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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-16
(45)【発行日】2024-05-24
(54)【発明の名称】せん断加工方法及びせん断加工装置
(51)【国際特許分類】
   B21D 28/16 20060101AFI20240517BHJP
   B21D 28/14 20060101ALI20240517BHJP
   B23D 15/08 20060101ALI20240517BHJP
   B23D 15/04 20060101ALI20240517BHJP
【FI】
B21D28/16
B21D28/14 B
B23D15/08 Z
B23D15/04
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021168729
(22)【出願日】2021-10-14
(65)【公開番号】P2023058927
(43)【公開日】2023-04-26
【審査請求日】2023-02-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】597044391
【氏名又は名称】ナミコー株式會社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【弁理士】
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【弁理士】
【氏名又は名称】熊野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100155457
【弁理士】
【氏名又は名称】野口 祐輔
(72)【発明者】
【氏名】沖野 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】廣澤 秀剛
(72)【発明者】
【氏名】浄徳 昌宏
(72)【発明者】
【氏名】中島 徹
【審査官】永井 友子
(56)【参考文献】
【文献】特開平04-091827(JP,A)
【文献】特開2010-158688(JP,A)
【文献】特開2019-136724(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21D 28/16
B21D 28/14
B23D 15/08
B23D 15/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の刃と第2の刃を相対移動させて、被加工材の第1領域に第1の刃を厚さ方向一方側から押し付けると共に、前記被加工材の第2領域に第2の刃を厚さ方向他方から押し付けることにより、前記被加工材の第1領域と第2領域との境界にせん断力を作用させて前記被加工材を切断するせん断加工方法において、
前記境界を起点として前記第2領域を回転させることにより前記境界に曲げ部を形成しながら、前記曲げ部を切断し、
前記第1領域の切断面の表層の硬度が、前記第2領域の切断面の表層の硬度よりも低いせん断加工方法。
【請求項2】
前記第2領域の、前記第1領域と反対側の端部の前記第2の刃に対する移動を規制した状態で、前記曲げ部を切断する請求項1に記載のせん断加工方法。
【請求項3】
互いに相対移動可能な第1の刃と第2の刃とを有し、被加工材の第1領域に第1の刃を厚さ方向一方側から押し付けると共に、前記被加工材の第2領域に第2の刃を厚さ方向他方から押し付けることにより、前記被加工材の第1領域と第2領域との境界にせん断力を作用させて前記被加工材を切断するせん断加工装置において、
前記境界を起点として前記第2領域を回転させることにより前記境界に曲げ部を形成しながら、前記曲げ部を切断し、
前記第1の刃の刃部と前記第2の刃の刃部との幅方向間に、前記第2領域を回転させる大きさのモーメントを発生させる隙間(δ1)を設け、
前記第2の刃の厚さ方向一方側に配されたパッドを有し、
前記パッドと前記第2の刃との間に、前記被加工材の第2領域の厚さよりも大きな隙間(δ2)を設け、この隙間(δ2)に前記第2領域を配したせん断加工装置。
【請求項4】
互いに相対移動可能な第1の刃と第2の刃とを有し、被加工材の第1領域に第1の刃を厚さ方向一方側から押し付けると共に、前記被加工材の第2領域に第2の刃を厚さ方向他方から押し付けることにより、前記被加工材の第1領域と第2領域との境界にせん断力を作用させて前記被加工材を切断するせん断加工装置において、
