(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-16
(45)【発行日】2024-05-24
(54)【発明の名称】抗FcRn抗体を用いたグレーブス眼症の治療方法
(51)【国際特許分類】
A61K 39/395 20060101AFI20240517BHJP
A61P 27/02 20060101ALI20240517BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20240517BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240517BHJP
【FI】
A61K39/395 N ZNA
A61P27/02
A61K45/00
A61P43/00 121
(21)【出願番号】P 2021525052
(86)(22)【出願日】2019-11-05
(86)【国際出願番号】 US2019059894
(87)【国際公開番号】W WO2020097099
(87)【国際公開日】2020-05-14
【審査請求日】2022-10-21
(32)【優先日】2018-11-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】521194264
【氏名又は名称】イミュノバント・サイエンシズ・ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】リーガン・フォン
(72)【発明者】
【氏名】メリッサ・ポラセック
(72)【発明者】
【氏名】クリスティーン・コケリー
【審査官】池上 文緒
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-522043(JP,A)
【文献】特表2015-525204(JP,A)
【文献】特表2018-516555(JP,A)
【文献】Sci. Transl. Med.,2017年,vol.9, issue 414,eaan1208, p.1-12
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 39/395
A61P 27/02
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
治療的有効量の抗FcRn抗体またはその抗原結合断片、および少なくとも1つの薬学的に許容可能な担体を含む、
甲状腺眼疾患の治療または予防用
薬学的組成物
であって、前記抗体または抗原結合断片は、SEQ ID No:27のアミノ酸配列(HCDR1)、SEQ ID No:28のアミノ酸配列(HCDR2)およびSEQ ID No:29のアミノ酸配列(HCDR3)を含む重鎖可変領域;並びにSEQ ID No:30のアミノ酸配列(LCDR1)、SEQ ID No:31のアミノ酸配列(LCDR2)およびSEQ ID No:32のアミノ酸配列(LCDR3)を含む軽鎖可変領域を含む、薬学的組成物。
【請求項2】
前記抗体または抗原結合断片は、(i)SEQ ID No:6のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域;およびSEQ ID No:16のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域;または(ii)SEQ ID No:6と少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列を含む重鎖可変領域;およびSEQ ID No:16と少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を含む、請求項
1に記載の薬学的組成物。
【請求項3】
前記抗体または抗原結合断片は、pH6.0または7.4で0.01~2nMのK
D
(解離定数)でFcRnに結合する、請求項1または2に記載の薬学的組成物。
【請求項4】
前記薬学
的組成物は、皮下で投与される、請求項1~3のいずれか一項に記載の薬学的組成物。
【請求項5】
前記薬学的組成物は、固定用量(dose)で投与される、請求項1~4のいずれか一項に記載の薬学的組成物。
【請求項6】
前記薬学的組成物は、週1回または2週に1回(隔週)投与される、請求項1~5のいずれか一項に記載の薬学的組成物。
【請求項7】
前記抗体または抗原結合断片の治療的有効量は、
(a)週1回投与される約200~300mg、300~400mg、約400~500mgまたは約500~600mg;
(b)週1回投与される約340mg;
(c)週1回投与される約550~650mg、約650~750mgまたは約750~850mg;および/または
(d)週1回投与される約680mgである、請求項1~6のいずれか一項に記載の薬学的組成物。
【請求項8】
前記抗体または抗原結合断片の治療的有効量は、約680mgの少なくとも1回用量(dose)、引き続いて約340mgの少なくとも1回用量である、請求項1~6のいずれか一項に記載の薬学的組成物。
【請求項9】
約680mgの少なくとも1回用量が皮下でまたは静脈内に投与され/投与されるか、約340mgの少なくとも1回用量が皮下で投与される、請求項8に記載の薬学的組成物。
【請求項10】
約680mgの少なくとも1回用量が約3回用量であり/約3回用量であるか、約340mgの少なくとも1回用量が約3回用量である、請求項8または9に記載の薬学的組成物。
【請求項11】
前記薬学的組成物は、少なくとも1つの追加治療剤とともに併用で投与される、請求項1~10のいずれか一項に記載の薬学的組成物。
【請求項12】
(a)治療は、患者および/または患者のサンプルで少なくとも1つのIgGのレベルを減少させ、選択的にここで少なくとも1つのIgGは、抗TSHR IgGおよび/または抗IGF-1R IgGを含み、
(b)治療は、患者および/または患者のサンプルで
抗TSHR IgGおよび/または抗IGF-1R IgGのレベルを少なくとも約30%、約40%、約50%、約60%、約70%または約80%減少させ、
(c)治療は、患者および/または患者のサンプルで総血清IgGのレベルを減少させ/減少させるか、
(d)治療は、患者および/または患者のサンプルで総血清IgGのレベルを少なくとも約40%、約50%、約60%、約70%または約80%減少させる、請求項1~11のいずれか一項に記載の薬学的組成物。
【請求項13】
抗FcRn抗体またはその抗原結合断片およ
び前記抗体または抗原結合断片を使用するための説明書を含む
、これを必要とする患者における甲状腺眼疾患の治療または予防に使用するためのキット
であって、前記抗体または抗原結合断片は、SEQ ID No:27のアミノ酸配列(HCDR1)、SEQ ID No:28のアミノ酸配列(HCDR2)およびSEQ ID No:29のアミノ酸配列(HCDR3)を含む重鎖可変領域;並びにSEQ ID No:30のアミノ酸配列(LCDR1)、SEQ ID No:31のアミノ酸配列(LCDR2)およびSEQ ID No:32のアミノ酸配列(LCDR3)を含む軽鎖可変領域を含む、キット。
【請求項14】
前記抗体または抗原結合断片は、(i)SEQ ID No:6のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域;およびSEQ ID No:16のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を含むか;または(ii)SEQ ID No:6と少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列を含む重鎖可変領域;およびSEQ ID No:16と少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を含む、請求項
13に記載のキット。
【請求項15】
前記抗体または抗原結合断片は、pH6.0または7.4で0.01~2nMのK
D
(解離定数)でFcRnに結合する、請求項13に記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示物は、2018年11月6日付けで出願された米国仮出願第62/756,472号の優先権の利益を請求し、その全文が本願に参照として含まれる。
【0002】
本出願は、ASCIIフォーマットで電子的に提出された配列目録を含み、その全文がここに参照として含まれる。2019年10月30日付けで生成された前記ASCIIの写しは15193_0002-00304_SL.txtと命名され、大きさは34,216バイトである。
【0003】
本開示物は、新生児Fc受容体(FcRn)に結合してグレーブス眼症を予防、調節または治療するための単離抗FcRn抗体またはその抗原結合断片を含む治療方法、用途および組成物に関する。特定の様態において、本開示物は、抗FcRn抗体またはその抗原結合断片をこれを必要とする患者に投与してグレーブス眼症を治療または予防する方法を提供する。特定の様態において、本開示物は、抗FcRn抗体またはその抗原結合断片および少なくとも1つの薬学的に許容可能な担体を含むグレーブス眼症の治療または予防用薬学的組成物を提供する。
【背景技術】
【0004】
抗体は、特定の抗原と結合する免疫学的タンパク質である。ヒトおよびマウスを含んで大多数の動物において、抗体は、ペアを成す重鎖および軽鎖ポリペプチドで構成され、各鎖は、可変および不変領域と称される2個の異なる領域で構成される。重鎖および軽鎖可変領域は、抗体間に有意な配列多様性を示し、標的抗原に対する結合を担当する。不変領域は、配列多様性が少なく、多くの天然タンパク質と結合して重要な生化学的事象を誘導する。
【0005】
正常条件下で、多くのIgG(すなわち、IgG3アイソタイプを除いたIgG1、IgG2およびIgG4)の平均血清半減期は、ヒトで約21日であり(Morell et al.,J.Clin.Invest.49(4):673-80,1970)、これは、他の血しょうタンパク質の血清半減期に比べて延長された期間である。IgGのこのような延長された血清半減期と関連して、エンドサイトーシスにより細胞に入るIgGは、pH6.0でエンドソーム内新生児Fc受容体(FcRn)と強く結合して分解性リソソーム経路(Fcガンマ受容体の1類型であるFcRnは、FcRP、FcRBまたはブランベル受容体とも称される)を避けることができる。IgG-FcRn複合体が細胞膜に循環すると、IgGは、弱塩基性pH(~7.4)の血流でFcRnから迅速に分離される。この受容体媒介リサイクリングメカニズムによって、FcRnは、リソソームでの分解からIgGを効果的に救出して、IgGの半減期を延長させる(Roopenian et al.,J.Immunol.170:3528,2003)。
【0006】
FcRnは、新生児ラットの内蔵で確認され、母乳からIgGの吸収を媒介し、循環系にIgG輸送を促進する機能をする。FcRnは、また、ヒトの胎盤から分離され、それは、母体のIgGを胎児の循環系への吸収および輸送を媒介する。成人において、FcRnは、肺、腸、腎臓、そして鼻腔、 膣および胆道表面の上皮組織を含んで色々な組織で発現する。
【0007】
FcRnは、内皮および上皮細胞のエンドソームで典型的に存在する非共有ヘテロダイマーである。FcRnは、3個の重鎖アルファドメイン(α1、α2およびα3)および1個の可溶性軽鎖β2-マイクログロブリン(β2m)ドメインを有する膜結合受容体である。構造的に、それは、共通軽鎖であり、β2mを有する主組織適合性複合体クラス1分子のファミリーに属する。FcRn鎖は、分子量が約46kDaであり、α1、α2およびα3重鎖ドメインおよびβ2m軽鎖ドメインを含み、単糖鎖、1回膜貫通および相対的に短い細胞質尾を有する細胞外ドメインで構成される。
【0008】
IgG恒常性に対するFcRnの寄与を研究するために、マウスは、β2mおよびFcRn重鎖をエンコードする遺伝子の少なくとも一部分を「ノックアウト」させて、タンパク質が発現しないように操作された。これらのマウスで、IgGの血清半減期および濃度は、劇的に減少して、IgG恒常性のためのFcRn依存的メカニズムが提案される。また、抗ヒトFcRn抗体がこれらのFcRnノックアウトマウスで生成され得、その抗体は、FcRnに対するIgGの結合を妨害できることが提案された。FcRnに対するIgG結合の阻害は、IgGリサイクリングを阻止することによって、IgG血清半減期を否定的に変える。
【0009】
グレーブス眼症(甲状腺眼疾患、甲状腺関連眼窩疾患またはグレーブス眼窩疾患とも知られている)は、外眼筋が肥大化し、眼窩脂肪が増加する炎症性障害であり、ひどい場合、複視および/または視力喪失につながることがある(Bahn and Heufelder,N.Eng.J.Med.329:1468-75,1993)。疾患は、色々な段階を経る。発病時に、一番目の活動性/炎症段階は、典型的に眼瞼と結膜の浮腫および発赤、眼球突出、複視、およびひどい場合、角膜潰瘍および視力減少を含む兆候および症状の悪化を含む(Wiersinga、Lancet Diabetes Endocrinol.5:134-42,2017)。この一番目の段階は、一般的に炎症兆候および症状が次第に改善されて、結局、これ以上の変化が起こらないまで続く。最後の非活動性段階で、疾患は安定化されるが、機能および外観の両方に永久的な異常が残ることがある(Maheshwari and Weis,Indian J.Ophthalmol.60:87-90,2012)。
【0010】
グレーブス眼症の病因は、一般的に、甲状腺ホルモン受容体(thyroid hormone receptor、TSHR)に結合し刺激する循環自己抗体の存在に対する反応として眼窩を侵し、サイトカインを放出するTリンパ球(大部分CD4+)の活性化と関連がありえる。これらのサイトカインは、パラクリーン方式で作用し、眼窩組織で親水性グリコサミノグリカン(GAG)の生成増加による線維芽細胞の活性化を誘導すると考えられる。リンパ球の浸潤と共に、GAGの過度な分泌は、浸透圧の増加、有意な組織浮腫および臨床的眼症を招くとみられている(Menconi et al.,Autoimmun.Rev.13:398-402,2014;Marcocci and Marino,Best Pract.Res.Clin.Endocrinol.Metab.26:325-37,2012)。
【0011】
TSHRを狙った病原性自己抗体の他にも、それは、また、インスリン様成長因子受容体(insulin-like growth factor receptor、IGF-1R)の信号伝達を活性化できる自己抗体が、グレーブス眼症の病因に寄与することができると提案された(Pritchard et al.,J.Immunol.170:6348-54,2003)。IGF-1R信号伝達経路を調査した研究は、IGF-1RおよびTSHRが甲状腺および眼窩組織で機能性受容体複合体を形成し、その複合体を通じてIGF-1RがTSHR信号伝達を増加させることができるという仮設をさらに発展させた(Tsui et al.,J.Immunol.181:4397-405,2008)。IGF-1RおよびTSHR間の相互作用の正確な特性は完全に理解されていなかった。一部のデータは、TSHRおよびIGF-1Rの同時活性化とともに、ヒアルロナン分泌の相乗的活性化が起こり、TSHR刺激抗体の効果が単にIGF-1R拮抗剤により部分的に遮断されるが、TSHR拮抗剤により完全に遮断され得ることを提案する(Krieger et al.,J.Clin.Endocrinol.Metab.100:1071-7,2015)。しかも、これらのデータは、TSHRおよびIGF-IRの両方がグレーブス眼症の病因に重要な役割を担当できることを示す。しかし、その病因の理解に対する最近進歩にもかかわらず、グレーブス眼症は、治療的挑戦課題として残っている(Miguel et al.,Saudi J.Ophthalmol.32:139-45,2018)。したがって、FcRnに対する抗TSHRおよび/または抗IGF-1R自己抗体の結合を効果的に遮断または拮抗しうる薬剤は、グレーブス眼症に対する有望な治療法である。
【0012】
グレーブス眼症は、甲状腺刺激ホルモンの低い数値を伴った甲状腺機能昂進症を特徴とする自己免疫疾患であるグレーブス疾患とは異なる存在に分類された。グレーブス疾患の25~50%のみが臨床的にグレーブス眼症と関連がある。同様に、多くのグレーブス眼症患者が甲状腺機能昂進症と共にグレーブス疾患の病歴があるが、一部は、そのような病歴のない正常甲状腺機能であるか、橋本甲状腺炎による甲状腺機能低下症である(Stan et al.,Med.Clin.North Am.96:311-28,2012;Khoo et al.,Thyroid 10:1093-100,2000)。したがって、グレーブス眼症は、甲状腺機能昂進症の存在有無と関係なく発生しうる。疾患の重症度は、やはり、甲状腺機能と関連がない(Miguel et al.,Saudi J.Ophthalmol.32:139-45,2018)。したがって、グレーブス疾患および甲状腺を標的とするものに対する治療は、グレーブス眼症を必ず改善するものではないことを理解することができる。
【0013】
グレーブス眼症について現在使用中または調査中の治療法のうちいずれも疾患の進行過程を変形したり、外科リハビリテーションの必要性を減らすことは見られなかった。かえって、最近治療オプション、例えば(数ある中で)、グルココルチコイド、非ステロイド性免疫調節剤および眼窩放射線療法は、たびたび負担になる副作用があり、疾患の活動性/炎症段階中に単に制限された効能のみを示す。最もありふれた治療形態であるグルココルチコイドは、合併症および深刻な副作用、例えば肝毒性、心血管または脳血管疾患、自己免疫脳炎および肝機能検査異常と頻繁に関連する。同様に、シクロスポリン、アザチオプリンおよびミコフェノラートのような非特異的な非ステロイド性免疫調節剤は、全体的に免疫系を阻害するので、オフターゲット効果を有することができる。眼窩放射線療法の使用は、また、毒性に対する恐れおよび放射線誘発腫瘍の危険によって制限される。したがって、さらに高い効能とさらに低い毒性を有する新規かつ改善された治療オプションが要求され、特に永久的な変化の発生を防止するために、疾患の活動性/炎症段階中にさらに高い効能を示すオプションが必要である。
抗体をベースとした治療法は、現在治療オプションを改善し、代替するために提案された(Wiersinga、Lancet Diabetes Endocrinol.5:134-42,2017)。CD20に対するキメラ化単クローン抗体であるリツキシマブは、静脈内コルチコステロイドに対する可能な代替物として提案されたが、無作為化比較試験で単に制限された効能のみを示した(Stan et al.,J.Clin.Endocrinol.Metab.100:432-41,2015;Salvi et al.,J.Clin.Endocrinol.Metab.100:422-31,2015)。完全ヒト単クローン抗体であり、IGF-1Rの標的阻害剤であるテプロツムマブ(Teprotumumab)も、グレーブス眼症の治療剤として調査されており(NCT01868997;NCT03298867)、アメリカ食品医薬品局でブレークスルー・セラピー、オーファンドラッグおよびファストトラック指定を受けた。しかし、テプロツムマブは、ただIGF-1R信号伝達を標的化および阻止すると予想されるのに対し、IGF-1RおよびTSHRの両方は疾患病因に寄与するとみられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【文献】WO2016/180765A1
【文献】EP2850101A1
【文献】WO2015/167293A1
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0015】
本開示物は、FcRnに対するIgGの結合を非競合的に阻害する抗FcRn抗体またはその抗原結合断片の使用がグレーブス眼症を治療するための有望な治療戦略という予想せぬ発見に基づく。本開示物は、多様な具体例において、グレーブス眼症を効果的におよび根本的に治療するための抗体または抗原結合断片を含む医薬または薬学的組成物を提供する。また、多様な具体例において、本開示物は、患者に抗体または抗原結合断片を投与したり、または抗体または抗原結合断片を含む薬学的組成物を投与して、グレーブス眼症に苦しむ患者を治療する方法を提供する。
【0016】
多様な具体例において、本開示物は、(i)治療的有効量の抗FcRn抗体またはその抗原結合断片;または(ii)少なくとも1つの薬学的に許容可能な担体および治療的有効量の抗FcRn抗体またはその抗原結合断片を含む薬学的組成物を患者に投与することを含む、これを必要とする患者でグレーブス眼症を治療または予防する方法を提供する。
【0017】
多様な具体例において、本開示物は、これを必要とする患者でグレーブス眼症を治療または予防する方法に使用するための抗FcRn抗体またはその抗原結合断片を提供し、かつ、前記方法は、(i)治療的有効量の抗体または抗原結合断片、または(ii)少なくとも1つの薬学的に許容可能な担体および治療的有効量の抗体または抗原結合断片を含む薬学的組成物を患者に投与することを含む。
【0018】
多様な具体例において、本開示物は、(i)治療的有効量の抗体またはその抗原結合断片、または(ii)少なくとも1つの薬学的に許容可能な担体および治療的有効量の抗体または抗原結合断片を含む薬学的組成物を患者に投与することを含む、これを必要とする患者でグレーブス眼症を治療または予防する方法で抗FcRn抗体またはその抗原結合断片の用途を提供する。
【0019】
多様な具体例において、本開示物は、(i)治療的有効量の抗体またはその抗原結合断片、または(ii)少なくとも1つの薬学的に許容可能な担体および治療的有効量の抗体または抗原結合断片を含む薬学的組成物を患者に投与することを含む、これを必要とする患者でグレーブス眼症を治療または予防する医薬の製造で抗FcRn抗体またはその抗原結合断片の用途を提供する。
