IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社 堀場アドバンスドテクノの特許一覧

特許7489972水質分析システム、センサモジュール、校正用機器、及び、水質分析システムの校正方法
<>
  • 特許-水質分析システム、センサモジュール、校正用機器、及び、水質分析システムの校正方法 図1
  • 特許-水質分析システム、センサモジュール、校正用機器、及び、水質分析システムの校正方法 図2
  • 特許-水質分析システム、センサモジュール、校正用機器、及び、水質分析システムの校正方法 図3
  • 特許-水質分析システム、センサモジュール、校正用機器、及び、水質分析システムの校正方法 図4
  • 特許-水質分析システム、センサモジュール、校正用機器、及び、水質分析システムの校正方法 図5
  • 特許-水質分析システム、センサモジュール、校正用機器、及び、水質分析システムの校正方法 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-16
(45)【発行日】2024-05-24
(54)【発明の名称】水質分析システム、センサモジュール、校正用機器、及び、水質分析システムの校正方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/64 20060101AFI20240517BHJP
【FI】
G01N21/64 Z
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2021520072
(86)(22)【出願日】2020-03-17
(86)【国際出願番号】 JP2020011722
(87)【国際公開番号】W WO2020235198
(87)【国際公開日】2020-11-26
【審査請求日】2023-02-16
(31)【優先権主張番号】P 2019095724
(32)【優先日】2019-05-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】592187534
【氏名又は名称】株式会社 堀場アドバンスドテクノ
(74)【代理人】
【識別番号】100121441
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 竜平
(74)【代理人】
【識別番号】100154704
【弁理士】
【氏名又は名称】齊藤 真大
(74)【代理人】
【識別番号】100206151
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 惇志
(74)【代理人】
【識別番号】100218187
【弁理士】
【氏名又は名称】前田 治子
(72)【発明者】
【氏名】富岡 紀一郎
(72)【発明者】
【氏名】羽島 雄大
【審査官】吉田 将志
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-157018(JP,A)
【文献】特開昭53-105288(JP,A)
【文献】特開2009-192338(JP,A)
【文献】益田明子 ほか,エンジン運転条件がスクラバー排水性状に及ぼす影響,平成27年度(第15回)海上技術安全研究所研究発表会,2015年
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/64
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体試料に含まれる測定対象成分を蛍光分光法により分析する水質分析システムであって、
前記液体試料に対して前記測定対象成分の励起波長を有する光を照射する光照射部と、
前記液体試料から出る前記測定対象成分の蛍光を検出する光検出部と、
前記光照射部及び前記光検出部を収容し、前記液体試料中に浸漬されるセンサヘッドと、
前記光検出部により得られた蛍光強度を用いて前記測定対象成分の濃度を算出する演算装置と、
校正時に前記光照射部及び前記光検出部の間の光の経路に設けられ、前記光照射部の光により蛍光を発する固体の蛍光基準部材とを備え、
前記蛍光基準部材は、前記センサヘッドに着脱可能に取り付けられるものである、水質分析システム。
【請求項2】
前記蛍光基準部材は、蛍光ガラスである、請求項1記載の水質分析システム。
【請求項3】
前記液体試料は、船舶から排出されるスクラバ排水であり、
前記光照射部は、前記スクラバ排水に含まれるフェナントレンの励起波長を有する光を照射するものであり、