前記境界を起点として前記第2領域を回転させることにより前記境界に曲げ部を形成しながら、前記曲げ部を切断し、
前記被加工材のうち、前記第2領域の、前記第1領域と反対側に隣接した第3領域を厚さ方向一方側から押さえるパッドと、前記第2の刃よりも厚さ方向一方側で、前記第3領域を厚さ方向他方側から支持する平坦な支持面を備えた支持部とを有するせん断加工装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、せん断加工方法及びせん断加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、自動車のサスペンションのロアアームは、鍛造で形成されることが多いが、軽量化、低コスト化を目的として、金属板のプレス加工で成形することもある。例えば、下記の特許文献1に示されているようなせん断加工装置を用いて金属板を打ち抜いて、図14に示すような形状のブランク材100を形成した後、このブランク材100にプレス成形を施して端部に沿った領域を立ち上げることにより、図15に示すロアアーム200が形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2018/180820号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ブランク材100をプレス成形してロアアーム200を形成する際、図16及び図17に示すように、ブランク材100の端部のうち、内部側に凹んだ凹曲線101は、引き伸ばされながら立ち上げられる。このように、ブランク材100の端部の凹曲線101が引き伸ばされることで、ロアアーム200の端部201に「毛ワレ」と呼ばれる微小クラックが生じることがある。
【0005】
例えば、金属板の材料を調整することで、毛ワレの発生を防止することもある。しかし、材料の調整による毛ワレの発生の防止効果には限界がある。従って、ロアアームをプレス成形した後、端部の毛ワレの発生の有無を作業者が一つずつ確認しているのが実情であり、工数増によるコストアップが課題となっている。
【0006】
そこで、本発明は、プレス成形品の端部の毛ワレを防止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らの検証により、金属板を打ち抜く際にブランク材の端部に設けられる加工硬化部が、毛ワレの発生の要因となっていることが明らかになった。そこで、打ち抜き加工(せん断加工)の工法を工夫することにより、製品部(ブランク材)の端部に加工硬化部が設けられないようにすることを検討した。その結果、製品部以外の領域(スクラップ部)を回転させながら切断する、という新たな工法を着想するに至った。
【0008】
以上のような知見に基づいてなされた本発明は、第1の刃と第2の刃を所定方向に相対移動させて、前記被加工材の第1領域に第1の刃を厚さ方向一方側から押し付けると共に、前記被加工材の第2領域に第2の刃を厚さ方向他方から押し付けることにより、前記被加工材の第1領域と第2領域との境界にせん断力を作用させて前記被加工材を切断するせん断加工方法において、前記境界を起点として前記第2領域を回転させることにより前記境界に曲げ部を形成しながら、前記曲げ部を切断するせん断加工方法を提供する。
【0009】
このように、第1の刃と第2の刃で被加工材にせん断力を作用させることで、被加工材の第1領域と第2領域との境界に加工硬化部が形成される。このとき、第1領域と第2領域との境界を起点として第2領域を回転させて曲げ部を形成しながら、この曲げ部を切断することにより、曲げ部に形成された加工硬化部の第1領域側端部付近で被加工材を切断することができる。これにより、加工硬化部の大部分が第2領域に設けられ、第1領域の端部には加工硬化部がほとんど無い状態となる。この第1領域を製品部(ブランク材)として使用し、プレス成形を施すことにより、端部が引き伸ばされることによる毛ワレの発生を防止できる。
【0010】
上記のせん断加工方法において、曲げ部を切断する際の第2領域の回転角がバラつくと、切断位置がバラつくため、第1領域の端部に加工硬化部が残ってしまう恐れがある。そこで、前記第2領域の、前記第1領域と反対側の端部の前記第2の刃に対する移動を規制した状態で、前記曲げ部を切断することが好ましい。これにより、曲げ部を切断する際の第2領域の回転角を制御できるため、切断位置を安定させることができる。