【0020】
多様な具体例において、本開示物は、抗FcRn抗体またはその抗原結合断片およびこれを必要とする患者でグレーブス眼症の治療または予防に抗体または抗原結合断片を使用するための説明書を含むキットを提供する。
【0021】
多様な具体例において、本開示物は、これを必要とする患者でグレーブス眼症の治療または予防に使用するための薬学的組成物を提供し、かつ、薬学的組成物は、抗FcRn抗体またはその抗原結合断片および少なくとも1つの薬学的に許容可能な担体を含む。
【0022】
本明細書で開示された治療方法、用途および組成物の多様な具体例において(例えば、グレーブス眼症の治療または予防のための)、抗体または抗原結合断片は、SEQ ID No:27のアミノ酸配列(HCDR1)、SEQ ID No:28のアミノ酸配列(HCDR2)およびSEQ ID No:29のアミノ酸配列(HCDR3)を含む重鎖可変領域;およびSEQ ID No:30のアミノ酸配列(LCDR1)、SEQ ID No:31のアミノ酸配列(LCDR2)およびSEQ ID No:32のアミノ酸配列(LCDR3)を含む軽鎖可変領域を含む。多様な具体例において、抗体または抗原結合断片は、SEQ ID No:6のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域およびSEQ ID No:16のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を含む。多様な具体例において、抗体または抗原結合断片は、SEQ ID No:6と少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列を含む重鎖可変領域;およびSEQ ID No:16と少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を含む。多様な具体例において、抗体または抗原結合断片は、SEQ ID No:46の重鎖アミノ酸配列;およびSEQ ID No:48の軽鎖アミノ酸配列を含む。本明細書で開示された治療方法、用途および組成物の多様な具体例において、抗体または抗原結合断片は、国際出願第PCT/KR2015/004424号(公開番号WO2015/167293A1号)に開示された抗体または抗原結合断片の1つであり、本明細書に参照として含まれる。
【0023】
本明細書で開示された治療方法、用途および組成物の多様な具体例において、抗体または抗原結合断片は、
SEQ ID Nos:21、24、27、30、33、36、39および42よりなる群から選ばれる1つ以上のアミノ酸配列を含むCDR1;
SEQ ID Nos:22、25、28、31、34、37、40および43よりなる群から選ばれる1つ以上のアミノ酸配列を含むCDR2;および
SEQ ID Nos:23、26、29、32、35、38、41および44よりなる群から選ばれる1つ以上のアミノ酸配列を含むCDR3を含む。
【0024】
本明細書で開示された治療方法、用途および組成物の多様な具体例において、抗体または抗原結合断片は、
SEQ ID Nos:21、24、27、30、33、36、39および42よりなる群から選ばれる1つ以上のアミノ酸配列と少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列を含むCDR1;
SEQ ID Nos:22、25、28、31、34、37、40および43よりなる群から選ばれる1つ以上のアミノ酸配列と少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列を含むCDR2;および
SEQ ID Nos:23、26、29、32、35、38、41および44よりなる群から選ばれる1つ以上のアミノ酸配列と少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列を含むCDR3を含む。
【0025】
多様な具体例において、抗体または抗原結合断片は、SEQ ID No:27のアミノ酸配列(HCDR1)、SEQ ID No:28のアミノ酸配列(HCDR2)およびSEQ ID No:29のアミノ酸配列(HCDR3)を含む重鎖可変領域;およびSEQ ID No:30のアミノ酸配列(LCDR1)、SEQ ID No:31のアミノ酸配列(LCDR2)およびSEQ ID No:32のアミノ酸配列(LCDR3)を含む軽鎖可変領域を含む。
【0026】
本明細書で開示された治療方法、用途および組成物の多様な具体例において、抗体または抗原結合断片は、1つ以上の重鎖可変領域および1つ以上の軽鎖可変領域を含み、かつ、重鎖可変領域および軽鎖可変領域は、SEQ ID Nos:2、4、6、8、10、12、14、16、18および20のアミノ酸配列よりなる群から選ばれる1つ以上のアミノ酸配列を含む。
【0027】
多様な具体例において、抗体または抗原結合断片は、SEQ ID No:6のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域;およびSEQ ID No:16のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を含む。
【0028】
本明細書で開示された治療方法、用途および組成物の多様な具体例において、抗体または抗原結合断片は、1つ以上の重鎖可変領域および1つ以上の軽鎖可変領域を含み、かつ、重鎖可変領域および軽鎖可変領域は、SEQ ID Nos:2、4、6、8、10、12、14、16、18および20のアミノ酸配列よりなる群から選ばれる1つ以上のアミノ酸配列と少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列を含む。多様な具体例において、重鎖可変領域および軽鎖可変領域は、SEQ ID Nos:2、4、6、8、10、12、14、16、18および20のアミノ酸配列よりなる群から選ばれる1つ以上のアミノ酸配列と少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%または少なくとも99%の同一性を有するアミノ酸配列を含む。
【0029】
多様な具体例において、抗体または抗原結合断片は、SEQ ID No:6と少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列を含む重鎖可変領域;およびSEQ ID No:16と少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を含む。
【0030】
多様な具体例において、抗体または抗原結合断片は、例えば、表面プラズモン共鳴(SPR)により測定されたように、pH6.0または7.4で約0.01~約2nMのKD(解離定数)でFcRnに結合する。多様な具体例において、KDは、表面プラズモン共鳴(例えば、ヒトFcRn固定化表面プラズモン共鳴)により測定される。多様な具体例において、KDは、ヒトFcRn固定化表面プラズモン共鳴によって測定される。
【0031】
多様な具体例において、抗体または抗原結合断片は、本明細書で開示されたり、または参照として含まれた抗体または抗原結合断片のうち任意の1つである。
【0032】
本明細書で開示された治療方法および用途の多様な具体例において、抗体、抗原結合断片または薬学的組成物は、皮下で投与される。多様な具体例において、抗体、抗原結合断片または薬学的組成物は、1回以上の皮下注射で投与される。多様な具体例において、抗体、抗原結合断片または薬学的組成物は、投与前に注射器に含まれる。多様な具体例において、抗体、抗原結合断片または薬学的組成物は、単回(すなわち1回)皮下注射で投与される。多様な具体例において、抗体、抗原結合断片または薬学的組成物は、2回連続皮下注射で投与される。多様な具体例において、抗体、抗原結合断片または薬学的組成物は、固定用量(fixed dose)で投与される。
【0033】
多様な具体例において、抗体、抗原結合断片または薬学的組成物は、週1回投与される。多様な具体例において、抗体、抗原結合断片または薬学的組成物は、6~76週間またはそれら間の任意の期間中に週1回投与される。多様な具体例において、抗体、抗原結合断片または薬学的組成物は、少なくとも6週、少なくとも12週、少なくとも24週、少なくとも26週、少なくとも52週、または少なくとも76週間週1回投与される。多様な具体例において、抗体、抗原結合断片または薬学的組成物は、少なくとも76週またはそれ以上の期間中に週1回投与される。多様な具体例において、抗体、抗原結合断片または薬学的組成物は、グレーブス眼症の全体活動性/炎症段階またはその一部の期間中に週1回投与される。多様な具体例において、グレーブス眼症の活動性/炎症段階は、一般的に患者で1つ以上の兆候および症状の悪化、例えば、眼瞼と結膜の浮腫および発赤、眼球突出、複視、角膜潰瘍および/または視力減少を含む。多様な具体例において、グレーブス眼症の活動性/炎症段階は、約2年~約3年の期間を有し、抗体、抗原結合断片または薬学的組成物は、全体段階またはその一部の期間中に週1回投与される。多様な具体例において、グレーブス眼症の活動性/炎症段階は、約2年未満(例えば、約1.5年以下、約1年以下等)であり、抗体、抗原結合断片または薬学的組成物は、全体段階またはその一部の期間中に週1回投与される。多様な具体例において、グレーブス眼症の活動性/炎症段階は、約3年を超過(例えば、約3.5年以上、約4年以上等)し、抗体、抗原結合断片または薬学的組成物は、全体段階またはその一部の期間中に週1回投与される。多様な具体例において、抗体、抗原結合断片または薬学的組成物は、グレーブス眼症の活動性/炎症段階の一部の期間中にのみ週1回投与される。多様な具体例において、抗体、抗原結合断片または薬学的組成物は、グレーブス眼症の1つ以上の症状を治療、予防、重症度減少、発病遅延、および/または発生危険減少に十分となるまで週1回患者に投与される。
【0034】
多様な具体例において、抗体、抗原結合断片または薬学的組成物は、2週に1回(隔週)投与される。多様な具体例において、抗体、抗原結合断片または薬学的組成物は、6~76時間またはその間の任意の時間中に2週に1回投与される。多様な具体例において、抗体、抗原結合断片または薬学的組成物は、少なくとも6週、少なくとも12週、少なくとも24週、少なくとも26週、少なくとも52週または少なくとも76週間2週に1回投与される。多様な具体例において、抗体、抗原結合断片または薬学的組成物は、少なくとも76週以上の間2週に1回投与される。多様な具体例において、抗体、抗原結合断片または薬学的組成物は、グレーブス眼症の全体活動性/炎症段階またはその一部の期間中に2週に1回投与される。多様な具体例において、グレーブス眼症の活動性/炎症段階は、約2年~約3年の期間を有し、抗体、抗原結合断片または薬学的組成物は、全体段階またはその一部の期間中に2週に1回投与される。多様な具体例において、グレーブス眼症の活動性/炎症段階は、約2年未満(例えば、約1.5年未満、約1年未満等)であり、抗体、抗原結合断片または薬学的組成物は、全体段階またはその一部の期間中に2週に1回投与される。多様な具体例において、グレーブス眼症の活動性/炎症段階は、約3年を超過(例えば、約3.5年以上、約4年以上等)し、抗体、抗原結合断片または薬学的組成物は、全体段階またはその一部の期間中に2週に1回投与される。多様な具体例において、抗体、抗原結合断片または薬学的組成物は、グレーブス眼症の活動性/炎症段階の一部の期間中にのみ2週に1回投与される。多様な具体例において、抗体、抗原結合断片または薬学的組成物は、グレーブス眼症の1つ以上の症状を治療、予防、重症度減少、発病遅延および/または発生危険減少に十分となるまで2週に1回患者に投与される。
【0035】
多様な具体例において、抗体、抗原結合断片または薬学的組成物は、患者により自己投与される。多様な具体例において、抗体、抗原結合断片または薬学的組成物は、家で患者により自己投与される。多様な具体例において、抗体、抗原結合断片または薬学的組成物は、治療臨床医により投与される。多様な具体例において、抗体、抗原結合断片または薬学的組成物は、例えば、単一薬剤で単独投与される。多様な具体例において、抗体、抗原結合断片または薬学的組成物は、少なくとも1つの追加治療剤とともに併用投与される。
【0036】
本明細書で開示された治療方法および用途の多様な具体例において、抗体または抗原結合断片の治療的有効量は、約200~300mg、約300~400mg、約400~500mgまたは約500~600mgである。多様な具体例において、抗体または抗原結合断片の治療的有効量は、週1回投与される約200~300mg、300~400mg、約400~500mgまたは約500~600mgである。多様な具体例において、抗体または抗原結合断片の治療的有効量は、週1回投与される約200~300mgである。多様な具体例において、抗体または抗原結合断片の治療的有効量は、週1回投与される約255mgである。多様な具体例において、抗体または抗原結合断片の治療的有効量は、週1回投与される約300~400mgである。多様な具体例において、抗体または抗原結合断片の治療的有効量は、週1回投与される約340mgである。
【0037】
本明細書で開示された治療方法および用途の多様な具体例において、抗体または抗原結合断片の治療的有効量は、約550~650mg、約650~750mgまたは約750~850mgである。多様な具体例において、抗体または抗原結合断片の治療的有効量は、週1回投与される約550~650mg、約650~750mgまたは約750~850mgである。多様な具体例において、抗体または抗原結合断片の治療的有効量は、週1回投与される約650~750mgである。多様な具体例において、抗体または抗原結合断片の治療的有効量は、週1回投与される約680mgである。
【0038】
多様な具体例において、抗体または抗原結合断片の治療的有効量は、約550~850mg(例えば、約680mg)の少なくとも1回用量(dose)、引き続いて約300~600mg(例えば、約340mg)の少なくとも1回用量である。多様な具体例において、約550~850mgの少なくとも1回用量は、皮下で投与される。多様な具体例において、約550~850mgの少なくとも1回用量は、2回連続皮下注射で投与される。多様な具体例において、約550~850mgの少なくとも1回用量は、静脈内に投与される。多様な具体例において、約550~850mgの少なくとも1回用量は、約1回用量、約2回用量、約3回用量、約4回用量または約5回用量である。多様な具体例において、約550~850mgの少なくとも1回用量は、約3回用量である。多様な具体例において、約300~600mgの少なくとも1回用量は、皮下で投与される。多様な具体例において、約300~600mgの少なくとも1回用量は、1回皮下注射で投与される。多様な具体例において、約300~600mgの少なくとも1回用量は、約1回用量、約2回用量、約3回用量、約4回用量または約5回用量である。多様な具体例において、約300~600mgの少なくとも1回用量は、約3回用量である。多様な具体例において、抗体または抗原結合断片の治療的有効量は、用量当たり約550~850mgの3回用量、引き続いて用量当たり約300~600mgの3回用量である。
【0039】
多様な具体例において、抗体または抗原結合断片の治療的有効量は、約680mgの少なくとも1回用量、引き続いて約340mgの少なくとも1回用量である。多様な具体例において、約680mgの少なくとも1回用量は、皮下で投与される。多様な具体例において、約680mgの少なくとも1回用量は、2回連続皮下注射で投与される。多様な具体例において、約680mgの少なくとも1回用量は、静脈内に投与される。多様な具体例において、約680mgの少なくとも1回用量は、約1回用量、約2回用量、約3回用量、約4回用量または約5回用量である。多様な具体例において、約680mgの少なくとも1回用量は、約3回用量である。多様な具体例において、約340mgの少なくとも1回用量は、皮下で投与される。多様な具体例において、約340mgの少なくとも1回用量は、1回皮下注射で投与される。多様な具体例において、約340mgの少なくとも1回用量は、約1回用量、約2回用量、約3回用量、約4回用量または約5回用量である。多様な具体例において、約340mgの少なくとも1回用量は、約3回用量である。多様な具体例において、抗体または抗原結合断片の治療的有効量は、用量当たり680mgの3回用量、引き続き用量当たり340mgの3回用量である。
【0040】
本明細書で開示された治療方法および用途の多様な具体例において、抗FcRn抗体または抗原結合断片を用いた治療は、患者および/または患者のサンプルで少なくとも1つの自己抗体および/または病原性抗体(例えば、少なくとも1つのIgG)のレベルを減少させる。多様な具体例において、少なくとも1つの自己抗体および/または病原性抗体(例えば、少なくとも1つのIgG)は、抗TSHR IgGおよび/または抗IGF-1R IgGを含む。多様な具体例において、治療は、患者および/または患者のサンプルで抗TSHR IgGのレベルを少なくとも約30%、約40%、約50%、約60%、約70%または約80%減少させる。多様な具体例において、治療は、患者および/または患者のサンプルで抗IGF-1R IgGのレベルを少なくとも約30%、約40%、約50%、約60%、約70%、または約80%減少させる。多様な具体例において、治療は、患者および/または患者のサンプルで総血清IgGのレベルを減少させる。多様な具体例において、治療は、患者および/または患者のサンプルで総血清IgGのレベルを少なくとも約40%、約50%、約60%、約70%または約80%減少させる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【
図1】
図1は、CHO-S細胞で抗体の発現を分析し、タンパク質A精製により収得されたHL161A、HL161B、HL161CおよびHL161D抗体タンパク質を還元または非還元条件下でSDS-PAGEゲル上で分析した結果を示す。非還元条件下で、それぞれのHL161抗体は、約160kDaの大きさを有する全体ヒトIgG1構造を有し、還元条件下で、重鎖は約55kDaの大きさを有し、軽鎖は約25kDaの大きさを有する。
図1で、レーン1は、分子量(M.W.)マーカーを示し、レーン2は、2μgの非還元された(*NEM-処理された)抗体およびレーン3は、2μgの還元された抗体を示す。
【
図2A】
図2A~
図2Hは、FcRnに結合する4種の抗体(HL161A、HL161B、HL161CおよびHL161D)の力学的解離(K
D)を測定するために表面プラズモン共鳴(SPR)を用いて行われた分析結果を示す。
図2A~
図2Hでの結果は、Proteon GLCチップおよびProteon XPR36(Bio-Rad)システムを用いてpH6.0およびpH7.4でヒトFcRnおよびHL161A、HL161B、HL161CまたはHL161D抗体間の相互作用を分析して得られた。
図2Aは、pH6.0でヒトFcRnおよびHL161A間の相互作用を分析した結果を示す。
【
図2B】
図2Bは、pH7.4でヒトFcRnおよびHL161A間の相互作用を分析した結果を示す。
【
図2C】
図2Cは、pH6.0でヒトFcRnおよびHL161B間の相互作用を分析した結果を示す。
【
図2D】
図2Dは、pH7.4でヒトFcRnおよびHL161B間の相互作用を分析した結果を示す。
【
図2E】
図2Eは、pH6.0でヒトFcRnおよびHL161C間の相互作用を分析した結果を示す。
【
図2F】
図2Fは、pH7.4でヒトFcRnおよびHL161C間の相互作用を分析した結果を示す。
【
図2G】
図2Gは、pH6.0でヒトFcRnおよびHL161D間の相互作用を分析した結果を示す。
【
図2H】
図2Hは、pH7.4でヒトFcRnおよびHL161D間の相互作用を分析した結果を示す。
【
図3】
図3は、細胞表面に結合する2種の選択された抗体の能力を示し、細胞表面に提示されたヒトFcRnに結合する選択されたHL161AおよびHL161B抗体をヒトFcRn過発現HEK293細胞に処理し、pH6.0およびpH7.4で細胞表面に結合する抗体を分析して得られた結果を示す。それぞれのHL161AおよびHL161B抗体のヒトFcRnとの結合は、多様なpHで各抗体で細胞を処理した後、Alexa488標識された抗ヒトヤギ抗体を用いてFACS(fluorescent activated cell sorter)を行うことで得られたMFI値で表現された。
【
図4】
図4は、pH6.0でヒトIgGのヒトFcRn発現細胞との結合を遮断する能力を分析した結果を示し、細胞表面ヒトFcRnと結合する2種の選択された抗体が細胞レベルでヒトFcRnに対するヒトIgGの結合を遮断できるかを観察した結果を示す。ヒトFcRnに対するAlexa488標識されたヒトIgGの結合を遮断する能力のプロファイルは、ヒトFcRn過発現HEK293細胞に結合することが確認されたHL161AおよびHL161B抗体それぞれを200nMから連続的に4倍希釈して得られた。
【
図5A】
図5Aおよび
図5Bは、ヒトFcRn発現トランスジェニックマウスTg32(hFcRn+/+、hβ2m+/+、mFcRn-/-、mβ2m-/-)から選択されたHL161AおよびHL161B抗体のhIgG1の異化作用に対する効果を分析した結果を示す。0時間に、5mg/kgのビオチン-hIgGおよび495mg/kgのヒトIgGを腹腔内に投与して生体内でIgGを飽和させた。薬物投与と関連して、ビオチン-IgGの投与後、24、48、72および96時間に、IgG1、HL161A、HL161BまたはPBSは、1日1回5、10および20mg/kgの用量(dose)で腹腔内に注射された。サンプル収集は、ビオチン-IgG投与後、24、48、72、96、120および168時間に行われた。24、48、72および96時間に薬物投与前に血液を収集し、残量のビオチン-IgGをELISA方法で分析した。結果は、24時間に収集された血液サンプル内残量に対して100%に対して各時点の残量の比で表現された。