前記光検出部は、前記フェナントレンの蛍光を検出するものであり、
前記演算装置は、前記光検出部により得られた蛍光強度を用いて前記スクラバ排水に含まれるフェナントレン相当PAH濃度を算出するものである、請求項1乃至2の何れか一項に記載の水質分析システム。
【請求項4】
前記測定対象成分の濃度が既知の基準液を用いて得られた蛍光強度と前記蛍光基準部材を用いて得られた蛍光強度との関係を示す校正用の関係データを格納する格納部をさらに備え、
前記演算装置は、校正時において前記光検出部により得られた前記蛍光基準部材の蛍光強度と前記関係データとを用いて校正する、請求項1乃至3の何れか一項に記載の水質分析システム。
【請求項5】
前記光照射部及び前記光検出部に対する前記蛍光基準部材の傾斜角度を変更する角度変更機構をさらに備える、請求項1乃至4の何れか一項に記載の水質分析システム。
【請求項6】
前記角度変更機構は、前記蛍光基準部材の傾斜角度を段階的又は連続的に変更するものである、請求項5記載の水質分析システム。
【請求項7】
前記角度変更機構は、前記蛍光基準部材を保持する基準部材保持体と、校正時に前記光照射部及び前記光検出部に対して固定されるとともに、前記基準部材保持体を回転可能に支持するアダプタ本体とを備える、請求項5又は6記載の水質分析システム。
【請求項8】
液体試料に含まれる測定対象成分を蛍光分光法により分析する水質分析システムに用いられるセンサモジュールであって、
前記液体試料に対して前記測定対象成分の励起波長を有する光を照射する光照射部と、
前記液体試料から出る前記測定対象成分の蛍光を検出する光検出部と、
前記光照射部及び前記光検出部を収容し、前記液体試料中に浸漬されるセンサヘッドと、
校正時に前記センサヘッドに着脱可能に取り付けられ、前記光照射部の光により蛍光を発する蛍光基準部材とを備える、水質分析システムのセンサモジュール。
【請求項9】
液体試料に含まれる測定対象成分を蛍光分光法により分析するものであって、前記液体試料に対して前記測定対象成分の励起波長を有する光を照射する光照射部と、前記液体試料から出る前記測定対象成分の蛍光を検出する光検出部と、前記光照射部及び前記光検出部を収容し、前記液体試料中に浸漬されるセンサヘッドとを備える水質分析システムの校正に用いられる校正用機器であって、
前記光照射部の光により蛍光を発する固体の蛍光基準部材と、
前記センサヘッドに着脱可能に取り付けられるものであり、前記蛍光基準部材を保持するとともに、校正時に前記光照射部及び前記光検出部の間の光の経路に前記蛍光基準部材を設ける校正用治具とを備える校正用機器。
【請求項10】
液体試料に含まれる測定対象成分を蛍光分光法により分析する水質分析システムの校正方法であって、
前記水質分析システムは、前記液体試料に対して前記測定対象成分の励起波長を有する光を照射する光照射部と、前記液体試料から出る前記測定対象成分の蛍光を検出する光検出部と、前記光照射部及び前記光検出部を収容し、前記液体試料中に浸漬されるセンサヘッドと、前記光検出部により得られた蛍光強度を用いて前記測定対象成分の濃度を算出する演算装置とを備えており、
校正時に、前記光照射部及び前記光検出部の間の光の経路に、前記光照射部の光により蛍光を発する蛍光基準部材を前記センサヘッドに取り付けて校正を行う、水質分析システムの校正方法。
【請求項11】
前記水質分析システムの基準となる基準システムにより得られた、前記測定対象成分の濃度が既知の基準液の蛍光強度と、前記水質分析システムにより得られた前記蛍光基準部材の蛍光強度との関係を示す校正用関係データを生成する校正用関係データ生成ステップをさらに備え、
校正時に、前記光照射部及び前記光検出部の間の光の経路に前記蛍光基準部材を設けて、前記光検出部により得られた蛍光強度と、前記校正用関係データ生成ステップで得られた校正用関係データとを用いて校正を行う、請求項10記載の水質分析システムの校正方法。
【請求項12】
前記校正用関係データ生成ステップは、
前記基準システムにより得られた前記基準液の蛍光強度と前記基準システムにより得られた前記蛍光基準部材の蛍光強度との関係を示す第1関係データを生成する第1関係データ生成ステップと、
前記基準システムにより得られた前記蛍光基準部材の蛍光強度と前記水質分析システムにより得られた前記蛍光基準部材の蛍光強度との関係を示す第2関係データを生成する第2関係データ生成ステップとを備え、
前記第1関係データ生成ステップで得られた第1関係データと前記第2関係データ生成ステップで得られた第2関係データとを用いて、前記校正用関係データを生成するものである、請求項11記載の水質分析システムの校正方法。