【0011】
また、上記の目的を達成するために、本発明は、互いに相対移動可能な第1の刃と第2の刃とを有し、被加工材の第1領域に第1の刃を厚さ方向一方側から押し付けると共に、前記被加工材の第2領域に第2の刃を厚さ方向他方から押し付けることにより、前記被加工材の第1領域と第2領域との境界にせん断力を作用させて前記被加工材を切断するせん断加工装置において、前記第2の刃の厚さ方向一方側に配されたパッドを有し、前記パッドと前記第2の刃との間に、前記被加工材の第2領域の厚さよりも大きな隙間を設け、この隙間に前記第2領域を配したせん断加工装置を提供する。
【0012】
このように、パッドと第2の刃との間に第2領域の厚さよりも大きな隙間を設け、この隙間に第2領域を配することで、第1の刃と第2の刃とで被加工材にせん断力を作用させたときに、上記の隙間の内部で第2領域の回転が許容される。こうして第2領域を回転させて第1領域との境界に曲げ部を形成しながら、この曲げ部を切断することにより、上記と同様に、第1領域には加工硬化部がほとんど残らない。また、第2の刃とパッドとの間の隙間内で第2領域が回転したとき、第2領域の、第1領域と反対側の端部がパッドに当接することで、この端部の第2の刃に対する移動が規制される。この場合、第2の刃とパッドとの間の隙間の大きさにより、曲げ部を切断する際の第2領域の回転角を制御できるため、被加工材の切断位置を安定させることができる。
【0013】
また、上記の目的を達成するために、本発明は、互いに相対移動可能な第1の刃と第2の刃とを有し、被加工材の第1領域に第1の刃を厚さ方向一方側から押し付けると共に、前記被加工材の第2領域に第2の刃を厚さ方向他方から押し付けることにより、前記被加工材の第1領域と第2領域との境界にせん断力を作用させて前記被加工材を切断するせん断加工装置において、前記被加工材のうち、前記第2領域の前記第1領域と反対側に隣接した第3領域を厚さ方向一方側から押さえるパッドと、前記第2の刃よりも厚さ方向一方側で、前記第3領域を厚さ方向他方側から支持する支持部とを有するせん断加工装置を提供する。
【0014】
このせん断加工装置では、パッドと支持部とで被加工材の第3領域を挟持した状態で、第1の刃を相対移動させて被加工材の第1領域を押し込むことにより、第2領域が第1領域との境界を起点として回転する。こうして第2領域を回転させて曲げ部を形成しながら、この曲げ部に第2の刃を接触させて曲げ部を切断することにより、上記と同様に、第1領域には硬化部がほとんど残らない。また、第2領域を回転させる際、第3領域をパッドと支持部とで挟持することで、第2領域の、第1領域と反対側の端部(第3領域との境界)の第2の刃に対する移動が規制される。この場合、第3領域を挟持するパッド及び支持部と、第1領域を押圧する第1の刃との位置関係により、曲げ部を切断する際の第2領域の回転角を制御できるため、被加工材の切断位置を安定させることができる。
【発明の効果】
【0015】
以上のように、本発明によれば、被加工材の第1領域の端部に加工硬化部がほとんど設けられないため、この第1領域を用いたプレス成形品の端部の毛ワレを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の第一実施形態に係るせん断加工装置の断面図である。
図2図1のせん断加工装置で被加工材をせん断する様子を示す断面図であり、第2領域を回転させ始めた状態を示す。
図3図1のせん断加工装置で被加工材をせん断する様子を示す断面図であり、第2領域をパッドに当接させた状態を示す。
図4図1のせん断加工装置で被加工材をせん断する様子を示す断面図であり、曲げ部にクラックが発生した状態を示す。
図5】曲げ部のファイバーフローを示す断面写真である。
図6図1のせん断加工装置で被加工材をせん断する様子を示す断面図であり、切断が完了した状態を示す。
図7】(A)は、従来のせん断加工方法による製品部の切断面の正面図であり、(B)は同方法によるスクラップ部の切断面の正面図である。
図8】(A)は、図1のせん断加工装置による第1領域の切断面の正面図であり、(B)は同装置による第2領域の切断面の正面図である。
図9図1のせん断加工装置による第1領域(製品)の切断面及び第2領域(スクラップ)の切断面の硬度を示すグラフである。
図10】本発明の第二実施形態に係るせん断加工装置の断面図である。