【
図5B】
図5Aおよび
図5Bは、ヒトFcRn発現トランスジェニックマウスTg32(hFcRn+/+、hβ2m+/+、mFcRn-/-、mβ2m-/-)から選択されたHL161AおよびHL161B抗体のhIgG1の異化作用に対する効果を分析した結果を示す。0時間に、5mg/kgのビオチン-hIgGおよび495mg/kgのヒトIgGを腹腔内に投与して生体内でIgGを飽和させた。薬物投与と関連して、ビオチン-IgGの投与後、24、48、72および96時間に、IgG1、HL161A、HL161BまたはPBSは、1日1回5、10および20mg/kgの用量(dose)で腹腔内に注射された。サンプル収集は、ビオチン-IgG投与後、24、48、72、96、120および168時間に行われた。24、48、72および96時間に薬物投与前に血液を収集し、残量のビオチン-IgGをELISA方法で分析した。結果は、24時間に収集された血液サンプル内残量に対して100%に対して各時点の残量の比で表現された。
【
図6A】
図6A~
図6Cは、ヒトFcRnと96%の配列相同性を有するカニクイザルに対する2種の抗体(HL161AおよびHL161B)の投与によって誘発されるサルIgGの血液レベルでの変化を分析した結果を示す。それぞれのHL161AおよびHL161B抗体は、1日1回5mg/kgおよび20mg/kgの用量でカニクイザルに静脈内に投与された。
図6Aは、多様な抗体濃度でHL161AおよびHL161B抗体の血清IgG減少効果を示す。
【
図6B】
図6Bは、HL161AおよびHL161B抗体(濃度:サル個体で(5mg/kg))の血清IgG減少効果を示す。
【
図6C】
図6Cは、HL161AおよびHL161B抗体(濃度:サル個体で(20mg/kg))の血清IgG減少効果を示す。
【
図7A】
図7Aおよび
図7Bは、カニクイザルを用いて行われた実験でHL161AおよびHL161Bの薬物動態学プロファイルを分析した結果を示す。
【
図7B】
図7Aおよび
図7Bは、カニクイザルを用いて行われた実験でHL161AおよびHL161Bの薬物動態学プロファイルを分析した結果を示す。
【
図8A】
図8A~
図8Cは、カニクイザルを用いて行われた実験でHL161AおよびHL161B抗体の投与によって誘発されたサルIgM、IgAおよびアルブミンの血液レベルでの変化を分析した結果を示す。
図8Aは、サルの血清IgMレベルでの変化を示す。
【
図9】
図9は、中等症から重症の活動性グレーブス眼症患者でRVT-1401(HL161BKN)の安全性および忍容性を評価するための非盲検、追加標準治療研究の研究設計を示す。抗TSHR-IgGの証拠がある中等症から重症の活動性グレーブス眼症と診断された患者は、週1回RVT-1401の皮下投与量で処理される(2週間680mg、引き続いて4週間340mg)。
【
図10】
図10は、中等症から重症の活動性グレーブス眼症患者でRVT-1401(HL161BKN)の効能および安全性を評価するためのランダム化、二重盲検、プラセボ対照、追加標準追療研究の研究設計を示す。抗TSHR-IgGの証拠がある中等症から重症の活動性グレーブス眼症と診断された患者は、無作為に分けられ(2:2:1:2)、週1回RVT-1401の皮下投与量(680mg、340mgまたは255mg)で12週間、または12週間プラセボで処理される。
【発明を実施するための形態】
【0042】
本開示物は、より容易に理解され得るように、特定の用語が詳細な説明の全般にわたって定義される。本明細書で別途定義されない限り、本開示物に関連したすべての科学的および技術的用語は、当業者が一般的に理解されるのと同じ意味を有する。本明細書で引用されたすべての参考文献は、また、その全体が参照として含まれる。引用された参考文献が本明細書で開示物と相反する場合、明細書が優先する。
【0043】
本明細書で使用される場合、単語の単数型は、文脈が別途明示しない限り、複数型も含む。例えば、用語「1つの(a)」、「1つの(an)」および「その(the)」は、単数または複数として理解される。例えば、「1つの要素」は、1つ以上の要素を意味する。用語「または」は、特定の文脈が別途表示しない限り、「および/または」を意味し得る。すべての範囲には、特定の文脈が別途表示しない限り、終点とその間のすべての地点が含まれる。
【0044】
一部の具体例において、本開示物は、治療を必要とする患者に抗FcRn抗体またはその抗原結合断片を投与したり、または抗FcRn抗体またはその抗原結合断片および少なくとも1つの薬学的に許容可能な担体を含む薬学的組成物を投与して、グレーブス眼症を治療または予防する方法に関する。一部の具体例において、本開示物は、治療を必要とする患者に抗FcRn抗体または抗原結合断片を投与したり、または抗FcRn抗体または抗原結合断片および少なくとも1つの薬学的に許容可能な担体を含む薬学的組成物を投与して、グレーブス眼症を治療または予防する方法でおよび/またはグレーブス眼症を治療または予防するための医薬の製造で抗FcRn抗体またはその抗原結合断片の用途に関する。抗FcRn抗体またはその抗原結合断片および少なくとも1つの薬学的に許容可能な担体を含む薬学的組成物が、また、開示され、本明細書で記述された治療方法および用途に有用である。
【0045】
本明細書で使用される場合、用語「治療する」およびその同根語は、疾患、障害または状態(例えば、グレーブス眼症)またはその少なくとも1つの識別可能な症状(例えば、本明細書で記述された兆候および症状の任意の1つ以上)の改善を指す。用語「治療する」は、グレーブス眼症の1つ以上の症状の完全な治療または完全な改善を含むが、これに制限されるものではない。一部の具体例において、「治療する」は、患者が必ず識別できるものではないが、少なくとも1つの測定可能な物理的パラメーターの少なくとも部分的な改善、例えば、少なくとも1つの自己抗体および/または病原性抗体(例えば、少なくとも1つのIgG、例えば、抗TSHR IgGおよび/または抗IGF-1R IgG)のレベルおよび/または総血清IgGのレベルでの減少を指す。一部の具体例において、「治療する」は、疾患、障害または状態の進行を物理的に(例えば、識別可能な症状の安定化)、生理学的に(例えば、物理的パラメーターの安定化)または両方とも阻害することを指す。一部の具体例において、「治療する」は、疾患、障害または状態の進行を遅らせたりまたは進行を逆転させることを指す。本明細書で使用されたように、「治療する」およびその同根語は、また、与えられた疾患、障害または状態を獲得する危険を減少させたり発病を遅延させることを含む。本明細書で開示された抗体、抗原結合断片および薬学的組成物は、疾患、障害または状態の予防(prevention)または予防(prophylaxis)に使用できる。例えば、予防方法は、疾患、障害または状態(例えば、グレーブス眼症)の危険がある対象体に本明細書で開示された抗体、抗原結合断片または薬学的組成物を投与して、疾患、障害または状態、またはその少なくとも1つの識別可能な症状の発生確率を予防または減少させることを含むことができる。一部の具体例において、疾患、障害または状態は、グレーブス眼症である。
【0046】
用語「対象体」および「患者」は、任意のヒトまたは非ヒト動物を指すために本明細書で相互交換的に使用される。非ヒト動物は、任意の動物のようにすべての脊椎動物(例えば、哺乳動物および非哺乳動物)を含む。哺乳動物の非制限的な例示は、ヒト、マウス、ラット、ウサギ、イヌ、サルおよびブタを含む。多様な具体例において、対象体は、ヒトである。多様な具体例において、対象体は、グレーブス眼症を有しているか、グレーブス眼症の疑いがあるヒトである。
本明細書で使用される場合、用語「グレーブス眼症」、「グレーブス眼窩疾患」、「甲状腺関連眼窩疾患」および「甲状腺眼疾患」は、外眼筋および眼窩脂肪または結合組織の自己免疫炎症を指すために相互交換的に使用される。グレーブス眼症の兆候および症状は、一般的に外眼筋浮腫および眼窩脂肪および結合組織の膨張を含むが、これに制限されるものではなく、眼瞼と結膜の浮腫および発赤、眼球突出、複視、ひどい場合、角膜潰瘍および視力減少を含む。グレーブス眼症の重症度は、軽症、中等症から重症までまたは視力威嚇、引き続いて、瞼裂幅の定量的評価、眼球測定、複視点数(1=間欠的[例えば、疲れたり目覚めるとき];2=不一致[例えば、極端の視線だけで];3=一定)、眼球筋肉運動性の外転程度、露出角膜炎または潰瘍の証拠のための角膜検査および視神経機能評価に分類することができる(Bartalena et al.,Thyroid 18:333-46,2008)。グレーブス眼症の活動性は、0~7または0~10の範囲の臨床活動性点数(CAS)を用いて等級を付与することができ、抗炎症療法に対する反応を予測することができる(Mourits et al.,Br.J.Ophthalmol.73:639-44,1989;Mourits et al.,Clin.Endocrinol.47:9-14,1997)。グレーブス眼症の臨床評価は、また、患者の生活の質(QOL)に対する疾患の影響評価を含むことができる。QOLは、グレーブス眼症で損傷したことが示され、身体および精神健康両方とも悪影響を及ぼす。一般的に、患者は、対照群より自己イメージがさらに悪く、睡眠障害が多く、社会的および業務機能がさらに多く損傷した(Yeatts,Trans.Am.Ophthalmol.Soc.103:368-411,2005)。グレーブス眼症患者で使用するためのいくつかのQOL質問用紙が開発され検証された(Terwee et al.,Br.J.Ophthalmol.82:773-9、1998;Terwee et al.,Clin.Endocrinol.54:391-8,2001)。
【0047】
一部の具体例において、グレーブス眼症に対する治療が必要な患者は、(1)もっと深刻に影響を受けた眼に対してS≧4;(2)中等症から重症までの活動性疾患;(3)9ヶ月以内に活動性眼疾患の発病;および/または(4)検出可能な自己抗体(例えば、抗TSHR-IgG、抗IGF-1R-IgG、または両方とも)を有する。一部の具体例において、グレーブス眼症に対する治療が必要な患者は、血清反応陰性であり、すなわち、TSHR、IGF-1Rまたは両方ともに対して検出可能な自己抗体を有さないが、治療臨床医により判断される場合、本明細書で記述された抗FcRn抗体、抗原結合断片または薬学的組成物を用いた治療において有用である。一部の具体例において、グレーブス眼症に対する治療が必要な患者は、中等症から重症までの活動性疾患を有し、まだ放射線または手術療法を受けていない。一部の具体例において、中等症から重症までの活動性疾患は、臨床パラメーター、例えば、眼瞼後退(≧2mm)、眼球突出(≧3mm)、複視、および/または中等症から重症までの軟部組織病変によって定義される。
【0048】
一具体例は、患者に(i)治療的有効量の抗FcRn抗体またはその抗原結合断片;または(ii)少なくとも1つの薬学的に許容可能な担体および治療的有効量の抗FcRn抗体またはその抗原結合断片を含む薬学的組成物を投与することを含む、これを必要とする患者でグレーブス眼症を治療または予防する方法である。他の具体例は、これを必要とする患者でグレーブス眼症を治療または予防する方法に使用するための抗FcRn抗体またはその抗原結合断片であり、前記方法は、患者に(i)治療的有効量の抗FcRn抗体またはその抗原結合断片;または(ii)少なくとも1つの薬学的に許容可能な担体および治療的有効量の抗FcRn抗体またはその抗原結合断片を含む薬学的組成物を投与することを含む。
【0049】
他の具体例は、患者に(i)治療的有効量の抗FcRn抗体またはその抗原結合断片;または(ii)少なくとも1つの薬学的に許容可能な担体および治療的有効量の抗FcRn抗体またはその抗原結合断片を含む薬学的組成物を投与することを含む、これを必要とする患者でグレーブス眼症を治療または予防する方法で抗FcRn抗体またはその抗原結合断片の用途である。
他の具体例は、患者に(i)治療的有効量の抗FcRn抗体またはその抗原結合断片;または(ii)少なくとも1つの薬学的に許容可能な担体および治療的有効量の抗FcRn抗体またはその抗原結合断片を含む薬学的組成物を投与することを含む、これを必要とする患者でグレーブス眼症を治療または予防するための医薬の製造で抗FcRn抗体またはその抗原結合断片の用途である。
【0050】
本明細書で開示された治療方法、用途および組成物の多様な具体例において、抗FcRn抗体または抗原結合断片は、FcRnとの結合でIgGの非競合的阻害剤として作用する。多様な具体例において、FcRnに対する抗体または抗原結合断片の結合は、FcRnに対する少なくとも1つの自己抗体および/または病原性抗体の結合を阻害する。多様な具体例において、そのような阻害は、対象体の身体から少なくとも1つの自己抗体および/または病原性抗体の清掃(すなわち、除去)を促進する。多様な具体例において、そのような阻害は、対象体および/または対象体のサンプルで少なくとも1つの自己抗体および/または病原性抗体のレベルを減少させる。多様な具体例において、少なくとも1つの自己抗体および/または病原性抗体のレベルでの減少は、疾患、障害または状態(例えば、グレーブス眼症)の少なくとも1つの臨床パラメーターでの改善を招いたりおよび/または相関関係がある。
【0051】
本明細書で使用される場合、用語「自己抗体」は、生物体の独自タンパク質、組織および/または器官中の1つ以上に対して生物体の免疫系により生産された抗体を指す。例えば、1つ以上の自己抗体は、それが「自己」および「非自己」を区別しない場合、ヒト患者の免疫系により生産されうる。一部の具体例において、自己抗体は、病原性抗体である(例えば、病原性IgG、例えば、病原性IgG1、IgG2、IgG3またはIgG4)。本明細書で使用された場合、用語「病原性抗体」は、1つ以上の疾患、障害または状態(例えば、グレーブス眼症)の発病に寄与しおよび/または誘発する抗体(例えば、自己抗体)を指す。そのような抗体の例示は、抗血小板抗体、抗アセチルコリン抗体、抗核酸抗体、抗リン脂質抗体、抗コラーゲン抗体、抗ガングリオシド抗体および抗デスモグルレイン抗体を含むが、これらに制限されない。多様な具体例において、病原性抗体は、病原性IgG(例えば、病原性IgG1、IgG2、IgG3またはIgG4)である。多様な具体例において、病原性抗体および/または病原性IgGは、抗TSHR-IgGである。多様な具体例において、病原性抗体および/または病原性IgGは、抗IGF-1R-IgGである。多様な具体例において、病原性抗体および/または病原性IgGは、抗TSHR-IgGおよび抗IGF-1-IgGの組合である。
【0052】
本明細書で開示された治療方法、用途および組成物の多様な具体例において、抗FcRn抗体または抗原結合断片は、生理学的pH(すなわち、pH7.0~7.4)でFcRnに対する少なくとも1つの自己抗体および/または病原性抗体(例えば、少なくとも1つのIgG)の結合を非競合的に阻害することができる。理論に拘束されるものではないが、FcRnは、そのリガンド(すなわち、IgG)と結合し、酸性pHよりは、かえって生理学的pHでIgGに対する親和性を実質的に示さないとみられている。したがって、多様な具体例において、生理学的pHで、抗FcRn抗体または抗原結合断片は、FcRnに対するIgGの結合の非競合的阻害剤として作用することができ、FcRnに対する抗FcRn抗体または抗原結合断片の結合は、IgGの存在によって影響を受けない。したがって、多様な具体例において、pH非依存方式でIgGと非競合的にFcRnに特異的に結合する抗FcRn抗体または抗原結合断片は、従来の競合的阻害剤(すなわち、IgGと競合的にFcRnに結合する抗体)に比べて利点を提供することができるので、IgGのFcRn媒介信号伝達によって有意的に低い濃度でさえ治療または予防効果を提供することができる。また、多様な具体例において、FcRnに結合した状態で細胞内移動手続きで、抗FcRn抗体または抗原結合断片は、血液でIgGよりさらに高い親和性でFcRnとの結合を維持することができる。したがって、多様な具体例において、抗FcRn抗体または抗原結合断片は、IgGがFcRnに結合できる酸性pH環境にあるエンドソームでさえFcRnに対するIgGの結合を阻害することができて、IgGの清掃を促進することができる。多様な具体例において、抗FcRn抗体または抗原結合断片は、RVT-1401である(本明細書でHL161BKNと称される)。一部の具体例において、抗体または抗原結合断片は、RVT-1401またはその抗原結合断片である。一部の具体例において、抗体または抗原結合断片は、SEQ ID No:27(HCDR1)、SEQ ID No:28(HCDR2)、SEQ ID No:29(HCDR3)の3個の重鎖CDRアミノ酸配列;およびSEQ ID No:30(LCDR1)、SEQ ID No:31(LCDR2)、SEQ ID No:32(LCDR3)の3個の軽鎖CDRアミノ酸配列を含む。一部の具体例において、抗体または抗原結合断片は、SEQ ID No:6の重鎖可変領域アミノ酸配列;およびSEQ ID No:16の軽鎖可変領域アミノ酸配列を含む。一部の具体例において、抗体または抗原結合断片は、SEQ ID No:46の重鎖アミノ酸配列;およびSEQ ID No:48の軽鎖アミノ酸配列を含む。
【0053】
結合「親和性」は、単一抗原部位で抗体および抗原間の相互作用力を指す。それぞれの抗原部位内に、抗体の「アーム(arm)」の可変領域は、弱い非共有力を通じて数多くの部位で抗原と相互作用する。一般的に、相互作用が多いほど親和性が強くなる。
【0054】
本明細書で使用される場合、用語「特異」、「特異的に結合する(specifically binds)」および「特異的に結合する(binds specifically)」は、タンパク質およびその他バイオ医薬品の異種集団で抗体またはその抗原結合断片(例えば、抗FcRn抗体またはその抗原結合断片)および標的抗原(例えば、FcRn)間の結合相互作用を指す。抗体は、所定の条件下で代替抗原または抗原混合物に対する結合を適当な抗原との結合と比較することによって、結合の特異性をテストすることができる。抗体が代替抗原または抗原混合物に比べて少なくとも2倍、少なくとも5倍または少なくとも10倍(またはそれ以上)さらい多い親和性で適当な抗原と結合すると、それは、特異的であるとみなされる。
【0055】
「特異抗体」または「標的特異的抗体」は、標的抗原(例えば、FcRn)にのみ結合し、他の抗原には結合しない(または最小結合を示す)。一部の具体例において、標的抗原(例えば、FcRn)と特異的に結合する抗体またはその抗原結合断片は、pH6.0またはpH7.4で1×10-6M未満、1×10-7M未満、1×10-8M未満、1×10-9M未満、1×10-10M未満、1×10-11M未満、1×10-12M未満、または1×10-13M未満のKDを有する。一部の具体例において、KDは、pH7.4で約300pM以下~約2nM以下である。一部の具体例において、KDは、pH6.0で約2nM以下~900pM以下である。
【0056】
本明細書で使用される場合、用語「KD」は、抗体-抗原結合に対する平衡解離定数を指し、kd対kaの比(すなわち、kd/ka)から得られ、一般的にモル濃度(M)で表現される。用語「kassoc」または「ka」は、特定の抗体-抗原相互作用の結合速度を指すが、用語「kdis」または「kd」は、特定の抗体-抗原相互作用の解離速度を指す。kdおよび/またはkaの測定は、25℃または37℃で行われ得る。抗体および抗原結合断片に対するKD値は、当業界によく確立された方法を使用して測定することができる(例えば、Pollard、Mol.Biol.Cell 21(23):4061-7,2010を参照されたい)。一部の具体例において、KDは、直接結合および/または競合結合分析によって測定される(例えば、表面プラズモン共鳴および/または競合ELISA)。一部の具体例において、KDは、表面プラズモン共鳴(例えば、ヒトFcRn固定化表面プラズモン共鳴)により測定される。一部の具体例において、本明細書で開示された抗FcRn抗体または抗原結合断片のKDは、ヒトFcRn固定化表面プラズモン共鳴によって測定される。
【0057】
本明細書で開示された治療方法、用途および組成物の一部の具体例において、抗FcRn抗体または抗原結合断片は、例えば、表面プラズモン共鳴によって測定されたように、pH6.0およびpH7.4で約0.01~2nMのKD(解離定数)を有する。一部の具体例において、抗FcRn抗体または抗原結合断片は、例えば、表面プラズモン共鳴によって測定されたようにpH7.4で約300pM以下~約2nM以下のKD、および/またはpH6.0で約2nM以下~約900pM以下のKDを有する。一部の具体例において、抗FcRn抗体または抗原結合断片は、細胞の外側に結合し、結合するとき、エンドソームに対するその結合を維持する。一部の具体例において、抗FcRn抗体または抗原結合断片は、例えばヒトFcRn発現細胞を用いて行われたブロッキング分析およびFACSによって測定されたように、FcRn(例えば、ヒトFcRn)に対する1つ以上の自己抗体の結合を効果的に遮断する。
【0058】
本明細書で使用される場合、用語「抗FcRn抗体」または「FcRnに特異的に結合する抗体」は、FcRnに特異的に結合する抗体またはその抗原結合断片の任意の形態、例えば、表面プラズモン共鳴、例えば、ヒトFcRn固定化表面プラズモン共鳴によって測定されたように、pH6.0またはpH7.4で2nM未満のKDで結合するものを指す。用語は、それらがFcRnに特異的に結合する限り、単クローン抗体(全長単クローン抗体を含む)、多クローン抗体および生物学的な機能を有する断片を含む。
【0059】
本明細書で開示された治療方法、用途および組成物の一部の具体例において、抗FcRn抗体または抗原結合断片は、
SEQ ID Nos:21、24、27、30、33、36、39および42よりなる群から選ばれた1つ以上のアミノ酸配列と少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列を含むCDR1;