【請求項13】
前記基準システムの光検出部は、認定された校正機関により校正されたものである、請求項11又は12記載の水質分析システムの校正方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体試料に含まれる測定対象成分から生じる蛍光を検出し、測定対象成分の濃度等を測定する水質分析システム、水質分析システムに用いるセンサモジュール、及び、水質分析システムの校正方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
船舶の内燃機関から排出される排ガスに含まれる硫黄酸化物(SO)を除去するために、排気ガス浄化システム(Exhaust Gas Cleaning System、EGCS)が用いられている。このEGCSは、排ガス脱硫を行うSOスクラバを有しており、SOスクラバからは多環芳香族炭化水素(polycyclic aromatic hydrocarbons、PAHs)を含むスクラバ排水が排出される。このPAHsのうち、国際海事機関(IMO)において定められたEGCSガイドラインによってフェナントレン(phenanthrene)がモニタリングの基準とされている。
【0003】
スクラバ排水中のフェナントレンの濃度を測定する装置としては、蛍光分光法を用いたPAH計が用いられている。このPAH計により得られたフェナントレン濃度がフェナントレン相当PAH濃度とされ、所定の許容濃度値以下となるようにしなければならないことから、PAH計の校正又は感度チェックを所定のタイミングで行う必要がある。
【0004】
従来、蛍光分光法を用いたPAH計の校正方法又は感度チェック方法としては、フェナントレンを所定の濃度に調整した基準液を用いて行われている。
【0005】
しかしながら、フェナントレンは溶媒(試薬用純水)に溶けにくく、基準液を再現良く作成することが難しい。また、フェナントレンは毒性があり、容易に現場で使用することができない。さらに、フェナントレンは有機系蛍光物質であり光によって退色することから、使用時間が限られてしまい、長期の連続測定ができない。その他、試薬用純水が船上では入手が困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2015-137983号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明は上記の問題点を解決すべくなされたものであり、フェナントレンなどの有機系蛍光物質を用いること無く、水質分析システムの校正を行うことをその主たる課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明に係る水質分析システムは、液体試料に含まれる測定対象成分を蛍光分光法により分析する水質分析システムであって、前記液体試料に対して前記測定対象成分の励起波長を有する光を照射する光照射部と、前記液体試料から出る前記測定対象成分の蛍光を検出する光検出部と、前記光検出部により得られた蛍光強度を用いて前記測定対象成分の濃度を算出する演算装置と、校正時に前記光照射部及び前記光検出部の間の光の経路に設けられ、前記光照射部の光により蛍光を発する固体の蛍光基準部材とを備えることを特徴とする。
【0009】
この水質分析システムであれば、校正時に固体の蛍光基準部材を光照射部及び光検出部の間の光の経路に設けることにより、従来の基準液を用いること無く、水質分析システムの校正を行うことができる。つまり、フェナントレンなどの有機系蛍光物質を用いることにより生じる種々の問題を解決することができる。固体である蛍光基準部材は、有機系蛍光材料に比べて、退色せず、毒性が無く、均一性が高い上に、耐熱性が高いので、校正における作業性及び利便性を向上させることができる。また、蛍光基準部材の保管方法も簡単になるし、蛍光基準部材の寿命も意識しなくてもよい。さらに、蛍光基準部材を用いた点検を簡単かつ迅速に行うことができる。
【0010】
前記蛍光基準部材としては、固体のものであれば特に限定されず、例えば、ガラス中に希土類イオンをドープして構成された蛍光ガラス、セラミックス蛍光体をアクリルなどの有機高分子材料中にドープした蛍光樹脂体、又は、セラミックス蛍光体粉末をガラス部材や有機高分子材料部材に塗布したもの等が考えられる。この中でも、透明性が高く、且つ、光学的均質度が高い蛍光ガラスを用いることが望ましい。また、固体の蛍光基準部材は、ゲル状のものであっても良い。
【0011】