図11図10のせん断加工装置で被加工材をせん断する様子を示す断面図であり、第2領域を回転させた状態を示す。
図12図10のせん断加工装置で被加工材をせん断する様子を示す断面図であり、曲げ部にクラックが発生した状態を示す。
図13図10のせん断加工装置で被加工材をせん断する様子を示す断面図であり、切断が完了した状態を示す。
図14】ロアアームを形成するブランク材の平面図である。
図15図14のブランク材から形成されたロアアームの平面図である。
図16】ブランク材の凹曲線の拡大図である。
図17図16のX-X線における断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0018】
本発明の第一実施形態に係るせん断加工装置1は、平板状の金属板(例えば鋼板)からなる被加工材Wを打ち抜いて図14に示す形状のブランク材100を形成するプレス加工装置である。せん断加工装置1は、図1に示すように、第1の刃としての上刃2と、第2の刃としての下刃3と、パッド4とを備える。本実施形態では、下刃3は固定され、上刃2及びパッド4は、図示しない駆動手段によりそれぞれ独立して昇降可能とされる。尚、以下の説明では、上刃2を鉛直方向に昇降させ、図1の断面における水平方向、すなわち、被加工材Wの切断線(ブランク材100の外周)の延在方向と直交する水平方向を「幅方向」と言う。また、幅方向で、被加工材Wの端部側(図1の右側)を「外側」と言い、その反対側を「内側」と言う。
【0019】
上刃2は、図示しない平面視でブランク材100と同形状を成す。下刃3は、上刃2の外周に沿って設けられ、本実施形態では、上刃2の全周に環状の下刃3が設けられる。上刃2と下刃3との間には幅方向の隙間δ1が設けられる。
【0020】
パッド4は、回転規制部5と、下刃3の上面に当接する当接部6とを有する。当接部6を下刃3の上面に当接させた状態で、回転規制部5と下刃3との間には上下方向の隙間δ2が形成される。
【0021】
以下、上記のせん断加工装置1によるせん断加工方法の手順を説明する。
【0022】
まず、下刃3の上に被加工材Wを載置した後、パッド4を下降させてパッド4の当接部6を下刃3の上面に当接させる。この状態では、被加工材Wの第2領域W2に下刃3が下方から接触している。被加工材Wの第2領域W2は、パッド4の回転規制部5と下刃3との間の隙間δ2内に配される。被加工材Wが大きい場合は、予めトリミングを施して、被加工材Wの外側端部が隙間δ2内(パッド4の当接部6よりも内側)に配される大きさとする。隙間δ2は被加工材Wの板厚tよりも大きく、被加工材Wの第2領域W2の全域の上方に空間が設けられる。
【0023】
そして、上刃2を下降させることにより、図2に示すように、上刃2で被加工材Wの第1領域W1が下方に押し込まれる。これにより、上刃2と下刃3とで被加工材Wの第1領域W1と第2領域W2との境界にモーメントが加わり、第2領域W2がこの境界を起点として回転し、この境界に曲げ部Pが形成される。このとき、第2領域W2を回転させる大きさのモーメントを発生させるために、上刃2と下刃3との間の幅方向の隙間δ1は大きめに設定され、例えば被加工材Wの板厚tの12%以上、好ましくは15%以上とされる。また、隙間δ1が大きすぎると被加工材Wの切断位置が不安定になるため、隙間δ1は、例えば板厚tの25%以下、好ましくは20%以下とされる。
【0024】
その後、さらに上刃2を下降させると、図3に示すように、第2領域W2がさらに回転して、第2領域W2の外側端部がパッド4の回転規制部5に下方から当接し、第2領域W2の外側端部のそれ以上の上昇が規制される。このとき、上刃2の刃部2a及び下刃3の刃部3aが被加工材Wに食い込み始める。
【0025】
その後、さらに上刃2を下降させると、図4に示すように、第2領域W2の外側端部がパッド4の回転規制部5に当接した状態で、上刃2及び下刃3が被加工材Wにさらに食い込む。このとき、曲げ部Pの上側部分、すなわち、上刃2の刃部2aとの接触部付近では圧縮応力が発生し、曲げ部Pの下側部分、すなわち、下刃3の刃部3aとの接触部付近では引張応力が発生している(白抜き矢印参照)。曲げ部Pの上側部分では、静水圧効果(「金属は加圧されると塑性変形能が高まる」という現象)により塑性変形能が高まり、破断せずに加工硬化が進む。一方、曲げ部Pの下側部分では、塑性変形能が相対的に低く、早期にクラックCが生じる。その結果、曲げ部Pの上側よりの領域で加工硬化が大きくなり、加工硬化部Qの第1領域W1側(図中左側)端部付近を、曲げ部Pの下面に発生したクラックCが通る。