SEQ ID Nos:22、25、28、31、34、37、40および43よりなる群から選ばれた1つ以上のアミノ酸配列と少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列を含むCDR2;および
SEQ ID Nos:23、26、29、32、35、38、41および44よりなる群から選ばれた1つ以上のアミノ酸配列と少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列を含むCDR3を含む。
【0060】
本明細書で開示された治療方法、用途および組成物の一部の具体例において、抗FcRn抗体または抗原結合断片は、
SEQ ID Nos:21、24、27、30、33、36、39および42よりなる群から選ばれた1つ以上のアミノ酸配列と少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%または少なくとも99%の同一性を有するアミノ酸配列を含むCDR1;
SEQ ID Nos:22、25、28、31、34、37、40および43よりなる群から選ばれた1つ以上のアミノ酸配列と少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%または少なくとも99%の同一性を有するアミノ酸配列を含むCDR2;および
SEQ ID Nos:23、26、29、32、35、38、41および44よりなる群から選ばれた1つ以上のアミノ酸配列と少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%または少なくとも99%の同一性を有するアミノ酸配列を含むCDR3を含む。
【0061】
本明細書で開示された治療方法、用途および組成物の一部の具体例において、抗FcRn抗体または抗原結合断片は、本明細書で記述されたアミノ酸配列で1つ以上のアミノ酸欠失、付加または置換を含むことができる。
【0062】
本明細書で開示された治療方法、用途および組成物の一部の具体例において、抗FcRn抗体または抗原結合断片は、本明細書で記述されたアミノ酸配列と同一であるかまたは相同性を有するアミノ酸配列を含むことができる。用語「同一性」または「相同性」は、配列を比較して測定されたように、2以上のポリペプチドの配列間の関係を指す。用語「同一性」は、2以上のアミノ酸残基のストリングの間のマッチ数によって測定されたように、ポリペプチド肝の配列関連性の程度を意味する。2つの配列間の「同一性」百分率は、配列によって共有される同じ位置の数の関数であり(すなわち、同一性百分率は、同じ位置の数/位置の総数×100と同じである)、2つの配列の最適整列のために導入されるのに必要なギャップの数および各ギャップの長さを考慮する。2つの配列間の配列比較および同一性百分率の測定は、数学的アルゴリズムを使用して行われ得る。配列比較のために、典型的に、1つの配列はレファレンス配列として作用してテスト配列が比較される。配列比較アルゴリズムを用いてテストおよびレファレンス配列をコンピュータに入力する場合、必要に応じて下位配列座標が指定され、配列アルゴリズムパラメーターが指定される。基本プログラムパラメーターが使用されたりまたは代替パラメーターが指定されうる。それから、配列比較アルゴリズムが、プログラムパラメーターに基づいてレファレンス配列に対するテスト配列の配列同一性百分率を計算する。追加的にまたは代替的に、本明細書で開示されたアミノ酸配列は、追加的に「クエリー配列」として使用されて、例えば関連配列を確認するための公開データベースに対する検索を行うことができる。例えば、そのような検索は、Altschul et al.(J.Mol.Biol.215:403-10,1990)のBLASTプログラムを用いて行われ得る。
【0063】
比較ウィンドウで最大対応のために比較および整列されたり、または下記の配列比較アルゴリズムの1つを使用して、または手動整列および目視検査によって測定されるとき、領域を指定する場合、2つの配列が同じアミノ酸残基の特定の百分率を有する場合(すなわち、60%同一性、選択的に指定された領域、または特定されない場合、全体配列にわたって65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%または99%同一性)、2つの配列は、「実質的に同一」である。選択的に、同一性は、少なくとも約10アミノ酸長さの領域、またはより好ましくは、約20、50、200またはそれ以上のアミノ酸長さの領域にわたって存在する。一部の具体例において、本明細書で記述された抗FcRn抗体および抗原結合断片は、SEQ ID Nos:2、4、6、8、10、12、14、16、18および20~48よりなる群から選ばれる配列と少なくとも90%の同一性を有する少なくとも1つのアミノ酸配列を含む。一部の具体例において、本明細書で記述された抗FcRn抗体および抗原結合断片は、SEQ ID Nos:2、4、6、8、10、12、14、16、18および20-48よりなる群から選ばれる配列と少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%または少なくとも99%の同一性を有する少なくとも1つのアミノ酸配列を含む。
【0064】
一部の具体例において、抗体または抗原結合断片は、
SEQ ID No:21のアミノ酸配列を含むCDR1;SEQ ID No:22のアミノ酸配列を含むCDR2;およびSEQ ID No:23のアミノ酸配列を含むCDR3;
SEQ ID No:27のアミノ酸配列を含むCDR1;SEQ ID No:28のアミノ酸配列を含むCDR2;およびSEQ ID No:29のアミノ酸配列を含むCDR3;
SEQ ID No:33のアミノ酸配列を含むCDR1;SEQ ID No:34のアミノ酸配列を含むCDR2;およびSEQ ID No:35のアミノ酸配列を含むCDR3;または
SEQ ID No:39のアミノ酸配列を含むCDR1;SEQ ID No:40のアミノ酸配列を含むCDR2;およびSEQ ID No:41のアミノ酸配列を含むCDR3を含む重鎖可変領域を含む。
【0065】
一部の具体例において、抗体または抗原結合断片は、
SEQ ID No:24のアミノ酸配列を含むCDR1;SEQ ID No:25のアミノ酸配列を含むCDR2;およびSEQ ID No:26のアミノ酸配列を含むCDR3;
SEQ ID No:30のアミノ酸配列を含むCDR1;SEQ ID No:31のアミノ酸配列を含むCDR2;およびSEQ ID No:32のアミノ酸配列を含むCDR3;
SEQ ID No:36のアミノ酸配列を含むCDR1;SEQ ID No:37のアミノ酸配列を含むCDR2;およびSEQ ID No:38のアミノ酸配列を含むCDR3;または
SEQ ID No:42のアミノ酸配列を含むCDR1;SEQ ID No:43のアミノ酸配列を含むCDR2;およびSEQ ID No:44のアミノ酸配列を含むCDR3を含む軽鎖可変領域を含む。
【0066】
一部の具体例において、抗体または抗原結合断片は、
SEQ ID No:21のアミノ酸配列(HCDR1)を含むCDR1、SEQ ID No:22のアミノ酸配列(HCDR2)を含むCDR2およびSEQ ID No:23のアミノ酸配列(HCDR3)を含むCDR3を含む重鎖可変領域;およびSEQ ID No:24のアミノ酸配列(LCDR1)を含むCDR1、SEQ ID No:25のアミノ酸配列(LCDR2)を含むCDR2およびSEQ ID No:26のアミノ酸配列(LCDR3)を含むCDR3を含む軽鎖可変領域;
SEQ ID No:27のアミノ酸配列(HCDR1)を含むCDR1、SEQ ID No:28のアミノ酸配列(HCDR2)を含むCDR2およびSEQ ID No:29のアミノ酸配列(HCDR3)を含むCDR3を含む重鎖可変領域;およびSEQ ID No:30のアミノ酸配列(LCDR1)を含むCDR1、SEQ ID No:31のアミノ酸配列(LCDR2)を含むCDR2およびSEQ ID No:32のアミノ酸配列(LCDR3)を含むCDR3を含む軽鎖可変領域;
SEQ ID No:33のアミノ酸配列(HCDR1)を含むCDR1、SEQ ID No:34のアミノ酸配列(HCDR2)を含むCDR2およびSEQ ID No:35のアミノ酸配列(HCDR3)を含むCDR3を含む重鎖可変領域;およびSEQ ID No:36のアミノ酸配列(LCDR1)を含むCDR1、SEQ ID No:37のアミノ酸配列(LCDR2)を含むCDR2およびSEQ ID No:38のアミノ酸配列(LCDR3)を含むCDR3を含む軽鎖可変領域;および
SEQ ID No:39のアミノ酸配列(HCDR1)を含むCDR1、SEQ ID No:40のアミノ酸配列(HCDR2)を含むCDR2およびSEQ ID No:41のアミノ酸配列(HCDR3)を含むCDR3を含む重鎖可変領域;およびSEQ ID No:42のアミノ酸配列(LCDR1)を含むCDR1、SEQ ID No:43のアミノ酸配列(LCDR2)を含むCDR2およびSEQ ID No:44のアミノ酸配列(LCDR3)を含むCDR3を含む軽鎖可変領域よりなる群から選ばれる1つ以上の重鎖可変領域および1つ以上の軽鎖可変領域を含む。
【0067】
一部の具体例において、抗体または抗原結合断片は、SEQ ID Nos:2、4、6、8、10、12、14、16、18および20のアミノ酸配列よりなる群から選ばれる1つ以上のアミノ酸配列を含む1つ以上の重鎖可変領域および/または1つ以上の軽鎖可変領域を含む。
【0068】
一部の具体例において、抗体または抗原結合断片は、SEQ ID Nos:2、4、6、8または10のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域および/またはSEQ ID Nos:12、14、16、18または20のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を含む。
【0069】
一部の具体例において、抗体または抗原結合断片は、
SEQ ID No:2のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域およびSEQ ID No:12のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域;
SEQ ID No:4のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域およびSEQ ID No:14のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域;
SEQ ID No:6のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域およびSEQ ID No:16のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域;
SEQ ID No:8のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域およびSEQ ID No:18のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域;および
SEQ ID No:10のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域およびSEQ ID No:20のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域よりなる群から選ばれる1つ以上の重鎖可変領域および1つ以上の軽鎖可変領域を含む。
【0070】
抗体と関連して本明細書に使用されたような用語「断片」、「抗体断片」および「抗原結合断片」は、いずれも、標的抗原(例えば、FcRn)に特異的に結合し、および/または全長抗体の機能(例えば、FcRnに対するIgGの結合の非競合的干渉)を提供する能力を保有した全長抗体の1つ以上の断片を指す。抗原結合断片は、また、さらに大きい巨大分子、例えば、二重特異的、三重特異的および多重特異的抗体で存在することができる。
【0071】
抗原結合断片の例示は、単一鎖抗体、二重特異的、三重特異的および多重特異的抗体、例えばジアボディ、トリアボディおよびテトラボディ、Fab断片、F(ab’)2断片、Fd、scFv、ドメイン抗体、二重特異的抗体、ミニボディ、scap(sterol regulatory binding protein cleavage activating protein)、キレート組換え抗体、三重ボディまたは二重ボディ、イントラボディ、ナノボディ、small modular immunopharmaceuticals(SMIP)、結合ドメイン免疫グロブリン融合タンパク質、ラクダ化抗体、VHH含有抗体、IgD抗体、IgE抗体、IgM抗体、IgG1抗体、IgG2抗体、IgG3抗体、IgG4抗体、抗体不変領域での誘導体およびFcRnと結合する能力を有するタンパク質スキャフォールド基盤の合成抗体を含むが、これに制限されるものではない。一部の具体例において、抗原結合断片は、全長抗体と同一または類似の特徴を示す。制限なく、抗原結合断片は、当業界において公知の任意の適当な方法によって生産することができる。例えば、本明細書で記述された多様な抗原結合断片は、全長抗体の酵素的または化学的変形によって生産され、組換えDNA方法論を用いて新たに合成されたり(例えば、scFv)、またはファージディスプレイライブラリーを用いて確認することができる(例えば、Pini and Bracci,Curr.Protein Pept.Sci.1(2):155-69,2000参照)。抗原結合断片は、全長抗体と同じ方式で有用性をスクリーニングすることができる(例えば、特異性、結合親和性、活性)。
【0072】
また、可変および/または不変領域で突然変異を有する抗体または抗原結合断片が本明細書で記述された治療方法、用途および組成物で使用できる。そのような抗体または抗原結合断片の例示は、可変領域および/または不変領域でアミノ酸残基の保存的置換を有する抗体を含む。本明細書で使用される場合、用語「保存的置換」は、元のアミノ酸残基と類似した特徴を有する他のアミノ酸残基で置換を指す。例えば、リシン、アルギニンおよびヒスチジンは、それらが塩基性側鎖を有するという点から類似しており、アスパラギン酸およびグルタミン酸は、それらが酸性側鎖を有するという点から類似している。また、グリシン、アスパラギン、グルタミン、セリン、スレオニン、チロシン、システインおよびトリプトファンは、それらが荷電しない極性側鎖を有するという点から類似特徴を有し、アラニン、バリン、ロイシン、スレオニン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニンおよびメチオニンは、それらが非極性側鎖を有するという点から類似特徴を有する。また、チロシン、フェニルアラニン、トリプトファンおよびヒスチジンは、それらが芳香族側鎖を有するという点から類似特徴を有する。したがって、上記で記述されたように、類似特徴を示すグループでアミノ酸残基の置換が起こる場合でさえ抗体または抗原結合断片の特徴においての有意な変化を示さないという点が当業者には明白だろう。
【0073】
また、一部の具体例において、抗体または抗原結合断片は、他の基質(例えば、治療剤または検出可能な標識)にコンジュゲートされ得る。抗体または抗原結合断片にコンジュゲートされ得る基質は、グレーブス眼症の治療に一般的に使用される治療剤(例えば、標準治療薬(standard of care agent)、ベータ遮断薬、抗甲状腺薬(例えば、メチマゾール))、FcRnの活性を阻害できる基質およびその安定化および/または循環、例えば、血液、血清、リンパまたは他の組織での維持を改善するための抗体または抗原結合断片と物理的に結合したモイアティを含むが、これに制限されるものではない。例えば、抗体または抗原結合断片は、重合体、例えば、ポリアルキレンオキシドまたはポリエチレンオキシドのような非抗原高分子と結合できる。適当な高分子は、重量によって実質的に多様だろう。約200~約35,000(または約1,000~約15,000および2,000~約12,500)の範囲の分子数平均分子量を有する高分子が使用できる。例えば、抗体または抗原結合断片は、水溶性高分子、例えば、親水性ポリビニル高分子、例えば、ポリビニルアルコールおよびポリビニルピロリンにコンジュゲートされ得る。そのような高分子の非制限的な例示は、ポリアルキレンオキシド単一重合体、例えばポリエチレングリコール(PEG)またはポリプロピレングリコール、ポリオキシエチレン化ポリオール、その共重合体およびブロック共重合体の水溶性が維持されると、そのブロック共重合体を含むが、これらに制限されるものではない。
【0074】
本明細書で開示された治療方法、用途および組成物の多様な具体例において、抗体または抗原結合断片は、SEQ ID No:27(HCDR1)のアミノ酸配列、SEQ ID No:28(HCDR2)のアミノ酸配列およびSEQ ID No:29(HCDR3)のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域;およびSEQ ID No:30(LCDR1)のアミノ酸配列、SEQ ID No:31(LCDR2)のアミノ酸配列およびSEQ ID No:33(LCDR3)のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を含む。
【0075】
多様な具体例において、抗体または抗原結合断片は、SEQ ID No:6のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域;およびSEQ ID No:16のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を含む。多様な具体例において、抗体または抗原結合断片は、SEQ ID No:6と少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列を含む重鎖可変領域;およびSEQ ID No:16と少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を含む。多様な具体例において、抗体または抗原結合断片は、例えば、表面プラズモン共鳴によって測定されたように、pH6.0またはpH7.4で0.01M~2nMのKD(解離定数)でFcRnに結合する。
【0076】
多様な具体例において、抗体または抗原結合断片は、SEQ ID No:46の重鎖アミノ酸配列またはSEQ ID No:46と少なくとも90%の同一性を有する配列を含む。多様な具体例において、抗体または抗原結合断片は、SEQ ID No:48の軽鎖アミノ酸配列またはSEQ ID No:48と少なくとも90%の同一性を有する配列を含む。多様な具体例において、抗体または抗原結合断片は、SEQ ID No:46の重鎖アミノ酸配列およびSEQ ID No:48の軽鎖アミノ酸配列を含む。多様な具体例において、抗体または抗原結合断片は、SEQ ID No:46と少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%または100%の同一性を有する重鎖アミノ酸配列およびSEQ ID No:48と少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%または100%の同一性を有する軽鎖アミノ酸配列を含む。
【0077】
RVT-1401(本明細書でHL161BKNとも言及される)は、抗FcRn抗体の例示である。一部の具体例において、抗体または抗原結合断片は、RVT-1401またはその抗原結合断片である。一部の具体例において、抗体または抗原結合断片は、RVT-1401(HCDR1(SEQ ID No:27)、HCDR2(SEQ ID No:28)、HCDR3(SEQ ID No:29))の3個の重鎖CDRアミノ酸配列;およびRVT-1401(LCDR1(SEQ ID No:30)、LCDR2(SEQ ID No:31)、LCDR3(SEQ ID No:32))の3個の軽鎖CDRアミノ酸配列を含む。一部の具体例において、抗体または抗原結合断片は、RVT-1401(SEQ ID No:6)の重鎖可変領域アミノ酸配列;およびRVT-1401(SEQ ID No:16)の軽鎖可変領域アミノ酸配列を含む。一部の具体例において、抗体または抗原結合断片は、RVT-1401(SEQ ID No:46)の重鎖アミノ酸配列;およびRVT-1401(SEQ ID No:48)の軽鎖アミノ酸配列を含む。
【0078】
本明細書で開示された治療方法および用途の多様な具体例において、抗体または抗原結合断片は、単独投与される。多様な具体例において、抗体または抗原結合断片は、少なくとも1つの追加治療剤(例えば、ベータ遮断薬、抗甲状腺薬(例えば、メチマゾール))と併用投与される。多様な具体例において、少なくとも1つの追加治療剤は、治療される特定状態(例えば、グレーブス眼症)に対する標準治療薬を含むか、それで構成されることができる。
【0079】
本明細書で使用されたような「併用投与」または「共同投与」で投与されるというのは、2以上の異なる治療が医学的状態(例えば、グレーブス眼症)を有する対象体が苦痛に悩む間、対象体に伝達されるという意味である。例えば、一部の具体例において、2以上の治療は、対象体が疾患または障害があるものと診断された後および疾患または障害が治療または除去される前に、または対象体が危険があると確認されたが、対象体が疾患の症状を示す前に伝達される。一部の具体例において、1回治療の伝達は、2次治療の伝達が開始されるとき、依然として発生しているので、重複がある。一部の具体例において、1次および2次治療は、同時に開始される。これら類型の伝達は、時々本明細書で「同時」、「並行」、または「付随」伝達と称される。他の具体例において、1回治療の伝達は、2次治療の伝達が開始される前に終結する。この類型の伝達は、時々本明細書で「連続的」または「順次的」伝達と称される。一部の具体例において、抗体または抗原結合断片および少なくとも1つの追加治療剤は、同時に投与される。一部の具体例において、抗体または抗原結合断片および少なくとも1つの追加治療剤は、順次に投与される。