水質分析システムの具体的な実施の態様としては、前記光照射部及び前記光検出部を収容し、前記液体試料中に浸漬されるセンサヘッドをさらに備えることが考えられる。この構成において、蛍光基準部材を用いた校正の作業性を向上させるためには、前記蛍光基準部材は、前記センサヘッドに着脱可能に取り付けられるものであることが望ましい。
【0012】
本発明の水質分析システムにより分析される液体試料としては、船舶から排出されるスクラバ排水を挙げることができる。この場合、前記光照射部は、前記スクラバ排水に含まれるフェナントレンの励起波長を有する光を照射するものであり、前記光検出部は、前記フェナントレンの蛍光を検出するものであり、前記演算装置は、前記光検出部により得られた蛍光強度を用いて前記スクラバ排水に含まれるフェナントレン相当PAH濃度を算出するものであることが望ましい。
【0013】
蛍光基準部材は、測定対象成分の濃度が既知の基準液のように最初から規定された基準値を持っていない。そのため、蛍光基準部材に対して、測定対象成分の濃度が既知の基準液を用いて値付けする必要がある。
このため、本発明の水質分析システムは、前記測定対象成分の濃度が既知の基準液を用いて得られた蛍光強度と前記蛍光基準部材を用いて得られた蛍光強度との関係を示す校正用の関係データを格納する格納部をさらに備え、前記演算装置は、校正時において前記光検出部により得られた前記蛍光基準部材の蛍光強度と前記関係データとを用いて校正することが望ましい。
【0014】
本発明のように蛍光基準部材を用いる場合には、蛍光基準部材の蛍光量のばらつきを抑えつつ、光検出部に入射する蛍光量を所定の範囲に入れるために、種々の減衰率のNDフィルタを用意して、適切な減衰率のNDフィルタを選択して使用する必要がある。しかしながら、適切な減衰率のNDフィルタを選択する必要があり、作業が煩雑となってしまう。このため、前記光照射部及び前記光検出部に対する前記蛍光基準部材の傾斜角度を変更する角度変更機構をさらに備えることが望ましい。これは、蛍光ガラス等の蛍光基準部材では、入射する励起光の角度が変化することで励起蛍光量が変化することを応用したものである。蛍光基準部材の傾斜角度を変更することによって、光検出部に検出される蛍光量を連続的に変化させることができる。その結果、種々の減衰率のNDフィルタを用意すること無く、角度を変更するだけで、光検出部に入射する蛍光量を所定の範囲に入れることができる。
【0015】
蛍光基準部材を所定の角度に調整しやすくするためには、前記角度変更機構は、前記蛍光基準部材の傾斜角度を段階的に変更するものであることが望ましい。また、蛍光基準部材の傾斜角度を自由に設定できるようにするためには、前記角度変更機構は、前記蛍光基準部材の傾斜角度を連続的に変更するものであることが望ましい。
【0016】
前記角度変更機構の具体的な実施の態様としては、前記角度変更機構は、前記蛍光基準部材を保持する基準部材保持体と、校正時に前記光照射部及び前記光検出部に対して固定されるとともに、前記基準部材保持体を回転可能に支持するアダプタ本体とを備えることが考えられる。
【0017】
また、本発明に係る校正用機器は、液体試料に含まれる測定対象成分を蛍光分光法により分析するものであって、前記液体試料に対して前記測定対象成分の励起波長を有する光を照射する光照射部と、前記液体試料から出る前記測定対象成分の蛍光を検出する光検出部とを備える水質分析システムの校正に用いられる校正用機器であって、前記光照射部の光により蛍光を発する固体の蛍光基準部材と、前記蛍光基準部材を保持するとともに、校正時に前記光照射部及び前記光検出部の間の光の経路に前記蛍光基準部材を設ける校正用治具とを備えることを特徴とする。
【0018】
また、液体試料に含まれる測定対象成分を蛍光分光法により分析する水質分析システムに用いられるセンサモジュールも本発明の一態様である。つまり、本発明に係るセンサモジュールは、前記液体試料に対して前記測定対象成分の励起波長を有する光を照射する光照射部と、前記液体試料から出る前記測定対象成分の蛍光を検出する光検出部と、前記光照射部及び前記光検出器を収容し、前記液体試料中に浸漬されるセンサヘッドと、校正時に前記センサヘッドに取り付けられ、前記光照射部の光により蛍光を発する蛍光基準部材とを備えることを特徴とする。
【0019】
さらに、本発明に係る水質分析システムの校正方法は、液体試料に含まれる測定対象成分を蛍光分光法により分析する水質分析システムの校正方法であって、前記水質分析システムは、前記液体試料に対して前記測定対象成分の励起波長を有する光を照射する光照射部と、前記液体試料から出る前記測定対象成分の蛍光を検出する光検出部と、前記光検出部により得られた蛍光強度を用いて前記測定対象成分の濃度を算出する演算装置とを備えており、校正時に、前記光照射部及び前記光検出部の間の光の経路に、前記光照射部の光により蛍光を発する蛍光基準部材を設けて校正を行うことを特徴とする。