【0026】
図5は、クラックが入る直前の曲げ部P付近の断面写真であり、縞模様は材料のファイバーフローを表している。第1領域W1及び第2領域W2のファイバーフローは材料の延在方向に沿っているが、曲げ部Pのファイバーフローは、第1領域W1及び第2領域W2のファイバーフローに対して大きく傾斜している。この傾斜部分が、塑性変形により加工硬化が生じている領域(加工硬化部Q)と考えられる。この写真から、加工硬化部Qが、主に第2領域W2(スクラップ)に設けられており、第1領域W1(製品部)にはほとんど設けられていないことが分かる。
【0027】
その後、さらに上刃2を下降させると、曲げ部Pの下面のクラックが延びると共に、曲げ部Pの上面にもクラックが発生し、これらのクラックが繋がって、図6に示すように被加工材Wが切断される。第1領域W1の外側端部及び第2領域W2の内側端部には、それぞれ切断面D1、D2が形成される。切断後の第1領域W1はブランク材(製品部)として次の成形工程に搬送され、第2領域W2はスクラップとして廃棄される。
【0028】
従来のように、被加工材のスクラップ部をパッドで押さえた状態で切断すると、製品部及びスクラップ部の切断面は対称形状となる。具体的には、図7(A)に示すように、製品部W1’の切断面D1’の下部にせん断面D11’が形成され、上部に破断面D12’が形成される。図7(B)に示すように、スクラップ部W2’の切断面D2’の上部にせん断面D21’が形成され、下部に破断面D22’が形成される。製品部W1’のせん断面D11’の厚さ方向寸法L1’と、スクラップ部W2’のせん断面D21’の厚さ方向寸法L2’は略等しい。
【0029】
一方、図1~4、6に示すように被加工材Wの第2領域W2を回転させながら切断すると、第1領域W1及び第2領域W2の切断面D1、D2が非対称形状となる。具体的には、図8(A)に示すように、第1領域W1の切断面D1の下部にせん断面D11が形成され、上部に破断面D12が形成される。一方、図8(B)に示すように、第2領域W2の切断面D2の上部にせん断面D21が形成され、下部に破断面D22が形成される。第1領域W1のせん断面D11の厚さ方向寸法L1は、第2領域W2のせん断面D21の厚さ方向寸法L2よりも小さい。
【0030】
図6に示すように、加工硬化部Qの第1領域W1側端部付近で被加工材Wを切断することで、加工硬化部Qの大部分が第2領域W2に設けられ、第1領域W1にはほとんど加工硬化部Qが設けられない。その結果、第1領域W1の切断面の表層の硬さは、第2領域W2の切断面の表層の硬さよりも低くなる。実際に、上記の方法で被加工材W(鋼板)を切断し、第1領域W1及び第2領域W2の切断面D1、D2から0.2mmの深さにおける硬度を測定した。その結果を図9に示す。同図において、縦軸は板厚方向であり、板厚方向の複数箇所における硬度を示している。この図から、第1領域W1(製品)の切断面D1付近の硬度が、第2領域W2(スクラップ)の切断面D2付近の硬度よりも低いことが分かる。
【0031】
また、図6に示すように、曲げ部Pを切断するときに、第2領域W2の外側端部をパッド4の回転規制部5に当接させて第2領域W2の回転を規制することで、切断時の第2領域W2の回転角θを所定の値に設定することができる。これにより、曲げ部Pの所望の位置を切断して、加工硬化部Qが第1領域W1に残らないようにすることが可能となる。具体的に、下刃3とパッド4の回転規制部5との間の隙間δ2の大きさと、第2領域の幅方向長さM(詳しくは、下刃3の刃部3aと被加工材Wの外側端部との間の幅方向の距離M:図1参照)とにより、切断時の第2領域W2の回転角θを制御することができる。切断時の第2領域W2の回転角θが小さすぎると、加工硬化部Qが第1領域W1に残ってしまうため、回転角θは、例えば8°以上、好ましくは10°以上とされる。また、第2領域W2の回転角θが大きすぎると、切断位置が不安定になるため、回転角θは、例えば25°以下、好ましくは20°以下とされる。尚、隙間δ2の大きさは、第2領域W2の板厚tや幅方向長さMとの関係によって決定される。
【0032】
その後、第1領域W1(ブランク材100)にプレス成形が施され、図15に示すロアアーム200が形成される。このとき、ブランク材100の端部の硬度が低くなっているため、ブランク材100の凹曲線101を伸ばしながら立ち上げた場合にも、端部が十分に伸びて毛ワレの発生を防止できる。