【0080】
一部の具体例において、2回治療(例えば、抗FcRn抗体または抗原結合断片および2次治療剤)は、同一の組成物に含まれる。そのような組成物は、任意の適当な形態でおよび任意の適当な経路によって投与することができる。他の具体例において、2回治療(例えば、抗FcRn抗体または抗原結合断片および2次治療剤)は、任意の適当な形態で個別組成物におよび任意の適当な経路によって投与する。例えば、抗FcRn抗体または抗原結合断片を含む組成物および2次治療剤を含む組成物は、同時にまたは順次に異なる時間帯に任意の順序で投与することができる。2つの場合、それらは、所望の治療または予防効果を提供できるように十分に近い時間に投与しなければならない。
【0081】
本明細書で使用される場合、用語「薬剤(agent)」は、化合物、化合物の混合物、生物学的巨大分子、または生物学的素材から作られた抽出物と称される。用語「治療剤」または「薬物」は、生物学的工程および/または生物学的活性を調節できる薬剤を指す。本明細書で記述された抗FcRn抗体および抗原結合断片は、治療剤の例示である。
【0082】
本明細書で使用される場合、用語「標準治療薬(standard-of-care agent)」は、特定の類型の疾患(例えば、グレーブス眼症)に対する適当な治療として受け入れられる任意の治療剤または療法の他の形態を指す。本明細書で使用される場合、用語「標準投与量(dosage)」または「標準投与療法(standard dosing regien)」は、例えば、製造業者によって提案されたり、監督官庁によって承認されたり、または平均患者の要求を充足するために、ヒト対象体で試験された治療剤に対する任意の通常的または日常的な投与療法を指す。
【0083】
また、少なくとも1つの薬学的に許容可能な担体とともに剤形化された抗FcRn抗体またはその抗原結合断片を含む薬学的組成物が本明細書で提供される。組成物は、また、例えばグレーブス眼症を治療または予防するのに適当な1つ以上の追加治療剤を含むことができる。薬学的組成物の剤形化方法および適当な剤形は、当業界に公知されている(例えば、“Remington’s Pharmaceutical Sciences”,Mack Publishing Co.,Easton,PA参照)。適当な剤形は、投与経路にによって決まることができる。
【0084】
本明細書で使用されたように、「薬学的組成物」は、患者に投与するのに適当な他の成分、例えば、薬学的に許容可能な担体および/または賦形剤に加えて、抗FcRn抗体またはその抗原結合断片の製剤を指す。本明細書で提供された薬学的組成物は、インビトロおよび/またはインビボで投与するのに適当である。一部の具体例において、薬学的組成物は、当業界に良く知られている薬学的に許容可能な担体、賦形剤などを含むことができる。一部の具体例において、本明細書で提供された薬学的組成物は、投与を許容し、引き続いて、活性成分の意図的生物学的活性を提供し、および/または治療効果を達成するための形態である。本明細書で提供された薬学的組成物は、好ましくは、剤形が投与される対象体に許されないほど毒性がある追加成分を含まない。
【0085】
本明細書で使用される場合、用語「薬学的に許容可能な担体」および「生理学的に許容可能な担体」は、相互交換的に使用でき、対象体に有意な刺激を起こさずに、投与された抗体または抗原結合断片の生物学的活性および特徴を破壊しない担体、希釈剤または賦形剤を指す。したがって、薬学的に許容可能な担体は、抗体またはその抗原結合断片のような活性成分と両立しなければならないし、生理食塩水、滅菌水、リンゲル液、緩衝食塩水、デキストロース溶液、マルトデキストリン溶液、グリセロール、エタノール、またはこれらの2以上の混合物を含むことができる。薬学的に許容可能な担体は、また、組成物を向上または安定化させるか、または組成物の製造を容易にするために使用できる。薬学的に許容可能な担体は、生理学的に両立できる他の従来の添加剤、例えば抗酸化剤、緩衝剤、溶媒、静菌剤、分散媒質、コーティング剤、抗菌剤および抗真菌剤、等張および吸収遅延剤等を含むことができる。担体は、対象体で副作用を最小化し、および/または活性成分の分解を最小化するように選択することができる。
【0086】
本明細書で使用される場合、用語「賦形剤」は、活性成分の投与を追加で促進するために薬学的組成物に添加される不活性物質を指す。非経口投与用剤形は、例えば、滅菌水または食塩水、ポリエチレングリコールのようなポリアルキレングリコール、植物性オイルまたは水素化ナフタレンを含むことができる。他の賦形剤は、重炭酸カルシウム、リン酸三カルシウム、多様な糖およびデンプン、セルロース誘導体、ゼラチン、エチレン-ビニルアセテート共重合体粒子の類型、および例えば、ポリソルベート20を含む界面活性剤を含むが、これらに制限されるものではない。
【0087】
明細書で開示された治療方法、用途および組成物の多様な具体例において、抗FcRn抗体、抗原結合断片または薬学的組成物は、当業界において公知の多様な方法で投与することができる。投与の経路および/または方式は、所望の結果によって多様である。一部の具体例において、抗体、抗原結合断片または薬学的組成物は、経口、静脈内、筋肉内、動脈内、骨髄内、硬膜内、心臓内、経皮、皮下、腹腔内、胃腸、舌下または局所経路で投与される。一部の具体例において、抗体、抗原結合断片または薬学的組成物は、経口または非経口で投与される。一部の具体例において、抗体、抗原結合断片または薬学的組成物は、非経口で、例えば、静脈内または皮下(例えば、注射または注入によって)投与される。一部の具体例において、抗体、抗原結合断片または薬学的組成物は、皮下(例えば、注射によって)投与される。一部の具体例において、抗体、抗原結合断片または薬学的組成物は、1回以上の皮下注射で投与される。一部の具体例において、抗体、抗原結合断片または薬学的組成物は、1回皮下注射で投与される。一部の具体例において、抗体、抗原結合断片または薬学的組成物は、2回連続皮下注射で投与される。一部の具体例において、抗体、抗原結合断片または薬学的組成物は、注射器、カテーテル、ポンプ伝達システム、またはステントを通じて伝達される。一部の具体例において、抗体、抗原結合断片または薬学的組成物は、注射器(例えば、既充填注射器)を通じて伝達される。投与経路によって、活性化合物、すなわち抗FcRn抗体または抗原結合断片は、酸の作用および化合物を不活性化できる他の自然状態から化合物を保護するための物質でコートすることができる。
【0088】
抗体、抗原結合断片または薬学的組成物は、粉末、錠剤、カプセル、液体、注射、軟膏またはシロップのような多様な形態で剤形化され、および/または密封されたアンプル、 バイアルまたは注射器のような単回投与量(dosage)または多回投与量容器に含まれ得る。一部の具体例において、抗体、抗原結合断片または薬学的組成物は、注射可能な形態で剤形化される。一部の具体例において、抗体、抗原結合断片または薬学的組成物は、1つ以上の賦形剤、希釈剤、分散剤、界面活性剤、バインダーおよび/または潤滑剤とともに水溶液、懸濁液またはエマルジョンとして剤形化される。一部の具体例において、抗体、抗原結合断片または薬学的組成物は、注射器(例えば、既充填注射器)に含まれる。一部の具体例において、抗体、抗原結合断片または薬学的組成物は、投与前に注射器に含まれる。
【0089】
抗FcRn抗体または抗原結合断片に対する投与療法は、単独または1つ以上の追加治療剤とともに併用で最適な所望の反応(例えば、治療反応)を提供するために調整することができる。例えば、抗FcRn抗体または抗原結合断片の単回ボーラスが1回投与することができ、複数回分割用量があらかじめ決定された時間帯にわたって投与することができるか、または抗FcRn抗体または抗原結合断片の用量は、治療状況の緊急性で示されたように、比例的に減少または増加することができる。任意の特定対象体の場合、特定の投与療法は、個人の必要および治療臨床医の専門的な判断によって時間が経つにつれて調整することができる。例えば、一部の具体例において、抗FcRn抗体または抗原結合断片の投与量は、患者の重症度、状態、年齢、症例履歴などを考慮して適切に決定することができる。
【0090】
抗FcRn抗体または抗原結合断片は、当業者に公知の伝統的な方法によって薬学的に許容可能な投与形態で剤形化することができる。例えば、非経口組成物は、投与の容易性および投与量の均一性のために投与単位形態で剤形化することができる。本明細書で使用されたように、「投与単位形態」は、治療される対象体に対する単位投与量で適合した物理的に分離した単位を指し、各単位は、必要な薬学的担体と関連して所望の治療効果を生成するように計算されたあらかじめ決定された量の活性化合物を含む。一部の具体例において、抗体、抗原結合断片または薬学的組成物は、投与単位形態で剤形化される。一部の具体例において、抗体、抗原結合断片または薬学的組成物は、皮下投与のための投与単位形態で剤形化される。一部の具体例において、抗体、抗原結合断片または薬学的組成物は、1回以上の皮下注射(例えば、1回皮下注射または2回連続皮下注射)で投与するための投与単位形態で剤形化される。一部の具体例において、抗体、抗原結合断片または薬学的組成物は、患者による自己投与および/または治療臨床医による投与のための投与単位形態(例えば、1つ以上の皮下注射)で剤形化される。
【0091】
抗FcRn抗体または抗原結合断片、抗FcRn抗体または抗原結合断片および/または任意の追加治療剤を含む組成物に対する投与値は、活性化合物の固有な特性および達成される特定治療効果に基づいて選択することができる。医師または獣医師は、所望の治療効果を達成するのに必要なレベルより低いレベルで抗体または抗原結合断片の投与量から開始し、所望の効果が達成されるまで投与量を次第に増やすことができる。医師または獣医師は、また、所望の治療効果を達成するのに必要なレベルより高いレベルで抗体または抗原結合断片の投与量から開始し、所望の効果が達成されるまで投与量を次第に減らすことができる。一般的に、グレーブス眼症の治療のための抗体または抗原結合断片の有効投与量は、治療が予防または治療であるかを含んで多くの異なる因子によって多様である。選択された投与量レベルは、また使用された特定組成物またはそのエステル、塩またはアミドの活性、投与経路、投与時間、使用された特定化合物の排出速度、治療期間、使用された特定組成物とともに併用で使用された他の薬物、化合物および/または素材、年齢、性、体重、状態、治療される患者の一般的な健康および過去の病歴、および類似因子などを含む多様な躍動学因子によって決まることができる。安全性および効能を最適化するために治療投与量が滴定され得る。一部の具体例において、治療は、1回または数回投与することができる。特定患者の状態を考慮して間欠的および/または慢性(持続的)投薬全量を適用することができる。
【0092】
一部の具体例において、抗FcRn抗体または抗原結合断片の治療的有効量は、本開示物の方法、用途および薬学的組成物に適用される。
【0093】
本明細書で使用される場合、用語「治療的有効量」および「治療的有効投与量」は、特定身体機能の損傷を招く疾患または障害で身体機能を正常化するために医学的状態または虚弱に関連した少なくとも1つの症状または測定可能なパラメーターを減少させ、および/または疾患の1つ以上の臨床的に測定されるパラメーターでの改善を提供したり、または進行を遅らせるのに十分な量を指すために相互交換的に使用される。治療的有効量は、例えばグレーブス眼症の1つ以上の症状を治療、予防、重症度減少、発病遅延および/または発生危険減少に十分でありうる。治療的有効量、そして、投与の治療的有効頻度は、当業界において公知の方法によって測定され、本明細書で議論されることができる。本明細書で記述された方法、用途および組成物の一部の具体例において、抗FcRn抗体または抗原結合断片は、単一薬剤で投与される場合、治療的に有効な量で存在し、および/または投与される。一部の具体例において、抗FcRn抗体または抗原結合断片および少なくとも1つの追加治療剤は、薬剤が併用で使用される場合、治療的に有効な量でそれぞれ投与される。
【0094】
一部の具体例において、抗FcRn抗体または抗原結合断片の治療的有効量は、患者および/または患者のサンプル(例えば、グレーブス眼症患者)で少なくとも1つの自己抗体および/または病原性抗体(例えば、少なくとも1つのIgG)のレベルを減少させるのに必要な量である。一部の具体例において、抗FcRn抗体または抗原結合断片の治療的有効量は、患者および/または患者のサンプル(例えば、グレーブス眼症患者)で少なくとも1つのIgGのレベルを減少させるのに必要な量である。一部の具体例において、少なくとも1つのIgGは、抗TSHR IgGおよび/または抗IGF-1R IgGを含む。一部の具体例において、抗FcRn抗体または抗原結合断片の治療的有効量は、患者および/または患者のサンプルで抗TSHR IgGのレベルを少なくとも約30%、約40%、約50%、約60%、約70%または約80%減少させるのに必要な量である(すなわち、抗FcRn抗体または抗原結合断片で治療する前の抗TSHR IgGのレベルと比較して)。一部の具体例において、抗FcRn抗体または抗原結合断片の治療的有効量は、患者および/または患者のサンプルで抗IGF-1R IgGのレベルを少なくとも約30%、約40%、約50%、約60%、約70%または約80%減少させるのに必要な量である(すなわち、抗FcRn抗体または抗原結合断片で治療する前の抗IGF-1R IgGのレベルと比較して)。
【0095】
一部の具体例において、抗FcRn抗体または抗原結合断片の治療的有効量は、患者および/または患者のサンプル(例えば、グレーブス眼症患者)で総血清IgGのレベルを少なくとも約40%、約50%、約60%、約70%または約80%減少させるのに必要な量である(すなわち、抗FcRn抗体または抗原結合断片で治療する前総血清IgGのレベルと比較して)。
【0096】
一部の具体例において、抗FcRn抗体または抗原結合断片の治療的有効量は、患者および/または患者のサンプル(例えば、グレーブス眼症患者)で血清内因性IgG濃度を前処理値の約75%未満減少させるのに必要な量である。
【0097】
本明細書で使用される場合、「総IgGレベル」または「総血清IgGのレベル」という語句は、例えば、患者または患者の生物学的サンプル(例えば、血液サンプル)で血清内因性IgG濃度を指す。
【0098】
本明細書で使用される場合、「少なくとも1つの自己抗体のレベル」という語句は、例えば、患者または患者の生物学的サンプルで少なくとも1つの自己抗体の血清内因性濃度を指す。
【0099】
本明細書で使用される場合、「少なくとも1つのIgGのレベル」という語句は、例えば、患者または患者の生物学的サンプルで少なくとも1つのIgGの血清内因性濃度を指す。一部の具体例において、少なくとも1つのIgGは、病原性IgGを含む。一部の具体例において、少なくとも1つのIgGは、血清IgG1を含む。一部の具体例において、少なくとも1つのIgGは、血清IgG2を含む。一部の具体例において、少なくとも1つのIgGは、血清IgG3を含む。一部の具体例において、少なくとも1つのIgGは、血清IgG3を含む。一部の具体例において、少なくとも1つのIgGは、血清IgG4を含む。一部の具体例において、少なくとも1つのIgGは、抗TSHR IgG、抗IGF-1R IgGまたは両方とも含む。
【0100】
本明細書で使用される場合、「血清反応陰性」という語句は、TSHR、IGF-1Rまたは両方ともに対して検出可能な自己抗体を有さないが、治療臨床医によって判断されたように、本明細書で記述された抗FcRn抗体、抗原結合断片または薬学的組成物を用いた処理から恩恵を受ける患者を説明するために使用できる。一部の具体例において、本明細書で記述された抗FcRn抗体、抗原結合断片または薬学的組成物で治療するのに適合した患者は、血清反応陰性である。一部の具体例において、本明細書で記述された抗FcRn抗体、抗原結合断片または薬学的組成物で治療する必要がある患者は、血清反応陰性である。一部の具体例において、血清反応陰性患者は、抗TSHR IgGの検出可能なレベルを有しない。一部の具体例において、血清反応陰性患者は、抗IGF-1R IgGの検出可能なレベルを有しない。一部の具体例において、血清反応陰性患者は、抗TSHR IgGまたは抗IGF-1R IgGの検出可能なレベルを有しない。一部の具体例において、血清反応陰性患者は、抗TSHR IgGおよび抗IGF-1R IgGの検出可能なレベルを有しない。
【0101】
数値および範囲と関連して本明細書で使用される場合、用語「約」または「概略」は、本明細書で含まれた教示から当業者に明らかなように、具体例が意図した通り行われ得るように引用された数値または範囲に近接したり近い数値または範囲を指す。これらの用語は、体系的なエラーによる値以上を含む。一部の具体例において、「約」または「概略」は、数値的量の±10%を意味する。
【0102】
本明細書で開示された治療方法および用途の多様な具体例において、抗体または抗原結合断片は、固定用量で患者に投与される。本明細書で開示された治療方法および用途の多様な具体例において、抗体または抗原結合断片は、重量基盤用量、すなわち、患者の体重に依存する用量で患者に投与される。本明細書で開示された治療方法および用途の多様な具体例において、抗体または抗原結合断片は、身体表面積基盤用量、すなわち、患者の体表面積(BSA)に依存する用量で患者に投与される。多様な具体例において、患者に投与される用量は、抗体または抗原結合断片の治療的有効量を含む。
【0103】
一部の具体例において、抗体または抗原結合断片は、約100mg~約1000mgの用量で患者に投与される。一部の具体例において、抗体または抗原結合断片は、約100mg、約150mg、約200mg、約250mg、約300mg、約350mg、約400mg、約450mg、約500mg、約550mg、約600mg、約650mg、約700mg、約750mg、約800mg、約850mg、約900mg、約950mgまたは約1000mgの用量で患者に投与される。一部の具体例において、抗体または抗原結合断片は、週1回または2週に1回約100mg~約1000mgの用量で患者に投与される。
【0104】
一部の具体例において、抗体または抗原結合断片は、約200~約450mgの用量で患者に投与される。一部の具体例において、抗体または抗原結合断片は、約200mg、約210mg、約220mg、約230mg、約240mg、250mg、約260mg、約270mg、約280mg、約290mg、約300mg、約310mg、約320mg、約330mg、約340mg、約350mg、約360mg、約370mg、約380mg、約390mg、約400mg、約410mg、約420mg、約430mg、約440mgまたは約450mgの用量で患者に投与される。一部の具体例において、抗体または抗原結合断片は、週1回または2週に1回約200~約450mgの用量で患者に投与される。
【0105】
一部の具体例において、抗体または抗原結合断片は、約200~約300mgの用量で患者に投与される。一部の具体例において、抗体または抗原結合断片は、約200mg、約210mg、約220mg、約230mg、約240mg、約250mg、約260mg、約270mg、約280mg、約290mg、または約300mgの用量で患者に投与される。一部の具体例において、抗体または抗原結合断片は、約230mg、約235mg、約240mg、約245mg、約250mg、約255mg、約260mg、約265mg、約270mg、約275mgまたは約280mgの用量で患者に投与される。一部の具体例において、抗体または抗原結合断片は、約255mgの用量で患者に投与される。一部の具体例において、抗体または抗原結合断片は、週1回または2週に1回約200~約300mg(例えば、約255mg)の用量で患者に投与される。
【0106】
一部の具体例において、抗体または抗原結合断片は、約300~約400mgの用量で患者に投与される。一部の具体例において、抗体または抗原結合断片は、約300mg、約310mg、約320mg、約330mg、約340mg、約350mg、約360mg、約370mg、約380mg、約390mgまたは約400mgの用量で患者に投与される。一部の具体例において、抗体または抗原結合断片は、約320mg、約330mg、約340mg、約350mgまたは約360mgの用量で患者に投与される。一部の具体例において、抗体または抗原結合断片は、約340mgの用量で患者に投与される。一部の具体例において、抗体または抗原結合断片は、週1回または2週に1回約300~約400mg(例えば、約340mg)の用量で患者に投与される。
【0107】
一部の具体例において、抗体または抗原結合断片は、約400~約500mgの用量で患者に投与される。一部の具体例において、抗体または抗原結合断片は、約400mg、約410mg、約420mg、約430mg、約440mg、約450mg、約460mg、約470mg、約480mg、約490mgまたは約500mgの用量で患者に投与される。一部の具体例において、抗体または抗原結合断片は、週1回または2週に1回約400~約500mgの用量で患者に投与される。
【0108】
一部の具体例において、抗体または抗原結合断片は、約500~約600mgの用量で患者に投与される。一部の具体例において、抗体または抗原結合断片は、約500mg、約510mg、約520mg、約530mg、約540mg、約550mg、約560mg、約570mg、約580mg、約590mgまたは約600mgの用量で患者に投与される。一部の具体例において、抗体または抗原結合断片は、週1回または2週に1回約500~約600mgの用量で患者に投与される。
【0109】