【0020】
具体的な校正方法としては、前記水質分析システムの基準となる基準システムにより得られた、前記測定対象成分の濃度が既知の基準液の蛍光強度と、前記水質分析システムにより得られた前記蛍光基準部材の蛍光強度との関係を示す校正用関係データを生成する校正用関係データ生成ステップをさらに備え、校正時に、前記光照射部及び前記光検出部の間の光の経路に前記蛍光基準部材を設けて、前記光検出部により得られた蛍光強度と、前記校正用関係データ生成ステップで得られた校正用関係データとを用いて校正を行うことが考えられる。
【0021】
前記校正用関係データ生成ステップとしては、前記基準システムにより得られた前記基準液の蛍光強度と前記基準システムにより得られた前記蛍光基準部材の蛍光強度との関係を示す第1関係データを生成する第1関係データ生成ステップと、前記基準システムにより得られた前記蛍光基準部材の蛍光強度と前記水質分析システムにより得られた前記蛍光基準部材の蛍光強度との関係を示す第2関係データを生成する第2関係データ生成ステップとを備え、前記第1関係データ生成ステップで得られた第1関係データと前記第2関係データ生成ステップで得られた第2関係データとを用いて、前記校正用関係データを生成するものであることが考えられる。
【0022】
校正のトレーサビリティを確保するためには、前記基準システムの光検出部は、認定された校正機関により校正されたものであることが望ましい。
【発明の効果】
【0023】
以上に述べた本発明によれば、フェナントレンなどの有機系蛍光物質を用いること無く、水質分析システムの校正を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明の一実施形態に係る水質分析システムの全体模式図である。
図2】同実施形態のセンサヘッドの先端部及び蛍光ガラスアダプタを示す模式図である。
図3】校正方法の一例を示す模式図である。
図4】校正用関係データ生成ステップを説明するための図である。
図5】変形実施形態の角度変更機構を有するアダプタを示す断面図である。
図6】角度変更機構により傾斜角度を変更させた場合のセンサの指示値を示すグラフである。
【符号の説明】
【0025】
100・・・水質分析システム
2 ・・・光照射部
3 ・・・光検出部
4 ・・・演算装置
401・・・濃度算出部
402・・・格納部
403・・・校正部
5 ・・・蛍光ガラス(蛍光基準部材)
6 ・・・センサヘッド
7 ・・・信号ケーブル
8 ・・・アダプタ
9 ・・・NDフィルタ
10 ・・・ビームスプリッタ
11 ・・・光学窓
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の一実施形態に係る水質分析システムについて、図面を参照しながら説明する。
【0027】
<1.装置構成>
本実施形態の水質分析システム100は、液体試料に含まれる測定対象成分を測定する方法として蛍光分光法を用いたシステムにおいて、励起光で測定対象成分を励起し、その励起光による測定対象成分からの蛍光を検出し、測定対象成分の濃度等を測定するものである。ここでは、液体試料は、例えば船舶に搭載されたSOスクラバから排出されるスクラバ排水であり、測定対象成分は、スクラバ排水中のフェナントレン(phenanthrene)である。
【0028】
具体的に水質分析システム100は、図1に示すように、液体試料に対して測定対象成分の励起波長を有する光を照射する光照射部2と、液体試料から出る測定対象成分の蛍光を検出する光検出部3と、光検出部3により得られた蛍光強度を用いて測定対象成分の濃度を算出する演算装置4と、校正時に光照射部2及び光検出部3の間の光の経路に設けられ、光照射部2の光により蛍光を発する固体の蛍光基準部材5とを備えている。
【0029】
以下、各部について説明する。
光照射部2は、測定対象成分であるフェナントレンの励起波長(254nm)の励起光を照射するものであり、励起波長(254nm)を含む波長域の光を射出する紫外光源21と、当該紫外光源の光から励起波長(254nm)を透過する波長選択フィルタ22とを有している。この波長選択フィルタ22を用いることにより、励起波長のばらつきを低減することができるとともに、励起波長のハンド幅のばらつきも低減することができる。
【0030】