【0033】
本発明は上記の実施形態に限られない。以下、本発明の他の実施形態を説明するが、上記の実施形態と同様の点については詳細な説明を省略する。
【0034】
図10~13に、本発明の第二実施形態に係るせん断加工装置1を示す。このせん断加工装置1は、上刃2と、下刃3と、パッド4と、支持部7とを有する。支持部7は、下刃3に固定され、下刃3の刃部3aよりも上方に配された支持面7aを有する。
【0035】
図10に示すように、被加工材Wを支持部7の上に載置して、パッド4で被加工材Wを上方から押さえることで、被加工材Wの第3領域W3をパッド4の下面と支持部7の支持面7aとで挟持する。この状態で、上刃2を下降させて、上刃2で被加工材Wの第1領域W1を上方から押し込む。これにより、図11に示すように、被加工材Wの第2領域W2が回転し、被加工材Wの第1領域W1と第2領域W2との境界に曲げ部P1が設けられると共に、第2領域W2と第3領域W3との境界に曲げ部P2が設けられる。
【0036】
その後、さらに上刃2を下降させることで、図12に示すように、上刃2の刃部2aが曲げ部P1の上面に食い込んでクラックCが発生すると共に、下刃3の刃部3aが曲げ部P1の下面に食い込んでクラックCが発生する。クラックCは、曲げ部P1に形成された加工硬化部Qの第1領域W1側(図中左側)端部付近を通る。
【0037】
さらに上刃2を下降させると、曲げ部P1の上面及び下面のクラックCが繋がって、図13に示すように被加工材Wが切断される。そして、第1領域W1はブランク材(製品部)として次の成形工程に搬送され、第2領域W2及び第3領域W3を含む他の領域は、スクラップとして廃棄されるか、あるいは他の製品部の一部として使用される。本実施形態でも、加工硬化部Qの第1領域W1側端部付近で被加工材Wが切断されるため、加工硬化部Qの大部分が第2領域W2に設けられ、第1領域W1にはほとんど加工硬化部Qが設けられない。このように、第1領域W1の端部の硬度が低くなっていることで、その後の成形工程で引き伸ばされたときに毛ワレの発生を防止できる。
【0038】
また、本実施形態では、図11~12に示すように、第3領域W3をパッド4と支持部7とで挟持して、第2領域W2の外側端部の下刃3に対する移動を規制した状態で、上刃2で第1領域W1を押し込んで曲げ部Pを形成する。これにより、切断時の第2領域W2の回転角θ(図13参照)を所定の値に設定することができる。これにより、曲げ部Pの所望の位置を切断して、加工硬化部Qが第1領域W1に残らないようにすることが可能となる。具体的に、支持部7の上下方向寸法δ3(詳しくは、下刃3の刃部3aと支持部7の支持面7aとの間の上下方向寸法δ3:図10参照)と、第2領域W2の幅方向寸M(詳しくは、下刃3の刃部3aと支持面7aの内側端部との間の幅方向の距離M:図10参照)とにより、切断時の第2領域W2の回転角θを制御することができる。回転角θの好ましい範囲は、上記の第一実施形態と同様である。例えば、第2領域の幅方向長さMが7mmの場合、支持部7の上下方向寸法δ3の大きさは0.6~2.0mm、好ましくは0.8~1.6mmの範囲に設定される。
【0039】
また、本実施形態では、上刃2と下刃3との間の幅方向の隙間δ1は上記の第一実施形態と同等に設定される。すなわち、隙間δ1は、被加工材Wの板厚tの12%以上(好ましくは15%以上)、25%以下(好ましくは20%以下)とされる。
【0040】
また、本実施形態では、上記の第一実施形態のように被加工材Wの大きさを調整する必要はなく、被加工材Wがパッド4や支持部7よりも外側まで延びている状態で、被加工材Wにせん断加工を施すことができる。これにより、被加工材Wの前加工(トリミング)が不要となるため、歩留まりが向上し、製造コストが低減される。例えば、大きな平板状の被加工材Wから、複数の第1領域W1(製品部)を連続的に打ち抜くこともできる。
【符号の説明】
【0041】
1 せん断加工装置
2 上刃(第1の刃)
3 下刃(第2の刃)
4 パッド
5 回転規制部
6 当接部
7 支持部
C クラック
D1、D2 切断面
P、P1、P2曲げ部
Q 加工硬化部
W 被加工材
W1 第1領域(製品部)
W2 第2領域
W3 第3領域
図1
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