一部の具体例において、抗体または抗原結合断片は、約600~約800mgの用量で患者に投与される。一部の具体例において、抗体または抗原結合断片は、約600mg、約610mg、約620mg、約630mg、約640mg、約650mg、約660mg、約670mg、約680mg、約690mg、約700mg、約710mg、約720mg、約730mg、約740mg、約750mg、約760mg、約770mg、約780mg、約790mgまたは約800mgの用量で患者に投与される。一部の具体例において、抗体または抗原結合断片は、週1回または2週に1回約600~約800mgの用量で患者に投与される。
【0110】
一部の具体例において、抗体または抗原結合断片は、約550~約650mgの用量で患者に投与される。一部の具体例において、抗体または抗原結合断片は、約550mg、約560mg、約570mg、約580mg、約590mg、約600mg、約610mg、約620mg、約630mg、約640mgまたは約650mgの用量で患者に投与される。一部の具体例において、抗体または抗原結合断片は、週1回または2週に1回約550~約650mgの用量で患者に投与される。
【0111】
一部の具体例において、抗体または抗原結合断片は、約650~約750mgの用量で患者に投与される。一部の具体例において、抗体または抗原結合断片は、約650mg、約660mg、約670mg、約680mg、約690mg、約700mg、約710mg、約720mg、約730mg、約740mgまたは約750mgの用量で患者に投与される。一部の具体例において、抗体または抗原結合断片は、約660mg、約670mg、約680mg、約690mgまたは約700mgの用量で患者に投与される。一部の具体例において、抗体または抗原結合断片は、約680mgの用量で患者に投与される。一部の具体例において、抗体または抗原結合断片は、週1回または2週に1回約650~約750mg(例えば、約680mg)の用量で患者に投与される。
【0112】
一部の具体例において、抗体または抗原結合断片は、約750~約750mgの用量で患者に投与される。一部の具体例において、抗体または抗原結合断片は、約750mg、約760mg、約770mg、約780mg、約790mg、約800mg、約810mg、約820mg、約830mg、約840mgまたは約850mgの用量で患者に投与される。一部の具体例において、抗体または抗原結合断片は、週1回または2週に1回約750~約850mgの用量で患者に投与される。
【0113】
一部の具体例において、抗体または抗原結合断片は、1回以上の用量(例えば、2回以上異なる用量)で患者に投与される。例えば、一部の具体例において、抗体または抗原結合断片は、2回異なる用量、例えば、少なくとも1回はさらに高い用量、引き続いて少なくとも1回はさらに低い用量で患者に投与される。さらに高い用量(例えば、2個の異なる用量のうちさらに高い用量)は、本明細書で「誘導」用量、すなわち、患者および/または患者のサンプルで少なくとも1つの自己抗体および/または病原性抗体(例えば、少なくとも1つのIgG)のレベルを減少させることができる用量として称され得る。さらに低い用量(例えば、2個の異なる用量のうちさらに低い用量)は、本明細書で「維持」用量、すなわち、抗体または抗原結合断片(例えば、約20~80%の前処理(誘導前の用量)値)の少なくとも1つの誘導用量後に患者および/または患者のサンプルで少なくとも1つの自己抗体および/または病原性抗体(例えば、少なくとも1つのIgG)の減少したレベルを維持できる用量と称され得る。一部の具体例において、維持用量は、患者および/または患者のサンプルで少なくとも1つの自己抗体および/または病原性抗体(例えば、少なくとも1つのIgG)のレベルを前処理(誘導前の用量)値の約20%、約25%、約30%、約35%、約40%、約45%、約50%、約55%、約60%、約65%、約70%、約75%または約80%に維持する。
【0114】
一部の具体例において、少なくとも1つのさらに高い用量および/または誘導用量は、用量当たり約680mg以上(例えば、用量当たり約700mg、用量当たり約720mg、用量当たり約750mgまたはそれ以上)である。一部の具体例において、少なくとも1つのさらに高い用量および/または誘導用量は、用量当たり約680mg以上(例えば、用量当たり約700mg、用量当たり約720mg、用量当たり約750mg、またはそれ以上)で約1回用量、約2回用量、約3回用量、約4回用量、または約5回用量である。一部の具体例において、少なくとも1つのさらに高い用量および/または誘導用量は、用量当たり約680mg以上(例えば、用量当たり約700mg、用量当たり約720mg、用量当たり約750mg、またはそれ以上)で約3回用量である。一部の具体例において、少なくとも1つのさらに高い用量および/または誘導用量は、1回、週1回、2週に1回、または月1回患者に投与される。一部の具体例において、少なくとも1つのさらに高い用量および/または誘導用量は、患者に静脈内に投与される。一部の具体例において、少なくとも1つのさらに高い用量および/または誘導用量は、患者に皮下で投与される。一部の具体例において、それぞれのさらに高い用量は、1回以上皮下注射で患者に投与される。一部の具体例において、それぞれのさらに高い用量は、2回連続皮下注射で患者に投与される。
【0115】
一部の具体例において、少なくとも1つのさらに低い用量および/または維持用量は、用量当たり約340mgである。一部の具体例において、少なくとも1つのさらに低い用量および/または維持用量は、用量当たり約340mgで約1回用量、約2回用量、約3回用量、約4回用量または約5回用量である。一部の具体例において、少なくとも1つのさらに低い用量および/または維持用量は、約340mgで約3回用量である。一部の具体例において、少なくとも1つのさらに低い用量および/または維持用量は、1回、週1回、2週に1回または月1回患者に投与される。一部の具体例において、少なくとも1つのさらに低い用量および/または維持用量は、患者に皮下で投与される。一部の具体例において、それぞれのさらに低い用量は、1回以上皮下注射で患者に投与される。一部の具体例において、それぞれのさらに低い用量は、1回皮下注射で患者に投与される。
【0116】
一部の具体例において、抗体または抗原結合断片は、約1mg/kg~約2000mg/kg体重の用量で患者に投与される。一部の具体例において、抗体または抗原結合断片は、約1mg/kg~約200mg/kg、約200mg/kg~約400mg/kg、約400mg/kg~約600mg/kg、約600mg/kg~約800mg/kg、約800mg/kg~約1000mg/kg、約1000mg/kg~約1200mg/kg、約1200mg/kg~約1400mg/kg、約1400mg/kg~約1600mg/kg、約1600mg/kg~1800mg/kgまたは約1800mg/kg~約2000mg/kgの用量で患者に投与される。一部の具体例において、抗体または抗原結合断片は、約1mg/kg~約200mg/kgの用量で患者に投与される。一部の具体例において、抗体または抗原結合断片は、約1mg/kg、約10mg/kg、約20mg/kg、約30mg/kg、約40mg/kg、約50mg/kg、約60mg/kg、約70mg/kg、約80mg/kg、約90mg/kg、約100mg/kg、約110mg/kg、約120mg/kg、約130mg/kg、約140mg/kg、約150mg/kg、約160mg/kg、約170mg/kg、約180mg/kg、約190mg/kgまたは約200mg/kgの用量で患者に投与される。一部の具体例において、抗体または抗原結合断片は、約1mg/kg~約40mg/kgの用量で患者に投与される。一部の具体例において、抗体または抗原結合断片は、約1mg/kg、約5mg/kg、約10mg/kg、約15mg/kg、約20mg/kg、約25mg/kg、約30mg/kg、約35mg/kgまたは約40mg/kgの用量で患者に投与される。
【0117】
抗体または抗原結合断片が単一薬剤または1つ以上の追加治療剤と併用で患者に投与される頻度は、1回または1回以上でありうる。一部の具体例において、抗体または抗原結合断片は、一度に投与される。一部の具体例において、抗体または抗原結合断片は、複数回投与される。投与間隔は、例えば、毎日、毎週、隔週、毎月または毎年でありうる。間隔は、また、例えば所望の治療または予防効果を提供するために抗体または抗原結合断片の相対的に一貫した血しょう濃度を維持するために患者で抗体または抗原結合断片の血中濃度測定に基づくか、または少なくとも1つの自己抗体および/または病原性抗体(例えば、少なくとも1つのIgG)の減少したレベルを維持するために少なくとも1つの自己抗体および/または病原性抗体(例えば、少なくとも1つのIgG)の濃度測定に基づいて不規則になり得る。代替的に、一部の具体例において、抗体または抗原結合断片は、徐放性剤形として投与することができ、この場合、頻繁がより低い投与が必要である。投与量および間隔は、患者で抗体または抗原結合断片の半減期によって変わることができる。投与量および投与頻度は、また、治療が予防または治療であるかによって多様である。予防的適用で、相対的に低い用量は、長期間にわたって相対的に珍しい間隔で投与することができる。一部の患者は、残った一生の間治療を継続して受ける。治療的適用で、相対的にさらに短い間隔で相対的にさらに高い用量は、時々疾患の進行が減少または終結するまで、好ましくは患者が疾患の1つ以上の症状を部分的または完全な改善を示すまで必要である。その後、さらに低い、例えば、予防療法を患者に投与することができる。
【0118】
一部の具体例において、抗体、抗原結合断片または薬学的組成物は、約1日、2日、3日、4日、5日、6日、7日、8日、9日、10日、11日、12日、13日、14日、1週、2週、3週、4週、1ヶ月、2ヶ月、3ヶ月、4ヶ月、5ヶ月、6ヶ月、7ヶ月、8ヶ月、9ヶ月、10ヶ月、11ヶ月、12ヶ月、18ヶ月、24ヶ月、30ヶ月、36ヶ月またはそれ以上の期間にわたって1回または1回以上患者に投与される。
【0119】
一部の具体例において、抗体、抗原結合断片または薬学的組成物は、週1回患者に投与される。一部の具体例において、抗体、抗原結合断片または薬学的組成物は、少なくとも1週、少なくとも2週、少なくとも3週、少なくとも4週、少なくとも5週、少なくとも6週、少なくとも7週、少なくとも8週、少なくとも9週、少なくとも10週、少なくとも20週、少なくとも24週、少なくとも30週、少なくとも40週、少なくとも50週、少なくとも60週、少なくとも70週、少なくとも76週、少なくとも80週またはそれ以上の期間中に週1回患者に投与される。
【0120】
一部の具体例において、抗体、抗原結合断片または薬学的組成物は、6週~76週間またはその間の任意の時間中に週1回患者に投与される。一部の具体例において、抗体、抗原結合断片または薬学的組成物は、少なくとも6週間週1回患者に投与される。一部の具体例において、抗体、抗原結合断片または薬学的組成物は、少なくとも12週間週1回患者に投与される。一部の具体例において、抗体、抗原結合断片または薬学的組成物は、少なくとも24週間週1回患者に投与される。一部の具体例において、抗体、抗原結合断片または薬学的組成物は、少なくとも26週間週1回患者に投与される。一部の具体例において、抗体、抗原結合断片または薬学的組成物は、少なくとも52週間週1回患者に投与される。一部の具体例において、抗体、抗原結合断片または薬学的組成物は、少なくとも76週間週1回患者に投与される。一部の具体例において、抗体、抗原結合断片または薬学的組成物は、グレーブス眼症の全体活動性/炎症段階またはその一部の期間中に週1回投与される。一部の具体例において、抗体、抗原結合断片または薬学的組成物は、約2年、約3年またはその間の任意の時期の間週1回投与される。一部の具体例において、抗体、抗原結合断片または薬学的組成物は、約2年~約3年(例えば、約2年、約2.5年、約3年)間週1回投与される。一部の具体例において、抗体、抗原結合断片または薬学的組成物は、約2年未満(例えば、約1.5年未満、約1年未満等)間週1回投与される。一部の具体例において、抗体、抗原結合断片または薬学的組成物は、約3年を超過(例えば、約3.5年以上、約4年以上等)する期間中に、週1回投与される。一部の具体例において、抗体、抗原結合断片または薬学的組成物は、グレーブス眼症の活動性/炎症段階の一部(例えば、活動性/炎症期の半分または大部分)にのみ週1回投与される。一部の具体例において、抗体、抗原結合断片または薬学的組成物は、グレーブス眼症の1つ以上の症状の治療、予防、重症度減少、発明遅延および/または発生危険減少に十分となるまで週1回患者に投与される。
【0121】
一部の具体例において、抗体、抗原結合断片または薬学的組成物は、1回皮下注射で週1回患者に投与される。一部の具体例において、抗体、抗原結合断片または薬学的組成物は、2回以上連続皮下注射(例えば、2回連続皮下注射)で週1回患者に投与される。皮下注射(または他の投与経路)の文脈で本明細書で使用されたように用語「連続」は、順に投与されるが、所望の治療または予防効果を提供するために時間が十分に近い2回以上の皮下注射を指す。一部の具体例において、連続皮下注射は、互いに約30秒以内、約1分以内、約2分以内、約5分以内、約10分以内、約30分以内、約1時間以内、約2時間以内または約5時間以内に投与される。
【0122】
一部の具体例において、抗体、抗原結合断片または薬学的組成物は、2週に1回(隔週)患者に投与される。一部の具体例において、抗体、抗原結合断片または薬学的組成物は、少なくとも2週、少なくとも4週、少なくとも6週、少なくとも8週、少なくとも10週、少なくとも20週、少なくとも24週、少なくとも30週、少なくとも40週、少なくとも50週、少なくとも60週、少なくとも70週、少なくとも76週、少なくとも80週またはそれ以上の期間中に2週に1回患者に投与される。一部の具体例において、抗体、抗原結合断片または薬学的組成物は、6~76週またはその間の任意の時間中に2週に1回患者に投与される。一部の具体例において、抗体、抗原結合断片または薬学的組成物は、少なくとも6週間2週に1回患者に投与される。一部の具体例において、抗体、抗原結合断片または薬学的組成物は、少なくとも12週間2週に1回患者に投与される。一部の具体例において、抗体、抗原結合断片または薬学的組成物は、少なくとも24週間2週に1回患者に投与される。一部の具体例において、抗体、抗原結合断片または薬学的組成物は、少なくとも26週間2週に1回患者に投与される。一部の具体例において、抗体、抗原結合断片または薬学的組成物は、少なくとも52週間2週に1回患者に投与される。一部の具体例において、抗体、抗原結合断片または薬学的組成物は、少なくとも76週以上の間2週に1回患者に投与される。一部の具体例において、抗体、抗原結合断片または薬学的組成物は、グレーブス眼症の全体活動性/炎症段階またはその一部の期間中に2週に1回投与される。一部の具体例において、抗体、抗原結合断片または薬学的組成物は、約2年、約3年またはその間の任意の時間中に2週に1回投与される。一部の具体例において、抗体、抗原結合断片または薬学的組成物は、約2~約3年(例えば、約2年、約2.5年、約3年)の期間中に2週に1回投与される。一部の具体例において、抗体、抗原結合断片または薬学的組成物は、約2年未満(例えば、約1.5年未満、約1年未満等)の期間中に2週に1回投与される。一部の具体例において、抗体、抗原結合断片または薬学的組成物は、約3年を超過(例えば、約3.5年以上、約4年以上等)する期間中に、2週に1回投与される。一部の具体例において、抗体、抗原結合断片または薬学的組成物は、グレーブス眼症の活動性/炎症段階(例えば、活動性/炎症段階の半分または大部分)の一部にのみ2週に1回投与される。一部の具体例において、抗体、抗原結合断片または薬学的組成物は、グレーブス眼症の1つ以上の症状の治療、予防、重症度減少、発明遅延、および/または発生危険減少に十分となるまで2週に1回患者に投与される。一部の具体例において、抗体、抗原結合断片または薬学的組成物は、単回皮下注射で2週に1回患者に投与される。一部の具体例において、抗体、抗原結合断片または薬学的組成物は、2回連続皮下注射で2週に1回患者に投与される。
【0123】
一部の具体例において、抗体、抗原結合断片または薬学的組成物は、月1回患者に投与される。一部の具体例において、抗体、抗原結合断片または薬学的組成物は、少なくとも1ヶ月、少なくとも2ヶ月、少なくとも3ヶ月、少なくとも4ヶ月、少なくとも5ヶ月、少なくとも6ヶ月、少なくとも7ヶ月、少なくとも8ヶ月、少なくとも9ヶ月、少なくとも10ヶ月、少なくとも11ヶ月、少なくとも12ヶ月、少なくとも18ヶ月、少なくとも24ヶ月、少なくとも30ヶ月、少なくとも36ヶ月、またはそれ以上の期間中に月1回患者に投与される。一部の具体例において、抗体、抗原結合断片または薬学的組成物は、グレーブス眼症の全体活動性/炎症段階またはその一部の期間中に月1回投与される。一部の具体例において、抗体、抗原結合断片または薬学的組成物は、約2年、約3年またはその間の任意の期間中に月1回投与される。一部の具体例において、抗体、抗原結合断片または薬学的組成物は、約2年~約3年(例えば、約2年、約2.5年、約3年)の期間中に月1回投与される。一部の具体例において、抗体、抗原結合断片または薬学的組成物は、約2年未満(例えば、約1.5年以下、約1年以下等)の期間中に月1回投与される。一部の具体例において、抗体、抗原結合断片または薬学的組成物は、約3年を超過(例えば、約3.5年以上、約4年以上等)する期間中に、月1回投与される。一部の具体例において、抗体、抗原結合断片または薬学的組成物は、グレーブス眼症の活動性/炎症段階の一部(例えば、活動性/炎症段階の半分または大部分)にのみ月1回投与される。一部の具体例において、抗体、抗原結合断片または薬学的組成物は、グレーブス眼症の1つ以上の症状の治療、予防、重症度減少、発病遅延および/または発生危険を減少させる時まで月1回患者に投与される。一部の具体例において、抗体、抗原結合断片または薬学的組成物は、単回皮下注射で月1回患者に投与される。一部の具体例において、抗体、抗原結合断片または薬学的組成物は、2回以上連続皮下注射で月1回患者に投与される。
【0124】
本明細書で開示された治療方法、用途および組成物の一部の具体例において、抗体または抗原結合断片の治療的有効量は、約200~300mgである。一部の具体例において、抗体または抗原結合断片の治療的有効量は、週1回投与される約200~300mgである。一部の具体例において、抗体または抗原結合断片の治療的有効量は、約300~400mgである。一部の具体例において、抗体または抗原結合断片の治療的有効量は、週1回投与される約300~400mgである。一部の具体例において、抗体または抗原結合断片の治療的有効量は、約400~500mgである。一部の具体例において、抗体または抗原結合断片の治療的有効量は、週1回投与される約400~500mgである。一部の具体例において、抗体または抗原結合断片の治療的有効量は、約500~600mgである。一部の具体例において、抗体または抗原結合断片の治療的有効量は、週1回投与される約500~600mgである。一部の具体例において、抗体または抗原結合断片の治療的有効量は、約255mgである。一部の具体例において、抗体または抗原結合断片の治療的有効量は、週1回投与される約255mgである。一部の具体例において、抗体または抗原結合断片の治療的有効量は、約340mgである。一部の具体例において、抗体または抗原結合断片の治療的有効量は、週1回投与される約340mgである。
【0125】
本明細書で開示された治療方法、用途および組成物の一部の具体例において、抗体または抗原結合断片の治療的有効量は、約550~650mgである。一部の具体例において、抗体または抗原結合断片の治療的有効量は、週1回投与される約550~650mgである。一部の具体例において、抗体または抗原結合断片の治療的有効量は、約650~750mgである。一部の具体例において、抗体または抗原結合断片の治療的有効量は、週1回投与される約650~750mgである。一部の具体例において、抗体または抗原結合断片の治療的有効量は、約750~850mgである。一部の具体例において、抗体または抗原結合断片の治療的有効量は、週1回投与される約750~850mgである。一部の具体例において、抗体または抗原結合断片の治療的有効量は、約680mgである。一部の具体例において、抗体または抗原結合断片の治療的有効量は、週1回投与される約680mgである。
【0126】
本明細書で開示された治療方法、用途および組成物の一部の具体例において、抗体または抗原結合断片の治療的有効量は、少なくとも約680mg(すなわち、約680mg以上)の少なくとも1回用量、引き続き約340mgの少なくとも1回用量である。一部の具体例において、抗体または抗原結合断片の治療的有効量は、用量当たり少なくとも約680mgの3回用量(すなわち、用量当たり約680mg以上、例えば、用量当たり680mg)、引き続いて用量当たり約340mgの3回用量(例えば、用量当たり340mg)である。
【0127】
一部の具体例において、少なくとも約680mgの少なくとも1回用量は、皮下で投与される。一部の具体例において、少なくとも約680mgの少なくとも1回用量は、2回連続皮下注射で投与される。一部の具体例において、少なくとも約680mgの少なくとも1回用量は、静脈内に投与される。一部の具体例において、少なくとも約680mgの少なくとも1回用量は、約1回用量、約2回用量、約3回用量、約4回用量または約5回用量を含む。一部の具体例において、少なくとも約680mgの少なくとも1回用量は、約3回用量を含む。
【0128】
一部の具体例において、約340mgの少なくとも1回用量は、皮下で投与される。一部の具体例において、約340mgの少なくとも1回用量は、1回皮下注射で投与される。一部の具体例において、約340gmの少なくとも1回用量は、約1回用量、約2回用量、約3回用量、約4回用量または約5回用量を含む。一部の具体例において、約340mgの少なくとも1回用量は、約3回用量を含む。
【0129】