光検出部3は、フェナントレンの蛍光波長(360nm)の光を検出するものであり、光電子増倍管(PMT)等の光検出器31と、液体試料から出る光から蛍光波長(360nm)を透過する波長選択フィルタ32とを有している。この波長選択フィルタ32を用いることにより、蛍光波長のばらつきを低減することができるとともに、蛍光波長のバンド幅のばらつきも低減することができる。
【0031】
また、本実施形態の光検出部3は、光照射部2の光量をモニタリングするためのモニタリング用の光検出器33を有する。なお、この光検出器33は、例えばSiフォトダイオード又はGaN紫外線検出素子を用いたものである。
【0032】
そして、本実施形態の光照射部2及び光検出部3は、センサヘッド6内に収容されている。このセンサヘッド6は、その一部又は全部が液体試料に浸漬されるものであり、先端部に光照射部2及び光検出部3が収容されている。センサヘッド6において光照射部2及び光検出部3は、ビームスプリッタ10を用いた同軸照明とされており、センサヘッド6の先端面には、液体試料に照射される励起光及び液体試料からの蛍光を透過する光学窓11が設けられている。また、基端部には、演算装置4に対して光検出器31により得られた蛍光強度信号を送信する信号ケーブル7が接続されている。
【0033】
演算装置4は、光検出器31から送信される蛍光強度信号を取得して、スクラバ排水に含まれるフェナントレン相当PAH濃度を算出する濃度算出部401を有している。ここで、演算装置4の濃度算出部401は、光検出器31により得られた蛍光強度を光検出器33により得られた紫外線強度により補正して、フェナントレン相当PAH濃度を算出する。
【0034】
蛍光基準部材5は、ガラス中に希土類イオンをドープして構成された蛍光ガラスである。蛍光ガラスとしては、例えば青色発光ガラスであり、蛍光活性元素(希土類イオン)として2価ユウロピウムイオン(Eu2+)を含有したフツリン酸塩系ガラスである。この蛍光ガラスは、保存による劣化や紫外線による劣化が無く、使い回しができる。また蛍光ガラスは、高い耐熱性を有し、透明性が高く、光学的均質度が高く、毒性もない。
【0035】
ここで、蛍光基準部材5は、インナーフィルタ効果(IFE効果)による蛍光強度の低下を低減するために、ブロック状のものよりも板状のものを用いることが望ましい。なお、IFE効果とは、励起光及び蛍光が蛍光基準部材自体によって吸収されることである。
【0036】
この蛍光基準部材5は、センサヘッド6に着脱可能に取り付けられるものであり、校正用治具であるアダプタ8に保持されている。蛍光基準部材5及びアダプタ8により、水質分析システム100を校正するための校正用機器が構成される。そして、このアダプタ8をセンサヘッド6の先端部に装着することによって、図2に示すように、アダプタ8に保持された蛍光基準部材5が、光学窓11に対向配置され、光照射部2及び光検出部3の間の光の経路に設けられることになる。また、アダプタ8をセンサヘッド6に装着した状態で、水質分析システム100の校正が行われる。なお、アダプタ8には、NDフィルタ9を設けても良い。NDフィルタ9は、蛍光強度が強い場合に、照射強度を減衰させて、センサヘッド6の光学窓と蛍光基準部材5との距離を短く設定でき、アダプタ8を小型化することができる。
【0037】
そして、演算装置4は、蛍光基準部材5により水質分析システム100を校正するために、測定対象成分の濃度が既知の基準液を用いて得られた蛍光強度と蛍光基準部材5を用いて得られた蛍光強度との関係を示す校正用関係データを格納する格納部402と、校正時において光検出器31により得られた蛍光基準部材5の蛍光強度と関係データとを用いて、水質分析システム100を校正する校正部403とを有している。
【0038】
<2.水質分析システム100の校正方法>
次に、本実施形態の水質分析システム100の校正方法について説明する。
【0039】
まず、水質分析システム100の校正に用いられる校正用関係データの生成(校正用関係データ生成ステップ)について説明する。
【0040】
校正用関係データは、基準システム200により得られた測定対象成分の濃度が既知の基準液の蛍光強度と、水質分析システム100により得られた蛍光基準部材5の蛍光強度との関係を示すものである。
【0041】
