引し、I-V曲線が変化しなくなるまで掃引を繰り返し実施
【0100】
[2.2.3. 発電性能評価]
電圧掃引でI-V曲線を測定した。測定条件は、以下の通りである。
セル温度/相対湿度(両極):60℃/80%RH
空気極ガス:Air、1000mL/min、大気圧
燃料極ガス:H2、500mL/min、大気圧
電圧掃引:開回路電圧から-0.1Vになるまで10mV/sで掃引し、掃引を3回実施(3回目のデータを採用)
【0101】
[2.2.4. サイクリックボルタモグラム(CV)測定]
以下の条件でCVを測定した。
セル温度/相対湿度(両極):60℃/80%RH
空気極ガス:N2、1000mL/min
燃料極ガス:H2、500mL/min
電圧範囲:115~1000mV
掃引速度:50mV/s
サイクル数:10
【0102】
[2.2.5. 耐久試験]
以下の条件で開回路試験と乾湿試験とを交互に行った。
[A. 開回路試験の条件]
セル温度/相対湿度(両極):82℃/30%RH
空気極ガス:Air、400mL/min
燃料極ガス:H2、100mL/min
[B. 乾湿試験]
セル温度/相対湿度(両極):60℃/80%RH加湿と60℃/無加湿を1分サイクルで実施
空気極ガス:N2、500mL/min
燃料極ガス:N2、500mL/min
【0103】
[3. 結果]
[3.1. I-V特性]
図3(A)、図3(B)、及び図3(C)に、それぞれ、実施例3、実施例4、及び比較例2で得られた単セルの耐久試験前後のI-V特性を示す。図4に、Si質量比率(C/SiC複合粒子の単位表面積あたりのSi質量)と、活性維持率との関係を示す。「活性維持率」とは、耐久試験前の質量活性(I-V特性における0.9Vにおける電流値をPt質量で除した値)に対する、耐久試験後の質量活性の比率をいう。
さらに、表3に、実施例3、4で得られた触媒担持後のC/SiC複合体粒子のSi質量比率を示す。図3及び表3より、Si質量比率が高くなるほど、耐久試験後の活性低下が小さいことが分かる。これは、多孔質カーボン粒子の細孔内にあるSiCが過酸化水素を分解を抑制し、耐久性の向上に寄与しているためと考えられる。
【0104】
【表3】
【0105】
[3.2. CV]
図5(A)、図5(B)、及び図5(C)に、それぞれ、実施例3、実施例4、及び比較例2で得られた単セルの耐久試験中のCVを示す。図5には、それぞれ、OC積算時間が19~27時間になった時のCV(「27時間後」等と表記)と、63~69時間になった時のCV(「69時間後」等と表記)が示されている。図5より、
(a)OC積算時間が63~69時間のCVの0.7V以上のPt酸化電流の立ち上がりが、OC積算時間が19~27時間のそれより高電位側にシフトしていること、及び、
(b)Si質量比率が低くなるほど、シフトが大きいこと
が分かる。
【0106】
酸化電流のシフトの原因として、耐久試験による電解質劣化で生じた遊離のスルホン酸アニオンがPt表面に吸着することが考えられる。従って、Si質量比率が低いほど、電解質劣化が生じやすいことが示唆される。
以上の結果から、Si質量比率が高いほど、電解質の劣化によって生じる触媒被毒が抑制されることが分かった。
【0107】
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の改変が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0108】
本発明に係るC/SiC複合体粒子は、固体高分子形燃料電池の空気極触媒層の触媒担体、あるいは、燃料極触媒層の触媒担体として用いることができる。
図1
図2
図3
図4
図5