一部の具体例において、多重投与療法の各用量(例えば、本明細書で記述された多重投与療法、例えば、少なくとも1回さらに高い用量、引き続いて少なくとも1回さらに低い用量)は、週1回投与される。一部の具体例において、多重投与療法の各用量(例えば、本明細書で記述された多重投与療法、例えば、少なくとも1回さらに高い用量、引き続いて少なくとも1回さらに低い用量)は、2週に1回投与される。一部の具体例において、多重投与療法の各用量(例えば、本明細書で記述された多重投与療法、例えば、少なくとも1回さらに高い用量、引き続いて少なくとも1回さらに低い用量)は、月1回投与される。
【0130】
多様な具体例において、本開示物は、本明細書で記述された治療的適用での使用のためのキットを提供する。多様な具体例において、本開示物は、グレーブス眼症の治療または予防での使用のための抗FcRn抗体またはその抗原結合断片を含むキットを提供する。多様な具体例において、キットは、使用のための説明書;他の薬剤、例えば、1つ以上の追加治療剤;治療的投与のための抗体または抗原結合断片を製造するための装置、容器、または他の素材;薬学的に許容可能な担体(例えば、賦形剤);および患者に抗体または抗原結合断片を投与するための装置、容器または他の素材を含むが、これに制限されない1つ以上の追加成分をさらに含む。使用のための説明書は、例えば、グレーブス眼症を有するかまたは疑いがある患者で提案された投与量および/または投与方式を含む治療的適用のための案内書を含むことができる。多様な具体例において、キットは、抗FcRn抗体またはその抗原結合断片および治療的使用、例えば、患者でグレーブス眼症を治療または予防するための抗体または抗原結合断片の使用のための説明書を含む。多様な具体例において、キットは、少なくとも1つの追加治療剤(例えば、抗体または抗原結合断片と併用で投与するための)をさらに含む。多様な具体例において、抗体または抗原結合断片は、薬学的組成物として剤形化される。
【0131】
一部の具体例において、抗FcRn抗体または抗原結合断片は、遺伝子組換え方法を用いた発現および精製によって生産される。一部の具体例において、抗体または抗原結合断片の可変領域をエンコードするポリヌクレオチド配列は、個別宿主細胞でまたは単一宿主細胞で同時に発現によって生産される。
【0132】
本明細書で使用される場合、用語「組換えベクター」は、適当な宿主細胞で目的タンパク質を発現できる発現ベクターを指す。用語は、核酸インサートを発現するために作動可能に連結された必須調節要素を含むDNA構造物を含む。
【0133】
本明細書で使用される場合、用語「作動可能に連結された」は、一般的な機能を行うために目的タンパク質をエンコードする核酸配列に機能的に連結された核酸発現調節配列を指す。組換えベクターとの作動可能な連結は、当業界によく知られた遺伝子組換え技術を用いて行われ得、部位特異的的DNA切断およびライゲーションは、当業界に一般的に公知された酵素を使用して容易に行われ得る。
【0134】
適当な発現ベクターは、プロモーター、オペレーター、開始コドン、終結コドン、ポリアデニル化シグナルおよびエンハンサーのような発現調節要素、そして、膜標的化または分泌のための信号配列を含むことができる。開始および終結コドンは、一般的に免疫原性標的タンパク質をエンコードするヌクレオチド配列の一部と見なされ、遺伝子構造物が投与される個体で機能的であるべきであり、コード配列を有するフレーム内にあるべきである。プロモーターは、一般的に構成的または誘導的でありうる。原核性プロモーターは、lac、tac、T3およびT7プロモーターを含むが、これに制限されるものではない。真核性プロモーターは、シミアンウイルス40(simian virus 40(SV40))プロモーター、マウス乳腺癌ウイルス(mouse mammary tumor virus(MMTV))プロモーター、HIV Long Terminal Repeat(LTR)プロモーターのようなヒト免疫欠乏ウイルス(human immunodeficiency virus(HIV))プロモーター、マロニーウイルス(moloney virus)プロモーター、サイトメガロウイルス(cytomegalovirus(CMV))プロモーター、エプスタイン・バール・ウイルス(epstein barr virus(EBV))プロモーター、ラウス肉腫ウイルス(rous sarcoma virus(RSV))プロモーター、そして、ヒトβ-アクチン、ヒトヘモグロビン、ヒト筋肉クレアチンおよびメタロチオネインのようなヒト遺伝子由来のプロモーターを含むが、これらに制限されるものではない。発現ベクターは、ベクターを含む宿主細胞を選択できるようにする選択マーカーを含むことができる。薬物に対する耐性、栄養要求、または細胞毒性剤に対する耐性または表面タンパク質の発現のような選択可能な表現型を付与する産物に対してコードする遺伝子を一般選択マーカーとして使用できる。選択マーカーを発現する細胞のみが、選択剤が処理された環境で生存するので、形質転換された細胞が選択され得る。また、複製可能な発現ベクターは、複製を開始する特定の核酸配列である複製起点を含むことができる。使用できる組換え発現ベクターは、プラスミド、ウイルスおよびコスミドのような多様なベクターを含む。組換えベクターの種類は、制限されるものではなく、組換えベクターは、原核および真核細胞のような多様な宿主細胞で所望の遺伝子を発現し、所望のタンパク質を生産する機能をすることができる。一部の具体例において、強い活性を示すプロモーターと強い発現能を有し、かつ、天然タンパク質と類似した大量の外来タンパク質を生産できるベクターが使用される。
【0135】
多様な発現宿主/ベクター組合が抗FcRn抗体またはその抗原結合断片を発現するのに使用できる。例えば、真核宿主に適当な発現ベクターは、SV40、ウシパピローマウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、サイトメガロウイルスおよびレトロウイルスを含むが、これらに制限されるものではない。細菌性宿主に使用できる発現ベクターは、pET、pRSET、pBluescript、pGEX2T、pUC、col E1、pCR1、pBR322、pMB9およびこれらの誘導体のような細菌性プラスミド、さらに広い宿主範囲を有するRP4のようなプラスミド、gt10、gt11およびNM989のような多様なファージラムダ誘導体と代表されるファージDNA、およびM13および繊維状1本鎖DNAファージのような他のDNAファージを含む。酵母細胞に有用な発現ベクターは、2μmプラスミドおよびこれらの誘導体を含む。昆虫細胞に有用なベクターは、pVL941である。
【0136】
一部の具体例において、組換えベクターは、宿主細胞に導入されて形質転換体を形成する。使用に適当な宿主細胞は、大腸菌(E.coli)、バチルス・サブティリス(Bacillus subtilis)、ストレプトマイセス属(Streptomyces sp.)、シュードモナス属(Pseudomonas sp.)、プロテウス・ミラビリス(Proteus mirabilis)およびスタフィロコッカス属(Staphylococcus sp.)のような原核細胞、アスペルギルス属(Aspergillus sp.)のような真菌、ピキア・パストリス(Pichia pastoris)、サッカロミケス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、シゾサッカロミケス属(Schizosaccharomyces sp.)およびニューロスポラ・クラッサ(Neurospora crassa)のような酵母、およびさらに下等の真核細胞および昆虫細胞のようなさらに高等の他の真核細胞を含む。
【0137】
一部の具体例において、宿主細胞は、植物または動物(例えば、哺乳動物)に由来し、その例示は、サル腎臓細胞(COS7)、NSO細胞、SP2/0、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、W138、ベビーハムスター腎臓(BHK)細胞、MDCK、骨髄腫細胞、HuT 78細胞およびHEK293細胞を含むが、これらに制限されるものではない。一部の具体例において、CHO細胞が使用される。
【0138】
宿主細胞への形質感染または形質転換は、核酸が生物体、細胞、組織または器官に導入され得る任意の方法を含むことができ、当業界に公知のように、宿主細胞の種類によって選択された適当な標準技術を用いて行われ得る。方法は、電気穿孔、原形質融合、リン酸カルシウム(CaPO4)沈殿、塩化カルシウム(CaCl2)沈殿、炭化ケイ素繊維との撹拌、およびアグロバクテリウム-、PEG-、硫酸デキストラン-、リポフェクタミン-および乾燥/阻害-媒介形質転換を含むが、これらに制限されるものではない。
【0139】
抗FcRn抗体または抗原結合断片は、組換えベクターを含む形質転換体を栄養培地で培養して多量で生産することができ、使用される培地および培養条件は、宿主細胞の種類によって選択することができる。培養中に、温度、培地のpHおよび培養時間を含む条件は、細胞の成長およびタンパク質の大量生産に適合するように調節することができる。本明細書で記述されたような組換え方法によって生産された抗体または抗原結合断片は、培地または細胞溶解物から収集することができ、伝統的な生化学分離技術によって単離および精製することができる(Sambrook et al.,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,2nd Ed.,Cold Spring Harbor Laboratory Press(1989);Deuscher,Guide to Protein Purification Methods Enzymology,Vol.182.Academic Press.Inc.,San Diego,CA(1990))。これらの技術は、電気泳動、遠心分離、ゲル濾過、沈殿、透析、クロマトグラフィー(例えば、イオン交換クロマトグラフィー、親和性クロマトグラフィー、免疫吸着クロマトグラフィー、サイズ排除クロマトグラフィー等)、等電点電気泳動および多様な変形およびその組合せを含むが、これに制限されるものではない。一部の具体例において、抗体または抗原結合断片は、タンパク質Aを用いて単離および精製される。
【0140】
以下、実施例を参照して本発明をより詳細に説明する。このような実施例は、ただ例示的な目的であり、本開示内容の範囲を制限するものと解釈されないことは当業者に明白である。
【実施例】
【0141】
実施例1:形質転換ラットを用いた抗FcRn発現ライブラリー構築
合計6匹の形質転換ラット(OmniRat(登録商標)、OMT)を用いて免疫化(immunization)を行った。免疫原としては、ヒトFcRnを使用した。ラットの両足蹠は、24日間3日間隔でアジュバントと共に0.0075mgのヒトFcRn(毎回)で8回免疫化された。28日目、ラットをPBS緩衝液で希釈された5~10μgの免疫原で免疫化させた。28日目、ラット血清を収集して抗体力価を測定した。31日目、ラットを安楽死させ、P3X63/AG8.653骨髄腫細胞との融合のために膝窩部リンパ節と鼠径部リンパ節を回収した。
【0142】
ラット血清で抗体力価を測定するためにELISA分析を行った。具体的に、ヒトFcRnをPBS(pH6.0またはpH7.4)緩衝液に希釈して2μg/mLの溶液を作って、96ウェルプレートの各ウェルに100μLの溶液をコートした後、4℃で少なくとも18時間インキュベートした。各ウェルを300μLの洗浄緩衝液(PBS中0.05%ツイーン20)で3回洗浄し、結合しないヒトFcRnを除去した後、200μLのブロッキング緩衝液を各ウェルに添加し、室温で2時間インキュベートした。試験血清サンプルを1/100で希釈した後、溶液を連続2倍希釈して、希釈係数が1/100~1/256,000である合計10個の試験サンプルを作った。ブロッキング後、各ウェルを300μLの洗浄緩衝液で洗浄した後、各試験サンプルを各細胞に添加し、室温で2時間インキュベートした。3回洗浄後、PBS緩衝液に1:50,000希釈された2次検出抗体100μLを各ウェルに添加し、室温で2時間インキュベートした。さらに3回洗浄した後、100μLのTMB溶液を各ウェルに添加し、常温で10分間反応させた後、1M硫酸含有停止溶液(sulfuric acid-containing stop solution)50μLを各ウェルに添加して反応を停止させた後、450nmでOD値をマイクロプレートリーダーで測定した。免疫化による抗ヒトFcRn(hFcRn)IgG力価は、ラットの免疫前血清より高かった。
【0143】
ポリエチレングリコールを使用して融合した合計3個のハイブリドーマライブラリーA、BおよびCが作成された。具体的に形質転換ラット1と5を使用してハイブリドーマライブラリーAを作成し、ラット2と6を使用してハイブリドーマライブラリーBを作成し、ラット3と4を使用してハイブリドーマライブラリーCを作成した。各ハイブリドーマ構築のためのハイブリドーマライブラリー融合混合物をHATに融合した細胞のみが選択されるようにHAT含有培地で7日間培養された。HAT培地で生存できるハイブリドーマ細胞をHT培地で約6日間収集して培養した後、上清を収集し、ラットIgG ELISAキット(RD-biotech)を使用して上清中のラットIgGの量を測定した。具体的に、各サンプルは、1:100で希釈し、100μLの希釈液をELISAプレートの各ウェルに添加し、ペルオキシダーゼ接合抗ラットIgGと混合した後、室温で15分間反応させた。各ウェルに100μLのTMB溶液を入れ、常温で10分間反応させた後、各ウェルに50μLの1M硫酸含有停止溶液を添加して反応を停止させた。次に、450nmでOD値をマイクロプレートリーダーで測定した。
【0144】
実施例2:ハイブリドーマライブラリーの抗hFcRn抗体の抗原結合親和性およびIgG結合遮断能力評価
hFcRnに対する抗体の結合を分析するために、上記で言及したのと同じELISA分析(pH6.0およびpH7.4)を行った。
【0145】
3個のハイブリドーマライブラリーの培養上清を使用して5ng/mLおよび25ng/mLでFACSによるhFcRn結合親和性評価をpH6.0およびpH7.4で行った。ヒトFcRn安定発現HEK293細胞をフラスコから分離した後、反応緩衝液(PBS中0.05% BSA、pH6.0またはpH7.4)に懸濁させた。懸濁液を2×106細胞/mLの細胞密度で希釈し、希釈液50pLを96ウェルプレートの各ウェルに添加した。次に、10ng/mLおよび50ng/mL各々で希釈されたハイブリドーマライブラリー培養上清50μLを各ウェルに添加し懸濁して、抗体が結合されるようにした。A488ウサギ抗IgG塩素抗体を反応緩衝液に1:200で希釈し、100μLの希釈液を各ウェルに添加し、細胞ペレットと混合して結合反応を行った後、150pLの反応緩衝液を各ウェルに添加した。測定は、FACS(BD)で行われた。
【0146】
FACSによるハイブリドーマライブラリーのヒトFcRn遮断能力の評価は、pH6.0で行われた。具体的に、純粋なHEK293細胞およびヒトFcRn過発現HEK293細胞を反応緩衝液(PBS中0.05% BSA、pH6.0)に懸濁させた。1×105細胞を96ウェルプレートに添加し、ハイブリドーマライブラリー培養上清4nMおよび前記上清10倍希釈液0.4nM各々で処理した。hlgG遮断能力を確認するために、100nM A488-hIgGlを各ウェルに添加した後、氷上に90分間インキュベートした。反応完了後、細胞ペレットを100μLの反応緩衝液で洗浄し、U字状丸底チューブに移してFACSで測定した。ヒトFcRn過発現安定細胞に残っている100nM A488-hIgG1の量を測定した後、遮断率(%)を計算した。アイソタイプ対照群としては、hlgGlを使用し、陽性対照群としては、以前に開発されたHL161-1 Ag抗体を使用して抗体遮断効果を比較評価した。各対照群を1μMおよび2μMの濃度で分析し、ハイブリドーマライブラリーサンプルを0.4nMおよび4nMの2つの濃度で測定した。
【0147】
実施例3:FACSによるハイブリドーマクローンの分離およびヒト抗体の選別
ヒトFcRn結合親和性と遮断効果が最も高いハイブリドーマライブラリーAを使用してFACS(フローサイトメトリー)でクローンを単離して、合計442個の単クローンを得た。単離した単クローンをHT培地で培養し、上清を収集した。FACSによって上清でhFcRnに結合する抗体発現ハイブリドーマクローンを選別した。
【0148】
FACS分析によって選別された100個の単クローンからRNAを単離し、単離したRNAをシーケンシングした。第1段階のシーケンシングでは、100個の単クローンのうち88個をシーケンシングし、アミノ酸配列によって合計35個のグループ(G1~G38)に分割した。培地を確保できない2個のクローン(G33およびG35)を除いた33個のグループの代表クローンの培養上清を100ng/mLの濃度で希釈し、hFcRnに対する結合親和性をELISAで評価した。
【0149】
上記と同じ方法でpH6.0および7.4でFACSによるhFcRn結合親和性評価を行った。クローンの結合親和性の順序は、pHの間で類似しており、結合強度は、多様なレベルで示された。
【0150】
また、33個のクローンのhFcRn遮断効果に対する評価は、pH6.0でFACSによって行われた。遮断率(%)は、測定されたMFI値を基準として計算された。1667pMの濃度で遮断率%の分析結果を基にクローンを次の総4個のグループに分けた:グループA:70-100%;グループB:30-70%;グループC:10-30%;およびグループD:10%以下。
【0151】
SPRによるハイブリドーマクローンの動力学分析のために、ヒトFcRnを固定させた後、ハイブリドーマ培養物を分析物として使用して分析を行った。
【0152】
5個のハイブリドーマクローンのうちhFcRn遮断効果分析結果によって分割されたグループAおよびBのCDR配列のうちN-グリコシル化部位または遊離システインがない18個のクローンの遺伝子を全体ヒトIgG配列に転換した。
【0153】
具体的に、NCBIウェブページのIg BLASTプログラムを使用して18個の選別された抗体とヒト生殖系抗体グループのVHおよびVLの間のアミノ酸配列類似性を調査した。
【0154】
18個のヒト抗体遺伝子をクローニングするために、制限酵素認識部位を下記のように遺伝子の両端に挿入した。EcoRI/Apalは、重鎖可変ドメイン(VH)に挿入された;EcoRI/Xholは、軽鎖ラムダ可変ドメイン(VL(λ))に挿入された;EcoRI/Nhel制限酵素認識部位は、軽鎖カッパ可変ドメイン(VL(κ))に挿入された。軽鎖可変ドメインの場合、軽鎖ラムダ変数(VL(λ))遺伝子配列は、遺伝子クローニング中にヒト軽鎖定数(LC(λ))領域遺伝子に連結され、軽鎖カッパ変数(VL(κ))遺伝子配列は、ヒト 軽鎖定数(LC(κ))領域遺伝子に連結された。
【0155】
動物細胞で抗体の発現のためにpCHOl.O発現ベクターでクローニングするとき、軽鎖および重鎖遺伝子をEcoRV、Pad、AvrIIおよびBstZl7I制限酵素で切断した後、挿入した。選別した18個のヒト抗体遺伝子を含むpCHOl.O発現ベクターが合成された遺伝子配列と一致するかを確認するためにDNAシーケンシングを行った。
【0156】
すべての抗体軽鎖および重鎖遺伝子を含む動物細胞発現システムであるpCHO1.O発現ベクターを使用して全体ヒトIgGを発現させた。ヒト抗体は、各抗体のプラスミドDNAをCHO-S細胞に一時的に形質感染させ、培地に分泌された抗体をタンパク質Aカラムで精製して収得した。
【0157】
ヒトIgGをhFcRn発現Tg32(hFcRn+/+、hfi2m+/+、mFcRn-/-、ihb2ih-/-)マウス(Jackson Laboratory)に注入した後、抗体がヒトIgGの異化作用に影響を及ぼすか否かを調査するために、ヒトIgG配列に転換された18個のヒト抗体をマウスに投与した。
【0158】
抗原に対する結合親和性(K
D)に対するインビトロ分析結果およびFACSによるヒトFcRn結合親和性および遮断効果分析およびヒトIgGの異化作用のインビボ分析を基に、4個のヒト抗FcRn抗体タンパク質(HL161A、HL161B、HL161CおよびHL161D)が選別された(
図1)。また、HL161B抗体の重鎖可変ドメインの位置83にあるアスパラギン(N)をリシン(K)で置換して、N-グリコシル化部位がないHL161BK抗体を製作した。HL161BKN抗体(RVT-1401)は、また、HL161BK抗体の重鎖(すなわち、IgG1重鎖不変領域内)の位置238および239にあるリシン(K)をアラニン(A)で置換して製造した。選別されたヒトFcRn抗体のヌクレオチド配列、アミノ酸配列およびCDR配列は、表1~表5に示した。
【0159】
【表1-1】
【表1-2】
【表1-3】
【表1-4】
【0160】
【0161】
【0162】
【0163】
【0164】
実施例4:表面プラズモン共鳴(SPR)によるHL161A、HL161B、HL161CおよびHL161D抗体の抗原結合親和性測定
HL161A、HL161B、HL161CおよびHL161D抗体の結合親和性は、水溶性hFcRnをリガンドとしてProteon GLCチップ(Bio-Rad)に固定し、SPRで親和性を測定した。Proteon XPR36システムを使用して動力学分析を行った。水溶性ヒトFcRn(shFcRn)をGLCチップに固定し、抗体サンプルを5の濃度で反応させてセンソグラム結果を得た。動力学分析で、1:1 Langmuir結合モデルを使用し、pH6.0とpH7.4各々で6回反復分析して平均K