ここで、基準システム200とは、校正対象となる水質分析システム100の基準となるものであり、認定された校正機関により校正された光検出器(基準検出器31X)を用いたものである。基準システム200の光学系は、水質分析システム100の光学系と同じであり、光源や波長選択フィルタ等の配置といった物理的な条件は同一である。また、基準検出器31Xは、その検出波長及び検出感度が認定された校正機関によって検証されたものである。なお、認定された校正機関としては、例えば、アメリカ国立標準技術研究所(NIST)、製品評価技術基盤機構認定制度(ASNITE)により認定された事業者、又は、計量法校正事業者登録制度(JCSS)により登録された事業者等である。
【0042】
校正用関係データ生成ステップは、以下の(a)(b)のステップを有する。
(a)基準システム200により得られた基準液(例えばフェナントレンの濃度350ppb)の蛍光強度(蛍光量Sa、図3(B))と基準システム200により得られた蛍光基準部材5の蛍光強度(蛍光量G、図3(A))との関係を示す第1関係データ(α=Sa/G、図4(A))を生成する(第1関係データ生成ステップ)。
(b)基準システム200により得られた蛍光基準部材5の蛍光強度(蛍光量G、図3(A))と水質分析システム100により得られた蛍光基準部材5の蛍光強度(蛍光量Mg、図3(C))との関係を示す第2関係データ(β=Mg/G、図4(B))を生成する(第2関係データ生成ステップ)。
【0043】
そして、第1関係データ生成ステップで得られた第1関係データ(α=Sa/G)と第2関係データ生成ステップで得られた第2関係データ(β=Mg/G)とを用いて、校正用関係データを生成する。
【0044】
具体的には、校正対象となる水質分析システム100を基準システムと等価にするためには、係数Kを用いて、α=β×K=(Mg/G)×Kの関係が成り立つ。この関係から、K=Sa/Mgとなる。この係数Kを蛍光基準部材5に値付けすることにより、水質分析システム100を校正することが可能となる。つまり、この係数Kが、蛍光基準部材5毎に求められる校正用関係データとなる。この校正用関係データは、演算装置4の格納部402に例えば製品出荷前に格納される。
【0045】
上記のように求められた校正用関係データを用いて水質分析システム100は、その指示値(フェナントレン相当PAH濃度)が定期的又は所定のタイミングでチェックされるとともに、定期的又は所定のタイミングで校正される。
【0046】
具体的には、センサヘッド6を液体試料が流れる配管や貯留槽から取り上げて、センサヘッド6の先端部にアダプタ8を装着する。この状態で、光照射部2から励起光が照射された蛍光基準部材5から出る蛍光を光検出器31により検出する。演算装置4の校正部403は、光検出器31により得られた蛍光強度と、格納部402に格納された校正用関係データとを用いて水質分析システム100を校正する。
【0047】
<3.本実施形態の効果>
このように構成した本実施形態の水質分析システム100によれば、水質分析システム100を校正する際に、固体の蛍光基準部材5を光照射部2及び光検出部3の間の光の経路に設けることにより、従来の基準液を用いること無く校正を行うことができる。つまり、フェナントレンなどの有機系蛍光物質を用いることにより生じる種々の問題を解決することができる。固体である蛍光基準部材5は、有機系蛍光材料に比べて、退色せず、毒性が無く、均一性が高い上に、耐熱性が高いので、校正における作業性及び利便性を向上させることができる。また、蛍光基準部材5の保管方法も簡単になるし、蛍光基準部材5の寿命も意識しなくてもよい。さらに、蛍光基準部材5を用いた点検を簡単かつ迅速に行うことができる。
【0048】
特に水質分析システム100を用いて船上でフェナントレン相当PAH濃度を管理する場合に、本実施形態における作業性及び利便性向上の効果が顕著となる。また、本実施形態の水質分析システム100では、トレーサビリティを確立することができ、フェナントレン相当PAH濃度の信頼性が向上し、ポートステートコントロール(Port State Control、PSC)での提出データの信頼性を向上させることができる。
【0049】
<4.その他の変形実施形態>
なお、本発明は前記実施形態に限られるものではない。
【0050】
例えば、前記実施形態の蛍光基準部材5は蛍光ガラスであったが、セラミックス蛍光体をアクリルなどの有機高分子材料中にドープした蛍光樹脂体であっても良いし、セラミックス蛍光体粉末をガラス部材や有機高分子材料部材に塗布したものであっても良い。また、蛍光基準部材5は、セラミックス蛍光体が添加されたゲル状のものであっても良い。
【0051】
また、前記実施形態の光照射部2及び光検出部3の光学系は、ビームスプリッタを用いた同軸照明であったが、光照射部2の光軸と光検出部3の光軸とが互いに交わるように配置されたものであっても良いし、光照射部2及び光検出部3が互いに対向して配置されたものであっても良い。
【0052】
さらに、前記実施形態では、単一の励起波長の光を照射して単一の蛍光波長の光を検出するものであったが、単一の励起波長を照射して複数の蛍光波長の光を検出するシステムであってもよい。この場合、蛍光基準部材5は、前記複数の蛍光波長を含む蛍光スペクトルを有するものであっても良いし、水質分析システム100が、各蛍光波長に対応した複数の蛍光基準部材5を備えるものであってもよい。また、光検出部3側に、各蛍光波長の光を選択できる機構を設けても良い。
【0053】
前記実施形態では、蛍光基準部材5はアダプタ8に保持されたものであったが、アダプタ8に保持されることなく、蛍光基準部材5単体で水質分析システム100に取り付けられるように構成してもよい。
【0054】
さらに、前記実施形態の構成において、光照射部2及び光検出部3に対する蛍光基準部材5の傾斜角度を変更するように構成しても良い。具体的には、校正用治具であるアダプタ8が、光照射部2及び光検出部3に対する蛍光基準部材5の傾斜角度を変更する角度変更機構12を備えることが考えられる。この角度変更機構12は、蛍光基準部材5の傾斜角度を段階的又は連続的に変更できるように構成されている。
【0055】
具体的に角度変更機構12は、図5に示すように、蛍光基準部材5を保持する基準部材保持体121と、校正時に光照射部2及び光検出部3に対して固定されるとともに、基準部材保持体121を回転可能に支持するアダプタ本体122とを備える。基準部材保持体121は、円柱形状をなすものであり、その側壁には、蛍光基準部材5を収容して取り付けるための取り付け凹部121aが形成されている。また、アダプタ本体122には、円柱形状の基準部材保持体121を回転可能に収容する収容孔部122aが形成されている。このアダプタ本体122には、NDフィルタ9が固定されており、当該NDフィルタ9の下部には、収容孔部122aに連通する連通部122bが形成されている。なお、基準部材保持体121は、アダプタ本体122に収容された状態で、その端面に形成された回転用係止部121b(例えばマイナスドライバ溝)を用いて回転させることができ、これにより、光照射部2及び光検出部3に対する蛍光基準部材5の傾斜角度が変更される。
【0056】
上記の角度変更機構12により、光検出部により検出される蛍光量を少なくとも2点で変更することができる。例えば、測定レンジが小さい場合(例えば0~500ppb)には、基準部材保持体121の傾斜角度を大きくして蛍光量を小さくし、測定レンジが大きい場合(例えば0~5000ppb)には、基準部材保持体121の傾斜角度を小さくして蛍光量を大きくして、校正することが考えられる。このように異なる測定レンジの水質分析システムそれぞれに対応して傾斜角度を変更することが考えられる。その他、校正後において、上記の角度変更機構12により、基準部材保持体121の傾斜角度を変化させ、その際の測定値を見て、水質分析システム100の測定値の直線性を検査することもできる。なお、図6に角度変更機構12により傾斜角度を変化させた場合の指示値を示している。
【0057】
さらに、蛍光基準部材5(蛍光ガラス)の下面に反射板を入れるようにしても良い。また、蛍光基準部材5(蛍光ガラス)の下面に入れる反射板の形状(面積)を変更可能に構成しても良い。
【0058】
その上、上記の角度変更機構12を有する校正用治具(アダプタ8)は、光照射部2及び光検出部3を有するセンサを検査するチェッカーとして用いることもできる。具体的には、上記の角度変更機構12により、基準部材保持体121の傾斜角度を変化させ、これにより、センサの指示値が対応して変化するか否かにより、センサを検査することができる。
【0059】
前記実施形態では、スクラバ排水中のPAH濃度を測定するものであったが、その他の液体試料に含まれる例えば溶存有機物(DOM)等の測定対象成分の濃度を測定するものであってもよい。
【0060】
前記実施形態の水質分析システム100は浸漬型のものであったが、例えば液体試料をセルに収容して測定する例えばバッチセル型又はフローセル型のものであってもよい。
【0061】
その他、本発明の趣旨に反しない限りにおいて様々な実施形態の変形や組み合わせを行っても構わない。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明によれば、本発明は、フェナントレンなどの有機系蛍光物質を用いること無く水質分析システムの校正を行うことができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6