D値を計算した。固定化段階後、チップは、EDAC/NHS 0.5X、30μL/分および300秒の条件下で活性化した。固定化のために、shFcRnをアセテート緩衝液(pH5.5)で2μg/mLおよび250μLの濃度で希釈し、希釈液を30μL/分の速度でチップ上に流れるようにした。固定化レベルが200~300RUに到達すると、反応を中断させた。その後、エタノールアミンを使用して30μL/分の速度で300秒間不活性化を行った。それぞれのHL161抗体は、10nMから5nM、2.5nM、1.25nM、0.625nM、0.312nM等の濃度で連続的に2倍希釈してサンプルを準備した。サンプル希釈は、各pHで1×PBST(pH7.4)または1×PBST(pH6.0)を使用して行われた。サンプル分析のために200秒間50μL/分で結合を行い、600秒間50μL/分で解離段階を行った後、18秒間100μL/分でグリシン緩衝液(pH2.5)を使用して再生を行った。各サンプルの動力学分析は、6回繰り返され、その後、平均抗原結合親和性(K
D)を測定した。SPR分析結果、抗体の動力学パラメーターを表6に示した(
図2A~
図2H)。
【0165】
【0166】
実施例5:FACSによるヒトFcRnに対するHL161AおよびHL161B抗体の結合分析
ヒトFcRn発現安定HEK293細胞でFACSシステムを使用して各pHでFcRnに対する結合を分析した。FACSを用いたFcRn結合試験は、pH6.0およびpH7.4の反応緩衝液で行われた。具体的に、100,000個のヒトFcRn発現安定HEK293細胞をPBS緩衝液で洗浄し、テーブルマイクロ遠心分離機で4500rpmで5分間遠心分離して細胞ペレットを得た。抗体を100μLのpH6.0またはpH7.4 PBS/10mM EDTAに添加した。残った細胞ペレットを反応緩衝液に懸濁し、細胞計数を行った。10μLの細胞懸濁液をスライドに添加し、細胞懸濁液の細胞数をTC10システムで計数した後、細胞懸濁液を反応緩衝液で2×10
6の細胞/mLの細胞濃度で希釈した。各抗体サンプルは、500nMで希釈された。pH6.0での分析のために、希釈液を96ウェルのvボトムプレートで20nMで希釈し、50μLの希釈液を各ウェルに添加した。pH7.4での分析のために、500nM抗体サンプルを3倍連続希釈で希釈し、250nM~0.11nMの範囲の濃度で分析した。2×10
6細胞/mLで希釈された50μLの細胞を各ウェルに添加し、懸濁させた。プレートを4℃で回転体(rotator)に装着し、15°の角度および10rpmで90分間回転させた。反応が完了した後、プレートを回転体から取り出して2000rpmで10分間遠心分離して上清を除去した。A488抗hlgGヤギ抗体を反応緩衝液で1:200で希釈し、抗体希釈液100μLを各ウェルに添加し、懸濁させた。次に、プレートを4℃で回転体にさらに装着し、15°の角度および10rpmで90分間回転させた。反応が完了した後、プレートを回転体から取り出して2000rpmで10分間遠心分離して上清を除去した。もう一度洗浄した後、100μLの反応緩衝液を各ウェルに添加して細胞ペレットを溶解させ、プレートを青色試験チューブに移した。次に、200μLの反応緩衝液を各ウェルに添加し、FACSで測定を行った。FACS測定は、下記の条件下で行われた:FS 108ボルト、SS 426ボルト、FL1 324ボルト、FL2 300ボルト。このような細胞をBD FACSDiva
TM v6 l.3ソフトウェア(BD Bioscience)を使用してFACSで分析した。その結果は、平均蛍光強度(MFI)で示した(
図3)。HL161AおよびHL161B抗体は、10nMの濃度およびpH6.0でそれぞれ10.59および8.34のMFI値を示した。pH7.4および0.11~250nMの濃度で前記抗体は、MFI値を使用して4個のパラメーターロジスティック回帰分析によって分析されたように、それぞれ2.46nMおよび1.20nMのEC50(有効濃度50%)値を示した。
【0167】
実施例6:FACSによるHL161AおよびHL161B抗体の遮断効果分析
細胞表面にhFcRnを発現するHEK293細胞をHL161 AおよびHL161B抗体で処理し(以前に細胞表面ヒトFcRnに対する結合親和性分析)、抗体の遮断効果は、Alexa-Fluo-488標識されたhlgGlの結合減少を基に調査された。分析手続きは、下記のような方式で行われた。
【0168】
2mLの1×TEを各類型のナイーブHEK293細胞およびヒトFcRn過発現安定HEK293細胞に添加して、37℃の5%CO2インキュベーターで1分間インキュベートした。フラスコから細胞を回収し、反応緩衝液(pH6.0)8mLを加えた後、細胞を50mLコニカルチューブに移した。細胞懸濁液を2000rpmで5分間遠心分離して上清を除去し、各細胞ペレットに1mLの反応緩衝液(pH6.0)を添加した。その後、細胞懸濁液を新しい1.5mLエッペンドルフチューブに移した。次に、細胞懸濁液を4000rpmで5分間遠心分離し、上清を除去した。その後、残った細胞ペレットに反応緩衝液(pH6.0)を添加し、細胞懸濁液の細胞数を計数した。最後に、細胞懸濁液を2.5×106細胞/mLの細胞濃度で反応緩衝液で希釈した。
【0169】
各抗体サンプルを400nMで希釈した後、96ウェルvボトムプレートで4倍連続希釈で希釈した。200nM~0.01nMの最終濃度で希釈された50μLのサンプルを各ウェルに添加した。その後、1μM反応緩衝液(pH6.0)で希釈された10μLのAlex488-hIgGlをそれぞれウェルに入れた。最後に、2.5×106細胞/mLの細胞濃度で希釈された40μLの細胞を各ウェルに添加し、懸濁させた。プレートを4℃で回転体に装着し、15°の角度および10rpmで90分間回転させた。反応が完了した後、プレートを回転体から取り出して2000rpmで10分間遠心分離して上清を除去した。100μLの反応緩衝液を各ウェルに添加して細胞ペレットを溶解させ、プレートを青色チューブに移した。その後、200μLの反応緩衝液を各ウェルに添加し、FACSで測定を行った。FACS測定は、下記の条件下で行われた:FS 108ボルト、SS 426ボルト、FL1 324ボルト、FL2 300ボルト。このような細胞をBD FACSDivaTM v6 l.3ソフトウェア(BD Bioscience)を使用してFACSで分析した。その結果は、平均蛍光強度(MFI)で示した。試験群のMFIは、測定された細胞単独のMFI値(バックグラウンド信号)を抜いた後、処理された。対照群チューブ(Alexa Fluor 488単独、および競合製品(competitor)なし)の100%に対する競合製品含有チューブのMFI百分率を計算した。
【0170】
【0171】
MFIがヒトIgG1競合製品含有チューブのMFIより低いとき、競合抗体は、高い競争率を有することが測定された。pH6.0および0.01~200nMの濃度条件下でHL161AおよびHL161B抗体の測定された遮断効果(%)をベースに4-パラメーターロジスティック回帰を行った。その結果、HL161AおよびHL161B抗体は、それぞれ0.92nMおよび2.24nMのIC50(Inhibitory Concentration 50%)値を示すことを確認した(
図4)。
【0172】
実施例7:mFcRn-/-hFCRN形質転換32(Tg32)マウスでHL161AおよびHL161Bの効果に対する試験
抗体がヒトIgGの異化作用に影響を及ぼすかを調査するために、ヒトIgGをヒトFcRn-発現Tg32(hFcRn+/+、hβ2m+/+、mFcRn-/-、mβ2m-/-)マウス(Jackson Laboratory)に注入した後、ヒトIgGとともにHL161AおよびHL161Bをマウスに投与した。
【0173】
HL161AおよびHL161B抗体とヒトIgG(Greencross、IVglobulinS)を5、10および20mg/kgの用量で4日投与のために分配され、保管され、PBS(phosphate buffered saline)緩衝液(pH7.4)をビヒクルおよび20mg/kg IgG1対照群として使用した。FcRn Tg32マウスを約7日間適応させ、水と飼料を自由に提供した。温度(23±2℃)、 湿度(55±5%)およびl2-hr-明(light)/l2-hr-暗(dark)周期が自動で制御された。各動物グループは、4匹のマウスで構成された。ヒトIgGをトレーサーとして使用するために、キット(Pierce、Cat #.21327)を使用してビオチン接合hlgGを準備した。0時間に、インビボIgGを飽和させるために5mg/kgのビオチン-hlgGおよび495mg/kgのヒトIgGを腹腔内投与した。ビオチン-IgG投与後、24、48、72および96時間に各薬物を1日1回5、10および20mg/kgの用量で腹腔内注射した。採血のために、マウスをIsoflurane(JW Pharmaceutical)で軽く麻酔した後、ビオチン-IgG投与後、24、48、72、96、120および168時間にヘパリン化したマイクロヘマトクリットキャピラリーチューブ(Fisher)を使用して眼窩後の神経叢で採血した。24、48、72および96時間に採血後、薬物を投与した。0.1mLの全血をエッペンドルフチューブに入れた直後、血しょうを遠心分離で分離して、分析時まで-70℃の冷凍庫(Thermo)に保管した。
【0174】
採取した血液でビオチン-hlgG1のレベルは、ELISAで下記のように分析した。96ウェルプレート(Costar、Cat.No:2592)に100μLのニュートラアビジン(Pierce、31000)を1.0μg/mLの濃度で添加した後、4℃で16時間コートした。プレートを緩衝液A(0.05% Tween-20、10mM PBS、pH7.4)で3回洗浄した後、1%BSA含有PBS(pH7.4)緩衝液で室温で2時間インキュベートした。次に、プレートを緩衝液Aで3回洗浄した後、0.5%BSA含有PBS(pH7.4)緩衝液で1μg/mLに該当するようにニュートラアビジンプレートを製造した。血液サンプルを緩衝液B(100mm MES、150mM NaCl、0.5% BSA IgG無含有、0.05%ツイーン20、pH6.0)で500~1000倍連続希釈し、150μLの希釈液をプレートの各ウェルに添加した。添加したサンプルを室温で1時間反応させた。次に、プレートを緩衝液Aで3回洗浄した後、200μLの1nM HRP接合抗ヒトIgGヤギ抗体を各ウェルに添加し、37℃で2時間インキュベートした。次に、氷冷緩衝液Bで3回洗浄した後、基質溶液テトラメチルベンジジン(RnD、Cat.No:DY999)100μLを各ウェルに添加し、室温で15分間反応させた。各ウェルに1.0M硫酸溶液(Samchun、Cat.No:S2129)50μLを添加して反応を停止させた後、450nmで吸光度を測定した。
【0175】
24時間後、ビオチン-IgGの濃度(マウスでビオチン-IgGの概略Tmax;ビオチン-IgGの異化作用発生前)は、100%に設定し、24時間での濃度に対する他の時点での濃度百分率を分析した。ビヒクルおよび20mg/kg IgG1対照群の半減期は、それぞれ103時間および118時間であった。HL161A抗体のIgG半減期は、多様な用量において30、23および18時間であった。また、HL 161B抗体は、41、22および21時間のIgG半減期を示した(
図5Aおよび
図5B)。
【0176】
実施例8:サルでHL161AおよびHL161Bの効果に対する試験
ヒトFcRnに対する96%の相同性を有するカニクイザルを使用して、HL161AおよびHL161B抗体の投与によるサルIgG、IgA、IgMおよびアルブミンレベルを分析し、抗体の薬物動態学(pharmacokinetics、PK)プロファイルを分析した。
【0177】
1)サル血液で免疫グロブリンGの発現変化分析
まず、サルIgGの変化をELISA分析で測定した。100μLの抗ヒトIgG Fc抗体(BethylLab、A80-104A)を96ウェルプレート(Costar、Cat.No:2592)の各ウェルに4.0μg/mLの濃度になるようにロードした後、4℃で16時間コートした。プレートを洗浄緩衝液(0.05%Tween-20、10mM PBS、pH7.4)で3回洗浄した後、1%BSA含有PBS(pH7.4)緩衝液と共に室温で2時間培養した。標準サルIgGを3.9~500ng/mLの濃度で使用し、血液試料を1%BSA含有PBS(pH7.4)緩衝液で80,000倍希釈し、希釈液をプレートにロードして室温で2時間培養した。次に、プレートを洗浄緩衝液で3回洗浄した後、100μLの抗hIgG抗体(Biorad、201005)の20,000倍希釈液をプレートにロードし、室温で1時間反応させた。各プレートを洗浄した後、100μLの基質溶液3,3’,5,5’-テトラメチルベンジジン(Rnd、Cat.No:DY999)をプレートにロードし、室温で7分間反応させた後、50μLの1.0 M硫酸溶液(Samchun、Cat.No:S2129)を各ウェルに添加して反応を中止させた。分析のために、450nmおよび540nm吸光度リーダー(MD、モデル:VersaMax)を使用して吸光度(OD)を測定した。HL161AおよびHL161B抗体の投与によるサルIgGレベルの変化(%)は、表7および
図6A~
図6Cに示した。
【0178】
【0179】
2)サル血液でHL161AおよびHL161Bの薬物動態学プロファイル分析
静脈投与後、HL161AおよびHL161Bの時間依存的薬物動態学プロファイル(PK)を競合ELISA法で分析した。具体的に、2μg/mLのニュートラアビジン溶液を準備し、100μLの溶液を96ウェルプレートの各ウェルにコートした後、4℃で18時間培養した。プレートを300μLの洗浄緩衝液(10mM PBSを含有する0.05%のTween 20、pH7.4)で3回洗浄した後、各ウェルを1%のBSA-含有PBS(pH7.4)緩衝液と共に25℃で2時間培養した。ビオチン化したhFcRnをPBSで1μg/mLまで希釈した後、100μLの希釈液を96ウェルプレートの各ウェルに添加し、25℃で1時間培養した。次に、プレートを300μLの洗浄緩衝液で3回洗浄し、結合しないhFcRnを除去した後、標準試料(0.156~20ng/mL)を各ウェルに添加し、25℃で2時間培養した。その後、プレートを洗浄緩衝液で3回洗浄し、PBS内検出抗体の1:10,000希釈液100μLを各ウェルに添加して25℃で1.5時間培養した。最後に、プレートを3回洗浄し、100μLのTMB溶液を各緩衝液に添加して室温で5分間培養した後、反応中止溶液として50μLの1 M硫酸を各ウェルに添加して反応を中止させた。次に、450nmでマイクロプレートリーダーで吸光度を測定した。多様な用量においてHL161AおよびHL161Bの薬物動態学プロファイルに対する分析結果を表8、および(
図7Aおよび
図7B)に示した。
【0180】
【0181】
3)サル血液でIgMおよびIgA抗体レベルの変化分析
サル血液でIgGおよびIgAレベルを測定するためのELISA分析をIgGレベルを測定するためのELISA方法と類似した方法で行った。具体的に、100μLの抗サルIgM抗体(Alpha Diagnostic、70033)またはIgA抗体(Alpha Diagnostic、70043)を96ウェルプレートの各ウェルに2.0μg/mLの濃度になるように添加した後、4℃で16時間コートした。プレートを洗浄緩衝液(10mMのPBSが含有された0.05%のTween-20、pH7.4)で3回洗浄した後、1%BSA含有PBS(pH7.4)緩衝液と共に室温で2時間培養した。標準サルIgMを7.8~1,000ng/mLの濃度で分析し、IgAを15.6~2,000ng/mLで分析した。血液試料を1%BSA含有PBS(pH7.4)緩衝液で10,000または20,000倍希釈し、希釈液を各ウェルに添加して室温で2時間培養した。次に、プレートを洗浄緩衝液で3回洗浄した後、100μLの抗サルIgM二次抗体(Alpha Diagnostic、70031)および抗サルIgA二次抗体(KPL、074-11-011)それぞれの5,000倍希釈液を各ウェルに添加し、室温で1時間反応させた。最後に、プレートを3回洗浄し、100μLの基質溶液3,3’,5,5’-テトラメチルベンジジン(RnD、Cat.No:DY999)を各ウェルに添加して室温で7分間反応させた。次に、50μLの1.0M硫黄溶液(Samchun、Cat.No:S2129)を各ウェルに添加して反応を中止させた。各ウェルの吸光度を450および540nm吸光度リーダー(MD、モデル:VersaMax)で測定した。
【0182】
4)サル血液でアルブミンレベルの変化分析
サル血液でアルブミンレベルの変化分析を商業的ELISAキット(Assaypro、Cat.No:EKA2201-1)を使用して行った。簡略に、テスト試料としてのサル血清を4000倍希釈し、25μLの希釈液をサルアルブミンに結合可能な抗体がコートされた96ウェルプレートの各ウェルに添加した。25μLのビオチン化したサルアルブミン溶液を各ウェルに添加し、25℃で2時間培養した。プレートを200μLの洗浄緩衝液で3回洗浄した後、50μLの抗体がコンジュゲートされたストレプトアビジン-過酸化酵素の1:100希釈液を各ウェルに添加して25℃で30分間培養した。最終的に、プレートを3回洗浄した後、50μLの基質を各ウェルに添加して室温で10分間培養した。次に、50μLの反応中止溶液を各ウェルに添加し、450nmで吸光度を測定した。HL161AおよびHL161Bの投与によるサルIgM、IgAおよびアルブミンレベルの変化(%)は、
図8A~
図8Cに示した。
【0183】
5)血液生化学的レベルおよび尿成分分析
最後に、抗体投与による血液生化学的分析および尿分析をテスト14日目の試料を使用して行った。アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)、アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)、アルカリホスファターゼ(ALP)、クレアチンホスホキナーゼ(CPK)、総ビリルビン(TBIL)、ブドウ糖(GLU)、総コレステロール(TCHO)、トリグリセリド(TG)、総タンパク質(TP)、アルブミン(Alb)、アルブミン/グロブリン(A/G)、血清尿素窒素(BUN)、クレアチニン(CRE)、無機性燐(IP)、カルシウム(Ca)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)および塩素(Cl)を含む血液生化学的マーカーをHitachi 7180システムを使用して分析した。追加で、白血球(LEU)、硝酸塩(NIT)、ウロビリノーゲン(URO)、タンパク質(PRO)、pH、潜血(BLO)、比重(SG)、ケトン体(KET)、ビリルビン(BIL)、ブドウ糖(GLU)、およびアスコルビン酸(ASC)を含む尿分析のためのマーカーをMission U120システムを使用して分析した。測定されたレベルは、一般的にカニクイザルの正常レベル範囲にあった。
【0184】
実施例9:中等症から重症の活動性グレーブス眼症患者の治療のためのRVT-1401の非盲検研究
中等症から重症の活動性グレーブス眼症を有する患者でRVT-1401の安全性および忍容性を評価するための非盲検、追加標準治療(add-on-to-standard-of-care、SOC)研究で、抗TSHR-IgGの証拠がある中等症から重症の活動性グレーブス眼症(Grave’s ophhanlmopathy、GO)と診断された患者を週1回RVT-1401の皮下(subcutanesous、SC)用量(2週間680mg、4週間340mg)で治療した。研究設計は、
図9に示し、以下に説明された。
【0185】
研究設計:
スクリーニング(3~6週)-
患者は、主な選択/除外基準に対して診断され、選別された(表9)。
【0186】
【0187】
約8人の患者(n=8)で構成された1グループに2週間週1回680mgのRVT-1401を皮下注射で投与した後、追加4週間週1回340mgのRVT-1401を投与した(ベースラインから6週まで)。治療は、非盲検(open-label)であり、7週目まで抗TSHR-IgGレベルを約40~80%減少させることを予想した。治療中に、1次、2次および探索的エンドポイント(exploratory endpoints)を評価した(表10)。参照療法は、ベータ遮断薬および抗甲状腺薬(例えば、メチマゾール)であった。治療中および治療後に、1次、2次、および探索的エンドポイントを最大18週まで評価した(表10)。
【0188】
【0189】
実施例10:活動性、中等症から重症のグレーブス眼症患者の治療のためのRVT-1401のランダム化、二重盲検、プラセボ対照研究
中等症から重症の活動性グレーブス眼症を有する患者でRVT-1401の効能および安全性を評価するためのランダム化、二重盲検、プラセボ対照、追加標準追療研究で、抗TSHR-IgGの証拠がある中等症から重症の活動性グレーブス眼症と診断された患者を 無作為に分け(2:2:1:2)、12週間週1回RVT-1401(680mg)、RVT-1401(340mg)、RVT-1401(255mg)、またはプラセボを皮下投与量で治療した。研究設計は、
図10に示し、下記に説明された。
【0190】
研究設計:
スクリーニング(3~6週)-
患者は、主な選択/除外基準に対して診断され、選別された(表11)。
【0191】
【0192】
治療-
約77人の患者に1週に1回皮下注射を通じてRVT-1401を投与した。22人の患者に12週間1週当たり680mgを投与し;22人の患者に12週間1週当たり340mgを投与し;11人の患者に12週間1週当たり255mgを投与し;22人の患者に12週間プラセボを投与した(ベースラインから12週まで)。治療は、二重盲検(double-blind)であった。680mg、340mgおよび255mgの週間用量は、4回目または5回目用量まで、平均して総IgGレベルをそれぞれ約75~80%、65~70%、および45~55%で減少させることを予想した。治療中および治療後、1次、2次および探索的エンドポイントを最大20週まで評価した(表12)。
【0193】
【0194】
本開示物は、特定の特徴を参照して詳細に説明されたが、この説明は、ただ例示のための目的であり、本開示物の範囲を制限しないということは当業者に自明だろう。したがって、本開示物の実質的な範囲は、添付の請求範囲およびその等価物によって定義される。
【配列表】